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特許7362112ナノポアを通るポリマーの決定論的ステップ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ナノポアを通るポリマーの決定論的ステップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20231010BHJP
   C12P 19/34 20060101ALI20231010BHJP
   G01N 33/487 20060101ALI20231010BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20231010BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
C12P19/34
G01N33/487
C12N9/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019572544
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018040152
(87)【国際公開番号】W WO2019006214
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】62/526,823
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ブラントン,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】フレミング,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ゴロヴチェンコ,ジェーン,エー.
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/126494(WO,A1)
【文献】特表2015-517799(JP,A)
【文献】特表2016-534713(JP,A)
【文献】特表2010-524436(JP,A)
【文献】David Deamer,Three decades of nanopore sequencing,Nature Biotechnology,2016年,Vol.34,pp.518-524
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
G01N 33/48-33/98
C12M 1/34
C12N 9/00-9/99
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノポアを通る標的ポリマー分子の移動を制御するための方法であって、
前記標的ポリマー分子は、標的ポリマー分子長に沿った連続する複数のポリマーサブユニットを含み、前記方法は、結合工程、配置工程、移動力適用工程、制御パルス適用工程及び制御パルス繰り返し適用工程を備え、
前記結合工程は、クランプを、前記標的ポリマー分子長に沿った複数の連続するポリマーサブユニットに、可逆的に結合する工程であって、
前記配置工程は、前記標的ポリマー分子及び可逆的に結合されたクランプを、前記ナノポアと流体連通するイオン溶液に配置する工程であって、
前記ナノポアは、前記クランプの外径よりも小さい開口径を有し、
前記移動力適用工程は、前記イオン溶液中の前記標的ポリマー分子の前記ナノポアへの移動を誘導するために、前記標的ポリマー分子上の前記クランプが、前記ナノポアの開口に当接し、前記標的ポリマー分子の前記ナノポアへのさらなる移動を停止するまで、前記ナノポアに一定の移動力を適用する工程であって、
前記制御パルス適用工程は、前記ナノポアにかかる電圧制御パルス及び前記ナノポアへの熱制御パルスのうち少なくとも1つを含む制御パルスを適用する工程であって、
前記制御パルスは、前記標的ポリマー分子を前記ナノポアにポリマーサブユニット1つ分だけさらにステップするために、前記クランプにエネルギーを供給せず、前記適用された制御パルスによって、前記クランプによるエネルギー消費によらず、前記クランプを、前記標的ポリマー分子に沿って、ポリマーサブユニット1つ分だけ、前記ナノポアへの移動の方向と反対の方向にステップする制御パルス持続時間を有し、
制御パルス繰り返し適用工程は、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットに、前記ナノポアを通って移動させるために、前記制御パルスを繰り返し適用する工程である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ナノポアに一定の移動力を適用する工程は、電気泳動力、静水圧、光学力、及び磁力のうちの少なくとも1つを適用する工程を含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記ポリマーサブユニットが前記ナノポアを通って移動するとき、ポリマーサブユニットを表す指標を取得する工程をさらに含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記一定の移動力は、前記ナノポアにかかる電圧バイアスの適用によって加えられる静電力を含み、前記制御パルスは、前記ナノポアに適用される電圧バイアス振幅よりも大きい制御パルス振幅を有する電圧制御パルスを含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットが、前記ナノポアを通って移動する間に、前記ナノポアを通る電流を測定する工程をさらに含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記クランプは、ヘリカーゼを含む、方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法であって、前記ナノポアにおけるポリマーサブユニットを表す指標が取得されたあと、制御パルスの適用が繰り返される方法。
【請求項8】
請求項3に記載の方法であって、ポリマーサブユニットを表す指標を取得する工程は、前記ポリマーサブユニットをカウントする工程、及び前記ポリマーサブユニットを識別する工程のうち少なくとも1つを含む、方法。
【請求項9】
請求項3に記載の方法であって、前記標的ポリマー分子の全長が、前記ナノポアを通って移動するまで制御パルスの適用及びポリマーサブユニットを表す指標の取得が繰り返される、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、繰り返される制御パルスの適用を伴う連続するポリマーサブユニットを表す指標の取得は、前記標的ポリマー分子長に沿って配置されたポリマーサブユニットの数を決定する工程を含む、方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、繰り返される制御パルスの適用を伴う連続するポリマーサブユニットを表す指標の取得は、前記標的ポリマー分子長に沿って配置された同一のポリマーサブユニットの数を決定する工程を含む、方法。
【請求項12】
標的ポリマー分子を特徴づけるためのナノポアシステムであって、
前記標的ポリマー分子は、標的ポリマー分子長に沿った連続する複数のポリマーサブユニットを含み、前記システムは、第一の流体リザーバ及び第二の流体リザーバ、クランプ、回路、電圧パルス発生器、並びにコンピュータ制御装置を含み、
前記第一及び第二の流体リザーバは、前記第一の流体リザーバ及び前記第二の流体リザーバ間の唯一の流路を形成するナノポアによって、流体連通し、
前記クランプは、前記第一の流体リザーバ内に設けられ、
前記クランプは、前記ナノポアに当接し、前記第一の流体リザーバ内のイオン溶液中の前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットに可逆的に結合し、
前記回路は、前記標的ポリマー分子の前記ナノポアへの移動を誘導するために、前記第一リザーバ内の電極、及び前記第二リザーバ内の電極を含み、前記回路は前記第一リザーバ及び前記第二リザーバ間の前記ナノポアに電圧バイアスを適用するように動作し、
前記電圧パルス発生器は、前記第一リザーバ及び前記第二リザーバ間の前記ナノポアに電圧制御パルスを適用し、前記標的ポリマー分子の連続するポリマーサブユニットに沿ってポリマーサブユニット毎に前記ナノポアから離れる方向に前記クランプをステップするため、かつ、前記ポリマー分子をさらに前記ナノポアへとステップするために、前記回路に接続され、
前記システムは、前記クランプのためのエネルギー及び前記クランプのためのエネルギー源を含まず、したがって、前記適用された制御パルスによって、かつ、前記クランプによるエネルギー消費によらず、前記クランプをステップし、前記ポリマー分子をステップし、
前記コンピュータ制御装置は、前記回路に接続され、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットが前記ナノポアを通ってステップする間、前記標的ポリマー分子のポリマーサブユニットの電気的な指標の収集を制御するように動作する、ナノポアシステム。
【請求項13】
請求項12に記載のナノポアシステムであって、前記ナノポアは、生体ナノポア含む、ナノポアシステム。
【請求項14】
請求項13に記載のナノポアシステムであって、前記ナノポアは、CsgGナノポアを含む、ナノポアシステム。
【請求項15】
請求項13に記載のナノポアシステムであって、前記ナノポアは、脂質二重層中の生体ナノポア及び固体状の膜のナノポアのうち1つを含む、ナノポアシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2017年6月29日に出願された米国仮特許出願第62/526,823号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する声明
本発明は、NIHにより授与された契約番号R01HG003703に基づく政府の支援によりなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
背景
本発明は、ナノポアを通るポリマーの移動によるポリマーの特徴付けに関し、より詳細には、ナノポアを通るポリマーステップの制御に関する。
【背景技術】
【0004】
