(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】電波発射源可視化装置および帯域拡大方法
(51)【国際特許分類】
G01S 3/48 20060101AFI20231010BHJP
G01S 3/04 20060101ALI20231010BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
G01S3/48
G01S3/04 A
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2020040595
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 秀実
(72)【発明者】
【氏名】春日 克郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 映光
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-047473(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0122967(KR,A)
【文献】特開2001-183437(JP,A)
【文献】特開2007-240445(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006415(WO,A1)
【文献】特開2018-054386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0071310(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0048970(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0229033(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ配列される
N行×N列(Nは2以上の自然数)のアンテナ素子を備え、到来波を捕捉するアンテナ部と、
前記N
行×N列のアンテナ素子からM
行×M列(MはN
未満の自然数)のアンテナ素子を含むアンテナ素子群を前記到来波の帯域に応じて選択する選択部と、
前記選択されたアンテナ素子群に含まれるアンテナ素子の各々の素子信号から前記到来波の到来方向を推定する推定部と、
前記アンテナ部の開口の指向方向を撮影して画像データを得る撮影部と、
前記推定された到来方向を前記画像データに視覚的に合成して可視化画像を作成する作成部とを具備する、電波発射源可視化装置。
【請求項2】
前記選択部は、前記到来波の波長に対して凡そ半波長の間隔になるアンテナ素子からなるアンテナ素子群を選択する、請求項1に記載の電波発射源可視化装置。
【請求項3】
前記作成部は、前記到来波の二次元平面における電界強度分布を前記画像データに合成して前記可視化画像を作成する、請求項1に記載の電波発射源可視化装置。
【請求項4】
前記選択部は、前記アンテナ素子群を複数選択してそれぞれのアンテナ素子群からの素子信号を切替出力し、
前記推定部は、それぞれのアンテナ素子群からの素子信号を平均化して前記到来方向を推定する、請求項1に記載の電波発射源可視化装置。
【請求項5】
前記可視化画像を表示する表示部をさらに具備する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電波発射源可視化装置。
【請求項6】
アレイ配列されるN
行×N列(Nは2以上の自然数)のアンテナ素子を備え、到来波を捕捉するアンテナ部を備える電波発射源可視化装置の帯域を拡大する方法であって、
電波発射源可視化装置が、前記N
行×N列のアンテナ素子からM
行×M列(MはN
未満の自然数)のアンテナ素子を含むアンテナ素子群を前記到来波の帯域に応じて選択する過程と、
前記電波発射源可視化装置が、前記選択されたアンテナ素子群に含まれるアンテナ素子の各々の素子信号から前記到来波の到来方向を推定する
過程と、
前記電波発射源可視化装置が、撮影部により、前記アンテナ部の開口の指向方向を撮影して画像データを得る過程と、
前記電波発射源可視化装置が、前記推定された到来方向を前記画像データに視覚的に合成して可視化画像を作成する過程とを具備する、帯域拡大方法。
【請求項7】
前記電波発射源可視化装置が、前記到来波の波長に対して凡そ半波長の間隔になるアンテナ素子からなるアンテナ素子群を選択する、請求項6に記載の帯域拡大方法。
【請求項8】
前記電波発射源可視化装置が、前記到来波の二次元平面における電界強度分布を前記画像データに合成して前記可視化画像を作成する、請求項6に記載の帯域拡大方法。
