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特許7362332チオリン酸リチウム複合体材料のマイクロ波合成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】チオリン酸リチウム複合体材料のマイクロ波合成
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/14 20060101AFI20231010BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231010BHJP
   C01D 15/06 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C01B25/14
H01M10/0562
C01D15/06
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019136447
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2020015661
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】16/043,944
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】ジョン マルドゥーン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ジェイ.ボニック
(72)【発明者】
【氏名】須藤 貢治
(72)【発明者】
【氏名】長井 英里香
(72)【発明者】
【氏名】仁井谷 啓太
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518016(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0117020(US,A1)
【文献】国際公開第2013/069083(WO,A1)
【文献】特開2015-011901(JP,A)
【文献】特開2015-232965(JP,A)
【文献】CALPA M. et al.,RSC Advances,2017年,Vol.7,PP.46499-46504,DOI:10.1039/c7ra09081a
【文献】LIU Z. et al.,Journal of the American Chemical Society,2013年,Vol.135,PP.975-978,DOI:10.1021/ja3110895
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/14
H01M 10/0562
H01B 1/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiS;

任意的に、成分B;及び
非水極性溶媒;
から成る、無水混合物を調製すること
前記無水混合物を混合し、前記LiS、P、及び存在する場合には前記成分Bを少なくとも部分的に溶解すること;
記無水混合物に、マイクロ波エネルギーを照射して、反応温度を、目的のチオリン酸リチウム複合体の合成のための最適値に上げて、目的のチオリン酸リチウム複合体を得ること;及び
得られたチオリン酸リチウム複合体から、前記極性溶媒を除去すること;
を含み;
LiSの、P、及び存在する場合にはBに対するモル比が、目的のチオリン酸リチウム複合体の組成によって決定され、かつ、
存在する場合には前記成分Bは、Li N、P Li O、LiN 、GeS 、又はLiX(Xは、I、Cl、若しくはBr)から成る群から選択される少なくとも1種の化合物である、
目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【請求項2】
前記非水極性溶媒が、エーテル、ニトリル、アルコール、カーボネート、及びエステルから成る群から選択され、前記極性溶媒が、目的のチオリン酸リチウム複合体の相転移温度未満の温度において、減圧下で揮発性である、請求項1に記載の目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【請求項3】
前記マイクロ波エネルギーを、前記無水混合物に照射して、前記温度を50℃以上200℃以下の値に上昇させて、反応を誘導する、請求項1に記載の目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【請求項4】
マイクロ波誘導反応の時間が、30分以上5時間以下である、請求項1に記載の目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【請求項5】
前記目的のチオリン酸リチウム複合体がアモルファスLiPSであり、LiS/Pの比が約3/1であり、前記溶媒がテトラヒドロフランであり、かつ、B成分が存在しない、請求項1に記載の目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【請求項6】
前記目的のチオリン酸リチウム複合体がLi11であり、LiS/Pの比が約70/30であり、前記溶媒がテトラヒドロフラン又はアセトニトリルであり、かつ、B成分が存在しない、請求項1に記載の目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【請求項7】
