(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】有害生物忌避方法、及び次亜塩素酸水溶液の製造方法並びに製造装置
(51)【国際特許分類】
A01N 25/02 20060101AFI20231010BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20231010BHJP
A01N 59/00 20060101ALI20231010BHJP
C01B 11/04 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
A01N25/02
A01P17/00
A01N59/00 A
C01B11/04
(21)【出願番号】P 2019564762
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2019000742
(87)【国際公開番号】W WO2019139134
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018003870
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514144962
【氏名又は名称】吉武 亨将
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】吉武 亨将
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-073533(JP,A)
【文献】特開2013-001702(JP,A)
【文献】特開2012-223700(JP,A)
【文献】特開2014-057523(JP,A)
【文献】特開2003-200174(JP,A)
【文献】特開2005-333854(JP,A)
【文献】特開平10-263053(JP,A)
【文献】特開平11-188083(JP,A)
【文献】国際公開第96/003881(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/098657(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/050385(WO,A1)
【文献】水道統計(水質編)における調査対象項目の解説,公益社団法人 日本水道協会,2018年,http://jwwa.or.jp/mizu/2018-kaisetsu.pdf
【文献】中村正憲ら,水溶液のCO2ガスの吸収および放散に関する研究,津山工業高等専門学校紀要,1999年,第41号,pp.81-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N、A01P、C01B、C25B、C02F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸水溶液からな
る忌避剤を栽培中のシロキクラゲに散布することによってシロキクラゲからクロバネキノコバエを忌避
させる有害生物忌避
方法であって、
前記次亜塩素酸水溶液は、pHが4.0以上7.0以下であり、重炭酸イオンを含
み、次亜塩素酸濃度が5ppm以上400ppm以下である
ことを特徴とする
有害生物忌避
方法。
【請求項2】
保護対象に散布することによって当該保護対象から有害生物を忌避することが可能となる、pHが4.0以上7.0以下の次亜塩素酸水溶液からなる忌避剤を構成する前記次亜塩素酸水溶液の製造方法であって、
重炭酸イオンを含む水から陰イオンを除去せずに金属イオンを除去することで、当該水を精製する第1工程と、
前記第1工程で精製した水に無機酸及び次亜塩素酸塩を混合することで、重炭酸イオンを含み、pHが4.0以上7.0以下の次亜塩素酸水溶液を生成する第2工程と、
を有し、
前記第2工程における前記混合は、
前記水へ前記無機酸を断続的に供給し、
前記無機酸の供給により生成した希釈無機酸に、前記次亜塩素酸塩の全量を一回で供給する
ことにより行うことを特徴とする次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項3】
