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特許7362249ナイーブT細胞集団からのウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞の生成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ナイーブT細胞集団からのウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞の生成
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20231010BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231010BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231010BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231010BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20231010BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALN20231010BHJP
【FI】
C12N5/0783
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P37/04
C12N5/078
C12N5/0784
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018500283
(86)(22)【出願日】2016-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-04-12
(86)【国際出願番号】 US2016023413
(87)【国際公開番号】W WO2016154112
(87)【国際公開日】2016-09-29
【審査請求日】2019-03-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】62/135,851
(32)【優先日】2015-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/135,888
(32)【優先日】2015-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514262417
【氏名又は名称】チルドレンズ ナショナル メディカル センター
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S NATIONAL MEDICAL CENTER
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ボラード、キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】クルーズ、コンラッド
(72)【発明者】
【氏名】ハンリー、パトリック
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】藤井 美穂
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501651(JP,A)
【文献】American Journal of Hematology, 2005年, Vol.80, pp.106-112
【文献】BLOOD,2009年5月14日,Vol.114, No.9, pp.1958-1967
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍関連抗原の決定基を含む少なくとも1種のペプチド抗原によって活性化される、腫瘍関連抗原に特異的なT細胞を生産する方法であって、以下を含む方法:
(a)臍帯血試料以外の、免疫系が前記少なくとも1種のペプチド抗原にナイーブな対象からの、幹細胞、T細胞前駆細胞またはT細胞を含む試料からの単核細胞を2つの部分に分け;
(b)前記試料の第1の部分をPHAと接触させ、活性化T細胞(ATC)を生産し、該ATCを、その成長を阻害する放射線で処理し;
(c)第2の部分中の非付着T細胞およびT細胞前駆細胞を付着樹状細胞および樹状前駆細胞から分離し;
(d)前記非付着T細胞およびT細胞前駆細胞を保存し;
(e)前記第2の部分中の前記付着樹状細胞および樹状前駆細胞を、IL-4およびGM-CSF、ならびに前記少なくとも1種のペプチド抗原と接触させて、前記少なくとも1種のペプチド抗原を提示する抗原提示樹状細胞を生産し、前記抗原提示樹状細胞をその成長を阻害するに十分な放射線で処理し;
(f)(d)から得られた保存された非付着T細胞及びT細胞前駆細胞を、(e)において生産された樹状抗原提示細胞とIL-7およびIL-15の存在下で接触させ、前記少なくとも1種のペプチド抗原を認識する、腫瘍関連抗原に特異的なT細胞を生産し;
(g)前記腫瘍関連抗原に特異的なT細胞を、アクセサリー細胞かつIL-15の存在下での前記少なくとも1種のペプチド抗原の存在下、前記ATCと接触させ;および
(h)前記少なくとも1種のペプチド抗原を認識する、腫瘍関連抗原に特異的なT細胞を回収する;
ここで、製造された前記腫瘍関連抗原に特異的なT細胞は、その医薬を必要としている対象を治療するための医薬であり、前記対象は前記腫瘍関連抗原に特異的なT細胞と部分的に組織適合性である。
【請求項2】
(a)の前に、さらに、ナイーブT細胞を含む試料から単核細胞を分離することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単核細胞が前記少なくとも1種のペプチド抗原にナイーブな幹細胞から得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(b)が、前記試料の第1の部分をさらにIL-2と接触させてATCを生産することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の部分を固体培地に、所定時間、前記第2の部分中の細胞が前記固体培地に付着するために十分な条件で接触させ、その後、T細胞およびT細胞前駆細胞を前記固体培地から除去し、前記固体培地に付着した樹状細胞および樹状前駆細胞を回収することにより、T細胞およびT細胞前駆細胞が樹状細胞および樹状前駆細胞から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(e)において、前記樹状細胞および樹状前駆細胞を、さらに、LPS、TNF-α、IL-1β、IL-6、PGE-1およびPGE-2からなる群から選択される樹状細胞成熟剤と接触させる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
