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特許7362062熱電変換素子の製造方法及び熱電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】熱電変換素子の製造方法及び熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/01 20230101AFI20231010BHJP
   H10N 10/17 20230101ALI20231010BHJP
【FI】
H10N10/01
H10N10/17 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018168741
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020043191
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】590000835
【氏名又は名称】株式会社KELK
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲史
(72)【発明者】
【氏名】福田 克史
(72)【発明者】
【氏名】小矢野 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】下田 達也
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-043808(JP,A)
【文献】特開2001-068746(JP,A)
【文献】特開2017-135361(JP,A)
【文献】特開2012-175781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/01
H10N 10/17
H02N 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に熱電材料を含む熱電膜を形成することと、
前記熱電膜をモールドで押して前記基板の表面に前記熱電膜のパターンを形成することと、
前記基板の表面に形成された前記熱電膜のパターンを加熱して熱電変換素子を生成することと、
を含む熱電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記加熱は、輻射熱による高速熱処理(Rapid Thermal Annealing)を含む、
請求項1に記載の熱電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記基板の表面と平行な前記熱電変換素子の第1断面の面積をS、
前記基板の表面と直交する方向における前記熱電変換素子の寸法を示す高さをL、としたとき、
100[μm ] ≦ S、
5[μm] ≦ L ≦ 100[μm]、
の条件を満足するように、前記熱電膜のパターンを形成する、
請求項1又は請求項2に記載の熱電変換素子の製造方法。
【請求項4】
第1端面と、
第2端面と、
前記第1端面の周縁部と前記第2端面の周縁部とを結ぶ側面と、を備え、
前記第1端面と前記第2端面との温度差により前記第1端面と前記第2端面との間に電位差が発生し、
前記第1端面と平行な第1断面の面積をS、
前記第1端面と直交する方向における前記第1端面と前記第2端面との距離を示す高さをL、としたとき、
100[μm ] ≦ S、
5[μm] ≦ L ≦ 100[μm]、
の条件を満足し、
高さLと面積Sとの比L/Sを形状因子y[1/cm]、としたとき、
y=50000/S、
y=1000000/S、
S=100[μm ]、
y=0.1[1/cm]、
のラインで囲まれた範囲に前記面積S及び前記形状因子yが存在する条件を満足する、
熱電変換素子。
【請求項5】
前記第2端面の外形は、前記第1端面の外形よりも小さく、
前記第1端面と直交する第2断面において、前記側面は前記第1端面に対して傾斜し、
前記第1端面と前記側面とがなす内角をθ1、としたとき、
25[°] ≦ θ1 < 90[°]、
の条件を満足する、
請求項4に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記第1端面と直交する第2断面において、前記第2端面と前記側面とは曲線で結ばれる、
請求項4又は請求項5に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
前記第1端面と直交する第2断面において、前記第2端面と前記側面とは直線で結ばれる、
