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特許7362477電子増倍器およびそれを含む光電子増倍器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】電子増倍器およびそれを含む光電子増倍器
(51)【国際特許分類】
   H01J 43/20 20060101AFI20231010BHJP
   H01J 43/30 20060101ALI20231010BHJP
   H01J 43/28 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
H01J43/20
H01J43/30
H01J43/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019239361
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021108265
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 尚
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】西村 侑記
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-048188(JP,B1)
【文献】特開平06-028997(JP,A)
【文献】特表2008-535147(JP,A)
【文献】特開昭55-046203(JP,A)
【文献】特開2002-042719(JP,A)
【文献】米国特許第03450921(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 43/00-43/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子をカスケード増倍し、電気信号として取り出すためのダイノードユニットであって、複数段のダイノードと、前記複数段のダイノードのうち最終段ダイノードの設定電位よりも高い電位に設定されるとともに前記最終段ダイノードから放出された電子を捕獲するアノードと、少なくとも前記複数段のダイノードと前記アノードの双方を一体的に把持する一対の絶縁支持部材と、を含むダイノードユニットと、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有し、前記第1面に対して前記第2面の反対側に位置する第1面側空間において前記ダイノードユニットを保持するステムと、
内導体と、前記内導体の外周面上に設けられた絶縁材料と、前記絶縁材料の外周面上に設けられた外導体と、を有する同軸ケーブルであって、少なくとも一方の端部が前記第1面側空間に設けられた同軸ケーブルと、
前記第1面側空間に設けられた導電部材であって、前記アノードに対して増倍された前記電子を直接供給する前記最終段ダイノードと同電位に設定される導電部材と、
前記第1面側空間に設けられたコンデンサであって、前記導電部材と前記同軸ケーブルの前記外導体との間の配線上に配置されたコンデンサと、
を備え、
前記同軸ケーブルの前記一方の端部の一部を構成するとともに前記絶縁材料および前記外導体それぞれの端部から露出された状態で前記第1面側空間に位置する前記内導体の露出部分は、前記アノードのうち前記一対の絶縁支持部材に挟まれた部分に固定されている、
電子増倍器。
【請求項2】
前記内導体の前記露出部分とともに前記外導体の前記端部は、前記一対の絶縁支持部材によって挟まれた空間内に位置する、
請求項1に記載の電子増倍器。
【請求項3】
前記第1面から前記第2面に向かう方向に沿って前記ダイノードユニット側から前記ステム側を見たとき、前記ダイノードユニットは、前記アノードのうち前記一対の絶縁支持部材に挟まれた前記部分が前記第1面のうち前記同軸ケーブルが配置された部分とオーバーラップするよう、配置されている、請求項1または2に記載の電子増倍器。
【請求項4】
記導電部材は、前記導電部材の第1部分が前記最終段ダイノードに固定されることにより前記最終段ダイノードと同電位に設定されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項5】
前記コンデンサは、前記導電部材の第2部分に固定された一方の外部電極と、前記同軸ケーブルの前記外導体に電気的に接続された他方の外部電極と、を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項6】
前記導電部材は、前記一対の絶縁支持部材に取り付けられたシールド電極を含み、前記シールド電極は、前記内導体の前記露出部分とともに前記外導体の前記端部を前記ステム側から前記アノードに向かって貫通させるための開口を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項7】
前記コンデンサは、前記シールド電極と前記ステムの間の空間に位置する、
請求項6に記載の電子増倍器。
【請求項8】
前記コンデンサは、セラミックコンデンサを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電子増倍器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電子増倍器と、
光入力に応答して光電子を前記ダイノードユニットへ向けて放出するカソードと、
中心軸に沿って伸びるとともに前記中心軸と交差する開口を規定する開口端を有する本体であって少なくとも前記カソードおよび前記ダイノードユニットを収納する本体と、前記ステムとして機能するステムであって前記開口端を塞いだ状態で前記開口端に密着されるステムと、を含む密閉容器と、
を備え、
前記同軸ケーブルは、前記同軸ケーブルの他方の端部が前記第1面から前記第2面に向かって前記ステムを貫通した状態で前記ステムに保持されている、
