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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】落下物検知システム
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20231010BHJP
   E21F 17/00 20060101ALI20231010BHJP
   G06T 7/254 20170101ALI20231010BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
E21F17/00
G06T7/254 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021109529
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2022016328
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020119108
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592254526
【氏名又は名称】学校法人五島育英会
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】包 躍
(72)【発明者】
【氏名】小林 礼
(72)【発明者】
【氏名】満尾 淳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅也
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203288(JP,A)
【文献】特開2019-144191(JP,A)
【文献】特開2017-033256(JP,A)
【文献】特開2016-126662(JP,A)
【文献】特開2012-026881(JP,A)
【文献】特開平05-183901(JP,A)
【文献】特開2019-219333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21F 17/00
G06T 7/254
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽近傍における落下物を検知する落下物検知システムであって、
前記切羽のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像を生成する差分画像生成部と、
前記切羽の距離画像に基づいて、前記切羽から所定の距離離れた物体をマスク処理した第1マスク画像を生成する第1マスク画像生成部と、
前記差分画像と前記第1マスク画像とに基づいて、前記落下物を特定した落下物画像を生成する落下物画像生成部と、
前記落下物画像に基づいて、前記落下物の落下回数並びに落下事象毎の落下開始位置及び落下開始時刻を特定する落下状況特定部とを備え、
前記落下状況特定部では、前記落下物画像の時系列画像を合成したフレームごとの累積画像を生成し、時系列順の逆から遡る前記累積画像の遡り処理を行うことによって、前記落下回数及び前記落下開始位置の特定を行う
ことを特徴とする、落下物検知システム。
【請求項2】
前記距離画像を、前記切羽に対して正面を向いた正面画像に変換する正面画像変換部を備え、
前記第1マスク画像生成部は、前記正面画像に基づいて、前記第1マスク画像を生成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の落下物検知システム。
【請求項3】
前記切羽の掘削を行う重機の先端又は前記先端の付近の前記切羽に付けられたマーカのRGB画像に基づいて、前記マーカから一定の範囲をマスク処理した第2マスク画像を生成する第2マスク画像生成部を備え、
前記落下物画像生成部は、前記第2マスク画像に基づいて、前記落下物画像を生成する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の落下物検知システム。
【請求項4】
前記落下物画像に基づいて、前記落下物の落下量を算出する落下量算出部を備える
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の落下物検知システム。
【請求項5】
前記落下量に基づいて、崩落の危険度を判定する崩落危険度判定部と、
前記崩落危険度判定部が判定した危険度に応じて、警報を報知する報知部と、を備える
ことを特徴とする、請求項4に記載の落下物検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの切羽近傍における落下物を検知する落下物検知システム及び落下物検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、岩盤の崩落の危険がある切羽の近くで作業が行われる。このような施工において、トンネルの切羽における落下物を検知するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、落石検出領域に写る移動体を落石として検出する落石検出部と、を備え、落石検出領域算出部は、時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去のNフレーム(N≧3)における各々の差分画像から移動体エリアを抽出し、各々の移動体エリアの和集合以外の領域を落石検出領域とする構成が開示されている。これにより、危険な落石の兆候を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-203288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成は、落石の可能性がある移動体である落石候補を複数フレームに亘って追跡して、落石候補の位置が、落石が自然落下した場合におけるフレーム間の移動範囲を示す自然落下領域に含まれている場合に、落石候補が真の落石であると判定するものである。そのため、特許文献1の構成では、撮影部と切羽との間に重機等の物体がある場合、物体の下方への動作を真の落石であると判定してしまい、落下物を正しく検知することができない、という問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、カメラと切羽との間に物体がある場合でも、落下物を正しく検知することができる落下物検知システム及び落下物検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の落下物検知システムは、トンネルの切羽近傍における落下物を検知する落下物検知システムであって、前記切羽のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像を生成する差分画像生成部と、前記切羽の距離画像に基づいて、前記切羽から所定の距離離れた物体をマスク処理した第1マスク画像を生成する第1マスク画像生成部と、前記差分画像と前記第1マスク画像とに基づいて、前記落下物を特定した落下物画像を生成する落下物画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の落下物検知システムでは、前記距離画像を、前記切羽に対して正面を向いた正面画像に変換する正面画像変換部を備え、前記第1マスク画像生成部は、前記正面画像に基づいて、前記第1マスク画像を生成してもよい。
