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特許7361952断熱容器、それを用いた脳磁計及び脊磁計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】断熱容器、それを用いた脳磁計及び脊磁計
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/38 20060101AFI20231006BHJP
   A61B 5/245 20210101ALI20231006BHJP
   A61B 5/248 20210101ALI20231006BHJP
【FI】
B65D81/38 Q
A61B5/245
A61B5/248
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022572178
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045874
(87)【国際公開番号】W WO2022138293
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2020213175
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100197701
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 正
(72)【発明者】
【氏名】平井 正明
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿男
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-054982(JP,A)
【文献】特開2010-265931(JP,A)
【文献】特開2010-046350(JP,A)
【文献】特開2001-269323(JP,A)
【文献】特開2017-054924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/38
A61B 5/245
A61B 5/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容器と、前記内容器を空隙を介して包囲する外容器と、を備え、
前記内容器及び前記外容器は、繊維に樹脂が含浸された繊維強化プラスチックから構成され、
前記内容器は、冷媒を貯留する有底の筒状容器と、該筒状容器に取り付けられ前記筒状容器に冷媒を注入する冷媒注入管と、を備え、
前記筒状容器は、上面部と、筒状部と、底面部と、を有し、
前記上面部、前記筒状部、及び前記底面部は、外層と内層の2層から構成され、
前記外層は、繊維に樹脂が含浸された繊維強化プラスチックから構成され、前記繊維は、ガラス繊維又はアルミナ繊維であり、
前記内層は、繊維に樹脂が含浸された繊維強化プラスチックから構成され、前記繊維は、アルミナ繊維であり、
前記冷媒注入管を構成する繊維が、前記冷媒注入管の軸芯方向に対して55~70度の角度で、らせん状に巻かれている、断熱容器。
【請求項2】
前記筒状部の外層を構成する繊維は、前記筒状部の軸芯の延在方向に対して、55~70度の角度で、らせん状に巻かれており、
前記筒状部の内層を構成する繊維は、前記筒状部の軸芯の延在方向に対して、70度の角度で、らせん状に巻かれている、請求項1に記載の断熱容器。
【請求項3】
前記冷媒注入管を構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される、請求項1又は請求項2に記載の断熱容器。
【請求項4】
前記冷媒注入管を構成する繊維強化プラスチックの樹脂量が、前記繊維強化プラスチックの全重量に対して15~40wt%である、請求項1から3のいずれか1項に記載の断熱容器。
【請求項5】
前記樹脂が、エポキシ樹脂を含む、請求項1からのいずれか1項に記載の断熱容器。
【請求項6】
磁場を検出する超伝導量子干渉計と、
請求項1からのいずれか1項に記載の断熱容器と、を備え、
前記超伝導量子干渉計が、前記筒状容器に貯留された冷媒中に浸漬された状態で前記筒状容器に収容されている、脳磁計。
【請求項7】
前記内容器は、第二の筒状容器をさらに含み、
前記筒状容器及び前記第二の筒状容器は、それぞれ、内部に冷媒を貯留する収容部を有し、
前記第二の筒状容器は、前記第二の筒状容器の前記収容部と前記筒状容器の前記収容部とが連通した状態で、前記筒状容器に固定されており、
前記第二の筒状容器は、繊維に樹脂が含浸された繊維強化プラスチックから構成されている、請求項1からのいずれか1項に記載の断熱容器。
【請求項8】
前記第二の筒状容器を構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種類から構成される、請求項に記載の断熱容器。
【請求項9】
前記第二の筒状容器を構成する樹脂が、エポキシ樹脂を含む、請求項又は請求項に記載の断熱容器。
【請求項10】
磁場を検出する超伝導量子干渉計と、
請求項からのいずれか1項に記載の断熱容器と、を備え、
前記超伝導量子干渉計が、前記第二の筒状容器の前記収容部に貯留された冷媒中に浸漬された状態で前記第二の筒状容器の前記収容部に収容されている、脊磁計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱容器、それを用いた脳磁計及び脊磁計に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、脳の磁場を測定する装置(Magnetoencephalography(MEG))が実用化されている。この測定装置は、ジョセフソン効果を利用した超伝導量子干渉計(Superconducting Quantum Interference Device(SQUID))を用いて、脳内に発生する微弱な磁場(地磁場の10億分の1)を測定する。
【0003】
SQUIDは、超伝導原理を利用するため、SQUIDを-269℃(4.2K)の液体ヘリウム等の冷媒に浸漬する必要がある。このとき、液体ヘリウムの蒸発を抑え、長時間貯蔵できる断熱容器が必要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、繊維強化プラスチック(Fiber ReinforcedPlastics、以下「FRP」ともいう。)から構成され、内容器とその内容器を包囲する外容器と内容器を支持する支持筒体とを備える断熱容器が開示されている。この内容器の内面及び外面に金属が蒸着された金属蒸着層が形成されている。また、この断熱容器は、内容器と外容器との間の空隙が真空状態に保たれている。この断熱容器は、内容器の内面及び外面に金属蒸着層が形成されているため、液体ヘリウムを内容器に貯蔵した際にヘリウムガスが内容器から漏洩し難くなる。このため、断熱容器の真空状態が保たれ断熱効果が良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-352404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この断熱容器は、外部の熱が支持筒体を介して内容器に伝わるため断熱が十分ではない。このため、内容器に貯蔵された液体ヘリウムの蒸発を抑えることが難しく、長時間貯蔵することが難しい。さらに、液体ヘリウムの補充の回数が増え、装置の連続稼働ができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、冷媒を長時間貯蔵できる断熱容器、それを用いた脳磁計及び脊磁計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、[1]本発明に係る断熱容器は、内容器と、前記内容器を空隙を介して包囲する外容器と、を備え、前記内容器及び前記外容器は、繊維に樹脂が含浸された繊維強化プラスチックから構成され、前記内容器は、冷媒を貯留する有底の筒状容器と、該筒状容器に取り付けられ前記筒状容器に冷媒を注入する冷媒注入管と、を備え、前記冷媒注入管を構成する繊維が、前記冷媒注入管の軸芯方向に、らせん状に巻かれている。
【0009】
また、[2]前記冷媒注入管を構成する繊維は、前記冷媒注入管の軸芯方向に対して、50~89度の角度で、らせん状に巻かれている、ようにしてもよい。
【0010】
また、[3]前記冷媒注入管を構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される、ようにしてもよい。
【0011】
また、[4]前記冷媒注入管を構成する繊維強化プラスチックの樹脂量が、前記繊維強化プラスチックの全重量に対して15~40wt%である、ようにしてもよい。
【0012】
