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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】マンホール更生構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/12 20060101AFI20231010BHJP
   E03F 7/00 20060101ALI20231010BHJP
   E03F 5/02 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
E02D29/12 Z
E03F7/00
E03F5/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019148372
(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公開番号】P2021031833
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 淳
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-229906(JP,A)
【文献】特開2016-205044(JP,A)
【文献】実開昭56-005046(JP,U)
【文献】特表2002-511539(JP,A)
【文献】特開2008-196189(JP,A)
【文献】実開平02-026669(JP,U)
【文献】特開2002-036416(JP,A)
【文献】特開2018-094793(JP,A)
【文献】特開2017-197941(JP,A)
【文献】特開2014-218791(JP,A)
【文献】特開2010-133175(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0066409(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/12
E03F 7/00
E03F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定厚さの筒状に形成されている既設マンホールの内側に設置された所定厚さの筒状の更生用マンホールを備えたマンホール更生構造において、
前記既設マンホール上に設置され、前記既設マンホールの上部開口を閉塞する蓋体が収容される蓋体用受枠と、
前記蓋体用受枠と前記更生用マンホールとの間に設けられ、前記蓋体を介して伝達される垂直方向の荷重が少なくとも前記更生用マンホールの上端面に伝達されるように、前記既設マンホールの上端面及び前記更生用マンホールの前記上端面の双方に重ねられた環状の荷重伝達部材と、を備え、
前記既設マンホールは、円筒状に延びる直壁部の上方に、上方に向かって内径及び外径が漸次小さくなる斜壁部を有し、
前記更生用マンホールは、前記既設マンホールの前記直壁部から前記斜壁部まで延び、該更生用マンホールの前記上端面は、前記斜壁部の上端面と面一になるように形成されており、
前記蓋体用受枠の内径は、前記既設マンホールの前記斜壁部の上端面の内径とほぼ一致し、
前記更生用マンホールの前記上端面の外径は、前記蓋体用受枠の内径以下であることを特徴とするマンホール更生構造。
【請求項2】
前記荷重伝達部材は、
環状の本体部と、
該本体部の下面から下方へ突出し、前記更生用マンホールの内周面と直接的または間接的に当接する突出部と、を有することを特徴とする請求項1に記載のマンホール更生構造。
【請求項3】
環状に形成され、前記荷重伝達部材を介して前記既設マンホールの上端面の上に設置された高さ調整部材を備え、
前記荷重伝達部材は、環状の本体部の上面から突出し、前記高さ調整部材の内周面と当接する係止部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のマンホール更生構造。
【請求項4】