光電子増倍器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子増倍器(electron multiplier)および光電子増倍器(photomultiplier)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子の入力に応答して二次電子をカスケード増倍する複数段のダイノードを有する電子増倍器は、光電子増倍器、質量分析器に適用される荷電粒子検出器(charged particle detector)等、真空状態(減圧状態)で動作する種々の検出器の主要部として、広く利用されている。このような広範な用途に適用可能な電子増倍器の高速応答を実現する技術として、例えば、アノードに対向する最終段ダイノードと該最終段ダイノードに隣接する他のダイノードとの間にコンデンサを配置することで、高周波成分の反射を抑制し、結果、出力信号波形のリンギングを低減する技術が知られている。また、リンギング低減効果は、各ダイノードに直接またはリード線よりも十分に短い配線で接続されたコンデンサを配置することがより有効であり、そのため、特許文献1、2に開示された光電子増倍器では、密閉容器内に、複数段のダイノードおよびアノードとともにコンデンサが収納されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭55-046203号公報
【文献】米国特許第3450921号明細書
【文献】日本国特許第4573407号明細書(特開2002-042719号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、上述の従来技術について検討した結果、以下のような課題を発見した。例えば、上記特許文献1の光電子増倍器では、最終段ダイノードの裏面を利用して直接コンデンサが構成される(最終段ダイノードがコンデンサの一方の電極として機能する)。一方で、最終段ダイノードに隣接するダイノード(隣接ダイノード)へのコンデンサの接続は、リード線により実現されている。具体的には、リード線の一端は最終段ダイノードの裏面に構成されたコンデンサの他の電極に接続され、該リード線の他端は隣接ダイノードを把持する絶縁板から飛び出した該隣接ダイノードの突起部分に接続されている。このようにコンデンサとダイノード間がリード線で接続される場合、十分なリンギング低減効果が得られない可能性がある。更に、同軸ケーブルの内導体(信号線)も、上記絶縁板から飛び出したアノードの突起部分とリード線(信号線の断面積よりも小さい断面積を有する)を介して接続されており、よりシャープな出力信号波形(高速応答特性)を得ることは難しい。
【0005】
また、上記特許文献2の光電子増倍器は、メッシュ形状のコレクタと最終段ダイノードを取り囲むシールド電極を備える。同軸ケーブルの内導体(信号線)は、コレクタではなく最終段ダイノードに接続されており、また、該コレクタとグラウンド電位との間をコンデンサによりデカップリングする構造を有する。この特許文献2の光電子増倍器は、通常動作ではコレクタをアノードとして機能させるが、高速信号動作(瞬間大電流)になると、コレクタ電圧が変動するため(安定しないため)、図示されたように、コレクタの設定電位よりも低い電位に設定される最終段ダイノードをアノードとして利用している。このように、上記特許文献2の発明は、コレクタへの電圧安定供給を目的としており、高速な応答特性を実現するための構造は開示されていない。すなわち、上記特許文献2には、各部の接続関係は開示されているが、物理的な配線構造(各部の配置、接続部材としてのリード線利用等)は全く開示されておらず、係る配線状態のみで高速応答特性が実現できるかは不明である。
【0006】
なお、参考までに、上記特許文献3の光電子増倍器では、密閉容器内に金属製の遮光板(導電部材)が収納されている。ただし、この遮光板の電位は、容器外部から引き込まれたリード線を介して供給されるものであり、係る遮光板は高速応答特性に寄与し得る部品ではない。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、従来技術と比較してより高速な応答特性を実現するための構造を備えた電子増倍器、該電子増倍器が適用可能な光電子増倍器、および該電子増倍器が適用可能な荷電粒子検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る電子増倍器は、光電子増倍器、質量分析装置に適用される荷電粒子検出器等、種々の検出器の主要部を構成し、主に、ダイノードユニットと、ステムと、同軸ケーブルと、導電部材と、コンデンサと、を備える。ダイノードユニットは、到達した電子をカスケード増倍し、電気信号として取り出すための構造を有し、具体的には、複数段のダイノードと、アノードと、一対の絶縁支持部材と、を含む。複数段のダイノードは、電子をカスケード増倍する。アノードは、複数段のダイノードのうち最終段ダイノードの設定電位よりも高い電位に設定されるとともに該最終段ダイノードから放出された電子を捕獲する電極である。一対の絶縁支持部材は、少なくとも複数段のダイノードとアノードの双方を一体的に把持する。ステムは、第1面と該第1面に対向する第2面とを有するとともに複数のリードピンを貫通させた状態で保持する。また、ステムは、第1面に対して第2面の反対側に位置する第1面側空間においてダイノードユニットを保持する。同軸ケーブルは、内導体と、該内導体の外周面上に設けられた絶縁材料と、該絶縁材料の外周面上に設けられた外導体と、を有する。また、同軸ケーブルは、全体が第1面側空間に設けられてもよくまた、ステムを貫通させることにより少なくとも一方の端部が第1面側空間に設けられてもよい。導電部材は、第1面側空間に設けられており、アノードに対して増倍された電子を直接供給する最終段ダイノードと同電位に設定されている。コンデンサは、第1面側空間に設けられており、導電部材と同軸ケーブルの外導体との間の配線上に配置されている。
【0009】
特に、上述のような構造を備えた電子増倍器において、同軸ケーブルの一方の端部の一部を構成するとともに絶縁材料および外導体それぞれの端部から露出された状態で第1面側空間に位置する内導体の露出部分は、アノードのうち一対の絶縁支持部材に挟まれた部分に直接または間接的に固定されている。この構成により、機械的強度が十分に確保された同軸ケーブルとアノードの固定と、コンデンサの密閉容器内への収納の双方が可能になる。
【0010】
なお、本発明に係る各実施形態は、以下の詳細な説明および添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施例は単に例示のために示されるものであって、本発明を限定するものと考えるべきではない。
【0011】
