(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】浅水試験用仮床およびこれを用いた試験水槽
(51)【国際特許分類】
G01M 10/00 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
G01M10/00
(21)【出願番号】P 2021197969
(22)【出願日】2021-12-06
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】590005874
【氏名又は名称】株式会社西日本流体技研
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】安川 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 泰久
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-066942(JP,A)
【文献】特開平10-038750(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113148055(CN,A)
【文献】経塚雄策、小保方準,“浅水用仮底形状による流体力の変化について”,関西造船協会誌,日本,日本船舶海洋工学会,1982年03月30日,第184号,pp.55-62,https://doi.org/10.14856/kansaiks.184.0_55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験水槽の底面に設置される支柱上に台板が所定高さに水平に支持された浅水試験用仮床であって、
前記台板の下部の空間を囲むように前記試験水槽の底面に向かって垂下される幕体を有する浅水試験用仮床。
【請求項2】
前記幕体は、不透水性または低透水性である請求項1記載の浅水試験用仮床。
【請求項3】
前記幕体は、前記台板の外縁部に設けられたものである請求項1または2に記載の浅水試験用仮床。
【請求項4】
前記幕体の下端部に沈子を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の浅水試験用仮床。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の浅水試験用仮床を備えた試験水槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模型船等を使用して水槽試験を行う際に用いる浅水試験用仮床およびこれを用いた試験水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
水深の浅い水域(以下、「浅水域」と称す。)を移動する船舶等の物体に作用する流体力は、水深の深い水域を移動する物体のそれとは性質が異なる。河川や港湾内などの浅水域での船舶の水深性能や操縦性能を推定する上では、この浅水影響を精度良く推定することが重要である。そのための有効な手段の一つに、水槽で行われる模型試験がある。模型試験において水槽内に浅水域を設定する方法としては、排水によって水位を実際に低くし、水槽底面近くで試験する方法と、水槽内に水底に見立てた浅水試験用仮床を設定し、その上で試験する方法(例えば、特許文献1参照。)がある。
【0003】
図2は後者の浅水試験用仮床を設置した試験水槽の概略断面図である。
図2に示す浅水試験用仮床10は、試験水槽1の底面1Aに設置された支柱3上に、台板4が所定高さに水平に支持されたものである。この試験水槽1では、浅水試験用仮床10の上面10Aを水底と見立てて模型船Sの浅水試験を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、
図2に示す試験水槽1では、浅水試験用仮床10と試験水槽1の側壁1Bとの間隙から漏れた圧力が、浅水試験用仮床10の下側を伝って反対側の間隙から模型船Sに作用する。これは模型船Sが操縦運動を行うなどして左右非対称な流体現象となる場合に問題となり、結果的には実際の浅水域での流体現象とは異なるため、試験結果を用いて実船の運動を推定すると大きな誤差が発生する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明においては、浅水域を対象とした水槽試験の精度を向上させることが可能な浅水試験用仮床およびこれを用いた試験水槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の浅水試験用仮床は、試験水槽の底面に設置される支柱上に台板が所定高さに水平に支持された浅水試験用仮床であって、台板の下部の空間を囲むように試験水槽の底面に向かって垂下される幕体を有するものである。本発明の浅水試験用仮床によれば、台板下部空間への水の流出入が幕体により阻害されるので、浅水試験用仮床下の圧力伝搬が防止される。
【0008】
幕体は、不透水性または低透水性であることが望ましい。これにより、台板下部空間への水の流出入がほとんどなくなり、浅水試験用仮床下の圧力伝搬がより防止される。
【0009】
幕体は、台板の外縁部に設けられたものであることが望ましい。これにより、台板下部空間を最大限囲むようにすることができ、台板下部空間を最大限利用して水の流出入を阻害することができ、浅水試験用仮床下の圧力伝搬を防止することができる。
【0010】
