(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】切断装置
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20231010BHJP
B23D 61/18 20060101ALI20231010BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20231010BHJP
B28D 1/08 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
E04G23/08 D
B23D61/18
B24B27/06 D
B28D1/08
E04G23/08 Z
(21)【出願番号】P 2019162941
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000165424
【氏名又は名称】株式会社コンセック
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】奥山 信博
(72)【発明者】
【氏名】小林 昭
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-069529(JP,A)
【文献】実開平03-058559(JP,U)
【文献】特開平05-248102(JP,A)
【文献】特開2014-201932(JP,A)
【文献】特開平09-195528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/227522(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1086794(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/08
B23D 61/18
B26D 1/46
B28D 1/08
B24B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端ループ状のワイヤーソーを循環駆動しつつ被切断物に対して押し付けることにより該被切断物を押し切り操作で切断するワイヤーソー機構を有し、該ワイヤーソー機構をベースマシンの揺動アームの先端部に装着して該揺動アームの操作により前記ワイヤーソー機構を切断作業位置に配置して切断作業を行う構成の切断装置であって、
前記ワイヤーソー機構は、
駆動プーリーおよび一連のガイドプーリーの全体を支持するベースフレームと、
前記揺動アームの先端部に設けられ、前記ベースフレームを進退可能に案内する案内軸と、
前記案内軸を前記ベースフレームとともに前記揺動アームの先端部に対して前記案内軸の中心軸周りに回転させる回転機構と、
を備え
、
前記回転機構は、前記ベースマシンと、前記揺動アームの先端部に着脱可能なブラケットとの間に配置され、
前記回転機構は、前記ベースマシンの前記揺動アームの先端部に固定されるベース部と、前記ベース部に対して回転可能に設けられた回転盤と、を備え、
前記ベース部と前記ブラケットとの間には、一対の水平回転用シリンダが設けられていることを特徴とする切断装置。
【請求項2】
前記案内軸の前記ベースマシン側とは反対側の先端には、前記被切断物を把持可能な把持装置が前記案内軸の中心軸周りに回転可能に設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記把持装置は、前記案内軸と平行な方向に延びる支持アーム部を備え、
該支持アーム部の先端には爪部が設けられ、
該爪部は、前記支持アーム部を前記被切断物
の上方から当接させた状態で、前記支持アーム部の先端において、前記案内軸の延在方向に対して水平かつ直交する方向を回動軸として回動可能に設けられていることを特徴とする請求項
2に記載の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SRC造やRC造の建築物の解体の際に破砕機やブレーカーによる騒音や振動の大きな作業重機を使用しない工法としてワイヤーソーを使用した切断装置を用いた工法が行われている。このようなワイヤーソーを使用した切断装置として、例えば、特許文献1に示されるように、無端ループ状のワイヤーソーを駆動プーリーおよび一連のガイドプーリーに巻装して循環駆動しつつ被切断物に対して食い込ませていくことで切断を行う装置が知られている。