請求項4又は請求項5に記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子の製造方法及び熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼーベック効果を利用して電力を発生する熱電変換素子が知られている。熱電変換素子の一方の端面が冷却され熱電変換素子の他方の端面が加熱されることによって、熱電変換素子は電力を発生する。熱電変換素子の製造方法の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-040998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱電変換素子の熱電特性を決定する要因の一つとして、熱電変換素子の高さと断面の面積との比を示す形状因子が挙げられる。熱電変換素子において、適切な形状因子を得ることができれば適切な熱電特性を得ることができる。
【0005】
本発明の態様は、適切な形状因子を有する熱電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、基板の表面に熱電材料を含む熱電膜を形成することと、前記熱電膜をモールドで押して前記基板の表面に前記熱電膜のパターンを形成することと、前記基板の表面に形成された前記熱電膜のパターンを加熱して熱電変換素子を生成することと、を含む熱電変換素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、適切な形状因子を有する熱電変換素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る熱電発電モジュールを模式的に示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る熱電変換素子を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、第1実施形態に係る熱電変換素子を模式的に示す断面図である。
図4図4は、第1実施形態に係る熱電変換素子を模式的に示す平面図である。
図5図5は、第1実施形態に係る熱電変換素子の製造方法を示すフローチャートである。
図6図6は、第1実施形態に係る熱電変換素子の製造方法を示す模式図である。
図7図7は、第1実施形態に係る熱電変換素子の製造方法を示す模式図である。
図8図8は、第1実施形態に係る熱電変換素子の製造方法を示す模式図である。
図9図9は、第1実施形態に係る熱電変換素子の製造方法を示す模式図である。
図10図10は、熱電変換素子の形状因子と最大電流値との関係を示す図である。
図11図11は、熱電変換素子の形状因子と断面の面積との関係を示す図である。
図12図12は、第2実施形態に係る熱電変換素子を模式的に示す斜視図である。
図13図13は、第2実施形態に係る熱電変換素子を模式的に示す平面図である。
図14図14は、第3実施形態に係る熱電変換素子を模式的に示す断面図である。
図15図15は、第4実施形態に係る熱電変換素子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向、所定面内においてX軸と直交するY軸と平行な方向をY軸方向、所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。X軸とY軸とZ軸とは直交する。また、X軸及びY軸を含む平面をXY平面、Y軸及びZ軸を含む平面をYZ平面、Z軸及びX軸を含む平面をXZ平面とする。XY平面は所定面と平行である。XY平面とYZ平面とXZ平面とは直交する。
【0011】
[第1実施形態]
<熱電発電モジュール>
図1は、本実施形態に係る熱電発電モジュール100を模式的に示す斜視図である。熱電発電モジュール100は、XY平面内に配置される複数の熱電変換素子10と、熱電変換素子10の-Z側に配置される第1基板110と、熱電変換素子10の+Z側に配置される第2基板120と、熱電変換素子10と第1基板110との間に配置される電極130と、熱電変換素子10と第2基板120との間に配置される電極140と、リード線150とを備える。
【0012】
熱電変換素子10は、例えばビスマステルル系化合物(Bi-Te)のような熱電材料を含む。熱電変換素子10は、P型熱電半導体素子である第1熱電変換素子10Pと、N型熱電半導体素子である第2熱電変換素子10Nとを含む。第1熱電変換素子10P及び第2熱電変換素子10Nのそれぞれは、XY平面内に複数配置される。X軸方向において、第1熱電変換素子10Pと第2熱電変換素子10Nとは交互に配置される。Y軸方向において、第1熱電変換素子10Pと第2熱電変換素子10Nとは交互に配置される。
