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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】溶湯用取鍋
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/00 20060101AFI20231010BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20231010BHJP
   B22D 1/00 20060101ALN20231010BHJP
【FI】
B22D41/00
B22D41/00 C
C21C7/00 P
B22D1/00 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020006616
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021112765
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222875
【氏名又は名称】東洋電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】辻 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 展也
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-152363(JP,U)
【文献】特開2016-137501(JP,A)
【文献】特開2018-108596(JP,A)
【文献】特開2017-082329(JP,A)
【文献】特開昭57-121870(JP,A)
【文献】特開昭59-150657(JP,A)
【文献】実開平05-053769(JP,U)
【文献】特開2013-072137(JP,A)
【文献】実開平04-125053(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第103736985(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/00
C21C 7/00
B22D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に溶湯を収容する取鍋本体と、
前記取鍋本体の開口部を覆い、前記溶湯の成分調整のために金属ワイヤーを前記溶湯に 添加させる挿入口が突設された蓋体を備え、
前記取鍋本体の立設壁の内周において突出した突出部を有しており、
前記突出部において、下側から上側に向かって連続的に幅が薄くなるよう傾斜した傾斜 面を有することを特徴とする溶湯用取鍋。
【請求項2】
前記突出部が、前記取鍋本体の前記立設壁の内周に沿ってリング状に突出しており、そ のうち少なくとも一つの切欠を有することを特徴とする請求項1に記載の溶湯用取鍋。
【請求項3】
平面視において、前記突出部の内側の開口の最小面積は、前記取鍋本体の前記立設壁の 内側の開口の最大面積の50~95%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に 記載の溶湯用取鍋。
【請求項4】
前記取鍋本体における上端部が分離可能であり、前記突出部が前記上端部に設けられて いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の溶湯用取鍋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を溶融して得られる溶湯が貯留され、金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを挿入して貯留される溶湯の処理を行うなどする容器である溶湯用取鍋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属を溶融して得られる溶湯を搬送又は成分調整処理するために、その溶湯を貯留する容器である取鍋が利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1において、溶湯を内部に貯留するために上方に向かって開口する円筒容器状の溶湯用取鍋が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-137501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の溶湯用取鍋は立設壁の内周面が平坦であるために、溶湯用取鍋に取鍋用蓋を取り付けて金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯に挿入して成分調整処理するときに、金属ワイヤーと溶湯との接触による激しい反応により溶湯が激しく揺動して液面から飛散することにより、取鍋の立設壁の上端と取鍋用蓋の鍔部の下面との僅かな隙間から外部へ漏洩するおそれがあった。