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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/02 20060101AFI20231010BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20231010BHJP
   B60N 2/68 20060101ALI20231010BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
A47C31/02 A
B60N2/58
B60N2/68
B68G7/05 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018218182
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2020081222
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】遠地 淳司
(72)【発明者】
【氏名】藤野 貴文
(72)【発明者】
【氏名】長藤 洋平
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-189983(JP,A)
【文献】国際公開第2009/011386(WO,A1)
【文献】特開2016-159006(JP,A)
【文献】特開2014-151765(JP,A)
【文献】特開2004-254889(JP,A)
【文献】特開平04-089084(JP,A)
【文献】特開2018-007717(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098672(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - B60N 2/90
A47C 31/02
B68G 7/05 - B68G 7/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションフレームと、その上に載置されるシートパッドと、このシートパッドに被せられるトリムと、を含むシートクッションを備えたシートであって、
前記シートクッションは、乗員の臀部を支持する座面部と、その左右両側で前後方向に延在する土手部とを備えるものであり、
前記トリムは、
前記シートパッドの主に上面を覆うトリム本体部と、
このトリム本体部から伸び、前記シートパッドの後方でシートクッションフレームの裏側に引き込まれて当該シートクッションフレームに係止されることにより、前記トリム本体部を後方に引っ張る第1トリム係止部と、
前記シートクッションの後部であってかつその左右両端の領域の少なくとも一方側の領域において前記トリム本体部の裏面に接合され、前記シートパッドの後方でシートクッションフレームの裏側に引き込まれて当該シートクッションフレームに係止されることにより、前記第1トリム係止部とは別に、前記トリム本体部を後方に引っ張る第2トリム係止部と、を備え、
前記トリム本体部は、前記土手部と前記座面部との境界線に沿って前記シートパッド側に吊り込まれた前後方向に延在する吊り込み部を備え、
前記第2トリム係止部は、前記吊り込み部に沿って配置され、当該吊り込み部に接合されている、ことを特徴とするシート。
【請求項2】
請求項に記載のシートにおいて、
前記第2トリム係止部は、前記吊り込み部の延在する方向に沿って当該吊り込み部に縫着されている、ことを特徴とするシート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシートにおいて、
前記第1トリム係止部および前記第2トリム係止部は、シートクッションフレームを構成する同一部材に係止されている、ことを特徴とするシート。
【請求項4】
請求項に記載のシートにおいて、
前記第1トリム係止部の端部および前記第2トリム係止部の端部に対してこれらに共通の鉤部材が接合され、当該鉤部材を介して、第1トリム係止部および第2係止部が前記シートクッションフレームに係止されている、ことを特徴とするシート。
【請求項5】
請求項に記載のシートにおいて、
前記トリム本体部に対する第2トリム係止部の接合位置である基端接合位置から前記鉤部材に対する第2トリム係止部の接合位置である先端接合位置までの長さが、前記基端接合位置から前記鉤部材に対する第1トリム係止部の接合位置までの長さよりも短く設定されている、ことを特徴とするシート。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか一項に記載のシートにおいて、
