(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20231010BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20231010BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20231010BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20231010BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20231010BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/265 601A
H01L29/78 301B
H01L29/78 301V
H01L21/265 F
H01L29/78 301P
H01L29/78 301F
(21)【出願番号】P 2019190351
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 達雄
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-079930(JP,A)
【文献】特開2003-124515(JP,A)
【文献】特開2002-176004(JP,A)
【文献】特開2004-356257(JP,A)
【文献】特開2017-135174(JP,A)
【文献】特開2009-231395(JP,A)
【文献】特開2014-135347(JP,A)
【文献】特開2012-054471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 21/265
H01L 21/336
H01L 29/24
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 29/778
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層にベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を注入する第1のイオン注入を行い、
前記窒化物半導体層に窒素(N)を注入する第2のイオン注入を行い、
前記窒化物半導体層に水素(H)を注入する第3のイオン注入を行い、
前記第1のイオン注入、前記第2のイオン注入、及び、前記第3のイオン注入の後に前記窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、
前記被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理の後に前記被覆層を剥離し、
前記被覆層を剥離した後に第2の熱処理を行う半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記被覆層は、絶縁体である請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記被覆層は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、又は、窒化アルミニウムである請求項2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の熱処理は、アルゴン、窒素、水素、又は、ヘリウムを含む雰囲気中で行われる請求項1ないし請求項3いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の熱処理は、水素を含む雰囲気中で行われる請求項4記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第2の熱処理は、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む雰囲気中で行われる請求項1ないし請求項5いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第2の熱処理は、第1の熱処理より低い圧力で行われる請求項1ないし請求項6いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2のイオン注入の窒素のドーズ量は、前記第1のイオン注入の前記少なくとも一つの元素のドーズ量よりも多い請求項1ないし請求項7いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第2のイオン注入で形成される窒素の濃度分布が、前記第1のイオン注入で形成される前記少なくとも一つの元素の濃度分布を包含する請求項1ないし請求項8いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第3のイオン注入の水素のドーズ量は、前記第1のイオン注入の前記少なくとも一つの元素のドーズ量よりも多く、前記第2のイオン注入の窒素のドーズ量よりも多い請求項1ないし請求項9いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第3のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、前記第1のイオン注入で形成される前記少なくとも一つの元素の濃度分布を包含する請求項1ないし請求項10いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1のイオン注入の前記少なくとも一つの元素のドーズ量は、1×10
11cm
-2以上1×10
15cm
-2以下である請求項1ないし請求項11いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第3のイオン注入の水素のドーズ量は、1×10
15cm
-2以上である請求項1ないし請求項12いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1のイオン注入、前記第2のイオン注入、及び、前記第3のイオン注入の前に、前記窒化物半導体層にトレンチを形成し、
前記第2の熱処理の後に、前記トレンチの中にゲート絶縁層を形成し、
前記ゲート絶縁層を形成した後に、前記トレンチの中にゲート電極を形成し、
前記第1のイオン注入、前記第2のイオン注入、及び、前記第3のイオン注入は前記トレンチの底面に行われる請求項1ないし請求項13いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第2の熱処理の後に、前記窒化物半導体層の表面に、金属層を形成する請求項1ないし請求項14いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
窒化物半導体層にベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を注入する第1のイオン注入を行い、
前記窒化物半導体層に窒素(N)を注入する第2のイオン注入を行い、
前記窒化物半導体層に水素(H)を注入する第3のイオン注入を行い、
前記第1のイオン注入、前記第2のイオン注入、及び、前記第3のイオン注入の後に前記窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、
前記被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理の後に前記第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記第1の熱処理は水素を含む雰囲気中で行われ、前記第2の熱処理は水素を含まない雰囲気中か、又は、前記第1の熱処理の水素分圧よりも低い水素分圧の雰囲気中で行われる請求項16記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記第2の熱処理は前記第1の熱処理の圧力よりも低い圧力で行われる請求項16記載の半導体装置の製造方法。
【請求項19】
第1の窒化物半導体層と、
前記第1の窒化物半導体層の上に位置し、前記第1の窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きい第2の窒化物半導体層と、
前記第2の窒化物半導体層の上に位置し、前記第2の窒化物半導体層に電気的に接続された第1の電極と、
前記第2の窒化物半導体層の上に位置し、前記第2の窒化物半導体層に電気的に接続された第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に位置し、第1の側面と、第2の側面と、前記第1の側面と前記第2の側面との間の底面とを有し、前記第1の側面及び前記第2の側面は前記底面に対して傾斜し、前記底面が前記第1の窒化物半導体層の中に位置するトレンチと、
前記トレンチの中に位置するゲート電極と、
前記底面と前記ゲート電極との間、及び、前記第1の側面及び前記第2の側面と前記ゲート電極との間に位置するゲート絶縁層と、
前記底面と前記ゲート絶縁層との間、及び、前記第1の側面及び前記第2の側面と前記ゲート絶縁層との間に位置し、前記第1の窒化物半導体層及び前記第2の窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きい第3の窒化物半導体層と、を備え、
前記第1の窒化物半導体層は、前記第1の側面及び前記第2の側面の少なくともいずれか一方の側方に、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む第1の領域を有する半導体装置。
【請求項20】
前記第1の窒化物半導体層と前記第2の窒化物半導体層との間に設けられ、前記第1の窒化物半導体層及び前記第2の窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きく、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む第2の領域を有する第4の窒化物半導体層を、更に備える請求項19記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源回路やインバータ回路などの回路には、トランジスタやダイオードなどの半導体素子が用いられる。これらの半導体素子には高耐圧及び低オン抵抗が求められる。そして、耐圧とオン抵抗の関係には、素子材料で決まるトレードオフ関係がある。
【0003】
技術開発の進歩により、半導体素子は、主たる素子材料であるシリコンの限界近くまで低オン抵抗が実現されている。耐圧を更に向上させたり、オン抵抗を更に低減させたりするには、素子材料の変更が必要である。窒化ガリウムや窒化アルミニウムガリウムなどの窒化物半導体を半導体素子の素子材料として用いることで、素子材料で決まるトレードオフ関係を改善できる。このため、半導体素子の飛躍的な高耐圧化や低オン抵抗化が可能である。
【0004】
窒化物半導体を用いて半導体素子を形成する場合、窒化物半導体の所望の位置に、イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することが望まれる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することにより、半導体素子の高性能化、低コスト化が容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、窒化物半導体にイオン注入法を用いて不純物領域を形成する半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層にベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を注入する第1のイオン注入を行い、前記窒化物半導体層に窒素(N)を注入する第2のイオン注入を行い、前記窒化物半導体層に水素(H)を注入する第3のイオン注入を行い、前記第1のイオン注入、前記第2のイオン注入、及び、前記第3のイオン注入の後に前記窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、前記被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、前記第1の熱処理の後に前記被覆層を剥離し、前記被覆層を剥離した後に第2の熱処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図。
【
図2】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図3】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図4】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図5】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図6】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図7】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図8】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図9】第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図。
