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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】電動巻上装置
(51)【国際特許分類】
   B66D 5/14 20060101AFI20231010BHJP
   B66D 5/30 20060101ALI20231010BHJP
   B66D 3/20 20060101ALI20231010BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20231010BHJP
【FI】
B66D5/14
B66D5/30 C
B66D3/20 A
G01M99/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020070259
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167229
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 峻也
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-023295(JP,A)
【文献】実開平01-082343(JP,U)
【文献】実開昭57-182644(JP,U)
【文献】実開昭55-032340(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0112931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 5/14
B66D 5/30
B66D 3/20
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り荷を巻き上げ、及び巻き下げする巻上機構を駆動する巻上電動機と、前記巻上電動機の回転軸を停止状態と開放状態とに切り換える電磁ブレーキ機構とが設けられた電動巻上装置であって、
前記電磁ブレーキ機構は少なくとも、
前記回転軸に連結されるブレーキホイール本体と、前記ブレーキホイール本体に固定されたブレーキライニングを備えるブレーキホイールと、
前記ブレーキライニングと接触される状態、及び前記ブレーキライニングとの接触を解除される状態とに動作するブレーキディスクとを備え、
前記ブレーキライニングには、前記ブレーキライニングの内部で、前記ブレーキライニングの前記ブレーキディスクと接触する側の表面から見て、所定の深さ位置に、摩耗検知部材が収納される収納部が形成されており、
前記収納部に前記ブレーキライニングとは別に作られた前記摩耗検知部材が収納されて固定されている
ことを特徴とする電動巻上装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動巻上装置において、
前記摩耗検知部材は着色されており、前記ブレーキディスクによって削られる
ことを特徴とする電動巻上装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動巻上装置において、
前記摩耗検知部材は、前記ブレーキライニングの材料に着色顔料を混ぜて作られており、前記摩耗検知部材は、前記ブレーキライニングの前記収納部に接着剤によって固定されている
ことを特徴とする電動巻上装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電動巻上装置において、
前記摩耗検知部材は、前記ブレーキライニングの材料とは異なった材料で作られている
ことを特徴とする電動巻上装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電動巻上装置において、
前記摩耗検知部材は、金属で作られている
ことを特徴とする電動巻上装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電動巻上装置において、
前記所定の深さ位置は、前記ブレーキライニングの許容される摩耗限界値である
