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特許7361968α型サイアロン蛍光体、発光装置およびα型サイアロン蛍光体の製造方法
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  • 特許-α型サイアロン蛍光体、発光装置およびα型サイアロン蛍光体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】α型サイアロン蛍光体、発光装置およびα型サイアロン蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20231006BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20231006BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231006BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/08 B
H01L33/50
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023058890
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-04-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】戎▲崎▼ 貴子
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 良三
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/024296(WO,A1)
【文献】特開2015-224339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Eu元素を含有するα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であり、
組成が、一般式:(M1 ,M2 ,Eu )(Si 12-(m+n) Al m+n )(O 16-n )で示され、
前記一般式において、
M1は1価のLi元素、
M2はMg及びCa及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の2価の元素、
0≦x<2.0、0≦y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、0.3≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項2】
Eu元素を含有するα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、200℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であり、
組成が、一般式:(M1 ,M2 ,Eu )(Si 12-(m+n) Al m+n )(O 16-n )で示され、
前記一般式において、
M1は1価のLi元素、
M2はMg及びCa及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の2価の元素、
0≦x<2.0、0≦y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、0.3≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項3】
請求項2に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、300℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、600℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、9.5×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
200℃における内部量子効率が87%以上であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
300℃における内部量子効率が80%以上であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
{(24℃における内部量子効率)/(300℃における内部量子効率)}×100[%]で表される内部量子効率維持率が89%以上であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
{(24℃における外部量子効率)/(300℃における外部量子効率)}×100[%]で表される外部量子効率維持率が88%以上であるα型サイアロン蛍光体。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
M2はCaであるα型サイアロン蛍光体。
【請求項11】
発光素子と、
請求項1~3のいずれか1項に記載のα型サイアロン蛍光体を含み、前記発光素子から発せられた光を長波長化する波長変換部と、
を備える発光装置。
【請求項12】
焼成により、Eu元素を含有する塊状のα型サイアロン蛍光体を得る焼成工程と、
前記塊状のα型サイアロン蛍光体を粉砕して、粉末状のα型サイアロン蛍光体を得る粉砕工程と、
窒素ガス雰囲気下で、1200℃以上1700℃以下の温度範囲および5時間以上30時間以下の時間範囲で、前記粉末状のα型サイアロン蛍光体をアニールするNアニール工程と、
水素ガス雰囲気下で、1200℃以上1700℃以下の温度範囲および5時間以上30時間以下の時間範囲で、前記粉末状のα型サイアロン蛍光体をアニールするHアニール工程と、
前記Hアニール工程後の前記粉末状のα型サイアロン蛍光体に対して酸性水溶液を用いて酸処理を実施する酸処理工程と、
を含むα型サイアロン蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α型サイアロン蛍光体、発光装置およびα型サイアロン蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Euなどの希土類元素が賦活されたα型サイアロン蛍光体は、青色光を長波長光に効率よく変換できるため、白色LEDの波長変換部材に適用されている。
【0003】
α型サイアロン蛍光体は、通常、α型窒化ケイ素結晶のSi-N結合が部分的にAl-N結合とAl-O結合で置換され、電気的中性を保つために、結晶格子間に特定の元素(Ca、並びにLi、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属)が格子内に侵入固溶した構造を有している。侵入固溶する元素の一部を発光中心となる希土類元素とすることにより蛍光特性が発現する。中でも、Caを固溶させ、その一部をEuで置換したα型サイアロン蛍光体は、紫外から青色領域の幅広い波長域で比較的効率よく励起され、黄色または橙色発光を示す。
【0004】
α型サイアロン蛍光体の蛍光特性をさらに向上させるため。様々な試みが提案されている(例えば特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-96882号公報
【文献】特許第6667025号公報
【文献】特許第6785333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
α型サイアロン蛍光体を波長変換部材として用いた白色LEDを、車載用途に適用することが考えられる。
車載用途では高温下でも白色LEDの各種特性が変化しないことが求められる。しかし、本発明者らの予備的検討の結果、従来のα型サイアロン蛍光体を波長変換部材として用いた白色LEDは、高温環境下において、発光特性の変化が大きいことが明らかとなった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、白色LEDの波長変換部材として用いたときに、高温環境下においても発光特性が変化しにくいα型サイアロン蛍光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0009】
1.
