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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】真空排気方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 37/16 20060101AFI20231010BHJP
   H05H 7/20 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
F04B37/16 A
H05H7/20
F04B37/16 E
F04B37/16 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019140672
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021025417
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-04-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年8月9日、第15回日本加速器学会年会、ポスターセッション 2018年10月2日、https://www.pasj.jp/web_publish/pasj2018/proceedings/PDF/THP1/THP111.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】502228247
【氏名又は名称】株式会社アールデック
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(74)【代理人】
【識別番号】100213883
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】阪井 寛志
(72)【発明者】
【氏名】加古 永治
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴広
(72)【発明者】
【氏名】飯村 和広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】峯 一郎
(72)【発明者】
【氏名】海老原 尚美
(72)【発明者】
【氏名】山口 真一
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-164581(JP,A)
【文献】実開平03-021579(JP,U)
【文献】実開平07-041158(JP,U)
【文献】特開2007-127032(JP,A)
【文献】特開平08-074737(JP,A)
【文献】特開2005-214931(JP,A)
【文献】特開2005-024409(JP,A)
【文献】特開2019-111502(JP,A)
【文献】特開2017-139184(JP,A)
【文献】特開2002-361039(JP,A)
【文献】特開2016-031849(JP,A)
【文献】特開2006-156769(JP,A)
【文献】特開2018-046236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 25/00-37/20、
41/00-41/06、
49/00-51/00
H05H 7/14、 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ポートを備えた容器に接続され、該容器の内部を真空状態とするための真空排気装置であり、
前記排気ポートにその一端が接続される親流路と、
前記親流路の他端を分岐して、並列に設けられる第1の流路及び第2の流路と、
前記の、第1の流路及び第2の流路を合流して接続される排気手段と、
前記親流路の内部の圧力を計測するための圧力計測手段と、
前記親流路の内部を浮遊するダストの量を粒子径別にリアルタイムで計測するためのダスト量計測手段と、
を有し、
前記第1の流路は、第1の開閉弁を有し、
前記第2の流路は、第2の開閉弁と流量調整器を直列に有し、
前記の、第1の開閉弁、第2の開閉弁、流量調整器、排気手段及びダスト量計測手段の制御を行う制御機構を備え、
該制御機構は、前記圧力計測手段により計測される計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、第1の開閉弁を閉鎖状態に第2の開閉弁を開放状態に保って、第2の流路を流れる気体の流量を、前記流量調整器を用いて調整し、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力になった後、第2の開閉弁を閉じ、第1の開閉弁を開くことで、前記容器の内部が高真空状態となるように前記制御を行うように構成され、
前記ダスト量計測手段により計測される、粒子径が所定の粒子径以上であるダストの量が、常に検出限界未満であるように、計測圧力と連動した開閉弁の開閉操作の態様、及び/又は、流量調整器により調節される質量流量の時間変化態様の制御を行うことを特徴と
する真空排気装置。
【請求項2】
前記制御機構は、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、前記第2の流路を流れる気体の流量がスロー流量範囲に含まれる一定値であるように、前記流量調整器を制御する請求項1に記載の真空排気装置。
【請求項3】
前記制御機構は、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、どの1分間における、前記第2の流路を流れる気体の流量の変動量も、流量変動量上限値以下であるように、前記流量調整器を制御する請求項1又は2に記載の真空排気装置。
【請求項4】
前記制御機構は、前記の第1の開閉弁又は第2の開閉弁の、閉鎖状態からの開放動作又は開放状態からの閉鎖動作を、最小スロー開閉時間以上の時間をかけて完了する請求項1~3のいずれか一項に記載の真空排気装置。
【請求項5】
パージガスを前記容器の内部に供給するための第3の流路を有し、
該第3の流路は、第2の流量調整器を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の真空排気装置。
【請求項6】
前記制御機構は、前記第3の流路を流れる気体の流量がパージ流量範囲に含まれ、かつ、どの1分間における該流量の変動量もパージ流量変動量上限値以下であるように、前記第2の流量調整器の制御を行う請求項5に記載の真空排気装置。
【請求項7】
排気ポートを備えた容器の内部を真空状態とするための真空排気方法であり、
前記排気ポートにその一端が接続される親流路と、
前記親流路の他端を分岐して、並列に設けられる第1の流路及び第2の流路と、
前記の、第1の流路及び第2の流路を合流して接続される排気手段と、
前記第1の流路に設けられる第1の開閉弁と、
前記第2の流路に互いに直列に設けられる第2の開閉弁及び流量調整器と、
を設け、
前記親流路の内部の圧力を計測して、計測される圧力である計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、第1の流路を閉鎖状態に、第2の流路を連通状態に保って、第2の流路を流れる気体の流量を、前記流量調整器を用いて調整し、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力になった後、第2の流路を閉鎖状態にし、第1の流路を連通状態にすることで、前記容器の内部が高真空状態となるように気体の流れの制御を行い、
前記親流路の内部を浮遊するダストの量を粒子径別にリアルタイムで計測し、計測される、粒子径が所定の粒子径以上であるダストの量が、常に検出限界未満であるように、計測圧力と連動した開閉弁の開閉操作の態様、及び/又は、流量調整器により調節される質量流量の時間変化態様の制御を行うことを特徴とする真空排気方法。
【請求項8】
前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、前記第2の流路を流れる気体の流量がスロー流量範囲に含まれる一定値であるように、前記流量調整器を制御する請求項7に記載の真空排気方法。
【請求項9】
前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、どの1分間における、前記第2の流路を流れる気体の流量の変動量も、流量変動量上限値以下であるように、前記流量調整器を制御する請求項7又は8に記載の真空排気方法。