【0013】
複数の熱電変換素子10のそれぞれは、第1端面11及び第2端面12を有する。第1端面11は、熱電変換素子10の-Z側の端面である。第2端面12は、熱電変換素子10の+Z側の端面である。第1端面11は、XY平面と実質的に平行である。第2端面12は、XY平面と実質的に平行である。
【0014】
電極130は、隣接する一対の第1熱電変換素子10P及び第2熱電変換素子10Nのそれぞれに接続される。電極130は、隣接する第1熱電変換素子10Pの第1端面11と第2熱電変換素子10Nの第1端面11とを接続する。
【0015】
電極140は、隣接する一対の第1熱電変換素子10P及び第2熱電変換素子10Nのそれぞれに接続される。電極140は、隣接する第1熱電変換素子10Pの第2端面12と第2熱電変換素子10Nの第2端面12とを接続する。
【0016】
第1基板110は、複数の電極130を支持する。第1基板110は、セラミックス又はポリイミドのような電気絶縁材料によって形成される。第1基板110は、上面110A及び下面110Bを有する。上面110A及び下面110Bのそれぞれは、XY平面と平行である。第1基板110は、第1熱電変換素子10P、第2熱電変換素子10N、及び電極130の-Z側に配置される。複数の電極130のそれぞれは、第1基板110の上面110Aに接続される。
【0017】
第2基板120は、複数の電極140を支持する。第2基板120は、セラミックス又はポリイミドのような電気絶縁材料によって形成される。第2基板120は、上面120A及び下面120Bを有する。上面120A及び下面120Bのそれぞれは、XY平面と平行である。第2基板120は、第1熱電変換素子10P、第2熱電変換素子10N、及び電極140の+Z側に配置される。複数の電極140のそれぞれは、第2基板120の下面120Bに接続される。
【0018】
Z軸方向において、熱電変換素子10は、第1基板110と第2基板120との間に配置される。第1基板110が冷却され、第2基板120が加熱されることによって、熱電変換素子10の第1端面11と第2端面12との間に温度差が与えられる。P型熱電半導体素子である第1熱電変換素子10Pの第1端面11と第2端面12との間に温度差が与えられると、第1熱電変換素子10Pにおいて、第2端面12から第1端面11に向かって正孔が移動する。N型熱電半導体素子である第2熱電変換素子10Nの第1端面11と第2端面12との間に温度差が与えられると、第2熱電変換素子10Nにおいて、第2端面12から第1端面11に向かって電子が移動する。正孔及び電子の移動により、第1端面11と第2端面12との間に電位差が発生する。熱電変換素子10において、第1端面11と第2端面12との温度差により、第1端面11と第2端面12との間に電位差が発生する。
【0019】
第1熱電変換素子10Pと第2熱電変換素子10Nとは電極130及び電極140を介して接続される。第1端面11と第2端面12との間に電位差が発生し、電極130と電極140との間に電位差が発生することにより、熱電発電モジュール100は電力を発生する。電極130にリード線150が接続される。熱電発電モジュール100は、リード線150を介して電力を出力する。
【0020】
<熱電変換素子>
図2は、本実施形態に係る熱電変換素子10を模式的に示す斜視図である。図3は、本実施形態に係る熱電変換素子10を模式的に示す断面図である。図3は、YZ平面と平行な熱電変換素子10の断面図である。図4は、本実施形態に係る熱電変換素子10を模式的に示す平面図である。図2図3、及び図4に示すように、熱電変換素子10は、第1端面11と、第2端面12と、第1端面11の周縁部と第2端面12の周縁部とを結ぶ側面13とを備える。
【0021】
第1端面11は、熱電変換素子10の-Z側の端面である。第2端面12は、熱電変換素子10の+Z側の端面である。第1端面11は、XY平面と平行である。第2端面12は、XY平面と平行である。第1端面11と第2端面12との温度差により、第1端面11と第2端面12との間に電位差が発生する。電流は、熱電変換素子10の内部において、第1端面11と第2端面12との間をZ軸方向に流れる。
【0022】
第1端面11(XY平面)と平行な熱電変換素子10の断面(第1断面)の面積をS、第1端面11と直交するZ軸方向における第1端面11と第2端面12との距離を示す高さをL、としたとき、本実施形態に係る熱電変換素子10は、以下の(1)式及び(2)式の条件を満足する。
【0023】
100[μm] ≦ S …(1)
5[μm] ≦ L ≦ 100[μm] …(2)
