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特許7362052難燃性マグネシウム合金及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】難燃性マグネシウム合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20231010BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20231010BHJP
   C22C 23/06 20060101ALI20231010BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20231010BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20231010BHJP
   B22D 27/04 20060101ALI20231010BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231010BHJP
【FI】
C22C1/02 503L
C22C23/02
C22C23/06
C22F1/06
B22D21/04 B
B22D27/04 G
C22F1/00 611
C22F1/00 612
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 683
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019035261
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2019151925
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018035155
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】井上 晋一
(72)【発明者】
【氏名】河村 能人
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157653(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/000575(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012602(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/171548(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/036033(WO,A1)
【文献】特開2010-248610(JP,A)
【文献】特開2003-113436(JP,A)
【文献】特開2003-129157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/02
C22C 23/00
C22F 1/06
B22D 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下のYbを含有させた難燃性マグネシウム合金を溶解する工程を含み、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有し、
前記Mg合金は、Caをx原子%含有し、Alをy原子%含有し、残部がMgからなる組成を有し、
aとbが下記(式31)~(式33)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(式31)3≦x≦7
(式32)4.5≦y≦12
(式33)1.2≦y/x≦3.0
【請求項2】
請求項において、
前記Mg合金にZnをx1原子%含有し、x1が下記(式34)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(式34)0<x1≦3
【請求項3】
請求項1または2において、
前記Mg合金にMn、Zr、Si、Sc、Sn、Ag、Cu、Li、Be、Mo、Nb、W、及び希土類元素の群から選択された少なくとも一つの元素をx2原子%含有し、x2が下記(式35)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(式35)0<x2≦0.3
【請求項4】
Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下のYbを含有させた難燃性マグネシウム合金を溶解する工程を含み、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有し、
前記Mg合金は、下記(A)~(F)のいずれかの合金であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(A)Mg-Al-Mn合金であり、Alの含有量をe原子%、Mnの含有量をf原子%とすると、下記(式7)及び(式8)を満たす。
(式7)2.7≦e≦9.2
(式8)0.02≦f≦0.07
(B)Mg-Al-Mn-Ca合金であり、Alの含有量をg原子%、Mnの含有量をh原子%、Caの含有量をi原子%とすると、下記(式9)~(式11)を満たす。
(式9)2.7≦g≦9.2
(式10)0.02≦h≦0.07
(式11)0.4≦i≦1.6
(C)Mg-Al-Zn合金であり、Alの含有量をj原子%、Znの含有量をk原子%とすると、下記(式12)及び(式13)を満たす。
(式12)2.7≦j≦8.4
(式13)0.3≦k≦1.2
(D)Mg-Al-Zn-Ca合金であり、Alの含有量をl原子%、Znの含有量をm原子%、Caの含有量をn原子%とすると、下記(式14)~(式16)を満たす。
(式14)2.7≦l≦8.5
(式15)0.3≦m≦1.2
(式16)0.4≦n≦1.6
(E)Mg-Nd-Y合金であり、Ndの含有量をo原子%、Yの含有量をp原子%とすると、下記(式17)及び(式18)を満たす。
(式17)0.3≦o≦0.7
(式18)0.7≦p≦1.4
(F)Mg-Al-RE合金であり、Alの含有量をq原子%、REの含有量をr原子%とすると、下記(式19)及び(式20)を満たす。
(式19)2.2≦q≦4.2
(式20)0.2≦r≦0.9
【請求項5】
Mg合金に3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させた難燃性マグネシウム合金を溶解する工程を含み、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有し、
前記Mg合金は、下記(A)~(F)のいずれかの合金であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(A)Mg-Al-Mn合金であり、Alの含有量をe原子%、Mnの含有量をf原子%とすると、下記(式7)及び(式8)を満たす。
(式7)2.7≦e≦9.2
(式8)0.02≦f≦0.0
C)Mg-Al-Zn合金であり、Alの含有量をj原子%、Znの含有量をk原子%とすると、下記(式12)及び(式13)を満たす。
(式12)2.7≦j≦8.4
(式13)0.3≦k≦1.2
(D)Mg-Al-Zn-Ca合金であり、Alの含有量をl原子%、Znの含有量をm原子%、Caの含有量をn原子%とすると、下記(式14)~(式16)を満たす。
(式14)2.7≦l≦8.5
(式15)0.3≦m≦1.2
(式16)0.4≦n≦1.6