ポリマーとそのサブユニットは、ポリマーをステップさせて通過させる、ナノポアの電気伝導度における変化を測定することによって、特徴付けることができる。Deamer et al., Nat. Biotechnol., 34:518-524, 2016; Manrao et al., Nat. Biotechnol., 30:349-353, 2012; Akeson et al., Biophys. J., 77:3227-3233, 1999;及びCherf et al., Nat. Biotechnol., 30:344-348, 2012(これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、ナノポアを使用して決定されたポリマーの特性には、濃度、例えば、試料溶液中の分子数、ポリマーの長さ、ポリマーの長さに沿ったモノマーユニットの数、並びに、連続するモノマーユニットの特定のシーケンスを含む、ポリマーやそのモノマーユニットの化学的及び物理的特性が含まれる。ナノポアに基づいた特徴付けの手法の一例において、研究対象のポリマーは、前述のナノポアと流体連通するシスリザーバ内のイオン溶液中に供給される。ポリマーは、ナノポアを通って、シスリザーバからトランスリザーバに移動され、その時間の間に、ナノポアの移動を検出することができ、ポリマーの特性が決定される。Kasianowicz et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93:13770-13773, 1996(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、シス及びトランスリザーバ電極の間に定電圧バイアスを印加することにより生成される電界は、一般的に、ポリマーを駆動しナノポアを通過させるために使用されるが、例えば、Lu et al., Nano Lett.. 13:3048-3052, 2013及びKeyser et al., Nature Physics, 2:473-477, 2006(これらの両方が、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、代わりに他の力を使用することができ、静水圧、光学又は磁場の力、及びこれらの力の2つ以上の組み合わせを使用してポリマーを駆動してナノポアを通過させることができる。
【0005】
望ましくないほど速い速度で自由に駆動されてナノポアを通ることを避け、ポリマーをゆっくりにする、又は遅らせるために、活性酵素をポリマーに結合するという概念が提案されており、例えば、Akesonの米国特許第7,625,706号に、Akesonの米国特許第7,238,485号に、Akesonの米国特許第7,947,454号に、Akesonの米国特許番号8,673,556号に、CherfのUS 20140051068に、MoyseyのUS 20140335512に、JayasingheのUS 20150031020に教示されている(これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。そのような活性酵素、例えば、ポリメラーゼ又はヘリカーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)等の化学基質に由来するエネルギーに依存して、ポリマーに沿って歩み、それに応じてポリマーを、ナノポアを通ってステップさせる。活性酵素のATP依存性の動きにより、酵素のターンオーバー数、すなわち、酵素が単位時間あたりにそのポリマー基質に沿ってとる最大ステップ数に応じた速度で、ポリマーを駆動して、検知ナノポアを通過させることができる。しかし、バルク液相酵素の研究から導かれた他の概念と同様に、単一の酵素分子の各アクティブなステップ間の時間間隔が、酵素のターンオーバー数が前後するように確率論的に変化する場合でも、ターンオーバー数は、単一分子の活性の挙動にほとんど影響を与えないと判明した。
【0006】
ナノポアでの、及びナノポアを通る単一分子の連続する各ステップ間の確率論的時間間隔(例えば、ナノポアを通るポリマーの隣接モノマーユニットのステップ間の確率論的時間間隔)は、大きな問題を引き起こす。なぜならば、これらの間隔中に、ナノポアの電気伝導度が測定及び評価されて、ナノポア内のポリマーとそのポリマーサブユニットを特徴付けるためである。これらの間隔の多くは、省略のエラーを引き起こすほど短い場合があるが、ところが、他の間隔は、実際には同一のモノマーユニットの連続が存在しないのに、同一のモノマーの連続として誤解されるほど長い場合もある。また、長さXのホモポリマー領域(4つの同一モノマーのシーケンス)を長さX+1、X+2、...又はX+nのホモポリマー領域と区別することもできない。
【0007】
概要
本明細書で提供されるナノポアを通る標的ポリマー分子の移動を制御するための方法において、クランプは、前記標的ポリマー分子長に沿った複数の連続するポリマーサブユニットに、可逆的に結合する。前記標的ポリマー分子は、前記標的ポリマー分子長に沿った連続する複数のポリマーサブユニットを含む。前記標的ポリマー分子及び可逆的に結合されたクランプは、前記ナノポアと流体連通するイオン溶液に配置される。前記ナノポアは、前記クランプの外径よりも小さい開口径を有する。
【0008】
前記イオン溶液中の前記標的ポリマー分子の前記ナノポアへの移動を誘導するために、前記標的ポリマー分子上の前記クランプが、前記ナノポアの開口に当接し、前記標的ポリマー分子の前記ナノポアへのさらなる移動を停止するまで、前記ナノポアに一定の移動力が適用される。次に、前記ナノポアにかかる電圧制御パルス及び前記ナノポアへの熱制御パルスのうち少なくとも1つの制御パルスが適用される。前記制御パルスは、前記クランプを、前記標的ポリマー分子に沿って、ポリマーサブユニット1つ分だけ、前記ナノポアへの移動の方向と反対の方向にステップさせる制御パルス持続時間を有する。前記クランプには、燃料は供給されない。前記クランプのステップによって、前記標的ポリマー分子は、さらに前記ナノポアに、しかし、ポリマーサブユニット1つ分だけ、ステップする。前記制御パルスは、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットに前記ナノポアを通って移動させるために繰り返し適用される。
【0009】
この移動制御方法は、標的分子を特徴づけるための方法を可能にし、前記ポリマーサブユニットが前記ナノポア内にあるとき、ポリマーサブユニットの特徴を表す指標が取得される。ここで、前記制御パルスは、前記ナノポアを通って移動する各ポリマーサブユニットの特徴を表す指標を取得しながら、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットに、前記ナノポアを通って移動させるために、繰り返し適用される。
【0010】
本明細書で提供される標的ポリマー分子を特徴づけるためのナノポアシステムは、第一の流体リザーバ及び第二の流体リザーバを含み、前記第一及び第二の流体リザーバは、前記第一の流体リザーバ及び前記第二の流体リザーバ間の唯一の流路を形成するナノポアによって、流体連通する。前記クランプは、前記第一の流体リザーバ内に設けられる。前記クランプは、前記ナノポアに当接し、前記第一の流体リザーバ内のイオン溶液中の前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットに可逆的に結合する。前記標的ポリマー分子は、前記標的ポリマー分子長に沿った連続する複数のポリマーサブユニットを含む。
【0011】
回路が提供され、前記回路は、前記標的ポリマー分子の前記ナノポアへの移動を誘導するために、前記第一リザーバ内の電極、前記第二リザーバ内の電極、及び、前記第一リザーバ及び前記第二リザーバ間の前記ナノポアに定電圧バイアスを適用するための電流増幅器を含む。電圧パルス発生器は、前記第一リザーバ及び前記第二リザーバ間の前記ナノポアに電圧制御パルスを適用し、前記標的ポリマー分子の連続するポリマーサブユニットに沿ってポリマーサブユニット毎に前記ナノポアから離れる方向に前記クランプをステップするため、かつ、前記ポリマー分子をさらに前記ナノポアへとステップするために、前記回路に接続される。前記システムは、前記クランプのための燃料及び前記クランプのための燃料源を含まない。コンピュータ制御装置は、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットが前記ナノポアを通ってステップする間、ナノポアを通るイオン電流の電気的な指標を収集するために前記回路に接続される。
【0012】
さらに本明細書で提供される標的ポリマー分子を特徴づけるためのナノポアシステムは、第一の流体リザーバ及び第二の流体リザーバを含み、前記第一の流体リザーバ及び前記第二の流体リザーバは、前記第一の流体リザーバ及び前記第二の流体リザーバ間の唯一の流路を形成するナノポアによって、流体連通する。クランプが、前記第一の流体リザーバ内に設けられる。前記クランプは、前記ナノポアに当接し、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットに可逆的に結合する。前記標的ポリマー分子は、前記標的ポリマー分子長に沿った連続する複数のポリマーサブユニットを含む。
【0013】
回路が提供され、前記回路は、前記標的ポリマー分子の前記ナノポアへの移動を誘導するために、前記第一リザーバ内の電極、前記第二リザーバ内の電極、並びに、前記第一リザーバ及び前記第二リザーバ間の前記ナノポアに定電圧バイアスを適用するための電流増幅器を含む。レーザーは、レーザーパルスを生成するために、前記コンピュータ制御装置に接続され、光学系は、前記レーザーに隣接して配置され、前記レーザーパルスが前記ナノポアを向くような方向に合わせられる。前記レーザーパルスからのエネルギーを吸収する材料要素は、前記ナノポアに配置され、各レーザーパルスの間、前記イオン溶液を加熱して、次に、前記標的ポリマー分子の連続するポリマーサブユニットに沿ってポリマーサブユニット毎に前記ナノポアから離れる方向に前記クランプをステップし、かつ、前記ポリマー分子をさらに前記ナノポアへとステップする。前記システムは、前記クランプのための燃料及び前記クランプのための燃料源を含まない。コンピュータ制御装置は、前記標的ポリマー分子の連続する複数のポリマーサブユニットが前記ナノポアを通ってステップする間、ナノポアを通るイオン電流の電気的な指標を収集するために前記回路に接続される。
