(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】電解抽出装置および電解抽出方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/46 20060101AFI20231010BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20231010BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20231010BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20231010BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20231010BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20231010BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20231010BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231010BHJP
【FI】
B01D61/46 500
C25B1/01 Z
C25B13/04 301
C25B11/03
B01D69/00 500
G21F9/06 561
G21F9/06 511A
G21F9/06 511E
G21F9/12 501J
G21F9/12 501K
C25B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2019205904
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-02-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優也
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-015549(JP,B1)
【文献】特開平03-026303(JP,A)
【文献】特公昭56-042964(JP,B1)
【文献】特開昭46-006510(JP,A)
【文献】特開2011-069670(JP,A)
【文献】特開昭64-32197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
39/00 - 41/04
11/00 - 12/00
C25B 1/00 - 9/77
13/00 - 15/08
11/00 - 11/097
C25C 1/00 - 7/08
G21C 19/00 - 19/50
23/00
G21F 9/00 - 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンが含まれる第1溶液が収容された第1電解槽と、
前記第1電解槽と連通され、前記第1電解槽から前記金属イオンが移動する第2溶液が収容された第2電解槽と、
前記第1溶液に接触する位置に設けられ、かつ
電圧が
印加されることにより、前記第1電解槽にある前記金属イオンの価数を第1特定価数に調整する第1電極と、
連通された前記第1電解槽の内部と前記第2電解槽の内部とを仕切り、前記第1特定価数の前記金属イオンを吸着する抽出剤が含浸され
、前記第1電解槽の前記第1溶液から前記第2電解槽の前記第2溶液に前記金属イオンが移動可能となっている抽出膜と、
前記第2溶液に接触する位置に設けられ、かつ
電圧が
印加されることにより、前記抽出膜に吸着された前記金属イオンの前記価数を
前記抽出膜に対して抽出性のある前記第1特定価数
から前記抽出膜に対して非抽出性の第2特定価数に調整
して前記金属イオンを前記抽出膜から脱離させる第2電極と、
を備え、
前記第1特定価数は、
電圧により調整されるものであり、前記抽出膜の前記金属イオンに対する吸着性能を、前記第1電極に
電圧を
印加し
て向上させるものであり、
前記第2特定価数は、
電圧により調整されるものであり、前記抽出膜の前記金属イオンに対する吸着性能を、前記第2電極に
電圧を
印加し
て低下させるものである、
電解抽出装置。
【請求項2】
前記抽出剤には、前記第2特定価数の前記金属イオンの吸着率よりも前記第1特定価数の前記金属イオンの前記吸着率が高くなっているものが用いられている、
請求項1に記載の電解抽出装置。
【請求項3】
前記第1電解槽に収容された前記第1溶液に複数種類の前記金属イオンが含まれており、
前記第1電極
を用いて、印加する電圧を調整することで、前記第1溶液に含まれている特定種類の前記金属イオンを前記抽出膜で吸着可能な前記第1特定価数の前記価数に調整する、
請求項1または請求項2に記載の電解抽出装置。
【請求項4】
前記第1電極
を用いて、印加する電圧を調整することで、前記第1溶液に含まれている前記特定種類以外の前記金属イオンを前記第1特定価数以外の前記価数に調整する、
