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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】蒸気滅菌器
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/07 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
A61L2/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020009168
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021115155
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】593129342
【氏名又は名称】株式会社タカゾノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 大佑
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011858(JP,A)
【文献】特開2012-040184(JP,A)
【文献】特開2003-339828(JP,A)
【文献】特開2005-034177(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0856057(KR,B1)
【文献】特開2016-182379(JP,A)
【文献】特開昭48-082693(JP,A)
【文献】特開平09-038177(JP,A)
【文献】特開2018-011859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/07
A61L 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被滅菌物を収納可能なチャンバと、
前記チャンバ内に供給された液体を加熱するヒータとを備え、
前記ヒータの加熱により発生した前記液体の蒸気で前記被滅菌物を滅菌する、蒸気滅菌器において、
前記チャンバ内に供給される前記液体を貯留する貯液槽と、
前記貯液槽から前記チャンバへ前記液体を供給するための給液経路とを備え、
前記給液経路は、満液時における前記貯液槽内の液面よりも上方に立ち上がる立上り部を有し、前記給液経路が大気に開放された大気開放部を有し、前記大気開放部は、一端が前記給液経路に連通し、他端が前記給液経路を大気に開放する、蒸気滅菌器。
【請求項2】
前記大気開放部は、前記立上り部、または前記立上り部よりも前記チャンバ側の前記給液経路に設けられる、請求項1に記載の蒸気滅菌器。
【請求項3】
前記大気開放部は、前記貯液槽内の気相部に連通する、請求項1または請求項2に記載の蒸気滅菌器。
【請求項4】
前記給液経路は、前記被滅菌物の滅菌処理のために必要な量の前記液体が前記チャンバ内に供給されたときの前記チャンバ内の液面の位置において、前記チャンバ内に開口する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蒸気滅菌器。
【請求項5】
前記給液経路内の前記液体の流れを検出するセンサを備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蒸気滅菌器。
【請求項6】
前記センサは、前記貯液槽から前記チャンバへ向かう前記液体の流れと、前記チャンバから前記貯液槽へ向かう前記液体の流れとを検出する、請求項5に記載の蒸気滅菌器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高温高圧の蒸気により細菌類などの微生物を死滅させる蒸気滅菌器に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気滅菌器は、医療用機材などの被滅菌物を収納するチャンバ内を密閉状態に保持し、チャンバ内に高圧蒸気を充満させることによって、被滅菌物の滅菌処理を行なう。従来の蒸気滅菌器は、たとえば、特開2016-182379号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-182379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献には、被滅菌物を収納するチャンバーと貯水槽との間に給水電磁弁が配管を介して接続され、給水電磁弁により、貯水槽からチャンバーへの給水を制御可能に構成されている、と記載されている。
