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特許7362134イソチオシアネート富化モリンガおよびそれを製造する方法
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  • 特許-イソチオシアネート富化モリンガおよびそれを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】イソチオシアネート富化モリンガおよびそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20231010BHJP
【FI】
A23L33/105
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021013259
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116861
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】中村 唱乃
(72)【発明者】
【氏名】耿 紅敏
(72)【発明者】
【氏名】久留宮 綾人
(72)【発明者】
【氏名】古賀 啓太
(72)【発明者】
【氏名】坂下 真耶
(72)【発明者】
【氏名】山津 敦史
(72)【発明者】
【氏名】金 武祚
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103583723(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1946892(KR,B1)
【文献】特表2019-502731(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106699408(CN,A)
【文献】特開2019-004709(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073473(WO,A1)
【文献】特開2008-092863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリンガ抽出物および/または粉末を含むイソチオシアネート富化モリンガ組成物であって、前記モリンガ抽出物および/または粉末が乾式で熱風殺菌(湿式によるものを除く)されており、これにより湿式での殺菌と比較して、ミロシナーゼ活性が維持される、モリンガ組成物。
【請求項2】
さらに、ミロシナーゼ含有植物粉末を含む、請求項1に記載のモリンガ組成物。
【請求項3】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、ミロシナーゼ活性が向上されている、請求項2に記載のモリンガ組成物。
【請求項4】
前記ミロシナーゼ含有植物がアブラナ科植物である、請求項2または3に記載のモリンガ組成物。
【請求項5】
前記ミロシナーゼ含有植物がワサビである、請求項2~4のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
【請求項6】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末が、モリンガ抽出物および/または粉末に対して約1:約0.01以上の割合で混合される、請求項2~5のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
【請求項7】
モリンガ粉末1gあたり少なくとも約0.4mgのイソチオシアネートを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
【請求項8】
モリンガ抽出物1gあたり少なくとも約1.0mgのイソチオシアネートを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
【請求項9】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、前記ミロシナーゼ活性が、モリンガ粉末1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍に増加させるように向上されている、請求項3に記載のモリンガ組成物。
【請求項10】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、前記ミロシナーゼ活性が、モリンガ抽出物1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍に増加させるように向上されている、請求項3に記載のモリンガ組成物。
【請求項11】
イソチオシアネート富化モリンガを製造する方法であって、
モリンガ抽出物および/または粉末にミロシナーゼ活性向上または維持処理を行う工程を含み、前記ミロシナーゼ活性向上または維持処理が乾式での熱風殺菌(湿式によるものを除く)であり、これにより湿式での殺菌と比較して、ミロシナーゼ活性が維持される、方法。
【請求項12】