前記更生用マンホールは、繊維基材と、光硬化性樹脂組成物の硬化物とによって構成されており、単独で所定の垂直荷重に耐え得る強度を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のマンホール更生構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホール更生構造に関し、特に、埋設された既設マンホールの内側に筒状の更生用マンホールを設置したマンホール更生構造に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の下水道普及率は平均でおよそ79%であり、都市部では、ほぼ100%に近い普及率となっている。下水管は長年の使用により劣化し、その耐用年数は一般に約50年とされている。下水管渠の総延長は47万Km以上であり、それに伴うマンホールの数は約800~1000万個であって、近年、耐用年数を越えるマンホールの数が増加していることから、老朽化に伴う補修が急務となっている。一般的にマンホールは、地中に所定厚さを有する筒状体を形成し、地表に筒状体の上部が開口する様に設置される。
【0003】
このようなマンホールの更生方法としては、一般に、裏込め材を用いた工法が知られている。この工法では、特許文献1に記載されているように、既設された筒状のマンホールの内周面に沿って筒状の補修材を組み立てるとともに、補修材の外周面と既設マンホールの内周面との間にスペーサを配設して隙間を形成する。この隙間にモルタル等の裏込め材を注入して、裏込め材を固めることにより、既設マンホールと、裏込め材及び補修材で構成された更生用マンホールとを一体化させる。
【0004】
また、特許文献2には他の工法として、裏込め材を用いずに、光硬化性樹脂組成物をガラス繊維基材に含浸させたライニング材を用いたものが記載されている。この工法では、まず、開口が密閉具で密閉された筒状の未硬化状態のライニング材を折り畳まれた状態で既設マンホールの内部に導入する。その後、密閉具の空気導入口からライニング材の内部に空気を導入して膨張させ、ライニング材を既設マンホールの内壁に圧着させる。この状態で、袋状のライニング材の内部に予め導入しておいた光照射装置によって光を照射し、光硬化したライニング材、すなわち更生用マンホールを既設マンホールと一体化させる。
【0005】
ライニング材を用いたマンホールの更生構造は、一般に、硬化したライニング材の強度が裏込め材よりも高いことから、硬化したライニング材のみで、マンホールに求められる垂直荷重に耐え得る性能を確保できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-090173号公報
【文献】特開2014-076592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マンホールの上部開口を塞ぐ蓋体に上方から作用する垂直荷重、例えば、マンホール上を通る人や車両から受ける垂直荷重は、蓋体をマンホールに固定するためにマンホールの上部に設けられる蓋体用受枠や、マンホールの高さを調節するために必要に応じて設置される環状の調整リングを介してマンホールの上端面に作用する。
【0008】
一般に、蓋体用受枠や調整リングの内径は、規格化された既設マンホールの上部開口の大きさに合わせて、その内径と同じ大きさに設定されており、既設マンホールの内側に更生用マンホールを新設した場合、更生用マンホールの外径は、既存の蓋体用受枠の内径や既存の調整リングの内径よりも小さくなる。
【0009】
それ故、既存の蓋体用受枠や調整リングが使用された場合、更生用マンホールには、蓋体に作用する垂直荷重が伝達されず、新設された更生用マンホールの耐荷重性能を十分に活用することができないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、既設マンホールの内側に、筒状の更生用マンホールを設置したマンホール更生構造において、蓋体に作用する上方からの垂直荷重を更生用マンホールに伝達することが可能なマンホール更生構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るマンホール更生構造は、
所定厚さの筒状に形成されている既設マンホールの内側に設置された所定厚さの筒状の更生用マンホールを備えたマンホール更生構造において、
前記既設マンホール上に設置され、前記既設マンホールの上部開口を閉塞する蓋体が収容される蓋体用受枠と、
前記蓋体用受枠と前記更生用マンホールとの間に設けられ、前記蓋体を介して伝達される垂直方向の荷重が少なくとも前記更生用マンホールの上端面に伝達されるように、前記既設マンホールの上端面及び前記更生用マンホールの前記上端面の双方に重ねられた環状の荷重伝達部材と、を備え、
前記既設マンホールは、円筒状に延びる直壁部の上方に、上方に向かって内径及び外径が漸次小さくなる斜壁部を有し、
前記更生用マンホールは、前記既設マンホールの前記直壁部から前記斜壁部まで延び、該更生用マンホールの前記上端面は、前記斜壁部の上端面と面一になるように形成されており、