前記第2トリム係止部は、前記第1トリム係止部よりも伸縮性が低い、ことを特徴とするシート。
【請求項7】
請求項に記載のシートにおいて、
前記第2トリム係止部は、エアバッグスリーブを素材として形成されている、ことを特徴とするシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に開示されるように、シートクッションフレームの上にシートパッド(クッション材)が載置され、このシートパッドにトリム(表皮材)が被せられた構造のシートクッションを備えた乗物用のシートが知られている。
【0003】
前記シートクッションにおいて、トリムの周囲(端部)は、シートクッションフレームの裏側に引き込まれ、当該シートクションフレームに係止されている。これにより、シートパッドにトリムが被着されている。
【0004】
なお、シートクッションには、乗員の臀部を受ける座面部の左右両側に、臀部を左右両側からサポートする土手部が設けられる場合があり、このような場合には、座面部と土手部との境界線に沿ってトリムがシートパッド側に吊り込まれることにより、シートパッドに対してトリムが隙間無く被着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-190035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、乗物用シートでは、乗り心地の向上やデザイン的な理由から、シートクッションの座面部に意図的に凹凸が形成される場合がある。例えば、トリムのうち、座面部に対応する領域の前後方向の複数の位置において、当該トリムが幅方向に亘ってシートパッド側に吊り込まれ、これによって座面部に凹凸が形成される。
【0007】
しかし、座面部の後部がこのような幅方向に亘って吊り込まれると、土手部の後部において、トリムにシワが発生する場合がある。すなわち、乗物用のシートにはリクラニイング機構が組み込まれるため、通常、シートクッションの後部は、前部に比べて土手部の幅が狭く、当該土手部におけるシートパッドの反発力が他の部分に比べて小さい。そのため、上記のように座面部の後部が幅方向に亘って吊り込まれると、土手部の後部に、当該吊り込み部分の長手方向両端部を起点とするトリムのシワが形成され、見栄えを損なう場合がある。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、シートクッションの土手部の後部において、トリムにシワが生じることを抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一の局面に係るシートは、シートクッションフレームと、その上に載置されるシートパッドと、このシートパッドに被せられるトリムと、を含むシートクッションを備えたシートであって、前記シートクッションは、乗員の臀部を支持する座面部と、その左右両側で前後方向に延在する土手部とを備えるものであり、前記トリムは、前記シートパッドの主に上面を覆うトリム本体部と、このトリム本体部から伸び、前記シートパッドの後方でシートクッションフレームの裏側に引き込まれて当該シートクッションフレームに係止されることにより、前記トリム本体部を後方に引っ張る第1トリム係止部と、前記シートクッションの後部であってかつその左右両端の領域の少なくとも一方側の領域において前記トリム本体部の裏面に接合され、前記シートパッドの後方でシートクッションフレームの裏側に引き込まれて当該シートクッションフレームに係止されることにより、前記第1トリム係止部とは別に、前記トリム本体部を後方に引っ張る第2トリム係止部と、を備え、前記トリム本体部は、前記土手部と前記座面部との境界線に沿って前記シートパッド側に吊り込まれた前後方向に延在する吊り込み部を備え、前記第2トリム係止部は、前記吊り込み部に沿って配置され、当該吊り込み部に接合されているものである。
【0010】
この構成では、トリムは、第1トリム係止部とは別に、シートクッションの後部であってかつその左右両端の領域の少なくとも一方側の領域に対応する部分が第2トリム係止部によって後方に引っ張られた状態でシートパッドに被着される。このように、シートクッションの後部であってかつその左右両端の領域の少なくとも一方側の領域に対応する部分が第2トリム係止部によって個別に後方に引っ張られることで、当該領域において、トリムにシワが形成されることが抑制される。
特に、第2トリム係止部が前記トリム本体部の前記吊り込み部に接合されているので、トリムのうち、シートクッションの後部であってかつその左右両端の領域の少なくとも一方側の領域を、前記吊り込み部を利用して、前記2トリム係止部でしっかりと後方に引っ張ることが可能となる。
