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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物、TIMおよび電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20231010BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20231010BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231010BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C08L23/16
C08F8/46
C08K3/013
C08L23/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019143593
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021024942
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悠人
(72)【発明者】
【氏名】竹島 厚
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328136(JP,A)
【文献】国際公開第2007/116708(WO,A1)
【文献】特開2018-145387(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180864(WO,A1)
【文献】特開2015-137333(JP,A)
【文献】特開2016-155961(JP,A)
【文献】特開2007-099820(JP,A)
【文献】特開2018-123187(JP,A)
【文献】特開2016-041793(JP,A)
【文献】特開2006-111848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記バインダー(B)100質量部と、充填材(A)100~1000質量部とを含む、樹脂組成物。
・バインダー(B):
下記要件(y-1)~(y-4)を満たすα-オレフィン(共)重合体のグラフト変性体(Y)、および、下記要件(x-1)~(x-)を満たすα-オレフィン(共)重合体(X)から選ばれる1種以上を含む成分(P)を、前記バインダー(B)100質量%に対し10~70質量%含み、かつ、
オレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびワックスから選ばれる1種以上の化合物(Q)(但し、成分(P)を除く)を含む
(x-1)H-NMRから測定されるメチル基指標が25~55%である[ここで、当該メチル基指標とは、前記α-オレフィン(共)重合体(X)を重クロロホルム中に溶解させてH-NMRを測定し、重クロロホルム中のCHClに基づく溶媒ピーク(7.24ppm)をリファレンスとした時における、0.50~2.20ppmの範囲内にあるピークの積分値に対する、0.50~1.15ppmの範囲内にあるピークの積分値の割合のことをいう。]
(x-2)100℃における動粘度が400~10,000mm/sである
(x-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)が5,000~25,000である
(x-4)α-オレフィン(共)重合体(X)がエチレン・プロピレン共重合体である
(y-1)酸価が10~150mgKOH/gである
(y-2)150℃における見かけ粘度が50~1,500mPa・sである
(y-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)が3,000~25,000である
(y-4)グラフト変性前のα-オレフィン(共)重合体が、エチレン・α-オレフィン共重合体であり、該エチレン・α-オレフィン共重合体におけるエチレンから導かれる構成単位の含量が、30~85モル%である
【請求項2】
前記α-オレフィン(共)重合体(X)を含み、該(共)重合体(X)の100℃における動粘度が500~4,000mm/sである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフト変性体(Y)を含み、該グラフト変性体(Y)が、α-オレフィン(共)重合体の、不飽和カルボン酸化合物および不飽和カルボン酸誘導体から選ばれる1種以上による変性体である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフト変性体(Y)を含み、該グラフト変性体(Y)が、α-オレフィン(共)重合体の、マレイン酸および無水マレイン酸から選択される1種以上による変性体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記充填材(A)が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、二酸化ケイ素、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素および窒化ケイ素から選ばれる1種以上の充填材を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記グラフト変性体(Y)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の成形体であるTIM(Thermal Interface Material)。
【請求項8】
フェイズチェンジマテリアル(PCM)である、請求項7に記載のTIM。
【請求項9】
請求項7または8に記載のTIMを含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、TIMおよび電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化、小型化が進行し、電子部品の高密度化が進んでいる。このため、機器・部品の正常動作や寿命を確保する等の目的で、これらから発生する熱の制御が大きな課題となっている。この課題に対する方策の一つとして、熱を電子機器外部へ逃がす手法が開発されており、多くの電子機器には、ヒートシンクやヒートスプレッダー、ヒートパイプ、冷却ファンなどの放熱部材が組み込まれている。また、携帯電話などの小型のデバイスには、筐体自身を放熱部材として機能させ、熱を外部へ逃がす設計となっているものもある。これら電子機器では、発熱体と放熱部材との間や放熱部材間の熱伝導を向上させる目的で、Thermal Interface Material(以下「TIM」ともいう。)と呼ばれる部材が使用されている。
【0003】
TIMは大きく分けて2つの成分から構成されている。一つは熱伝導を担保する充填材である。これには熱伝導率の高い金属酸化物や金属窒化物、金属水酸化物、金属炭化物、金属の粉末などが用いられる。もう一つの成分は、充填材を保持し、TIMを所定の形状に保つバインダーである。該バインダーとしては、TIMの種類により大きく異なるが、シリコーンやアクリルなどの硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー、オイル、ワックスなど種々の有機材料が用いられている。
【0004】
これらの中でも、バインダーとしては、TIM自体の耐熱安定性の観点から、シリコーン系化合物が使用されることが多い。例えば、特許文献1には、窒化アルミニウム、酸化亜鉛およびシリコーンオイルを含む放熱グリースが開示されている。しかしながら、シリコーン系化合物は、それ自体が含有している、または、シリコーン系化合物から徐々に分解生成する低分子量シロキサンが、二酸化ケイ素などの絶縁性の異物として電子回路上に析出し、接点障害を起こす場合があり、非シリコーン系TIMの開発が積極的に行われている。
【0005】
例えば、特許文献2には、酸化亜鉛等の熱伝導性充填材、および、不飽和ジカルボン酸エステルとα-オレフィンとの共重合体からなる基油を含む放熱グリースが開示されている。TIMの効率的な熱伝導には、TIMと放熱部材との界面での接触熱抵抗およびTIM自体の熱抵抗をできる限り小さくすることが重要である。この点において、放熱グリースは、放熱部材の表面の凹凸に追従することで密着でき、かつ薄肉化が可能であるため、広く一般的に使用されている。しかしながら、放熱グリースはペースト状であり、作業性が悪いという問題があった。
【0006】
この問題を解決するものとして、フェイズチェンジマテリアル(以下「PCM」ともいう。)と呼ばれるTIMが開発されている。PCMは、常温ではシートまたはフィルム状に成形されており扱い易い一方で、放熱部材に設置した後、機器が動作することで発生する熱により溶融または軟化し、放熱部材の形状・凹凸に追従し、薄肉化することで、接触熱抵抗やTIM自体の熱抵抗の低減が可能である。例えば、特許文献3には、酸化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛と、窒化アルミニウムとからなる無機充填材、および、流動パラフィンとエチレン・酢酸ビニル共重合体とからなるバインダーを含むPCMが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-110179号公報
【文献】特開2006-188638号公報
【文献】特開2010-21165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載のPCMは、電子機器の使用に伴い、バインダー成分が徐々にPCMから流出することで、周辺部品の汚染や接触熱抵抗の増大に繋がる場合があった。
【0009】
本発明は、電子部品の放熱を目的に使用されるTIMのうち、取り扱い性に優れるPCMに適した樹脂組成物であって、優れた熱伝導性を有し、かつ、軟化・溶融時にバインダー成分が分離・流出しにくく、耐熱安定性に優れるTIMを得ることができる樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は、以下の通りである。
【0011】
[1] 下記バインダー(B)100質量部と、充填材(A)100~1000質量部とを含む、樹脂組成物。
・バインダー(B):
α-オレフィン(共)重合体のグラフト変性体(Y)、および、下記要件(x-1)~(x-3)を満たすα-オレフィン(共)重合体(X)から選ばれる1種以上を含む成分(P)を、前記バインダー(B)100質量%に対し10~70質量%含み、かつ、
オレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびワックスから選ばれる1種以上の化合物(Q)(但し、成分(P)を除く)を含む
(x-1)1H-NMRから測定されるメチル基指標が25~60%である[ここで、当該メチル基指標とは、前記α-オレフィン(共)重合体(X)を重クロロホルム中に溶解させて1H-NMRを測定し、重クロロホルム中のCHCl3に基づく溶媒ピーク(7.24ppm)をリファレンスとした時における、0.50~2.20ppmの範囲内にあるピークの積分値に対する、0.50~1.15ppmの範囲内にあるピークの積分値の割合のことをいう。]
(x-2)100℃における動粘度が400~10,000mm2/sである
(x-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)が5,000~25,000である
【0012】
[2] 前記α-オレフィン(共)重合体(X)を含み、該(共)重合体(X)の100℃における動粘度が500~4,000mm2/sである、[1]に記載の樹脂組成物。
【0013】
[3] 前記グラフト変性体(Y)を含み、該グラフト変性体(Y)が、α-オレフィン(共)重合体の、不飽和カルボン酸化合物および不飽和カルボン酸誘導体から選ばれる1種以上による変性体である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記グラフト変性体(Y)を含み、該グラフト変性体(Y)が、α-オレフィン(共)重合体の、マレイン酸および無水マレイン酸から選択される1種以上による変性体である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
[5] 前記充填材(A)が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、二酸化ケイ素、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素および窒化ケイ素から選ばれる1種以上の充填材を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
