(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】成形用ハードコートフィルム及びそれを用いた成形品、並びにインサート成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/16 20060101AFI20231006BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20231006BHJP
C08G 18/67 20060101ALI20231006BHJP
C08G 18/79 20060101ALI20231006BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20231006BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231006BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20231006BHJP
C09D 175/14 20060101ALI20231006BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
B32B27/16 101
C08J7/046 Z CFD
C08G18/67 010
C08G18/79
C08F2/50
B32B27/30 A
B32B27/18 A
C09D175/14
C09D5/00 Z
C08J7/046 Z CEY
(21)【出願番号】P 2023004222
(22)【出願日】2023-01-16
(62)【分割の表示】P 2022110973の分割
【原出願日】2022-07-11
【審査請求日】2023-06-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀俊
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-66874(JP,A)
【文献】特開2022-55398(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199847(WO,A1)
【文献】特開2016-186039(JP,A)
【文献】特開2013-173871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J
G02B
C08F
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に光硬化性樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とするハードコートフィルムであって、前記光硬化性樹脂組成物が、エチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させた構造を有するウレタンアクリレート(A)と、光安定剤(B)と、光重合開始剤(C)と、反応性官能基を有するフッ素系シリコーン化合物と、を含み、
前記ハードコートフィルムの破断伸度が、雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分において100%以上であり、UVB(0.55W/m
2)、60℃、1000時間照射前後のΔEが1.0以下で
あることを特徴とする成形用ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記(B)として、ラジカル捕捉剤(b1)及び紫外線吸収剤(b2)を含
むことを特徴とする請求項1記載の成形用ハードコートフィルム。
【請求項3】
自動車の外装用途であることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の成形用ハードコートフィルム。
【請求項4】
前記成形用ハードコートフィルムがインサート成形用又はアウトモールド成形用であることを特徴する請求項1
又は2いずれか記載の成形用ハードコートフィルム。
【請求項5】
請求項
4記載の成形用ハードコートフィルムを、金型を用いて賦形後、光硬化性樹脂硬化層とは反対側から溶融樹脂を射出して樹脂成形品を形成することを特徴とするインサート成形品の製造方法。
【請求項6】
前記溶融樹脂が着色されていることを特徴とする請求項5記載のインサート成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項
4記載の成形用ハードコートフィルムを用いたインサート成形品又はアウトモールド成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形性及び耐候性に優れた成形用ハードコートフィルム、更にはそれを用いた成形品とインサート成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の内外装部品、情報端末の外装部品、家電用部品などは軽量化を目的に、樹脂成形体の使用が進んでおり、その表面の装飾(加飾)には、様々な手法が用いられている。中でも、成形体の最表面を、フィルムを用いて加飾する方法は、スプレー塗装のような塗料を用いた場合と比較して、意匠の自由度を高めることができると共に、三次元的な凹凸形状を有する表面に対しても加飾が容易であり、また生産性にも優れる点から幅広く採用されている。