【請求項10】
前記の第1の開閉弁又は第2の開閉弁の、閉鎖状態からの開放動作又は開放状態からの閉鎖動作を、最小スロー開閉時間以上の時間をかけて完了する請求項7~9のいずれか一項に記載の真空排気方法。
【請求項11】
パージガスを前記容器の内部に供給するための第3の流路を設け、該第3の流路に第2の流量調整器を設ける請求項7~10のいずれか一項に記載の真空排気方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間内を排気して真空空間を形成する際に、空間内に残存する塵埃が浮遊することのないように排気を行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
<超伝導加速空洞とは> 高エネルギー加速器研究機構(KEK)では現在、国際リニアコライダ(ILC)、Super-KEKB等の素粒子実験用加速器や、エネルギー回収型ライナック(ERL)等の放射光源用加速器といった、次世代加速器の開発を進めている。これら次世代加速器にとって、非常に電力ロスの少ない超伝導を用いた加速空洞である超伝導加速空洞が重要な構成要素である。その極めて重要な特徴は空洞の抵抗壁損失が超伝導状態であるため極めて小さく、少ない投入パワーで非常に大きなビーム加速を行えるというものである。
【0003】
加速空洞は、Nb(ニオブ)等で作製されており、4K~2Kの極低温におかれて超伝導状態となり、空洞内を走る電子ビームは高周波(1.3GHz)で加速される。加速器のビームラインに沿って多数の加速空洞を直列に連結配置する際にはあらかじめ、個々の加速空洞をクライオモジュールと呼ばれる断熱槽に入れる必要がある。クライオモジュールの一例として、図11に、特開2019-021508号公報(特許文献4)に開示されたクライオモジュールの断面図を挙げる。加速空洞401は、9個のセルと両端のビームパイプ403とフランジとで構成される。クライオモジュール400は、加速空洞401と、加速空洞401の9個のセルを内包する筒状の冷媒槽402と、冷媒槽402の外壁に接続された冷媒ガス導入手段404と、冷媒槽402の外壁に接続された蒸発ガス排出手段405と、冷媒槽402を周方向に囲む周波数調整機構406と、を備え、ビームパイプ403は冷媒槽402を長手方向に連通する。加速空洞401は、冷媒槽402に導入された液体ヘリウムに浸漬して極低温にまで冷却され、超伝導状態となる。
【0004】
<塵埃浮遊のない真空排気の必要性> 超伝導加速空洞において、空洞内へのダスト(微小な埃や異物)の混入は、空洞内面からの電子の電界放出(Field emission)を誘起し、大量の放射線を発生させ、性能劣化を引き起こす原因となる。運転時には、空洞内の電場は数十MV/mと非常に大きいので、直径サブμm~数10μmのダストが1つ空洞内面に付着しているだけで、そこから電界放出が誘起されて、空洞性能が大幅に劣化してしまう可能性がある。これらダストの混入を回避するために、これまでに縦測定と呼ばれる空洞単体の性能評価試験では、ISO class 4以上のクリーン度を持つクリーンルーム内で空洞表面処理及び空洞の組立て作業を行い、ダスト混入の回避に対して細心の注意をしており、縦測定で35MV/m以上の高い加速勾配を持つ空洞性能を実現してきた。ここで、空洞表面処理の作業は、例えば、100μm厚の電解研磨、750℃・3時間のアニール、20μm厚の仕上げ電解研磨、50℃・1時間の超音波洗浄、8MPa・7時間の超純水洗浄、150℃・48時間のベーキングを含む。また、空洞の組立て作業は、例えば、パーツ組立直前のイオンガンの使用、簡易クリーンブースの設置を含む。
【0005】
これらの空洞を、加速器のビームラインに組込む際には、空洞をクライオモジュールと呼ばれる断熱槽に入れる必要がある。すなわち、縦測定で性能が出た超伝導加速空洞を加速器建設現場でクライオモジュールに入れるべく再度、空洞組立作業を行う必要がある。そして、この組込作業において、縦測定で確認済みの空洞性能が劣化しないことが望ましいのであるが、残念ながら現在、クライオモジュールでの電界放出による性能劣化が、世界中の超伝導加速空洞の性能劣化の重要な原因であると認識されており、その改善が急務
である。これらの改善のために、真空作業として、周りの環境や作業者によらず、塵埃の巻き上げず、空洞へのダストの混入を許さない、自動化された真空排気方法及び装置を確立して、空洞単体の組立作業やクライオモジュールの組立作業の際に、ダストの混入や浮遊を確実に防ぐ必要がある。そして、一たびそのような自動化された真空排気方法及び装置を確立できれば、その用途は加速器用の超伝導加速空洞にとどまらず、より一般に、半導体製造工程等で利用される任意の真空空間を形成する際に、空間内に残存するダストが浮遊することのないように排気を行う方法及び装置として、利用可能なものとなるであろう。
【0006】
<従来技術> 実開平7-41158号公報(特許文献1)には、真空容器内での排気初期の乱流の発生を防ぎ、塵埃の舞い上りを防止すると共に、所定圧力までの排気を短時間で行うことを目的として、図8に示すように、真空容器101と排気系102が弁装置103を介して連結してあり、弁装置103は流体シリンダー110のピストンロッド109の移動により開度が変化する弁機構を有し、ピストンロッド109の移動は流体の流量制御により制御される、排気装置及び弁装置の発明が開示されている。しかし、弁の開度については、「弁機構の開度を徐々に変化させて、時間の経過とともに開度を大きくする」(段落0010)、「排気初期は小さい流量で排気して塵埃の舞い上りを防止し、かつ時間の経過とともに流量を増大させて、排気に要する時間を短縮する」(段落0011)と記載されているのみで、対象とする塵埃のサイズや、塵埃の舞い上りを確実に防止できる排気の流量の範囲や、その流量範囲を実現する具体的な自動制御の方法及び装置については記載がない。また、塵埃の舞い上りを防止するパージの方法及び装置についての記載もない。
【0007】
実全平3-78982号公報(特許文献2)には、図9に示すように、真空チャンバ201と、チャンバ内を常圧から真空に排気するポンプ206との間に、ラフィングバルブ207を有するラフィングライン209を接続した、真空装置におけるスローラフ機構において、ラフィングライン209における塵埃の舞い上がりを防止する目的で、ラフィングラインにバイパスラインを設ける代わりに、ラフィングバルブ207と直列にコンダクタンスバルブ208を設ける発明が開示されている。しかし、該コンダクタンスバルブの操作については、「コンダクタンスバルブの操作により、ラフィングラインのコンダクタンスを所望通りに変化させることができ、排気量を自由に制御することが可能となる」(頁4)と記載されているのみで、対象とする塵埃のサイズや、塵埃の舞い上りを確実に防止できる排気の流量の範囲や、その流量範囲を実現する具体的な自動制御の方法及び装置については記載がない。また、塵埃の舞い上りを防止するパージの方法及び装置についての記載もない。
【0008】
実全昭53-117558号公報(特許文献3)には、図10に示すように、ペルジャ301内を真空形成するための排気装置において、排気初期段階における塵埃の舞い上がりを防止するために、低速排気装置307と高速排気装置304を設け、真空形成の際に、ペルジャ301内が1.3kPaから0.13kPaの真空度となった時に、弁302の切替により、空気の排気量を少なくとも2段階に切り替える発明が開示されている。しかし、対象とする塵埃のサイズや、塵埃の舞い上りを確実に防止できる排気量の変動量の範囲や、その排気量の変動量の範囲を実現するための、具体的な弁又は排気装置の自動制御の方法及び装置については記載がない。また、塵埃の舞い上りを防止するパージの方法及び装置についての記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実開平7-41158号公報
【文献】実全平3-78982号公報
【文献】実全昭53-117558号公報
