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特許7362111コンクリート化粧剤、コンクリート化粧部材およびコンクリート化粧剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】コンクリート化粧剤、コンクリート化粧部材およびコンクリート化粧剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/06 20060101AFI20231010BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231010BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231010BHJP
   C09D 131/04 20060101ALI20231010BHJP
   C04B 41/70 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C09D1/06
C09D5/02
C09D7/61
C09D131/04
C04B41/70
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019240084
(22)【出願日】2019-12-31
(65)【公開番号】P2021109881
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】520003789
【氏名又は名称】タイハクマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 心平
(72)【発明者】
【氏名】湯村 栄治
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-206369(JP,A)
【文献】特開2000-170108(JP,A)
【文献】特開2007-204691(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1915878(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 41/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートスラッジと、合成樹脂エマルションペイントと、水とを含むことを特徴とするコンクリート化粧剤。
【請求項2】
前記合成樹脂エマルションペイントは全質量の5%以上含まれることを特徴とする請求項1記載のコンクリート化粧剤。
【請求項3】
前記コンクリートスラッジと前記水とはコンクリートスラッジ水から成ることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート化粧剤。
【請求項4】
コンクリート粉末を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンクリート化粧剤。
【請求項5】
シリカゲル粉末と、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂とを含むことを特徴と請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコンクリート化粧剤。
【請求項6】
前記シリカゲル粉末は前記コンクリートスラッジ質量の0.2~5.0%含まれ、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂は前記コンクリートスラッジ質量の5~30%含まれることを特徴とする請求項5記載のコンクリート化粧剤。
【請求項7】
請求項5または6記載のコンクリート化粧剤をシート状に成形して成ることを特徴とするコンクリート化粧部材。
【請求項8】
水酸化カルシウムを含む水にシリカゲル粉末をpHが9以下となるまで混合して第1混合水を調製する第1工程と、
前記第1工程後の前記第1混合水にエチレン酢酸ビニル共重合樹脂を混合して第2混合水を調製する第2工程と、
前記第2工程後の前記第2混合水に合成樹脂エマルションペイントを混合して第3混合水を調製する第3工程と、
前記第3工程後の前記第3混合水にコンクリートスラッジを混合する第4工程とを、
有することを特徴とするコンクリート化粧剤の製造方法。
【請求項9】