【0003】
これらフィルムによる成形方法としては、フィルム表面に絵柄を印刷後、加熱により軟化させた状態で3次元成形を行い、その後金型にセットして射出成型を行うインサート成形が良く知られている。特に自動車のインパネ、コンソール等の内装部品については、従来主流であった水圧転写が、排水の問題やVOC(揮発性有機化合物)の問題で敬遠される傾向があり、その代替え工法としても増えつつある。更に最近では、フロントグリルやルーフ等の外装用途についても、EV化によるパーツ軽量化が一段と求められ樹脂化が進むと共に、環境対応の点で樹脂部品への塗装が忌避され始めた関係で、フィルム成形の導入が進みつつある。
【0004】
インサート成形で用いる成形フィルムには、表面の硬度や耐擦傷性を向上させる目的で、ハードコート層を設ける場合があるが、ハードコート樹脂層を硬くすると、立体形状に加工する際に曲面においてマイクロクラックが入り、成形がしにくくなるという問題があった。そのため過去に出願人は、インサート成形用のハードコート樹脂として、トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと平均一次粒子径が80~500nmの有機微粒子を含むハードコート剤を発明している(特許文献1)。このハードコート剤は膜厚が1~10μmで十分な柔軟性と表面物性が両立可能な優れるものであった。
【0005】
しかしながら、自動車の外装用途では、従来からの要求特性である成形性や耐摩耗性、耐薬品性等に加え、大きなサイズでの安定した成形性や、紫外線や気温の寒暖差に耐えうる十分な耐候性及び耐久性が求められ、こうした要求に対応できるようなハードコート層を有する成形用フィルムがなかった。そのため自動車の外装用途でも使用が可能な、十分な成形性、耐薬品性、耐候性、耐久性を有する成形用ハードコートフィルムが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、耐摩耗性や耐薬品性を有し、破断伸度が高く大きなサイズでも成形性が良好であると共に、屋外での使用にも耐えうる優れた耐候性を有する成形用途に適したハードコートフィルムと、それを用いた成形品、並びにインサート成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1記載の発明は、基材上に光硬化性樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とするハードコートフィルムであって、前記光硬化性樹脂組成物が、エチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させた構造を有するウレタンアクリレート(A)と、光安定剤(B)と、光重合開始剤(C)と、反応性官能基を有するフッ素系シリコーン化合物と、を含み、前記ハードコートフィルムの破断伸度が、雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分において100%以上であり、UVB(0.55W/m2)、60℃、1000時間照射前後のΔEが1.0以下であることを特徴とする成形用ハードコートフィルムを提供する。(以下m2とは、m2を意味するものとする。)
【0009】
請求項2の発明は、前記(B)として、ラジカル捕捉剤(b1)及び紫外線吸収剤(b2)を含むことを特徴とする請求項1記載の成形用ハードコートフィルムを提供する。
【0010】
請求項3の発明は、自動車の外装用途であることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の成形用ハードコートフィルムを提供する。
【0011】
請求項4の発明は、前記成形用ハードコートフィルムがインサート成形用又はアウトモールド成形用であることを特徴する請求項1又は2いずれか記載の成形用ハードコートフィルムを提供する。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4記載の成形用ハードコートフィルムを、金型を用いて賦形後、光硬化性樹脂硬化層とは反対側から溶融樹脂を射出して樹脂成形品を形成することを特徴とするインサート成形品の製造方法を提供する。
【0013】
請求項6の発明は、前記溶融樹脂が着色されていることを特徴とする請求項5記載のインサート成形品の製造方法を提供する。
【0014】
請求項7の発明は、請求項4記載の成形用ハードコートフィルムを用いたインサート成形品又はアウトモールド成形品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハードコートフィルム(以下HCフィルムという)は、耐摩耗性や耐薬品性を有し、破断伸度が高く成形性が良好であると共に優れた耐候性を有するため、屋外で使用する、例えば自動車の外装用途のようなインサート成形品やアウトモールド成形品に用いる材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で使用されるHC樹脂組成物の構成は、エチレングリコールとイソホロンジイソシアネート)以下IPDIという)を反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレート(以下PETAという)を更に反応させた構造を有するウレタンアクリレート(A)と、光安定剤(B)と、光重合開始剤(C)を含む。なお本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0017】
