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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】キシレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 6/12 20060101AFI20231010BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20231010BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20231010BHJP
   B01J 29/26 20060101ALI20231010BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231010BHJP
   B01J 27/188 20060101ALN20231010BHJP
【FI】
C07C6/12
C07C15/08
B01J29/40 Z
B01J29/26 Z
C07B61/00 300
B01J27/188 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019159577
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2020037551
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018164601
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】眞弓 和也
(72)【発明者】
【氏名】常岡 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 泰之
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-190132(JP,A)
【文献】特開平8-119882(JP,A)
【文献】特表2015-531405(JP,A)
【文献】特開2018-30112(JP,A)
【文献】特開平5-58919(JP,A)
【文献】特開昭56-145227(JP,A)
【文献】特開2012-240998(JP,A)
【文献】国際公開第2017/052858(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 6/12
C07C 15/08
B01J 29/40
B01J 29/26
C07B 61/00
B01J 27/188
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料と、結晶性アルミノシリケート含有触媒(Z)とを接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する転化反応工程と、
更に、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を水素化する水素化工程及び前記水素化工程で得られた水素化油を、結晶性アルミノシリケート含有触媒(F)と接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する分解改質反応工程と、
前記転化反応工程の生成物及び前記分解改質反応工程の生成物を、不均化反応またはトランスアルキル化反応に付すキシレン転換工程と、
を含むことを特徴とするキシレンの製造方法。
【請求項2】
前記キシレン転換工程が、前記転化反応工程の生成物及び前記分解改質反応工程の生成物をトランスアルキル化反応に付すことを含む、請求項に記載のキシレンの製造方法。
【請求項3】
前記キシレン転換工程に使用する触媒が、ZSM-5、モルデナイト型ゼオライトまたはベータ型ゼオライトを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のキシレンの製造方法。
【請求項4】
前記転化反応工程に使用する触媒の触媒組成物100質量部に対するガリウムの含有量が、0.1質量部以上10.0質量部以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のキシレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オクタン価の高いガソリンや芳香族炭化水素を得る方法として、白金/アルミナ系触媒による直留ナフサの接触改質が商業的に広く採用されている。この接触改質における原料ナフサとしては、自動車用ガソリン製造を目的とする場合には、主に沸点70~180℃の留分が用いられる。またベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族留分、いわゆるBTX製造の場合には、60~150℃の留分が用いられている。
しかし、原料炭化水素の炭素数の減少とともに芳香族への転化割合が低くなり、生成物のオクタン価も減少してしまうため、炭素数が7以下の炭化水素を主成分とする軽質炭化水素を原料として、従来の接触改質法で、高オクタン価ガソリンや芳香族炭化水素を高収率で製造することは困難であった。このため、こうした軽質炭化水素の用途は石油化学原料や都市ガス製造用原料などに限られていた。
このため、軽質炭化水素から芳香族炭化水素を製造する試みがなされている。例えば特許文献1~3には、ガリウム含有結晶性アルミノシリケート触媒組成物を用いた炭素数2~7の炭化水素を主原料とした芳香族炭化水素製造方法が記載されている。
【0003】
付加価値の高い炭素数6~8の単環芳香族炭化水素は、高い収率で生産できることが好ましい。しかしながら、炭素数2~7の炭化水素を主原料とした芳香族炭化水素の製造方法では、ベンゼンやキシレンに比べて安価なトルエンの収率が高いため、採算性が低いという問題があった。また、近年ではテレフタル酸の需要の増大などに伴い、キシレンの需要がベンゼンやトルエンの需要を上回ることがある。その場合に、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素として、特にキシレンをベンゼンやトルエンに比べて高い収率で製造するのが好ましいものの、従来ではキシレンをベンゼンやトルエンに対して選択的に製造するプロセスは提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-37803号公報
【文献】特開2008-38032号公報
【文献】特開2009-233601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、炭素数が7以下の炭化水素を主成分とする軽質炭化水素を原料として、高い収率でキシレンを製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料と、結晶性アルミノシリケート含有触媒(Z)とを接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する転化反応工程と、前記生成物を、不均化反応またはトランスアルキル化反応に付すキシレン転換工程と、を含むキシレンの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炭素数が7以下の炭化水素を主成分とする軽質炭化水素を原料として、高い収率でキシレンを製造できる方法が提供出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のキシレンの製造方法の第1の実施形態を説明するための図である。
図2】本発明のキシレンの製造方法の第2の実施形態を説明するための図である。
図3】本発明のキシレンの製造方法の第3の実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施形態]
図1に示されるように、本発明のキシレンの製造方法の第1の実施形態(以下、単に「第1の実施形態」という場合がある)では、炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料1を、転化反応装置2において結晶性アルミノシリケート含有触媒(Z)(以下、単に「触媒(Z)」という場合がある)とを接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する。次いで、前記生成物を、不均化反応装置5において不均化反応に付してキシレンを生成する。
【0010】
具体的には、第1の実施形態は、主に以下の(z1-1)~(z1-5)の5つの工程を有することが好ましい。また、本発明の単環芳香族炭化水素の製造方法以下の(z1-1)~(z1-5)の5つの工程に加え、(z1-6)の工程を有していてもよい。
(z1-1)転化反応工程
(z1-2)反応槽流出物の気液分離工程
(z1-3)分離ガスからの水素分離工程
(z1-4)分離液からの芳香族炭化水素の分離工程
(z1-5)芳香族炭化水素を不均化反応に付すキシレン転換工程
(z1-6)原料軽質族炭化水素とリサイクルガスとの混合工程
【0011】
[(z1-1)転化反応工程]
この工程では、少なくとも触媒(Z)を保持する反応槽が直列にn個配列された転化反応装置2に、炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料1を供給する。なお、触媒(Z)については後述する。