【請求項9】
前記電波発射源可視化装置が、前記アンテナ素子群を複数選択してそれぞれのアンテナ素子群からの素子信号を切替出力し、
前記電波発射源可視化装置が、それぞれのアンテナ素子群からの素子信号を平均化して前記到来方向を推定する、請求項6に記載の帯域拡大方法。
【請求項10】
前記可視化画像を表示部に表示する過程をさらに具備する、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の帯域拡大方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電波発射源可視化装置および帯域拡大方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波発射源可視化装置は、所望の帯域の電波の放射位置を特定し、カメラ画像に重ねて表示することができる。例えば違法電波をピンポイントで検出し、その位置を表示することができるので、公益機関などにおいて運用されている。違法電波は様々な周波数において送信されるので、捕捉可能な周波数帯域を拡大することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-322972号公報
【文献】特開2009-232213号公報
【文献】特開2012-78163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の装置では、せいぜい700MHz~1500MHzをカバーできれば十分とされていたところ、近年ではこれに加えて1400MHz~2700MHzの帯域をもカバーできることを求められる。つまり従来では1オクターブの帯域で十分であったところ、一気に2オクターブもの帯域をカバーすることのできる装置が求められている。
しかし周知のように、アレイアンテナ2においては受信波長(λ)のλ/2間隔での配列が理想的であり、素子間隔がλ/2以下となると可視化処理出力のピークがブロードとなって放射位置の特定が困難となる。また、λが素子間隔に近くなると可視化処理出力のピークは鋭くなるが虚像も現れてしまう。このように、電波発射源可視化装置のターゲットとする帯域においてはアンテナ設計に係わる条件が厳しく、広帯域化を図ることが困難であった。
【0005】
そこで、目的は、広帯域化を図った電波発射源可視化装置および帯域拡大方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、電波発射源可視化装置は、アンテナ部、選択部、推定部、撮影部、および、作成部を具備する。アンテナ部は、アレイ配列されるN(Nは2以上の自然数)のアンテナ素子を備え、到来波を捕捉する。選択部は、Nのアンテナ素子からM(MはN以下の自然数)のアンテナ素子を含むアンテナ素子群を到来波の帯域に応じて選択する。推定部は、選択されたアンテナ素子群に含まれるアンテナ素子の各々の素子信号から到来波の到来方向を推定する。撮影部は、アンテナ部の開口の指向方向を撮影して画像データを得る。作成部は、推定された到来方向を画像データに視覚的に合成して可視化画像を作成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係わる電波発射源可視化装置の一例を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の表示部13における表示の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、アレイアンテナ2を開口面から見た一例を示す図である。
【
図4】
図4は、低域側の帯域を捕捉するときに選択されるアンテナ素子の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、高域側の帯域を捕捉するときに選択されるアンテナ素子の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、アンテナ素子群を複数形成できることを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、実施形態に係わる電波発射源可視化装置の一例を示す機能ブロック図である。
図1の電波発射源可視化装置は、アレイアンテナ2、アンテナ切替部3、リファレンスアンテナ4、周波数変換部5、A/D(アナログ/ディジタル)変換部6、到来方向推定処理部7、カメラ部8、画像合成処理部9、GPS受信機10、方位センサ11、地図表示処理部12、表示部13、および、メモリ14を備える。
【0009】