【文献】特開2019-021508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、加速器に用いる超伝導加速空洞等の、容器の内部を、塵埃の巻き上げや浮遊及び容器内への混入を起こさずに、かつ自動制御で、真空排気する方法及び装置を提供することである。本発明の更なる課題は、塵埃の巻き上げや浮遊及び容器内への混入を起こさずに、かつ自動制御で、容器内にパージガスを導入する方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、排気ポートを備えた容器に接続され、該容器の内部を真空状態とするための真空排気装置であり、前記排気ポートにその一端が接続される親流路と、前記親流路の他端を分岐して、並列に設けられる第1の流路及び第2の流路と、前記の、第1の流路及び第2の流路を合流して接続される排気手段と、前記親流路の内部の圧力を計測するための圧力計測手段と、を有し、前記第1の流路は、第1の開閉弁を有し、前記第2の流路は、第2の開閉弁と流量調整器を直列に有し、前記の、第1の開閉弁、第2の開閉弁、流量調整器及び排気手段の制御を行う制御機構を備え、該制御機構は、前記圧力計測手段により計測される計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、第1の開閉弁を閉鎖状態に第2の開閉弁を開放状態に保って、第2の流路を流れる気体の流量を前記流量調整器を用いて調整し、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力になった後、第1の開閉弁を開くことで、前記容器の内部が高真空状態となるように前記制御を行うように構成されていることを特徴とする真空排気装置である。
【0012】
本発明の第2の形態は、前記親流路の内部を浮遊するダストの量を粒子径別にリアルタイムで計測するためのダスト量計測手段を有し、前記制御機構は、該ダスト量計測手段により計測される、粒子径が所定の粒子径以上であるダストの量が、常に検出限界未満であるように前記制御を行う真空排気装置である。
【0013】
本発明の第3の形態は、前記制御機構は、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、前記第2の流路を流れる気体の流量がスロー流量範囲に含まれる一定値であるように、前記流量調整器を制御する真空排気装置である。
【0014】
本発明の第4の形態は、前記制御機構は、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、どの1分間における、前記第2の流路を流れる気体の流量の変動量も、流量変動量上限値以下であるように、前記流量調整器を制御する真空排気装置である。
【0015】
本発明の第5の形態は、前記制御機構は、前記の第1の開閉弁又は第2の開閉弁の、閉鎖状態からの開放動作又は開放状態からの閉鎖動作を、最小スロー開閉時間以上の時間をかけて完了する真空排気装置である。
【0016】
本発明の第6の形態は、パージガスを前記容器の内部に供給するための第3の流路を有し、該第3の流路は、第2の流量調整器を有する真空排気装置である。
【0017】
本発明の第7の形態は、前記制御機構は、前記第3の流路を流れる気体の流量がパージ流量範囲に含まれ、かつ、どの1分間における該流量の変動量もパージ流量変動量上限値以下であるように、前記第2の流量調整器の制御を行う真空排気装置である。
【0018】
本発明の第8の形態は、排気ポートを備えた容器の内部を真空状態とするための真空排気方法であり、前記排気ポートにその一端が接続される親流路と、前記親流路の他端を分岐して、並列に設けられる第1の流路及び第2の流路と、前記の、第1の流路及び第2の流路を合流して接続される排気手段と、前記第2の流路に配置される流量調整器と、を設け、前記親流路の内部の圧力を計測して、計測される圧力である計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、第1の流路を閉鎖状態に、第2の流路を連通状態に保って、第2の流路を流れる気体の流量を、前記流量調整器を用いて調整し、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力になった後、第1の流路を連通状態にすることで、前記容器の内部が高真空状態となるように気体の流れの制御を行うことを特徴とする真空排気方法である。
【0019】
本発明の第9の形態は、前記親流路の内部を浮遊するダストの量を粒子径別にリアルタイムで計測し、計測される、粒子径が所定の粒子径以上であるダストの量が、常に検出限界未満であるように前記制御を行う真空排気方法である。
【0020】
本発明の第10の形態は、パージガスを前記容器の内部に供給するための第3の流路を設け、該第3の流路に第2の流量調整器を設ける真空排気方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の形態によれば、排気ポートを備えた容器に接続され、該容器の内部を真空状態とするための真空排気装置であり、前記排気ポートにその一端が接続される親流路と、前記親流路の他端を分岐して、並列に設けられる第1の流路及び第2の流路と、前記の、第1の流路及び第2の流路を合流して接続される排気手段と、前記親流路の内部の圧力を計測するための圧力計測手段と、を有し、前記第1の流路は、第1の開閉弁を有し、前記第2の流路は、第2の開閉弁と流量調整器を直列に有し、前記の、第1の開閉弁、第2の開閉弁、流量調整器及び排気手段の制御を行う制御機構を備え、該制御機構は、前記圧力計測手段により計測される計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、第1の開閉弁を閉鎖状態に第2の開閉弁を開放状態に保って、第2の流路を流れる気体の流量を前記流量調整器を用いて調整し、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力になった後、第1の開閉弁を開くことで、前記容器の内部が高真空状態となるように前記制御を行うように構成されていることを特徴とする真空排気装置を提供することができる。
【0022】
本形態の真空排気装置は、通常排気を行うための第1の流路と、制御排気を行うための第2の流路を有し、これらの流路は別箇に容器に接続されるのではなく、容器に接続される親流路の他端を分岐して、第1の流路と第2の流路を並列に設けているものである。したがって、ダスト混入のリスクの高い人的作業である容器と真空排気装置の接続作業の回数を、親流路と容器を接続する作業の1回のみに減らすことができ、第1の流路と第2の流路をそれぞれ容器に接続する場合に比べて半分に削減することができる。接続箇所の数が減るゆえ、接続作業も容易となり、作業時間も短縮されるから、容器内等の空間へのダスト混入のリスクを減らすことができる。
【0023】
本形態の真空排気装置は、圧力計測手段により計測される計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間は、第2の流路を用いて制御排気を行うことで乱流の発生を抑制してダストの舞い上がりと浮遊を防ぎ、計測圧力が前記所定の圧力となった後には、第1の流路を用いて通常排気を行うことで、容器の内部が高真空状態となるように排気を行う。前記所定の圧力は、限定されるものではないが、例えば、絶対圧で表して50Pa以上100Pa以下である。この制御排気を行うため、第2の流路には流量調整器が設けられる。ここで、流量調整器とは、単なるバタフライバルブ等の開度を調節できる開閉弁ではなく、流量調整器を通過する気体の質量流量の影響を受ける物理量(圧力、温度、速度、又はそれらの差など)を計測して質量流量の観測値を計算し、計算された質量流量の観測値と予め設定された質量流量の設定値とを比較し、その比較結果に基づいてフィードバック
制御を行い、質量流量の観測値が設定値と一致するように、流量調整器に内蔵された開閉弁等の開度等をリアルタイムに制御して、流量を精密に調節する手段のことを言う。上記の意味での流量調整器は、マスフローコントローラ(MFC)と呼ばれる。本形態では、排気の初期段階において流量調整器を用いた制御排気を行って、第2の流路及び親流路を流れる気体の流量を精密に制御するから、乱流の発生を抑制してダストの舞い上がりと浮遊、及び容器内への混入を防止することができる。
【0024】