(f)において、または(f)の前に、前記樹状細胞および樹状前駆細胞を処理してCD45RA陽性細胞を増殖する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(f)において、または(f)の前に、前記樹状細胞および樹状前駆細胞を処理してCD45RO陽性細胞を枯渇させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種のペプチド抗原が、PRAME、NYESO、MAGE A4、MAGE A3、MAGE A1、サバイビン、WT1、ニューロエラスターゼ(neuroelastase)、プロテイナーゼ 3、p53、CEA、クローディン6、ヒストン H1、ヒストン H2、ヒストン H3、ヒストン H4、MART1、gp100、PSA、SOX2、SSX2、Nanog、Oct4、Myc、およびRasからなる群から選択される腫瘍関連もしくは腫瘍特異的抗原の決定基である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(f)において、(d)からの前記非付着T細胞及びT細胞前駆細胞を(e)において作成された樹状抗原提示細胞に、(d):(e)が1:1~200:1の範囲の比率で接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(g)が、さらに前記腫瘍関連抗原に特異的なT細胞を、HLA-陰性に改変されたK56細胞、CD80、CD83、CD86、及び/もしくは4-1BBLを発現するK562cs細胞からなる群から選択されるアクセサリー細胞に接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
(g)が、(f)において製造された前記腫瘍関連抗原に特異的なT細胞を、ATCおよびK562細胞に、T細胞とATCとの比率が10:1~1:1の範囲で接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
さらに、(h)において回収された前記腫瘍関連抗原に特異的なT細胞について、IL-2の存在下で(g)を繰り返すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記分けられた単核細胞が、少なくとも1種のペプチド抗原にナイーブなドナーから得られたものである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
この出願は、2015年3月20日に出願された米国分割出願62/135,851、および2015年3月20日に出願された米国分割出願62/135,888に基づく優先権を主張するものであり、その全体の開示は参照により本明細書に組み込まれる。この出願は、2014年10月28日に出願された「CMV血清陰性のドナーからのCMV-特異的T細胞の増殖」と題するPCT/US2014/62698に関連するものであり、これは2013年10月28日に出願された米国分割出願61/896,296に基づく優先権を主張するものである。上記のすべての文献の開示は参照により本願明細書に組み込まれる。
【発明の背景】
【0002】
【技術分野】
【0003】
本発明は、ウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞、ナイーブT細胞からのその製造方法、およびウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞を用いた細胞ベースの療法の分野一般に関連するものである。
【関連技術の記載】
【0004】
既存のT細胞に基づく免疫療法は、T細胞および前駆T細胞を含む試料から増殖されたウイルス及び腫瘍に特異的なT細胞を使用している。ウイルス特異的T細胞は、幹細胞移植後のウイルス感染に対して有効であることが示されており、ウイルス特異的T細胞集団を用いたT細胞に基づく細胞療法は、ウイルス感染細胞からの保護を提供し、多くの抗ウイルス薬療法よりも、副作用が少ないことが示されている。増殖したウイルス特異的集団を使用したT細胞に基づく療法は、循環白血病芽球を一掃するという移殖片対白血病効果も示した。これらの免疫療法は、メモリー集団の生成により生涯にわたる保護を提供するという利益を有する。さらに、これらの細胞は、エクスビボで容易に増殖する。なぜなら、それが由来するドナーは血清陽性であり(これは記憶が存在することを意味する)、ウイルス特異的T細胞は、抗原の存在下で急速に増殖するからである。しかし、これらの方法は、その免疫系がすでにウイルスまたは腫瘍抗原を認識する免疫系を有するドナー(例えば、特定のウイルスに対して血清陽性のドナー)から得られたT細胞に関する要件に悩まされている(Ngo, et al., J. Immunother. 37(4): 192-203 (2014)を参照)。
【0005】
例えば臍帯血におけるナイーブT細胞またはT細胞前駆細胞集団が、抗原もしくは抗原性ペプチドに曝露され、刺激されていないと、ウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞は増殖することができない。そのようなナイーブ集団は、それが認識する抗原と接触した場合に急速に増殖できる抗原特異的メモリーT細胞を欠いている。例えば、対象が臍帯血移殖を受けている場合、前記臍帯血はウイルス、他の病原体または腫瘍に対する保護を提供しないナイーブT細胞をほぼ全体として含んでいる。同様の移殖、例えば、特定のウイルス、病原体または腫瘍抗原に対して血清陰性なナイーブドナーからの幹細胞移殖もまた、急速に増殖するメモリーT細胞を欠いている。結果として、臍帯血または、ナイーブドナーからの移植のためのウイルス特異的T細胞の増殖は制限され、臨床的に利用できない。
【0006】