また、[5]前記筒状容器を構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種類から構成される、ようにしてもよい。
【0013】
また、[6]前記樹脂が、エポキシ樹脂を含む、ようにしてもよい。
【0014】
また、[7]本発明に係る断熱容器を備える脳磁計は、磁場を検出する超伝導量子干渉計と、[1]から[6]のいずれかに記載の断熱容器と、を備え、前記超伝導量子干渉計が、前記筒状容器に貯留された冷媒中に浸漬された状態で前記筒状容器に収容されている。
【0015】
また、[8]前記内容器は、第二の筒状容器をさらに含み、前記筒状容器及び前記第二の筒状容器は、それぞれ、内部に冷媒を貯留する収容部を有し、前記第二の筒状容器は、前記第二の筒状容器の前記収容部と前記筒状容器の前記収容部とが連通した状態で、前記筒状容器に固定されており、前記第二の筒状容器は、繊維に樹脂が含浸された繊維強化プラスチックから構成されている、ようにしてもよい。
【0016】
また、[9]前記第二の筒状容器を構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種類から構成される、ようにしてもよい。
【0017】
また、[10]前記第二の筒状容器を構成する樹脂が、エポキシ樹脂を含む、ようにしてもよい。
【0018】
また、[11]本発明に係る断熱容器を備える脊磁計は、磁場を検出する超伝導量子干渉計と、[8]から[10]のいずれかに記載の断熱容器と、を備え、前記超伝導量子干渉計が、前記第二の筒状容器の前記収容部に貯留された冷媒中に浸漬された状態で前記第二の筒状容器の前記収容部に収容されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷媒を長時間貯蔵できる断熱容器、それを用いた脳磁計及び脊磁計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態1に係る断熱容器の概略断面図である。
図2図1に示す冷媒注入管を構成する繊維強化プラスチックの繊維の配向を説明する概略図である。
図3】本発明の実施の形態2に係る断熱容器の概略断面図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る断熱容器を用いた脳磁計の概略断面図である。
図5】本発明の実施の形態2に係る断熱容器を用いた脊磁計の概略断面図である。
図6】筒状部を構成する壁を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0022】
(実施の形態1)
実施の形態1の断熱容器10について説明する。図1に示すように、断熱容器10は、注入された冷媒16を貯留するための容器である。具体的には、断熱容器10は、内容器11と、内容器11を空隙15を介して包囲する外容器14と、を備える。
【0023】
内容器11及び外容器14について説明する。
【0024】
(内容器11)
内容器11は、冷媒16を貯留する有底の筒状容器13と、筒状容器13に冷媒16を注入する冷媒注入管12と、を備える。冷媒注入管12は、筒状容器13の上面部に取り付けられる。冷媒注入管12は、筒状容器13の筒状部に取り付けられていてもよい。
【0025】
ここで、筒状容器13の長手方向(高さ方向)が鉛直方向と平行になるように筒状容器13を立てたとき、筒状容器13の側壁を構成する筒状の部分を「筒状部」、上面となる部分を「上面部」、底面となる部分を「底面部」という。以下、実施の形態において同じである。
【0026】
内容器11を構成する冷媒注入管12、筒状容器13の順で説明する。
【0027】
(冷媒注入管12)
冷媒注入管12は、筒状容器13に冷媒16を注入するための管体である。管体の形状は、限定されるものではないが、円柱状、楕円柱状、四角柱状等が挙げられる。
【0028】
冷媒注入管12の壁の厚さは、断熱性の観点、及び、常温及び-200℃以下の温度域において強度を発現させる観点から、好ましくは2~30mmである。ここで、「-200℃以下の温度域」を「極低温域」ともいう。また、冷媒注入管12の壁の厚さとは、冷媒注入管12の長手方向(高さ方向)と直交する平面における冷媒注入管12を構成する管の厚さをいう。
【0029】
冷媒注入管12の長さは、外容器14及び内容器11の大きさにより適宜設定され、例えば、100~500mmである。
【0030】
冷媒注入管12の直径は、限定されるものではないが、冷媒の蒸発を抑制する観点から、50~300mmである。
【0031】
冷媒注入管12の形状が楕円柱状である場合は、長軸の長さが50~300mmである。
【0032】
冷媒注入管12の形状が例えば四角柱状である場合は、冷媒注入管12の長手方向(高さ方向)と直交する平面における管体の断面において、対角線の長さが100~400mmである。
【0033】
冷媒注入管12は、繊維に樹脂が含浸された繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、以下「FRP」ともいう。)から構成される。
【0034】
ここで、FRPを構成する樹脂の硬化状態は、硬化反応が完全に進んだ状態(以下、「Cステージ状態」ともいう。)である。特に断りがない限り、FRPの硬化状態はCステージ状態である。以下、実施の形態において同じである。
【0035】
図2に示すように、冷媒注入管12を構成するFRPの繊維21は、外部から冷媒注入管12を介した内容器11への熱の伝導を遅くするために、冷媒注入管12の軸芯CLの延在方向にらせん状に巻かれて、筒状に成形されている。具体的には、冷媒注入管12の軸芯CLの延在方向に対して繊維21が50~89度の角度θとなるように、らせん状に巻かれている。冷媒注入管12の熱伝導率及び剛性(弾性率)の観点から、より好ましい角度θは55~70度である。
【0036】
繊維21は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種類から構成される。繊維21は、価格、加工性及び材料の入手容易性の観点、及び、常温から極低温域における熱伝導率を小さくする観点から、ガラス繊維が好ましい。
【0037】
繊維21に含浸させる樹脂は、限定されるものではないが、エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ系樹脂組成物、フェノール樹脂を主剤としたフェノール系樹脂組成物又は熱硬化性ポリイミド樹脂を主剤としたポリイミド系樹脂組成物等が挙げられる。
【0038】
繊維21に含浸させる樹脂の量(固形分換算)は、筒状容器13への熱の伝導を抑える観点から、冷媒注入管12を構成するFRPの全重量に対して、好ましくは15~40wt%、より好ましくは20~30wt%である。
【0039】
ここで、繊維21などの基材に含浸させる樹脂の量を、重量部数や樹脂量(wt%)で示すことができる。重量部数は、基材の重さを100重量部とした場合の樹脂の重さである。樹脂量(wt%)は、基材と樹脂の合計重量に対する基材(繊維)に付着した樹脂の重量を割合で示したものであり、樹脂量(wt%)=(樹脂の重量(wt)×100)/(繊維の重量(wt)+樹脂の重量(wt))の式により求めることができる。また、特に断りがない限り、樹脂の量は全て固形分換算による樹脂の量であり、固形分換算による樹脂の量とは例えば溶剤のような揮発性の成分を除いた樹脂の量をいう。
【0040】
冷媒注入管12は、例えば、フィラメントワインディング法により作製することができる。冷媒注入管12の作製方法は後述する。
【0041】
(筒状容器13)
筒状容器13は、冷媒16を貯留する有底の筒状の容器である。図1に示すように、筒状容器13は、上面を構成する上面部131と、側壁を構成する筒状部132と、底面を構成する底面部133と、を有する。筒状部132の形状は、限定されるものではないが、円柱状、楕円柱状、四角柱状等が挙げられる。
【0042】
筒状容器13の壁の厚さは、断熱性の観点、及び、極低温域において剛性を発現させる観点から、好ましくは2~30mmである。ここで、筒状容器13の壁の厚さとは、筒状容器13の長手方向(高さ方向)と直交する平面における筒状容器13を構成する壁の厚さをいう。
【0043】
筒状容器13の大きさは、限定されるものではないが、例えば、人体の頭部等の磁場を測定する装置に用いる場合、50~150リットルの冷媒を貯留できる大きさであることが好ましい。
【0044】
筒状容器13は、繊維に樹脂が含浸されたFRPから構成される。
【0045】
FRPを構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種類から構成される。FRPを構成する繊維は、極低温域において、非磁性であり、熱伝導率を低くする観点から、好ましくはアルミナ繊維である。
