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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】測位システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/04 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
G01S5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020089292
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183930
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-02-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス: https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/handle/10119/15991 https://ieeexplore.ieee.org/document/8763932 ウェブサイトの掲載日:2019年(令和元年)7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】松本 正
(72)【発明者】
【氏名】チェン メン
(72)【発明者】
【氏名】アジズ,モハンマド レザ カハール
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-074374(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0346532(US,A1)
【文献】特開2018-129605(JP,A)
【文献】特開2005-049199(JP,A)
【文献】特開2018-100929(JP,A)
【文献】特開2014-036277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のターゲット及び第2のターゲットから発信された各無線信号の到来方向をそれぞれ推定する複数のセンサを備え、
前記複数のセンサのそれぞれで推定された2つの到来方向と前記複数のセンサのそれぞれの位置とに基づいて、前記第1のターゲットがセンサから見て右側になり且つ前記第2のターゲットがセンサから見て左側になる位置関係のセンサ群と、これとは逆の位置関係のセンサ群とに分類するペアリング処理と、
前記ペアリング処理の結果と前記複数のセンサのそれぞれの位置とに基づいて、前記第1のターゲット及び前記第2のターゲットの各位置を測定する測位処理とを行うことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
請求項1に記載の測位システムにおいて、
前記ペアリング処理は、
前記複数のセンサのそれぞれについて、該センサを頂点とし且つ該センサにより推定された2つの到来方向とは反対方向に延びる直線で囲まれた領域を特定し、センサ毎に特定された領域の中から所定の基準に従って選択された1つの領域内のセンサ群と、その他のセンサ群とに分類する第1ペアリング方式、又は、
前記複数のセンサのそれぞれについて、該センサにより推定された2つの到来方向の差を算出し、2つの到来方向の差が最小となるセンサを特定し、前記特定したセンサにより推定された2つの到来方向を二等分する直線を境界に設定し、前記境界により分けられた一方の領域内のセンサ群と、他方の領域内のセンサ群とに分類する第2ペアリング方式の少なくとも一方の演算を行うことを特徴とする測位システム。
【請求項3】
請求項2に記載の測位システムにおいて、
前記第1ペアリング方式における前記所定の基準として、領域内のセンサ数が最大となる領域を選択する基準、又は、測位に使用する連立方程式の条件数が最小となる領域を選択する基準を用いることを特徴とする測位システム。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の測位システムにおいて、
前記ペアリング処理及び前記測位処理を反復して実施し、
初回の前記測位処理では、前記第1ペアリング方式において前記所定の基準に従って選択された領域内のセンサ群の数が所定の閾値以上であれば、前記第1ペアリング方式による分類結果を使用し、そうでない場合は、前記第2ペアリング方式による分類結果を使用して、前記第1のターゲット及び前記第2のターゲットの各位置を測定し、
2回目以降の前記ペアリング処理では、前記第2ペアリング方式によりセンサ群の分類を行い、その際に、前回の前記測位処理で得られた前記第1のターゲットの位置と前記第2のターゲットの位置とを通る直線を前記境界に設定して、センサ群の分類を行い、