前記水酸化カルシウムを含む水はコンクリートスラッジ水から成ることを、特徴とする請求項8記載のコンクリート化粧剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観をコンクリート風に見せるためのコンクリート化粧剤、コンクリート化粧部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生コンクリート工場において、固形分率が単位セメント量の3質量%を超えるコンクリートスラッジ水は、日本産業規格(JIS A 5308)の規定により再利用することができず、他の利用方法も存在していないため、脱水処理後に埋め立て処分されているのが現状である。固形分率が単位セメント量の3%以下のコンクリートスラッジ水は、生コンクリートの練り混ぜ水として再利用可能であるが、1質量%を越えたスラッジ水を使用する場合でも、配合の修正が必要となるため、ほとんど再利用されていない。このようなスラッジ水は、高強度または長期の耐久性が要求される生コンクリートには、一切再利用ができない。
このため、従来、スラッジ水の用途としては、埋戻し対象の地盤空間に充填して固化させる充填材などが考えられていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-131804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コンクリートの美観を向上させる方法として、既存コンクリートをハツリ取り、生コンクリートを打ち直す方法がある。また、モルタルをコンクリート表面にコテ塗りする方法や、補修材を表面に塗布する方法もある。しかしながら、通常、既存コンクリートをハツリ取り、生コンクリートを打ち直す作業は、その作業工程の大変さから、特別な理由がない限り、コンクリートの美観を向上させるためには行われない。また、モルタル打設や補修材の塗布も、美観向上のためだけに行われることは少なく、ひび割れ補修や断面修復を行った時に、ついでに行われることが多い。よって、コンクリートの美観を向上させる方法としては、ペンキや補修剤などを表面塗布する方法が一般的にとられている。
しかしながら、ペンキなどを表面塗布する方法では、コンクリート打ちっ放しの風合いが再現できないという課題があった。このため、塗布を行った箇所がすぐに見て分かる状態であった。土間コンクリートなどの場合、車のタイヤによる摩擦力がかかるため、ペンキや一般的な補修剤を塗布しただけではすぐに剥がれてしまい、降雪時などには滑る危険性が高いという課題もあった。
【0005】
また、生コンクリートやモルタルは、圧縮される力には強いが、引っ張られる力には非常に弱いため、打設する厚さが薄い場合、ひび割れが入りやすく、浮き、剥離の発生が懸念される課題があった。よって、今までは100mm程度の厚さで打設を行なわなければならなかった。そのため、最終的な部材厚さを合わせるために、不要な分のコンクリート躯体をはつり取る必要性があった。
【0006】
コンクリートの表面を補修するための補修材には、主にポリマーセメントもしくは塗膜弾性防水材が選定される。ポリマーセメントには付着性や作業性を向上したものが用いられるが、セメント系のため、硬化が完了するまで数日以上を要し、また、薄塗りができず、施工後はひび割れが発生しやすいという課題があった。塗膜弾性防水材は、薄塗ができるというメリットはあるが、強度が小さいという課題があった。このため、塗膜弾性防水材は、力がかかる土間コンクリート等には使用できなかった。
【0007】
コンクリートの風合いを好む者は、灰色系のペンキ等を使用して、植木鉢等の身近なものをコンクリート風に再現していたが、通常のペンキは光を反射しやすいため、コンクリート特有の重量感を出すことができないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、コンクリートスラッジを再利用して、コンクリート打ちっ放しの風合いを再現でき、滑りにくく、ひび割れ、浮き、剥離を発生しにくく、薄くても強度が大きく、コンクリート特有の重量感を出すことができるコンクリート化粧剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るコンクリート化粧剤は、コンクリートスラッジと、合成樹脂エマルションペイントと、水とを含むことを特徴とする。
前記合成樹脂エマルションペイントは全質量の5%以上含まれることが好ましい。
前記コンクリートスラッジと前記水とはコンクリートスラッジ水から成ることが好ましい。
本発明に係るコンクリート化粧剤は、コンクリート粉末を含んでもよい。
本発明に係るコンクリート化粧剤は、シリカゲル粉末と、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂とを含んでもよい。
前記シリカゲル粉末は前記コンクリートスラッジ質量の0.2~5.0%含まれ、前記エチレン酢酸ビニル共重合樹脂は前記コンクリートスラッジ質量の5~30%含まれることが好ましい。
本発明に係るコンクリート化粧部材は、前述の本発明に係るコンクリート化粧剤をシート状に成形して成ることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るコンクリート化粧剤の製造方法は、水酸化カルシウムを含む水にシリカゲル粉末をpHが9以下となるまで混合して第1混合水を調製する第1工程と、前記第1工程後の前記第1混合水にエチレン酢酸ビニル共重合樹脂を混合して第2混合水を調製する第2工程と、前記第2工程後の前記第2混合水に合成樹脂エマルションペイントを混合して第3混合水を調製する第3工程と、前記第3工程後の前記第3混合水にコンクリートスラッジを混合する第4工程とを、有することを特徴とする。