転化反応装置2の反応槽間に、反応槽からの流出物の加熱手段として、加熱炉などが設けられている。原料の軽質炭化水素と、後述するリサイクルガスとの混合物を反応槽に通過せしめて、その混合物を芳香族炭化水素へ転化させる工程である。この工程における好ましい反応条件は、反応槽入口温度として350~650℃、水素分圧0.5MPa以下、原料のガス空間速度100~2000hr-1である。
【0012】
第1の実施形態に係る転化反応工程(z1-1)における反応槽入口温度は、一般的には350~650℃が好ましい範囲であるが、原料の軽質炭化水素がノルマルパラフィンを主成分とする場合には450~650℃、イソパラフィンを主成分とする場合には400~600℃、オレフィンを主成分とする場合には350~550℃がさらに好ましい温度範囲となる。
【0013】
転化反応工程(z1-1)で用いられる反応器としては特に限定されないが、例えば、固定床型反応器、CCR型反応器、流動床型反応器などが挙げられる。固定床やCCR型反応器を用いる場合は、触媒(Z)を保持する反応槽が少なくとも直列にn個(nは2以上の整数)配置され、さらに該反応槽間に、または該反応槽に、前段反応槽からの流出物への加熱手段として、加熱炉などの加熱装置が設けることが好ましい。なお、吸熱量が少なくなる場合は、触媒(Z)を保持する反応槽が1段(n=1)であってもよい。
また、この直列に配置されたn個の反応槽の内、1段目反応槽の触媒量が全体の触媒量の30容量%以下、好ましくは1~30容量%、より好ましくは2~30容量%、さらに好ましくは2~28容量%になるように配置することが好ましい。直列に配置された反応槽の数nが3以上の場合には、1段目反応槽の触媒量が全体の触媒量の60/n容量%以下になるようにするのが好ましい。これにより、最終的に得られる芳香族収率が向上する。さらに反応槽の数nは2以上であれば特に限定されないが、多過ぎても効果は変わらず、経済性が悪くなる。従って、nとしては2以上8以下が好ましく、より好ましくは3以上6以下が望ましい。
【0014】
また、第1の実施形態に係る転化反応工程(z1-1)においては、一定の反応槽入口温度で運転することもできるし、所定の芳香族収率が得られるように、反応槽入口温度を連続的又は段階的に上昇させて運転することもできる。芳香族収率が所定範囲を下回ったり、反応槽入口温度が所定温度範囲を超えるようになると、反応器を新しい触媒が充填された反応器又は再生された触媒が充填された反応器に切り替えて反応を継続する。触媒の再生は、例えば再生器3にて、空気、窒素、水素又は窒素/水素混合ガス等の気流中で200~800℃好ましくは350~700で加熱処理することにより行うことができる。第1の実施形態に係る転化反応工程(z1-1)は、好ましくは、前記触媒(Z)を保持した反応槽を含む、2系列以上の固定床反応装置を用いて行われる。この場合、各系列の反応装置は直列に並んだ複数の反応槽から成り立っている。軽質炭化水素を含有する原料を1以上の系列の反応器に導入して反応を進めながら、他の1以上の系列の反応器中の触媒を再生処理に付する。これらの2系列以上の反応器で、1以上の系列の反応器で1~10日反応運転後、再生処理が完了した他の1以上の系列の反応器と切り替え、反応/再生を行うことにより、例えば1年間の連続運転を行うことができる。
例えば、図1では、反応槽21で反応を進めながら、反応槽22中の触媒を再生処理に付しているが、所定期間経過後、反応槽21と反応槽22とを切り替えて反応/再生を行うことができる。
また、サイクリック運転のように、反応に使用されている系列の反応器の一部又は全部を他系列と切り替えて反応を継続して行なうことも可能である。そして各1~10日の反応の1サイクルごとに反応温度を5~20℃程度連続又は段階的に上昇させて芳香族収率を40~75%重量%の所定範囲に保持することが好ましい。
【0015】
なお、前記芳香族収率Rは、次の式(1)で表わされる。
R=A/B×100(%) (1)
A:転化反応生成物中の炭素数6~8の芳香族炭化水素の質量
B:転化した全反応生成物と未反応の炭化水素原料の質量
【0016】
脂肪族及び/又は脂環族炭化水素が芳香族炭化水素へ転化する際には、脱水素を伴う反応が進行するので、反応条件下では水素を添加しなくても反応に見合う水素分圧を有することとなる。意図的な水素の添加は、コークの堆積を抑制し、再生頻度を減らす利点があるが、芳香族の収率は、水素分圧の増加により急激に低下するため必ずしも有利ではない。それ故、水素分圧は0.5MPa以下に抑えることが好ましい。
本発明に係る転化反応工程には、後続の分離工程からリサイクルガスとして循環されるメタン及び/又はエタンを含む軽質ガスを存在させることが望ましい。このメタン及び/又はエタンを含む軽質ガスの存在下に転化反応を行うことで、触媒上へのコーク析出を抑制し、長時間にわたって芳香族収率を高く維持することができる。反応系へ循環される全軽質ガス(リサイクルガス)の循環量は、炭化水素供給原料1質量部当り、0.1~10質量部、好ましくは0.5~3質量部にすることが望ましい。
【0017】
[(z1-2)反応槽流出物の気液分離工程]
この工程は、前記転化反応工程(z1-1)からの流出物3を、1個又は2個以上の気液分離器4からなる気液分離帯域に導入し、比較的高圧下で気液分離し、芳香族炭化水素を主成分として含む液体成分(高圧分離液)と、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の軽質ガス(高圧分離ガス)とに分離する工程である。分離条件としては、温度は通常10~50℃、好ましくは20~40℃であり、圧力は通常0.5~8MPa、好ましくは1~3MPaである。
反応槽流出物は、この気液分離工程に導入される以前に、低温の原料炭化水素と間接熱交換させる等により30~50℃まで冷却し、また必要に応じ、気液分離工程及び軽質ガスからの水素を分離する工程の負荷を軽減するために、軽質ガスの一部を分離することができる。例えば、気液分離工程に導入前に、冷却した反応槽流出物を低圧気液分離器にて0.2~0.35MPaの低圧で気液分離することができる。次いで、圧縮、冷却及び気液分離を2~3回繰り返し1~3MPaまで昇圧された低圧気液分離器塔頂ガスと、ポンプにより昇圧された低圧気液分離器の塔低液とを合流させた後に気液分離工程に導入することができる。また、塔頂ガスと塔低液とを合流させず、塔頂ガスを圧縮した際に発生した凝縮液と塔低液とを合流させた後に気液分離工程に導入することもできる。
【0018】
[(z1-3)分離ガスからの水素分離工程]
この工程は、前記気液分離工程(z1-2)で分離された高圧分離ガスから水素を選択的に分離し、メタン及び/又はエタンを含むリサイクルガスを得る工程である。この場合の水素分離方法としては、従来公知の方法、例えば、膜分離方法や深冷分離方法等が用いられる。水素の選択的分離効率の点からは膜分離方法の使用が好ましいが、リサイクルガスとして深冷分離方法からのオフガスを利用する場合は、膜分離方法からのオフガスと比べて未反応プロパンを最大限に反応させることができるので、芳香族炭化水素収率で1~3質量%高くできる利点がある。どちらの方法を採用するかは、経済的見地から判断される。膜分離装置としては、例えば、分離膜として、ポリイミドや、ポリスルホン、ポリスルホンとポリジメチルシロキサンとのブレンド体を用いたもの等が市販されている。この工程で得られたリサイクルガスの一部は、全循環ガス量を一定範囲に保持するために、系外へ排出される。高純度の水素を回収するために、好ましくは回収系として膜分離装置又はPSA(吸・脱着分離装置)を膜分離装置の後段に設置する。後段の装置の選択は、経済的見地から決められる。
【0019】
[(z1-4)分離液からの芳香族炭化水素の分離工程]
この工程は、前記気液分離工程(z1-2)で得られた高圧分離液から芳香族炭化水素と低沸点炭化水素ガスとを分離する工程であり、その装置としてはスタビライザー(蒸留塔)が用いられる。塔頂留分として分離された低沸点炭化水素ガスは、C3~C4の炭化水素からなるもので、リサイクルガスとして用いてもよい。
塔低留分は、BTX留分と炭素数9以上の重質留分とを含むので、更にBTXを分離・精製する。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンをそれぞれ蒸留により回収後、必要な製品純度に応じて溶媒スルフォラン等による精製を行う。
【0020】
[(z1-5)トルエンを不均化反応に付すキシレン転換工程]
この工程では、前記工程(z1-4)で分離回収したBTXのうち、トルエンを不均化反応装置5にて不均化反応に付し、キシレンに転換する。
【0021】
上記不均化反応の反応条件は、キシレンが得られるものであれば、特に限定されない。
上記不均化反応は、前記工程(z1-4)で分離回収したトルエンを、液空間速度(LHSV)が、好ましくは0.01h-1以上、より好ましくは0.1h-1以上であり、好ましくは20h-1以下、より好ましくは10h-1以下で供給して、触媒と接触させることにより行うことが望ましい。
【0022】
上記不均化反応は、反応温度が、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは260℃以上であり、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、特に好ましくは510℃以下である。