これらの集団からのウイルス特異的T細胞の生成に伴う困難は、(1)ナイーブ抗原特異的T細胞の刺激の必要性、および(2)臍帯血の限定された量、から生じる。臍帯血ユニットは、典型的にはトータルで25mLの血液を含む。この25mLから、20mLが、典型的には、免疫系を再生するための移植物として患者に直接投与される一方、5mLが潜在的T細胞増殖のために残るのみである。さらに、同様にその量が限られている前記生産物中に存在する前記ナイーブT細胞が、従来、この処理を臨床的状態に対して望ましくないものとしており、免疫療法がうまくいくために必要なウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞の種類及び数を生成するための新たな処理の発展の必要性が強調されてきた。
【0007】
ナイーブT細胞からのウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を刺激および増殖させるための方法は現在のところまだ成功していない(McGoldrick, et al., ”Cytomegalovirus-specific T cells are primed early after cord blood transplant but fail to control virus in vivo”、 Blood 121(14): 2796-2803 (Epub 2013)を参照)。これは、発達中の新生児の免疫系は免疫学的記憶をほとんど有さず、感染性因子に対するその脆弱性が増加するという観察と整合する(Basha, et al., “Immune responses in neonates”、Expert Rev. Clin. Immunol. 10(9):1171-1184 (2014)を参照)。新生児期、先天性および/または子宮内の病原体は、風疹、サイトメガロウイルス(CMV)、パルボウイルスB19、水痘帯状疱疹(VZV)、エンテロウイルス、HIV、HTLV-1、C型肝炎、B型肝炎、ラッサ熱、および日本脳炎を含む。周産期および新生児期の感染性因子は、単純ヘルペスウイルス(ヒト単純ヘルペス1型および2型を含む)、VZV、エンテロウイルス、HIV、B型肝炎、C型肝炎およびHTLV-1を含む。他の病原体は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、メタニューモウイルス(hMPV)、ライノウイルス、パラインフルエンザ(PIV)、およびヒトコロナウイルス、ノロウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ジカウイルスおよび脳炎ウイルスを含む。
【0008】
ウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞を増殖するための多くの既存の方法に伴うさらなる問題は、多くの現在の方法が感染性ウイルス、ウイルス感染細胞、またはウイルスで形質転換された細胞、例えば、エプスタインバーウイルスで形質転換されたンパ芽球細胞株(Ngo, et al. (2014))の使用を含むことである。ウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞を生産するためのウイルスの使用を含む治療的使用のための方法は望ましくない。なぜならば、それらは、臨床的リスクおよび重大な規制的障害を伴うからである。
【0009】
本発明による1つの実施形態は、ナイーブ集団からのウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞の急速かつ強力な増殖を有利に可能とし、それにより、治療的に重要な抗原、例えば日和見性のウイルスの抗原および腫瘍抗原を認識する、ウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞を提供することができる。この実施形態は、生きたウイルスまたはウイルスで形質転換した細胞の使用を必要とせず、それにより、より臨床的に受け入れられやすい。また、これは、米国や国際的な規制機関により妨げられ、または禁止されている感染性または危険な因子の使用を必要としない。さらに、上記実施形態により増殖されたT細胞は、臨床的実施において容易に使用され、または、預けられて在庫製品として便利に使用されることができる。
【発明の要約】
【0010】
本発明の要約
いくつかの実施形態において、本発明は、特定の抗原、たとえばウイルス、他の病原体または腫瘍由来の抗原を特異的に認識するT細胞を生成する強力な方法を提供する。本発明は、また、病原体の異なるまたは複数のエピトープを認識するT細胞の集団を生成し、広範囲の細胞免疫を提供する。例えば、広範囲の細胞免疫応答を得るために、ナイーブ細胞集団は、特定の病原体、例えばサイトメガロウイルス、の1種以上の抗原に対応するオーバーラッピングペプチドで刺激されそれを提示する抗原提示細胞に曝露することができる。これらのペプチドは、異なる抗原提示細胞(樹状細胞、単球、K562細胞、PHA芽球、B-芽球、リンパ芽球細胞、およびCD3-28芽球)を刺激することができ、この方法は、異なる刺激および増殖サイトカイン(IL2、IL7、IL15を含むが、これらに制限されない)、および異なる選択方法(CD45ROの枯渇等)を利用することができる。このような方法で生産されたウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞は、ナイーブ臍帯血、ドナーの幹細胞もしくは他の細胞の移植を受けた対象における、移殖後ウイルス感染、非ウイルス病原体による感染、もしくは腫瘍の再発を治療するために用いることができる。
【0011】
さらに、前記抗原特異的T細胞は、治療を必要とする対象、例えば特定のウイルスまたは腫瘍を認識するT細胞を必要とする対象に後に投与するために、有利に預け、または貯蔵することができる。
【0012】
他の実施形態において、本発明は、抗原の複数の決定基を認識する抗原特異的T細胞の集団を含む抗原特異的T細胞を提供し、これは、必要な場合、臍帯血またはナイーブ血液学的細胞移殖を受けていないものを含む他の対象の免疫系を増強または補助するために用い得る。そのような対象の例は、臓器移殖を受けたもの、免疫系切除を受けたもの、および免疫抑制されたまたは免疫不全のもの、例えば、日和見性の感染をしたもの、を含む。本発明は、ナイーブT細胞からは以前には決して行われていなかった臨床的に関連する方法において、ナイーブT細胞から複数のウイルス抗原に特異的なT細胞を生産する。いくつかの実施形態において、本発明自体は、他の日和見性のウイルス、これらに制限されるものではないが、例えばHHV6およびBKウイルスに容易に適用できる方法および使用である。それは、これらに制限されるものではないが、例えばEBVおよびHIVによるか関連するものに伴う悪性腫瘍に関連する病気からのウイルス特異的抗原を含むように拡張することができる。他の医療的使用は、生着の促進と、移殖前の免疫不全の患者に対する療法の提供を含む。