【0003】
特許文献1に示される切断装置は、いずれも無端ループ状のワイヤーソーを被切断物を取り囲むようにしてその外側に巻装し(つまり、被切断物は無端ループ状のワイヤーソーの内側に配置されることになる)、その状態でワイヤーソーを引き込んで被切断物に食い込ませていくといういわゆる「引き切り操作」によって切断を行うものである。この場合には、柱や梁等を切断するに際してはその都度、ワイヤーソーのループを解いて被切断物の外側に巻装する必要があるため、その作業が面倒で手間がかかっていた。
そのため、切断装置として、切断作業をより効率よく行うことを目的としたものが例えば特許文献2に提案されている。
【0004】
特許文献2には、ワイヤーソーを被切断物に対して押し付けて押し切り操作により切断するワイヤーソー機構を、油圧ショベル等のベースマシンの揺動アームの先端部に対して案内軸を介して第1の進退駆動機構により進退可能に装着し、被切断物の両側に配置される対のガイドプーリーの少なくともいずれか一方もしくは双方を第2の進退駆動機構によってベースフレームに対して進退可能な推進プーリーとして、その推進プーリーの進退操作による回し切りを可能とし、ワイヤーソーの張力を調整可能なテンションプーリーを設置して案内軸に被切断物を把持するための把持装置を設置する構成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-141355号公報
【文献】特許第6041608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の切断装置では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献2に記載される切断装置では、移動や据え付け用のベースマシンである油圧ショベルのアーム先端の取付けブラケットに対して、所定角度で回転させる必要があった。例えば、柱の切断から大梁の切断へ切り替えるために90°転換させたり、大梁の切断時の逆ハの字に切断する際に回転させる必要が生じる。そのため、従来の切断装置で回転させる場合には、ブラケットの取付けボルトを外して、複数人で切断装置を手動で回転させるため、段取り替えの作業において時間と手間がかかり、作業効率が低下するという問題があった。
また、従来の切断装置では、狭隘な場所での施工において、ベースマシンによる姿勢位置決めや取り回しにおいて、切断装置全体を自動で回転することができないことから、位置決めに時間がかかり、作業効率が低下するおそれがあった。
【0007】
さらに、特許文献2の切断装置では、例えば大梁を切断の際に、先ず位置決めをした後に大梁に預ける。そして、ショベルアームの降下を防止するための把持装置に対して、操縦席側から見て左側を切断フレームが進行することにより大梁を切断する。この場合、常に切断フレームの右側に前記把持装置が位置しているため、右側に切断する柱がある場合には、柱の近傍で大梁を切断するには把持装置に干渉してしまい、柱際で切断することができないという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、作業にかかる手間と時間を低減でき、作業効率の向上を図ることができる切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る切断装置は、無端ループ状のワイヤーソーを循環駆動しつつ被切断物に対して押し付けることにより該被切断物を押し切り操作で切断するワイヤーソー機構を有し、該ワイヤーソー機構をベースマシンの揺動アームの先端部に装着して該揺動アームの操作により前記ワイヤーソー機構を切断作業位置に配置して切断作業を行う構成の切断装置であって、前記ワイヤーソー機構は、駆動プーリーおよび一連のガイドプーリーの全体を支持するベースフレームと、前記揺動アームの先端部に設けられ、前記ベースフレームを進退可能に案内する案内軸と、前記案内軸を前記ベースフレームとともに前記揺動アームの先端部に対して前記案内軸の中心軸周りに回転させる回転機構と、を備え、前記回転機構は、前記ベースマシンと、前記揺動アームの先端部に着脱可能なブラケットとの間に配置され、前記回転機構は、前記ベースマシンの前記揺動アームの先端部に固定されるベース部と、前記ベース部に対して回転可能に設けられた回転盤と、を備え、前記ベース部と前記ブラケットとの間には、一対の水平回転用シリンダが設けられていることを特徴としている。
【0010】