(E)Mg-Nd-Y合金であり、Ndの含有量をo原子%、Yの含有量をp原子%とすると、下記(式17)及び(式18)を満たす。
(式17)0.3≦o≦0.7
(式18)0.7≦p≦1.4
(F)Mg-Al-RE合金であり、Alの含有量をq原子%、REの含有量をr原子%とすると、下記(式19)及び(式20)を満たす。
(式19)2.2≦q≦4.2
(式20)0.2≦r≦0.9
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項において、
前記Mg合金を溶解した後に、溶解したMg合金を鋳造することを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項7】
請求項において、
前記Mg合金を鋳造する際の冷却速度は1000K/秒以下であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項8】
請求項またはにおいて、
前記鋳造した後のMg合金の酸化皮膜が、Yb及びBeを含有しないMg合金の酸化皮膜より薄いことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項9】
請求項乃至のいずれか一項において、
前記鋳造した後のMg合金の内部酸化物の量が、Yb及びBeを含有しないMg合金の内部酸化物の量より少ないことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項10】
Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下のYbを含有させた難燃性マグネシウム合金であり、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有し、
前記Mg合金は、Caをx原子%含有し、Alをy原子%含有し、残部がMgからなる組成を有し、
aとbが下記(式31)~(式33)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(式31)3≦x≦7
(式32)4.5≦y≦12
(式33)1.2≦y/x≦3.0
【請求項11】
請求項10において、
前記Mg合金にZnをx1原子%含有し、x1が下記(式34)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(式34)0<x1≦3
【請求項12】
請求項10または11において、
前記Mg合金にMn、Zr、Si、Sc、Sn、Ag、Cu、Li、Be、Mo、Nb、W、及び希土類元素の群から選択された少なくとも一つの元素をx2原子%含有し、x2が下記(式35)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(式35)0<x2≦0.3
【請求項13】
Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下のYbを含有させた難燃性マグネシウム合金であり、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有し、
前記Mg合金は、下記(A)~(G)のいずれかの合金であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(A)Mg-Al-Mn合金であり、Alの含有量をe原子%、Mnの含有量をf原子%とすると、下記(式7)及び(式8)を満たす。
(式7)2.7≦e≦9.2
(式8)0.02≦f≦0.07
(B)Mg-Al-Mn-Ca合金であり、Alの含有量をg原子%、Mnの含有量をh原子%、Caの含有量をi原子%とすると、下記(式9)~(式11)を満たす。
(式9)2.7≦g≦9.2
(式10)0.02≦h≦0.07
(式11)0.4≦i≦1.6
(C)Mg-Al-Zn合金であり、Alの含有量をj原子%、Znの含有量をk原子%とすると、下記(式12)及び(式13)を満たす。
(式12)2.7≦j≦8.4
(式13)0.3≦k≦1.2
(D)Mg-Al-Zn-Ca合金であり、Alの含有量をl原子%、Znの含有量をm原子%、Caの含有量をn原子%とすると、下記(式14)~(式16)を満たす。
(式14)2.7≦l≦8.5
(式15)0.3≦m≦1.2
(式16)0.4≦n≦1.6
(E)Mg-Nd-Y合金であり、Ndの含有量をo原子%、Yの含有量をp原子%とすると、下記(式17)及び(式18)を満たす。
(式17)0.3≦o≦0.7
(式18)0.7≦p≦1.4
(F)Mg-Al-RE合金であり、Alの含有量をq原子%、REの含有量をr原子%とすると、下記(式19)及び(式20)を満たす。
(式19)2.2≦q≦4.2
(式20)0.2≦r≦0.9
【請求項14】
Mg合金に3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させた難燃性マグネシウム合金であり、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有し、
前記Mg合金は、下記(A)~(G)のいずれかの合金であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(A)Mg-Al-Mn合金であり、Alの含有量をe原子%、Mnの含有量をf原子%とすると、下記(式7)及び(式8)を満たす。
(式7)2.7≦e≦9.2
(式8)0.02≦f≦0.0
C)Mg-Al-Zn合金であり、Alの含有量をj原子%、Znの含有量をk原子%とすると、下記(式12)及び(式13)を満たす。
(式12)2.7≦j≦8.4
(式13)0.3≦k≦1.2
(D)Mg-Al-Zn-Ca合金であり、Alの含有量をl原子%、Znの含有量をm原子%、Caの含有量をn原子%とすると、下記(式14)~(式16)を満たす。
(式14)2.7≦l≦8.5
(式15)0.3≦m≦1.2
(式16)0.4≦n≦1.6
(E)Mg-Nd-Y合金であり、Ndの含有量をo原子%、Yの含有量をp原子%とすると、下記(式17)及び(式18)を満たす。
(式17)0.3≦o≦0.7
(式18)0.7≦p≦1.4
(F)Mg-Al-RE合金であり、Alの含有量をq原子%、REの含有量をr原子%とすると、下記(式19)及び(式20)を満たす。
(式19)2.2≦q≦4.2
(式20)0.2≦r≦0.9
【請求項15】
請求項13または14において、
前記Mg合金を溶解して鋳造した場合、その鋳造したMg合金の酸化皮膜が、Yb及びBeを含有しないMg合金の酸化皮膜より薄いことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【請求項16】
請求項13乃至15のいずれか一項において、
前記Mg合金を溶解して鋳造した場合、その鋳造したMg合金の内部酸化物の量が、Yb及びBeを含有しないMg合金の内部酸化物の量より少ないことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【請求項17】
請求項13乃至16のいずれか一項において、
前記Mg合金は鋳造物であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性マグネシウム合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、高い比強度を有するために輸送機器軽量化のキーテクノロジーとして期待されている。しかしながら、マグネシウム合金は高温で簡単に発火してしまうことが知られている。安全に鋳造・溶解作業を行うことや、航空機などの輸送機器に使用する上での安全性向上のために難燃性を有したマグネシウム合金の開発が以前より進められて来た。これに関連する技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