或いは、その隙間に溶湯が付着することで長期間の使用で飛散した溶湯が取鍋の立設壁の上端等に徐々に堆積してしまい、溶湯用取鍋に取鍋用蓋を取り付けるとその隙間が徐々に大きくなり溶湯が外部に漏れ出やすくなったりするおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、溶湯用取鍋に蓋体を取り付けて金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯に挿入して成分調整処理するときに、溶湯と金属ワイヤーと溶湯との接触による激しい反応により溶湯が激しく揺動し飛散しても、取鍋の立設壁の上端と蓋体の鍔部の下面との間に溶湯が付着することを低減し、さらには長期間使用しても溶湯用取鍋に取鍋用蓋を取り付けたときに隙間が生じにくくして溶湯が外部に漏れ出ることを大幅に低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕すなわち、本発明は、内部に溶湯を収容する取鍋本体と、前記取鍋本体の開口 部を覆い、前記溶湯の成分調整のために金属ワイヤーを前記溶湯に添加させる挿入口が 突設された蓋体を備え、前記取鍋本体の立設壁の内周において突出した突出部を有して おり、前記突出部において、下側から上側に向かって連続的に幅が薄くなるよう傾斜し た傾斜面を有することを特徴とする溶湯用取鍋である。
【0009】
〕そして、前記突出部が、前記取鍋本体の前記立設壁の内周に沿ってリング状に 突出しており、そのうち少なくとも一つの切欠を有することを特徴とする前記〔1〕に 記載の溶湯用取鍋である。
【0010】
〕そして、平面視において、前記突出部の内側の開口の最小面積は、前記取鍋本 体の前記立設壁の内側の開口の最大面積の50~95%であることを特徴とする前記 1〕又は前記〔2〕に記載の溶湯用取鍋である。
【0011】
〕そして、前記取鍋本体における上端部が分離可能であり、前記突出部が前記上 端部に設けられていることを特徴とする前記〔1〕から前記〔〕のいずれかに記載の 溶湯用取鍋である。

【発明の効果】
【0012】
本件発明によれば、溶湯用取鍋に蓋体を取り付けて金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯に挿入して成分調整処理するときに、溶湯と金属ワイヤーと溶湯との接触による激しい反応により溶湯が飛散しても、取鍋の立設壁の上端と蓋体の鍔部の下面との間に溶湯が付着することを低減し、さらには長期間使用しても溶湯用取鍋に取鍋用蓋を取り付けたときに隙間が生じにくくして溶湯が外部に漏れ出ることを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第一実施形態における溶湯用取鍋の平面図である。
図2】本発明の第一実施形態における溶湯用取鍋において、蓋体を取り除いた状態の平面図である。
図3】本発明の第一実施形態における溶湯用取鍋におけるA-A線断面図である。
図4】本発明の第一実施形態における溶湯用取鍋におけるα部拡大図である。
図5】本発明の第一実施形態における溶湯用取鍋の分解正面図である。
図6】本発明の第二実施形態における溶湯用取鍋において、蓋体を取り除いた状態の平面図である。
図7】本発明の第二実施形態における溶湯用取鍋におけるB-B線断面図である。
図8】本発明の第三実施形態における溶湯用取鍋において、蓋体を取り除いた状態の平面図である。
図9】本発明の第三実施形態における溶湯用取鍋におけるC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る溶湯用取鍋に関する実施の形態について、添付の図面に基づいて詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨が明記されていない限り、この形態に限定されるものではない。また、説明中の上下方向とは、断面図で示された図3図7図9における上下方向である。なお、数値範囲を示す「~」の表現は、上限と下限を含むものである。
【0015】
〔第一実施形態〕
図1図5に示すように、本発明の溶湯用取鍋の一実施形態は、内部に溶湯を収容する取鍋本体1と、取鍋本体1の上方に向かって開口している開口部13を覆う蓋体3を備えており、取鍋本体1の上端部11の内側に位置する上端部立設壁111の内周に突出するように突出部2が設けられている。
【0016】
