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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20231010BHJP
   B60T 8/58 20060101ALI20231010BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231010BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20231010BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20231010BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20231010BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20231010BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20231010BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231010BHJP
   B60W 10/188 20120101ALI20231010BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T8/58
B60L15/20 J
B60L9/18 J
B60L7/14
B60L7/24 D
B60W10/00 120
B60W10/08
B60W10/188
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019204548
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075195
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】上田 健介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】執行 正勝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 好隆
(72)【発明者】
【氏名】山下 智弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 正雄
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 壮太
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-187959(JP,A)
【文献】特開2014-204538(JP,A)
【文献】特開平10-304509(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033753(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 8/58
B60L 15/20
B60L 9/18
B60L 7/14
B60L 7/24
B60W 10/04
B60W 10/08
B60W 10/188
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動制御装置であって、
車両に設けられた駆動輪に接続される電動モータから前記駆動輪に駆動力又は制動力を与えるための駆動制動トルクを発生させ、前記電動モータが前記駆動輪に与える力が駆動力から制動力に切り替わるときに前記駆動制動トルクの変化量を緩めるモータ制御部(121)と、
前記駆動輪または従動輪を摩擦制動する摩擦制動装置を制御し、前記駆動制動トルクでは不足する制動力を補うように前記摩擦制動装置を作動させる摩擦制御部(103)と、
前記車両の加速度を検出する加速度検出部(101)と、
前記車両の加速度の目標値である目標加速度の軌跡、及び、前記摩擦制動装置が制動力を発生させるタイミングの目標値である目標タイミングを算出する目標値算出部(104)と、