【0013】
限定するものではないが、本発明の実施形態は、他の療法、例えば、細胞生産物、リンパ球除去レジメン、エピジェネティック修飾薬、または他の抗菌もしくは抗腫瘍療法、と組み合わせることができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明は、異なる抗原提示細胞(樹状細胞、単球、K562細胞、PHA芽球、B-芽球、リンパ芽球細胞、およびCD3-CD28芽球)を刺激する異なるオーパーラッピングペプチドライブラリ、異なる刺激および増殖サイトカイン(制限されるものではないが、IL2、IL7、IL15を含む)、ならびに異なる選択方法(CD45RO枯渇等)を使用して抗原特異的T細胞を生成する。これらの細胞は、移殖後のウイルスまたは他の菌への感染を治療するために用いられる。
【0015】
他の実施形態において、本発明は、最も適合するドナーを選択する方法により、ナイーブT細胞から生産された抗原特異的T細胞の第三者預託を含む。
【0016】
本発明に基づく本発明の多くの実施形態の他の有利な特徴は、良好な製造の実施に適合する単純かつ反復可能な工程を含むということである。複数の複雑な、潜在的に非反復的であるか標準化できない工程を実施する必要はない。本発明の方法は、安全、単純、迅速および再現可能であり、種々の異なる患者のためのウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞を生産するために使用することができる。
【0017】
本発明による方法は、異なる移殖、例えば、臍帯血、幹細胞または他のナイーブドナー細胞の移植、を受けた異なる患者を標的にできる点で、広範な範囲のものである。例えば、これは、同一の臍帯血単位が移殖に用いられた場合の臍帯血移植を受けた患者のためのウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞を生産する唯一の方法であり、患者を日和見性の感染から保護するウイルスおよび他の抗原に特異的なT細胞の製造にも用いられる。
【0018】
本発明の具体的な非限定的実施形態は以下を含む:
1.ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を生産する方法であって、以下を含む方法:
(a)臍帯血試料またはナイーブ免疫細胞を含む他の試料からの単核細胞を2つの部分に分け;
(b)前記試料の第1の部分をPHAまたは他のマイトジェン、および/またはIL―2、と接触させ、ATC(「活性化T細胞」)を生産し、該ATCを、その成長を阻害する放射線または他の剤で処理し;
(c)T細胞およびT細胞前駆細胞(例えば、非付着細胞、CD3細胞)を、樹状細胞および樹状前駆細胞(例えば、付着細胞、CD11CまたはCD14細胞)から分離し;
(d)前記非付着細胞を凍結保存または他の手段で保存し;
(e)前記第2の部分中の付着細胞を、サイトカインもしくは樹状細胞を生成し成熟させる他の剤、ならびに少なくとも1種のウイルスもしくは他のペプチド抗原と接触させて、少なくとも1種のペプチド抗原を提示する抗原提示樹状細胞を生産し、前記抗原提示樹状細胞をその成長を阻害するに十分な放射線または他の剤で処理し;
(f)(d)から得られた凍結保存または他の手段で保存された非付着細胞を、(e)において生産された樹状抗原提示細胞とIL-7およびIL-15の存在下で接触させ、少なくとも1種のウイルス抗原またはペプチド抗原を認識する、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を生産し;
(g)(f)により生産されたウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を、任意に、K562細胞または他のアクセサリー細胞の存在下での少なくとも1種のペプチド抗原の存在下、かつIL-15の存在下で、(b)のATCと接触させ;任意に(g)を1回以上繰り返し;
(h)少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原を認識する、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を回収し;および
(i)任意に、前記抗原特異的T細胞を、それを必要とする対象に投与するか、または、前記抗原特異的T細胞を預けるかもしくは保存する。
2.(a)の前に、さらに、臍帯血またはナイーブT細胞を含む他の試料から単核細胞を分離することを含む、実施形態1の方法。
3.前記単核細胞が臍帯血から得られたものである、実施形態1または2の方法。
4.前記単核細胞が少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原にナイーブな幹細胞から得られたものである、実施形態1、2または3の方法。
5.前記単核細胞が、その免疫系が少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原にナイーブな対象からの幹細胞、前駆T細胞、またはT細胞を含む試料から得られたものである、実施形態1、2、3または4の方法。
6.(b)が、前記試料の第1の部分をPHAおよびIL-2と接触させてATC(「活性化T細胞」)を生産することを含む、実施形態1、2、3、4または5の方法。これらのATCは、後に使用するために冷凍保存または他の方法で預託してもよいし、すぐに使用してもよい。好ましくは、ATCまたはウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞のいずれも冷凍保存する必要なく、ATCはすぐに(f)において生産されたウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞と混合して使用する。例えば、(b)において調製されたPHA芽球は、プロセスの開始後14~16日後に、(f)において生産されたウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞に第2の刺激を与えるために使用することができる。
7.(b)において、約1,000,000~20,000,000、好ましくは約5,000,000~15,000,000,最も好ましくは約8,000,000~12,000,000の単球臍帯血細胞をPHAおよびIL-2に接触させることを含む、実施形態1、2、3、4、5または6の方法。
8.(b)が、T-芽球、B-芽球、リンパ芽球細胞または、CD3-CD28芽球の生産を含む、実施形態1、2、3、4、5、または7の方法。