【0013】
この場合、より具体的には、前記第2トリム係止部は、前記吊り込み部の延在する方向に沿って当該吊り込み部に縫着されているのが好適である。
【0014】
この構成によれば、前記吊り込み部がその延在する方向に沿って第2トリム係止部によって引っ張られるので、当該吊り込み部の吊り込みの状態に影響を与えることなくトリム本体部を引っ張ることが可能となる。
【0015】
上記シートにおいて、前記第1トリム係止部および前記第2トリム係止部は、シートクッションフレームを構成する同一部材に係止されているのが好適である。
【0016】
このように両トリム係止部が同一部材に係止される構成によれば、シート組立時の作業性が良いものとなる。
【0017】
この場合、前記第1トリム係止部の端部および前記第2トリム係止部の端部に対してこれらに共通の鉤部材が接合され、当該鉤部材を介して、第1トリム係止部および第2係止部が前記シートクッションフレームに係止されているのがより好適である。
【0018】
この構成によれば、鉤部材をシートクッションフレームに係止することで、第1、第2の両方のトリム係止部を同時にシートクッションフレームに係止することができるので、シート組立時の作業性がより一層良いものとなる。また、シートクッションフレームに対する第1、第2トリム係止部の係止位置が共通化されるので、第1、第2トリム係止部のトータル的な係止スペースを抑えることができる。
【0019】
上記シートにおいては、前記トリム本体部に対する第2トリム係止部の接合位置である基端接合位置から前記鉤部材に対する第2トリム係止部の接合位置である先端接合位置までの長さが、前記基端接合位置から前記鉤部材に対する第1トリム係止部の接合位置までの長さよりも短く設定されているのが好適である。
【0020】
この構成によれば、第1トリム係止部による影響を受けることなく、第2トリム係止部によって確実にトリムを後方に引っ張ることが可能となる。そのため、シートクッションの後部であってかつその左右両端の領域の少なくとも一方側の領域において、トリムにシワが生じることをより確実に抑制することが可能となる。
【0021】
上記シートにおいて、前記第2トリム係止部は、前記第1トリム係止部よりも伸縮性が低いものであるのが好適である。
【0022】
このような構成によっても、上記と同様に、第1トリム係止部による影響を受けることなく、第2トリム係止部によって確実にトリムを後方に引っ張ることが可能となる。
【0023】
この場合、前記第2トリム係止部は、エアバッグスリーブで形成されているのが好適である。
【0024】
エアバッグスリーブは、強度や難燃性に優れ、特に伸び率が低い素材であるため、トリムを確実に引っ張る上で有効となる。
【発明の効果】
【0025】
上記の各態様に係るシートによれば、シートクッションの土手部の後部において、トリムにシワが発生することを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係るシートのシートクッションの分解斜視図である。
図2】シートクションの平面図である。
図3】後側トリム係止部を示すシートクッションの断面図である(図2のIII―III線断面図である)。
図4】後側トリム係止部を示すトリム裏側の斜視図である。
図5】後側トリム係止部を示すトリム裏側の要部斜視図である。
図6】トリムに生じるシワを示すシートクションの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0028】
[シートの全体構造]
図1は、本発明に係るシートのシートクッションの分解斜視図であり、図2は、前記シートクッションの平面図である。なお、以下の説明で使用する前後、左右、上下の各方向は、特に言及する場合を除き、シートを基準とする。また、左右方向を幅方向と称する場合がある。
【0029】
シート1は、自動車用のシートであり、乗員が着座するシートクッション2と、乗員の背もたれとなる図外のシートバックと、シートクッション2を車体のフロアパネルに対して前後方向にスライド可能に支持するためのスライド機構4と、を備えている。
【0030】
シートクッション2は、その骨格となるシートクッションフレーム5と、その上に載置されるシートパッド(クッション材)6と、このシートパッド6に被せられるトリム(表皮材)7とを備える。図示を省略しているが、シートバックも同様に、骨格となるシートバックフレームと、これに固定されるシートパッドと、このシートパッドに被せられるトリムとを備えている。
【0031】