前記目的のチオリン酸リチウム複合体がxLiS・yP・(100-x-y)Bであり、LiS/Pの比が約x/yであり、B成分が100-x-yの量で存在する、請求項1に記載の目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製品の品質、運転時間、及びエネルギー所要量の点で、工業的規模のプロセスに有用な、チオリン酸リチウム複合体材料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用電子機器の革命、特に携帯電話及びラップトップを可能にした、ユビキタスなLi-イオンバッテリーは、社会の不可欠な一部となっている。次の段階は、バッテリーに対する社会の依存性を更に強化する、交通運輸及びグリッドストレージ産業におけるバッテリーの統合である。最先端のLiイオンセルは、カーボネート系有機溶媒に溶解されたヘキサフルオロリン酸リチウム塩を含有する液体電解質を利用している。近年、無機固体電解質が、可燃性を有し、現在の環境問題となっている、液体電解質の優れた代替品であることが、より明確になっている。
【0003】
可燃性有機液体電解質を固体状のLiイオン導電性相で置き換えることにより、この安全性の問題が緩和され、向上された機械的及び熱的安定性のような、更なる利点が提供され得る。固体状Liイオン導電性相は、通常、固体状Liイオン導電体又は固体電解質と呼ばれ、その第1の機能は、バッテリー内の電極間を電子が直接移動することを防止しながら、放電の際にはアノード側からカソード側に、充電の際にはカソード側からアノード側に、Liイオンを伝導することである。
【0004】
更に、非水電解液を有するリチウムバッテリーは、放電及び充電サイクルを繰り返すと、アノードからカソードに突出する、樹枝状のリチウム金属構造体を形成することが知られている。このような樹枝状構造体がカソードまで突起してショートしたとしたら、及びしたとき、バッテリーのエネルギーは急激に解放され、非水電解液の有機溶媒の発火が開始され得る。
【0005】
したがって、全固体リチウムバッテリーを導くことができる、新規な固体Liイオン導電性材料の発見に、多大な興味及び努力が集中されている。
過去数十年の研究では、主として、例えば、LISICON(Li14ZnGe16)、NASICON(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)、ペロブスカイト(例えば、La0.5Li0.5TiO)、ガーネット(LiLaZr12)、LiPON(例えば、Li2.88PO3.730.14)等のイオン導電性酸化物、並びに、例えば、LiPS、Li11、及びLGPS (Li10GeP12)等の硫化物に焦点が当てられていた。
【0006】
一般に、リチウム複合硫化物は、よりよいイオン導電性及び展性を提供する傾向がある。Ceder等(Nature Materials,14,2015,1,026-1,031)には、公知のLiイオン導電体Li10GeP12及びLi11に関し、効果的なLi導電性結晶格子の構造的特性について、両材料の硫黄の部分格子がbcc格子構造に非常によくマッチしていると記載されている。更に、隣接する四面体配位のLi格子サイトへのLiイオンホッピングが、活性化エネルギーの最も低い経路を提供していることが示された。しかしながら、これらの材料の有用性は、これら材料の公知の空気との反応性によって妨げられた。現在、全固体リチウムイオンバッテリーにおける、不揮発性、かつ熱的に安定な固体状電解質として使用するために、チオリン酸リチウム(LTP)が研究されている。チオリン酸リチウム固体状電解質の最も注目すべき例は、例えば、LiPS、Li11、及びLi10GeP11である。熱的に安定な固体電解質は、熱管理を簡素化し、バイポーラー積層構造を可能として、その結果、液状電解質を含むLiイオンバッテリーで可能なところを超えて、エネルギー密度を劇的に向上させることにより、バッテリーパックデザインのパラダイムシフトを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来から、LTP電解質は、機械化学的粉砕法(すなわち、ボールミル)又は液体急冷法によって合成されている。合成からのアプローチとして、ボールミル法は研究しつくされており、ボールミル法が、コスト効率よく大規模合成へスケールアップできるかどうかについては、議論の余地がある。例えば、アモルファスLiPS(すなわち、a-LiPS)を作製するためには、LiS及びP両粉末を、ステンレス鋼ボールを充填したステンレス鋼製の筐体(enclosure)中に入れ、3日間振とう又は回転させた後に、生成物を篩い分けて、ステンレス鋼製筐体及びボールを洗浄する。この方法では、粗大な、不均一な粒径を生じることもあり、所望の粒径を得るために、引き続いて粉砕することを要する。製造の観点から、この技術をスケールアップすると、労働集約型及びエネルギー集約型になろう。LTPの溶液合成は、数多くの利点を提供する代替策であるが、典型的には、1~3日間を要し、機械化学的粉砕法と比べて時間の節約にはならない。
【0008】
従来から、a-LiPSは、モル比3:1のLiS及びP両粉末を、72時間、機械化学的に粉砕することによって合成されている。アモルファス相は、その向上された導電性のため、結晶相(α、β、γ)よりも望ましい。例えば、25℃において、結晶性のβ-LiPSは、約0.001mS/cmの導電性を有するが、a-LiPSは、約0.1mS/cmの導電性を有する。