【0011】
前記水酸化カルシウムを含む水はコンクリートスラッジ水から成ることが好ましい。
コンクリートスラッジ水とは、生コン工場で生コン車や製造プラントを掃除したときに発生する回収水のうち、石・砂を取り除いたのろ水を指す。コンクリートスラッジ水は、強アルカリ性であり、通常pH8以上である。コンクリートスラッジは、コンクリートスラッジ水から水分を除いた成分を指す。コンクリートスラッジは、ウニの針のような針状結晶を大量に含んでいる。
合成樹脂エマルションペイントは、白色または灰色であることが好ましい。
コンクリートスラッジ水は、固形分率が3質量%未満でもよいが、廃棄物の有効活用のため、3質量%以上であることが好ましい。
コンクリート粉末の粒径は0.15mm以下が好ましい。コンクリート粉末を含む場合、ザラザラとした本物のコンクリートと同様の感触になる。
【0012】
シリカゲル粉末は、シリカスケールを粉砕したものから成ることが好ましい。シリカゲル粉末の粒径は0.15mm以下が好ましい。非結晶のシリカゲルは、コンクリートスラッジ水に含まれるアルカリによって溶解される。シリカスケールは、水に溶解されたシリカゲルが配管の内部に付着したものであり、一旦固まると非常に頑丈で、剥がれにくい。シリカゲル粉末は、スラッジ水に入れるとアルカリ性のため、すぐに溶解が開始されケイ酸塩になる。ケイ酸塩はスラッジ水に含まれる水酸化カルシウムと反応することによりケイ酸カルシウムに変化し、pHが低下する。水酸化カルシウムを含む水にシリカゲル粉末をpHが9以下となるまで混合することにより、ケイ酸カルシウムがスラッジに含まれる針状結晶の隙間に入り込み、空隙が低下するので、より緻密な組織になり強度向上が図られる。
【0013】
本発明に係るコンクリート化粧剤およびコンクリート化粧剤の製造方法において、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂を用いることにより、コンクリート化粧剤の空隙に水が入り込まなくなる。水の存在は化粧剤の強度の低下につながるため、特に強度が必要な土間コンクリートなどに使用する場合、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂を混合することが好ましい。
エチレン酢酸ビニル共重合樹脂は、スラッジの針状結晶とケイ酸カルシウム全体を包み込み、圧縮・密着させる効果を有する。すなわち、コンクリートの硬化は素材の中にて水和反応により針状結晶が成長して行われるのに対し、本発明に係るコンクリート化粧剤では、最初から、スラッジに含まれる針状結晶とそれを取り巻く物質が存在し、合成樹脂エマルションペイントがそれらをつなぎ合わせ、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂が乾燥収縮して全体を圧縮させることにより、コンクリートの硬化と同様の強度と耐久性を実現する。
エチレン酢酸ビニル共重合樹脂は、圧力がかかるコンクリート製土間の1層目や、下地がつるつるした感触のコンクリート面を化粧する場合に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンクリートスラッジを再利用して、コンクリート打ちっ放しの風合いを再現でき、滑りにくく、ひび割れ、浮き、剥離を発生しにくく、薄くても強度が大きく、コンクリート特有の重量感を出すことができるコンクリート化粧剤およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、コンクリートスラッジと、合成樹脂エマルションペイントと、水とを含む。合成樹脂エマルションペイントは、全質量の5%以上含まれることが好ましい。水は、全質量の5質量%~ 50質量%含まれることが好ましい。コンクリートスラッジと水とは、コンクリートスラッジ水から成ることが好ましい。コンクリート化粧剤は、コンクリート粉末を含んでもよい。コンクリート化粧剤は、シリカゲル粉末と、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂とを含んでもよい。シリカゲル粉末はコンクリートスラッジ質量の0.2~5.0%含まれることが好ましい。
本発明の実施の形態のコンクリート化粧部材は、本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤をシート状に成形して成る。