シートクッションフレーム5は、左右一対のサイドプレート10と、これらの間に介在して、前後方向の互いに異なる位置で両サイドプレート10を連結するクロスパイプ11と、これらクロスパイプ11に架け渡された複数本のサポートスプリング12とを備えている。シートクッションフレーム5は、前記スライド機構4に支持されている。これにより、シートクッションフレーム5が車体のフロアパネルに対して前後方向に移動可能となっている。
【0032】
図示を省略しているが、シートバックフレームも同様に、左右一対のサイドプレートと、これらの間に介在して、上下方向の互いに異なる位置で両サイドプレートを連結する図外のクロスパイプと、これらクロスパイプに亘って架け渡された複数本のサポートスプリングとを備えている。
【0033】
シートクッションフレーム5の後端部には、リクライニング機構14が設けられており、このリクライニング機構14を介してシートバックフレームがシートクッションフレーム5に連結されている。つまり、シートバックがシートクッション2に連結されている。
【0034】
リクライニング機構14は、シートクッション2に対してシートバックの角度調整を可能とするものである。このリクライニング機構14は、例えば、シートクッションフレーム5のサイドプレート10とシートバックフレームのサイドプレートとを回転自在に連結する連結軸16と、シートバックフレームを前方に向かって回動付勢する左右一対の渦巻きばね(図示省略)と、シートバックフレームを所望の角度位置にロックする左右一対のラチェット機構18と、各ラチェット機構18によるロック状態を解除するための図外のリクライニングレバーとを備えている。
【0035】
リクライニングレバーは、当例では、シートクッションフレーム5の左側のサイドプレート10に回転可能に支持され、左側のラチェット機構18に連結されている。左右のラチェット機構18は、前記連結軸16を介して互いに連結されており、リクライニングレバーの操作により、同期してロック解除操作が可能となっている。
【0036】
図2に示すように、シートクッション2は、乗員の臀部を受ける座面部3Aと、その左右両側に位置する一対の側方土手部3Bと、座面部3Aの前方に位置する前方土手部3Cとを有しており、これら座面部3A及び土手部3B、3Cにより、シートクッション2の上面、すなわちシート面3が形成されている。なお、当例では、側方土手部3Bが本発明の「土手部」に相当する。
【0037】
側方土手部3Bは、座面部3Aに着座した乗員の臀部を左右両側からサポートするための部分であり、前方土手部3Cは、座面部3Aに着座した乗員の主に太股部分を下側からサポートする部分である。土手部3B、3Cの表面は、座面部3Aから外側に離れるに伴い高くなる傾斜面とされており、座面部3Aに対する前方土手部3Cの傾斜角度は、乗員に違和感を与えないように、側方土手部3Bの傾斜角度に比べて小さく設定されている。
【0038】
なお、図2に示すように、各側方土手部3Bの後端の部分には、各々、ラチェット機構18を逃がすための切欠部3Dが形成されている。そのため、側方土手部3Bの後端部分の幅W2は、当該後端部分よりも前方における側方土手部3Bの幅W1よりも小さくなっている。
【0039】
シートパッド6は、シートクッションフレーム5をその上方から覆うように形成されており、発泡ウレタン等の弾性を有した樹脂材料により全体が一体成型されている。シートパッド6の上面20には、前記座面部3Aに対応する座面パッド部22aと、前記側方土手部3Bに対応する左右一対のサイドパッド部22bと、前記前方土手部3Cに対応するフロントパッド部22cとが設けられている。
【0040】
トリム7は、シートパッド6の主に上面20を覆うように当該シートパッド6に被せられるトリム本体部30と、このトリム本体部30をシートクッションフレーム5に係止するためのトリム係止部32とを備えている。トリム本体部30は、皮革で形成されており、トリム係止部32は、後述する通り、合成繊維の織物又は不織布かなるシート部材で形成されている。
【0041】
トリム本体部30は、シートパッド6の座面パッド部22aを覆うことにより、当該座面パッド部22aと共に前記座面部3Aを形成する中央シート部34aと、サイドパッド部22b及びフロントパッド部22cを覆うことにより、当該サイドパッド部22b及びフロントパッド部22cと共に前記土手部3B、3Cを形成する外縁シート部34bとを含む。
【0042】