前記ミロシナーゼ活性向上または維持処理が、さらにミロシナーゼ含有植物粉末の混合を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を混合しないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、前記イソチオシアネート富化モリンガのミロシナーゼ活性が向上されている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ミロシナーゼ含有植物がアブラナ科植物である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記ミロシナーゼ含有植物がワサビである、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末が、モリンガ抽出物および/または粉末に対して約1:約0.01以上の割合で混合される、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記イソチオシアネート富化モリンガが、モリンガ粉末1gあたり少なくとも約0.4mgのイソチオシアネートを含む、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記イソチオシアネート富化モリンガが、モリンガ抽出物1gあたり少なくとも約1.0mgのイソチオシアネートを含む、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を混合しないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、前記イソチオシアネート富化モリンガの前記ミロシナーゼ活性が、モリンガ粉末1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍に増加させるように向上されている、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を混合しないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、前記イソチオシアネート富化モリンガの前記ミロシナーゼ活性が、モリンガ抽出物1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍に増加させるように向上されている、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリンガ抽出物および/または粉末を含む組成物、特にイソチオシアネートが富化されたモリンガ組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モリンガは、ワサビノキ科の樹木であるワサビノキの通称であり、インド北西部を原産地とする薬用植物である。近年では我が国においても、その高い栄養価や幅広い栄養素を豊富に含んでいることからスーパーフードとしても注目されている。またモリンガはその高い栄養価だけではなく、抗酸化効果、抗炎症効果、降圧作用、鎮痙作用、コレステロールの低減効果などの生理機能を備えるともいわれており、世界的にも病気予防や健康維持に役立つとして、健康食品としての利用が推奨されている。
【0003】
特にモリンガ由来のイソチオシアネート類(ITCs)はアブラナ科由来のイソチオシアネート類と比べて揮発しにくく化学的に安定であり、マウス実験において肝臓における脂肪蓄積を抑制し、抗肥満効果があることが本出願人によって見出されている(日本農芸化学会 2019年度大会)。ITCsは、モリンガに含まれるグルコシノレートが粉砕や溶媒抽出の過程において細胞が破壊されることによって、内因性ミロシナーゼと反応して酵素分解されることによって産生される。しかし、市場に流通するモリンガ市販品は乾燥や滅菌工程を経る必要があるため、ミロシナーゼが失活し、産生されるITCs含有量が減少してしまう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、モリンガ抽出物および/または粉末にミロシナーゼの活性を向上させ、またはその活性を維持させる処理を行うことによって、イソチオシアネート富化モリンガ組成物およびそれを製造する方法を提供する。
【0005】
したがって、本発明は以下を提供する。
(項目1)
モリンガ抽出物および/または粉末を含むイソチオシアネート富化モリンガ組成物。
(項目2)
さらに、ミロシナーゼ含有植物粉末を含む、上記項目に記載のモリンガ組成物。
(項目3)
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、ミロシナーゼ活性が向上されている、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目4)
前記ミロシナーゼ含有植物がアブラナ科植物である、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目5)
前記ミロシナーゼ含有植物がワサビである、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目6)
前記ミロシナーゼ含有植物粉末が、モリンガ抽出物および/または粉末に対して約1:約0.01以上の割合で混合される、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目7)
モリンガ葉1gあたり少なくとも約0.4mgのイソチオシアネートを含む、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目8)
モリンガ抽出物1gあたり少なくとも約1.0mgのイソチオシアネートを含む、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目9)