従来の難燃性マグネシウム合金はCaやYの元素を添加して、マグネシウム合金表面に酸化皮膜を形成させることによって、マグネシウム合金の発火点を向上させてきた。しかし、従来の難燃性マグネシウム合金には以下の課題が存在する。
【0004】
Caは1原子%以上の添加により優れた難燃性を示すが、金属間化合物の形成によってマグネシウム合金の脆化を招く恐れがある。また、Yも微量添加で合金表面に酸化皮膜を形成して、難燃性を発現するが、合金の溶解時にYの内部酸化によって溶湯汚染を引き起こす可能性がある。
【0005】
そこで、元のマグネシウム合金の性能を阻害することがなく、且つ溶解時に内部酸化を発生させず、微量添加でマグネシウム合金に難燃性を付与する元素が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2014/171550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一態様は、合金の性能を阻害しない程度の微量添加で難燃性を付与でき、且つ溶解時に内部酸化を抑制できる難燃性マグネシウム合金またはその製造方法を提供することを課題とする。また、本発明の一態様は、合金の性能を阻害しない程度の微量添加で溶解時に内部酸化を抑制できる難燃性マグネシウム合金またはその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に本発明の種々の態様について説明する。
[1]Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下(好ましくは0.1原子%以上0.6原子%以下)のYbを含有させた難燃性マグネシウム合金を溶解する工程を含み、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有することを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【0009】
[2]Mg合金に3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させた難燃性マグネシウム合金を溶解する工程を含み、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有することを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【0010】
[3]上記[1]または[2]において、
前記Mg合金は、Mg-Zn-Y合金、Mg-Zn-Gd合金、Mg-Zn-(Y-Gd)合金、Mg-Zn-Y-X-Z合金、Mg-Zn-Gd-X-Z合金、及びMg-Zn-Y-Gd-X-Z合金のいずれかであり、
前記Xは、Al、Ca及びLiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
前記Zは、希土類元素、Mn、Si、Zr、Ti、Hf、Nb、Sn、Ag、Sr、Sc、Sb、B、C及びBeからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
前記Znの含有量をa原子%、前記Yの含有量をb原子%、前記Gdの含有量をb原子%、前記Y及びGdの合計含有量をb原子%、前記Xの含有量をc原子%、前記Zの含有量をd原子%とすると、下記(式1)~(式6)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(式1)0.1≦a≦3.0
(式2)0.1≦b≦3.0
(式3)c≦3.0
(式4)d≦1.0
(式5)b≦a+2
(式6)b≧a-1
【0011】
[4]上記[1]または[2]において、
前記Mg合金は、Caをx原子%含有し、Alをy原子%含有し、残部がMgからなる組成を有し、
aとbが下記(式31)~(式33)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(式31)3≦x≦7
(式32)4.5≦y≦12
(式33)1.2≦y/x≦3.0
【0012】
[5]上記[4]において、
前記Mg合金にZnをx1原子%含有し、x1が下記(式34)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(式34)0<x1≦3
【0013】
[6]上記[4]または[5]において、
前記Mg合金にMn、Zr、Si、Sc、Sn、Ag、Cu、Li、Be、Mo、Nb、W、及び希土類元素の群から選択された少なくとも一つの元素をx2原子%含有し、x2が下記(式35)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(式35)0<x2≦0.3
【0014】
[7]上記[1]または[2]において、
前記Mg合金は、下記(A)~(F)のいずれかの合金であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
(A)Mg-Al-Mn合金であり、Alの含有量をe原子%、Mnの含有量をf原子%とすると、下記(式7)及び(式8)を満たす。
(式7)2.7≦e≦9.2
(式8)0.02≦f≦0.07
(B)Mg-Al-Mn-Ca合金であり、Alの含有量をg原子%、Mnの含有量をh原子%、Caの含有量をi原子%とすると、下記(式9)~(式11)を満たす。
(式9)2.7≦g≦9.2
(式10)0.02≦h≦0.07
(式11)0.4≦i≦1.6
(C)Mg-Al-Zn合金であり、Alの含有量をj原子%、Znの含有量をk原子%とすると、下記(式12)及び(式13)を満たす。
(式12)2.7≦j≦8.4
(式13)0.3≦k≦1.2
(D)Mg-Al-Zn-Ca合金であり、Alの含有量をl原子%、Znの含有量をm原子%、Caの含有量をn原子%とすると、下記(式14)~(式16)を満たす。
(式14)2.7≦l≦8.5
(式15)0.3≦m≦1.2
(式16)0.4≦n≦1.6
(E)Mg-Nd-Y合金であり、Ndの含有量をo原子%、Yの含有量をp原子%とすると、下記(式17)及び(式18)を満たす。
(式17)0.3≦o≦0.7
(式18)0.7≦p≦1.4
(F)Mg-Al-RE合金であり、Alの含有量をq原子%、REの含有量をr原子%とすると、下記(式19)及び(式20)を満たす。
(式19)2.2≦q≦4.2
(式20)0.2≦r≦0.9
なお、REはすべての希土類元素を含む意味である。
【0015】
[8]上記[1]において、
前記Mg合金を溶解する際は大気雰囲気中の750℃以下の温度で行われることを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【0016】
[9]上記[1]乃至[8]のいずれか一項において、
前記Mg合金を溶解した後に、溶解したMg合金を鋳造することを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【0017】
[10]上記[9]において、
前記Mg合金を鋳造する際の冷却速度は1000K/秒以下であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【0018】
[11]上記[9]または[10]において、
前記鋳造した後のMg合金の酸化皮膜が、Yb及びBeを含有しないMg合金の酸化皮膜より薄いことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【0019】