【0046】
FRPを構成する繊維は、2種の繊維を混ぜて使用してもよく、例えば、アルミナ繊維とガラス繊維の2種の繊維を使用することができる。
【0047】
筒状容器13の筒状部132を構成するFRPの繊維の構成は、限定されるものではないが、例えば、繊維(経糸及び緯糸)が織成された織物であり筒状の形状を形成するように織物が複数積層された構成、又は繊維がらせん状に巻かれた構成が挙げられる。筒状部132を構成するFRPの繊維の構成は、筒状容器13の断熱性を高める観点から、好ましくは、繊維がらせん状に巻かれた構成である。
【0048】
繊維が織成された織物であり筒状の形状を形成するように織物が複数積層された構成である場合、例えば、筒状部132の軸芯方向に対して、経糸の角度が45度、緯糸の角度が-45度となるように織物が積層される。また、筒状部132の軸芯方向に対して、経糸の角度が0度、緯糸の角度が90度の角度で織物が積層されてもよい。織物の織り方は、例えば、朱子織り、平織り、綾織りが挙げられる。
【0049】
繊維がらせん状に巻かれた構成である場合、例えば、筒状部132の軸芯方向に対して、繊維が、50~89度の角度となるようにらせん状に巻かれている。
【0050】
FRPを構成する樹脂は、限定されるものではないが、エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ系樹脂組成物、フェノール樹脂を主剤としたフェノール系樹脂組成物、又は熱硬化性ポリイミド樹脂を主剤としたポリイミド系樹脂組成物等が挙げられる。FRPを構成する樹脂は、常温から極低温域において剛性(弾性率)及び靭性を有し、良好な加工性を確保する観点から、好ましくは、エポキシ系樹脂組成物である。樹脂は、2種以上の樹脂組成物を混ぜ合わせたものでもよい。
【0051】
筒状容器13の樹脂量(wt%)は、好ましくは15~40wt%、より好ましくは20~30wt%である。
【0052】
筒状容器13を構成する繊維に対する樹脂の量(重量部数)は、-200℃以下の冷媒を貯留した際の筒状容器13の剛性を維持する観点から、繊維全体の重量を100重量部とした場合、好ましくは60~85重量部、より好ましくは70~80重量部である。
【0053】
筒状容器13の上面部131及び底面部133は、FRPから構成される。FRPの繊維の構成は、繊維が織成された織物が複数枚積層された構成である。FRPの樹脂は、常温から極低温域において、筒状容器13及び冷媒注入管12の伸縮挙動と上面部131及び底面部133の伸縮挙動を同じにさせる観点から、筒状部132及び冷媒注入管12の樹脂と同じ樹脂であることが好ましい。
【0054】
筒状容器13に貯留する冷媒16は、限定されるものではないが、液体酸素、液体窒素、液体ヘリウム等が挙げられる。頭部の磁場を測定する極低温域の用途において、冷媒16は、好ましくは、液体ヘリウムである。
【0055】
筒状容器13の作製方法は後述する。
【0056】
(筒状容器13における各部材との接合、及び冷媒注入管12と筒状容器13との接合)
筒状容器13と上面部131との接合方法、筒状容器13と底面部133との接合方法、及び、冷媒注入管12と筒状容器13との接合方法は、限定されるものではないが、例えば、接合部に接着剤を用いて接合する方法、接合部において部材の接合面にねじ溝及びねじ山を形成し樹脂(接着剤)を塗布して接合する方法等が挙げられる。接合方法は、空隙15を真空状態に保てるような接合方法であることが好ましい。
【0057】
使用する接着剤は、接合部において良好な接着性を発現させる観点から、冷媒注入管12及び筒状容器13を構成する樹脂と同じ樹脂であることが好ましい。接着剤は、例えば、エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ系樹脂組成物、フェノール樹脂を主剤としたフェノール系樹脂組成物、又は熱硬化性ポリイミド樹脂を主剤としたポリイミド系樹脂組成物等が挙げられる。常温から極低温域において剛性(弾性率)及び靭性を有し、良好な接着性を確保する観点から、接着剤は、好ましくは、エポキシ系樹脂組成物である。接着剤は、2種以上の樹脂組成物を混ぜ合わせてもよい。
【0058】
(外容器14)
外容器14は、図1に示すように、内容器11を空隙15を介して包囲するように構成されている。外容器14は、冷媒注入管12を介して外容器14の上面部が筒状容器13を支持している。
【0059】
ここで、「包囲」とは、少なくとも外容器14が空隙15を介して筒状容器13を包み込むように取り囲んでいる状態をいう。
【0060】
以下、外容器14に冷媒注入管12と筒状容器13とが包囲されている構成について説明する。
【0061】
外容器14の長手方向(高さ方向)が鉛直方向と平行になるように外容器14を立てたとき、外容器14の上面となる部分を「上面部」、側壁を構成する筒状の部分を「筒状部」、下面となる部分を「底面部」という。外容器14の「内部」とは、外容器14において空隙15に接する領域をいう。以下、実施の形態において同じである。
【0062】
外容器14と筒状容器13との間には、筒状容器13を外容器14の内部で定位置に固定するために、筒状容器13を支える図示しない支持体を備えていてもよい。
【0063】
空隙15は、断熱効果を上げる観点から、真空状態であることが好ましい。外容器14は、内部が真空状態になっても、外容器14の形状を保持できる程度の強度に構成されている。以下、外容器14の形状等について説明する。
【0064】
外容器14の形状は、内容器11を包囲するものであれば、限定されるものではないが、例えば、円柱状、楕円柱状、四角柱状等が挙げられる。これらの中でも、外容器14の内部を真空状態にしたときに容器の変形を防ぐ観点から、円柱状又は楕円柱状が好ましい。これにより空隙15が真空状態であっても容器の特定部分に収縮応力が集中することを防ぐことができる。
【0065】
外容器14の壁の厚さは、外容器14の内部を真空状態にしたときに容器の変形を防ぐ観点から、筒状容器13の厚さと同じ、あるいは厚い方が好ましい。外容器14の壁の厚さは、例えば、2~30mmである。
【0066】
外容器14の大きさは、限定されるものではないが、例えば、内容器11を包囲する程度の大きさであればよい。
【0067】
外容器14は、繊維に樹脂が含浸されたFRPから構成される。
【0068】
FRPを構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種類から構成される。FRPを構成する繊維は、強度保持と加工性の観点から、ガラス繊維及びアルミナ繊維が好ましい。
【0069】
FRPの繊維の構成は、限定されるものではないが、例えば、筒状容器13の構成と同じ構成が挙げられる。
【0070】
FRPを構成する樹脂は、限定されるものではないが、エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ系樹脂組成物、フェノール樹脂を主剤としたフェノール系樹脂組成物、又は熱硬化性ポリイミド樹脂を主剤としたポリイミド系樹脂組成物等が挙げられる。常温から極低温域において剛性(弾性率)及び靭性を有し、良好な加工性を確保する観点から、好ましくは、エポキシ系樹脂組成物である。樹脂は、2種以上の樹脂組成物を混ぜ合わせてもよい。
【0071】
外容器14の樹脂量(wt%)は、-200℃以下の冷媒を貯留した際の筒状容器13の剛性を維持する観点から、好ましくは15~40wt%、より好ましくは20~30wt%である。
【0072】
外容器14を構成する繊維に対する樹脂の量(重量部数)は、-200℃以下の冷媒を貯留した際の筒状容器13の剛性を維持する観点から、繊維全体の重量を100重量部とした場合、好ましくは60~85重量部、より好ましくは70~80重量部である。
【0073】
外容器14の作製方法は後述する。
【0074】
(外容器14における各部材との接合、外容器14と冷媒注入管12との接合)
外容器14の筒状部と上面部との接合方法、筒状部と底面部との接合方法、及び、冷媒注入管12と上面部との接合方法は、限定されるものではないが、例えば、接合部に接着剤を用いて接合する方法、接合部において部材の接合面にねじ溝及びねじ山を形成し樹脂(接着剤)を塗布して接合する方法等が挙げられる。接合方法は、空隙15を真空状態に保てるような接合方法であることが好ましい。
【0075】
筒状容器13の別の構成として、筒状部132の壁が2層構成からなる筒状容器13が挙げられる。図6の円1に示すように、筒状部132の壁は、外層141と内層142とから構成される。外層141は空隙15に近い層を構成し、内層142は冷媒16に近い層を構成する。
【0076】
外層141及び内層142は、FRPから構成される。FRPを構成する繊維は、ガラス繊維又はアルミナ繊維である。
【0077】