【0005】
貯水槽からチャンバへ給水する給水経路に給水電磁弁を設ける場合、給水電磁弁が故障すると、貯水槽内の水が、滅菌処理後の負圧となったチャンバ内に引き込まれる可能性がある。この状態でチャンバの扉を開放すると、チャンバ内に引き込まれた水が扉の開口から溢れ出る可能性がある。
【0006】
本開示では、給液電磁弁が故障した場合でも貯液槽内の液体がチャンバに流入することを抑制できる、蒸気滅菌器が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従うと、被滅菌物を収納可能なチャンバと、チャンバ内に供給された液体を加熱するヒータとを備え、ヒータの加熱により発生した液体の蒸気で被滅菌物を滅菌する、蒸気滅菌器が提案される。蒸気滅菌器は、チャンバ内に供給される液体を貯留する貯液槽と、貯液槽からチャンバへ液体を供給するための給液経路とを備えている。給液経路は、満液時における貯液槽内の液面よりも上方に立ち上がる立上り部を有している。給液経路は、給液経路が大気に開放された大気開放部を有している。
【0008】
上記の蒸気滅菌器において、大気開放部は、立上り部に設けられてもよく、または立上り部よりもチャンバ側の給液経路に設けられてもよい。
【0009】
上記の蒸気滅菌器において、大気開放部は、貯液槽内の気相部に連通してもよい。
【0010】
上記の蒸気滅菌器において、給液経路は、被滅菌物の滅菌処理のために必要な量の液体がチャンバ内に供給されたときのチャンバ内の液面の位置において、チャンバ内に開口してもよい。
【0011】
上記の蒸気滅菌器は、給液経路内の液体の流れを検出するセンサを備えていてもよい。
【0012】
上記の蒸気滅菌器において、センサは、貯液槽からチャンバへ向かう液体の流れと、チャンバから貯液槽へ向かう液体の流れとを検出してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示に従った蒸気滅菌器によれば、給液電磁弁が故障した場合でも貯液槽内の液体がチャンバに流入することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の蒸気滅菌器の概略構成を示す系統図である。
図2】蒸気滅菌器の電気的構成を示すブロック図である。
図3】チャンバへ液体を供給する給液処理の概略を示すフローチャートである。
図4】貯液槽からチャンバへ給液中の蒸気滅菌器の各機器の動作を示す系統図である。
図5】チャンバからオーバーフローした液体が貯液槽へ流れるときの蒸気滅菌器の各機器の動作を示す系統図である。
図6】変形例における蒸気滅菌器の概略構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0016】
[構成]
図1は、実施形態の蒸気滅菌器1の概略構成を示す系統図である。図1に示されるように、実施形態の蒸気滅菌器1は、ガーゼ、メスなどの医療器具に代表される被滅菌物100を収納可能なチャンバ10を備えている。チャンバ10は、開閉可能な開閉蓋11を含んでいる。開閉蓋11は、チャンバ10の側部に装着されている。開閉蓋11を開放することにより、チャンバ10内への被滅菌物100の搬出入が可能となる。開閉蓋11を閉じることにより、チャンバ10の内部は密閉状態に保持される。
【0017】
チャンバ10の内底部には、滅菌ヒータ12が設置されている。滅菌ヒータ12は、チャンバ10の底面に沿って延びるように配置されている。滅菌ヒータ12は、チャンバ10内に供給された水を加熱して、蒸気を発生させる。蒸気滅菌器1は、滅菌ヒータ12の加熱により発生した水蒸気で、被滅菌物100を滅菌する。
【0018】
水は、滅菌処理のためにチャンバ10内に供給される液体の一例である。水は、浄水(水道水)、井戸水、蒸留水または精製水であってもよい。チャンバ10内に供給される液体は、水に限られず、生理食塩水などの水溶液であってもよい。
【0019】
滅菌ヒータ12の上方には、被滅菌物100を載置可能な載置台13が、チャンバ10の底面に対して略平行に設けられている。
【0020】
チャンバ10の天井面に、乾燥ヒータ14が取り付けられている。チャンバ10内で被滅菌物100が滅菌処理された後に、チャンバ10の内部を乾燥させる乾燥処理が行なわれる。乾燥処理の際に、乾燥ヒータ14を起動してチャンバ10内の空気を加熱することで、チャンバ10内の湿度を低下させて効率的に乾燥処理を行なうことが可能とされている。
【0021】
チャンバ10の、開閉蓋11と対向する内側面には、チャンバ10内の温度を検出する温度センサ16が取り付けられている。温度センサ16は、チャンバ10内の気体の温度を計測する。
【0022】