本発明の浅水試験用仮床は、幕体の下端部に沈子を有することが望ましい。これにより、幕体の表裏に圧力差が生じても、沈子の重さにより幕体がめくれるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
(1)浅水試験用仮床が台板の下部の空間を囲むように試験水槽の底面に向かって垂下される幕体を有する構成により、浅水試験用仮床下の圧力伝搬が防止され、模型船への影響を少なくして、浅水域を対象とした水槽試験の精度を向上させることが可能となる。
【0012】
(2)幕体が不透水性または低透水性であることにより、台板下部空間への水の流出入がほとんどなくなり、模型船への影響をより少なくして、浅水域を対象とした水槽試験の精度をより向上させることが可能となる。
【0013】
(3)幕体が台板の外縁部に設けられたものであることにより、台板下部空間を最大限囲むようにし、台板下部空間を最大限利用して水の流出入を阻害することができ、模型船への影響をさらに少なくして、浅水域を対象とした水槽試験の精度をさらに向上させることが可能となる。
【0014】
(4)幕体の下端部に沈子を有する構成により、幕体の表裏に圧力差が生じても、沈子の重さにより幕体がめくれるのを防止することができ、より安定して模型船への影響を少なくして、浅水域を対象とした水槽試験の精度をさらに向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における浅水試験用仮床を設置した試験水槽の概略断面図である。
【
図2】従来の浅水試験用仮床を設定した試験水槽の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態における浅水試験用仮床を設置した試験水槽の概略断面図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態における試験水槽1は、浅水試験用仮床2を備える。浅水試験用仮床2は、試験水槽1の底面1Aに設定された支柱3上に、台板4が所定高さに水平に支持されたものである。この試験水槽1では、浅水試験用仮床2の上面2Aを水底と見立てて模型船Sの浅水試験を行う。
【0018】
また、本実施形態における浅水試験用仮床2は、台板4の下部の空間を囲むように試験水槽1の底面1Aに向かって垂下されるカーテン5を有する。カーテン5は、不透水性または低透水性の材料(例えば、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンシートや、ターポリン等。)により形成された幕体である。カーテン5は台板4の外縁部に設けられている。
【0019】
カーテン5の下端部には複数の沈子6が固定されている。沈子6は、カーテン5の角部に設けたり、カーテン5の周囲に所定間隔で設けたりすることができる。沈子6は、模型船Sの運動によりカーテン5の表裏に圧力差が生じても、その重さによりカーテン5がめくれない程度の重さの錘である。
【0020】
上記構成の浅水試験用仮床2を備えた試験水槽1では、模型船Sの浅水試験の際、模型船Sの運動により、浅水試験用仮床2と試験水槽1の側壁1Bの間隙から漏れた圧力が台板4の下部空間を伝おうとしても、台板4の下部空間への水の流出入がカーテン5により阻害されるので、浅水試験用仮床2下の圧力伝搬が防止される。これにより、模型船Sへの影響が少なくなり、浅水域を対象とした水槽試験の精度が向上する。
【0021】
また、本実施形態における浅水試験用仮床2では、カーテン5が不透水性または低透水性であることにより、台板4の下部空間への水の流出入がほとんどなくない。したがって、浅水試験用仮床2下の圧力伝搬がより防止され、模型船Sへの影響がより少なくなり、浅水域を対象とした水槽試験の精度がより向上する。また、このカーテン5は、設置や撤去に関わる作業も軽微であり、浅水試験用仮床2の高さの変化にも柔軟に対応可能である。
【0022】
また、本実施形態におけるカーテン5は、台板4の外縁部に設けられたものであることにより、台板4の下部空間は最大限囲まれている。これにより、台板4の下部空間を最大限利用して水の流出入を阻害して、浅水試験用仮床2下の圧力伝搬を防止しており、模型船Sへの影響をさらに少なくして、浅水域を対象とした水槽試験の精度がさらに向上している。
【0023】
また、本実施形態における浅水試験用仮床2では、カーテン5の下端部に沈子6を有するので、カーテン5の表裏に圧力差が生じても、沈子6の重さによりカーテン5がめくれるのを防止することができ、より安定して模型船Sへの影響を少なくして、浅水域を対象とした水槽試験の精度がさらに向上している。
【0024】
なお、上記実施形態においては、カーテン5は台板4の外縁部に設けられた構成であるが、台板4の下面に設けた構成とすることも可能である。要するに、カーテン5は、台板4の下部の空間の全てでなく、ある程度の容積を一部囲むように試験水槽1の底面1Aに向かって垂下された構成としても良い。
【0025】
また、カーテン5は、試験水槽1の底面1Aに達する長さとすることが望ましいが、多少短くしたり、長くしたりすることも可能である。要するに、カーテン5が台板4の下部空間を囲むように試験水槽1の底面1Aに向かって垂下され、浅水試験用仮床2下の圧力伝搬が防止されるようにすれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、模型船等を使用して浅水域を移動する船舶等の物体の水槽試験を行うための浅水試験用仮床およびこれを用いた試験水槽として有用である。
【符号の説明】
【0027】
S 模型船
1 試験水槽
2 浅水試験用仮床
3 支柱
4 台板
5 カーテン
6 沈子