Eu元素を含有するα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
2.
Eu元素を含有するα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、200℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
3.
2.に記載のα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載のα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、300℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載のα型サイアロン蛍光体であって、
前記α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度が、600℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、9.5×1015spins/g以下であるα型サイアロン蛍光体。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載のα型サイアロン蛍光体であって、
200℃における内部量子効率が87%以上であるα型サイアロン蛍光体。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載のα型サイアロン蛍光体であって、
300℃における内部量子効率が80%以上であるα型サイアロン蛍光体。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載のα型サイアロン蛍光体であって、
{(24℃における内部量子効率)/(300℃における内部量子効率)}×100[%]で表される内部量子効率維持率が89%以上であるα型サイアロン蛍光体。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載のα型サイアロン蛍光体であって、
{(24℃における外部量子効率)/(300℃における外部量子効率)}×100[%]で表される外部量子効率維持率が88%以上であるα型サイアロン蛍光体。
10.
発光素子と、
1.~9.のいずれか1つに記載のα型サイアロン蛍光体を含み、前記発光素子から発せられた光を長波長化する波長変換部と、
を備える発光装置。
11.
焼成により、Eu元素を含有する塊状のα型サイアロン蛍光体を得る焼成工程と、
前記塊状のα型サイアロン蛍光体を粉砕して、粉末状のα型サイアロン蛍光体を得る粉砕工程と、
窒素ガス雰囲気下で、1200℃以上1700℃以下の温度範囲および5時間以上30時間以下の時間範囲で、前記粉末状のα型サイアロン蛍光体をアニールするNアニール工程と、
水素ガス雰囲気下で、1200℃以上1700℃以下の温度範囲および5時間以上30時間以下の時間範囲で、前記粉末状のα型サイアロン蛍光体をアニールするHアニール工程と、
前記Hアニール工程後の前記粉末状のα型サイアロン蛍光体に対して酸性水溶液を用いて酸処理を実施する酸処理工程と、
を含むα型サイアロン蛍光体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のα型サイアロン蛍光体を波長変換部材として用いた白色LEDは、高温環境下においても発光特性が変化しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】発光装置の構造の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0013】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0014】
本明細書では、「Eu元素を含有するα型サイアロン蛍光体」を、単に「α型サイアロン蛍光体」と表記することがある。
本明細書において、「g=2付近のシグナル」とは、字義どおり、電子スピン共鳴測定におけるg値が2付近にあるシグナルのことを意味する。具体的には、g=2付近とは、g=2±0.02のことを意味する。
【0015】
<α型サイアロン蛍光体>
本実施形態のα型サイアロン蛍光体は、Eu元素を含有する。別の言い方として、本実施形態のα型サイアロン蛍光体は、Eu賦活α型サイアロン蛍光体である。
【0016】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体は、以下の(1)および(2)の一方または両方を満たす。
(1)本実施形態のα型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度は、25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であることができる。この値は、好ましくは1.0×1014spins/g以上8.0×1014spins/g以下、より好ましくは1.0×1013spins/g以上6.0×1014spins/g以下である。