[12]上記[9]乃至[11]のいずれか一項において、
前記鋳造した後のMg合金の内部酸化物の量が、Yb及びBeを含有しないMg合金の内部酸化物の量より少ないことを特徴とする難燃性マグネシウム合金の製造方法。
【0020】
[13]Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下(好ましくは0.1原子%以上0.6原子%以下)のYbを含有させた難燃性マグネシウム合金であり、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有することを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【0021】
[14]Mg合金に3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させた難燃性マグネシウム合金であり、
前記Mg合金は85原子%以上のMgを含有することを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【0022】
[15]上記[13]または[14]において、
前記Mg合金は、Mg-Zn-Y合金、Mg-Zn-Gd合金、Mg-Zn-(Y-Gd)合金、Mg-Zn-Y-X-Z合金、Mg-Zn-Gd-X-Z合金、及びMg-Zn-Y-Gd-X-Z合金のいずれかであり、
前記Xは、Al、Ca及びLiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
前記Zは、希土類元素、Mn、Si、Zr、Ti、Hf、Nb、Sn、Ag、Sr、Sc、Sb、B、C及びBeからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
前記Znの含有量をa原子%、前記Yの含有量をb原子%、前記Gdの含有量をb原子%、前記Y及びGdの合計含有量をb原子%、前記Xの含有量をc原子%、前記Zの含有量をd原子%とすると、下記(式1)~(式6)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(式1)0.1≦a≦3.0
(式2)0.1≦b≦3.0
(式3)c≦3.0
(式4)d≦1.0
(式5)b≦a+2
(式6)b≧a-1
【0023】
[16]上記[13]または[14]において、
前記Mg合金は、Caをx原子%含有し、Alをy原子%含有し、残部がMgからなる組成を有し、
aとbが下記(式31)~(式33)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(式31)3≦x≦7
(式32)4.5≦y≦12
(式33)1.2≦y/x≦3.0
【0024】
[17]上記[16]において、
前記Mg合金にZnをx1原子%含有し、x1が下記(式34)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(式34)0<x1≦3
【0025】
[18]上記[16]または[17]において、
前記Mg合金にMn、Zr、Si、Sc、Sn、Ag、Cu、Li、Be、Mo、Nb、W、及び希土類元素の群から選択された少なくとも一つの元素をx2原子%含有し、x2が下記(式35)を満たすことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(式35)0<x2≦0.3
【0026】
[19]上記[13]または[14]において、
前記Mg合金は、下記(A)~(G)のいずれかの合金であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
(A)Mg-Al-Mn合金であり、Alの含有量をe原子%、Mnの含有量をf原子%とすると、下記(式7)及び(式8)を満たす。
(式7)2.7≦e≦9.2
(式8)0.02≦f≦0.07
(B)Mg-Al-Mn-Ca合金であり、Alの含有量をg原子%、Mnの含有量をh原子%、Caの含有量をi原子%とすると、下記(式9)~(式11)を満たす。
(式9)2.7≦g≦9.2
(式10)0.02≦h≦0.07
(式11)0.4≦i≦1.6
(C)Mg-Al-Zn合金であり、Alの含有量をj原子%、Znの含有量をk原子%とすると、下記(式12)及び(式13)を満たす。
(式12)2.7≦j≦8.4
(式13)0.3≦k≦1.2
(D)Mg-Al-Zn-Ca合金であり、Alの含有量をl原子%、Znの含有量をm原子%、Caの含有量をn原子%とすると、下記(式14)~(式16)を満たす。
(式14)2.7≦l≦8.5
(式15)0.3≦m≦1.2
(式16)0.4≦n≦1.6
(E)Mg-Nd-Y合金であり、Ndの含有量をo原子%、Yの含有量をp原子%とすると、下記(式17)及び(式18)を満たす。
(式17)0.3≦o≦0.7
(式18)0.7≦p≦1.4
(F)Mg-Al-RE合金であり、Alの含有量をq原子%、REの含有量をr原子%とすると、下記(式19)及び(式20)を満たす。
(式19)2.2≦q≦4.2
(式20)0.2≦r≦0.9
【0027】
[20]上記[13]において、
前記Mg合金は750℃以上の発火温度を有することを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【0028】
[21]上記[13]乃至[20]のいずれか一項において、
前記Mg合金を溶解して鋳造した場合、その鋳造したMg合金の酸化皮膜が、Yb及びBeを含有しないMg合金の酸化皮膜より薄いことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【0029】
[22]上記[13]乃至[21]のいずれか一項において、
前記Mg合金を溶解して鋳造した場合、その鋳造したMg合金の内部酸化物の量が、Yb及びBeを含有しないMg合金の内部酸化物の量より少ないことを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【0030】
[23]上記[13]乃至[22]のいずれか一項において、
前記Mg合金は鋳造物であることを特徴とする難燃性マグネシウム合金。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、合金の性能を阻害しない程度の微量添加で難燃性を付与でき、且つ溶解時に内部酸化を抑制できる難燃性マグネシウム合金またはその製造方法を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、合金の性能を阻害しない程度の微量添加で溶解時に内部酸化を抑制できる難燃性マグネシウム合金またはその製造方法を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】Mg99合金の発火点を測定した結果を示す図である。
図2】実施例2のMg-Yb合金及び比較例のMg-Ca合金それぞれの添加量と発火点の関係を示す図である。
図3】(A),(B)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Yb合金及びMg-1Ca合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真である。
図4】比較例のMg-Gd合金、Mg-La合金及びMg-Nd合金それぞれの添加量と発火点の関係を示す図である。
図5】(A)~(C)は、600℃の高温大気中で35分間加熱したMg-1La合金、Mg-1Gd合金及びMg-1Nd合金それぞれの表面に形成した酸化皮膜の断面写真である。