また、本発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明および特定の事例はこの発明の好適な実施形態を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、本発明の範囲における様々な変形および改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態に係る電子増倍器によれば、同軸ケーブルの一方の端部(内導体の露出部分、絶縁材料の端部、および外導体の端部を含む)をダイノードユニット内まで引き込み、該同軸ケーブルの内導体の露出部分をアノードに固定可能な構成を実現することにより、従来技術と比較して、応答特性が改善される。加えて、同軸ケーブルの外導体の端部をダイノードユニット内に引き込むことにより、出力信号のリンギング抑制に効果的な構造的な変形が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る電子増倍器を主要部として含む検出器の一例として、光電子増倍器(本実施形態に係る光電子増倍器の一例)の内部構造の例を概略的に示す部分破断図である。
図2】本実施形態に係る光電子増倍器の一例の、図1中に示されたI-I線に沿った断面構造を示す図である。
図3】本実施形態に係る光電子増倍器の一例を動作させるための電源回路の概略構成と応答特性を説明するための図である。
図4】本実施形態に係る光電子増倍器の一例における主要部の組み立て工程図である。
図5】同軸ケーブルの内導体とアノードの、密閉容器内における接続状態を概略的に説明するための図である。
図6】シールド電極と同軸ケーブルの、密閉容器内における位置関係を概略的に説明するための図である。
図7】導電部材の構造的特徴を概略的に説明するための図である。
図8】本実施形態に係る光電子増倍器の構造的特徴が部分的に採用されたサンプル1と比較例1との応答特性の差異を説明するための図である。
図9】本実施形態に係る光電子増倍器の構造的特徴が採用されたサンプル2と比較例2とのリンギング抑制効果の差異を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0015】
(1) 本実施形態に係る電子増倍器は、光電子増倍器、質量分析装置に適用される荷電粒子検出器等、種々の検出器の主要部を構成し、その一態様として、主に、ダイノードユニットと、ステムと、同軸ケーブルと、導電部材と、コンデンサと、を備える。ダイノードユニットは、到達した電子をカスケード増倍し、電気信号として取り出すための構造を有し、具体的には、複数段のダイノードと、アノードと、一対の絶縁支持部材と、を含む。複数段のダイノードは、電子をカスケード増倍する。アノードは、複数段のダイノードのうち最終段ダイノードの設定電位よりも高い電位に設定されるとともに該最終段ダイノードから放出された電子を捕獲する電極である。一対の絶縁支持部材は、少なくとも複数段のダイノードとアノードの双方を一体的に把持する。ステムは、第1面と該第1面に対向する第2面とを有するとともに複数のリードピンを貫通させた状態で保持する。また、ステムは、第1面に対して第2面の反対側に位置する第1面側空間においてダイノードユニットを保持する。同軸ケーブルは、内導体と、該内導体の外周面上に設けられた絶縁材料と、該絶縁材料の外周面上に設けられた外導体と、を有する。また、同軸ケーブルは、全体が第1面側空間に設けられてもよくまた、ステムを貫通させることにより少なくとも一方の端部が第1面側空間に設けられてもよい。導電部材は、第1面側空間に設けられており、アノードに対して増倍された電子を直接供給する最終段ダイノードと同電位に設定されている。コンデンサは、第1面側空間に設けられており、導電部材と同軸ケーブルの外導体との間の配線上に配置されている。なお、導電部材は、1またはそれ以上の導電要素で構成されてもよい。
【0016】
特に、上述のような構造を備えた電子増倍器において、同軸ケーブルの一方の端部の一部を構成する内導体の露出部分、すなわち、絶縁材料および外導体それぞれの端部から露出された状態で第1面側空間に位置する内導体の露出部分は、アノードのうち一対の絶縁支持部材に挟まれた部分に直接または間接的に固定されている。このように、同軸ケーブルの一方の端部(内導体の露出部分、絶縁材料の端部、および外導体の端部を含む)は、ダイノードユニット内(一対の絶縁支持部材で挟まれた空間)に引き込まれており、該同軸ケーブルの内導体の露出部分をアノードに固定可能な構成を実現することにより、従来技術と比較して、応答特性が改善される。加えて、同軸ケーブルの外導体をダイノードユニット内に引き込むことにより、高周波成分の反射を抑制するためのコンデンサ(デカップリングコンデンサ)を最終段ダイノード近傍に配置可能な構成を実現される。この構成により、出力信号のリンギング抑制に効果的な構造的な変形が可能になる。
【0017】
更に、本実施形態に係る光電子増倍器および荷電粒子検出器は、いずれも、上述のような構造を備えた電子増倍器(本実施形態に係る電子増倍器)を主要部として含む。特に、光電子増倍器は、上述のような構造を備えた電子増倍器の他、カソードと、密閉容器と、を更に備える。カソードは、光入力に応答して光電子を、ダイノードユニットへ向けて放出する。密閉容器は、中心軸に沿って伸びるとともに該中心軸と交差する開口を規定する開口端を有する本体(envelope)と、ステムとして機能するステムと、を含む。本体は、少なくともカソードおよびダイノードユニットを収納する。ステムは、開口端を塞いだ状態で該開口端に密着される。また、同軸ケーブルは、該同軸ケーブルの他方の端部が第1面から第2面に向かってステムを貫通した状態で該ステムに保持されている。一方、荷電粒子検出器は、上述のような構造を備えた電子増倍器に電子を供給するため、荷電粒子の入力に応答して該電子増倍器へ電子を放出するコンバージョンダイノードを含む。特に、当該荷電粒子検出器では、ステムは真空容器内に配置され、同軸ケーブル全体は、アノードとステムの間の空間(第1面側空間)に配置される。
【0018】
(2) 本実施形態の一態様として、同軸ケーブルの一方の端部の一部を構成する内導体の露出部分をアノードに固定するため、内導体の露出部分とともに外導体の端部は、一対の絶縁支持部材によって挟まれた空間内(ダイノードユニット内)に位置するのが好ましい。この場合、アノードと同軸ケーブルの内導体とを、別の配線要素を介することなく強固に固定することが可能になる。また、本実施形態の一態様として、第1面から第2面に向かう方向に沿ってダイノードユニット側からステム側を見たとき、ダイノードユニットは、アノードのうち一対の絶縁支持部材に挟まれた部分(同軸ケーブルのうち内導体の露出部分が固定される部分)が第1面(ステム)のうち同軸ケーブルの配置された部分とオーバーラップするよう、配置されるのが好ましい。この構成により、同軸ケーブルの内導体がアノードに最短距離で到達可能になる。
【0019】