請求項3に記載の電解抽出装置。
【請求項5】
前記第1電極と前記第2電極の少なくともいずれか一方が多孔質材料となっている、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電解抽出装置。
【請求項6】
前記第1電極と前記第2電極の少なくともいずれか一方がメッシュ状を成し、前記抽出膜の面に沿って広がり、前記抽出膜に接触して配置または前記抽出膜の近傍に配置される、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電解抽出装置。
【請求項7】
前記第1電極および前記第2電極が前記メッシュ状を成し、前記抽出膜を挟む位置に配置される、
請求項6に記載の電解抽出装置。
【請求項8】
金属イオンが含まれる第1溶液を第1電解槽に収容するステップと、
前記第1溶液に電圧が印加されることにより、前記第1電解槽にある前記金属イオンの価数を第1特定価数に調整するステップと、
前記第1特定価数の前記金属イオンを吸着する抽出剤が含浸され
、前記第1電解槽の前記第1溶液から第2電解槽の第2溶液に前記金属イオンが移動可能となっている抽出膜に
、この抽出膜に対して抽出性のある前記第1特定価数の前記金属イオンが吸着されるステップと、
前記第2電解槽に収容された
前記第2溶液に電圧が印加されることにより、前記抽出膜に吸着された前記金属イオンの前記価数を前記第1特定価数
から前記抽出膜に対して非抽出性の第2特定価数に調整
して前記金属イオンを前記抽出膜から脱離させるステップと、
前記第2溶液に前記抽出膜から脱離された前記第2特定価数の前記金属イオンが移動するステップと、
を含み、
前記第1特定価数は、
電圧により調整されるものであり、前記抽出膜の前記金属イオンに対する吸着性能を、前記第1溶液に電圧
を印加
して向上させるものであり、
前記第2特定価数は、
電圧により調整されるものであり、前記抽出膜の前記金属イオンに対する吸着性能を、前記第2溶液に電圧
を印加
して低下させるものである、
電解抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電解抽出装置および電解抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液に含まれる金属を分離回収する技術として、遠心抽出装置を用いたものがあり、抽出前の溶液の価数を調整する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】石森富太郎、中村永子、JAERI-1047 日本原子力研究所
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠心抽出装置以外にも、抽出膜を用いて金属を分離回収する技術がある。このような金属を分離回収する技術では、抽出効率をさらに向上させたいという要望がある。
【0006】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、溶液に含まれる金属の抽出効率を向上させることができる電解抽出技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る電解抽出装置は、金属イオンが含まれる第1溶液が収容された第1電解槽と、前記第1電解槽と連通され、前記第1電解槽から前記金属イオンが移動する第2溶液が収容された第2電解槽と、前記第1溶液に接触する位置に設けられ、かつ電圧が印加されることにより、前記第1電解槽にある前記金属イオンの価数を第1特定価数に調整する第1電極と、連通された前記第1電解槽の内部と前記第2電解槽の内部とを仕切り、前記第1特定価数の前記金属イオンを吸着する抽出剤が含浸され、前記第1電解槽の前記第1溶液から前記第2電解槽の前記第2溶液に前記金属イオンが移動可能となっている抽出膜と、前記第2溶液に接触する位置に設けられ、かつ電圧が印加されることにより、前記抽出膜に吸着された前記金属イオンの前記価数を前記抽出膜に対して抽出性のある前記第1特定価数から前記抽出膜に対して非抽出性の第2特定価数に調整して前記金属イオンを前記抽出膜から脱離させる第2電極と、を備え、前記第1特定価数は、電圧により調整されるものであり、前記抽出膜の前記金属イオンに対する吸着性能を、前記第1電極に電圧を印加して向上させるものであり、前記第2特定価数は、電圧により調整されるものであり、前記抽出膜の前記金属イオンに対する吸着性能を、前記第2電極に電圧を印加して低下させるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、溶液に含まれる金属の抽出効率を向上させることができる電解抽出技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】ネプツニウムの分配比の硝酸濃度依存性を示すグラフ。
【