図6】比較例のMg-Dy合金、Mg-Ho合金、Mg-Y合金及びMg-Sm合金それぞれの添加量と発火点の関係を示す図である。
図7】(A)~(D)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Dy合金、Mg-1Ho合金、Mg-1Sm合金及びMg-1Y合金それぞれの表面に形成した酸化皮膜の断面写真である。
図8】比較例のMg-Pr合金、Mg-Sr合金、Mg-Ba合金、Mg-Sc合金及びMg-Ce合金それぞれの添加量と発火点の関係を示す図である。
図9】実施例3のMg-1Al-xBe合金のBe濃度と発火点の関係を示す図である。
図10】(A)~(C)は、比較例のMg-1Zn-2Y合金、実施例3aのMg-1Zn-2Y-0.1Yb合金、実施例3bのMg-1Zn-2Y-0.4Al合金+100ppmBeそれぞれの表面に形成した酸化皮膜の断面写真である。
図11】Mg97Zn合金、Mg96.923ZnAl0.07Be0.007合金などのBe添加量と発火点の関係を示す図である。
図12】Mg97Zn合金、Mg97-xZnYb合金(x=0.05,0.08,0.1)それぞれのYb添加量と発火点の関係を示す図である。
図13】比較例のMg-1Zn-2Y合金、実施例3aのMg-1Zn-2Y-0.1Yb合金及び実施例3bのMg-1Zn-2Y-0.4Al合金+100ppmBeの発火点の関係を示す図である。
図14】(A)~(C)は、比較例のMg-10Al-5Ca合金、実施例3cのMg-10Al-5Ca-0.1Yb合金、実施例3dのMg-10Al-5Ca合金+100ppmBeそれぞれの表面に形成した酸化皮膜の断面写真である。
図15】比較例のMg-10Al-5Ca合金、実施例3cのMg-10Al-5Ca-0.1Yb合金及び実施例3dのMg-10Al-5Ca合金+100ppmBeの発火点の関係を示す図である。
図16】各種の添加元素の自由エネルギー変化の温度依存性を示す図である。
図17】各種の添加元素の自由エネルギー変化の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0034】
また、以下に示す各実施の形態によるMg合金における長周期積層構造相を発生させるための組成範囲及び製造工程の条件等については、特許第3905115号、特許第3940154号、特許第4139841号に記載したとおりである。
【0035】
[第1の実施形態]
本発明の一態様に係る難燃性マグネシウム合金の製造方法について説明する。
85原子%以上のMgを含有するMg合金に、0.05原子%以上0.6原子%以下(好ましくは0.1原子%以上0.6原子%以下)のYbを含有させた合金を、大気雰囲気中で750℃以下の温度で溶解して鋳造する。この合金は、Ybを含有することにより750℃超の発火温度を有するため、大気雰囲気中で溶解しても発火することがない。つまり、Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下(好ましくは0.1原子%以上0.6原子%以下)のYbを含有させた合金の発火温度は、Ybを含有させない元のMg合金の発火温度より高くすることができる。なお、元のMg合金の組成によって発火温度は異なるが、元のMg合金の発火温度が高くても、Ybを添加することで、元のMg合金の発火温度より高くすることができる。このようにしてMg合金の鋳造物を作る。鋳造時の冷却速度は1000K/秒以下であり、より好ましくは100K/秒以下である。
【0036】
上記のMg合金は、Mg-Zn-Y合金、Mg-Zn-Gd合金、Mg-Zn-(Y-Gd)合金、Mg-Zn-Y-X-Z合金、Mg-Zn-Gd-X-Z合金、及びMg-Zn-Y-Gd-X-Z合金のいずれかを用いてもよい。
前記Xは、Al、Ca及びLiからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
前記Zは、希土類元素、Mn、Si、Zr、Ti、Hf、Nb、Sn、Ag、Sr、Sc、Sb、B、C及びBeからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。なお、希土類元素はすべての希土類元素を含む意味である。
【0037】
前記Znの含有量をa原子%、前記Yの含有量をb原子%、前記Gdの含有量をb原子%、前記Y及びGdの合計含有量をb原子%、前記Xの含有量をc原子%、前記Zの含有量をd原子%とすると、下記(式1)~(式6)を満たすとよい。
(式1)0.1≦a≦3.0
(式2)0.1≦b≦3.0
(式3)c≦3.0
(式4)d≦1.0
(式5)b≦a+2
(式6)b≧a-1
【0038】
また、上記のMg合金は、Caをx原子%含有し、Alをy原子%含有し、残部がMgからなる組成を有し、aとbが下記(式31)~(式33)を満たす合金を用いてもよい。
(式31)3≦x≦7
(式32)4.5≦y≦12
(式33)1.2≦y/x≦3.0
【0039】
また、前記Mg合金にさらにZnをx1原子%含有し、x1が下記(式34)を満たすとよい。
(式34)0<x1≦3
【0040】
また、前記Mg合金にさらにMn、Zr、Si、Sc、Sn、Ag、Cu、Li、Be、Mo、Nb、W、及び希土類元素の群から選択された少なくとも一つの元素をx2原子%含有し、x2が下記(式35)を満たすとよい。
(式35)0<x2≦0.3
【0041】
また、上記のMg合金は、下記(A)~(F)のいずれかの合金を用いてもよい。
(A)Mg-Al-Mn合金であり、Alの含有量をe原子%、Mnの含有量をf原子%とすると、下記(式7)及び(式8)を満たす。
(式7)2.7≦e≦9.2
(式8)0.02≦f≦0.07
【0042】
(B)Mg-Al-Mn-Ca合金であり、Alの含有量をg原子%、Mnの含有量をh原子%、Caの含有量をi原子%とすると、下記(式9)~(式11)を満たす。
(式9)2.7≦g≦9.2
(式10)0.02≦h≦0.07
(式11)0.4≦i≦1.6
【0043】
(C)Mg-Al-Zn合金であり、Alの含有量をj原子%、Znの含有量をk原子%とすると、下記(式12)及び(式13)を満たす。
(式12)2.7≦j≦8.4
(式13)0.3≦k≦1.2
【0044】
(D)Mg-Al-Zn-Ca合金であり、Alの含有量をl原子%、Znの含有量をm原子%、Caの含有量をn原子%とすると、下記(式14)~(式16)を満たす。
(式14)2.7≦l≦8.5
(式15)0.3≦m≦1.2
(式16)0.4≦n≦1.6
【0045】
(E)Mg-Nd-Y合金であり、Ndの含有量をo原子%、Yの含有量をp原子%とすると、下記(式17)及び(式18)を満たす。
(式17)0.3≦o≦0.7
(式18)0.7≦p≦1.4
【0046】
(F)Mg-Al-RE合金であり、Alの含有量をq原子%、REの含有量をr原子%とすると、下記(式19)及び(式20)を満たす。
(式19)2.2≦q≦4.2
(式20)0.2≦r≦0.9
【0047】
また、上記のMg合金は、その合金特性に影響を与えない程度の不純物を含有しても良い。
【0048】
上記のMg合金の鋳造物を作るプロセスとしては、種々のプロセスを用いることが可能であり、例えば、高圧鋳造、ロールキャスト、傾斜板鋳造、連続鋳造、チクソモールディング、ダイカストなどを用いることが可能である。また、Mg合金の鋳造物としてはインゴットから所定形状に切り出したものを用いてもよい。
【0049】
次いで、上記の鋳造物に均質化熱処理を施しても良い。この際の熱処理条件は、温度が400℃~550℃、処理時間が1分~1500分(又は24時間)とすることが好ましい。
【0050】