[6] 前記グラフト変性体(Y)を含み、該グラフト変性体(Y)が下記要件(y-1)~(y-3)を満たす、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
(y-1)酸価が10~150mgKOH/gである
(y-2)150℃における見かけ粘度が50~1,500mPa・sである
(y-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)が3,000~25,000である
【0016】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物の成形体であるTIM(Thermal Interface Material)。
[8] フェイズチェンジマテリアル(PCM)である、[7]に記載のTIM。
[9] [7]または[8]に記載のTIMを含む電子機器。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた熱伝導性を有し、かつ、軟化・溶融時にバインダー成分が分離・流出しにくく、耐熱安定性に優れるTIMを得ることができる樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、電子部品が高温(例:150℃)になるような使用環境においてもバインダー成分や異物等が流出しにくいため、接点障害が起こりにくい電子部品を得ることができる。
従って、本発明に係る樹脂組成物は、発熱を伴う電子部品の放熱に好適に用いられ、具体的には、TIMとして、特にPCMとして好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、例えば「M~N」の場合、特に断りがなければ「M以上、N以下」を意味する。
本明細書において「(共)重合体」なる語は、単独重合体および共重合体の両方を包括する概念として用いられる。
本明細書において、ある(共)重合体を構成するオレフィンをMとしたときに、「Mから導かれる構成単位」なる表現が用いられることがあるが、これは「Mに対応する構成単位」、すなわち、Mの二重結合を構成するπ結合が開くことにより形成される、一対の結合手を有する構成単位のことをいう。
本明細書において「ビニル化合物」なる語は、α-オレフィンやカルボン酸ビニルエステルなどビニル基を含有する化合物の他、メタクリル酸誘導体等のビニリデン部位を有する化合物や、マレイン酸誘導体等の内部オレフィン、ブタジエンや5-エチリデン-2-ノルボルネン等のジエン化合物など、炭素-炭素二重結合を有する化合物を包括する概念としても用いられる。
本明細書において、「(メタ)アクリル」なる語は、アクリル、メタクリル、または、アクリルとメタクリルとの両方を包括する概念として用いられる。
【0019】
≪樹脂組成物≫
本発明に係る樹脂組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、充填材(A)と下記バインダー(B)とを含有する。
【0020】
<充填材(A)>
充填材(A)は、本組成物の熱伝導性を向上させることができる成分であることが好ましい。このような充填材(A)としては、熱伝導性フィラーが挙げられ、具体的には、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、金属炭化物、金属フッ化物、炭素等が挙げられる。
本組成物に含まれる充填材(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0021】
充填材(A)としては、より具体的には、例えば、アルミニウム、銅、銀、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、二酸化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化スズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭化ホウ素、炭化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、フラーレン、グラファイトが挙げられる。
これらの中でも特に、熱伝導性、化学的安定性、入手容易性等の点から、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、二酸化ケイ素、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素および窒化ケイ素から選ばれる1種または2種以上の充填材を用いることが好ましい。
【0022】
充填材(A)の平均粒径は特に限定されないが、好ましくは0.1~30μmであり、より好ましくは0.2~20μmである。平均粒径が前記範囲にあると、充填材(A)の充填率が大きい、熱伝導性に優れる樹脂組成物を容易に得ることができ、薄肉化が可能であり熱抵抗が十分に低減されたTIMを容易に得ることができる。
平均粒径が前記上限値より大きいと、TIMの薄肉化が困難となる傾向にあるため、TIMの熱抵抗を十分に低減することができない場合がある。また、平均粒径が前記下限値より小さいと、充填材(A)の充填率を大きくできず、熱伝導性を十分に向上できない場合がある。
なお、充填材(A)の充填率を大きくするため、本組成物は、平均粒径の異なる2種類以上の充填材を含有してもよい。
前記平均粒径は、透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡の測定による画像解析法、光散乱法や光回折法などによるレーザー法、電気的検知帯法、篩い分け法、沈降法、衝突分離法、慣性スペクトロメーターなどによる慣性法、多段サイクロン法やモビリティーアナライザーなどによる分離法、クロマトグラフィー法など公知の方法を用いて測定できる。
【0023】
充填材(A)としては、球状、板状、多角状、顆粒状、繊維状など種々の形状の充填材を用いることができる。
異方性を有する充填材(A)を用いる場合、組成物中の配向を適切に制御することで、所定の方向についての樹脂組成物の強度や熱伝導性などを向上させることができる。
なお、球状以外の充填材の平均粒径とは、その最も長い辺の長さ(例:繊維状の場合は繊維長)のことをいう。
【0024】
充填材(A)の含有量は、後述するバインダー(B)100質量部に対して、100~1000質量部であり、好ましくは100~700質量部、より好ましくは150~650質量部、特に好ましくは200~600質量部である。充填材(A)の含有量が前記範囲にあると、熱伝導性、成形性および機械物性に優れる樹脂組成物を容易に得ることができる。
充填材(A)の含有量が前記下限値より少ないと、組成物に十分な熱伝導性を付与することができない傾向にあり、また、充填材(A)の含有量が前記上限値より多いと、樹脂組成物の成形性や機械物性が悪化し、シートやフィルム状に成形することが困難になる傾向にある。
【0025】
<バインダー(B)>
バインダー(B)は、下記成分(P)と、成分(P)以外の化合物(Q)とを含有する。
【0026】
〈成分(P)〉
前記成分(P)は、α-オレフィン(共)重合体のグラフト変性体(Y)(以下単に、「変性体(Y)」ともいう。)、および、下記要件(x-1)~(x-3)を満たすα-オレフィン(共)重合体(X)(以下単に、「重合体(X)」ともいう。)から選ばれる1種以上を含み、好ましくは、変性体(Y)および重合体(X)より選ばれる1種以上からなる。
成分(P)は、2種以上の重合体(X)を含んでいてもよく、2種以上の変性体(Y)を含んでいてもよく、2種以上の重合体(X)および2種以上の変性体(Y)を含んでいてもよい。
【0027】
バインダー(B)100質量%に対する成分(P)の含有量は、10~70質量%であり、好ましくは15~65質量%である。
成分(P)の含有量が前記範囲にあると、バインダー(B)の流動性を適切に制御でき、高温時でも、バインダー(B)が流出し熱抵抗が増大することを防ぐことができ、さらに、高温時にPCMを十分薄膜化でき熱抵抗を小さくできる。
【0028】
[重合体(X)]
前記重合体(X)は、下記要件(x-1)~(x-3)を満たすα-オレフィン(共)重合体である。
【0029】
・要件(x-1):1H-NMRから測定されるメチル基指標が25~60%である
前記メチル基指標は、好ましくは30~55%である。
メチル基指標が前記範囲内にあると、熱に対する安定性が高く、バインダー(B)の流出による熱抵抗の増大が抑制された樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0030】
前記重合体(X)は、全プロトン中に占めるメチル基の割合がある一定の範囲内にあることを特徴とする。一般的にメチル基のプロトンは1H-NMR測定において、高磁場側にピークが観測される(「高分子分析ハンドブック」(朝倉書店発行、P163~170))。このため、本発明では、1H-NMRで測定した時に観測される高磁場側のピークの割合をメチル基の指標として用いた(「メチル基指標」という)。具体的には重合体(X)を重クロロホルム中に溶解させて1H-NMRを測定し、重クロロホルム中のCHCl3に基づく7.24ppmに現れる溶媒ピークをリファレンスとした時における、0.50~2.20ppmの範囲内にあるピークの積分値に対する、0.50~1.15ppmの範囲内にあるピークの積分値の割合をメチル基指標とした。なお、1H-NMRの具体的な測定方法としては、下記実施例に記載の方法が挙げられる。
ここで、0.50~2.20ppmの範囲内には、重合体(X)に基づくピークがほぼ含まれる。この範囲のうち、メチル基に基づくピークは、0.50~1.15ppmの範囲内に含まれる場合が多い。
【0031】
前記メチル基指標は、適切なα-オレフィンを選定し重合することで制御可能である。例えば、エチレンの単独重合体はメチル基を有さないため、炭素数3~20のα-オレフィンを適切に共重合させ、メチル基の割合を高める必要性がある。
【0032】
・要件(x-2):100℃における動粘度が400~10,000mm2/sである
該動粘度は、好ましくは500mm2/s以上、より好ましくは1,000mm2/s以上、特に好ましくは1,500mm2/s以上であり、好ましくは8,000mm2/s以下、より好ましくは6,000mm2/s以下、さらに好ましくは4,500mm2/s以下、特に好ましくは4,000mm2/s以下である。
動粘度が前記範囲にあると、高温時にバインダー(B)が流出し熱抵抗が増大することを防ぐことができ、かつ、高温時にPCMを十分薄膜化でき熱抵抗を小さくできる。
前記動粘度は、JIS K2283に記載の方法により測定できる。
【0033】
・要件(x-3):GPCにより求められるMwが5,000~25,000である
該Mwは、好ましくは6,000~20,000であり、より好ましくは7,000~17,000である。
Mwが前記範囲にあると、化合物(Q)との相容性および流動性にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、高温下で使用した際、薄層化が容易になると同時に、バインダー(B)の流出が起こりにくく、熱抵抗の低減、および、経時的な熱抵抗増大が抑制されたPCMを容易に得ることができる。
【0034】
また、重合体(X)の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、通常3以下であり、好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.2以下である。Mw/Mnは、通常1.0以上であり、好ましくは1.2以上である。
重合体(X)のMw/Mnが前記範囲にあると、化合物(Q)との相容性、流動性および耐熱性にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、熱抵抗の低減、および、バインダー(B)の流出による経時的な熱抵抗の増大が抑制された樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0035】
重合体(X)のMwおよびMw/Mnは、分子量既知の標準物質(単分散ポリスチレン)を用いて較正されたGPCによって測定することができ、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0036】
・重合体(X)の性状
重合体(X)は、常温(例:20~25℃)で液状であることが好ましい。常温で液状であると、常温で樹脂組成物に柔軟性を付与でき、取扱い性に優れる樹脂組成物となる等の点で好ましい。
【0037】
・重合体(X)の構成