前記モリンガ抽出物および/または粉末がUV殺菌または熱風殺菌されている、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目10)
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、前記ミロシナーゼ活性が、モリンガ葉1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍に増加させるように向上されている、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目11)
前記ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、前記ミロシナーゼ活性が、モリンガ抽出物1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍に増加させるように向上されている、上記項目のいずれか一項に記載のモリンガ組成物。
(項目12)
モリンガ抽出物および/または粉末にミロシナーゼ活性向上または維持処理を行う工程を含む、イソチオシアネート富化モリンガを製造する方法。
(項目13)
前記ミロシナーゼ活性向上または維持処理が、ミロシナーゼ含有植物粉末の混合である、上記項目に記載の方法。
(項目14)
前記ミロシナーゼ含有植物がアブラナ科植物である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記ミロシナーゼ含有植物がワサビである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記ミロシナーゼ含有植物粉末が、モリンガ抽出物および/または粉末に対して約1:約0.01以上の割合で混合される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記ミロシナーゼ活性向上または維持処理が、UV殺菌または熱風殺菌である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
【0006】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0007】
なお、上記した以外の本発明の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、有用な生理機能を有し、イソチオシアネートが富化されたモリンガを提供することができる。これにより、病気予防に役に立ち、健康長寿をサポートする機能性素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態において、モリンガにワサビを添加した場合の葉換算のモリンガ由来のイソチオシアネート量を示すグラフである。縦軸が産生されたイソチオシアネート量(mg/g)、横軸がモリンガに対するワサビの添加量(重量%)を示す。
図2図2は、本発明の一実施形態において、モリンガにワサビを添加した場合の抽出物1gあたりモリンガ由来のイソチオシアネート量を示すグラフである。縦軸が産生されたイソチオシアネート量(mg/g)、横軸がモリンガに対するワサビの添加量(重量%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。また本発明に係る一実施形態および実施例を、図面を参照して説明する。
【0011】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0012】
上記のとおり、本発明の一局面において、モリンガ抽出物および/または粉末を含むイソチオシアネート富化モリンガ組成物が提供される。モリンガ抽出物は、種々の溶媒を使用して、公知の手法によってモリンガから抽出して得ることができる。植物全体または任意の部分を例えばブレンダーによって粉砕した後、抽出溶媒を用いて溶媒抽出物を得ることができる。粉砕前にモリンガを乾燥させてから粉砕してもよい。また、溶媒抽出物は、減圧蒸留及び凍結乾燥または噴霧乾燥などのような追加的な過程によって粉末状態に製造され得る。またモリンガ粉末は、モリンガを公知の粉砕機やミルを用いて粉砕して得ることができる。
【0013】
抽出や粉砕に供されるモリンガは、特に限定されるものではないが、例えば、モリンガ・オレイフェラ(Moringa oleifera)、モリンガ・コンカネンシス(Moringa concanensis)、モリンガ・ドロウハルディ(Moringa drouhardii)などを用いることができる。栽培が広く行われており、容易に採取できるという観点から、モリンガ・オレイフェラを好ましく用いることができる。
【0014】
抽出や粉砕に供されるモリンガの部位としては、葉、茎、鞘(果肉)、種子のいずれも用いることができる。これらの部位は生のまま使用しても、乾燥後に使用しても良い。原料としての保存安定性や、抽出物の製造の際の収率の観点から、乾燥後のモリンガを好ましく使用することができる。
【0015】
