(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】HVブッシングの試験タップのための過電圧保護
(51)【国際特許分類】
H02H 9/04 20060101AFI20231006BHJP
【FI】
H02H9/04 A
(21)【出願番号】P 2022552972
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2021054756
(87)【国際公開番号】W WO2021175705
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-09-15
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン,ケネス
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6226166(US,B1)
【文献】米国特許第09557349(US,B2)
【文献】国際公開第2013/178168(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0299203(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0207449(US,A1)
【文献】特開2002-142354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0085758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過渡過電圧からブッシングを保護するためのHV(高電圧)ブッシング(2)の試験タップ(9)に電気的に接続されるように構成された保護デバイス(7)であって、
当該保護デバイスは、
接地するように構成されたグランドコネクタ(24)と試験タップ(9)との間に接続された、少なくとも2つの並列接続された保護ブランチ(20)
を備え、
前記少なくとも2つの保護ブランチ(20)の各々は、
複数の並列接続されたGDT(Gas Discharge Tube:ガス入り放電管)(21)と、
前記ガス入り放電管(21)と直列に接続されたTVS(Transient-Voltage-Suppression:過渡電圧抑制)ダイオード(22)と、
前記TVSダイオード(22)を跨いで直列に前記ガス入り放電管(21)に接続された抵抗器(23)と、
を含む、保護デバイス。
【請求項2】
前記TVSダイオード(22)は、前記GDT(21)のイグニッション電圧よりも高い降伏電圧を有する、請求項1に記載の保護デバイス。
【請求項3】
前記少なくとも2つの並列接続された保護ブランチ(20)は、4つの並列接続された保護ブランチを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の保護デバイス。
【請求項4】
前記複数の並列接続されたGDT(21)は、3つの並列接続されたGDTを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の保護デバイス。
【請求項5】
試験タップ(9)と、
前記試験タップに接続された、先行する請求項のいずれか1項に記載の保護デバイスと、
を備える、HVブッシング(2)。
【請求項6】
電気デバイス(3)と、
前記電気デバイスのハウジング(4)の壁(5)を通るように配置された、請求項5に記載のブッシングと、
を備える、電気システム(1)。
【請求項7】
導電体(6)を介して前記試験タップ(9)に接続された測定装置(10)をさらに含む、請求項6に記載の電気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、HV(High-Voltage:高電圧)ブッシングの試験タップのための過電圧保護に関する。
【背景技術】
【0002】
ブッシングの内部特性、例えば、電位、部分放電、または絶縁損失を監視する外部機器を接続するためのHV(高電圧)ブッシングには、試験タップが含まれる。HVブッシングの試験タップに接続された外部機器は、ブッシングのグランドフランジと試験タップとの間に追加されたインダクタンスに起因して、高速過渡現象中に高い過電圧を引き起こすことが多い。これらの過電圧は、試験タップが接続される電場勾配緩和箔(フィールドグレーディングフォイル)とフランジとの間のブッシング内部の絶縁を破壊し得る。これらの欠陥は、ブッシングのコンデンサコアの主絶縁に広がり、ブッシングの故障を引き起こす可能性がある。いくつかの外部機器は、外部機器を保護するために組み込まれた過電圧保護器を具備するが、ブッシングを保護するために十分低いインダクタンスを有していない。
【0003】
US9,557,349は、HVブッシングを監視する測定システムのためのローパスフィルタを有する3段保護回路を開示する。保護回路における各段は、それぞれ異なる過電圧で有効化(アクティベート)される。US6226166B1は、電力線における過渡現象から電気機器を保護するための過電圧保護回路に関する。高エネルギー吸収モジュールは、並列に接続された複数のMOV(Metal Oxide Varistor:金属酸化物バリスタ)を含み、ガスアレスタの形態のスイッチングデバイスが上記MOVと直列に接続される。US2004/070913A1は、低電圧ネットワークに接続された電気回路を過渡過電圧から保護するための避雷装置(lightning arrester device)に関する。この避雷装置は、並列に接続された複数のガス型スパークギャップを備える。WO2013/178168A1は、ガス入り放電管の保護デバイスに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、過渡過電圧(「過渡現象」とも称される)中のHVブッシングの改善された保護を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、過渡過電圧からブッシングを保護するためのHVブッシングの試験タップに電気的に接続されるように構成された保護デバイスが提供される。この保護デバイスは、接地するように構成されたグランドコネクタと試験タップとの間に接続された、少なくとも2つの並列接続された保護ブランチを備える。これら保護ブランチの各々は、複数の並列接続されたGDT(Gas Discharge Tube:ガス入り放電管)と、それらガス入り放電管と直列に接続されたTVS(Transient-Voltage-Suppression:過渡電圧抑制)ダイオードと、そのTVSダイオードを跨いで直列に上記ガス入り放電管に接続された抵抗器とを備える。
