(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】キャリア及び電子写真用現像剤
(51)【国際特許分類】
G03G 9/113 20060101AFI20231010BHJP
G03G 9/107 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
G03G9/113 362
G03G9/113 351
G03G9/113 354
G03G9/107 321
(21)【出願番号】P 2017154565
(22)【出願日】2017-08-09
【審査請求日】2020-05-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】佐久田 綾
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】澤本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】植村 哲也
【合議体】
【審判長】杉山 輝和
【審判官】河原 正
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-258700(JP,A)
【文献】特開2017-122884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性芯材の表面が界面活性剤を含む、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の樹脂混合物で被覆されたキャリアであって、
溶出試験による水に対する溶出物の溶出量が180ppm以上3500ppm以下であること、
を特徴とするキャリア。
【請求項2】
フッ素元素含有樹脂は、
四フッ化エチレン・
六フッ化プロピレン共重合体及び
四フッ化エチレ
ンパーフ
ルオロアルキルビ
ニルエーテル共重合体から選択される一種以上である請求項1に記載のキャリア。
【請求項3】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である請求項1又は請求項2に記載のキャリア。
【請求項4】
前記磁性芯材がフェライト粒子からなる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のキャリア。
【請求項5】
前記樹脂混合物におけるフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の含有量が質量比で9:1~2:8である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のキャリア。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のキャリアを含むことを特徴とする電子写真用現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア芯材の表面が樹脂で被覆されたキャリア、該キャリアを用いた電子写真用現像剤及びキャリアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナーを感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法をいう。現在、電子写真現像方法として、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が広く採用されている。この方法で使用される現像剤は、トナーとキャリアからなる二成分系現像剤と、トナーのみを用いる一成分系現像剤とに分けられる。
【0003】
二成分系現像剤において、キャリアは、トナーと混合・攪拌され、トナーを帯電させ、さらに搬送する機能を有している。一成分系現像剤と比較すると二成分系現像剤は、現像剤を設計する際の制御性が良い。従って、高画質が要求されるフルカラー現像装置、画像維持の信頼性、耐久性が要求される高速印刷を行う装置等において、二成分系現像剤が広く用いられている。
【0004】
現像槽内ではキャリアとトナーとが混合・攪拌される。その際の発熱や物理的ストレスによりキャリア粒子の表面にトナーが融着することがある。これをキャリアのスペントという。現像剤の使用と共に、キャリアのスペント化が進むと、キャリアの帯電特性が経時的に低下し、カブリやトナー飛散等の画質劣化が生じる。そのため、一定期間経過後は、現像槽内の現像剤全体を取り替える必要が生じる。
【0005】
そこで、キャリアのスペントを防止し、現像剤の長寿命化を図るため、従来より、例えば、フッ素樹脂で磁性芯材の表面を被覆することが提案されている。フッ素樹脂は表面エネルギーが低く、磁性芯材の表面をフッ素樹脂で被覆すれば、キャリアのスペントを防止することができる。一方、フッ素樹脂は他の材料との接着性が悪いため、フッ素樹脂のみからなる樹脂被覆層を磁性芯材の表面に形成することは困難である。そのため、例えば、特許文献1(特開2005-99489号公報)には、磁性芯材の表面をフッ素樹脂及びポリアミドイミド樹脂等の樹脂混合物で被覆したキャリアが提案されている。ポリアミドイミド樹脂等は、フッ素樹脂を磁性芯材の表面に密着させるためのバインダー成分として用いられている。
【0006】
当該特許文献1では、磁性芯材の表面に上記樹脂混合物からなる樹脂被覆層を形成する方法として、フッ素樹脂と、ポリアミドイミド樹脂等のバインダー成分と、磁性芯材とを、溶剤と共に混合撹拌しながら加熱する方法が採用されている。しかしながら、このような方法では、フッ素樹脂とバインダー成分とを均一に混合することが困難であり、磁性芯材の表面にフッ素樹脂とバインダー成分とが均一に混合された樹脂混合物からなる樹脂被覆層を均一な膜厚で形成することは困難であった。
【0007】
そこで、特許文献2(特許第4646781号公報)では、無水トリメット酸と4,4’-ジアミノジフェニルメタンとの共重合体からなるポリアミドイミド樹脂を水に溶解させたポリアミドイミド樹脂溶液に、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体又は4フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体から選択されるフッ素樹脂を酸化ケイ素と共に分散させた樹脂溶液を調製し、当該樹脂溶液を磁性芯材の表面に被覆することにより、フッ素樹脂及びポリアミドイミド樹脂を含む樹脂混合物で磁性芯材の表面が被覆されたキャリアを得ることが提案されている。また、特許文献3(特許第5405159号公報)では、界面活性剤を用いて上記樹脂溶液を調製することが記載されている。
【0008】
これらの方法では、ポリアミドイミド樹脂溶液にフッ素樹脂を分散させることで、特許文献1に記載の方法と比較すると、フッ素樹脂とバインダー成分との混合状態が良好になる。しかしながら、ポリアミドイミド樹脂溶液は粘度が高いため、界面活性剤等を用いてもフッ素樹脂とバインダー成分とを均一に混合することはやはり困難であった。また、ポリアミドイミド樹脂溶液の磁性芯材に対する濡れ性は低い。そのため、当該樹脂溶液を磁性芯材の表面に均一な膜厚で塗布することは難しく、樹脂被覆層を磁性芯材の表面に均一な膜厚で形成することは困難であった。そのため、耐スペント性及び帯電安定性がより良好なキャリア、該キャリアを用いた電子写真用現像剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-99489号公報