ことを特徴とする電動巻上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重量物を吊り上げる電動巻上装置に関し、特に電磁ブレーキ機構を備えた電動巻上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重量物を吊り荷として吊り下げ、これを上下動するための電気ホイストと呼ばれる電動巻上装置が備わるクレーンシステムにおいて、電動巻上装置は、吊り荷を吊り下げるためのクレーンフックを有しており、このクレーンフックはロープドラムに巻き付けられるワイヤロープに装着されている。巻上電動機によってロープドラムを回転駆動することにより、クレーンフックを上下動させて吊り荷の巻き上げと巻き下げが行われる。
【0003】
電動巻上装置には、ロープドラムを回転駆動するための巻上電動機と、この巻上電動機の回転を減速してドラムに伝達するための減速機構とが組み込まれており、ロープドラムは減速機構を介して回転駆動される。また、巻上電動機の回転軸には電磁ブレーキ機構が装着されており、電磁ブレーキ機構を作動させることにより、吊り荷を吊り下げた状態に保持することができる。電動ホイスにおいては、吊り荷は吊り下げられた状態のもとで水平方向に搬送移動されることになる。
【0004】
電磁ブレーキ機構は、巻上電動機の回転軸に固定されるブレーキホイールと、このブレーキホイールに固定されたブレーキライニングに摩擦接触するブレーキディスクとを有している。ブレーキディスクは、電磁ブレーキ機構に取り付けられたガイドピンに装着され、ブレーキホイールにブレーキライニングを介して密着する制動位置と、密着を解除する開放位置との間で移動自在となっている。
【0005】
ところで、電動巻上装置の減速機構に組み込まれた歯車の摩耗量を診断するために、例えば、特開2008-213966号公報(特許文献1)に記載されるように、巻上電動機の回転起動から歯車の噛み合いによって、巻上電動機に流れる電流が立ち上がるまでの間に測定される回転軸の回転角度値から摩耗量を診断するようにしている。
【0006】
また、電動巻上装置においては、電磁ブレーキ機構のブレーキライニングの摩耗量が大きくなると、吊り荷を停止させたときにブレーキディスクとブレーキホイールがスリップしてしまうことになるので、電磁ブレーキ機構を定期的に点検している。この定期点検は、ブレーキディスクを移動自在に支持するためのガイドピンの段付き部におけるギャップを目視で検査することにより行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-213966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来では上述したように、ブレーキディスクとガイドピンの段付き部におけるギャップを目視で検査することにより、ブレーキライニングの摩耗量を確認するようにしている。このため、摩耗量の見落としや点検作業ミスが生じると、ブレーキライニングの摩耗量が規定量以上に達して、電磁ブレーキ機構を動作させたときにブレーキディスクとブレーキホイールのスリップが発生し、吊り荷が下降移動するという課題がある。
【0009】
また、この他に副次的ではあるが、電磁ブレーキ機構のスタンドや、電磁ブレーキ機構が取り付けられるブラケットとの位置関係から、ブレーキディスクとガイドピンのギャップを測定する作業は大変煩わしいものであり、点検作業に多くの時間を費やすという課題もある。
【0010】
また、ブレーキライニングの摩耗量は、電動巻上装置の使用頻度等により相違することになるので、ギャップを目視で検査する方法では、過去の摩耗量と比較することによる電磁ブレーキ機構の交換時期を正確に予測することはできないという課題がある。
【0011】
更に、特許文献1に記載されるように、ブレーキホイールの回転角度値から摩耗量の判定を行うようにすると、回転角度検出装置を巻上電動機に装着する必要があり、電動巻上装置の製造コストを高めるという課題もある。
【0012】
本発明の目的は、上述した課題の1つ以上を解決し、しかもブレーキライニングの摩耗を容易に判別することができる電動巻上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の特徴は、ブレーキライニングの内部で、ブレーキライニングのブレーキディスクと接触する側の表面から見て、所定の深さ位置に摩耗検知部材が埋設して取り付けられていることにある。
【0014】