外層141及び内層142を構成する繊維は、それぞれ、筒状部132の軸芯の延在方向に対して、らせん状に巻かれている。筒状部132の軸芯の延在方向に対する、繊維の傾きは、外層141と内層142とで異なっていても、同じであってもよい。筒状部132の剛性を高くする観点、及び、作業性(金型からの脱型性)を良くする観点から、軸芯の延在方向に対して内層142を構成する繊維がなす角度は、外層141を構成する繊維がなす角度よりも大きいことが好ましい。
【0078】
筒状部132の剛性を確保する観点、外部から冷媒注入管12を介した内容器11全体への熱の伝導を遅くする観点、及び、コストを抑える観点から、外層141を構成する繊維は、ガラス繊維であることが好ましい。内層142を構成する繊維は、アルミナ繊維であることが好ましい。
【0079】
外部から冷媒注入管12を介した内容器11全体への熱の伝導を遅くし冷媒の蒸発を抑制する観点から、外層141を構成する繊維がガラス繊維であり、内層142を構成する繊維がアルミナ繊維であり、外層141と内層142の厚さは、同じか、内層142が外層141よりも厚いことが好ましい。内層142の厚さと外層141の厚さの比率は、50:50~80:20であり、好ましくは50:50~70:30、より好ましくは50:50~60:40である。
【0080】
外層141を構成する繊維に含浸される樹脂と内層142を構成する繊維に含浸される樹脂は、層間剥離防止の観点から、同じ樹脂を使用することが好ましい。
【0081】
外部から冷媒注入管12を介した内容器11全体への熱の伝導を遅くし冷媒の蒸発を抑制する観点から、筒状部132のFRPの構成が2層構成である場合、上面部131及び底面部133のFRPの構成も2層構成であることが好ましい。また、外層を構成する繊維がガラス繊維であり、内層を構成する繊維がアルミナ繊維であることが好ましい。また、外層と内層の厚さは、同じか、内層が外層よりも厚いことが好ましい。
【0082】
2層構成にした場合の製法は、筒状容器13の作製方法において、説明する。
【0083】
以下、冷媒注入管12、筒状容器13及び外容器14の製造方法について説明する。
【0084】
(冷媒注入管12の製造方法)
冷媒注入管12の製造方法は、限定されるものではないが、例えば、樹脂を含浸させた繊維を棒状の金型にらせん状に巻き付けて冷媒注入管12の形状に成形する成形工程と、加熱して樹脂を硬化させる硬化工程と、硬化させた冷媒注入管12から金型を外す脱型工程と、を備える。
【0085】
成形工程において、冷媒注入管12の形状を成形する方法は、限定されるものではないが、例えば、フィラメントワインディング法が挙げられる。金型の軸芯方向に対して繊維がなす角度θは50~89度となるように、金型に繊維をらせん状に巻き付ける。
【0086】
硬化工程において、硬化させるための温度及び時間は、樹脂の種類及び樹脂量等により適宜設定することができる。例えば、樹脂としてエポキシ系樹脂組成物を使用し、樹脂量(wt%)を20~50wt%とする場合、温度は80~150℃、時間は1~12時間である。
【0087】
脱型工程において、室温まで冷却した冷媒注入管12を金型から外し、冷媒注入管12を得る。
【0088】
(筒状容器13の製造方法)
筒状容器13は、例えば、筒状部132、上面部131、及び底面部133をそれぞれ作製した後、筒状部132と上面部131を接合し、筒状部132と底面部133を接合して得る。
【0089】
筒状部132は、上述した冷媒注入管12の製造方法と同様の方法で作製することで得られる。
【0090】
上面部131及び底面部133の製造方法は、例えば、繊維が織成された織物に樹脂を含浸させた後に加熱してプリプレグを作製するプリプレグ準備工程と、プリプレグを所定の形に切り取るカット工程と、切り取ったプリプレグを複数枚積層した後加熱及び加圧して硬化させる硬化工程と、を備える。ここで、プリプレグとは、織物に樹脂が含浸され、樹脂の硬化状態がBステージ状態にある織物に樹脂を含浸させた複合材料をいう。また、Bステージ状態とは、樹脂の硬化反応が完全に進んでいない状態をいう。
【0091】
プリプレグ準備工程において、織物に樹脂を含浸させた後に樹脂をBステージ状態まで硬化させるための温度及び時間は、樹脂の種類及び織物への樹脂の付着量(樹脂量)等により適宜設定することができる。例えば、樹脂としてエポキシ系樹脂組成物を使用し、樹脂量(wt%)を20~50wt%とする場合、温度は80~150℃、時間は1~12時間である。
【0092】
カット工程において、筒状部132の形状に合わせて所定の形状にプリプレグをカットする。
【0093】
硬化工程において、プリプレグを硬化させるための温度及び時間は、樹脂の種類及び樹脂量等により適宜設定することができる。例えば、樹脂としてエポキシ系樹脂組成物を使用し、樹脂量(wt%)を20~50wt%とする場合、温度は80~150℃、時間は1~12時間である。
【0094】
上面部131と筒状部132との接合方法、及び、底面部133と筒状部132との接合方法は、限定されるものではないが、例えば、上面部131と筒状部132との接合部、及び、底面部133と筒状部132との接合部において、ねじ溝及びねじ山を形成して接合する方法が挙げられる。また、ねじ溝及びねじ山を形成した接合面に常温で硬化する接着剤を塗布してから接合してもよい。これにより、接合部を確実に封止することができる。
【0095】
また、別の筒状容器13の製造方法は、例えば、繊維が織成された織物に樹脂を含浸させた後に加熱してプリプレグを作製するプリプレグ準備工程と、筒状容器13を形取った金型の表面にプリプレグを貼り成形する成形工程と、加熱及び加圧してプリプレグを硬化させる硬化工程と、硬化させたプリプレグから金型を外す脱型工程と、を備える。
【0096】
プリプレグ準備工程において、織物に樹脂を含浸させた後に樹脂をBステージ状態まで硬化させるための温度及び時間は、樹脂の種類及び織物への樹脂の付着量(樹脂量)等により適宜設定することができる。例えば、樹脂としてエポキシ系樹脂組成物を使用し、樹脂量(wt%)を20~50wt%とする場合、温度は80~150℃、時間は1~12時間である。
【0097】
成形工程において、例えば、所定の大きさにカットしたプリプレグを金型に貼り成形する。金型の形状が複雑になる場合は、プリプレグのサイズを小さくして、金型の形状に合わせて貼り成形する。これにより複雑な形状にプリプレグを追従させることができる。
【0098】
硬化工程において、プリプレグを硬化させる方法は、例えば高圧釜を用いたオートクレーブ成形方法が挙げられる。これにより、均一な条件でプリプレグを硬化させることができる。
【0099】
脱型工程において、前工程である硬化工程において硬化させたプリプレグを室温まで冷却した後に金型から外し、筒状容器13を得る。
【0100】
また、筒状部132のFRPの構成が2層構成である場合は、冷媒注入管12の製造方法において述べたフィラメントワインディング法により2層構成の筒状部132を作製することができる。
【0101】
例えば、内層を構成する繊維がアルミナ繊維であり、外層を構成する繊維がガラス繊維である場合、以下のように作製する。樹脂を含浸させたアルミナ繊維を棒状の金型にらせん状に巻き付ける。次に、その巻き付けたアルミナ繊維の上に、樹脂を含浸させたガラス繊維をらせん状に巻き付けて筒状部132の形状を成形する。その後、加熱して樹脂を硬化させる。
【0102】
筒状部132のFRPの構成が2層構成である場合の上面部131及び底面部133の製造方法、上面部131と筒状部132との接合方法、及び底面部133と筒状部132との接合方法は、上述した上面部131及び底面部133の製造方法、上面部131と筒状部132との接合方法、及び底面部133と筒状部132との接合方法と同じ方法を採用することができる。
【0103】
なお、上面部131及び底面部133の構成も、アルミナ繊維から構成される層とガラス繊維から構成される層とから構成される2層構成であることが好ましい。この場合、アルミナ繊維から織成される織物のプリプレグ、及びガラス繊維から織成される織物のプリプレグを用いて上面部131及び底面部133を作製する。
【0104】
(外容器14の製造方法)
外容器14の製造方法は、限定されるものではないが、例えば、筒状容器13と同様の製造方法で作製することができる。
【0105】
(実施の形態2)
実施の形態2の断熱容器40について説明する。また、実施の形態1と共通する部材には、同じ番号を付す。
【0106】
図3に示すように、断熱容器40は、冷媒16を貯留するための容器である。断熱容器40は、内容器41と、内容器41を空隙15を介して包囲する外容器45と、を備える。また、内容器41は、内部に冷媒16を貯留する収容部43を有する筒状容器13と、筒状容器13に取り付けられる冷媒注入管12と、内部に冷媒16を貯留する収容部44を有する第二の筒状容器42と、を備える。また、筒状容器13の収容部43と第二の筒状容器42の収容部44とが連通した状態で、第二の筒状容器42が筒状容器13に固定されている。