重合体(X)の具体例としては、炭素数2~20のα-オレフィンの単独重合体または2種以上のα-オレフィンの共重合体が挙げられる。該炭素数2~20のα-オレフィンの例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等の直鎖状α-オレフィン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、8-メチル-1-ノネン、7-メチル-1-デセン、6-メチル-1-ウンデセン、6,8-ジメチル-1-デセン等の分岐を有するα-オレフィンが挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0038】
重合体(X)の好ましい一態様は、エチレン・α-オレフィン共重合体である。該α-オレフィンとしては、エチレン以外の炭素数3以上のα-オレフィンが挙げられ、典型例として、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等の炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。ただし、該エチレン・α-オレフィン共重合体において、炭素数6~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含量は50モル%未満とする。
【0039】
これらのα-オレフィンの中では、効果的に結晶性を低下させ、液状の(共)重合体を得ることができ、化合物(Q)との相容性に優れ、前記所望の効果を奏する組成物、成形体を容易に得ることができる等の点から、炭素数3~10のα-オレフィンが好ましく、特にプロピレンが好ましい。
【0040】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体における、エチレンから導かれる構成単位の含量(以下「エチレン含量」ともいう。)は、好ましくは30~85モル%、より好ましくは40~80モル%である。
エチレン含量が前記範囲にあると、十分な流動性を有し、熱抵抗の小さい樹脂組成物を容易に得ることができる。
前記エチレン含量は、13C-NMRスペクトルから測定することができ、例えば、「高分子分析ハンドブック」(朝倉書店発行、P163~170)に記載の方法に従って測定することができる。
【0041】
・重合体(X)の製造方法
重合体(X)の製造方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、バナジウム、ジルコニウム、チタン、ハフニウムなどの遷移金属を含む化合物と、有機アルミニウム化合物(例:有機アルミニウムオキシ化合物)および/またはイオン化イオン性化合物とからなる触媒の存在下に、エチレンとα-オレフィンとを共重合させる方法が挙げられる。このような方法としては、例えば、国際公開第2000/34420号、特開昭62-121710号公報、国際公開第2004/29062号、特開2004-175707号公報、国際公開第2001/27124号等に記載の方法が挙げられる。これらのうち、ジルコノセンなどのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物(アルミノキサン)とを含む触媒系を用いる方法などは、高い重合活性で共重合体を製造できる他、得られる共重合体の塩素含量やα-オレフィンの2,1-挿入を低減できるため、より好ましい。
【0042】
[変性体(Y)]
前記変性体(Y)は、α-オレフィン(共)重合体のグラフト変性体であれば特に制限されないが、好ましくは、α-オレフィン(共)重合体に飽和炭化水素基以外の置換基や極性基を付与した(共)重合体であり、より好ましくは、α-オレフィン(共)重合体の、飽和炭化水素基以外の置換基や極性基を有するビニル化合物およびその誘導体から選ばれる1種以上のグラフトモノマーによるグラフト変性体であり、特に好ましくは、α-オレフィン(共)重合体の、極性基を含有するビニル化合物によるグラフト変性体である。
なお、該グラフト変性体における、飽和炭化水素基以外の置換基や極性基のグラフト位置は特に制限されない。
【0043】
変性体(Y)における、変性前のα-オレフィン(共)重合体は、前記重合体(X)であってもよく、前記重合体(X)以外の(共)重合体であってもよいが、前記重合体(X)であることが好ましい。
変性前のα-オレフィン(共)重合体としては特に制限されないが、炭素数2~20のα-オレフィンの単独重合体または2種以上のα-オレフィンの共重合体が挙げられる。該炭素数2~20のα-オレフィンとしては、前記重合体(X)の構成の欄に記載のα-オレフィンが挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0044】
変性前のα-オレフィン(共)重合体の好ましい一態様は、エチレン・α-オレフィン共重合体である。該α-オレフィンとしては、前記重合体(X)の好ましい一態様の欄に記載のα-オレフィンが挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
変性前のα-オレフィン(共)重合体としては、前記と同様の理由から、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0045】
前記変性の方法としては、例えば、飽和炭化水素基以外の置換基や極性基を有するビニル化合物およびその誘導体から選ばれる1種以上のグラフトモノマーを用いる方法が挙げられる。
該飽和炭化水素基以外の置換基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、チオフェン環等の(複素)芳香環を有する置換基が挙げられ、該極性基としては、例えば、カルボキシ基、酸無水物基、エーテル結合、エステル結合、ヒドロキシ基、エポキシ基等の酸素含有基、アミド基、イミド結合、アミノ基、ニトリル基、イソシアネート基等の窒素含有基、スルフィニル基、スルファニル基、スルホニル基等の硫黄含有基が挙げられる。
【0046】
前記ビニル化合物またはその誘導体としては、スチレン、アリルベンゼン等の芳香環を有するビニル化合物、酸、酸無水物、エステル、アミド、イミドなど酸または酸誘導基を有するビニル化合物、アルコール、エポキシ、エーテル等の酸素含有基を有するビニル化合物、アミン、ニトリル、イソシアネート等の窒素含有基を有するビニル化合物、ビニルシラン等のケイ素含有基を有するビニル化合物等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、極性基を有するビニル化合物またはその誘導体が好ましく、酸素含有基を有するビニル化合物がより好ましく、具体的には、不飽和カルボン酸およびその誘導体、不飽和エポキシ単量体などが好ましい。
【0048】
前記不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸(エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)等が挙げられる。
前記不飽和カルボン酸の誘導体としては、前記不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル、アミドおよびイミド等が挙げられる。
前記不飽和エポキシ単量体としては、アリルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジルなどの不飽和グリシジルエステル等が挙げられる。
【0049】
前記不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル等のエステルおよびハーフエステルが挙げられる。
前記不飽和カルボン酸のアミドとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸-N-モノエチルアミド、マレイン酸-N,N-ジエチルアミド、マレイン酸-N-モノブチルアミド、マレイン酸-N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸-N-モノブチルアミド、フマル酸-N,N-ジブチルアミドが挙げられる。
前記不飽和カルボン酸のイミドとしては、例えば、マレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミドが挙げられる。
【0050】
これらの中では、不飽和ジカルボン酸およびその誘導体がより好ましい。
また、安価で、極性の高い化合物であり、変性体(Y)を製造する反応においてホモポリマー等の副生物が生じにくい等の点から、マレイン酸および無水マレイン酸が特に好ましい。
【0051】
変性体(Y)は下記要件(y-1)~(y-3)を満たすことが好ましい。
【0052】
・要件(y-1):酸価が10~150mgKOH/gである
該酸価は、好ましくは15~100mgKOH/gである。
酸価は、グラフト量の指標として用いられる。酸価が前記範囲にあると、充填材(A)との相互作用、流動性および金属に対する低腐食性にバランスよく優れ、樹脂組成物使用時の熱抵抗の低減や、機器の健全性に寄与することができる。
【0053】
前記酸価は、グラフト量によって調整することができ、例えば、変性体(Y)の酸価を高めるためには、グラフト量を多くすることが好ましい。
【0054】
前記酸価は、重合体1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を示し、JIS K2501:2003に準拠した方法で測定することができる。具体的には、実施例に記載の通りである。
【0055】
・要件(y-2):150℃における見かけ粘度(ブルックフィールド粘度)が50~1,500mPa・sである
該見かけ粘度は、JIS K7117-1に記載の方法により測定され、好ましくは100~1,000mPa・s、より好ましくは120~900mPa・sである。
見かけ粘度が前記範囲にあると、高温時にバインダー(B)が流出し熱抵抗が増大することを抑制することができ、かつ、高温時にPCMを十分薄膜化でき熱抵抗を小さくできる。
【0056】
・要件(y-3):GPCにより求められる重量平均分子量(Mw)が3,000~25,000である
該Mwは、好ましくは7,000~20,000である。
変性体(Y)のMwが前記範囲にあると、化合物(Q)との相容性および流動性にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、高温下でも、薄層化が容易になると同時に、バインダー(B)が流出しにくく、熱抵抗の低減、および、経時的な熱抵抗の増大が抑制されたPCMを容易に得ることができる。
【0057】
変性体(Y)のMwは、分子量既知の標準物質(単分散ポリスチレン)を用いて較正されたGPCによって測定することができ、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0058】
・変性体(Y)の製造方法
変性体(Y)は、従来公知の種々の方法、例えば、下記(1)や(2)の方法により製造することができる。
(1)α-オレフィン(共)重合体を押出機、バッチ式反応機などに装入し、そこに、極性基を有するビニル化合物またはその誘導体などのグラフトモノマーを添加してグラフト共重合する方法。
(2)α-オレフィン(共)重合体を溶媒に溶解させて、極性基を有するビニル化合物またはその誘導体などのグラフトモノマーを添加してグラフト共重合する方法。
【0059】
前記いずれの方法も、グラフトモノマーを効率よくグラフト共重合させるために、1種または2種以上のラジカル開始剤等の存在下でグラフト共重合を行うことが好ましい。
【0060】
前記ラジカル開始剤としては、例えば、有機ペルオキシド、アゾ化合物が挙げられる。
該有機ペルオキシドとしては、ベンゾイルペルオキシド、ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられ、該アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレート等が挙げられる。
これらの中でも、特に、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルペルオキシドが好ましく用いられる。
【0061】
ラジカル開始剤の使用量は、変性前のα-オレフィン(共)重合体100質量部に対して、通常は0.001~5質量部、好ましくは0.01~4質量部、さらに好ましくは0.05~3質量部である。
【0062】
前記グラフト共重合の際の反応温度は、通常60~350℃、好ましくは120~300℃である。
【0063】
前記グラフト変性体における、飽和炭化水素基以外の置換基や極性基のグラフト量は、変性体(Y)全体の質量を100質量%とした場合、通常0.01~15質量%、好ましくは0.05~10質量%である。
該グラフト量は、例えば、NMR分析やIR分析等の公知の方法で測定することができる。
【0064】
〈化合物(Q)〉
化合物(Q)は、成分(P)以外の化合物であり、オレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびワックスから選ばれる1種以上の化合物である。