本発明では、案内軸とベースフレームとが回転機構によりベースマシンの揺動アームの先端部に対して回転可能に設けられているので、揺動アームの向きを変えることなくベースフレームの姿勢を回転方向で所定角度の位置に変更することができる。つまり、ベースフレームに支持されるワイヤーソーにおける被切断物に対する向きや角度を変更することができる。さらに、切断装置に装備される部材と被切断物とが切断時に干渉する場合にも、例えばベースフレームを案内軸の中心軸周りに180°回転させて干渉を解消して切断することが可能となる。そのため、狭隘なスペースでの施工においても、被切断物に対する切断装置の位置決め作業も効率よく行うことができる。
このように本発明では、例えば水平方向に延びる梁材の切断作業から縦方向に延びる柱材の切断作業に移行する際、ワイヤーソーとベースフレームの姿勢や向きを変える段取り替え作業が不要となり、作業時間と手間を低減することができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0012】
また、揺動アームの先端部の近傍にブラケットを介して回転機構が設けられ、案内軸を回転させるための回転機構が揺動アーム側に位置しているので、ブラケットを揺動アームに取り付けた状態で効率よく案内軸を回転させることができる。
【0013】
また、本発明に係る切断装置は、前記案内軸の前記ベースマシン側とは反対側の先端には、前記被切断物を把持可能な把持装置が前記案内軸の中心軸周りに回転可能に設けられていることを特徴としてもよい。
【0014】
この場合には、把持装置を被切断物に把持することによりベースフレームを所定の回転位置に位置決めして固定することができる。そのため、従来の把持装置を有さない切断装置のように、切断装置全体をその都度、被切断物に対してアンカー等により固定する必要がなく、ベースマシンの揺動アームを精度良く厳密に操作することで切断を行うといった必要もないことから、容易にかつ効率的な切断作業が可能となる。また、本発明では、被切断物が大梁と柱の場合において、既に片端が切断された大梁側に把持装置で把持し、柱際側の大梁端部を切断する場合には、切断した瞬間に両端の切断された大梁が揺れることを防ぐことができる。
また、本発明では、把持装置とベースフレームとが各別に案内軸の中心軸周りに回転する構成となる。そのため、例えば把持装置を被切断物の把持位置に合せた任意の回転位置となる姿勢に変更して把持することができる。
【0015】
また、本発明に係る切断装置は、前記把持装置は、前記案内軸と平行な方向に延びる支持アーム部を備え、該支持アーム部の先端には爪部が設けられ、該爪部は、前記支持アーム部を前記被切断物を上方から当接させた状態で、前記支持アーム部の先端において、前記案内軸の延在方向に対して水平かつ直交する方向を回動軸として回動可能に設けられていることを特徴としてもよい。
【0016】
この場合には、把持装置の支持アーム部は切断進行方向に延在した状態で配置され、支持アーム部の先端に設けられる爪部を所定位置まで回動させることで被切断物を把持することができる。そして、この場合には、爪部の突出方向(長さ方向)を支持アーム部の延在方向と略直線上となるように配置することができる。爪部を支持アーム部と直線上となるようにした状態に置いて、設置後に爪部を折り畳むように回動させて被切断物に係止させることで把持することができる。爪部は、突出方向と直交に回転することはないため、把持装置を被切断物に係止する際に、被切断物を切除する領域を小さく抑えることができる。
このように本発明では、ベースマシンにより大梁等の被切断物上に把持装置を設置する際に、従来のように把持装置の先端にある爪部が大梁と干渉しないように、支持アーム部の下面と同一面レベルになるように横回転して退避するといった手間のかかる作業が不要になる利点がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の切断装置によれば、作業にかかる手間と時間を低減でき、作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態によるベースマシンに搭載した切断装置の側面図である。
【
図2】
図1に示す切断装置の構成を示す側面図であって、切断作業開始時点の状態を示す側面図である。
【
図3】
図2に示す切断装置を前方から見た正面図である。
【
図4】
図2に示す切断装置を上方から見た平面図である。
【
図5】
図1に示す切断装置の構成を示す側面図であって、切断作業中の状態を示す側面図である。