(3) 本実施形態の一態様として、1またはそれ以上の導電要素で構成される導電部材は、複数のリードピンそれぞれの断面積よりも大きい断面積を有するのが好ましい。また、この導電部材の一部(第1部分)が最終段ダイノードに固定されること(導電部材が最終段ダイノードと同電位位に設定されること)で、出力信号のリンギング発生を効果的に抑制し得る。
【0020】
(4) 本実施形態の一態様として、コンデンサは、導電部材の一部(第2部分)に固定された一方の外部電極と、同軸ケーブルの外導体(ステムとダイノードユニットの間に位置する部分)に電気的に接続された他方の外部電極と、を有する。すなわち、コンデンサを最終段ダイノードと同電位に設定された導電部材により近づけることにより、出力信号におけるリンギング発生がより効果的に抑制可能になる。
【0021】
(5) 本実施形態の一態様として、導電部材は、一対の絶縁支持部材に取り付けられたシールド電極を含むのが好ましい。また、同軸ケーブルの一方の端部をよりアノードに近づけさせるため、当該シールド電極は、内導体の露出部分とともに外導体の端部をステム側からアノードに向かって貫通させるための開口を有するのが好ましい。通常、シールド電極は、ダイノードへの電子衝突の際に生じる光やイオンのダイノードユニット外への移動を制限するために設けられるが、本実施形態では、最終段ダイノードと同電位に設定される導電部材として利用される。この場合、本実施形態の一態様として、コンデンサは、シールド電極とステムの間の空間に位置する。更に、本実施形態の一態様として、当該電子増倍器が密閉容器内に収納された構成、または、当該電子増倍器のステム自体が密閉容器の一部として機能する構成(この場合、密閉容器の内部空間が第1面側空間に相当する)において、真空状態(減圧状態)での動作が可能であり、かつ、導電部材との接合を容易にするため、該密閉容器内に収納されるコンデンサは、セラミックコンデンサを含むのが好ましい。
【0022】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0023】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明に係る電子増倍器、光電子増倍器、荷電粒子検出器の具体例を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0024】
なお、以下の開示では、本実施形態に係る電子増倍器を主要部として含む光電子増倍器の例について説明する。荷電粒子検出器も、光電子増倍器と同様に、本実施形態に係る電子増倍器を主要部として含む。荷電粒子検出器は、真空容器(密閉容器)を備えない点、ステムの構造がリードピンを貫通する構造に限定されない点、カソードに替えてコンバージョンダイノードやファラデーカップ等の荷電粒子を電子に変換する変換部を有する点、および、同軸ケーブル全体がダイノードユニットとステムの間の空間に配置されている点を除き、光電子増倍器と同等な構造を有しており、以下の光電子増倍器の例に関する説明は、実質的に荷電粒子検出器にも当てはまるものである。
【0025】
図1は、本実施形態に係る電子増倍器を主要部として含む検出器の一例として、光電子増倍器(本実施形態に係る光電子増倍器の一例)の内部構造の例を概略的に示す部分破断図である。また、図2は、本実施形態に係る光電子増倍器の一例の、図1中に示されたI-I線に沿った断面構造を示す図である。
【0026】
図1に示されたように、光電子増倍器100は、内部を真空引きするためのパイプ130(真空引き後に封止される)が底部に設けられた密閉容器110を備えるとともに、この密閉容器110内に設けられたカソード120および電子増倍ユニットを備える。
【0027】
密閉容器110は、内側にカソード120が形成された面板(face plate)を有する円筒形の本体110aと、同軸ケーブル600および複数のリードピン140をそれぞれ貫通した状態でこれらを保持しているステム110bにより構成されている。本体110aは、中心軸(管軸)AXに沿って延びるとともに該中心軸AXと交差する開口を規定する開口端を有する。ステム110bは、本体110aの開口端を塞いだ状態で該開口端に密着されている。密閉容器110の内部空間は、残留するガスがパイプ130を介して排気された後に該パイプ130を封止(sealing)することにより、所定の減圧状態に維持される。密閉容器110内において、電子増倍ユニットは、ステム110bから密閉容器110内に延びたリードピン140によって該密閉容器110内の所定位置に保持されている。
【0028】
電子増倍ユニットは、集束電極200、加速電極300、およびアノード500が内部に配置されたダイノードユニット400から構成されている。集束電極200は、カソード120から放出された光電子がダイノードユニット400に集束していくように該光電子の軌道を修正するための電極であって、カソード120とダイノードユニット400との間に配置されるとともに、カソード120からの光電子を通過させるための貫通孔を有する。また、加速電極300は、カソード120から放出された光電子をダイノードユニット400へと加速する電極であって、集束電極200とダイノードユニット400との間に配置されるとともに、集束電極200の貫通孔を通過した光電子を更にダイノードユニット400に向けて通過させる貫通孔を有する。この加速電極300により、カソード120の光電子放出部位に起因した該カソード120からダイノードユニット400に至る光電子の走行時間のバラツキが減少される。また、ダイノードユニット400は、カソード120から集束電極200、加速電極300を介して到達した光電子に応答して放出される二次電子を順次カスケード増倍していくための複数段のダイノードDY1~DY4と、これら複数段のダイノードDY1~DY4によりカスケード増倍された二次電子を電気信号として捕獲するアノード500と、これら複数段のダイノードDY1~DY4およびアノード500を一体的に把持する一対の絶縁支持部材410a、410b(図4参照)とを備える。
【0029】
同軸ケーブル600は、複数のリードピン140と同様に、中心軸AXに沿って延びた内導体610と、該内導体610の外周面上に設けられた絶縁材料としてのガラス材料620と、該ガラス材料620の外周面上に設けられた外導体630と、を備え、アノード500に固定されるべき内導体610の先端(露出部分)は、ガラス材料620および外導体630それぞれの端部から露出された状態になっている。内導体610の露出部分、ガラス材料620の端部、および外導体630の端部により同軸ケーブル600の一方の端部が構成されている。この内導体610(特に露出部分)とともに、ガラス材料620および外導体630それぞれの端部も密閉容器110内に導入されている。また、同軸ケーブル600は、ハーメチックシール640により、減圧状態が維持されたまたステム110bに固定されている。また、内導体610の露出部分、ガラス材料620の端部、および外導体630の端部により構成される同軸ケーブル600の一方の端部は、一対の絶縁支持部材410a、410bに挟まれた空間に位置しており、内導体610の露出部分は、アノード500のうち一対の絶縁支持部材410a、410bに挟まれた部分に直接または間接的に固定されている。アノード500への内導体610(特に露出部分)の固定は、抵抗溶接により行われる。