【0009】
また、本発明の落下物検知システムでは、前記切羽の掘削を行う重機の先端又は前記先端の付近の前記切羽に付けられたマーカのRGB画像に基づいて、前記マーカから一定の範囲をマスク処理した第2マスク画像を生成する第2マスク画像生成部を備え、前記落下物画像生成部は、前記第2マスク画像に基づいて、前記落下物画像を生成してもよい。
【0010】
また、本発明の落下物検知システムでは、前記落下物画像に基づいて、前記落下物の落下量を算出する落下量算出部を備えてもよい。
【0011】
また、本発明の落下物検知システムでは、前記落下量に基づいて、崩落の危険度を判定する崩落危険度判定部と、前記崩落危険度判定部が判定した危険度に応じて、警報を報知する報知部と、を備えてもよい。
【0012】
また、本発明の落下物検知システムでは、前記落下物画像に基づいて、前記落下物の落下回数並びに落下事象毎の落下開始位置及び落下開始時刻を特定する落下状況特定部を備えてもよい。
【0013】
また、本発明の落下物検知方法では、トンネルの切羽における落下物を検知する落下物検知方法であって、前記切羽のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像を生成する差分画像生成ステップと、前記切羽の距離画像に基づいて、前記切羽に対して正面を向いた正面画像を生成する正面画像生成ステップと、前記正面画像に基づいて、前記切羽から所定の距離離れた物体をマスク処理した第1マスク画像を生成する第1マスク画像生成ステップと、前記切羽の掘削を行う重機の先端に設けられたマーカのRGB画像に基づいて、前記マーカから一定の範囲をマスク処理した第2マスク画像を生成する第2マスク画像生成ステップと、前記差分画像と、前記第1マスク画像と、前記第2マスク画像と、に基づいて、落下物を特定した落下物画像を生成する落下物画像生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の落下物検知システムでは、切羽のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像を生成する差分画像生成部と、切羽の距離画像に基づいて、切羽から所定の距離離れた物体をマスク処理した第1マスク画像を生成する第1マスク画像生成部と、差分画像と第1マスク画像とに基づいて、落下物を特定した落下物画像を生成する落下物画像生成部と、を備える。そのため、切羽から所定の距離離れた位置にいる物体(例えば、重機や人)に対してマスク処理をして、落下物(例えば、岩盤、岩石又は土砂)として検知しないようにすることができる。一方、切羽に近い領域の動物体を落下物として検知することができる。その結果、カメラと切羽との間に物体がある場合でも、落下物を正しく検知することができる。
【0015】
また、本発明の落下物検知システムでは、距離画像を、切羽に対して正面を向いた正面画像に変換する正面画像変換部を備え、第1マスク画像生成部は、正面画像に基づいて、第1マスク画像を生成する。そのため、カメラの画像に重機が映り込む範囲を小さくすることができる。その結果、切羽の広い範囲を監視しつつ、落下物を正しく検知することができる。
【0016】
また、本発明の落下物検知システムでは、切羽の掘削を行う重機の先端、又はその先端付近の切羽に付けられたマーカのRGB画像に基づいて、マーカから一定の範囲をマスク処理した第2マスク画像を生成する第2マスク画像生成部を備え、落下物画像生成部は、第2マスク画像に基づいて、落下物画像を生成する。そのため、重機が掘削した掘削物(例えば、岩石又は土砂)や、重機の先端やその付近を崩落として検知しないようにすることができる。その結果、重機による掘削作業時にも、重機先端及び意図的に落下させた掘削物を排除しながら落下物を検知することができる。
【0017】
また、本発明の落下物検知システムでは、落下物画像に基づいて、落下物の落下量を算出する落下量算出部を備える。そのため、落下量に基づいて、岩盤等の崩落の危険性を予測することができる。その結果、掘削作業の安全性を図ることができる。
【0018】
また、本発明の落下物検知システムでは、落下量に基づいて、岩盤の崩落の危険度を判定する崩落危険度判定部と、崩落危険度判定部が判定した危険度に応じて、警報を報知する報知部と、を備える。そのため、落下量に基づいて、岩盤の崩落の危険度を予測して、警報を報知することができる。その結果、掘削作業の安全性を図ることができる。
【0019】
また、本発明の落下物検知システムでは、落下物画像に基づいて、落下物の落下回数、並びに落下事象毎の落下開始位置及び落下開始時刻を特定する落下状況特定部を備える。そのため、落下物の落下回数や、落下事象毎の落下開始位置及び落下開始時刻といった岩盤等の崩落の危険性を予測するうえで有益となりうる情報を、より多く取得することができるようになる。
【0020】
また、本発明の落下物検知方法では、切羽のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像を生成する差分画像生成ステップと、切羽の距離画像に基づいて、切羽に対して正面を向いた正面画像を生成する正面画像生成ステップと、正面画像に基づいて、切羽から所定の距離離れた物体をマスク処理した第1マスク画像を生成する第1マスク画像生成ステップと、差分画像と、第1マスク画像と、に基づいて、落下物を特定した落下物画像を生成する落下物画像生成ステップと、を含む。そのため、切羽から所定の距離離れた位置にいる物体(例えば、重機や人)に対してマスク処理をして、落下物(例えば、岩盤、岩石又は土砂)として検知しないようにすることができる。一方、切羽に近い領域の動物体を落下物として検知することができる。その結果、カメラと切羽との間に物体がある場合でも、落下物を正しく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1の落下物検知システムが配置されたトンネルを示す概念図である。
図2】実施例1の落下物検知システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】実施例1のRGB画像を示す図であり、図3(a)は現在のRGB画像を示し、図3(b)は1フレーム前のRGB画像を示す。
図4図4(a)は、実施例1の差分画像を示す図であり、図4(b)は、実施例1の差分画像を2値化した図である。
図5】実施例1の正面画像変換部を説明するための図であり、図5(a)はカメラセンサと実空間の関係を説明するための図であり、図5(b)は距離画像を正面画像に変換する原理を説明するための図である。