【0009】
したがって、本願の目的は、工業的スケールにおける製品の提供に好適な、一連のチオリン酸リチウム複合体材料の調製方法を提供することである。
【0010】
他の目的は、アモルファスLiPSの製造方法を提供することである。
【0011】
他の目的は、Li11の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの及び他の目的は、本願の実施態様によって達成される。第1の実施態様は、以下を含む。LiS;P;任意的に、成分B;及び非水極性溶媒;を含む、無水混合物を調製すること;前記無水混合物を、空気及び湿度から保護すること;前記無水混合物を混合し、前記LiS、P及び存在する場合には前記成分Bを少なくとも部分的に溶解すること;前記保護された無水混合物に、マイクロ波エネルギーを照射して、反応温度を、目的のチオリン酸リチウム複合体の合成のための最適値に上げて、目的のチオリン酸リチウム複合体を得ること;並びに、得られたチオリン酸リチウム複合体から、前記極性溶媒を除去すること;を含み;LiSの、P、及び存在する場合にはBに対するモル比が、目的のチオリン酸リチウム複合体の組成によって決定される、目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法。
【0013】
第1の実施態様の見地では、成分Bが存在するとき、成分Bは、LiN、PLiO、LiN、GeS、又はLiX(Xは、I、Cl、若しくはBr)から成る群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0014】
第1の実施態様の他の見地では、非水極性溶媒は、エーテル、ニトリル、アルコール、カーボネート、及びエステルから成る群から選択され、ここで、前記極性溶媒は、目的のチオリン酸リチウム複合体の相転移温度未満の温度において、減圧下で揮発性である。
【0015】
第1の実施態様の特別の見地では、目的のチオリン酸リチウム複合体がアモルファスLiPSであり、LiS/Pの比が約3/1であり、溶媒がテトラヒドロフランであり、かつ、B成分が存在しない。
【0016】
第1の実施態様の他の特別の見地では、目的のチオリン酸リチウム複合体がLi11であり、LiS/Pの比が約1.05/0.45であり、溶媒がアセトニトリルであり、かつ、B成分が存在しない。
【0017】
第1の実施態様のより一般的な見地では、目的のチオリン酸リチウム複合体がxLiS・yP・(100-x-y)Bであり、LiS/Pの比が約x/yであり、かつ、B成分が100-x-yの量で存在する。
【0018】
前述の段落は、一般的な導入として提供されており、後述の特許請求の範囲の制限を意図したものではない。記載された実施態様は、下記の詳細な説明を、添付の図面とともに参照することによって、更なる利点とともに最もよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、種々の溶媒中でマイクロ波を照射した3LiS:P試料のラマンスペクトルを示す。
図2図2は、LiS及びPのモル比3:1、THF中のマイクロ波反応の不溶生成物のラマンスペクトルを示す。
図3図3は、THF中で合成した、マイクロ波照射LiPSのTGA曲線を示す。
図4図4は、マイクロ波照射LiPS・nTHFのSEM像である。
図5図5は、アモルファス(a-、グレイの線)及び結晶性(β-、黒線)LiPSのXRDパターンを示す。
図6図6は、EISによって測定した、a-LiPSのLi導電性のアーレニウスプロットを示す。
図7図7は、マイクロ波照射のα-LiPSを用い、25℃において、0.1mA/cmにおける2時間のハーフサイクルにて、20サイクルさせたときの、Li/a-LiPS/Liセルのサイクル挙動を示す。
図8図8は、LiS及びPのモル比7:3の反応から得られた粉末のラマンスペクトルを示す。
図9図9は、THF中で合成された、マイクロ波照射Li11前駆体のTGA曲線を示す。
図10図10は、LiS及びPのモル比7:3の反応から得られた粉末のラマンスペクトルを示す。
図11図11は、ACNが配位したLi11前駆体のTGA曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書を通して、「電気化学セル」及び「バッテリー」の語は、記載の文脈が電気化学セルをバッテリーから明確に区別していない限り、互換的に用いられている。更に、「固体電解質」及び「固体イオン導電体」の語は、相違するものと明確に指定されていない限り、互換的に用いられている。「約」の語は、数値と連結しているとき、基準値の-10%から基準値の+10%までの範囲を伝達する。
【0021】
本発明者らは、式(I)のチオリン酸リチウム複合体の検討を、一般的に行っている:
xLiS・yP・(100-x-y)B
Bは、LiN、PLiO、LiN、GeS、又はLiX(Xは、I、Cl、若しくはBr)から成る材料群から選択される複合材料であり、x及びyのそれぞれは、LiS、P、及びBの合計の質量%が100%となるような、33.3%以上50%以下の質量%値を示す。対象のチオリン酸リチウム複合体は、LiPS、Li11、及び Li10GeP11も含む。本開示の背景技術に記載したように、これらのチオリン酸リチウム複合材料を調製するための公知の方法は、冗長であり、高品質の生成物が得られないことがよくあり、かつ、工業的商業的バッチサイズへのスケールアップに適さない。したがって、本発明者らは、これらの目的化合物を合成する代替法の検討に着手した。この検討の中で、マイクロ波合成について研究した。