取鍋本体1は、上端部11と取鍋基部12からなっており、上方に開口して内部に溶湯を貯留する容器状の取鍋基部12の上側に、取鍋基部12の基部立設壁121から延設されるように上端部立設壁111を周壁とする環状の上端部11が固設されている。開口部13は、上端部11の開口と取鍋基部12の開口が一体となって形成されており、この開口部13から溶湯6が取鍋本体1に入れられる。上端部11と取鍋基部12は、上端部11から外側に張り出している板状の上端部固定用フランジ15と取鍋基部12から外側に張り出している板状の取鍋基部固定用フランジ16が、それらに穿設されている貫通孔が連通するように合わせてその貫通孔に螺子とボルトからなる固定具5を通して固定されることにより、一体化されている。また、上端部11と取鍋基部12の間に耐熱性等を有し円環状のガスケットGを配設して上端部11と取鍋基部12との密閉性を向上することもできる。なお、本実施形態において、取鍋本体1は、上端部11と取鍋基部12に分離可能となっているが、他の実施形態において、上端部11と取鍋基部12が分離できない連続した一体物とすることもできる。
【0017】
上端部11は、上述したように、取鍋基部12の基部立設壁121から延設されるように上端部立設壁111を周壁とし、その上端部立設壁111の内周において突出した突出部2を有する環状の部材であり、蓋体3の一部と当接し得る部材である。突出部2は、上端部立設壁111と一体として形成されている。この突出部2により、金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯6に挿入して成分調整処理するときにおいて、金属ワイヤーと溶湯6との接触による激しい反応により溶湯6が激しく揺動し液面より跳ね上がったとしても、突出部2に衝突し落下するために取鍋本体1と蓋体3の間に侵入しにくくなっているので、基部立設壁121に沿って跳ね上がって飛散する溶湯6が外部に漏れ出ることを大幅に低減することができる。さらに、本実実施形態において、突出部2は、上端部立設壁111の内周に沿ってリング状に突出しており、どの方向から溶湯6が液面より跳ね上がっても鍋本体1と蓋体3の間に侵入しにくくなっているので、上記の効果をさらに高めることができる。
【0018】
そして、突出部2において、下側から上側の先端である上端14側に向かって、すなわち取鍋本体1の底側から開口13が設けられた上端14側に向かって連続的に幅が薄くなるよう傾斜した傾斜面21を有しており、傾斜面21によって、金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯6に挿入したときに飛散した溶湯6が、傾斜面21に沿って取鍋本体1の中心に向かって流れ落ちるために上端部14に付着しにくく、上端部14の重量が増加しにくくなっている。突出部2は、本実施形態において、傾斜面21を有しているが、他の実施形態において、傾斜面21を有しておらず上端部立設壁111より略直角に起立するように設けられていてもよい。
【0019】
また、平面視において、突出部2の内側の開口の最小面積は、取鍋本体1の基部立設壁121の内側の開口の最大面積の50~95%であることが好ましい。突出部2の内側の開口の最小面積の割合がこの範囲であると、溶湯6を取鍋本体1に注ぎ入れるときに突出部2が妨げになりにくく、基部立設壁121に沿って跳ね上がって飛散する溶湯6が外部に漏れ出ることを大幅に低減することができる。本実施形態において、図3に示すように、突出部2の内側の開口の最小面積は、対向する突出部2の間の直径d1から得られる面積であり、取鍋本体1の基部立設壁121の内側の開口の最大面積は、対向する基部立設壁121の間において最大となる直径d2から得られる面積である。
【0020】
また、突出部2の内壁の高さh1が10~80mmであることが好ましく、20~60mmであることがさらに好ましい。すなわち、本実施形態において、図3における断面図において、突出部2は略台形状を有しており、その上底にあたる突出部2において取鍋本体1の中心側に最も張り出している内壁の上下方向における高さh1が上記範囲であることが好ましい。突出部2の内壁の高さh1がこの範囲であると、基部立設壁121に沿って跳ね上がって飛散する溶湯6が突出部2の下方から打ち付けても、突出部2が欠けたりひび割れたりするなど破損しないようにすることができる。
【0021】
さらに、上端部11は、上端14において1~70mmであることが好ましく、1.5~50mmであることがさらに好ましく、2~30mmであることが最も好ましい。上端14の幅がこの範囲であると、長期使用における耐久性を備えながらも作製することができるものであり、金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯6に挿入して成分調整処理するときに、金属ワイヤーと溶湯6との接触による激しい反応により溶湯6が飛散しても、上端部11の上端部立設壁111の上端14と蓋体3の鍔部32の下面との間に溶湯6が付着することを低減し、さらには長期間使用しても取鍋本体1に蓋体3を取り付けたときに隙間が生じにくくして溶湯6が外部に漏れ出ることを大幅に低減することができる。