【0014】
本明細書で提供される前記ナノポアシステム及び方法論は、ナノポアを通る標的ポリマー分子の移動の決定論的制御を可能とし、標的ポリマー分子の特徴付けにおいて、対応する優れた程度の制御を可能にする。本開示のこれら及び他の態様及び実施形態は、以下及び添付の図面ならびに特許請求の範囲に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A-1C】図1A図1B及び図1Cは、生体膜内の生体ナノポアを通る、クランプ連結式ポリマー分子の決定論的ステップの3段階の模式図である。
図1D-1F】図1D図1E及び図1Fは、固体状の膜のナノポアを通る、クランプ連結式ポリマー分子の決定論的ステップの3段階の模式図である。
図2図2は、ナノポアを通りトランスリザーバへの決定論的なステップのために、シスリザーバに提供されたクランプ連結式ポリマー分子を含むナノポアシステムの摸式図である。
図3図3は、ナノポアを通る、クランプ連結式ポリマー分子の決定論的ステップを実行するための方法論の工程のフローチャートである。
図4A-4D】図4A図4B図4C及び図4Dは、図3のフローチャートの方法論のステップを実行する際に測定されるナノポア電流又は印加される制御パルス電圧のプロットである。
図5図5は、ナノポアを通る、クランプ連結式ポリマーの決定論的ステップにおける電圧制御パルスの印加を実施するための、ナノポアシステム及び関連する電子機器の摸式図である。
図6図6は、制御パルス電圧印加電子機器を含むナノポアシステムの電気回路モデルである。
図7図7は、図5のシステムの低ノイズ電圧パルス発生器の模式的なブロック図である。
図8図8は、ナノポアを通る、クランプ連結式ポリマーの決定論的ステップにおける熱制御パルスの適用を実施するためのナノポアシステムと関連するコンポーネントの摸式図である。
図9A-9B】図9A図9Bは、それぞれ、図8のナノポアシステムに吸収性材料を提供するための、クランプに結合された金ナノ粒子(NP)及びナノポアに結合された金ナノ粒子(NP)の摸式図である。
図10図10は、ポリメラーゼ合成の摸式図である。
図11図11は、ATP駆動ポリマーステップとATPなしの電圧バイアス駆動ポリマーステップの条件について、検知されたモノマーに隣接する周辺の5核酸塩基についての関数として測定されたナノポア電流のプロットであり、どちらもT4ヘリカーゼポリマークランプを使用し、プロットの上に示されているDNAシーケンスは、横軸の下に表示される一連のオーパーラッピングする5量体として読み取られる。
図12図12は、ポリマークランプとしてT4相ヘリカーゼを使用し、2mMのADPNPを使用し、ATPアナログを使用しない場合の、ポリマー全長の移動の測定された持続時間中央値のプロットであり、垂直のキャップされたラインは、いくつかの同一のポリマーがナノポアを完全に通るための持続時間の範囲を示す。
図13図13は、4つの異なる温度に対する、印加されたバイアス駆動電圧の関数としてのモノマーステップ持続時間の中央値のプロットであり、T4相のヘリカーゼクランプ連結式DNA分子を使用した。
図14A-14C】図14A図14B及び図14Cは、ナノポア内のポリマー分子のブラウン運動に打ち勝つために印加されたバイアス駆動電圧による、ポリマー分子制御の模式図である。
図15A-15B】図15A及び図15Bは、160mVのバイアス駆動電圧を使用する実験的ナノポアシステムについて、時間の関数として測定されたナノポア電流及び印加された電圧制御パルス振幅のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本明細書では、図2のようなナノポアシステム内のナノポアを通る標的ポリマー分子の、確率的ステップではなく、決定論的ステップの構造、システム、及び対応する方法論のすべてが提供される。一実施形態において、この構造、システム、及び方法論は、正確に決定論的な運動によって、ナノポアを通る、標的ポリマー分子の直線的に接続された連続するモノマー残基を駆動操作し、それによって、同一のモノマーユニットの繰り返しシーケンスがナノポアを通って移動するのにかかる時間により、ナノポアを通過して移動した同一のモノマーの、正確な数を特定する。具体的には、ナノポアを通過する各モノマーのステップ間の時間間隔が既知の定数kであるとき、つまり、本明細書で可能にされるように、ステップが決定論的である場合、同一のモノマーユニットの繰り返しシーケンスがナノポアを横断するのにかかる合計時間を、間隔定数kで割ると、ナノポアを横断した同一モノマーの正確な数が特定される。
【0017】
図1A~1Cに示すように、本明細書では、決定論的に進むクランプ10の構造が提供され、クランプは、DNA鎖等の標的ポリマー分子14、又は分子長に沿ったポリマーサブユニットを有する他の適切なポリマー分子に沿って、例えば1~20個のモノマーのグループなどの複数のモノマー12に、可逆的にクランプするか、可逆的に結合する。図1A図1Cに示されるように、クランプ10の外径16は、ナノポア20を通って延在する開口又はチャネルの直径18よりも大きい。
【0018】
本明細書で使用される「ポリマー分子」という用語は、生体分子、例えば、生体ポリマー核酸分子デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)等のポリヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)等の合成核酸、並びに、タンパク質、糖ポリマー、その他の生体分子を指すものとする。したがって、以下の説明は、特定の実施に限定することを意図したものではない。ポリヌクレオチド等のこれらの分子の例に関連する詳細は、ポリマー分子の特徴付けのための実施形態の範囲で、本明細書で提供される原理を説明するために、提供される。
【0019】
図2の断面図も参照すると、このクランプ連結式分子構造は、ポリマー分子を特徴付けるナノポアシステム25で使用することができる。ナノポアシステムは一般に、ナノポア20が配置された、膜等の構造26を含み、これらのいずれか又は両方は、実質上生体的なものか、又は固体状のものとできる。ナノポアが配置された膜又は他の構造26は、必要に応じて、例えば、支持構造28によって端部で支持することができる。構造26及び支持構造28は、トランスリザーバ32からシスリザーバ30を分離するように配置され、ナノポアは2つのリザーバ間の唯一の流体経路を提供する。シス及びトランスリザーバは、イオン液体溶液を含み、シスリザーバは、ナノポア20を通ってトランスリザーバに移動する標的分子14を含む。ナノポアを通って移動するシスリザーバ内の標的分子14はそれぞれ、複数のポリマーサブユニット上の分子長に沿った部位に配置された可逆クランプ10を有し、標的分子クランプ複合体を形成する。そのような標的分子クランプ複合体の溶液は、例えば、米国特許出願公開第20140335512号においてMoyseyにより記載される、従来の方法で製造することができ、これは参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。ナノポアを通る移動による標的分子の分析のために、標的分子クランプ複合体がシスリザーバに提供される。
【0020】
一実施形態において、シスリザーバ30とトランスリザーバ32に、電極34、36がそれぞれ含まれ、その間に定バイアス電圧38を印加することができる。シス及びトランスリザーバ電極34、36間に、このような電圧バイアスを印加することにより生成される電界は、従来の方法で、シスリザーバ内の荷電された分子を、ナノポアを通って、トランスリザーバに駆動するために使用できる。しかし、他の移動力を代わりに使用できることが認識されるべきである。したがって、本明細書のステップ制御の方法論の説明では、「電圧バイアス」又はVdriveという用語を使用するが、静水圧、光場、又は磁場、及び2つ以上の場の組み合わせを含む他の力を、ポリマーを駆動してナノポアを通過させるために使用することもできる。以降、「定電圧駆動バイアス」又はVdriveという用語が本明細書で使用される場合、これらの場の1つ又は複数のいずれかが代替され得ることを理解されたい。ナノポアを通る分子移動の電気泳動駆動のさらなる詳細及び例は、2003年9月30日に発行されたBrantonらの米国特許第6,627,067号「Molecular and Atomic Scale Evaluation of Biopolymers」に記載されており、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
ここで、本明細書で可能となる方法論を参照すると、図1Aに示すように、可逆的に結合されたクランプ10を含む調査中の標的ポリマー分子14がナノポア20に示されている。図1Bに示すように、シス及びトランスリザーバの間に電圧バイアスVdriveが印加され、図2のように、標的ポリマー14の、ナノポア20への移動を促進する状態が供される。図1Aに示すように、標的ポリマー14がナノポアに移動し、図1Bに示すように、クランプ10が、内径18がクランプの外径16よりも小さいナノポア20の領域40に当接すると、移動は自動的に停止する。この状態下において、ポリマー14の1つのポリマーサブユニット42、例えば1つのモノマーは、ナノポア内の部位を占め、好ましい実施形態では、ナノポア20の高感度の狭い領域44の部位を占める。結果として、サブユニット42がナノポア内の適切な部位、例えば、ナノポアの高感度領域に留まる限り、サブユニット42の電気的及び体積的特性は、この状態のナノポアのシスからトランスへの導電性を支配する。したがって、ナノポアの導電率に関連するナノポアシステムのパラメータを検知、検出、測定、又はその他の方法で決定することにより、この状態下のサブユニット42を特徴付ける指標が得られる。
【0022】
サブユニット42を特徴付ける指標が決定された後、図1Cに示されるように、例えば、電圧制御パルスVpulse及び/又は熱制御パルスHpulseとして提供される制御パルスが、ナノポアにかかるバイアス駆動電圧Vdriveに加えて提供される。制御パルスは、矢印44で示される方向に、ナノポア20から離れポリマー14に沿ってクランプ10をステップさせる。クランプ10は、具体的には制御可能に駆動され、ポリマーに沿って1つのポリマーサブユニットをステップさせ、次の連続するグループ12のポリマーサブユニットに可逆的に結合する。結果として、ナノポアにあったサブユニット42が今はトランスリザーバ内の溶液に移動し、次のサブユニット46がナノポアのシスからトランスへの導電性を支配する。ポリマーに沿ってナノポアから離れるクランプの決定論的なステップに関するこのプロセスが続いて、ポリマー分子が1サブユニットずつステップしてナノポアに入り通過する。1つのポリマーサブユニットから次のポリマーサブユニットへのクランプのステップの燃料となるエネルギーは供給されない。具体的には、化学燃料も生化学燃料もクランプに供給されない。制御パルスの印加によってのみ、クランプが1つのポリマーサブユニットから次のポリマーサブユニットにステップする。
