IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中部キレスト株式会社の特許一覧 ▶ キレスト株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アルカリ洗浄用腐食抑制剤 図1
  • 特許-アルカリ洗浄用腐食抑制剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】アルカリ洗浄用腐食抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/18 20060101AFI20231010BHJP
   C11D 7/36 20060101ALI20231010BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20231010BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20231010BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20231010BHJP
   C23G 1/22 20060101ALI20231010BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20231010BHJP
   C23F 11/06 20060101ALN20231010BHJP
【FI】
C23G1/18
C11D7/36
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/50
C23G1/22
B08B3/08 Z
C23F11/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019194246
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021066937
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】596148629
【氏名又は名称】中部キレスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592211194
【氏名又は名称】キレスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南部 信義
(72)【発明者】
【氏名】濱口 寿光
(72)【発明者】
【氏名】南部 忠彦
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-136826(JP,A)
【文献】特開2013-241495(JP,A)
【文献】特開平04-187788(JP,A)
【文献】特開昭62-013583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
C23F 11/00-11/18
C23F 14/00-17/00
C11D 1/00-19/00
B08B 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ホスホン酸化合物、第2族元素イオン、およびキレート剤を含み、
上記キレート剤が、糖アルコール、アミノポリカルボン酸、並びにグリシンおよびその誘導体からなる群より選択される1以上のキレート剤であり、
上記有機ホスホン酸化合物に対する上記キレート剤の質量比が0.1以上、1以下であることを特徴とするアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
【請求項2】
上記有機ホスホン酸化合物が、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、およびそれらの塩から選択される1以上の有機ホスホン酸化合物である請求項1に記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
【請求項3】
上記第2族元素イオンがアルカリ土類金属イオンである請求項1または2に記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
【請求項4】
上記有機ホスホン酸化合物に対する上記第2族元素イオンのモル比が0.5以上、2以下である請求項1~3のいずれかに記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
【請求項5】
上記糖アルコールがソルビトールである請求項1~4のいずれかに記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤、アルカリビルダー、および水系溶媒を含むことを特徴とする金属洗浄剤。
【請求項7】
請求項6に記載の金属洗浄剤で金属の表面を洗浄することを特徴とする金属の洗浄方法。
【請求項8】
上記金属がAl基金属である請求項7に記載の金属の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリビルダーと混合しても安定であり、且つ金属に対する腐食抑制作用に優れるアルカリ洗浄用腐食抑制剤、当該アルカリ洗浄用腐食抑制剤を含む金属洗浄剤、および当該金属洗浄剤を用いる金属の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材や金属部品の表面の洗浄には、かつてはトリクロロエチレン等の塩素化炭化水素溶剤が、不燃性、作業能率、洗浄効果、安全性、経済性などの面から大量に用いられていた。しかし塩素化炭化水素溶剤は環境負荷が大きく、また比較的高価であることから、近年ではアルカリ水溶液が塩素化炭化水素溶剤に取って代わってきている。
【0003】