【
図10】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図。
【
図11】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図。
【
図12】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図。
【
図13】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図。
【
図14】第2の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図。
【
図15】第3の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図。
【
図16】第4の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の模式断面図。
【
図17】第4の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図。
【
図18】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図19】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図20】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図21】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図22】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図23】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図24】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図25】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図26】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図27】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図28】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図29】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図30】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図31】第4の実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図。
【
図32】第5の実施形態の半導体装置の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材についてはその説明を省略する場合がある。
【0010】
本明細書中、「窒化物半導体層」は「GaN系半導体」を含む。「GaN系半導体」とは、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)及びそれらの中間組成を備える半導体の総称である。
【0011】
本明細書中、「アンドープ」とは、不純物濃度が1×1015cm-3以下であることを意味する。
【0012】
本明細書中、部品等の位置関係を示すために、図面の上方向を「上」、図面の下方向を「下」と記述する。本明細書中、「上」、「下」の概念は、必ずしも重力の向きとの関係を示す用語ではない。
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層にベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を注入する第1のイオン注入を行い、窒化物半導体層に窒素(N)を注入する第2のイオン注入を行い、窒化物半導体層に水素(H)を注入する第3のイオン注入を行い、第1のイオン注入、第2のイオン注入、及び、第3のイオン注入の後に窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、第1の熱処理の後に被覆層を剥離し、被覆層を剥離した後に第2の熱処理を行う。
【0014】
図1は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図である。第1の実施形態の半導体装置は、p型不純物領域を有する窒化物半導体層である。
【0015】
【0016】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層準備ステップS101、マグネシウムイオン注入ステップS102(第1のイオン注入)、窒素イオン注入ステップS103(第2のイオン注入)、水素イオン注入ステップS104(第3のイオン注入)、酸化シリコン層形成ステップS105(被覆層形成)、第1の窒素アニールステップS106(第1の熱処理)、酸化シリコン層剥離ステップS107(被覆層剥離)、第2の窒素アニールステップS108(第2の熱処理)を備える。
【0017】
最初に、窒化物半導体層10を準備する(S101:
図2)。窒化物半導体層10は、GaN系半導体である。以下、窒化物半導体層10が窒化ガリウム(GaN)である場合を例に説明する。
【0018】
次に、窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いてマグネシウム(Mg)をイオン注入する(S102:
図3)。マグネシウムのイオン注入は、第1のイオン注入に相当する。第1のイオン注入で注入される元素は、マグネシウム(Mg)に限らず、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素(導電性不純物)であれば構わない。
【0019】
マグネシウムをイオン注入することにより、窒化物半導体層10に不純物領域10aが形成される。例えば、マグネシウムは、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0020】
マグネシウムのドーズ量は、例えば、1×10
11cm
-2以上1×10
15cm
-2以下である。
図3には、深さ方向のマグネシウムの濃度分布も示す。マグネシウムの濃度分布は、マグネシウムイオン注入の、イオン注入エネルギー、ドーズ量、及び、イオン注入回数を調整することで制御される。
【0021】
次に、窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いて窒素(N)をイオン注入する(S103:
図4)。窒素のイオン注入は、第2のイオン注入に相当する。
【0022】
窒素は、不純物領域10aに導入される。例えば、窒素は、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0023】
窒素のドーズ量は、例えば、マグネシウムのドーズ量よりも多い。窒素のドーズ量は、例えば、1×1011cm-2以上1×1015cm-2以下である。
【0024】
図4には、窒素イオン注入直後の深さ方向の窒素の濃度分布も示す。
図4に示すように、例えば、第2のイオン注入で形成される窒素の濃度分布が、マグネシウムの濃度分布を包含するように形成される。言い換えれば、例えば、不純物領域10aにおいて、深さ方向の任意の位置の窒素濃度が、マグネシウム濃度よりも高い。窒素の濃度分布は、窒素イオン注入のイオン注入エネルギー、ドーズ量、及び、イオン注入回数を調整することで制御される。
【0025】
次に、窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いて水素(H)を、イオン注入する(S104:
図5)。水素のイオン注入は、第3のイオン注入に相当する。
【0026】
水素は、不純物領域10aに導入される。例えば、水素は、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0027】
第3のイオン注入の水素のドーズ量は、例えば、第1のイオン注入のマグネシウムのドーズ量よりも多い。第3のイオン注入の水素のドーズ量は、例えば、第2のイオン注入の窒素のドーズ量よりも多い。水素のドーズ量は、例えば、1×1015cm-2以上1×1016cm-2以下である。
【0028】
図5には、水素イオン注入直後の深さ方向の水素の濃度分布も示す。
図5に示すように、例えば、第3のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、第1のイオン注入で形成されるマグネシウムの濃度分布を包含し、第2のイオン注入で形成される窒素の濃度分布を包含するように形成される。言い換えれば、例えば、不純物領域10aにおいて、深さ方向の任意の位置の水素濃度がマグネシウム濃度及び窒素濃度よりも高い。水素の濃度分布は、水素イオン注入のイオン注入エネルギー、ドーズ量、及び、イオン注入回数を調整することで制御される。
【0029】
次に、公知の膜成長法を用いて、窒化物半導体層10の表面に、酸化シリコン層50を形成する(S105:
図6)。酸化シリコン層50は、被覆層の一例である。被覆層は、酸化シリコンに限られない。
【0030】
被覆層は、例えば、絶縁体である。被覆層は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、又は、窒化アルミニウムである。
【0031】
被覆層は、例えば、導電体又は半導体である。被覆層は、例えば、多結晶シリコンである。
【0032】
次に、第1の窒素アニールを行う(S106:
図7)。第1の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第1の窒素アニールは、第1の熱処理の一例である。
【0033】
第1の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、水素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0034】
次に、公知のウェットエッチング法を用いて、窒化物半導体層10の表面の酸化シリコン層50を剥離する(S107:
図8)。窒化物半導体層10の表面が露出する。
【0035】
次に、第2の窒素アニールを行う(S108:
図9)。第2の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第2の窒素アニールは、第2の熱処理の一例である。
【0036】
第2の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。第2の熱処理は、例えば、水素を含まない雰囲気中で行われる。
【0037】
以上の製造方法により、不純物領域10aを有する窒化物半導体層10が製造される。不純物領域10aは、導電性不純物が活性化された導電性の不純物領域である。上述のように、導電性不純物がp型不純物のマグネシウムである場合、不純物領域10aは、マグネシウムが活性化されたp型不純物領域となる。
【0038】
以下、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0039】
窒化物半導体を用いて半導体素子を形成する場合、窒化物半導体の所望の位置に、イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することが望まれる。イオン注入法を用いて局所的にp型不純物領域やn型不純物領域を形成することにより、半導体素子の高性能化、低コスト化が容易になる。
【0040】
しかし、単に、窒化物半導体にp型やn型の導電性不純物をイオン注入し熱処理を行っても、低抵抗な導電性不純物領域を形成することが困難である。これは、熱処理により導電性不純物の活性化率を高くすることが困難なためである。
【0041】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、導電性不純物の活性化率を高くし、低抵抗な導電性不純物領域を形成することが可能となる。以下、詳述する。以下、第1のイオン注入で窒化物半導体層に注入される導電性不純物が、マグネシウムである場合を例に説明する。
【0042】
図10は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図である。