検出された前記車両の加速度と、前記目標加速度とに基づいて、前記制動力が実際に発生したタイミングと前記目標タイミングとのずれを算出し、前記ずれを打ち消すように前記摩擦制動装置を立ち上げるタイミングを補正する補正部(105)と、を備える制動制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の制動制御装置であって、
前記補正部は、検出された前記車両の加速度が所定の閾値を超える時刻と、前記目標加速度が前記所定の閾値を超える時刻との差分に基づいて前記ずれを算出する、制動制御装置。
【請求項3】
請求項に記載の制動制御装置であって、
前記補正部は、検出された前記車両の加速度と前記目標加速度との差分の最大値と、当該最大値を取るときの前記目標加速度の変化量とに基づいて前記ずれを算出する、制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車において、アクセルを解放して走行状態から停止状態に移行する際に、モータが発生させるトルクを走行トルクから回生トルクに徐々に変化させることで、速やかに減速して停止する制御方法がある。このとき、モータが発生させるトルクが走行トルクから回生トルクに切り替わる際に、モータと駆動輪との間に設けられた減速機等のギアのバックラッシュにより衝撃や騒音が発生し、乗り心地が悪化することがある。この問題に対処するため、例えば下記特許文献1には、車両の停止制御に入る際に、回生トルク指令信号の立ち上げの出力波形を滑らかにすることで、バックラッシュに起因する衝撃や騒音を低減する電気自動車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-130911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両を停止させる際には、乗り心地の向上のため、衝撃や騒音の低減に加えて、車両の加速度が滑らかに変化することが好ましい。しかしながら、上記特許文献1に開示された電気自動車によると、走行トルクから回生トルクに切り替わる際に当該トルクの変化量が緩められるので、制動力が不足し、車両の加速度が段階的に変動することで乗り心地が悪化するおそれがある。
【0005】
本開示は、バックラッシュに起因する衝撃や騒音を低減しつつ、車両の加速度を滑らかに変動させることができる制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、制動制御装置であって、車両に設けられた駆動輪に接続される電動モータから駆動輪に駆動力又は制動力を与えるための駆動制動トルクを発生させるモータ制御部(121)と、駆動輪または従動輪を摩擦制動する摩擦制動装置を制御する摩擦制御部(103)と、を備えている。電動モータが駆動輪に与える力が駆動力から制動力に切り替わるときに、モータ制御部が駆動制動トルクの変化量を緩めるとともに、駆動制動トルクでは不足する制動力を補うように摩擦制御部が摩擦制動装置を作動させる。
【0007】
本開示では、電動モータから駆動輪に与えられる力が駆動力から制動力に切り替わるときに、駆動制動トルクの変化量が緩められるので、駆動力から制動力に切り替わる際に生じるバックラッシュに起因する衝撃や騒音を低減させることができる。この際、駆動制動トルクの変化量の減少によって不足する制動力を補うように摩擦制動装置が作動するので、車両の加速度を滑らかに変動させることができ、乗り心地が向上する。車両の停止時になるべく電動モータの回生制動力を活用することができるので、発電量を確保することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、バックラッシュに起因する衝撃や騒音を低減しつつ、車両の加速度を滑らかに変動させることができる制動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態における車両の概略構成を示す図である。
図2図2は、図1における信号の授受を説明するための図である。
図3図3は、図1における制御フローを説明するためのフローチャートである。
図4図4は、本実施形態における各種パラメータの変動を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
図1に示されるように、車両2には、右前輪215R及び左前輪215Lと、右後輪216R及び左後輪216Lと、が設けられている。右前輪215R及び左前輪215Lは、それぞれ、車両2を駆動するための駆動輪として機能している。右後輪216R及び左後輪216Lは、それぞれ、右前輪215R及び左前輪215Lの駆動に伴って回転する従動輪として機能している。