【文献】特許第4646781号公報
【文献】特許第5405159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来に比して耐スペント性及び帯電安定性の良好なキャリア、該キャリアを用いた電子写真用現像剤及び該キャリアの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題を解決するために、本発明に係るキャリアは、磁性芯材の表面が界面活性剤を含む、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の樹脂混合物で被覆されたキャリアであって、溶出試験による水に対する溶出物の溶出量が180ppm以上3500ppm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のキャリアにおいて、フッ素元素含有樹脂は、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体及び四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から選択される一種以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のキャリアにおいて、前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0014】
本発明のキャリアにおいて、前記磁性芯材がフェライト粒子からなることが好ましい。
【0015】
本発明のキャリアにおいて、前記樹脂混合物におけるフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の含有量が質量比で9:1~2:8であることが好ましい。
【0016】
上記課題を解決するため、本発明に係る電子写真用現像剤は、上記本発明に係るキャリアを含むことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明に係るキャリアの製造方法は、磁性芯材の表面が樹脂で被覆されたキャリアを製造するキャリアの製造方法であって、フッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂とを界面活性剤と共に分散媒に分散させた樹脂層形成液を調製し、前記磁性芯材の表面を前記樹脂層形成液で被覆し、前記磁性芯材の表面が、界面活性剤を含む、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の樹脂混合物で被覆されたキャリアを得ることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るキャリアの製造方法において、前記樹脂層形成液に対して、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の全量を100質量部としたとき、界面活性剤を1.0質量部以上50質量部以下添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来に比して耐スペント性及び帯電安定性の良好なキャリア及び該キャリアの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るキャリア、電子写真用現像剤及びキャリアの製造方法の実施の形態を説明する。
【0021】
1.キャリア
まず、本発明に係るキャリアの実施の形態について説明する。本発明に係るキャリアは、磁性芯材の表面が界面活性剤を含む、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の樹脂混合物で被覆されたキャリアであって、溶出試験による水に対する溶出物の溶出量が180ppm以上3500ppm以下であることを特徴とする。
【0022】
(1)磁性芯材
本件発明において磁性芯材は、例えば、電子写真用現像剤のキャリアに要求される磁性等を満足するものであれば特に限定されるものではなく、フェライト等の磁性成分と、樹脂等の非磁性成分との混合物からなる磁性芯材なども用いることができる。しかしながら、本発明において磁性芯材として、各種フェライトを好ましく用いることができ、球状フェライトをより好ましく用いることができる。フェライトの組成は特に制限されるものではないが、例えば、下記式で表される組成を有することが好ましい。
【0023】
(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z
但し、x+y+z=100mol%
x=35mol%~45mol%
y= 5mol%~15mol%
z=40mol%~55mol%
【0024】
ここで、上記式において、(MnO)及び/又は(MgO)の一部を、SrO、Li2O、CaO、TiO、CuO、ZnO、NiO、Bi2O3、ZrO2 から選ばれる1種類以上の酸化物で置換してもよい。このとき、(MnO)及び/又は(MgO)の一部をSrOで置換することがより好ましい。
【0025】
このような組成のフェライトは磁化が高く、磁化の均一性がよい。すなわち粒子間の磁化のバラツキが少なく、画質及び耐久性に優れたキャリアが得られる。そのため、本発明では上記式で表される組成のフェライトを好ましく用いることができる。
【0026】
上記式において、(MnO)及び/又は(MgO)の一部を上記列挙した酸化物から選ばれる1種類以上の酸化物で置換する場合、その置換量は0.35mol%以上であることが好ましく、5.0mol%以下であることが好ましい。当該置換量を0.35mol以上5.0mol%以下とすることにより、粒子間の磁化のバラツキを低減することがより容易になる。また、フェライトにおける残留磁化、保持力の発生を低減し、粒子間の凝集を抑制することができる。当該効果を得る上で、上記置換量は3.5mol%以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、本件明細書においてフェライトとは、特記しない限り個々のフェライト粒子の集合体を意味するものとする。
【0028】
(2)樹脂混合物
本件発明のキャリアは、上記磁性芯材の表面が界面活性剤を含む、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の樹脂混合物で被覆されている。以下、磁性芯材の表面を被覆する樹脂混合物の層を樹脂被覆層と称する。
【0029】
i)フッ素元素含有樹脂
フッ素元素含有樹脂は、分子構造中にフッ素を含有する樹脂をいい、特に、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる樹脂(主としてフッ素樹脂)をいう。磁性芯材の表面をフッ素元素含有樹脂を含む樹脂混合物で被覆することにより、トナーとの撹拌時等にキャリアとトナーとが衝突しても、キャリアの表面にトナーが付着しにくくなり、キャリアのスペントを防止することができる。