【
図6】ベースフレームを180°回転させた状態を示す側面図であって、左右方向で
図2とは反対側から見た図である。
【
図7】梁材を逆ハ字形状に切断した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態による切断装置について、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示す本実施形態による切断装置1は、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の構造物の解体に際してベースマシン10の揺動アーム11の先端部11aに装着されて、その揺動アーム11の操作により切断作業位置に配置されることによって、被切断物としてのコンクリート構造部材(図示例では梁材8)を対象として切断作業を行うものである。
本実施形態の梁材8としては、横板81と、横板81の幅方向の中央下面より下方に垂下する縦板82とによって断面T字形状となる部材を一例としている。
【0021】
ベースマシン10としては、とくに限定されることはなく、揺動アーム11を備えたものであれば各種の重機が採用可能であるが、特に
図1に示すような汎用の油圧ショベルが好適に採用可能である。
【0022】
切断装置1は、
図2及び
図3に示すように、揺動アーム11の先端部11aに回転機構7を介して装着した案内軸3に対して、ワイヤーソー機構4を進退可能に支持した構成となっている。ワイヤーソー機構4は、無端ループ状のワイヤーソー2を循環駆動しつつ梁材8に対して押し付けることにより梁材8を押し切り操作で切断する機構となっている。ワイヤーソー機構4を
図1に示すベースマシン10の揺動アーム11の先端部11aに装着して、揺動アーム11の操作によりワイヤーソー機構4を切断作業位置に配置して切断作業を行う。
切断装置1は、ワイヤーソー機構4と、把持装置5と、を備えている。
【0023】
ワイヤーソー機構4には、無端ループ状のワイヤーソー2を後述するベースフレーム6に支持された駆動プーリー21及び複数のガイドプーリー22に巻き回している。複数のガイドプーリー22は、ワイヤーソー2を複数回折り返すように巻き回す複数(ここでは6個)の固定プーリー23と、前後方向に進退移動可能な推進プーリー24と、ワイヤーソー2に張力を付与するテンションプーリー25と、を有している。推進プーリー24は、ベースフレーム6の上下端部のそれぞれの前端部に配置されている。テンションプーリー25は、ベースフレーム6の上下端部(後述する上ベース62及び下ベース63)のそれぞれにおいて推進プーリー24の後端側に配置され、推進プーリー24と同様に前後方向に進退移動可能に設けられている。
切断装置1では、駆動プーリー21を回転駆動してワイヤーソー2を循環駆動しつつ梁材8に対して側方から押し付けることにより、その梁材8を「押し切り操作」によって切断するものである。
【0024】
ワイヤーソー機構4は、駆動プーリー21および一連のガイドプーリー22の全体を支持するベースフレーム6と、
図1に示す揺動アーム11の先端部11aに設けられ、ベースフレーム6を進退可能に案内するように支持する案内軸3と、案内軸3をベースフレーム6とともに案内軸3の中心軸O周りに回転させる回転機構7と、を備えている。
【0025】
ベースフレーム6は、上下方向の中央に位置するベース本体61と、ベース本体61の上下端から前方に突出する上ベース62及び下ベース63と、を備え、前方に開いた開口凹部6aを有する略コの字形に形成されている。ベース本体61は、案内軸3に対して進退移動可能に支持されている。ベース本体61には、案内軸3に対してベースフレーム6全体を前後方向に進退移動させるための進退駆動機構64(
図3及び
図4参照)が備えられている。
【0026】
進退駆動機構64は、特に限定されず任意であるが、例えば電動ないし油圧による各種のモータないしアクチュエータを駆動源とする送りねじ機構やラックピニオン機構、あるいは油圧ないし空気圧シリンダ機構等が好適に採用可能である。
【0027】
ベース本体61には、駆動プーリー21と固定プーリー23が配置されている。上ベース62及び下ベース63には、それぞれ推進プーリー24とテンションプーリー25が1個ずつ配置されている。上ベース62及び下ベース63の上下方向の間隔は、双方の内側に被切断物(本実施形態では梁材8)が配置可能な寸法に設定されている。上下の推進プーリー24、24同士の間で巻き掛けわれたワイヤーソー2がベースフレーム6の開口凹部6aの内側で上ベース62及び下ベース63の間を連結するように配置されている。