2回目以降の前記測位処理では、前記第2ペアリング方式による分類結果を使用して、前記第1のターゲット及び前記第2のターゲットの各位置を測定することを特徴とする測位システム。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の測位システムにおいて、
前記測位処理は、前記複数のセンサのそれぞれに設定された重みを更に用いて、前記第1のターゲット及び前記第2のターゲットの各位置を測定し、
前記重みとして、前記境界に近いセンサほど小さい値が設定されることを特徴とする測位システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットの位置を測定する測位システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の航空交通管制システムでは、安全かつ円滑な運航を行うため、地上の航空管制官と航空機のパイロットの間で交信を行い、パイロットは管制官の指示に従って航行する。管制官とパイロットの交信はアナログ音声AM無線方式を用いて行われており、管制官は言語のコミュニケーションにより指示を行う。
【0003】
管制官が担当する空域には複数の航空機が航行しており、それらの航空機は同一の周波数を用いることが定められている。しかしながら、現状の音声無線通信による航空管制システムでは、管制官は、コールサインの確認などの交信以外にどのパイロットと交信しているかを知ることはできない。このシステム制約により、管制官の混乱やパイロットの認識誤り等によるインシデントが発生している状況である。
【0004】
この問題を緩和するため、欧州では、図10に示すように、複数のRDF(Radio Direction Finder)101で、航空機100から送信された音声無線の到来方向(以下、DOA:Direction Of Arrival)φi (iはRDF番号)を推定する。図10のRDFシステムでは、RDF101-1~101-6の6台を設置してある。それぞれのRDF101にて推定されたDOA φi は、測位部102に転送される。測位部102では、各到来方向線の交点に航空機100が存在すると推定し、測位結果をレーダコンソール103に転送する。レーダコンソール103では、現在管制官が交信している機体にマーキングする。航空機の位置自体は他のレーダシステムで把握しているため、このRDFシステムによるマーキングにより、管制官が現在交信している機体を特定することができるので、上記の問題を軽減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Meng Cheng,et al.,“A DOA-Based Factor Graph Technique for 3D Multi-Target Geolocation”,IEEE Access,vol7(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のシステムでは、同一空域内の航空機は同一の周波数を用いて管制しているため、複数のパイロットが同時に送信(二機の場合にはダブルトランスミッション)した場合には、従来技術で説明したような一機体のみをターゲットとした測位システムで測位することは困難である。このようなダブルトランスミッションの状況で、二機を同時測位するためには、第一にRDFにて複数機体のDOAが推定可能であること、第二に測位部にて複数機体の同時測位が可能であることの両方を実現する必要がある。
【0007】
まず、RDFでの複数機体のDOA推定に関しては、複数の無線信号が無相関な信号であれば(異なる音声信号であれば相関は低くなるため)、そのDOAの推定は実現可能である。しかしながら、測位部では各RDFで複数のDOAの推定結果を得られたとしても、それらのDOAがどの機体とペアリング(各ターゲットに対応するDOAの組み合わせ)しているかは知ることができないという問題が残る。仮に、RDFにて複数DOA推定が可能であったとしても、DOAと機体のペアリングが誤っていると測位結果に大きな誤差が発生してしまう。従って、DOAと機体の正しいペアリングを行った後に、測位を実施する必要がある。
【0008】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、複数のDOAと複数のターゲットを適切にペアリングして各ターゲットの位置を測定することが可能な測位システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、測位システムを以下のように構成した。
すなわち、本発明に係る測位システムは、第1のターゲット及び第2のターゲットから発信された各無線信号の到来方向をそれぞれ推定する複数のセンサを備え、複数のセンサのそれぞれで推定された2つの到来方向と複数のセンサのそれぞれの位置とに基づいて、第1のターゲットがセンサから見て右側になり且つ第2のターゲットがセンサから見て左側になる位置関係のセンサ群と、これとは逆の位置関係のセンサ群とに分類するペアリング処理と、ペアリング処理の結果と複数のセンサのそれぞれの位置とに基づいて、第1のターゲット及び第2のターゲットの各位置を測定する測位処理とを行うことを特徴とする。
【0010】