保護対象に散布することによって当該保護対象から有害生物を忌避することが可能となる、pHが4.0以上7.0以下の次亜塩素酸水溶液からなる忌避剤を構成する前記次亜塩素酸水溶液を製造するための製造装置であって、
重炭酸イオンを含む水から陰イオンを除去せずに金属イオンを除去することで、当該水を精製する第1工程を行う第1装置と、
前記第1工程で精製した水に無機酸及び次亜塩素酸塩を混合することで、重炭酸イオンを含み、pHが4.0以上7.0以下の次亜塩素酸水溶液を生成する第2工程を行う第2装置と、を備え、
前記第2装置は、
前記水を供給する配管と、
前記水が供給された前記配管に前記無機酸を断続的に供給する無機酸供給部と、
前記無機酸の供給により生成した希釈無機酸に、前記次亜塩素酸塩の全量を一回で供給する次亜塩素酸塩供給部と、
を備えることを特徴とする次亜塩素酸水溶液の製造装置。
【請求項4】
前記配管は、
前記希釈無機酸を攪拌する攪拌部を有することを特徴とする請求項3に記載の次亜塩素酸水溶液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫などの有害生物を栽培植物などの保護対象物から忌避する効果を有する忌避剤、及び当該忌避剤として用いることが可能な次亜塩素酸水溶液の製造方法並びに製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、害虫などの有害生物を栽培植物などの保護対象物から忌避する効果を有する忌避剤が用いられている。忌避剤は、例えば農業で使用されており、栽培植物に噴霧されることで栽培植物から害虫を忌避する効果を奏する。
【0003】
忌避剤には、上述したような忌避効果を発揮する物質が含まれている。例えば、特許文献1には、忌避効果を発揮する物質としてトロポロン誘導体を含む忌避剤が記載されている。また、同文献には、トロポロン誘導体が忌避効果に加えて殺虫効果を有することが記載されている。
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の忌避剤のように、忌避効果を発揮する物質が殺虫効果をも発揮することになると、この物質が殺虫効果を発揮するがゆえの有害性を有して人体や保護対象物に悪影響を与えるおそれがある。このため、人体や保護対象物のより高い安全性を確保するために、殺虫効果を有さずに忌避効果を有する物質を含む忌避剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、殺虫効果を有さず有害生物を忌避する効果を有する物質を含む忌避剤、及び当該忌避剤として用いることが可能な次亜塩素酸水溶液の製造方法並びに製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、忌避剤であって、次亜塩素酸水溶液からなることを特徴とする。本発明によれば、忌避剤が次亜塩素酸水溶液からなることで、殺虫効果を有さず有害生物を忌避する効果を有する物質を含む忌避剤とすることができる。
【0008】
さらに、上記忌避剤において、次亜塩素酸水溶液は、次亜塩素酸濃度が5ppm以上400ppm以下であってもよい。このように、次亜塩素酸水溶液の次亜塩素酸濃度が5ppm以上であることにより、次亜塩素酸が有する忌避効果を十分に発揮させることができる。また、次亜塩素酸水溶液の次亜塩素酸濃度が400ppm以下であることにより、次亜塩素酸による人体への刺激を弱く抑えることができる。
【0009】
さらに、上記忌避剤において、次亜塩素酸水溶液は、pHが4.0以上7.0以下であってもよい。このように、次亜塩素酸水溶液のpHが4.0以上7.0以下であることで、次亜塩素酸水溶液を弱酸性に維持することができ、次亜塩素酸水溶液が人体に与える刺激を弱く抑えることができる。また、次亜塩素酸水溶液のpHが4.0以上7.0以下であることで、次亜塩素酸が菌から電子を奪う除菌機能及び次亜塩素酸がウイルスから電子を奪うウイルス不活性機能を高めることができる。
【0010】
さらに、上記忌避剤において、次亜塩素酸水溶液には、前記次亜塩素酸水溶液に供給される水に由来する陰イオンが含まれていてもよい。このように、次亜塩素酸水溶液に陰イオンが含まれることにより、陰イオンがpH緩衝機能を発揮して次亜塩素酸水溶液のpHの急激な変化を効果的に抑制し、次亜塩素酸水溶液のpHを安定させることができる。すなわち、上記のような緩衝材としての陰イオンがなければpHの急激な変化が起こり得る。つまり、次亜塩素酸ナトリウムと無機酸が接触する際にそれらの接点では急激にpHが下がり、塩素ガスとなって有効塩素総量を減らしてしまうほか、作業者を危険にさらすことになる。これに対して本発明によれば、次亜塩素酸水溶液に陰イオンが含まれていることで、上記のような事態を回避することができる。