【0028】
一対の推進プーリー24は、それぞれ上ベース62及び下ベース63に対して図示しない進退駆動機構により前後方向に進退可能に構成されている。推進プーリー24を前方に移動させることで、ワイヤーソー2を前方に押圧することができ、より効率的に切断を行うことができる。なお、推進プーリー24を進退駆動させる前記進退駆動機構としては、例えば電動ないし油圧による各種のモータないしアクチュエータを駆動源とする送りねじ機構やラックピニオン機構、あるいは油圧ないし空気圧シリンダ機構等が好適に採用可能である。
このような推進プーリー24を設けておくことにより、揺動アーム11の操作によって切断装置1を切断作業位置に配置した以降は、揺動アーム11を操作することなく単に固定した状態のままで、梁材8に対してワイヤーソー2を適切な傾斜角度として切断を開始することが可能である。
【0029】
テンションプーリー25は、ワイヤーソー2の張力が変化した際にベースフレーム6に対して進退することにより張力を常に適切に維持するように調整可能とされている。
なお、上記のように推進プーリー24を進退させる際には一時的にワイヤーソー2の張力(テンション)が変化し、特にワイヤーソー2が過度に弛んでしまうと駆動プーリー21や固定プーリー23から脱落することを防止することができる。
【0030】
テンションプーリー25によりワイヤーソー2の張力を調整するためには、ワイヤーソー2の張力を検知しつつそれに応じてたとえば油圧シリンダ等の駆動機構によりテンションプーリー25を適切に進退させるか、あるいはテンションプーリー25をばねによって常にワイヤーソー2を緊張させる方向に付勢しておき、そのばねの弾性によって張力変化を自ずと吸収するようにしておくとよい。
【0031】
案内軸3は、長さ方向(前後方向)に沿って延在している。案内軸3は、進退駆動機構64を移動するための駆動シャフトであるラック3cと、ラック3cの両側で平行に配置された一対のガイドレール3dと、を備えている。ラック3cは、回転機構7の中心軸Oと同軸に配置され、案内軸3全体が回転機構7の回転動力によって中心軸O周りに回転自在に設けられている。そして、ラック3cには、進退駆動機構64に設けられる不図示のピニオンが噛合している。
案内軸3は、後端3bが回転機構7の後述する回転盤72にその回転軸と同軸に固定され、前端3aには把持装置5が中心軸O周りに回転可能に備えられている。案内軸3の長さ寸法は、ガイド軸に沿って進退移動するベースフレーム6が退避位置S1(
図2参照)と押出し完了位置S2(
図5参照)との間で進退可能な長さに設定されている。
【0032】
回転機構7は、
図1及び
図2に示すように、ベースマシン10の揺動アーム11の先端部11aに固定されるベース部71と、ベース部71に対して回転可能に設けられた回転盤72と、ベース部71に固定され回転盤72を回転させる駆動モータ73と、を有している。
【0033】
ベース部71には、取付けブラケット74が設けられている。取付けブラケット74には、揺動アーム11のアーム本体11Aとシリンダ11Bとのそれぞれの先端部11aに係止される係止穴74a、74bが形成されている。これら一対の係止穴74a、74bに係止されたアーム本体11Aとシリンダ11Bのうちシリンダ11Bを伸縮されることで、揺動アーム11に対して取付けブラケット74(すなわち回転機構7)が上下に回動される。
【0034】
また、
図4に示すように、ベース部71と取付けブラケット74との間には、案内軸3の中心軸Oを挟んだ水平方向に一対の水平回転用シリンダ75が設けられている。ベース部71の取付けブラケット74側の後面には、左右方向の中央に係止具76が固定されている。水平回転用シリンダ75は、それぞれ揺動アーム11側の後端が取付けブラケット74に連結され、前端が係止具76に連結されている。これら一対の水平回転用シリンダ75をそれぞれ適宜伸縮させることによりベース部71は上面視で係止具76を中心にして左右に揺動可能に構成されている。
【0035】
ベース部71の後面71aには、円盤形状に形成され、前面71bに設けられる回転盤72を中心軸O周りに例えば左右180°ずつ回転させる駆動モータ73が固定されている。ここで中心軸Oは、回転盤72の中心を通り、回転盤72の盤面に直交する方向に延びる軸である。回転盤72の前面72aには、案内軸3の後端3bが一体的に固定されている。案内軸3の軸方向は、中心軸Oに平行となっている。