ところがアルカリ水溶液には、そのpHが高いほど洗浄効果が高い一方で、金属を腐食するという問題がある。例えばアルミニウムは、下記式の通り酸とアルカリの両方に水素を発生しながら溶解する。
2Al + 6H+ → 2Al3+ + 3H2
2Al + 2OH- +6H2O →2[Al(OH)4- + 3H2
【0004】
特にアルカリ水溶液のpHが13を超えると、アルミニウムは急激に腐食する。よって、アルカリ水溶液による金属表面の腐食を避けるためには、pH、温度、洗浄時間、洗浄剤濃度などを抑制する必要があるが、そのために洗浄効果が低下してしまう。そこで、腐食を抑制しつつ金属表面を洗浄する技術が種々開発されている。
【0005】
例えば特許文献1には、ホスホン酸類またはホスホン酸塩類にカルシウム塩を配合した金属防食剤が開示されている。特許文献2には、2-ヒドロキシ-ホスホノ酢酸とカルシウムイオン等を配合し、金属表面を処理することによって腐食を抑制するための金属表面の状態調整方法が開示されている。特許文献3には、有機ホスホン酸化合物とCa化合物などを含むAl基金属材用洗浄剤が開示されている。特許文献4には、二塩基酸有機酸を含む非鉄金属の腐食抑制剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭48-71742号公報
【文献】特開昭59-193282号公報
【文献】特開2001-64700号公報
【文献】特開2016-113527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、アルカリによる金属の腐食を抑制する組成物は種々検討されている。しかし、経時的に濁りや沈殿が生じるようなアルカリ洗浄剤などは、商品価値が十分でないといえる。また、金属部品などが精密になってきていることもあり、アルカリ洗浄による金属表面の腐食の抑制に対する要求は、近年、より一層高くなってきてきる。
そこで本発明は、アルカリビルダーと混合しても安定であり、且つ金属に対する腐食抑制作用に優れるアルカリ洗浄用腐食抑制剤、および当該アルカリ洗浄用腐食抑制剤を含む金属洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、有機ホスホン酸化合物および第2族元素イオンに加えて更に特定のキレート剤を配合することにより、アルカリ洗浄剤の安定性と共に金属腐食作用も改善されることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 有機ホスホン酸化合物、第2族元素イオン、およびキレート剤を含み、
上記キレート剤が、糖アルコール、アミノポリカルボン酸、並びにグリシンおよびその誘導体からなる群より選択される1以上のキレート剤であることを特徴とするアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
[2] 上記有機ホスホン酸化合物が、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、およびそれらの塩から選択される1以上の有機ホスホン酸化合物である上記[1]に記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
[3] 上記第2族元素イオンがアルカリ土類金属イオンである上記[1]または[2]に記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
[4] 上記有機ホスホン酸化合物に対する上記第2族元素イオンのモル比が0.5以上、2以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
[5] 上記有機ホスホン酸化合物に対する上記キレート剤の質量比が0.01以上、5以下である上記[1]~[4]のいずれかに記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤。
[6] 上記[1]~[5]のいずれかに記載のアルカリ洗浄用腐食抑制剤、アルカリビルダー、および水系溶媒を含むことを特徴とする金属洗浄剤。
[7] 上記[6]に記載の金属洗浄剤で金属の表面を洗浄することを特徴とする金属の洗浄方法。
[8] 上記金属がAl基金属である上記[7]に記載の金属の洗浄方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルカリ洗浄用腐食抑制剤は、アルカリ洗浄剤に配合されることにより、アルカリ洗浄剤による金属の洗浄時における金属の腐食を抑制することができる。即ち、本発明のアルカリ洗浄用腐食抑制剤を含む金属洗浄剤は、金属表面の腐食を抑制しつつ金属表面を洗浄することが可能である。また、本発明のアルカリ洗浄用腐食抑制剤は、それ自身が安定である上に、アルカリ洗浄剤に配合されても濁りや沈殿の発生が抑制され安定である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係るアルカリ金属洗浄剤を常温で7日間静置した後の外観写真である。
図2図2は、比較例のアルカリ金属洗浄剤を常温で7日間静置した後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアルカリ洗浄用腐食抑制剤は、有機ホスホン酸化合物、第2族元素イオン、およびキレート剤を含む。
【0013】
有機ホスホン酸化合物は、ホスホン酸基を有する有機化合物である。有機ホスホン酸化合物により安定性や腐食抑制作用が改善される機序は必ずしも明らかではないが、有機ホスホン酸化合物が金属表面における水酸化物生成を抑制することや、金属表面に偏析する金属イオンを除去することが考えられる。
【0014】