本発明の第2の形態によれば、前記親流路の内部を浮遊するダストの量を粒子径別にリアルタイムで計測するためのダスト量計測手段を有し、前記制御機構は、該ダスト量計測手段により計測される、粒子径が所定の粒子径以上であるダストの量が、常に検出限界未満であるように前記制御を行う真空排気装置を提供することができる。本形態の真空排気装置が有するダスト量計測手段は、流路内に設けられ、若しくは差し込まれ、流路内の気体の流れをほとんど妨げることなく、かつ仮に流路内が高真空状態であっても、例えばレーザー光が浮遊するダストにより散乱されて生じる散乱光を検出する手法であるレーザー光散乱方式等の手法により、ある瞬間に又は短い時間の間に、流路内のある体積領域に存在するダストの量を粒子径別に計測することができる。前期所定の粒子径は、本真空排気装置の使用目的に応じて設定される。例えば、容器が超伝導加速空洞の場合には、サブμmスケールかそれ以上の粒子径を有するダストが1つでも空洞内壁に付着していると、空洞性能が著しく劣化するリスクがある。また、サブμmスケールより小さなオーダーの粒子径を有するダストが空洞内壁に付着していても、空洞性能の劣化は比較的小さく、加えて、そのように微細なダストの場合には、加速器の運転前に空洞内面に短時間の高電圧パルスを付加することで放電により空洞内のコ?ミや埃を砕くパルスエージング等の方法により、付着したダストが空洞性能の劣化を引き起こすリスクを減じることができる。このような事情を考慮して、超伝導加速空洞の場合、前期所定の粒子径は、限定されるものではないが、例えば0.25μm以上0.3μm未満に選ばれる。
【0025】
「常に検出限界未満であるように前記制御を行う」とは、粒子径が所定の粒子径以上であるダストが、ダスト量計測手段によって全く検出されないように前記制御を行うという意味である。本発明の本形態においては、超伝導加速空洞等の容器は、同一の組立工程及び同一の表面処理工程を経て作製された、同一の形状と構成を有する容器が複数、好ましくは多数、存在していることが前提となっている。対象とする容器と上記の意味で同一の形状と構成を有する容器(Cとする)について、どのように前記制御を行えば、粒子径が所定の粒子径以上であるダストが、ダスト量計測手段によって全く検出されないようにしつつ、容器Cを高真空状態にすることができた、という成功情報、あるいは、どのように前記制御を行えば、上記のダストが検出されてしまった、という失敗情報に基づいて、流量等の制御は行われる。ここで、前記制御の対象には、必要ならば計測圧力と連動した、開閉弁の開閉操作の態様やタイミングや、流量調節器により調節される質量流量の時間変化態様が含まれる。
【0026】
本発明の第3の形態によれば、前記制御機構は、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、前記第2の流路を流れる気体の流量がスロー流量範囲に含まれる一定値であるように、前記流量調整器を制御する真空排気装置を提供することができる。本形態によれば、流量調整器を用いた制御排気の際に、第2の流路を流れる気体の流量をスロー流量範囲に含まれる一定値としてスロー排気を行うから、乱流の発生を抑制してダストの舞い上がりと浮遊、及び容器内への混入を防止することができる。
例えば、第2の流路が管径3/8インチ(9.525mm)の円管で構成される場合、後述する実験データに基づき、スロー流量範囲は0.1L/min以上0.6L/min以下と選ぶことができる。ここで流量とは気体の質量流量の意であり、単位「L/min」は、質量流量に比例する、標準状態(0℃,101.325kPa)に換算した気体の体積流量を意味する。スロー流量範囲の上限として可能な値の最大値(上記の管径の場合
は0.6L/min以上のある値)は、乱流の発生を抑制できるという条件に関係していると考えられるゆえ、菅径が変わった場合には、管径にほぼ比例して変化するであろう。なぜならば、管の直径をa、標準状態に換算した体積流量をB、気体の動粘性係数をνとすると、このケースでは気体の圧力は大気圧に近いと仮定してよいから、レイノルズ数Reはcを無次元の定数として
(式1) Re = cB/(νa)
で与えられるところ、式1の右辺が臨界レイノルズ数に等しいと仮定することにより、乱流が発生し始める体積流量Bが、管径aにほぼ比例することが導かれるからである。
スロー流量範囲の下限として可能な値の最小値(上記の場合は0.1L/min以下のある値)は、管径ではなく、流量調整器の性能により定まる。流量調整器は一般に、設定流量が小さすぎると、実際の質量流量と設定流量の差又はその差の設定流量に対する割合を、十分に小さく保つように制御することが難しくなるという性質を有するからである。したがって、スロー流量範囲の下限として可能な値の最小値は必ずしも0.1L/minであるとは限らず、用いる流量調整器によっては、0.1L/min未満であってもよく、例えば0.05L/minでもよい。
【0027】
本発明の第4の形態によれば、前記制御機構は、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、どの1分間における、前記第2の流路を流れる気体の流量の変動量も、流量変動量上限値以下であるように、前記流量調整器を制御する真空排気装置を提供することができる。ここで流量の「変動量」とは、ある時間(このケースでは1分間)における流量の最大値と最小値の差のことである。本形態によれば、流量調整器を用いた制御排気の際に、第2の流路を流れる気体の流量の変動量を常に、流量変動量上限値以下であるように制御しながらスロー排気を行うから、乱流の発生を抑制してダストの舞い上がりと浮遊、及び容器内への混入を防止することができる。例えば、第2の流路が管径3/8インチ(9.525mm)の円管で構成される場合、後述する実験結果より、上記の流量変動量上限値を3L/minと選ぶことができる。流量変動量上限値として可能な値の最大値は3L/min以上のある値となるはずであり、その最大値も、管径におよそ比例すると考えられる。
【0028】
本発明の第5の形態によれば、前記制御機構は、前記の第1の開閉弁又は第2の開閉弁の、閉鎖状態からの開放動作又は開放状態からの閉鎖動作を、最小スロー開閉時間以上の時間をかけて完了する真空排気装置を提供することができる。本発明者は、制御排気中にダストの浮遊が確認されなくても、第2の流路を用いた制御排気から第1の流路を用いた通常排気に切り替える際の開閉弁の動作の直後に、ダストの浮遊がダスト量検出手段によって検出される場合があること、及び、この開閉弁の動作に起因するダストの浮遊は、開閉弁の動作を極めてゆっくりと行うことで抑制できることを発見した。本発明の本形態によれば、第1の開閉弁又は第2の開閉弁の、閉鎖状態からの開放動作又は開放状態からの閉鎖動作を、最小スロー開閉時間以上の時間をかけて完了するから、ダストの舞い上がりと浮遊、及び容器内への混入を防止することができる。後述する実験結果から、上記の最小スロー開閉時間は1minに選ぶことができる。ここで、「開閉弁」は、ゲートバルブ、アンクルバルブ、ニードルバルブ等、弁体が変位(重心移動及び/又は回転)することで弁の開度を調節するように構成された任意の弁を意味する。また、弁体の変位の制御は、例えば、制御電圧を加えて、制御電圧Vaのとき弁の開度が0%であり、制御電圧Vbのとき弁の開度が100%であり、制御電圧と弁体の変位と弁の開度が互いに単調な関係になるように構成して、制御電圧をVaとVbの間で連続的に変化させて弁体の変位を制御してもよく、或いは、弁体の変位と弁の開度が単調な関係になるように構成し、弁体が小刻みに多数の(若しくは無数の)離散的な変位を取り得るようにし、ステッピングモータ等を用いて、加えた正電圧パルスと負電圧パルスの数の差により弁体の変位が決まるように構成して、弁の開度の制御を行ってもよい。また、実験結果に記載していないが、流量当たりの最小スロー開閉時間として、5min/Lとすることもできる(例えば流量が
0.1L/minの場合、最小スロー開閉時間を0.5minと設定できる)。
【0029】
本発明の第6の形態によれば、パージガスを前記容器の内部に供給するための第3の流路を有し、該第3の流路は、第2の流量調整器を有する真空排気装置を提供することができる。例えば、容器が超伝導加速空洞である場合、加速器の運転時には容器内は高真空状態に保たれ、Nb製の容器の内壁は極低温に冷やされて超伝導状態となる。加速器の運転終了後、仮に容器内に大気を導入するならば、反応性の高い大気中の酸素や水蒸気が容器内壁の表面の、Nbの数十原子層からなる原子間領域に侵入し若しくは化学結合して、表面状態が変化してしまい、次回の加速器の運転時に極低温まで冷却しても容器内壁表面の超伝導状態を実現できなくなってしまう。本形態の真空排気装置は、パージガスを前記容器の内部に供給するための第3の流路を有するから、加速器の運転終了後に容器内に大気を導入する替わりに、不活性ガスである窒素(N2)、又は、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等の希ガスからなるパージガスを導入して、パージガスの分子又は原子により容器内壁の表面の上記原子間領域を飽和させて、前記の表面状態の変化を防止することができる。更に、本形態の真空排気装置は、第3の流路に第2の流量調整器を有するから、第2の流量調整器によりパージガスの流量を制御して、パージガスの導入に伴うダストの舞い上がりと浮遊、及び容器内への混入を防止することができる。