中央シート部34aと外縁シート部34bとは、互いに異なるパーツから形成されており、当該パーツの端部同士が縫着されることにより、トリム本体部30の裏面に、中央シート部34aと外縁シート部34bとの境界線に沿って延在する平面視U字型の吊り込み部35が形成されている(図4参照)。この吊り込み部35は、シートパッド6側に吊り込まれている。すなわち、吊り込み部35は、シートパッド6内に配置された図外のワイヤ部材にホグリングなどの係止部材によって係止されることにより、シートパッド6側に引き込まれている。これにより、高さの異なる複数のパッド部22a~22cが設けられたシートパッド6の上面20に対してトリム7が隙間なく被着されている。
【0043】
また、中央シート部34aには、前後方向の複数の位置に、幅方向に亘って延びる吊り込む部38が形成されている(図4参照)。これらの吊り込み部38も、前記吊り込み部35と同様にシートパッド6側に吊り込まれている。これにより、シートクッション2の座面部3Aに、幅方向に延在する山部が前後方向に複数個、形成されている。
【0044】
トリム係止部32は、トリム本体部30を引っ張った状態でシートクッションフレーム5に係止するためのシート状の係止片であり、トリム本体部30の周端部分に設けられている。トリム係止部32は、トリム本体部30を形成するパーツの一部分として当該パーツに一体に形成されていてもよいし、当該パーツとは別体に形成されて、当該パーツに接合(縫着など)されたものであってもよい。
【0045】
トリム係止部32は、シートパッド6の前方でシートクッションフレーム5の裏側に引き込まれて、当該シートクッションフレーム5に係止される図外の前側トリム係止部と、シートパッド6の側方でシートクッションフレーム5の裏側に引き込まれて、当該シートクッションフレーム5に係止される図外の側方トリム係止部と、シートパッド6の後方でシートクッションフレーム5の裏側に引き込まれて、当該シートクッションフレーム5に係止される後側トリム係止部40とを含む。以下、この後側トリム係止部40について詳細に説明する。
【0046】
[後側トリム係止部40の構成]
図3は、後側トリム係止部40を示すシートクッション2の断面図であり、図4は、後側トリム係止部40を示すトリム裏側の斜視図であり、図5は、後側トリム係止部40を示すトリム裏側の要部斜視図である。
【0047】
図1図3図5に示すように、後側トリム係止部40は、トリム本体部30の後端部分のほぼ幅方向全域に亘って設けられた第1トリム係止部42と、トリム本体部30の後端部分の左右両端の領域にそれぞれ設けられた左右一対の第2トリム係止部44と、これら第1、第2のトリム係止部42、44の先端部分に一体に設けられた鉤部材46とで構成されている。
【0048】
第1トリム係止部42は、トリム本体部30の表面に縫着され、第2トリム係止部44は、トリム本体部30の裏面にそれぞれ縫着されている。また、鉤部材46は、第1、第2のトリム係止部42、44に対して一体に縫着されている。なお、第1トリム係止部42は、トリム本体部30を形成するパーツの一部分として当該パーツに一体に形成されていてもよい。
【0049】
各第2トリム係止部44の幅寸法は、第1トリム係止部42の幅寸法(すなわち、トリム本体部30の後端部分の幅寸法)よりも充分に小さく設定されており、当例では、第1トリム係止部42の幅寸法の8分の1~10分の1程度に設定されている。
【0050】
第1トリム係止部42及び第2トリム係止部44は、共に合成繊維の織物又は不織布かなるシート素材で形成されている。但し、第2トリム係止部44は、第1トリム係止部42よりも伸縮性が低い素材で形成されている。
【0051】
当例では、第1トリム係止部42は、不織布からなるシート素材で形成され、第2トリム係止部44は、エアバッグスリーブと称されるシート素材で形成されている。エアバッグスリーブとは、合成繊維製の織物(例えばナイロンクロス(N66))にシリコーン樹脂がコーティングされた、強度、難燃性及び気密性に優れたシート素材であり、自動車用エアバッグの膨張時にその衝撃によってトリムがフレームから吹き飛ぶのを防止するために、トリムとフレームとを固定するためのシート素材として使用される他、自動車用エアバッグ自体のシート素材としても使用されるものである。
【0052】
なお、第1トリム係止部42を形成するシート素材(不織布)として、当例では、目付(坪量)99.5g/m、厚さ0.56mmで、「JIS L 1096」に準拠する引張試験の伸び率が、タテ72%、ヨコ65%のものが適用されている。
【0053】
また、第2トリム係止部44を形成するシート素材(エアバッグスリーブ)として、当例では、目付(坪量)202.4g/m、厚さ0.33mmで、「ISO13934-1」に準拠する引張試験の伸び率が、タテ29%、ヨコ31%のものが適用されている。これらの値は、5回の試験の平均値であり、各回の試験結果は以下の通りである。