化合物(Q)としては、成分(P)に対して適切な相容性を有するため、バインダー(B)の流動性を適切に制御でき、高温時でも、バインダー(B)が流出し熱抵抗が増大することを防ぐことができ、さらに、高温時にPCMを十分薄膜化でき熱抵抗を小さくできる等の点から、これらの中でも、オレフィン系樹脂が好ましい。
化合物(Q)としては、常温(0~30℃)で固体状の化合物であることが好ましい。
【0065】
バインダー(B)100質量%に対する化合物(Q)の含有量は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%である。
化合物(Q)の含有量が前記範囲にあると、バインダー(B)の流動性を適切に制御でき、高温時でも、バインダー(B)が流出し熱抵抗が増大することを防ぐことができ、さらに、高温時に樹脂組成物を十分薄膜化でき熱抵抗を小さくできる。
【0066】
[オレフィン系樹脂]
前記オレフィン系樹脂は、オレフィンをモノマーとして用いた単独重合体または共重合体であり、前記重合体(X)および前記変性体(Y)以外の樹脂である。
本組成物は、2種以上のオレフィン系樹脂を含有してもよい。
【0067】
前記モノマーとして用いることができるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン(イソブテン、イソブチレン)、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、8-メチル-1-ノネン、7-メチル-1-デセン、6-メチル-1-ウンデセン、6,8-ジメチル-1-デセンが挙げられる。これらオレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0068】
前記オレフィン系樹脂のモノマーとして、環状のオレフィンや、環状または鎖状のポリエンを用いてもよい。これらモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルテトラヒドロインデン、テトラシクロドデセン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、4-エチリデン-1,7-ウンデカジエンが挙げられる。これらモノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0069】
また、前記オレフィン系樹脂のモノマーとして、芳香族系モノマーや極性モノマー、ポリエンを用いることもできる。これらモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエンなどスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸無水物などの(メタ)アクリル酸誘導体、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどの非共役ポリエン、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物が挙げられる。これらモノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0070】
極性モノマーを使用する場合、オレフィン系樹脂は、極性モノマーを用いて得られた樹脂の加水分解生成物であってもよく、K、Na、CaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の金属塩であるアイオノマーであってもよい。
【0071】
前記オレフィン系樹脂の具体例としては、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、その他のα-オレフィン系樹脂、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体の部分加水分解物、エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴム、ブチル系ゴムが挙げられる。
前記オレフィン系樹脂としては、成分(P)に対して適切な相容性を有するため、バインダー(B)の流動性を適切に制御でき、高温時でも、バインダー(B)が流出し熱抵抗が増大することを防ぐことができ、さらに、高温時にPCMを十分薄膜化でき熱抵抗を小さくできる等の点から、これらの中でも、エチレン系樹脂、エチレン・ビニルエステル共重合体が好ましい。
【0072】
〔エチレン系樹脂〕
前記エチレン系樹脂は、エチレンの単独重合体、および、エチレンから導かれる構成単位の含有率が50モル%以上100モル%未満であるエチレン・α-オレフィン共重合体の総称である。
本組成物は、2種以上のエチレン系樹脂を含有してもよい。
【0073】
前記エチレン系樹脂には、一般のポリエチレンより分子量が低いポリエチレン系ワックスも含まれ、前記エチレン系樹脂としては、融点と溶融粘度にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、高温下において、薄層化が容易になると同時に、バインダー(B)が流出しにくく、熱抵抗の低減、および、経時的な熱抵抗の増大が抑制されたPCMを容易に得ることができる等の点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。
【0074】
前記エチレン系樹脂がエチレン・α-オレフィン共重合体である場合、エチレンと共重合させるα-オレフィンとしては特に限定されないが、炭素数3~20のα-オレフィンが好ましい。具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、8-メチル-1-ノネン、7-メチル-1-デセン、6-メチル-1-ウンデセン、6,8-ジメチル-1-デセン等が挙げられる。これらの中でも、特に炭素数3~12のα-オレフィンが好ましい。これらのα-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0075】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体の立体規則性および連鎖構造は特に制限されず、前記エチレン・α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0076】
前記エチレン系樹脂には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高分子量ポリエチレン(HMWPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等の各種ポリエチレンが包含される。
【0077】
前記エチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500~5,000,000、より好ましくは600~1,000,000、さらに好ましくは600~500,000である。
【0078】
前記ポリエチレン系ワックスには、低密度ポリエチレン(LDPE)系ワックス、中密度ポリエチレン(MDPE)系ワックス、高密度ポリエチレン(HDPE)系ワックス、超低密度ポリエチレン(VLDPE)ワックス、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)系ワックス等各種ポリエチレン系ワックスが包含される。
【0079】
前記ポリエチレン系ワックスの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500~40,000、より好ましくは600~30,000である。Mwが前記範囲にあると、融点と溶融粘度にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、高温下において、薄層化が容易になると同時に、バインダー(B)が流出しにくく、熱抵抗の低減、および、経時的な熱抵抗の増大が抑制されたPCMを容易に得ることができる。
【0080】
前記エチレン系樹脂およびポリエチレン系ワックスのMwは、GPCによって測定することができる。具体的には、分子量既知の標準物質(単分散ポリスチレン)を用いて検量線を作成し、下記換算法に基づいて求めることができる。
分子量換算法:ポリエチレン(PE)換算/汎用較正法
なお、汎用較正の計算には、Mark-Houwink粘度式の係数を用いることができる。ポリスチレン、ポリエチレンのMark-Houwink係数はそれぞれ、文献(J.Polym.Sci.,Part A-2,8,1803(1970)、Makromol.Chem.,177,213(1976))に記載の値を用いることができる。
【0081】
・エチレン系樹脂の製造方法
前記エチレン系樹脂は、従来公知の種々の方法を用いて製造できる。該方法としては、例えば、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、ハフニウムなどの遷移金属を含有するチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒など公知の重合用触媒と、有機アルミニウム化合物(例:有機アルミニウムオキシ化合物)および/またはイオン化イオン性化合物とからなる触媒の存在下で(共)重合する方法、高温・高圧下でモノマーをラジカル(共)重合する方法、開始剤を用いてモノマーをカチオン、アニオンまたはラジカル(共)重合する方法が挙げられる。
重合方法も特に制限されず、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法などの液相重合法、気相重合法、その他公知の重合方法で行うことができる。
また前記方法で得られたエチレン系樹脂を、従来公知の方法で熱分解し、低分子量化してもよい。
【0082】
・エチレン系樹脂の市販品
前記エチレン系樹脂としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、(株)プライムポリマー製の「ハイゼックス」、「ネオゼックス」、「ウルトゼックス」、「エボリュー」、住友化学(株)製の「スミカセン」、「エクセレン」、日本ポリエチレン(株)製「ノバテックLL」、「ノバテックC6」、「ノバテックHD」、「ノバテックLD」、「ハーモレックス」、Exxon Mobil Chemical社製の「Exceed」、「Enable」が挙げられる。
なお、ポリエチレン系ワックスの市販品としては、例えば、三井化学(株)製の「ハイワックス」、「エクセレックス」、三洋化成(株)製の「サンワックス」、Clariant社製の「Ceridust」、「Licowax」、「Licocene」、Honeywell社製の「A-C」が挙げられる。
【0083】
〔プロピレン系樹脂〕
前記プロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体、および、プロピレンから導かれる構成単位の含有率が50モル%以上100モル%未満であるプロピレン・α-オレフィン共重合体(但し、前記エチレン・α-オレフィン共重合体以外の共重合体である。)の総称である。
本組成物は、2種以上のプロピレン系樹脂を含有してもよい。
【0084】
前記プロピレン系樹脂がプロピレン・α-オレフィン共重合体である場合、プロピレンと共重合させるプロピレン以外のα-オレフィンとしては特に限定されないが、炭素数2および4~20のα-オレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、8-メチル-1-ノネン、7-メチル-1-デセン、6-メチル-1-ウンデセン、6,8-ジメチル-1-デセン等が挙げられる。これらの中でも、特に炭素数2および4~12のα-オレフィンが好ましい。これらのα-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0085】
前記プロピレン単独重合体の立体規則性および連鎖構造は特に制限されず、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレンなど任意の立体規則性および連鎖構造を有するプロピレン単独重合体が包含される。
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体の立体規則性および連鎖構造も特に制限されず、前記プロピレン・α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0086】
前記プロピレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~5,000,000、より好ましくは2,000~1,000,000、さらに好ましくは2,000~500,000である。
【0087】
前記プロピレン系樹脂には、一般のポリプロピレンより分子量が低いポリプロピレン系ワックスも含まれ、ホモポリプロピレン系ワックス、ブロックポリプロピレン系ワックス、ランダムポリプロピレン系ワックスなど各種ポリプロピレン系ワックスが包含される。