また、この場合の陰イオンは重炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンの少なくともいずれかであってよい。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明は、次亜塩素酸水溶液の製造方法であって、水から陰イオンを除去せずに陽イオンを除去することで当該水を精製する第1工程と、前記第1工程で精製した水に無機酸及び次亜塩素酸塩を混合するか、前記第1工程で精製した水に塩化物イオンを含む水溶液を電気分解することで次亜塩素酸水溶液を生成する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明にかかる次亜塩素酸水溶液の製造方法によれば、原料となる水の精製は当該水から陰イオンを除去せずに陽イオンを除去して行うことで、pH緩衝能を有する陰イオンを次亜塩素酸水溶液に含有させておきながらも、次亜塩素酸の酸化力を奪う原因となる陽イオンを除去することができる。また、塩酸の添加時に陰イオンが緩衝材として働くことで、次亜塩素酸ナトリウムとの急激な反応を抑制することができる。
【0013】
さらに、上記次亜塩素酸水溶液の製造方法において、水、無機酸及び次亜塩素酸塩の混合は、水へ無機酸を断続的に供給し、供給により生成した希釈無機酸に次亜塩素酸塩を連続的に供給することにより行うことができる。このように、水へ無機酸を断続的に供給し、供給により生成した希釈無機酸に次亜塩素酸塩を連続的に供給することで、水、無機酸及び次亜塩素酸塩の混合により生成した次亜塩素酸が再度無機酸と反応するのを防止することができる。これにより、次亜塩素酸水溶液の次亜塩素酸濃度が低下するのを防止することができると共に、次亜塩素酸と無機酸との反応で生成したガスが気泡となって作業者の安全性を低下させるのを防止することができる。
【0014】
また、本発明は、上記次亜塩素酸水溶液を製造する製造装置であって、水から陰イオンを除去せずに陽イオンを除去することで前記水を精製する第1工程を行う第1装置と、前記第1工程で精製した水に無機酸及び次亜塩素酸塩を混合するか、前記第1工程で精製した水に塩化物イオンを含む水溶液を電気分解することで次亜塩素酸水溶液を生成する第2工程を行う第2装置と、を備え、前記第2装置は、前記水を供給する配管と、前記水が供給された前記配管に前記無機酸を断続的に供給する無機酸供給部と、前記無機酸が供給された水に前記次亜塩素酸塩を連続的に供給する次亜塩素酸塩供給部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
上記発明の一実施態様として、無機酸供給部が無機酸を断続的に供給することには、無機酸を複数回に分けて(供給する全量を複数回に分けて)供給することを含めてもよい。また、次亜塩素酸塩供給部が次亜塩素酸塩を連続的に供給することには、次亜塩素酸塩を一気に(全量を一回で)供給することを含めてもよい。さらに、無機酸を複数回に分けて供給することとして、無機酸の注入箇所を複数個所に分けたり、ポンプの設定でより細かい量に分けて複数回で注入することなどが可能である。その一方で、次亜塩素酸塩は、全量を一気に注入するようにしてよい。
【0016】
このように、無機酸を断続的に供給すると共に次亜塩素酸塩を連続的に供給するように構成したことで、供給する無機酸が高濃度で次亜塩素酸塩と接触することを回避できるので、無機酸によるガスが発生することを抑制できる。
【0017】
さらに、この次亜塩素酸水溶液の製造装置では、前記配管は、希釈無機酸を攪拌する攪拌部を有するインラインミキサーであってもよい。このように、配管は希釈無機酸を攪拌する攪拌部を有するインラインミキサーであることにより、攪拌部で希釈無機酸を攪拌して無機酸が均一に希釈された希釈無機酸を生成することができ、高濃度の無機酸が次亜塩素酸と反応しないように無機酸を効果的に希釈することができる。
【0018】