図6】実施例1の第1マスク画像生成部を説明するための図である。
図7図7(a)は、実施例1の第1マスク画像を示す図であり、図7(b)は、実施例1の第1マスク画像を2値化した図である。
図8】実施例1の第2マスク画像を示す図である。
図9】実施例1の第2マスク画像を2値化した図であり、図9(a)と図9(b)は第2マスク領域の例を示す図である。
図10】実施例1の第2マスク画像を2値化した図であり、図10(a)と図10(b)は第2マスク領域の例を示す図である。
図11】実施例1の落下物画像生成部を説明するための図であり、図11(a)は差分画像と第1マスク画像に基づいて生成させた落下物画像を示し、図11(b)はさらに第2マスク画像に基づいて生成された落下物画像を示す。
図12】実施例1の落下量算出部を説明するための図であり、図12(a)は1フレーム毎の落下物の推移を示し、図12(b)は落下物のカウント方法を説明するための図を示す。
図13】実施例1の画像表示部への表示例を示す平面図である。
図14】実施例1の画像表示部への表示例を示す平面図である。
図15】実施例1の落下物検知システムによる処理のメインフローを示すフローチャートである。
図16】実施例1の第1の画像処理を示すフローチャートである。
図17】実施例1の第2の画像処理を示すフローチャートである。
図18】実施例1の第3の画像処理を示すフローチャートである。
図19】実施例1の落下物検知システムの作用を説明するための図である。
図20】実施例2のマーカを説明するための図である。
図21】実施例3の落下状況特定処理を示すフローチャートである。
図22】実施例3の落下状況特定処理を説明するための図であり、図22(a)はフラグを付けた時系列の落下物画像を示し、図22(b)は時系列画像を合成したフレームごとの累積画像を示す。
図23】実施例3の複数の肌落ちが同時に発生した場合の落下状況特定処理を説明するための図であり、図23(a)はフラグを付けた時系列の落下物画像を示し、図23(b)は時系列画像を合成したフレームごとの累積画像を示す。
図24】実施例3の落下状況特定部を、6つのケースの時系列の落下物画像を使って説明するための図である。
図25】実施例3の落下状況特定部を、6つのケースの累積画像を使って説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による落下物検知システム及び落下物検知方法を実現する実施形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0023】
[落下物検知システムの使用状況]
図1は、実施例1の落下物検知システムが配置されたトンネルを示す概念図である。以下、実施例1の落下物検知システムの使用状況を説明する。なお、掘削の進行方向を進行方向Dとする。
【0024】
実施例1における落下物検知システムは、図1に示すように、掘削機4による山岳トンネル(以下、「トンネル」と言う)1の切羽3の掘削作業時に、切羽3の近傍の落下物を検知する。
【0025】
トンネル1には、切羽3を撮影するカメラ11と、カメラ11で撮影した画像情報に基づいて処理を実行する処理装置としてのパーソナルコンピュータ12と、切羽3の周辺を照らす照明13と、切羽3を掘削する重機としての掘削機(切羽穿孔機油圧ショベル)4と、携帯端末30と、が配置されている。
【0026】
(カメラ)
カメラ11は、RGB画像を撮影するRGBカメラ11aと、距離画像(Depth画像)を撮影する距離カメラ11bと、を備える。
【0027】
RGBカメラ11aは、RGB画像を撮影可能なカメラとする。距離カメラ11bは、例えば、TOF(Time Of Flight)方式のTOFカメラや、ステレオカメラ等を使用することができる。なお、カメラ11は、RGBカメラ11aと距離カメラ11bとが一体となってユニット化したされたものを使用してもよいし、RGBカメラ11aと距離カメラ11bとが別体となっているものを使用してもよい。
【0028】
カメラ11は、RGB画像と距離画像を同時に撮影することができ、RGB画像の各画素に対応した距離画像を取得可能になっている。
【0029】
カメラ11は、切羽3の全面を撮影可能なように、アーチ状に形成された鋼製のトンネル支保工2に、例えば、マグネットによって取り付けることができる。カメラ11は、トンネル1の側壁部分のトンネル支保工2に取り付けられている。すなわち、カメラ11は、切羽3に対して、水平方向に傾いた姿勢で取り付けられている。言い換えると、カメラ11は、切羽3に対して、正面を向かない姿勢で取り付けられている。
【0030】
なお、カメラ11は、ロックボルトの鋼製の頭部プレート、鋼製支保工のH型鋼等にマグネットにより固定されていてもよい。
【0031】
(パーソナルコンピュータ)
パーソナルコンピュータ12は、カメラ11が撮影したRGB画像と距離画像を取得して、リアルタイムで後述する処理を実行する。
【0032】
(照明)
照明13は、切羽3の全面を照らすように設置されている。照明13によって照らされた切羽3における照度は、100Lx以上のものを使用してもよい。
【0033】
(掘削機)
掘削機4は、切羽3の手前に配置され、切羽3を掘削する。掘削機4は、旋回体に取り付けられたアーム部4aと、アーム部4aの先端に取り付けられたヘッド部4bとを備えている。アーム部4aは、旋回体の旋回により水平方向に旋回し、起伏シリンダの伸縮により、上下方向に起伏する。ヘッド部4bには、切羽3を掘削する掘削刃を備えている。
【0034】
ヘッド部4bの両側面には、マーカ7が取り付けられている。マーカ7は、1つであっても2つ以上であってもよい。マーカ7は、青色のマグネットシートとすることができる。なお、マーカ7は、ヘッド部4bの側面を着色することで形成するようにしてもよい。
【0035】
(携帯端末)
携帯端末30は、第1作業者6が携帯可能なタブレットやスマートフォン等とすることができる。携帯端末30は、画像を表示する報知部としての画像表示部31を備えている。
【0036】
[落下物検知システムの機能構成]
以下、落下物検知システム10の機能構成を説明する。
【0037】
図2に示すように、落下物検知システム10は、RGBカメラ11aが撮影したRGB画像と、距離カメラ11bが撮影した距離画像とが制御部20に入力され、制御部20で処理された情報が画像表示部31に出力される。
【0038】
RGBカメラ11aは、切羽3の全面のRGB画像を撮影する。RGB画像は、制御部20に入力される。
【0039】
距離カメラ11bは、切羽3の全面の距離画像を撮影する。距離画像は、制御部20に入力される。
【0040】
制御部20は、画像取得部21と、差分画像生成部22と、正面画像変換部23と、第1マスク画像生成部24と、第2マスク画像生成部25と、落下物画像生成部26と、落下量算出部27と、崩落危険度判定部28と、2値化画像生成部29と、を備えている。
【0041】
(画像取得部)
画像取得部21は、RGB画像と距離画像を取得し、取得したRGB画像と距離画像を記憶する。
【0042】