ここで、ペアリング処理としては、下記の第1ペアリング方式又は第2ペアリング方式の少なくとも一方の演算を行うようにしてもよい。
第1ペアリング方式では、複数のセンサのそれぞれについて、該センサを頂点とし且つ該センサにより推定された2つの到来方向とは反対方向に延びる直線で囲まれた領域を特定し、センサ毎に特定された領域の中から所定の基準に従って選択された1つの領域内のセンサ群と、その他のセンサ群とに分類する。
第2ペアリング方式では、複数のセンサのそれぞれについて、該センサにより推定された2つの到来方向の差を算出し、2つの到来方向の差が最小となるセンサを特定し、特定したセンサにより推定された2つの到来方向を二等分する直線を境界に設定し、境界により分けられた一方の領域内のセンサ群と、他方の領域内のセンサ群とに分類する。
【0011】
また、第1ペアリング方式における所定の基準として、領域内のセンサ数が最大となる領域を選択する基準、又は、測位に使用する連立方程式の条件数が最小となる領域を選択する基準を用いるようにしてもよい。
【0012】
また、ペアリング処理及び測位処理を反復して実施するようにしてもよい。この場合、初回の測位処理では、第1ペアリング方式において所定の基準に従って選択された領域内のセンサ群の数が所定の閾値以上であれば、第1ペアリング方式による分類結果を使用し、そうでない場合は、第2ペアリング方式による分類結果を使用して、第1のターゲット及び前記第2のターゲットの各位置を測定し、2回目以降のペアリング処理では、第2ペアリング方式によりセンサ群の分類を行い、その際に、前回の測位処理で得られた第1のターゲットの位置と第2のターゲットの位置とを通る直線を境界に設定して、センサ群の分類を行い、2回目以降の測位処理では、第2ペアリング方式による分類結果を使用して、第1のターゲット及び第2のターゲットの各位置を測定するようにしてもよい。
【0013】
また、測位処理は、複数のセンサのそれぞれに設定された重みを更に用いて、第1のターゲット及び第2のターゲットの各位置を測定するようにしてもよい。この場合、重みとして、境界に近いセンサほど小さい値が設定されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2つの無線信号の到来方向と2つのターゲットを適切にペアリングして、各ターゲットの位置を測定することが可能な測位システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るマルチターゲット測位システムの構成例を示す図である。
図2】DOAとターゲットを正しくペアリングさせる条件について説明する図である
図3】DOAの並べ替えを行うアルゴリズムについて説明する図である。
図4】関数exchange{condition}について説明する図である。
図5図1のペアリング部の構成例を示す図である。
図6図5の限定ペアリング部の動作について説明する図である。
図7図5の限定ペアリング部の動作について説明する図である。
図8図5の境界設定部の動作について説明する図である。
図9】境界設定の反復演算について説明する図である。
図10】従来例に係るRDFシステムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係るマルチターゲット測位システムについて、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマルチターゲット測位システムの構成例を示す図であり、図2は、DOAとターゲットを正しくペアリングさせる条件について説明する図である。なお、本明細書で参照する各図では、DOAセンサ(RDF)を番号付けされた四角で示し、測位対象となる2つのターゲットを白又は黒で塗り潰した星印で示している。また、白星ターゲットに対するDOAは点線で示し、黒星ターゲットに対するDOAは実線で示している。
【0017】
図2では、各DOAセンサにおいてDOAとターゲットのペアリングが完全である状態(点線と白星をペアリングし、実線と黒星をペアリングした状態)を示しているが、実際にはこのペアリングは不定である。ここで、2つのターゲット位置が既知であると仮定し、これらターゲット位置を通る直線(太い灰線)を領域分割境界と定義し、境界の右側を領域R1 、左側を領域R2 と定義する。
【0018】
図2では、領域R1 に存在するDOAセンサ群R1 ={1,6}は、センサ側から見て向かって右が白星ターゲット、左が黒星ターゲットとなっている。逆に、領域R2 に存在するDOAセンサ群R2 ={2,3,4,5}は、センサ側から見て向かって左が白星ターゲット、右が黒星ターゲットとなっている。このように、仮に正しい領域分割境界を設けることができたならば、1つの領域内のDOAセンサ群は、DOAとターゲットのペアリングが同一のグループとなる。また、もう一方の領域では、DOAとターゲットのペアリングは逆の関係となる。この特徴を用いることで、全てのDOAセンサにおいて、DOAとターゲットのペアリングを容易かつ正確に行うことができ、複数のターゲットを同時に測位することが可能となる。