【0012】
右前輪215R、左前輪215L、右後輪216R、及び左後輪216Lには、それぞれ、右前摩擦ブレーキ231R、左前摩擦ブレーキ231L、右後摩擦ブレーキ232R、及び左後摩擦ブレーキ232Lが設けられている。右前摩擦ブレーキ231R、左前摩擦ブレーキ231L、右後摩擦ブレーキ232R、及び左後摩擦ブレーキ232Lは、それぞれ、対応する車輪に摩擦力を加えることで車輪を摩擦制動する摩擦制動装置の一具体例である。以下の説明において、特に区別する必要がない場合は、右前摩擦ブレーキ231R、左前摩擦ブレーキ231L、右後摩擦ブレーキ232R、及び左後摩擦ブレーキ232Lをまとめて摩擦ブレーキともいう。
【0013】
車両2には、インバータ211と、モータジェネレータ212と、電池213と、デファレンシャルギア214と、が設けられている。インバータ211は、モータジェネレータ212と電池213との間に設けられている。電池213に蓄えられた電力を用いてモータジェネレータ212を駆動する場合、インバータ211は電池213から出力される直流電流を三相交流電流に変換し、モータジェネレータ212に供給する。モータジェネレータ212を発電機として利用し、回生制動する場合には、インバータ211はモータジェネレータ212から出力される三相交流電流を直流電流に変換し、電池213に供給する。
【0014】
モータジェネレータ212は、電動機と発電機とを兼用する電動発電機である。モータジェネレータ212は、図示しない減速機及び差動装置であるデファレンシャルギア214を介して駆動輪である右前輪215R及び左前輪215Lと繋がっている。インバータ211から三相交流電流が供給されると、モータジェネレータ212は供給される三相交流電流に応じて回動し、減速機及びデファレンシャルギア214を介して右前輪215R及び左前輪215Lを駆動する。回生制動される場合、右前輪215R及び左前輪215Lの回転がデファレンシャルギア214及び減速機を介してモータジェネレータ212に伝達される。電池213に蓄電可能である場合には、モータジェネレータ212の軸回転により発電され、発生する三相交流電流がインバータ211によって直流電流に変換され電池213に供給される。
【0015】
デファレンシャルギア214には、モータジェネレータ212側のギアと駆動輪側のギアがスムーズに噛み合うように、両ギアの間にある程度の隙間、いわゆるバックラッシュが設けられている。モータジェネレータ212とデファレンシャルギア214とを接続する減速機のギアにも同様にバックラッシュが設けられている。モータジェネレータ212が発生させるトルクが駆動トルクから制動トルクに切り替わる際には、これらのギアの当たる方向が逆転し衝突することにより、衝撃や騒音が発生することがある。この衝撃や騒音を低減させる構成については後述する。
【0016】
車両2には、ESC-ECU(Electronic Stability Control-Electronic Control Unit)10と、EV-ECU(Electric Vehicle-Electronic Control Unit)12と、MG-ECU(Motor Generator-Electronic Control Unit)14と、が設けられている。
【0017】
ESC-ECU10は、車両2の挙動を安定させるための装置である。ESC-ECU10には、Gセンサ221と、ヨーレートセンサ222と、右前車輪速センサ223Rと、左前車輪速センサ223Lと、右後車輪速センサ224Rと、左後車輪速センサ224Lと、液圧センサ225と、から検出信号が出力される。
【0018】
Gセンサ221は、車両2の加速及び減速時の加速度を計測するためのセンサである。Gセンサ221は、車両2の前後方向における加速及び減速時の加速度を示す信号をESC-ECU10に出力する。ヨーレートセンサ222は、車両2の垂直軸周りの角速度を計測するためのセンサである。ヨーレートセンサ222は、車両2の垂直軸周りの角速度を示す信号をESC-ECU10に出力する。
【0019】
右前車輪速センサ223Rは、右前輪215Rの車輪速度を計測するためのセンサである。右前車輪速センサ223Rは、右前輪215Rの車輪速度を示す信号をESC-ECU10に出力する。