図10は、マグネシウムが窒化ガリウム(GaN)の格子間位置に存在する状態と、マグネシウムが格子点位置に存在する状態とのエネルギー差の計算結果を示す。エネルギー差の計算は、第1原理計算により行われている。以下、格子間位置に存在するマグネシウムを格子間マグネシウムとも記載する。
【0043】
図10(a)は、窒化ガリウムの中に窒素空孔が存在しない場合、
図10(b)は窒化ガリウムの中に窒素空孔が存在する場合である。
図10(c)は窒化ガリウムの中にガリウム空孔が存在する場合である。
【0044】
図10(a)に示すように、窒化ガリウムの中に窒素空孔が存在しない場合、マグネシウムが格子点位置に存在する状態と、格子間位置に存在する状態とのエネルギー差は、+3.9eVである。マグネシウムが格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーが高く不安定なため、マグネシウムが格子点位置に入りにくいことが分かる。
【0045】
図10(a)の場合は、格子間マグネシウムがガリウム(Ga)と置換し、ガリウムサイトに入る場合を仮定している。置換されたガリウムは格子間位置に存在することになる。以下、格子間位置に存在するガリウムを格子間ガリウムと称する。
【0046】
マグネシウムを活性化するには、マグネシウムがガリウムサイトに入ることが必要である。
図10(a)から、マグネシウムがガリウムサイトに入り活性化することが、困難であることが分かる。
【0047】
例えば、マグネシウムをイオン注入により窒化ガリウムの中に導入する場合、イオン注入のエネルギーにより窒素サイトの窒素が離脱し、窒素空孔が形成される。
図10(b)に示すように、マグネシウムが窒素格子点位置(窒素サイト)に存在する状態と、格子間位置に存在する状態とのエネルギー差は、-1.9eVである。マグネシウムが窒素格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーが低く安定なため、マグネシウムが窒素格子点位置に入りやすいことが分かる。
【0048】
ただし、
図10(b)の場合、格子間マグネシウムが窒素(N)と置換し、窒素サイトに入るため、マグネシウムは活性化されない。
【0049】
なお、
図10(c)に示すように、イオン注入により窒化ガリウムの中に形成されたガリウム空孔に、格子間マグネシウムが入る場合は、マグネシウムが格子間位置に存在する状態と、ガリウム格子点位置に存在する状態とのエネルギー差が-13.0eV程度となる。この場合は、マグネシウムがガリウム格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーがはるかに低く安定であるため、マグネシウムがガリウム格子点位置に入りやすいことが分かる。
【0050】
ただし、ガリウム空孔よりも窒素空孔の方が出来やすい。したがって、イオン注入によってできる空孔の大部分は窒素空孔となる。よって、マグネシウムのイオン注入のみでは、マグネシウムの大部分は窒素格子点位置に入ることになる。
【0051】
図10(b)より、マグネシウムをイオン注入により窒化ガリウムの中に導入する場合、少なくとも、マグネシウムが窒素サイトに入り不活性となることを回避すべきことが分かる。
【0052】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の中に、第1のイオン注入でマグネシウムを注入し、第2のイオン注入で更に窒素を注入する。このため、窒化物半導体層10の中の窒素の濃度が高くなる。したがって、注入された窒素により窒素空孔が埋められ、窒素空孔の量が低減する。よって、マグネシウムが窒素サイトに入り不活性となることが抑制できる。
【0053】
更に、窒化物半導体層10の中に、窒素空孔があると、マグネシウムが窒素空孔を介して拡散し易くなる。その結果、マグネシウムが周囲に拡散し、デバイス特性を劣化させるおそれがある。第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒素空孔の量が低減するため、マグネシウムの拡散が抑制され、マグネシウムを局在させることができる。よって、デバイス特性の劣化が抑制される。マグネシウム以外の不純物についても同様の作用が得られる、不純物を局在させることができる。
【0054】
図11は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図である。
【0055】
図11(a)は、格子間マグネシウムと格子間水素が存在する状態と、水素が結合したガリウム格子点位置のマグネシウムと格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差の計算結果を示す。以下、水素が結合したガリウム格子点位置のマグネシウムを、ガリウム格子点位置の水素結合マグネシウムとも記載する。
【0056】
図11(b)は、格子間マグネシウムと格子間水素が存在する状態と、ガリウム格子点位置の水素結合マグネシウムと酸化シリコン(SiO
2)中の格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差の計算結果を示す。
【0057】
図11(a)、
図11(b)において、水素結合マグネシウムは、ガリウムを置換して、ガリウムサイトに入る場合を仮定している。
【0058】
また、
図11(c)は、ガリウム格子点位置に水素結合マグネシウムが存在する状態と、ガリウム格子点位置に存在するマグネシウムから水素が離脱して水素分子(H
2)になった状態とのエネルギー差の計算結果を示す。エネルギー差の計算は、第1原理計算により行われている。
【0059】
図11(a)に示すように、格子間マグネシウムと格子間水素が存在する状態と、ガリウム格子点位置の水素結合マグネシウムと格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差は、-0.03eVである。水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーが低く安定なため、水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に入りやすいことが分かる。
【0060】
図11(b)に示すように、格子間マグネシウムと格子間水素が存在する状態と、ガリウム格子点位置の水素結合マグネシウムと酸化シリコン中の格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差は、-5.0eVである。格子間ガリウムが酸化シリコン中に入る場合、格子間ガリウムが窒化ガリウムの中に入る場合に比べ、ガリウム格子点位置の水素結合マグネシウムが更にエネルギー的に安定となる。よって、水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に更に入りやすいことが分かる。
【0061】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の中に、第1のイオン注入でマグネシウムを注入し、第2のイオン注入で窒素を注入し、更に第3のイオン注入で水素をイオン注入する。その後、第1の窒素アニールを行う。第1の熱処理により、窒化物半導体層10の中で、マグネシウムと水素が結合し、水素結合マグネシウムが形成される。そして、水素結合マグネシウムが格子点位置に入る。
【0062】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、特に、窒化物半導体層10の表面に、酸化シリコン層50を被覆層として形成する。そして、酸化シリコン層50が設けられた状態で第1の窒素アニールを行う。第1の窒素アニールは、キャップした状態でのアニール(キャップアニール)である。このキャップは、窒化物半導体中に水素を留める効果を持つ。更に、
図11(b)に示すように、キャップ中にガリウム元素を逃すことで効率よく水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に入ることになる。つまり、格子間ガリウムが酸化シリコン層50の中に入ることで、水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に更に入りやすくなる。
【0063】
なお、水素結合マグネシウムは、窒化ガリウムの中で不活性である。窒化ガリウムの中のマグネシウムを活性化させるためには、水素結合マグネシウムから水素を離脱させる必要がある。
【0064】
図11(c)に示すように、ガリウム格子点位置に水素結合マグネシウムが存在する状態と、ガリウム格子点位置に存在するマグネシウムから水素が離脱して水素分子(H
2)になった状態とのエネルギー差は、-0.3eVである。格子点位置に存在するマグネシウムから水素が離脱して水素分子(H
2)になった状態の方が、ガリウム格子点位置に水素結合マグネシウムが存在する状態よりもエネルギーが低く安定なため、マグネシウムから水素が離脱して水素分子(H
2)になりやすいことが分かる。
【0065】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の表面の、酸化シリコン層50を剥離することで、窒化物半導体層10の表面を露出させる。この状態で、第2の窒素アニールを行う。第2の熱処理は、キャップを取った上でのアニール(キャプレスアニール)となる。
【0066】
第2の窒素アニールをキャップレスアニールとしたことで、水素を窒化物半導体中に留めることが困難になる。このため、第2の窒素アニールにより、窒化物半導体層10の中の水素の外方拡散が促進される。したがって、マグネシウムから水素が離脱し、ガリウム格子点位置にマグネシウムが入った状態、すなわち、マグネシウムが活性化した状態が実現される。
【0067】
以上、第1の実施形態の半導体装置の製造方法よれば、窒化物半導体層10の中に第1のイオン注入で導電性不純物を注入し、第2のイオン注入で窒素を注入し、更に第3のイオン注入で水素を注入し、第1の熱処理(キャップアニール)及び第2の熱処理(キャップレスアニール)を行うことで、導電性不純物の活性化率を高め、低抵抗の導電性不純物領域を形成することが可能となる。
【0068】
被覆層は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を抑制し、水素結合マグネシウムの生成効率を高くする観点から、窒化シリコンであることが好ましい。窒化シリコン中でのガリウム原子の拡散のし易さは、酸化シリコン中でのガリウム原子の拡散のし易さと同等である。これは、ガリウムのシリコンとの相互作用に比べて、ガリウムの酸素及び窒素との相互作用が弱いためである。
【0069】
第1の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を抑制し、水素結合マグネシウムの生成効率を高くする観点から、水素を含む雰囲気中で行われることが好ましい。また、第1の熱処理を、ヘリウムを含む雰囲気にて行うことが好ましい。ヘリウムを含む雰囲気により、被覆層中の水素の通り道を塞ぐことで、水素の外方拡散を抑制することができる。
【0070】
第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、水素を含まない雰囲気中で行われることが好ましい。また、第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、第1の熱処理より低い圧力で行われることが好ましい。また、第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、大気圧より低い圧力で行われることが好ましい。また、第2の熱処理は、水素の窒化物半導体層10からの外方拡散を促進する観点から、被覆層を剥離した後に行うことが好ましい。
【0071】
窒化物半導体層10中の窒素空孔を低減し、マグネシウムがガリウムサイトに入ることを促進する観点から、第2のイオン注入の窒素のドーズ量は、第1のイオン注入のマグネシウのドーズ量よりも多いことが好ましい。更に、第2のイオン注入の窒素の濃度は、第1のイオン注入のマグネシウムの濃度よりも、任意の位置において多いことが好ましい。
【0072】
窒化物半導体層10中の窒素空孔を低減し、マグネシウムがガリウムサイトに入ることを促進する観点から、
図4に示すように、第2のイオン注入で形成される窒素の濃度分布が、第1のイオン注入で形成されるマグネシウムの濃度分布を包含することが好ましい。余分な窒素は、被服膜中に拡散させることができるため、窒化ガリウム中に残留して問題になることがない。むしろ、十分な量の窒素を導入することで、被服膜中の窒素密度が高くなり、エッチングし易くなるという付加的な効果がでてくる。
【0073】
窒化物半導体層10中の水素結合マグネシウムの生成効率を高くする観点から、第3のイオン注入の水素のドーズ量は、第1のイオン注入のマグネシウムのドーズ量よりも多く、第2のイオン注入の窒素のドーズ量よりも多いことが好ましい。
【0074】
窒化物半導体層10中の水素結合マグネシウムの生成効率を高くする観点から、第3のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、第1のイオン注入で形成されるマグネシウム濃度分布を包含することが好ましい。