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る忌避剤によれば、殺虫効果を有さず有害生物を忌避する効果を有する物質を含む忌避剤とすることができる。また、本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造方法並びに製造装置によれば、比較的に高品質で劣化し難い次亜塩素酸水溶液を安全かつ高効率に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る次亜塩素酸水溶液の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る次亜塩素酸水溶液の製造装置を示すブロック図である。
【
図3】次亜塩素酸水溶液の製造装置の第一の例を示す概略図である。
【
図4】次亜塩素酸水溶液の製造装置の第二の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を適宜参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。以下においては、本発明に係る忌避剤、本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造方法、本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造装置、これら製造方法及び製造装置で製造した次亜塩素酸水溶液の利用方法の順に説明する。
【0022】
まず、本発明に係る忌避剤について説明する。本発明に係る忌避剤は、次亜塩素酸水溶液からなる。この次亜塩素酸水溶液は、次亜塩素酸濃度が5ppm以上400ppm以下であり、pHが4.0以上7.0以下である。さらに、この次亜塩素酸水溶液には、重炭酸イオン(陰イオン)が含まれる。
【0023】
以上のように、上記実施の形態によれば、忌避剤が次亜塩素酸水溶液からなることで、殺虫効果を有さず有害生物を忌避する効果を有する物質を含む忌避剤とすることができる。
【0024】
さらに、上記実施の形態によれば、次亜塩素酸水溶液の次亜塩素酸濃度が5ppm以上であることにより、次亜塩素酸が有する忌避機能を十分に発揮させることができ、次亜塩素酸水溶液の次亜塩素酸濃度が400ppm以下であることにより、次亜塩素酸による人体への刺激を弱く抑えることができる。
【0025】
さらに、上記実施の形態によれば、次亜塩素酸水溶液のpHが4.0以上7.0以下であることで、次亜塩素酸水溶液を弱酸性に維持することができ、次亜塩素酸水溶液が人体に与える刺激を弱く抑えることができる。また、次亜塩素酸水溶液のpHが4.0以上7.0以下であることで、次亜塩素酸が菌から電子を奪う除菌機能及び次亜塩素酸がウイルスから電子を奪うウイルス不活性機能を高めることができる。
【0026】
また、上記実施の形態によれば、次亜塩素酸水溶液に重炭酸イオン(陰イオン)が含まれることにより、重炭酸イオンがpH緩衝機能を発揮して次亜塩素酸水溶液のpH変化を抑制し、次亜塩素酸水溶液のpHを安定させることができる。
【0027】
次に、本発明に係る忌避剤として用いることが可能な次亜塩素酸水溶液の製造方法について
図1を参照しながら説明する。なお、以下で説明する製造方法並びに製造装置で製造する次亜塩素酸水溶液は、上記の忌避剤として用いることができるほか、その他の用途(例えば、除菌剤や消臭剤など)に用いることも勿論可能である。
図1は、本発明の一実施形態に係る次亜塩素酸水溶液の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図1に示す次亜塩素酸水溶液の製造方法は、原料となる水Wを精製する精製工程(第1工程)ST1と、精製工程ST1で精製した水Wから次亜塩素酸水溶液L1を製造する製造工程(第2工程)ST2とを有する。
【0028】
水Wの精製工程ST1は、具体的には、水Wから不純物(有機物、金属イオン)を除去する工程である。また、精製工程ST1は、水Wに含まれる重炭酸イオンなどの陰イオンは除去しない。精製工程ST1は、水Wから有機物を除去する有機物除去工程ST1-Aと、有機物除去工程ST1-Aで有機物が除去された水Wから金属イオン(陽イオン)を除去する金属イオン除去工程ST1-Bとを有する。
【0029】