【0023】
図1A~1Cは、図中で単純な円として表されているサブユニットの直線状のシークエンスを有する標的ポリマー分子14を示している。この表現は、単に説明を明確にするために提供される。シスリザーバにロードされる標的ポリマー分子は、ssDNAのように一本鎖でも、dsDNAのように二本鎖であってもよい。いずれの場合も、クランプは、一本鎖のポリマー分子の領域上の部位に配置される。したがって、二本鎖標的ポリマー分子には、二本鎖標的分子の一本鎖領域に沿った箇所にクランプを配置することができるように、一本鎖領域が設けられ、この一本鎖領域に従来の方法でクランプを配置することができる。
【0024】
図1A-1Cの状態は、膜35における生体ナノポア20として提供される一実施形態について示されており、膜は、生体的又は有機的であってもよく、例えば脂質二重層、テトラエーテル脂質、又はトリブロック共重合体とすることができる。例えば、ナノポアは、八量体タンパク質チャネルであるマイコバクテリウムスメグマチスポーリンA(MspA)として提供され、9量体タンパク質チャネルである細菌性ポリンCsgGとして提供されるか、又はこれらの変異体、又はMoyseyによって米国特許第9,617,591号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)で教示されているような、その他のチャネルとして提供することができる。選択された生体ナノポアは、例えば、ジフィタノイルホスファチジルコリン膜(diPhPC)、テトラエーテル脂質、トリブロック共重合体、又は形成された固体状の膜等の固体状の構造で配置される。そのような固体状の膜は、例えば、1つ又は複数のグラフェン層、SiNx、又は他の固体状の支持体として提供することができ、ここで、イオンはこれらを通り抜けることはできないが、これらには、前述の生体ナノポアのいずれかを、シスからトランスへのイオンの流れを妨げる(但し、ナノポア自体のチャネルの通過を除く)ような方法で、配置することができる。
【0025】
図1A-1Cに示されているナノポアでのポリマーの捕捉とステップの状態は、図1D-1Fにも示されているが、固体状のナノポアシステムの一実施形態である。図1D-1Eに示すように、シス及びトランスリザーバの間に定電圧バイアスVdriveが印加され、図2のように、ナノポアの部位20で、クランプ10を含む標的ポリマー14の捕捉を促進する状態が供される。ここで、ナノポア20は、固体状の膜37に配置された開口、穴、チャネル、又はその他の開口である。膜は、上述の任意の適切な固体状の材料、例えば、グラフェン又は他の原子レベルに薄い材料、又は窒化物、酸化物、又は組み合わせの材料層等のマイクロエレクトロニクス材料として形成することができる。次に、固体状の膜は、図2の膜26及び支持構造28のように、マイクロ電子基板等の支持構造によって支持され得る。明確にするために、図2のシステム25は膜26の開口であるナノポア20とともに示されているが、図2のナノポアシステム25のために、生体的、有機的、及び固体状のナノポアと膜の任意の適切な組み合わせを使用でき、意図されることを認識されたい。
【0026】
定バイアス電圧により、標的ポリマー14がナノポアを通って移動するため、図1Eに示すように、クランプ10がナノポア20に当接すると、移動は自動的に停止する。ナノポアの直径18は、図1Dに示すように、クランプの外径16より小さい。この状態下では、標的ポリマー14の1つのサブユニット42、例えば1つのモノマーが、ナノポアの最も感度の高い領域を占有する。結果として、サブユニット42の電気的及び体積特性は、モノマーサブユニット42がナノポア内に留まっている限り、この状態でのナノポアのシスからトランスへの導電性を支配する。結果として、ナノポアの導電率に関連するナノポアシステムのパラメータを検知、検出、測定、又はその他の方法で決定することにより、この状態の下でのサブユニット42に関連する、特徴を表す指標が得られる。
【0027】
サブユニット42の特徴を示す指標が決定された後、図1Fに示されるように、制御パルスが、例えば、電圧制御パルスVpulse及び/又は熱制御パルスHpulseとして、バイアス駆動電圧Vdriveと組み合わせて提供され、クランプ10が標的ポリマー14に沿ってナノポア20から離れ、矢印44で示される方向にステップする。クランプ10は、具体的には、1つのモノマーサブユニットだけポリマーに沿ってステップし、次にポリマーサブユニットの次のグループに結合するように駆動される。結果として、ナノポアのサブユニット42がトランスリザーバに移動し、次のサブユニット46がナノポアのシスからトランスへの導電性を支配する。標的ポリマーに沿ったクランプの決定論的なステップに関するこのプロセスが続いて、ポリマー分子が1サブユニットずつステップしてナノポアに入り通過する。
【0028】
図3は、図1A-C及び図1D-Fに示す状態を実施するための方法の工程のフローチャートであり、図4A-4Dは、方法の各工程の条件を示す、測定電気信号のプロットである。方法論50では、ナノポアシステムを組み立て、シスリザーバに配置されたクランプが連結された標的ポリマー分子による方法を開始52した後、最初のステップ54において、定バイアス駆動電圧Vdriveがシス及びトランスリザーバ間に印可される。次のステップ56で、標的ポリマーがナノポアで捕捉されたかどうかが判定56される。図4Aは、ナノポアについて測定された時間の関数としての電流のプロットであり、ナノポアで標的ポリマーが捕捉されると、ナノポアを通る測定される電流は、開孔電流レベルから、ナノポアでのポリマー分子捕獲を示すより低いレベルまで、劇的に減少することを示す。ポリマーがナノポアで捕捉されていないと判定された場合、定電圧バイアスが維持され、ポリマーがナノポアで捕捉されたことが確認されるまで判定が維持される。
【0029】
次のステップ58では、バイアス電圧に加えて、電圧制御パルス及び熱制御パルス等の制御パルスが、シス及びトランスリザーバの間に印加される。一実施形態において、ここでは電圧制御パルスについて、図4Bのプロットに示すように、電圧パルスがナノポアに印加される。次に、図4Cのプロットに示すように、ナノポアにかかる合計電圧には、定バイアス電圧とパルス電圧の和が含まれる。各パルスのタイミングと持続時間は、手動で制御するか、連続的に繰り返すパルスを供することができる自動システムによって、制御できる。バイアス電圧とパルス電圧の極性はナノポアに対して同じであるため、バイアス電圧と電圧パルスの合計は加算的であり、与えられたポリマー電荷に対して、ナノポアを通ってポリマーを駆動する方向に向けられる。
【0030】
次のステップ60では、印可された制御パルスに応答して、標的ポリマーがナノポアを通ってステップしているかどうかが判定される。図4Dのプロットは、電流測定により、標的ポリマーが、単一の電圧パルスに応答して、1つのポリマーサブユニットの単一ステップをとることを決定できることを示す例を示している。ポリマーが単一の電圧パルスに応答して、又は単一の熱パルスに応答して単一のステップをとっていないと判定された場合、パルスの大きさ及び/又は持続時間が増加する。ポリマーが、1つの印加パルスに応答して、1つのポリマーサブユニットずつナノポアを通ってステップしていることが示されると、次のステップで、ナノポア検知部位でのポリマーサブユニットの特性を反映した、いくつかの代表的な指標が取得される。例えば、図3に示すように、このステップ62では、ナノポアを通る測定電流を取得し、必要に応じて記録して、ポリマーが制御パルスに応答してナノポアを通って進む際のポリマーサブユニットの特性を反映することができる。
【0031】
最後のステップ64では、例えば、ナノポア電流が開孔電流に戻ったかどうかを判定することにより、ナノポアがオープンになったかどうかが判定される。そうでない場合、ポリマーシークエンスを記録するステップ62が継続される。ナノポアがオープンであると判定された場合、ステップ54が再び実行され、ナノポアでの標的ポリマー分子の捕捉を待ちながら、ナノポアに定バイアス電圧のみが印加される。
【0032】
方法論50では、ナノポア電流を測定するステップを実施して、ナノポア内のポリマーサブユニットのさまざまな特性を示す指標の範囲を取得することができる。一般的に、ポリマーサブユニットの特性を示す指標の取得は、例えば、ナノポア内のポリマーサブユニットの存在の検出として、連続する複数のサブユニット内のポリマーサブユニットをカウントすることとして、連続する複数のサブユニット内の同一のサブユニットの数を識別することとして、ポリマーサブユニットを識別することとして、サブユニットの化学的側面、又はサブユニットの他の特徴的な指標を決定することとして、実施することができる。ポリマー分子全体に沿ったサブユニットの連続シーケンスは、この方法で特徴付けられ、ポリマー分子シーケンス全体の数と識別情報を提供する。
【0033】
この制御されたステップ方法は、任意の適切な電子制御システムで実施することができる。図5は、電圧制御パルスである制御パルスを用いて図3の方法論を実施するためのシステム75が配置されている一実施形態の概略図である。システム75では、電極34、36がシス及びトランスリザーバに設けられ、低ノイズ電圧パルス発生器70及び電流増幅器72に接続されている。電流増幅器72は、シス及びトランスリザーバの間に定バイアス電圧Vdriveを印加するように制御される。パルス発生器70は、制御コンピュータ74からの制御信号によってトリガーされると、電極34、36間に印加されるバイアス電圧Vdriveに追加される電圧制御パルスVpulseを生成する。電流増幅器72は、ナノポア電流のアナログ出力測定値を提供し、これは、アナログデジタル変換器76によってデジタル化され、記録のためにコンピュータ74に提供される。シス及びトランスリザーバ、ナノポア、電流増幅器、A/Dコンバーター、パルス発生器、コンピュータによって形成された回路により、ナノポアを通るイオン電流を示す回路内の電流を測定することができる。