図3】第1実施形態の電解抽出方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、電解抽出装置および電解抽出方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態の電解抽出装置および電解抽出方法について
図1から
図3を用いて説明する。
【0011】
図1の符号1は、第1実施形態の電解抽出装置である。電解抽出装置1は、第1電解槽2と第2電解槽3と第1電極4と第2電極5と槽接続部6と抽出膜7と制御部8とを備える。
【0012】
第1電解槽2および第2電解槽3は、箱状を成す容器である。第1電解槽2には、金属イオンMが含まれる第1溶液11が収容される。第2電解槽3には、第2溶液12が収容される。なお、第1溶液11および第2溶液12には、硝酸濃度が異なる液組成のものを用いても良いし、硝酸濃度が同じ液組成のものを用いても良い。
【0013】
第1電解槽2(供給槽)には、導入口9が設けられている。この導入口9から第1溶液11が供給される。第2電解槽3(回収槽)には、排出口10が設けられている。この排出口10から回収対象となる金属イオンMを含む第2溶液12が回収される。
【0014】
なお、バッチ処理の場合は、第1電解槽2の内部と第2電解槽3の内部の溶液をくみ出して入れ替えることがある。例えば、第1電解槽2から溶液をくみ出す際には、導入口9が排出口となり得る。また、第2電解槽3に溶液を導入する際には、排出口10が導入口となり得る。
【0015】
また、第1電解槽2(供給槽)に対する第1溶液11の導入と排出を連続的に実施しても良い。例えば、第1電解槽2に対して、導入口9の他に排出口を設けるようにし、導入口9から第1溶液11を導入し続けるとともに、排出口から第1溶液11を排出し続けるようにしても良い。
【0016】
また、第2電解槽3(回収槽)に対する第2溶液12の導入と排出を連続的に実施しても良い。例えば、第2電解槽3に対して、排出口10の他に導入口を設けるようにし、導入口から第2溶液12を導入し続けるとともに、排出口10から第2溶液12を排出し続けるようにしても良い。
【0017】
槽接続部6は、第1電解槽2と第2電解槽3とを連通可能な状態で接続する。この槽接続部6に抽出膜7が設けられている。第1電解槽2の内部と第2電解槽3の内部とが、抽出膜7により仕切られている。抽出膜7により隔てられることで、第1電解槽2の第1溶液11と第2電解槽3の第2溶液12とが混じらないようになっている。この抽出膜7には、金属イオンMを吸着する抽出剤が含浸されている。
【0018】
抽出膜7は、抽出剤が含浸可能な多孔質の樹脂などで構成される板状(フィルム状)を成す部材である。この抽出膜7を介して第1電解槽2の第1溶液11から第2電解槽3の第2溶液12に金属イオンMが移動可能となっている。なお、抽出膜7は、イオン交換樹脂で構成されても良い。
【0019】
第1電極4は、第1電解槽2の内部に設けられている。第2電極5は、第2電解槽3の内部に設けられている。制御部8は、第1電極4および第2電極5に電力を供給し、第1溶液11および第2溶液12に含まれる金属物質を所定の価数(原子価、イオン価)の金属イオンMにする制御を行う。
【0020】
本実施形態の電解抽出装置1は、第1電極4および第2電極5を用いて、第1溶液11および第2溶液12に含まれる金属イオンMを価数調整することで、抽出性および非抽出性の金属イオンMにすることができる。そして、抽出膜7を介して、分離回収の対象となる金属イオンMを効率的に抽出する。
【0021】
再処理効用の溶解槽または配管の除染剤として検討されているセリウム(Ce)、環境負荷を考慮する上で重要なプルトニウム(Pu)またはネプツニウム(Np)などの物質は、価数によって化学的性質が変わる。これらの物質の価数を調整することによって、抽出性能が変化する。そのため、この性能を利用して溶液に含まれる所定の物質の抽出を行うようにする。その他、セレン(Se)、テルル(Te)、タリウム(Tl)どの水溶液中で価数が変化する物質についても価数変化を利用することで、効率的にかつ選択的に抽出することが可能となる。
【0022】
これらの効果を発揮するために、第1電解槽2の第1電極4で金属イオンMの電解価数調整を行うことにより、抽出膜7に吸着される金属イオンMの吸着性能を向上させることができる。そのため、抽出膜7による第1電解槽2から金属イオンMを抽出する性能を向上させることができる。また、複数種類の金属イオンMが第1溶液11に含まれている場合には、分離回収の対象となる金属イオンMのみを抽出膜7で選択的に抽出することもできる。
【0023】
さらに、第2電解槽3の第2電極5で金属イオンMの電解価数調整を行うことにより、抽出膜7に吸着される金属イオンMの吸着性能を低下させることができる。そのため、抽出膜7から第2電解槽3に金属イオンMを移動させる性能を向上させることができる。これにより、抽出膜7による抽出および逆抽出で相乗的に抽出効率が向上する。
【0024】
また、本実施形態では、従来の技術で価数調整に必要だった薬剤注入が不要になり、かつ価数調整による薬剤による影響がないようにできる。そのため、金属イオンMの電解価数調整に基づいて、抽出膜7の抽出性能が向上および低下する性質を、薬剤とともに利用することが可能となる。