【0020】
左前車輪速センサ223Lは、左前輪215Lの車輪速度を計測するためのセンサである。左前車輪速センサ223Lは、左前輪215Lの車輪速度を示す信号をESC-ECU10に出力する。
【0021】
右後車輪速センサ224Rは、右後輪216Rの車輪速度を計測するためのセンサである。右後車輪速センサ224Rは、右後輪216Rの車輪速度を示す信号をESC-ECU10に出力する。
【0022】
左後車輪速センサ224Lは、左後輪216Lの車輪速度を計測するためのセンサである。左後車輪速センサ224Lは、左後輪216Lの車輪速度を示す信号をESC-ECU10に出力する。
【0023】
液圧センサ225は、図示しないアクセルペダルの液圧を計測するためのセンサである。アクセルペダルの液圧は、ドライバー操作によるアクセルペダルの踏込量に伴って変動し、アクセル開度に対応する。液圧センサ225は、アクセルペダルの液圧を示す信号をESC-ECU10に出力する。本実施形態では、アクセルペダルの踏込量により車両2の駆動及び制動を制御することができる、いわゆるワンペダル制御が可能な車両であるものとして説明する。アクセルペダルの液圧は、ドライバーによる制動操作量を示すパラメータの一例である。制動操作量を示すパラメータはこれに限定されず、例えばアクセルペダルに替えてブレーキペダルの踏込量であってもよい。
【0024】
ESC-ECU10は、Gセンサ221、ヨーレートセンサ222、右前車輪速センサ223R、左前車輪速センサ223L、右後車輪速センサ224R、左後車輪速センサ224L、及び液圧センサ225から出力される信号に基づいて、車両2の挙動を安定させたり車両2を停止させたりするための演算を実行する。ESC-ECU10は、演算結果に基づいて、EV-ECU12に車両2の車体速度を調整するための信号を出力する。ESC-ECU10は、演算結果に基づいて、右前摩擦ブレーキ231R、左前摩擦ブレーキ231L、右後摩擦ブレーキ232R、及び左後摩擦ブレーキ232Lに、摩擦制動を行うための制御信号を出力する。
【0025】
EV-ECU12は、ESC-ECU10から出力される車体速度の情報、MG-ECU14から出力されるモータジェネレータ212の回転数、及び、アクセル開度等のドライバー操作や図示しない各種センサから出力される信号が示す情報に基づいて、モータジェネレータ212が発生すべき回転数に対応するトルクをMG-ECU14に出力する。
【0026】
MG-ECU14は、モータジェネレータ212が所定のトルクを発生するように、インバータ211に制御信号を出力する。MG-ECU14は、モータジェネレータ212の回転数を計測する。MG-ECU14は、モータジェネレータ212の回転数を示す情報をEV-ECU12に出力する。
【0027】
続いて、図2を参照しながら、ESC-ECU10、EV-ECU12、及びMG-ECU14の機能的な動作について説明する。
【0028】
図2に示されるように、EV-ECU12は、機能的な構成要素としてモータ制御部121を備えている。
【0029】
モータ制御部121は、車両2に設けられた駆動輪である右前輪215R及び左前輪215Lに接続される電動モータであるモータジェネレータ212から駆動輪である右前輪215R及び左前輪215Lに駆動力又は制動力を与えるための駆動制動トルクを発生させる部分である。モータ制御部121は、各種センサから出力される情報、ESC-ECU10から出力される情報、MG-ECU14から出力される情報を集約し、モータジェネレータ212への指示トルクを決定し、MG-ECU14へ出力する。
【0030】
ESC-ECU10は、機能的な構成要素として、加速度検出部101と、踏込量検出部102と、摩擦制御部103と、目標値算出部104と、補正部105と、を備えている。
【0031】
加速度検出部101は、車両2の加速度を検出する部分である。車両2の加速度は、例えばGセンサ221の出力信号によって取得することができる。あるいは、車両2の加速度は、従動輪である右後輪216R及び左後輪216Lの車輪速度、及びGPS情報のいずれか又は組み合わせから求められる車両2の車体速度に基づいて求められてもよい。右後輪216Rの車輪速度は、右後車輪速センサ224Rの出力信号によって取得することができる。左後輪216Lの車輪速度は、左後車輪速センサ224Lの出力信号によって取得することができる。車輪速度は、右後輪216Rの車輪速度と左後輪216Lの車輪速度との平均値から求めることができる。車両2のGPS情報は、図示しないGPS情報取得装置によって取得することができる。