【0107】
(内容器41)
内容器41は、内部に冷媒16を貯留する収容部43を有する筒状容器13と、筒状容器13に取り付けられる冷媒注入管12と、内部に冷媒16を貯留する収容部44を有する第二の筒状容器42と、を備える。ここで、内容器41における「内部」とは、冷媒16が接する可能性がある面が構成する領域をいう。以下、実施の形態において同じである。
【0108】
筒状容器13の収容部43と第二の筒状容器42の収容部44とは連通した状態で構成される。第二の筒状容器42は筒状容器13に固定されている。第二の筒状容器42が固定される位置は、限定されるものではないが、例えば、筒状部132に固定することができる。
【0109】
収容部43と収容部44とは、例えば、管等の部材を介して連通してもよい。この場合において、収容部43と収容部44とを連通するための部材は、筒状容器13を構成する材料と同じ材料で構成されていることが好ましい。
【0110】
(筒状容器13)
筒状容器13は、内部に冷媒16を貯留する収容部43を備える。収容部43は、筒状容器13の内部に形成されている。
【0111】
筒状容器13は、筒状容器13の上面を構成する上面部131と、筒状容器13の側壁を構成する筒状部132と、筒状容器13の底面を構成する底面部133と、を有する。筒状部132の形状は、限定されるものではないが、円柱状、楕円柱状、四角柱状等が挙げられる。
【0112】
(第二の筒状容器42)
第二の筒状容器42は、内部に冷媒16を貯留する収容部44を備える。収容部44は、第二の筒状容器42の内部に形成されている。収容部44は、筒状容器13の収容部43と連通している。第二の筒状容器42が筒状容器13に固定されている。
【0113】
ここで、第二の筒状容器42の長手方向が鉛直方向と直交するように第二の筒状容器42を置いたとき、第二の筒状容器42を構成する筒状の部分を「筒状部」、筒状部の一方の端部に形成された開口部を塞いだ部分を「底面部」という。以下、実施の形態において同じである。
【0114】
第二の筒状容器42は、第二の筒状容器42の長手方向が鉛直方向と直交するように筒状容器13の筒状部132に固定されている。固定の方法は、限定されるものではないが、例えば、実施の形態1で述べた部材の接合方法により固定することができる。
【0115】
第二の筒状容器42の筒状部の形状は、限定されるものではないが、例えば、円柱状、楕円柱状、四角柱状等が挙げられる。
【0116】
第二の筒状容器42の壁の厚さは、限定されるものではないが、断熱性の観点及び極低温域において剛性を発現させる観点から、好ましくは2~15mmである。用途に応じて、筒状容器13の壁の厚さと同じ厚さにしてもよい。
【0117】
第二の筒状容器42の大きさは、限定されるものではないが、例えば、図5に示すように人体の脊髄等の磁場を測定する装置に用いる場合、第二の筒状容器42の部分だけで10~30リットルの冷媒を貯留できる大きさであることが好ましい。
【0118】
第二の筒状容器42は、繊維に樹脂が含浸されたFRPから構成される。
【0119】
FRPを構成する繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種類から構成される。極低温域において、非磁性であり熱伝導率を低くする観点から、好ましくはアルミナ繊維である。コスト及び生産性の観点から、より好ましくは、アルミナ繊維とガラス繊維とを混合させたものである。
【0120】
第二の筒状容器42の筒状部は、限定されるものではないが、例えば、第二の筒状容器42の軸芯方向に対して繊維がらせん状に巻かれた構成を備えてもよいし、筒状を形成するように織物が複数枚積層された構成を備えてもよい。
【0121】
第二の筒状容器42の筒状部を構成する繊維がらせん状に巻かれている場合、第二の筒状容器42の軸芯方向に対して繊維が50~89度の角度となるようにらせん状に巻かれている。外部から冷媒注入管12、筒状容器13を介して伝導された熱を第二の筒状容器42全体に伝わり難くし、第二の筒状容器42の剛性(弾性率)を高める観点から、より好ましい角度は55~70度である。
【0122】
第二の筒状容器42の筒状部を構成する織物が複数枚積層された構成を備える場合、限定されるものではないが、例えば、織物を構成する経糸が第二の筒状容器42の軸芯方向に対して0度、緯糸が第二の筒状容器42の軸芯方向に対して90度となるように織物が複数枚積層され筒状を形成していることが好ましい。なお、織物は、剛性、加工性、及び成形性の観点から好ましくは平織りの織物及び綾織りの織物であり、賦形性の観点から好ましくは朱子織りの織物である。
【0123】
また、冷媒16の蒸発に起因する応力(膨張)による容器の変形を抑えるために、90度方向(軸芯方向に対して直交する方向)に配される繊維の量は、0度方向(軸芯方向)に配されている繊維の量よりも、10%以上多く配されることが好ましい。
【0124】
第二の筒状容器42の底面部はFRPから構成される。FRPの繊維は、織物が複数枚積層された構成を有する。常温から極低温域における第二の筒状容器42の底面部の伸縮挙動は、筒状容器13の伸縮挙動と同じ挙動を発現させる観点から、筒状容器13と同じ樹脂であることが好ましい。
【0125】
FRPを構成する樹脂は、限定されるものではないが、エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ系樹脂組成物、フェノール樹脂を主剤としたフェノール系樹脂組成物、又は熱硬化性ポリイミド樹脂を主剤としたポリイミド系樹脂組成物等が挙げられる。FRPを構成する樹脂は、常温から極低温域において剛性(弾性率)及び靭性を有し、良好な加工性を確保する観点から、好ましくは、エポキシ系樹脂組成物である。樹脂は、2種以上の樹脂組成物を混ぜ合わせたものでもよい。
【0126】
第二の筒状容器42の樹脂量(wt%)は、好ましくは15~40wt%、より好ましくは20~30wt%である。
【0127】
FRPの繊維に対する樹脂の量(重量部数)は、-200℃以下の冷媒を貯留した際の筒状容器13の剛性を維持する観点から、繊維全体の重量を100重量部とした場合、好ましくは60~85重量部、より好ましくは70~80重量部である。
【0128】
(筒状容器13と第二の筒状容器42との接合)
筒状容器13と第二の筒状容器42とを接合する方法としては、実施の形態1で述べた接合方法により接合する方法が挙げられる。
【0129】
第二の筒状容器42の作製方法は後述する。
【0130】
(外容器45)
外容器45は、図3に示すように、第二の筒状容器42を備えた内容器41を空隙15を介して包囲するように構成されている。
【0131】
外容器45の形状及び大きさは、内容器41を包囲できるものであれば、限定されるものではない。空隙15を真空状態にしたときの容器の変形を防ぐ観点から、外容器45の形状は、応力を分散することができる丸みを帯びた形状であることが好ましい。特に、外容器45の角部は、曲率半径が大きい形状で形成されていることが好ましい。これにより空隙15が真空状態であっても容器の特定部分に収縮応力が集中することを防ぐことができる。
【0132】
外容器45の壁の厚さは、空隙15を真空状態にしたときの容器の変形を防ぐ観点から、筒状容器13又は第二の筒状容器42の厚さと同じ、あるいは厚い方が好ましい。例えば、2~30mmである。
【0133】
以下、上述した筒状容器13、第二の筒状容器42及び外容器45の製造方法を説明する。
【0134】
(第二の筒状容器42の製造方法)
第二の筒状容器42の製造方法は、例えば、繊維が織成された織物に樹脂を含浸させた後に加熱してプリプレグを作製するプリプレグ準備工程と、第二の筒状容器42を形取った金型の表面にプリプレグを貼り成形する成形工程と、加熱及び加圧してプリプレグを硬化させる硬化工程と、硬化させたプリプレグから金型を外す脱型工程と、を備える。
【0135】
プリプレグ準備工程において、織物に樹脂を含浸させた後に樹脂をBステージ状態まで硬化させるための温度及び時間は、樹脂の種類及び織物への樹脂の付着量(樹脂量)等により適宜設定することができる。例えば、樹脂としてエポキシ系樹脂組成物を使用し、樹脂量(wt%)を20~50wt%とする場合、温度は80~150℃、時間は1~12時間である。
【0136】
成形工程において、例えば、所定の大きさにカットしたプリプレグを金型に貼り成形する。このとき、織物を構成する経糸及び緯糸は、剛性を維持する観点から、金型の軸芯方向に対して、経糸が0度及び緯糸が90度の角度にそれぞれ配されるように積層することが好ましい。
【0137】
硬化工程において、プリプレグを硬化させる方法は、例えば高圧釜を用いたオートクレーブ成形方法が挙げられる。これにより、均一な条件でプリプレグを硬化させることができる。