9.前記第2の部分を固体培地に、所定時間、前記第2の部分中の細胞が前記固体培地に付着するために十分な条件で接触させ、その後、T細胞およびT細胞前駆細胞を前記固体培地から除去し、前記固体培地に付着した樹状細胞および樹状前駆細胞を回収することにより、T細胞およびT細胞前駆細胞が樹状細胞および樹状前駆細胞から分離される、実施形態1~8の何れか1の方法。あるいは、これらの2つの細胞集団は、各集団を特異的に認識する抗体もしくは他のリガンドの使用により、または、他の公知のセルソーティングの方法により、磁気的に分離することができる。分離された細胞集団は、後に使用するために冷凍保存または他の方法で預託してもよいし、T細胞または樹状細胞の生産のためにすぐに使用してもよい。これらの集団は、ウイルスもしく他のペプチド抗原により負荷された成熟樹状細胞、またはウイルスもしくは他の抗原に特異的なT細胞を生産する、ここに記載された次の処理ステップの後に、冷凍保存または他の方法で預託してもよい。
10.(e)において、前記樹状細胞および樹状前駆細胞を、IL-4およびGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の樹状細胞生成サイトカインに接触させる、実施形態1~9のいずれか1の方法。
11.(e)において、前記樹状細胞および樹状前駆細胞を、IL-4およびGM-CSFと共に、LPS、TNF-α、IL-1β、IL-6、PGE-1およびPGE-2からなる群から選択される樹状細胞成熟サイトカインまたは剤と接触させる、実施形態1~10のいずれか1の方法。
12.(f)において、または(f)の前に、前記樹状細胞および樹状前駆細胞を処理してCD45RA陽性細胞を増殖する、実施形態1~11のいずれか1の方法。
13.(f)において、または(f)の前に、前記樹状細胞および樹状前駆細胞を処理してCD45RO陽性細胞を枯渇させる、実施形態1~12のいずれか1の方法。
14.前記少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原が一連のオーバーラッピングペプチドを含む、実施形態1~14のいずれか1の方法。
15.前記少なくとも1種のウイルスまたは他の抗原特異的ペプチド抗原が腫瘍関連もしくは腫瘍特異的抗原を含む、実施形態1~14のいずれか1の方法。
16.前記少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原が、PRAME、NYESO、MAGE A4、MAGE A3、MAGE A1、サバイビン、WT1、ニューロエラスターゼ(neuroelastase)、プロテイナーゼ 3、p53、CEA、クローディン6、ヒストン H1、ヒストン H2、ヒストン H3、ヒストン H4、MART1、gp100、PSA、SOX2、SSX2、Nanog、Oct4、Myc、およびRasからなる群から選択される腫瘍関連もしくは腫瘍特異的抗原の決定基である、実施形態1~15のいずれか1の方法。
17.実施形態1~16のいずれか1の方法であって、前記少なくとも1種のペプチド抗原が、MHC-IもしくはMHC-II限定ウイルスに、由来もしくは関連するペプチドを含むウイルスの決定基を含む、方法。それらのウイルスは、日和見性またはジカウイルスのような新興ウイルス病原体や他の疾患関連ウイルスを含む。
18.前記少なくとも1種のペプチド抗原が、フィロウイルスの決定基、例えば、エボラウイルス由来のGP、NP、VP40、VP35、VP30、またはVP24の決定基を含む、実施形態1~17のいずれか1の方法。
19.前記少なくとも1種のペプチド抗原が、麻疹ウイルスの決定基、例えば、抗原P、V、C、M、N、F、P、またはLの決定基を含む、実施形態1~18のいずれか1の方法。
20.前記少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原が、日和見性のウイルス病原体からのウイルス抗原、新生児先天性または子宮内病原体、例えば、風疹、サイトメガロウイルス(CMV)、パルボウイルスB19、水痘帯状疱疹(VZV)、エンテロウイルス、HIV、HTLV-1、C型肝炎、B型肝炎、ラッサ熱、および日本脳炎からのウイルス抗原;または、周産期もしくは新生児の病原体、たとえば、ヒト単純ヘルペス、VZV、エンテロウイルス、HIV、B型肝炎、C型肝炎、HTLV-1、ジカウイルスもしくは脳炎ウイルスからのウイルス抗原に対応する一連のオーバーラッピングペプチドである、実施形態1~19のいずれか1の方法。
21.前記少なくとも1種のウイルスペプチド抗原が、CMV抗原の全体もしくは部分のオーバーラッピング断片に対応する、もしくはその構成要素となる、一連のオーバーラッピングペプチドである、実施形態1~20のいずれか1の方法。
22.前記少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原が、エプスタインバーウイルス(EBV)抗原またはアデノウイルス抗原に対応する一連のオーバーラッピングペプチドである、実施形態1~21のいずれか1の方法。
23.前記少なくとも1種のウイルスまたは他のペプチド抗原が、日和見性または新興ウイルス病原体の複数のウイルス抗原からのペプチドまたは一連のペプチドを含む、実施形態1~22のいずれか1の方法。
24.前記少なくとも1種のペプチド抗原が、細菌抗原の決定基を含む、実施形態1~23のいずれか1の方法。
25.前記少なくとも1種のペプチド抗原が、マイコバクテリウムの決定基、例えば、Mycobacterium tuberculosisからのESAT6、HLPMt、PPE5、MVA85A、AG85、PSTS1、ACR、HSP65、GroES、EsxA、EsxB、MPB70の決定基、を含む、実施形態1~24のいずれか1の方法。
26.前記少なくとも1種のペプチド抗原が、真菌性、寄生性、または他の真核性の病原体の決定基を含む、実施形態1~25のいずれか1の方法。
27.前記少なくとも1種のペプチド抗原が、哺乳動物の組織適合性抗原または他の哺乳動物抗原を含む、実施形態1~26のいずれか1の方法。
28.(f)において、(d)からの前記非付着細胞を(e)において作成された樹状抗原提示細胞に、(d):(e)が1:1~200:1の範囲、好ましくは5:1~100:1の範囲、最も好ましくは5:1~20:1の範囲の比率で接触させる、実施形態1~27のいずれか1の方法。
29.(g)が、さらに前記ウイルス抗原に特異的なT細胞を、HLA-陰性に改変されたK562細胞、CD80、CD83、CD86、及び/もしくは4-1BBLを発現するK562cs細胞、または他のアクセサリー細胞に接触させることを含む、実施形態1~28のいずれか1の方法。