【0075】
窒化物半導体層10中の水素結合マグネシウムの生成効率を高くする観点から、第3のイオン注入の水素のドーズ量は、1×1015cm-2以上であることが好ましい。水素はC軸方向(基板垂直方向)に拡散し易いため、1×1015cm-2以上導入することで、確実に第1のイオン注入のマグネシウムの隣接位置に拡散することが可能となる。最終的には、水素を外部に放出させてしまうため、窒化ガリウム中に残留して問題になることはない。よって、水素の残留を気にせずに、十分な量の水素を導入することができる。
【0076】
第3のイオン注入の水素のドーズ量は、1×1016cm-2以下であることが好ましい。水素は軽元素ではあるが、1×1016cm-2を超えてイオン注入するとする、基板へのダメージが微量ながら生じるおそれがある。なお、1×1016cm-2以下でも水素結合マグネシウムを十分に生成することが可能である。
【0077】
なお、窒化物半導体層10が窒化ガリウム(GaN)である場合を例に説明したが、窒化物半導体層10が、AlGaN、AlN、あるいはInGaNなどの「GaN系半導体」を含めば、窒化ガリウムと同様の作用及び効果が実現される。
【0078】
また、第1のイオン注入でマグネシウム(Mg)をイオン注入する場合を例に説明したが、第1のイオン注入で注入される元素は、マグネシウム(Mg)に限らず、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素であれば、マグネシウムと同様の作用及び効果が実現される。
【0079】
上記元素が、p型不純物である場合、すなわち、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、又は、カドミウム(Cd)である場合、不純物領域10aは、p型不純物領域となる。
図10、
図11を用いて、p型不純物のマグネシウムが活性化するまでのプロセスを説明したが、他のp型不純物に於いても同様のプロセスが成立する。
【0080】
上記元素が、n型不純物である場合、すなわち、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、又は、スズ(Sn)である場合、不純物領域10aは、n型不純物領域となる。以下、n型不純物についても、p型不純物と同様の作用が得られる点について説明する。n型不純物がシリコンである場合を例に説明する。
【0081】
図12は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図である。
図12は、シリコンが窒化ガリウム(GaN)の格子間位置に存在する状態と、シリコンが格子点位置に存在する状態とのエネルギー差の計算結果を示す。エネルギー差の計算は、第1原理計算により行われている。以下、格子間位置に存在するシリコンを格子間シリコンとも記載する。
【0082】
図12(a)は、窒化ガリウムの中に窒素空孔が存在しない場合、
図12(b)は窒化ガリウムの中に窒素空孔が存在する場合である。
図12(c)は窒化ガリウムの中にガリウム空孔が存在する場合である。
【0083】
図12(a)に示すように、窒化ガリウムの中に窒素空孔が存在しない場合、シリコンが格子点位置に存在する状態と、格子間位置に存在する状態とのエネルギー差は、+0.2eVである。シリコンが格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーが高く不安定なため、シリコンが格子点位置に入りにくいことが分かる。
【0084】
図12(a)の場合は、格子間シリコンがガリウム(Ga)と置換し、ガリウムサイトに入る場合を仮定している。置換されたガリウムは格子間位置に存在することになる。以下、格子間位置に存在するガリウムを格子間ガリウムと称する。
【0085】
シリコンを活性化するには、シリコンがガリウムサイトに入ることが必要である。
図12(a)から、シリコンがガリウムサイトに入り活性化することが、困難であることが分かる。
【0086】
例えば、シリコンをイオン注入により窒化ガリウムの中に導入する場合、イオン注入のエネルギーにより窒素サイトの窒素が離脱し、窒素空孔が形成される。
図12(b)に示すように、シリコンが窒素格子点位置(窒素サイト)に存在する状態と、格子間位置に存在する状態とのエネルギー差は、-6.4eVである。シリコンが窒素格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーが低く安定なため、シリコンが窒素格子点位置に入りやすいことが分かる。
【0087】
ただし、
図12(b)の場合、格子間シリコンが窒素(N)と置換し、窒素サイトに入るため、シリコンは活性化されない。
【0088】
なお、
図12(c)に示すように、イオン注入により窒化ガリウムの中に形成されたガリウム空孔に、格子間シリコンが入る場合は、シリコンが格子間位置に存在する状態と、ガリウム格子点位置に存在する状態とのエネルギー差が-16.7eV程度となる。この場合は、シリコンがガリウム格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーがはるかに低く安定であるため、シリコンがガリウム格子点位置に入りやすいことが分かる。
【0089】
ただし、ガリウム空孔よりも窒素空孔の方が出来やすい。したがって、イオン注入によってできる空孔の大部分は窒素空孔となる。よって、シリコンのイオン注入のみでは、シリコンの大部分は窒素格子点位置に入ることになる。
【0090】
図12(b)より、シリコンをイオン注入により窒化ガリウムの中に導入する場合、少なくとも、シリコンが窒素サイトに入り不活性となることを回避すべきことが分かる。
【0091】
第1の実施形態の半導体装置の別の製造方法では、例えば、窒化物半導体層10の中に、第1のイオン注入でシリコンを注入し、第2のイオン注入で更に窒素を注入する。このため、窒化物半導体層10の中の窒素の濃度が高くなる。したがって、注入された窒素により窒素空孔が埋められ、窒素空孔の量が低減する。よって、シリコンが窒素サイトに入り不活性となることが回避できる。
【0092】
図13は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果の説明図である。
【0093】
図13(a)は、格子間シリコンと格子間水素が存在する状態と、水素が結合したガリウム格子点位置のシリコンと格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差の計算結果を示す。以下、水素が結合したガリウム格子点位置のシリコンを、ガリウム格子点位置の水素結合シリコンとも記載する。
【0094】
図13(b)は、格子間シリコンと格子間水素が存在する状態と、ガリウム格子点位置の水素結合シリコンと酸化シリコン(SiO
2)中の格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差の計算結果を示す。
【0095】
図13(a)、
図13(b)において、水素結合シリコンは、ガリウムを置換して、ガリウムサイトに入る場合を仮定している。
【0096】
また、
図13(c)は、ガリウム格子点位置に水素結合シリコンが存在する状態と、ガリウム格子点位置に存在するシリコンから水素が離脱して水素分子(H
2)になった状態とのエネルギー差の計算結果を示す。エネルギー差の計算は、第1原理計算により行われている。
【0097】
図13(a)に示すように、格子間シリコンと格子間水素が存在する状態と、ガリウム格子点位置の水素結合シリコンと格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差は、-2.1eVである。水素結合シリコンがガリウム格子点位置に存在する状態の方が、格子間位置に存在する状態よりもエネルギーが低く安定なため、水素結合シリコンがガリウム格子点位置に入りやすいことが分かる。
【0098】
図13(b)に示すように、格子間シリコンと格子間水素が存在する状態と、ガリウム格子点位置の水素結合シリコンと酸化シリコン中の格子間ガリウムが存在する状態とのエネルギー差は、-7.1eVである。格子間ガリウムが酸化シリコン中に入る場合、格子間ガリウムが窒化ガリウムの中に入る場合に比べ、ガリウム格子点位置の水素結合シリコンが更にエネルギー的に安定となる。よって、水素結合シリコンがガリウム格子点位置に更に入りやすいことが分かる。
【0099】
以上のように、n型不純物についても、p型不純物と同様の作用が得られる。なお、
図12、
図13を用いて、n型不純物のシリコンが活性化するまでのプロセスを説明したが、他のn型不純物に於いても同様のプロセスが成立する。
【0100】
以上、第1の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0101】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層にベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を注入する第1のイオン注入を行い、窒化物半導体層に窒素(N)を注入する第2のイオン注入を行い、窒化物半導体層に水素(H)を注入する第3のイオン注入を行い、第1のイオン注入、第2のイオン注入、及び、第3のイオン注入の後に窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、第1の熱処理の後に第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う。第1の熱処理は水素を含む雰囲気中で行われ、第2の熱処理は水素を含まない雰囲気中か、又は、第1の熱処理の水素分圧よりも低い水素分圧の雰囲気中で行われる。
【0102】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、第2の熱処理の前に被覆層を剥離しない点、及び、第1の熱処理の条件と第2の熱処理の条件とが異なる点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
【0103】
図14は、第2の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図である。第2の実施形態の半導体装置は、p型不純物領域を有する窒化物半導体層である。
【0104】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層準備ステップS201、マグネシウムイオン注入ステップS202(第1のイオン注入)、窒素イオン注入ステップS203(第2のイオン注入)、水素イオン注入ステップS204(第3のイオン注入)、酸化シリコン層形成ステップS205(被覆層形成)、水素アニールステップS206(第1の熱処理)、窒素アニールステップS207(第2の熱処理)を備える。
【0105】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法では、第1の熱処理の後に、被覆層を剥離せずに、第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う。
【0106】
被覆層の形成までは、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と同様である。
【0107】
次に、水素アニールを行う(S206)。水素アニールは、例えば、水素を含む雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。水素アニールは、第1の熱処理の一例である。水素アニールの際の雰囲気中の水素分圧は、例えば、100%である。
【0108】
次に、窒素アニールを行う(S207)。窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。窒素アニールは、第2の熱処理の一例である。
【0109】
第2の熱処理は、水素を含まない雰囲気中か、又は、第1の熱処理よりも低い水素分圧の雰囲気中で行われる。第2の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0110】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の表面に、酸化シリコン層50を被覆層として形成する。そして、酸化シリコン層50が設けられた状態で水素アニールを行う。水素アニールは、キャップした状態でのアニール(キャップアニール)である。このキャップは、窒化物半導体中に水素を留める効果を持つ。特に、水素を含む雰囲気中で行うことにより、窒化物半導体中から水素が外方拡散することが抑制される。
【0111】
また、第1の実施形の半導体装置の製造方法と同様、キャップ中にガリウム元素を逃すことで効率よく水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に入ることになる。つまり、格子間ガリウムが酸化シリコン層50の中に入ることで、水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に更に入りやすくなる。