反応温度が上記範囲の下限値未満であると、芳香族炭化水素の活性化が不充分となり、芳香族炭化水素の転化率が低くなりやすい。一方、反応温度が上記範囲の上限値超であると、エネルギーの消費が過大となり、触媒寿命が短くなりやすい。
【0023】
上記不均化反応は、反応圧力が、好ましくは大気圧以上、より好ましくは0.1MPaG以上、さらに好ましくは0.5MPaG以上、好ましくは10MPaG以下、より好ましくは5MPaG以下である。
【0024】
また、上記不均化反応を施す際は、窒素ガスやヘリウムガスのような不活性ガスやコーキングを抑制するための水素ガスを反応系に流通し、または加圧してもよい。
【0025】
上記不均化反応に使用する反応触媒としては、芳香族の転化用触媒であり、不均化反応を生じるものであれば特に制限されない。
上記反応触媒としては、メチル基は保持したまま、エチル基、プロピル基を選択的に脱アルキル化し、同時にトランスアルキル化能を持つものが好ましい。
具体的には、形状選択性メタロシリケート触媒が好ましく、結晶性アルミノシリケートがより好ましく、ゼオライトがさらに好ましい。
ゼオライトとしては、モルデナイト、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、ベータ型ゼオライト、ZSM-5等から選ばれるいずれのゼオライトも使用可能であるが、ZSM-5が好適である。
【0026】
第1の実施形態では、キシレン転換工程において、不均化反応により、トルエン2分子を転化してベンゼン1分子とキシレン1分子を得ることができる。
第1の実施形態によれば、炭素数2~7の炭化水素を主原料とした芳香族炭化水素の製造プロセスにおいて、安価なトルエンから付加価値の高いベンゼンやキシレンを選択的に製造することができる。そのため、プロセス全体の採算性を高めることができる。
なお、工程(z1-5)における未反応物(トルエン)は、気液分離器4に循環することにより、更にキシレン収率を高めることができる。
【0027】
[(z1-6)原料軽質炭化水素とリサイクルガスとの混合工程]
この工程は、原料軽質炭化水素に対して、前記水素ガス分離工程で得られたメタン及び/又はエタンを含むリサイクルガスおよび前記芳香族炭化水素分離工程で分離された低沸点炭化水素ガスを混合する任意工程であり、この混合は配管内で行うことができる。この混合物は前記転化反応工程に導入される。原料軽質族炭化水素1質量部当りの前記リサイクルガスおよび低沸点炭化水素ガスの混合割合は、0.1~10質量部、好ましくは0.5~3質量部である。このように、メタン及び/又はエタンをリサイクルガスとして使用することにより、次のような効果が得られる。すなわち、脱水素環化による芳香族化反応は吸熱反応であり、その為に触媒層温度は低下し芳香族化反応に不利となる。メタン及び/又はエタンは、この反応条件下では芳香族化しないので不活性ガスと見なせる。メタン及び/又はエタンを加熱することにより、これが熱供給媒体として働き、触媒層の温度低下を抑制し、芳香族化反応を有利に進め、芳香族炭化水素収率を向上できる。また、リサイクリングにより原料の転化反応で生成する水素の分圧を低下させ、芳香族化反応を有利に進めることができ、その結果、芳香族炭化水素収率を向上できる。更に、反応層でのガス速度が増大するので(GHSVが大きくなる)、反応基質と触媒活性点との接触時間が短くなり、コーク状物質を与える過剰反応が抑制できる。その結果、反応経過時間と共に起こる活性低下を抑制でき、芳香族炭化水素収率を高い水準で維持できる。商業装置においては、リサイクルガス比は経済的見地から決められる。
【0028】
<結晶性アルミノシリケート含有触媒(Z)>
本実施形態において用いられる触媒(Z)は、結晶性アルミノシリケートを含む。
【0029】
(結晶性アルミノシリケート)
触媒(Z)に含有される結晶性アルミノシリケートの構造としては特に限定されないが、ペンタシル型ゼオライトが好ましく、中でもMFIタイプ及び/又はMELタイプの結晶構造体を有するゼオライトがより好ましい(結晶性アルミノシリケートの中で3次元的に連結した構造を持つものをゼオライトという)。MFIタイプ、MELタイプのゼオライトは、“The Structure Commission of the International Zeolite Association”により公表された種類の公知ゼオライト構造型に属する(Atlas of Zeolite Structure Types, W.M.Meiyer and D.H.Olson (1978). Distributed by Polycrystal Book Service, Pittsburgh, PA, USA)。MFIタイプのゼオライトの例はZSM-5であり、MELタイプのゼオライトの例はZSM-11である。
【0030】
触媒(Z)が含有する結晶性アルミノシリケートとしては、結晶性アルミノシリケート内にガリウムあるいは亜鉛が存在するものや、結晶性アルミノシリケートにガリウムあるいは亜鉛を担持したもの(以下、「ガリウム担持結晶性アルミノシリケート」「亜鉛担持結晶性アルミノシリケート」という。)や、その双方を含んだものが使用することができるが、少なくとも結晶性アルミノシリケート内にガリウムあるいは亜鉛を含むものが好ましい。また、結晶性アルミノシリケート内にガリウムカチオンあるいは亜鉛カチオンを含むものがさらに好ましい。
炭素数6~8の単環芳香族炭化水素の収率の観点から、触媒(Z)が含有する結晶性アルミノシリケートは、ガリウムを含有していることが特に好ましい。
【0031】
触媒(Z)が含有する結晶性アルミノシリケートは、イオン交換法により結晶性アルミノシリケートにガリウムあるいは亜鉛を挿入することにより製造することが好ましい。イオン交換法としては、ガリウム源または亜鉛源を溶液とし結晶性アルミノシリケートを浸漬して行う方法(水溶液とする場合が多い)や、結晶性アルミノシリケートとガリウム源または亜鉛源とを固体の状態で物理的に混合することによりイオン交換を行う方法が挙げられる。
この場合、ガリウム源としては、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩や、酸化ガリウム等を好ましく用いることができる。塩化ガリウムのような禁水性物質や固体状の酸化ガリウムの場合は、結晶性アルミノシリケートとガリウム源とを固体の状態で物理的に混合することによりイオン交換を行う方法が好ましい。同様に亜鉛源としては、硝酸亜鉛や塩化亜鉛、酸化亜鉛を好ましく用いることができる。またイオン交換する際には、適宜、還元性ガス、不活性ガス、またはそれらを含む混合ガスの雰囲気下で加熱する方法が好ましい。
【0032】
触媒(Z)が含有する結晶性アルミノシリケートの粒子径は、0.05~20μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.5~5μmが特に好ましく、1~3μmが極めて好ましい。
また上記の粒子径を有する粒子の含有率が、全粒子の質量を基準として80質量%以上であることが好ましい。
【0033】
反応分子の大きさと結晶性アルミノシリケートの細孔の寸法がほぼ同じである場合、結晶性アルミノシリケート細孔中では、分子の拡散速度が遅くなる傾向にある。このため、粒子直径が20μm以下の粒子であると、細孔深部の活性点に反応分子が接近し易く、活性点が反応中に有効に使用されやすくなる。
【0034】
水熱合成によって結晶性アルミノシリケートを得る場合、生成粒子の大きさに影響を与える因子としては、シリカ源の種類、第4級アンモニウム塩等の有機添加物の量、鉱化剤としての無機塩の量・種類、ゲル中の塩基量、ゲルのpH及び結晶化操作時の昇温速度、温度や撹拌速度等が挙げられる。これらの条件を適当に調節することにより、上述した粒径範囲の結晶性アルミノシリケートを得ることができる。
【0035】
本発明において、結晶性アルミナシリケートのケイバン比(ケイ素とアルミニウムのモル比)は10以上1000以下であることが好ましく、35以上100以下であることが更に好ましい。
【0036】
本発明において、触媒(Z)100質量部に対するガリウムの含有量が、0.1質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上7.0質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以上5.0質量部以下であることが更に好ましい。
また、ガリウムと、アルミニウムのモル比(原子比、Ga/Al)が、0.1以上10.0以下であることが好ましく、0.5以上7.0以下がより好ましく、1.0以上5.0以下が特に好ましい。
【0037】
触媒(Z)が含有する結晶性アルミノシリケートは、所望に応じ、一般的に結晶性アルミノシリケートを触媒成分として用いる場合に施される種々の活性化処理を施すことができる。すなわち、触媒(Z)が含有する結晶性アルミノシリケートは、前記水熱合成等の方法によって製造されたものの他、その変性化処理または活性化処理によって得られるものをも包含するものである。
【0038】
例えば、結晶性アルミノシリケートを塩化アンモニウム、フッ化アンモニウム、硝酸アンモニウム、水酸化アンモニウム等のアンモニウム塩を含む水溶液中でイオン交換してアンモニウム型とした後に、アルカリ金属やアルカリ土類金属以外の金属イオンを含む水溶液中でイオン交換したり、あるいはその水溶液を含浸させてアルカリ金属やアルカリ土類金属以外の所望金属を導入することができる。