【0030】
密閉容器110内には、導電部材800とコンデンサ(デカップリングコンデンサ)700が収納されている。図1の例では、導電部材800は、一対の絶縁支持部材410a、410bに取り付けられたシールド電極450を含み、該シールド電極450の一部は、第4段ダイノード(最終段ダイノード)DY4に抵抗溶接されている。なお、シールド電極450の断面積(複数段のダイノードDY1~DY4に向いた面と密閉容器110の内壁に向いた面とで挟まれた領域の面積)は、リードピン140の断面積よりも大きい。また、図4および図6に示されているように、コンデンサ700の一方の外部電極は、銀ペースト900を介して金属板660に接着固定され、コンデンサ700の他方の外部電極は、銀ペースト900を介して金属板650の一端に接着固定されている。金属板650,660のいずれも、リードピン140の断面積よりも大きい断面積を有する。コンデンサ700の両端に固定された金属板650および金属板660は、シールド電極450および同軸ケーブル600の外導体630にそれぞれ抵抗溶接される。なお、金属板650は、当該金属板650とシールド電極450との抵抗溶接作業を容易にするため、金属板660と同様に、リボン形状を有してもよい。
【0031】
密閉容器110内に収納された電子増倍ユニットは、図2に示されたように、集束電極200、加速電極300とともにダイノードユニット400が一対の絶縁支持部材410a、410b(図4参照)によって一体的に保持されている。特に、この一対の絶縁支持部材410a、410bにより、集束電極200、加速電極300、第1段ダイノードDY1~第4段ダイノード(最終段ダイノード)DY4、およびアノード500の位置関係が固定されている。
【0032】
このように、当該光電子増倍器100は、ダイノードユニット400に含まれる少なくとも第1段ダイノードDY1および第2段ダイノードDY2が導電性部材を介することなく加速電極300に直接対向した状態で、少なくとも加速電極300およびダイノードユニット400を一体的に保持する構造を備える。本実施形態に係る光電子増倍器100では、カソード120から第1段ダイノードDY1へ向けて走行する光電子が加速電極300によって加速されるため、カソード120から第1段ダイノードDY1へ到達する間で光電子走行時間のバラツキが飛躍的に低減される。
【0033】
図2では、同軸ケーブル600の内部構造と、該同軸ケーブル600とアノード500の位置関係が明確に示されている。すなわち、ハーメチックシール640によりステム110bに固定された同軸ケーブル600において、その端部はステム110bからアノード500に向かって延びている(端部が一対の絶縁支持部材410a、410bで挟まれた空間で規定されるダイノードユニット400内に位置するまで延びる)。同軸ケーブル600の一方の端部は、内導体610の一部が、ガラス材料620および外導体630から露出しており、この内導体610の露出部分が、抵抗溶接によりアノード500に固定されている。なお、同軸ケーブル600の内導体610の露出部分を最短距離でアノード500に固定するため、後述のように、密閉容器110の中心軸AXに沿ってカソード120側からステム110b側を見たとき、アノード500のうち内導体610の露出部分が固定される部分がステム110bのうち同軸ケーブル600の貫通している部分とオーバーラップしている。この場合、当然のことながら、アノード500のうち内導体610が固定される部分は、一対の絶縁支持部材410a、410bに挟まれた部分となる。したがって、アノード500と同軸ケーブル600の内導体610の露出部分とを、別の配線要素、例えば、内導体610の断面積よりも小さな断面積を有するリードピン140と同程度の断面積を有する配線を介することなく、直接接続することが可能になる。
【0034】
図3(a)は、上述のような構造を有する本実施形態に係る光電子増倍器の一例を動作させるための電源回路の概略構成を説明するための図であり、図3(b)は、本実施形態に係る光電子増倍器の一例の応答特性を説明するための図である。
【0035】
図3(a)に概略的に示されたように、当該光電子増倍器100の密閉容器110内には、本体110aの面板からステム110bに向かって、該面板の内壁面上に設けられたカソード120、集束電極200、加速電極300、複数段のダイノードDY1~DY4、およびアノード500が、配置されている。第1段ダイノードDY1、第2段ダイノードDY2、第3段ダイノードDY3、および第4段ダイノード(最終段ダイノード)DY4の配置は、光電子または二次電子が通過する順に図示されている。また、カソード120、集束電極200、複数段のダイノードDY1~DY4のそれぞれ、およびアノード500の各電位は、図3(a)に示されたように、電源Vにより与えられる電圧を複数のRおよびコンデンサCの直列回路で分割するデバイダ回路により設定される。なお、図3(a)の例では、加速電極300は第4段ダイノードDY4の電位に設定されている。
【0036】
更に、密閉容器110内のうちステム110b側の空間には、同軸ケーブル600の一方の端部が導入されて、内導体610の露出部分が直接アノード500に固定されている。また、コンデンサ(セラミックコンデンサ)700も密閉容器110内に収納されており、一方の該外部電極が所定の導電部材を介して、第4段ダイノードDY4と同電位に設定された導電部材800に抵抗溶接されている。また、コンデンサ700の他方の外部電極は、所定の導電部材を介して、密閉容器110内に位置する外導体630に電気的に接続されている。
【0037】
上述のような構造の光電子増倍器100の応答特性として、アノード出力(電子信号)は、概略的には図3(b)に示されたような形状になる。なお、図3(b)に示された波形は、デルタ関数光源からの光がカソード120に到達した場合を想定したアノード側出力波形である。通常、光源からの光を受けてカソード120から光電子が放出されると、複数段のダイノードDY1~DY4を経てカスケード増倍された二次電子がアノード500に到達し、電気信号として密閉容器110の外部に出力される。カソード120からの光電子出力からアノード出力のピークまでの時間が「電子走行時間」である。また、信号量が信号ピークの10%の時点から信号ピークの90%に到達するまでの期間を「上昇時間」、逆に、信号量が信号ピークの90%の時点から10%に到達するまでの期間を「下降時間」という。