有機物除去工程ST1-Aにおいては、水Wをフィルターに通過させ、この水Wに含まれる有機物をフィルターで回収することで、水Wから有機物を除去する。これにより、後の製造工程ST2で製造される次亜塩素酸水溶液L1において次亜塩素酸が有機物と反応するのを回避し、次亜塩素酸水溶液L1の次亜塩素酸濃度が低下するのを回避する。さらに、次亜塩素酸水溶液L1中の有機物濃度が低くなることで、次亜塩素酸水溶液L1の人体への安全性が高まる。
【0030】
金属イオン除去工程ST1-Bにおいては、有機物除去工程ST1-Aで有機物が除去された水Wを陽イオン交換樹脂に供給し、水Wに含まれる金属イオンを陽イオン交換樹脂で吸着することで、水Wから金属イオンを除去する。水Wから除去する金属イオンには、ナトリウムイオンや重金属イオンなどが挙げられる。重金属イオンには、例えば鉄イオンがある。
【0031】
ここで、金属イオン除去工程ST1-Bでは、次亜塩素酸水溶液L1から重炭酸イオンなどの陰イオンが除去されるのを防止するために、陽イオン及び陰イオンの両方を除去する装置は使用しない。具体的には、両性イオン交換樹脂や逆浸透膜などを使用しない。
【0032】
次亜塩素酸水溶液の製造工程ST2は、精製工程ST1で精製した水、塩酸(無機酸)、次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸塩)を混合する方式(混合式)で次亜塩素酸水溶液L1を製造する。具体的には、水に塩酸を添加し、塩酸添加後の水に次亜塩素酸ナトリウムを添加する。これにより、下記反応式(1)のような反応が起こり次亜塩素酸が生成する。
【化1】
【0033】
ここで、塩酸は、下記反応式(2)に記載のように、製造工程ST2で製造された次亜塩素酸と再度反応し、次亜塩素酸を分解して塩素ガスを発生させる。この反応は、塩酸の濃度が高い場合に生じやすい。そこで、製造工程ST2においては、まず水に塩酸を供給して希釈塩酸を生成し、この希釈塩酸に次亜塩素酸ナトリウムを供給する。
【化2】
【0034】
また、塩酸は、次亜塩素酸水溶液の製造工程ST2で製造される次亜塩素酸水溶液L1のpH調整剤としての機能を有する。そのため、製造工程ST2で製造される次亜塩素酸水溶液L1のpHが適切な範囲になるように、製造工程ST2で塩酸の供給量を調整する。
【0035】
ここで、金属イオン除去工程ST1-Bで水Wから金属イオンを除去することで、最終的に製造される次亜塩素酸水溶液L1の金属イオン濃度が低くなり、次亜塩素酸水溶液L1の人体への安全性が高まる。
【0036】
また、次亜塩素酸水溶液L1の鉄イオン(金属イオン)濃度が低くなったことで、次亜塩素酸水溶液L1において、鉄イオン(金属イオン)が下記反応式(3),(4)のように次亜塩素酸と反応するのを防止し、これにより次亜塩素酸濃度が低下するのが防止される。
【化3】
【化4】
【0037】
さらに、次亜塩素酸水溶液L1の金属イオン濃度が低くなったことで、次亜塩素酸水溶液L1において金属イオンが重炭酸イオン、塩酸と反応することも防止される。これにより、次亜塩素酸水溶液L1において、重炭酸イオン濃度が低下して重炭酸イオンによるpH緩衝能が低下することや、金属イオンと塩化物イオン、もしくは重炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンなど(陰イオン)との反応により塩化物である塩(不純物)が発生することを防止する。
【0038】
ここで、精製工程ST1で水Wから有機物や金属イオンを除去したり、製造工程ST2において、水、塩酸及び次亜塩素酸ナトリウムそれぞれの混合量を調整したりすることで、製造工程ST2で製造された次亜塩素酸水溶液L1の次亜塩素酸濃度が5ppm以上400ppm以下、pHが4.0以上7.0以下となるようにする。
【0039】
以上のように、上記実施の形態によれば、次亜塩素酸水溶液L1の原料となる水Wの精製は当該水Wから重炭酸イオンなど(陰イオン)を除去せずに金属イオン(陽イオン)を除去して行うことで、pH緩衝能を有する重炭酸イオンなど(陰イオン)を次亜塩素酸水溶液L1に含有させておきながらも、次亜塩素酸水溶液L1から金属イオン(陽イオン)を除去することができる。
【0040】