【0032】
車両2の加速度は、モータジェネレータ212の回転数及び減速比から求めることも可能である。車両2の加速度は、駆動輪軸に設けられた回転センサや減速機に設けられた回転センサの出力値から求めることも可能である。
【0033】
踏込量検出部102は、液圧センサ225から出力されるアクセルペダルの液圧を示す信号に基づいて、アクセルペダルの踏込量を検出する部分である。踏込量検出部102は、アクセルペダルの踏込量に基づいて、アクセル開度を算出する。
【0034】
摩擦制御部103は、摩擦ブレーキに制御信号を出力して摩擦ブレーキの動作を制御する部分である。摩擦ブレーキは、制御信号に応答してシリンダーの油圧が上がることでブレーキパッドが移動し、車輪とともに回転するディスクローターにブレーキパッドを押し当てることで制動力を発生させる。従って、摩擦制御部103からの制御信号に応答してシリンダーの油圧が上がってから、実際に制動力が発生するまでの間に遅れ時間が生じる。この遅れ時間は、ブレーキパッドを駆動するピストンのシール部の温度依存性や経年劣化によってばらつきがあるので、摩擦ブレーキによる制動力は所望のタイミングより早く発生したり、遅く発生したりする。以下では、摩擦制御部103が摩擦ブレーキに制御信号を出力するタイミングを「摩擦ブレーキを立ち上げるタイミング」ともいい、摩擦ブレーキによる制動力が実際に発生するタイミングを「制動力又は制動トルクが発生するタイミング」ともいう。
【0035】
目標値算出部104は、車両2の加速度の目標値である目標加速度の軌跡、モータジェネレータ212が発生させる駆動制動トルクの目標値である目標駆動制動トルクの軌跡、及び摩擦ブレーキが発生させる制動トルクの目標値である目標制動トルクの軌跡を算出する部分である。目標値算出部104は、MG-ECU14から取得されるモータジェネレータ212が実際に発生させている駆動制動トルクと、加速度検出部101が検出する車両2の実際の加速度と、に基づいて、車両2の目標加速度の軌跡を算出する。目標値算出部104は、算出された目標加速度の軌跡に基づいて、モータジェネレータ212の目標駆動制動トルクの軌跡を算出する。目標値算出部104は、算出された目標加速度の軌跡と、目標駆動制動トルクの軌跡とに基づいて、摩擦ブレーキの目標制動トルクの軌跡を算出する。目標制動トルクの軌跡の算出にあたって、目標値算出部104は、摩擦ブレーキによる制動力を発生させるタイミングの目標値である目標タイミングを算出する。
【0036】
補正部105は、算出された目標加速度と、検出された車両2の実際の加速度とに基づいて、摩擦ブレーキによる制動力を発生させるべき目標タイミングと、実際に制動力が発生したタイミングとのずれを算出し、算出されたずれを打ち消すように摩擦ブレーキを立ち上げるタイミングを補正する部分である。補正の方法の詳細については後述する。
【0037】
加速度検出部101が検出した車両2の加速度、踏込量検出部102が検出したアクセル開度、及び目標値算出部104が算出した目標加速度の軌跡並びにモータジェネレータ212の目標駆動制動トルクの軌跡は、EV-ECU12に出力される。
【0038】
続いて、図3及び図4を参照しながら、加速度検出部101、踏込量検出部102、摩擦制御部103、目標値算出部104、補正部105、及びモータ制御部121の具体的な制御内容について説明する。図4は、各種パラメータの変動を示すタイミングチャートである。図4において、(a)はアクセル開度(%)を示し、(b)はモータジェネレータ212が発生させる駆動制動トルク(N・m)を示し、(c)は摩擦ブレーキのシリンダーの油圧(MPa)を示し、(d)は摩擦ブレーキが発生させる制動トルク(N・m)を示し、(e)は車両2の加速度(G)を示す。
【0039】
図4(b)においてモータジェネレータ212の駆動制動トルクは、正の場合に駆動力を与え、負の場合に制動力を与えるものとする。図4(d)において摩擦ブレーキの制動トルクは、正の場合に制動力を与えるものとする。図4(e)において車両2の加速度は、車両2の進行方向を正とした場合に生じる加速度であるものとする。
【0040】