アレイアンテナ2は、アレイ状に配列されるN個(Nは2以上の自然数)のアンテナ素子1-1~1-nを備え、電波発射源からの電波(到来波)を捕捉する。アンテナ切替部3は、例えばダイオードスイッチ等のスイッチング素子であり、捕捉すべき到来波の帯域に応じて、アンテナ素子1-1~1-nを選択的に切り替える。すなわちアンテナ切替部3は、アンテナ素子1-1~1-nからM(MはN以下の自然数)のアンテナ素子を含むアンテナ素子群を、到来波の帯域に応じて選択する。
【0010】
アンテナ素子1-1~1-nおよびリファレンスアンテナ4は、いずれも同じ帯域の到来波を捕捉し、素子信号を出力する。アレイアンテナ2の形状、種類、アンテナ素子の総数、およびアンテナ素子1-1~1-nの間隔等は、測定対象や測定目的等に応じて最適化される。
【0011】
アンテナ素子1-1~1-nのいずれか一つをリファレンスアンテナ4にすれば、リファレンスアンテナ4を別に取り付けるための構造を省略でき、小型化、軽量化に寄与できる。
【0012】
周波数変換部5は、リファレンスアンテナ4及びアレイアンテナ2からの各素子信号を増幅し、サンプリング可能な中間周波数帯域に周波数変換する。A/D変換部6は、周波数変換部5により周波数変換されたアナログ信号を、ディジタル信号に変換する。
【0013】
到来方向推定処理部7は、アレイアンテナ2で捕捉された到来波の到来方向を推定する。具体的には、到来方向推定処理部7は、リファレンスアンテナ4の素子信号と、選択されたアンテナ素子群に含まれるアンテナ素子の各々の素子信号との位相差を検出し、例えば電波ホログラフィ法により到来波の到来方向を推定する。なお、到来方向推定処理部7により推定された到来波の到来方向は、アレイアンテナ2の向きを基準とする相対的な方位角及び仰角を示す。
【0014】
カメラ部8は、アレイアンテナ2の近傍に設置され、アレイアンテナ2の開口の指向方向を撮影して画像データを得る。なおカメラ部8の取り付け場所がアレイアンテナ2の位相中心から離れている場合には、視差を補正することで正確な可視化画像を得ることができる。
【0015】
画像合成処理部9は、到来方向推定処理部7で推定された到来波の到来方向を、カメラ部8で得られた画像データに視覚的に合成して、可視化画像を作成する。すなわち、画像合成処理部9は、到来波の二次元平面における電界強度分布を画像データに合成して可視化画像を作成する。
【0016】
GPS受信機10は、アレイアンテナ2の位置情報を取得する。具体的には、GPS受信機10は、GPS(Global Positioning System)衛星からの測位信号を受信し、アレイアンテナ2の緯度・経度等の位置情報を取得する。方位センサ11は、例えば磁気方位センサであり、地磁気を利用してアレイアンテナ2の方位情報を取得する。
【0017】
地図表示処理部12は、GPS受信機10により取得された位置情報に基づいて、アレイアンテナ2の周辺の地図情報を取得する。地図情報は、メモリ14に予め記憶されたマップデータ14aから取得されることができる。あるいは、インターネット等のネットワークから地図情報を取得することもできる。
【0018】
表示部13は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)であり、地図表示処理部12により出力された地図情報に基づいて、アレイアンテナ2で受信した到来波の到来方位及びアレイアンテナ2の位置を示した地図を表示する。さらに、表示部13は、画像合成処理部9により生成された可視化画像を表示する。
【0019】
なお、アレイアンテナ2、アンテナ切替部3、リファレンスアンテナ4、周波数変換部5、A/D(アナログ/ディジタル)変換部6、到来方向推定処理部7、カメラ部8、画像合成処理部9、GPS受信機10、方位センサ11、地図表示処理部12、および、表示部13に対する各種の制御、あるいはソフトウェアによる演算処理は、メモリ14に記憶されたプログラム14bにより実現される。
【0020】
図2は、
図1の表示部13における表示の一例を示す図である。表示部13は、例えばカメラウインドウ(a)とマップウインドウ(b)とを表示する。
カメラウインドウ(a)は、カメラ部8により撮影された画像に、到来波の電界強度の二次元平面における分布を合成した、重ね合わせ画像を表示する。カメラウインドウ(a)において、到来方向推定処理部7により推定された到来方向を中心に、推定された到来波の電界強度が、ほぼ等高線上に描画される。電界強度に応じて表示色を異ならせて作成された画像(カラーマップ)を表示しても良い。
【0021】
マップウインドウ(b)は、GPS受信機10で得られた電波発射源可視化装置の位置(c)を、マップデータ14aから取得した周辺地図に重ね合わせて表示する。また、マップウインドウ(b)において、電波発射源可視化装置の位置(c)から電波発射源の位置(d)に向けた矢印が描画される。この矢印により、マップウインドウ(b)によれば、電波発射源が探索者から見てやや左に位置していることがわかる。これは可視化画面(a)にも対応している。