(2)本実施形態のα型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度は、200℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下であることができる。この値は、好ましくは1.0×1014spins/g以上8.0×1014spins/g以下、より好ましくは1.0×1013spins/g以上6.0×1014spins/g以下である。
【0017】
本発明者は、高温環境下における発光特性の変化の原因を様々な観点から検討した。検討を通じ、電子スピン共鳴(ESR)測定を通じて得られる結晶欠陥の密度の値が、発光特性の変化の程度と相関しているのではないかと、本発明者は考えた。結晶欠陥の存在は通常は発光特性の低下をもたらすと考えられたためである。
【0018】
本発明者らは、上記考えに基づき、25℃および/または200℃における電子スピン共鳴(ESR)測定を通じて得られる結晶欠陥の密度が、十分に小さいα型サイアロン蛍光体を新たに作製した。そして、この新たなα型サイアロン蛍光体を白色LEDの波長変換部材として用いることにより、高温環境下においても発光特性が変化しにくい白色LEDを製造することができた。
【0019】
200℃における結晶欠陥の密度が十分小さいということは、高温環境下においても結晶欠陥が少ないということである。高温環境下での結晶欠陥の密度が小さければ、車載時の高温下でも各種特性が変化しにくく、よって発光特性も変化しにくくなっていると考えられる。
また、200℃ではなく25℃においても結晶欠陥の密度が十分に小さければ、それに対応して高温環境下においても結晶欠陥が少なくなる傾向があると考えられる。つまり、25℃において結晶欠陥の密度が十分に小さければ、高温環境下においても発光特性が変化しにくいと考えられる。
【0020】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体は、適切な製造工程を経ることにより製造可能である。具体的には、粉末状のα型サイアロン蛍光体を窒素ガス雰囲気下でアニールするNアニール工程と、粉末状のα型サイアロン蛍光体を水素ガス雰囲気下でアニールするHアニール工程と、の2つのアニール工程を行うことにより本実施形態のα型サイアロン蛍光体を製造可能である。製造方法が不適切な場合には本実施形態のα型サイアロン蛍光体が得られないことがある。
製造方法の詳細については追って説明する。
【0021】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体に関する説明を続ける。
【0022】
・蛍光体の組成
本実施形態のα型サイアロン蛍光体の組成は、例えば、
一般式:(M1,M2,Eu)(Si12-(m+n)Alm+n)(O16-n
で示すことができる。
上記一般式において、
M1は1価のLi元素、
M2はMg、Ca及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の2価の元素、
0≦x<2.0、0≦y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、0.3≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0
である。
【0023】
α型サイアロン蛍光体の固溶組成は、上記一般式におけるx、y、z及びそれに付随するSi/Al比やO/N比により決まるmとnで表される。特にM2がCaを含む場合、幅広い組成範囲でα型サイアロン蛍光体が安定化し、その一部を発光中心となるEuで置換することにより、紫外から青色の幅広い波長域の光で励起され、黄から橙色の可視発光を示す蛍光体が得られる。
【0024】
一般に、α型サイアロン蛍光体は、α型サイアロン蛍光体とは異なる第二結晶相や不可避的に存在する非晶質相のため、組成分析等により固溶組成を厳密に規定することができない。α型サイアロン蛍光体の結晶相としては、α型サイアロン単相が好ましく、他の結晶相として窒化アルミニウム又はそのポリタイポイド等を含んでいてもよい。
【0025】
・蛍光体の性状
α型サイアロン蛍光体は、通常、α型サイアロン蛍光体粒子の集団であるα型サイアロン蛍光体粉末の形態で取り扱われる。
α型サイアロン蛍光体粒子は、しばしば、複数の一次粒子が塊状となった二次粒子を含む。
【0026】
α型サイアロン蛍光体粉末のメジアン径(D50)の下限は、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、α型サイアロン蛍光体粉末のメジアン径の上限は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。α型サイアロン蛍光体粉末のメジアン径は上記二次粒子における寸法である。α型サイアロン蛍光体粉末のメジアン径を5μm以上とすることにより、波長変換部材の透明性をより高めることができる。一方、α型サイアロン蛍光体粉末のメジアン径を30μm以下とすることにより、ダイサー等で波長変換部材を切断加工する際に、チッピングが生じることを抑制することができる。