次に、前記鋳造物に塑性加工を行う。この塑性加工の方法としては、例えば押出し、ECAE(equal-channel-angular-extrusion)加工法、圧延、引抜及び鍛造、これらの繰り返し加工、FSW(friction stir welding;摩擦撹拌溶接)加工などを用いる。
【0051】
押出しによる塑性加工を行う場合は、押出し温度を250℃以上500℃以下とし、押出しによる断面減少率を5%以上とすることが好ましい。
【0052】
ECAE加工法は、試料に均一なひずみを導入するためにパス毎に試料長手方向を90°ずつ回転させる方法である。具体的には、断面形状がL字状の成形孔を形成した成形用ダイの前記成形孔に、成形用材料であるマグネシウム合金鋳造物を強制的に進入させて、特にL状成形孔の90°に曲げられた部分で前記マグネシウム合金鋳造物に応力を加えて強度及び靭性が優れた成形体を得る方法である。ECAEのパス回数としては1~8パスが好ましい。より好ましくは3~5パスである。ECAEの加工時の温度は250℃以上500℃以下が好ましい。
【0053】
圧延による塑性加工を行う場合は、圧延温度を250℃以上500℃以下とし、圧下率を5%以上とすることが好ましい。
【0054】
引抜加工による塑性加工を行う場合は、引抜加工を行う際の温度が250℃以上500℃以下、前記引抜加工の断面減少率が5%以上であることが好ましい。
鍛造による塑性加工を行う場合は、鍛造加工を行う際の温度が250℃以上500℃以下、前記鍛造加工の加工率が5%以上であることが好ましい。
【0055】
Mg合金が長周期積層構造相を発生させる組成を有する場合、上記のように鋳造物に塑性加工を行った塑性加工物は、常温においてhcp構造マグネシウム相及び長周期積層構造相の結晶組織を有し、この長周期積層構造相の少なくとも一部は湾曲又は屈曲している。前記塑性加工物は、塑性加工を行う前の鋳造物に比べてビッカース硬度及び降伏強度がともに上昇する。長周期積層構造相を有することで強度を高くすることができ、且つ溶解、鋳造、加工時に燃焼しにくい性質を有するマグネシウム合金を実現できる。つまり、高強度と難燃化の両方の利点を兼ね備えたマグネシウム合金を実現することができる。
【0056】
本実施形態によれば、Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下のYbを含有させることで、溶解時に合金表面に緻密な酸化皮膜が形成され、合金と酸素の接触を阻むことができ、その結果、Mg合金に非常に高い難燃性を発現させることができる。また、Ybの添加量が0.6原子%以下と微量であるため、元のMg合金の性能を阻害することを抑制できるとともに、溶解時に内部酸化を抑制できる。つまり、Ybを微量添加することで、鋳造した後のMg合金の内部酸化物の量を、Ybを添加しないMg合金の内部酸化物の量より少なくすることができる。これにより、溶解時の内部酸化によって溶湯が汚染するのを抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、Mg合金に0.05原子%以上0.6原子%以下のYbを含有させることで、鋳造した後のMg合金の酸化皮膜を薄く均一にすることができる。つまり、鋳造した後のMg合金の酸化皮膜は、Ybを含有しないMg合金の酸化皮膜より薄く均一になる。このため、酸化皮膜にクラックが入りにくくなり、酸化皮膜が割れにくくなる。逆に、溶解時に厚い酸化皮膜が形成されると、酸化皮膜にクラックが入りやすくなり、酸化皮膜が割れやすくなる。そして、酸化皮膜が割れると、その割れた部分の溶湯が空気に触れて発火しやすくなる。このため、溶解時に薄く均一性の高い酸化皮膜が形成されることで、その酸化皮膜の酸素の遮断能力を高くすることができる。これにより、難燃性を向上させることができるとともに、内部酸化によって溶湯内部への酸化物の汚染も低減できる。
【0058】
[第2の実施形態]
本発明の一態様に係る難燃性マグネシウム合金の製造方法について説明する。
85原子%以上のMgを含有するMg合金に、3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させた合金を溶解して鋳造する。Mg合金に3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させた合金の発火温度は、Beを含有させない元のMg合金の発火温度より高くすることができる。なお、元のMg合金の組成によって発火温度は異なるが、元のMg合金の発火温度が高くても、Beを添加することで、元のMg合金の発火温度より高くすることができる。このようにしてMg合金の鋳造物を作る。鋳造時の冷却速度は1000K/秒以下であり、より好ましくは100K/秒以下である。
【0059】
上記のMg合金は、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。また、上記のMg合金の鋳造物を作るプロセスは、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0060】
次いで、上記の鋳造物に均質化熱処理を施しても良い。この際の熱処理条件は、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0061】
次に、前記鋳造物に塑性加工を行う。この塑性加工の方法としては、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0062】
Mg合金が長周期積層構造相を発生させる組成を有する場合は、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0063】
本実施形態によれば、Mg合金に3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させることで、溶解時に合金表面に緻密な酸化皮膜が形成され、合金と酸素の接触を阻むことができ、その結果、Mg合金に難燃性を発現させることができる。また、Beの添加量が3/10原子%以下と微量であるため、元のMg合金の性能を阻害することを抑制できるとともに、溶解時に内部酸化を抑制できる。つまり、Beを微量添加することで、鋳造した後のMg合金の内部酸化物の量を、Beを添加しないMg合金の内部酸化物の量より少なくすることができる。これにより、溶解時の内部酸化によって溶湯が汚染するのを抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態では、Mg合金に3/100原子%以上3/10原子%以下のBeを含有させることで、鋳造した後のMg合金の酸化皮膜を薄く均一にすることができる。つまり、鋳造した後のMg合金の酸化皮膜は、Beを含有しないMg合金の酸化皮膜より薄く均一になる。このため、酸化皮膜にクラックが入りにくくなり、酸化皮膜が割れにくくなる。このように溶解時に薄く均一性の高い酸化皮膜が形成されることで、その酸化皮膜の酸素の遮断能力を高くすることができる。これにより、難燃性を向上させることができるとともに、内部酸化によって溶湯内部への酸化物の汚染も低減できる。
なお、上記第1及び第2の実施形態を適宜組み合わせて実施することも可能である。
【実施例1】
【0065】
図1は、Mg99合金の発火点を測定した結果を示す図である。
Mg99合金材は、純マグネシウムに添加元素Xを1原子%添加することで作製した。詳細には、これらの合金成分を有するマグネシウム合金のインゴットを高周波溶解炉を用いてアルゴン雰囲気中で溶製し、これらのインゴットからφ32×70mmの形状に切り出して鋳造材を作製した。なお、Xは、Mg、Li、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Ag、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ho、Yb、Al、Zn、Sn、Sbのいずれかである。