【0025】
また、従来の技術では、金属イオンの価数調整しないことで効率的な抽出ができなかった。仮に、抽出性の金属イオンとして抽出膜に吸着させた場合であっても、抽出膜から金属イオンを逆抽出することが困難となる場合がある。本実施形態は、このような課題を解決することができる。
【0026】
金属イオンMの価数調整を第1電解槽2側と第2電解槽3側とで行うことにより、抽出膜7の吸着側と脱離側との相乗効果により、金属イオンMを効率的に抽出分離することができる。つまり、本実施形態の電解抽出装置1では、従来の技術と比較して、抽出速度または分離係数を向上させることができる。また、金属イオンMの電解価数調整を行うことで、試薬添加することなしに抽出性能が向上させることができる。また、非抽出価数で処理後、抽出価数で処理することで、回収物(金属イオンM)を高純度とすることができる。また、第1電解槽2および第2電解槽3に収容される第1溶液11および第2溶液12が、同じマトリックスを用いたものも価数の違いを利用した分離が可能となる。
【0027】
図1に示すように、第1電極4は、第1電解槽2にある第1溶液11に所定の電圧を印加することで、この第1溶液11に含まれる金属イオンM1の価数を第1特定価数に調整する。抽出膜7に含浸されている抽出剤は、第1特定価数の金属イオンを吸着する性質を有している。つまり、抽出膜7は、第1電解槽2の第1溶液11に含まれる第1特定価数の金属イオンM1を吸着する。
【0028】
第2電極5は、第2電解槽3にある第2溶液12に所定の電圧を印加することで、抽出膜7に吸着された金属イオンM2の価数を第1特定価数とは異なる第2特定価数に調整する。抽出膜7は、第2特定価数の金属イオンM2を脱離する性質を有している。つまり、抽出膜7から脱離された第2特定価数の金属イオンM2が第2電解槽3の内部の第2溶液12に移動する。
【0029】
抽出膜7の抽出剤は、第2特定価数の金属イオンM2の吸着率よりも第1特定価数の金属イオンM1の吸着率が高くなっている。このようにすれば、第1電解槽2の第1特定価数の金属イオンM1が抽出膜7に吸着され易くなる。また、抽出膜7に吸着された金属イオンM2が第2特定価数に変化することで、抽出膜7から脱離し易くなる。そのため、金属イオンMの抽出効率を高めることができる。
【0030】
第1実施形態の第1電極4および第2電極5は、棒部材の先端近傍に複数の円盤部が設けられている。このようにすれば、第1電極4および第2電極5の表面積を増やすことができる。また、第1電極4および第2電極5は、多孔質材料で形成されている。このようにすれば、第1電極4および第2電極5の表面積を増やして金属イオンMに効率的に電圧を印加することができる。なお、第1電極4と第2電極5の少なくともいずれか一方が多孔質材料となっていれば良い。
【0031】
次に、具体的な実施形態を説明する。分離回収の対象となる金属イオンMは、ネプツニウムを例示する。抽出膜7に含浸される抽出剤は、リン酸トリブチルを例示する。なお、金属イオンMは、その他の物質を対象としても良い。抽出剤は、その他の物質を用いても良い。
【0032】
図2は、30vol%のリン酸トリブチルの有機溶媒からのネプツニウムの分配比の硝酸濃度依存性を示すグラフである。このグラフに示すように、例えば、使用済燃料を、およそ3mol/Lの硝酸で溶解して酸溶解液(溶液)とする。ここで、ネプツニウムは、4価(Np(IV))と5価(Np(V))と6価(Np(VI))の価数を取ることができる。この酸溶解液に対して、電位が0.94V vs. SSE(SSE:銀-塩化銀参照極)以上となるように、電圧を印加する。
【0033】
また、硝酸濃度をさらに高めることによって、より効率的にネプツニウムを6価(Np(VI))に酸化させることもできる。ネプツニウムの価数を調整することにより、各価数により違う分配比(分配比=(有機溶媒中の対象金属濃度)/(水溶液中の対象金属濃度))を統一させることができ、有機溶媒および水溶液への分配が制御することができる。
【0034】
第1実施形態では、金属イオンMであるネプツニウムの価数を調整する。ここで、第1特定価数を6価(Np(VI))とし、第2特定価数を5価(Np(V))とする。
【0035】
第1実施形態では、第1電極4が直流電源の正極に接続されて陽極(アノード)となる。また、第2電極5が直流電源の負極に接続されて陰極(カソード)となる。
【0036】
第1電解槽2の第1電極4(陽極)により、金属イオンM1が第1特定価数としての6価(Np(VI))に調整される。この金属イオンM1は、抽出剤が含浸された抽出膜7に吸着される。そして、第2電解槽3の第2電極5(陰極)により、抽出膜7に吸着された金属イオンM2が第2特定価数としての5価(Np(V))に調整される。金属イオンM2が第2特定価数になると抽出膜7から脱離され、第2電解槽3の第2溶液12に移動するようになる。
【0037】