【0027】
ここで、α型サイアロン蛍光体粉末のメジアン径(D50)とは、JIS R1629:1997に準拠したレーザー回折散乱法による体積基準の積算分率におけるメジアン径を意味する。ちなみに、α型サイアロン蛍光体粉末が二次粒子を含む場合には、レーザー回折散乱法で得られるメジアン径は、二次粒子の大きさを反映したものとなる。
【0028】
α型サイアロン蛍光体粒子の形状は特に限定されない。形状は、球状体、立方体、柱状体、不定形などが挙げられる。
【0029】
・種々の温度下での諸特性
上述した25℃および200℃での結晶欠陥の密度(スピン密度)のほかに、以下に説明する特性のうち1または2以上を満たすようにα型サイアロン蛍光体を設計することで、特に高温下におけるα型サイアロン蛍光体の性能を一層高められる場合がある。
【0030】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度は、300℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、好ましくは1.0×1015spins/g以下、より好ましく1.0×1014spins/g以上1.0×1015spins/g以下、さらに好ましくは4.0×1014spins/g以上9.0×1014spins/g以下である。
【0031】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体における結晶欠陥の密度は、600℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、好ましくは9.5×1015spins/g以下、より好ましく5.0×1015spins/g以上9.5×1015spins/g以下、さらに好ましくは7.5×1015spins/g以上9.5×1015spins/g以下である。
【0032】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体の、200℃における内部量子効率は、好ましくは87%以上、より好ましくは88%以上である。この値は100%に近ければ近いほどよいが、現実的には95%以下または93%以下である。
【0033】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体の、300℃における内部量子効率は、好ましくは80%以上、より好ましくは82%以上である。この値は100%に近ければ近いほどよいが、現実的には90%以下または88%以下である。
【0034】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体において、{(24℃における内部量子効率)/(300℃における内部量子効率)}×100[%]で表される内部量子効率維持率は、好ましくは89%以上、より好ましくは89%以上99%以下、さらに好ましくは90%以上99%以下である。
【0035】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体において、{(24℃における外部量子効率)/(300℃における外部量子効率)}×100[%]で表される外部量子効率維持率は、好ましくは88%以上、より好ましくは88%以上99%以下、さらに好ましくは89%以上97%以下である。
【0036】
<発光装置>
図1は、発光装置の構造を例示する概略断面図である。
図1に示すように、発光装置100は、発光素子120、ヒートシンク130、ケース140、第1リードフレーム150、第2リードフレーム160、ボンディングワイヤ170、ボンディングワイヤ172および複合体40を備える。
【0037】
発光素子120はヒートシンク130上面の所定領域に実装されている。ヒートシンク130上に発光素子120を実装することにより、発光素子120の放熱性を高めることができる。なお、ヒートシンク130に代えて、パッケージ用基板を用いてもよい。
【0038】
発光素子120は、励起光を発する半導体素子である。発光素子120としては、たとえば、近紫外から青色光に相当する300nm以上500nm以下の波長の光を発生するLEDチップを使用することができる。発光素子120の上面側に配設された一方の電極(図示せず)が金線などのボンディングワイヤ170を介して第1リードフレーム150の表面と接続されている。また、発光素子120の上面に形成されている他方の電極(図示せず)は、金線などのボンディングワイヤ172を介して第2リードフレーム160の表面と接続されている。
【0039】