【0036】
把持装置5は、
図4に示すように、案内軸3の前端3aに対して中心軸O周りに回転自在に設けられている。把持装置5は、
図2に示すように、案内軸3と平行な方向(前後方向)に延び前後方向にスライド可能な支持アーム部51と、支持アーム部51の後端側に設けられる保持フレーム52と、支持アーム部51の前端側に設けられる爪部53と、を備えている。保持フレーム52は、案内軸3の前端3aに設けられる回転軸体50に取り付けられている。
【0037】
保持フレーム52は、案内軸3に対して中心軸Oに直交する方向に向けて延び、その先端に保持フレーム52の延在方向に伸縮する伸縮ジャッキ54が組み込まれている。この伸縮ジャッキ54の先端部54aには支持アーム部51の後端部51aが固定されている。保持フレーム52の前面には、凹凸形状の第1把持部52aが形成されている。
【0038】
支持アーム部51は、ガイド部51Aと、ガイド部51Aに案内されて前方に向けて突出可能なスライド片51Bと、スライド片51Bを前後方向にスライドさせるためのスライドジャッキ51Cと、を有している。支持アーム部51におけるスライド片51Bの前端部51bには、上述した爪部53が上下に回動可能に設けられている。ガイド部51Aの下面には当接板55が固着されいる。
【0039】
爪部53は、支持アーム部51を梁材8の上方から当接させた状態で、支持アーム部51の先端において、案内軸3の延在方向に対して水平かつ直交する方向を回動軸として回動可能に設けられている。爪部53の後面には、凹凸形状の第2把持部53aが形成されている。
把持装置5は、梁材8の上面8aに上方から当接板55を当接させ、支持アーム部51のスライド片51Bを後方に移動させつつ爪部53を閉じた状態としたときに、保持フレーム52との間で梁材8を挟持することを可能にしている。一方、爪部53を開く方向に回動させることで、挟持している梁材8を開放することができる。
【0040】
次に、上述した切断装置1を使用して梁材8を切断する施工方法について、図面に基づいて詳細に説明する。ここで、梁材8は、その上部に設けられているスラブを殆ど解体し撤去しておいたものを対象とする。
【0041】
先ず、梁材8の切断位置に切断装置1をセットする。このとき、
図1に示すように、把持装置5の支持アーム部51を上にした姿勢で、保持フレーム52の伸縮ジャッキ54を伸長した状態とする。そして、梁材8の上方に支持アーム部51を配置した後、
図2に示すように、伸縮ジャッキ54を縮めて当接板55を梁材8の上面8aに当接させ、さらに支持アーム部51のスライド片51Bを後方に引き寄せる。その後、爪部53を閉じることで、保持フレーム52の第1把持部52aと爪部53の第2把持部53aとの間で梁材8を把持し、堅固に固定する。これにより、切断装置1を梁材8の所定位置に位置決めされ、切断作業時に切断装置1全体が振れたり不用意に位置ずれが生じることを防止できる。
【0042】
このとき、切断作業の開始時点では、
図2に示すように、ベースフレーム6を案内軸3で最も後方(揺動アーム11側)に配置し、さらにベースフレーム6の回転方向において上ベース62が真上となる位置、すなわち上ベース62と下ベース63とが対向する方向が上下方向を向く回転姿勢で配置される。つまり、ベースフレーム6は、ワイヤーソー2のうち開口凹部6aに位置する切断部分が正面(前方)から見て上下方向に延びる姿勢となる。
具体的に切断装置1は、後方から見てベースフレーム6の右側に把持装置5が位置することになる。
【0043】
次に、
図5に示すように、駆動プーリー21を回転させてワイヤーソー2を循環駆動させてから、進退駆動機構64(
図3参照)を駆動してベースフレーム6を案内軸3に案内させて前進させる。これによりワイヤーソー2が梁材8に対して前進することで梁材8に対して押し切ることができる。
そして、本実施形態では、ワイヤーソー機構4の上ベース62に設けられる推進プーリー24が前方に配置され、下ベース63に設けられる推進プーリー24が後方に配置された状態で側面視でワイヤーソー2が斜めに配置された状態で押し切り、最終段階でワイヤーソー2を駆動させたまま下ベース63の推進プーリー24を前方に移動させながら梁材8を切断し、下ベース63の推進プーリー24が最前方まで移動させることで、ワイヤーソー2を押し切ってワイヤーソー2が
図5の二点鎖線の位置となり、梁材8が完全に切断される。