【0138】
脱型工程において、前工程である硬化工程において硬化させたプリプレグを室温まで冷却した後に金型から外し、第二の筒状容器42を得る。
【0139】
(外容器45の製造方法)
外容器45の製造方法は、例えば、繊維が織成された織物に樹脂を含浸させた後に加熱してプリプレグを作製するプリプレグ準備工程と、外容器45を形取った金型の表面にプリプレグを貼り成形する成形工程と、加熱及び加圧してプリプレグを硬化させる硬化工程と、硬化させたプリプレグから金型を外す脱型工程と、を備える。
【0140】
プリプレグ準備工程において、織物に樹脂を含浸させた後に樹脂をBステージ状態まで硬化させるための温度及び時間は、樹脂の種類及び織物への樹脂の付着量(樹脂量)等により適宜設定することができる。例えば、樹脂としてエポキシ系樹脂組成物を使用し、樹脂量(wt%)を20~50wt%とする場合、温度は80~150℃、時間は1~12時間である。
【0141】
成形工程において、例えば、所定の大きさにカットしたプリプレグを金型に貼り成形する。金型の形状が複雑になる場合は、プリプレグのサイズを小さくして、金型の形状に合わせて貼り成形する。これにより複雑な形状にプリプレグを追従させることができる。
【0142】
硬化工程において、プリプレグを硬化させる方法は、例えば高圧釜を用いたオートクレーブ成形方法が挙げられる。これにより、均一な条件でプリプレグを硬化させることができる。
【0143】
脱型工程において、前工程である硬化工程において硬化させたプリプレグを室温まで冷却した後に金型から外し、外容器45を得る。
【0144】
(応用例1)
実施の形態1に係る断熱容器10を用いた応用例として、脳磁計30が挙げられる。
【0145】
図4に示すように脳磁計30は、生体18から発生する磁場を検出する超伝導量子干渉計(SQUID)17と、断熱容器10と、を備える。断熱容器10は、内容器11と、内容器11を空隙を介して包囲する外容器14と、を備える。内容器11は、冷媒16を貯留する有底の筒状容器13と、筒状容器13に取り付けられる冷媒注入管12と、を備える。超伝導量子干渉計17は、筒状容器13に貯留された冷媒16中に浸漬された状態で収容されている。生体18は、図4において椅子19に着座している。
【0146】
(応用例2)
実施の形態2に係る断熱容器40を用いた応用例として、脊磁計50が挙げられる。
【0147】
図5に示すように脊磁計50は、生体18から発生する磁場を検出する超伝導量子干渉計17と、断熱容器40と、を備える。断熱容器40は、内容器41と、内容器41を空隙15を介して包囲する外容器45と、を備える。内容器41は、内部に冷媒16を貯留する収容部43を有する筒状容器13と、筒状容器13に取り付けられる冷媒注入管12と、内部に冷媒16を貯留する収容部44を有する第二の筒状容器42と、を備える。超伝導量子干渉計17は、第二の筒状容器42に貯留された冷媒16中に浸漬された状態で収容されている。生体18は、図5において生体18の脊髄部分が超伝導量子干渉計17の上に位置するように横になっている。
【0148】
(効果)
以上のように説明した実施の形態1に係る断熱容器10及び断熱容器10を用いた脳磁計30、並びに実施の形態2に係る断熱容器40及び断熱容器40を用いた脊磁計50は、冷媒16を貯留した際に以下の効果を奏する。
【0149】
冷媒注入管12を構成するFRPの繊維が、冷媒注入管12の軸芯方向にらせん状に巻かれて、筒状に成形されていることにより、外部から冷媒注入管12を介した内容器11への熱の伝導が遅くなる。すなわち、外部の熱はらせん状に巻かれた繊維に沿って伝導するため、軸芯方向と同じ方向(0度)に繊維が直線的に配向されている冷媒注入管と比べて、熱の伝わりが遅くなり、断熱性が向上する。
【0150】
この結果、実施の形態の断熱容器は、冷媒注入管から筒状容器に到達する熱の伝わりが遅くなり、断熱容器が温まり難いものとなる。すなわち、冷媒の蒸発速度を遅くすることが可能となる。
【0151】
さらに、実施の形態の断熱容器を用いた脳磁計及び脊磁計においては、冷媒の蒸発速度が遅くなるため、冷媒の補充の回数を減らすことができ、脳磁計及び脊磁計の長時間の連続稼働が可能となる。
【実施例
【0152】
以下の実施例及び比較例により、断熱効果の確認を行った。なお、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0153】
実施例及び比較例で使用した樹脂及び薬剤は、以下の通りである。
【0154】
(樹脂)
(1)マトリクス樹脂A
(1-1)主剤:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ダウケミカル社製、DER383LCL)、
(1-2)硬化剤:酸無水物系硬化剤(日立化成工業社製、HN-2000)、
(1-3)硬化促進剤:N、N-ジメチルベンジルアミン(花王社製、カオライザーNo.20)。
【0155】
(2)マトリクス樹脂B
(2-1)主剤:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON850)、
(2-2)硬化剤:アミン系硬化剤(日本カーバイド工業社製、DICY)、
(2-3)硬化促進剤:ジメチルベンジルアミン(花王社製、カオライザーNo.20)。
【0156】
(基材)
実施例及び比較例で使用した繊維及び織物は、以下の通りである。
(1)ガラス繊維(巨石集団有限公司社製、EDR24-2400-318)、
(2)アルミナ繊維(3M社製、XN-508)、
(3)アルミナクロス(丸勝社製、アルミナクロス)、
(4)ガラスクロスA(アリサワファイバーグラス社製、K7628)、
(5)ガラスクロスB(アリサワファイバーグラス社製、ECC181)。
【0157】
実施例及び比較例において、各評価方法及び測定方法は、以下の方法により行った。
【0158】
(熱伝導率の測定)
冷媒注入管及び筒状容器について、軸芯方向(長手方向)の熱伝導率を測定した。熱伝導率(W/m・K)は、測定装置(アグネ技術センター社製、ARC-TC-1000型)を用いて測定した。測定法は、温度傾斜法を採用した。測定条件は、ASTME1225に準拠した。
【0159】
(ガス蒸発量の測定)
作製した断熱容器(内容器)に液体ヘリウム(ジャパンヘリウムセンター社製)を充填し、蒸発して容器から出てくるヘリウムガスの量をガス流量計(TOKYOSHINAGAWA社製、WSDa-2.5A)で測定した。測定方法は、JIS B7550に準拠した。
【0160】
以下の基準で評価した。
Excellent 8.0L/day以下、
Good 8.1L/day以上~9.0L/day未満、
Poor 9.0L/day以上。
【0161】
(冷媒注入管)
冷媒注入管の熱伝導率の評価を行うために、実施例1~4、及び比較例1~3の冷媒注入管を作製した。表1は、冷媒注入管の構成、及び熱伝導率の結果を示したものである。
【0162】
(実施例1)
(1)冷媒注入管用樹脂の調製
マトリクス樹脂Aの主剤、硬化剤、及び硬化促進剤を用いて冷媒注入管用樹脂を調製した。まず、容器に、主剤100重量部、硬化剤88重量部、及び硬化促進剤0.8重量部を加えた。その後、室温下、700rpm、60分の条件にて高速ミキサーで撹拌し、マトリクス樹脂Aを得た。このときの粘度は、500mPa・sであった。なお、マトリクス樹脂Aの粘度が所定の粘度となるように、有機溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を適宜加えた。
【0163】
(2)冷媒注入管の作製
冷媒注入管を硬化させた後の樹脂量(wt%)が25wt%となるようにガラス繊維にマトリクス樹脂Aを含浸させた。直径150mm、長さ2000mmのステンレス製棒の軸芯方向に対して、ガラス繊維の角度が55度となるように、マトリクス樹脂Aを含浸させたガラス繊維をらせん状に巻きつけた。その後、らせん状に巻かれたガラス繊維に、ポリエチレンフィルムを巻き、その上からポリプロピレンフィルムを更に巻き付けた。この状態で、130℃、8時間加熱した。加熱後、室温まで冷却して、ステンレス製棒を抜き取り、肉厚約5mm、長さ300mmの冷媒注入管を得た。
【0164】
(比較例1)
(1)冷媒注入管用樹脂の調製
マトリクス樹脂Bの主剤、硬化剤、及び硬化促進剤を用いて冷媒注入管用樹脂を調製した。まず、容器に、主剤100重量部、硬化剤4重量部、及び硬化促進剤0.2重量部を加えた。その後、室温下、700rpm、60分の条件にて高速ミキサーで撹拌し、マトリクス樹脂Bを得た。このときの粘度は、100mPa・sであった。なお、マトリクス樹脂Bの粘度が所定の粘度となるように、有機溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を適宜加えた。
