(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】アブソーバ
(51)【国際特許分類】
B60R 19/18 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
B60R19/18 P
(21)【出願番号】P 2019190695
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083091
【氏名又は名称】田渕 経雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141416
【氏名又は名称】田渕 智雄
(72)【発明者】
【氏名】古川 太一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 薫
(72)【発明者】
【氏名】西尾 侑那
(72)【発明者】
【氏名】浅井 菜摘
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-235958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体または該車体に取付けられる部材からなる車体側部材に取付けられており、衝突荷重の入力時に塑性変形して衝突エネルギを吸収するアブソーバであって、
前記車体側部材に取付けられる取付部と、該取付部から前記衝突荷重の入力側に延びる延出部と、を有しており、
前記延出部は、該延出部の延び方向断面視で、該延出部の延び方向と直交する方向に開放するV字部と、該V字部の開放方向と反対方向に開放する逆V字部と、を有しており、前記延出部の延び方向に前記V字部と前記逆V字部とが交互に、隣り合うV字部と逆V字部の一方の一辺が他方の一辺となるようにして、連続して複数並ぶ形状となっており、
前記延出部の延び方向断面視で、複数の前記V字部および複数の前記逆V字部の少なくとも1つにおけるV字または逆V字の折れ曲がり部は、前記延出部の延び方向と平行な方向に延びて
おり、
前記延出部は、前記V字部と前記逆V字部のうちで、最も前記取付部側にあるV字後部と、最も前記延出部の延び方向の先端側にあるV字前部と、前記V字後部とV字前部との間にあるV字中間部と、を有しており、
前記V字前部と前記V字後部における剛性は、前記V字中間部における剛性よりも高く設定されている、アブソーバ。
【請求項2】
前記取付部は、前記車体側部材の、前記衝突荷重の入力側にある前面部よりも後側にある部位で、前記車体側部材に取付けられている、請求項1記載のアブソーバ。
【請求項3】
前記取付部は、前記延出部の延び方向から見て前記延出部とラップする位置にある、請求項1または請求項2記載のアブソーバ
。
【請求項4】
前記V字前部における剛性は、前記V字後部における剛性よりも高く設定されている、請求項
1記載のアブソーバ。
【請求項5】
前記V字中間部は、前記V字後部に隣接する位置にあるV字中間後部と、該V字中間後部と前記V字前部との間にあるV字中間前側部と、を有しており、
前記V字中間前側部における剛性は、前記V字中間後部における剛性よりも高く設定されている、請求項1または請求項4記載のアブソーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突荷重の入力時に塑性変形して衝突エネルギを吸収するアブソーバに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントバンパの裏側(車両後側)でバンパリンフォースメントの車両前側に、歩行者衝突時の歩行者への反力を緩和させるために、車両幅方向に延びる発泡樹脂製のアブソーバが設けられている。アブソーバの横断面形状には複数種類あり、たとえば特許文献1-3に示されるものがある。
【0003】
(a) 特許文献1は、
図11に示すように、中実であり取付けられるバンパリンフォースメント2の高さと略同じ高さを有するタイプ(ソリッドタイプ)のアブソーバ1を示している。
(b) 特許文献2は、
図12に示すように、バンパリンフォースメント2の高さと略同じ高さを有しており、車両後側面から車両前側に凹む空間部1aが設けられることで断面コの字状とされたタイプ(コの字タイプ)のアブソーバ1を示している。
(c) 特許文献3は、
図13に示すように、高さがバンパリンフォースメント2の高さの半分以下とされており略板状とされたタイプ(板タイプ)のアブソーバ1を示している。
【0004】
しかし、従来のアブソーバには、つぎの問題点がある。
(i)〈アブソーバによるエネルギ吸収効率〉