このように、第2電解槽3の第2溶液12には、分離回収の対象となる金属イオンMのみが含まれるようになる。つまり、第1電解槽2の第1溶液11から金属イオンMのみを分離回収することができる。
【0038】
なお、その他の態様であっても良い。例えば、変形例として、金属イオンMであるネプツニウムの価数を調整する場合に、第1特定価数を4価(Np(IV))とし、第2特定価数を5価(Np(V))としても良い。
【0039】
この変形例では、第1電極4が直流電源の負極に接続されて陰極(カソード)となる。また、第2電極5が直流電源の正極に接続されて陽極(アノード)となる。
【0040】
第1電解槽2の第1電極4(陰極)により、金属イオンM1が第1特定価数としての4価(Np(IV))に調整される。この金属イオンM1は、抽出剤が含浸された抽出膜7に吸着される。そして、第2電解槽3の第2電極5(陽極)により、抽出膜7に吸着された金属イオンM2が第2特定価数としての5価(Np(V))に調整される。金属イオンM2が第2特定価数になると抽出膜7から脱離され、第2電解槽3の第2溶液12に移動するようになる。
【0041】
なお、分離回収の対象となる金属イオンMは、ネプツニウム以外の物質でも良い。例えば、非特許文献1(JAERI-1047 日本原子力研究所)に示すように、100%TBP-HCl系で、Se、Te、Tlは、価数によって大きく分配比が変化することが報告されている。
【0042】
これらの金属に対しては、効率的に分離回収できることが期待できる。例えば、8~10M HClでは、Se(IV)、Te(IV)、Tl(III)は、分配比が高く抽出し易い金属イオンMとなる。本実施形態の電解抽出装置1を用いて価数を調整することにより、これらの金属イオンMを所定の第1溶液11から分離回収することができる。なお、セリウム(Ce)を分離回収の対象としても良い。
【0043】
また、Se(VI)、Te(VI)、Tl(i)は、分配比が低く抽出し難い金属イオンMとなっている。これらの特性を用いると、どの条件でも抽出性のないセシウム(Cs)から、これらの金属イオンMを分離することが可能となる。また、電解条件を調整することにより、それぞれ分離することも可能となる。抽出容量でこれらの元素を保持することも可能であり、それぞれの電解槽の条件により選択性を持たせることが可能となる。
【0044】
また、第1電解槽2に収容された第1溶液11に複数種類の金属イオンMが含まれている場合には、特定種類の金属イオンMのみを第1特定価数の価数に調整するようにしても良い。例えば、第1溶液11から分離回収の対象となる特定種類の金属イオンMとしてネプツニウムを設定し、このネプツニウム以外の金属物質が第1溶液11に含まれている場合に、ネプツニウムの価数のみを抽出膜7に吸着可能な第1特定価数にする。また、第2溶液12に含まれるネプツニウムの価数のみを抽出膜7から脱離可能な第2特定価数にする。このようにすれば、価数を適宜調整することで、特定種類の金属イオンMのみを分離回収することができる。
【0045】
さらに、特定種類以外の金属イオンMを第1特定価数以外の価数に調整しても良い。このようにすれば、特定種類以外の金属イオンMが抽出膜7に吸着されずに済むようになる。なお、金属イオンMを第1特定価数以外の価数に調整する態様は、第1電極4により電圧を印加しない態様を含む。さらに、第1電極4により電圧を印加して第1特定価数以外の価数に調整する態様を含む。
【0046】
また、特定種類以外の金属イオンMを第2特定価数以外の価数に調整しても良い。このようにすれば、特定種類以外の金属イオンMが抽出膜7から脱離されずに済むようになる。なお、金属イオンMを第2特定価数以外の価数に調整する態様は、第2電極5により電圧を印加しない態様を含む。さらに、第2電極5により電圧を印加して第2特定価数以外の価数に調整する態様を含む。
【0047】
次に、第1実施形態の電解抽出装置1が実行する電解抽出方法について
図3のフローチャートを用いて説明する。この電解抽出装置1の動作によって受動的に生じる作用を含めて説明する。なお、
図1を適宜参照する。
【0048】
まず、ステップS11において、作業者は、金属イオンMが含まれる第1溶液11を第1電解槽2に収容する。また、第2溶液12を第2電解槽3に収容する。
【0049】
次のステップS12において、制御部8は、第1電解槽2にある第1溶液11に所定の電圧を印加することで、この第1溶液11に含まれる金属イオンM1の価数を第1特定価数に調整する。
【0050】
次のステップS13において、第1特定価数の金属イオンM1を吸着する性質を有する抽出剤が含浸された抽出膜7に第1特定価数の金属イオンM1が吸着される。
【0051】
次のステップS14において、制御部8は、第2電解槽3にある第2溶液12に所定の電圧を印加することで、抽出膜7に吸着された金属イオンM2の価数を第1特定価数とは異なる第2特定価数に調整する。
【0052】
次のステップS15において、第2電解槽3に収容された第2溶液12に抽出膜7から脱離された第2特定価数の金属イオンM2が移動する。このようにして、第1溶液11に含まれる金属イオンMを分離回収することができる。