【0016】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤の製造方法は、水酸化カルシウムを含む水にシリカゲル粉末をpHが9以下となるまで混合して第1混合水を調製する第1工程と、第1工程後の第1混合水にエチレン酢酸ビニル共重合樹脂を混合して第2混合水を調製する第2工程と、第2工程後の第2混合水に合成樹脂エマルションペイントを混合して第3混合水を調製する第3工程と、第3工程後の第3混合水にコンクリートスラッジを混合する第4工程とを、有する。
水酸化カルシウムを含む水はコンクリートスラッジ水から成ることが好ましい。
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムおよび炭酸塩鉱物のうちの1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0017】
コンクリートスラッジには、針状結晶に成長したセメント水和物が大量に存在している。これにさらに粒子が細かい合成樹脂エマルションペイントを混ぜると、コンクリートスラッジの針状結晶の間に成樹脂エマルションペイントが入り込む。通常、セメント水和物は水中でも非常にゆっくりと硬化することは可能であるが、合成樹脂エマルションペイントが存在している場合、水分がある限り硬化速度は非常に遅くなるか停止する。これをコンクリートなどの表面に塗布した場合、水分が蒸発することにより、合成樹脂エマルションペイントが体積減少し、針状結晶をお互いに密着させるので、コンクリート硬化に似た状態を再現することが可能になる。
【0018】
また、コンクリートスラッジには水酸化カルシウムが存在し、時間の経過と共にコンクリートスラッジの針状結晶の間に入り込んで空気中の二酸化炭素と反応し、炭酸カルシウムに変化する。これにより、さらに緻密な組成へと進行し、薄塗りでも強度の確保が可能になる。エチレン酢酸ビニル共重合樹脂およびシリカゲル粉末、またコンクリート粉末をまぜることにより、より緻密な組成になるので耐久性を高めることと美観の向上が可能になる。
【0019】
また、シリカゲル粉末をアルカリ性のスラッジ水に入れることにより、ケイ酸塩がスラッジ水に含まれる水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)が作られる。ケイ酸カルシウム水和物がコンクリート化粧剤の空隙を充填する。スラッジにシリカゲル粉末を混ぜたとき、合成樹脂エマルションペイントの影響で水分が蒸発するまで、結合はゆっくりと進行し停止する。通常、セメントは水分がある状態で保管することができないが、コンクリートスラッジと合成樹脂エマルションペイントとにシリカゲル粉末を混合して成るコンクリート化粧剤では、上記の理由で固まらず、乾燥と同時にコンクリートの硬化メカニズムと同様のメカニズムで固らせることが可能になる。すなわち、1液の硬化剤となる。
【0020】
セメントの水和には水が必要不可欠で、水が全くなくなると水和反応は停止してしまうが、このコンクリート化粧剤では逆に水分がなくなると固まり始めるので、温風により強制的に固めることができる。しかも、コンクリートと同様に、時間の経過と共に組織が緻密さを高め、強度を増進させていく。
セメント系補修材はすぐには固まらないが、長期的に強度が伸びる性質を有し、合成樹脂系補修材はすぐに固まるが、長期的に強度は伸びない性質を有する。これに対し、本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、すぐに固まるとともに、長期的に強度が伸びる性質を有している。
【0021】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、コンクリートスラッジを含むため、本物のコンクリートと同様に光の乱反射が起こり、コンクリートの色合いおよび風合いを再現させることができる。コンクリート粉末を含む場合には、さらに、コンクリートの色合いおよび風合いに近付けることができる。
【0022】
<合成樹脂エマルションペイント>
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤の原料となる合成樹脂エマルションペイントとしては、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコン樹脂系、フッ素樹脂系等が挙げられる。なお、着色剤が入っていないクリアタイプを原料としても問題はないが、塗布後は表面の緻密性が向上するため、全体的に黒っぽく見えるので、白色系着色剤が添加されているものを使用することが好ましい。なお、コンクリートを多種多様な色に変えることを目的とする場合には、着色剤が入っていないクリアタイプを原料としてもよい。なお、白色系とは、一般にコンクリートの色として認識される範囲を指すが、カラーコンクリートを目的として本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤を使用する場合には、白色系以外の着色剤が入っている合成樹脂エマルションペイントまたは着色剤を添加して製造しても良い。
【0023】
<スラッジ原料>