【0024】
本実施形態において、XY平面と平行な熱電変換素子10の断面(第1断面)の外形は、実質的に正方形である。図2図3、及び図4において、XY平面と平行な熱電変換素子10の断面の外形の4つの辺のうち2つの辺はX軸と並行であり、2つの辺はY軸と平行である。
【0025】
XY平面内において、第2端面12の外形は、第1端面11の外形よりも小さい。YZ平面と平行な熱電変換素子10の断面(第2断面)において、側面13は第1端面11に対して傾斜する。YZ平面内において、側面13は、直線状である。また、YZ平面内において、側面13と第1端面11との間に角部が形成され、側面13と第2端面12との間に角部が形成される。
【0026】
図3に示すように、第1端面11と側面13とがなす内角をθ1、としたとき、本実施形態に係る熱電変換素子10は、以下の(3)式の条件を満足する。
【0027】
25[°] ≦ θ1 < 90[°] …(3)
【0028】
熱電変換素子10は、第1端面11から第2端面12に向かって断面の面積Sが徐々に小さくなるテーパ状である。
【0029】
なお、XZ平面と平行な熱電変換素子10の断面の外形及び大きさは、YZ平面と平行な熱電変換素子10の断面の外形及び大きさと実質的に等しい。
【0030】
本実施形態において、熱電変換素子10の断面の面積Sとは、Z軸方向の中央における熱電変換素子10の断面の面積をいう。すなわち、面積Sは、第1端面11から+Z方向に[L/2]だけ離れた位置における断面の面積をいう。
【0031】
<熱電変換素子の製造方法>
図5は、本実施形態に係る熱電変換素子10の製造方法を示すフローチャートである。図6図7図8、及び図9のそれぞれは、本実施形態に係る熱電変換素子10の製造方法を示す模式図である。
【0032】
(ステップS1:熱電インクを生成)
熱電変換素子10を製造するための熱電インクLQが生成される。熱電インクLQは、熱電材料の微粒子を溶媒に分散することによって生成される。
【0033】
熱電材料として、ビスマス(Bi)、ビスマステルル系化合物(Bi-Te)、ビスマスアンチモン系化合物(Bi-Sb)、鉛テルル系化合物(Pb-Te)、コバルトアンチモン系化合物(Co-Sb)、イリジウムアンチモン系化合物(Ir-Sb)、コバルト砒素系化合物(Co-As)、シリコンゲルマニウム系化合物(Si-Ge)、銅セレン系化合物(Cu-Se)、ガドリウムセレン系化合物(Gd-Se)、炭化ホウ素系化合物、テルル系ペロブスカイト酸化物、希土類硫化物、TAGS系化合物(GeTe-AgSbTe)、ホイスラー型TiNiSn、FeNbSb、TiCoSb系物質等が例示される。
【0034】
溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、アセトン、トルエン、及びヘキサンのような有機溶媒が例示される。溶媒は、複数の有機溶媒の混合溶媒でもよいし、単独で使用されてもよい。また、溶媒は水を含んでもよい。
【0035】
本実施形態において、熱電インクLQは、ビスマステルル系化合物の微粒子を有機溶媒に分散することによって生成される。
【0036】
(ステップS2:基板を洗浄)
基板Wが準備され、基板Wの表面が洗浄される。例えばプラズマアッシング処理により基板Wの表面が洗浄される。
【0037】
基板Wとして、例えばシリコンウェハが例示される。なお、基板Wは、アルミナ(Al)又は窒化アルミニウム(AlN)のようなセラミックス基板でもよいし、ポリイミドのような電気絶縁材料で形成された絶縁基板でもよい。また、基板Wは、熱伝導性のよい炭化珪素(SiC)やべリリア(BeO)のような絶縁材料で形成されてもよい。
【0038】
(ステップS3:ポリマー膜を形成)
基板Wの表面にポリマー膜が生成される。ポリマー膜として、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA:polymethyl methacrylate)を含む膜が例示される。例えばスピンコート法に基づいて、ポリマーと溶媒とを含むポリマーインクが基板Wの表面にコーティングされる。ポリマーインクが基板Wの表面にコーティングされた後、ポリマーインクが乾燥されることにより、基板Wの表面にポリマー膜が形成される。なお、ポリマー膜が形成された後、プラズマエッチング処理によりポリマー膜の厚さが調整されてもよいし、ローラでポリマー膜を加圧して、ポリマー膜の表面が平坦化されてもよい。基板Wの表面にポリマー膜が形成されることにより、後に形成される熱電膜Fにクラックが発生することが抑制される。なお、ポリマー膜は基板Wの表面に形成されなくてもよい。
【0039】
(ステップS4:熱電インクをコーティング)