【0030】
フッ素元素含有樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ素化エチレン樹脂(PTFE))、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ素化エチレン樹脂(PCTFE,CTFE))、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA))、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などのフッ素樹脂が挙げられる。
【0031】
本発明では、フッ素元素含有樹脂として、特に、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及び四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)から選択される一種類以上を用いることが好ましい。四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及び四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)は、ポリテトラフルオロエチレンと同等の耐薬品性、耐熱性、電気特性を有する一方、ポリテトラフルオロエチレンと比較すると耐摩耗性及び加工性に優れている。従って、磁性芯材に設けられる樹脂被覆層に要求される特性を満たすと共に、その取り扱いが良好である。
【0032】
フッ素元素含有樹脂は摩擦係数が低く、トナーの付着を防止することができる。その一方、フッ素元素含有樹脂は接着性が低く、磁性芯材の表面にフッ素元素含有樹脂を密着させることは困難である。そこで、本発明ではフッ素元素含有樹脂を磁性芯材の表面に密着させるためのバインダー(接着成分)として、次に説明するポリイミド樹脂を用いる。
【0033】
ii)ポリイミド樹脂
ポリイミド樹脂は熱硬化性樹脂である。熱硬化後のポリイミド樹脂とフェライト等の無機材料との密着性は良好である。また、熱硬化後のポリイミド樹脂は耐熱性が高い。そのため、ポリイミド樹脂をバインダーとすることにより、フッ素元素含有樹脂を磁性芯材の表面に強固に密着させることができる。
【0034】
また、磁性芯材の表面をフッ素元素含有樹脂(フッ素樹脂)で被覆する際にバインダーとして従来用いられていたポリアミドイミド樹脂と比較すると、ポリイミド樹脂の熱収縮性は低い。一般に、キャリアの製造工程では、磁性芯材の表面を樹脂で被覆した後に、焼付或いはキュア等と称される熱処理を行う場合がある。そのため、磁性芯材の表面を樹脂で完全に被覆したとしても、熱処理時に樹脂が収縮して、磁性芯材の表面の一部が露出することがある。しかしながら、本発明では、ポリイミド樹脂をバインダーとすることにより、ポリアミドイミド樹脂をバインダーとして用いる場合と比較すると、熱処理時の収縮が少ないため、磁性芯材の表面が露出するのを防止することができる。磁性芯材の表面における樹脂被覆率が高く、樹脂剥がれの原因となる磁性芯材の露出が少なくなるため、従来に比して耐久性の高いキャリアを得ることができる。
【0035】
本発明において、ポリイミド樹脂は主鎖中にイミド結合を有する樹脂であればよく、特に限定されるものではない。例えば、芳香族ポリイミド樹脂等を用いることができる。
【0036】
(3)界面活性剤
本発明に係るキャリアは界面活性剤を含み、溶出試験による水に対する溶出物の溶出量が180ppm以上3500ppm以下である。ここで溶出物とは、後述する方法で溶出試験を行ったときにキャリアから水に対して溶出する成分であり、当該溶出物の溶出量は後述する方法で算出された値をいう。キャリアを構成する成分のうち、水に対する溶解性を有する成分は界面活性剤のみである。そのため、後述する溶出試験を行ったときにキャリアから水に対して溶出する成分は界面活性剤であるとみなすことができ、後述する方法で算出された値は水に対する界面活性剤の溶出量であると実質的にみなすことができる。本発明に係るキャリアを製造する方法の一つとして、後述するとおり、樹脂被覆層を形成する際に、フッ素元素含有樹脂と、ポリイミド樹脂とを界面活性剤と共に水に分散させた樹脂被覆層形成液を用いて樹脂被覆層を形成する方法が挙げられる。界面活性剤を含む溶液を用いてキャリアを製造した場合、当該キャリアは界面活性剤を含むものとなる。当該溶出量は、樹脂被覆層における界面活性剤の含有量と相関する。
【0037】
当該溶出量が180ppm未満である場合、フッ素元素含有樹脂と、ポリイミド樹脂とが均一に混合された樹脂混合物によりキャリア芯材の表面を被覆することが困難になる。そのため、耐スペント性及び帯電安定性の良好なキャリア得ることが困難になる。樹脂混合物におけるフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の混合状態をより均一にするという観点から、当該溶出量は、190ppm以上であることがより好ましく、200ppm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
一方、界面活性剤は親水基を有するため、当該キャリアにおける当該溶出量が増加すると、キャリア表面に対する水分付着量が雰囲気湿度の変化によって変動しやすくなる。すなわち、当該溶出量が3500ppmを超えて多くなると、当該キャリアが使用される環境変化に対する帯電量の安定性が低下するおそれがあるため好ましくない。さらに、当該溶出量が3500ppmを超えて多くなると、スペントが発生し易くなる場合がある。スペントが発生すると帯電量安定性が低下するため好ましくない。これらの観点から、当該キャリアにおける当該溶出量は3350ppm以下であることが好ましく、2000ppm以下であることがより好ましく、800ppm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
界面活性剤は、イオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)とに大別される。イオン性界面活性剤は、更に、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤に分類される。本件発明に係るキャリアは、これら4種類の界面活性剤のうち、いずれの界面活性剤を含んでいてもよい。しかしながら、当該キャリアの帯電量を安定に維持するという観点から、非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。イオン性界面活性剤は親水基がイオン性であるため、イオン性界面活性剤の含有量によってキャリアの帯電量が変動する。そのため、イオン性界面活性剤を用いた場合、その含有量によってはキャリアの電気的特性に影響を及ぼす場合がある。一方、非イオン性界面活性剤の場合、親水基が非イオン性であるため、キャリアの電気的特性に界面活性剤の含有量等が与える影響は少ない。そのため、イオン性界面活性剤を用いた場合と比較すると、非イオン性界面活性剤を用いた場合の方がキャリアの帯電量を適正に制御することが容易になる。