【0053】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電解抽出装置1Aおよび電解抽出方法について
図4を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0055】
第2実施形態の電解抽出装置1Aでは、第1電極4Aおよび第2電極5Aが、第1電解槽2および第2電解槽3の外部に設けられている。
【0056】
第1電解槽2は、循環パイプ14を介して第1電極4Aと接続されている。また、第1電解槽2と第1電極4Aとの間で第1溶液11を循環させる循環ポンプ16が設けられている。
【0057】
第2電解槽3は、循環パイプ15を介して第2電極5Aと接続されている。また、第2電解槽3と第2電極5Aとの間で第2溶液12を循環させる循環ポンプ17が設けられている。
【0058】
第1電極4Aおよび第2電極5Aは、ボックス状を成している。それぞれの内部を通過する溶液11,12に含まれる金属イオンMに電圧を印加することができる。第1電極4Aを通過する第1溶液11に含まれる金属イオンM1が第1特定価数に調整される。第2電極5Aを通過する第2溶液12に含まれる金属イオンM2が第2特定価数に調整される。なお、循環ポンプ16,17は、制御部8により制御されても良い。
【0059】
抽出膜7は、第1電解槽2の第1溶液11に含まれる第1特定価数の金属イオンM1を吸着する。そして、抽出膜7から脱離された第2特定価数の金属イオンM2が第2電解槽3の内部の第2溶液12に移動する。そのため、金属イオンMの抽出効率を高めることができる。
【0060】
第2実施形態では、電極4A,5Aと電解槽2,3との間で溶液11,12がそれぞれ循環されるため、溶液11,12の全体に亘って金属イオンMの価数の調整を行うことができる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電解抽出装置1Bおよび電解抽出方法について
図5を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0062】
第3実施形態の電解抽出装置1Bでは、第1電極4Bおよび第2電極5Bがメッシュ状を成し、抽出膜7を挟むように配置される。つまり、第1電極4Bが抽出膜7の一方の面に沿って広がるように配置されるとともに、第2電極5Bが抽出膜7の他方の面に沿って広がるように配置される。なお、第1電極4Bおよび第2電極5Bは、抽出膜7に接触しても良いし、抽出膜7の近傍に設けられても良い。
【0063】
第3実施形態では、抽出膜7に電極4B,5Bが対向して配置されるようになり、電極4B,5Bで価数が調整された金属イオンMが抽出膜7に対して反応し易くなる。そして、抽出膜7の両面で金属イオンMの吸着および脱離が効率的に行われる。
【0064】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電解抽出装置1Cおよび電解抽出方法について
図6を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0065】
第4実施形態の電解抽出装置1Cでは、ボックス状を成す第1電極4Cが、第1電解槽2の外部に設けられている。第1電解槽2は、循環パイプ14を介して第1電極4Cと接続されている。また、第1電解槽2と第1電極4Cとの間で第1溶液11を循環させる循環ポンプ16が設けられている。
【0066】
また、メッシュ状を成す第2電極5Cが、抽出膜7の一方の面に沿って広がるように配置される。なお、第2電極5Cは、抽出膜7に接触しても良いし、抽出膜7の近傍に設けられても良い。
【0067】
第4実施形態では、第1電極4Cと第1電解槽2との間で第1溶液11が循環されるため、第1溶液11の全体に亘って金属イオンM1を第1特定価数に調整することができる。さらに、抽出膜7に第2電極5Cが対向して配置されているため、第2電極5Cで第2特定価数に調整された金属イオンM2が抽出膜7から脱離し易くなる。
【0068】
本実施形態に係る電解抽出装置および電解抽出方法を第1実施形態から第4実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0069】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、第1電解槽にある金属イオンの価数を第1特定価数に調整する第1電極を備えることにより、溶液に含まれる金属の抽出効率を向上させることができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1(1A,1B,1C)…電解抽出装置、2…第1電解槽、3…第2電解槽、4(4A,4B,4C)…第1電極、5(4A,4B,4C)…第2電極、6…槽接続部、7…抽出膜、8…制御部、9…導入口、10…排出口、11…第1溶液、12…第2溶液、14,15…循環パイプ、16,17…循環ポンプ、M(M1,M2)…金属イオン。