次に、図6に示すように、ステップS1で生成された熱電インクLQが基板Wの表面にコーティングされる。なお、基板Wの表面にポリマー膜のような材料膜が形成されている場合、基板Wの表面とは、材料膜の表面を含む概念である。例えばスピンコート法又はロールコート法のようなコーティング方法に基づいて、熱電インクLQが基板Wの表面にコーティングされる。
【0040】
図6に示す例においては、基板Wが基板ホルダ20Aに保持される。基板ホルダ20Aは、基板Wの表面とXY平面とが平行となるように、基板Wを保持する。基板ホルダ20Aに保持されている基板Wの表面にディスペンサ25から熱電インクLQが供給される。ディスペンサ25から熱電インクLQが供給されている状態で、基板ホルダ20Aが回転する。これにより、スピンコート法に基づいて、熱電インクLQが基板Wの表面にコーディングされる。
【0041】
(ステップS5:熱電膜を形成)
熱電インクLQが基板Wの表面にコーティングされた後、熱電インクLQに含まれる溶媒の少なくとも一部を除去するために、熱電インクLQが乾燥される。熱電インクLQが乾燥されることにより、図7に示すように、基板Wの表面に熱電材料を含む熱電膜Fが形成される。熱電インクLQを乾燥する方法として、加熱乾燥、自然乾燥、及び減圧乾燥の少なくとも一つが例示される。本実施形態においては、基板Wが基板ホルダ20Bに保持され、20[℃]以上50[℃]以下の雰囲気に設置される。これにより、熱電インクLQが乾燥され、基板Wの表面に熱電膜Fが形成される。なお、熱電膜Fが形成された後、ローラが熱電膜Fを加圧して、熱電膜Fの表面を平坦化してもよい。
【0042】
(ステップS6:離型剤をコーティング)
熱電膜Fが形成された後、熱電膜Fの表面に離型剤がコーティングされる。
【0043】
(ステップS7:モールドでパターンを形成)
次に、図8に示すように、基板Wが基板ホルダ20Cに保持されている状態で、モールド30が熱電膜Fを押すことにより、基板Wの表面に熱電膜FのパターンPAが形成される。モールド30は、例えばステンレス鋼のような金属製である。モールド30は、熱電変換素子10の目標形状に合わせた凹凸状の型を有する。基板ホルダ20Cは、基板Wの表面(熱電膜Fの表面)とXY平面とが平行となるように、基板Wを保持する。モールド30は、熱電膜Fの表面と対向する位置に配置された後、-Z方向に移動して、熱電膜Fを押す。
【0044】
本実施形態において、パターンPAの形成は、例えば85[℃]の大気雰囲気において実施される。なお、基板Wを保持する基板ホルダ20Cが85[℃]に加熱されてもよいし、モールド30が85[℃]に加熱されてもよい。モールド30が熱電膜Fを20[MPa]の力で5分間押すことによって、熱電膜FのパターンPAが形成される。なお、パターンPAの形成は、例えば85[℃]の不活性ガス雰囲気において実施されてもよい。
【0045】
ステップS7において、上述の(1)式及び(2)式の条件を満足するように、パターンPAが形成される。熱電変換素子10の面積Sは、基板Wの表面と平行な断面(第1断面)の面積を示す。熱電変換素子10の高さLは、基板Wの表面と直交するZ軸方向における熱電変換素子10の寸法を示す。
【0046】
また、ステップS7において、上述の(3)式の条件を満足するように、パターンPAが形成される。すなわち、パターンPAは、第1端面11から第2端面12に向かって断面の面積Sが徐々に小さくなるテーパ状に形成される。モールド30は、パターンPAの目標形状に合わせた凹凸状の型を有する。モールド30の凹凸状の型及びパターンPAがテーパ状なので、モールド30で熱電膜FにパターンPAを形成した後、モールド30と熱電膜Fとを円滑に離すことができる。
【0047】
(ステップS8:加熱)
熱電膜FのパターンPAが形成された後、基板Wが基板ホルダ20Cから搬出される。図9に示すように、基板ホルダ20Cから搬出された基板Wは、アニール装置50に搬送される。アニール装置50において、基板Wの表面に形成された熱電膜FのパターンPAが加熱される。パターンPAの加熱は、輻射熱による高速熱処理(RTA:Rapid Thermal Annealing)を含む。
【0048】
本実施形態においては、基板Wがアニール装置50のチャンバ52に収容され、400[℃]以上550[℃]以下のアルゴンガスの不活性ガス雰囲気において、ランプ54の輻射熱による加熱が5分間実施される。
【0049】
加熱によって熱電膜FのパターンPAが焼成されることにより、基板Wの表面に熱電変換素子10が生成される。
【0050】