抽出に使用される溶媒としては、モリンガから抽出物を抽出できるものであれば特に限られるものではなく、例えば、水、有機溶媒、または水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。安全性の観点から、水のみで抽出することが好ましい。有機溶媒としては、水と混和することができる低級アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなどのC1~C4の1価もしくは多価アルコール)、アセトン、ベンゼン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジクロロメタンなどが挙げられる。これらの有機溶媒と水との混合溶媒を使用する場合には、事前に水と混和した後に使用してもよく、また2種以上を水と混合して使用してもよい。また溶媒として有機溶媒と水との混合溶媒を使用する場合には、有機溶媒の混合割合は、0%超~100%未満とすることができる。抽出に使用される溶媒の液量としては、特に限定されるものではないが、用いられる抽出溶媒の種類によって適宜設定することができ、例えば、抽出に供されるモリンガの乾燥重量に対して約1~約20倍、または約5~約20倍、より望ましくは約5~約10倍、最も望ましくは約5~約8倍で用いることができる。抽出時の溶媒の温度は、特に限定されるものではないが、例えば、約20~約95℃とすることができる。抽出時間は、特に限定されるものではないが、例えば、製造効率の観点から、約30~約150分とすることができる。抽出は、攪拌または静止状態で行うことができる。抽出の後、残渣を除去するためにろ過や遠心分離等の処理を施し、この後に減圧等により抽出溶媒を除去することができる。また、抽出液を粉末とする場合など、必要に応じて、溶媒抽出物を減圧蒸留した後に凍結乾燥または噴霧乾燥して得た乾燥抽出物を製造することもできる。
【0016】
他の実施形態において、本分野における公知の抽出工程、例えば、温浸、インフュージョン、パーコレーション、消化、煎じ汁、高温連続抽出、水性-アルコール性抽出、逆流抽出、マイクロ波補助抽出、超音波抽出、初臨界流体抽出、組織片抽出などを用いて、これらを単独で、または二種以上の方法を併用してモリンガ抽出物を得ることができる。
【0017】
本発明の一実施形態において、本発明のモリンガ組成物はさらにミロシナーゼ含有植物粉末を含むことができる。ミロシナーゼ含有植物粉末に供される植物としては、ミロシナーゼを有するものであれば特に限られるものではないが、例えば、ブロッコリー、芽キャベツ、キャベツ、カリフラワー、カラードグリーン、ケール、コールラビ、カラシナ、ルタバガ、カブ、パクチョイ、ハクサイ、ルッコラ、セイヨウワサビ、ダイコン、ワサビ、クレソンなどのアブラナ科植物を好ましく使用することができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、ミロシナーゼ含有植物粉末はモリンガ抽出物および/または粉末に対して(モリンガ抽出物および/または粉末:ミロシナーゼ含有植物粉末)、約1:約0.01以上の割合で混合することができる。例えば、モリンガ抽出物および/または粉末に対して、ミロシナーゼ含有植物粉末を、約0.01~約100重量%、約80重量%未満、約60重量%未満、約40重量%未満、約20重量%未満、約10重量%未満、約1重量%、約2重量%、約2.5重量%、約4重量%、約5重量%、約6重量%、約7重量%、約8重量%、約9重量%、約10重量%、約11重量%、約12重量%、約13重量%、約14重量%、約15重量%、約20重量%、約25重量%、約30重量%などの割合で混合することができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、モリンガ抽出物および/または粉末に上記のようなミロシナーゼ含有植物粉末を混合させることにより、ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、ミロシナーゼ活性を向上することができる。例えば、ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、ミロシナーゼ活性が、モリンガ葉約1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍、約2倍、約5倍、好ましくは少なくとも約10倍、約13倍、約20倍、約25倍、約30倍、約35倍、約40倍、さらに好ましくは少なくとも約45倍以上に増加させるように向上させることができる。他の実施形態において、モリンガ抽出物および/または粉末に上記のようなミロシナーゼ含有植物粉末を混合させることにより、ミロシナーゼ含有植物粉末を含まないモリンガ抽出物および/または粉末と比較して、ミロシナーゼ活性が、モリンガ抽出物約1gあたりのイソチオシアネート合成量を、少なくとも約1.1倍、約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、約7倍、約10倍、さらに好ましくは少なくとも約15倍以上に増加させるように向上させることができる。
【0020】
本発明の一実施形態において、モリンガ抽出物および/または粉末がUV殺菌または熱風殺菌されることができる。UV殺菌とは、紫外線を照射して殺菌する方法をいい、紫外線の照射時間、照射量、照射手法などは特に限られるものではない。例えば、UV殺菌としては、公知の手法を用いることができ、菌数検査によって一般生菌数が約3000個/g以下、大腸菌群が陰性となるまで行うことができる。例えば、UV殺菌としてUVランプを用いて乾式でUV照射を約1~約60分行うことができるが、上記の菌数検査に合格するよう照射強度や照射時間を適宜設定することができる。熱風殺菌とは、熱風を通風させて殺菌する方法をいい、熱風の温度、熱風の通風時間、通風量、通風手法などは特に限られるものではない。例えば、熱風殺菌としては、公知の手法を用いることができ、菌数検査によって一般生菌数が約3000個/g以下、大腸菌群が陰性となるまで行うことができる。例えば、電気熱風殺菌機で約150~約350℃、好ましくは約230~約350℃で、約1~約30分間、好ましくは約10分間乾式殺菌することができるが、上記の菌数検査に合格するよう殺菌温度や殺菌時間を適宜設定することができる。