【0030】
本発明の第7の形態によれば、前記制御機構は、前記第3の流路を流れる気体の流量がパージ流量範囲に含まれ、かつ、どの1分間における該流量の変動量もパージ流量変動量上限値以下であるように、前記第2の流量調整器の制御を行う真空排気装置を提供することができる。例えば、第3の流路が管径1/4インチ(6.25mm)の円管で構成される場合、後述する実験結果に基づき、ダストの舞い上がりと浮遊、及び容器内への混入を防止することができる、上記のパージ流量範囲は例えば0.1L/min以上2.7L/min以下と選ぶことができ、パージ流量変動量上限値は例えば0.2L/minに選ぶことができる。パージ流量範囲の上限値、及びパージ流量変動量上限値として可能な値の最大値はいずれも、管径におよそ比例すると考えられる。また、パージ流量範囲の下限として可能な値の最小値は、第2の流量調整器の性能によって決まる。
【0031】
本発明の第8の形態によれば、排気ポートを備えた容器の内部を真空状態とするための真空排気方法であり、前記排気ポートにその一端が接続される親流路と、前記親流路の他端を分岐して、並列に設けられる第1の流路及び第2の流路と、前記の、第1の流路及び第2の流路を合流して接続される排気手段と、前記第2の流路に配置される流量調整器と、を設け、前記親流路の内部の圧力を計測して、計測される圧力である計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、第1の流路を閉鎖状態に、第2の流路を連通状態に保って、第2の流路を流れる気体の流量を、前記流量調整器を用いて調整し、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力になった後、第2の流路を閉鎖状態にし、第1の流路を連通状態にすることで、前記容器の内部が高真空状態となるように気体の流れの自動制御を行うことを特徴とする真空排気方法を提供することができる。
【0032】
本形態の真空排気方法は、通常排気を行うための第1の流路と、制御排気を行うための第2の流路を設け、これらの流路を別箇に容器に接続するのではなく、容器に親流路を接続し、その他端を分岐して、第1の流路と第2の流路を並列に設けるものである。したがって、ダスト混入のリスクの高い人的作業である接続作業の回数を、親流路と容器を接続する作業の1回のみに減らすことができ、第1の流路と第2の流路をそれぞれ容器に接続する場合に比べて半分に削減することができる。接続箇所の数が減るゆえ、接続作業も容易となり、作業時間も短縮されるから、容器内等の空間へのダスト混入のリスクを減らすことができる。
【0033】
本形態の真空排気方法は、親流路の内部の圧力を計測し、計測される計測圧力が低真空
状態の所定の圧力となるまでの間は、第2の流路を用いて制御排気を行うことで乱流の発生を抑制してダストの舞い上がりと浮遊を防ぎ、計測圧力が前記所定の圧力となった後には、第1の流路を用いて通常排気を行うことで、容器の内部が高真空状態となるように排気を行う。前記所定の圧力は、限定されるものではないが、例えば、絶対圧で表して50Pa以上100Pa以下である。この制御排気を行うため、第2の流路に流量調整器を設ける。ここで、流量調整器は、既述のマスフローコントローラを意味する。本形態では、排気の初期段階において流量調整器を用いた制御排気を行って、第2の流路及び親流路を流れる気体の流量を精密に制御するから、乱流の発生を抑制してダストの舞い上がりと浮遊、及び容器内への混入を防止することができる。
【0034】
本発明の第9の形態によれば、前記親流路の内部を浮遊するダストの量を粒子径別にリアルタイムで計測し、計測される、粒子径が所定の粒子径以上であるダストの量が、常に検出限界未満であるように前記制御を行う真空排気方法を提供することができる。本形態の効果については、本発明の第2の形態の効果の記載を参照されたい。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、パージガスを前記容器の内部に供給するための第3の流路を設け、該第3の流路に第2の流量調整器を設ける真空排気方法を提供することができる。本形態の効果については、本発明の第6の形態の効果の記載を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、本発明の真空排気装置を用いて、超伝導加速空洞内を真空排気する様子を示す外観写真図である。
図2図2は、本発明の1つの実施形態の真空排気装置の構成図である。
図3図3は、本発明の別の1つの実施形態の真空排気装置の構成図である。
図4図4は、本発明の装置で真空排気及びパージを行った際の、気体の圧力、流量、及びダスト量の測定結果を示すグラフ図である。
図5図5は、本発明の装置で真空排気及びパージを行った際の、気体の圧力、流量、及びダスト量の別の測定結果を示すグラフ図である。
図6図6は、ダスト量計測手段のテストの際に計測されたダスト量の測定結果を示すグラフ図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る真空排気装置の自動制御画面及び流量設定画面の写真図である。
図8図8は、従来技術による真空排気装置及び弁装置の説明図である。
図9図9は、別の従来技術による真空装置におけるスローラフ機構の説明図である。
図10図10は、更に別の従来技術による排気装置の説明図である。
図11図11は、特許文献4に記載のクライオモジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の真空排気方法及び装置を実施するための形態を、図面と表を参照しながら詳細に説明する。
【0038】
本発明は、加速器に用いる超伝導加速空洞の組立時など、容器を高真空状態にするための真空作業において、スローな排気とパージを行い、ダストの巻き上げを起こさず空洞への混入をなくすための方法及び装置である。装置の概要とともにどのようにダストの混入の回避を実現するのかという方法について述べる。その後に、本装置を用いた真空排気時およびパージ時のゴミ混入の試験結果を説明し、本装置を用いてスローパージを行う際のディフューザの必要性について付記する。最後に、本装置による自動制御と操作画面について説明する。
【0039】
<1.装置の構成と排気及びパージの方法>
図1は、本発明の一実施形態に係る真空排気装置1を用いて、超伝導加速空洞(容器2)の真空排気を行っている様子を示す外観写真図である。容器2の排気ポート2aには、真空排気装置1の親流路F0が、バルブを介したフランジにより接続されている。真空排気装置1は、第2の流路を流れる気体の質量流量を制御するための流量調整器3と、排気手段4を有する。
【0040】
図2は、スローな真空排気を行うための、本発明の一実施形態に係る真空排気装置1の構成を簡略化して示した説明図である。真空排気装置1は、排気ポート2aを備えた容器2に接続され、容器2の内部を真空状態とするための装置であり、排気ポート2aにその一端が接続される親流路F0と、親流路F0の他端を分岐して、並列に設けられる第1の流路F1及び第2の流路F2と、第1の流路F1及び第2の流路F2を合流して接続される排気手段4と、親流路F0の内部の圧力を計測するための圧力計測手段6と、を有し、第1の流路F1は、第1の開閉弁V1を有し、第2の流路F2は、第2の開閉弁V2と流量調整器3を直列に有し、第1の開閉弁V1、第2の開閉弁V2、流量調整器3及び排気手段4の制御を行う制御機構5を備え、制御機構5は、圧力計測手段6により計測される計測圧力が低真空状態の所定の圧力となるまでの間、第1の開閉弁V1を閉鎖状態に第2の開閉弁V2を開放状態に保って、第2の流路F2を流れる気体の流量を流量調整器3を用いて調整し、前記計測圧力が低真空状態の所定の圧力になった後、第2の開閉弁V2を閉じて第1の開閉弁V1を開くことで、容器2の内部が高真空状態となるように前記制御を行うように構成されていることを特徴とする装置である。