高速熱処理を含む加熱が実施され、パターンPAが焼成されることにより、製造される熱電変換素子10の熱電特性及び機械特性(剛性)が向上する。また、高速熱処理が実施されることにより、熱電変換素子10における結晶粒の成長(巨大化)が抑制され、50[nm]以上1[μm]以下の微小な結晶粒径を有する熱電変換素子10が生成される。また、熱電膜FのパターンPAが不活性ガス雰囲気において加熱されることにより、製造される熱電変換素子10の酸化が抑制される。
【0051】
<形状因子>
上述のように、XY平面と平行な熱電変換素子10の断面の面積をS、Z軸方向における熱電変換素子10の高さをL、としたとき、(1)式及び(2)式の条件を満足するように、熱電変換素子10が製造される。高さLと面積Sとの比(L/S)は、形状因子と呼ばれる。
【0052】
形状因子は、熱電変換素子10の最大電流値Imaxを決定する。最大電流値Imaxとは、第1端面11と第2端面12とに温度差を与えた場合に第1端面11と第2端面12との間に流れることができる電流の最大値をいう。第1端面11と第2端面12との温度差が大きいほど熱電変換素子10の内部を流れる電流値は大きくなるものの、第1端面11と第2端面12との温度差が所定値以上になると、電流値は飽和して一定値(最大値)に維持される。最大電流値Imaxとは、第1端面11と第2端面12との温度差が所定値以上になったときに飽和する電流値の最大値をいう。
【0053】
図10は、熱電変換素子10の形状因子yと最大電流値Imaxとの関係を示す図である。形状因子yは、高さLと面積Sとの比(L/S)である(y=L/S)。熱電変換素子10の熱電材料が同じである場合、図10に示すように、形状因子yが小さいほど最大電流値Imaxは大きくなり、形状因子yが大きいほど最大電流値Imaxは小さくなる。例えば、面積Sが大きいほど最大電流値Imaxは大きくなり、面積Sが小さいほど最大電流値Imaxは小さくなる。高さLが小さいほど最大電流値Imaxは大きくなり、高さLが大きいほど最大電流値Imaxは小さくなる。
【0054】
図11は、熱電変換素子10の形状因子yと断面の面積Sとの関係を示す図である。図11は、熱電変換素子10がビスマステルル系化合物(Bi-Te)の熱電材料によって形成されているときの熱電変換素子10の形状因子yと面積Sとの関係を示す。
【0055】
図11に示すように、面積S[μm]を横軸とし、形状因子y[1/cm]を縦軸としたダイアグラムを描いたとき、熱電変換素子10は、以下の(4)式、(5)式、(6)式、及び(7)式で示されるラインで囲まれた範囲Aに面積S及び形状因子yが存在する条件を満足する。
【0056】
y=50000/S …(4)
y=1000000/S …(5)
S=100[μm] …(6)
y=0.1[1/cm] …(7)
【0057】
図11において、ラインLaは、(4)式で示される。ラインLbは、(5)式で示される。ラインLcは、(6)式で示される。ラインLdは、(7)式で示される。範囲Aは、ラインLaと、ラインLbと、ラインLcと、ラインLdとで囲まれた範囲である。
【0058】
本実施形態においては、基板W上に形成された熱電膜Fをモールド30で押すことによって基板Wの表面に熱電膜FのパターンPAが形成されるので、面積S及び形状因子yが範囲Aに存在するように、熱電変換素子10を形成することができる。
【0059】
例えば、熱電変換素子10を用いて光通信におけるレーザダイオードを温度調整する場合、5[mA]以上50[A]以下の最大電流値Imaxを得ることができる熱電変換素子10が必要であり、大吸熱量が要求される一般の熱交換器を温度調整する場合、50[A]以上の最大電流値Imaxを得ることができる熱電変換素子10が必要であると言われている。
【0060】
本実施形態においては、形状因子yが0.1未満の熱電変換素子10も製作可能であるが、最大電流値Imaxが500Aを超える場合には、熱電素子間や配線部分でのジュール熱が高くなることを考慮すると、y=0.1を下限値とするのが現実的である。
【0061】
モールド30を使用せずに、例えば蒸着法又はスパッタリング法のような既存の薄膜製造方法に基づいて熱電半導体素子を製造する場合、高さLを十分に大きくすることが困難である。既存の薄膜製造方法に基づいて製造可能な熱電変換素子の高さLの最大値は0.1[μm]程度と言われている。高さLが0.1[μm]であり、500[mA]以上50[A]以下の最大電流値Imaxを得ることができる熱電変換素子を製造しようとする場合、熱電変換素子の面積Sを100[μm]以下にする必要がある。すなわち、既存の薄膜製造方法では、図11において、以下の(8)式で示されるラインLeと、(9)式で示されるラインLfと、上述の(7)式で示されるラインLdとで囲まれた範囲Bに面積S及び形状因子yが存在する条件を満足する熱電変換素子しか製造することができない。