本発明の第2の特徴は、ブレーキライニングの内部で、ブレーキライニングのブレーキディスクと接触する側の表面から見て、所定の深さ位置に至る摩耗検知溝が形成されていることにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ブレーキディスクとの接触でブレーキライニングが所定深さ位置まで摩耗すると、摩耗検知部材、或いは摩耗検知溝によってブレーキライニングの摩耗を認識できるので、ブレーキライニングの摩耗を容易に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用されるクレーンシステムの全体構成を示す外観斜視図である。
図2図1に示すクレーンシステムに使用されている電動機の制御駆動装置を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態になる電動巻上装置を回転軸に沿って切断した断面図である。
図4図3に示す電動巻上装置おける右側面図である。
図5】本発明の実施形態になる電磁ブレーキ機構の拡大断面図である。
図6図5に示すブレーキホイールとブレーキライニングの正面図である。
図7図6おけるA-A断面を示す断面図である。
図8図5に示す他のブレーキホイールとブレーキライニングの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0018】
まず、図1、及び図2を参照して、通称、電気ホイストと呼ぶ電動巻上装置が備わるクレーンシステムの構成について説明する。図1はクレーンシステムの機械的な構成を示し、図2はその制御駆動装置の制御ブロックを示している。
【0019】
図1に示すように、クレーンガーダー10は、所定の間隔で平行に置かれた走行レール11に跨るように載置されている。クレーンガーダー10の両端に備わる走行部12が前後方向に走行可能に走行レール11に載置支持されている。そして、走行部12に設けた車輪13の回転でクレーンガーダー10は前後方向に運ばれ、走行レール11の上を行き来するように、車輪13が走行電動機14で駆動される。
【0020】
また、クレーンガーダー10は、クレーンガーダー10の上を左右に横行移動する横行フレーム15を載置支持している。この横行フレーム15には巻上電動機16が備えられている。横行フレーム15に設けた車輪(駆動輪17、従動輪18)の回転で、横行フレーム15はクレーンガーダー10の上を左右に移動する。駆動輪17は横行電動機19で駆動される。本実施例では、横行フレーム15内に巻上電動機16、後述する巻上機構20、及び横行電動機19が一つにまとまったユニットを、「電動巻上装置」15として説明を進める。ただし、横行電動機19は必ずしも必要としない場合もある。
【0021】
また、巻上電動機16には巻上機構20が取り付けられており、この巻上機構20にワイヤロープ21を介してクレーンフック22が巻き掛けられており、このクレーンフック22に吊り荷を吊り下げ、横行電動機19、走行電動機14によって所定の場所に吊り荷を移動させることができる。
【0022】
また、クレーンシステムは図2に示すような制御駆動装置によって制御されている。図2に示すように巻上・横行制御装置23には、巻上・横行インバータ制御部24、巻上用インバータ25、横行用インバータ26が内蔵される。走行制御装置27には、走行インバータ制御部28及び走行用インバータ29が内蔵されている。巻上用インバータ25、横行用インバータ26及び走行用インバータ29は、3相電源30にそれぞれ接続されている。巻上・横行インバータ制御部24と走行インバータ制御部28は、入力装置31に接続されている。
【0023】
また、巻上電動機16にはエンコーダ32が設けられており、巻上電動機16の回転情報が巻上・横行インバータ制御部24に入力されている。更に、走行電動機14、巻上電動機16、走行電動機19には、電磁ブレーキ機構33が設けられており、この電磁ブレーキ機構33は夫々の電動機14、16、19の回転軸の回転に制動を与える機能を備えている。
【0024】
図1に戻り、電動巻上装置15は、クレーンフック22に取り付けた吊り荷を、巻上電動機16で駆動される巻上機構20によりワイヤロープ21を巻き上げ、巻き下げることで重力方向、即ち上下方向に移動する。また、左右方向には、横行電動機19によって駆動される車輪17、18を回転させ、走行レール11に跨ったクレーンガーダー10に沿って移動する。更に、前後方向には、走行部12にある車輪13を走行電動機14が回転させ、走行レール11に沿って移動する。
【0025】
巻上電動機16と横行電動機19は、図2に示す巻上・横行インバータ制御部24により制御される。即ち、オペレータ(操作者)が入力装置31からの所定の指示を入力すると、巻上・横行インバータ制御部24は、巻上用インバータ25と横行用インバータ26を制御する。