前記蓋体用受枠の内径は、前記既設マンホールの前記斜壁部の上端面の内径とほぼ一致し、
前記更生用マンホールの前記上端面の外径は、前記蓋体用受枠の内径以下であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、蓋体の上を通る人や車両等により、蓋体に垂直荷重が作用した場合に、この垂直荷重は、蓋体から荷重伝達部材に伝達され、この荷重伝達部材の下側に在る既設マンホールの上端面及び更生用マンホールの上端面のうち、少なくとも更生用マンホールの上端面に伝達される。これにより、老朽化により既設マンホールが所要の垂直荷重に耐えられなくなった場合であっても、蓋体が受けた垂直荷重を更生用マンホールに伝達させて、新設された更生用マンホールの耐荷重性能を十分に活用し、マンホールの性能を維持することができる。また、既設マンホールの耐荷重性能が維持されている場合には、既設マンホールと更生用マンホールの双方で垂直荷重を受けて、マンホール全体の耐荷重性能を向上することができる。
【0013】
また、本発明は、上記マンホール更生構造において、
前記荷重伝達部材は、
環状の本体部と、
該本体部の下面から下方へ突出し、前記更生用マンホールの内周面と直接的または間接的に当接する突出部と、を有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、荷重伝達部材の突出部と、更生用マンホールの内周面とが互いに当接することで、更生用マンホールに対する荷重伝達部材の位置ずれが防止されるので、経年使用により荷重伝達部材の位置が初期位置からずれて、更生用マンホールへの荷重伝達機能が低下することを防止することができる。
【0015】
また、本発明は、上記マンホール更生構造において、
環状に形成され、前記荷重伝達部材を介して前記既設マンホールの上に設置された高さ調整部材を備え、
前記荷重伝達部材は、環状の本体部の上面から突出し、前記高さ調整部材の内周面と当接する係止部を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、荷重伝達部材の上に載置された高さ調整部材の内周面に、荷重伝達部材の係止部を当接させて、荷重伝達部材と高さ調整部材との相対的な位置ずれを防止することができる。これにより、経年使用により高さ調整部材と荷重伝達部材との相対位置がずれて、更生用マンホールへの荷重伝達機能が低下することを防止することができる。
【0017】
また、本発明は、上記マンホール更生構造において、
前記更生用マンホールは、繊維基材と、光硬化性樹脂組成物の硬化物とによって構成されており、単独で所定の垂直荷重に耐え得る強度を有することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、既設マンホールが老朽化によって破損した場合であっても、蓋体が受けた垂直荷重を荷重伝達部材によって更生用マンホールに伝達し、更生用マンホール単独でマンホールの性能を維持することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のマンホール更生構造によれば、蓋体に上方からの垂直荷重が作用した場合に、この垂直荷重を荷重伝達部材の下側にある更生用マンホールの上端面に伝達させることができる。これにより、蓋体に作用した垂直荷重を更生用マンホールに伝達させて、新設された更生用マンホールの耐荷重性能を十分に活用することができ、老朽化により既設マンホールが所要の垂直荷重に耐えられなくなった場合であっても、マンホールの性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態であるマンホールの更生構造を模式的に示す断面図。
図2】マンホールの更生構造の要部拡大断面図。
図3】荷重伝達部材の斜視図。
図4】荷重伝達部材の設置状態の他の例を示す図であって、図2のXで囲む領域の拡大断面図。
図5】荷重伝達部材の変形例を示す斜視図。
図6】本発明の第2の実施形態であるマンホールの更生構造の要部拡大断面図。