コンクリートスラッジは、脱水処理が行われずに大量の水分を含んだ状態のものでも、脱水処理を行ったスラッジ固形物でもよい。コンクリートスラッジは、主に生コンクリート工場から搬入することができる。その他、砕石工場や砂工場から発生するスラッジを適量混合したものを原料としてもよい。このとき、脱水状態で提供してもらうことにより、移動および保管が簡易になる。脱水方法は天日干しなどの自然乾燥でよいので、ほとんどの生コンクリート工場で対応が可能になる。強制的に脱水処理を行う装置を使用して脱水してもよい。
【0024】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、主にコンクリート構造物表面の美観を向上するために用いられる。その他、ブロック塀、室内壁、外壁、テーブル、植木鉢、木材壁、門柱、プラスチック素材等をコンクリート打ちっ放しのように見せるための化粧剤としても用いられる。
【0025】
コンクリートはその特性上、圧縮に対する力は強いが、引張に対する力は非常に小さい。そのため、一般のコンクリート構造物では、生コンクリート内に鉄筋を埋め込み、鉄筋コンクリートとして使用しており、コンクリートは引張の力を原則負担しないものとして扱われている。しかし、この化粧剤は表面に塗布するため、下地材への付着力が特に重要であり、一般の塗料と同等以上の引張強度が求められる。本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤によって形成される塗膜は、外部環境下でも十分な引張強度が維持できる。
【0026】
コンクリートスラッジは、主に生コンクリート工場から排出される廃棄物で、回収水から骨材が取り除かれたスラッジであり、大量のセメント水和物を含む。一般的に、セメントが水と接触した場合、すべてが瞬時に水和反応を起こすものではないため、コンクリートスラッジには未水和状態のセメントも多く含まれている。セメント水和物は繊維状や針状結晶を多く含むため、お互いに絡み合う性質があり、時間の経過と共に凝縮・固化されるが、これに合成樹脂エマルションペイントを添加することにより、コンクリートへの付着能力が高められ、塗布後に乾燥しても簡単に剥がれることがなくなった。
【0027】
通常、コンクリート表面の美観を向上させる場合には、セメント系もしくは合成樹脂系のものが使用される。セメント系はまさにコンクリートの主材料であるが、セメント水和物が生成されるまで時間がかかるので、硬化および付着まで長時間養生を行う必要がある。これを解決するためにポリマー系セメントも開発されているが、1mm以下のように薄く塗れず、ひび割れも発生しやすく、色が黒っぽくなりやすく、元のコンクリート構造物に合わないという問題がある。また、合成樹脂系のものは薄塗りが可能で、すぐに付着するメリットがあるが、塗布された箇所はコンクリートの美観を損なってしまう問題がある。
【0028】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、すでに反応が始まっているセメント水和物を利用することにより養生時間の短縮とコンクリートの風合い再現を可能にし、これに合成樹脂エマルションペイントによる付着力を付与させることにより、薄塗りを可能にする。
【0029】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤に使用されるスラッジは、生コンクリート工場から排出されるコンクリートスラッジのみに限定した物ではなく、例えば、砕石や砂の製造工場から排出されるスラッジを混合して使用しても良い。スラッジと合成樹脂エマルションペイントの混合割合は、使用目的によって変えることが可能である。例えば、薄く塗りたい場合や付着強度が欲しい場合は合成樹脂エマルションペイントの割合を増やし、ひび割れ部を埋めたい場合や厚く塗りたい場合はスラッジの割合を増やせば良い。なお、全質量に対して合成樹脂エマルションペイントの割合が5質量%未満になると付着強度が低下するため、その割合は5質量%以上、通常は25質量%以上が望ましい。
【0030】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤を特に耐久性が必要な箇所に使用する場合には、シリカゲル粉末と、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂を添加することにより、緻密性と引張強度を向上させることが可能になる。シリカゲル粉末とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂を含む場合、例えば、タイヤの摩擦力がかかる駐車場土間のような特に耐久性が必要な箇所でも使用可能になる。それぞれの添加割合は、シリカゲル粉末の場合、添加によりpHが低下するため注意が必要である。スラッジのpHにもよるが、スラッジ質量の0.2~5.0%またはpHが9.0未満にならない程度が好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合樹脂の添加割合は、その目的により大きく変わる。添加目的が付着強度または引張強度の向上の場合、スラッジ質量の5~30%が好ましい。特に引張強度を高めたい場合は、その割合を増やせば良い。通常は、全質量に対して15~25%の添加にする。