【0040】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、エーテル型界面活性剤、エステル型界面活性剤等を用いることができる。エーテル型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。エステル型界面活性剤としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマー等を挙げることができる。
【0041】
なお、アニオン系界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。さらに、カチオン系界面活性剤としては、ラウリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩等を挙げることができる。また、両イオン性界面活性剤としては、アミノカルボン酸塩、アルキルアミノ酸等を挙げることができる。
【0042】
(4)樹脂被覆層
本発明において、上記磁性芯材の表面が界面活性剤を含む、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の樹脂混合物で被覆されていればよく、フッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂の混合状態は特に限定されるものではない。しかしながら、磁性芯材の表面に設けられるこの樹脂被覆層は、粒子状のフッ素元素含有樹脂がバインダー成分としてのポリイミド樹脂により磁性芯材の表面に密着された構成であることが次に示す理由からより好ましい。すなわち、当該構成を採用することにより、フッ素元素含有樹脂の偏在を防止することができる。そのため、樹脂混合物におけるフッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂の混合状態及び膜厚の均一な樹脂被覆層を得ることが容易になり、帯電量分布がシャープなキャリアを得ることができ、耐スペント性、帯電安定性、補給カブリ性の良好な電子写真用現像剤を提供することが可能になる。
【0043】
i)フッ素元素含有樹脂の体積平均粒径
樹脂被覆層において、フッ素元素含有樹脂は体積平均粒径が0.05μm~0.80μmの粒子状に分散されていることが好ましく、その体積平均粒径は0.10μm~0.40μmであることがより好ましい。
【0044】
ii)フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の含有比
上記樹脂混合物におけるフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の含有量が質量比で以下であることが好ましい。
フッ素元素含有樹脂:ポリイミド樹脂=9:1~2:8
【0045】
フッ素は表面エネルギーが小さく、上記樹脂混合物におけるフッ素元素含有樹脂の含有量が多いほど、耐スペント性及び帯電安定性の良好なキャリアを得ることができる。当該観点からは、上記樹脂混合物におけるフッ素元素含有樹脂の含有量は2/10以上であることが好ましく、3/10以上であることがより好ましく、4/10以上であることが一層好ましい。
【0046】
一方、フッ素元素含有樹脂自体の磁性芯材表面に対する密着性は低い。そのため、上記樹脂混合物におけるポリイミド樹脂の含有量が1/10未満になると、トナーとの撹拌時などに受ける発熱や物理的(機械的)ストレスにより、磁性芯材の表面からフッ素元素含有樹脂が離脱する恐れがある。従って、耐スペント性及び帯電安定性を長期間維持することのできる耐久性の高いキャリアを得るという観点から、上記樹脂混合物におけるポリイミド樹脂の含有量は1/10以上であることが好ましい。
【0047】
但し、当該樹脂混合物におけるポリイミド樹脂の含有量の下限値及びフッ素元素含有樹脂の上限値は、耐スペント性の向上及び帯電安定性の向上を図るという観点からは、本来特に限定されるものではなく、フッ素元素含有樹脂を磁性芯材の表面に密着させることができる限り、ポリイミド樹脂の含有量が1/10未満及びフッ素元素含有樹脂の含有量が9/10超であっても本件発明に含まれる。
【0048】
iii)界面活性剤量
本発明に係るキャリアにおいて、樹脂被覆層を構成するフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の混合物全量を100質量部としたとき、界面活性剤を1.0質量部以上50質量部以下含むことが好ましい。当該混合物全量に対する界面活性剤量が当該範囲内であると、溶出物の溶出量が概ね上述した範囲内となる。ここで、樹脂被覆層を構成するフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の混合物全量を100質量部としたとき、界面活性剤は、2.0質量部以上であることが樹脂被覆層におけるフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の混合状態をより均一にするという観点からより好ましい。また、当該キャリアが使用される環境変化に対する帯電量の安定性がより良好になるという観点から、樹脂被覆層を構成するフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の混合物全量を100質量部としたとき、界面活性剤は、40質量部以下であることがより好ましい。なお、ここでいうフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の混合物には界面活性剤は含まれない。
【0049】
iv)被覆量
また、キャリア芯材の表面を上記樹脂混合物により被覆するが、当該樹脂混合物(但し、界面活性を含む)による磁性芯材の被覆量は、磁性芯材に対して好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、一層好ましくは0.5質量%以上5質量%である。当該樹脂混合物による磁性芯材の被覆量が0.01質量%未満であると、磁性芯材の表面に均一な厚みで樹脂被覆層を形成することが困難である。また、当該樹脂混合物による磁性芯材の被覆量が10質量%を超えると、キャリア同士の凝集が発生しやすくなり、キャリアの流動性が低下する。そのため、キャリア付着などが生じやすく、歩留まり低下等、生産性が低下する。また、キャリアの流動性が低いため、実機内でのトナーの撹拌性が低下し、トナーを十分に帯電させることができず、またトナーを静電潜像まで良好に搬送することができず、現像特性の変動の原因となる。
【0050】
v)帯電制御剤/導電剤
樹脂被覆型キャリアでは、一般に、樹脂被覆層内に帯電制御剤や導電剤など、キャリア表面における帯電特性を制御するための種々の添加剤を含むことができる。
例えば、帯電制御剤としてシランカップリング剤が知られている。負極性トナーと共に使用されるキャリアでは、樹脂被覆層内にアミノシランカップリング剤を含むことができ、正極性トナーと共に使用されるキャリアでは、樹脂被覆層内にフッ素系シランカップリング剤を含むことができる。また、導電剤として、樹脂被覆層は、導電性カーボンなどの有機系導電剤、酸化チタン或いは酸化スズ等の無機系導電剤などの導電性微粒子を含むことができる。帯電制御剤/導電剤は必要に応じて添加することのできる任意の添加剤である。