図7図6に示す荷重伝達部材の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態であるマンホール更生構造を模式的に示す断面図であり、図2は、図1に示す更生構造の要部拡大断面図である。なお、本発明の説明に用いる図は、要部を強調して示しており、実際の寸法比を示すものではない。マンホール更生構造10は、更生の対象となる地中に埋設された既設マンホール20と、既設マンホール20を更生するための更生用マンホールである更生用ライニング材12と、マンホールの高さを調整するための高さ調整部材である調整リング14及び調整モルタル15と、蓋体16と、蓋体用受枠18(以下、単に「受枠18」と称する)と、を備えるとともに、受枠18と更生用ライニング材12との間に、荷重伝達部材30を備える。
【0022】
既設マンホール20は、所定の厚さを有する有底の筒状に形成されている。このような既設マンホール20は、地中に埋設された下水管渠に対して一定の間隔で配置されており、既設マンホール20の下部壁面に形成された取付孔24,25のそれぞれに下水管51,52のそれぞれの端部が挿入された状態で取付けられている。既設マンホール20の上部開口は、人が入ることができるように、通常、口径が600mmに設定されている。本実施形態の既設マンホール20は、例えばコンクリート製であって、土台となる基盤17と、基盤17の上に設置され、マンホールの底面を形成するとともにU字状の溝が形成されたインバート部11と、基盤17から上方(地上へ向かう方向)へ円筒状に延びる直壁部21と、直壁部21の上方に位置して上方に向かって内径及び外径が漸次小さくなるように壁面が傾斜した斜壁部22とを有している。
【0023】
更生用ライニング材12は、既設マンホール20の内側に設置され、所定の厚さを有し、既設マンホール20の形状に沿う有底又は無底の筒状に形成される。更生用ライニング材12の本実施形態の更生用ライニング材12は、無底筒状であって、既設マンホール20の直壁部21及び斜壁部22のそれぞれに適合させた直壁用筒状部13A及び斜壁用筒状部13Bのそれぞれを有するとともに、直壁用筒状部13Aには、既設マンホール20の取付孔24,25に適合する下水管取付孔28,29が形成されている。
【0024】
本実施形態では、上下方向で、更生用ライニング材12の上端の位置が既設マンホール20の上端の位置と一致しており、更生用ライニング材12の上端面12aと、既設マンホール20の上端面20aとがほぼ面一に形成されている。
【0025】
更生用ライニング材12の材料としては、例えば、繊維等からなる含浸基材(例として、ガラス繊維、ポリエステル繊維などの繊維基材やフェルトなどの不織布)に光硬化性樹脂組成物及び/又は熱硬化性樹脂組成物を含浸したものを使用することができ、本実施形態ではガラス繊維からなる含浸基材に光硬化性樹脂組成物を含浸させている。光硬化性樹脂組成物は、例えば、重合性樹脂、重合性不飽和モノマー及び光重合開始剤を含むものとすることができ、重合性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂等を用いることができる。光重合開始剤としては、例えば、紫外線により樹脂の重合を促進する紫外線用重合開始剤を使用することができるが、紫外線及び可視光線の両方の作用で樹脂の重合を促進できるものを使用することが好ましい。このような更生用ライニング材12は、硬性化樹脂組成物が硬化していない未硬化状態において可撓性を有し、硬化後に既設マンホール20の内径と対応する外径を有するように、既設マンホール20の形状に適合させた有底又は無底の筒状に形成される。
【0026】
また、更生用ライニング材12は、内面及び外面のそれぞれを保護するインナーフィルム及びアウターフィルムを含む構成とすることができる。インナーフィルムは、更生用ライニング材12に対して光を照射する光照射装置からの光に対して透過性を有し、アウターフィルムは、この光照射装置から照射された光が更生用ライニング材12の外部に透過せず、光硬化反応に使われるように遮光性フィルムを用いることが好ましい。
【0027】
本実施形態の更生用ライニング材12は、既設マンホール20に依らずに、単独で所定の垂直荷重(例えば、20t以上の垂直荷重)に耐え得る自立式構造を有している。更生用ライニング材12の厚さは、5mm~30mmとすることができ、より好ましくは10mm~20mmの範囲である。なお、この厚さは、更生対象となる既設マンホール20の内径等により適宜設定することが可能である。
【0028】