前記(A)の合成で使用する脂環式ジイソシアネートのIPDIは、黄変が無く耐候安定性に優れると同時に剛性が高く、硬化物の硬度を上げることができる。炭素鎖が非常に短いエチレングリコールと反応させることで、分子内のウレタン結合濃度を高くすることが可能となり、耐薬品性に優れた剛性の高い直鎖構造の主骨格を形成できる。エチレングリコールの代わりにポリエチレングリコールを用いると、ウレタン結合の濃度が低くなり耐薬品性が低下する傾向がある。
【0018】
前記(A)の合成方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。反応は無溶媒下でも良いが、(A)の分子量が大きくなるにつれて攪拌が困難となる場合があるため、ブタノン等のケトン類、キシレン等の芳香族不活性溶媒などを用いても良い。またエチレングリコール及びPETAの水酸基と、イソシアネート基との反応には、触媒を用いることが好ましい。その場合の例としては、ジブチルスズジラウレート等の錫系、ナフテン酸コバルト等の金属アルコキシド系が挙げられる。反応温度は適宜設定可能であるが40~120℃が好ましく、60~100℃が更に好ましい。
【0019】
前記(A)の重量平均分子量(以下Mwという)は2,000~12,000であり、2,500~11,000が好ましく、3,000~10,000が更に好ましく、3,500~9,800が特に好ましい。2,000未満では破断伸度が低くなるため十分な成形性を確保することが難しくなり、12,000超では耐摩耗性が低下し、また作業性の良い粘度に調整しにくくなる。(A)のMwは、反応させるエチレングリコールとIPDIのモル比により調整が可能で、エチレングリコールに対するIPDIのモル比を近づけると、Mwは大きくなる傾向がある。なおMwは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、スチレンジビニルベンゼン基材の充填剤を用いたカラムでテトラハイドロフラン溶離液を用いて、標準ポリスチレン換算の分子量を測定、算出した。
【0020】
前記(A)の配合量は、固形分全量に対し55~95重量%が好ましく、65~92重量%が更に好ましく、70~90重量%が特に好ましい。55重量%以上とすることで十分な破断強度と耐薬品性を確保することができ、95重量%以下とすることで十分な耐候性を確保することができる。
【0021】
本発明に使用される光安定剤(B)は、屋外で使用した場合の紫外線暴露や、輻射熱による硬化膜の劣化防止を目的に配合する。例えば、紫外線により光劣化したポリマーから生ずるアルキルラジカルやパーオキシラジカルを効率よくトラップするラジカル捕捉剤(b1)や、吸収した紫外線のエネルギーを熱エネルギーなどに変換することにより、ポリマーの分解を抑制する紫外線吸収剤(b2)などが挙げられる。(b1)と(b2)は併用することが好ましい。
【0022】
本発明に使用されるラジカル捕捉剤(b1)としては、例えばヒンダードアミン系(以下HALS系と言う)やヒンダードフェノール系、芳香族アミン系等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、低濃度でもラジカル補足効率が高いHALS系が好ましい。
【0023】
前記(b1)の配合量は、固形分全量に対し1~10重量%が好ましく、2~8重量%が更に好ましく、3~6重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、十分な光安定性を確保することが出来る。HALS系の市販品としてはTinuvin123及びTinuvin249(商品名:BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0024】
本発明に使用される紫外線吸収剤(b2)は、エネルギーが高い有害な紫外線領域に吸収帯域を持つラジカル連鎖開始阻止剤であり、前記(b1)との併用により、耐候性をより向上及び安定させることが可能となる。例えばベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では紫外線の長波長部を強く吸収することが可能なヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましい。
【0025】
前記(b2)の配合量は、固形分全量に対し0.3~5重量%が好ましく、0.5~3.0重量%が更に好ましく、0.6~1.5重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、十分な紫外線吸収特性を確保することが出来る。また前記(b1)と(b2)を合計した(B)の配合量は、固形分全量に対し1.0~12重量%が好ましく、1.5~10重量%が更に好ましく、4.0~8.0重量%が特に好ましい。1.0重量%以上とすることで耐候性の向上が期待でき、12重量%以下とすることで過剰配合とならず、基材との十分な密着性を確保できる。(b2)の市販品としてはTinuvin460及び477(商品名:BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0026】