【0088】
前記ポリプロピレン系ワックスの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~50,000、より好ましくは2,000~40,000である。Mwが前記範囲にあると、融点と溶融粘度にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、高温下において、薄層化が容易になると同時に、バインダー(B)が流出しにくく、熱抵抗の低減、および、経時的な熱抵抗の増大が抑制されたPCMを容易に得ることができる。
【0089】
前記プロピレン系樹脂およびポリプロピレン系ワックスのMwは、GPCによって測定することができる。具体的には、分子量既知の標準物質(単分散ポリスチレン)を用いて検量線を作成し、下記換算法に基づいて求めることができる。
分子量換算法:ポリプロピレン(PP)換算/汎用較正法
なお、汎用較正の計算には、Mark-Houwink粘度式の係数を用いることができる。ポリスチレン、ポリプロピレンのMark-Houwink係数はそれぞれ、文献(J.Polym.Sci.,Part A-2,8,1803(1970)、Makromol.Chem.,177,213(1976))に記載の値を用いることができる。
【0090】
・プロピレン系樹脂の製造方法
前記プロピレン系樹脂は、従来公知の種々の方法を用いて製造できる。該方法としては、例えば、前記エチレン系樹脂の欄で記載した方法と同様の方法が挙げられる。
【0091】
・プロピレン系樹脂の市販品
前記プロピレン系樹脂としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、(株)プライムポリマー製の「プライムポリプロ」、日本ポリプロ(株)製の「ノバテックPP」、「ウィンテック」、「ウェルネクス」、「ウェイマックス」、「ニューコン」、住友化学(株)製の「住友ノーブレン」、「エクセレン」、「タフセレン」が挙げられる。
なお、ポリプロピレン系ワックスの市販品としては、例えば、三井化学(株)製の「ハイワックス」、三洋化成(株)製の「ビスコール」、Clariant社製の「Ceridust」、「Licowax」、「Licocene」、Honeywell社製の「A-C」が挙げられる。
【0092】
〔その他のα-オレフィン系樹脂〕
前記その他のα-オレフィン系樹脂とは、前記エチレン系樹脂およびプロピレン系樹脂以外の樹脂であり、具体的には、例えば、炭素数4以上のα-オレフィンの単独重合体、炭素数4以上のα-オレフィン2種類以上の共重合体、および、炭素数4以上のα-オレフィンから選ばれる1種以上より導かれる構成単位と、エチレンおよびプロピレンから選ばれる1種以上より導かれる構成単位とを含む二元以上の共重合体(但し、エチレンから導かれる構成単位の含有率は50モル%未満であり、かつ、プロピレンから導かれる構成単位の含有率は50モル%未満である。)が挙げられる。ただし、該その他のα-オレフィン系樹脂は、下記ブチル系ゴム以外の樹脂である。
本組成物は、2種以上のその他のα-オレフィン系樹脂を含有してもよい。
【0093】
該炭素数4以上のα-オレフィンとしては、炭素数4~20のα-オレフィンが好ましく、該α-オレフィンの例としては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等の直鎖状α-オレフィン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、8-メチル-1-ノネン、7-メチル-1-デセン、6-メチル-1-ウンデセン、6,8-ジメチル-1-デセン等の分岐を有するα-オレフィンが挙げられる。
【0094】
前記その他のα-オレフィン系樹脂の立体規則性および連鎖構造は制限されない。
前記その他のα-オレフィン系樹脂には、一般の樹脂より分子量が低い、その他のα-オレフィン(共)重合体系ワックス(ポリエチレン系ワックスおよびポリプロピレン系ワックス以外のα-オレフィン(共)重合体系ワックス)も包含される。
【0095】
・その他のα-オレフィン系樹脂の製造方法
前記その他のα-オレフィン系樹脂は、従来公知の種々の方法を用いて製造できる。該方法としては、例えば、前記エチレン系樹脂の欄で記載した方法と同様の方法が挙げられる。
【0096】
・その他のα-オレフィン系樹脂の市販品
前記その他のα-オレフィン系樹脂としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、三井化学(株)製の「タフマー」、DOW Chemical社製の「ENGAGE」、「AFFINITY GA」、「VERSIFY」、Exxon Mobil Chemical社製の「Exxtral」、「Extra」が挙げられる。
【0097】
〔エチレン・ビニルエステル共重合体〕
前記エチレン・ビニルエステル共重合体は、エチレンと、1種または2種以上のビニルエステルとを共重合した共重合体である。
前記エチレン・ビニルエステル共重合体の立体規則性および連鎖構造は特に制限されない。
本組成物は、2種以上のエチレン・ビニルエステル共重合体を含有してもよい。
【0098】
前記ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニルが挙げられる。
前記エチレン・ビニルエステル共重合体としては、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン・酪酸ビニル共重合体、エチレン・ステアリン酸ビニル共重合体が挙げられる。これらの中でも特に、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0099】
前記エチレン・ビニルエステル共重合体における、エチレンから導かれる構成単位の含有量は、エチレン・ビニルエステル共重合体を構成する構成単位の全体100質量%に対し、好ましくは40~95質量%、より好ましくは42~93質量%、特に好ましくは43~92質量%である。
エチレンから導かれる構成単位の含有量が前記範囲にあると、充填材(A)との相互作用、および、重合体(X)および/または変性体(Y)との相容性にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、熱抵抗の低減、および、経時的な熱抵抗の増大が抑制された樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0100】
・エチレン・ビニルエステル共重合体の製造方法
前記エチレン・ビニルエステル共重合体は、従来公知の種々の方法を用いて製造できる。該方法としては、例えば、前記エチレン系樹脂の欄で記載した方法と同様の方法が挙げられる。
【0101】
・エチレン・ビニルエステル共重合体の市販品
前記エチレン・ビニルエステル共重合体としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、三井・ダウ ポリケミカル(株)製の「エバフレックス」、住友化学(株)製の「スミテート」、日本ポリエチレン(株)製の「ノバテックEVA」、東ソー(株)製の「ウルトラセン」、Exxon Mobil Chemical社製の「Escorene」が挙げられる。
【0102】
〔エチレン・ビニルアルコール共重合体〕
前記エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、前記エチレン・ビニルエステル共重合体の加水分解物、具体的には鹸化物が挙げられ、前記エチレン・ビニルエステル共重合体を加水分解することで、エチレン・ビニルアルコール共重合体を得ることができる。
なお、本明細書において、前記エチレン・ビニルエステル共重合体の完全加水分解物(鹸化度100%である)を「エチレン・ビニルアルコール共重合体」といい、前記エチレン・ビニルエステル共重合体の部分加水分解物(鹸化度が0%より大きく、100%未満である)を「エチレン・ビニルエステル共重合体の部分加水分解物」という。
前記エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては例えば、(株)クラレ製の「エバール」、三菱ケミカル(株)製の「ソアノール」が挙げられる。
本組成物は、2種以上のエチレン・ビニルアルコール共重合体を含有してもよい。
【0103】
〔エチレン・ビニルエステル共重合体の部分加水分解物〕
前記エチレン・ビニルエステル共重合体の部分加水分解物は、具体的には前記エチレン・ビニルエステル共重合体を部分的に鹸化した鹸化物であり、その鹸化度は特に制限されないが、好ましくは0%より大きく100%未満、より好ましくは15%より大きく100%未満である。
前記エチレン・ビニルエステル共重合体の部分加水分解物としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては例えば、東ソー(株)製の「メルセンH」が挙げられる。
本組成物は、2種以上のエチレン・ビニルエステル共重合体の部分加水分解物を含有してもよい。
【0104】
〔エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体〕
前記エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体とは、エチレンと、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸誘導体から選ばれる1種または2種以上とを共重合した共重合体である。
前記エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体の立体規則性および連鎖構造は特に制限されない。
本組成物は、2種以上のエチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体を含有してもよい。
【0105】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、(メタ)アクリル酸無水物、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが挙げられる。
前記(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ステアリル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0106】
これらの中でも特に、(メタ)アクリル酸エステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチルを用いた、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸プロピル、エチレン・(メタ)アクリル酸ブチルが好ましい。
【0107】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を加水分解物であってもよく、Na、K、CaおよびZnから選ばれる1種または2種以上の金属塩であるアイオノマーであってもよい。
【0108】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体における、エチレンから導かれる構成単位の含有量は、エチレン・エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体を構成する構成単位の全体100質量%に対し、好ましくは0.5~40質量%、より好ましくは1~30質量%である。
エチレンから導かれる構成単位の含有量が前記範囲にあると、充填材(A)との相互作用、および、重合体(X)および/または変性体(Y)との相容性にバランスよく優れるバインダー(B)を容易に得ることができ、熱抵抗の低減、および、経時的な熱抵抗の増大が抑制された樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0109】
・エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体の製造方法
前記エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体は、従来公知の種々の方法を用いて製造できる。該方法としては、例えば、前記エチレン系樹脂の欄で記載した方法と同様の方法が挙げられる。
【0110】
・エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体の市販品