調整リング14及び調整モルタル15は、既設マンホール20の上に載置され、地面Gや受枠18に対する既設マンホール20の高さを調整するための部材であり、上面視で円形の環状に形成されている。調整リング14は、例えばコンクリート製であって、荷重伝達部材30を介して既設マンホール20の上に載置される。調整モルタル15は、調整リング14の上に設けられ、調整リング14と受枠18との間を埋めるようにモルタルを環状に充填して形成される。調整リング14の厚さ(すなわち、設置状態における上下方向の高さ)は、調整モルタル15の厚さよりも大きい。なお、調整リング14は、所要の高さに応じて複数設置することができる。調整リング14及び調整モルタル15の内径及び外径は、それぞれ、既設マンホール20の上端面20aの内径及び外径とほぼ一致している。
【0029】
受枠18は、環状に形成された設置部18Aと、設置部18Aの上部開口縁部に形成され、蓋体16が収容される蓋体収容部18Bとを有する。設置部18Aは、既設マンホール20の上端面20aの上に載置される部位であり、本実施形態では、荷重伝達部材30、調整リング14及び調整モルタル15を介して、既設マンホール20上に設置される。
【0030】
蓋体16は、受枠18を介して既設マンホール20に取付けられ、既設マンホール20の上部開口を閉塞するものであり、円盤状に形成されている。
【0031】
荷重伝達部材30は、蓋体16に作用する外力、具体的には、蓋体16に上方から作用する垂直荷重を更生用ライニング材12に伝達するものであり、蓋体16を介して伝達される垂直方向の荷重が少なくとも更生用ライニング材12の上端面12aに伝達されるように、既設マンホール20の上端面20a及び更生用ライニング材12の上端面12aの双方に重ねられた環状の部材である。荷重伝達部材30は、例えば、鋳鉄や鋼などの鉄製、その他の金属製、又は繊維強化樹脂などの樹脂製のものとすることができる。
【0032】
図3に示すように、本実施形態の荷重伝達部材30は、環状の本体部32と、本体部32の下面32b(すなわち、設置状態で下方を向く面)から突出する突出部36と、本体部32の上面32a(すなわち、設置状態で上方を向く面)から突出する係止部38とを有する。本体部32の厚さは、例えば、5mm~25mm、好ましくは5mm~15mmとすることができる。
【0033】
本体部32の外径D1は、既設マンホール20の上端の内径よりも大きく設定されており、本体部32の内径D2は、更生用ライニング材12の上端の外径よりも小さく設定されている。本実施形態では、本体部32の外径D1が、既設マンホール20の上端の内径よりも大きく且つ外径よりも小さく設定されており、本体部32の内径D2は、更生用ライニング材12の上端の内径よりも小さく設定されている。また、本実施形態では、本体部32の厚さが、調整モルタル15の厚さよりも小さくなっている。本体部32は、設置状態において、上面視で既設マンホール20の上部開口と同心円状に配置される。
【0034】
突出部36は、荷重伝達部材30の剛性を高めたり、更生用ライニング材12に対する荷重伝達部材30の位置ずれを防止したりするためのものである。本実施形態の突出部36は、本体部32の下面32bの内周縁部から垂直に突出する円筒状に形成されている。突出部36の外径φは、更生用ライニング材12の上端部の内径と対応するように設定されることが好ましく、図2に示す例では、突出部36は、設置状態で、外周面37が周方向に亘って更生用ライニング材12の上端部の内周面12bと当接するように、その外径φが、更生用ライニング材12の上端の内径とほぼ同じ大きさに設定されている。このように、荷重伝達部材30に、更生用ライニング材12の内周面12bと直接的に当接する突出部36を設けることで、荷重伝達部材30の変形を抑制し、荷重伝達部材30の剛性を高めることができる。
【0035】
図4は、荷重伝達部材30の設置状態の他の例を示す図であり、図2のXで囲む領域の拡大断面図である。図4では、荷重伝達部材30の突出部36の外周面37と、更生用ライニング材12の内周面12bとの間に隙間があり、この隙間に接着剤45が充填されている。接着剤45としては、例えば、エポキシ樹脂系接着剤やシーリング材等を用いることができる。このように、接着剤45を介して突出部36の外周面37と更生用ライニング材12の内周面12bと間接的に当接させても、荷重伝達部材30の変形を抑制し、荷重伝達部材30の剛性を高めることができる。更生用ライニング材12は、製造時に補修する既設マンホール20に合わせて、厚みの調整を容易に行うことができるが、荷重伝達部材30は、一般に金型を用いて製造され、厚み等の形状変更にはコストがかかる。そのため、例えば施工時に更生用ライニング材12と荷重伝達部材30の突出部36との間に隙間が形成される場合等に、図4に示すように、この隙間を接着剤45等により充填することで、汎用性の高いものすることができる。さらに、図4に示す例では、接着剤45が、突出部36の下面を覆っており、この下面の内周側の端縁から更生用ライニング材12の内周面12bに向かって斜めに伸びる傾斜部45aを有している。このように、傾斜部45aを設けることで、本体部32及び突出部36の変形を抑制する効果を高め、荷重伝達性能を向上することができる。