本発明に使用される光重合開始剤(C)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン及び2-ヒドロキシ-1-{4-[4‐(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、市販品としてはOmnirad127D、184及び2959(商品名:IGM Resins社製)等が挙げられる。前記(C)のラジカル重合性分100重量部に対する配合は2~12重量部が好ましく、3~10重量部が更に好ましい。
【0028】
本発明で用いられるHC樹脂組成物(以下本組成物という)には、性能を損なわない範囲で必要に応じて架橋剤、レベリング剤、密着促進剤、酸化防止剤、ブルーイング剤、顔料、消泡剤、増粘剤、沈澱防止剤、帯電防止剤、防曇剤、抗菌剤、ワックス、つや消し剤、親水剤、撥水剤、無機フィラー、有機微粒子等を添加してもよい。
【0029】
上記架橋剤としては、低粘度で(A)との相溶性に優れる点で、多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。例えば2官能では(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレートが、3官能ではトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが、4官能でジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレートが、5官能ではジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが、6官能ではジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、反応性が良好で成形性を低下させにくい点でジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(以下DPHAという)が好ましい。
【0030】
前記架橋剤の配合量としては、(A)100重量部に対し30重量部以下が好ましく、25重量部以下が更に好ましい。30重量部以下とすることで、十分な成形性を確保しつつ反応性を向上させることが出来る。また固形分全量に対する配合比率としては20重量%以下が好ましく、10重量%以下が更に好ましい。
【0031】
前記レベリング剤は、塗膜表面に生ずる表面張力の不均一に対し、レベリング剤自身が塗膜表面に薄い膜状に広がることで表面張力の均一化を図り、塗膜形成前に欠陥を修復させる効果がある。例えばシリコーン系、フッ素系、フッ素系シリコーン、アクリル系等が挙げられるが、硬化後の皮膜からブリード等により経時的に欠落することが無く効果を長期的に持続できる点で、バインダー樹脂と重合して硬化塗膜を形成できる反応性官能基を有することが好ましく、特にフッ素系シリコーン化合物が好ましい。
【0032】
前記レベリング剤の配合量としては、固形分全量に対し0.1~3重量%が好ましく、0.3~1重量%が更に好ましい。この範囲とすることで、塗工時に十分なレベリング性を確保することができる。市販品としてはX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、アクリロイル基含有フッ素系シリコーン化合物)等が挙げられる。
【0033】
本組成物が塗布される基材は、優れた耐衝撃性と共に高い耐熱性を有するポリカーボネート(以下PCという)基材と、高い透明性と共に硬度を有するアクリル基材の複合基材である。ここでPC基材とアクリル基材の複合基材(以下、本複合基材という)とは、PC系樹脂層の少なくとも一方の面にアクリル系樹脂層を有する樹脂積層体を意味する。PC系樹脂とアクリル系樹脂を積層する方法は共押出成形法であることが好ましい。
【0034】
前記本複合基材に対し、UVB(0.55W/m2)で60℃、1000時間照射した前後のΔEは1.0以下であり、0.8以下が好ましく、0.5以下が更に好ましい。1.0超の場合は、透過した紫外線による加飾層へのダメージが大きくなり、特に加飾層で耐UV性が劣る赤や青色を用いている場合は、経時的な変色が大きくなりやすい。
【0035】
本組成物を本複合基材に塗工する際には、塗工特性を向上させるため溶剤で希釈してもよい。例えばエタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKという)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMという),ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒等があげられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。希釈する場合の固形分としては10~70%が例示されるが、特に指定は無く、塗工しやすい粘度となるように適宜設定可能である。