30.(g)が、(f)において製造された前記T細胞を、ATCおよびK568細胞に、T細胞とATCとの比率が10:1~1:1の範囲、好ましくは5:1~2:1の範囲、および最も好ましくは約4:1で接触させることを含む、実施形態1~29のいずれか1の方法。
31.さらに、(h)において回収された前記ウイルスまたは他のペプチド抗原に特異的なT細胞について、IL-2の存在下で(g)を繰り返すことをさらに含む、実施形態1~30のいずれか1の方法。
32.実施形態1~31のいずれか1の方法により得られた、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を含む組成物。
33.実施形態1~31のいずれか1の方法により得られたウイルスまたは他の抗原に特異的な生存T細胞が冷凍または他の手段で保存された複数の試料を含む、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞バンク。
34.実施形態1~31のいずれか1の方法により得られた、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を、それを必要とする対象に投与することを含む、処置の方法。
35.前記対象が、前記のウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞と部分的に組織適合性である、実施形態34の方法。
36.前記対象が、前記のウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞と完全に組織適合性である、実施形態34の方法。
37.前記対象の免疫系が、前記ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を製造するために使用したのと同一の臍帯血細胞または同一のナイーブ免疫細胞により再構築されている、実施形態34~36のいずれか1の方法。
38.前記対象が免疫不全の状態である、実施形態34~37のいずれか1の方法。
39.例えば、放射線、化学療法、感染または免疫抑制により、前記対象の免疫系が除去され、またはリンパ球が枯渇している、実施形態34の方法。
40.前記対象が同種移殖または他の移植を受けている、実施形態34~39のいずれか1の方法。
41.前記対象の免疫系が、製造された前記ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞により認識される抗原に対してナイーブである、実施形態34~40のいずれか1の方法。
42.前記ウイルスもしくは他の抗原に特異的なT細胞がサイトメガロウイルス抗原もしくは抗原決定基を認識するか、または、前記ウイルスもしくは他の抗原に特異的なT細胞がエプスタインバーウイルスの抗原もしくはその抗原決定基を認識する、実施形態34~41のいずれか1の方法。
43.前記ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞がアデノウイルス抗原または抗原決定基を認識する、実施形態34~42のいずれか1の方法。
44.前記ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞が、1種以上の日和見性のウイルス病原体の多重抗原または抗原決定基を認識する、実施形態34~43のいずれか1の方法。
45.前記ウイルスに特異的なT細胞が、CMV、アデノウイルス、BKウイルス、ヒトヘルペスウイルス-6(HHV6)もしくは他のヘルペスウイルス、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス、および水痘帯状疱疹ウイルスからなる群から選択される、日和見性のウイルス病原体の少なくとも1種のウイルス抗原を認識する、実施形態34~44のいずれか1の方法。
46.前記ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞が、院内もしくは医原的に獲得した、または、病院内の対象に伝達した(例えば、院内感染)日和見性のウイルス病原体の少なくとも1種の抗原を認識する、実施形態34~45のいずれか1の方法。
47.臍帯血またはナイーブ免疫細胞を含む他の試料から単離された単核細胞、PHAまたは他のマイトジェン、IL-2および前記細胞の生存を維持する培地、ならびに、任意に、T細胞を同時刺激するK562細胞または他の非自己細胞を含む組成物であって、ここで、任意に、前記細胞は増殖を妨げるように処理されている、組成物。
48.以下を含む組成物:
(i)樹状細胞および樹状前駆細胞(例えば、付着細胞、CD11CまたはCD14細胞)から分離された、T細胞およびT細胞前駆細胞(例えば、非付着細胞、CD3細胞)、
(ii)IL-7およびIL-15、ならびに
(iii)前記T細胞およびT細胞前駆細胞の生存を維持する培地。
49.前記単核細胞、T細胞またはT細胞前駆細胞を、少なくとも1種のペプチド抗原により接触、または刺激された樹状細胞に接触させ、ここで、前記組成物は、前記少なくとも1種のペプチド抗原を認識する単核細胞、T細胞もしくはT細胞前駆細胞を含む、実施形態47または48のいずれか1の組成物。
50.T細胞およびT細胞前駆細胞(例えば、非付着細胞、CD3細胞)から分離された樹状細胞および樹状前駆細胞(例えば付着細胞、CD11CまたはCD14細胞)、樹状細胞を生成および成熟させる少なくとも1種の剤、および前記細胞の生存を維持する培地を含み、ここで、任意に、前記細胞は1種以上のペプチド抗原に接触され、および、任意に増殖を妨げるように処理される、組成物。
51.実施形態47~50のいずれか1の前記組成物の1種以上の試料と貯蔵または冷凍培地との組み合わせを含む細胞バンクまたは細胞貯蔵施設であって、前記1以上の試料が、任意に、DNAの全配列または部分配列情報、少なくとも1つの主要および/もしくは非主要組織適合抗原またはマーカーを含む組織適合性を記述する情報、ならびに/またはそれが含むもしくは認識する抗原に関する情報を含む、そのソースを記述する情報により関連付け、同定または索引付けられる、細胞バンクまたは細胞貯蔵施設。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面は、特に、本発明の非制限的な実施形態を示すものである。
図1図1 樹状細胞、PHA芽球惹起、および非付着細胞の冷凍保存。
図2図2 樹状細胞の成熟およびペプチド抗原による刺激。
図3図3 樹状細胞による第1のT細胞刺激。