【0112】
なお、水素結合マグネシウムは、窒化ガリウムの中で不活性である。窒化ガリウムの中のマグネシウムを活性化させるためには、水素結合マグネシウムから水素を離脱させる必要がある。
【0113】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法では、第2の熱処理を、水素を含まない雰囲気中か、又は、第1の熱処理の水素分圧よりも低い水素分圧の雰囲気中で行う。したがって、窒化物半導体層10の中の水素の外方拡散が促進される。よって、水素結合マグネシウムから水素が離脱し、ガリウム格子点位置にマグネシウムが入った状態、すなわち、マグネシウムが活性化した状態が実現される。
【0114】
以上、第2の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、第1の実施形態と同様、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0115】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層にベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を注入する第1のイオン注入を行い、窒化物半導体層に窒素(N)を注入する第2のイオン注入を行い、窒化物半導体層に水素(H)を注入する第3のイオン注入を行い、第1のイオン注入、第2のイオン注入、及び、第3のイオン注入の後に窒化物半導体層の表面に被覆層を形成し、被覆層を形成した後に第1の熱処理を行い、第1の熱処理の後に第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う。第2の熱処理は第1の熱処理の圧力よりも低い圧力で行われる。
【0116】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法は、第2の熱処理の前に被覆層を剥離しない点、及び、第1の熱処理の条件と第2の熱処理の条件とが異なる点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。また、第2の熱処理は第1の熱処理の圧力よりも低い圧力で行われる点で、第2の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。以下、第1の実施形態及び第2の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
【0117】
図15は、第3の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図である。第3の実施形態の半導体装置は、p型不純物領域を有する窒化物半導体層である。
【0118】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層準備ステップS201、マグネシウムイオン注入ステップS202(第1のイオン注入)、窒素イオン注入ステップS203(第2のイオン注入)、水素イオン注入ステップS204(第3のイオン注入)、酸化シリコン層形成ステップS205(被覆層形成)、第1の窒素アニールステップS208(第1の熱処理)、第2の窒素アニールステップS209(第2の熱処理)を備える。
【0119】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法では、第1の熱処理の後に、被覆層を剥離せずに、第1の熱処理の条件と異なる条件の第2の熱処理を行う。
【0120】
被覆層の形成までは、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と同様である。
【0121】
次に、第1の窒素アニールを行う(S208)。第1の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第1の窒素アニールは、例えば、大気圧で行われる。第1の窒素アニールは、第1の熱処理の一例である。
【0122】
第1の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、水素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0123】
次に、第2の窒素アニールを行う(S209)。第2の窒素アニールは、第1の窒素アニールよりも低い圧力で行われる。第2の窒素アニールは、例えば、大気圧より低い圧力で行われる。第2の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第2の窒素アニールは、第2の熱処理の一例である。
【0124】
第2の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。第2の熱処理は、例えば、水素を含まない雰囲気中で行われる。
【0125】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法では、窒化物半導体層10の表面に、酸化シリコン層50を被覆層として形成する。そして、酸化シリコン層50が設けられた状態で第1の窒素アニールを行う。第1の窒素アニールは、キャップした状態でのアニール(キャップアニール)である。このキャップは、窒化物半導体中に水素を留める効果を持つ。
【0126】
また、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と同様、キャップ中にガリウム元素を逃すことで効率よく水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に入ることになる。つまり、格子間ガリウムが酸化シリコン層50の中に入ることで、水素結合マグネシウムがガリウム格子点位置に更に入りやすくなる。
【0127】
なお、水素結合マグネシウムは、窒化ガリウムの中で不活性である。窒化ガリウムの中のマグネシウムを活性化させるためには、水素結合マグネシウムから水素を離脱させる必要がある。
【0128】
第3の実施形態の半導体装置の製造方法では、第2の熱処理を、第1の熱処理よりも低い圧力で行う。例えば、第1の熱処理を大気圧で行い、第2の熱処理を大気圧よりも低い圧力で行う。
【0129】
したがって、窒化物半導体層10の中の水素の外方拡散が促進される。よって、水素結合マグネシウムから水素が離脱し、ガリウム格子点位置にマグネシウムが入った状態、すなわち、マグネシウムが活性化した状態が実現される。
【0130】
以上、第3の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、第1の実施形態と同様、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0131】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の半導体装置の製造方法は、第1のイオン注入、第2のイオン注入、及び、第3のイオン注入の前に、窒化物半導体層にトレンチを形成し、第2の熱処理の後に、トレンチの中にゲート絶縁層を形成し、ゲート絶縁層を形成した後に、トレンチの中にゲート電極を形成し、第1のイオン注入、第2のイオン注入、及び、第3のイオン注入はトレンチの底面に行われる点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なっている。また、第4の実施形態の半導体装置の製造方法は、第2の熱処理の後に、窒化物半導体層の表面に、金属層を形成する点で異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部、記述を省略する。
【0132】
図16は、第4の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、GaN系半導体を用いたMIS(Metal Insulator Semiconductor)構造のHEMT(High Electron Mobility Transistor)100である。HEMT100は、ゲート電極がトレンチ(リセス)内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
【0133】
HEMT100は、窒化物半導体層10、ゲート絶縁層16、ゲート電極18、ソース電極20(金属層)、ドレイン電極22(金属層)、層間絶縁層30を備える。
【0134】
窒化物半導体層10は、不純物領域10a、不純物領域10b、基板11、バッファ層12、チャネル層14、バリア層15、トレンチ40を備える。不純物領域10aはp型不純物領域、不純物領域10bはn型不純物領域である。
【0135】
基板11は、例えば、シリコン(Si)で形成される。シリコン以外にも、例えば、サファイア(Al2O3)や炭化珪素(SiC)を適用することも可能である。
【0136】
基板11上に、バッファ層12が設けられる。バッファ層12は、基板11とチャネル層14との間の格子不整合を緩和する機能を備える。バッファ層12は、例えば、窒化アルミニウムガリウム(AlWGa1-WN(0<W≦1))の多層構造で形成される。
【0137】
チャネル層14は、バッファ層12上に設けられる。チャネル層14は電子走行層とも称される。チャネル層14は、例えば、アンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlXGa1-XN(0≦X<1))である。より具体的には、例えば、アンドープの窒化ガリウム(GaN)である。チャネル層14の膜厚は、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
【0138】
バリア層15は、チャネル層14上に設けられる。バリア層15は電子供給層とも称される。バリア層15のバンドギャップは、チャネル層14のバンドギャップよりも大きい。バリア層15は、例えば、アンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlYGa1-YN(0<Y≦1、X<Y))である。より具体的には、例えば、アンドープのAl0.25Ga0.75Nである。バリア層15の膜厚は、例えば、10nm以上100nm以下である。
【0139】
チャネル層14とバリア層15との間は、ヘテロ接合界面となる。ヘテロ接合界面に2次元電子ガス(2DEG)が形成されHEMT100のキャリアとなる。
【0140】
ソース電極20は、チャネル層14及びバリア層15の上に設けられる。ソース電極20は、チャネル層14及びバリア層15に電気的に接続される。ソース電極20は、例えば、バリア層15の表面に設けられる。
【0141】
ソース電極20は、例えば、金属電極である。ソース電極20は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。ソース電極20と、バリア層15との間はオーミックコンタクトであることが望ましい。
【0142】
ドレイン電極22は、チャネル層14及びバリア層15の上に設けられる。ドレイン電極22は、チャネル層14及びバリア層15に電気的に接続される。ドレイン電極22は、例えば、バリア層15の表面に設けられる。
【0143】
ドレイン電極22は、例えば、金属電極である。ドレイン電極22は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。ドレイン電極22と、バリア層15との間はオーミックコンタクトであることが望ましい。
【0144】
ソース電極20とドレイン電極22との距離は、例えば、5μm以上30μm以下である。
【0145】
なお、ソース電極20及びドレイン電極22は、チャネル層14に接する構造とすることも可能である。
【0146】
トレンチ40は、ソース電極20とドレイン電極22の間に設けられる。
【0147】
ゲート電極18の少なくとも一部は、トレンチ40の中に形成される。ゲート電極18は、バリア層15の上に設けられる。ゲート電極18は、ソース電極20とドレイン電極22の間に設けられる。
【0148】
ゲート電極18は、例えば、導電性不純物を含む多結晶シリコンである。また、ゲート電極18は、例えば、金属である。ゲート電極18は、例えば、窒化チタン(TiN)である。
【0149】
ゲート絶縁層16の少なくとも一部は、トレンチ40内に形成される。ゲート絶縁層16は、チャネル層14とゲート電極18との間に位置する。ゲート絶縁層16は、トレンチ40の底面とゲート電極18との間、及び、トレンチ40の側面とゲート電極18との間に位置する。
【0150】
ゲート絶縁層16は、ゲート電極18とドレイン電極22との間のバリア層15上にも形成される。ゲート絶縁層16は、ゲート電極18とソース電極20との間のバリア層15上にも形成される。
【0151】
ゲート絶縁層16は、例えば、酸化物又は酸窒化物である。ゲート絶縁層16は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、又は、酸窒化アルミニウムである。
【0152】