【0036】
本組成物を塗工する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。塗工する膜厚は乾燥時で1μm~10μmが例示できるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本組成物を硬化させる際に用いる紫外線照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプなどがあり、また照射する雰囲気は空気中でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。また紫外線照射時にバックロールの加温や、IRヒーターなどにより塗膜を加熱することで、より硬化性を上げることができる。照射条件としては照射強度500mW/cm2~3000mW/cm2、露光量50~400mJ/cm2が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本組成物を本複合基材に塗工し硬化させたHCフィルム(以下本HCフィルムという)は、130℃雰囲気下での破断伸度が50%以上であることが好ましく、100%以上であることが更に好ましく、200%以上が特に好ましい。破断伸度を50%以上とすることで、十分な成形性が期待できる。
【0039】
本HCフィルムには、必要に応じ加飾層を設けることができる。加飾する方法としては、例えば印刷や金属蒸着等が挙げられ、またこれら両方を用いて加飾しても良い。また更に射出成形樹脂との密着性を向上させるため、接着層やプライマー層を設けても良い。
【0040】
本HCフィルムには本組成物が塗布された面の保護のため、保護フィルムを貼り合わせても良い。保護フィルムを用いることで、インサート成形やアウトモールド成形プロセスでの傷つき防止ができ、歩留まり向上が期待できる。
【0041】
本HCフィルムをインサート成形で用いる方法としては、例えば本組成物が塗布された面を金型の内壁面に向かうよう(本組成物硬化層の反対面が成形樹脂と接するよう)に配置し、必要に応じて本HCフィルムを金型形状に追従させ予備成形し、次に金型を閉じてキャビティ―内に溶融状態の成形樹脂を射出させ、樹脂を固化させることにより樹脂成形品を形成することができる。
【0042】
上記予備成形を行う方法としては、本HCフィルムを軟化点以上に予備加熱して金型に配置し、金型に設けられた吸引孔を通じて真空吸引する方法や、射出成形用金型とは別の成形用金型を用い、真空成形や圧空成形、プレス成形等の公知の成形方法を用いることができる。またこれらの予備成形を行わず、成形樹脂による射出圧により、成形と射出樹脂との一体成形を同時に行うことも可能である。
【0043】
上記射出成形する樹脂としては、射出成形が可能な公知の樹脂を用いることが可能である。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。自動車のボディーのようにサイズが大きい場合や、サイズが小さくても肉厚が薄い場合には、成形後の収縮率をHCフィルムのそれと近似させることで、反り等の不具合を回避することができる。
【0044】
また上記の射出成形用樹脂自体を着色することにより、HCフィルムの加飾層を無くしたり、加飾層と射出成形樹脂の色を融合させることでより深みのある外観を出すことが可能となる。更には外装を塗料により着色するような製品、例えば自動車のボディーなどをインサート成形に置き換える場合では、射出成形する樹脂を着色することにより、塗料による外形塗装を省略することが可能となる。この場合、外形塗装でしばしば発生するゆず肌やピット等の外観不良を無くすことができる。
【0045】
更に本HCフィルムは、アウトモールド成形にも用いることができる。例えば、TOM(Three-Dimensional Overlay Method)成形に用いても良い。TOM成形は、気密ボックス内にて予め成形された基材に、真空・圧空成形にて3次元表面加飾を行うフィルム成形方法であり、本HCフィルムを用いることで基材の材質を問わず、3次元の大型製品にも対応可能である。
【0046】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。また配合量は固形分換算とし重量部を示す。
【0047】
ウレアク1の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)825重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)438重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw6,200で6官能のウレアク1を得た。
【0048】
ウレアク2の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)930重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)886重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw3,200で6官能のウレアク2を得た。