【0019】
本発明では、適切な領域分割境界を設けた場合、その境界を境にしてDOAとターゲットのペアリングが逆の関係になる特徴を利用することで、DOAとターゲットのペアリングを容易かつ正確に実現する手法、及び複数のターゲットを同時に測位する手法を提供する。
【0020】
まず、図1を参照して、マルチターゲット測位システムの構成について説明する。各DOAセンサ11-1~11-6は、それぞれ、2つのターゲット10-1,10-2に対応した2つのDOAを推定する。本発明は、マルチターゲットの同時測位に関する発明であり、複数DOAの算出方式には依存しないため、ここでは特に言及しない。
【0021】
これらDOAセンサ11-1~11-6のそれぞれで推定された2つのDOAは、DOA並べ替え部21、ペアリング部22、重み付け部23、測位部24を有する監視サーバ20に送信される。DOAセンサ11-1~11-6と監視サーバ20は、有線又は無線の少なくとも一方を用いて通信可能に接続されている。監視サーバ20は、単体の装置であってもよいし、互いに連携して動作する複数の装置で構成されてもよい。
【0022】
DOAセンサ番号をiとし、DOAセンサ位置を(xi ,yi )、各DOAセンサで得られた2つのDOAをφi (1),φi (2)とする。前述したように、DOAセンサでは、DOA(φi (1),φi (2))とターゲットのペアリングは不定である。各DOA(φi (1),φi (2))は、DOA並べ替え部21に入力される。
【0023】
DOA並べ替え部21は、図3に示すアルゴリズムにより、DOAの並べ替えを行う。すなわち、まず、(式A)により、「φi (1)>φi (2)」の関係になるようにソートを行う。次に、(式B)により、「φi (1)-φi (2)>π」の場合にはDOAの値を交換する。図3において、「exchange{condition}」は、「condition」(条件)が「true」(真)の場合に値を交換する関数であり、図4にその詳細を示す。
【0024】
DOA並べ替え部21は、上記のDOA並べ替え処理を全てのDOAセンサについて実施した後、並べ替えたDOAをペアリング部22に入力する。図5には、ペアリング部22の構成例を示してある。ペアリング部22は、限定領域ペアリング部31と、境界設定部32と、分割領域ペアリング部33と、選択部34とを備えている。
【0025】
ペアリング部22では、DOAとターゲットのペアリング方式として、限定領域ペアリング部31により実施される第1方式と、境界設定部32及び分割領域ペアリング部33により実施される第2方式の2種類を用いる。そして、選択部34にて、いずれかの方式のペアリング結果を選択する。
【0026】
まず、限定領域ペアリング部31の動作について説明する。限定領域ペアリング部31では、DOA並べ替え部21による並べ替え後のDOA(φi (1),φi (2))に対し、下記(式1)、(式2)を用いて、DOAの反対方向(ψi (1),ψi (2))を計算する。また、DOAセンサ位置(xi ,yi )を頂点とし、ψi (1)とψi (2)の角度で囲まれる領域Si を計算する。この領域Si 内に含まれるDOAセンサは同一ペアリングであるという特徴を利用して、測位を行う。
【0027】
【数1】
【数2】
【0028】
図6に示す例では、領域S5 には、センサ番号={2,3,4,5}のDOAセンサが含まれている(S5 ={2,3,4,5})。これらDOAセンサは、センサ側から見て向かって右が白星ターゲット、左が黒星ターゲットとなる。これら同一ペアリングのグループである2,3,4,5番目のDOAセンサ(つまり、DOAセンサ11-2,11-3,11-4,11-5)で得られたDOAに基づいて、2つのターゲット10-1,10-2の測位を行うが、その詳細については後述する。
【0029】
なお、同一ペアリングとなるDOAセンサで得られたDOAに基づく測位は、センサ数が多いほど、その測定精度が向上する。従って、測位を行う際に、領域Si 内のセンサ数が多くなるように、測位対象とする領域Si を決定する。i番目のDOAセンサ自体を含めた領域Si 内のセンサ数をNi とすると、測位対象領域Sm は、下記(式3)により特定することができる。
【0030】
【数3】
ここで、関数fmax_i (Ni )は、Ni が最大となるときのインデックスiを返す関数である。
【0031】
図7に示す例では、各DOAセンサを頂点としてψi (1)、ψi (2)の角度で囲まれた領域Si を小点でハッチングしている。ただし、領域S5 については斜線でハッチングしている。各領域Si 内のセンサ数Ni はそれぞれ、N1 =1,N2 =1,N3 =2,N4 =1,N5 =4,N6 =1となっている。従って、(式3)により、領域Si 内に含まれるセンサ数が最も多いインデックスとして、m=5が得られる。
【0032】