また、前記アンモニウム型の結晶性アルミノシリケートを空気、窒素または水素雰囲気中で200~800℃、好ましくは350~700℃の温度で3~24時間加熱することによりアンモニアを除去して酸型の構造に活性化することができる。また、酸型触媒を水素または水素と窒素の混合ガスにて上記の条件で処理してもよい。さらに、酸型触媒を乾燥条件下にアンモニアと接触させるアンモニア変性を施してもよい。触媒(Z)は、一般的には、炭化水素原料と接触する前に、前記の活性化処理を施して使用するのが好ましい。
【0039】
触媒(Z)の活性成分は前記結晶性アルミノシリケートであるが、成形を容易にするため、あるいは触媒の機械的強度を向上させるため等の目的で、触媒(Z)は担体あるいは成形助剤等を含んでいてもよい。
担体あるいは成形助剤等を含む場合、触媒(Z)の全質量に占める前記結晶性アルミノシリケートの含有量は特に制限されないが、結晶性アルミノシリケートは、触媒(Z)の全質量に対し、40~95質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましく、60~80質量%がさらに好ましい。
【0040】
結晶性アルミノシリケートを含有する触媒(Z)は、押出成形、スプレードライ、打錠成形、転動造粒、油中造粒等の方法で粒状、球状、板状、ペレット状等の各種成形体とすることができる。また、成形時には、成形性を良くするために有機化合物の滑剤を使用することが望ましい。
【0041】
一般に、結晶性アルミノシリケートの組成物の成形は、結晶性アルミノシリケートのアンモニウムイオン等によるイオン交換工程に先立って行なうこともできるし、また結晶性アルミノシリケートをイオン交換した後に行うこともできる。
【0042】
触媒(Z)には、前述した結晶性アルミノシリケートの他に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、特に限定されないが、アルミナボリア、シリカ、シリカアルミナ、リン酸アルミニウム等の無機酸化物、カオリンやモンモリロナイトなどの粘土鉱物、無機リン化合物や有機リン化合物などが挙げられる。その添加量は、特に制限されないが、触媒組成物中に50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下となるよう加えられる。
【0043】
また、触媒(Z)には補助成分として金属成分を担持させて用いることができる。補助成分としての金属成分は、結晶性アルミノシリケートに担持させたり、その他の添加剤に担持させたり、その両方でも構わない。
このような補助金属成分としては、例えば、脱水素能を有する金属や炭素析出を抑制する効果のある金属が挙げられる。補助金属成分の具体例としては、触媒活性を向上させるものとして、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、アルミニウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモン、ビスマス、セレン等が挙げられる。これらの金属は、単独の他、2種以上を組合せて用いることもでき、その担持量は金属換算で0.1~10質量%である。金属担持方法としては、イオン交換法、含浸法、物理混合等の公知の技術をいることができる。また、ペンタシル型ゼオライトの合成時に、補助成分として前記金属成分を添加することで、補助成分金属を含有させることもできる。また、反応に際してのコークの堆積の抑制効果を持つ補助金属成分として、マグネシウム、カルシウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ルテニウム、イリジウムの中から選ばれる1種以上の金属を担持させることができ、その担持量は、金属換算で0.01~5質量%である。
【0044】
<炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料>
本実施形態において用いる原料は炭素数2~7の軽質炭化水素を含むものであり、原料中の炭素数2~7の軽質炭化水素の含有量は特に限定されないが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは60~100質量%である。
【0045】
また、炭素数2~7の軽質炭化水素としては特に限定されないが、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、また、パラフィン、オレフィンのいずれでも構わない。さらにはこれらの混合物でも構わない。このような炭化水素の具体例としては、炭素数2から7の直鎖状脂肪族飽和炭化水素(エタン、プロパン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン)、分岐状脂肪族飽和炭化水素(イソブタン、2-メチルブタン、2,2-ジメチルブタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン)、環状脂肪族飽和炭化水素(シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、1-メチルシクロペンタン、1,1-ジメチルシクロペンタン、1,2-ジメチルシクロペンタン、1,3-ジメチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等)、直鎖状脂肪族不飽和炭化水素(エチレン、プロピレン、ノルマルブテン、ノルマルペンテン、ノルマルヘキセン、ノルマルヘプテン等)、分岐状脂肪族不飽和炭化水素(イソブテン、2-メチルブテン、2-メチルペンテン、3-メチルペンテン、2-メチルヘキセン、3-メチルヘキセン等)、環状脂肪族不飽和炭化水素(シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン等)、プロパンやブタンを主成分とする液化石油ガス、炭素数5~7のパラフィンを主成分とするナフサ留分中の沸点100℃以下の軽質留分(ライトナフサ)、流動接触分解装置(FCC)からのC4留分、エチレンクラッカーのラフィネート等が挙げられる。
【0046】
[第2の実施形態]
図2に示されるように、本発明のキシレンの製造方法の第2の実施形態(以下、単に「第2の実施形態」という場合がある)では、炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料1を、転化反応装置2において触媒(Z)とを接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する。次いで、前記生成物を、トランスアルキル化反応装置6においてトランスアルキル化反応に付してキシレンを生成する。
【0047】
具体的には、第2の実施形態は、主に以下の(z2-1)~(z2-5)の5つの工程を有することが好ましい。また、本発明の単環芳香族炭化水素の製造方法以下の(z2-1)~(z2-5)の5つの工程に加え、(z2-6)の工程を有していてもよい。
(z2-1)転化反応工程
(z2-2)反応槽流出物の気液分離工程
(z2-3)分離ガスからの水素分離工程
(z2-4)分離液からの芳香族炭化水素の分離工程
(z2-5)芳香族炭化水素をトランスアルキル化反応に付すキシレン転換工程
(z2-6)原料軽質族炭化水素とリサイクルガスとの混合工程
【0048】
第2の実施形態において、工程(z2-1)~(z2-4)、(z2-6)は、前記第1の実施形態における工程(z1-1)~(z1-4)、(z2-6)と同様である。
なお、第2の実施形態では、工程(z2-2)に供する反応槽流出物に、炭素数9以上の重質留分を混合してもよい。工程(z2-2)に供する反応槽流出物に、炭素数9以上の重質留分を混合することにより、工程(z2-5)においてキシレンの収率を高めることができるとともに、炭素数9以上の重質留分をより高付加価値なキシレンに転換することでプロセス全体の採算性を高めることができる。
【0049】
[(z2-5)芳香族炭化水素をトランスアルキル化反応に付すキシレン転換工程]
この工程では、前記工程(z2-4)で分離回収したトルエンと、炭素数9以上の重質留分とをトランスアルキル化反応装置6にてトランスアルキル化反応に付し、キシレンに転換する。
【0050】
上記トランスアルキル化反応の反応条件は、キシレンが得られるものであれば、特に限定されない。
上記トランスアルキル化反応は、前記工程(z2-4)で分離回収したトルエンと、炭素数9以上の重質留分とを、液空間速度(LHSV)が、好ましくは0.5h-1以上4.0h-1以下、より好ましくは1.0h-1以上3.0h-1以下で供給して、触媒と接触させることにより行うことが望ましい。
【0051】
上記トランスアルキル化反応は、反応温度が、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上であり、好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下である。
反応温度が上記範囲の下限値以上であると、反応速度が十分となり、キシレン収率が高まる。一方、反応温度が上記範囲の上限値以下であると、平衡上、キシレンの生成が有利となる。
【0052】