【0022】
また、上端部11は、上端部11の上端14などの一部が欠けるなど破損したときに、新しい上端部11に取り換え、取鍋基部12については継続して使用することができるので、上端部11と取鍋基部12とが分離できない一体物となっているものに比べて、コストが抑えられるとともに長期間使用しても取鍋本体1に蓋体3を取り付けたときに隙間が生じず溶湯6が外部に漏れ出ることを防止することができる。
【0023】
上端部11の上端部立設壁111は、外側に位置し板状の上端部外装部112と、内側に位置し飛散した溶湯6と当接する上端部耐火部113を有している。上端部外装部112は、金属などの強度と耐火性を備えた材料であることが好ましい。また、突出部2と一体化されている上端部耐火部113は、直接溶湯6と接触するために、耐火煉瓦、耐火断熱煉瓦など耐火性、耐熱性や耐腐食性などに優れたシリカ、ジルコニア、粘土、アルミナなどの無機化合物を主体とする材料であることが好ましい。
【0024】
また、上端部11の上下方向の高さは、取鍋本体1の上下方向の高さにおける5~30%であることが好ましく、10~20%であることがさらに好ましい。上端部11の上下方向の高さがこの範囲にあると、上端部11の上端14などの一部が欠けるなど破損したときに、上端部11を容易に取り換えることができ、さらに溶湯6が上端部11と取鍋基部12の接合部分に接触しないので漏洩などを防止することができる。
【0025】
上端部11の下側に、外側に向かって張り出すように設けられている板状の上端部固定用フランジ15が、等間隔に4個設けられているが、取鍋基部固定用フランジ16の個数に応じて、4個以外の複数個設けることができる。
【0026】
取鍋基部12は、上述したように、上方に開口して内部に溶湯を貯留する容器状の部材であり、取鍋本体1の主たる部分である。取鍋基部12は、外周に所定の厚みを有する基部立設壁121を備えており、その内側に溶湯6を貯留する。また、基部立設壁121の外側の側面には、取鍋基部12の内部と連通孔124を介して連通し溶湯6を外部へ排出する排出口125が略三角形状に突設されている。
【0027】
取鍋基部12の基部部立設壁121は、外側に位置し板状の基部外装部122と、内側に位置し溶湯6と当接する基部耐火部123を有している。基部外装部122は、金属などの強度と耐火性を備えた材料であることが好ましい。また、基部耐火部123は、直接溶湯6と接触するために、耐火煉瓦、耐火断熱煉瓦など耐火性、耐熱性や耐腐食性などに優れたシリカ、ジルコニア、粘土、アルミナなどの無機化合物を主体とする材料であることが好ましい。
【0028】
取鍋基部12の上側に、外側に向かって張り出すように設けられている板状の取鍋基部固定用フランジ16が、等間隔に4個設けられているが、上端部固定用フランジ15の個数に応じて、4個以外の複数個設けることができる。
【0029】
蓋体3は、取鍋本体1の開口部13を覆う部材であり、開口部13側に向かって空間Sを有する箱状の蓋体基部31と、その蓋体基部31の周縁に外側に向かって突設された鍔部32を備えている。蓋体基部31が内部に空間Sを有することにより、取鍋本体1内の
溶湯6に金属ワイヤーが添加されたときに激しく反応が起こり、急激に圧力が増えたとしても空間Sにある空気が緩衝して蓋体3を押し上げようとする力を緩和することができる。
【0030】
鍔部32の下面には、上方に向かって窪んだ円環状の溝部33が設けられている。溝部33は、取鍋本体1の上端14と同程度の径で設けられており、その溝部33を埋めるように応力により変形することができる柔軟性を有するシール部4が嵌合している。シール部4により、シール部4が取鍋本体1の上端14と密着しているので取鍋本体1と蓋体3の外部に噴出、漏洩することを防いでいる。なお、本実施形態において、鍔部32は四角形状としているが、五角形等の多角形状とすることもできるし、円形または楕円形状とすることもできる。
【0031】
蓋体3は、外側に位置し板状の蓋体外装部34と、内側に位置し溶湯6と当接し得る蓋体耐火部35を有している。蓋体外装部34は、金属などの強度と耐火性を備えた材料であることが好ましい。また、蓋体耐火部35は、直接溶湯6と接触し得るために、耐火煉瓦、耐火断熱煉瓦など耐火性、耐熱性や耐腐食性などに優れたシリカ、ジルコニア、粘土、アルミナなどの無機化合物を主体とする材料であることが好ましい。
【0032】