【0006】
本発明の別の態様によれば、試験タップと、試験タップに接続された本開示の実施形態に係る保護デバイスとを備えるHVブッシュが提供される。
【0007】
本発明の別の態様によれば、電気デバイスと、電気デバイスのハウジングの壁を通るように配置された本開示の実施形態に係るブッシングとを備える電気システムが提供される。
【0008】
電圧クリッピング部品のいくつかの並列ブランチを使用することによって、回路全体のインダクタンスを低下させることができる。TVSダイオードと直列にGDTを使用することによって、並列キャパシタンスを低下させることができる。これにより、高周波信号が通過することを許容しつつキャパシタンスを増加させないことが可能になる。TVSダイオードは、過渡現象の数の観点で経年劣化や変化が少ないので、バリスタの代わりに使用されることが好ましい。放電抵抗器は、減衰効果を保証し、TVSが前の過渡現象から充電された場合のGDTの予測されない点火を抑制するために使用される。
【0009】
いずれかの態様の任意の特徴は、任意の他の態様に適宜適用され得る。同様に、いずれかの態様の任意の利点は、他の態様のいずれかに当てはまり得る。本実施形態の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な開示、添付の従属請求項、ならびに図面から明らかにされる。
【0010】
概して、請求項で使用される全ての用語は、本明細書で特に明示的に定義されない限り、当該技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、装置、部品、手段、ステップなど」への全ての言及は、明示的な言及がない限り、要素、装置、部品、手段、ステップなどの少なくとも1つの実例(インスタンス)を指すものとしてオープンに解釈されるべきである。本明細書に開示されるいずれかの方法のステップは、明示的な言及がない限り、開示されるとおりの順序で行われる必要はない。本開示の異なる特徴/構成要素に対する「第1の」、「第2の」などの使用は、特徴/構成要素を他の同様の特徴/構成要素から区別することのみを意図しており、特徴/構成要素にいかなる順序も階層も付与することを意図していない。
【0011】
複数の実施形態が、例として、以下の添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のいくつかの実施形態に係る電気システムの概略断面図である。
【
図2】本発明のいくつかの実施形態に係る過電圧保護器の概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、特定の実施形態が示された添付の図面を参照して詳細に実施形態が説明される。しかしながら、本開示の範囲内で、多くの異なる形態の他の実施形態が可能である。むしろ、以下の実施形態は、例として、本開示を緻密で完全なものとし、かつ、本開示の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。同様の番号は、説明全体を通して同様の要素を指す。
【0014】
図1は、電気デバイス3と、電気デバイス3のハウジング4の壁5を通るように配置されたHVブッシング2とを備える電気システム1を示す。電気デバイス3は、例えば変圧器(例えば、液体充填変圧器)であってもよく、またはそれを含んでもよい。この場合、ハウジング4は、変圧器タンクであってもよく、またはそれを含んでもよい。あるいは、電気デバイス3は、パワーエレクトロニクス電力変換器であってもよく、またはそれを含んでもよい。この場合、ハウジング4は、バルブホールであってもよく、またはそれを含んでもよい。
【0015】
ブッシング2は、当該ブッシングを貫通して壁5を通るHV導体8のための縦貫通孔を規定する絶縁体を備える。ブッシング2の絶縁体は、例えば、交互配置(インターリーブ)された複数の導電性箔(例えば、アルミニウム箔)の電場勾配緩和層(フィールドグレーディングレイヤー)を有するコンデンサコアを含んでもよい。ブッシング2は、例えば1kV以上、例えば3または10kV以上、例えば最大100kVまたは最大1000kVの電圧のHV用途のために構成される。
【0016】
ブッシング2には、例えばブッシング内の電位を測定するための試験タップ9が含まれる。試験タップ9は、例えば、ブッシングのコンデンサコアの外側の(典型的には、最外の)電場勾配緩和層に接続されてもよい。ブッシング2の外部の測定装置10は、導電体6を介して試験タップ9に接続されてもよい。試験タップに接続された測定装置は、低周波数から高周波数までの様々な信号のいずれかを測定してもよく、容量分圧によって電圧を測定するとき、または高周波数を測定するときには、追加されたキャパシタンスに対して時折敏感である。
【0017】