【0051】
(5)体積平均粒径
本発明に係るキャリアは、球状であることが望ましく、その体積平均粒径は20μm以上100μm以下であることが好ましく、30μm以上70μm以下であることがより好ましい。当該キャリアの体積平均粒径が20μm未満であると、キャリアが凝集しやすく、キャリア付着が生じやすくなる。キャリア付着は白斑の原因となるため、好ましくない。また、当該キャリアの体積平均粒径が100μmを超えると、キャリアが大きくなりすぎて、静電潜像を高精細に現像することが困難になる。すなわち、画質が粗くなり、所望の解像度が得られにくくなるため、好ましくない。
【0052】
2.キャリアの製造方法
次に、本発明に係るキャリアの製造方法の実施の形態について説明する。本発明に係るキャリアの製造方法は、磁性芯材の表面が樹脂で被覆されたキャリアを製造するキャリアの製造方法であって、フッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂とを界面活性剤と共に分散媒に分散させた樹脂層形成液を調製し、磁性芯材の表面を樹脂層形成液で被覆し、磁性芯材の表面が界面活性剤を含む、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の樹脂混合物で被覆されたキャリアを得ることを特徴とする。以下、工程毎に順に説明する。
【0053】
(1)樹脂層形成液調製工程
本件発明に係るキャリアの製造方法では、フッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂とを界面活性剤と共に分散媒に分散させた樹脂層形成液を調製する。
【0054】
本件発明によれば、分散媒にフッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂とを界面活性剤と共に分散させることにより、フッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂とが良好に混合した樹脂混合物により磁性芯材の表面を被覆することができる。そのため、樹脂被覆層内におけるフッ素元素含有樹脂の偏在を防止することができ、膜厚の均一な樹脂被覆層を得ることができる。従って、当該方法によれば、帯電量分布がシャープで、耐スペント性、帯電安定性及び補給カブリ性の良好な電子写真用現像剤を提供することが可能になる。
【0055】
フッ素元素含有樹脂については、上記例示した各樹脂を用いることができる。フッ素元素含有樹脂の粉体を用い、当該フッ素元素含有樹脂の粉体を分散媒に分散させることが好ましい。フッ素元素含有樹脂の体積平均粒径は、0.05μm~0.80μmであることが好ましく、0.10μm~0.40μmであることがより好ましい。
【0056】
本発明においてポリイミド樹脂の具体的な分子構造、分子量等は特に限定されるものではない。また、ポリイミド樹脂は、一般に、可溶性のポリイミド樹脂、不溶性のポリイミド樹脂が存在するが、そのいずれを用いてもよい。しかしながら、本件発明では、分散媒に対して不溶性のポリイミド樹脂を用いるものとする。ここで、界面活性剤によりポリイミド樹脂を分散媒に良好に分散させる上で、分散媒は水であることが好ましく、ポリイミド樹脂は常温において液体であることが好ましい。
【0057】
水に対して臨界ミセル濃度以上の濃度になるように界面活性剤を混合すると、界面活性剤は疎水基を内側に、親水基を外側にしてミセルを形成する。このミセルの内側にポリイミド樹脂を取り込ませることにより、水にポリイミド樹脂が分散したコロイドを得ることができる。常温で液体のポリイミド樹脂を用いれば、このようなコロイド溶液を調製することが容易になる。そして、ポリイミド樹脂のコロイド溶液に固体のフッ素元素含有樹脂が分散したような樹脂層形成液を調製することにより、樹脂層形成液の粘度を低く保った状態で、被覆工程が終了するまでの間、分散媒におけるポリイミド樹脂の分散状態を良好に維持することができる。そのため、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂とが均一に混合された樹脂層形成液を得ることができる。
【0058】
ここで、樹脂層形成液を調製する際に、分散媒に対して、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂を分散させる方法は特に限定されるものではない。例えば、分散媒に対して、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂をそれぞれ所定の質量比になるように界面活性剤と共に添加し、これを混合、撹拌することにより樹脂層形成液を調製することができる。また、分散媒に対して、ポリイミド樹脂を界面活性剤と共に添加し、これを混合、撹拌することにより、ポリイミド樹脂のコロイド溶液を調製し、当該コロイド溶液にフッ素元素含有樹脂を所定量添加して、混合、撹拌することにより樹脂層形成液を調製してもよい。このような二段階の調製方法を採用すると、分散媒に対して、ポリイミド樹脂と、フッ素元素含有樹脂を均一に分散させることがより容易になる。また、フッ素元素含有樹脂を予め分散媒に分散させた懸濁液を調製しておき、別途調製したポリイミド樹脂のコロイド溶液に、フッ素元素含有樹脂の懸濁液を添加して、それを混合、撹拌することにより樹脂層形成液を調製してもよい。
【0059】
当該樹脂層形成液を調製する際には、フッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の全量を100質量部としたとき、界面活性剤を1.0質量部以上50質量部以下添加することが好ましい。フッ素元素含有樹脂に対して、界面活性剤を当該範囲内で含む樹脂層形成液を調製することにより、フッ素元素含有樹脂を樹脂層形成液に良好に分散させることができ、上述した効果が得られる。この場合、上記溶出物の溶出量が概ね180ppm~3500ppmの範囲内となる。
【0060】
なお、界面活性剤については、上述したとおりであり、非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。また、樹脂層形成液におけるポリイミド樹脂及びフッ素元素含有樹脂の含有比に関する好ましい数値範囲は、樹脂被覆層におけるこれらの値と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0061】
なお、上述した本件発明に係るキャリアを製造する際には、上記樹脂層形成液に代えて、例えば、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を溶媒に溶解させたポリアミック酸溶液(ポリアミック酸ワニス)を調製し、当該ポリアミック酸溶液に、界面活性剤によりフッ素元素含有樹脂を分散させた樹脂溶液を用いることも考えられる。しかしながら、この場合、ポリアミック酸溶液の粘度が高いため、界面活性剤を用いてもフッ素元素含有樹脂をポリアミック酸溶液内に良好に分散させるのは困難である。また、樹脂溶液の粘度も高いため、当該樹脂溶液をキャリア芯材の表面に均一な厚みで被覆することは困難である。そのため、フッ素元素含有樹脂とポリイミド樹脂とが均一に混合された樹脂被覆層を形成することは困難であり、その膜厚を均一にすることも困難になる。よって、本件発明に係るキャリアを得るには、ポリイミド樹脂を分散媒に界面活性剤により分散させたコロイド溶液にフッ素元素含有樹脂が分散した状態の樹脂層形成液を調製することが好ましい。