【0022】
マイクロ波照射は、無機及び有機材料双方の合成に、成功裏に適用されている。例えば、Kawajiら(US2016/0181657)は、+2、+3、+4、及び+5金属のうちの1つ以上でドープされた、LiSn系複合材料の固相合成について記載している。従来からの加熱方法と比較して、マイクロ波によって加熱される反応によると、より穏やかな反応条件、及び、場合によってはより短い反応時間で、より高い収率を生じ得る。マイクロ波は、高周波の電界を伴い、極性分子及び荷電された種を振動させて、摩擦を通して非常に迅速に熱を発生する。更に、熱は、対流又は伝導を介して反応サイトに向かって流れるのとは対照的に、反応容器全体に均一に発生する。
【0023】
Li導電性LTP固体状電解質の場合には、LiS反応原料が、Li及びS2-両イオンから構成されている塩であり、マイクロ波の電界と強く相互作用して、局所的に熱を発生することができると、本発明者らは考えた。
更に、マイクロ波反応容器は密封されているから、溶媒が存在した場合、当該溶媒はその沸点を超えて加熱されることができ、LiS及びPを含む反応原料の溶媒中への溶解性を増やし得る可能性がある。
【0024】
本発明者らは、実施例に記載したように、アモルファスLiPS (α- LiPS)及び結晶性Li11の合成について検討した。予想に反し、Kawajiらが記載したような固相合成法は、目的の結果を達成しなかった。しかしながら、驚くべきことに、極性有機溶媒中で、顕著に低い温度においてマイクロ波合成を行ったときに、目的の生成物を高収率で得られることが見出された。
【0025】
従来から、α-LiPSは、モル比3:1のLiS及びP両粉末を、72時間、機械化学的に粉砕することによって合成されている。アモルファス相は、その向上された導電性のため、結晶相(β、γ)よりも望ましい。例えば、25℃において、結晶性のβ-LiPSは、約0.001mS/cmの導電性を有するが、α-LiPSは、約0.1mS/cmの導電性を有する。初めに、溶媒の不存在下で、LiS及びP両粉末の直接反応による固相マイクロ波合成を試みた(実施例1)。反応は、290℃において、Pを融解させて、40分間行った。ラマンスペクトル(図1)は、次亜チオリン酸塩(P 4-アニオン)及びオルト-チオリン酸塩(PS 3-アニオン)の存在を示したが、PS 3-アニオンは見られなかった。XRDによって、結晶性のLi及びβ-LiPSの存在も確認された。
【0026】
次いで、ソルボサーマルマイクロ波誘導反応における、溶媒及び顕著に低い反応温度の影響について検討した。LiS及びPの少なくとも一部が溶解する溶媒を選択した。図1に示すように、無水極性溶媒-例えば、ジブチルエーテル、グリム、テトラグリム、1,3-ジオキサン、アセトニトリル、及びテトラヒドロフラン(THF)-中、100℃から200℃までの反応温度において、ラマンスペクトルにより、生成物中に目的のPS 3-アニオンが存在することが示された。驚くべきことに、THF中、130℃において30分間反応を行ったとき、PS 3-アニオンは、図2に示すように、残りのLiSとともにβ-LiPSとして、唯一の生成物であった。反応時間を3時間に延ばすと、残りのLiSが除去されたが、やはりβ-LiPSが生成された(図2)。図3に示すとおり、熱重量分析(TGA)によって、THF分子は80℃以上130℃以下の温度範囲で容易に除去されることが示された。TGA曲線における重量減少から、2LiPS・5THFの化学組成が示唆された。約130℃(ホットプレート上)にて3時間、溶媒を除去した後、粉末をペレット状にプレスし、2本のステンレス鋼製のロッド間で圧縮して、電気化学インピーダンススペクトル(EIS)を用いて、25℃において、Li導電率を測定した。このβ-LiPSの導電率は、0.0086mS/cmであり、ボールミルによって合成したβ-LiPSについての従前の結果と一致した。
【0027】
溶媒は、生成物の組成に対して劇的な影響を与え、反応温度は、相の結晶化度を決定すると、本発明者らは信じる。結晶性のLiPSを避けるためには、マイクロ波合成及び配位溶媒の除去を、LiPSのアモルファスから結晶相への転移温度未満の温度において行うことを要する。したがって、配位溶媒が除去される温度を認識しておく必要がある。この温度が高すぎると、当初のアモルファスの生成物は、β-LiPSのような結晶相へと好ましくない変化をする。
【0028】
モル比3:1のLiS及びPに、THF中100℃において3時間マイクロ波を照射することにより、アモルファスLiPSが得られた(図2)。ボールミル粉砕のLiPSとは対照的に、マイクロ波照射の試料では、P 4-アニオン不純物が含まれていなかった。配位THFは、130℃の真空下で除去されて、50%の重量減少があった。得られた粒子は、図4に示すとおり、大きくてブロック状か、又は小さいかのどちらかであった。反応条件の更なる最適化により、粒径分布及び形態を更に制御することができると、本発明者らは信じる。
【0029】
図6に、電気化学インピーダンスペクトル(EIS)を用いて、-10℃から80℃までの間で測定された、マイクロ波合成α-LiPSのLi導電性のアーレニウスプロットを示す。25℃において、0.1mS/cm、及び80℃において、1mS/cmの値が得られた。アーレニウスの式、σ=σ-Eα/kTを用いて活性化エネルギーを計算したところ、160meVであった。マイクロ波合成のLTPの、Liイオン電解質としての実用可能性を示すために、固体Li/α-LiPS/Liセルを、室温において20サイクルさせたときの電圧プロファイルを、図7に示す。初期の複数回のサイクルの間、0.1mA/cmにおける2時間のハーフサイクルにて、47mVの過電圧において、Liのストリッピング及びプレーティングが起こった。