【0165】
(2)冷媒注入管の作製
硬化後の冷媒注入管の樹脂量(wt%)が25wt%となるようにガラスクロスAにマトリクス樹脂Bを含浸させた。直径150mm、長さ1000mmのステンレス製棒の軸芯方向に対して、ガラスクロスAの経糸が0度、緯糸が90度となるように、マトリクス樹脂Bを含浸させたガラスクロスAを巻きつけた。その後、巻かれたガラスクロスAに、ポリプロピレンフィルムを巻き付けた。この状態で、130℃、2時間加熱した。その後、室温まで冷却して、ステンレス製棒を抜き取り、冷媒注入管を得た。
【0166】
(実施例2~4)、(比較例2及び比較例3)
表1に示すように、基材、角度、及びマトリクス樹脂を変えた以外は、実施例1又は比較例1と同様の方法により、冷媒注入管を作製した。
【0167】
【表1】
【0168】
(筒状容器)
筒状容器の熱伝導率の評価を行うために、実施例5~11の筒状容器を作製した。表2は、筒状容器の構成、及び熱伝導率の結果を示したものである。
【0169】
(実施例5)
(1)筒状容器用樹脂の調製
実施例1と同じように、マトリクス樹脂Aの主剤、硬化剤、及び硬化促進剤を用いて筒状容器用樹脂を調製した。まず、容器に、主剤100重量部、硬化剤88重量部、及び硬化促進剤0.8重量部を加えた。その後、室温下、700rpm、60分の条件にて高速ミキサーで撹拌し、マトリクス樹脂Aを得た。このときの粘度は、500mPa・sであった。なお、マトリクス樹脂Aの粘度が所定の粘度となるように、有機溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を適宜加えた。
【0170】
(2)筒状容器の作製
(2-1)筒状部の作製
硬化後の筒状容器の樹脂量(wt%)が25wt%となるようにマトリクス樹脂Aをガラス繊維に含浸させた。直径415mm、長さ2000mmのステンレス製棒の軸芯方向に対して、ガラス繊維の角度が55度となるように、マトリクス樹脂Aを含浸させたガラス繊維をらせん状に巻きつけた。その後、らせん状に巻かれたガラス繊維に、ポリエチレンフィルムを巻き、その上からポリプロピレンフィルムを更に巻き付けた。この状態で、130℃、8時間加熱した。加熱後、室温まで冷却して、ステンレス製棒を抜き取り、筒状部を得た。
【0171】
(2-2)筒状容器の上面部及び底面部の作製
エアージェット織機(豊田自動織機社製、JAT810)を用いて、ガラス繊維を平織りにて織成しガラスクロスAを得た。ガラスクロスAは、210g/m(目付)であった。次に、比較例1で使用した筒状容器用樹脂と同じ樹脂(マトリクス樹脂B)を調製した。その調製した樹脂をガラスクロスAに含浸させた後、100℃、10分の乾燥条件で硬化後の樹脂量(wt%)が30wt%となるようにプリプレグを作製した。
【0172】
硬化後の積層板の厚さが30mmとなるように、複数枚のプリプレグを積層し、130℃、0.5MPa、2時間の条件で加熱加圧して、積層板を得た。この積層板を筒状容器の上面及び底面の大きさに合うようにカットして、上面部及び底面部を得た。
【0173】
(2-3)筒状部との上面部及び底面部の接合
筒状部に上面部及び底面部を接合した。接合に際して、筒状部の内壁の上端側及び下端側にねじ溝を作製した。さらに、このねじ溝に対応するねじ山を上面部及び底面部の側面(筒状部のねじ溝と接する箇所)に作製した。
【0174】
筒状部、上面部及び底面部の接合面に接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を塗布した後、筒状部と上面部とを接合し、筒状部と底面部とを接合した。また、接合箇所は、接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を用いて封止した。乾燥後、筒状容器を得た。
【0175】
(実施例9)
(1)筒状容器用樹脂の調製
マトリクス樹脂Bの主剤、硬化剤、及び硬化促進剤を用いて筒状容器用樹脂を調製した。まず、容器に、主剤100重量部、硬化剤4重量部、及び硬化促進剤0.2重量部を加えた。その後、室温下、700rpm、60分の条件にて高速ミキサーで撹拌し、マトリクス樹脂Bを得た。このときの粘度は、100mPa・sであった。なお、マトリクス樹脂Bの粘度が所定の粘度となるように、有機溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を適宜加えた。
【0176】
(2)筒状容器の作製
硬化後の筒状容器の樹脂量(wt%)が30wt%となるようにマトリクス樹脂BをガラスクロスAに含浸させた。直径415mm、長さ1000mmのステンレス製棒の軸芯方向に対して、ガラスクロスAの経糸が0度、緯糸が90度となるように、マトリクス樹脂Bを含浸させたガラスクロスAを巻きつけた。その後、巻かれたガラスクロスAに、ポリプロピレンフィルムを巻き付けた。この状態で、130℃、2時間加熱した。その後、室温まで冷却して、ステンレス製棒を抜き取り、筒状容器を得た。
【0177】
実施例9の筒状容器の上面部及び底面部は、実施例5の上面部及び底面部と同じものを作製し、それを使用した。また、接合方法も同様の方法で接合し、乾燥させ、筒状容器を得た。
【0178】
(実施例6~8、実施例10及び実施例11)
表2に示すように、基材、角度、及びマトリクス樹脂を変えた以外は、実施例5又は実施例9と同様の方法により、筒状容器を作製した。
【0179】
【表2】
【0180】
(内容器、外容器)
内容器を構成する筒状容器、第二の筒状容器、及び冷媒注入管を準備した。また、内容器を包囲する外容器を準備した。表3は、筒状容器、第二の筒状容器、及び冷媒注入管の構成、及び断熱容器における液体ヘリウムの蒸発量の試験結果を示したものである。
【0181】
(実施例12)
表3に示した基材、角度、及びマトリクス樹脂に従って、実施例12の筒状容器、及び第二の筒状容器を作製した。実施例12の冷媒注入管は実施例2の冷媒注入管を使用した。
【0182】
(1)筒状容器用樹脂の調製
マトリクス樹脂Aの主剤、硬化剤、及び硬化促進剤を用いて筒状容器用樹脂を調製した。まず、容器に、主剤100重量部、硬化剤88重量部、及び硬化促進剤0.8重量部を加えた。その後、室温下、700rpm、60分の条件にて高速ミキサーで撹拌し、マトリクス樹脂Aを得た。このときの粘度は、500mPa・sであった。なお、マトリクス樹脂Aの粘度が所定の粘度となるように、有機溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を適宜加えた。
【0183】
(2)筒状容器の作製
(2-1)筒状部の作製
硬化後の筒状容器の樹脂量(wt%)が25wt%となるようにマトリクス樹脂Aをアルミナ繊維に含浸させた。直径415mm、長さ2000mmのステンレス製棒の軸芯方向に対して、アルミナ繊維の角度が70度となるように、マトリクス樹脂Aを含浸させたアルミナ繊維をらせん状に巻きつけた。その後、らせん状に巻かれたアルミナ繊維に、ポリエチレンフィルムを巻き、その上からポリプロピレンフィルムを更に巻き付けた。この状態で、130℃、8時間加熱した。加熱後、室温まで冷却して、ステンレス製棒を抜き取り、筒状部を得た。
【0184】
(2-2)筒状容器の上面部及び底面部の作製
エアージェット織機(豊田自動織機社製、JAT810)を用いて、ガラス繊維を、平織りにて織成しガラスクロスAを得た。ガラスクロスAは、210g/m(目付)であった。次に、実施例5で使用した筒状容器用樹脂と同じ樹脂(マトリクス樹脂A)を調製した。その調製した樹脂をガラスクロスAに含浸させた後、100℃、10分の乾燥条件で硬化後の樹脂量(wt%)が30wt%となるようにプリプレグを作製した。
【0185】
硬化後の積層板の厚さが30mmとなるように、複数枚のプリプレグを積層し、130℃、0.5MPa、2時間の条件で加熱加圧して、積層板を得た。この積層板を筒状容器の上面及び底面の大きさに合うようにカットして、上面部及び底面部を得た。
【0186】
(2-3)筒状部との上面部及び底面部の接合
筒状部に上面部及び底面部を接合した。接合するために筒状部の内壁の上端側及び下端側に、ねじ溝を作製した。さらに、このねじ溝に対応するねじ山を上面部及び底面部の側面(筒状部のねじ溝と接する箇所)に作製した。
【0187】
筒状部、上面部及び底面部の接合面に接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を塗布した後、筒状部と上面部とを接合し、筒状部と底面部とを接合した。また、接合箇所は、接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を用いて封止した。乾燥後、筒状部の壁の厚さ(肉厚)5mm、長さ630mmの筒状容器を得た。
【0188】
(3)第二の筒状容器、及び第二の筒状容器に対応する外容器の作製