(差分画像生成部)
差分画像生成部22は、切羽3のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像を生成する。具体的には、差分画像生成部22は、図3(a)に示す現在のRGB画像P1と、図3(b)に示す1フレーム前のRGB画像P0とを画素単位で比較して、色が変わっている部分を、図4(a)に示す差分画像P2として生成する。
【0043】
差分画像P2は、現在のRGB画像P1において、1フレーム前のRGB画像P0から移動した物体(動物体)の画像である。
【0044】
実施例1では、動物体を、第1落下物(例えば、岩石又は土砂)41と、第2落下物(例えば、岩石又は土砂)42と、掘削機4が掘削した掘削物(例えば、岩石又は土砂)43と、下方に移動したアーム44とする。
【0045】
つまり、図4(a)に示す差分画像P2には、第1落下物41と、第2落下物42と、掘削物43と、アーム44が表されている。
【0046】
2値化画像生成部29は、図4(a)に示す差分画像P2を、画像を白色と黒色の2階調に変換した2値化画像P3に変換する。すなわち、2値化画像生成部29は、図4(a)に示す差分画像P2を、図4(b)に示す差分画像P2の2値化画像P3に変換する。差分画像P2の2値化画像P3では、第1落下物41と、第2落下物42と、掘削物43と、アーム44が白色となっている。
【0047】
(正面画像変換部)
正面画像変換部23は、図5(a)に示すように、切羽3の距離画像P4を、切羽3に対して正面を向いた正面画像P5に変換する。
【0048】
具体的には、正面画像変換部23は、カメラ11の切羽3に対する角度θに基づいて、距離画像P4を正面画像P5に変換する。
【0049】
角度θは、距離画像P4における同じ水平軸上にある少なくとも2箇所の距離(depth)に基づいて、1画素当たりの距離の変化量から算出する。具体的には、切羽3上を指している同じx軸上の画素xiのdepth値depthiを少なくとも2箇所取得する。取得したデータ配列(xi, depthi)から最小二乗法によって近似直線の傾きを算出する。この傾きは、1画素当たりの距離の変化量であるため、切羽3に対するカメラ11の角度θを算出することができる。角度θは、式(1)から算出することができる。
【0050】
【数1】

ただし、Cov(X, Depth)は(xi, depthi)の共分散、σxはxiの標準偏差とする。
【0051】
角度θに基づいて、距離d2と距離d3を足し合わせることによって、正面から撮影した時の距離を算出する。距離d1は、距離画像P4のある注目画素Aの距離である。距離d2は、三角関数を用いて、角度θと距離d1に基づいて算出することができる。
【0052】
距離d3は、三角関数を用いて、角度θと注目画素Aから中心画素Bまでの距離d4とに基づいて算出することができる。この時、距離d3は、空間分解能単位であるため、PixelWidthの画素単位を空間分解能単位に変換する。
【0053】
この変換には、図5(b)に示すように、カメラ11のセンサと距離の関係を用いる。1画素あたりのセンササイズμが映す実空間上の長さmは、焦点距離fと、センササイズμが映している空間までの距離dとに基づいて算出することができる。1画素あたりのセンササイズμが映す実空間上の長さmは、式(2)によって算出することができる。
【数2】
【0054】
すなわち、距離d3は、式(3)によって算出することができる。
【数3】
【0055】
算出した距離d2と距離d3を足し合わせることによって、正面から撮影した時の距離画像に変換できる。すなわち、正面画像変換部23は、切羽3の距離画像P4を、切羽3に対して正面を向いた正面画像P5に変換することができる。
【0056】
(第1マスク画像生成部)
第1マスク画像生成部24は、図7(a)に示すように、切羽3の正面画像P5に基づいて、切羽3から所定の距離L(例えば、750~1000mm)以上離れた物体をマスク処理した第1マスク画像P6を生成する。
【0057】
具体的には、図6に示すように、第1マスク画像生成部24は、切羽3の正面画像P5に基づいて、切羽3から進行方向Dの後方に、距離Lだけセットバックしたセットバック面3bを生成する。
【0058】
第1マスク画像生成部24は、図7(a)に示すように、切羽3の現在のRGB画像P1から、セットバック面3bより後方にある物体をマスク処理した第1マスク画像P6を生成する。第1マスク画像P6では、掘削機4がマスク処理されて第1マスク領域4Aを形成している。
【0059】
2値化画像生成部29は、図7(b)に示すように、第1マスク画像P6を、画像を白色と黒色の2階調に変換した2値化画像P7に変換する。すなわち、2値化画像生成部29は、図7(a)に示す第1マスク画像P6を、図7(b)に示す第1マスク画像P6の2値化画像P7に変換する。第1マスク画像P6の2値化画像P7では、第1マスク領域4Aが白色となっている。
【0060】
(第2マスク画像生成部)
第2マスク画像生成部25は、図8に示すように、切羽3の掘削を行う掘削機4のヘッド部4bに設けられたマーカ7の現在のRGB画像P1に基づいて、マーカ7から一定の範囲をマスク処理した第2マスク画像P8を生成する。
【0061】
具体的には、第2マスク画像生成部25は、取得したRGB画像P1から特定色として抽出したマーカ7の重心に基づいて、第2マスク画像P8を生成する。第2マスク画像生成部25は、算出した重心と、正面画像変換部23が算出した角度θとに基づいて、第2マスク画像P8を生成することもできる。
【0062】
図8に示すように、第2マスク画像P8では、マーカ7から一定の範囲をマスク処理した第2マスク領域7Aが形成されている。
【0063】
2値化画像生成部29は、図8に示す第2マスク画像P8を、図9(a)に示す白色と黒色の2階調に変換した2値化画像P9に変換する。すなわち、2値化画像生成部29は、図8に示す第2マスク画像P8を、図9(a)に示す第2マスク画像P8の2値化画像P9に変換する。第2マスク画像P8の2値化画像P9では、第2マスク領域7Aが白色となっている。
【0064】
第2マスク領域7Aは、図9(a)に示すように、第2マスク画像P8の2値化画像P9の上端から下端にわたって上下方向に延在する矩形状にすることができる。第2マスク領域7Aは、マーカ7を中心とした幅W1の矩形状にすることができる。すなわち、第2マスク領域7Aは、掘削機4のアーム部4aの上下方向の起伏により、ヘッド部4bが移動する範囲に対応した形状にすることができる。
【0065】
なお、第2マスク領域7Aは、図9(b)に示すように、第2マスク画像P8の2値化画像P9において、上端の辺にマーカ7を有する上下方向に延在する矩形状にすることもできる。第2マスク領域7Aは、マーカ7を中心とした幅W1の矩形状にすることができる。すなわち、第2マスク領域7Aは、掘削機4により掘削された掘削物43が落下する範囲に対応した形状とすることができる。
【0066】