【0030】
結晶性Li11は、比1:1のPS 3-及びP 4-両アニオンから構成される。伝統的には、結晶性Li11は、以下の2ステップで合成される:1)モル比で70LiS-30Pの粉末を、3日間ボールミル粉砕して、前駆体と呼ばれる、アモルファス相の7LiS-3Pを生成する。2)前駆体粉末を結晶化温度(~260℃)を超える温度で加熱することにより、結晶性Li11を生成する。マイクロ波ソルボサーマル合成技術の幅広い応用性を示すため、結晶性Li11の合成を試みた。結晶性Li11のマイクロ波固相合成(300℃、30分)により、P 4-(385cm-1)及びPS 3-(424cm-1)両アニオンを含む材料(図8、実線)が得られたが、目的のP 4-(405cm-1)は得られなかった。溶媒としてTHFを用い、温度を75℃に下げると、モル比70:30のLiS及びPに2時間マイクロ波照射することによって、目的の1P 4-:1PS 3-の組成を容易に得ることができる。図9に示すTGA分析により、配位THFは、生成物を150℃に加熱すると除去することができ、~45%の重量減少となることが示された。この温度は、a-2LiPS・5THFの場合より、顕著に高い。乾燥した生成物粉末は、アニールして結晶形態のLi11を形成することができる。
【0031】
マイクロ波ソルボサーマル法の汎用性の更なる例として、ACN中でLi11を合成し、生成物を、ボールミル粉砕してACN中に終夜浸漬したLi11と比較した。図10は、マイクロ照射した前駆体(点線)のラマンスペクトルが、浸漬したボールミル粉砕のLi11前駆体(破線)と類似していることを示す。ラマンスペクトルは、P 4-及びPS 3-両アニオンを示しているが、Li11は、これらの前駆体を加熱して、LiPSとLiとの間の固相反応を開始させることによって生成し得る。図11は、マイクロ波照射(グレイの点線)及び浸漬されたボールミル粉砕(実線)双方の前駆体のTGA分析を示し、ACNが約200℃の加熱で除去できることを示している。
【0032】
本発明者らは、ソルボサーマルマイクロ波でプロモートされる合成法が、チオリン酸リチウム複合体材料に一般的に有用であり、したがって、先進のエネルギー発生及び貯蔵デバイスの支援に関して、目的の生成物を、商業的スケールの製造に必要な量にて生成するために、好適な合成製造法を提供すると信じる。
【0033】
したがって、本開示では、第1の実施態様において、
LiS;

任意的に、成分B;及び
非水極性溶媒;
を含む、無水混合物を調製すること;
前記無水混合物を、空気及び湿度から保護すること;
前記無水混合物を混合し、前記LiS、P、及び存在する場合には前記成分Bを少なくとも部分的に溶解すること;
前記保護された無水混合物に、マイクロ波エネルギーを照射して、反応温度を、目的のチオリン酸リチウム複合体の合成のための最適値に上げて、目的のチオリン酸リチウム複合体を得ること;並びに
得られたチオリン酸リチウム複合体から、前記極性溶媒を除去すること;
を含み;
LiSの、P、及び存在する場合にはBに対するモル比が、目的のチオリン酸リチウム複合体の組成によって決定される、
目的のチオリン酸リチウム複合体の調製方法が提供される。
【0034】
目的の複合チオリン酸リチウムは、LiS、P、及び含まれる場合にはBの化学量論的な装填物又はこれらのモル比にしたがって調製可能な、どのような複合材料であってもよい。本明細書に記載された実施例に示されるように、目的のチオリン酸リチウム複合体について、他の反応変数とともに、極性溶媒、反応温度、及び反応時間の最適条件が一度確認されれば、実際に得られる複合体生成物に基づくルーチン実験により、所定の生成収率及び生成物品質を達成することが可能である。
【0035】
第1の実施態様のある観点では、Bを成分として含んでいてよく、Bは、例えば、LiN、PLiO、LiN、GeS、又はLiX(Xは、I、Cl、若しくはBr)から成る群から選択される1つ又はこれらの組み合わせであってよい。本開示は、上記のB成分のリストのみに限定される必要はなく、当業者は、チオリン酸リチウム複合体中のBユニットとして、他の成分を選択してもよい。
【0036】
第1の実施態様のある観点では、目的のチオリン酸リチウム複合体が、下記式(I)である:
xLiS・yP・(100-x-y)B
Bは、LiN、PLiO、LiN、GeS、又はLiX(Xは、I、Cl、若しくはBr)を含む材料群から選択される複合材料であり、x及びyのそれぞれは、LiS、P、及びBの合計の質量%が100%となるような、33.3%以上50%以下の質量%値を表す。
【0037】
非水極性溶媒は、エーテル、ニトリル、アルコール、カ-ボネート、及びエステルのいずれであってもよく、ただし、この極性溶媒は、目的のチオリン酸リチウム複合体の相転移温度未満の温度において、減圧下で揮発性である。一般的には、実施例に記載したように、目的のチオリン酸リチウム複合体は、無水極性溶媒中の固体沈殿物として得ることができる。この固体は、当業界で公知の任意の方法、例えば、デカンテーション、濾別、及び遠心分離等によって、母液から単離することができる。
【0038】