【0044】
なお、本実施形態では、梁材8の切断に上述した切断装置1を使用する一例を示したが、例えば図示しない柱材を切断した後に梁材8を切断する場合には、回転機構7により水平姿勢(上ベース62と下ベース63の対向する方向が水平方向に向いた位置)のベースフレーム6を90°回転させて縦姿勢(上ベース62と下ベース63の対向する方向が上下方向に向いた位置)とすることで、切断部分のワイヤーソー2の向きを90°変えることができる。
【0045】
次に、上記実施形態の場合には、
図1及び
図2に示すように、ベースマシン10側の後方から見てワイヤーソー2を備えたベースフレーム6の右側に把持装置5を配置して梁材8を切断している(
図2及び
図3に示す符号P1の第1姿勢のベースフレーム6)。一方で、ベースフレーム6の右側に柱材(図示省略)があり、この柱材寄りの部分が切断箇所となる場合には、把持装置5が柱材に干渉してしまう。この場合、本実施形態の切断装置1では、把持装置5とベースフレーム6との位置を左右反転させ、ベースフレーム6の左側に把持装置5を配置するように変更する姿勢変更を行う(
図3及び
図6に示す符号P2の第2姿勢のベースフレーム6)。
【0046】
図3に示すように、第2姿勢P2のベースフレーム6では、第1姿勢P1に対して案内軸3の中心軸O周りに180°回転させて上下反転した姿勢とし、上ベース62が下側に位置し、下ベース63が上側に位置した姿勢となる。このときワイヤーソー2は、ベースフレーム6の開口凹部6aの前方に位置したままであり、第1姿勢P1の場合と同様にベースフレーム6を案内軸3に案内させることにより梁材8を切断することができる。
【0047】
次に、上述した切断装置1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による切断装置1では、
図1に示すように、ワイヤーソー機構4のベースフレーム6がベースマシン10の揺動アーム11に対して案内軸3を介して進退可能に装着されているので、揺動アーム11の操作によりワイヤーソー機構4を切断作業位置に配置した状態でワイヤーソー2を循環駆動するとともに進退駆動機構によりベースフレーム6を案内軸3に案内させて前進させることにより、ワイヤーソー2による押し切り操作によって被切断物である梁材8を切断することができる。
【0048】
そして、本実施形態では、
図2及び
図5に示すように、案内軸3とベースフレーム6とが回転機構7により
図1に示すベースマシン10の揺動アーム11の先端部11aに対して回転可能に設けられているので、揺動アーム11の向きを変えることなくベースフレーム6の姿勢を回転方向で所定角度の位置に変更することができる。つまり、ベースフレーム6に支持されるワイヤーソー2における梁材8等の被切断物に対する向きや角度を変更することができる。
【0049】
さらに、切断装置1に装備される部材と梁材8とが切断時に干渉する場合にも、例えば
図3に示すようにベースフレーム6を案内軸3の中心軸O周りに180°回転させて干渉を解消して切断することが可能となる。そのため、狭隘なスペースでの施工においても、被切断物に対する切断装置1の位置決め作業も効率よく行うことができる。
【0050】
このように本実施形態では、水平方向に延びる梁材8の切断作業から縦方向に延びる柱材の切断作業に移行する際、ワイヤーソー2とベースフレーム6の姿勢や向きを変える段取り替え作業が不要となり、作業時間と手間を低減することができ、作業効率の向上を図ることができる。例えば、
図7に示すように、梁材8に対して逆ハ字形状の切断部8Aで切断する際にも、ワイヤーソー2(ベースフレーム6)を切断部8Aの傾斜角度に合せて回転させて容易に切断することができる。
例えば、従来の切断装置1では、ベースフレーム6の回転角度を変更する際には、一端、ベースマシン10の揺動アーム11の先端部11aから切り離して角度を変えて装着するという作業が発生することから例えば二人の作業員で5分以上の作業となっていたところ、本実施形態では一人で数十秒程度の作業となる。
【0051】
また、本実施形態では、
図1に示すように、揺動アーム11の先端部11aの近傍に取付けブラケット74を介して回転機構7が設けられ、案内軸3を回転させるための回転機構7が揺動アーム11側に位置しているので、取付けブラケット74を揺動アーム11に取り付けた状態で効率よく案内軸3を回転させることができる。
【0052】