また、第2マスク領域7Aは、図10(a)に示すように、第2マスク画像P8の2値化画像P9において、上端の辺にマーカ7を有する上下方向に延在する矩形状にすることもできる。第2マスク領域7Aは、マーカ7を中心とした幅W1より小さな幅W2の矩形状にすることができる。すなわち、掘削物43の落下範囲は、使用する重機や現場の状況(例えば、地質)によって変わることから、使用する重機や現場の状況に応じた大きさにすることができる。
【0067】
また、第2マスク領域7Aは、図10(b)に示すように、第2マスク画像P8の2値化画像P9において、上端の辺にマーカ7を有する台形状にすることもできる。第2マスク領域7Aは、下底の幅W4が上底の幅W3より大きくなるような台形状にすることができる。
【0068】
すなわち、掘削物43の落下範囲は、使用する重機や現場の状況(例えば、地質)によって変わることから、使用する重機や現場の状況に応じた大きさにすることができる。
【0069】
(落下物画像生成部)
図11(a)に示すように、落下物画像生成部26は、図4(b)に示す差分画像P2の2値化画像P3と、図7(b)に示す第1マスク画像P6の2値化画像P7とに基づいて、落下物を特定した落下物画像P10を生成する。
【0070】
具体的には、落下物画像生成部26は、図4(b)に示す差分画像P2の2値化画像P3と、図7(b)に示す第1マスク画像P6の2値化画像P7との論理積によって、落下物画像P10を生成する。
【0071】
落下物画像P10では、第1落下物41と、第2落下物42と、掘削機4が掘削した掘削物43とが白色となっている。
【0072】
さらに、落下物画像生成部26は、図11(a)に示す落下物画像P10と、図9(a)に示す第2マスク画像P8の2値化画像P9とに基づいて、落下物を特定した落下物画像P11を生成する。
【0073】
具体的には、落下物画像生成部26は、図11(a)に示す落下物画像P10と、図9(a)に示す第2マスク画像P8の2値化画像P9との論理積によって、落下物画像P11を生成する。
【0074】
落下物画像P11では、第1落下物41と、第2落下物42とが白色となっている。
【0075】
(落下量算出部)
落下量算出部27は、落下物画像P11に基づいて、落下物の落下量を算出する。
【0076】
具体的には、図12(a)に示すように、落下量算出部27は、落下物画像P11で特定された落下物に対して、一列の縦画素Sに着目して、第1落下物41を追跡して、時系列の変化を確認する。次いで、落下量算出部27は、図12(b)に示すように、カウントした第1落下物41の画素数が最大となった時点で、落下物を1とカウントする。
【0077】
このようにして、落下量算出部27は、落下物画像P11で特定された全ての落下物に対して、落下物をカウントして落下物の落下量を算出する。
【0078】
(崩落危険度判定部)
崩落危険度判定部28は、落下量算出部27が算出した落下量に基づいて、岩盤の崩落の危険度を判定する。
【0079】
具体的には、崩落危険度判定部28は、落下量算出部27が算出した落下量に基づいて、一定量の落石、又は単位時間当たりの落石量の変化を算出して、岩盤の崩落の危険度を判定する。
【0080】
例えば、図13に示すグラフのように、落石量が増加の傾向にある場合、崩落危険度判定部28は、岩盤の崩落の危険があると判定する。
【0081】
また、図14に示すように、崩落危険度判定部28は、落下量算出部27が算出した落下量に基づいて、落石箇所と落石回数が分かるようなヒートマップを生成して、岩盤の崩落の危険度を判定することもできる。
【0082】
(画像表示部)
画像表示部31は、図13及び図14に示すように、崩落危険度判定部28が判断した情報を、画像表示部31に表示する。第1作業者6は、画像表示部31に表示された情報を見て、崩落の危険性を確認することができる。
【0083】
[落下物検知システムによる処理の流れ]
図15は、実施例1の落下物検知システム10による処理のメインフローを示すフローチャートである。図16は、実施例1の第1の画像処理を示すフローチャートである。図17は、実施例1の第2の画像処理を示すフローチャートである。図18は、実施例1の第3の画像処理を示すフローチャートである。以下、実施例1の落下物検知システム10による処理の流れを説明する。
【0084】
(メインフロー)
図15に示すように、画像取得部21は、RGBカメラ11aが撮影した切羽3の全面のRGB画像を取得する(ステップS11)。
【0085】
次いで、画像取得部21は、距離カメラ11bが撮影した切羽3の全面の距離画像を取得する(ステップS12)。なお、画像取得部21は、先に距離画像を取得することもできるし、RGB画像と距離画像を同時に取得することもできる。
【0086】
次いで、制御部20は、第1の画像処理、第2の画像処理及び第3の画像処理を実行する(ステップS13)。第1の画像処理、第2の画像処理及び第3の画像処理については、後述する。
【0087】
次いで、落下物画像生成部26は、第1の画像処理、第2の画像処理及び第3の画像処理の結果に基づいて、落下物を特定した落下物画像P11を生成する(ステップS14)。このステップは、落下物画像生成ステップを構成する。
【0088】
次いで、落下量算出部27は、落下物画像P11に基づいて、落下物の落下量を算出する(ステップS15)。
【0089】
次いで、崩落危険度判定部28は、落下量算出部27が算出した落下量に基づいて、岩盤の崩落の危険度を判定する(ステップS16)。
【0090】
次いで、画像表示部31は、崩落危険度判定部28が判断した情報を、画像表示部31に表示することで報知し(ステップS17)、処理を終了する。
【0091】
(第1の画像処理)
図16に示すように、第1の画像処理を開始すると、差分画像生成部22は、切羽3のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像P2を生成する(ステップS101)。このステップは、差分画像生成ステップを構成する。
【0092】
次いで、2値化画像生成部29は、差分画像P2を、画像を白色と黒色の2階調に変換した2値化画像P3に変換し(ステップS102)、メインフローへ戻る。
【0093】
(第2の画像処理)
図17に示すように、正面画像変換部23は、切羽3の距離画像P4を、切羽3に対して正面を向いた正面画像P5に変換する(ステップS201)。このステップは、正面画像生成ステップを構成する。
【0094】
次いで、第1マスク画像生成部24は、切羽3の正面画像P5に基づいて、切羽3から所定の距離L(例えば、750~1000mm)以上離れた物体をマスク処理した第1マスク画像P6を生成する(ステップS202)。このステップは、第1マスク画像生成ステップを構成する。
【0095】
次いで、2値化画像生成部29は、第1マスク画像P6を、画像を白色と黒色の2階調に変換した2値化画像P7に変換し(ステップS203)、メインフローに戻る。
【0096】
(第3の画像処理)
図18に示すように、第2マスク画像生成部25は、切羽3の掘削を行う掘削機4のヘッド部4bに設けられたマーカ7の現在のRGB画像P1に基づいて、マーカ7から一定の範囲をマスク処理した第2マスク画像P8を生成する(ステップS301)。このステップは、第2マスク画像生成ステップを構成する。