【0021】
本発明の一実施形態において、本発明のモリンガ抽出物および/または粉末を含むイソチオシアネート富化モリンガ組成物は、モリンガ葉1gあたり少なくとも約0.4mg、約0.7mg以上、約1.6mg以上、約2.0mg以上、約3.0mg以上、約4.0mg以上、約5.0mg以上、約6.0mg以上、約7.0mg以上、または約8.0mg以上のイソチオシアネートを含むことができる。上限値は特に限定されるものではないが、例えば、約10mg以下、約5.0mg以下、または約3.0mg以下などとすることができる。イソチオシアネート量は、後述の実施例に記載する方法で測定する。また他の実施形態において、本発明のモリンガ抽出物および/または粉末を含むイソチオシアネート富化モリンガ組成物は、モリンガ抽出物1gあたり少なくとも約1.0mg、約2.0mg以上、約2.8mg以上、約4.0mg以上、約5.8mg以上、約7.0mg以上、約8.0mg以上のイソチオシアネートを含むことができる。上限値は特に限定されるものではないが、例えば、約30mg以下、約25mg以下、約20mg以下、または約17mg以下などとすることができる。イソチオシアネート量は、後述の実施例に記載する方法で測定する。
【0022】
本発明の他の局面において、モリンガ抽出物および/または粉末にミロシナーゼ活性向上または維持処理を行う工程を含む、イソチオシアネート富化モリンガを製造する方法が提供される。
【0023】
一実施形態において、ミロシナーゼ活性向上または維持処理を行う工程は、ミロシナーゼ含有植物粉末の混合を含むことができる。ミロシナーゼ含有植物粉末に供される植物としては、ミロシナーゼを有するものであれば特に限られるものではないが、例えば、ブロッコリー、芽キャベツ、キャベツ、カリフラワー、カラードグリーン、ケール、コールラビ、カラシナ、ルタバガ、カブ、パクチョイ、ハクサイ、ルッコラ、セイヨウワサビ、ダイコン、ワサビ、クレソンなどのアブラナ科植物を好ましく使用することができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、ミロシナーゼ含有植物粉末はモリンガ抽出物および/または粉末に対して(モリンガ抽出物および/または粉末:ミロシナーゼ含有植物粉末)、約1:約0.01以上の割合で混合することができる。例えば、モリンガ抽出物および/または粉末に対して、ミロシナーゼ含有植物粉末を、約1~約100重量%、約80重量%未満、約60重量%未満、約40重量%未満、約20重量%未満、約10重量%未満、約1重量%、約2重量%、約2.5重量%、約4重量%、約5重量%、約6重量%、約7重量%、約8重量%、約9重量%などの割合で混合することができる。
【0025】
一実施形態において、ミロシナーゼ活性向上または維持処理を行う工程は、UV殺菌または熱風殺菌を含むことができる。UV殺菌とは、紫外線を照射して殺菌する方法をいい、紫外線の照射時間、照射量、照射手法などは特に限られるものではない。例えば、UV殺菌としては、公知の手法を用いることができ、菌数検査によって一般生菌数が約3000個/g以下、大腸菌群が陰性となるまで行うことができる。例えば、UV殺菌としてUVランプを用いて乾式でUV照射を約1~約60分行うことができるが、上記の菌数検査に合格するよう照射強度や照射時間を適宜設定することができる。熱風殺菌とは、熱風を通風させて殺菌する方法をいい、熱風の温度、熱風の通風時間、通風量、通風手法などは特に限られるものではない。例えば、熱風殺菌としては、公知の手法を用いることができ、菌数検査によって一般生菌数が約3000個/g以下、大腸菌群が陰性となるまで行うことができる。例えば、電気熱風殺菌機で約150~約350℃、好ましくは約230~約350℃で、約1~約30分間、好ましくは約10分間乾式殺菌することができるが、上記の菌数検査に合格するよう殺菌温度や殺菌時間を適宜設定することができる。
【0026】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0027】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0028】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。なお、特に記載のない限り、「%」は「重量%」を意味するものとする。
【実施例
【0029】
(実施例1:ミロシナーゼ含有植物粉末混合モリンガにおけるITC量)
【0030】
本実施例では、モリンガ抽出物または粉末にミロシナーゼ含有植物粉末を混合させることによるイソチオシアネート産生量の変化を確認した。
モリンガ葉をミルにて粉砕し、モリンガ葉粉末2gを得た。このモリンガ葉粉末2gに、ミロシナーゼ含有植物粉末としてワサビ粉末を、それぞれ、0、20、50、100mg混合した。また、ミロシナーゼ含有植物粉末としてワサビ粉末2gをはかり取った。
各サンプルに蒸留水20mLを添加し、2時間室温で攪拌した。2時間後、遠心分離を行い、上清をろ過し、凍結乾燥させたものを以下のイソチオシアネート測定に用いた。
【0031】
(イソチオシアネートの定量)