上記トランスアルキル化反応は、反応圧力が、好ましくは2.0MPaG以上、より好ましくは2.5MPaG以上であり、好ましくは上7.0MPaG以下、より好ましくは5.0MPaG以下である。
反応圧力が上記範囲の下限値以上であると、水素分圧の低下を抑制し、コーク析出による触媒劣化を防止できる。一方、反応圧力が上記範囲の上限値以上であると、反応器の材料の耐圧性の観点などから、装置の建設コストを押さえることができる。
【0053】
上記トランスアルキル化反応に使用する反応触媒としては、芳香族の転化用触媒であり、不均化反応を生じるものであれば特に制限されない。
上記反応触媒としては、メチル基は保持したまま、エチル基、プロピル基を選択的に脱アルキル化し、同時にトランスアルキル化能を持つものが好ましい。
具体的には、形状選択性メタロシリケート触媒が好ましく、結晶性アルミノシリケートがより好ましく、ゼオライトがさらに好ましい。
ゼオライトとしては、モルデナイト、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、ベータ型ゼオライト、ZSM-5等から選ばれるいずれのゼオライトも使用可能であるが、モルデナイト及び/又はベータ型ゼオライトが好適である。
【0054】
第2の実施形態では、キシレン転換工程において、上記トランスアルキル化反応により、炭素数の異なる芳香族炭化水素2分子を転化してキシレン2分子を得ることができる。具体的には、トルエン1分子とトリメチルベンゼン1分子を転化してキシレン2分子を得ることができる。
第2の実施形態によれば、炭素数2~7の炭化水素を主原料とした芳香族炭化水素の製造プロセスにおいて、安価なトルエン及び炭素数9以上の重質留分から付加価値の高いキシレンを選択的に製造することができる。そのため、プロセス全体の採算性を高めることができる。
【0055】
[第3の実施形態]
図3に示されるように、本発明のキシレンの製造方法の第3の実施形態(以下、単に「第3の実施形態」という場合がある)では、炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料1を、転化反応装置2において触媒(Z)とを接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する。また、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油7由来の原料と、結晶性アルミノシリケート含有触媒(F)(以下、単に「触媒(F)」という場合がある)とを接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する。次いで、前記生成物を、トランスアルキル化反応装置6においてトランスアルキル化反応に付してキシレンを生成する。
【0056】
具体的には、第3の実施形態は、主に以下の(z3-1)、(f3-1)、(f3-2)、(z3-2)~(z3-5)の7つの工程を有することが好ましい。また、第3の実施形態では、上記7つの工程に加え、(z3-6)の工程を有していてもよい。
(z3-1)転化反応工程
(f3-1)水素化工程
(f3-2)分解改質工程
(z3-2)反応槽流出物の気液分離工程
(z3-3)分離ガスからの水素分離工程
(z3-4)分離液からの芳香族炭化水素の分離工程
(z3-5)芳香族炭化水素をトランスアルキル化反応に付すキシレン転換工程
(z3-6)原料軽質族炭化水素とリサイクルガスとの混合工程
【0057】
第3の実施形態において、工程(z3-1)~(z3-6)は、前記第1の実施形態における工程(z1-1)~(z1-6)と同様である。
【0058】
[(f3-1)水素化工程]
この工程では、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油7を、水素化装置8にて水素化する。
10容量%留出温度が140℃未満の油では、軽質のものから単環芳香族炭化水素を製造することになり、キシレンを選択的に多量に製造するとする本発明の主旨にそぐわなくなる。また、90容量%留出温度が380℃を超える油を用いた場合には、単環芳香族炭化水素の収率が低くなる上に、単環芳香族炭化水素製造用触媒上へのコーク堆積量が増大して、触媒活性の急激な低下を引き起こす傾向にある。
原料油の10容量%留出温度は150℃以上であることが好ましく、原料油の90容量
%留出温度は360℃以下であることが好ましい。
【0059】
なお、ここでいう10容量%留出温度、90容量%留出温度とは、JIS K2254「石油製品-蒸留試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油としては、例えば、LCO、LCOの水素化精製油、石炭液化油、重質油水素化分解精製油、直留灯油、直留軽油、コーカー灯油、コーカー軽油およびオイルサンド水素化分解精製油などが挙げられる。
【0060】
より具体的には、工程(f3-1)では、例えば、流動接触分解(以下、「FCC」と称する。)装置で生成する分解軽油であるライトサイクル油(以下、「LCO」と称する。)、エチレン製造装置から得られる熱分解重質油等に含まれる2環芳香族炭化水素を選択的に水素化し、芳香環を1つのみ水素化した1環芳香族炭化水素(ナフテノベンゼン類等)に転換する。ここで、1環芳香族炭化水素としては、例えばインダン、テトラリン、アルキルベンゼン等が挙げられる。
なお、原料油としては、工程(z3-4)で回収された炭素数9以上の重質留分も用いることができる。
【0061】
このように部分的に水素化処理を行えば、水素化反応工程での水素消費量を抑えると同時に、処理時の発熱量も抑制することができる。例えば、2環芳香族炭化水素の代表例であるナフタレンをデカリンに水素化する際には、ナフタレン1モル当たりの水素消費量は5モルとなるが、テトラリンに水素化する場合には水素消費量が2モルで実現可能となる。また、原料油中にインデン骨格が含まれる留分の場合は、インダン骨格にまで水素化を行えばよい。
なお、この水素化工程(水素化処理)に用いる水素としては、分解改質反応工程(f3-2)にて生成される水素を用いることもできる。
【0062】
このような水素化工程(水素化反応工程)は、公知の水素化反応器で行うことができる。この水素化処理において、反応器入口での水素分圧は、1~9MPaであることが好ましい。下限としては1.2MPa以上がより好ましく、1.5MPa以上がさらに好ましい。また、上限としては7MPa以下がより好ましく、5MPa以下がさらに好ましい。
水素分圧が上記範囲の下限値以上の場合には、触媒上のコーク生成を抑制し、触媒寿命を延ばすことができる。一方、水素分圧が上記範囲の上限値以下の場合には、水素消費量を抑え、反応器や周辺機器等の建設費を抑えることができる。
【0063】
また、水素化処理のLHSV(Liquid Hourly Space Velocity;液空間速度)は、0.05~10h-1であることが好ましい。下限としては0.1h-1以上がより好ましく、0.2h-1以上がさらに好ましい。また、上限としては5h-1以下がより好ましく、3h-1以下がさらに好ましい。LHSVが0.05h-1未満の場合には、反応器の建設費が上昇してしまう可能性がある。一方、LHSVが10h-1を超える場合には、原料油の水素化処理が十分に達成されず、後段の分解改質反応での反応性が低下する懸念がある。
【0064】
水素化処理における処理温度(水素化反応温度)は、150℃~400℃であることが好ましい。下限としては170℃以上がより好ましく、190℃以上がさらに好ましい。
また、上限としては380℃以下がより好ましく、370℃以下がさらに好ましい。反応温度が150℃を下回る場合には、原料油の水素化処理が十分に達成されない傾向にある。一方、反応温度が400℃を上回る場合には、副生成物であるガス分の発生が増加するため、水素化処理油の収率が低下することとなり、望ましくない。
【0065】
水素化処理における水素/油比は、100~2000NL/Lであることが好ましい。
下限としては110NL/L以上がより好ましく、120NL/L以上がさらに好ましい。また、上限としては1800N/L以下がより好ましく、1500NL/L以下がさらに好ましい。水素/油比が100NL/L未満の場合には、リアクター出口での触媒上のコーク生成が進行し、触媒寿命が短くなる傾向にある。一方、水素/油比が2000NL/Lを超える場合には、リサイクルコンプレッサーの建設費が上昇してしまう可能性がある。
【0066】
水素化処理における反応形式については、特に限定されないものの、通常は固定床、移動床等の種々のプロセスから選ぶことができ、中でも固定床が、建設コストや運転コストが安価であるため好ましい。また、水素化反応装置は塔状であることが好ましい。
【0067】