ケース140には、底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状の凹部が形成されている。発光素子120は、上記凹部の底面に設けられている。発光素子120を取り囲む凹部の壁面は反射板の役目を担う。
【0040】
複合体40は、ケース140によって壁面が形成される上記凹部に充填されている。複合体40は、発光素子120から発せられる励起光の波長を長波長化する波長変換部材である。複合体40として、本実施形態の複合体が用いられ、樹脂などの封止材30中に本実施形態の蛍光体1が分散されている。発光装置100は、発光素子120の光と、この発光素子120の光を吸収し励起される蛍光体1から発生する光との混合色を発する。発光装置100は、発光素子120の光と蛍光体1から発生する光との混色により白色を発光することが好ましい。
【0041】
ちなみに、複合体40における封止材30に使用可能な樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの透明樹脂が挙げられる。複合体40は、例えば、液体状の樹脂または粉末状のガラスまたはセラミックスに本実施形態のα型サイアロン蛍光体を加え、均一に混合し、その後、加熱処理により硬化または焼結させて作製することができる。
【0042】
本実施形態の発光装置100では、蛍光体1として上述のα型サイアロン蛍光体を用いることにより、高温下での発光特性の変化が抑えられている。よって、発光装置100は車載用途に好適に用いられる。ただし、念のため述べておくと、発光装置100の用途は車載用途のみに限定されない。発光装置100は、車載用途ではない照明用途や、表示装置用途などにも適用可能である。
【0043】
ちなみに、図1では、表面実装型の発光装置が例示されているが、発光装置は表面実装型に限定されず、砲弾型、COB(チップオンボード)型、CSP(チップスケールパッケージ)型であってもよい。
【0044】
<α型サイアロン蛍光体の製造方法>
本実施形態のα型サイアロン蛍光体の製造方法は、
焼成により、Eu元素を含有する塊状のα型サイアロン蛍光体を得る焼成工程と、
上記塊状のα型サイアロン蛍光体を粉砕して、粉末状のα型サイアロン蛍光体を得る粉砕工程と、
窒素ガス雰囲気下で、1200℃以上1700℃以下の温度範囲および5時間以上30時間以下の時間範囲で、上記粉末状のα型サイアロン蛍光体をアニールするNアニール工程と、
水素ガス雰囲気下で、1200℃以上1700℃以下の温度範囲および5時間以上30時間以下の時間範囲で、上記粉末状のα型サイアロン蛍光体をアニールするHアニール工程と、
上記Hアニール工程後の前記粉末状のα型サイアロン蛍光体に対して酸性水溶液を用いて酸処理を実施する酸処理工程と、
を含む。
【0045】
本実施形態のα型サイアロン蛍光体の製造方法において、好ましくは、Hアニール工程は、Nアニール工程の後に行われる。
また、上記酸処理工程後の粉末状のα型サイアロン蛍光体を、水簸により分級する水簸工程を行うことが好ましい。
【0046】
上記のような製造方法により、特に結晶欠陥が少ないα型サイアロン蛍光体を得ることができる。詳細は不明であるが、Nアニール工程とHアニール工程の組み合わせが、結晶欠陥の低減に効いていると推測される。
【0047】
以下、各工程について補足する。
【0048】
・焼成工程
焼成工程は、従来のα型サイアロン蛍光体の製造方法を参考にして行うことができる。一例を簡単に述べると、(i)まず、Euを含有するα型サイアロン蛍光体を構成する元素を含む原料(各元素の窒化物や酸化物など)を混合して混合物を得、(ii)その混合物を窒化ホウ素製容器内に充填し、窒素雰囲気中で、1650℃以上1950℃以下で焼成することで、Eu元素を含有する塊状のα型サイアロン蛍光体を得ることができる。
焼成工程に関しては、例えば国際公開第2020/203483号の段落0036から0044の記載および実施例の記載を参考にすることができる。また、その他の公知文献の記載を参考とすることもできる。
【0049】
・粉砕工程
焼成工程では、通常、外形がインゴット状のα型サイアロン蛍光体が生成される。このインゴット状のα型サイアロン蛍光体を、クラッシャー、乳鉢粉砕、ボールミル、振動ミル、ジェットミル等の粉砕機により粉砕することで、粉末状のα型サイアロン蛍光体を得ることができる。
粉砕の程度を調整することにより、α型サイアロン蛍光体のメジアン径などの粒径分布を調整可能である。
【0050】
粉砕工程に加えて、篩分級工程を行ってもよい。篩分級工程を行うことによって、メジアン径などの粒径分布をより精密に調整することができる。
また、粉砕された粉末状のα型サイアロン蛍光体を、水溶液中に分散させて一定時間静置し、粒子径が小さく沈降しにくい粒子を除去する工程を行ってもよい。これにより、メジアン径などの粒径分布を一層精密に調整することができる。
【0051】
・Nアニール工程
アニール工程の温度は、1200℃以上1700℃以下であればよいが、好ましくは1300℃以上1600℃以下である。