【0026】
そして、巻上用インバータ25と横行用インバータ26から制御に必要な周波数、電圧、電流を巻上電動機16と横行用電動機19に加え、同時に電磁ブレーキ機構33を開放制御する。これにより、クレーンフック22に係合した吊り荷が、落下することなく上下方向に移動することができる。また、横行電動機19の電磁ブレーキ機構33を開放制御することで、クレーンガーダー10に沿って、巻上電動機3と巻上機構20が左右方向に移動することができる。ここで、巻上・横行インバータ制御部24は、巻上電動機16の回転数を検出するエンコーダ32の情報を取り込むことで、クレーンフック22の位置を判断し、運転制御に使用する。
【0027】
同様に、走行部12に取り付けてある走行電動機14は、オペレータが入力装置31からの所定の指示を入力すると、図2に示す走行インバータ制御部28が走行用インバータ29を制御する。そして、走行用インバータ29から制御に必要な周波数、電圧、電流を走行電動機14に加え、同時に電磁ブレーキ機構33を開放制御することで、走行レール11に沿って巻上電動機16と巻上機構20を前後方向に移動することができる。
【0028】
次に、電動巻上装置15の構成について説明する。図3には巻上電動機16、横行電動機19、及び巻上装置20からなる電動巻上装置15の断面形状を示し、図4はその右側から見た側面を示している。
【0029】
電動巻上装置15は、フレーム34の片方に、吊り荷の巻き上げ、及び巻き下げを行うための駆動源となる巻上電動機16と、巻上電動機16を制動する電磁ブレーキ機構33を備えている。一方、フレーム34の巻上電動機16の反対側には、減速機構35を備えている。また、吊り荷を吊るためのワイヤロープ21を巻き付けるためのロープドラム36の内部には、巻上電動機3の回転を減速機構35まで伝達するための連結部材37を備えている。
【0030】
巻上電動機16の回転は、連結部材37を介して減速機構35に伝達され、更に減速機構35で減速されてロープドラム36に伝達され、最終的にロープドラム36が回転する。これにより、ロープドラム36に巻き付けられたワイヤロープ21が上下動し、吊り荷を上げ下げすることができる。
【0031】
周知のように、ロープドラム36は、ワイヤロープ21を巻き掛ける円筒状の部品であり、両端側はドラムシャフト(図示せず)とベアリング(図示せず)で、フレーム34に支持される構成となっている。ロープドラム36の外周面には、ワイヤロープ21を巻き掛けられる凹状のロープ溝が形成されている。
【0032】
図4にあるように、ロープドラム36に巻かれるワイヤロープ21には、シーブ38を介して吊り荷を引っ掛けるクレーンフック22が連結されている。また、フレーム34はクレーンガーダー10に移動可能に支持されている。
【0033】
図3に示すように、横行電動機構39は、巻上電動機16の横行を行うための駆動源となる横行電動機19(図1参照)と、横行電動機19の回転を減速するための横行減速部40と、横行電動機19を制動する横行ブレーキ装置41を備えている。横行電動機19の回転力は横行減速部40を介して駆動輪17に伝達され、駆動輪17と従動輪18が回転することでクレーンガーダー10上を移動し、巻上電動機16を横行させることができる。
【0034】
次に、図5に基づき電磁ブレーキ機構33の構成について説明する。図5は本発明が適用される、巻上電動機16に隣接して配置された電磁ブレーキ機構33を拡大した断面を示している。
【0035】
電磁ブレーキ機構33は、巻上電動機16から突出する回転軸42の端部に固定されて一体に回転されるブレーキホイール43と、ブレーキホイール43に固定されるブレーキライニング44と、ブレーキライニング44に押圧されて摩擦接触されるブレーキディスク45と、ブレーキライニング44とブレーキディスク45との接触を制御する電磁アクチュエータ46を備えている。尚ブレーキホイール43とブレーキディスク45は、必要に応じて単一組、或いは複数組で選択して用いられる。
【0036】
電磁アクチュエータ46とブレーキディスク45とは、リンク機構47で連結されており、ブレーキディスク45は、ガイドピン47Gに軸方向で自由に支持されている。これによって、電磁アクチュエータ46が動作されると、リンク機構47によってブレーキディスク45がガイドピン47Gに沿って移動して、ブレーキライニング44とブレーキディスク45とを密着させる。ここで、電磁アクチュエータ46は、ソレノイドや電動機等を利用することができる。