図4図4 第2の次のT細胞刺激。
図5図5 本発明の1実施形態の一般的記述。
【好ましい具体例の詳細な説明】
【0020】
「アクセサリー細胞」は、K562細胞のような、T細胞によるペプチド抗原の認識のための共刺激を提供する、または、他のやり方でT細胞の認識を補助する細胞であり、ペプチド抗原の存在下で刺激または増殖される。
【0021】
本発明における「活性化T細胞」または「ATC」は、臍帯血もしくはナイーブな免疫細胞を含む他の試料中の単核細胞を、フィトヘマグルチニン(PHA)およびインターロイキン(IL)-2のようなマイトジェンに対し曝露することにより得られる。
【0022】
「抗原」は、ヒト免疫系の細胞性もしくは体液性部門等により認識されるポリペプチド、ペプチド、またはグリコもしくはリポペプチドのような分子を含む。「抗原」という用語は、MHC分子に結合する、MHCクラスIもしくはII複合体の部分を形成する、もしくはそれらの分子と複合したときに認識される、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22またはそれ以上のアミノ酸残基長のペプチドのような抗原決定基を含む。
【0023】
「抗原提示細胞(APC)」は、免疫系の特定のエフェクター細胞により認識されるペプチド-MHC複合体の形態における1以上の抗原を提示することができる細胞のクラスのことであり、それにより、抗原または提示される抗原に対する効果的な細胞免疫応答を誘導する。プロフェッショナルAPCの例は樹状細胞およびマクロファージであるが、MHCクラスIまたはII分子を発現する細胞であれば潜在的にペプチド抗原を提示できる。
【0024】
「対照」は、試験される試料または対象と比較されるために用いられる参照試料または参照対象である。陽性対照は予想される反応を測定し、陰性対照は反応しないことが予想される試料に対する基準点を提供する。
【0025】
「臍帯血」は、本技術分野における通常の意味を有し、胎盤および出産後臍帯中に残存する血液を意味し、造血幹細胞を含む。臍帯血は、そのままか、冷凍保存され、または臍帯血バンクから入手できる。
【0026】
「サイトカイン」という用語は、本技術分野における通常の意味を有する。本発明で用いられるサイトカインの例には、IL-2、IL-7およびIL-15が含まれる。
【0027】
「樹状細胞」または「DC」という用語は、多くのリンパまたは非リンパ組織において見られる形態学的に類似の細胞型の多様な集団を意味する(Steinman、 Ann. Rev. Immunol. 9:271-296 (1991)を参照)。本発明の1つの実施形態は、臍帯血由来の樹状細胞および樹状細胞前駆細胞を含む。
【0028】
「エフェクター細胞」という用語は、抗原に結合するか、または抗原を認識することができ、免疫反応を媒介する細胞を意味する。ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞はエフェクター細胞である。
【0029】
「単離された」という用語は、材料が通常含まれている成分から分離されることを意味し、例えば、単離された臍帯血単核細胞は、赤血球細胞、血漿、および他の臍帯血の成分から分離することができる。
【0030】
「ナイーブ」なT細胞または他の免疫エフェクター細胞とは、その細胞を活性化することができるペプチド抗原を提示する抗原提示細胞に曝露または刺激されていないものである。
【0031】
本願の意味における「ペプチドライブラリ」または「オーパーラッピングペプチドライブラリ」は、タンパク抗原、特に日和見性のウイルスのもの、の部分または完全配列を全体としてカバーする複合混合物である。前記混合物中の連続するペプチドは互いに重複しており、例えば、ペプチドライブラリは15アミノ酸長のペプチドで構成され、ライブラリ中において隣接するペプチドは11アミノ酸残基オーバーラップし、タンパク抗原の全長に亘っていてよい。ペプチドライブラリは、商業的に利用可能であり、特定の抗原に対して特別生産することができる。抗原提示細胞を接触、刺激または負荷する方法は周知であり、Ngo, et al. (2014)への参照によりここに組み込まれる。ペプチドライブラリはJPTから得ることができ、ウェブサイトhttps://www.jpt.com/products/peptrack-peptide-libraries/(最終アクセス、2016年3月21日)への参照によりここに組み込まれる。
【0032】
「前駆細胞」という用語は、特定の種類の細胞に分化または変化し得る細胞を意味する。例えば、「T細胞前駆細胞」は、T細胞に分化でき、「樹状前駆細胞」は樹状細胞に分化できる。
【0033】
「対象」は脊椎動物であり、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトである。哺乳動物は、以下に制限されないが、ヒト、類人猿、馬、牛、豚、犬、猫、マウス、他の家畜、競技動物(sport animals)、またはペットを含む。対象は、例えばリンパ球減少症に罹っているもの、免疫系除去をうけたもの、移植および/もしくは免疫抑制レジメンを受けているもの、ナイーブもしくは発達中の免疫系を有するもの、例えば新生児、または臍帯血もしくは幹細胞移植を受けているもののような、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を必要とするものを含む。
【0034】
本発明の実施形態において、図1、2、3および4に記載され以下に詳細に説明されるように、臍帯血は、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞を生産するために使用される。
【0035】
工程1。図1に示されるように、臍帯血単位は、単核細胞(MNC)を単離するために処理される。MNCから3つのサブセットが単離され増殖される:1)未成熟樹状細胞(DC)、これはプラスチックへの付着により単離される、2)T細胞を含む分画、非付着細胞、これは後に使用するために冷凍保存される、および3)PHA芽球、これは、後に抗原提示細胞として使用される非特異的な活性化T細胞である。これらは約5,000,000のMNCから生成される。一旦付着すると、付着細胞(DC)にIL-4およびGM-CSFが与えられる。この方法は、PHA芽球が出発材料(典型的には冷凍保存されたもの)から生成される点で新規である。
【0036】
工程2。図2に示されるように、開始後約5日で、樹状細胞は、IL-4、GM-CSF、IL-1β、TNF-α、PGE-2、IL-6、およびLPSを含むサイトカインカクテルの添加により成熟する。LPSはこの応用において新規である。末梢血の設定においてDCに対する付着を使用している点もまた相違している(それはDC前駆細胞の富化のためにCD14選択を使用している)。