【0049】
ウレアク3の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)895重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)743重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw3,800で6官能のウレアク3を得た。
【0050】
ウレアク4の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)808重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)371重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw7,800で6官能のウレアク4を得た。
【0051】
ウレアク5の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)790重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)295重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw9,800で6官能のウレアク5を得た。
【0052】
上記製法に準じて、ウレアク1~5と同骨格でMw違いのウレアクA及びBと、エチレングリコールの代わりにポリエチレングリコールを用いたウレアクCを得た。
ウレアクA:PETA-IPDI-(エチレングリコール-IPDI)n-PETA骨格、
6官能、固形分50%、Mw 1,800
ウレアクB:PETA-IPDI-(エチレングリコール-IPDI)n-PETA骨格、
6官能、固形分50%、Mw 13,000
ウレアクC:PETA-IPDI-ポリエチレングリコール-IPDI-PETA骨格、 6官能、固形分50%、Mw6,000
【0053】
HC樹脂組成物の評価を下記で行った。
【0054】
実施配合例1~9
前記(A)として上記で調整したウレアク1~5を、(b1)としてTinuvin249(商品名:BASFジャパン社製)を、(b2)としてTinuvin477(商品名:BASFジャパン社製)を、(C)としてOmnirad2959及び127D(商品名:IGM Resins社製)を、架橋剤としてDPHAを、レベリング剤としてX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、アクリロイル基含有フッ素系シリコーン化合物)を、表1記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、実施配合例1~9のHC樹脂組成物を得た。
【0055】
比較配合例1~3
上記の実施配合例で用いた材料の他、オリゴマーとして上記ウレアクA~Cを、表2記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、比較配合例1~3のHC樹脂組成物を得た。
【0056】
【0057】
HC樹脂組成物の評価方法は以下の通りとした。
【0058】
樹脂組成物評価用のHCフィルム調製
実施配合例及び比較配合例で作成したHC樹脂組成物を、ユーピロンフィルム(商品名:DF02PUL、三菱ガス化学社製、厚み125μm、PMMA/PC積層フィルム)を用い、PMMA面側に乾燥膜厚で3μmとなるように光硬化性樹脂を塗布し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、高圧水銀ランプで出力1300mW/cm2、積算光量が200mJとなる様に窒素雰囲気化で紫外線照射し、評価用HCフィルムを調製した。
【0059】
硬化性:HCフィルムを用い、塗膜表面の指触でもタック感を確認し、タック無しを〇、タック有りを×とした。
【0060】
密着性:JIS K 5600-5-6のクロスカット法に準拠し、塗工面に1mm間隔で10×10にマス目を作成し、セロハンテープCT-24(商品名:ニチバン社製)を貼り、上方に引っ張り剥離状況を確認し、剥離無しを〇、剥離有りを×とした。
剥離無し:100/100、剥離有り:0/100~99/100
【0061】
耐摩耗性:スガ試験機製の摩擦試験機FR-IBSを用い、ハードコートフィルムの樹脂組成物塗布面を、試験用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子(直径16mm)で9Nの荷重をかけて1往復/1秒の速さで100mm往復させ、20往復後の傷の有無を確認し、傷無しを○、傷有りを×とした。
【0062】
耐薬品性:硬化皮膜にハンドクリーム、ニュートロジーナSPF45(商品名:ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)を塗布し、80℃4時間放置させ、その後室温に戻し、拭き取ったのち表面を観察した。塗布の跡なしを○、跡ありを×とした。
【0063】
破断伸度:HCフィルムを横25mm×縦50mmにカットし、Minebia製TechnoGraph TGI-1KNを用い、雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分で引っ張り試験を行い、目視で割れを確認し、伸び率が50%以上を○、200%以上を◎とした。