前記エチレン・(メタ)アクリル酸(誘導体)共重合体としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、三井・ダウ ポリケミカル(株)製の「ハイミラン」、「ニュクレル」、「エルバロイAC」、住友化学(株)製の「アクリフト」、「ボンドファースト」、日本ポリエチレン(株)製の「レクスバール」、Exxon Mobil Chemical社製の「Escor」、「Optema」、「ExxonMobil EnBA copolymer resins」、Honeywell社製の「ACLYN」が挙げられる。
【0111】
〔エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴム〕
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムは、エチレンから導かれる構成単位と、炭素数3以上、好ましくは炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位と、非共役ポリエンから導かれる構成単位とを含む共重合体ゴムである。
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムの立体規則性および連鎖構造は特に制限されない。また、前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムにおける、非共役ポリエンのシス、トランスなど幾何化学、立体化学などについても特に制限されない。
本組成物は、2種以上のエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムを含有してもよい。
【0112】
前記炭素数3~20のα-オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、9-メチル-1-デセン、12-エチル-1-テトラデセン等が挙げられる。これらの中でも、炭素数3~10のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンがより好ましく、プロピレンおよび1-ブテンが特に好ましい。これらα-オレフィンは、1種または2種以上を用いることができる。
【0113】
前記非共役ポリエンの具体例としては、1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、8-メチル-4-エチリデン-1,7-ノナジエン、4-エチリデン-1,7-ウンデカジエン等の鎖状非共役ジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-イソブテニル-2-ノルボルネン、シクロペンタジエンおよびノルボルナジエン等の環状非共役ジエン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン等のトリエンが挙げられる。これらの中でも、1,4-ヘキサジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ならびに、5-エチリデン-2-ノルボルネンおよび5-ビニル-2-ノルボルネンの混合物が好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ならびに、5-エチリデン-2-ノルボルネンおよび5-ビニル-2-ノルボルネンの混合物が特に好ましい。これら非共役ポリエンは、1種または2種以上を用いることができる。
【0114】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムにおける、エチレンから導かれる構成単位の含有量は、エチレンから導かれる構成単位とα-オレフィンから導かれる構成単位との合計100質量%に対し、好ましくは55~99質量%、より好ましくは60~95質量%、さらに好ましくは70~90質量%である。
【0115】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムにおける、非共役ポリエンから導かれる構成単位の含有量は、エチレンから導かれる構成単位とα-オレフィンから導かれる構成単位との合計100質量部に対し、好ましくは1~25質量部、より好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは3~15質量部である。
【0116】
・エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムの製造方法
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムは、例えば、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒など公知の重合用触媒を用いて製造することができる。重合方法も特に制限されず、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法などの液相重合法、気相重合法、その他公知の重合方法で行うことができる。
【0117】
・エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムの市販品
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合ゴムとしては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、Exxon Mobil Chemical社製の「Vistalon」、住友化学(株)製の「エスプレン」、三井化学(株)製の「三井EPT」が挙げられる。
【0118】
〔ブチル系ゴム〕
前記ブチル系ゴムは、イソブチレン(イソブテン、2-メチルプロピレン)から導かれる構成単位を含む(共)重合体である。前記ブチル系ゴムは、イソブチレンの単独重合体でもよく、イソブチレンとイソブチレン以外のコモノマーとの共重合体でもよい。
前記ブチル系ゴムがイソブチレンとイソブチレン以外のコモノマーとの共重合体である場合、該コモノマーとしては、ジエン化合物やスチレン系化合物などを用いることができる、これらのコモノマーは、1種または2種以上を用いることができ、該共重合体の立体規則性および連鎖構造は特に制限されない。
本組成物は、2種以上のブチル系ゴムを含有してもよい。
【0119】
前記ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、クロロプレンが挙げられる。
前記スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレンが挙げられる。
これらの中でも、イソプレン、4-メチルスチレンが好ましい。
【0120】
前記ブチル系ゴムにおける、イソブチレンから導かれる構成単位の含有量は、イソブチレンから導かれる構成単位とイソブチレン以外のコモノマーから導かれる構成単位との合計100質量%に対し、好ましくは85~99.8質量%、より好ましくは90~99.5質量%、さらに好ましくは92~99.5質量%である。
【0121】
なお、前記ブチル系ゴムは、ハロゲンが導入されていてもよい。該ハロゲンとしては、塩素、臭素が好ましく、臭素が特に好ましい。
ハロゲンを含むブチル系ゴムにおけるハロゲン含有量は、ブチル系ゴム全体100質量%に対し、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.3~3質量%である。
【0122】
また、前記ブチル系ゴムは、ハロゲンを含むブチル系ゴムをさらに二次変性して得られたブチル系ゴムでもよい。
すなわち、前記ブチル系ゴムは、ブチルゴム(イソブチレン・イソプレン共重合体、IIR)、塩素化ブチルゴム(ブチルゴムの塩素化物、Cl-IIR)、臭素化ブチルゴム(ブチルゴムの臭素化物、Br-IIR)、イソブチレン・4-メチルスチレン共重合体の臭素化物などを含む。
【0123】
・ブチル系ゴムの製造方法
前記ブチル系ゴムの製造方法は特に制限されないが、例えば、塩化メタン中、塩化アルミニウムを開始剤として、イソブチレンを含むモノマーを低温でカチオン重合する方法が挙げられる。
前記ブチル系ゴムにハロゲンを導入する方法も特に制限されず、ハロゲン化されたモノマーを共重合させる方法や、ハロゲンを含まないブチル系ゴムを変性しハロゲンを導入する方法など、従来公知の方法を用いることができる。一般的な方法として、ヘキサンなど炭化水素系溶媒中で、塩素、臭素などの単体のハロゲンを用いてブチル系ゴムにハロゲンを導入方法が挙げられる。
【0124】
・ブチル系ゴムの市販品
前記ブチル系ゴムとしては、市販品を用いてもよく、前記ブチルゴム(IIR)の市販品としては、例えば、日本ブチル(株)製の「Butyl」、Exxon Mobil Chemical社製の「Exxon butyl rubber」、Lanxees社製の「X_Butyl RB」が挙げられる。
前記塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)の市販品としては、例えば、日本ブチル(株)製の「CHLOROBUTYL」、Exxon Mobil Chemical社製の「Exxon chlorobutyl rubber」、Lanxess社製の「X_Butyl CB」が挙げられる。
前記臭素化ブチルゴム(Br-IIR)の市販品としては、例えば、日本ブチル(株)製の「BROMOBUTYL」、Exxon Mobil Chemical社製の「Exxon bromobutyl rubber」、Lanxess社製の「X_Butyl BB」が挙げられる。
前記イソブチレン・4-メチルスチレン共重合体の臭素化物の市販品としては、例えば、Exxon Mobil Chemical社製の「Exxpro」が挙げられる。
【0125】
[スチレン系熱可塑性エラストマー]
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックとを含有するブロック共重合体、および、この水素添加物から選ばれる、1種または2種以上の共重合体である。
本組成物は、2種以上のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有してもよい。
【0126】
前記スチレン系化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、インデン、アセナフチレンが挙げられる。これらスチレン系化合物は、1種または2種以上を用いることができる。これらの中でもスチレンが最も好ましい。
【0127】
前記共役ジエン化合物としては、炭素数4~20の共役ジエンが好ましく、その具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエンが挙げられる。これら共役ジエンは、1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、ブタジエン、イソプレンが最も好ましい。
【0128】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーにおける、スチレン系化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックの含有量は、スチレン系化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックとの合計100質量%に対し、好ましくは5~80質量%、より好ましくは10~75質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。
【0129】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、分子中に少なくとも1個のスチレン系化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個の共役ジエン化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックとを有していればよく、その構造は特に制限されず、直鎖状または分枝状のいずれであってもよい。好ましくは、スチレン系化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロック-共役ジエン化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロック-スチレン系化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロック型のトリブロック共重合体である。
【0130】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン/イソプレン・スチレンブロック共重合体が挙げられる。
なお、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体とは、ポリスチレンブロック-ポリブタジエンブロック-ポリスチレンブロックの形態のブロック共重合体のことを意味する。