圧力計測手段6としては、例えば、大気圧から超高真空(10-7Pa程度)まで測定が可能なクリスタルイオンゲージや、大気圧から高真空(10-3Pa程度)まで測定が可能なキャパシタンスゲージやピラニゲージなどを用いることができる。
【0041】
本実施形態の真空排気装置1は、親流路F0の内部を浮遊するダストの量を粒子径別にリアルタイムで計測するためのダスト量計測手段7を有し、制御機構5は、ダスト量計測手段7により計測される、粒子径が所定の粒子径以上であるダストの量が、常に検出限界未満であるように前記制御を行う。ダスト量計測手段7としては、例えば真空パーティクルモニタ(ISPM-I-ICF, (株)ウィックス)を用いることができる。この真空パーティクルモニタは、5cm3程度の体積領域にレーザー光を当てて、レーザー光散乱方式により浮遊するダストの量を計測し、真空中でパーティクルの測定が可能であり、0.3μm以上の直径(パーティクルサイズ)のダスト量の測定を、粒子径により複数の区分に分けて行うことが可能である。対応粒子速度は4m/s以下であり、反応時間は1s未満である。
【0042】
図3は、スローな真空排気及びスローなパージを行うための、本発明の一実施形態に係る真空排気装置1の構成図である。スローな真空排気を行うための構成については、図2に示した実施形態と共通点が多いから、相違点を中心に説明する。排気手段4は、スクロールポンプ4bとターボ分子ポンプ4aからなり、これらと超伝導加速空洞(容器2)までは、親流路F0及び第1の流路F1に沿って、直径40mm(φ40)のステンレス鋼材(SUS)のパイプでつながれており、最終的にはこのラインで、絶対圧で10-5Pa程度の高真空を確保する。真空度は、クリスタルイオンゲージ6で測定する。この装置の要は、流量調整器3を有するスロー排気用のバイパスライン(第2の流路F2)と、流量調整器31を有するスローパージ用のライン(第3の流路F3)である。2つの流量調整器3、31としては、例えばマスフローコントローラであるFCS(Flow Control System; FCS-T1000F、 (株)フジキン)を用いることができる。このFCSは、60SLMの0.5%~100%の範囲で質量流量を設定流量に対して±1%以内に制御でき、応答性は2%~100%の範囲で1秒以内、0.5%~2%の範囲では10秒以内である。真空排気とパージの際に空洞内にダストが移動するかどう
かは、親流路F0に設けたダスト量計測手段7又は/及びダスト量計測手段71で測定する。ダスト量計測手段7、71としては、上記の真空パーティクルモニターを用いることができる。排気対象である超伝導加速空洞(容器2)と、本装置1の親流路F0とは、ダスト量計測手段7の先にあるバルブを介したフランジ(排気ポート2a)で接続を行う。スクロールポンプ4bとしては、例えばドライ真空ポンプ(NeoDry15E, 樫山工業(株))を用いることができる。このドライ真空ポンプは、排気速度250L/min,到達真空度1.0Paである。ターボ分子ポンプ4aとしては、例えばTMP(TMP-B300, (株)島津製作所)を用いることができる。このTMPは、排気速度が220~280L/s,到達圧力が10-6Paのオーダー(ベーキング後は10-8Paのオーダー)である。
【0043】
スロー排気の際は、親流路F0及び第1の流路F1の一部のバルブ(図3の開閉弁V4,V3,V1)を閉め、開閉弁V5,V2を開けて、V2下流の流量調整器3を通るライン(第2の流路F2、直径3/8インチ(9.525mm))にバイパスし、排気量を流量調整器でコントロールすることでスローな真空排気を実現する。特に、クリスタルイオンゲージ(圧力計測手段6)により測定された計測圧力が、低真空状態の所定の圧力(例えば100Pa)以下となった場合には、開閉弁V1をゆっくり開き、V2をゆっくり閉じることで、φ40(直径40mm)の配管のライン(第1の流路F1)による通常排気に切り替え、高真空までの真空排気を実現する。
【0044】
スローパージの際は、粗排気ラインの一部のバルブ(図3の開閉弁V5,V2,V1)を閉じ、開閉弁V4,V3を開けて、開閉弁V3の上流にある第2の流量調整器31を通るライン(第3の流路F3、直径1/4インチ(6.35mm))から窒素等のパージガスを流し、スローパージを実現する。さらに、図3にあるようにパージガスをディフューザ81bに通した後に、もう一度バイパスラインに通してディフューザ81aを通過させることで、パージ中のダスト混入を回避する。
【0045】
本実施形態に係る真空排気装置1は、第1の流路F1と第2の流路F2が合流する親流路F0の領域に、当該領域の気体の圧力を計測するためのイオンゲージ61、分圧を読み取るための四重極質量分析計9、及び/又は、当該領域に浮遊するダストの量を計測するための第2のダスト量計測手段71を有してもよい。
【0046】
<2.ダスト混入回避実験の結果(設定流量が一定の場合)>
スロー排気時及びスローパージ時にダストの混入がないかを確かめるために、図3に示した本発明の一実施形態に係る真空排気装置1に、実際に、超伝導加速空洞(容器2)を接続し、この空洞の真空引きおよびパージの実験を行った。空洞の内容積は約30Lである。空洞にダストが入るかどうかを監視するために、本装置1の、空洞の手前に真空パーティクルモニタ(ダスト量計測手段7)を設けており、スロー排気時及びスローパージ時のダストパーティクルの動きが測定可能である。なお、ここで用いている超伝導加速空洞(ERLの9cell空洞)はすでに空洞内面に超純水による洗浄が行われ、その後、ISO class 4のクリーンルーム内で乾燥し、縦測定で空洞性能が確認済みのもので、内面はクリーンな環境を維持している。また、空洞と真空排気装置1の接続は、ISO class 4のクリーンルーム内で行われ、接続に際しても、空洞外面、接続用のベローズの内面、そしてネジを取り外した際のフランジの穴などすべてにイオンガンにて、粒径0.3μmレベルのパーティクルが検出されなくなるまでblowするなど、システム内にダストが入らないように作業を行い、接続を行った。測定も、ISO class 4のクリーンルーム内で行っている。もちろん、真空排気装置1内部の清浄度も、接続前に検査して確認済である。
【0047】
図4が、上記のスロー排気およびスローパージの実験を行った際の、ダスト量計測等の
結果である。図(4A)は、クリスタルイオンゲージ6が示す気体の圧力(絶対圧)P、及び流量調節器3における流量の測定結果を示すグラフ図であり、図(4B)は、ダスト量計測手段7におけるダスト量の測定結果を上記の絶対圧とともに示すグラフ図である。本実験では、流量が0.2L/minで一定のスローなパージを実現している(図(4A)の曲線Fsp)。またスロー排気も0.6L/minでほぼ一定に制御されていることがわかる(図(4A)の曲線Fsv)。図(4B)は同時刻のでのダスト量の測定結果を示している。スローパージ及びスロー排気中でこの流量コントロール下では空洞への塵埃の混入が見られないことがわかった。すなわち、本装置を用いて、超伝導加速空洞への塵埃の混入を防止できていることがわかる。
【0048】
図(4B)では、スロー排気時に100Pa以下になった時点でスロー排気から通常排気に切り替えて、真空排気を行って、その後、10-2Pa以下まで到達していることがわかる。本実験ではその後、更に真空を引き続け、10-5Paまでの高真空を実現した。なお、このスロー排気時から通常排気への切り替えに際し、塵埃の混入がない結果が図(4B)のように見られているが、これは後述するように、バルブの開閉速度を制御して、バルブをスローに開閉することで実現している。
【0049】
図3に示す真空パーティクルモニタ(ダスト量計測手段7)は、レーザー光散乱方式により浮遊するダストの量を計測し、真空中でパーティクルの測定が可能であり、0.3μm~3.6μmの範囲の直径(パーティクルサイズ)を有するダストパーティクルの量を粒子径別に計測することが可能である。本実験では、0.3~0.5μm, 0.5~1.0μm, 1.0~2.0μm, 2.0~3.0μm, 3.0~3.6μm, 3.6μm以上, の6つの粒子径範囲別に、ダスト量を計測し、いずれの粒子径範囲においても浮遊するダストパーティクルは検出されなかった。
【0050】
<3.ダスト混入回避実験の結果(設定流量が変化する場合)>