蒸気滅菌器1は、貯液槽20を備えている。貯液槽20は、チャンバ10内に供給される水を貯留する。チャンバ10から排出される水は、貯液槽20へと戻る。貯液槽20は、チャンバ10から排出される水を貯留する。貯液槽20の内部空間には、水が存在する液相部21と、空気が存在する気相部22とが含まれている。貯液槽20内は密閉されておらず、気相部22は大気圧に保たれている。
【0023】
チャンバ10と貯液槽20とは、給液経路30と、排蒸経路40と、排気経路70とによって連通されている。給液経路30は、貯液槽20からチャンバ10へ水を供給するための経路である。排蒸経路40は、チャンバ10から貯液槽20へ水および水蒸気を排出するための経路である。排気経路70は、チャンバ10から貯液槽20へ、水蒸気、空気などの気体を排出するための経路である。
【0024】
給液経路30の一端は、貯液槽20の底部の取水口に連結され、貯液槽20内の液相部21に連通している。給液経路30の他端は、チャンバ10内のオーバーフロー管52に連結され、チャンバ10の内部空間に連通している。給液経路30は、第1給液管31と、第2給液管34とを含んでいる。給液経路30はまた、給液ポンプ32と、給液電磁弁33と、液流れセンサ54とを含んでいる。第1給液管31は、貯液槽20と液流れセンサ54とを接続している。第2給液管34は、液流れセンサ54とオーバーフロー管52とを接続している。
【0025】
給液ポンプ32は、給液経路30の上流側(貯液槽20に近い側)をなす第1給液管31に設けられている。給液ポンプ32は、貯液槽20からチャンバ10へ向かって流れる方向に水を移送して、チャンバ10内へ水を供給する。
【0026】
給液電磁弁33は、給液経路30の下流側(チャンバ10に近い側)をなす第2給液管34に設けられている。給液電磁弁33は、給液ポンプ32に対して給液経路30の下流側に配置されており、給液経路30を開閉する。給液電磁弁33は、貯液槽20からチャンバ10へ水が流れ得る開状態と、貯液槽20からチャンバ10への水の流れを禁止する閉状態と、を切り換え可能に設けられている。
【0027】
図1中に二点鎖線で示される液面レベルLLは、満液時における貯液槽20内の液面の高さを示す。液面レベルLLは、後述する排気経路70が貯液槽20に接続される出口、すなわち安全弁76よりも、下方に位置するように設定される。実施形態における満液とは、貯液槽20内に貯留することを許容する水の最大量が給水された状態をいう。満液時にも、貯液槽20内には、気相部22が存在する。したがって満液とは、貯液槽20の内部空間の全部に水が満たされた状態をいうものではない。図1に示されるように液面レベルLLは、貯液槽20の天井面よりも下方に位置している。
【0028】
給液経路30は、液面レベルLLよりも上方に立ち上がる立上り部38を有している。図1に示される二点鎖線に囲まれる部材が、立上り部38を構成している。図1に示される例では、液流れセンサ54と、第1給液管31の液流れセンサ54との接続部分およびその近傍と、第2給液管34の液流れセンサ54との接続部分およびその近傍と、が立上り部38に含まれている。
【0029】
液流れセンサ54は、必ずしも立上り部38に含まれなくてもよい。たとえば液流れセンサ54は、図1に示される配置よりも貯液槽20に近く配置され、液面レベルLLよりも下方に配置されてもよい。この場合、第2給液管34の一部が立上り部38を構成することとなり、第1給液管31は立上り部38を構成しない。またたとえば、液流れセンサ54は、図1に示される配置よりもチャンバ10に近く配置され、液面レベルLLよりも下方に配置されてもよい。この場合、第1給液管31の一部が立上り部38を構成することとなり、第2給液管34は立上り部38を構成しない。
【0030】
第1給液管31に、大気開放管35が接続されている。大気開放管35の一端は、第1給液管31に連通している。大気開放管35の他端は、貯液槽20内の気相部22に連通している。大気開放管35の他端は、気相部22内の常圧の大気に開放されている。給液経路30、より詳細には第1給液管31は、大気開放管35を介して、大気に開放されている。大気開放管35は、実施形態における大気開放部に相当する。大気開放管35は、第1給液管31の、立上り部38に含まれる部分に連結されている。図1に示される例では、大気開放部は、立上り部38に設けられている。
【0031】
大気開放管35の一端は、液流れセンサ54に連通してもよい。大気開放管35の他端は、貯液槽20に連通せずに開口していてもよい。
【0032】