単離して得られた固体物質は、配位溶媒分子を含んでいる。配位溶媒分子は、これを除去して、溶媒フリーの複合材料を得ることができる。配位溶媒は、このような目的のものとして知られている任意の方法によって除去することができ、好ましくは減圧下、より好ましくは真空下で、昇温状態への加熱を必要としてもよい。上述したように、溶媒が除去される温度は、目的のチオリン酸リチウム複合体に関する相転移温度未満の値でなければならない。
【0039】
本開示のある特別の実施態様では、目的のチオリン酸リチウム複合体は、アモルファスLiPS(α- LiPS)であり、LiS/Pの比が約3/1であり、溶媒がテトラヒドロフランであり、かつ、B成分が存在しない。実施例に記載したように、マイクロ波誘導ソルボサーマル反応の温度は、約100℃又はこれよりも低い温度で、約30分以上3時間以下の反応時間で行うことができる。生成物α-LiPSは、THF母液部から単離すること、及びこれに続いて、α-LiPSに配位しているTHFを除去することによって、得ることができる。
【0040】
本開示の他の特別の実施態様では、目的のチオリン酸リチウム複合体がLi11であり、LiS/Pの比が約70/30であり、溶媒がテトラヒドロフラン又はアセトニトリルであり、かつ、B成分が存在しない。実施例に記載したように、マイクロ波誘導ソルボサーマル反応の温度は、約75℃又はこれよりも低い温度で、約1時間以上3時間以下の反応時間で行うことができる。前駆体生成物Li11は、THF又はアセトニトリルの母液部から単離すること、及びこれに続いて、配位溶媒を除去することによって、得ることができる。Li11は、次いでアニーリングして、結晶性Li11を形成させることによって、得ることができる。
【0041】
本開示のより一般的な実施態様では、目的のチオリン酸リチウム複合体は、xLiS・yP・(100-x-y)Bであり、LiS/Pの比が約x/yであり、かつ、B成分が100-x-yの量で存在している。無水極性溶媒、マイクロ波誘導反応の温度、及び反応時間は、ルーチン実験によって決定することができる。一般に、無水極性溶媒は、エーテル、ニトリル、アルコール、カーボネート、及びエステルから選択することができ、ただし、この極性溶媒は、目的のチオリン酸リチウム複合体の相転移温度未満の温度において、減圧下で揮発性である。一般に、マイクロ波誘導反応の時間は、30分以上5時間以下とすることができ、好ましくは30分以上4時間以下であり、最も好ましくは30分以上3時間以下である。一般に、反応温度は、50℃以上200℃以下とすることができ、好ましくは70℃以上150℃以下であり、最も好ましくは75℃以上130℃以下である。目的のチオリン酸リチウム複合体は、上述の方法によって母液から単離され、上述の方法によって配位溶媒を除去することができる。
【0042】
上記の記載は、当業者が、発明品を製造し、使用することを可能とするために存在し、特定の適用例及びその要件との文脈において提供されている。好ましい実施態様に対する種々の変更は、当業者に直ちに明らかであり、ここに定義される一般原則は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、他の実施態様及び応用例に適用することができる。したがって、本発明は、示された実施態様に限定されることを意図するものではなく、本発明には、ここに開示された原理及び特徴に一致する、最も広い範囲が与えられる。この点について、本発明中の特定の実施態様は、広く考慮された本発明のすべての利点を示すわけではない。
【実施例
【0043】
実施例1-a-Li PS のマイクロ波固相合成試験
溶媒の不存在下で、LiS及びP両粉末の直接反応による、LiPSの固相マイクロ波合成を試みた。反応は、290℃において、Pを融解させて、40分間行った。生成物の局所構造の評価にはラマンスペクトルを用いた。結果を図1に示す。385cm-1及び422cm-1のピークは、それぞれ、次亜チオリン酸塩(P 4-アニオン)及びオルト-チオリン酸塩(PS 3-アニオン)に帰属される。XRDによって、結晶性のLi及びβ-LiPSの存在も確認された。具体的には、(221)ピークの存在及び(211)ピークの不存在から、生成物が、γ型ではなく、β型のLiPSであることが確認された。
【0044】
実施例2:a-Li PS のマイクロ波ソルボサーマル合成試験
反応の温度を下げるため、LiS及びPが部分的に溶解する溶媒を検討した。無溶媒反応と同様に、ジブチルエーテル、グリム、テトラグリム、1,3-ジオキサン、アセトニトリル、及びTHF等の、多種多様な無水極性溶媒中で、生成物中に目的のPS 3-アニオンが存在することが、ラマンスペクトルにより再度明らかにされた(図1)。図1に、アセトニトリル(1番上)、ジオキサン(2番目)、テトラグリム(3番目)、グリム(4番目)、ジブチルエーテル(5番目)、及びテトラヒドロフラン(THF、6番目)を含む、種々の溶媒中でマイクロ波照射された3LiS:P試料のラマンスペクトルを示す。いくつかのマイクロ波合成では、反応終結まで反応しなかったことを示すために、純LiSのラマンスペクトルを合わせて示す(実線、一番下)。THF中、130℃において30分間、反応を行ったときには、PS 3-アニオンは、図2に見られるとおり、残りのLiSとともにβ-LiPSとして、唯一の生成物であった。
【0045】
図2に、LiS及びPのモル比3:1、THF中のマイクロ波照射反応の不溶生成物のラマンスペクトルを示す。長い破線は、130℃で30分間行った反応を示し;短い破線は、130℃で3時間行った反応を示し;点線は、100℃で3時間行った反応を示す。実線は、比較のための、アモルファスLiPSのボールミル粉砕物である。