次に、流量を変化させながら、図4と同様にしてスローパージ及びスロー排気の実験を行った。図(5A)及び図(5B)がその結果である。0.15L/minの流量からスタートし、1分が経過するごとに0.15L/minずつ流量調節器7の設定流量を不連続に増やして流量をコントロールし、スローパージを行った(図(5A)の曲線Fsp)。絶対圧Pが大気圧近くになり、2.70L/minの流量を流していたが、そのときにも空洞へのパーティクルの混入はなかった。また、図示は省略するが、0.2L/minの流量からスタートし、1分が経過するごとに0.2L/minずつ流量調節器7の設定流量を不連続に増やしてスローパージを行った場合にも、絶対圧が大気圧近くになっても空洞へのパーティクルの混入はなかった。これらにより、本装置を用いれば、20分程度の所要時間で、ダストの混入なく、大気圧に到達可能なスローパージの運転ができることがわかった。
次に、上記のスローパージの後、3.0L/minの流量から始めて、1分が経過するごとに3.0L/minずつ流量調節器7の設定流量を不連続に増やして流量をコントロールし、スロー排気を行った(図(5A)の曲線Fsv)。スロー排気の開始から3分程度で流量が少なくなり、あとは流量が少ないままま、スロー排気を行うこととなったが、この時にもダストが空洞へ入ることはなかった。このままスロー排気を続けて、スロー排気の開始から45分後に絶対圧が約100Pa程度になったため、スロー排気のライン(第2の流路F2)から通常排気のライン(第1の流路F1)への切替を行った。こうすることでコンダクタンスを稼ぎ、より高真空に到達することができる。この切替は、単にV1を開放することで行うことができるが、余分な流れを作らない観点から、本実施形態では、まずバルブV2を閉め、その後、V1を開けることにより行う。このバルブの操作中に、図(5B)の曲線Dに示すように、粒子径0.3~0.5μmのダストパーティクルのカウントが見られた。0.5μm以上の粒子径範囲のダストパーティクルは検出されなかった。このバルブV2の閉鎖動作とV1の開放動作の所要時間は、いずれも0.1秒程
度の短い時間であった。
【0051】
<4.バルブの開閉速度とダスト量の関係(スロー排気時)>
バルブの操作時に浮遊するダストパーティクルが検出されたため、スロー排気時、及びスローパージ時に、流路を切り替える際、主に操作するバルブの開閉速度を変えたときに、ダスト量検出手段7で検出されるダストパーティクルの量がどう変わるかを実験で調べた。バルブの開度は、弁体の変位を制御する制御電圧をゆっくりと変化させてコントロールした。開閉速度が「遅い」場合には、1分以上の開閉時間をかけてバルブをゆっくりとopenし、若しくは、closeした。開閉速度が「普通」の場合には、10秒程度の開閉時間でバルブをopen若しくはcloseした。開閉速度が「速い」場合には、5秒程度の開閉時間でバルブをopen若しくはcloseした。
スロー排気時には、真空時の図3のバルブV1について測定を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
V1をopenする前にはV2をcloseした状態で測定した。また、V1をcloseする前にはV2をopenした状態で測定した。ダストパーティクルは、開閉速度が「速い」場合で、かつ、粒子径0.3~0.5μmの範囲のみ検出され、最大32カウントも見られた。開閉速度が「遅い」場合と「普通」の場合には、ダストパーティクルは検出されなかった。バルブは、V2はニードルバルブであり、V2のopen/close時には、開閉速度によらず、ダストパーティクルは検出されなかった。V1はゲートバルブであり、上記の通り、V1のopen/close時には、開閉速度が「速い」場合に、ダストパーティクルがカウントされた。スロー排気時には、ダストの混入を防止するために、バルブの開閉速度を「遅い」又は「普通」とすることが必要であり、より好ましくは、「遅い」開閉速度を用いることが望ましい。
【0054】
<5.バルブの開閉速度とダスト量の関係(スローパージ時)>
同様にして、スローパージ時には、大気圧時および真空時の、図3のバルブV4及びV5について開閉速度を変えてダスト量の測定を行った。その結果を表2及び表3に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、パージ時の、大気圧におけるバルブV4,V5の開閉動作では、開閉速度が「速い」場合で100個程度、「普通」の場合で10個程度のダストパーティクルがカウントされたが、「遅い」場合にはダストパーティクルが検出されなかった。ダストパーティクルは、粒子径0.3~0.5μmの範囲のみ検出された。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示すように、パージ時の、真空状態におけるバルブV4,V5の開閉動作では、開閉速度が「遅い」場合と「普通」の場合にはダストパーティクルが検出されなかったが、「速い」場合には検出された。ダストパーティクルは、粒子径0.3~0.5μmの範囲のみ検出された。表3に示す真空状態のほうが、表2に示す大気圧状態より、ダストパーティクルが検出されにくいことがわかる。また、真空状態でも大気圧状態でも、開閉速度が「遅い」場合には、ダストパーティクルが検出されなかった。
【0059】
バルブは、V4はアングルバルブ、V5はゲートバルブであり、これらのopen/close時にはいずれも、開閉速度が「速い」場合に、ダストパーティクルがカウントされた。スローパージ時には、ダストの混入を防止するために、バルブの開閉速度を「遅い」又は「普通」とすることが必要であり、より好ましくは、「遅い」開閉速度を用いることが望ましい。
【0060】
<6.スローパージの際のディフューザの必要性>
図6は、前記の真空パーティクルモニタの性能テストの際に計測されたダスト量の測定結果を示すグラフ図である。性能テストにおいては、内容積約30Lの内表面及び外表面を清浄に保った金属容器とN2ボンベを直接、フィルターを通さずにステンレス管で接続し、ステンレス管に真空パーティクルモニタを設け、該金属容器内及びステンレス管の内部を真空に引いてから、N2ボンベの開閉弁をopenして110秒間パージを行い、該開閉弁をcloseした。図6に示すように、粒子径0.25μm以上のパーティクルの合計数として、毎秒50個以上のカウントが見られている。特に、このパーティクルのカウントが4時間以上も続いていることがわかり、パージ時にダストが混入し、なおかつそれをずっと巻き上げ続けている様子がここではわかる。ダストパーティクルをパージ時(及び真空排気時)に巻き上げないような、スローなバージ(及び真空排気)の必要性はここからきている。なお、本真空排気装置において、パージライン(第3の流路)に2つのディフューザを設けたのは、スローパージ時のダストパーティクルの巻き上げ、浮遊、及
び容器への混入を可能な限り減らすためである。
【0061】
<7.本真空排気装置による自動制御と操作画面>
本発明の一実施形態に係る真空排気装置は、内容積が約30Lである超伝導加速空洞を8個直列に接続してなる容器(内容積が約240L)を自動制御でスロー排気及びスローパージするための装置であり、12インチのタッチパネルを有する。該タッチバネルに表示される画面は主に、メニュー画面、自動制御画面、手動制御画面、スロー排気流量設定画面、スローパージ流量設定画面、メンテナンス画面、流量制御情報画面、アラームログ画面の8画面から構成される。メニュー画面上に表示された7つのボタンのいずれかにタッチすることにより、他の7つの画面へと移行することができる。
【0062】
自動制御画面の例を図(7A)に示した。原則として本装置では、安全のため操作スイッチボタンを押しながら、画面に表示された各ボタンを押すことにより、対応する機器の操作ができるのであるが、自動制御画面では、四重極質量分析計につながるバルブV8以外の機器を個別に操作することはできない。メニューボタンを押すと、メニュー画面に移行する。ゲージウィンドウは、各真空計(クリスタルイオンゲージIG、キャパシタンスゲージCG、ピラニゲージPG)の計測圧力を表示する。一般にクリスタルイオンゲージIGは高真空領域を、キャパシタンスゲージCGは中真空領域から低真空領域を、ピラニゲージPGは低真空領域以上の領域を計測する。MFCウィンドウは、各流量調整器(MFC、MFC2)の計測流量を示す。流量制御ウィンドウには、各制御の開始ボタンが表示されている。各制御は、対応するI/Lランプが点灯している場合にのみ、開始することが可能である。スロー排気の制御は、I/Lランプが点灯していればスロー排気開始ボタンを押すことにより開始され、制御中は緑点滅し、制御完了時は緑点灯となる。メイン排気(通常排気)の制御は、I/Lランプが点灯していればメイン排気開始ボタンを押すことにより開始され、制御中は緑点滅し、制御完了時は緑点灯となる。スローパージの制御は、I/Lランプが点灯していればスローパージ開始ボタンを押すことにより開始され、制御中は緑点滅し、制御完了時は緑点灯となる。