【0038】
次に、図4は、本実施形態に係る光電子増倍器の一例における主要部の組み立て工程図である。図4に示された例のように、電子増倍ユニットは、集束電極200、加速電極300、およびアノード500を含むダイノードユニット400により構成されている。集束電極200および加速電極300それぞれは、カソード120からの光電子を第1段ダイノードDY1へ向けて通過させるための貫通孔が設けられている。
【0039】
図4に示された例において、集束電極200は、胴体部210(実質的には集束電極本体であり、本明細書では、この胴体部210を単に「集束電極」という)と、該胴体部210の回転を抑制するための補強部材250a、250bから構成されている。胴体部210は、円筒形状を有し、該胴体部210の一方の開口端から内側に向かって伸び、貫通孔を規定するフランジ部を備える。このフランジ部には、上述の一対の絶縁支持部材を構成する第1絶縁支持部材410aと第2絶縁支持部材410bの突起部に設けられたスリット溝によって把持される。
【0040】
加速電極300は、カソード120からの光電子を第1段ダイノードDY1に向けて通過させるための開口を有するとともに、当該加速電極300自体を第1および第2絶縁支持部材410a、410bに固定するためのフランジ部を有する。このフランジ部に設けられたスリット溝により第1および第2絶縁支持部材410a、410bそれぞれに設けられた突起部を把持することにより、加速電極300が第1および第2絶縁支持部材410a、410bに固定される。
【0041】
ダイノードユニット400は、それぞれが該第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって把持された、第1段ダイノードDY1~第4段ダイノード(最終段ダイノード)DY4、アノード500によって構成されている。なお、第1段ダイノードDY1~第4段ダイノード(最終段ダイノード)DY4それぞれには、光電子あるいは二次電子を受け、該電子の入射方向に向かって新たに二次電子を放出する反射型の二次電子放出面が形成されている。また、第1段ダイノードDY1の両端には、第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって把持されるように固定片DY1a、DY1bが設けられている。すなわち、固定片DY1aが第1絶縁支持部材410aに設けられたスリット孔を貫通するとともに、DY1bが第2絶縁支持部材410bに設けられたスリット孔を貫通した状態で、第1段ダイノードDY1が第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって把持される。同様に、第2段ダイノードDY2は、その両端に固定片DY2a、DY2bを有し、第3段ダイノードDY3は、その両端に固定片DY3a、DY3bを有し、更に、第4段ダイノードDY4は、その両端に固定片DY4a、DY4bを有する。
【0042】
アノード500は、第4段ダイノードDY4から放出された二次電子が到達する位置に電子捕獲面を有するとともに、密閉容器110内に挿入された同軸ケーブル600の一方の端部、特に内導体610の先端部分を固定するための固定面510(図5(a)参照)を有する。また、アノード500の両端には、第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって把持されるよう、一対の固定片500aと、一対の固定片500bが設けられている。
【0043】
更に、第1および第2絶縁支持部材410a、410bには、アノード500が露出している側とステム110b側の2つの隙間を覆うシールド電極450が取り付けられる。また、シールド電極450の反対側にはカソード電極460が第1および第2絶縁支持部材410a、410bに取り付けられている。なお、カソード電極460は、第1および第2絶縁支持部材410a、410bそれぞれに設けられた凹部に嵌め込まれるための固定片460a、460bを有する。また、カソード電極460の背面には、密閉容器110の本体110aの内壁に沿ってカソード120から延びた金属薄膜に接触する金属片460cが抵抗溶接されている。
【0044】
シールド電極450は、図3(a)に示された導電部材800に相当し、それぞれがリードピン140の断面積よりも大きい断面積を有する第1導電板450aと第2導電板450bにより構成されている(第1および第2導電板450a、450bは、抵抗溶接されている)。ここで、第1導電板450aには、切欠き部451aか設けられている。同様に、第2導電板450bにも切欠き部451bが設けられている。第2導電板450bを第1導電板450aに抵抗溶接することにより、同軸ケーブル600の一方の端部を貫通させる貫通孔が構成される。したがって、同軸ケーブル600の一方の端部は、このシールド電極450に設けられた貫通孔を介して、第1および第2絶縁支持部材410a、410bで挟まれた空間内に直接到達することが可能になる。
【0045】
なお、第1導電板450aには、第4段ダイノードDY4の固定片DY4a、DY4bにそれぞれ抵抗溶接される固定片453a、453bが設けられている。この構成により、シールド電極450は、第4段ダイノードDY4と同電位に設定される。また、第1導電板450aの、切欠き部451aが設けられた端部は、第2導電板450bが固定された位置よりもステム110b側に延びている。ステム110b側に延びた当該部分に、コンデンサ(セラミックコンデンサ)700の一方の外部電極が電気的に接続される。具体的には、コンデンサ700の一方の外部電極には銀ペースト900を介して金属板660が接着固定されており、ステム110b側に延びた当該部分には、抵抗溶接により固定するための領域452が確保されている(図4および図6参照)。
【0046】
コンデンサ700の他方の外部電極は、密閉容器110内に引き込まれた同軸ケーブル600の外導体630に電気的に接続される。この電気的接続は、金属板650により実現される。すなわち、金属板650の一方の端部は、同軸ケーブル600の外導体630に抵抗溶接される。一方、金属板650の他方の端部にはコンデンサ700の他方の外部電極が銀ペースト900を介して接着固定される(図4および図6参照)。以上の組立工程を経て、本実施形態に係る光電子増倍器100の電子増倍ユニットが得られる。