1回目:目付(坪量)204.0g/m、厚さ0.33mm、タテ29%、ヨコ30%
2回目:目付(坪量)201.2g/m、厚さ0.33mm、タテ29%、ヨコ30%
3回目:目付(坪量)201.4g/m、厚さ0.32mm、タテ29%、ヨコ31%
4回目:目付(坪量)201.0g/m、厚さ0.32mm、タテ29%、ヨコ31%
5回目:目付(坪量)204.3g/m、厚さ0.33mm、タテ28%、ヨコ31%
【0054】
なお、「ISO 13934-1」は「JIS L 1096」の基となる規格であり、両規格の引張試験の試験条件は同等と言える。また、エアバックスリーブの試験において、目付(坪量)は「ASTM D3776」に準拠し、厚さは「ISO2286-3」に準拠している。
【0055】
シート素材のタテ、ヨコ(引張試験のタテ、ヨコに相当)とシートクッション2(シート1)の方向との関係は、「歩留まり」や「伸び率」によって決まり、当例では、例えば第2トリム係止部44の場合、エアバッグスリーブのタテをシートクッション2の前後方向に設定するようにされている。
【0056】
図1及び図4に示すように、第1トリム係止部42はトリム本体部30の後部の表面に沿わせた状態で、当該トリム本体部30に縫着されている。
【0057】
一方、各第2トリム係止部44は、図3図5に示すように、U字型の前記吊り込み部35のうち、各側方土手部3Bに沿ってそれぞれ前後方向に延在する部分(以下、サイド吊り込み部36と称す)の内側に、当該サイド吊り込み部36に沿って配置されている。すなわち、各第2トリム係止部44は、シートクッション2の後部であってかつその左右両端の領域に設けられている。各第2トリム係止部44の基端部側の末端は、中央シート部34aに設けられた複数の前記吊り込み部38のうち最後部の吊り込み部38に突き当てられている。
【0058】
第2トリム係止部44の基端部44aは、それ以外の部分に比べて広幅に形成されている。当該基端部44aは、その一部を図5に示すようにサイド吊り込み部36の側面に沿わせた状態で当該サイド吊り込み部36に縫着されている。詳しくは、サイド吊り込み部36が延在する方向(前後方向)に沿って、当該サイド吊り込み部36の根本部分に縫着されている。これにより第2トリム係止部44がトリム本体部30に取り付けられている。なお、図5中の符号45は、サイド吊り込み部36に対する第2トリム係止部44の縫い目を示している。当例では、このサイド吊り込み部36が本発明の「吊り込み部」に相当する。
【0059】
鉤部材46は、樹脂材料から形成された断面U型のプレート状の部材であり、第1トリム係止部42の先端部に沿ってその幅方向に亘って延在している。
【0060】
各第2トリム係止部44は、第1トリム係止部42の幅方向両端の部分に重ねられ、鉤部材46は、第1トリム係止部42と共に第2トリム係止部44を挟み込むように当該第2トリム係止部44に重ねられている。第1トリム係止部42の先端と各第2トリム係止部44の先端は互いに揃えられ、鉤部材46は、各第1、第2のトリム係止部42、44の先端に揃えられている。そして、この状態で各第1、第2のトリム係止部42、44と鉤部材46とが一体に縫着されている。なお、第1、第2のトリム係止部42、44と鉤部材46とは、縫着に限らず、ステイプルなどの他の固定手段により一体に固定されていてもよい。
【0061】
上記のように構成された後側トリム係止部40は、図3に示すように、シートクッションフレーム5の裏側に引き込まれて、当該シートクッションフレーム5に係止されている。具体的には、左右一対の前記サイドプレート10の間には、前記連結軸16を取り囲むように形成されてその一端部17aが前方に向かって伸びる金属製のプレート部材17が設けられており、このプレート部材17の前記一端部17aに、後側トリム係止部40の先端部、すなわち鉤部材46が係止されている。このプレート部材17は、前記サポートスプリング12の後端部が係止される部分でもある。
【0062】
なお、図3中に破線矢印で示す長さ寸法、すなわちトリム本体部30に対する第2トリム係止部44の接合位置P1から鉤部材46に対する第1,第2のトリム係止部42、44の接合位置P2までの第2トリム係止部44の長さ寸法Lは、これに対応するトリム本体部30及び第1トリム係止部42の長さ寸法よりも若干短く設定されている。換言すると、トリム本体部30に対する第2トリム係止部44の接合位置P1(本発明の基端接合位置に相当)から鉤部材46に対する第2トリム係止部44の接合位置P2(本発明の先端接合位置に相当)までの長さ寸法は、トリム本体部30に対する第2トリム係止部44の前記接合位置P1から鉤部材46に対する第1トリム係止部42の接合位置P2までの長さ寸法よりも若干短く設定されている。