(i-1)上記(a)-(c)のいずれも、アブソーバ1が発泡樹脂材で構成されているため、衝突荷重の入力初期時に自身が変形するおそれがある。その場合、取付けられるバンパリンフォースメント2に早期に効率よく衝突荷重を伝えられなくなり、衝突荷重を受けた際のアブソーバの荷重-変位曲線(
図14)において、入力初期における荷重の立ち上がりが緩やかになるおそれがある。
(i-2)上記(b)コの字タイプにあっては、衝突荷重の入力初期にコの字の天板部1bが撓むおそれがある。その場合、入力初期における荷重の立ち上がりが緩やかになるおそれがある。
(i-3)上記(c)板タイプにあっては、アブソーバ1とバンパ3との接触面積が小さいため、アブソーバ1にかかる応力が大きくなり、衝突荷重により容易に変形してしまう。そのため、アブソーバの荷重-変位曲線において、入力初期における荷重の立ち上がりが緩やかになるおそれがある。
【0005】
(i-4)また、上記(b)コの字タイプと(c)板タイプにあっては、衝突荷重の入力中に、座屈または折れるようにして破損するおそれがある。その場合、アブソーバの荷重-変位曲線において、入力中期に荷重の落ち込みが発生するおそれがある。
なお、
図14は、従来アブソーバの代表例として、上記(b)コの字タイプにおける荷重-変位曲線を示している。
【0006】
以上(i-1)-(i-4)により、アブソーバ1によるエネルギ吸収効率を高める(エネルギ吸収量を増加させる)点において改善の余地がある。
【0007】
(ii)〈アブソーバに要するスペース〉
(ii-1)
図11~
図13に示すように、上記(a)-(c)のいずれも、アブソーバ1がバンパリンフォースメント2の車両前側面(衝突荷重の入力側にある前面)に取付けられているため、アブソーバ1の潰れ残り1cがバンパリンフォースメント2の車両前側(衝突荷重の入力側)に発生してしまう。そのため、衝突荷重の入力方向(前後方向)で、アブソーバ1の変形によるエネルギ吸収のためのスペースだけでなく、潰れ残り1cのスペースも必要になってしまう。
(ii-2)また、上記(c)板タイプにあっては、座屈または折れるようにして破損するおそれがあり、その場合、アブソーバ1のめくれ上がりが発生するため、衝突荷重の入力方向と直交する方向(上下方向)のスペースも必要になってしまう。
【0008】
以上の(ii-1)、(ii-2)により、アブソーバ1に要するスペースを削減する点において改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-224294号公報
【文献】特開2004-224106号公報
【文献】特開2016-20133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来に比べて、エネルギ吸収効率を高めることができる、必要スペースを削減できる、の少なくともいずれか1つを達成できる、アブソーバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 車体または該車体に取付けられる部材からなる車体側部材に取付けられており、衝突荷重の入力時に塑性変形して衝突エネルギを吸収するアブソーバであって、
前記車体側部材に取付けられる取付部と、該取付部から前記衝突荷重の入力側に延びる延出部と、を有しており、
前記延出部は、該延出部の延び方向断面視で、該延出部の延び方向と直交する方向に開放するV字部と、該V字部の開放方向と反対方向に開放する逆V字部と、を有しており、前記延出部の延び方向に前記V字部と前記逆V字部とが交互に、隣り合うV字部と逆V字部の一方の一辺が他方の一辺となるようにして、連続して複数並ぶ形状となっており、
前記延出部の延び方向断面視で、複数の前記V字部および複数の前記逆V字部の少なくとも1つにおけるV字または逆V字の折れ曲がり部は、前記延出部の延び方向と平行な方向に延びている、アブソーバ。
(2) 前記取付部は、前記車体側部材の、前記衝突荷重の入力側にある前面部よりも後側にある部位で、前記車体側部材に取付けられている、(1)記載のアブソーバ。
(3) 前記取付部は、前記延出部の延び方向から見て前記延出部とラップする位置にある、(1)または(2)記載のアブソーバ。
(4) 前記延出部は、前記V字部と前記逆V字部のうちで、最も前記取付部側にあるV字後部と、最も前記延出部の延び方向の先端側にあるV字前部と、前記V字後部とV字前部との間にあるV字中間部と、を有しており、
前記V字前部と前記V字後部における剛性は、前記V字中間部における剛性よりも高く設定されている、(1)~(3)のいずれか1つに記載のアブソーバ。
(5) 前記V字前部における剛性は、前記V字後部における剛性よりも高く設定されている、(4)記載のアブソーバ。
(6) 前記V字中間部は、前記V字後部に隣接する位置にあるV字中間後部と、該V字中間後部と前記V字前部との間にあるV字中間前側部と、を有しており、