【0131】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物から導かれる構成単位を主体とする重合体ブロックとを含有するブロック共重合体の水素添加物を用いることもできる。該水素添加物を用いると、水素添加により脂肪族二重結合が減少し、耐熱性が向上する等の点で好ましい。
【0132】
前記水素添加物としては、90~100%の脂肪族二重結合が水素添加され、0~10%の芳香族二重結合が水素化された共合体が好適であり、特に99~100%の脂肪族二重結合が水素添加され、0~5%の芳香族二重結合が水素化された共合体が好ましい。
【0133】
・スチレン系熱可塑性エラストマーの製造方法
前記スチレン系熱可塑性エラストマーの製造方法は特に制限されないが、例えば、適当な重合開始剤系を用い、不活性溶媒中でスチレンなどのスチレン系化合物と、ブタジエンなどの共役ジエン化合物とを順次重合することにより製造することができる。
【0134】
この場合の重合開始剤系の例としては、ルイス酸とルイス酸によってカチオン重合活性種を生成する有機化合物との混合系が挙げられる。該ルイス酸としては、四塩化チタン、四塩化スズ、三塩化ホウ素、塩化アルミニウム等が挙げられ、該有機化合物としては、アルコキシ基、アシルオキシ基および/またはハロゲンなどの官能基を有する有機化合物、例えば、ビス(2-メトキシ-2-プロピル)ベンゼン、ビス(2-アセトキシ-2-プロピル)ベンゼン、ビス(2-クロロ-2-プロピル)ベンゼンが挙げられる。
さらに、前記のルイス酸および有機化合物と共に、必要に応じて、例えば、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類、酢酸エチルなどのエステル類を第3成分として使用してもよい。
また、前記不活性溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、塩化メチル、塩化メチレンが挙げられる。
【0135】
直鎖状のスチレン系熱可塑性エラストマーは、例えば、
(1)重合開始剤系として、ルイス酸およびカチオン重合活性種を生成する官能基を1個有する化合物を使用して、スチレン系化合物を重合させて重合体ブロックを形成した後、共役ジエン化合物を反応系に添加して重合させて重合体ブロックを形成させ、必要に応じてさらにスチレン系化合物を添加して重合を行って重合体ブロックを形成させる方法、
(2)重合開始剤系として、ルイス酸およびカチオン重合活性種を生成する官能基を2個有する化合物を使用して、まず、共役ジエン化合物を重合させて重合体ブロックを形成した後、反応系にスチレン系化合物を添加して重合を行い、重合体ブロックを形成させる方法
により製造することができる。
【0136】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、例えば、ルイス酸およびカチオン重合活性種を生成する官能基を3個以上有する化合物を重合開始剤系として使用して、まず、共役ジエン化合物を重合させて重合体ブロックを形成した後、次いで、スチレン系化合物を添加して重合を行って重合体ブロックを形成させる方法などにより製造することもできる。
【0137】
前記水素添加物は、前記ブロック共重合体を公知の方法で水素添加することで得ることができる。
この水素添加の際には、水素添加触媒を用いることが好ましく、該触媒としては、ニッケル、多孔質ケイソウ土、ラネーニッケル、重クロム酸銅、硫化モリブデン、カーボン等の担体に、白金、パラジウム等を担持したものが挙げられる。
なお、前記水素添加は、任意の圧力(例えば、大気圧~300気圧、好ましくは5~200気圧)、任意の温度(例えば、20~350℃)、任意の時間(例えば、0.2~10時間)で行うことができる。
【0138】
・スチレン系熱可塑性エラストマーの市販品
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、市販品を用いてもよく、非水添品の市販品としては、例えば、クレイトン社製の「Dシリーズ」、JSR(株)製の「TRシリーズ」、旭化成(株)製の「タフプレン」、「アサプレン」が挙げられる。
水添品の市販品としては、例えば、(株)クラレ製の「セプトン」、「ハイブラー」、旭化成(株)製の「タフテック」、JSR(株)製の「ダイナロン」、クレイトンポリマー社製の「Gシリーズ」が挙げられる。
【0139】
[ワックス]
前記ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャートロプシュワックス、脂肪酸誘導体系ワックス、動植物蝋および鉱物蝋等が挙げられる。
なお、前記ワックスは、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、その他のα-オレフィン(共)重合体系ワックス)以外のワックスである。
【0140】
前記パラフィンワックスとしては、例えば、石油の減圧蒸留留出油から分離精製した、常温で固体のワックスが挙げられ、具体例として、炭素数20~60の直鎖上のアルカン(パラフィン)を主成分として含むワックスが挙げられる。
前記マイクロクリスタリンワックスとしては、例えば、石油の減圧蒸留の残渣油または重質留出油から分離精製した常温で固体のワックスが挙げられ、具体例として、炭素数20~60の分岐上のアルカン(イソパラフィン)および/または環状のシクロアルカンを主成分として含むワックスが挙げられる。
前記ペトロラタムとしては、例えば、石油の減圧蒸留の残渣油から分離精製した常温で半固体のワックスが挙げられる。
前記脂肪酸誘導体系ワックスとしては、例えば、脂肪酸、脂肪酸カルシウム塩、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、脂肪酸アミドが挙げられる。これらの脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸が挙げられる。
前記動植物蝋としては、例えば、蜜蝋、鯨蝋、セラック蝋、カルナバ蝋、木蝋が挙げられる。
前記鉱物蝋としては、例えば、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンが挙げられる。
【0141】
[化合物(Q)のその他の態様]
前記化合物(Q)は、前述の化合物をそのまま用いてもよいし、前述の化合物を、何らかの置換基および極性基などを付与した変性体(但し、前記変性体(Y)以外の化合物である。)を用いてもよい。化合物(Q)はこれらのうち1種または2種以上用いることができる。
変性の方法は制限されず、従来公知の種々の変性法を用いることができる。例えば、酸素や過酸化物による酸化反応、加水分解、鹸化、エステル化、アミド化などカルボキシ基部位を起点にした反応、塩素、臭素など単体のハロゲンとの反応、脱離能の良い(擬)ハロゲン化アルキル部位での求核置換反応や求核脱離反応、ラジカル開始剤存在下でビニル化合物等を反応させるグラフト反応が挙げられる。
【0142】
<その他の成分>
本組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、充填材(A)およびバインダー(B)以外のその他の成分を含有してもよい。該その他の成分としては、前記バインダー(B)以外のオイルまたは高分子成分、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、有機系または無機系発泡剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、抗菌剤、界面活性剤、結晶化助剤、衝撃改良剤、加工助剤等が挙げられる。
【0143】
なお、本組成物は、高温下(例:150℃)において、該組成物から流出し得る成分や、電子部品における接点障害の原因となる物質を生じる成分を、実質的に含まない、具体的には、該成分の含有量が、本組成物100質量%に対し、1質量%以下であることが好ましく、このような成分としては、具体的には、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサン、ポリジメチルヒドロメチルシロキサンなどからなるシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイル(液状シリコーン)が挙げられる。
【0144】
<樹脂組成物の製造方法>
本組成物の製造方法としては特に制限されず、充填材(A)、バインダー(B)および任意で用いられる前記その他の成分を、所定の割合で公知の方法により混合(または混練、以下同様。)することで得ることができる。具体的には、例えば、前記充填材(A)、バインダー(B)およびその他の成分を、押出機、バンバリーミキサー、ミキシングロール、ヘンシェルミキサー、ニーダー等の混合・混練手段によって混合・混練することで製造することができる。
【0145】
前記充填材(A)は、本組成物を構成する該充填材(A)以外の成分とともに混合してもよく、本組成物を製造する最終段階で、本組成物を構成する該充填材(A)以外の全ての成分を含む組成物に添加し、混合してもよい。また、充填材(A)のうちの一部を、本組成物を構成する該充填材(A)以外の成分とともに混合し、本組成物を製造する最終段階で、残りの充填材(A)を添加し、混合してもよい。
また、前記バインダー(B)や必要により用いられる前記その他の成分についても同様である。
【0146】
≪TIM≫
本発明に係るTIM、特にPCMは、本組成物の成形体であり、本組成物は、取り扱い性および作業性等の点から、所望の形状に成形した後、TIM、特にPCMとして、電子機器等に使用することが好ましい。本組成物によれば、所望形状の成形体を容易に形成することができる。
本組成物は熱伝導性が良好であるため、発熱体と放熱部材との間や、放熱部材同士の間の熱伝導性を向上させるTIMとして好適に使用される。また、発熱体から伝わる熱によって軟化または溶融可能であるため、薄肉化により低熱抵抗化が実現でき、TIMの中で特にPCMとして好適に使用される。
【0147】
前記成形の際の成形方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、押出成形、圧縮成形、射出成形など周知の方法が挙げられる。
【0148】
前記TIMの形状としては特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、本組成物は、通常、フィルム(シート)状に成形される。該フィルム(シート)の厚みも、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、取り扱い性と熱抵抗とにバランスよく優れる等の点から、好ましくは100~1,000μm、より好ましくは200~700μmである。
なお、該厚みは、電子機器等に使用する前のTIMの厚みであり、電子機器等の使用により厚みが変化することがある。
【0149】
≪電子機器≫
本発明に係る電子機器は、前記TIMを含む。具体的には、電子機器中の、発熱体と放熱部材との間や、放熱部材同士の間に、該TIMが配置される。
このようなTIM、特にPCMは前記効果を奏するため、該TIMは、電子機器の放熱システムに好適に使用され、放熱性能に優れるシステムを構築できる。さらに、前記TIM(PCM)を含む電子機器は、熱を効率よく機器外部に逃がすことができるため、長期に安定的に動作する電子機器となる。
【実施例
【0150】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0151】
<充填材(A)>
充填材(A)としては、以下の市販品を使用した。
・「A-1」:窒化アルミニウム((株)トクヤマ製 Hグレード、平均粒径1.2μm)
【0152】
<重合体(X)および変性体(Y)の製造>
重合体(X)および変性体(Y)は以下の合成例および製造例に従って製造した。
【0153】
[合成例1] [エチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリドの合成
[エチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリドは、特許第4367687号公報に記載の方法で合成した。
【0154】
[合成例2] [メチルフェニルメチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリドの合成
[メチルフェニルメチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリドは、特許第6496533号公報に記載の方法で合成した。
【0155】
[製造例1] エチレン・プロピレン共重合体(X-1)の合成
充分に窒素置換した容量2Lの攪拌翼付連続重合反応器に、脱水精製したヘキサン1Lを入れ、そこに、96mmol/Lに調整したエチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C251.5・Cl1.5)のヘキサン溶液を500mL/hの量で連続的に1時間供給した後、更に触媒として、16mmol/Lに調整したVO(OC25)Cl2のヘキサン溶液を500mL/hの量、ヘキサンを500mL/hの量で連続的に供給した。一方、反応器上部から、反応器内の重合液が常に1Lになるように重合液を連続的に抜き出した。