【0066】
次に、これらの鋳造材の発火温度を測定した。測定方法は次のとおりである。
鋳造材のインゴットを旋盤でφ3.8×0.6 mmのディスク状に加工後、サンプルをアルミナパンに入れて、TG/DTAを用いて加熱(50K/min)し、発火温度を測定した。測定は3回行い、3回測定した発火点の平均値を算出した。この結果を図1に示した。
【0067】
図1に示すように、Mg99Yb合金の発火点が、その他の合金に比べて最も高いことが分かる。
【実施例2】
【0068】
図2は、実施例2のMg-Yb合金及び比較例のMg-Ca合金それぞれのYb,Ca添加量と発火点の関係を示す図である。
【0069】
実施例2及び比較例それぞれの合金材は、純マグネシウムに添加元素Ca、Ybを図2に示す範囲で添加することで作製した。詳細には、これらの合金成分を有するマグネシウム合金のインゴットを高周波溶解炉を用いてアルゴン雰囲気中で溶製し、これらのインゴットからφ32×70mmの形状に切り出して鋳造材を作製した。
【0070】
次に、これらの鋳造材の発火温度を測定した。測定方法は次のとおりである。
鋳造材のインゴットを旋盤でφ3.8×0.6 mmのディスク状に加工後、サンプルをアルミナパンに入れて、TG/DTAを用いて加熱(50K/min)し、発火温度を測定した。このようにして測定した結果を図2に示した。
【0071】
図2に示すように、Mg-0.5原子%Ca合金の発火点が700℃であるのに対して、Mg-0.5原子%Yb合金は、960℃の発火点を示した。Mg-Yb合金は微量添加であっても、Mg-Ca合金より優れた難燃性を示していることが分かる。なお、Mg-Yb合金及びMg-Ca合金はともに1原子%添加において発火点が1200~1300Kを示している。
【0072】
図3(A)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Yb合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図3(B)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Ca合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示す。
【0073】
図3(A)に示すように、Mg-1Yb合金では、MgOとYbが混合した酸化皮膜が合金のごく表面を均一に覆っており、内部酸化は観察されなかった。また、発火点が著しく向上した。詳細には、Mg-1Yb合金の酸化皮膜は、全体的に薄く均一に保たれていることが分かる。これは、Mg-1Yb合金表面に形成された酸化皮膜の酸素の遮断能力が高いことを示しており、内部酸化による合金内部への酸化物の汚染も低減できると考えられる。
【0074】
図3(B)に示すように、Mg-1Ca合金においても、MgOとCaOが混合した酸化皮膜が合金表面を均一に覆っており、内部酸化は観察されなかった。また、発火点は著しく向上した。しかし、Caを0.6原子%以下と微量添加した場合は、Ybほどの発火点の向上は示さなかった(図2参照)。
【0075】
図4は、比較例のMg-Gd合金、Mg-La合金及びMg-Nd合金それぞれのGd,La,Nd添加量と発火点の関係を示す図である。図6は、比較例のMg-Dy合金、Mg-Ho合金、Mg-Y合金及びMg-Sm合金それぞれのDy,Ho,Y,Sm添加量と発火点の関係を示す図である。図8は、比較例のMg-Pr合金、Mg-Sr合金、Mg-Ba合金、Mg-Sc合金及びMg-Ce合金それぞれのPr,Sr,Ba,Sc,Ce添加量と発火点の関係を示す図である。
【0076】
比較例それぞれの合金材は、純マグネシウムに添加元素Gd、La、Ndを図4に示す範囲で添加することで作製し、純マグネシウムに添加元素Dy、Ho、Y、Smを図6に示す範囲で添加することで作製し、純マグネシウムに添加元素Pr、Sr、Ba、Sc、Ceを図8に示す範囲で添加することで作製した。詳細には、これらの合金成分を有するマグネシウム合金のインゴットを高周波溶解炉を用いて大気雰囲気中で溶製し、これらのインゴットからφ32×70mmの形状に切り出して鋳造材を作製した。
【0077】
次に、これらの鋳造材の発火温度を測定した。測定方法は図2に示すものと同様である。
【0078】
図4に示すように、Mg-Gd合金、Mg-La合金及びMg-Nd合金それぞれは1原子%添加において発火点が950~1020Kを示している。
【0079】
図5(A)は、600℃の高温大気中で35分間加熱したMg-1La合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図5(B)は、600℃の高温大気中で35分間加熱したMg-1Gd合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図5(C)は、600℃の高温大気中で35分間加熱したMg-1Nd合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示す。
【0080】
図5(A)~(C)に示すように、比較例のMg-Gd合金、Mg-La合金及びMg-Nd合金では、MgOと添加元素の酸化物が混合した不均一な酸化皮膜が合金表面を覆っていた。MgOが主要な構成層であり、添加元素の酸化物は微量であった。そのため、これらの合金の発火点の向上は低かった(図4参照)。
【0081】
図6に示すように、比較例のMg-Dy合金、Mg-Ho合金、Mg-Y合金及びMg-Sm合金それぞれは1原子%添加において発火点が1100Kを示している。
【0082】
図7(A)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Dy合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図7(B)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Ho合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図7(C)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Sm合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図7(D)は、700℃の高温大気中で10分間加熱したMg-1Y合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示す。
【0083】
図7(A)~(D)に示すように、比較例のMg-1Dy合金、Mg-1Ho合金、Mg-1Y合金及びMg-1Sm合金では、添加元素の酸化物によって、合金表面が覆われていた (Dy,Ho,Sm,Y)。Sm添加合金ではMgOとSm酸化物との混合皮膜が形成されていた。発火点(図6参照)は向上したが、酸化皮膜の一部が内部酸化により異常成長している箇所が観察されたため、均一な皮膜ではなかった。また、図7(D)に示すように、Mg-1Y合金では、酸化皮膜が全体的に厚く、Yの内部酸化によって皮膜が異常成長していることが分かる。酸化皮膜の健全性が損なわれているばかりでなく、合金内部の酸化物による汚染の可能性がある。
【0084】