水素化処理に使用される水素化処理用触媒としては、原料油中の2環芳香族炭化水素を選択的に水素化して芳香環を1つのみ水素化した単環芳香族炭化水素(ナフテノベンゼン類等)に転換することが可能な触媒であれば、特に限定されることなく、種々のものを用いることができる。好ましい水素化処理用触媒としては、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、及び周期表第8~10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含有するものが挙げられる。周期表第6族金属としてはモリブデン、タングステン、クロムが好ましく、モリブデン、タングステンが特に好ましい。周期表第8~10族金属としては、鉄、コバルト、ニッケルが好ましく、コバルト、ニッケルがより好ましい。これらの金属はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な金属の組み合わせ例としては、モリブデン-コバルト、モリブデン-ニッケル、タングステン-ニッケル、モリブデン-コバルト-ニッケル、タングステン-コバルト-ニッケルなどが好ましく用いられる。なお、ここで周期表とは、国際純正・応用化学連合(IUPAC)により規定された長周期型の周期表をいう。
【0068】
前記水素化処理用触媒は、前記金属がアルミニウム酸化物を含む無機担体に担持されたものであることが好ましい。前記アルミニウム酸化物を含む無機担体の好ましい例としては、アルミナ、アルミナ-シリカ、アルミナ-ボリア、アルミナ-チタニア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-マグネシア、アルミナ-シリカ-ジルコニア、アルミナ-シリカ-チタニア、あるいは各種ゼオライト、セビオライト、モンモリロナイト等の各種粘土鉱物などの多孔性無機化合物をアルミナに添加した担体などを挙げることができ、中でもアルミナが特に好ましい。
【0069】
前記水素化処理用触媒は、アルミニウム酸化物を含む無機担体に、該無機担体と前記金属との合計質量である全触媒質量を基準として、周期表第6族金属から選択される少なくとも1種の金属を10~30質量%と、周期表第8~10族金属から選択される少なくとも1種の金属を1~7質量%と、を担持させて得られる触媒であることが好ましい。周期表第6族金属の担持量や周期表第8~10族金属の担持量が、それぞれの下限未満である場合には、触媒が充分な水素化処理活性を発揮しない傾向にあり、一方、それぞれの上限を超える場合には、触媒コストが上昇する上に、担持金属の凝集等が起こり易くなり、触媒が充分な水素化処理活性を発揮しない傾向にある。
【0070】
前記金属を前記無機担体に担持する際に用いられる前記金属種の前駆体については、特に限定されないものの、該金属の無機塩、有機金属化合物等が使用され、水溶性の無機塩が好ましく使用される。担持工程においては、これら金属前駆体の溶液、好ましくは水溶液を用いて担持を行う。担持操作としては、例えば、浸漬法、含浸法、共沈法等の公知の方法が好ましく採用される。
【0071】
前記金属前駆体が担持された担体は、乾燥後、好ましくは酸素の存在下にて焼成され、金属種は一旦酸化物とされることが好ましい。さらに、原料油の水素化処理を行う前に、予備硫化と呼ばれる硫化処理により、前記金属種を硫化物とすることが好ましい。
予備硫化の条件としては、特に限定されないものの、石油留分または熱分解重質油(以下、予備硫化原料油という。)に硫黄化合物を添加し、これを温度200~380℃、LHSVが1~2h-1、圧力は水素化処理運転時と同一、処理時間48時間以上の条件にて、前記水素化処理用触媒に連続的に接触せしめることが好ましい。前記予備硫化原料油に添加する硫黄化合物としては、限定されないものの、ジメチルジスルフィド(DMDS)、サルファゾール、硫化水素等が好ましく、これらを予備硫化原料油に対して予備硫化原料油の質量基準で1質量%程度添加することが好ましい。
【0072】
[(f3-2)分解改質反応工程]
この工程では、工程(f3-1)で得られた水素化油を、分解改質反応装置9にて、結晶性アルミノシリケート含有触媒(F)(以下、単に「触媒(F)」という場合がある)と接触させて、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む生成物を製造する。
工程(f3-2)で得られた生成物は、転化反応工程(z3-1)で得られた反応槽流出物と共に気液分離工程(z3-2)に供される。
【0073】
(反応形式)
水素化油を触媒(F)と接触、反応させる際の反応形式としては、固定床、移動床、流動床等が挙げられる。本実施形態においては、触媒に付着したコーク分を連続的に除去可能で、かつ安定的に反応を行うことができる流動床が好ましく、反応器と再生器との間を触媒が循環し、連続的に反応-再生を繰り返すことができる、連続再生式流動床が特に好ましい。触媒(F)と接触する際の原料油は、気相状態であることが好ましい。また、原料は、必要に応じてガスによって希釈してもよい。
なお、図3に示されるように、触媒(F)の再生は、再生器30によって行うことができる。例えば、図3では、反応槽91で反応を進めながら、反応槽92中の触媒を再生処理に付しているが、所定期間経過後、反応槽91と反応槽92とを切り替えて反応/再生を行うことができる。
【0074】
(反応温度)
水素化油を触媒(F)と接触、反応させる際の反応温度については、特に制限されないものの、400~650℃とすることが好ましい。反応温度の下限は400℃以上であれば水素化油を容易に反応させることができ、より好ましくは450℃以上である。また、反応温度の上限は650℃以下であれば単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、より好ましくは600℃以下である。
【0075】
(反応圧力)
水素化油を触媒(F)と接触、反応させる際の反応圧力については、1.5MPaG以下とすることが好ましく、1.0MPaG以下とすることがより好ましい。反応圧力が1.5MPaG以下であれば、軽質ガスの副生を抑制できる上に、反応装置の耐圧性を低くできる。
【0076】
(接触時間)
水素化油と触媒(F)との接触時間については、所望する反応が実質的に進行すれば特に制限はされないものの、例えば、触媒(F)上のガス通過時間で1~300秒が好ましく、さらに下限を5秒、上限を150秒とすることがより好ましい。接触時間が1秒以上であれば、確実に反応させることができ、接触時間が300秒以下であれば、コーキング等による触媒への炭素質の蓄積を抑制できる。または分解による軽質ガスの発生量を抑制できる。
【0077】
(触媒(F))
工程(f3-2)で用いる触媒(F)は、結晶性アルミノシリケートを含有する。
【0078】
(結晶性アルミノシリケート)
結晶性アルミノシリケートは、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトであることが好ましい。
中細孔ゼオライトは、10員環の骨格構造を有するゼオライトであり、中細孔ゼオライトとしては、例えば、AEL型、EUO型、FER型、HEU型、MEL型、MFI型、NES型、TON型、WEI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、MFI型が好ましい。
大細孔ゼオライトは、12員環の骨格構造を有するゼオライトであり、大細孔ゼオライトとしては、例えば、AFI型、ATO型、BEA型、CON型、FAU型、GME型、LTL型、MOR型、MTW型、OFF型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、工業的に使用できる点では、BEA型、FAU型、MOR型が好ましく、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、BEA型、MOR型がより好ましい。
【0079】
結晶性アルミノシリケートは、中細孔ゼオライトおよび大細孔ゼオライト以外に、10員環以下の骨格構造を有する小細孔ゼオライト、14員環以上の骨格構造を有する超大細孔ゼオライトを含有してもよい。
ここで、小細孔ゼオライトとしては、例えば、ANA型、CHA型、ERI型、GIS型、KFI型、LTA型、NAT型、PAU型、YUG型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
超大細孔ゼオライトとしては、例えば、CLO型、VPI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
【0080】
分解改質反応工程を固定床の反応とする場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、単環芳香族炭化水素製造用触媒全体を100質量%とした際の60~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、90~100質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。
【0081】
分解改質反応工程を流動床の反応とする場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒における
結晶性アルミノシリケートの含有量は、単環芳香族炭化水素製造用触媒全体を100質量
%とした際の20~60質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましく、35~6
0質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が20質量%以上であれば
、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。結晶性アルミノシリケートの含有量が
60質量%を超えると、触媒に配合できるバインダーの含有量が少なくなり、流動床用と
して適さないものになることがある。