【0037】
電磁ブレーキ機構33は、巻き上げ/巻き下げ動作が停止される状態では、電磁アクチュエータ46により、ブレーキホイール43のブレーキライニング44にブレーキディスク45を接触させて、その摩擦力で回転軸42を制動、固定している。そして、巻き上げ/巻き下げ動作が実行される状態では、電磁アクチュエータ46によりブレーキライニング44とブレーキディスク45とを開放状態(非接触)とし、回転軸42を回転可能な状態とする。
【0038】
電磁ブレーキ機構33は、ブレーキカバー49によって覆われている。ブレーキカバー49は、電磁ブレーキ機構33の端部に脱着可能に取り付けられており、カバー外部から隔絶されて密閉された空間部を形成し、その空間部内に電磁ブレーキ機構33が収容されるようになっている。
【0039】
ブレーキカバー49は、巻上電動機16の端部への取り付けにより、電磁ブレーキ機構33の電磁アクチュエータ46が収容される第1の収容室50と、ブレーキホイール43、ブレーキディスク45が収容される第2の収容室51を形成する。第2の収容室51は、第1の収容室50に隣接して形成されており、この第2の収容室51内にブレーキホイール43とブレーキディスク45が収納されている。
【0040】
ブレーキカバー49内には、第1の収容室50と第2の収容室51との間を区画するように遮蔽板(図示せず)が取り付けられており、第2の収容室51内で発生した粉塵が、第1の収容室50に侵入して電磁アクチュエータ46等に付着するのを抑制できるようになっている。
【0041】
次に本実施形態の特徴であるブレーキホイール43の構成について、図6図7に基づき説明する。
【0042】
ブレーキホイール43は、円形の形状を有しており、その側面でかつ径方向外側の領域にはブレーキライニング44が固定されている。そして、ブレーキホイール43の径方向の中間付近には、周方向に所定間隔をおいて開口するように複数の孔部48が形成されている。
【0043】
ブレーキホイール43は、所定の厚さを備える金属で作られた円形のブレーキホイール本体52と、このブレーキホイール本体52の両面、或いは片面に固定された円環状のブレーキライニング44とから構成されている。尚、本実施形態では、ブレーキライニング44はブレーキホイール本体52の両面に固定されている。ブレーキライニング44は、例えば樹脂等の結合材、有機/無機繊維等の補強材、潤滑剤、充填材、研削材、金属粉等の摩擦調整材等から作られており、結合材をモールドして作られている。
【0044】
ブレーキホイール本体52の中央には、巻上電動機16の回転軸が固定される固定孔53が形成されており、この固定孔53に回転軸42が圧入されている。尚、回転軸42と固定孔53とは溶接で結合しても良いし、セレーションによる結合であっても良い。ブレーキライニング44と固定孔53の間のブレーキホイール本体52には、6個の等間隔(等角度)に配置された孔部48が形成されている。この孔部48は、ブレーキホイール本体52の重量を軽減するために形成されている。
【0045】
そして、図6図7に示しているように、ブレーキライニング44の内部で、ブレーキライニング44のブレーキディスク45と接触する側の表面から見て、所定の深さ位置に摩耗検知部材54が埋設して取り付けられている。この摩耗検知部材54は、図6からわかるように細長い直方体の形状に形成されており、60°間隔で、ブレーキライニング44の径方向に沿って設けられている。
【0046】
この摩耗検知部材54は、ブレーキライニング44のブレーキホイール本体52と対向する表面(ブレーキホイール側表面)に形成され径方向に沿った収納溝(収納部)に収納されている。そして、収納された摩耗検知部材54は、接着剤によってブレーキライニング44と一体化され、埋設された状態で取り付けられている。尚、場合によってはブレーキライニング44をモールド成形するときに、摩耗検知部材54を同時に一体的に埋設することも可能である。
【0047】
ブレーキライニング44の収納溝に取り付けられた摩耗検知部材54の厚さは、ブレーキライニング44がブレーキディスク45と接触する側の表面(ブレーキディスク側表面)からみて、摩耗検知部材54の表面が所定の長さ位置に存在するように決められている。つまり、ブレーキライニング44のブレーキディスク45と接触する側の表面(ブレーキディスク側表面)から見て、所定の深さ位置に摩耗検知部材55が埋設されている。