【0031】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、美観が低下したコンクリートや、劣化が進行したコンクリート、コンクリート製ではないものをコンクリート風に見せるためなど、美観向上を主な目的とする。本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、専用の補強材による補強後の最終的な表面仕上げ用化粧剤として適している。
【0032】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤でコンクリートの色合いおよび風合いの再現性をさらに高める場合、または、塗布面の表面に滑り止め効果を持たせたい場合には、原料のコンクリートスラッジが固形物のとき、コンクリート粉末を質量比1~3%追加添加する。コンクリート粉末には、生コンクリート工場から排出される戻りコンクリートがかたまったものや強度試験に使用した供試体等を、ロッドミル等で粉砕したものを使用することができる。生コンクリート工場が路盤材として販売しているRCなどを振るい機で振るったものを使用しても良い。なお、コア採取やはつり作業後の表面補修を行う場合、または、既存のコンクリート構造物に可能な限り美観を近づけたい場合には、コア採取やはつり作業で採取したコンクリートを原料としたコンクリート粉末を使用することにより、元のコンクリート構造物に近い風合いを再現することが可能になる。
【0033】
本発明の実施の形態のコンクリート化粧部材は、本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤を接着しにくい物質、例えば、養生テープの背面やシート状のビニール等に何層かに塗布し、化粧剤の硬化後に剥がして製造することができる。本発明の実施の形態のコンクリート化粧部材は、コンクリートの変状箇所の補修テープまたは補修シートとして使える。具体的な利用例として、この補修テープの内側に一般的なコンクリート用接着剤を塗布し、ひび割れ部に貼り付けることにより、ひび割れ部を目立たなくすることが可能になる。
【0034】
<塗布方法>
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤の塗布方法としては、ローラー、刷毛、ゴムベラ、スポンジ等による方法が挙げられる。スラッジ固形分の割合を増大させた場合には、左官コテの使用も可能になる。コンクリート表面の化粧を行う場合、化粧剤は薄くのばすように塗布することが好ましい。ただし、下地が湿っている場合には、塗布を中止することが好ましい。下地がコンクリートの場合には、含水率が5%程度以下であることが好ましい。1層目が完全に乾燥後、2層目以降は1層目と同じように塗布を繰り返すことが好ましい。完全に乾燥させるには、夏場には1時間以上、冬場には3時間以上養生することが好ましい。塗布回数は、回数を増やすほど耐久性が向上するため、3~5回以上が好ましい。乾燥と共に塗布箇所は全面に白っぽく変わり、下地が目立たなくなる。塗布後は数日間、乾燥状態を保って養生することが望ましい。
【0035】
<化粧剤塗布後の効果>
本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤の塗布を行った箇所は、自然なコンクリートの色合いや風合いを再現できる。これは、化粧剤の主原料であるスラッジには、セメント水和物等のコンクリートに含有されるものが混ざっているためである。スラッジの存在により、塗布面はペンキ仕上げした場合の様な連続した組成状態ではないため、光の反射時の具合がコンクリートに近くなる。また、白色系の合成樹脂エマルションペイントの存在により、下地が見えにくくなるため、薄塗りでも化粧剤としての効果が得られる。化粧剤の乾燥後は、時間の経過と共に希釈水に含まれていた水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化する。炭酸カルシウムはコンクリート表面全般に析出する遊離石灰と同様であるので、より本物のコンクリートに外観が近くなる。
【0036】
既存のコンクリート構造物の一部を化粧する場合、例えば、強度確認のためにコンクリートコアを採取した場合や断面修復を行った場合、既存コンクリートの汚れ具合を再現したい場合がある。この場合は、本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤に黒色系や茶色系の水性塗料を添加することにより、汚れ具合の再現が可能になる。着色用水性塗料の化粧剤に対する割合は、質量比で5%程度以内が望ましい。