限定領域ペアリング部31は、S5 ={2,3,4,5}を同一ペアリングのグループとして、選択部34に入力する。なお、上記の例では、領域内に含まれるセンサ数が多いグループを対象としていたが、測位精度が良好であると推測されるグループを選定することも可能である。測位精度が良い(つまり、連立方程式の解に誤差を含みにくい)という指標の一つに連立方程式の条件数があるため、連立方程式の条件数を選定規範に用いることができる。すなわち、下記(式4)により測位対象領域Sm を決定してもよい。
【0033】
【数4】
ここで、関数fcond_i(xk ,yk ,φk |k∈Si )は、領域Si に含まれるセンサ位置(xi ,yi )とDOA φi から算出される連立方程式の条件数が最も小さくなるインデックスiを返す関数である。
【0034】
以上説明したように、限定領域ペアリング部31は、同一ペアリングのグループで、尚且つ、測位に適した測位対象領域Sm を決定し、その結果を選択部34に入力する。
【0035】
次に、境界設定部32の動作について説明する。境界設定部32は、図2に示したように、領域R1 と領域R2 を分割する境界(太い灰線)を推定する機能を有する。図2の説明では、2つのターゲット位置が既知である仮定したが、実際にはターゲット位置は不明であるため、正確な境界を知ることはできない。
【0036】
従って、境界設定部32では、図8に示すように、各DOAセンサでのDOAの差の絶対値(|φi (1)-φi (2)|)が最小となるDOAセンサに対して、そのDOAを二等分する角度((φi (1)+φi (2))/2)を境界として定める。DOAの差が小さいということは、そのDOAセンサが理想境界に近いことを意味しているため、そのDOAセンサによる2つのDOAの間の中心線を境界として選定する。
【0037】
図8の例では、センサ番号=1のDOAセンサによるDOAの差が最小であり、そのDOAセンサによるDOA間の中心線に領域分割境界(太い黒線)を定める。もちろん、この段階で定めた境界(太い黒線)と理想境界(太い灰線)には乖離があるため、図8では、センサ番号=5のDOAセンサにおいて、DOAとターゲットのペアリングに誤りが生じている。この5番目のDOAセンサは本来、領域R2 に含まれるべきであるが、理想境界との乖離により領域R1 に含まれてしまっている。詳細は後述するが、設定した境界と理想境界との乖離は、領域分割と測位を反復的に繰り返すことにより低減することが可能である。
【0038】
分割領域ペアリング部33は、境界設定部32で定めた境界に基づいて、DOAセンサを2つの領域に分類する。図9の例では、R1 ={5,6}、R2 ={2,3,4}に分類している。ここでDOAの差が最小であるセンサ番号=1のDOAセンサは、領域R1 ,R2 のいずれにも含まれないものとする。この2つの領域R1 ,R2 は、図9に示すように、DOAとターゲットのペアリング関係が反対になっている。従って、分割領域ペアリング部33は、最終的には同一ペアリングのグループR={R1 ,R2 ̄ }を選択部34に出力する。ここで、「 ̄」は、φi (1)とφi (2)を入れ替えることを示している。
【0039】
選択部34は、限定領域ペアリング部31から出力されたSm 、又は、分割領域ペアリング部33から出力されたRの一方を選択し、後段の重み付け部23に送出する。選択部34の選択基準として、Sm に含まれるセンサ数を所定の閾値と比較する基準を用いることができる。すなわち、Sm に含まれるセンサ数が閾値よりも多い場合はSm を選択して後段に送出し、少ない場合にはRを選択して後段に送出する。具体的には、例えば、Sm に含まれるセンサ数が3以上の場合にはSm を選択し、3未満の場合にはRを選択する。
【0040】
重み付け部23は、Sm 又はRを用いて測位を行う際に、DOAセンサ毎にその信頼度(センサ重み)を設定する。このセンサ重みについて、まずは、選択部34でRが選択された場合について説明する。境界設定部32で設けた境界を用いて領域分割する場合、境界に近いDOAセンサは領域誤りを発生しやすく、領域誤りの場合にはペアリングにも誤りが生じる。境界に近いDOAセンサほど誤りが発生する確率が高いので、境界に近いほど、そのDOAセンサの重みを小さく設定する。この重みWi を設定する方法として、例えば、境界とDOAセンサの間の距離li を算出し、Wi =li a(例えば、a=0.5)として設定する方法などがある。一方、選択部34でSm が選択された場合、ペアリング誤りが発生する確率は低いので、全てのDOAセンサの重みを等しく設定してもよい(例えば、Wi =1)。
【0041】
測位部24では、Sm 又はR内のセンサ位置(xi ,yi )と、DOA(φi (1)あるいはφi (2))と、重みWi とを用いて、2つのターゲットの位置(X^(1) ,Y^(1) )、(X^(2) ,Y^(2) )を下記(式5)~(式8)により計算する。
【0042】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0043】
ここで、関数fgeo [{ }]は、{ }内の要素を用いて、行列解法などにより測位する関数である。本発明は測位関数自体には依存しないため、ここでは言及を避ける。
(式5)は、選択部34で限定領域ペアリング部31からのSm が選択された場合のターゲット10-1に関する測位を行う数式である。