オーバーフロー管52は、管状の部材である。オーバーフロー管52は、チャンバ10内に配置されている。オーバーフロー管52は、第2給液管34に接続されている。オーバーフロー管52は、チャンバ10の底面から上方に立ち上がっている。給液経路30は、オーバーフロー管52を介して、被滅菌物100の滅菌処理のために必要な量の水がチャンバ10内に供給されたときのチャンバ10内の液面の位置において、チャンバ10内に開口している。
【0033】
オーバーフロー管52は、チャンバ10の底面から立ち上がる構成に限られず、チャンバ10の側面に設けられてもよい。チャンバ10内にオーバーフロー管52が設けられなくてもよく、給液経路30(第2給液管34)がチャンバ10の側面に接続されてチャンバ10の側面に開口する構成としてもよい。給液経路30は、被滅菌物100の滅菌処理のために必要な量の水がチャンバ10内に供給されたときのチャンバ10内の液面の位置においてチャンバ10内に開口するのであれば、任意の構成を有していてもよい。
【0034】
液流れセンサ54は、給液経路30内の水の流れを検出する。液流れセンサ54は、たとえば、液流れセンサ54を通過する水の流れによって移動するフロートユニットを有する仕様のセンサであってもよい。または液流れセンサ54は、電極式レベルセンサ、静電容量センサ、光センサなどであってもよい。
【0035】
排蒸経路40は、排蒸管41と、排蒸電磁弁43とを含んでいる。排蒸管41は、チャンバ10から排出される水および水蒸気が流れるための経路である。排蒸管41の一端は、チャンバ10の底部に連結されている。排蒸管41の他端は、貯液槽20内の気相部22に連結されている。
【0036】
排蒸管41には、排蒸電磁弁43が設けられている。排蒸電磁弁43は、排蒸経路40を開閉する。排蒸電磁弁43は、チャンバ10から貯液槽20へ向かって流体が流れ得る開状態と、チャンバ10から貯液槽20への流体の流れを禁止する閉状態と、を切り換え可能に設けられている。
【0037】
排気経路70は、排気管71と、排気電磁弁74と、安全弁76を含んでいる。排気管71の一端は、チャンバ10に接続されている。排気管71の他端は、安全弁76に接続されている。排気管71には、排気電磁弁74が設けられている。排気電磁弁74は、排気経路70を開閉する。排気電磁弁74は、チャンバ10から貯液槽20へ向かって流体が流れ得る開状態と、チャンバ10から貯液槽20への流体の流れを禁止する閉状態と、を切り換え可能に設けられている。
【0038】
安全弁76は、貯液槽20の気相部22に設けられている。チャンバ10内の圧力が過剰に上昇すると、安全弁76が開き、チャンバ10内の気体が排気管71および安全弁76を順に経由して、貯液槽20内に排出される。これによりチャンバ10内の圧力が低下し、チャンバ10内の圧力が適切な範囲に維持される。
【0039】
蒸気滅菌器1はまた、チャンバ10内に空気を送り込む給気経路60を備えている。給気経路60は、一端がチャンバ10に連結された給気管61と、給気管61の他端に取り付けられたエアフィルタ62と、給気管61の途中に設けられたエアポンプ63および給気電磁弁64とを含んでいる。エアフィルタ62は、給気管61への空気の取り込み口として機能する。エアフィルタ62を経由して取り込まれた空気は、給気管61の内部を流通する。エアポンプ63は、エアフィルタ62からチャンバ10へ向かう空気の流れを発生して、チャンバ10内に空気を供給する。
【0040】
給気電磁弁64は、エアポンプ63に対し下流側(チャンバ10に近い側)の、給気管61の途中に設けられている。給気電磁弁64は、給気経路60を開閉する。給気電磁弁64は、給気経路60を経由してチャンバ10内へ空気が流れ得る開状態と、エアポンプ63からチャンバ10への空気の流れを禁止する閉状態と、を切り換え可能に設けられている。
【0041】
図2は、蒸気滅菌器1の電気的構成を示すブロック図である。図2に示されるように、蒸気滅菌器1は、蒸気滅菌器1の動作を制御する制御部80を備えている。制御部80は、温度センサ16および液流れセンサ54に電気的に接続されている。制御部80は、温度センサ16からチャンバ10の内部の温度に係る検出値の入力を受ける。制御部80は、液流れセンサ54から、給液経路30内の水の流れの有無に係る検出値の入力を受ける。
【0042】
制御部80はまた、入力部81を有している。蒸気滅菌器1を操作する操作者は、滅菌温度、滅菌時間および乾燥時間などの設定値を、入力部81から制御部80に入力する。制御部80はさらに、所定時間を計測するタイマ82を有している。タイマ82は、被滅菌物100の滅菌時間および乾燥時間を制御するために使用され、また、チャンバ10内への給水のタイミングの制御のために使用される。
【0043】