【0097】
次いで、2値化画像生成部29は、第2マスク画像P8を、画像を白色と黒色の2階調に変換した2値化画像P9に変換し(ステップS302)、メインフローに戻る。
【0098】
[落下物検知システム及び落下物検知方法の作用]
次に、実施例1の落下物検知システム10及び落下物検知方法の作用を説明する。実施例1の落下物検知システム10は、トンネル1の切羽3近傍における落下物を検知する。この落下物検知システム10は、切羽3のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像P2を生成する差分画像生成部22と、切羽3の距離画像P4に基づいて、切羽3から所定の距離離れた物体をマスク処理した第1マスク画像P6を生成する第1マスク画像生成部24と、差分画像P2と第1マスク画像P6とに基づいて、落下物を特定した落下物画像P10を生成する落下物画像生成部26と、を備える(図2)。
【0099】
これにより、切羽3から所定の距離離れた位置にいる物体(例えば、重機や人)に対してマスク処理をして、落下物(例えば、岩盤、岩石又は土砂)として検知しないようにすることができる。一方、切羽3に近い領域の動物体を落下物として検知することができる。そのため、カメラ11と切羽3との間に物体がある場合でも、落下物を正しく検知することができる。
【0100】
実施例1の落下物検知システム10において、距離画像P4を、切羽3に対して正面を向いた正面画像P5に変換する正面画像変換部23を備え、第1マスク画像生成部24は、正面画像P5に基づいて、第1マスク画像P6を生成する(図5(a))。
【0101】
ところで、図19に示すように、切羽3に対して正面の位置にカメラ11Aを設置すると、切羽3とカメラ11との間に配置されている重機(掘削機4)によって、カメラ11の画像の大部分に重機(掘削機4)が映り込んでしまう。
【0102】
実施例1では、カメラ11をトンネル1の側壁付近に設置することができる。そのため、カメラ11の画像に重機(掘削機4)が映り込む範囲を小さくすることができる。その結果、切羽3の広い範囲を監視しつつ、落下物を正しく検知することができる。
【0103】
実施例1の落下物検知システム10において、切羽3の掘削を行う重機(掘削機4)の先端に設けられたマーカ7のRGB画像に基づいて、マーカ7から一定の範囲をマスク処理した第2マスク画像P8を生成する第2マスク画像生成部25を備え、落下物画像生成部26は、第2マスク画像P8に基づいて、落下物画像P11を生成する(図8(b))。
【0104】
これにより、重機(掘削機4)が掘削した掘削物(例えば、岩石又は土砂)43や、重機(掘削機4)の先端を崩落として検知しないようにすることができる。そのため、重機(掘削機4)による掘削作業時にも、落下物を正しく検知することができる。
【0105】
実施例1の落下物検知システム10において、落下物画像P11に基づいて、落下物の落下量を算出する落下量算出部27を備える。
【0106】
これにより、落下量に基づいて、岩盤等の崩落の危険性を予測することができる。そのため、掘削作業の安全性を図ることができる。
【0107】
実施例1の落下物検知システム10において、落下量に基づいて、岩盤の崩落の危険度を判定する崩落危険度判定部28と、崩落危険度判定部28が判定した危険度に応じて、警報を報知する報知部(画像表示部31)と、を備える(図13及び図14)。
【0108】
これにより、落下量に基づいて、岩盤の崩落の危険度を予測して、警報を報知することができる。そのため、掘削作業の安全性を図ることができる。
【0109】
実施例1の落下物検知方法は、トンネル1の切羽3における落下物を検知する。この落下物検知方法は、切羽3のRGB画像に基づいて、フレーム差分法による差分画像P2を生成する差分画像生成ステップと、切羽3の距離画像P4に基づいて、切羽3に対して正面を向いた正面画像P5を生成する正面画像生成ステップと、正面画像P5に基づいて、切羽3から所定の距離離れた物体をマスク処理した第1マスク画像P6を生成する第1マスク画像生成ステップと、差分画像P2と、第1マスク画像P6と、に基づいて、落下物を特定した落下物画像P11を生成する落下物画像生成ステップと、を含む(図15)。
【0110】
これにより、切羽3から所定の距離離れた位置にいる物体(例えば、重機や人)に対してマスク処理をして、落下物として検知しないようにすることができる。一方、切羽3に近い領域の動物体を落下物として検知することができる。そのため、カメラ11と切羽3との間に物体がある場合でも、落下物を正しく検知することができる。
【0111】
また、カメラ11をトンネル1の側壁付近に設置することができる。そのため、カメラ11の画像に重機(掘削機4)が映り込む範囲を小さくすることができる。その結果、切羽3の広い範囲を監視しつつ、落下物を正しく検知することができる。
【実施例2】
【0112】
以下、前記した実施例1の落下物検知システム10による別の実施形態について、図20を参照しながら説明する。なお、前記実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0113】
前記実施例1では、掘削機4のアーム部4aの先端に取り付けられたヘッド部4bの両側面に、マグネットシートや着色によってマーカ7を取り付けた(図1図3など参照)。この場合、摩耗する重機先端のバケットやブレーカには直接マーカ7を取り付けることはできないので、数十cm以上は重機先端から離れた位置になる。
【0114】
そのため、図20に示すように、掘削機4の向きによっては、カメラ11の位置と重機角度との関係で、マーカがカメラ11の死角(死角境界線110参照)に入り、マーカが検出できなくなるケースが想定できる。
【0115】
そこで、掘削機4の表面に直接取り付けるマーカではなく、切羽面に投影されるレーザー光によるマーカ8を使用する実施例2について説明する。このマーカ8は、例えば掘削機4のバケットやブレーカなどのヘッド部4bの側面に取り付けられたレーザポインタ81から、切羽3に向けて照射されたレーザー光によって付けられる。
【0116】
切羽3の掘削を行う掘削機4の先端付近の切羽3に付けられたマーカ8であれば、掘削機4の影に隠れて検出不可能となるケースを削減することができる。特に、複数のレーザー光によるマーカ8を、重機先端(バケットやブレーカ)付近の切羽3に付けることで、マーカ8が検出できなくなるケースを大幅に削減することができる。さらに、バケットやブレーカなどの掘削器具のすぐそばの切羽3にマーカ8を付けることで、前記実施例1のようにマーカ7の位置から掘削による崩落箇所の中心位置を換算するという処理を行う必要がなくなり、直接、RGB画像上に投影されたマーカ8の位置から第2マスク画像を生成することができるようになる。
【0117】
ここで、マーカ8を付けるためのレーザポインタ81を設置する位置は、図示した位置に限定されるものではなく、重機先端が近づく切羽3にレーザー光を照射できる位置であれば、掘削機4の本体の前面など任意の位置に設置することができる。また、カメラ11のように、トンネル支保工2などに取り付けることもできる。