前記V字中間前側部における剛性は、前記V字中間後部における剛性よりも高く設定されている、(4)または(5)記載のアブソーバ。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)のアブソーバでは、延出部の延び方向断面視で、複数のV字部および複数の逆V字部の少なくとも1つにおけるV字または逆V字の折れ曲がり部が、延出部の延び方向と平行な方向に延びているため、アブソーバに入力される衝突荷重を効率よく車体側部材に取付けられる取付部まで伝達でき、車体側部材による支え(反力)を早期に効率よく受けることができる。よって、衝突荷重を受けた際のアブソーバの荷重-変位曲線において、衝突荷重の入力初期における荷重の立ち上がりを早める(急角度にする)ことができる。
【0013】
また、延出部の延び方向断面視で、複数のV字部および複数の逆V字部の少なくとも1つにおけるV字または逆V字の折れ曲がり部が、延出部の延び方向と平行な方向に延びているため、(i)平行な方向に延びている部位においては、該平行部の両端部を、衝突荷重の入力時に屈曲する座屈ポイント(屈曲ポイント)にでき、(ii)平行な方向に延びていない折れ曲がり部においても、該折れ曲がり部を、衝突荷重の入力時に屈曲する座屈ポイント(屈曲ポイント)にできる。よって、衝突荷重の入力時に屈曲する座屈ポイント(屈曲ポイント)を複数設定できる。そのため、複数の座屈ポイントをそれぞれ異なるタイミングで屈曲させることができる。したがって、アブソーバの荷重-変位曲線において、座屈ポイントが1個のみの場合に比べて、入力中期に荷重の落ち込みが発生することを抑制できる。
【0014】
以上により、従来に比べて、アブソーバによるエネルギ吸収効率を高める(エネルギ吸収量を増加させる)ことができる。
【0015】
上記(2)のアブソーバでは、取付部が、車体側部材の前面部よりも後側にある部位で、車体側部材に取付けられているため、衝突エネルギを吸収した後の潰れ残りを車体側部材の前面部よりも後側に発生させることができる。よって、取付部が車体側部材の前面部で車体側部材に取付けられる場合と異なり、潰れ残りが車体側部材の前面部の前側に発生することを抑制でき、衝突荷重の入力方向でスペース上有利である。
【0016】
上記(3)のアブソーバでは、取付部が延出部の延び方向から見て延出部とラップする位置にあるため、アブソーバに衝突荷重が入力されたときにアブソーバに取付部まわりのモーメントが発生することを抑制できる。そのため、アブソーバが取付部でめくれ上がるように変形することを抑制でき、衝突荷重の入力方向と直交する方向でスペース上有利である。
【0017】
上記(4)のアブソーバでは、延出部のV字前部とV字後部における剛性が、V字中間部における剛性よりも高く設定されているため、つぎの効果を得ることができる。
V字前部における剛性がV字中間部における剛性よりも高いため、V字前部に入力される衝突荷重を、V字前部でのめくれ上がりを抑制してV字前部の後側、すなわちV字中間部やV字後部に効率よく伝達できる。
また、V字後部における剛性がV字中間部における剛性よりも高いため、V字中間部がほとんど変形しないうちにV字後部が変形してしまい、V字後部で衝突荷重の入力方向と直交する方向にアブソーバがめくれあがってしまうことを抑制できる。そのため、衝突荷重の入力方向と直交する方向でスペース上有利である。
【0018】
上記(5)のアブソーバでは、V字前部における剛性が、V字後部における剛性よりも高く設定されているため、V字前部でのめくれ上がりを抑制して後側へ荷重を効率よく伝えることができる。そのため、V字中間部のみならずV字後部も確実に変形させることができる。
【0019】
上記(6)のアブソーバでは、V字中間前側部における剛性がV字中間後部における剛性よりも高く設定されているため、V字前部から伝わってくる衝突荷重を、V字中間前側部でのめくれ上がりを抑制してV字中間前側部の後側、すなわちV字中間後部に効率よく伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明実施例のアブソーバと車体側部材を示す断面図である。
【
図3】本発明実施例の剛性序列を有するアブソーバを用いて行った衝突試験後のアブソーバの断面図である。
【
図4】
図3の衝突試験を行って得られたアブソーバの荷重―変位線図である。なお、本発明実施例のアブソーバの優位性を示すために、
図14の従来アブソーバの荷重―変位線図も併せて点線で示している。
【
図5】本発明実施例の比較例を示す図であり、本発明実施例の剛性序列とは異なる剛性序列を有するアブソーバを用いた場合の、衝突試験後のアブソーバの断面図である。
【
図6】本発明実施例のアブソーバが取付けられる車体側部材の第1変形例を示す模式断面図である。
【