作製したサンプル20mgを1mLの蒸留水で溶解した。調製サンプル50μLまたはメタノールで調整したPropyl Isothiocyanate溶液50μLと50mMリン酸緩衝液(pH8.5)250μLを混合した。さらに、2-プロパノールにて調整した10mM 1,2-ベンゼンジチオールを300μL添加し、混合した。この混合物を、65℃に設定したヒートブロックにて2時間反応させた。2時間後、常温に冷まし、10,000rpmにて3分間遠心分離を行った。上清を0.45μmのフィルターにて濾過し、HPLC用サンプルとした。
【0032】
HPLCは以下の条件で分析を行った。
移動相:70%メタノール/30%水(アイソクラティック)
移動相流速:1mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:365nm
【0033】
Propyl Isothiocyanateを用いて検量線を作成し、検量線から各サンプルのイソチオシアネート量を算出した。
【0034】
イソチオシアネート量の測定結果を図1および図2に示した。図1は葉換算した場合のイソチオシアネート量(mg/g粉末)、図2は抽出物換算した場合のイソチオシアネート量(mg/g抽出物)を示す。いずれも添加したワサビ(ホースラディッシュ)由来のイソチオシアネート量は除外している。図1からわかるように、モリンガに対するワサビの添加量を1重量%、2重量%、2.5重量%、4重量%、5重量%と増加させるにつれて、葉換算した場合のイソチオシアネート量も増加している。また図2からも、モリンガに対するワサビの添加量を1重量%、2.5重量%、5重量%と増加させるにつれて、モリンガ抽出物1gあたりのイソチオシアネート量が増加することがわかった。
【0035】
(実施例2:殺菌処理の検討)
本実施例では、高圧蒸気殺菌、過熱水蒸気殺菌、UV殺菌、熱風殺菌のそれぞれについて、ミロシナーゼ活性に与える影響を確認した。
【0036】
高圧蒸気殺菌、過熱水蒸気殺菌、UV殺菌、熱風殺菌のそれぞれについて、失活処理(加熱処理)をしてさらに外因性ミロシナーゼを添加した群(A群)、失活処理(加熱処理)をしただけの群(B群)、および失活処理(加熱処理)も外因性ミロシナーゼの添加もしない群(C群)のイソチオシアネートを測定した。
【0037】
各殺菌は以下のようにして行った。
高圧蒸気殺菌:連続的にモリンガ葉粗粉砕品を、高圧蒸気殺菌(湿式、0.20MPa、135±4℃、8秒)し、その後粉砕を行った。
過熱水蒸気殺菌:5kgのモリンガ葉粗粉砕品を、過熱水蒸気殺菌(湿式、0.23Mpa、4分)し、その後乾燥(75℃、60分)、粉砕を行った。
UV殺菌:500gのモリンガ葉粗粉砕品を粉砕機にて粉砕した。400μm以下のものを、UV殺菌(乾式、60分)した。
熱風殺菌:10kgのモリンガ葉粗粉砕品を、熱風殺菌(乾式、230℃、10分)し、その後粉砕を行った。
【0038】
(モリンガ葉中の変換可能な全イソチオシアネートの定量およびモリンガ葉中のイソチオシアネートの定量)
内因性ミロシナーゼを失活させるため、モリンガ葉粉末2gに熱水10mLを添加し、100℃で5分間処理した。5分後、冷水を10mL添加し、室温で2時間攪拌を行った。2時間後、遠心分離を行った。上清をろ過し、凍結乾燥してサンプルを作製した(表1中のB群)。
【0039】
作製したサンプル200mgを、100mMの塩化ナトリウムを添加した50mMクエン酸緩衝液(pH5.1)4mLで溶解した。このサンプルに、100mMの塩化ナトリウムを添加した50mMクエン酸緩衝液(pH5.1)で4mg/mLに調製したミロシナーゼ(βチオグルコシダーゼ)を1mL添加した。続いて、37℃湯浴中で24時間酵素処理を行った。凍結乾燥してサンプルを作製した(表1中のA群)。
【0040】
(モリンガ葉中の内因性ミロシナーゼによって変換可能なイソチオシアネートの定量)
モリンガ葉粉末2gに蒸留水20mLを添加し、2時間室温で攪拌した。2時間後、遠心分離を行った。上清をろ過し、凍結乾燥してサンプルを作製した(表1中のC群)。
【0041】
A群~C群のイソチオシアネートの測定は実施例1と同様にして行った。A群はモリンガに存在するグルコシノレートをすべてイソチオシアネートに変換したもの、B群は新たなイソチオシアネートへの変換はなく、もともとモリンガに存在していたイソチオシアネート量、またC群は内因性のミロシナーゼによってグルコシノレートがイソチオシアネートに変換したものと仮定できるため、A群の値からB群の値を引いた値とC群の値からB群の値を引いた値とから内因性ミロシナーゼによる変換率を算出した。
【0042】
殺菌工程別の内因性ミロシナーゼによる変換率の結果を表1に示した。
【表1】
【0043】
高圧蒸気殺菌と過熱水蒸気殺菌は内因性ミロシナーゼによる変換率がそれぞれ0.2%、2.0%となり、それぞれの殺菌処理によって内因性ミロシナーゼも失活してしまい、グルコシノレートをイソチオシアネートに変換できていないことがわかった。またUV殺菌および熱風殺菌では、内因性ミロシナーゼによる変換率がそれぞれ54.3%、43.3%となり、これらの殺菌処理をしたとしても内因性ミロシナーゼは失活しにくく、グルコシノレートをイソチオシアネートに変換できていることがわかった。
【0044】
(注記)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、有用な生理機能を有するモリンガを提供することができるため、病気予防や健康長寿をサポートする機能性素材の産業において有用である。
図1
図2