有機ホスホン酸化合物としては、例えば、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)などの有機モノホスホン酸;1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)などの有機ジホスホン酸;ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、アミノトリメチレンホスホン酸などの有機トリホスホン酸;エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などの有機テトラホスホン酸;ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸などの有機ペンタホスホン酸が挙げられる。
【0015】
有機ホスホン酸化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、有機ホスホン酸化合物は、塩であってもよい。当該塩を構成するカウンターカチオンとしては、第2族元素イオンとアルカリ金属イオンが挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンが挙げられ、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンが好ましく、ナトリウムイオンがより好ましい。有機ホスホン酸化合物が複数のホスホン酸やカルボン酸を有する場合には、2種以上のカウンターカチオンを含む混合塩であってもよい。即ち、2種以上の第2族元素イオンを含む塩であってもよいし、2種以上のアルカリ金属イオンを含む塩であってもよいし、第2族元素イオンとアルカリ金属イオンの両方を含む塩であってもよい。
【0016】
有機ホスホン酸化合物としては、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、およびそれらの塩から選択される1以上の有機ホスホン酸化合物が好ましく、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸がより好ましい。
【0017】
第2族元素イオンは、周期表の第2族に属する元素のイオンである。第2族元素イオンは、有機ホスホン酸化合物と共同して金属表面の腐食を抑制すると考えられる。
【0018】
第2族元素イオンとしては、例えば、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオンが挙げられ、アルカリ土類金属イオンが好ましく、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、およびバリウムイオンからなる群より選択される1種以上のアルカリ土類金属イオンがより好ましく、カルシウムイオンがより更に好ましい。
【0019】
第2族元素イオンは、塩の形態でアルカリ洗浄用腐食抑制剤に配合されていてもよい。当該塩を構成するカウンターアニオンとしては、例えば、炭酸イオン、炭酸水素イオン、水酸化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン等が挙げられる。また、有機ホスホン酸化合物の第2族元素イオンの形態でアルカリ洗浄用腐食抑制剤に配合してもよい。
【0020】
第2族元素イオンの使用量は適宜調整すればよいが、例えば、有機ホスホン酸化合物1モルに対するモル比が0.5以上、2以下の第2族元素イオンを用いることが好ましい。当該モル比が0.5以上であれば、有機ホスホン酸化合物との相乗効果が期待できる。一方、当該モル比が過剰に大きいと腐食抑制作用がかえって低下することもあり得るが、当該モル比が2以下であれば腐食抑制作用が良好であるといえる。当該モル比としては、0.8以上が好ましく、また、1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。
【0021】
キレート剤とは、金属イオンに配位してキレート化合物をつくる多座配位子をいい、金属イオンを不活化する化合物をいう。キレート剤は、おそらく不溶物や沈殿物の形成となる過剰な金属イオンを不活化して組成物を安定化したり、アルカリ洗浄時における金属表面を良好な状態に維持する作用を有すると考えられる。
【0022】
本発明で用いるキレート剤は、糖アルコール、アミノポリカルボン酸、並びにグリシンおよびその誘導体からなる群より選択される1以上のキレート剤である。糖アルコールは、複数の水酸基を有し、金属イオンに配位できるものである。キレート剤として用い得る糖アルコールとしては、例えば、グリセリン、エリトリトール、アラビトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、ヘプチトール、オクチトール等が挙げられ、ソルビトールが好ましい。
【0023】
アミノポリカルボン酸は、アミノ基上に複数のカルボキシ炭化水素基が置換している化合物をいい、複数のカルボキシ基により金属イオンに配位すると考えられる。アミノポリカルボン酸としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3-プロパンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、2-カルボキシフェニルイミノ二酢酸、S,S-エチレンジアミンジコハク酸、イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、メチルグリシン二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸が挙げられる。アミノポリカルボン酸は、その塩の形態でアルカリ洗浄用腐食抑制剤に配合してもよい。当該塩のカウンターカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオンが挙げられ、ナトリウムイオンが好ましい。
【0024】