【0036】
また、突出部36の形状も円筒状のものに限られず、図3に示す係止部38のように、周方向に間隔をあけて複数の突出部36を配置する構成であってもよいが、本実施形態のように、突出部36を円筒状に形成し、周方向の全域が更生用ライニング材12の内周面12bと当接するようにすることで、荷重伝達部材30全体の剛性をより高めることができる。
【0037】
係止部38は、荷重伝達部材30の上に載置される調整リング14の内周面と当接して荷重伝達部材30と調整リング14との相対的な位置ずれを抑制するものである。本実施形態では、本体部32の上面32aに、周方向に間隔をあけて4つの係止部38-1~38-4を設けている。各係止部38は、設置状態で、その外周面39が調整リング14の内周面に当接するように大きさ・形状が設定されており、本実施形態では、調整リング14の内周面に沿った円弧状に形成されている。
【0038】
なお、係止部38の数は4つに限られず、調整リング14の位置ずれを抑制できるように1つ以上配置されていればよく、その形状も円弧状のものに限られない。例えば、図5に示すように、係止部38が1つの場合には円筒状に形成してもよい。係止部38の数が2つ以上の場合は、周方向にほぼ等間隔に配置されていることが好ましい。さらに、図示例では、係止部38の外周面39が調整リング14と直接に当接しているが、外周面39と調整リング14の内周面との間に隙間が形成される場合には、この隙間を埋める接着剤等の充填材を介して、係止部39を間接的に調整リング14の内周面に当接させてもよい。
【0039】
次に、荷重伝達部材30を備えたマンホール更生構造10の施工手順を説明する。
【0040】
まず、既設マンホール20の内部に更生用ライニング材12を設置する。更生用ライニング材12は、以下の手順で設置される。まず、既設マンホール20から蓋体16、受枠18、調整モルタル15及び調整リング14を取外すとともに、インバート部11を撤去する。その後、未硬化状態の円筒状の更生用ライニング材12を既設マンホール20内に導入する。この際、更生用ライニング材12の上部開口及び下部開口は、上部パッカ及び下部パッカにより閉塞され、更生用ライニング材12は、上部パッカに取付けたワイヤロープにより吊り下げられた状態でクレーンを用いて既設マンホール20の内部に導入される。次に、コンプレッサを用いて更生用ライニング材12の内部に圧縮空気を供給する。圧縮空気は、一端がコンプレッサに接続される、上部パッカを貫通して他端が更生用ライニング材12内まで延びる空気供給パイプを通って更生用ライニング材12の内部に供給される。圧縮空気により更生用ライニング材12が既設マンホール20内で膨張・拡径した後、上部パッカに形成された装置導入部から、光照射装置を更生用ライニング材12内に導入する。その後、コンプレッサにより更生用ライニング材12内に圧縮空気を供給し、更生用ライニング材12の外周面を既設マンホール20の内壁面に密着させた状態で、導入された光照射装置によって、更生用ライニング材12内に光を照射し、更生用ライニング材12を硬化させる。その後、光照射装置を取り出し、硬化した更生用ライニング材12に対し、水管取付孔28,29、上部開口及び下部開口を形成する管口処理を行う。
【0041】
更生用ライニング材12が設置された後、更生用ライニング材12の底部にインバート部11を新たに設置する。その後、既設マンホール20及び更生用ライニング材12の上端面20a,12aに荷重伝達部材30を載置し、その上に、調整リング14、調整モルタル15及び受枠18を順に載置する。なお、更正用ライニング材12の上端面12aに接着剤を塗布して、その上に荷重伝達部材30を載置してもよい。上端面12aに接着剤が塗布されることで、荷重伝達部材30の載置面を平らにしたり、更正用ライニング材12と荷重伝達部材30の密着性を向上させたり、隙間から水漏れが生じることを防止したりすることができ、荷重伝達部材30の設置安定性を向上させることができる。荷重伝達部材30、調整リング14、調整モルタル15及び受枠18は、上面視で、既設マンホール20の円形の上部開口と、円中心が一致するように同軸上に配置される。調整リング14、調整モルタル15及び受枠18には、それぞれ、ボルト貫通孔が形成されており、このボルト貫通孔及び既設マンホール20の上端面20aに形成されたボルト穴に、アンカーボルト40が挿通され、図示していないナット部材により固定されている。