【0034】
システムは、必要に応じて、適切な方法で、例えば熱電ヒーター/クーラー等を用いて、温度制御可能なものとすることができる。システムのどの要素も、クランプにエネルギーを供給してポリマー分子に沿ったクランプのステップに燃料を供給せず、エネルギー源はシステムに含まれない。上記で説明したように、電圧制御パルスのみが、クランプをポリマー分子に沿ってステップさせる。
【0035】
このシステム75は、図6に示すように、電気回路モデル80で電気的にモデル化することができる。膜内のナノポアは、細孔抵抗と膜容量を生じさせる。図7は、図5の低ノイズ電圧パルス発生器70の一実施形態の概略図である。低ノイズパルス発生器には、制御パルス間の持続時間、並びに、電圧制御パルスの持続時間及び振幅を決定する制御要素が含まれる。この実施形態は、電圧制御パルスの正確な生成を可能にするために、特に好ましい可能性がある。特に、好ましい実施形態では、図7に示すように、静電容量補償、+Vpulse及び-Vpulseが生成され、これは電圧フォロワー-インバーターによって提供され、静電容量に起因する「オーバーシュート」を低減させる。電圧パルス間の時間間隔が、例えばナノポアのデータ出力を最大化するために最小の間隔に設定されている場合、「オーバーシュート」の持続時間によって、ナノポアを通る実際の電流を測定することが不可能になる可能性がある。
【0036】
図8は、図3の方法論を熱制御パルスである制御パルスで実施するためにナノポアシステム85を配置した一実施形態の概略図である。システム85では、電極34、36がシス及びトランスリザーバに設けられ、電流増幅器72に接続されている。電流増幅器72は、シス及びトランスリザーバの間に定バイアス電圧Vdriveを供する。熱の制御パルスは、コンピュータ74からの制御により生成され、レーザー82及び光学系84にトリガーパルス制御信号を提供する。ここで、レーザー82及び光学系84は、レーザーエネルギー86のパルスが、レーザーエネルギー86を吸収する材料が配置された膜のナノポアの部位に向くように、配置される。以下に説明するように、吸収性材料によるレーザーエネルギーの吸収により、ナノポアの近くの温度上昇のパルスが発生する。電流増幅器72は、ナノポア電流のアナログ出力測定値を提供し、これはアナログデジタル変換器76によってデジタル化され、図5の電圧パルス制御システムの方法で記録するためにコンピュータ74に提供される。そのシステムと同様に、ここでのシステム85は、必要に応じて、任意の適切な方法で、例えば熱電ヒーター/クーラー等を用いて、温度制御することができる。
【0037】
図9A-9Bは、図8のシステム85のナノポアの部位に、吸収性材料を提供するための実施形態を示す。図9Aに示される第1の実施形態では、金、銀、又は他の適切なナノ粒子(NP)等の吸収体粒子90が供され、分子リンカー92によってクランプ10に付いている。図9Bに示されるさらなる実施形態では、金NP等の吸収体粒子90は、分子リンカー92によってナノポア20に付いている。
【0038】
これら2つの実施形態のいずれにおいても、レーザー光による粒子、好ましくは金NPの照射は、その波長が、金粒子へのプラズモン共鳴効果を利用するものであり、ナノポア付近の溶液の急速な局所加熱で特に効果的である。金ナノ粒子の高度に閉じ込められた表面プラズモン共鳴効果により、粒子による光の吸収が高められるため、ナノ粒子に入射する可視レーザー光は、粒子温度及び隣接する溶液温度の急速かつ大幅な上昇を引き起こす。この温度上昇は、ナノポアのイオン伝導度の変化から推定することができる。例えば、300mWのビームエネルギーで動作する532nm波長のレーザーは、金のナノスケールの直径の粒子とNPの近接の周囲領域の温度を、室温から、約20℃から約50℃だけ、ナノ秒で簡単に上昇させることができる。加熱される体積は数ヨクトリットル(yoctoliter)と小さいため、この小さな体積は、周囲の溶液の体積の温度に急速に戻る可能性がある。これは、熱エネルギーが、その体積が通常少なくとも16桁は大きい周囲の溶液に急速に放散されるためである。
【0039】
さらなる実施形態において、図5の制御システム75は、図8の制御システム85と組み合わされて、電圧及び熱制御パルスの組み合わせを可能にする。ナノポアに金NP等の吸収体を配置すると、上記の方法での決定論的なモノマーの動きに、電圧と熱の両方のパルスが使用される。各電圧及び熱パルスのタイミングと持続時間は、手動又は自動システムのいずれかで、熱パルス制御と電圧パルス制御の調整により、個別に制御することができる。
【0040】
ナノポアシステムで使用されるクランプ10の詳細に着目すると、図1A-1Cに示すクランプは、任意の適切な構成及び配置をとることができ、それによって、クランプは、ナノポアを通って移動する標的ポリマーの複数のポリマーサブユニット、又は他の一般の分子のサブユニットに対して、可逆的にクランプするか又は可逆的に結合できる。クランプは、他のシステムでは酵素又は生化学的な燃料依存モーターとして機能する分子である可能性はあるが、本明細書においては、用語「クランプ」は、任意の生体分子又は非生体アセンブリを指す。すなわち、ポリマーに可逆的に結合し、生化学的燃料依存の作用の代わりに、電圧制御パルス、Vpulse及び/又は熱制御パルスHpulseの印加・適用により、ポリマー長にわたって単一の連続したモノマーステップで、ステップ又は移動するように、決定論的に駆動させることができる、固体状アセンブリである。クランプには、標的ポリマー分子のポリマーサブユニットのシーケンスに沿ってステップさせるために、化学物質又は他の燃料は供給されない。
【0041】
一実施形態において、クランプは、T4ファージヘリカーゼ酵素等のヘリカーゼである。他の実施形態において、T4ファージヘリカーゼ酵素の変異体を含む他の酵素、及び核酸ポリマーに結合する他のタンパク質、及び生化学的又は無機化学的複合体も、クランプとして使用できる。
【0042】
このようなクランプと上記の制御システムにより、ここで提供されるポリマーステップ方法論は、クランプを使用することにより、酵素活性分子の確率的移動を回避する。ここで、クランプは、ATP、又は、化学的若しくは生化学的燃料の投入を必要とせず、代わりに、電圧制御パルスVpulse、及び/又は熱制御パルスHpulse並びに定電圧バイアスVdriveの重ね合わせによって、決定論的に駆動される。結果として、標的ポリマーのモノマーの直線的なシークエンスが、正確にタイミングを合わせたステップ運動でナノポアを通って移動する方法が、ここに提供される。2つの特徴が、特にこの方法論を可能にする。
【0043】
第一に、ナノポアを通ってポリマーの確率的運動を制御するために使用されてきたヘリカーゼやポリメラーゼ等の酵素ための生化学的燃料配置とは異なり、ここでの方法論は、決定論的に駆動されるクランプが、クランプを標的ポリマーのモノマーサブユニットに沿って運動させるための化学エネルギー源を使用しないことを要求する。その代わりに、本明細書では、電圧制御パルスVpulse及び/又は熱制御パルスHpulseが、定駆動電圧バイアスVdriveと共に、制御可能に適用され、ポリマー結合クランプを非常に簡単に解放するか、又は緩め、それによって、クランプが1モノマーステップ分だけポリマーに沿ってスライドし、図1Cに示すように、ポリマーが駆動され、モノマーが1つだけナノポアを通ってステップするようになる。したがって、図1Cのように、クランプが標的ポリマーに対して移動する場合を除き、結合されたクランプは、クランプがなければ、ポリマーの全長を急速に駆動してナノポアを通るであろう駆動力によって標的ポリマーが駆動されてナノポアを通ることを防ぐか、又は失速させる。実際には、クランプはクロックラチェットホイールのつめの機能を果たし、バイアス電圧Vdriveはラチェットホイールを推進するスプリング又はモーターとして機能する。
【0044】
第二に、電圧制御パルス及び/又は熱制御パルスは、好ましくは持続時間がナノ秒からマイクロ秒、例えば1ミリ秒以下であり、クランプコンポーネントが、パルス毎にポリマーに沿って1モノマーユニットを「スライド」させることにより、標的ポリマー鎖を、ナノポアを通過させ、ステップさせる。定電圧バイアスVdriveは、連続的に作用して、ナノポアを通るポリマーを電気泳動又は駆動する。ここで、結合されたクランプは、その直径がナノポアより大きい場合移動できない。そのため、ポリマーは、クランプコンポーネントが可逆的に、しかし決定論的にスライドして、次にポリマーの別の複数のモノマーユニットに可逆的に再クランプするときに、ナノポアを通って、1モノマーユニットずつ決定論的にステップする。
【0045】
好ましい実施形態では、単一の電圧制御パルスVpulse及び/又は熱制御パルスHpulseの持続時間は、ポリマーからクランプを瞬間的に解放するのに必要とされる時間より長くならないように調整され、定バイアス電圧Vdriveは、クランプが、図1Cで上向きの矢印で示す方向に、ポリマーに沿って1モノマーステップ分スライドし、次の連続するモノマーユニット又はモノマーユニットのグループに結合するように、ポリマーを駆動し、ナノポアを通過させる。これにより、ポリマーの次の連続するモノマーユニットがナノポアを占有し、好ましくはナノポアの最も狭い領域を占有し、ここは最も感度が高く、そのため、ナノポアの導電性は、この次の連続するモノマー又はモノマーのグループの電気的及び体積的特性によって支配される。したがって、これらの一連の電圧及び/又は熱制御パルスは、クロックシステムのつめを開放する(pawl-release)メカニズムの方法で機能する。これにより、一連の電圧及び/又は熱制御パルスは、ナノポアを通って駆動される標的ポリマーの全長をステップさせる。
【0046】
クランプが、分子クランプ酵素として実施され、ATP又は他の生化学燃料を利用してポリマーに沿ってターンオーバーし、ステップする可能性のある場合でも、ATP又は化学エネルギー源は、ここの方法論では供給されず、クランプは、VpulseやHpulseを用いた、電圧と熱制御パルスによってのみ、そのポリマー基質に沿ってスライドさせられることに注意されたい。正確なタイミングの電圧制御パルスVpulse及び/又は熱制御パルスHpulseによってクランプがポリマーに沿って駆動されるため、ナノポアを通るポリマーの段階的な運動は決定論的である。
【0047】
デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)駆動ポリメラーゼ及びATP依存性ヘリカーゼは共に、シーケンスのため、ナノポアを通って確率論的にDNAをステップするために使用されている。これら及び他の化学的に駆動される酵素の両方のステップ速度は、機械的な力によって加速、減速、又は停止させられることさえあることが知られている。また、ATP又はdNTPの存在下では、ヘリカーゼやポリメラーゼ等の核酸ステップ酵素は、機械的に加速又は減速しても、いくつかのモノマーをスキップ又はジャンプすることなく、モノマーごとにポリマー基質モノマーに沿ってステップすることが知られている。例えば、図1A-Cに示されているクランプ10がヘリカーゼであり、ATPの存在下で図1Cの上向きの矢印で示される方向にポリマー基質に沿って標準的にステップする場合、ポリマーをシスリザーバからナノポアを通ってトランスリザーバに駆動する電圧バイアスが増加するにつれて、このステップはより速くなる(しかし、スキップせずにモノマーごとにステップする)。これは、Moyseyが米国特許第9,617,591号において教示している(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0048】
反対に、図10を参照すると、クランプがプロセッシブポリメラーゼ85の場合、ポリマーをシスからトランスに駆動する電圧バイアスの電気泳動力がより大きくなるにつれて、dNTPの存在下で矢印86の方向にポリマーに沿ってのポリメラーゼのステップは、ポリマーがナノポアからよりゆっくりとステップし、出て行く傾向になる(しかし、ポリマーモノマーを、スキップせずにモノマーごとにステップする)。このことは、Lieberman et al., J. Am. Chem. Soc., 132:17961-17972, 2010(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)において説明される。最後に、通常ATPを消費して反時計回りにステップするF1-ATPaseが、純粋に機械的な力によって時計回りに駆動されるとATPを合成するという事実は、タンパク質マシンの、ある特定のポイントで働く機械的な力が、触媒サイトで化学反応を駆動できることを明確に示す。これらの例は、適切に加えられた機械的な力は、酵素の通常の立体構造変化を破損も破壊もしないことを示す。さらに、これらの例は、純粋に機械的な力が、標準的な化学エネルギー駆動の立体構造変化を「遅延」、「促進」、又はさらに「駆動」することができるという明確な証拠を提供する。
【0049】
ATPの存在下で、機械的な力が酵素の立体構造の変化を「促進」、「遅延」、又は「置換」できるという事実によって、本明細書で提供される構造によって対処される、次の疑問が提起される。ATPが存在しない場合、つまり燃料が存在しない場合、純粋に機械的な力だけでポリマーステップ酵素に立体構造の変化が生じ、それによって、ATPに依存性のステップと同じ特徴を有する、モノマーごとの精度で、ポリマーに沿ってスライドし得るであろうか?ATPの加水分解に由来する化学エネルギーを使用する場合、ヘリカーゼ等の酵素は、立体構造変化を受け、それによって、ヘリカーゼを正確にポリマーに沿ったステップごとに1核酸塩基分だけ進める。仮に、単独で作用する機械的な力が、単に各ステップで酵素クランプを押して不定の数の核酸塩基をランダムにスライドさせるような場合は、ナノポアによって検知された核酸塩基のシーケンスは、ポリマー内の核酸塩基の実際のシーケンスを報告できない。なぜならば、ナノポアによる連続する各核酸塩基の識別は、連続する各ステップ間の時間間隔中で生じるためである。
【0050】
ここで図11のプロットを参照すると、本明細書の発明者は、ATPによって可能になる方法で、しかし完全にATP不在下で、つまり、クランプに供給される燃料なしで、適用された力が酵素クランプを押して、正確に、ステップごとに1核酸塩基分だけを進めることができることを発見した。図11のプロットは、DNA鎖の各ステップでナノポアの最も狭い領域を占めるモノマーに近接する5核酸塩基周辺によるナノポアの電流遮断を示す。DNAのシークエンスは、水平軸に示されているように、一連のオーバーラップする5量体として読み取られる。
【0051】
図11のプロットに示すように、Vdrive=160mVの印加電圧バイアスに対する、電圧バイアス駆動DNA鎖(円)の各ステップのナノポアを流れる電流は(そのような電流測定値の誤差限界の範囲内で)、ATP駆動鎖(四角)の各ステップの電流測定値と同じである。これは、機械的に強制された運動が、ATP燃料による力と同様に、DNA鎖等のポリマーを、ナノポアを通して1ヌクレオチドだけ前進させることができ、ATPを使用せずにそのようにできることを示す。したがって、電圧強制運動は、ナノポアを通って、標的ポリマー分子を忠実に移動させることができ、よって、ナノポアを通るポリマーの運動が、例えばATP燃料よる、ヘリカーゼ酵素によって制御されるときと同じ、一連の電流レベルを可能にする。これは、十分な大きさの純粋に機械的な力により、標準的にはATP依存性酵素であるものがクランプとして機能し、ATPの非存在下で、電圧及び/又は熱制御によって駆動され、ATP依存性DNAモーター酵素が行うのと同様に、モノマーごとのステップ精度で、DNA鎖の長さに沿って移動できることを明確に示す。
【0052】
図11のプロットは、通常の、ATP駆動T4ヘリカーゼの5'から3'のステップと、ATPの非存在下でクランプとして機能する機械駆動のT4ヘリカーゼの5'から3'を示し、T4ヘリカーゼはまた、DNA鎖に沿って逆方向、つまり3'から5'に機械的に駆動されている。実際、Mulkidjanianらによって観測されたこと(Mulkidjanian et al., Nat. Rev. Microbiol., 5:892-899, 2007,これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を考慮すれば、F1-ATPaseを使用して、ATPを加水分解する代わりに、逆に機械的な力によって駆動しATPを合成できる。ATP依存性核酸ステップモーター酵素をDNAに沿った標準の5'-to-3'又は3'-to-5'の移動方向と逆方向に駆動することにより、ATPを消費するのではなく生成できることが理解される。これは、Ito et al., Nature, 427:465-468, 2004,(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載される。結果として、本明細書で提供されるさらなる実施形態では、バイアス駆動電圧並びに電圧制御パルス及び/又は熱制御パルスを使用して、ポリマー分子長に沿って2つの可能な方向のいずれかにクランプを移動できる。
【0053】
制御パルスのために本明細書で提供される方法論には、バイアス駆動電圧、Vdrive、及び追加の電圧制御パルスVpulseの非常に短い間隔、及び/又は、熱制御パルスHpulseにおけるより高い温度での短い間隔の組み合わせが関連するため、より高い電圧バイアスとより高い温度がステップ速度にどのように影響するかの理解がここに提供される。これらの条件の実験結果は、パルシングのない条件の電圧及び温度パラメータについて作成され、DNA鎖上のクランプの例としてT4-ヘリカーゼを再度使用した。図12のプロット、ATP非存在を参照すると、固定されたクランプを備えたDNAポリマーが一定のシスからトランスへのバイアスによってナノポアを通って駆動される場合、ナノポアを通りポリマーの全長をステップするのにかかる時間の中央値は、ナノポアにかかる電圧バイアスVdriveが増加するにつれて短くなる。図13も参照すると、結果として、各モノマーステップ間の時間間隔の中央値(ここではステップ持続時間中央値と称する)は、T4ヘリカーゼクランプを備え、図12のプロットのデータを表す条件についてのものであり、電圧バイアスVdriveが増加するにつれて短くなる。図13のプロットのステップ持続時間中央値データは、図12のデータについてのものであり、図12に示される、全分子移動の測定された持続時間を、移動した分子の全長を構成する既知のモノマーの数で除することによって決定された。
【0054】
他のいくつかの要因が、各ステップ間の時間間隔又はステップ持続時間中央値に影響を与える可能性がある。例えば、ATPの非加水分解性類似体である5'-(β、γ-イミド)三リン酸(ADPNP)の低濃度の添加により、図11のプロットで表される条件のように、多くの同一のポリマーがナノポアを通ってステップするとき、ナノポアを完全に通過する持続時間の範囲が大幅に短縮される。ステップ持続時間中央値に影響を与える可能性のある他の要因には、例えば、3'から5'方向又は5'から3'方向等の、クランプを介するポリマーの移動方向、及び、クランプのアミノ酸組成の変化、又はクランプコンポーネント間のジスルフィドリンクの形成、又は他の構造が含まれる。
【0055】
再び図13を参照すると、図13のプロットデータに示されているように、クランプとその近接周囲の温度が、ステップ持続時間中央値に特に顕著な影響を与えることがわかる。例えば、T4ファージヘリカーゼをクランプとして使用すると、温度を室温より低くすると、ステップ持続時間中央値が大幅に長くなり、温度を25°Cから37°Cに上げるとステップ持続時間中央値が3倍以上短くなることが観察される。電圧の上昇も温度の上昇も、観察されたDNAポリマーの長さに沿って、クランプがモノマーごとにステップする精度を変えることはなかった。
【0056】
電圧制御パルスと熱制御パルスの実施形態に着目すると、本方法論のナノポアシステムの特徴、クランプコンポーネント、並びに電圧及び/又は熱パルスの持続時間と振幅は、互いに一体に選択され、ナノポア検知及びナノポアシーケンスの方法論に精通している人々に知られている他の一般的に使用されるナノポア検知の特徴と一体に選択されることが理解される。一実施形態において、決定論的なステップを生成する制御パルスを実施するための手順は次のとおりである。
【0057】