【0082】
(ガリウム、亜鉛)
単環芳香族炭化水素製造用触媒には、必要に応じて、ガリウムおよび/または亜鉛を含有させることができる。ガリウムおよび/または亜鉛を含有させれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くできる。
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウム含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムが担持されたもの(ガリウム担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0083】
単環芳香族炭化水素製造用触媒における亜鉛含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内に亜鉛が組み込まれたもの(結晶性アルミノジンコシリケート)、結晶性アルミノシリケートに亜鉛が担持されたもの(亜鉛担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、SiO4、AlO4およびGaO4/ZnO4構造が骨格中に存在する構造を有する。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、例えば、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムまたは亜鉛を挿入する方法、または結晶性ガロシリケートまたは結晶性ジンコシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法により得られる。
【0084】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
亜鉛担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートに亜鉛をイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いる亜鉛源としては、特に限定されないものの、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0085】
単環芳香族炭化水素製造用触媒がガリウムおよび/または亜鉛を含有する場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウムおよび/または亜鉛の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.05~2.0質量%であることがより好ましい。ガリウムおよび/または亜鉛の含有量が0.01質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くでき、5.0質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0086】
(リン、ホウ素)
単環芳香族炭化水素製造用触媒においては、リンおよび/またはホウ素を含有することが好ましい。単環芳香族炭化水素製造用触媒がリンおよび/またはホウ素を含有すれば、単環芳香族炭化水素の収率の経時的な低下を防止でき、また、触媒表面のコーク生成を抑制できる。
【0087】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にリンを含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにリンを担持する方法、ゼオライト合成時にリン化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をリンと置き換える方法、ゼオライト合成時にリンを含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。その際に用いるリン酸イオン含有水溶液としては、特に限定されないものの、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、およびその他の水溶性リン酸塩などを任意の濃度で水に溶解させて調製したものを好ましく使用できる。
【0088】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にホウ素を含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにホウ素を担持する方法、ゼオライト合成時にホウ素化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をホウ素と置き換える方法、ゼオライト合成時にホウ素を含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。
【0089】
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるリンおよび/またはホウ素の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~9質量%であることがより好ましく、0.5~8質量%であることがさらに好ましい。リンおよび/またはホウ素の含有量が0.1質量%以上であれば、経時的な収率低下をより防止でき、10質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0090】
(形状)
単環芳香族炭化水素製造用触媒は、反応形式に応じて、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等にされる。例えば、流動床の場合には粉末状にされ、固定床の場合には粒状またはペレット状にされる。流動床で用いる触媒の平均粒子径は30~180μmが好ましく、50~100μmがより好ましい。また、流動床で用いる触媒のかさ密度は0.4~1.8g/ccが好ましく、0.5~1.0g/ccがより好ましい。
【0091】
なお、平均粒子径は、ふるいによる分級で得られた粒径分布において50質量%となる粒径を表し、かさ密度はJIS規格R9301-2-3の方法で測定された値である。
粒状またはペレット状の触媒を得る場合には、必要に応じて、バインダーとして触媒に不活性な酸化物を配合した後、各種成形機を用いて成形すればよい。
単環芳香族炭化水素製造用触媒がバインダー等の無機酸化物を含有する場合、バインダーとしてリンを含むものを用いても構わない。
【0092】
第3の実施形態では、キシレン転換工程において、上記トランスアルキル化反応により、炭素数の異なる芳香族炭化水素2分子を転化してキシレン2分子を得ることができる。具体的には、トルエン1分子とトリメチルベンゼン1分子を転化してキシレン2分子を得ることができる。
また、第3の実施形態では、分解改質反応工程における生成物に、炭素数9以上の重質留分が含まれている。炭素数9以上の重質留分は、トランスアルキル化反応の出発原料となるため、より効率的にキシレンを製造することができる。
【実施例
【0093】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
(合成例1:触媒(X-1)の合成)
硅酸ナトリウム(Jケイ酸ソーダ3号、SiO:28~30質量%、Na:9~10
質量%、残部水、日本化学工業(株)製)の1706.1gおよび水の2227.5gからなる溶液(A)と、Al(SO)3・14~18HO(試薬特級、和光純薬工業(株)製)の64.2g、テトラプロピルアンモニウムブロマイドの369.2g、HSO(97質量%)の152.1g、NaClの326.6gおよび水の2975.7gからなる溶液(B)をそれぞれ調製した。
次いで、溶液(A)を室温で撹拌しながら、溶液(A)に溶液(B)を徐々に加えた。
得られた混合物をミキサーで15分間激しく撹拌し、ゲルを解砕して乳状の均質微細な状態にした。
次いで、この混合物をステンレス製のオートクレーブに入れ、温度:165℃、時間:72時間、撹拌速度:100rpmの条件で、自己圧力下に結晶化操作を行った。結晶化操作の終了後、生成物を濾過して固体生成物を回収し、約5リットルの脱イオン水を用いて洗浄と濾過を5回繰り返した。濾別して得られた固形物を120℃で乾燥し、さらに空気流通下、550℃で3時間焼成した。
得られた焼成物は、X線回析分析(機種名:Rigaku RINT-2500V)の結果、MFI構造を有するものであることが確認された。また、蛍光X線分析(機種名:Rigaku ZSX101e)による、SiO/Al比(モル比)は、64.8であった。また、この結果から計算された格子骨格中に含まれるアルミニウム元素は1.32質量%であった。
得られた焼成物の1g当り5mLの割合で30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱、撹拌した後、濾過、水洗した。この操作を4回繰り返した後、120℃で3時間乾燥して、アンモニウム型結晶性アルミノシリケートを得た。その後、780℃で3時間焼成を行い、プロトン型結晶性アルミノシリケートを得た。
続いて、3.0質量%(ZSM-5の総質量を100質量%とした値)のガリウムがイオン交換(または含浸担持)されるように、蒸留水70mlに硝酸ガリウム0.37gを溶解した水溶液中で懸濁し、80℃で24時間撹拌した。その後、空気流通下にて、500℃で3時間焼成を行うことでガリウム含有結晶性アルミノシリケートを得た。