図4(d)及び(e)において、軌跡201,301は摩擦ブレーキの制動トルクが目標タイミングより早く発生した場合を示す。軌跡202,302は摩擦ブレーキの制動トルクが目標タイミングどおりに発生した場合を示す。軌跡203,303は摩擦ブレーキの制動トルクが目標タイミングより遅く発生した場合を示す。図4(e)において、軌跡304は比較例として摩擦ブレーキを用いない場合を示す。
【0041】
図3に示されるように、ステップS101では、踏込量検出部102が、アクセル開度の変化に基づいて駆動制御から制動制御に切り替わることを検出する。駆動制御から制動制御への切り替わりは、例えばアクセル開度が所定の閾値未満となったことに基づいて検出されてもよい。踏込量検出部102が駆動制御から制動制御への切り替わりを検出した場合(ステップS101においてYES)、ステップS102の処理に進む。踏込量検出部102が駆動制御から制動制御への切り替わりを検出しない場合(ステップS101においてNO)、ステップS101の処理を繰り返す。
【0042】
ステップS101に続くステップS102では、目標値算出部104が、モータジェネレータ212の駆動制動トルクと、加速度検出部101が検出する車両2の実際の加速度と、に基づいて、車両2の目標加速度の軌跡を算出する。目標加速度の軌跡は、車両2が停止するまでの間に加速度が上がったり下がったりすることなく、図4(e)の軌跡302に示されるように滑らかに変動する軌跡である。
【0043】
ステップS102に続くステップS103では、算出された目標加速度の軌跡302に基づいて、目標値算出部104が、モータジェネレータ212の目標駆動制動トルクの軌跡を算出する。
【0044】
図4(b)に示されるように、目標駆動制動トルクは、例えばアクセル開度が低下し始めた区間A1では、所定の変化量で減少する。区間A1に続く区間A2では、区間A1の変化量より緩められた変化量で減少するか、又は変化せずほぼ一定であってもよい。区間A2における目標駆動制動トルクは、ほぼ0(N・m)であってもよい。区間A2に続く区間A3では、再び区間A2より大きい変化量で減少する。区間A2には、モータジェネレータ212が発生させる駆動制動トルクが正から負に切り替わるとき、すなわちモータジェネレータ212が駆動輪に与える力が駆動力から制動力に切り替わるときが含まれている。区間A2において目標駆動制動トルクの変化量を他の区間より小さくすることにより、バックラッシュに起因するギアの衝突を緩和し、衝撃や騒音を低減させることができる。
【0045】
目標値算出部104は、算出したモータジェネレータ212の目標駆動制動トルクを示す信号をモータ制御部121に出力する。なお、目標値算出部104に替えて、モータ制御部121が目標駆動制動トルクの軌跡を算出してもよい。モータジェネレータ212は、概ね目標駆動制動トルクの軌跡のとおりに駆動制動トルクを発生させられるものとする。
【0046】
ステップS103に続くステップS104では、目標値算出部104が、算出された目標加速度の軌跡302及び目標駆動制動トルクの軌跡に基づいて、摩擦ブレーキの目標制動トルクの軌跡202を算出する。目標値算出部104は、予め推定される摩擦ブレーキの遅れ時間を考慮して、目標制動トルクが発生するより前に摩擦ブレーキを立ち上げるように摩擦制御部103に信号を出力する。目標値算出部104からの信号に応じて、摩擦制御部103は、図4(c)に示されるように、モータジェネレータ212の駆動制動トルクが減少し始めてからt秒後に摩擦ブレーキを立ち上げるものとする。
【0047】
仮に摩擦ブレーキを用いなかった場合、図4(e)の軌跡304に示されるように、車両2の加速度は、モータジェネレータ212が発生させる駆動制動トルクに伴って、段階的に変動することとなる。この点、本実施形態では、区間A2におけるモータジェネレータ212の回生制動力の不足分を補うように摩擦ブレーキが作動することで、車両2の加速度の変動が滑らかになる。具体的には、摩擦ブレーキの目標制動トルクの軌跡202は、例えば区間A2から増加し始め、区間A2と区間A3の境界においてピークに至り、区間A3では減少に転じるような軌跡であってよい。
【0048】
ステップS104に続くステップS105では、補正部105が、加速度検出部101が検出した実際の加速度の軌跡と、目標値算出部104が算出した目標加速度の軌跡302と、に基づいて、摩擦ブレーキによる制動トルクが実際に発生したタイミングと、目標タイミングとのずれを算出する。当該ずれの算出方法は特に限定されないが、例として以下に2つの方法について説明する。以下の説明では、例えば摩擦ブレーキの実際の制動トルクの軌跡が図4(d)の軌跡201であり、車両2の実際の加速度の軌跡が図4(e)の軌跡301であったとする。