測定装置10の接続は、ブッシングにダメージを与える可能性がある過渡現象において過電圧を増加させるであろうインダクタンスのリスクを高めるかもしれない。具体的には、試験タップ9に接続された外部の測定装置10は、高速過渡現象中に、ブッシングのフランジ(グランド)と試験タップとの間に追加されるインダクタンスに起因して、測定装置の内部の余分なインピーダンスから高い過電圧を引き起こすことが多い。上記のフランジは、ブッシングを壁5に取り付けるように配置される。これらの過電圧は、試験タップに接続された電場勾配緩和層とフランジとの間のブッシング絶縁体の内部の絶縁を破壊し得る。これらの欠陥は、主絶縁に広がり、ブッシングの故障を引き起こす可能性がある。いくつかの外部機器には過電圧保護器が組み込まれているが、それらはブッシング自体を保護するために十分低い内部インダクタンスを有していないことがある。これに対し、試験タップ9に接続(典型的には、導電体6によって接続)される本発明に従う過電圧保護デバイス7は、外部の測定装置ではなくブッシングを保護するように構成される。
【0018】
好ましくは、保護デバイス7は、インダクタンスを低減するために、試験タップ9の近くに、例えば試験タップ上に直接配置される。
【0019】
図2は、試験タップ9に接続された保護デバイス7の実施形態を示す。保護デバイスは、例えばグランドコネクタ24を介して試験タップとグランドとの間に並列に接続された複数の保護ブランチ20を備える。図示される実施形態では、4つのブランチ20が使用される。これは、いくつかの実施形態で好ましいかもしれない。少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、例えば4つまたは8つの並列保護ブランチ20を使用することによって、インダクタンスを低減できる。また、複数の並列ブランチ20は冗長性を与える。ブランチ20の数の倍増は、通常、インダクタンスの半減をもたらす。
【0020】
各ブランチ20は、並列接続された複数のGDT21を含む。複数の並列GDTの使用は冗長性をもたらすが、それらGDTの1つが、GDTが1つしかない場合よりも速く点火する確率は、統計的に高くなるため、ブランチが過渡現象(低減されたターンオン時間)を有効化(アクティベート)および遮断(カットオフ)する速度も増加する。また、複数の並列GDTは、特に高速過渡現象に対してインダクタンスを低減し得る。GDTは、典型的には希ガスで充填された従来のGDTであってもよい。図では、3つの並列GDT21が使用される。これは、いくつかの実施形態では好ましいかもしれない。しかし、他の実施形態では、3つを超える並列のGDTが使用されてもよい。典型的には、保護デバイス7における全てのGDT21が同じ特性、特に同じ公称イグニッション電圧を有する。他の部品と直列に複数のGTDを使用することによって、並列キャパシタンスが非常に低くなる。これにより、高周波信号が通過することを許容しつつ、いわゆるC2キャパシタンス、すなわち試験タップ9に接続された電場勾配緩和層とブッシングのフランジとの間に形成されるキャパシタンスを増加させないことが可能になる。
【0021】
各ブランチ20において、TVSダイオード22は、GDT21と直列に接続される。例えば、TVSダイオード22は、(図示されるように)GDT21とグランドコネクタ24との間、または、GDT21と試験タップ9との間に直列に接続されてもよい。TVSダイオード22は、充電された電圧を前の過渡現象から維持してGDTのターンオン電圧に偏差を与え得るキャパシタンスを有するかもしれない。これは、そのTVSダイオードを跨ぐように接続された抵抗器23によって防止される。抵抗器23は、典型的には、各TVSダイオードに対して低いオーム並列抵抗を提供する。また、振動の振幅がTVSダイオード電圧を下回る場合があるため、抵抗器23は、その振動を減衰させることによって補助するかもしれない。典型的には、TVSダイオード22の降伏電圧はGDT21のイグニッション電圧よりも高い。これは、全てのブランチ20がそれらのGDT21の少なくとも1つを点火し、それら全てを並列に接続して低インダクタンスを達成することをより確実にする。
【0022】
保護デバイス7は、典型的には、過渡現象によって有効化(アクティベート)されるまで全ての周波数に対して透過性を有するため、いかなる測定信号にも干渉しない。さらに、保護デバイス7は、迅速に、例えば数ナノ秒以内(例えば、1~10または2~5ナノ秒の範囲内)で動作してもよい。また、保護デバイスは、高い過渡電流(例えば、40kA以上の電流)を扱うように構成されてもよい。低いインダクタンスは、故障過渡現象中に試験タップ9に加わる電圧が高くなることを防止し得る。また、保護デバイス7は、エネルギーを吸収することによって電圧クリッピング中に共振を減衰させ得る。保護デバイスは、別の過渡パルスを生成し得るフランジへ過電圧を短絡するリスクを低減し得る。これは、保護デバイスが電圧をあるレベル(例えば、約数百V)にクリップし得ることを意味する。典型的には、保護デバイスは、温度に応じてそのインピーダンス(キャパシタンスまたはレジスタンス)を変化させない。試験装置が試験タップ9に接続されるときに、保護デバイスは、通常、ブッシング内の過渡現象に起因したブッシング2の故障のリスクを低減することができる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、各ブランチ20のTVSダイオード22は、TVSダイオードと直列に接続されたGDT21のイグニッション電圧よりも高い降伏電圧を有し、各ブランチの少なくとも1つのGDTを確実に点火させる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、保護デバイス7は、並列接続された4つの保護ブランチ20を備える。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、各ブランチ20は、並列接続された3つのGDT21を含む。
【0026】
以上、本開示は、主にいくつかの実施形態を参照して説明された。しかしながら、当業者によって容易に理解されるように、上記以外の他の実施形態も、添付の特許請求の範囲によって定義されるように本開示の範囲内で等しく可能である。