制御部80は、蒸気滅菌器1の各制御ステップに対応して、滅菌ヒータ12、乾燥ヒータ14、排気電磁弁74、給液電磁弁33、給気電磁弁64、排蒸電磁弁43、給液ポンプ32およびエアポンプ63などの、蒸気滅菌器1に含まれる各機器に制御信号を出力する。制御部80からの制御信号を受けて各機器が適切に動作することにより、蒸気滅菌器1による被滅菌物100の滅菌処理が確実に行なわれる。
【0044】
本実施形態において、給液電磁弁33、排蒸電磁弁43、給気電磁弁64および排気電磁弁74はいずれも、オフ(非通電)状態で閉状態を保ち、オン(通電)状態で開く、常時閉仕様の電磁弁である。
【0045】
[動作]
以上の構成を備えている蒸気滅菌器1の動作について、以下に説明する。図3は、チャンバ10へ液体を供給する給液処理の概略を示すフローチャートである。図3に示されるフローチャートに従って、蒸気滅菌器1による被滅菌物100の滅菌処理のための各工程のうち、給水工程における蒸気滅菌器1の動作について、詳細に説明する。
【0046】
蒸気滅菌器1を使用する操作者は、給水を開始する以前に、蒸気滅菌器1の電源をオンにし、蒸気滅菌器1を起動する。操作者は、チャンバ10の開閉蓋11を開放して、被滅菌物100を載置台13に載せ置き、被滅菌物100をチャンバ10内に収納する。操作者は、蒸気滅菌器1の電源をオンにするよりも前に、被滅菌物100をチャンバ10内に収納してもよい。
【0047】
蒸気滅菌器1を電源オフから電源オンに切り替えることにより、排気電磁弁74がオンになり、開状態となる(ステップS1)。排気電磁弁74を開くことにより、チャンバ10の内部空間と貯液槽20内の気相部22とが、排気管71を介して、互いに連通する。これにより、チャンバ10の内部空間が、貯液槽20と同じ大気圧に調整される。チャンバ10内の空気圧と外気圧とが一定にされることにより、チャンバ10の開閉蓋11を容易に開閉できるようになる。
【0048】
給水工程においては、給液電磁弁33がオフからオンに切り換えられて開状態とされ、給液ポンプ32が起動される(ステップS2)。給液ポンプ32による水の移送が開始されて、貯液槽20からチャンバ10へ水が供給される。図4は、貯液槽20からチャンバ10へ給液中の蒸気滅菌器1の各機器の動作を示す系統図である。
【0049】
貯液槽20から給液経路30へ流入して、給液経路30を経由してチャンバ10へ向かって流れる水が、液流れセンサ54を通過する。液流れセンサ54は、貯液槽20からチャンバ10へ向かう水の流れを検出して、オフからオンに切り換わる。
【0050】
次に、液流れセンサ54がオンである時間が所定時間継続したか否かが判断される(ステップS3)。この所定時間は、チャンバ10内に滅菌処理に必要な量以上の水を供給できる想定時間として、定められる。所定時間が経過するまでは、ステップS3においてNOと判断され、ステップS3の判断が繰り返される。この間、貯液槽20からチャンバ10への水の供給が続けられる。
【0051】
ステップS3において、所定時間が経過し、液流れセンサ54がオンである時間が所定時間継続したと判断されれば(ステップS3においてYES)、給液ポンプ32が停止される(ステップS4)。これにより、給液ポンプ32による水の移送が停止される。
【0052】
次に、液流れセンサ54がオフとなったか否かが判断される(ステップS5)。液流れセンサ54がオンである間は、貯液槽20からチャンバ10へ向かって水が流れていることになる。液流れセンサ54がオフになるまで、ステップS5の判断が繰り返され、その間、蒸気滅菌器1は待機することになる。
【0053】
液流れセンサ54がオフになったと判断されれば(ステップS5においてYES)、貯液槽20からチャンバ10へ向かう水の流れが停止したということになる。そこで次に、排気電磁弁74がオンからオフに切り換わり閉状態となる(ステップS6)。
【0054】
オーバーフロー管52は、滅菌処理に必要な量の水がチャンバ10内に供給されたときのチャンバ10内の液面の位置において、チャンバ10内に開口している。ステップS3における所定時間のチャンバ10への水の供給によって、チャンバ10内には必要な量以上の水が貯留されている。チャンバ10へ向かう水の流れが停止した時点で、チャンバ10内の液面は、オーバーフロー管52の開口よりも上方にあり、過剰な水がチャンバ10内に貯留されている状態である。チャンバ10内の加熱を開始する前に、この過剰な水をチャンバ10から排出する必要がある。
【0055】
そこで次に、チャンバ10への給気が開始される。給気電磁弁64がオフからオンに切り換わり開状態となる。エアポンプ63が起動される(ステップS7)。チャンバ10へ空気を供給することによって、チャンバ10内の過剰な水がチャンバ10から排出(オーバーフロー)される。