エアージェット織機(豊田自動織機社製、JAT810)を用いて、ガラス繊維を、朱子織りにて織成しガラスクロスBを得た。ガラスクロスBは、290g/m(目付)であった。次に、実施例9で使用した筒状容器用樹脂と同じ樹脂(マトリクス樹脂B)を調製した。その調製した樹脂をガラスクロスBに含浸させた後、100℃、10分の乾燥条件で硬化後の樹脂量(wt%)が30wt%となるようにプリプレグを作製した。
【0189】
第二の筒状容器の筒状部を形取った金型(縦160mm、横183mm、長さ1035mmの四角柱形状)の表面に、金型の軸芯方向に対して、ガラスクロスBの経糸が0度、緯糸が90度となるように、プリプレグを貼り成形した。プリプレグの厚さは乾燥後の厚さが6~8mmとなるまで重ねて貼った。第二の筒状容器の筒状部に対応する外容器も同様に作製した。金型は、縦202mm、横225mm、長さ765mmの四角柱形状を用いた。
【0190】
その後、貼ったプリプレグの最表面にポリプロピレンフィルムを巻き付けた。この状態で、130℃、2時間で加熱した。その後、室温まで冷却して金型を外し、樹脂量(wt%)が30wt%の第二の筒状容器の筒状部、及びその部分に対応する外容器を得た。
【0191】
(実施例13)
表3に示した基材、角度、及びマトリクス樹脂に従って、実施例13の筒状容器を作製した。実施例13の冷媒注入管は実施例1の冷媒注入管を使用した。実施例13の第二の筒状容器及び第二の筒状容器の筒状部に対応する外容器は、実施例12の第二の筒状容器及び第二の筒状容器の筒状部に対応する外容器の作製方法と同じ方法により作製した。
【0192】
実施例13の筒状容器を構成する筒状部は、内側の層(内層)の繊維がアルミナ繊維からなり、外側の層(外層)の繊維がガラス繊維からなる2層構造である。この筒状部は以下のように作製した。
【0193】
(1)筒状容器用樹脂の調製
実施例12と同じように、マトリクス樹脂Aの主剤、硬化剤、及び硬化促進剤を用いて筒状容器用樹脂を調製した。まず、容器に、主剤100重量部、硬化剤88重量部、及び硬化促進剤0.8重量部を加えた。その後、室温下、700rpm、60分の条件にて高速ミキサーで撹拌し、マトリクス樹脂Aを得た。このときの粘度は、500mPa・sであった。なお、マトリクス樹脂Aの粘度が所定の粘度となるように、有機溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を適宜加えた。
【0194】
(2)筒状容器の作製
(2-1)筒状部の作製
硬化後の筒状容器の樹脂量(wt%)が25wt%となるようにマトリクス樹脂Aをアルミナ繊維に含浸させた。直径415mm、長さ2000mmのステンレス製棒の軸芯方向に対して、アルミナ繊維の角度が70度となるように、マトリクス樹脂Aを含浸させたアルミナ繊維をらせん状に巻きつけ、内層の構成を作製した。
【0195】
次に、硬化後の筒状容器の樹脂量(wt%)が25wt%となるようにマトリクス樹脂Aをガラス繊維に含浸させた。アルミナ繊維から構成された内層の表面に、ステンレス製棒の軸芯方向に対して、ガラス繊維の角度が55度となるように、マトリクス樹脂Aを含浸させたガラス繊維をらせん状に巻きつけた。このとき、内層と外層の厚み比率が50:50となる様に巻き付けた。
【0196】
この2層構成の表面に、ポリエチレンフィルムを巻き、その上からポリプロピレンフィルムを更に巻き付けた。この状態で、130℃、8時間加熱した。その後、室温まで冷却して、ステンレス製棒を抜き取り、2層構造の筒状部を得た。
【0197】
(実施例14及び実施例15)、(比較例4)
表3に示すように、実施例14、実施例15及び比較例4の筒状容器は、基材、角度、及びマトリクス樹脂を変えた以外は、実施例13の筒状容器の作製方法と同じ方法により作製した。また、実施例14の冷媒注入管は実施例2の冷媒注入管を使用した。実施例15の冷媒注入管は実施例1の冷媒注入管を使用した。比較例4の冷媒注入管は、比較例1の冷媒注入管を使用した。また、実施例14、実施例15及び比較例4の第二の筒状容器、及び第二の筒状容器の筒状部に対応する外容器は、実施例12の第二の筒状容器、及び第二の筒状容器の筒状部に対応する外容器の作製方法と同じ方法により作製した。
【0198】
【表3】
【0199】
(内容器の作製)
実施例12~実施例15、比較例4の冷媒注入管、筒状容器、第二の筒状容器を用いて、実施例12~実施例15、比較例4の内容器を作製した。まず、筒状容器の上部に冷媒注入管を接合する前に、接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を用いて、ガラスエポキシ積層板から作製されたフランジを、筒状容器の接合面と冷媒注入管の接合面のそれぞれに取り付けた。その後、両方の接合面に接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を塗布し、ネジを用いて筒状容器の上部に冷媒注入管を接合した。
【0200】
次に、筒状容器を構成する筒状部の側面に、第二の筒状容器を接合するための孔を開けた。この孔を構成する内壁面にねじ溝を作製した。さらに、このねじ溝に対応するねじ山を第二の筒状容器の開口部側の外表面に作製した。この第二の筒状容器の開口部側の外表面に作製されたねじ山は、筒状部の側面に形成された孔を形成する内壁面のねじ溝と対応する。
【0201】
筒状容器を構成する筒状部に第二の筒状容器を嵌め込む際に、接合面に、接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を塗布した後、接合した。また、接合箇所は、接着剤(常温硬化するエポキシ樹脂、ヘンケルジャパン社製、スタイキャスト1266)を用いて封止した。乾燥後、内容器を得た。
【0202】
(外容器の作製)
実施例12~実施例15、比較例4の外容器は、内容器と外容器との間の距離(空隙)が30mm以上となるように、内容器よりも大きいサイズの外容器を準備した。具体的には、外容器の筒状部は内径515mm、肉厚7mm、長さ960mmの管体を準備した。上面部は直径600mm、厚さ30mmの積層板を準備した。底面部は、直径600mm、厚さ15mmの積層板を準備した。
【0203】
外容器の作製方法は、第二の筒状容器に対応する外容器の作製方法と同じ方法である。外容器を作製する際に使用したプリプレグは、第二の筒状容器に対応する外容器を作製する際に使用したプリプレグと同じプリプレグである。また、外容器の筒状部、上面部、底面部、及び、第二の筒状容器に対応する外容器の接合方法は、内容器の接合方法と同じ方法である。
【0204】
以上、表1に示した実施例1の冷媒注入管の熱伝導率と比較例2の冷媒注入管の熱伝導率を対比してみてみると、実施例1では冷媒注入管を構成する繊維がらせん状に巻かれていることで、軸芯方向の熱伝導率が低くなることがわかった。
【0205】
また、表2に示した筒状容器の熱伝導率は、いずれも低いことがわかった。さらに実施例7は、筒状容器を構成する繊維がアルミナ繊維であることで、実施例5のガラス繊維よりも熱伝導率が低くなることがわかった。そして、実施例8は、筒状容器を構成する繊維がらせん状に巻かれていることで、実施例11のクロスよりも熱伝導率が低くなることがわかった。
【0206】
また、表3に示した、例えば実施例12及び実施例13の冷媒注入管及び筒状容器から構成される断熱容器は、比較例4の冷媒注入管及び筒状容器から構成される断熱容器に比べて液体ヘリウムの蒸発量を抑制できることがわかった。
【0207】
以上の結果から、実施の形態の断熱容器は冷媒の蒸発速度が遅くなることがわかった。また、このような断熱容器を用いた脳磁計及び脊磁計は、冷媒の補充の回数を減らすことができ、脳磁計及び脊磁計の長時間の連続稼働が可能となる。
【0208】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0209】
本出願は、2020年12月23日に出願された、日本国特許出願特願2020-213175号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2020-213175号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照して取り込むものとする。
【符号の説明】
【0210】
1 円、
10、40 断熱容器、
11、41 内容器、
12 冷媒注入管、
13 筒状容器、
131 上面部、
132 筒状部、
133 底面部、
141 外層、
142 内層、
14、45 外容器、
15 空隙、
16 冷媒、
17 超伝導量子干渉計(SQUID)、
18 生体、
19 椅子、
21 繊維、
30 脳磁計、
42 第二の筒状容器、
43、44 収容部、
50 脊磁計。

図1
図2
図3
図4
図5
図6