【0046】
反応時間を3時間に延ばすと、残りのLiSが除去されたが、やはりβ-LiPSが生成された(図2)。図3に示すとおり、熱重量分析(TGA)によって、THF分子は80℃以上130℃以下の温度範囲で容易に除去されることが示された。TGA曲線における重量減少から、2LiPS・5THFの化学組成が示唆された。約130℃(ホットプレート上)にて3時間、溶媒を除去した後、粉末をペレット状にプレスし、2本のステンレス鋼製のロッド間で圧縮して、電気化学インピーダンススペクトル(EIS)を用いて25℃において、Li導電率を測定した。このβ-LiPSの導電率は、0.0086mS/cmであり、ボールミルによって合成したβ-LiPSの以前の結果と一致した。
【0047】
実施例3:α-Li PS (アモルファスLi PS )の合成
THF中100℃において、LiS及びPのモル比3:1に3時間マイクロ波を照射することにより、アモルファスLiPSが得られた(図2)。ボールミル粉砕のLiPSとは対照的に、マイクロ波照射の試料では、P 4-アニオン不純物が含まれていなかった。配位THFは、130℃の真空下で除去されて、50%の重量減少があった。得られた粒子は、図4に示すとおり、大きくてブロック状か、又は小さいかのどちらかであった。反応後、バイアルびんの底に白色の粉末のみが残り、溶液は無色透明であった。
【0048】
アニーリングにより、アモルファス生成物は、部分的又は完全結晶型へ転化する。図5(一番下の走査)に示すように、アニーリング前、XRDパターンに反射(すなわちピーク)が存在しないことは、試料がアモルファスであることを示唆していた。図5(一番上の走査)に示すように、固有のフィンガープリントを持つXRDパターンによって積極的な同定が可能なβ-LiPSを形成するように、上記粉末を150℃において1時間加熱することにより、LiPS生成物の確認が得られた。図5中の、約21°を中心とするブロードなこぶ(hump)は、石英キャピラリに由来する。
【0049】
図6に、マイクロ波合成のa-LiPSのLi導電性についての、-10℃から80℃までの間のアーレニウスプロット(EISを用いて測定)を示す。25℃において0.1mS/cm、及び80℃において1mS/cmの値が得られた。
アーレニウスの式σ=σ-Eα/kTを用いて活性化エネルギーを計算したところ、160meVであった。図7に、マイクロ波合成のLTPの、Liイオン電解質としての実用可能性を示すために、固体Li/α-LiPS/Liセルを、室温において、0.1mA/cm、2時間のハーフサイクルにて、20サイクルさせたときの電圧プロファイルを示す。初期サイクルにおいて、0.1mA/cm、2時間のハーフサイクルにて、47mVの過電圧において、Liのストリッピング及びプレーティングが起こった。
【0050】
実施例4:Li 11 のマイクロ波固相合成試験
結晶性Li11は、比1:1のPS 3-及びP 4-両アニオンから構成される。モル比70:30のLiS及びPの、300℃30分間のマイクロ波固相合成により、385cm-1のラマンバンドで示されるP 4-、及び424cm-1のラマンバンドで示されるPS 3-を含む、図8(実線)に示すラマンスペクトルを有する物質が得られたが、405cm-1のラマンバンドによって特徴づけられる、目的のP 4-は得られなかった。
【0051】
実施例6:Li 11 のマイクロ波ソルボサーマル合成(THF)
モル比70:30のLiS及びPをTHF中で混合し、75℃2時間のマイクロ波加熱を行った。図8(上の点線の曲線)に示したように、目的の1P 4-:1PS 3-の組成が得られた。図9に示すTGA分析により、配位THFは、生成物を150℃に加熱すると除去することができ、~45%の重量減少となることが示された。乾燥した生成物の粉末をアニールして、Li11の結晶体を得た。
【0052】
実施例7:Li 11 のマイクロ波ソルボサーマル合成(ACN)
モル比70:30のLiS及びPをアクリロニトリル(ACN)中で混合し、100℃3時間のマイクロ波加熱を行った。図10(上の点線の曲線)に示したように、目的の1P 4-:1PS 3-の組成が得られた。図11に示すTGA分析により、配位THFは、生成物を150℃に加熱すると除去することができ、~45%の重量減少となることが示された。
【0053】
図11の実線は、LiS対Pのモル比が7:3のボールミル反応を示す。破線は、アモルファスLi11に対して、アセトニトリル(ACN)中24時間の浸漬(soaking)ボールミルを行った後、アセトニトリルを除去した生成物である。点線は、上述のアセトニトリル中のマイクロ波反応の生成物を示す。「P 4-・ACN」及び「PS 3-・ACN」(点線)は、ACN配位が、これらの振動のラマン励起エネルギーをどのくらい増大させるかを示す。
【0054】
実施例8:アモルファスLi PS の合成の詳細
10mLのシリコンカーバイド製マイクロ波バイアル(Anton Paar社製)中に、無水THF(Manchester Organics社製、3mL)及び撹拌子を加えた。このバイアルに、LiS(Aldrich製、99.98%、41.4mg、0.900mmol)及びP(Sigma-Aldrich製、99%、66.7mg、0.3mmol)粉末を加えた。バイアルに直ちに栓をして、撹拌した。次いで、このバイアルを、グローブボックスからマイクロ波反応器に移動させた。混合物を、撹拌速度1,200prm、100℃にて3時間、加熱した。チオリン酸リチウムは、空気に不安定のため、温度制御にIR温度センサーを用いた。合成が完了した後、バイアルをグローブボックスに戻し、吸引ろ過を用いて、白色の不溶生成物を除去した。溶媒を除去した後、残存物を無水ヘプタン(10mL)中にスラリー化し、吸引ろ過によって不溶生成物を捕集した。配位溶媒(すなわちTHF)は、グローブボックス中で、ホットプレート上124℃3時間の加熱により、不溶生成物から除去した。