【0056】
図5は、チャンバ10からオーバーフローした液体が貯液槽20へ流れるときの蒸気滅菌器1の各機器の動作を示す系統図である。図5に示されるように、チャンバ10からオーバーフローした水は、オーバーフロー管52から給液経路30へ流入し、図4に示されるチャンバ10への給水時とは逆方向に給液経路30を流れ、大気開放管35を経由して、貯液槽20へ戻される。
【0057】
チャンバ10から給液経路30へ流入して、給液経路30を経由して貯液槽20へ向かって流れる水が、液流れセンサ54を通過する。液流れセンサ54は、チャンバ10から貯液槽20へ向かう水の流れを検出して、オフからオンに切り換わる。
【0058】
チャンバ10への給気を開始してから所定時間後、液流れセンサ54がオンであるか否かが判断される(ステップS8)。チャンバ10への給気を行なっても液流れセンサ54がオフのままである場合(ステップS8においてNO)、チャンバ10内には十分な量の水が供給されていないと判断されて、給気電磁弁64がオンからオフに切り換わり閉状態となる。エアポンプ63が停止される(ステップS10)。そして、ステップS1へ戻り、チャンバ10への給水が再度行なわれる。
【0059】
チャンバ10から排出された水の流れを液流れセンサ54が検出して液流れセンサ54がオンとなった場合(ステップS8においてYES)、液流れセンサ54がオフとなったか否かが判断される(ステップS9)。液流れセンサ54がオンである間は、チャンバ10から貯液槽20へ向かって水が流れていることになる。液流れセンサ54がオフになるまで、ステップS9の判断が繰り返される。チャンバ10からの水の排出は、チャンバ10内の水の量が滅菌処理に必要な量となるまで、すなわちチャンバ10内の液面の位置がオーバーフロー管52の開口の位置にまで下がるまで、継続される。
【0060】
液流れセンサ54がオフになったと判断されれば(ステップS9においてYES)、チャンバ10から貯液槽20へ向かう水の流れが停止したということになる。給気電磁弁64がオンからオフに切り換えられて閉状態とされ、エアポンプ63が停止される(ステップS11)。これにより、チャンバ10への給気が停止される。給液電磁弁33がオンからオフに切り換えられて閉状態とされる(ステップS12)。このような各ステップを経て、チャンバ10内に滅菌処理に必要な量の水を供給する給水工程が終了する。
【0061】
その後、滅菌処理のためにチャンバ10内を加熱する加熱工程が開始される。排気電磁弁74がオフからオンに切り換えられて開状態とされる。この状態で、滅菌ヒータ12が起動されて、チャンバ10内の水の加熱が開始される。チャンバ10内の空気は、発生した水蒸気によってチャンバ10から押し出され、排気経路70を経由して貯液槽20へ排出される。チャンバ10内に所定の温度および圧力の水蒸気が充満すると、排気電磁弁74が閉じられてチャンバ10の内部空間が密閉される。チャンバ10内が所定の時間高温高圧に維持されることにより、被滅菌物100の滅菌処理が行なわれる。
【0062】
チャンバ10内で被滅菌物100が滅菌処理された後に、チャンバ10内に残留する水蒸気は、排蒸経路40を経由して、チャンバ10外へ排出される。次に、チャンバ10の内部を乾燥させる乾燥処理が行われる。この後、蒸気滅菌器1を使用する操作者は、開閉蓋11を開けて、滅菌処理後の被滅菌物100をチャンバ10から取り出すことができる。
【0063】
[変形例]
図6は、変形例における蒸気滅菌器1の概略構成を示す系統図である。これまでの実施形態の説明においては、大気開放管35が第1給液管31に接続され、大気開放管35が立上り部38に設けられる例について説明した。大気開放管35は、必ずしも立上り部38に設けられていなくてもよい。たとえば図6に示されるように、大気開放管35は、第2給液管34に接続されていてもよい。給液経路30が大気に開放された大気開放部は、立上り部38よりもチャンバ10側の給液経路30に設けられてもよい。
【0064】
[作用および効果]
上述した説明と一部重複する部分もあるが、実施形態の蒸気滅菌器1の特徴的な構成および作用効果についてまとめて説明すると、以下の通りである。なお、実施形態の構成に参照番号を付すが、これは一例である。
【0065】
実施形態の蒸気滅菌器1は、図1,6に示されるように、チャンバ10内に供給される液体を貯留する貯液槽20と、貯液槽20からチャンバ10へ液体を供給するための給液経路30とを備えている。給液経路30は、満液時における貯液槽20内の液面の高さを示す液面レベルLLよりも上方に立ち上がる立上り部38を有している。給液経路30は、給液経路30が大気に開放された大気開放管35を有している。