【0042】
荷重伝達部材30は、上下方向において既設マンホール20と調整リング14とにより挟持された状態で、既設マンホール20に固定されている。なお、図示していないが、荷重伝達部材30の本体部32外径を大きくし、アンカーボルト40が本外部32を貫通する構成としてもよい。設置状態で、荷重伝達部材30の突出部36は、本体部32の内周縁部から下方へ突出して更生用ライニング材12の内周面12bと当接し、係止部38は、本体部32から上方に突出して調整リング14の内周面と当接している。蓋体16は、荷重伝達部材30、調整リング14、調整モルタル15及び受枠18を介して既設マンホール20に取付けられており、既設マンホール20の上部開口と連続する調整モルタル15の上部開口を閉塞する。
【0043】
次に、上述したマンホール更生構造10の作用について説明する。
【0044】
マンホール更生構造10において、蓋体16の上を通る人や車両等により、蓋体16に上方からの垂直荷重Fが作用した場合、この垂直荷重Fは、受枠18、調整モルタル15及び調整リング15を介して荷重伝達部材30に伝達され、さらに、荷重伝達部材30を介して、荷重伝達部材30の本体部32と当接する既設マンホール20の上端面20a及び更生用ライニング材12の上端面12aのそれぞれに伝達される。このように、マンホール更生構造10は、荷重伝達部材30を設けることで、蓋体16に作用した垂直荷重Fを更生用ライニング材12に伝達することが可能となり、その結果、老朽化により既設マンホール20が所要の垂直荷重に耐えられなくなった場合であっても、新設された更生用ライニング材12の耐荷重性能を十分に活用して、マンホールの性能を維持することができる。また、既設マンホール29の耐荷重性能が維持されている場合には、既設マンホール20と更生用ライニング材12の双方で垂直荷重を受けて、マンホール全体の耐荷重性能を向上することができる。
【0045】
特に、本実施形態では、荷重伝達部材30の本体部32が、上面視で、その内周縁が全周に亘って更生用ライニング材12の外周縁よりも内側に位置しており、その外周縁が全周に亘って既設マンホール20の内周縁よりも外側に位置している。すなわち、本体部32は、全周に亘って、既設マンホール20の上端面20a及び更生用ライニング材12の上端面12aと垂直方向で重なっているので、蓋体16から受けた垂直荷重Fを既設マンホール20の全周及び更生用ライニング材12の全周に直接的に作用させることができ、更生用ライニング材12の耐荷重性能を効果的に活用することができる。
【0046】
また、荷重伝達部材30に設けた突出部36の外周面37が、更生用ライニング材12の上端部の内周面12bと当接することで、更生用ライニング材12に対する荷重伝達部材30の位置ずれを防止されるので、経年使用により荷重伝達部材30の位置が初期位置からずれて、更生用ライニング材12への荷重伝達機能が低下することを防止することができる。
【0047】
さらに、荷重伝達部材30には係止部38が設けられており、この係止部38が、調整リング14と当接することで、荷重伝達部材30と調整リング14との相対位置のずれが防止されるので、経年使用により調整リング14と荷重伝達部材30の位置がずれて、更生用ライニング材12への荷重伝達機能が低下することを防止することができる。
【0048】
また、本実施形態の更生用ライニング材12は、既設マンホール20に依らずに、単独で所定の垂直荷重に耐え得る自立式構造を有しているので、老朽化により既設マンホール20が破損した場合であってもマンホールの機能を保持することができる。特に、荷重伝達部材30を設置したことにより、蓋体16が受けた垂直荷重を調整モルタル15、調整リング14及び荷重伝達部材30を介して、既設マンホール20に依らずに更生用ライニング材12のみで受けて、これに耐え得ることが可能である。
【0049】
なお、上述した実施形態では、既設マンホール20を更生するための更生部材(以下、「更生用マンホール」とも称する)として、光硬化性樹脂組成物を含有する更生用ライニング材12を用いたが、更生用マンホールはこれに限られず、例えば、既設マンホール20の内側に隙間を設けて設置された筒状の補修材と、この補修材と既設マンホール20との隙間に充填された裏込め材とで構成されたものであってもよい。裏込め材を用いた更生用マンホールは、一般に、既設マンホール20に依らない自立式構造ではなく、既設マンホール20と一体となって既設マンホール20を補剛する複合式構造を有し、荷重伝達部材30が配置されていなくても、既設マンホール20を介して間接的に垂直荷重を支持することができるが、荷重伝達部材30を介在させることで、更生部材に直接的に垂直荷重を作用させることが可能となる。