さらに、上記実施の形態によれば、水へ塩酸を断続的に供給し、供給により生成した希釈塩酸に次亜塩素酸ナトリウムを連続的に供給することで、水、塩酸及び次亜塩素酸ナトリウムの混合により生成した次亜塩素酸が再度塩酸と反応するのを防止することができる。なお、ここでいう塩酸を断続的に供給することには、全量を複数回に分けて少量ずつ供給することが含まれる。また、次亜塩素酸ナトリウムを連続的に供給することには、全量を一回で(一気に)供給することが含まれる。
【0041】
また、上記実施の形態において、有機物除去工程ST1-Aと金属イオン除去工程ST1-Bとは、適宜順序を入れ替えることができる。
【0042】
さらに、上記実施の形態において、次亜塩素酸水溶液の製造工程ST2において、無機酸として塩酸を使用したが、塩酸に代えて炭酸、硫酸、リン酸、硝酸などを使用することもできる。
【0043】
また、上記実施の形態において、次亜塩素酸水溶液の製造工程ST2では次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用したが、次亜塩素酸ナトリウムに代えて次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸カルシウムなどを使用することもできる。なお、次亜塩素酸ナトリウムは液状であり、次亜塩素酸マグネシウム及び次亜塩素酸カルシウムは粒状である。
【0044】
なお、上記実施の形態において、次亜塩素酸水溶液の製造工程ST2では、水、塩酸及び次亜塩素酸ナトリウムを混合する方式(混合式)に代えて、塩化物イオンを含む水溶液(例えば、塩化ナトリウム水溶液)を電気分解する方式(電解式)により次亜塩素酸水溶液を製造することもできる。
【0045】
次に、次亜塩素酸水溶液の製造装置について説明する。
図2に示すように、次亜塩素酸水溶液の製造装置1は、水を精製する精製装置10と、精製した水に次亜塩素酸ナトリウムと塩酸を混合する混合装置100とを備える。さらに、精製装置10は、有機物除去フィルター11(有機物除去装置)と、陽イオン交換樹脂12(陽イオン除去装置)とを備えている。ここで、次亜塩素酸水溶液の製造装置1は、
図1に示す次亜塩素酸水溶液の製造方法で使用される装置である。また、精製装置10は、
図1に示す水の精製工程ST1で使用される装置である。さらに、混合装置100は、
図1に示す次亜塩素酸水溶液の製造工程ST2で使用される装置である。また、有機物除去フィルター11は、
図1に示す有機物除去工程ST1-Aで使用される装置である。さらに、陽イオン交換樹脂12は、
図1に示す金属イオン除去工程ST1-Bで使用される装置である。
【0046】
図3は、混合装置100の第一の例を示す概略図である。
図3に示すように、第一の例である混合装置100-1は、撹拌部(インラインミキサー)を有する配管2Aと、配管2Aに水Wを供給する水供給装置3と、配管2Aに塩酸A1を供給する塩酸供給装置4(無機酸供給装置)と、配管2Aに次亜塩素酸ナトリウムBを供給する次亜塩素酸ナトリウム供給装置5(次亜塩素酸塩供給装置)とを備えている。この混合装置100-1は、さらに、配管2Aと塩酸供給装置4とを連結する連結管6と、連結管6に設けられるポンプ7と、配管2Aを流れる液体が連結管6側へ流出することを防止する逆流防止弁8とを備えると共に、配管2Aと次亜塩素酸ナトリウム供給装置5とを連結する連結管16と、連結管16に設けられるポンプ17と、配管2Aを流れる液体が連結管16側へ流出することを防止する逆流防止弁18とを備えている。
【0047】
配管2Aは、水W、塩酸A1及び次亜塩素酸ナトリウムBを混合して次亜塩素酸水溶液L1を製造するためのものである。具体的には、配管2Aは、水供給装置3から水Wが供給される水供給部2aと、塩酸供給装置4から塩酸A1が供給される塩酸供給部2bと、次亜塩素酸ナトリウム供給装置5から次亜塩素酸ナトリウムBが供給される次亜塩素酸ナトリウム供給部2cと、水W、塩酸A1及び次亜塩素酸ナトリウムBを攪拌する攪拌部2dと、製造された次亜塩素酸水溶液L1を配管2Aの系外へ排出する排出部2eとを有する。
【0048】
また、配管2Aにおける水Wの流れの上流側から下流側に向かって、水供給部2a、塩酸供給部2b、次亜塩素酸ナトリウム供給部2c、攪拌部(インラインミキサー)2d、排出部2eの順に配置される。これにより、配管2Aにおいては、水供給部2aから供給された水Wと塩酸供給部2bから供給された塩酸A1とが混合して希釈塩酸A2が生じ、希釈塩酸A2が次亜塩素酸ナトリウム供給部2cから供給された次亜塩素酸ナトリウムBと混合して混合液Mとなる。さらに、混合液Mが攪拌部2dで攪拌されることで次亜塩素酸を含む次亜塩素酸水溶液L1が生成する。また、生成した次亜塩素酸水溶液L1は排出部2eから配管2Aの系外へ排出される。