1)最初のステップでは、定バイアス駆動電圧、Vdrive及びナノポアシステムの他のすべての条件を設定して、ステップ持続時間中央値ができるだけ長く、短時間のステップの頻度ができるだけ低くなるようにする。これは、例えば、バイアス駆動電圧Vdriveを約20mVから約140mVの間の電圧に設定し、リザーバの溶媒を約10℃から約15℃の間の温度に維持することによって実現される。約120mV以下のバイアス駆動電圧Vdriveを用いることにより、より長いステップ持続時間中央値を達成できる可能性があるが、約120mV未満のバイアスでは、連続するモノマーユニットがナノポアの検知開口領域の外側に拡散する可能性のある間の持続時間の経過を最適に防止できない可能性があることが理解される。これは、Lu et al., Biophys. J., 109:1439-1445, 2015,(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)において説明される。以下で説明するように、このような条件は、ポリマーの異なるサブユニットを区別するナノポアの能力を低下させ得る。結果として、好ましい実施形態において、バイアス実施電圧Vdriveは少なくとも約120mVであり、好ましい実施形態では、約120mV~約140mVである。
【0058】
2)次のステップでは、電圧制御パルスVpulse又は熱制御パルスHpulse又はVpulseとHpulseの同時の制御パルスの周波数を設定する。これらの周波数は、パルス間の時間の長さが、バイアス駆動電圧Vdriveを印加するだけで、パルスがない場合に発生すると測定される最短持続時間のステップの長さよりも大幅に短くなるように設定する。パルス間の時間の長さは、パルスがない場合に観察される最短持続時間のステップの長さよりも十分に短いことが好ましいが、パルス間の時間の長さは、ナノポアシステムの電子機器が各パルス間でナノポアを流れるイオン電流を正確に評価できるように、十分に長いことが好ましい。パルス間の時間の長さが、パルスが存在しない場合に観察される最短持続時間の長さよりも十分に短い場合、バイアス電圧だけでクランプが確率論的にステップするように駆動される確率が、非常に小さくなることが保証される。したがって、結果として、実質的にすべてのクランプステップは、電圧制御パルスVpulse及び/又は熱制御パルスHpulseの意図的な印加によるものであり、ナノポアを通るポリマーのステップ移動は、決定論的であり、制御され、かつ、反復可能であることが保証される。
【0059】
言い換えると、標的ポリマーが、決定論的なステップ様の運動でナノポアを通って確実に前進するように、各電圧制御パルス及び/又は熱制御パルスの持続時間は、バイアス駆動電圧Vdriveが、ポリマーを駆動してナノポアを通ってポリマーを1モノマーユニットだけ前進させるのにかかる時間の長さより少なくするために、クランプがポリマーのモノマーユニットに結合する標準的な力に打ち勝つように選択される
【0060】
ナノポアシステムで実施される選択された調査、調査される標的ポリマーの詳細、及びクランプコンポーネントと適切なナノポアの可用性に応じて、本明細書において、いくつかの実施形態が提供される。以下の2つの実施形態は、ナノポア検知とナノポアシーケンスの技術分野の当業者が本明細書で提供されるシステムの適切な特徴をどのように選択できるかと、それらのパラメータ及びナノポア検知のその他の一般的に使用される特徴を設定して、それらが互いに機能するように連携する方法を示す。実施形態にはDNAが使用され、他の直線的に接続された荷電ポリマー、すなわち、連続的なモノマー残基、例えば、RNA、タンパク質、及び上記の分子等が、ポリマーに可逆的に結合された適切なクランプコンポーネントとともに、同様に調査される。
【0061】
本明細書で提供される様々な実施形態において、一本鎖DNA(ssDNA)又は二本鎖DNA(dsDNA)は標的ポリマー分子である。いずれの実施形態においても、ナノポアは、標的ポリマーの1本の鎖のみが通過するが、結合されたクランプコンポーネントを有する、この1本の鎖が通過できない制限開口を有し、構成される。容易に入手可能なナノポアの中で、タンパク質等の有機ナノポア、又は膜の開口等の無機固体状のナノポアのいずれかで、いずれの場合も、クランプの直径よりも小さいが、約1nmよりも大きいチャネル開口径を有するものが、多くの実施形態に対して好ましい。
【0062】
ナノポアシステムのナノポア、膜、及び支持構造の製造、配置、及び構成は、任意の適切な方法で実現でき、例えば、Moyseyの米国特許第9,617,591号、Golovchenkoの米国特許第7,468,271号、Lieberの米国特許第8,698,481号、 GarajのUS 20120234679、Lieberの米国特許第9,702,849号、 Russoの米国特許第9,611,140号、 Golovchenkoの米国特許第9,815,082号、 及びXieのUS20160231307に記載されているような方法で実現することができ、これらのそのすべてが参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
標的ポリマーの長さに沿ってモノマーをカウントするための例示的パラメータに関する実施形態この例示的な実施形態では、脂質二重層から形成されたナノポア膜が特定されている。例えば、支持構造体の開口を横切って延在するdiPhPC脂質二重層を使用することができ、支持構造体の開口は約10ミクロンから約20ミクロンの間の直径を有する。適切なナノポア、例えば、CsgGナノポアをここで使用することができる。diPhPC脂質二重層膜は、約300mVを超える一定又は長時間の電圧バイアスで破壊する可能性があることが知られているため、ここでは定バイアス電圧として、比較的低いバイアス駆動電圧、例えばVdrive=120mVが適切であり、上記のように、この比較的低いバイアス電圧が、各連続するモノマーユニットがナノポアの最も感度が高い検知開口の外側で費やす時間の長さを最適に減少しない場合でも、電圧制御パルス中及び電圧制御パルス間の両方で維持される。
【0064】
この駆動電圧が選択された状態で、次に標的ポリマーがdiPhPCのCsgGナノポアを通って決定論的なステップ様の動きで確実に前進するように、各電圧制御パルス及び/又は熱制御パルスの振幅と持続時間は、120mVのバイアス駆動電圧Vdriveが、ポリマーを駆動してナノポアを通ってポリマーを1モノマーユニットだけ前進させるのにかかる時間の長さより少なくするために、クランプが標的ポリマーのモノマーユニットに結合する標準的な力に打ち勝つように選択される。各電圧制御パルス及び/又は熱制御パルスの振幅と持続時間はまた、膜が破壊したり破損したりしないように選択される。一般的に、ほとんどの実施形態では、電圧制御パルスは一定ではないため、電圧制御パルスの振幅は一定の駆動電圧の振幅よりも大きくなる。
【0065】
比較的壊れやすいdiPhPC膜は、約180mVより大きい一定の電圧バイアスによって破壊する可能性があるが、最大約500mVの大きさの電圧を印加する短い、~1マイクロ秒のパルスには耐えることができる。したがって、この例では、ATPの非存在下でクランプコンポーネントをポリマーのモノマーユニットに結合する力に簡単に打ち勝つために使用される電圧制御パルス及び/又は熱制御パルスは、持続時間が約1マイクロ秒より短く、約500mV未満の電圧を有するよう特定される。
【0066】
この実施形態では、クランプは、DNAの一本鎖に結合する高度にプロセッシブな幅広いDNA酵素のいずれかとして実施することができる。例えば、ヘリカーゼやポリメラーゼ等のトランスロカーゼは、クランピングコンポーネントとして使用できる。ヘリカーゼの中でも、他の領域はdsDNAである不対一本鎖領域に結合する多くが利用可能である。これらは、von Hippel et al., Cell, 104:177-190, 2001,(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によって説明される。
【0067】
本明細書のこの実施形態及び様々な実施形態では、DNAポリマーに付けられたいくつかのクランプではなく、1つのクランプのみを使用することが好ましい可能性がある。結果として、不対一本鎖DNA領域に結合するヘリカーゼは、特によく適したクランプである。なぜならば、分子生物学の分野の当業者は、例えば、ssDNAの大部分を一時的にdsDNAに変換することにより、複数のヘリカーゼがssDNAサンプルに結合するのを防ぐ方法を理解しているためである。
【0068】
T4 Ddaヘリカーゼ等のSF1ファミリーヘリカーゼは、これと多くの実施形態に好ましいクランプ選択であり得る。なぜならば、ssDNAの5'から3'に沿ったT4 Ddaヘリカーゼの移動のモードが高解像度で研究されており、これらのヘリカーゼが結合したDNAと作る約12-14アミノ酸の接触のほとんどは、DNAの糖リン酸骨格と接触していることは明らかであるためである。これらは、Saikrishnan et al., Cell, 137:849-859, 2009,(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載される。結果として、SF1ファミリーヘリカーゼは、それが結合するDNA鎖で遭遇するすべての核酸塩基配列に等しく良好に結合することが本明細書で理解される。
【0069】
さらに、このファミリーのトランスロカーゼのメンバーは多くの生物に見られ、ATPの非存在下でDNAに沿って結合ヘリカーゼをスライドさせるのに必要な力は、SF1ファミリーヘリカーゼが精製される生物によって大きく異なる。例えば、そのDNAへの結合が、約180mV未満の定バイアス電圧によっては負かされないが、そのDNA鎖への結合が、約200mVを超える電圧パルスであって、任意で熱パルスと連携され、両方とも約500μs未満の継続期間間の持続するものによって負かされる可能性があるクランプが好ましい場合がある。
【0070】
電圧制御パルスとともに、又は電圧制御パルスの代わりに熱制御パルスを印加するために、多くの実施形態で、少なくとも約300mWのビームエネルギーで動作する532nm波長のレーザーを使用できる。このレーザーは、上記で説明したように、1つ又は複数の金、銀、又はその他の光吸収ナノ粒子が結合されたクランプの近接周囲のイオン溶液約10ヨクトリットル未満の体積の温度を上昇させる。媒体の一定のバックグラウンド温度は、この実施形態では約15℃のバイアス温度に保持されることが好ましく、その後、電圧制御パルスと時間的に一致するように放射されるレーザー光によって約50℃に上昇される。
【0071】