【0118】
このようなマーカ8を使用した落下物検知システム10であれば、マーカ8を見失うことがほとんどなくなり、掘削と肌落ちの区別がより正確になることで、より正確に肌落ちなどの落下物の発生に関する情報が得られるようになる。すなわち、掘削機4による掘削作業時にも、重機先端及び意図的に落下させた掘削物を排除しながら落下物を検知することができる。
【0119】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施例1又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0120】
以下、前記した実施例1の落下物検知システム10の別の実施形態について、図21図25を参照しながら説明する。なお、前記実施例1又は実施例2で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0121】
本実施例3の落下物検知システム10は、生成された落下物画像に基づいて、落下物(岩盤、岩石又は土砂など)の落下回数、並びに落下事象毎の落下開始位置及び落下開始時刻などの特定情報を提供する落下状況特定部を備えている。
【0122】
[落下状況特定処理の流れ]
図21は、実施例3の落下状況特定部による落下状況特定処理を示すフローチャートである。落下状況特定部では、前記実施例1で説明した落下物画像生成部26によって生成された落下物画像P11(図11(b)参照)を使用する。
【0123】
具体的には、落下物画像P11に白画素(落下物(41,42))が検出されたフレームに対しては、フラグを立てて、その画像をメモリやバッファや外部ディスクなどの記憶媒体に記憶させておく。
【0124】
本実施例3の落下状況特定部では、ステップS401に示すように、記憶媒体からフラグを付けた落下物画像P11を取り込んで使用する。例えば、図22(a)に示すように、5フレーム目の時点で、落下物画像P11に白画素が初めて確認された場合は、時系列として続く6フレーム目、7フレーム目など、落下物画像P11に白画素が確認できる間はフラグを付けて保存しておき、後からそれらの画像を時系列順に取り込む。
【0125】
ここで、フラグ付けは、落下物画像P11に白画素がなくなったタイミングで一旦終了し、再度、落下物画像生成部26で白画素が確認されたときに、別のフラグが立てられて、記憶媒体に記憶されることになる。そして、落下状況特定部による処理は、一連の掘削作業の終了時や、1つのフラグ付けが終了したタイミングなどで実行される。
【0126】
図22(a)に示した5フレーム目から7フレーム目までの落下物画像P11は、発生した落石などの肌落ちの軌跡を表現していると言える。この一連の軌跡で表される肌落ちを、1つの「落下事象」と呼ぶこととする。そして、ステップS402では、時系列画像を合成したフレームごとの累積画像を生成する。
【0127】
例えば図22(b)の右端に示すように、5フレーム目から7フレーム目までの時系列画像をすべて合成すると、「7フレームの累積画像」となる。一方、5フレーム目と6フレーム目を合成すると、真ん中の「6フレームの累積画像」となる。そして、5フレーム目だけだと、合成しても左端の「5フレームの累積画像」である。
【0128】
このようにして生成した各累積画像に対して、ステップS403では、ラベリング処理を施す。詳細には、累積画像中の隣接する白画素同士を1つの塊として識別(ラベル付け)する処理を行う。さらに、累積画像中の白画素の塊(ラベル)の数をカウントして、ラベル数を算出する。また、ラベル付けされた白画素の塊は、画像中のどこにあるのかが座標によって把握できる。
【0129】
例えば図22(b)に示した累積画像は、すべてのフレームにおいてラベル数は1となる。ラベル数が1の場合は、1つの塊の肌落ちが発生した状況を示しており、落下回数としてそのまま特定情報にできる。また、落下物が発生した落下開始位置は、5フレームの白画素の塊の箇所の座標から特定することができる。さらに、5フレームに紐付けられた時刻から、肌落ち(落下物)の落下開始時刻も特定することができる。すなわち、この落下事象の落下開始位置と落下開始時刻を、特定情報として取得することができる。
【0130】
これに対して、複数の落下事象(肌落ち)が発生する場合について検討する。図23(a)は、2箇所の肌落ち(落下事象)が同時に発生した場合の5フレーム目から7フレーム目までの落下物画像P11を例示している。また、図23(b)は、これらの時系列画像を合成したフレームごとの累積画像を示している。
【0131】
このようにして生成した各累積画像に対して、ステップS403のラベリング処理を施すと、「7フレームの累積画像」と「6フレームの累積画像」ではラベル数が1となり、「5フレームの累積画像」ではラベル数が2となる。
【0132】
複数の肌落ちが同時に発生し、肌落ちの軌跡が被る場合は、ラベル数は時系列順の逆から遡ると、増加傾向になる。そしてその最大値が、肌落ちの発生回数(落下回数)を表すことになる。そこで、ステップS404では、崩落終了(7フレーム)から崩落開始(5フレーム)に向けた累積画像の遡り処理を行う。
【0133】
続いて、ステップS405では、遡りの隣接フレーム間におけるラベルの減少数のカウントを行う。例えば、図23(b)の「7フレームの累積画像」と「6フレームの累積画像」との間ではラベルの減少数は0、「6フレームの累積画像」と「5フレームの累積画像」との間ではラベルの減少数は0(増加数は1)となる。
【0134】
ここで、5フレームより前の4フレームは図示していないが、白画素が確認されていない落下物画像P11なので、「5フレームの累積画像」と「4フレームの累積画像」との間では、ラベルの減少数は2となると言える。「7フレームの累積画像」から「5フレームの累積画像」までのラベルの累積減少数である2は、この間のラベル数の最大値の2と同じであり、落下回数を示している。
【0135】
また、落下物(落石)が発生した落下開始位置は、5フレームの2つの白画素の塊の座標から特定することができる(ステップS406)。さらに、5フレームに紐付けられた時刻から、落石の落下開始時刻も特定することができる。
【0136】
ステップS407では、このようにして落下状況特定部で特定された落下物(落石)の落下開始時刻、落下開始位置及び落下回数などの特定情報を、記憶媒体に保存する。以下では、図24及び図25を参照しながら、落下状況特定部による他の処理例についても説明する。
【0137】
図24は、同時又は若干の時間差を伴って落下を開始する2つの落下事象に関する、6つのケースの時系列の落下物画像を例示した図である。6つのケースは、大きく分けて「2箇所が同時に崩落開始」するパターンと、「2箇所が時間差で崩落開始」するパターンである。
【0138】
「2箇所が同時に崩落開始」するパターンについては、図23を参照しながら上述した。一方、「2箇所が時間差で崩落開始」するパターンとは、先発の肌落ち(崩落)が崩落終了する前に後発の肌落ち(崩落)が開始するという、複数の肌落ち(崩落)が時差を付けて発生する場合である。