【0063】
なお、トリム係止部32のうち、後側トリム係止部40は、上記の通り、2つのトリム係止部、つまり第1、第2のトリム係止部42、44を備えたダブル構造であるが、その他のトリム係止部、すなわち前方トリム係止部や側方トリム係止部は、図示を省略するが、単一のトリム係止部からなるシングル構造である。この点で、後側トリム係止部40とその他のトリム係止部(前方トリム係止部、側方トリム係止部)とは構造が相違している。
【0064】
[作用効果]
以上のように、本発明に係るシート1は、シートクッションフレーム5と、その上に載置されるシートパッド6と、このシートパッド6に被せられるトリム7と、を含むシートクッション2を備えたシートであり、トリム7は、シートパッド6の主に上面20を覆うトリム本体部30と、このトリム本体部30から伸び、シートパッド6の後方でシートクッションフレーム5の裏側に引き込まれて当該シートクッションフレーム5に係止される第1トリム係止部42と、シートクッション2の後部であってかつその左右両端の領域に設けられて当該領域においてトリム本体部30の裏面に接合され、シートパッド6の後方でシートクッションフレーム5の裏側に引き込まれて、当該シートクッションフレーム5に係止される第2トリム係止部44と、を備えている。
【0065】
このようなシート1(シートクッション2)の構成によれば、側方土手部3Bの後部において、トリム7にシワが生じることが効果的に抑制される。すなわち、側方土手部3Bの後端部分の幅W2が、それよりも前方における側方土手部3Bの幅W1よりも小さく、かつ幅W2の部分に対応して幅方向に伸びる前記吊り込み部38が座面部3A(中央シート部34a)に設けられる上記のようなシートクッション2では、例えば、後側トリム係止部40が第1トリム係止部42のみを備えるシングル構造であったと仮定すると、図6中の矢印Aの領域に示すように、トリム7の外縁シート部34bのうち、側方土手部3Bを覆う部分に、前記吊り込み部38の両端部を起点として幅方向に伸びるシワが形成される場合がある。これは、側方土手部3Bの後部(幅W2の部分)では、その幅が狭い分、シートパッド6の反発力がその他の部分に比べて小さく、トリム7の中央シート部34aが幅方向に亘って吊り込まれると(幅方向に延在する吊り込み部38が設けられると)、当該吊り込みにより外縁シート部34bが引っ張られてサイドパッド部22bと共に変形するためであり、これによって、当該吊り込み部38の長手方向両端部を起点として、側方土手部3Bにトリム7(外縁シート部34b)のシワが形成されるのである。
【0066】
しかし、上述した実施形態のシート1(シートクッション2)の構成によれば、後側トリム係止部40には、第1トリム係止部42に加えて、左右一対の第2トリム係止部44が備えられており、トリム7は、その後端部分の幅方向全体が第1トリム係止部42により後方に引っ張れるとともに、左右一対の第2トリム係止部44によってシートクッション2の後部の左右両端に対応する領域が後方に引っ張られた状態でシートパッド6に被着される。このように、トリム7のうち、シートクッション2の後部の左右両端に対応する領域が第2トリム係止部44によって個別に後方に引っ張られることで、図6の矢印Aの領域に示したようなシワが形成されることが効果的に抑制される。従って、上記シート1(シートクッション2)の構成によれば、シートクッション2の外観品質をより向上させることが可能となる。
【0067】
特に、第2トリム係止部44は、トリム本体部30のうち、側方土手部3Bと座面部3Aとの境界線に沿って前後方向に延在するサイド吊り込み部36に接合されているので、トリム本体部30のうち、シートクッション2の後部の左右両端に対応する領域を、これらサイド吊り込み部36を利用して第2トリム係止部44でしっかりと後方に引っ張ることができる。そのため、上記シート1(シートクッション2)の構成によれば、上記のようなシワの発生を効果的に抑制することができる。
【0068】
しかも、後側トリム係止部40は、第1トリム係止部42の端部および第2トリム係止部44の端部に対してこれらに共通の鉤部材46が接合され、当該鉤部材46を介して第1トリム係止部42と第2トリム係止部44とがシートクッションフレーム5に係止される構成であるため、シート組立時には、第1、第2の2つのトリム係止部42、44を一体的にシートクッションフレーム5に係止することができる。従って、後側トリム係止部40が第1トリム係止部42と左右一対の第2トリム係止部44とを備えたダブル構造でありながらも、組立作業性が良いという利点もある。
【0069】