【0156】
次にバブリング管を用いて、エチレンガスを36L/hの量、プロピレンガスを36L/hの量、水素ガスを30L/hの量で供給した。共重合反応は、反応器外部に取り付けられたジャケットに冷媒を循環させることにより、35℃で行った。これにより、エチレン・プロピレン共重合体を含む重合溶液が得られた。
得られた重合溶液を、該重合溶液1Lに対して、0.2mol/Lの塩酸500mLで3回、次いで、該重合溶液1Lに対して蒸留水500mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた粘稠性液体を、減圧下130℃で24時間乾燥することで、エチレン・プロピレン共重合体(X-1)を得た。
【0157】
[製造例2および3] エチレン・プロピレン共重合体(X-2)および(X-3)の合成
製造例1において、エチレンガスの供給量、プロピレンガスの供給量、水素ガスの供給量を適宜調整することで、エチレン・プロピレン共重合体(X-2)および(X-3)を得た。
【0158】
[製造例4] エチレン・プロピレン共重合体(X-4)の合成
充分に窒素置換した内容積1Lのガラス製重合器に、ヘプタン250mLを装入し、系内の温度を50℃に昇温した後、エチレンを25L/h、プロピレンを75L/h、水素を100L/hの流量で連続的に重合器内に供給し、撹拌回転数600rpmで撹拌した。次に、トリイソブチルアルミニウム0.2mmolを重合器に装入し、次いで、MMAO(東ソーファインケム(株)製)0.688mmolと、[エチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド0.00230mmolとをトルエン中で15分以上予備混合したものを重合器に装入することにより重合を開始した。その後、エチレン、プロピレン、水素の連続的供給を継続し、50℃で15分間重合を行った。少量のイソブチルアルコールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のモノマーをパージした。得られた重合溶液を、0.2mol/Lの塩酸100mLで3回、次いで蒸留水100mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、減圧下80℃で一晩乾燥することで、エチレン・プロピレン共重合体を得た。
【0159】
内容積1Lのステンレス製オートクレーブに、0.5質量%のPd/アルミナ触媒のヘキサン溶液100mL、および、得られたエチレン・プロピレン共重合体の30質量%ヘキサン溶液500mLを加え、オートクレーブを密閉した後、窒素置換を行なった。次いで、撹拌しながら140℃まで昇温し、系内を水素置換した後、水素で1.5MPaまで昇圧して15分間水添反応を行うことで、エチレン・プロピレン共重合体(X-4)1.43gを得た。
【0160】
[製造例5] エチレン・プロピレン共重合体の変性体(Y-1)の合成
(i)エチレン・プロピレン共重合体の合成
充分に窒素置換した内容積2Lのステンレス製オートクレーブに、ヘプタン760mLおよびプロピレン120gを装入し、系内の温度を150℃に昇温した後、水素0.85MPa、エチレン0.19MPaを供給することにより全圧を3MPaGとした。次に、トリイソブチルアルミニウム0.4mmol、[メチルフェニルメチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド0.0002mmol、および、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.002mmolを窒素で圧入し、撹拌回転数を400rpmにすることで重合を開始した。その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を3MPaGに保ち、150℃で5分間重合を行った。少量のエタノールを系内に添加することで重合を停止した後、未反応のエチレン、プロピレン、水素をパージした。得られた重合溶液を、0.2mol/Lの塩酸1000mLで3回、次いで蒸留水1000mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、減圧下80℃で一晩乾燥することで、100℃動粘度(JIS K2283)が150mm2/sのエチレン・プロピレン共重合体を得た。
【0161】
内容積1Lのステンレス製オートクレーブに、0.5質量%のPd/アルミナ触媒のヘキサン溶液100mL、および、得られたエチレン・プロピレン共重合体の30質量%ヘキサン溶液500mLを加え、オートクレーブを密閉した後、窒素置換を行なった。次いで、撹拌しながら140℃まで昇温し、系内を水素置換した後、水素で1.5MPaまで昇圧して15分間水添反応を行うことで、エチレン・プロピレン共重合体60.9gを得た。
【0162】
(ii)エチレン・プロピレン共重合体の変性体(Y-1)の合成
窒素吹込管、水冷コンデンサー、温度計および滴下ロート2個を装着した攪拌機付ガラス製200mL反応器に、(i)で得られた共重合体100gを仕込み、昇温後120℃にて窒素バブリングを開始して系内を160℃で保温した。その後、2個の滴下ロートに各々予め仕込んでおいた無水マレイン酸6.6g(70℃前後に加温して液状にしておいたもの)、および、ジ-t-ブチルペルオキシド1.3gを5時間かけて反応器に供給し、供給完了後1時間反応させた。次いで、175℃に昇温し、系内を脱圧後、真空ポンプにて徐々に窒素を通気しながら1時間減圧して不純物(未反応の無水マレイン酸およびジ-t-ブチルペルオキシドの分解物)を除去した。以上の操作によりエチレン・プロピレン共重合体の変性体(Y-1)を得た。
【0163】
[製造例6] エチレン・プロピレン共重合体(X-1)の変性体(Y-2)の合成
製造例5の(i)で得られた共重合体を製造例1で得られた共重合体(X-1)に変更し、無水マレイン酸およびジ-t-ブチルペルオキシドの量をそれぞれ2.8gおよび0.6gに変更し、2時間かけて反応器に供給したこと以外は、製造例5の(ii)と同様にして、エチレン・プロピレン共重合体の変性体(Y-2)を得た。
【0164】
[製造例7] エチレン・プロピレン共重合体(X-2)の変性体(Y-3)の合成
製造例5の(i)で得られた共重合体を製造例2で得られた共重合体(X-2)に変更し、無水マレイン酸およびジ-t-ブチルペルオキシドの量をそれぞれ3.8gおよび0.8gに変更し、3時間かけて反応器に供給したこと以外は、製造例5の(ii)と同様にしてエチレン・プロピレン共重合体の変性体(Y-3)を得た。
【0165】
<市販オイル>
下記比較例では、以下の市販オイルを使用した。
・「Z-1」:パラフィン系鉱物油(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルPW-380)
・「Z-2」:シリコーンオイル(信越化学工業(株)製、KF-96H-10,000cs)
・「Q-3」:ポリα-オレフィン(Exxon Mobil Chemical社製、SpectraSyn100)
・「Q-4」:液状ポリイソブチレン(JXTGエネルギー(株)製、日石ポリブテンHV-1900)
【0166】
製造例1~4で得られた共重合体(X-1)~(X-4)、市販オイルである(Z-1)~(Z-2)および(Q-3)~(Q-4)、変性体(Y-1)~(Y-3)の物性を、以下の方法で測定した。これらの分析結果を表1または表2に示す。
【0167】
〔メチル基指標〕
ブルカー・バイオスピン社製のAVANCEIIIcryo-500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒として重クロロホルムを用い、試料濃度を20mg/0.6mL、測定温度を50℃、観測核を1H(500MHz)、シーケンスをシングルパルス、パルス幅を5.00μs(45°パルス)、繰り返し時間を7.0秒、積算回数を64回、ケミカルシフトの基準値を重クロロホルム中のCHCl3に基づく溶媒ピーク(7.24ppm)として、1H-NMRスペクトルを測定した。
このようにして測定された1H-NMRスペクトルにおける、0.50~2.20ppmの範囲内にあるピークの積分値に対する、0.50~1.15ppmの範囲内にあるピークの積分値の割合をメチル基指標とした。
【0168】
〔100℃における動粘度〕
100℃における動粘度(100℃動粘度)は、JIS K2283に記載の方法により、測定、算出した。
【0169】
〔分子量(Mw)〕
下記の高速GPC測定装置により、Mwを測定した。
高速GPC測定装置:東ソー(株)製、HLC8320GPC
移動相:THF(富士フィルム和光純薬(株)製、安定剤不含、液体クロマトグラフィー用グレード)
カラム:東ソー(株)製のTSKgel Super MultiporeHZ-M 2本を直列連結したもの
サンプル濃度:5mg/mL
移動相流速:0.35mL/分
測定温度:40℃
検量線用標準サンプル:東ソー(株)製、PStQuick MP-M
【0170】
〔酸価〕
酸価は、JIS K2501:2003に記載の方法により、測定、算出した。
【0171】
〔150℃における粘度〕
150℃における見かけ粘度(150℃ブルックフィールド粘度(150℃BF粘度))は、JIS K7117-1に記載の方法により、測定、算出した。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
<化合物(Q)>
化合物(Q)としては、以下の市販品を使用した。
・「Q-1」:ポリエチレン系ワックス(三井化学(株)製、ハイワックス4202E、前記要件(x-1)を満たさない、グラフト変性体ではない)
・「Q-2」:エチレン・酢酸ビニル共重合体(三井・ダウ ポリケミカル(株)製、エバフレックスEV150)
【0175】
[実施例1~および比較例1~
120℃に加熱した混合撹拌機を用い、下記表3および表4の組成の欄に記載の成分を該欄に記載の数値(質量比)で5分間混合し、樹脂組成物を調製した。
【0176】
<樹脂組成物の物性測定>
実施例1~および比較例1~7で得られたそれぞれの樹脂組成物を、手動熱プレス機((株)神藤金属工業所製)にて、100℃、2分間、4MPaの条件で金型を用いて圧縮成形を行い、65mm×65mm×(厚み)1mmのシートを作成した。このシートを用い、樹脂組成物の物性を以下方法に従い測定した。結果を表3および表4に示す。
【0177】
〔シート成形性〕
前記シートを8枚作成した時、シートの成形終了時やシートを金型から取り出した後に、目視にてシートにひびや割れが確認された枚数を数え、評価した。ひびや割れが確認された枚数を表3および表4に示す。
【0178】
〔熱抵抗〕
前記シートを1.5cm×1.5cmにカットした後、ヒーターを埋め込んだ銅製の冶具とアルミニウム製の冶具の間に挟み、2kgの荷重をかけた。ここでヒーターに24Wの電力をかけ、銅製冶具とアルミニウム製冶具の温度が一定の平衡状態になった時のそれぞれの温度から、下記式により熱抵抗を求めた。
(熱抵抗)=(TCu-TAl)/24
ここで、TCuは、平衡状態での銅製冶具の温度であり、TAlは、平衡状態でのアルミニウム製冶具の温度である。
【0179】
〔熱老化試験後の外観評価〕
ガラス製シャーレに前記シートを載せ、エアーオーブンに入れ、150℃で168時間静置することで熱老化試験を行った。オーブンから取り出し、試験後のシャーレ内を真上から写真撮影し、写真を印刷した。印刷した写真のシートが写っている部分を、充填材(A)が確認できる領域(不透明[白色~淡黄色]の領域)と、充填材(A)は確認できないがバインダー(B)成分が確認できる領域(透明[無色~淡黄色]の領域)とに切り分け、それぞれの領域を表す写真の重量をそれぞれWAおよびWBとした。この際のWB/WAの値により、熱老化試験後の外観を、以下の基準で評価した。
【0180】
(評価基準)
2:0≦WB/WA<0.1である。
1:0.1≦WB/WA<0.3である。
0:0.3≦WB/WAである。
【0181】
〔熱老化試験前後の質量変化率〕
前記エアーオーブンに入れる前のシートの質量と、前記熱老化試験後のシートの質量から、下記式により、熱老化試験前後の質量変化率を算出し、以下基準にて評価した。
(熱老化試験前後のシートの質量変化率)=100×(W-W0)/W0
ここで、Wは、熱老化試験後のシートの質量であり、W0は、熱老化試験前のシートの質量である。
【0182】
(評価基準)
3:質量変化率の絶対値が0.5%未満である
2:質量変化率の絶対値が0.5%以上1%未満である
1:質量変化率の絶対値が1%以上1.5%未満である
0:質量変化率の絶対値が1.5%以上である
【0183】
【表3】
【0184】
【表4】