【0062】
y=1000/S …(8)
S=1[μm] …(9)
【0063】
面積Sが100[μm]以下である熱電変換素子は、温度調整対象であるレーザダイオードに対して非常に小さい寸法である。小さ過ぎる熱電変換素子は、熱電変換モジュールにする際に疎らに実装しなければならず,熱電変換モジュールの信頼性を損ねる可能性がある。また、既存の薄膜製造方法に基づいて大きい高さLの熱電変換素子を製造しようとする場合、成膜時間に相当の時間を要してしまい,現実的ではない。
【0064】
また、モールド30を使用せずに、例えばインクジェット法に基づいて熱電半導体素子を製造する場合、既存の薄膜製造方法よりは高さLを大きくすることができるものの、所望の高さLを得ることは困難である。インクジェット法に基づいて製造可能な熱電変換素子の高さLの最大値は5[μm]程度と言われている。高さLが5[μm]であり、500[mA]以上50[A]以下の最大電流値Imaxを得ることができる熱電変換素子を製造しようとする場合、熱電変換素子の面積Sを5000[μm]以下にする必要がある。すなわち、インクジェット法では、上述の(8)式で示されるラインLeと、(4)式で示されるラインLaと、(9)式で示されるラインLdと、(7)式で示されるラインLfとで囲まれた範囲Cに面積S及び形状因子yが存在する条件を満足する熱電変換素子しか製造することができない。
【0065】
面積Sが5000[μm]以下である熱電変換素子も、温度調整対象であるレーザダイオードに対して非常に小さい寸法である。また、インクジェット法に基づいて大きい高さLの熱電変換素子を製造しようとする場合、インクの吐出と乾燥とを複数回繰り返す必要があり、成膜時間に相当の時間を要してしまい,現実的ではない。
【0066】
また、従来から、熱電変換素子の製造方法として、熱電材料のバルク(bulk:塊)を製造し、バルクを切削加工して、熱電変換素子を製造する方法が知られている。バルクを切削加工することによって熱電変換素子を製造する方法では、熱電変換素子の小型化が困難であり、製造可能な熱電変換素子の高さLの最小値は100[μm]程度であると言われている。高さLが100[μm]であり、500[mA]以上50[A]以下の最大電流値Imaxを得ることができる熱電変換素子を製造しようとする場合、図11において、範囲Dに面積S及び形状因子yが存在する条件を満足する熱電変換素子しか製造することができない。
【0067】
また、バルクを切削加工して熱電変換素子を製造する方法の場合、多量のカーフロスが発生する。したがって、材料使用効率の観点からも不利である。
【0068】
本実施形態においては、熱電膜Fをモールド30で押して基板Wの表面に熱電膜FのパターンPAを形成することによって、熱電変換素子10が製造される。本実施形態に係る製造方法によれば、高さLが5[μm]以上100[μm]以下で、面積Sが100[μm]以上の熱電変換素子10を効率良く製造することができる。すなわち、本実施形態においては、用途に適応する形状因子yを有する熱電変換素子10を効率良く製造することができる。
【0069】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、基板Wの表面に形成された熱電膜Fをモールド30で押してパターンPAを形成することによって、熱電変換素子10を生成するので、(1)式及び(2)式で示される適切な形状因子yを有する熱電変換素子10を効率良く製造することができる。
【0070】
また、例えば熱電材料のバルクを切削加工することにより熱電変換素子を製造する方法に比べて、カーフロスの発生を抑制することができ、高い形状精度を有する熱電変換素子10を製造することができる。
【0071】
また、本実施形態においては、輻射熱による高速熱処理(RTA)によって、基板Wの表面に形成された熱電膜Fが加熱され焼成される。高速熱処理により、焼成後の結晶粒の成長が抑制され、微小な結晶粒径を有する熱電変換素子10が生成される。一般に、熱電変換素子10においては、熱伝導率が小さく結晶粒径が小さいことが好ましい。高速熱処理(RTA)により、結晶粒径を小さくすることができる。
【0072】
熱電材料の性能指数Zは、以下の(10)式で示される。なお、(10)式において、αはゼーベック計数、ρは比抵抗、κは熱伝導率である。
【0073】
Z=α/ρκ …(10)
【0074】
結晶粒径を小さくすることにより、熱伝導率κを小さくすることができる。本実施形態によれば、高速熱処理(RTA)を実施することにより、50[nm]以上1[μm]以下の微小な結晶粒径の熱電変換素子10を製造することができる。