また、上記シート1(シートクッション2)によれば、トリム本体部30に対する第2トリム係止部44の接合位置P1から鉤部材46に対する第1、第2のトリム係止部42、44の接合位置P2までの第2トリム係止部44の長さ寸法Lが、これに対応するトリム本体部30及び第1トリム係止部42の長さ寸法よりも短く設定されているので、第1トリム係止部42による影響などを受けることなく、第2トリム係止部44によって確実にトリム7を後方に引っ張ることができる。特に、第2トリム係止部44は、第1トリム係止部42よりも伸縮性が低い素材で形成されているので、この点でも、第2トリム係止部44によってトリム7を良好に後方に引っ張ることが可能となる。従って、上記シート1(シートクッション2)の構成によれば、上記のようなシワの発生を効果的に抑制することができる。
【0070】
[その他の変形例等]
以上説明したシート1は、本発明に係るシートの好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、以下のような構成を採用することもできる。
【0071】
(1)実施形態では、後側トリム係止部40は、左右一対の第2トリム係止部44を備えているが、左右の何れか一方のみを備える構成であってもよい。例えば、シートクッション2に形成される左右の切欠部3Dのうち一方側についてその切欠度合が小さく、側方土手部3Bに上記のようなシワ(図6の矢印Aの領域参照)が発生するおそれがない場合には、当該側方土手部3Bに対応する側の第2トリム係止部44を省略してもよい。
【0072】
また、後側トリム係止部40は、左右両端それぞれに、又は左右両端の何れか一方に複数本の第2トリム係止部44を備えた構成であってもよい。
【0073】
(2)実施形態では、左右の第2トリム係止部44は、トリム本体部30の裏面のうち、座面部3Aと側方土手部3Bとの境界線に沿って各々前後方向に延びる左右一対のサイド吊り込み部36の内側に配置されているが、これに限定されるものではない。例えば、各第2トリム係止部44は、左右のサイド吊り込み部36の外側に配置されていてもよい。
【0074】
(3)実施形態では、後側トリム係止部40は、第1トリム係止部42と第2トリム係止部44とに共通の鉤部材46を備え、第1トリム係止部42、第2トリム係止部44及び鉤部材46が一体に接合(縫着)された構成であるが、これに限定されるものではない。例えば、第1トリム係止部42と、各第2トリム係止部44とが個別に鉤部材を備えた構成でもよい。さらに、各第2トリム係止部44が個別に鉤部材を備えた構成でもよい。この場合、シートクッションフレーム5に対する第1トリム係止部42の係止位置と各第2トリム係止部44の係止位置とは同一であっても良いし、異なっていてもよい。
【0075】
(4)実施形態では、伸縮性の低い(不織布よりも伸び率の低い)シート素材(エアバッグスリーブ)により第2トリム係止部44が形成されているが、例えば、伸縮性の高いシート素材に叩き縫いを施す、すなわち引張方向と平行な方向(タテ方向)へ縫い目を形成して伸縮性を低減させることにより、当該シート素材で第2トリム係止部44を形成するようにしてもよい。
【0076】
(5)実施形態で説明した通り、トリム本体部30の座面部3Aの後部が、当該座面部3Aのシート幅方向に亘ってシートパッド6側に吊り込まれているようなシート1では、特に、シートクッション2の後部であってかつその左右両端の領域(側方土手部3B)の少なくとも一方側の領域において、トリム7にシワが発生し易い。そのため、本発明のシートの構成は、座面部の後部がシート幅方向に亘ってシートパッド側に吊り込まれているようなシートに特に有用であるが、勿論、座面部の後部がシート幅方向に亘って吊り込まれていないシートについても本発明のシートの構成は適用可能である。
【0077】
(6)実施形態では、シート1は自動車用のシートであるが、本発明のシートは、飛行機、鉄道及び船舶など、その他の乗物用のシートとして適用可能であり、さらに、住宅などの建物の屋内に設置されるソファや革張りのチェアなどのシートとしても適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 シート
2 シートクッション
3 シート面
3A 座面部
3B 側方土手部
3C 前方土手部
4 スライド機構
5 シートクッションフレーム
6 シートパッド
7 トリム
30 トリム本体部
32 トリム係止部
35、38 吊り込み部
36 サイド吊り込み部
40 後側トリム係止部
42 第1トリム係止部
44 第2トリム係止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6