電圧及び/又は熱制御パルス間の時間の長さは、所望の精度レベルでのモノマー識別に必要とされる最短の時間よりも長いが、バイアス電圧Vdriveの条件下でのクランプ1モノマーユニットのスライドのための特徴を示す最短時間よりも短い。このスライドのための最短の測定時間は、選択された特定のヘリカーゼによって異なる。例えば、ATPがなく、クランプとして好ましいT4 Ddaヘリカーゼを用いた場合、Vdrive=120mVでは、1秒未満のステップ間の持続時間が非常にまれであることがわかる。したがって、電圧制御パルス間の間隔は、100ミリ秒以下に設定することができ、これは、簡単に実施できる条件である。これは、駆動電圧による検出されないスライドを回避し、これによって、ナノポアを通って標的DNAポリマーの全長を駆動するように適用されるパルスのカウント数が、ポリマー長内のモノマーサブユニットの数、すなわち核酸塩基の数と、等しくなる。
【0072】
標的ポリマー長に沿った、化学的事項及びモノマーシークエンスを決定するための例示的なパラメータに関する実施形態さらなる実施形態において、ナノポアシステム、クランプ、及び制御パルスは、標的ポリマーの化学的性質及び標的ポリマーに沿ったモノマーサブユニットのシークエンスの決定を可能にするために選択される。この実施形態は、上記のように、その核酸塩基がポリマーのモノマーサブユニットである標的ポリマー分子DNAを考慮している。ここではモノマーサブユニットに関するより詳細な情報が求められるため、ナノポアを通ってポリマーを駆動するためのバイアス電圧は、前述の実施形態のバイアス電圧よりも大きい、必要があり、これは、そうしなければ詳細な情報を劣化させてしまうブラウン運動の影響を最小限に抑えるためである。結果として、この実施形態の主題であるパラメータのいくつか、及びナノポア検知の他の一般的に使用される特徴のパラメータは、前の実施形態とは異なる。
【0073】
この実施形態は、前の実施形態のバイアス駆動電圧よりも大きいバイアス駆動電圧Vdriveを必要とし、したがって、Vdrive+Vpulseの合成電圧の振幅は、相応して前の実施形態の振幅よりも大きいため、前の実施形態で使用されたものよりもより壊れにくく、より強固である膜がここでは好ましい。適切な膜には、グラフェン膜、窒化ケイ素膜、又は他の適切な固体状の膜等の固体状の膜、又は両親媒性トリブロック共重合体膜が含まれ、Zhao et al., Science, 279: 548-552, 1998(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、ポリ(ジメチルシロキサン)-ブロック-ポリ(2メチルオキサゾリン)-ポリ(ジメチルシロキサン)又はミコール酸膜等があり、Langford et al., J. Lipid Res., 52: 272-277, 2011,(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、それらはすべて、diPhPC脂質二重層よりも、より強固なイオン不透過性膜を形成できる。
【0074】
支持構造体において、比較的小さな開口、例えば直径20ミクロン未満の支持構造体開口にわたり延在する膜もまた、好ましい。従来の10ミクロン直径~50ミクロン直径の支持構造体の開口にわたって形成される膜よりも、顕著に強固であるためである。選択された直径、例えば直径が1nmを超える、又は直径が約2nmを超えないナノポアは、膜を通ってまっすぐ貫通し、例えば、グラフェン膜等の膜を貫通することができる。又は、CsgGポーリンの変異体等の生体ナノポアは、膜に提供される、好ましいタンパク質ナノポアである。これらのいずれも、Howorkaにより、US20180148481(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、α-ヘモリシンよりもDNA核酸塩基間をより容易に区別することができる。
【0075】
ここで、約140mVから約250mVのバイアス駆動電圧Vdriveは、ブラウン運動を最小限に抑え、連続する各モノマーユニットがナノポアの最も感度が高い狭い開口であって、高電気抵抗領域の外部で費やす時間を最小限に抑えることにより、各イオン電流測定に寄与するモノマーの数を最小限に抑えることが好ましい。この状態は、約120mVの駆動電圧の例に関し、図14A~14Cを参照して理解することができる。ナノポア20に120mVの駆動電圧38が印加されると、1つのモノマーユニット42がナノポアの高感度部位44に配置され、図14Bに示されるように、ブラウン運動によりモノマーユニットが高感度部位から一瞬の間追い出される可能性がある。125mVを超える、より大きいバイアス駆動電圧を印加すると、図14Cに示すように、サブユニット42がより迅速に高感度部位に戻り、それによってモノマーの識別が改善される。したがって、約120mVを超える比較的高いバイアス駆動電圧を使用するか、ブラウン運動に対抗する可変電圧を使用することが好ましい場合がある。
【0076】
この実施形態において熱パルスを加えるために、例えば、少なくとも約300mWのビームエネルギーで動作する532nm波長レーザーを使用し、上記の方法で、クランプ又はナノポアに結合した金ナノ粒子を有する、クランプの近接周囲のイオン溶液の約10ヨクトリットル未満の体積の温度を上昇させることができる。溶液の一定のバックグラウンド温度は、約10℃に保持されることが好ましく、レーザー光によって約50℃に上昇される。レーザー光は電圧制御パルスと一致するように上記の方法で制御される。
【0077】
約10ミクロン未満の支持構造体開口径にわたって、ここで選択された比較的強固な膜を用いると、約500mVを超える定電圧バイアスが膜を破壊する可能性がある。しかし、最大で約1マイクロ秒及び約3マイクロ秒の間のパルス持続時間を有し、約900mV未満の大きさの電圧制御パルスは、許容される。したがって、ATPの非存在下で、クランプコンポーネントをポリマーのモノマーユニットに結合する力に簡単に打ち勝つために使用される電圧制御パルスは、ここでは、持続時間が約3マイクロ秒より短く、電圧の大きさが約900mVより小さいことが好ましい。
【0078】
ここでの実施形態では、SF1ファミリーヘリカーゼが好ましい。なぜならば、トランスロカーゼのこのファミリーのメンバーは多くの生物に見られ、ATPの非存在下でDNAに沿って結合したヘリカーゼをスライドさせるのに必要な力は、SF1ファミリーヘリカーゼが精製される生物によって大きく異なるためである。この例に関しては、そのDNA鎖への結合は約500ns未満の制御パルス持続時間と約900mV未満の大きさによって負かされる可能性があるが、そのDNAへの結合は約500mV未満のバイアス駆動電圧によっては負かされないクランプが好ましい場合がある。
【0079】
前の実施形態と同様に、制御パルス間の持続時間は、ここでは、所望の精度レベルでのモノマーの識別に必要とされる最短時間よりも長いが、バイアス駆動電圧のみの条件下でのクランプのスライドに関する特徴を示すと知られる最短時間よりも短くなるように選択される。このスライドの最短測定時間は、選択された特定のヘリカーゼによって異なる。ATP非存在で、クランプとして好ましいSF1ファミリーヘリカーゼを使用すると、スライド間の平均時間は約100ミリ秒を超え、指数関数的に減少し、そのためVdrive=300mVのバイアス駆動電圧のみの条件下での、ある核酸塩基から次の核酸塩基へのスライドは、約15msのスパンでは、非常にまれにしか発生しない。したがって、電圧制御パルスの間隔を、簡単に実施される持続時間で発生するように、例えば約5ミリ秒から約10ミリ秒の間に設定することによって、確率論的スライディングが最小限に抑えられ、DNAシーケンス内の連続する各核酸塩基が、ナノポアでのその現在のシグネチャによって確実に検出及び識別されるように、決定論的なステップを提供する。
【0080】
実験例MspAナノポアが、ジフィタノイルホスファチジルコリン膜に供され、図2に示すように、ナノポアシステムに配置された。Ddaヘリカーゼクランプを備えたDNAを、pH8.0の1MのKCl、25mMのリン酸緩衝液、2mMのADPNP、2mMのMgCl2のイオン溶液中で、シスリザーバシステムにロードした。溶液を37℃に保持した。ナノポアにかかるバイアス駆動電圧は160mVであった。電圧制御パルスは、図5の電圧パルス制御システムと図3の制御方法を使用して適用された。最初の実験では、電圧制御パルスの持続時間は500マイクロ秒で、2番目の実験では、電圧制御パルスの持続時間は1ミリ秒であった。両方の実験で、電圧制御パルスの振幅は300mVであった。ナノポア電流を測定し、2kHzでフィルタリングした。
【0081】
図15A及び15Bは、電圧制御パルスが印加されたときの時間の関数として測定されたナノポア電流のプロットであり、ナノポアにかかる印加電圧を時間の関数として示し、500マイクロ秒の持続時間の電圧制御パルスと1ミリ秒の電圧制御パルスの、それぞれに関する。測定されたナノポアイオン電流は上の線として表示され、軸はプロットの左側にあり、印加電圧パルスは下の線として表示され、その軸ラベルはプロットの右側にある。両方のデータのプロットに示されているように、ナノポアを通るイオン電流において測定された変化は、印加された電圧制御パルスVpulseと時間的に一致した。これは、1つの単一印加電圧制御パルスVpulseに応答して、ヘリカーゼクランプがDNA鎖長に沿って1つのモノマーのステップしたことを示す。図15Bのプロットにおいて、印加されたパルスに示される容量性電流スパイクのオーバーシュートは、1ミリ秒という比較的長い持続時間の電圧制御パルス中の電子機器による不適切な補償の結果である。
【0082】
この説明、本明細書で提供される実施形態、及び実験例により、ナノポアシステム、クランプ制御、及び本明細書で提供され方法論により、標的ポリマー分子のナノポアを通る移動の、確率論的ステップではなく、決定論的なステップが達成されること、及び、それがナノポアを有する標的ポリマーの直線的に接続された連続的なポリマーサブユニットの特徴付けを可能にすることが実証された。これにより、これまで困難であった標的ポリマーの正確な評価が可能になる。
【0083】
本明細書において、好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明の趣旨から逸脱することなく、様々な修正、追加、置換等を行うことができることは、当業者には明らかであり、したがって、これらは、添付の特許請求の範囲で定義される発明の範囲内にあるとみなされることが理解されるであろう。
図1A-1C】
図1D-1F】
図2
図3
図4A-4D】
図5
図6
図7
図8
図9A-9B】
図10
図11
図12
図13
図14A-14C】
図15A-15B】