【0037】
現在存在しているコンクリート補修材は多種に渡るが、美観向上または回復を第一に考えているものは少ない。また、生コンクリートを実際に打設した左官職人が美観向上のために作業を行うことは少ないのが現状である。これは、補修材は補修専門業者しか取り扱えないという考えが業界に存在しているためである。これに対し、本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤は、新設コンクリート構造物において発生した美観上の問題の解消として特に有効な化粧剤となる。
【0038】
現在、現存するコンクリート構造物の劣化に対する対応が求められているが、コンクリート構造物の補修・補強は大規模工事になることが多く、対応が遅れているのが現状である。本発明の実施の形態のコンクリート化粧剤をコンクリート構造物に塗布することにより、コンクリートを劣化させる諸因子の侵入量を減少またはなくすことが可能となり、さらに、美観を向上させることが可能になる。
【実施例1】
【0039】
化粧剤に占める水分量は、強度発現までの時間に関係するため、コンクリートスラッジとして脱水状態のスラッジ固形物を使用した。また、脱水時に発生する回収水には水酸化カルシウム等由来のカルシウムイオンが大量に含まれているため、スラッジを脱水した時に発生した水を希釈水として使用した。白色系合成樹脂エマルションペイントには、市販の白色のアクリル樹脂系水性塗料を用いた。
【0040】
コンクリート化粧剤を製造する上で必要な材料の質量比率は、化粧剤を使用する目的によって代わるが、以下の配合で仕上げ用・壁用のコンクリート化粧剤を製造した。
(配合)
スラッジ固形物 0.05kg(5質量%)
白色系合成樹脂エマルションペイント 0.25kg(25質量%)
希釈水 0.7kg(70質量%)
【0041】
(製造方法)
スラッジ固形物を準備した。スラッジ固形物としては、絶対乾燥状態ではなく、内部にある程度の水が残っている自然乾燥状態のもので、手で持ち上げられる程度の形状保持能力がある状態のものを用いた。
白色系合成樹脂エマルションペイントを準備した。密度が1.0~1.3g/cm3のものを用いた。
希釈水にはpH12のものを用いた。
希釈水に白色系合成樹脂エマルションペイント、スラッジ固形物の順に投入し、良く攪拌混合して、コンクリート化粧剤1kgを製造した。製造したコンクリート化粧剤を力がかからない壁の最終仕上げ時に塗布した。その結果、壁に自然な色むらをつけることができた。
【実施例2】
【0042】
以下の配合で要耐久性のコンクリート化粧剤を製造した。
(配合)
スラッジ固形物 0.05kg(5質量%)
水性ペンキ 0.25kg(25質量%)
希釈水 0.50kg(50質量%)
EVA樹脂 0.20kg(20質量%)
シリカゲル 0.002kg(0.2質量%)
【0043】
(製造方法)
スラッジ固形物を準備した。スラッジ固形物としては、絶対乾燥状態ではなく、内部にある程度の水が残っている自然乾燥状態のもので、手で持ち上げられる程度の形状保持能力がある状態のものを用いた。
白色系合成樹脂エマルションペイントを準備した。密度が1.0~1.3g/cm3のものを用いた。
希釈水にはpH12のものを用いた。
シリカゲル粉末には、主にA型のシリカゲルを微粉砕して使用した。エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)には、コンクリート用の接着剤として使われている市販のものを使用した。
【0044】
希釈水にシリカゲル粉末を入れ、良く攪拌混合した。シリカゲル粉末が溶解した後、pHを確認し、pHが9よりも小さいときには水酸化カルシウムを添加してpHを9にした。次に、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)を混合した。EVA樹脂の密度は1.0~1.3g/cm3のものを使用し、上記密度から20%以上ずれるEVA樹脂を使用する場合には、EVA樹脂添加量と希釈水の添加量を増減させて対応した。
次に、白色系合成樹脂エマルションペイント、スラッジ固形物の順に投入し、良く攪拌混合して、コンクリート化粧剤1kgを製造した。
【0045】
製造したコンクリート化粧剤を、下地コンクリートの含水率5%未満、室温20±2℃、外部からの水の供給なし、3層塗り、養生7日の環境条件で塗布し、日本建築仕上学会認定の油圧式簡易型引張試験機にて引張試験を行った。その結果、1.50 N/mm2以上の付着強度が確認された。このように、製造したコンクリート化粧剤は、特に付着強度が大きく、長期間の耐久性を有していた。このため、このコンクリート化粧剤は、力がかかる箇所への塗布または長期間耐久性が要求される場合への塗布、壁などの1層目、土間コンクリートなどへの塗布に適している。力がかかる土間に塗布する場合には、3~5回の重ね塗りが好ましい。このコンクリート化粧剤は、水を通さないため、コンクリートの劣化を止める作用がある。