【0048】
例えば、この所定の深さ位置(ブレーキディスク45と接触する側の表面から摩耗検知部材54までの長さ)は、ブレーキライニング44の許容される摩耗限界値(L)である。そして、ブレーキライニング44がブレーキディスク45との接触で摩耗して、摩耗限界値(L)に達した際に、摩耗検知部材54の表面がブレーキディスク45で削られるようになっている。
【0049】
ここで、摩耗検知部材54は、ブレーキライニング44と同じ材料で作られており、これに着色顔料が混ぜられている。着色顔料は、ブレーキライニング44と明確に区別がつくように、ブレーキライニング44と異なった色の顔料である。
【0050】
例えば、有彩色やブレーキライニング44の色と補色の関係にある着色顔料を使用すると、ブレーキライニング44と明確に区別することができる。尚、摩耗検知部材54は、ブレーキライニング44と同じ材料で作られていると説明したが、これに限らず、着色顔料が混ぜられた合成樹脂の材料で作ることもできる。
【0051】
そして、電磁ブレーキ機構33が動作して、ブレーキディスク45によってブレーキライニング44が削られるが、更に摩耗限界値(L)まで削られると摩耗検知部材54が露出されることになる。この状態で、図5に示すブレーキカバー49を取り外してブレーキライニング44を観察することで、着色された摩耗検知部材54を確認できる場合は、ブレーキライニング44の交換時期と判断することができる。
【0052】
更に、ブレーキディスク45によって摩耗検知部材54が削られるので摩耗粉が発生し、この摩耗粉はブレーキカバー49内に溜まる。この摩耗粉を確認できる場合は、ブレーキライニング44の交換時期と判断することができる。摩耗粉を確認する場合は、上述したようにブレーキカバー49を取り外して確認できるが、これ以外に図5に示すように、ブレーキカバー49によって形成された第2の収容室51を覗き込める複数の確認孔55を巻上電動機16のハウジング56に設けることによって、ブレーキカバー49を取り外すことなく摩耗粉の確認を行うことができる。
【0053】
このように、本実施形態では、従来のようにブレーキディスクとガイドピンのギャップを測定することなく、容易にブレーキライニング44が摩耗限界値(L)に達したことを確認できるので、保守作業の作業性を向上することができる。
【0054】
ここで、以上の実施形態では、摩耗検知部材54や、これの摩耗粉の色の違いによってブレーキライニング44の交換時期を判断するようにしている。
【0055】
これに対して、電磁ブレーキ機構33の制動動作時の音によってブレーキライニング44の交換時期を判断することも可能である。
【0056】
上述したように、摩耗検知部材54をブレーキライニング44の材料と異なった材料、例えば合成樹脂とした場合、ブレーキディスク45がブレーキライニング44と接触するときの音と、ブレーキライニング44が摩耗して摩耗検知部材54と接触する音が異なるので、この音の相違からブレーキライニング44の交換時期を判断することも可能である。
【0057】
また、音によってブレーキライニング44の交換時期を判断する実施形態では、摩耗検知部材54は金属であっても良いものである。ブレーキライニング44が摩耗限界値(L)まで達するまでは通常の動作が可能である。一方、摩耗限界値(L)を超えると金属製のブレーキディスク45と金属製の摩耗検知部材54が接触するので、ブレーキライニング44と接触するときの音とは異なるようになる。また、金属製のブレーキディスク45と摩耗検知部材54は一体的に作ることができる。したがって、この音の相違からブレーキライニング44の交換時期を判断することも可能である。
【0058】
このように、本実施形態においても、従来のようにブレーキディスクとガイドピンのギャップを測定することなく、ブレーキライニング44が摩耗限界値(L)に達したことを容易に確認できるので、保守作業の作業性を向上することができる。
【0059】
上述した実施形態では、摩耗検知部材54はブレーキライニング44の径方向に沿って配置された直方体の形状とされているが、これに限定されることなく円柱形状、楕円柱形状等の任意の形状にすることができる。要はブレーキライニング44が摩耗限界値(L)を超えたことを認識できれば良いものである。
【0060】
また、摩耗検知部材54がブレーキライニング44の周方向で等間隔に6個だけ設けられているが、これに限定されることなく、少なくとも1個以上の摩耗検知部材54が設けられていれば良いものである。