ゲート絶縁層16の厚さは、例えば、20nm以上100nm以下である。ゲート絶縁層16の酸化シリコン膜換算膜厚(EOT:Equivalent Oxide Thickness)は、例えば、20nm以上40nm以下である。
【0153】
トレンチ40の底面はチャネル層14の中に位置する。ゲート絶縁層16及びゲート電極18は、トレンチ40の中に形成される。トレンチ40の底面がチャネル層14内に位置することにより、ゲート電極18の下の2次元電子ガスが消滅する。したがって、ノーマリーオフ動作の実現が可能となる。
【0154】
不純物領域10aは、トレンチ40の下のチャネル層14の中に位置する。不純物領域10aは、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群から選ばれる少なくとも一つのp型不純物を含む。不純物領域10aは、p型不純物領域である。
【0155】
不純物領域10aのp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下である。
【0156】
不純物領域10aは、トレンチ40と不純物領域10aとの間のチャネル層14のポテンシャルを持ち上げる。不純物領域10aは、HEMT100の閾値電圧を高くする機能を有する。
【0157】
不純物領域10bは、ソース電極20の直下、及び、ドレイン電極22の直下のチャネル層14及びバリア層15の中に設けられる。ソース電極20及びドレイン電極22は、不純物領域10bに接する。不純物領域10bは、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つのn型不純物を含む。不純物領域10bは、n型不純物領域である。
【0158】
不純物領域10bのn型不純物濃度は、例えば、1×1019cm-3以上1×1022cm-3以下である。
【0159】
不純物領域10bは、活性化された高濃度のn型不純物を含む。したがって、不純物領域10bは、ソース電極20及びドレイン電極22のコンタクト抵抗を低減し、オーミックコンタクトを実現する機能を有する。
【0160】
図17は、第4の実施形態の半導体装置の製造方法の製造フローを示す図である。
【0161】
【0162】
第4の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層準備ステップS301、トレンチ形成ステップS302、マグネシウムイオン注入ステップS303(第1のイオン注入)、窒素イオン注入ステップS304(第2のイオン注入)、シリコンイオン注入ステップS305(第1のイオン注入)、窒素イオン注入ステップS306(第2のイオン注入)、水素イオン注入ステップS307(第3のイオン注入)、酸化シリコン層形成ステップS308(被覆層形成)、第1の窒素アニールステップS309(第1の熱処理)、酸化シリコン層剥離ステップS310(被覆層剥離)、第2の窒素アニールステップS311(第2の熱処理)、ゲート絶縁層形成ステップS312、ゲート電極形成ステップS313、ソース電極・ドレイン電極形成ステップS314(金属層形成)を備える。
【0163】
最初に、窒化物半導体層10を準備する(S301:
図18)。窒化物半導体層10は、基板11、バッファ層12、チャネル層14、バリア層15を有する。
【0164】
次に、窒化物半導体層10の表面に、公知の膜成長法を用いて、マスク材52を形成する。マスク材52は、例えば、酸化シリコンである。
【0165】
次に、マスク材52を公知のリソグラフィ法及びドライエッチング法を用いてパターニングする。次に、マスク材52をマスクに、公知のドライエッチング法を用いてトレンチ40を形成する(S302:
図19)。
【0166】
次に、マスク材52をマスクにトレンチ40の底面に、公知のイオン注入法を用いて、マグネシウム(Mg)をイオン注入する(S303:
図20)。マグネシウムのイオン注入は、第1のイオン注入に相当する。第1のイオン注入で注入される元素は、マグネシウム(Mg)に限らず、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及びカドミウム(Cd)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素(導電性不純物)であれば構わない。
【0167】
マグネシウムをイオン注入することにより、トレンチ40の下のチャネル層14に不純物領域10aが形成される。例えば、マグネシウムは、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0168】
マグネシウムのドーズ量は、例えば、1×1011cm-2以上1×1015cm-2以下である。
【0169】
次に、マスク材52をマスクにトレンチ40の底面に、公知のイオン注入法を用いて窒素(N)をイオン注入する(S304:
図21)。窒素のイオン注入は、第2のイオン注入に相当する。
【0170】
窒素は、不純物領域10aに導入される。例えば、窒素は、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0171】
窒素のドーズ量は、例えば、マグネシウムのドーズ量よりも多い。窒素のドーズ量は、例えば、1×1011cm-2以上1×1015cm-2以下である。窒素のドーズ量は、マグネシウのドーズ量よりも、イオン注入された各位置においても、多いことが好ましい。
窒素の濃度分布が、マグネシウムの濃度分布を包含することが好ましい。
【0172】
次に、公知のエッチング法を用いてマスク材52を剥離する。次に、トレンチ40を覆うパターニングされたマスク材54を、例えば、公知のリソグラフィ法を用いて形成する。マスク材54は、例えば、フォトレジストである。
【0173】
次に、マスク材54をマスクに窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いて、シリコン(Si)をイオン注入する(S305:
図22)。シリコンのイオン注入は、第1のイオン注入に相当する。第1のイオン注入で注入される元素は、シリコン(Si)に限らず、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素(導電性不純物)であれば構わない。
【0174】
シリコンをイオン注入することにより、チャネル層14及びバリア層15に不純物領域10bが形成される。例えば、シリコンは、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0175】
シリコンのドーズ量は、例えば、1×1011cm-2以上1×1015cm-2以下である。
【0176】
次に、マスク材54をマスクに窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いて窒素(N)をイオン注入する(S306:
図23)。窒素のイオン注入は、第2のイオン注入に相当する。
【0177】
窒素は、不純物領域10bに導入される。例えば、窒素は、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0178】
窒素のドーズ量は、例えば、シリコンのドーズ量よりも多い。窒素のドーズ量は、例えば、1×1011cm-2以上1×1015cm-2以下である。窒素のドーズ量は、シリコンのドーズ量よりも、イオン注入された各位置においても、多いことが好ましい。窒素の濃度分布が、シリコンの濃度分布を包含することが好ましい。
【0179】
次に、公知のエッチング法を用いてマスク材52を剥離する。次に、窒化物半導体層10の表面に、公知のイオン注入法を用いて水素(H)を、イオン注入する(S307:
図24)。水素のイオン注入は、第3のイオン注入に相当する。
【0180】
水素は、不純物領域10a及び不純物領域10bに導入される。例えば、水素は、異なるイオン注入エネルギーで複数回に分けてイオン注入されても構わない。
【0181】
第3のイオン注入の水素のドーズ量は、例えば、第1のイオン注入のマグネシウムのドーズ量よりも多い。第3のイオン注入の水素のドーズ量は、マグネシウムのドーズ量よりも、イオン注入された各位置においても、多いことが好ましい。第3のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、第1のイオン注入で形成されるマグネシウム濃度分布を包含することが好ましい。
【0182】
第3のイオン注入の水素のドーズ量は、例えば、第1のイオン注入のシリコンのドーズ量よりも多い。第3のイオン注入の水素のドーズ量は、シリコンのドーズ量よりも、イオン注入された各位置においても、多いことが好ましい。第3のイオン注入で形成される水素の濃度分布が、第1のイオン注入で形成されるシリコン濃度分布を包含することが好ましい。
【0183】
水素のドーズ量は、例えば、1×1015cm-2以上1×1016cm-2以下である。
【0184】
次に、公知の膜成長法を用いて、窒化物半導体層10の表面に、酸化シリコン層50を形成する(S308:
図25)。酸化シリコン層50は、被覆層の一例である。被覆層は、酸化シリコンに限られない。
【0185】
被覆層は、例えば、絶縁体である。被覆層は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、又は、窒化アルミニウムである。
【0186】
被覆層は、例えば、導電体又は半導体である。被覆層は、例えば、多結晶シリコンである。
【0187】
次に、第1の窒素アニールを行う(S309:
図26)。第1の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第1の窒素アニールは、第1の熱処理の一例である。
【0188】
第1の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、水素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。
【0189】
次に、公知のウェットエッチング法を用いて、窒化物半導体層10の表面の酸化シリコン層50を剥離する(S310:
図27)。窒化物半導体層10の表面が露出する。
【0190】
次に、第2の窒素アニールを行う(S311:
図28)。第2の窒素アニールは、例えば、窒素ガス雰囲気中で、950℃以上1250℃以下の温度条件で行う。第2の窒素アニールは、第2の熱処理の一例である。
【0191】
第2の熱処理は、例えば、アルゴン、窒素、又は、ヘリウムを含む非酸化性雰囲気中で行われる。第2の熱処理は、例えば、水素を含まない雰囲気中で行われる。
【0192】
次に、公知の膜成長法を用いてゲート絶縁層16を形成する(S312:
図29)。ゲート絶縁層16は、トレンチ40の中に形成される。
【0193】
次に、公知の膜成長法、リソグラフィ法、ドライエッチング法を用いてゲート電極18を形成する(S313:
図30)。ゲート電極18は、トレンチ40の中に形成される。
【0194】
次に、公知の膜成長法を用いて、ソース電極20及びドレイン電極22が形成される(S314:
図31)。ソース電極20及びドレイン電極22は、金属層の一例である。次に、公知の膜成長法を用いて、ゲート電極18、ソース電極20、及び、ドレイン電極22の上に層間絶縁層30を形成する。
【0195】
以上の製造方法により、不純物領域10a及び不純物領域10bを有するHEMT100が形成される。不純物領域10aは、マグネシウムが活性化されたp型不純物領域となる。不純物領域10bは、シリコンが活性化されたn型不純物領域となる。
【0196】
以上、第4の実施形態の半導体装置の製造方法によれば、第1の実施形態と同様、窒化物半導体にイオン注入法を用いて低抵抗の不純物領域を局所的に形成する半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0197】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の半導体装置は、第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に位置し、第1の窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きい第2の窒化物半導体層と、第2の窒化物半導体層の上に位置し、第2の窒化物半導体層に電気的に接続された第1の電極と、第2の窒化物半導体層の上に位置し、第2の窒化物半導体層に電気的に接続された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に位置し、第1の側面と、第2の側面と、第1の側面と第2の側面との間の底面とを有し、第1の側面及び第2の側面は底面に対して傾斜し、底面が第1の窒化物半導体層の中に位置するトレンチと、トレンチの中に位置するゲート電極と、底面とゲート電極との間、及び、第1の側面及び第2の側面とゲート電極との間に位置するゲート絶縁層と、底面とゲート絶縁層との間、及び、第1の側面及び第2の側面とゲート絶縁層との間に位置し、第1の窒化物半導体層及び第2の窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きい第3の窒化物半導体層と、を備え、第1の窒化物半導体層は、第1の側面及び第2の側面の少なくともいずれか一方の側方に、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む第1の領域を有する。