【0037】
工程3において、図3に示されるように、当初、成熟樹状細胞はオーバーラッピングペプチドにより刺激され、それが増殖しないように放射線照射され、そしてその後、IL-7とIL-15の存在下で、(解凍された)非付着細胞と組み合わせられる。IL-12はもはや使用されない。
【0038】
工程4において図4に示されるように、培養の開始から約14~16日(第1のT細胞刺激から7~9日)で、(同一の臍帯血由来の)PHA芽球は、同一のオーバーラッピングペプチドにより刺激され、放射線照射され、そしてK562細胞と組み合わせられる;これら2つの組合せは、予め増殖されたT細胞に対する抗原提示細胞として作用する。ペプチドで刺激されたPHA芽球およびK562の使用は、以前の臍帯血生成手続とは異なっている。この実施形態においては、T細胞を増殖後に凍結する必要がない点で有利である。従来の方法は、継続して行う前にLCLが準備できるのを待つ必要があった。LCLを待つ必要がないため、抗原特異的細胞は、60日ではなく約30日で生産できる。以前の方法との他の相違は、CD3/CD28芽球の代わりにPHA芽球が用いられることであり、T細胞の多くがメモリー細胞である末梢血が使用される従来の手順とは、PHAに応答するT細胞はナイーブなT細胞である点で相違する。
【例】
【0039】
臍帯血からのウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞の生産および増殖
臍帯血から単離された非付着単核細胞(例えば、ナイーブT細胞)は、臍帯血中の非付着細胞(例えば、単球、樹状細胞等)から調製された、放射線処理されたペプチド刺激抗原提示細胞との接触により刺激され、その後、臍帯血から非特異的に増殖された放射線処理されたペプチド刺激抗原提示細胞により刺激された。この方法により、臍帯血から、ウイルスまたは他の抗原に特異的なT細胞が生産された。
【0040】
特に、単核細胞が、臍帯血から、フィコール密度勾配上で、ほとんど加速及びブレーキなしの室温での800xgで20分の遠心分離により単離された。約10,000,000の単離された単核細胞は、「活性化T細胞」または「ATC」としても知られる非特異的な増殖T細胞(抗原提示細胞)を生産するために保存された。この場合、フィトヘマグルチニン(PHA)が、ATCを刺激するために使用された。
【0041】
残りの単離された単核細胞は、Cellgenix CellGro無血清培地を含む組織培養プレート上に蒔かれた。1~2時間後、組織培養プレートは非付着細胞を除去するためにPBSで洗浄され、後の使用のために冷凍保存され保管された。
【0042】
洗浄後に細胞培養プレートに付着している細胞は、サイトカインと混合され、樹状細胞(DC)を生成した。これは、細胞を1000U/mLのインターロイキン(IL)-4、および800U/mLの顆粒球マクロファージ/コロニー刺激因子(GM-CSF)と接触させ、その後、1000U/mLのIL-4および800U/mLのGM-CSFに加えて、30ng/mLのリポ多糖(LPS)、10ng/mLの腫瘍壊死因子α(TNF-α)、10ng/mLのIL-1β、100ng/mLのIL-6、および1ug/mLのプロスタグランジン(PGE)-2もしくはPGE-1と接触させることによりなされた。
【0043】
樹状細胞は、開始から7日間成熟され、細胞当たり約200ngのオーパーラッピングペプチドライブラリから得られた各ペプチドを含むオーバーラッピングペプチドのプールにより刺激された。この場合、我々は、CMVからのIE-1およびpp65、アデノウイルスからのヘキソンおよびペントン、ならびにEBVからのLMP2およびBZLF-1を含むJTP由来のオーバーラッピングペプチドを使用した。これらのオーバーラッピングペプチド混合物または「ペプミックス(Pepmixes)」は、タンパク(抗原)全体にわたる15アミノ酸のペプチドからなり、隣接するペプチドと11アミノ酸がオーバーラップしている。これは、MHCクラスの制限に関わらず、CD4+およびCD8+T細胞の双方の増殖を可能にする。成熟樹状細胞のオーバーラッピングペプチドのプールによる刺激に続いて、前記細胞は、その増殖を防止するために25Gyで放射線照射を受けた。
【0044】
このとき、予め細胞培養プレートから洗い流された冷凍保存された非付着細胞は解凍され、ペプチド刺激樹状細胞と共に、おおよそDCが1に対し非付着細胞が10の割合で、サイトカイン、10ng/mLのIL-7および5ng/mLのIL-15の存在下で、蒔かれた。これは、冷凍保存された非付着単核細胞(例えば、ナイーブT細胞)の当初抗原刺激に相当する。細胞は、45%のAdvanced RPMI、45%のClick’s(EHAA)培地、10%のヒトAB血清、および200mMのGlutamaxを含むナイーブT細胞特異的な培地中で培養された。
【0045】
冷凍保存された非付着細胞は、放射線照射された(DCに対し25Gy、ATCおよびK562に対して75Gy)ペプチド刺激非付着細胞(例えば、ナイーブT細胞)の存在下で、8~10日間培養され、その後、収集され、T細胞の数が決定され、T細胞培地中で再懸濁された。
【0046】
再懸濁されたT細胞は、放射線照射されたATCと接触させられ、これは、臍帯血の付着単核細胞由来の放射線照射された成熟樹状細胞上に提示されるオーバーラッピングペプチドの同一のプールにより、1のT細胞に対し、放射線照射されたATCが1、K562細胞が5の割合で、サイトカインIL-15(5ng/mL)の存在下で、続けてIL-2サイトカイン(50-100U/mL)を週2回与えることにより刺激された。この第2の刺激の後で、オーバーラッピングペプチドのプール中の抗原決定基を認識するT細胞が回収された。これは、IFN-γによるT細胞活性化を評価するELISPOTアッセイ、およびクロム放出細胞毒性アッセイにおけるT細胞の細胞溶解能力を評価することにより達成された。
【0047】
本明細書において言及した全ての文献及び特許出願は、各文献または特許出願が具体的かつ個別に、参照により本願に組み込まれることが示された場合と同様に、参照により本願に組み込まれる。
【0048】
ここに十分に開示した本発明によれば、本技術分野の当業者にとって、以下の請求項の精神および範囲から逸脱しない限り、それについて多くの変更および修正が可能であることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5