【0062】
なお、樹脂層形成液中の固形分濃度は、10質量%~40質量%とすることが好ましい。磁性芯材の表面を樹脂層形成液で被覆する際の作業性に鑑み、固形分濃度を適宜調整することができる。
【0063】
(2)被覆工程
次に、被覆工程について説明する。磁性芯材の表面に樹脂層形成液を被覆する方法は特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り法、流動床によるスプレードライ方式、ロータリドライ方式、万能攪拌機による液浸乾燥法等を採用することができる。
【0064】
また、磁性芯材の表面を樹脂層形成液で被覆した後に、固定式電気炉、流動式電気炉、ロータリー式電気炉、或いは、バーナー炉などによる外部加熱方式、又は、マイクロウェーブによる内部加熱方式により適宜熱処理を行ってもよい。当該加熱処理は、一般に、焼付或いはキュアと称される。当該熱処理を施すことにより、ポリイミド樹脂を硬化させることができ、磁性芯材の表面にフッ素元素含有樹脂をポリイミド樹脂により強固に密着させることができる。
【0065】
(3)磁性芯材
本発明において、磁性芯材は特に限定されるものではないことは、上述したとおりである。ここでは、磁性芯材の製造方法の一例を以下に挙げるが、本件発明において、磁性芯材の製造方法は、以下の方法に限定されるものではないのは勿論である。
【0066】
まず、所定組成となるように、フェライト原料を適量秤量した後、水を加え、ボールミル又は振動ミル等で0.5時間以上、好ましくは1時間~20時間粉砕し、混合する。その際、MnO及び/又はMgOの一部を他の酸化物で置換する場合には、その酸化物も所定量配合する。このようにして得られたスラリーを乾燥し、さらに粉砕した後、700℃~1200℃の温度で仮焼成する。見掛け密度の低いフェライト粒子を得たい場合等は仮焼成の工程を省いてもよい。
【0067】
次に、ボールミル又は振動ミル等で仮焼成物を15μm以下、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下に粉砕した後、水及び必要に応じ分散剤、バインダー等を加え、スラリーを調製する。スラリーの粘度を調整した後、スプレードライヤー等により造粒する。その造粒物を、酸素濃度が所定の濃度に制御された雰囲気下で、1000℃~1500℃の温度で1時間~24時間保持し、本焼成を行う。
【0068】
このように本焼成して得られた焼成物を、必要に応じて粉砕し、分級する。粉砕する際には、焼成物をボールミルや振動ミル等で粉砕することができる。分級方法としては、既存の風力分級法、メッシュ濾過法、沈降法等を採用することができる。分級により、所望の粒径に粒度調整することが好ましい。
【0069】
その後、必要に応じて、上記焼成物の表面に対して酸化被膜処理を施し、電気抵抗調整を行ってもよい。酸化被膜処理は、一般的な、ロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用い、例えば、300℃~700℃で上記焼成物の表面に低温で熱処理を施すことにより行うことができる。酸化被膜処理によって、フェライト粒子の表面に形成する酸化被膜の厚さは、0.1nm~5μmであることが好ましい。酸化被膜の厚さが0.1nm未満であると、上記焼成物の表面に酸化被膜処理を施すことにより得られる効果が小さくなり、電気抵抗調整を十分に行うことができない。また、酸化被膜の厚さが5μmを超えると、得られるフェライト粒子の磁化が低下したり、高抵抗になりすぎるため、現像能力が低下する等の不具合が発生しや易くなる。また、必要に応じて、酸化被膜処理の前に還元処理を行ってもよい。これらの工程により、フェライト粒子からなる磁性芯材を得ることができる。
【0070】
3.電子写真用現像剤
次に、本発明に係る電子写真用現像剤について説明する。本発明に係る電子写真用現像剤は、上記した本発明に係るキャリアを用いることを特徴とする。本発明に係る電子写真用現像剤は、特に、上記キャリアとトナーとを含む二成分系電子写真用現像剤であることが好ましい。
【0071】
本発明の電子写真用現像剤において、上記キャリアと共に用いられるトナーは特に限定されるものではない。例えば、懸濁重合法、乳化重合法、粉砕法等の公知の方法で製造された種々のトナーを用いることができる。例えば、バインダー樹脂、着色剤、帯電制御剤等を、例えばヘンシェルミキサー等の混合機で充分混合し、次いで二軸押出機等で溶融混練して均一分散し、冷却後に、ジェットミル等により微粉砕化し、分級後、例えば風力分級機等により分級して所望の粒径にしたトナーを用いることができる。当該トナーを製造する際には、必要に応じて、ワックス、磁性粉、粘度調節剤、その他の添加剤を含有させてもよい。さらに分級後に外添剤を添加することもできる。
【0072】
上記トナーを製造する際に用いるバインダー樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリスチレン、クロロポリスチレン、スチレン-クロロスチレン共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、さらにはロジン変性マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、シリコーン樹脂等の樹脂を必要に応じて、単独又は混合して使用することができる。
【0073】
上記トナーを製造する際に用いる帯電制御剤としては、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、キレート錯体、含金属モノアゾ染料等が挙げられる。
【0074】
上記トナーを製造する際に用いる着色剤としては、従来より知られている染料及び/又は顔料が使用可能である。例えばカーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントレッド、クロムイエロー、フタロシアニングリーン等を使用することができる。
【0075】
その他外添剤としては、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、フッ素樹脂微粒子、アクリル樹脂微粒子等を単独又は併用して用いることができる。また、界面活性剤、重合剤等を適宜添加してもよい。
【0076】
なお、本発明に係る電子写真用現像剤は、本発明に係るキャリアを用いることを特徴とし、その他の事項は任意である。すなわち、上述した電子写真用現像剤は、本発明の一態様に過ぎず、トナーの構成等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0077】
次に、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0078】
(1)磁性芯材の製造