【0075】
また、本実施形態においては、熱電変換素子10は、(3)式の条件を満たす。すなわち、熱電変換素子10は、基板Wの表面から+Z方向に向かって断面の面積Sが小さくなるテーパ状である。これにより、モールド30で熱電膜FにパターンPAを形成した後、モールド30と熱電膜Fとを円滑に離すことができる。
【0076】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0077】
上述の第1実施形態においては、第1端面11及び第2端面12のそれぞれが実質的に正方形であり、第1端面11の4つの辺と第2端面12の4つの辺とのそれぞれを結ぶ4つの側面13が全て、第1端面11に対して傾斜することとした。
【0078】
図12は、本実施形態に係る熱電変換素子10Bを模式的に示す斜視図である。図13は、本実施形態に係る熱電変換素子10Bを模式的に示す平面図である。図12及び図13に示すように、第1端面11がY軸方向に長い長方形状であり、第2端面12がX軸方向に長い長方形状でもよい。第1端面11の+Y側の辺と第2端面12の+Y側の辺とを結ぶ側面13及び第1端面11の-Y側の辺と第2端面12の-Y側の辺とを結ぶ側面13のそれぞれが、第1端面11に対して傾斜し、第1端面11の+X側の辺と第2端面12の+X側の辺とを結ぶ側面13及び第1端面11の-X側の辺と第2端面12の-X側の辺とを結ぶ側面13のそれぞれが、第1端面11に対して直交してもよい。
【0079】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0080】
図14は、本実施形態に係る熱電変換素子10Cを模式的に示す断面図である。図14に示すように、YZ平面と平行な熱電変換素子10Cの断面において、第2端面12と側面13とは曲線14で結ばれてもよい。すなわち、第2端面12と側面13との間の角部が丸み面取り(R面取り)されてもよい。
【0081】
[第4実施形態]
第4実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0082】
図15は、本実施形態に係る熱電変換素子10Dを模式的に示す断面図である。図15に示すように、YZ平面と平行な熱電変換素子10Dの断面において、第2端面12と側面13とは直線15で結ばれてもよい。すなわち、第2端面12と側面13との間の角部が角面取り(C面取り)されてもよい。
【0083】
[他の実施形態]
上述の実施形態においては、熱電変換素子10(10B,10C,10D)は、第1端面11から第2端面12に向かって断面の面積Sが徐々に小さくなるテーパ状であることとした。熱電変換素子10において、第1端面11の外形及び大きさと第2端面12の外形及び大きさとは、等しくてもよい。すなわち、熱電変換素子10は、テーパ状でなくてもよい。
【0084】
上述の実施形態においては、基板Wの表面と平行な熱電変換素子10(10B,10C,10D)の断面の外形は、四角形(正方形状又は長方形状)であることとした。熱電変換素子10の断面の外形は、任意に設定可能である。熱電変換素子10の断面の外形は、例えば菱形でもよいし、平行四辺形でもよい。また、熱電変換素子10の断面の外形は、四角形に限定されない。熱電変換素子10の断面の外形は、例えば五角形でもよいし、六角形でもよいし、八角形でもよいし、円形でもよいし、楕円形でもよい。なお、熱電変換素子10の断面の外形を四角形にすることにより、基板Wの表面における熱電変換素子10の占有率を高く保つことができるため有利である。
【符号の説明】
【0085】
10…熱電変換素子、10B…熱電変換素子、10C…熱電変換素子、10D…熱電変換素子、10P…第1熱電変換素子、10N…第2熱電変換素子、11…第1端面、12…第2端面、13…側面、14…曲線、15…直線、20A…基板ホルダ、20B…基板ホルダ、20C…基板ホルダ、25…ディスペンサ、30…モールド、50…アニール装置、52…チャンバ、54…ランプ、100…熱電発電モジュール、110…第1基板、110A…上面、110B…下面、120…第2基板、120A…上面、120B…下面、130…電極、140…電極、150…リード線、A…範囲、B…範囲、C…範囲、D…範囲、F…熱電膜、Imax…最大電流値、L…高さ、La…ライン、Lb…ライン、Lc…ライン、Ld…ライン、Le…ライン、Lf…ライン、LQ…熱電インク、PA…パターン、S…面積、W…基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15