【0061】
次に他の実施形態になるブレーキホイール43の構成について、図8に基づき説明する。先に説明した実施形態では、摩耗検知部材54をブレーキライニング44に埋設した例であるが、次に説明する他の実施形態では、摩耗検知部材54の代わりに摩耗検知溝57を形成したものである。
【0062】
図8において、ブレーキライニング44の内部で、ブレーキライニング44のブレーキディスク45と接触する側の表面(ブレーキディスク側表面)には、所定の深さ位置に至る摩耗検知溝57が形成されている。この摩耗検知溝57は、図8からわかるように細長い断面が矩形の溝形状に形成されており、60°間隔で、ブレーキライニング44の径方向に沿って設けられている。
【0063】
ブレーキライニング44に形成された摩耗検知溝57の深さは、ブレーキライニング44がブレーキディスク45と接触する側の表面(ブレーキディスク側表面)からみて、所定の深さ位置に至るまで延びている。
【0064】
例えば、この所定の深さ位置は、図7に示すようにブレーキライニング44の許容される摩耗限界値(L)である。そして、ブレーキライニング44がブレーキディスク45との接触で摩耗して、摩耗限界値(L)に達した際に摩耗検知溝57が消失するようになっている。
【0065】
そして、電磁ブレーキ機構33が動作して、ブレーキディスク45によってブレーキライニング44が削られるが、更に摩耗限界値(L)まで削られると摩耗検知溝57が消失することになる。この状態で、図5に示すブレーキカバー49を取り外してブレーキライニング44を観察することで、摩耗検知溝57が確認できる場合はブレーキライニング44の交換は必要なく、摩耗検知溝57が確認できない場合は、ブレーキライニング44の交換時期と判断することができる。
【0066】
更に、摩耗検知溝57の底部に着色された合成樹脂等からなる所定厚みを有する平板を埋設することもできる。この平板は、ブレーキライニング44を形成するときに、摩耗検知溝57の底部に対応する位置にモールド成形で一体的に形成することができる。
【0067】
したがって、ブレーキライニング44が摩耗限界値(L)まで削られた後に、ブレーキディスク45によって平板が削られるので着色された摩耗粉が発生し、この摩耗粉はブレーキカバー49内に溜まる。先の実施形態で述べたように、この摩耗粉を確認できる場合は、ブレーキライニング44の交換時期と判断することができる。
【0068】
摩耗粉を確認する場合は、上述したようにブレーキカバー49を取り外して確認できるが、これ以外に図5に示すように、ブレーキカバー49によって形成された第2の収容室51を覗き込める複数の確認孔55を巻上電動機16のハウジング56に設けることによって、ブレーキカバー49を取り外すことなく摩耗粉の確認を行うことができる。
【0069】
このように、本実施形態でも、従来のようにブレーキディスクとガイドピンのギャップを測定することなく、ブレーキライニング44が摩耗限界値(L)に達したことを容易に確認できるので、保守作業の作業性を向上することができる。
【0070】
上述した実施形態では、摩耗検知溝57はブレーキライニング44の径方向に沿って配置された断面が矩形の溝形状とされているが、これに限定されることなく断面が円弧の溝形状のように任意の形状にすることができる。要はブレーキライニング44が摩耗限界値(L)を超えると消失する形状であれば良いものである。
【0071】
また、摩耗検知溝57がブレーキライニング44の周方向で等間隔に6個だけ設けられているが、これに限定されることなく、少なくとも1個以上の摩耗検知溝57が設けられていれば良いものである。
【0072】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
10…クレーンガーダー、11…走行レール、12…走行部、13…車輪、14…走行電動機、15…横行フレーム、16…巻上電動機、17…駆動輪、18…従動輪、19…横行電動機、33…電磁ブレーキ機構、34…フレーム、35…減速機構、36…ロープドラム、43…ブレーキホイール、44…ブレーキライニング、45…ブレーキディスク、46…電磁アクチュエータ、47…リンク機構、52…ブレーキホイール本体、54…摩耗検知部材、57…摩耗検知溝。
図1
図2
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図8