図7】本発明実施例のアブソーバが取付けられる車体側部材の第2変形例を示す模式断面図である。
【
図8】本発明実施例のアブソーバが取付けられる車体側部材の第3変形例を示す模式断面図である。
【
図9】本発明実施例のアブソーバが車両前部に用いられる場合の、車両前部構造の部分断面図である。
【
図10】本発明実施例のアブソーバと、従来のソリッドタイプ、コの字タイプ及び板タイプとの、比較マトリクスである。
【
図11】従来のアブソーバの、ソリッドタイプである場合の模式断面図である。(a)は衝突試験前の状態を示し、(b)は衝突試験後の状態を示す。
【
図12】従来のアブソーバの、コの字タイプである場合の模式断面図である。(a)は衝突試験前の状態を示し、(b)は衝突試験後の状態を示す。
【
図13】従来のアブソーバの、板タイプである場合の模式断面図である。(a)は衝突試験前の状態を示し、(b)は衝突試験後の状態を示す。
【
図14】従来のコの字タイプのアブソーバの、衝突試験を行って得られた荷重―変位線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明実施例のアブソーバ10を説明する。
【0022】
本発明実施例のアブソーバ10は、
図2に示すように、車体または該車体に取付けられる部材からなる車体側部材100に取付けられており、衝突荷重Fのアブソーバ10への入力時に塑性変形して衝突エネルギを吸収する。
【0023】
車体側部材100は、車体または該車体に取付けられる部材からなり、比較的高い剛性を有している。車体側部材100は、金属製であり、金属はたとえば、鉄(鋼を含む)、アルミ(アルミ合金を含む)である。
【0024】
車体側部材100は、衝突荷重Fの入力側にある前面部110と、前面部110から衝突荷重Fの入力側と反対側である後側に延びる後方延び部120と、後方延び部120の後側端部に連なっており前面部110と対向する後面部130と、を有する。前面部110と後面部130は、衝突荷重Fのアブソーバ10への入力方向と直交(略直交を含む)する方向に延びており、後方延び部120は、衝突荷重Fの入力方向と平行(略平行を含む)な方向に延びている。
【0025】
図6~
図8に示すように、車体側部材100には、反力板部140が設けられていることが望ましい。反力板部140は、アブソーバ10への衝突荷重Fの入力時に、入力方向と反対方向からアブソーバ10を押し受けて、アブソーバ10に確実に反力を付与するものである。
【0026】
図6は、車体側部材100が板材を複数回曲げ加工することで作製される鉄製である場合に、互いに溶接される板材の両端部を車体側部材100の外方に延びる外向きフランジとし、そのフランジ(溶接部)を反力板部140とする場合を示している。
【0027】
図7は、車体側部材100がアルミ製(アルミダイカスト製)である場合に、車体側部材100に一体的に、車体側部材100の外方に延びる外方延び部141と、該外方延び部141の延び方向先端部から折れ曲がって衝突荷重Fの入力側に所定量延びる入力側延び部142と、を作製し、それらを反力板部140とする場合を示している。なお、
図7のケースでは、反力板部140が入力側延び部142を有するため、車体側部材100の後方延び部120と入力側延び部142とで、アブソーバ10の後述する取付部20の一部を挟み込むことができるようになっている。
【0028】
図8は、車体側部材100の材質によらず、反力板部140が、車体側部材100と別体に形成されて車体側部材100に固定して取付けられる場合を示している。
【0029】
アブソーバ10は、
図1に示すように、発泡樹脂製以外の樹脂製であり、たとえばPP(ポリプロピレン樹脂)である。ただし、アブソーバ10は、PP以外で構成されていてもよく、たとえば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、PE(ポリエチレン樹脂)、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等の強化プラスチック、で構成されていてもよい。アブソーバ10は、型成形品である。アブソーバ10は、互いに固定される複数部品で構成されていてもよいが、部品点数を削減するために一部品構成であることが望ましい。
【0030】
アブソーバ10は、
図2に示すように、車体側部材100に取付けられる取付部20と、取付部20から衝突荷重Fの入力側(衝突荷重Fの入力方向と反対方向)に延びる延出部30と、を有している。
【0031】
取付部20は、車体側部材100の後方延び部120のみに、ボルト50を用いて締結固定されている。取付部20が後方延び部120に固定されているため、取付部20は、衝突荷重Fの入力方向に対して、車体側部材100の前面部110よりも後側にある部位で、車体側部材100に取付けられている。取付部20は、車体側部材100の後方延び部120における中央部よりも後側、すなわち後面部130側に固定されている。