また、本実施形態による切断装置1では、把持装置5を梁材8に把持することによりベースフレーム6を所定の回転位置に位置決めして固定することができる。そのため、従来の把持装置を有さない切断装置のように、切断装置全体をその都度、被切断物に対してアンカー等により固定する必要がなく、ベースマシンの揺動アームを精度良く厳密に操作することで切断を行うといった必要もないことから、容易にかつ効率的な切断作業が可能となる。
【0053】
また、本実施形態では、梁材8が大梁と柱の場合において、既に片端が切断された大梁側に把持装置5で把持し、柱際側の大梁端部を切断する場合には、切断した瞬間に両端の切断された大梁が揺れることを防ぐことができる。
また、本実施形態では、把持装置5とベースフレーム6とが各別に案内軸3の中心軸O周りに回転する構成となる。そのため、例えば把持装置を被切断物の把持位置に合せた任意の回転位置となる姿勢に変更して把持することができる。
【0054】
また、本実施形態による切断装置1では、把持装置5の支持アーム部51は切断進行方向に延在した状態で配置され、支持アーム部51の先端に設けられる爪部53を所定位置まで回動させることで梁材8を把持することができる。そして、この場合には、爪部53の突出方向(長さ方向)を支持アーム部51の延在方向と略直線上となるように配置することができる(
図2の二点鎖線で示す爪部53を参照)。爪部53を支持アーム部51と直線上となるようにした状態に置いて、設置後に爪部53を折り畳むように回動させて梁材8に係止させることで把持することができる。爪部53は、突出方向と直交に回転することはないため、把持装置5を梁材8に係止する際に、梁材8を切除する領域を小さく抑えることができる。
このように本実施形態では、ベースマシン10により大梁等の梁材8上に把持装置5を設置する際に、従来のように把持装置5の先端にある爪部53が梁材8と干渉しないように、支持アーム部51の下面と同一面レベルになるように横回転して退避するといった手間のかかる作業が不要になる利点がある。
【0055】
上述のように本実施形態による切断装置1では、作業にかかる手間と時間を低減でき、作業効率の向上を図ることができる。
【0056】
以上、本発明による切断装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0057】
例えば、本実施形態では、回転機構7が取付けブラケット74を介してベースマシン10の揺動アーム11の先端部11aに装着された構成としているが、回転機構7の構成としてこれに限定されることはない。例えば、回転機構7は、揺動アーム11の先端部11aに着脱可能な取付けブラケット74との間に配置されているが、このような構成に限定されることはなく、他の構成であってもよい。
【0058】
また、本実施形態では、案内軸3の前端3aに、梁材8を把持可能な把持装置5が案内軸3の中心軸O周りに回転可能に設けられた構成としているが、把持装置5の構成はこれに限定されることはない。例えば、案内軸3に対して回転可能な構成に限定されることもない。また、そのため、把持装置として、本実施形態のように支持アーム部51や爪部53を備えない別の構成であってもよい。また、本発明では、把持装置自体を省略することも可能である。
【0059】
さらに、ベースフレーム6に設けられる各プーリー(駆動プーリー21、ガイドプーリー22)の取り付け位置、数量等の構成、ベースフレーム6の形状等の構成は任意に設定することができる。
【0060】
さらにまた、本実施形態では、被切断物として梁材8を対象としているが、梁材や柱材に限定されることはなく、ワイヤーソー2で切断可能な鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造、もしくは鉄骨造の構造物を対象とすることができる。
【0061】
また、本実施形態では、保持フレーム52の先端に保持フレーム52の延在方向に伸縮する伸縮ジャッキ54が組み込まれているた構成としているが、伸縮ジャッキ54に限らず、手動で伸縮させてもよい。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 切断装置
2 ワイヤーソー
3 案内軸
4 ワイヤーソー機構
5 把持装置
6 ベースフレーム
7 回転機構
8 梁材(被切断物)
10 ベースマシン
11 揺動アーム
11a 先端部
21 駆動プーリー
22 ガイドプーリー
51 支持アーム部
53 爪部
74 取付けブラケット(ブラケット)
O 案内軸の中心軸