【0047】
図5(a)および図5(b)は、以上のように構成された電子増倍ユニットを、図4中に示された矢印(観察方向)S1に沿って観察した時の構成、特に、同軸ケーブル600における内導体610の露出部分とアノード500の、密閉容器110内における接続状態を概略的に説明するための図である。なお、図5(a)および図5(b)では、同軸ケーブル600とアノード500の位置関係が明確になるよう、シールド電極450等の遮蔽物の開示は省略されている。
【0048】
図5(a)に示されたように、アノード500は、一対の固定片500aが第1絶縁支持部材410aの対応するスリット孔に差し込まれる一方、一対の固定片500bが第2絶縁支持部材410bの対応するスリット孔に差し込まれることにより、第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって把持されている。このように把持された状態において、アノード500の電子捕獲面は、第4段ダイノードDY4側に向けられている。また、同軸ケーブル600における内導体610の露出部分が抵抗溶接される固定面510は、電子捕獲面と交差する位置関係にある。このように固定面510を電子捕獲面に対して傾斜させることにより、内導体610の露出部分と固定面510の抵抗溶接の際に、同軸ケーブル600の一方の端部を曲げることなく密閉容器110内に引き込むことが可能になる。一方、図5(b)に示された例では、内導体610の露出部分は固定面510を有する電極部材520に抵抗溶接されている。電極部材520は、アノード500の一部を構成する金属部材であって、この電極部材520をアノード500の側面に抵抗溶接することにより、内導体610の露出部分がアノード500に間接的に固定されている。
【0049】
また、図5(a)および図5(b)のいずれの例においても、密閉容器110内に引き込まれた同軸ケーブル600の一方の端部において、外導体630の外周面上には金属板650の一方の端部が抵抗溶接されている。金属板650の他方の端部には、コンデンサ700の他方の外部電極が銀ペースト900を介して接着固定される領域651が確保されている(図6参照)。
【0050】
上述のように、同軸ケーブル600の一方の端部(内導体610の露出部分、ガラス材料620の端部、および外導体630の端部を含む)を密閉容器110内に引き込み、該同軸ケーブル600における内導体610の露出部分をアノード500の固定面510に直接固定可能な構造を実現することにより、従来技術と比較して、応答特性が改善される。加えて、同軸ケーブル600の外導体630の端部も密閉容器110内に引き込むことにより、高周波成分の反射を抑制するためのコンデンサ(セラミックコンデンサ)700を該密閉容器110内に配置可能な構成を実現される。この場合、アノード500から放出される信号波形におけるリンギング発生が効果的に抑制され得る。
【0051】
また、同軸ケーブル600の内導体610とアノード500との接続状態を強固にするためには、同軸ケーブル600のガラス材料620および外導体630から露出する内導体610の長さ(露出部分の長さ)は短い方が好ましい。そのため、同軸ケーブル600の一方の端部は、アノード500により近い位置、すなわち、第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって挟まれた空間内に、少なくとも外導体630の端部も含めて引き込まれるのが好ましい。このような構成では、密閉容器110の中心軸AXに沿ってカソード120側からステム110b側を見たとき、ダイノードユニット400は、固定面510を有するアノード500がステム110bのうち同軸ケーブル600の貫通している部分とオーバーラップするよう、配置されることになる。
【0052】
次に、図6は、シールド電極450と同軸ケーブル600の、密閉容器110内における位置関係を概略的に説明するための図である。なお、図6中、左上に示された平面図は、図4に示された矢印S1に沿って電子増倍ユニット(特に、シールド電極450の第1導電板450a)を見たときの平面図である。図6中の左下に示された平面図は、図6に示された矢印S2に沿ってシールド電極450(第1導電板450aおよび第2導電板450b)を見たときの平面図である。また、図6中の右上に示された平面図は、図6に示された矢印S3に沿ってシールド電極450(特に、第2導電板450b)を見たときの平面図であり、特に、シールド電極450とコンデンサ700の固定状態、および、コンデンサ700と金属板650の固定状態が詳細に示されている。
【0053】
図6中に示された各方向からの見た平面図から、当該光電子増倍器100は、上述の種々の構造的特徴が確認できる。すなわち、(a)同軸ケーブル600の内導体610のうち密閉容器110の内部空間に位置する露出部分は、アノード500のうち第1および第2絶縁支持部材410a、410bに挟まれた固定面510に固定される。(b)同軸ケーブル600の外導体630も、コンデンサ700の密閉容器110内への収納を可能にするため、密閉容器110内に引き込まれている。(c)特に、外導体630の端部は、内導体610の露出部分を短くするため、第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって挟まれた空間内に位置する。(d)密閉容器110の中心軸AXに沿ってカソード120側からステム110b側を見たとき、アノード500がステム110bのうち同軸ケーブル600の貫通している部分とオーバーラップしている。(e)シールド電極450を構成する第1および第2導電板450a、450bは、いずれもリードピン140の断面積よりも大きい断面積を有する。(f)コンデンサ700は、シールド電極450とステム110bの間の空間に位置することが可能になり、結果、密閉容器110内に収納される。(g)同軸ケーブル600の一方の端部をよりアノード500に近づけさせるため、シールド電極450は、内導体610の露出部分とともにガラス材料620および外導体630それぞれの端部をステム110b側からアノード500に向かって貫通させるための開口を有する。
【0054】
なお、コンデンサ700の設置位置は、図6に示された例に限定されることはない。コンデンサ700の両端に位置する外部電極には銀ペーストを介して金属板650および金属板660がそれぞれ接着固定される。そのため、これら金属板650、660の形状等を調整することにより、コンデンサ700の設置位置を溶接作業の障害にならない位置、例えば、図6の右上に示された位置よりもステム110bに近い位置に設定可能になる(溶接部位からコンデンサ700を十分に離す構成)。この場合、第2導電板450bとコンデンサ700との間に、溶接作業に十分な空間を確保することができる。