また、図7に示すように、合金表面の酸化皮膜を観察した結果、Dy,Ho,Yを添加した合金では、合金表面に希土類(RE)酸化物単体の皮膜を形成しており、希土類元素の内部酸化が発生していた。また、図3図5及び図7に示すように、Nd,Sm,Yb添加合金においては、酸化物とMg酸化物の混合した皮膜が形成していた。また、Nd,Sm添加合金においては、内部酸化が観察されたが、Yb添加合金では、内部酸化が見られなかった。Yb添加合金は、1原子%の微量添加であっても発火点が1000℃以上という優れた難燃性を発現し、安全に使用でき、且つ内部酸化を発生させず、微量添加でマグネシウム合金に難燃性を発現させるという条件を満たす。
【0085】
図8に示すように、比較例のMg-Pr合金、Mg-Sr合金、Mg-Ba合金、Mg-Sc合金及びMg-Ce合金それぞれは1原子%添加において発火点が向上しなかった。また、これらの合金のほとんどが、純Mgと発火点が変わらないため、皮膜は観察できなかった。
【実施例3】
【0086】
図9は、実施例3のMg-1Al-xBe合金のBe濃度と発火点の関係を示す図である。
【0087】
実施例3では、Mg-Al合金にAl-2.5wt.%Be合金を添加することで、図9に示すBe濃度範囲のMg-1Al-xBe合金を作製した。詳細には、これらの合金成分を有するマグネシウム合金のインゴットを高周波溶解炉を用いてアルゴン雰囲気中で溶製し、これらのインゴットからφ32×70mmの形状に切り出して鋳造材を作製した。
【0088】
次に、これらの鋳造材の発火温度を測定した。測定方法は実施例1と同様である。測定結果は図9に示した。図9に示すように、Mg-1Al合金にBeを添加することで、若干の発火点の向上が見られた。
【0089】
また、比較例のMg-1Zn-2Y合金、実施例3aのMg-1Zn-2Y-0.1Yb合金及び実施例3bのMg-1Zn-2Y-0.4Al合金+100ppmBeそれぞれの合金材を作製した。詳細には、これらの合金成分を有するマグネシウム合金のインゴットを高周波溶解炉を用いてアルゴン雰囲気中で溶製し、これらのインゴットからφ32×70mmの形状に切り出して鋳造材を作製した。
【0090】
図10(A)は、700℃の高温大気中で10分間加熱した比較例のMg-1Zn-2Y合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図10(B)は、700℃の高温大気中で10分間加熱した実施例3aのMg-1Zn-2Y-0.1Yb合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図10(C)は、700℃の高温大気中で10分間加熱した実施例3bのMg-1Zn-2Y-0.4Al合金+100ppmBeの表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示す。
【0091】
図10(A)~(C)に示すように、Mg-1Zn-2Y合金にBeもしくはYbを微量添加することで合金表面の酸化皮膜を薄く均一にすることができた。また、Mg-1Zn-2Y合金の酸化皮膜に存在したクラックがYb添加合金とBe添加合金では観察されず、健全な均一性の良い皮膜が形成されていた。
【0092】
図11は、Mg97Zn合金、Mg96.923ZnAl0.07Be0.007合金、Mg96.835ZnAl0.15Be0.015合金、Mg96.67ZnAl0.3Be0.03合金、Mg95.9ZnAlBe0.1合金それぞれのBe添加量と発火点の関係を示す図である。ここでの発火点は、3回測定した発火点の平均値である。なお、各合金はBeの添加量だけでなく、Al添加量も変化させている。
【0093】
図12は、Mg97Zn合金、Mg97-xZnYb合金(x=0.05,0.08,0.1)それぞれのYb添加量と発火点の関係を示す図である。ここでの発火点は、3回測定した発火点の平均値である。
【0094】
図11及び図12に示す合金材の作製方法は次のとおりである。上記の合金成分を有するマグネシウム合金のインゴットを高周波溶解炉を用いてアルゴン雰囲気中で溶製し、これらのインゴットからφ32×70mmの形状に切り出して鋳造材を作製した。そして、これらの鋳造材の発火温度の測定方法は実施例1と同様である。
【0095】
図12に示すように、Yb添加量が0.05原子%から若干の発火点の増加が見られ、0.1原子%の添加でBe添加合金と同等の効果が得られた。
【0096】
図13は、比較例のMg-1Zn-2Y合金、実施例3aのMg-1Zn-2Y-0.1Yb合金及び実施例3bのMg-1Zn-2Y-0.4Al合金+100ppmBeの発火点の関係を示す図である。
【0097】
図13に示すように、Mg-1Zn-2Y合金にBeもしくはYbを添加することで発火点が向上した。なお、図13において、白丸(○)のプロットが3回測定した時の発火点、黒い棒のプロットが平均の発火点である。
【0098】
図14(A)は、700℃の高温大気中で10分間加熱した比較例のMg-10Al-5Ca合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図14(B)は、700℃の高温大気中で10分間加熱した実施例3cのMg-10Al-5Ca-0.1Yb合金の表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示し、図14(C)は、700℃の高温大気中で10分間加熱した実施例3dのMg-10Al-5Ca合金+100ppmBeの表面に形成した酸化皮膜の断面写真を示す。
【0099】
図14(A)~(C)に示すように、Mg-10Al-5Ca合金にBeもしくはYbを微量添加することで合金表面の酸化皮膜を薄くすることができた。
【0100】
図15は、比較例のMg-10Al-5Ca合金、実施例3cのMg-10Al-5Ca-0.1Yb合金及び実施例3dのMg-10Al-5Ca合金+100ppmBeの発火点の関係を示す図である。
【0101】
図15に示すように、Mg-10Al-5Ca合金にBeもしくはYbを添加することでの発火点の向上は見られなかった。なお、図15において、白丸(○)のプロットが3回測定した時の発火点、黒い棒のプロットが平均の発火点である。
【0102】
上記実施例1~3で説明したように、YbとBeが発火温度の向上に効果的であることを見出した。これは、熱力学計算上では予想されないことである。以下に詳細に説明する。
【0103】
図16及び図17は、各種の添加元素の自由エネルギー変化の温度依存性を示す図である。図16は、MgOの生成よりも高い自由エネルギーで酸化物を形成する元素であってMgOより酸化物を形成し難い元素を示しており、Beも含まれている。図17は、MgOの生成よりも低い自由エネルギーで酸化物を形成する元素であってMgOより酸化物を形成しやすい元素を示している。
【0104】
熱力学計算では、MgOよりも酸化皮膜の生成自由エネルギーが低い添加元素ほど酸化皮膜が形成し易いために発火温度が向上すると考えられる。具体的には、CaやYは、図17に示すようにMgOよりも酸化皮膜の生成自由エネルギーが低く、MgOよりも酸化皮膜が形成し易いために、発火温度が向上すると考えられる。
このことから、Ybは、CaやYなどと比べて高い自由エネルギーを示すので、熱力学計算上では、YbはCaやYより発火温度が向上するとは予想されない。
【0105】
しかし、上記実施例1~3で説明したように、YbとBeが発火温度の著しい増加をもたらすことを見出した。これは、熱力学計算に依存しないことであり、容易に予想できることではない。
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
図10
図11
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図15
図16
図17