そして、金属ワイヤーを取鍋基部12内の溶湯6に添加させるために、蓋体基部31の上面に内部の空間Sと外部を連通し、略円筒形状の挿入口36が突設されている。なお、本実施形態において、挿入口36は二本設けられているが、他の実施形態において、1本又は3本以上の複数本とすることができる。
【0033】
シール部4は、蓋体3の外周から外側に向かって突設された鍔部32と、鍔部32の取鍋本体1側に設けられた溝部33に嵌合し柔軟性を有する部材である。上述したように、シール部4により、取鍋本体1の上端14と密着し取鍋本体1と蓋体3の外部に噴出、漏洩することを防ぐことができる。図3に示すように、開口部13側の上端14の幅が、垂直方向に沿ったシール部4の断面径よりも小さくなっているので、上端14がシール部4に対して当接する圧力が大きくなり、取鍋本体1の上端部11と蓋体3の鍔部32との密着度を高め溶湯6の漏洩等を防ぐことができる。そして、シール部4は、溶湯6と接触しても融けないようなセラミックファイバーなど柔軟性を有しつつ、耐火性、耐熱性を有する素材を用いることが好ましい。なお、本実施形態においてシール材は、鍔部32に設けられた溝部33に設けられているが、他の実施形態において、取鍋本体1の上端14と対向する蓋部の下面に設けられていてもよい。さらに、本実施形態においてシール部4は円環状であるが、取鍋本体1の上端14の形状に応じて種々の形状とすることができ、さらに断面形状が円形であるが楕円形状、多角形状とすることもできる。断面形状が楕円形状や多角形状のときには、断面径として最大となる径を測定する。
【0034】
蓋体基部31の側面には内部の空間Sと外部を連通し、上方に開口し屈曲している排気口37を有している。排気口37により、金属ワイヤーを溶湯6に添加するときに金属ワイヤーと溶湯とが反応して生じる金属ワイヤー由来の蒸気などを外部に放出させて内圧を高め過ぎないようにすることができる。また、排気口37が屈曲していることにより、金属ワイヤーを溶湯6に添加するときに金属ワイヤーと溶湯6とが反応して溶湯6が飛散したとしても、排気口37の内部のどこかで衝突し一直線状に外部に噴出することがないので、溶湯6のロスを抑制することができ、作業者に対する安全性も高めることができる。本実施形態では、排気口37は略「く」の字状に屈曲しているが、他の実施形態において、L字状、J字状などの形状に屈曲させることができるし、また、飛散した溶湯6が噴出しない程度の長さを有する屈曲していない直線状とすることもできる。
【0035】
金属ワイヤーは、溶湯6の成分等を調整する線状の金属であり、例えば、その成分として、鉄鋼用に、脱酸のためにカルシウム及びシリコンを含有する材料、脱硫のためにカルシウム及びアルミニウムを含有する材料を用いることができる。そして、溶鋼成分を安定させるために、硫黄を含有する材料、溶鉱成分の微調整を行うために、炭素を含有する材料を用いることもできる。さらに、鋳鉄用に、脱硫又は球状化のために、マグネシウム、シリコン、鉄などを含有する材料を用いることもできる。なお、金属ワイヤーは、これらの材料に対して、薄い鋼板などの金属で被覆して用いられることが好ましい。金属ワイヤーは、目的に応じて、1種又は2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0036】
〔第二実施形態〕
図6図7に示すように、本発明の溶湯用取鍋の一実施形態は、第一実施形態のように取鍋本体1が分離せず一体となっており、内部に溶湯を収容する取鍋本体1と、取鍋本体1の上方に向かって開口している開口部13を覆う図示しない蓋体を備えており、取鍋本体1を形成する第二立設壁17の上端側に、第二立設壁17の内周に突出するように突出部2が設けられている。本実施形態における蓋体は、第一実施形態における蓋体3と同様である。
【0037】
突出部2は、第二立設壁17の上端側の内周に沿って一部に切欠22を有する略リング状に突出しており、おおよその方向から溶湯6が液面より跳ね上がっても鍋本体1と蓋体の間に侵入しにくくなっているので、第二立設壁17に沿って跳ね上がって飛散する溶湯6が外部に漏れ出ることを大幅に低減することができる。本実施形態では、第一実施形態と異なり第二立設壁17の側面から溶湯6を排出することができず、開口13より溶湯6を排出する必要があるために、取鍋本体1を傾けて切欠22から溶湯6を排出することができる。また、切欠22を備えることにより、溶湯6の表面に浮遊し不純物であるスラグを柄杓のような道具によって取り除くときに、切欠22からスラグを引き上げるために回収しやすいという効果も奏する。このため、第一実施形態の溶湯用取鍋においても、突出部2に少なくとも一つの切欠22を設けることができる。突出部2は、第二立設壁17の上端側の内周の80~95%に設けられていることが好ましい。突出部2がこの範囲で設けられていると、第二立設壁17に沿って跳ね上がって飛散する溶湯6が外部に漏洩することを防止するとともに、金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯6に挿入した後に溶湯6を開口13側から切欠22を介して排出することができる。また、第一実施形態と同様に、突出部2において、傾斜面21を有している。