アニール工程の時間は5時間以上30時間以下の時間であればよいが、好ましくは8時間以上25時間以下である。
アニール工程における圧力は特に限定されないが、例えば0.02MPa・G以上0.9MPa・G以下、好ましくは0.02MPa・G以上0.2MPa・G以下である。
【0052】
アニール工程は、Nと、N以外の不活性ガス(貴ガスなど)との混合ガス雰囲気下で行われてもよいが、好ましくは実質的にNのみからなるガス雰囲気下で行われる。また、混合ガス雰囲気下であっても、混合ガス中のNの比率は50体積%超であることが好ましく、75体積%超であることがより好ましい。こうすることで、α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥が一層低減すると考えられる。
【0053】
・Hアニール工程
アニール工程の温度は、1200℃以上1700℃以下であればよいが、好ましくは1300℃以上1600℃以下である。
アニール工程の時間は、5時間以上30時間以下であればよいが、好ましくは8時間以上25時間以下である。
アニール工程における圧力は特に限定されないが、例えば0.02MPa以上0.9MPa以下、好ましくは0.02MPa以上0.1MPa以下である。
【0054】
アニール工程は、Hと、H以外の不活性ガス(貴ガスなど)との混合ガス雰囲気下で行われてもよいが、好ましくは実質的にHのみからなるガス雰囲気下で行われる。また、混合ガス雰囲気下で行う場合であっても、混合ガス中のHの比率は50体積%超であることが好ましく、75体積%超であることがより好ましい。こうすることで、α型サイアロン蛍光体における結晶欠陥が一層低減すると考えられる。
【0055】
・酸処理工程
酸処理工程では、例えば、酸性水溶液中に粉末状のα型サイアロン蛍光体を入れ、攪拌器を用いて攪拌する。
酸性水溶液としては、フッ酸、硝酸、塩酸などの酸から選ばれる1種の酸を含む酸性水溶液、または上記の酸から2種以上を混合して得られる混酸水溶液が挙げられる。この中でも、フッ酸を単独で含むフッ酸水溶液およびフッ酸と硝酸を混合して得られる混酸水溶液がより好ましい。酸性水溶液の原液濃度は、用いる酸の強さによって適宜設定されるが、0.7%以上100%以下が好ましく、0.7%以上40%以下がより好ましい。また、酸処理を実施する際の温度は60℃以上90℃以下が好ましく、反応時間(浸漬時間)としては15分以上80分以下が好ましい。
【0056】
攪拌を高速で行うことで、粒子表面の酸処理が十二分になされやすい。ここでの「高速」とは、用いる攪拌装置にも依るが、実験室レベルのマグネチックスターラを用いる場合には、攪拌速度は例えば400rpm以上、現実的には400rpm以上500rpm以下である。粒子表面に常に新たな酸を供給するという通常の攪拌の目的からすれば、攪拌速度は200rpm程度で十分であるが、400rpm以上の高速攪拌を行うことで、化学的な作用に加えて物理的な作用により、粒子表面の処理が十二分になされやすくなる。
適切な攪拌条件を選択することにより、蛍光体表面の異物や異相(発光特性の低下をもたらしうる)が十分に除去される。この結果、α型サイアロン蛍光体全体としての結晶欠陥が一層低減されると感がられる。この結果、高温環境下における発光特性の変化を一層小さくできると考えられる。
【0057】
・分級工程
α型サイアロン蛍光体の粒径分布の調整などのために、何らかの分級処理を行ってもよい。分級は、乾式条件下で行ってもよいし湿式条件下で行ってもよい。工業的に用いられる各種装置、例えば沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離機、サイクロン、エアセパレータなどの装置を用いて分級することもできる。これらの中でも沈降槽による水簸分級が好ましいが、もちろん分級の具体的方法は沈降槽による水簸分級のみに限定されない。
【0058】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0059】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0060】
<α型サイアロン蛍光体の製造>
(実施例1、2および比較例1)
以下手順によりα型サイアロン蛍光体を製造した。
(1)焼成工程
グローブボックス内で、原料粉末の配合組成として、窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、E10グレード)を62.4質量部、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製、Eグレード)を22.5質量部、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業社製RUグレード)を2.2質量部、窒化カルシウム粉末(高純度化学研究所社製)を12.9質量部とし、原料粉末をドライブレンド後、目開き250μmのナイロン製篩を通して原料混合粉末を得た。その原料混合粉末120gを、内部の容積が0.4リットルの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(デンカ株式会社製、N-1グレード)に充填した。