【0049】
攪拌部2dは、導入された混合液Mを攪拌する部分であり、一例として、静止している案内羽根(図示せず)が形成された構成であってよい。その場合は、攪拌部2dに導入された混合液Mは、当該案内羽根に導入されることにより旋回される。これにより、混合液Mは攪拌され、混合液Mに含まれる塩酸及び次亜塩素酸ナトリウムが反応して次亜塩素酸が生成する。なお、攪拌部2dは必須の構成要素ではなく、攪拌部2dを省略することも可能である。さらに、攪拌部2dの具体的な構成は、上記した案内羽根を備えるものには限定されず、混合液Mを攪拌することができるものであれば、案内羽根を備えていない構成であってもよい。
【0050】
連結管6は、配管2Aの塩酸供給部2bと塩酸供給装置4とを連結する中空管であり、塩酸供給装置4から供給された塩酸A1を塩酸供給部2bに案内する。
【0051】
ポンプ7は、塩酸供給装置4から配管2Aの塩酸供給部2bに供給される塩酸A1の量を調整するために備えられている。ポンプ7は、連結管6を流れる塩酸A1を少量ずつ又は予め定められた分量ずつ塩酸供給部2bに供給し、塩酸供給部2bに塩酸A1を断続的に供給する。
【0052】
逆流防止弁8は、配管2Aの内部を流れる液体が塩酸供給部2bから流出することを防止する。なお、逆流防止弁8は、塩酸供給装置4から供給された塩酸A1を塩酸供給部2bに供給する連結管6が内部に貫通している。
【0053】
連結管16は、配管2Aの次亜塩素酸ナトリウム供給部2cと次亜塩素酸ナトリウム供給装置5とを連結する中空管であり、次亜塩素酸ナトリウム供給装置5から供給された次亜塩素酸ナトリウムBを次亜塩素酸ナトリウム供給部2cに案内する。
【0054】
ポンプ17は、次亜塩素酸ナトリウム供給装置5から配管2Aの次亜塩素酸ナトリウム供給部2cに供給される次亜塩素酸ナトリウムBの量を調整するために備えられている。ポンプ17は、連結管16を流れる次亜塩素酸ナトリウムBの全量を一気に次亜塩素酸ナトリウム供給部2cに供給し、次亜塩素酸ナトリウム供給部2cに次亜塩素酸ナトリウムBを連続的に供給する。
【0055】
逆流防止弁18は、配管2Aの内部を流れる液体が次亜塩素酸ナトリウム供給部2cから流出することを防止する。なお、逆流防止弁18は、次亜塩素酸ナトリウム供給装置5から供給された次亜塩素酸ナトリウムBを次亜塩素酸ナトリウム供給部2cに供給する連結管16が内部に貫通している。
【0056】
次に、混合装置100の第二の例について説明する。なお、第二の例の説明及び対応する図面においては、第一の例と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項、および図示する以外の事項については、第一の例と同じである。
【0057】
図4は、第二の例の混合装置100-2を示す概略図である。
図4に示す混合装置100-2は、
図3に示す混合装置100-1が備える配管2Aに代えて配管2Bを備えたものである。この配管2Bは、塩酸供給部2bと次亜塩素酸ナトリウム供給部2cとの間に第一攪拌部(インラインミキサー)2fを備えた点で配管2Aとは異なる。そして、第一攪拌部2fは、
図3に示す混合装置100-1における攪拌部2dと同様の構成及び機能を有する。さらに、混合装置100-2では、混合装置100-1の配管2Aにおける攪拌部2dを第二攪拌部2dとする。
【0058】
また、配管2Bにおける水Wの流れの上流側から下流側に向かって、水供給部2a、塩酸供給部2b、第一攪拌部2f、次亜塩素酸ナトリウム供給部2c、第二攪拌部2d、排出部2eの順に配置される。これにより、配管2Bにおいては、水供給部2aから供給された水Wと塩酸供給部2bから供給された塩酸A1とが混合して希釈塩酸A2が生じ、希釈塩酸A2が第一攪拌部2fで攪拌されて希釈塩酸A3となり、希釈塩酸A3が次亜塩素酸ナトリウム供給部2cから供給された次亜塩素酸ナトリウムBと混合して混合液Mとなる。さらに、混合液Mが第二攪拌部2dで攪拌されることで次亜塩素酸を含む次亜塩素酸水溶液L1が生成する。また、生成した次亜塩素酸水溶液L1は排出部2eから配管2Bの系外へ排出される。