【0032】
取付部20は、衝突荷重Fの入力方向と平行(略平行を含む)な方向、すなわち車体側部材100の後方延び部120と平行な方向に延びる板状部21を有しており、該板状部21で車体側部材100の後方延び部120の延び方向中間部に固定されている。
図1に示すように、板状部21は複数形成されており、取付部20は複数のボルト50を用いて車体側部材100に取付けられている。これは、アブソーバ10が車体側部材100に対して回転することを抑制するとともに、アブソーバ10を強固に車体側部材100に固定して取付けるためである。複数のボルト50は、衝突荷重Fの入力方向と直交する方向に、互いに間隔をおいて複数設けられている。
【0033】
図2に戻って、取付部20は、延出部30の延び方向から見て、すなわち衝突荷重Fの入力方向から見て、その全体が延出部30とラップする位置にある。これは、アブソーバ10に衝突荷重Fが入力されたときに、アブソーバ10に取付部20まわりのモーメントが発生することを抑制してアブソーバ10が車体側部材100からめくれ上がるように変形することを抑制するためである。
【0034】
延出部30は、取付部20における衝突荷重Fの入力側の端部22から、衝突荷重Fの入力側に延びている。主として延出部30が延び方向に圧縮荷重を受けて潰れ変形することで、アブソーバ10は衝突エネルギを吸収するようになっている。
【0035】
延出部30は、延出部30の延び方向断面視で、延出部30の延び方向と直交する方向に開放するV字部31と、V字部31の開放方向と反対方向に開放する逆V字部32と、を有している。そして、延出部30は、延出部30の延び方向にV字部31と逆V字部32とが交互に、隣り合うV字部31と逆V字部32の一方の一辺が他方の一辺となるようにして、連続して複数並ぶ形状(蛇腹形状、波形状)となっている。
【0036】
V字部31と逆V字部32の開放方向(「V」字の開方向と逆「V」字の開方向)は、延出部30の延び方向と直交する方向、すなわち衝突荷重Fの入力方向と直交する方向であればよく、上方向であっても下方向であっても横方向であってもよい。なお、本発明図示例では、V字部31の開放方向が上方向であり、逆V字部32の開放方向が下方向である場合を示している。
【0037】
V字部31と逆V字部32は、延出部30の延び方向から見て、すなわち衝突荷重Fの入力方向からみて、互いに全体(ほぼ全体を含む)がラップし合う位置にある。V字部31と逆V字部32の数は、特に限定されるものではないが、図示例では、V字部31が2個であり逆V字部32が3個の場合を示している。
【0038】
延出部30の延び方向断面視で、複数のV字部31および複数の逆V字部32の少なくとも1つにおけるV字または逆V字の折れ曲がり部33は、延出部30の延び方向と平行(略平行を含む)な方向に延びている。これは、アブソーバ10に入力される衝突荷重Fを早期に効率よく取付部20及び車体側部材100に伝達するためである。なお、荷重伝達効果を最大限に得るために、複数のV字部31および複数の逆V字部32の全ての折れ曲がり部33が、延出部30の延び方向と平行な方向に延びていることが望ましい。
【0039】
延出部30は、複数のV字部31および複数の逆V字部32のうちで、最も取付部20側にあるV字後部30aと、最も延出部30の延び方向の先端側にあるV字前部30bと、V字後部30aとV字前部30bとの間にあるV字中間部30cと、を有している。また、V字中間部30cは、V字後部30aに隣接する位置にあるV字中間後部30c1と、V字中間後部30c1とV字前部30bとの間にあるV字中間前側部30c2と、を有している。
【0040】
衝突荷重Fは、まず、最もアブソーバ10の先端側にあるV字前部30bから入力される。そして、衝突荷重Fは、V字前部30bから、V字中間部30cを介してV字後部30aに伝わり、取付部20に伝達される。
【0041】
延出部30は、衝突荷重Fが入力されたときに、めくれ上がったりすることなく狙いどおりに延出部30の延び方向に潰れ変形(圧縮方向)するように、延び方向で異なる剛性序列を有している。具体的には、以下のようになっている。
【0042】
(a) V字後部30aとV字前部30bにおける剛性は、V字中間部30cにおける剛性よりも高く設定されている。
(b) V字前部30bにおける剛性は、V字後部30aにおける剛性よりも高く設定されている。
(c) V字中間部30cにあっては、V字中間前側部30c2における剛性は、V字中間後部30c1における剛性よりも高く設定されている。
【0043】
上記の剛性序列は、