この原料混合粉末を容器ごとカーボンヒーターの電気炉で大気圧窒素雰囲気中、1800℃で16時間の加熱処理(焼成)を行った。原料混合粉末に含まれる窒化カルシウムは、空気中で容易に加水分解しやすいので、原料混合粉末を充填した窒化ホウ素製容器はグローブボックスから取り出した後、速やかに電気炉にセットし、直ちに真空排気し、窒化カルシウムの反応を防いだ。
(2)粉砕工程
上記(1)で得られた焼成物を乳鉢で適度に粉砕または解砕し、目開き150μmの篩を全通させ、蛍光体粉末を得た。この蛍光体粉末に対して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定(X-ray Diffraction)により、結晶相を調べたところ、存在する結晶相はα型サイアロンであった。
(3)Nアニール工程
上記(2)の粉砕工程で得られた粉末状のα型サイアロン蛍光体を、窒化ホウ素製の容器に入れて蓋をした。この容器を加熱炉内に入れ、後掲の表1の「Nアニール」の欄に記載の条件で、窒素ガス雰囲気下での加熱処理を行った。放冷後、容器から回収された橙色の粉末については、目開き75μmの篩を全通させた。これによりNアニールされた蛍光体粉末を得た。
(4)Hアニール工程
上記(3)のNアニールされた蛍光体粉末を、窒化ホウ素製の容器に入れて蓋をした。この容器を加熱炉内に入れ、水素ガス雰囲気下で加熱した。加熱条件は、後掲の表1の「Hアニール」の欄に記載の条件とした。放冷後、容器から回収された橙色の粉末については、目開き75μmの篩を全通させた。これによりHアニールされた蛍光体粉末を得た。
(5)酸処理工程
まず、50%フッ酸50mLと、70%硝酸50mLとを混合して混合原液を作製した。この混合原液に蒸留水300mLを加え、混合原液の濃度を25%に希釈し、混酸水溶液400mLを調製した。
この混酸水溶液に、上記(4)のHアニール工程後に回収した蛍光体粉末30gを加え、混酸水溶液の温度を80℃に保ち、マグネチックスターラを用いて、回転速度450rpmで60分攪拌した。
攪拌終了後、蒸留水にて、蛍光体に付着した酸を十分に洗浄した。洗浄された蛍光体粉末をろ過により回収し、乾燥させた。
【0061】
乾燥後の蛍光体粉末の粒径分布を、Microtrac MT3300EX II(マイクロトラック・ベル株式会社)を用い、JIS R1629:1997に準拠したレーザー回折散乱法により測定した。
具体的には、まず、イオン交換水100ccに粉末状のα型サイアロン蛍光体0.5gを投入し、Ultrasonic Homogenizer US-150E(株式会社日本精機製作所、チップサイズφ20mm、Amplitude100%、発振周波数19.5KHz、振幅約31μm)を用いて、3分間分散処理を行い、分散液を得た。この分散液を、MT3300EX IIにセットして、粒径分布を測定した。
得られた粒径分布からメジアン径D50を求めた。
【0062】
アニール工程およびHアニール工程の条件、ならびにD50を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
<電子スピン共鳴測定>
実施例1、2および比較例1のα型サイアロン蛍光体について、以下のようにして電子スピン共鳴測定を行った。そして、25℃、200℃、300℃および600℃におけるα型サイアロン蛍光体の結晶欠陥の密度を、g=2付近のシグナルのスピン密度の値として求めた。
【0065】
(測定手順)
試料粉末(約60mg)をESR試料管に入れて装置にセットし、試料管内に模擬空気(流量:20mL min-1)を流通させ、室温(25℃)にてg=2付近のESR測定を実施した。
その後、昇温速度30℃/minで200℃まで昇温し、30min保持したのち、g=2付近のESR測定を行った。
さらにその後、昇温速度30℃/minで300℃まで昇温し、30min保持したのち、g=2付近のESR測定を行った。
さらにその後、昇温速度30℃/minで600℃まで昇温し、30min保持したのち、g=2付近のESR測定を行った。
【0066】
(測定装置および測定条件)
BRUKER社製ESR装置「EMXplus」とBRUKER社製高温キャビティ「ER4114HT」を用いた。また、測定条件は、以下の通りであった。
磁場掃引範囲:3350~3550G付近
変調:100kHz、5G
マイクロ波:9.67GHz、1mW
掃引時間:80s×4times
時定数:327.68ms
データポイント数:1000points
【0067】
(測定データの解析)
ESRスペクトルは、電磁波の吸収スペクトルの凹凸を鋭敏に観測するため、通常、一次微分曲線として観測される。その吸収強度がスピン数に比例するので、ESRスペクトルを2回積分して微分曲線を積分曲線に直し、標準試料とのピーク面積比から試料のスピン数を定量した。