【0055】
実施例8:アモルファスLi 11 前駆体の合成の詳細
10mLの石英製マイクロ波バイアル(Anton Paar社製)中に、無水アセトニトリル(ACN)(Manchester Organics社製、3mL)及び撹拌子を加えた。このバイアルに、LiS(Aldrich製、99.98%、48.2mg、1.05mmol)及びP(Sigma-Aldrich製、99%、100mg、0.45mmol)粉末を加えた。バイアルに直ちに栓をして、撹拌した。次いで、このバイアルを、グローブボックスからマイクロ波反応器に移動させた。混合物を、撹拌速度1,200prm、100℃にて3時間、加熱した。チオリン酸リチウムは空気に不安定のため、温度制御にIR温度センサーを用いた。合成が完了した後、バイアルをグローブボックスに戻し、50℃、真空下でアセトニトリルを除去して、白色生成物が残った。大半の溶媒を除去した後、ビュッヒB-585ガラスオーブン中、200℃1時間の加熱により、粉末生成物から配位溶媒(すなわちACN)を除去した。
【0056】
TGA分析
TGA分析は、Arグローブボックス(HO、O<0.1ppm)中、Netzsch Luxx STA409PCを用いて行った。約8mgの試料粉末を、蓋に直径75μmの孔を有する、コールドシール可能なDSCパンに装填した。このDSCパンを圧着し、Netzsch Luxx中に装填して、2℃/minで加熱した。参照は、蓋に孔を有するDSCパンを、空(から)で圧着したものである。
【0057】
ラマン分析
ラマン分光分析は、倒立光学顕微鏡を装着した、Horiba社製のLabRAM HR spectrometerを用いて行った。空気から保護するために、密閉されたキュベットの内表面にプレスされた粉末試料上に、50×lwrの対物レンズを用いて、532nmレーザーの焦点を合わせた。600格子/mmの格子を用いて、後方散乱光をCCDカメラ上に分散させた。各回の長さ1秒にて、20回の連続スキャンを行って、スペクトルを捕集した。各試料上の4個の異なる地点からスペクトルを捕集して比較し、試料の同質性を確認した。
【0058】
SEM分析
JEOL社製、7800FLVを用い、倍率500×、加速電圧5kV、ビーム電流8(43pA)にて、SEM像を収集した。
【0059】
粉末XRD分析
XRDパターンの収集には、Anton-Parr社製、HTK1200Nオーブンチャンバー、及びキャピラリエクステンションを装着した、Rigaku社製、SmartLab 3kWを用いた。グローブボックス中で、直径0.3mmの石英製キャピラリに、乾燥したアモルファスLiPSを充填し、エポキシにて密封した後に、回折計に移送した。ステップサイズ0.035°、0.4167°/minの速度にて、パターンを収集した。アモルファス材料の走査後、キャピラリを150℃にて加熱して、材料をβ-LiPSに結晶化させた。パターンが時間によって変化しないこと、及び、したがって、試料が空気から上手く保護されていることを確認するために、最初及び最後のパターンを比較できるように、複数回の走査を行った。その後、繰返し走査を付け加えて、最終XRDパターンを形成した。
【0060】
導電性測定
Macor社製のペレット用ダイ中に、100mgのLiPS粉末を入れ、66.4barにて1分間プレスして、直径11.28mmのペレット(すなわち1.0cm)を形成した。次いで、このペレットの両面に、カーボンコートアルミニウム箔(MTI corp.製)をプレスした。この材料積層体を、気密セル中、約88MPaにて圧縮し、Bio-logic社製のVMP3ポテンショスタットに装着して、温度制御されたオーブン中に設置した。-10℃から80℃まで温度を上昇させたときの、セルの複素インピーダンスの測定には、電気化学インピーダンス分光法を用いた。
【0061】
電気化学サイクル
Macor社製のペレット用ダイ中に、100mgのLiPS粉末を入れ、66.4barにて1分間プレスして、直径11.28mmのペレット(すなわち1.0cm)、596μm厚を形成した。次いで、このペレットの両面に、研磨及び平坦化したリチウム箔ディスク(99.8%、Honjo Metal社製)を装着した後、508μm厚のニッケル400製スペーサ(McMaster-Carr社製)、及び直径9.5mmのウェイブスプリング(McMaster-Carr社製)を装着した。このスプリング/スペーサ/Li/固体状電解質/Li/スペーサ/スプリング積層体を、セル中にて、8.8MPaで圧縮し、25℃のオーブンに移動させて、気密コンテナ中で、Bio-logic社製のVMP3ポテンショスタットを用いてサイクル試験を行った。セルは、0.2mAh/cmのハーフサイクルにて、100μA/cmの定電流でサイクルさせた。
図1
図2
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図5
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図11