次いで、得られたガリウム含有結晶性アルミノシリケート30gに、0.2質量%のリン(触媒全重量を100質量%とした値)が含まれるようにリン酸水素二アンモニウム水溶液30gを含浸させ、120℃で乾燥させた。その後、空気流通下、780℃で3時間焼成して、ガリウム含有結晶性アルミノシリケートとリンとを含有する触媒を得た。
得られた触媒に39.2MPa(400kgf)の圧力をかけて打錠成型し、粗粉砕して20~28メッシュのサイズに揃えて、粒状体の触媒(X-1)を得た。
【0095】
(合成例2:触媒(H-1)の合成)
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液1kgに水ガラス3号を加え、70℃に保温した容器に入れた。また、濃度2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液1kgに硫酸チタン(IV)水溶液(TiO含有量として24質量%)を加えた溶液を、70℃に保温した別の容器において調製し、この溶液を、上述のアルミン酸ナトリウムを含む水溶液に15分間で滴下した。上記水ガラスおよび硫酸チタン水溶液の量は、所定のシリカ、チタニアの含有量となるように調整した。
混合溶液のpHが6.9~7.5になる時点を終点とし、得られたスラリー状生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。このケーキ状スラリーを、還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水300mlと27%アンモニア水溶液3gとを加え、70℃で24時間加熱攪拌した。攪拌処理後のスラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去ながら混練し、粘土状の混練物を得た。
得られた混練物を押出し成形機によって直径1.5mmシリンダーの形状に押出し、110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、成形担体を得た。得られた成形担体300gを取り、蒸留水150mlに三酸化モリブデン、硝酸コバルト(II)6水和物、リン酸(濃度85%)を加え、溶解するまでリンゴ酸を加えて調製した含浸溶液をスプレーしながら含浸した。
使用する三酸化モリブデン、硝酸コバルト(II)6水和物およびリン酸の量は、所定の担持量となるよう調整した。含浸溶液に含浸した試料を110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、触媒(H-1)を得た。触媒(H-1)は、担体基準で、SiOの含有量が1.9質量%、TiOの含有量が2.0質量%、触媒基準でMoOの担持量が22.9質量%、CoOの担持量が2.5質量%、P担持量が4.0質量%であった。
【0096】
<キシレンの製造(1)>
(実施例1~4)
触媒(X-1)を5mL反応器に充填した流通式反応装置を用い、反応温度:550℃、反応圧力:0.1MPaG、窒素/原料mol比:1.0、原料・触媒の接触時間:6.4秒の条件で、下記表1に示す原料を触媒(X-1)と接触させ、転化反応を行った。
この条件にて30分間転化反応を行い、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む転化反応生成物を得た。得られた転化反応生成物からベンゼン、トルエン及びキシレンを分離回収した。回収したトルエンを不均化反応装置にて不均化反応(触媒:ZSM-5(Si/Al=15)、反応温度:450℃、反応圧力:2.5MPaG、WHSV:4.5h-1、水素/原料mol比:1.5)に付し、不均化反応生成物を得た。
不均化反応装置に直結されたFIDガスクロマトグラフにより不均化反応生成物の組成分析を行った。未反応トルエンのリサイクルを加味したプロセス全体での炭素数6~8の単環芳香族炭化水素の収率を表1に示す。
【0097】
(比較例1~4)
触媒(X-1)を5mL反応器に充填した流通式反応装置を用い、反応温度:550℃、反応圧力:0.1MPaG、窒素/原料mol比:1.0、原料・触媒の接触時間:6.4秒の条件で、下記表2に示す原料油を触媒(X-1)と接触させ、転化反応を行った。
この条件にて30分間転化反応を行い、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む転化反応生成物を得た。流通式反応装置に直結されたFIDガスクロマトグラフにより転化反応生成物の組成分析を行って、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素の収率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
上記表1及び表2に示した通り、本願発明を適用した実施例1~4では、トルエンが全てベンゼン及びキシレンに転化されていた。そのため、実施例1~4では、不均化反応を行わなかった比較例1~4に比べて、ベンゼン及びキシレンの収率が向上していることが確認された。
【0101】
<キシレンの製造(2)>
(実施例5~8)
触媒(X-1)を5mL反応器に充填した流通式反応装置(1)を用い、反応温度:550℃、反応圧力:0.1MPaG、窒素/原料mol比:1.0、原料・触媒の接触時間:6.4秒の条件で、下記表3に示す原料油を触媒(X-1)と接触させ、転化反応を行った。
この条件にて30分間転化反応を行い、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む転化反応生成物(A)を得た。
また、上記転化反応とは別に、表3の性状を有する原料油を、水素化反応装置にて水素化反応(触媒:触媒(H-1)、反応温度:350℃、反応圧力:3.0MPaG、LHSV:0.5h-1、水素油比:750NL/L)に付し、水素化原料油を得た。
次に水素化原料油を、反応温度:550℃、反応圧力:0.1MPaG、触媒(X-1)に含まれるゼオライト成分との接触時間が30秒の条件で、触媒(X-1)と接触させ、分解改質反応を行い、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む分解改質反応生成物(B-1)を得た。
得られた(A)及び(B-1)を混合後蒸留しベンゼン、トルエン、キシレン、C9アロマ、及び重質分に分離した。回収したトルエン及びC9アロマはトランスアルキル化反応装置にてトランスアルキル化反応(触媒:金属換算で2質量%のレニウム(Re)を担持したモルデナイトからなる固体酸触媒、反応温度:400℃、反応圧力:3.0MPaG、WHSV:1.0h-1、水素/原料mol比:5.0)に付し、トランスアルキル化反応生成物(C)を得た。
一方(A)及び(B-1)の混合物の蒸留により回収した重質分については前述と同じ反応条件の下、再度水素化反応および分解改質反応を行い分解改質反応物(B-2)を得た。(B-2)および(C)を混合後、FIDガスクロマトグラフにより組成分析を行った。プロセス全体での炭素数6~8の単環芳香族炭化水素の収率を表4に示す。
【0102】
(比較例5~8)
触媒(X-1)を5mL反応器に充填した流通式反応装置(1)を用い、反応温度:550℃、反応圧力:0.1MPaG、窒素/原料mol比:1.0、原料・触媒の接触時間:6.4秒の条件で、下記表4に示す原料油を触媒(X-1)と接触させ、転化反応を行った。
この条件にて30分間転化反応を行い、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む転化反応生成物(A’)を得た。
また、上記転化反応とは別に、表3の性状を有する原料油を、水素化反応装置にて水素化反応(触媒:触媒(H-1)、反応温度:350℃、反応圧力:3.0MPaG、LHSV:0.5h-1、水素油比:750NL/L)に付し、水素化原料油を得た。
次に水素化原料油を反応温度:550℃、反応圧力:0.1MPaG、触媒(X-1)に含まれるゼオライト成分との接触時間が30秒の条件で、触媒(X-1)と接触させ、分解改質反応を行い、炭素数6~8の単環芳香族炭化水素を含む分解改質反応生成物(B-1’)を得た。
得られた(A’)及び(B-1’)を混合後蒸留しベンゼン、トルエン、キシレン、C9アロマ、及び重質分に分離した。回収した重質分については前述と同じ反応条件の下、再度水素化反応および分解改質反応を行い分解改質反応物(B-2’)を得た。FIDガスクロマトグラフによりB-2’の組成分析を行った。プロセス全体での炭素数6~8の単環芳香族炭化水素の収率を表5に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
【表5】
【0106】
上記表4及び表5に示した通り、本願発明を適用した実施例5~8では、トルエンが全てベンゼン及びキシレンに転化されていた。そのため、実施例5~8では、トランスアルキル化反応を行わなかった比較例5~8に比べて、ベンゼン及びキシレンの収率が向上していることが確認された。
【符号の説明】
【0107】
1 炭素数2~7の軽質炭化水素を主成分とする原料
2 転化反応装置
3 再生器
4 気液分離器
5 不均化反応装置
6 トランスアルキル化反応装置
7 原料油
8 水素化装置
9 分解改質反応装置
図1
図2
図3