積分範囲については、一次微分曲線において、g=2.0171付近とg=1.9838付近を通る直線をベースラインとして差し引いたのち、g=2.0171~1.9838の範囲を積分した。これによりg=2付近における試料由来のピーク面積を求めた。
解析には、BRUKER社製ESRソフトウェア「WinEPR」を用いた。
【0068】
(スピン数およびスピン密度の算出)
25℃における試料のスピン数[spins]は、スピン数が既知である二次標準試料(イオン注入したポリエチレンフィルム)に対して別途ESR測定を行い、それとのピーク面積比から求めた。さらに試料のスピン数を、測定に供した試料質量[g]で割ることで、25℃における単位質量あたりの試料のスピン数(スピン密度[spins/g])を求めた。
ちなみに、二次標準試料(イオン注入したポリエチレンフィルム)のスピン数は、スピン数が既知である一次標準試料(硫酸銅五水和物)に対して25℃で別途ESR測定を行い、それとのピーク面積比から求めた。
200℃での試料のスピン数[spins]は、25℃の場合と同様の方法で、二次標準試料(イオン注入したポリエチレンフィルム)とのピーク面積比から求めたのち、測定温度((273+200)[K])÷室温((273+25)[K])を掛けることで(キュリーの法則)、測定温度が信号強度に与える影響を補正して求めた。さらに試料のスピン数を、測定に供した試料質量[g]で割ることで、200℃における単位質量あたりの試料のスピン数(スピン密度[spins/g])を求めた。
同様に、300℃での試料のスピン密度[spins/g]を求めた。ちなみに、キュリーの法則による温度補正を行う際は、測定温度((273+300)[K])÷室温((273+25)[K])を掛けた。
同様に、600℃での試料のスピン密度[spins/g]を求めた。ちなみに、キュリーの法則による温度補正を行う際は、測定温度((273+600)[K])÷室温((273+25)[K])を掛けた。
【0069】
(補足)
ESRスペクトルにおける吸収強度は測定条件により変化する。そのため、共振器のQ値、レシーバーゲイン、積算回数[回]、変調[G]、コンバージョン時間[ms]、マイクロ波パワー[mW]、試料管内径[mm]、共振器の中心位置[mm]、挿入試料の長さ[mm]、スピン量子数の影響は、解析の際に適切に補正した。
【0070】
結果を以下の表2に示す。数値の単位はspins/gである。
【0071】
【表2】
【0072】
<評価:温度による発光特性の変化>
各実施例および比較例のα型サイアロン蛍光体について、吸収率、内部量子効率および外部量子効率、ならびにこれらの温度依存性を、分光光度計(大塚電子株式会社製QE-2100)を用い、全体の蛍光から再励起蛍光を差し引いて再励起法補正を行い、吸収率、内部量子効率、外部量子効率を求めた。
【0073】
上記の吸収率、内部量子効率および外部量子効率を、試料温度を室温から300℃まで変更して行い、内部量子効率および外部量子効率の温度変化を評価した。
温度変化の定量的な指標として、室温での内部量子効率の値に対する各温度での内部量子効率「内部量子効率維持率」、および、室温での外部量子効率の値に対する各温度での外部量子効率「外部量子効率維持率」を計算した。
【0074】
上記評価結果をまとめて表3、表4および表5に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
上表から理解されるとおり、25℃または200℃における結晶欠陥の密度が1.0×1015spins/gよりも大きい比較例1では、特に300℃という高温下において内部量子効率および外部量子効率の低下が大きかった。
一方、25℃または200℃における結晶欠陥の密度が1.0×1015spins/g以下である実施例1および2では、高温下でも内部量子効率および外部量子効率の低下が抑えられていた。つまり、高温においても発光特性の変化が小さかった。これら実施例1および2の蛍光体は、車載用途への適用が好ましいものであると言える。
【符号の説明】
【0079】
1 蛍光体
30 封止材
40 複合体
100 発光装置
120 発光素子
130 ヒートシンク
140 ケース
150 第1リードフレーム
160 第2リードフレーム
170 ボンディングワイヤ
172 ボンディングワイヤ
【要約】
【課題】例えば白色LEDの波長変換部材として用いたときに、高温環境下においても発光特性が変化しにくいα型サイアロン蛍光体を提供すること。
【解決手段】結晶欠陥の密度が、25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下である、Eu元素を含有するα型サイアロン蛍光体。また、結晶欠陥の密度が、200℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2付近のシグナルのスピン密度の値として、1.0×1015spins/g以下である、Eu元素を含有するα型サイアロン蛍光体。
【選択図】図1
図1