【0055】
図7は、図3に示された導電部材800(シールド電極450を含む)の構造的特徴を概略的に説明するための図である。すなわち、高周波成分の反射を抑えるためには、図7中の左上に示されたように、長さL1を有する導電部材800の断面積Saは、リードピン140の断面積よりも大きいのが好ましい。ただし、図7中の右上に示されたように、同じ長さL1を有する導電部材であっても、上述のシールド電極450のようにより大きい断面積Sb(>Sa)を有する導電部材800aの方が高周波成分の反射抑制には効果的である。また、図7の左下に示されたように、同じ断面積Saを有する導電部材であっても、より短い長さL2(<L1)を有する導電部材800bも、高周波成分の反射抑制には効果的である。
【0056】
本実施形態に係る光電子増倍器100に関する上述の技術的効果を確認するため、本実施形態に係る光電子増倍器100の構造的特徴を含むサンプルと比較例とを対比させることで、応答特性が改善されることを図8および図9を用いて説明する。なお、図8は、本実施形態に係る光電子増倍器の構造的特徴が部分的に採用されたサンプル1と比較例1との応答特性の差異を説明するための図である。また、図9は、本実施形態に係る光電子増倍器100の構造的特徴が採用されたサンプル2と比較例2とのリンギング抑制効果の差異を説明するための図である。なお、図8および図9に示されたサンプル1、サンプル2、比較例1、および比較例2の構造は、主要部分のみ示されており、いずれの光電子増倍器も、図示されていない構成は、上述の構成と同様である。
【0057】
図8には、比較例1の構造および応答特性と、本実施形態のサンプル1の構造および応答特性が示されている。図8において、比較例1およびサンプル1の構造としては、いずれも、第1および第2絶縁支持部材410a、410bに把持された状態の第4段ダイノードDY4およびアノード500が示されている。比較例1は、ステム110bを介して同軸ケーブル600の一方の端部が密閉容器110内に引き込まれているが、内導体610の露出部分は、絶縁支持部材410bの外側から飛び出しているアノード500の固定片500bに直接抵抗溶接される。そのため、内導体610の露出部分の長さは、10mmに調整されている。
【0058】
一方、サンプル1では、ステム110bを介して同軸ケーブル600の一方の端部が第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって挟まれた空間内まで引き込まれており、ガラス材料620および外導体630それぞれの端部から2mmだけ露出した内導体610の露出部分が、アノード500の固定面510に抵抗溶接されている。
【0059】
上述のような構造を有する比較例1に係る光電子増倍器において、得られたアノード出力の波形の半値全幅(FWHM)は410psであった。一方、サンプル1に係る光電子増倍器では、得られたアノード出力の波形の半値全幅(FWHM)は383psとなり、応答特性の改善(高速化)が確認できた。
【0060】
次に、図9には、比較例2の構造および応答特性と、本実施形態のサンプル2の構造および応答特性が示されている。図9において、比較例2およびサンプル2の構造としては、いずれも、第1および第2絶縁支持部材410a、410bに把持された状態の第4段ダイノードDY4およびアノード500が示されている。ただし、比較例2の構成では、ステム110bを介して同軸ケーブル600の一方の端部が密閉容器110内に引き込まれているが、内導体610の露出部分は第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって挟まれた空間の外側に位置している。そのため、内導体610の露出部分は長さ10mmを有し、該露出部分とアノード500の固定片500b(絶縁支持部材410bの外側に飛び出した部分)が、抵抗溶接されている。密閉容器110内に収納されたコンデンサ700の一方の外部電極には、銀ペーストを介して金属板961の一方の端部に接着固定され、外導体630の外周面には、金属板961の他方の端部が抵抗溶接されている。また、コンデンサ700の他方の外部電極には、銀ペーストを介して金属板962の一方の端部が接着固定されている。金属板962の他方の端部は、第4段ダイノードDY4の固定片DY4aに一端が抵抗溶接された電圧供給用のリードピン950に、抵抗溶接されている。
【0061】
一方、サンプル2に係る光電子増倍器は、第4段ダイノードDY4と同電位に設定されるシールド電極を備える。このサンプル2では、ステム110bを介して同軸ケーブル600の一方の端部が第1および第2絶縁支持部材410a、410bによって挟まれた空間内まで引き込まれており、ガラス材料620および外導体630それぞれの端部から露出した内導体610の長さ2mmの露出部分が、アノード500の固定面510に抵抗溶接されている。更に、コンデンサ700の一方の外部電極は、銀ペーストを介して金属板660の一方の端部に接着固定されている。なお、金属板660の他方の端部は、シールド電極450に抵抗溶接されている。コンデンサ700の他方の外部電極は、銀ペーストを介して金属板650の一方の端部に接着固定されている。なお、金属板650の他方の端部は、外導体630の外周面に抵抗溶接されている。
【0062】
上述のような構造を有する比較例2とサンプル2の各光電子増倍器のアノード出力の波形を比較すると、明らかにサンプル2のアノード出力の波形の方にリンギング抑制効果が現れていることが確認できる。
【0063】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
100…光電子増倍器、110…密閉容器、110a…本体、110b…ステム、120…カソード、140…リードピン、200…集束電極、300…加速電極、400…ダイノードユニット、DY4…第4段ダイノード(最終段ダイノード)、410a…第1絶縁支持部材、410b…第2絶縁支持部材、450…シールド電極(導電部材の例)、451a、451b…切欠き部(貫通孔を構成)、500…アノード、520…電極部材、600…同軸ケーブル、610…内導体、620…ガラス材料(絶縁材料の例)、630…外導体、700…コンデンサ、800、800a、800b…導電部材。
図1
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図9