【0063】
なお、スロー排気の制御は、容器内が大気圧状態から始めて絶対圧が100Pa程度となるまで4~7時間かけてスロー排気を行うことを目的とする。また、メイン排気(通常排気)の制御は、スロー排気により容器内が100Pa程度の絶対圧に達すると自動的に若しくは手動で開始され、制御排気ラインから通常排気ラインに切り替えて、10-5Pa程度の絶対圧の高真空状態となるまで真空排気することを目的とする。また、スローパージの制御は、容器内の真空を破ってメンテナンスに入りたいときに開始され、10-5Pa程度の絶対圧の高真空状態から始めて大気圧状態となるまで、7時間程度をかけてパージガスを供給することを目的とする。
【0064】
メニュー画面には、流路が表示され、流路上に各機器の表示ランプが配置されている。DP(ドライポンプ)については、ON指示時はDPランプが緑点灯し、運転中はRランプが緑点灯し、トリップ(アラーム)時は、Tランプが赤点灯する。TMP(ターボ分子ポンプ)については、ON指示時は、TMPランプが緑点灯し、定常運転中はNランプが緑点灯し、加速中はAランプが黄点滅し、減速中はDランプが橙点滅し、異常時はFランプが赤点灯する。V1~V8(バルブ)については、OPEN指示時はVランプが緑点灯し、OPEN信号受信時はOランプが緑点灯し、CLOSE信号受信時はCランプが黄色点灯し、OPEN、CLOSE信号をどちらも受信していない場合はOランプ、Cランプともに点滅する。PG、IG、CG(真空計)については、セットポイントL(LOW)ON時はLランプが緑点灯し、セットポイントH(HIGH)ON時はHランプが黄色点灯する。MFC、MFC2(マスフローコントローラ)については、流量制御中は緑点灯する。各機器の接続パイプについては、真空排気中は、機器を接続しているパイプ図は緑になり、パージガス導入時は、機器を接続しているパイプ図は黄色になる。真空排気とパ
ージガス導入が同時に行われている場合は、パージ優先で黄色になる。なお、本実施形態におけるバルブの符号V1~V8は、図3に示した実施形態におけるものとは一致していないので注意されたい。
【0065】
手動制御画面は、図(7A)に示した自動制御画面と、メニューボタンとゲージウィンドウは共通である。各機器の表示ランプも共通であるが、MFCウィンドウは少し異なる。手動制御画面は、MFC・MFC2ウィンドウを有し、MFCとMFC2のそれぞれについて、PV欄とSV欄を有し、PV欄は現在流量を表示し、
SV欄は数値表示部をタッチすると、流量設定画面が開く。設定変更後すぐに、設定流量が反映される。設定範囲は、MFCが0.0~60SLMであり、MFC2が0.0~3.0SLMである。各機器を操作したい場合には、安全のため操作スイッチボタンを押しながら、操作したいDP、TMP、V1~V8ボタンのいずれかを押す。機器のON時は緑点灯に、OFF時はグレー表示になる。
【0066】
自動制御画面又は手動制御画面において、安全のため操作スイッチを押しながら、操作したいバルブのボタンを押すと、当該バルブのバルブ操作設定画面がポップアップする。バルブ操作設定画面には、当該バルブをopen/closeするためのopen/closeボタンに加えて、当該バルブのデフォルトの開閉時間を設定するための開閉時間設定欄が表示される。ここで設定されたデフォルトの開閉時間は例えば、スロー排気又はスローパージの自動制御時に、流路を切り替える際、自動的にopen/closeされる当該バルブの開閉速度に反映される。
【0067】
スロー排気流量設定画面の例を図(7B)に示す。セクションの数については、数値表示部をタッチして、例えば1~10の範囲で設定する。設定したセクションの数が黄色表示になる。Section SV(SLM)(セクション別設定値)については、各セクションの数値表示部をタッチして、0.0~60.0SLMの範囲でMFCの流量を設定する。なお、先頭の黄色表示流量をタッチすると、開始流量を設定できる。継続時間については、各セクションの設定した流量の、継続時間を設定する。最大で99時間59分59秒の設定が可能である。合計時間欄には、各セクションの継続時間の合計時間が表示される。
スローパージ流量設定画面は、図(7B)に示したスロー排気流量設定画面とほぼ共通であり、MFC2の流量設定を行うことができる。
【0068】
【表4】
【0069】
表4は、本実施形態におけるスロー排気制御のフロー表である。スロー排気制御をスタート可能な条件は、(1)DP, TMPにアラームが発生していないこと、及び、(2
)CGとIGの圧力が同条件であること(大気圧と大気圧、又は、真空と真空)、である。ステップSV5で起動するDPは、大気圧から数Pa(絶対圧)まで真空を引く能力を有する。ステップSV7では、IGによる計測圧力が所定の圧力(例えば100Pa(絶対圧))になったらTMPを自動起動する。
【0070】
エラー発生時には、V2、V3、V7をcloseし、MFC及びMFC2の流量を0に設定し、他の機器は現状を維持する処理を行う。このエラー発生時の処理は、上記のスロー排気制御だけでなく、次に述べるメイン排気制御とスローパージ制御においても行われ、これらの制御に共通である。
【0071】
【表5】
【0072】
表5は、本実施形態におけるメイン排気(通常排気)制御のフロー表である。メイン排気制御をスタート可能な条件は、(1)圧力が所定の圧力(例えば100Pa(絶対圧))に達してスロー排気が完了していること、(2)CGとIGがいずれも真空であること、及び、(3)DPがrun、TMPがnormalであること、である。
【0073】
【表6】
【0074】
表6は、本実施形態におけるスローパージ制御のフロー表である。スローパージ制御においては、空洞内にパージガス(N2)を供給するとともに、好ましくはTMPに背面か
らパージガスを供給する。スローパージ制御をスタート可能な条件は、(1)各バルブにアラームが発生していないこと、である。
【0075】
本発明の真空排気方法及び装置では、マスフローコントローラにより質量流量をコントロールしながら、スロー排気及び/又はスローパージを行うことで、塵埃を浮遊させず容器への混入を防ぐから、超伝導加速空洞等の容器内をクリーンな環境に保ち、真空空間を形成することが可能である。また、制御排気ラインと通常排気ラインの切替時のバルブの開閉動作もスローに行うことで、塵埃の浮遊を完全に抑制しつつ、高真空まで到達することが可能な真空排気方法及び装置を実現している。更に、これらをシステム化し、質量流量のコントロールやバルブの開閉操作等をすべてを自動で行うことで、熟練者による作業を不要とし、人的ミスによるバルブコントロールミスを回避し、誰でもクリーンな環境を保持した真空排気及びパージを行うことができる。
【0076】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更、別の実施例などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、空間内を排気して真空空間を形成する際に、空間内に残存する塵埃が浮遊することのないように排気を行う方法及び装置の発明である。本発明は、加速器の超伝導加速空洞の排気に応用できる。超伝導加速空洞は、産業上の利用が待望される、エネルギー回収型ライナック(ERL)等の放射光源用加速器といった、次世代加速器の重要な構成要素である。また、本発明の方法及び装置は、加速器用の超伝導加速空洞にとどまらず、より一般に、半導体製造工程等で利用される任意の真空空間を形成する際に、空間内に残存するダストが浮遊することのないように排気を行う際にも利用できる。本発明の方法及び装置は、産業上の幅広い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0078】
1 真空排気装置 2 容器
2a 排気ポート 3 流量調整器
31 第2の流量調整器 4 排気手段
5 制御機構 6 圧力計測手段
7 ダスト量計測手段 71 第2のダスト量計測手段
8 パージガス供給手段 81 ディフューザ
9 四重極質量分析計 V1 第1の開閉弁
V2 第2の開閉弁
F0 親流路 F1 第1の流路
F2 第2の流路 F3 第3の流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11