【0050】
このように、本発明にかかるマンホールの更生構造は、更生用マンホールとして裏込め材を用いたものを採用してもよいが、本実施形態の更生用ライニング材12を用いることで、裏込め材を用いたものよりも薄厚にしながら、所要の荷重に耐え得る強度の高い構造とすることができる。例えば、既設マンホール20の厚さが100mmの場合、裏込め材を用いたものでは、更生用マンホールの厚さが70~80mmになるが、更生用ライニング材12を用いた場合、その厚さを10~17mmにして、既設マンホール20に依らずに所要の荷重に耐え得る自立式構造とすることが可能である。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、図6及び図7を用いて、マンホールの更生構造10の第2の実施形態について説明する。図6は、マンホール更生構造10の第2の実施形態を模式的に示す図2と同様の拡大断面図であり、第1の実施形態と対応する部位に同一符号を付している。また、以下に説明する第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については詳細な説明を省略する。
【0052】
本実施形態では、荷重伝達部材30を受枠18と、高さ調整部材である調整モルタル15との間に介在している。また、更生用ライニング材12の上端は、上下方向で調整モルタル15の上端の位置まで伸びており、更生用ライニング材12の上端面12aと、調整モルタル15の上面15aとが面一に形成されている。
【0053】
図7に示すように、荷重伝達部材30は、本体部32の下面32bから突出する突出部36を有しており、係止部38を有していない。突出部36は、設置状態で更生用ライニング材12の内周面と当接しており、これにより、更生用ライニング材12に対する荷重伝達部材30の位置ずれが防止されている。
【0054】
本実施形態のマンホールの更生構造10では、蓋体16に作用した垂直荷重を受枠18及び荷重伝達部材30を介して更生用ライニング材12の上端面12aと、調整モルタル15の上面15aに伝達することができ、新設された更生用ライニング材12の耐荷重性能を十分に活用することができる。例えば、既設マンホール20に対して、調整リング14及び調整モルタル15を取外すことなく、これらを再利用できる場合、本実施形態のように、更生用ライニング材12を調整モルタル15の上端位置まで設置し、その上に荷重伝達部材30を配置する構造とすることが可能である。
【0055】
なお、図示していないが、荷重伝達部材30は、上述した第1及び第2の実施形態のものに変えて、調整リング14と調整モルタル15との間に配置される構成であってもよい。かかる場合、更生用ライニング材12の上端位置を調整リング14の上端位置と一致させる構造とすることができる。荷重伝達部材30の本体部32は、面一に形成された更生用ライニング材12の上端面12a及び調整リング14の上面の上に載置される。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、荷重伝達部材30は、本体部32のみを有し、突出部36及び係止部38を有していない構成であってもよい。かかる場合、本体部32にアンカーボルト40が貫通する貫通孔を設け、アンカーボルト40によって既設マンホール20、荷重伝達部材30及び調整リング14を固定することで、これらの相対的な位置ずれを防止することが可能である。さらに、荷重伝達部材30は、本体部32と係止部38とを有し、突出部36を有していない構成であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 マンホール更生構造
12 更生用ライニング材(更生用マンホール)
12a 更生用ライニング材の上端面
14,15 調整リング
16 蓋体
18 受枠
20 既設マンホール
20a 既設マンホールの上端面
30 荷重伝達部材
32 本体部
32a 本体部の上面
32b 本体部の下面
36 突出部
37 突出部の外周面
38 係止部
39 係止部の外周面
40 アンカーボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7