【0049】
一つ目の方法として、補正部105は、車両の加速度に所定の閾値を予め設定し、実際の加速度が閾値を超える時刻P1と、目標加速度が閾値を超える時刻P2とを比較する。閾値を超えるとは、閾値を正方向に超えること及び負方向に超えることを含む。例えば車両2の加速度において進行方向を正とした場合、閾値を超えるとは、閾値未満となることを意味する。当該閾値は、例えば-0.05G程度であってもよい。
【0050】
補正部105は、時刻P1と時刻P2の差分t=P2-P1(>0)を算出する。モータジェネレータ212の駆動制動トルクは、目標駆動制動トルクのとおりに変動すると仮定すると、差分tは、摩擦ブレーキの遅れ時間のばらつきに起因するものと考えられる。従って、補正部105は、加速度から求められる差分tと、制動トルクが発生するタイミングのずれtとの対応関係のデータを予め取得し、当該データを参照して、差分tに対応するずれtを算出することができる。
【0051】
二つ目の方法として、補正部105は、車両2の実際の加速度と目標加速度との差分を随時算出し、この加速度の差分の最大値GMAXと、最大値GMAXを取る時刻P3における目標加速度の変化量を取得する。一つ目の方法と同様に、この加速度の差分は摩擦ブレーキの遅れ時間のばらつきに起因するものと考えられる。また、加速度の差分が最大値GMAXを取る時刻P3では、モータジェネレータ212の駆動制動トルクがほぼ0(N・m)であると仮定することができるので、車両2の目標加速度の変化量は、摩擦ブレーキの制動トルクに依存すると考えられる。従って、補正部105は、最大値GMAXを、時刻P3における目標加速度の変化量で割ることで、最大値GMAXに対応するずれtを算出することができる。これに替えて、補正部105は、最大値GMAXと、制動トルクが発生するタイミングのずれtとの対応関係のデータを予め取得し、当該データを参照して、最大値GMAXに対応するずれtを算出してもよい。
【0052】
なお、二つ目の方法において、時刻P3におけるモータジェネレータ212の駆動制動トルクがほぼ0(N・m)であると仮定できない場合、補正部105は、最大値GMAXを目標加速度の変化量で割る代わりに、目標加速度の変化量から駆動制動トルクの寄与分を差し引いた値で割ることで、ずれtを算出してもよい。
【0053】
ステップS105に続くステップS106では、補正部105が、制動トルクが発生するタイミングのずれtに基づいて、当該ずれtを打ち消すように摩擦ブレーキを立ち上げるタイミングを補正する。補正部105は、例えばN+1回目(Nは整数)の摩擦ブレーキを立ち上げる時刻tN+1をtN+1=t+tに更新する。例えば図4(d)の軌跡201のように制動トルクの発生が目標より早い場合、t>0となり、N+1回目の摩擦ブレーキを立ち上げる時刻は遅くなる。例えば図4(d)の軌跡203のように制動トルクの発生が目標より遅い場合、t<0となり、N+1回目の摩擦ブレーキを立ち上げる時刻は早くなる。車両2は、走行中に当該補正を繰り返すことで、摩擦ブレーキの適切な立ち上げのタイミングを学習する。
【0054】
ステップS106に続くステップS107では、補正部105が、補正の学習が終了したか否かを判定する。学習の終了の判定は、例えば規定回数の補正を行ったことに基づいて行われてもよく、制動トルクの発生のずれが所定の閾値内に収まったことに基づいて行われてもよい。学習が終了したと判定された場合(ステップS107においてYES)、リターンする。学習が終了していないと判定された場合(ステップS107においてNO)、ステップS101の処理に戻る。
【0055】
本実施形態では、ESC-ECU10、EV-ECU12、及びMG-ECU14を含めて制動制御装置を構成している。制動制御装置は、車両2に設けられた駆動輪に接続される電動モータであるモータジェネレータ212から駆動輪に駆動力又は制動力を与えるための駆動制動トルクを発生させるモータ制御部121と、駆動輪または従動輪を摩擦制動する摩擦制動装置を制御する摩擦制御部103と、を備えている。電動モータが駆動輪に与える力が駆動力から制動力に切り替わるときに、モータ制御部121が駆動制動トルクの変化量を緩めるとともに、駆動制動トルクでは不足する制動力を補うように摩擦制御部103が摩擦制動装置を作動させる。