【0066】
給液経路30が立上り部38と大気開放管35との両方を有していることで、給液経路30に設けられている給液電磁弁33が故障した場合でも、貯液槽20内の水が立上り部38を越えて流れることが、抑制されている。滅菌処理後にチャンバ10内が負圧となった場合にも、貯液槽20内の水が立上り部38を越えてチャンバ10へ流入することが抑制されている。したがって、チャンバ10の開閉蓋11を開放したときに水が溢れる事態を回避することができる。
【0067】
図1に示されるように、大気開放管35は、給液経路30の立上り部38に設けられてもよい。または図6に示されるように、大気開放管35は、立上り部38よりもチャンバ10側の給液経路30に設けられてもよい。貯液槽20内の水のチャンバ10への流入を抑制するためには、立上り部38よりも貯液槽20側に大気開放管35を設けてもよいが、貯液槽20内の水面が大気開放管35よりも高い位置にある場合、貯液槽20から大気開放管35の位置まで水が流れ、大気開放管35から流出する水の流れが発生することになる。大気開放管35を立上り部38または立上り部38よりもチャンバ10側に設けることで、このような大気開放管35からの水の流出の発生を回避することができる。
【0068】
図1,6に示されるように、大気開放管35は、貯液槽20内の気相部22に連通している。このようにすれば、大気開放管35から流出する水を貯液槽20に回収することができるので、流出する水を受けるための容器などを必要とせず、蒸気滅菌器1の構成を簡略化することができる。
【0069】
図1,6に示されるように、給液経路30は、チャンバ10内のオーバーフロー管52に連通している。オーバーフロー管52は、被滅菌物100の滅菌処理のために必要な量の水がチャンバ10内に供給されたときのチャンバ10内の液面の位置において、チャンバ10内に開口している。給液経路30に、オーバーフロー時にチャンバ10から水が排出されるオーバーフロー経路としての機能も持たせることで、給液経路30と別にオーバーフロー経路を設ける必要がない。蒸気滅菌器1の構成を簡略化できるので、蒸気滅菌器1のコスト低減、および、省スペース化による蒸気滅菌器1の小型化を実現することができる。
【0070】
図1,6に示されるように、蒸気滅菌器1は、液流れセンサ54を備えている。液流れセンサ54は、給液経路30内の液体の流れを検出する。貯液槽20からチャンバ10へ水を供給するときに給液経路30内の水の流れが発生しているか否かを、液流れセンサ54の検出結果から判断できる。給水時に液流れセンサ54がオフのままであれば、給液経路30内に水の流れが発生していないと判断できるので、貯液槽20内の水の貯留量が不十分であるとするエラーを迅速に出力して、作業者に水の補給を促すことができる。貯液槽20内に水が無い状態で蒸気滅菌器1の動作が停止したままの時間を短縮でき、滅菌処理に要する時間を短縮することができる。
【0071】
図4に示されるように、液流れセンサ54は、貯液槽20からチャンバ10へ向かう水の流れを検出する。給水時に、貯液槽20内の貯水量が不足していないかの判別に、液流れセンサ54の検出結果を用いることができる。図5に示されるように、液流れセンサ54は、チャンバ10から貯液槽20へ向かう水の流れを検出する。オーバーフロー時に、チャンバ10内の水量が滅菌処理に必要な所定量となったか否かの判別に、液流れセンサ54の検出結果を用いることができる。給水時に水の流れを検出するセンサと、オーバーフロー時に水の流れを検出するセンサとを、1つの液流れセンサ54で兼用できるので、蒸気滅菌器1の構成を簡略化することができる。
【0072】
以上のように本発明の実施形態について説明を行なったが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 蒸気滅菌器、10 チャンバ、11 開閉蓋、12 滅菌ヒータ、13 載置台、14 乾燥ヒータ、16 温度センサ、20 貯液槽、21 液相部、22 気相部、30 給液経路、31 第1給液管、32 給液ポンプ、33 給液電磁弁、34 第2給液管、35 大気開放管、38 立上り部、40 排蒸経路、41 排蒸管、43 排蒸電磁弁、52 オーバーフロー管、54 液流れセンサ、60 給気経路、61 給気管、62 エアフィルタ、63 エアポンプ、64 給気電磁弁、70 排気経路、71 排気管、74 排気電磁弁、76 安全弁、80 制御部、81 入力部、82 タイマ、100 被滅菌物、LL 液面レベル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6