【0022】
図3は、アレイアンテナ2を開口面から見た一例を示す図である。アレイアンテナは、例えば5行×5列の、25個のアンテナ素子を備えてよい。
ここで、例えば700MHz~2700MHzにわたる帯域の到来波を捕捉することを考える。既存の技術では、例えば次の(1)、(2)に示すように帯域を分割し、それぞれ専用のアレイアンテナを設ける必要があった。
【0023】
(1) 700MHz~1500MHz
(2) 1400MHz~2700MHz
そこで、実施形態では、(1)および(2)の周波数帯域をカバーする広帯域アンテナを利用し、複数のアンテナ配列のうち受信周波数に応じてアンテナ配列を選択することにより素子間隔を最適化できるようにした。
【0024】
図4に示されるように、(1)の帯域を捕捉する際には、図中、ハッチング(斜線)で示す3×3配列のアンテナ素子を選択し、このアンテナ素子群の各アンテナ素子からの素子信号により電波到来方向を算出する。一方、(2)の帯域を捕捉する際には、
図5のハッチング(斜線)で示す4×4配列のアンテナ素子を選択し、このアンテナ素子群の各アンテナ素子からの素子信号により電波到来方向を算出する。
【0025】
このように、捕捉すべき到来波の帯域に応じてアンテナ素子を選択し、アンテナ配列を切り替えることで、アンテナ素子間の間隔を適応的に設定することができる。これにより二つのアレイアンテナを一つに統合し、共通のアレイアンテナを用いて、例えば700MHz~2700MHzにもわたる広帯域の到来波を観測することが可能になる。
【0026】
アレイアンテナにおいては、受信波長(λ)のλ/2間隔でのアレイ配列が理想的である。素子間隔がλ/2以下となると可視化処理出力のピークがブロードとなって放射位置の特定が困難となる。また、λが素子間隔に近くなると、可視化処理出力のピークは鋭くなるが虚像も表示されてしまう。このため既存の技術では、受信周波数範囲は下限周波数に対して二倍の周波数を上限とし、中心周波数における波長のλ/2をアンテナ素子間隔としてアンテナ配列を行っていた。このため受信可能な帯域におのずと制約があった。
【0027】
これに対し実施形態では、アンテナ切替部3により、到来波の波長に対して凡そ半波長の間隔になるアンテナ素子からなるアンテナ素子群を選択することで、受信波長λに対してλ/2間隔のアレイ配列によるアンテナ素子での捕捉を可能とした。これらのことから、実施形態によれば、広帯域化を図った電波発射源可視化装置および帯域拡大方法を提供することが可能となる。
【0028】
なお、この発明は記載した実施形態に限定されるものではない。例えば、表示部13を、電波発射源可視化装置とは別体のノートパソコンの画面で実現することもできる。あるいはタブレットの画面であってもよい。また、カメラウインドウ(a)とマップウインドウ(b)とを同じ画面上に一緒に表示する必要はなく、ユーザの操作等に応じて画面を切り替えるようにしてもよい。
【0029】
また、表示部13による表示方法は、上述した方法に限定されるものではなく、種々の変型が可能である。例えば、表示部13は、カメラウインドウ(a)における電波到来方向の表示を電界強度に応じた色で表示する以外にも、色以外の数字、記号、マーク等で表示してもよい。さらに、表示部13は、マップウインドウ(b)において建物以外の様々な情報を記載した地図を使用してもよい。
【0030】
さらに、マルチパスへの対策を講じることも可能である。
図6は、アンテナ素子群を複数形成できることを説明するための図である。5×5配列のアレイアンテナにおいては、
図6(a)、(b)、(c)、(d)に示されるように、4×4配列のアンテナ素子群を4通りに切り替えることができる。そこで、アンテナ切替部3によりこれらの複数のアンテナ素子群を選択的に切り替え、それぞれのアンテナ素子群からの素子信号を切替出力する。そして、到来方向推定処理部7により、それぞれのアンテナ素子群からの素子信号を平均化して、到来波の到来方向を推定する。このようにすることで、各アンテナ素子群について発生したマルチパスの影響を平均化し、相殺することができる。これにより、市街地など、マルチパスの発生しやすい環境への耐性を高めることができる。
【0031】
実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1-1~1-n…アンテナ素子、2…アレイアンテナ、3…アンテナ切替部、4…リファレンスアンテナ、5…周波数変換部、6…A/D変換部、7…到来方向推定処理部、8…カメラ部、9…画像合成処理部、10…GPS受信機、11…方位センサ、12…地図表示処理部、13…表示部、14…メモリ、14a…マップデータ、14b…プログラム。