計算式:50mmを基準として何mm伸びたかで計算。
伸びた長さ(mm)/50mm×100=伸び率%
【0064】
【0065】
実施配合例のHC樹脂組成物は硬化性、密着性、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性、破断伸度全ての面で問題はなく良好であった。
【0066】
一方、Mwが下限以下の比較配合例1は破断伸度が低く、Mwが上限超の比較配合例2は耐摩耗性が劣り、ポリエチレン骨格のウレアクを用いた比較配合例3は耐薬品性が劣り、いずれも本願発明に適さないものであった。
【0067】
次に、成形用フィルムの評価を下記で行った。
【0068】
実施例及び比較例
実施配合例1、4、7の樹脂組成物を用い、表3に記載した基材上に、乾燥膜厚で3μmとなるように光硬化性樹脂を塗布し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、高圧水銀ランプで出力1300mW/cm2、積算光量が200mJとなる様に紫外線照射し、実施例1~3、及び比較例1~8の成形用フィルムを調製した。(
【0069】
表3
(※1:ウェーブロックアドバンストテクノロジー社
【0070】
成形フィルムの評価方法は以下の通りとした。
【0071】
基材単体のΔE:日本電色工業社製の色差測定器SD-6000を用い、JIS Z 8722に準拠して、HC樹脂を塗布していない基材単体に対し、UVB(0.55W/m2)で60℃、1000時間照射した前後の色見を測定し、その差ΔEを測定した。
【0072】
耐候性:上記と同条件で、HC樹脂を塗布した成形フィルムのΔEを測定し、1.0未満の場合を〇、1.0超の場合を×とした。
【0073】
成形性:成形フィルムを基材温180℃まで加熱後、真空成型機で直径30mm×4mmHの円柱型を用いて真空成形し、完全に賦形できた場合を〇、白化やクラック、賦形が不完全な場合を×とした。
【0074】
布跡試験:成形フィルムの樹脂組成物塗布面に、50mm×50mmのガーゼを接触させ、500Kg/4cm2の荷重をかけ、80℃で60分放置後に布を除去した時に布跡が残らない場合を〇、跡が残る場合を×とした。
【0075】
摩耗性:スガ試験機製の摩擦試験機FR-IBSを用い、成形フィルムの樹脂組成物塗布面を、試験用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子(直径16mm)で1Kg/cm2の荷重をかけて1往復/1秒の速さで100mm往復させ、20往復後の傷の有無を確認し、傷無しを○、傷有りを×とした。
【0076】
鉛筆硬度:JISK5600-5-4(1999年版)に準拠し、東洋精機製作所製の鉛筆引掻塗膜硬さ試験機(形式P)を用いて500g荷重で測定し、H以上を〇、F以下を×とした。
【0077】
【0078】
実施例は耐候性、成形性、布跡試験、耐摩耗性、鉛筆硬度全ての面で問題はなく良好であった。
【0079】
一方、基材単体のΔEが1.0超のPMMA/PC基材を用いた比較例1~3は耐候性が劣り、PC基材の比較例4は耐候性を鉛筆硬度が劣っていた。またアクリル樹脂材の比較例5は布跡試験と鉛筆硬度が劣り、PET基材の比較例6は耐候性、成形性が劣っていた。更に、HC樹脂を塗布していない比較例7及び8は耐摩耗性と鉛筆硬度が劣り、特にPC基材の比較例8は耐候性も劣り、いずれも本願発明に適さないものであった。
【0080】
次に、射出成型の評価を下記で行った。
【0081】
射出成形品の調製
実施例1のHCフィルムを用い、射出成形の樹脂として黒色のABSを用いて実際にインサート成形を行った。
【0082】
外観:BYK製の塗装表面性状測定機ウエーブスキャン3デュアルを用い、射出成型品のフィルム表面と、塗装鋼板の塗装面を測定し、LW(long wave)とSW(short wave)データを測定し比較した。
【0083】
【0084】
着色した樹脂を用いて射出成形したインサート成形品の外観は、塗装鋼板のようにゆず肌の外観不具合が無かった。
【要約】
【課題】耐摩耗性や耐薬品性を有し、破断伸度が高く大きなサイズでも成形性が良好であると共に、屋外での使用にも耐えうる優れた耐候性を有する成形用途に適したハードコートフィルムと、それを用いた成形品、並びにインサート成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート基材及びアクリル基材の複合基材上に光硬化性樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とするハードコートフィルムであって、前記光硬化性樹脂組成物が、エチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させた構造を有するウレタンアクリレートと、光安定剤と、光重合開始剤と、を含み、前記ウレタンアクリレートの重量平均分子量が2,000~12,000であり、前記複合基材のUVB(0.55W/m2)、60℃、1000時間照射前後のΔEが1.0以下であることを特徴とする成形用ハードコートフィルムである。
【選択図】なし