図1に示すように、各V字部31および逆V字部32に、必要に応じて延出部30の延び方向に延びるリブ60を設けることにより設定される。詳しくは、リブ60の大きさ、数、厚みの少なくとも1つを、各V字部31および逆V字部32で異ならせることにより設定される。リブ60は、延出部30と一体に形成されていることが望ましいが、延出部30と別体に形成されて延出部30に取付けられていてもよい。
【0044】
ただし、上記の剛性序列は、リブ60を設けること以外で設定されていてもよく、たとえば、延出部30のV字部31や逆V字部32における板厚を異ならせること、各V字部31および逆V字部32内に剛性向上のための別部品を取付けること、各V字部31および逆V字部32の「V」字または逆「V」字のなす角度を異ならせること、各V字部31および逆V字部32に剛性低下させる孔を開けること、各V字部31および逆V字部32の材質を延出部30の延び方向で異ならせること、などで設定されていてもよい。また、これらの少なくとも1つとリブ60とを併用することで設定されていてもよい。
【0045】
アブソーバ10が上記のように構成されているため、つぎの効果を得ることができる。
(A1)
図2に示すように、延出部30の延び方向断面視で、複数のV字部31および複数の逆V字部32の少なくとも1つにおけるV字または逆V字の折れ曲がり部33が、延出部30の延び方向と平行な方向に延びているため、アブソーバ10に入力される衝突荷重Fを効率よく車体側部材100に取付けられる取付部20まで伝達でき、車体側部材100による支え(反力)を早期に効率よく受けることができる。よって、衝突荷重Fを受けた際のアブソーバ10の荷重-変位曲線(
図4の実線)において、衝突荷重Fの入力初期における荷重の立ち上がりを早める(急角度にする)ことができる。
【0046】
(A2)延出部30の延び方向断面視で、複数のV字部31および複数の逆V字部32の少なくとも1つにおけるV字または逆V字の折れ曲がり部33が、延出部30の延び方向と平行な方向に延びているため、(i)平行な方向に延びている部位においては、該平行部の両端部34を、衝突荷重Fの入力時に屈曲する座屈ポイント(屈曲ポイント)にでき、(ii)平行な方向に延びていない折れ曲がり部33においても、該折れ曲がり部33を、衝突荷重Fの入力時に屈曲する座屈ポイント(屈曲ポイント)にできる。よって、衝突荷重Fの入力時に屈曲する座屈ポイント(屈曲ポイント)を複数設定できる。そのため、複数の座屈ポイントをそれぞれ異なるタイミングで屈曲させることができる。したがって、アブソーバ10の荷重-変位曲線において、座屈ポイントが1個のみの場合に比べて、入力中期に荷重の落ち込みが発生することを抑制できる。
【0047】
以上(A1)、(A2)により、アブソーバによるエネルギ吸収効率を高める(エネルギ吸収量を増加させる)ことができる。詳しくは、
図4に示すアブソーバ10の荷重―変位線図において、波形が矩形に近づく形状となるため、アブソーバ10によるエネルギ吸収効率を高めることができる。
なお、エネルギ吸収効率を高めることができるため、衝突荷重Fの入力方向でアブソーバ10の長さを短くしてもアブソーバ10に要求されるエネルギ吸収量を確保できる。よって、衝突荷重Fの入力方向におけるアブソーバ10の短縮化を図ることができ、スペース上有利である。
【0048】
(B)
図2に示すように、取付部20が、車体側部材100の前面部110よりも後側にある部位で、車体側部材100に取付けられているため、
図3に示すように、衝突エネルギを吸収した後のアブソーバ10の潰れ残りを車体側部材100の前面部110よりも後側に発生させることができる。よって、取付部20が車体側部材100の前面部110で車体側部材100に取付けられる場合と異なり、潰れ残りが車体側部材100の前面部110の前側に発生することを抑制でき、衝突荷重Fの入力方向でスペース上有利である。
【0049】
(C)
図2に示すように、取付部20が延出部30の延び方向から見て(アブソーバ10への衝突荷重Fの入力方向から見て)延出部30とラップする位置にあるため、アブソーバ10に衝突荷重Fが入力されたときにアブソーバ10に取付部20まわりのモーメントが発生することを抑制できる。そのため、アブソーバ10が取付部20でめくれ上がるように変形することを抑制でき、衝突荷重Fの入力方向と直交する方向でスペース上有利である。
【0050】
(D)延出部30のV字後部30aとV字前部30bにおける剛性が、V字中間部30cにおける剛性よりも高く設定されているため、つぎの効果を得ることができる。
V字前部30bにおける剛性がV字中間部30cにおける剛性よりも高いため、V字前部30bに入力される衝突荷重Fを、V字前部30bでのめくれ上がりを抑制してV字前部30bの後側、すなわちV字中間部30cやV字後部30aに効率よく伝達できる。