【0059】
以上のように、上記実施の形態によれば、精製装置10は水Wから陰イオンを除去せずに陽イオンを除去することで、pH緩衝能を有する陰イオンを水Wに含有させておきながらも、水Wから次亜塩素酸の酸化力を奪う原因となる陽イオンを除去することができる。
【0060】
このように陽イオン(金属イオン)を除去することで、陽イオンが次亜塩素酸と反応して酸化力を奪ってしまうことを防止できる。また、陽イオンを除去することで、上記の製造方法及び製造装置で製造した次亜塩素酸水溶液を用いた忌避剤や除菌剤などを噴霧したときに、その後乾いた際に金属イオンと陰イオンとで塩が生成されることも防止できる。特に、水道水に含まれるカルシウムイオン、マグネシウムイオンによってカルシウム塩やマグネシウム塩が生成されると、不溶性のためそれらを拭き取ることが難しくなるところ、上記のように塩の生成を防止できることで、そのような問題が生じずに済む。
【0061】
また、塩酸A1は、配管2A、2Bに供給された水Wに断続的に供給され、次亜塩素酸ナトリウムBは、水Wへの塩酸A1の供給により生成した希釈塩酸A2、A3に連続的に供給されることで、水、塩酸及び次亜塩素酸塩の混合により生成した次亜塩素酸が再度塩酸と反応するのを防止することができる。これにより、次亜塩素酸水溶液L1の次亜塩素酸濃度が低下するのを防止することができると共に、次亜塩素酸と塩酸との反応で生成したガスが気泡となって作業者の安全性が低下することを防止できる。
【0062】
また、上記実施の形態の混合装置100(100-1,100-2)において、水Wが供給された配管2Aに塩酸A1をポンプ7で供給することにより、塩酸A1の断続的な供給の容易化を図ることができる。
【0063】
なお、上記実施の形態の混合装置100-2では、塩酸の濃度が高い状態で次亜塩素酸ナトリウムに触れると塩素ガスを発生してしまうことから、これを回避するために希釈塩酸をあらかじめ第一攪拌部2fで攪拌して濃度の均一化を図ってから次亜塩素酸ナトリウムを混ぜるようにしている。しかしながらこれ以外にも、塩酸を供給する塩酸供給部2bを複数個所とすることで塩酸を少量ずつ複数に分けて供給するように構成したり、ポンプの設定で塩酸を少量ずつ複数回に分けて供給するように構成してもよい。
【0064】
次に、次亜塩素酸水溶液の利用方法の一例について説明する。なお、この説明において、次亜塩素酸水溶液とは、本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造方法及び製造装置で製造した次亜塩素酸水溶液を意味する。具体的には、
図1に示す次亜塩素酸水溶液L1を意味する。
【0065】
ここでは、次亜塩素酸水溶液L1の用途の一例として、当該次亜塩素酸水溶液L1を有害生物の忌避剤として用いる場合を説明する。まず、内部の液体を噴霧することが可能な容器に次亜塩素酸水溶液を収納する。次に、シロキクラゲを栽培しているビニールハウス内において、栽培中のシロキクラゲに次亜塩素酸水溶液を散布する。
【0066】
ここで、次亜塩素酸水溶液が菌やウイルスに噴霧されると、次亜塩素酸水溶液に含まれる次亜塩素酸が菌やウイルスから電子を奪い、これら菌やウイルスを不活性化すると共に、この次亜塩素酸が下記反応式(5)のように反応して塩化物イオンと水とに分離する。これにより、容器の外部に噴霧された次亜塩素酸は、無害なイオン(塩化物イオン、水)になるため、人体やシロキクラゲに悪影響を及ぼさない。
【化5】
【0067】
そして、栽培中のシロキクラゲから有害生物(クロバネキノコバエ)を忌避することが可能になる。クロバネキノコバエは、栽培中のシロキクラゲから生じる液を吸うことで、シロキクラゲに黒い斑点を生じさせてシロキクラゲの商品価値を下落させる有害生物である。しかし、シロキクラゲに次亜塩素酸水溶液を散布することで、このシロキクラゲからクロバネキノコバエを忌避することが可能となる。
【0068】
なお、本実施形態の次亜塩素酸水溶液は、忌避剤としては、上記以外に例示した農業目的以外にも他の用途にも幅広く用いることが可能である。一例として、食品加工工場での虫除けや、一般家庭で糠床からのコバエ対策などにも使用が可能である。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。