【0038】
第二立設壁17は、外側に位置し板状の第二外装部171と、内側に位置し飛散した溶湯6と当接する第二耐火部172を有している。第二外装部171は、第一実施形態における上端部外装部112、基部外装部122と同様に、金属などの強度と耐火性を備えた材料であることが好ましい。また、突出部2と一体化されている第二耐火部172は、第一実施形態における上端部耐火部113、基部耐火部123と同様に、直接溶湯6と接触するために、耐火煉瓦、耐火断熱煉瓦など耐火性、耐熱性や耐腐食性などに優れたシリカ、ジルコニア、粘土、アルミナなどの無機化合物を主体とする材料であることが好ましい。
【0039】
〔第三実施形態〕
図8図9に示すように、本発明の溶湯用取鍋の一実施形態は、第一実施形態のように取鍋本体1が分離せず一体となっており、内部に溶湯を収容する取鍋本体1と、取鍋本体1の上方に向かって開口している開口部13を覆う図示しない蓋体を備えており、取鍋本体1を形成する第三立設壁18の上端側に、第三立設壁18の内周に突出するように突出部2が設けられている。本実施形態における蓋体は、第一実施形態における蓋体3と同様である。
【0040】
突出部2は、第三立設壁18の上端側の内周に沿って断続的に複数の切欠22を有する略リング状で上下2段に突出しており、それら切欠22は上段と下段では、互い違いになっていることから、おおよその方向から溶湯6が液面より跳ね上がっても鍋本体1と蓋体の間に侵入しにくくなっているので、第三立設壁18に沿って跳ね上がって飛散する溶湯6が外部に漏れ出ることを大幅に低減することができる。本実施形態では、第一実施形態と異なり第三立設壁18の側面から溶湯6を排出することができず、開口13より溶湯6を排出する必要があるために、取鍋本体1を傾けて複数の切欠22から溶湯6を排出することができる。突出部2は、第三立設壁18の上端側の内周の80~95%に設けられていることが好ましい。突出部2がこの範囲で設けられていると、第三立設壁18に沿って跳ね上がって飛散する溶湯6が外部に漏洩することを防止するとともに、金属マグネシウムなどの金属ワイヤーを溶湯6に挿入した後に溶湯6を開口13側から複数の切欠22を介して排出することができる。また、第一実施形態と同様に、突出部2において、傾斜面21を有している。また、本実施形態では、突出部2は、断続的に複数の切欠22を有する略リング状で上下2段に突出しているが、他の実施形態において、上下3段以上などの複数段とすることもでき、そのとき少なくとも一の段の複数の切欠は他の段の切欠と重なっていないことが好ましい。
【0041】
第三立設壁18は、外側に位置し板状の第三外装部181と、内側に位置し飛散した溶湯6と当接する第三耐火部182を有している。第三外装部181は、第一実施形態における上端部外装部112、基部外装部122と同様に、金属などの強度と耐火性を備えた材料であることが好ましい。また、突出部2と一体化されている第三耐火部182は、第一実施形態における上端部耐火部113、基部耐火部123と同様に、直接溶湯6と接触するために、耐火煉瓦、耐火断熱煉瓦など耐火性、耐熱性や耐腐食性などに優れたシリカ、ジルコニア、粘土、アルミナなどの無機化合物を主体とする材料であることが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
1・・・取鍋本体
11・・・上端部
111・・・上端部立設壁
112・・・上端部外装部
113・・・上端部耐火部
12・・・取鍋基部
121・・・基部立設壁
122・・・基部外装部
123・・・基部耐火部
124・・・連通孔
125・・・排出口
13・・・開口部
14・・・上端
15・・・上端部固定用フランジ
16・・・取鍋基部固定用フランジ
17・・・第二立設壁
171・・・第二外装部
172・・・第二耐火部
18・・・第三立設壁
181・・・第三外装部
182・・・第三耐火部
2・・・突出部
21・・・傾斜面
22・・・切欠
3・・・蓋体
31・・・蓋体基部
32・・・鍔部
33・・・溝部
34・・・蓋体外装部
35・・・蓋体耐火部
36・・・挿入口
37・・・排気口
4・・・シール部
5・・・固定具
6・・・溶湯
S・・・空間
G・・・ガスケット
図1
図2
図3
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図9