まず、MnO換算で39.7mol%、MgO換算で9.9mol%、Fe203換算で49.6mol%、SrO換算で0.8mol%になるように各原料を秤量した。原料を秤量した後、これらに水を加え、湿式ボールミルで10時間粉砕、混合し、乾燥させ、950℃で4時間保持した後、湿式ボールミルで24時間粉砕を行ってスラリーを調製した。当該スラリーを用いて造粒乾燥し、酸素濃度2%雰囲気の中で1270℃、6時間保持した後、解砕、粒度調整を行い、マンガン系フェライト粒子を得た。このマンガン系フェライト粒子は、体積平均粒径が35μmであり、印加磁場が3000(103/4π・A/m)の時の飽和磁化が70Am2/kgであった。このようにして製造したマンガン系フェライト粒子を実施例1の磁性芯材とした。
【0079】
(2)樹脂層形成液の調製工程
水に液体のポリイミド樹脂(PI)を分散させたコロイド溶液に、フッ素元素含有樹脂粒子を分散させて、樹脂層形成液を調製した。この際、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを用い、当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が4.4質量部になるように界面活性剤を添加した。また、本実施例では、フッ素元素含有樹脂として、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体樹脂粒子(FEP)を用いた。このとき、樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の含有量が固形分として、質量比において8:2になるように、水に対する各樹脂の添加量を調整した。
【0080】
当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂及びポリイミド樹脂の固形分換算濃度は、30質量%とした。但し、固形分換算濃度は、分散媒である水に対するポリイミド樹脂及びフッ素元素含有樹脂の混合樹脂成分の含有量を百分率(質量)で表したものである。
【0081】
(3)被覆工程
上記マンガン系フェライト粒子を磁性芯材とし、当該磁性芯材の表面に樹脂被覆層を被覆した。このとき樹脂被覆量が磁性芯材に対して3.0質量%となるように上記樹脂層形成液を用いた。そして、流動床被覆装置により磁性芯材と樹脂層形成液とを混合し、磁性芯材の表面を樹脂層形成液で被覆した。その後、200℃で1時間の熱処理を施してキャリア1を得た。
【実施例2】
【0082】
樹脂層形成液を調製する際に、当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が2.3質量部になるように界面活性剤を添加した以外は、実施例1と同様にして、キャリア2を製造した。
【実施例3】
【0083】
樹脂層形成液を調製する際に、当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が40質量部になるように界面活性剤を添加した以外は、実施例1と同様にして、キャリア3を製造した。
【実施例4】
【0084】
樹脂層形成液を調製する際に界面活性剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様にして、キャリア4を製造した。
【実施例5】
【0085】
樹脂層形成液を調製する際に、界面活性剤としてポリオキシエチレン脂肪酸エステルを用いた以外は、実施例1と同様にして、キャリア5を製造した。
【実施例6】
【0086】
当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が4.4質量部になるように界面活性剤を添加すると共に、樹脂被覆量が1.5質量%になるように磁性芯材と樹脂層形成液とを混合した以外は、実施例1と同様にして、キャリア6を製造した。
【実施例7】
【0087】
当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が4.4質量部になるように界面活性剤を添加すると共に、樹脂被覆量が5.0質量%になるように磁性芯材と樹脂層形成液とを混合した以外は、実施例1と同様にして、キャリア7を製造した。
【実施例8】
【0088】
樹脂層形成液を調製する際に、界面活性剤としてアルキル硫酸エステルを用い、当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が4.4質量部になるように界面活性剤を添加した以外は、実施例1と同様にして、キャリア8を製造した。
【実施例9】
【0089】
樹脂層形成液を調製する際に、界面活性剤としてステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを用い、当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が4.4質量部になるように界面活性剤を添加した以外は、実施例1と同様にして、キャリア9を製造した。
【比較例】
【0090】
[比較例1]
樹脂層形成液を調製する際に、当該樹脂層形成液におけるフッ素元素含有樹脂粒子及びポリイミド樹脂の合計量を100質量部としたとき、界面活性剤量が80質量部になるように界面活性剤を添加した以外は、実施例1と同様にして、キャリア10を製造した。
【0091】
[比較例2]
樹脂層形成液を調製する際に、界面活性剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてキャリア11を製造した。
【0092】
[比較例3]
バインダー樹脂として、ポリイミド樹脂に代えて、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を用い、樹脂層形成液を調製する際に、水にポリアミドイミド樹脂を溶解させた後、界面活性剤とフッ素元素含有樹脂を添加した以外は、実施例1と同様にしてキャリア12を製造した。
【0093】
[評価]
1.評価方法
実施例1~実施例9及び比較例1~比較例3で得た各キャリア(キャリア1~キャリア12)について、それぞれ以下の方法で樹脂被覆率、溶出物の溶出量、帯電量、カブリ性を評価した。なお、磁性芯材の体積平均粒径の測定方法、飽和磁化の測定方法も併せて以下に示す。また、表1に各キャリアを製造する際に用いたバインダー樹脂種、フッ素元素含有樹脂種、バインダー樹脂とフッ素元素含有樹脂の含有比、樹脂被覆量、界面活性剤種を示す。
【0094】
(体積平均粒径)
磁性芯材として用いたマンガン系フェライト粒子の平均粒径(体積平均粒径)は、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320-X100)を用いて測定した。サンプルの調製は次のように行った。分散媒として水を用いた。サンプル10gと水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴~3滴添加した。次いで超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH-150型)を用い、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行った。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除いた。このようにして調製したサンプルを上記マイクロトラック粒度分析計により測定した。