【0198】
第5の実施形態の半導体装置は、第3の窒化物半導体層及び第1の領域を備える点で、第4の実施形態の半導体装置と異なる。以下、第1ないし第4の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
【0199】
図32は、第5の実施形態の半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、GaN系半導体を用いたMIS構造のHEMT200である。HEMT200は、ゲート電極がトレンチ(リセス)内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
【0200】
HEMT200は、窒化物半導体層10、ゲート絶縁層16、ゲート電極18、ソース電極20(第1の電極)、ドレイン電極22(第2の電極)、第1の層間絶縁層31、第2の層間絶縁層32、第1の窒化アルミニウム層61(第3の窒化物半導体層)を備える。
【0201】
窒化物半導体層10は、不純物領域10b、不純物領域10x、基板11、バッファ層12、チャネル層14(第1の窒化物半導体層)、バリア層15(第2の窒化物半導体層)、トレンチ40、第2の窒化アルミニウム層62(第4の窒化物半導体層)を備える。不純物領域10b(第2の領域)はn型不純物領域、不純物領域10x(第1の領域)はp型不純物領域である。トレンチ40は、第1の側面40a、第2の側面40b、及び、底面40cを有する。
【0202】
基板11は、例えば、シリコン(Si)で形成される。シリコン以外にも、例えば、サファイア(Al2O3)や炭化珪素(SiC)を適用することも可能である。
【0203】
基板11上に、バッファ層12が設けられる。バッファ層12は、基板11とチャネル層14との間の格子不整合を緩和する機能を備える。バッファ層12は、例えば、窒化アルミニウムガリウム(AlWGa1-WN(0<W≦1))の多層構造で形成される。
【0204】
チャネル層14は、バッファ層12上に設けられる。チャネル層14は電子走行層とも称される。チャネル層14は、例えば、アンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlXGa1-XN(0≦X<1))である。より具体的には、例えば、アンドープの窒化ガリウム(GaN)である。チャネル層14の膜厚は、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
【0205】
バリア層15は、チャネル層14上に設けられる。バリア層15は電子供給層とも称される。バリア層15のバンドギャップは、チャネル層14のバンドギャップよりも大きい。バリア層15は、例えば、アンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlYGa1-YN(0<Y≦1、X<Y))である。より具体的には、例えば、アンドープのAl0.25Ga0.75Nである。バリア層15の膜厚は、例えば、10nm以上100nm以下である。
【0206】
第2の窒化アルミニウム層62は、チャネル層14とバリア層15との間に設けられる。第2の窒化アルミニウム層62のバンドギャップは、チャネル層14のバンドギャップ及びバリア層15のバンドギャップよりも大きい。第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は、例えば、0.5nm以上30nm以下である。
【0207】
第2の窒化アルミニウム層62とチャネル層14との間は、ヘテロ接合界面となる。ヘテロ接合界面に2次元電子ガス(2DEG)が形成され、HEMT200のキャリアとなる。第2の窒化アルミニウム層62の膜厚が厚いほど、2DEG量が大きくなるので、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は厚い方が好ましい。一方、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚が厚いほど2DEGへの障壁が増すため、2DEGへのオーミックコンタクトが取りにくくなる。よって、例えば、0.5nmから3nm程度の第2の窒化アルミニウム層62を導入することが考えられる。
【0208】
例えば、第1ないし第3の実施形態のn型不純物領域の形成方法により、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚が厚い方が、2DEGへのオーミックコンタクトが取り易くなる。このため、第1ないし第3の実施形態のn型不純物領域の形成方法を用いない場合よりも、厚い第2の窒化アルミニウム層62を適用することが可能となっている。
【0209】
第2の窒化アルミニウム層62を厚くすることで2DEGへのオーミックコンタクトが取り易くなる機構は、以下の2点である。1点目は、第2の窒化アルミニウム層62を含むように局所的なn型不純物領域を作っているためである。2点目は、厚い第2の窒化アルミニウム層62を導入することで、大量の2DEGが湧き、第2の窒化アルミニウム層62を含む局所的なn型不純物領域内部でも、2DEGが湧いているためである。上記2つの理由により、第2の窒化アルミニウム層62が厚い方が、オーミックコンタクトが取り易くなっている。
【0210】
第1ないし第3の実施形態のn型不純物領域の形成方法を用いない場合は、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は、0.5nm以上3nm以下程度が好ましい。しかし、第1ないし第3の実施形態のn型不純物領域の形成方法を用いる場合は、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は3nm以上が好ましく、5nm以上がより好まく、10nm以上が更に好ましい。
【0211】
第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は厚いほど好ましい。しかし、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚が10nmを超えると、次第に第2の窒化アルミニウム層62のエピタキシャル成長が難しくなり、界面欠陥が入り始める。第2の窒化アルミニウム層62の厚さが25nmを超えると、界面欠陥が顕著になり、30nm以上で耐圧低下が起こり始める。よって、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は、30nm以下であることが好ましい。
【0212】
以上から、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は、3nm以上30nm以下であることが好ましく、5nm以上30nm以下であることがより好ましく、10nm以上25nm以下が更に好ましい。第2の窒化アルミニウム層62の膜厚は、典型的には10nmである。
【0213】
第1ないし第3の実施形態のn型不純物領域の形成方法を用いない場合、低抵抗素子を実現するために、例えば、1nm程度の膜厚の第2の窒化アルミニウム層62を導入する。この場合、例えば、第2の窒化アルミニウム層62は2DEGへのコンタクトを阻害する障壁となる。このため、例えば、第2の窒化アルミニウム層62をエッチングで取り除き、2DEGの側面からコンタクトをとる。この場合、2DEGへのコンタクト面が線状になってしまいコンタクト面積が小さくなる。したがって、低抵抗コンタクトを形成することが困難である。
【0214】
第1ないし第3の実施形態のn型不純物領域の形成方法を用いれば、第2の窒化アルミニウム層62によって形成される2DEGを含む形でn型不純物領域を形成することが可能である。この方法により、2DEGに電子をより多く与えることができる。また、2DEG全体に面状にコンタクトを形成することができる。その結果、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚を厚くしても低抵抗コンタクトが取れるようになる。
【0215】
さらに、第2の窒化アルミニウム層62の膜厚を厚くすると、2DEG量を増やすことも可能となり、コンタクト抵抗が更に小さくなる。したがって、より低抵抗の素子が実現する。
【0216】
第1ないし第3の実施形態のn型不純物領域の形成方法を用いない場合は、ソース・ドレインへの低抵抗コンタクトの実現と、低抵抗素子の実現とは、トレードオフの関係にあった。しかし、窒化アルミニウム層62の膜厚を厚くしても低抵抗コンタクトが取れるようになったために、上記トレードオフ関係が解消し、低抵抗コンタクトと低抵抗素子を同時に実現することが可能となる。
【0217】
第2の窒化アルミニウム層62は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む。
【0218】
ソース電極20は、バリア層15の上に設けられる。ソース電極20は、チャネル層14及びバリア層15に電気的に接続される。ソース電極20は、例えば、バリア層15の表面に設けられる。
【0219】
ソース電極20は、例えば、金属電極である。ソース電極20は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。ソース電極20と、バリア層15との間はオーミックコンタクトであることが望ましい。
【0220】
ドレイン電極22は、バリア層15の上に設けられる。ドレイン電極22は、チャネル層14及びバリア層15に電気的に接続される。ドレイン電極22は、例えば、バリア層15の表面に設けられる。
【0221】
ドレイン電極22は、例えば、金属電極である。ドレイン電極22は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。ドレイン電極22と、バリア層15との間はオーミックコンタクトであることが望ましい。
【0222】
ソース電極20とドレイン電極22との距離は、例えば、5μm以上30μm以下である。
【0223】
トレンチ40は、ソース電極20とドレイン電極22の間に設けられる。トレンチ40は、第1の側面40a、第2の側面40b、底面40cを有する。底面40cは、第1の側面40aと第2の側面40bとの間に位置する。
【0224】
第1の側面40a及び第2の側面40bは、底面40cに対して傾斜する。第1の側面40a及び第2の側面40bは、窒化物半導体層10の表面に対して傾斜する。トレンチ40は、順テーパ形状を有する。
【0225】
第1の側面40a及び第2の側面40bの、底面40c又は窒化物半導体層10の表面に対する傾斜角は、例えば、30度以上80度以下である。トレンチ40のテーパ角は、例えば、30度以上80度以下である。
【0226】
ゲート電極18の少なくとも一部は、トレンチ40の中に形成される。ゲート電極18は、ソース電極20とドレイン電極22の間に設けられる。
【0227】
ゲート電極18は、例えば、導電性不純物を含む多結晶シリコンである。また、ゲート電極18は、例えば、金属である。また、ゲート電極18は、例えば、窒化チタン(TiN)である。
【0228】
ゲート絶縁層16の少なくとも一部は、トレンチ40内に形成される。ゲート絶縁層16は、チャネル層14とゲート電極18との間に位置する。ゲート絶縁層16は、トレンチ40の第1の側面40aとゲート電極18との間、トレンチ40の第2の側面40bとゲート電極18との間、及び、トレンチ40の底面40cとゲート電極18との間に位置する。
【0229】
ゲート絶縁層16は、ゲート電極18とドレイン電極22との間の第1の層間絶縁層31上にも形成される。ゲート絶縁層16は、ゲート電極18とソース電極20との間のバリア層15上にも形成される。
【0230】
ゲート絶縁層16は、例えば、酸化物又は酸窒化物である。ゲート絶縁層16は、例えば、酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸窒化シリコン(SiON)、酸窒化アルミニウム(AlON)、又は、酸窒化アルミニウムシリケート(SiAlON)である。これらの積層構造(例えば、SiAlON/SiO2)でもよい。
【0231】
ゲート絶縁層16の厚さは、例えば、20nm以上100nm以下である。ゲート絶縁層16の酸化シリコン膜換算膜厚(EOT:Equivalent Oxide Thickness)は、例えば、20nm以上40nm以下である。
【0232】
トレンチ40の底面40cはチャネル層14の中に位置する。ゲート絶縁層16及びゲート電極18は、トレンチ40の中に形成される。
【0233】
第1の窒化アルミニウム層61の少なくとも一部は、トレンチ40内に形成される。第1の窒化アルミニウム層61は、トレンチ40の第1の側面40aとゲート絶縁層16との間、トレンチ40の第2の側面40bとゲート絶縁層16との間、及び、トレンチ40の底面40cとゲート絶縁層16との間に位置する。
【0234】