【0139】
そして、2つのパターンのそれぞれにおいて、崩落が「2つのまま落下する」場合と、2つの崩落の「一部が分裂」して3つ以上となる場合と、崩落が途中で重なり合って「1つに重合」する場合について例示した。
【0140】
図24では、それぞれのケースで、落下物画像P11が、「崩落開始」から「崩落終了」まで時系列順に並べられている。「崩落開始」は、上述したように落下物画像P11に白画素が初めて確認されたフレームで、「崩落終了」は、落下物画像P11に白画素がなくなったフレームである。「2箇所が時間差で崩落開始」するパターンでは、後発肌落ちの崩落終了が「崩落終了」となる。
【0141】
そして、図25が、6つのケースの累積画像を、「崩落終了」から「崩落開始」に遡って並べた図である。各ケースでは、フレームごとにラベルの個数をカウントする。フレームごとのラベルの個数を遡っていくと、途中で肌落ちが分裂した場合でも、肌落ちが重なり合った場合でも、隣接フレーム間における遡った際のラベルの個数の「減少数」のみをカウントする。すなわち、隣接フレーム間でラベル数が増加した場合は、カウントはしない(「1つに重合」ケース参照)。
【0142】
そして、「崩落終了」から「崩落開始」までの「減少数」を積算した「累積減少数」が、落下物の落下回数となる。すなわち、肌落ちの落下開始時刻と発生回数を特定することができるようになる。
【0143】
また、ラベルの個数の減少が起きた隣接フレーム間では、「崩落終了」側に出現しているラベル(白画素群)の位置を、肌落ちの落下開始位置と特定することができる。なお、「崩落開始」から「崩落終了」までを順送りにする場合は、ラベルの個数の「増加数」のみをカウントすればよい。
【0144】
このように構成された実施例3の落下物検知システム10では、落下物画像に基づいて、落下物の落下開始位置と落下回数を特定する落下状況特定部を備える。そして、落下中の土塊の分裂や重合といった状態の変化に影響されることなく、落下物の落下開始時刻、落下開始位置、落下回数といった特定情報を得ることができる。
【0145】
すなわち、肌落ちの軌跡を用いて落下開始位置を特定することにより、肌落ちが落下中に2つ以上に空中分離した場合でも、時系列を遡ることで、1つの肌落ちとして収束して認識することができ、容易に落下開始位置を特定することが可能になる。
【0146】
また、実施例1では、肌落ち発生の予見を補助するデータとして、落下量と関連する白画素の量のみを検出していたが、白画素の量だけでなく、白画素群(ラベル)の発生時刻、発生回数及び発生箇所に関するデータを収集できるようになる。要するに、落下物の落下開始時刻、落下開始位置、落下回数といった岩盤等の崩落の危険性を予測するうえで有益となりうる情報を、より多く取得することができるようになる。
【0147】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施例1又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0148】
以上、本発明の落下物検知システム及び落下物検知方法を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0149】
実施例1では、カメラ11は、切羽3に対して、水平方向に傾いた姿勢で取り付けられている例を示した。しかし、カメラ11は、切羽3に対して正面を向いた姿勢で取り付けられてもよい。
【0150】
実施例1では、マーカ7を青色のマグネットシートで1つ設ける例を示した。しかし、マーカは、この態様に限定されるものでなく、現場の状況に合わせて選択された色にすることができる。また、マーカは、ヘッド部4bの側面に着色することで形成してもよい。また、マーカは、光源であったり、レーザー光の照射によって付けられるものであったりしてもよい。また、マーカを複数設けることもできる。
【0151】
実施例1では、報知部を画像表示部31とする例を示した。しかし、報知部は、警告灯としたり、警告音を出力する音声出力装置としたりすることもできる。
【0152】
実施例1では、第2マスク画像P8を、画像を白色と黒色の2階調に変換した2値化画像P9に変換する例を示した。しかし、第2マスク画像P8を、色相画像やグレースケール画像に変換してもよい。
【0153】
実施例1では、落下物画像生成部26は、差分画像P2の2値化画像P3と、第1マスク画像P6の2値化画像P7とに基づいて、落下物画像P10を生成し、落下物画像P10と、第2マスク画像P8の2値化画像P9とに基づいて、落下物画像P11を生成する例を示した。しかし、落下物画像生成部26は、差分画像P2の2値化画像P3と、第1マスク画像P6の2値化画像P7と、第2マスク画像P8の2値化画像P9とに基づいて、一度に落下物画像P11を生成してもよい。
【0154】
実施例1では、落下物画像生成部26は、差分画像P2と、第1マスク画像P6と、第2マスク画像P8と、に基づいて、落下物画像P11を生成する例を示した。しかし、落下物画像生成部26は、差分画像P2と、第1マスク画像P6と、に基づいて、落下物画像P10を生成してもよい。この場合、落下量算出部27は、落下物画像P10に基づいて、落下物の落下量を算出することができる。
【0155】
実施例1では、第2マスク領域7Aは、上下方向に延在する矩形状に形成する例を示した。しかし、第2マスク領域7Aは、現場の状況や使用する重機に応じて、形状や大きさを変更することができる。
【0156】
実施例1では、重機を掘削機(油圧ショベル)4とする例を示した。しかし、重機は、この態様に限定されず、例えば、油圧ブレーカや自由断面掘削機としてもよい。
【0157】
実施例1では、本発明の落下物検知システム及び落下物検知方法を、山岳トンネルの切羽3の掘削作業時に適用する例を示した。しかし、本発明の落下物検知システム及び落下物検知方法は、山岳トンネルの削孔装薬作業時や、コソク・浮石落し作業時や、機械掘削作業時や、ズリ出し作業時や、支保工建て込み作業時等に適用することができる。
【0158】
実施例1では、本発明の落下物検知システム及び落下物検知方法を、山岳トンネルの切羽3の掘削作業時に適用する例を示した。しかし、本発明の落下物検知システム及び落下物検知方法は、都市トンネルや、水底トンネルや、水中トンネル等の掘削作業時に適用することができる。
【符号の説明】
【0159】
1 トンネル
3 切羽
4 掘削機(重機の一例)
7 マーカ
8 マーカ
10 落下物検知システム
22 差分画像生成部
23 正面画像変換部
24 第1マスク画像生成部
25 第2マスク画像生成部
26 落下物画像生成部
27 落下量算出部
28 崩落危険度判定部
31 画像表示部(報知部の一例)
P2 差分画像
P5 正面画像
P6 第1マスク画像
P9 第2マスク画像
P11 落下物画像
P12 落下物画像
図1
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