【0095】
(樹脂被覆率算出方法)
日本電子株式会社製電子顕微鏡(JSM-6060A型)を用い、倍率450倍、印加電圧5kVにて各キャリアの反射電子像を撮影した。その画像を、Media Cybernetics社製画像解析ソフト「Image Pro Plus」を用いて、二値化処理を行った。二値化処理は、画像内に含まれる粒子のうち全体の形状が確認可能な粒子全てについて行い、複数枚の画像を用いて、二値化処理の対象とする粒子総数が100粒子以上となるようにした。具体的には、実施例及び比較例で得たキャリアの場合、上記画像内には全体の形状が確認可能な粒子が20粒子~25粒子程度含まれていた。そのため、4、5枚の画像を用い、合計100個~120個程度の粒子について二値化処理を行った。二値化処理により黒色部(樹脂被覆部)と白色部(磁性芯材露出部)とに分け、各磁性芯材粒子における黒色部と白色部の面積をそれぞれ測定した。そして、樹脂被覆率(%)を以下の計算式により求めた。結果を表2に示す。
【0096】
樹脂被覆率(%)={黒色部面積/(黒色部面積+白色部面積)}×100
【0097】
(溶出物の溶出量測定方法)
各キャリアの水に対する溶出物の溶出量を以下の方法により求めた。
【0098】
1)サンプルの調製
各キャリアを試料として以下の手順に従ってサンプルを調製した。
a)試料を200g±0.002g以内に正確に秤り、三角フラスコ(以下、「三角フラスコA」と称する)に入れる。
b)超純水(メルク株式会社製Direct-Q UV3)400mlを三角フラスコAに注入した。
c)ロータリーシェーカー(旋回式、RS-2型)を使用し、200rpm、10分間撹拌して、キャリアと純水との混合液を得た。
d)その後、混合液を25℃の環境下で24時間静置した。
e)次に、三角フラスコAの底に磁石を当てキャリアを保持しながら三角フラスコA内の混合液を別の三角フラスコ(以下、「三角フラスコB」と称する。)に入れ、混合液から磁石により保持されたキャリアを除去した。そして、三角フラスコB内の混合液をウルトラフィルター(孔径:0.2μm)により濾過し、磁石により保持されなかった混合液中のキャリアと樹脂片等を含む固形物を除去した。
f)上記ウルトラフィルターにより濾過した濾液を50℃の環境下で乾燥し、得られた乾固物を溶出物の溶出量を測定するためのサンプルとした。
【0099】
2)定量方法
各実施例及び比較例のキャリアにおける溶出物の溶出量を以下の計算式に基づき求めた。
溶出物の溶出量(ppm)=サンプル重量/キャリア重量×1000000
但し、キャリア重量とは、上記混合液を調製する際に用いた各キャリアの重量をいう。また、サンプル重量とは、濾液を乾燥させた後に得られた上記乾固物の重量をいう。
【0100】
なお、Digilab社製「FT-IR(FTS3000MX型)」、「顕微鏡(UMA600型)」を用いて、溶出物の顕微赤外線分光分析(μIR分析)を行うことで、各溶出物が所定の界面活性剤種であることを確認した。
【0101】
(カブリ)
まず、各キャリアと市販のトナー(京セラドキュメントソリューションズ社製トナー(T09C-01)、色:シアン)とを用い、トナー濃度5質量%の電子写真用現像剤を調製した。
【0102】
当該電子写真用現像剤を用いて、京セラドキュメントソリューションズ社製のカラー複合機(KM-C2630)により画像印刷を行い、初期、及び、100000回耐刷後(100K後)のカブリ性を評価した。
【0103】
カブリは、日本電色工業社製色差計Z-300Aを使用して測定した。なお、カブリ目標値は、5以下である。結果を表2に示す。
【0104】
(帯電量)
上記電子写真用現像剤を用いて、吸引式帯電量測定装置(Epping q/m-meter、PES-Laboratoriumu社製)により帯電量を求めた。
【0105】
帯電量の測定において、上記所定の環境条件として、以下を採用した。
常温常湿環境(NN環境):温度20~25℃、相対湿度50~60%
高温高質環境(HH環境):温度30~35℃、相対湿度80~85%
ここで、常温常湿環境下で測定した帯電量をNN帯電量、高温高湿環境下で測定した帯電量をHH帯電量とする。
【0106】
そして、初期及び100K後のNN帯電量をそれぞれ「帯電量初期」、「帯電量100K」とした。また、「帯電量初期」、「帯電量100K」との差を「帯電量Δ」とした。さらに、以下の計算式に基づいて、環境帯電量変化率(HH/NN(%))を求めた。なお、当該環境帯電量変化率の目標値は、100±20%である。
【0107】
環境帯電量変化率(HH/NN(%))=HH帯電量/NN帯電量
【0108】
帯電量についての結果を表2に示す。
【0109】
2.評価結果
実施例1~実施例9で製造したキャリア1~キャリア9は、いずれも溶出物の溶出量が180ppm~3500ppmの範囲内にあり、耐刷後の帯電量の変化も少なく、環境帯電量変化率も小さく、カブリ性も良好であった。さらに、樹脂被覆率がいずれも50.0%以上であり、樹脂層形成液を調製する際に界面活性剤を添加していないキャリア11と比較すると樹脂被覆率の高いキャリアを得ることができた。
【0110】
ここで、キャリア1~キャリア7はノニオン性界面活性剤を用いている。キャリア8及びキャリア9はそれぞれアニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤を用いている。これらを比較すると、ノニオン性界面活性剤を用いたキャリア1~キャリア7の方が樹脂被覆率の高いキャリアが得られた。また、キャリア1~キャリア7は、キャリア8及びキャリア9とを比較すると、耐刷後の帯電量の変化は同程度であるが、環境変化に伴う帯電量変化が小さい。このことから、本件発明のキャリアにおいては、より樹脂被覆率が高く、帯電量の環境変化の少ないキャリアが得られるという観点から、ノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。
【0111】
一方、キャリア10は、溶出物の溶出量も多く、耐刷後の帯電量変化がキャリア1~キャリア9と比較すると大きく、環境帯電変化も大きい。また、界面活性剤を添加することなく樹脂被覆層を形成したキャリア11は、上述したとおり、樹脂被覆率が低く、耐刷後の帯電量の変化が大きい。キャリア12は、バインダー樹脂をポリアミドイミド樹脂とした以外は、実施例1のキャリア1と同様の方法で製造されたものである。しかしながら、キャリア1と比較するとキャリア12の樹脂被覆率は低かった。キャリア12を製造する際に用いた樹脂層形成液の粘度は高く、磁性芯材の表面に樹脂層形成液を均一に塗布することが困難であったこと、ポリアミドイミド樹脂はポリイミド樹脂と比較すると熱収縮性が高いため、樹脂層形成液被覆後の熱処理工程においてポリアミドイミド樹脂が収縮したためと考えられる。その結果、キャリア1と比較するとキャリア12の耐刷後の帯電量の変化や、環境変化に伴う帯電量変化が大きくなったと考えられる。
【0112】
【0113】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、従来に比して耐スペント性及び帯電安定性の良好なキャリア及び該キャリアの製造方法を提供することができる。