第1の窒化アルミニウム層61のバンドギャップは、チャネル層14のバンドギャップ及びバリア層15のバンドギャップよりも大きい。第1の窒化アルミニウム層61の膜厚は、例えば、0.5nm以上30nm以下である。
【0235】
第1の窒化アルミニウム層61は、トレンチ内部では結晶性を持ち、第1の層間絶縁層31上ではアモルファス構造であることが好ましい。2DEGを大量に湧かせるためには、第1の窒化アルミニウム層61の膜厚は厚い方が良い。しかし、第1の窒化アルミニウム層61の上にはゲート絶縁層16が接触するため、厚い窒化アルミニウム層61を導入すると、界面に電荷トラップが発生する。よって、第1の窒化アルミニウム層61の膜厚は0.5nm以上3nm以下が好ましい。
【0236】
例えば、第1の窒化アルミニウム層61とゲート絶縁層16との間に、アモルファス層が設けられる。アモルファス層の材料は、例えば、第1の窒化アルミニウム層61及びゲート絶縁層16の材料と異なる。アモルファス層の化学組成は、例えば、第1の窒化アルミニウム層61及びゲート絶縁層16の化学組成と異なる。第1の窒化アルミニウム層61とゲート絶縁層16が接触した界面に、AlON、SiON、SiAlONなどのアモルファス層を反応生成することで電荷トラップを抑制することができる。例えば、最初に、5nm程度の窒化アルミニウム(AlN)を成膜し、その上に30nm程度の酸化シリコン(SiO2)を成膜し、アニールする。この方法により、界面での元素の相互拡散が起こり、結晶性AlN(2nm)/アモルファスSiAlON(5nm程度)/アモルファスSiO2(28nm程度)の積層構造が生成される。
【0237】
第1の窒化アルミニウム層61とチャネル層14との間は、ヘテロ接合界面となる。ヘテロ接合界面に2次元電子ガス(2DEG)が形成されHEMT200のキャリアとなる。
【0238】
トレンチ40の第1の側面40aに接する結晶性の第1の窒化アルミニウム層61とチャネル層14との間は、ヘテロ接合界面となる。ヘテロ接合界面に傾斜トレンチによるC軸成分が残留している。このため、ヘテロ接合界面に2次元電子ガス(2DEG)が形成されHEMT200のキャリアとなる。
【0239】
トレンチ40の第2の側面40bに接する結晶性の第1の窒化アルミニウム層61とチャネル層14との間も同様に、ヘテロ接合界面となる。ヘテロ接合界面に傾斜トレンチによるC軸成分が残留している。このため、ヘテロ接合界面に2次元電子ガス(2DEG)が形成されHEMT200のキャリアとなる。
【0240】
すなわち、トレンチ40の底面40c、第1の側面40a,第2の側面40bには2DEGが形成される。したがって、第1の窒化アルミニウム層61を設けない場合に比較して、高移動度の界面が形成される。よって、HEMT200の低抵抗化、及び、高速動作が可能となる。
【0241】
トレンチ40の傾斜角は2DEGを湧かせるために、順テーパである(0度より大きく、90度より小さい)。トレンチ40の傾斜角は、傾斜が浅い程、2DEGを湧かせることができる。このため、トレンチ40の傾斜角は80度以下であることが好ましく、C軸分極の半分程度の成分が残留する50度以下であることがより好ましい。
【0242】
トレンチ40の斜め成分を生かすためには、チャネル層14内部に、トレンチ40を少なくとも30nm以上掘り込むことが好ましく、50nm以上彫り込むことがより好ましく、100nm以上掘り込むことが更に好ましい。
【0243】
トレンチ40の角度が浅くなると、傾斜部分のチャネル長が長くなる。このため、トレンチ40の傾斜角(順テーパ角)は30度以上が好ましく、40度以上がより好ましい。典型的には、トレンチ40のチャネル層14内部への100nmの彫り込みと、トレンチの45度の傾斜角を採用する。
【0244】
順テーパをつけずに、例えば、90度から逆テーパにすることで、2DEGを分離し、閾値電圧を上げることもできる。しかし、この場合、高い移動度が確保できず、高速動作には向かない。また、MOS界面をp型にした、反転動作をする素子も高速動作には向かない。
【0245】
第5の実施形態のHEMT200では、例えば、45度程度の順テーパ角をトレンチ40につけることで、高移動度による低オン抵抗、高速動作を確保できる。加えて、例えば、第1ないし第3の実施形態のイオン注入による局所的なp型不純物領域の形成方法を用いて、チャネル層14のポテンシャルを上げることで、閾値電圧を上げることが可能となる。
【0246】
不純物領域10xは、トレンチ40の側方のチャネル層14の中に位置する。不純物領域10xは、トレンチ40の第2の側面40bの側方に位置する。不純物領域10xの上端は、トレンチ40の底面40cよりも浅い位置にある。
【0247】
不純物領域10xは、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群から選ばれる少なくとも一つのp型不純物を含む。不純物領域10aは、p型不純物領域である。
【0248】
不純物領域10xのp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下である。
【0249】
不純物領域10xは、トレンチ40と不純物領域10xとの間のチャネル層14のポテンシャルを持ち上げる。不純物領域10xは、HEMT200の閾値電圧を高くする機能を有する。チャネル部分をp型にした反転MOSとは異なり、HEMT200は、界面の2DEGを用いるため、高移動度であり、高速動作が可能である。
【0250】
不純物領域10xは、例えば、第1の側面40a及び第2の側面40bの少なくともいずれか一方の側方に設けられる。不純物領域10xは、例えば、第1の側面40aの側方のみに位置しても構わない。また、不純物領域10xは、例えば、第1の側面40a及び第2の側面40bの両方の側方に位置しても構わない。
【0251】
第2の側面40b側は、高電圧のかかるドレイン側であり、第1の側面40a側に比較して、閾値電圧が低下する傾向(Drain-induced barrier lowering、DIBL)がある。第2の側面40b側に不純物領域10xを配置することで、DIBLを抑制することができる。また、例えば、第1の側面40a側に不純物領域10xを配置することで、DIBLの起こらない側の閾値電圧を調整することができる。したがって、効率よく、閾値電圧を向上させることができる。HEMT200は、底面40cの2DEGは保ったまま、側面の2DEGの感じるポテンシャルを上げることで、閾値電圧を上げている。
【0252】
例えば、不純物領域10xと第2の側面40bは、離間する。不純物領域10xと第2の側面40bとの間の距離は、例えば、2nm以上5nm以下である。
【0253】
不純物領域10xは、例えば、底面40cの直下には設けられない。
【0254】
不純物領域10xの形成は、例えば、窒化物半導体層10にトレンチ40を形成した後に、底面40cの上にマスク材を形成する。そして、例えば、斜めイオン注入法を用いて、トレンチ40の第2の側面40bから窒化物半導体層10にp型不純物を導入することで形成できる。
【0255】
窒化物半導体層10の中に、例えば、斜めイオン注入法を用いて、第1のイオン注入でマグネシウムを注入し、第2のイオン注入で窒素を注入し、更に第3のイオン注入で水素をイオン注入する。
【0256】
不純物領域10bは、ソース電極20の直下、及び、ドレイン電極22の直下の窒化物半導体層10の中に設けられる。不純物領域10bは、チャネル層14、第2の窒化アルミニウム層62、及び、バリア層15の中に設けられる。ソース電極20及びドレイン電極22は、不純物領域10bに接する。
【0257】
不純物領域10bは、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つのn型不純物を含む。不純物領域10bは、n型不純物領域である。
【0258】
不純物領域10bのn型不純物濃度は、例えば、1×1019cm-3以上1×1022cm-3以下である。
【0259】
不純物領域10bは、活性化された高濃度のn型不純物を含む。したがって、不純物領域10bは、ソース電極20及びドレイン電極22のコンタクト抵抗を低減し、オーミックコンタクトを実現する機能を有する。
【0260】
不純物領域10bは、例えば、第4の実施形態の半導体装置の製造方法と同様、第1のイオン注入でシリコンを注入し、第2のイオン注入で窒素を注入し、更に第3のイオン注入で水素をイオン注入することで形成できる。
【0261】
第1の層間絶縁層31は、窒化物半導体層10と第1の窒化アルミニウム層61との間に設けられる。第1の層間絶縁層31は、例えば、窒化シリコンである。
【0262】
第2の層間絶縁層32は、ゲート絶縁層16、ゲート電極18、ソース電極20、及び、ドレイン電極22との間に設けられる。第2の層間絶縁層32は、例えば、窒化シリコンである。
【0263】
第5の実施形態のHEMT200は、トレンチ40内にチャネル層14と接する第1の窒化アルミニウム層61を備える。そして、トレンチ40は、順テーパ形状を有する。このため、トレンチ40の第1の側面40a、第2の側面40b、及び、底面40cとチャネル層14との間に、2次元電子ガスが形成される。第1の窒化アルミニウム層61とチャネル層14との界面に、2次元電子ガスが形成される。したがって、高い移動度が実現できる。
【0264】
形成される2次元電子ガスの濃度は、底面40cよりも、第1の側面40a及び第2の側面40b近傍で小さくなる。第5の実施形態のHEMT200は、2次元電子ガスの濃度が比較的小さい第2の側面40bの側方に、不純物領域10xを形成する。したがって、例えば、底面40cの下方に不純物領域を設けるよりも、HEMT200の閾値電圧を高くすることが容易となる。
【0265】
高い移動度を実現する観点から、不純物領域10xと第1の側面40a、不純物領域10xと第2の側面40b、及び、不純物領域10xと底面40cとの間の距離は、2nm以上であることが好ましい。
【0266】
高い閾値電圧を実現する観点から、不純物領域10xと第1の側面40a、不純物領域10xと第2の側面40b、及び、不純物領域10xと底面40cとの間の距離は、5nm以下であることが好ましい。
【0267】
不純物領域10xを形成する際、第1のイオン注入でマグネシウムを注入し、第2のイオン注入で窒素を注入し、更に第3のイオン注入で水素をイオン注入することで、低抵抗の不純物領域10xを局所的に形成することが可能となる。
【0268】
また、第5の実施形態のHEMT200は、チャネル層14とバリア層15との間にバンドギャップの大きい第2の窒化アルミニウム層62を備える。第2の窒化アルミニウム層62とチャネル層14との界面に2次元電子ガスが形成される。したがって、高い移動度が実現できる。
【0269】
第2の窒化アルミニウム層62は、バンドギャップが大きいため、高抵抗となる。第2の窒化アルミニウム層62は、ソース電極20の直下、及び、ドレイン電極22の直下で、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及び、スズ(Sn)から成る群から選ばれる少なくとも一つのn型不純物を含む。したがって、ソース電極20の直下、及び、ドレイン電極22の直下で、第2の窒化アルミニウム層62は、低抵抗となる。よって、ソース電極20とチャネル層14との間の抵抗、及び、ドレイン電極22とチャネル層14との間の抵抗が低減される。
【0270】
ソース電極20とチャネル層14との間の抵抗、及び、ドレイン電極22とチャネル層14との間の抵抗を低くする観点から、第2の窒化アルミニウム層62の中に、n型不純物の深さ方向の濃度分布のピークが位置することが好ましい。
【0271】
不純物領域10bを形成する際、第1のイオン注入でマグネシウムを注入し、第2のイオン注入で窒素を注入し、更に第3のイオン注入で水素をイオン注入することで、低抵抗の不純物領域10bを局所的に形成することが可能となる。
【0272】
また、不純物領域10bのn型不純物の側方への拡散が抑制されるため、不純物領域10bを設けることによるHEMT200の耐圧の低下が抑制される。
【0273】
以上、第5の実施形態の半導体装置によれば、移動度が高く、閾値電圧の高いHEMTが実現できる。
【0274】
第4及び第5の実施形態では、半導体装置としてHEMTを例に説明したが、本発明はHEMT以外の半導体装置に適用することも可能である。例えば、LED(Light Emmitting Diode)などの光半導体装置に、本発明を適用することも可能である。
【0275】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0276】
10 窒化物半導体層
10b 不純物領域(第2の領域)
10x 不純物領域(第1の領域)
14 チャネル層(第1の窒化物半導体層)
15 バリア層(第2の窒化物半導体層)
16 ゲート絶縁層
18 ゲート電極
20 ソース電極(金属層、第1の電極)
22 ドレイン電極(金属層、第2の電極)
40 トレンチ
40a 第1の側面
40b 第2の側面
40c 底面
50 酸化シリコン層(被覆層)
61 第1の窒化アルミニウム層(第3の窒化物半導体層)
62 第2の窒化アルミニウム層(第4の窒化物半導体層)
100 HEMT(半導体装置)
200 HEMT(半導体装置)