【0056】
本実施形態では、電動モータから駆動輪に与えられる力が駆動力から制動力に切り替わるときに、駆動制動トルクの変化量が緩められるので、駆動力から制動力に切り替わる際に生じるバックラッシュに起因する衝撃や騒音を低減させることができる。この際、駆動制動トルクの変化量の減少によって不足する制動力を補うように摩擦制動装置が作動するので、車両の加速度を滑らかに変動させることができ、乗り心地が向上する。車両の停止時になるべく電動モータの回生制動力を活用することができるので、発電量を確保することができる。
【0057】
本実施形態において、制動制御装置は、車両2の加速度を検出する加速度検出部101と、車両2の加速度の目標値である目標加速度の軌跡、及び、摩擦制動装置が制動力を発生させるタイミングの目標値である目標タイミングを算出する目標値算出部104と、検出された車両2の加速度と、目標加速度とに基づいて、制動力が実際に発生したタイミングと目標タイミングとのずれを算出し、ずれを打ち消すように摩擦制動装置を立ち上げるタイミングを補正する補正部105と、をさらに備える。
【0058】
摩擦制動装置がブレーキパッドの押圧により車輪への制動力を発生させる際に、ブレーキパッドを駆動するピストンのシール部の温度依存性や経年劣化により、摩擦制動装置の制動力が実際に発生するタイミングが目標とするタイミングからずれることがある。本実施形態では、補正部105が当該ずれを打ち消すように摩擦制動装置を立ち上げるタイミングを補正することにより、摩擦制動装置による制動力が発生するタイミングのばらつきが抑制され、制動制御の精度が向上する。
【0059】
本実施形態において補正部105は、検出された車両2の加速度が所定の閾値を超える時刻と、目標加速度が所定の閾値を超える時刻との差分に基づいてずれを算出してもよい。
【0060】
車両2の実際の加速度と目標加速度との間にずれが生じるのは、摩擦制動装置が実際に制動力を発生させるタイミングと目標タイミングとの間に差があることに起因すると考えられる。従って、車両2の実際の加速度と目標加速度とが所定の閾値を超える時刻の差分を検出することで、摩擦制動装置が制動力を発生させるタイミングのずれを算出することができる。
【0061】
本実施形態において補正部105は、検出された車両2の加速度と目標加速度との差分の最大値と、当該最大値を取るときの目標加速度の変化量とに基づいてずれを算出してもよい。
【0062】
車両2の実際の加速度と目標加速度との間にずれが生じるのは、摩擦制動装置が実際に制動力を発生させるタイミングと目標タイミングとの間に差があることに起因すると考えられる。従って、車両2の実際の加速度と目標加速度との差分の最大値と、当該最大値を取るときの目標加速度の変化量とを検出することで、摩擦制動装置が制動力を発生させるタイミングのずれを算出することができる。
【0063】
本実施形態では、一例として補正部105が摩擦ブレーキを立ち上げるタイミングを補正する方法について説明したが、補正部105が補正するパラメータは摩擦ブレーキを立ち上げるタイミングに限らず、例えば摩擦ブレーキにより得られるトルクの変化量等であってもよい。
【0064】
本実施形態では、加速度検出部101、踏込量検出部102、摩擦制御部103、目標値算出部104、及び補正部105がESC-ECU10に備えられ、モータ制御部121がEV-ECU12に備えられているが、これらの機能部を実現する物理的な構成要素はこれに限定されない。例えばこれらの機能部の全部又は一部が異なる構成要素によって実現され、ネットワークを経由してこれらの構成要素が通信可能に接続されていてもよい。
【0065】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0066】
2:車両
10:ESC-ECU(制動制御装置)
101:加速度検出部
102:踏込量検出部
103:摩擦制御部
104:目標値算出部
105:補正部
12:EV-ECU(制動制御装置)
121:モータ制御部
14:MG-ECU(制動制御装置)
211:インバータ
212:モータジェネレータ
213:電池
214:デファレンシャルギア
221:Gセンサ
222:ヨーレートセンサ
225:液圧センサ
図1
図2
図3
図4