グリシンは、アミノ基とカルボキシ基により、それ自体がキレート作用を示す。グリシンの誘導体としては、例えば、ジヒドロキシエチルグリシンが挙げられる。グリシンおよびその誘導体は、その塩の形態でアルカリ洗浄用腐食抑制剤に配合してもよい。当該塩のカウンターカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオンが挙げられ、ナトリウムイオンが好ましい。
【0025】
キレート剤の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、有機ホスホン酸化合物に対するキレート剤の質量比を0.01以上、5以下とすることが好ましい。当該比が0.01以上であれば、有機ホスホン酸化合物との相乗効果が期待でき、当該比が5以下であれば、腐食抑制作用が良好であるといえる。当該比としては、0.02以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.1以上がより更に好ましく、また、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1以下がより更に好ましい。
【0026】
その他、アルカリ洗浄用腐食抑制剤および金属洗浄剤の安定性や腐食抑制作用などの特性を改善する成分を配合してもよい。かかる任意成分としては、界面活性剤や溶媒が挙げられる。界面活性剤は、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤など、特に制限されないが、非イオン界面活性剤および陰イオン界面活性剤が好ましい。界面活性剤により、アルカリ洗浄用腐食抑制剤および金属洗浄剤の安定性がより一層改善されることに加えて、複雑な形状の金属部品の狭小な部分などにも金属洗浄剤を行き渡らせることが可能になる。
【0027】
非イオン界面活性剤は特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレン(以下、POEともいう。)-ポリオキシプロピレン(以下、POPともいう。)ブロックコポリマー;ポロキサミンなどのエチレンジアミンのPOE-POPブロックコポリマー付加物;モノラウリル酸POE(20)ソルビタン、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン、POEソルビタンモノステアレート、POEソルビタントリステアレートなどのPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(5)硬化ヒマシ油、POE(10)硬化ヒマシ油、POE(20)硬化ヒマシ油、POE(40)硬化ヒマシ油、POE(50)硬化ヒマシ油、POE(60)硬化ヒマシ油、POE(100)硬化ヒマシ油などのPOE硬化ヒマシ油類;POE(3)ヒマシ油、POE(10)ヒマシ油、POE(35)ヒマシ油などのPOEヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類;ステアリン酸ポリオキシル40などのモノステアリン酸ポリエチレングリコールなどが挙げられる。なお、括弧内の数字はPOP又はPOEの平均付加モル数を示す。
【0028】
陰イオン界面活性剤は特に制限されないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α-スルホメチルエステル、α-オレフィンスルホン酸などが例示される。
【0029】
界面活性剤の配合量は適宜調整すればよいが、例えば、金属洗浄剤中の濃度が0.1g/L以上、5g/L以下となるよう配合すればよい。当該濃度としては、0.5g/L以上が好ましく、また、3g/L以下が好ましく、2.5g/L以下がより好ましい。
【0030】
本発明に係るアルカリ洗浄用腐食抑制剤は、有機ホスホン酸化合物、第2族元素イオン、およびキレート剤それぞれの塩を含む固体であってもよいが、金属洗浄剤の製造のし易さの観点から、有機ホスホン酸化合物、第2族元素イオン、およびキレート剤が水系溶媒に溶解または分散している液剤であってもよい。
【0031】
水系溶媒とは、水、または水と水混和性有機溶媒との混合溶媒をいう。水混和性有機溶媒とは、水と無制限に混和できる有機溶媒をいい、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール溶媒が挙げられる。水系溶媒は、環境負荷などの観点から水のみが好ましいが、各成分の溶解や分散の観点から、水混和性有機溶媒を併用してもよい。上記混合溶媒における水混和性有機溶媒の割合としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下、20質量%以下または10質量%以下がより好ましく、5質量%以下または2質量%以下がより更に好ましい。
【0032】
その他の任意成分としては、例えば、消泡剤;カルビトール類などの洗浄助剤;エチレングリコール、グリコールエーテル等の溶解助剤;安息香酸ナトリウム、セバシン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール等の腐食防止剤などが挙げられる。
【0033】
アルカリ洗浄用腐食抑制剤は、少なくともアルカリビルダーと混合し、金属洗浄剤とすることができる。アルカリビルダーは、金属洗浄剤の金属洗浄効果を高めるために、そのpHを高く調整するためのものである。アルカリビルダーとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;オルト珪酸ナトリウム、オルト珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム等の珪酸アルカリ金属塩;第3リン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩などが挙げられる。アルカリビルダーは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