また、V字後部30aにおける剛性がV字中間部30cにおける剛性よりも高いため、V字中間部30cがほとんど変形しないうちにV字後部30aが変形してしまい、V字後部30aで衝突荷重Fの入力方向と直交する方向にアブソーバ10がめくれあがってしまうことを抑制できる。そのため、衝突荷重Fの入力方向と直交する方向でスペース上有利である。
【0051】
(E)V字前部30bにおける剛性が、V字後部30aにおける剛性よりも高く設定されているため、V字前部30bでのめくれ上がりを抑制して後側へ荷重を効率よく伝えることができる。そのため、V字中間部30cのみならずV字後部30aも確実に変形させることができる。
【0052】
(F)延出部30のV字中間部30cにおいて、V字中間前側部30c2における剛性がV字中間後部30c1における剛性よりも高く設定されているため、V字前部30bから伝わってくる衝突荷重Fを、V字中間前側部30c2でのめくれ上がりを抑制してV字中間前側部30c2の後側、すなわちV字中間後部30c1に効率よく伝達できる。
【0053】
(G)V字部31と逆V字部32が、延出部30の延び方向からみて、互いに全体がラップし合う位置にあるため、V字部31と逆V字部32とが互いにラップし合わない位置にある場合に比べて、衝突荷重Fの入力時に延出部30を圧縮方向に効率よく潰し変形させることができる。
【0054】
(H)アブソーバ10が発泡樹脂製以外の樹脂製であるため、発泡樹脂製である場合に比べて、衝突荷重Fの入力初期に自身が変形してしまうことを抑制できる。その結果、取付けられる車体側部材100に早期に効率よく衝突荷重を伝えることができ、衝突荷重を受けた際のアブソーバの荷重-変位曲線において、入力初期における荷重の立ち上がりを早めることができる。
【0055】
〈アブソーバ10の使用例〉
図9は、本発明実施例のアブソーバ10を、車両(特に限定されるものではないがたとえばSUV車)の歩行者との前面衝突時に、衝突エネルギの少なくとも一部を吸収して歩行者の損傷を抑制するために用いる場合を示している。なお、図中、符号300はフロントバンパ、符号310はラジエータ、符号320はフロントグリルを示している。
【0056】
このケースにおいては、以下のようになっている。
車体側部材100は、車両前部で車幅方向に延びており車体の一部を構成する、断面「日」字状のバンパリンフォースメントである。車体側部材100の前面部110は、上下方向に延びるバンパリンフォースメントの車両前側面部であり、車体側部材100の後方延び部120は、バンパリンフォースメントの上下面部と上下面部間のほぼ中央にある橋渡し部である。また、車体側部材100の後面部130は、バンパリンフォースメントの車両後側面部である。
【0057】
アブソーバ10は、取付部20で、車体側部材100の後方延び部120を構成するバンパリンフォースメントの上面部の車両後側端部(その近傍を含む)に取付けられる。アブソーバ10の延出部30は、衝突荷重Fの入力側である車両前方に延びている。アブソーバ10の前方には、車両のフロントバンパ300がある。車両前面衝突時は、衝突荷重Fを受けて車両後方に移動してきたフロントバンパ300を介して、アブソーバ10に衝突荷重Fが入力されるようになっている。
【0058】
なお、フロントバンパ300を介してアブソーバ10に衝突荷重Fが入力されるときに、衝突荷重Fがアブソーバ30の延出部30の延び方向と平行(略平行を含む)な方向に入力されて延出部30をめくれ上がらせることなく潰し変形できるようにされていることが望ましい。それ故、延出部30の延び方向先端面35は、衝突時に延出部30に当接する車両構成部品(フロントバンパ300)のうち、衝突荷重Fの入力方向で延び方向先端面35と対向する位置にある車両構成部品の対向面301と平行(略平行を含む)とされていることが望ましい。
【0059】
上記では、アブソーバ10を、車両の歩行者との前面衝突時における歩行者保護のために使用する場合を示したが、アブソーバ10はその他の目的のために使用されていてもよい。たとえば、(i)電池ケース、燃料タンクや水素タンクなどの各種タンク、等に取付けられてこれらケースやタンクを保護するために使用されていてもよい。この場合、アブソーバ10が取付けられる電池ケースやタンクが、本発明実施例の車体側部材100に相当する。また、(ii)車室内装材の裏側などに配置されている車体または該車体に取付けられる部材に取付けられて、車室乗員が車室内装材にぶつかってしまったときの乗員保護のために使用されていてもよい。この場合、車室内装材の裏側などに配置されている車体または該車体に取付けられる部材が、本発明実施例の車体側部材100に相当する。
【0060】
〈実施例〉
実施例として、
図1に示すように、上述したアブソーバ10の実施形態に対応する構造を有するアブソーバのテストピースを作製し、これを本発明品として用いた。