金属洗浄剤のpHが高いほど洗浄効果が高いといえる一方で、金属が腐食し易くなるといえる。しかし本発明に係る金属洗浄剤は、アルカリ洗浄用腐食抑制剤を含むことから、pHが高い場合であっても金属の腐食が抑制されている。当該pHとしては、11以上が好ましく、12以上がより好ましく、13以上がより更に好ましい。当該pHの上限は特に制限されないが、例えば15以下とすることができ、14以下が好ましい。アルカリビルダーは、金属洗浄剤のpHが所望の値となるよう配合すればよい。
【0035】
有機ホスホン酸化合物、第2族元素イオンおよびキレート剤以外の成分は、当初からアルカリ洗浄用腐食抑制剤に配合していてもよいし、アルカリビルダーと共にアルカリ洗浄用腐食抑制剤と混合していてもよい。例えば溶媒に関して、アルカリ洗浄用腐食抑制剤が水系溶媒を含む液剤である場合は、アルカリビルダー等を添加するのみであってもよいし、アルカリビルダー等を含む溶液または分散液と混合してもよい。界面活性剤なども、当初からアルカリ洗浄用腐食抑制剤に配合していてもよいし、アルカリビルダーと共にアルカリ洗浄用腐食抑制剤と混合してもよいし、アルカリビルダーと界面活性剤を含む溶液分散液とアルカリ洗浄用腐食抑制剤とを混合してもよい。
【0036】
本発明に係る金属洗浄剤を使って、金属表面を洗浄することができる。洗浄の態様は特に制限されず常法に従えばよいが、例えば、金属を洗浄剤中に浸漬したり、洗浄剤を金属に噴霧したりすればよい。洗浄の際には、殊更に加温する必要はなく常温でよいが、雰囲気温度があまりに低い場合は、適度に加温して洗浄効果を高めることも可能である。洗浄時間も特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば5秒以上、1時間以下とすることができる。当該時間が5秒以上であれば、洗浄効果がより確実に得られ、1時間以下であれば、腐食の進行をより確実に抑制できる。当該時間としては20秒以上が好ましく、また、30分以下が好ましく、20分以下がより好ましい。また、洗浄剤をバフ研磨の如き機械研磨と併用し、機械的な表面研磨と表面清浄化を並行して行なうことも有効であり、特に本発明の金属洗浄剤はAl基金属材に対する腐食作用が極めて低いので、この様な機械研磨との併用により鏡面加工処理する様な場合にも有効に活用できる。本発明に係る金属洗浄剤で金属の表面を清浄化した後は、水洗して洗浄剤成分を除去し、必要によりアルコール、ケトン、エーテルなどで洗浄してから乾燥すると、表面清浄度の極めて高い金属を得ることができる。
【0037】
本発明に係る金属洗浄剤で洗浄すべき金属は特に制限されず、例えば、鋳鉄、鉄鋼などの鉄系金属;銅、亜鉛、アルミニウム、アルミニウム合金などの非鉄系金属が挙げられる。なお、本発明のアルカリ洗浄用腐食抑制剤は、アルカリ洗浄剤中における金属の腐食を高度に防止できるので、アルカリ洗浄液中にて腐食されやすいアルミニウムまたはアルミニウム合金のAl基金属を対象とするアルカリ洗浄液に好適に用いられる。Al基金属としては、Alの他、Alと他の金属、例えばMg,Mn,Fe,Si,Zn,Cu,Cr等との合金に適用することができる。
【0038】
洗浄すべき金属の形状も特に制限されず、板材、棒材、管材、線材、型材などの金属材や、金属部品など、形状や寸法の如何を問わず本発明の金属洗浄剤により洗浄することが可能である。
【実施例
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
実施例1: ソルビトールを含むPBTC溶液
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(以下、「PBTC」と略記する)の50質量%水溶液(「キレストPH-430」キレスト社製,14.5g,0.027モルのPBTCAを含む)に、炭酸カルシウム(関東化学社製,2.68g,0.027モル)を加えて撹拌し、溶解した。得られた溶液に、25%水酸化ナトリウム水溶液(東ソー社製,12.9g,0.081モル)と脱イオン水を加えて溶解し、全量を100gに調整した。以下、当該溶液を「10%PBTC溶液」(Ca/PBTCAモル比=1.0,Na/PBTCAモル比=3.0)という。
ソルビトール70%水溶液(「ソルビトールF」物産フードサイエンス社製,0.286g)と脱イオン水(69.71g)を撹拌混合し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加え、撹拌混合した。得られた溶液に10%PBTC溶液(10.0g)を加えて撹拌混合した。
【0041】
実施例2: エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物を含むPBTC溶液
エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物(「キレストD」キレスト社製,0.40g)と脱イオン水(69.6g)を加えて撹拌溶解し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加えて撹拌混合した。得られた溶液に10%PBTC溶液(10.0g)を加えて撹拌混合した。
【0042】
実施例3: ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム二水和物を含むPBTC溶液
ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム塩(「キレストH」キレスト社製,0.40g)と脱イオン水(69.6g)を加えて撹拌溶解し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加えて撹拌混合した。得られた溶液に10%PBTC溶液(10.0g)を加えて撹拌混合した。
【0043】
実施例4: ジヒドロキシエチルグリシンナトリウムを含むPBTC溶液