【0061】
(i)アブソーバ10(テストピース)については、
奥行き(衝突荷重の入力方向の長さ):L450mm
幅(水平面内で奥行きと直交する方向の長さ):W300mm
高さ(奥行きおよび幅と直交する方向の長さ):H30mm
板厚:t2.5mm
リブピッチ:20mm~40mm(上述したアブソーバ10の剛性序列に応じて変更)
材質:PP
アブソーバ10の剛性序列:延出部30のV字前部30b→V字後部30a→V字中間前側部30c2→V字中間後部30c1
とした。
(ii)車体側部材100については、
奥行き:L90mm
幅:W250mm
高さ:H110mm
板厚:t2.7mm~t6.8mm
材質:アルミニウム
とした。
(iii)アブソーバ10と車体側部材100との締結については
締結:ボルト(M10ボルト、ワッシャー径φ20mm)
取付ピッチ:150mmピッチ
とした。
【0062】
上記アブソーバ10のテストピースに、延出部30の延び方向と平行な方向から衝突荷重Fを付与する試験を行った。衝突試験後のアブソーバ10のテストピースを、
図3に示し、その際に得られたアブソーバ10のテストピースの荷重―変位線図を、
図4に実線で示した。なお、
図4に点線で示す波形は、従来アブソーバの荷重―変位線図である。
また、本発明実施例の比較例として、剛性序列のみを異ならせた比較テストピース10´に同様の試験を行って得られた、衝突試験後の比較テストピース10´を、
図5に示す。なお、符号20´は、本発明実施例における取付部20に相当する部分であり、符号30´は、本発明実施例における延出部30に相当する部分である。
【0063】
図3と
図5から、適切な剛性序列に設定(
図3)することで、適切な剛性序列に設定されていない場合(
図5)に比べて、アブソーバ10がめくれ上がることなく(あっても無視できる程度にして)、アブソーバ10を延出部30の延び方向にきれいに潰れ変形(圧縮方向)させることができることがわかる。
【0064】
また、
図4において点線で示す波形は、
図14に示す従来アブソーバ(コの字アブソーバ)の荷重―変位線図であるが、
図4から、本発明実施例のアブソーバ10(実線)にあっては、衝突荷重の入力初期における荷重の立ち上がりを早める(従来よりも急角度にする)ことができることがわかる。また、複数の座屈ポイントを有するため、衝突荷重の入力中期に荷重の落ち込みが発生することを抑制でき、荷重を一定(略一定)に保ち続けることができることがわかる。よって、荷重―変位線図における波形を、従来に比べて矩形に近づけることができ、アブソーバ10によるエネルギ吸収効率が高められる(エネルギ吸収量を増加させられる)ことがわかる。
【0065】
ところで、
図10は、本発明実施例のアブソーバ10の優位性を示す、本発明品と従来のソリッドタイプ(
図11)、コの字タイプ(
図12)及び板タイプ(
図13)との、比較マトリクスである。
「立ち上がり」に関しては、従来アブソーバの中でもソリッドタイプが中実でありコの字タイプや板タイプよりも剛性が高いため、衝突荷重の入力初期の立ち上がりは早まるが、本発明品では、さらに早めることができる。
「落ち込み」に関しては、従来アブソーバの中でもソリッドタイプが中実であり座屈や破損の可能性が低いため、コの字タイプや板タイプよりも落ち込みを抑制できるが、本発明品ではさらに効果的に落ち込みの発生を抑制できる。
「潰れ残り」に関しては、従来アブソーバは車体側部材の前面に配置されているため、いずれも車体側部材の前面に潰れ残りが発生してしまうが、本発明品では、車体側部材の前面部よりも後側に潰れ残りを発生させることができる。
「矩形」に関しては、荷重―変位線図における波形において、従来は立ち上がりや落ち込みの問題があるため矩形からかけ離れた形状となってしまうが、本発明品では矩形に近づけることができる。
「サイズ」は、変形前(衝突エネルギ吸収前)の状態におけるアブソーバの高さ方向のサイズであり、従来アブソーバは発泡樹脂製であったため、高さ方向のサイズのコンパクト化を図ることが困難であるが、本発明品では発泡樹脂製ではないため、高さ方向のサイズのコンパクト化を図ることができる。
【符号の説明】
【0066】
10 アブソーバ
20 取付部
21 板状部
22 取付部の入力側の端部
30 延出部
30a V字後部
30b V字前部
30c V字中間部
30c1 V字中間後部
30c2 V字中間前側部
31 V字部
32 逆V字部
33 折れ曲がり部
34 平行部の両端部
35 延出部の延び方向先端面
50 ボルト
60 リブ
100 車体側部材
110 前面部
120 後方延び部
130 後面部
140 反力板部
141 外方延び部
142 入力側延び部
300 フロントバンパ
301 対向面
F 衝突荷重