50%ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩液(「キレストG-50」キレスト社製,1.20g)と脱イオン水(68.8g)を加えて撹拌溶解し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加えて撹拌混合した。得られた溶液に10%PBTC溶液(10.0g)を加えて撹拌混合した。
【0044】
比較例1: 水酸化ナトリウム水溶液
25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)と脱イオン水(80.0g)を撹拌混合した。
【0045】
比較例2: キレート剤を含まないPBTC溶液
25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)、脱イオン水(70.0g)、および10%PBTC溶液(10.0g)を加えて撹拌混合した。
【0046】
比較例3: シュウ酸ナトリウムを含むPBTC溶液
シュウ酸ナトリウム(関東化学社製,0.40g)と脱イオン水(69.6g)を撹拌溶解し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加えて撹拌混合した。得られた溶液に10%PBTC溶液(10.0g)を加えて撹拌混合した。
【0047】
比較例4: トリエタノールアミンを含むPBTC溶液
トリエタノールアミン(日本触媒社製,0.40g)と脱イオン水(69.6g)を加えて撹拌溶解し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加えて撹拌混合した。得られた溶液に10%PBTC溶液(10.0g)を加えて撹拌混合した。
【0048】
比較例5: エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物溶液
エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物(「キレストD」キレスト社製,1.0g)と脱イオン水(79.0g)を加えて撹拌溶解し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加えて撹拌混合した。
【0049】
比較例6: エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム溶液
40%エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム液(「キレストCa-40」キレスト社製,2.50g)と脱イオン水(77.5g)を加えて撹拌溶解し、更に25%水酸化ナトリウム水溶液(20.0g)を加えて撹拌混合した。
【0050】
試験例1: 安定性評価
実施例1~4および比較例1~6の試料液(50.0g)を透明な100mLガラス容器に入れ、常温で静置した。7日後、下記基準により試料液の外観を目視にて評価した。結果を表1に示す。
〇: 濁り及び沈殿なし
△: 濁りが認められるが沈殿なし
×: 濁り及び沈殿あり
また、7日間静置後、色彩・濁度同時測定器(「COH400」日本電色工業社製)を用い、各試料液の濁度(H)を測定した。結果を表1に示す。
更に、実施例1~4の7日間静置後の外観写真を図1に、比較例1~6の7日間静置後の外観写真を図2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1および図2に示される結果の通り、水酸化ナトリウムとPBTCのCa・Na塩の溶液には、経時的に濁りや沈殿が生じた。その原因としては、水溶性の低い水酸化カルシウムが生じた可能性が考えられる。
かかる濁りや沈殿は、キレート剤としてシュウ酸ナトリウムやトリエタノールアミンを配合しても解消されなかった。
それに対して本発明に係るPBTCのCa・Na塩とキレート剤の混合物では、表1および図1に示される結果の通り、水酸化ナトリウムの存在にもかかわらず濁りや沈殿が生じず、安定なものであった。
【0053】
試験例2: 腐食抑制試験
実施例1~4および比較例1~6の試料液(30g)を各々200mLガラス容器中に秤取り、脱イオン水(120g)を加えて撹拌溶解し、各試料の5倍希釈液を作製し、その温度を20℃に調整した。
60×40×1.0mmのアルミニウム板(JIS H 4000 A1050P,表面積50cm2)を、#320耐水性エメリーペーパーで湿式研磨した後、脱イオン水、メタノール、アセトンを順に使って洗浄することによりアルミニウム試験片を作製した。
各試料液を5倍希釈した供試液に、調製したアルミニウム試験片を15分間浸漬した後、下記式により腐食減量と腐食抑制率を算出した。結果を表2に示す。
腐食減量=試験前の質量-試験後の質量
腐食抑制率(%)=[(空試験の腐食減量-対象供試液での腐食減量)/空試験の腐食減量]×100
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示される結果の通り、水酸化ナトリウム溶液(比較例1)、および有機ホスホン酸化合物を含まずキレート剤のみを含む水酸化ナトリウム溶液(比較例)を用いた場合、金属試料の腐食を防ぐことはできなかった。
また、キレート剤を含まず有機ホスホン酸化合物のみを含む水酸化ナトリウム溶液(比較例2)と、有機ホスホン酸化合物に加えてキレート剤を含むものの、キレート剤がトリエタノールアミンである水酸化ナトリウム溶液(比較例4)を用いた場合、腐食抑制効果が認められたものの、表1に示す結果通り、これら溶液は安定性が十分でない。特に有機ホスホン酸化合物に加えてキレート剤を含むもののキレート剤がシュウ酸ナトリウムである水酸化ナトリウム溶液(比較例3)は、試験中における不溶成分の析出が著しく、正確な測定ができないと判断し、腐食減量と腐食抑制率の算出は行わなかった。
それに対して、有機ホスホン酸化合物に加えて特定のキレート剤を含む水酸化ナトリウム溶液(実施例1~4)は、表1に示す結果の通り安定性に優れる上に、腐食抑制効果にも優れていた。
図1
図2