(式6)は、選択部34で限定領域ペアリング部31からのSm が選択された場合のターゲット10-2に関する測位を行う数式である。
(式7)は、選択部34で分割領域ペアリング部33からのRが選択された場合のターゲット10-1に関する測位を行う数式であり、R1 ではDOA:φk (1)を用い、R2 ではDOA:φk (2)を用いている。
(式8)は、選択部34で分割領域ペアリング部33からのRが選択された場合のターゲット10-2に関する測位を行う数式であり、R1 ではDOA:φk (2)を用い、R2 ではDOA:φk (1)を用いている。
【0044】
限定領域ペアリング部31で設定した領域S5 図5)が選択された場合の測位関数は、下記(式9)、(式10)で表される。
【数9】
【数10】
【0045】
測位部24により算出されたターゲットの位置(X^(1) ,Y^(1) )、(X^(2) ,Y^(2) )は、再度、ペアリング部22の境界設定部32に入力される。反復演算の初回は、領域の境界算出はDOA差が最小のDOAセンサで得られた2つのDOAの中心線を境界としたが、2回目以降の反復演算では、1つ前のターゲット測位結果を用いる。すなわち、前回の反復演算で得られたターゲット測位結果(X^(1) ,Y^(1) )、(X^(2) ,Y^(2) )を通る直線を境界とする。
【0046】
図9に示すように、初回反復演算時の境界(黒の点線)に比べ、測位結果を用いた境界(黒の実線)の方が理想境界に近づいている。この改善により、初回はペアリング誤りが生じていたインデックス番号=5のDOAセンサについても、2回目は正しいペアリングに修正される。
【0047】
前回の測位結果に基づいて設けられた境界は、再度、分割領域ペアリング部33に入力される。分割領域ペアリング部33は、再度、上記に説明した初回の処理と同様の処理を行う。選択部34は、2回目の反復演算以降は、常時、分割領域ペアリング部33の結果を用いるような選択を行う。重み付け部23においても、初回の処理と同様の処理を行うが、正しい境界に近づくにつれて、センサ重みがより適切な値に近づいてくる。測位部24においても、初回の反復演算と同様の処理を行う。
【0048】
以上のように、本例のマルチターゲット測位システムは、第1のターゲット(10-1)及び第2のターゲット(10-2)から発信された各無線信号の到来方向(DOA)をそれぞれ推定する複数のDOAセンサ(11-1~11-6)を備えている。更に、本例のマルチターゲット測位システムは、複数のDOAセンサのそれぞれで推定された2つのDOAと複数のDOAセンサのそれぞれの位置とに基づいて、第1のターゲットがDOAセンサから見て右側になり且つ第2のターゲットがDOAセンサから見て左側になる位置関係のDOAセンサ群と、これとは逆の位置関係のDOAセンサ群とに分類するペアリング処理を行うペアリング部22と、ペアリング部22によるペアリング処理の結果と複数のDOAセンサのそれぞれの位置とに基づいて、第1のターゲット及び第2のターゲットの各位置を測定する測位処理を行う測位部24とを有する監視サーバ20を備えている。
【0049】
より具体的には、ペアリング部22において、限定領域ペアリング部31により実施される第1ペアリング方式と、境界設定部32及び分割領域ペアリング部33により実施される第2ペアリング方式の少なくとも一方の演算を行う。第1ペアリング方式では、複数のDOAセンサのそれぞれについて、該DOAセンサを頂点とし且つ該DOAセンサにより推定された2つのDOAとは反対方向に延びる直線で囲まれた領域(Si )を特定し、DOAセンサ毎に特定された領域の中から所定の基準に従って選択された1つの領域(Sm )内のDOAセンサ群と、その他のDOAセンサ群とに分類する。第2ペアリング方式では、複数のDOAセンサのそれぞれについて、該DOAセンサにより推定された2つのDOAの差を算出し、2つのDOAの差が最小となるDOAセンサを特定し、特定したDOAセンサにより推定された2つのDOAを二等分する直線を境界に設定し、この境界により分けられた一方の領域(R1 )内のDOAセンサ群と、他方の領域(R2 )内のDOAセンサ群とに分類する。
【0050】
更に、ペアリング処理から測位処理までを反復して実施する。このとき、初回の測位処理では、第1ペアリング方式において所定の基準に従って選択された領域内のDOAセンサ群の数が所定の閾値以上であれば、第1ペアリング方式による分類結果を使用し、そうでない場合は、第2ペアリング方式による分類結果を使用して、各ターゲットの位置を測定する。また、2回目以降のペアリング処理では、第2ペアリング方式によりDOAセンサ群の分類を行い、その際に、前回の測位処理で得られた各ターゲットの位置を通る直線を境界に設定して、DOAセンサ群の分類を行う。また、2回目以降の測位処理では、第2ペアリング方式による分類結果を使用して、各ターゲットの位置を測定する。
【0051】
このような構成によれば、複数のDOAセンサのそれぞれにおいて2つのターゲットに対する2つのDOAが推定された場合であっても、各DOAと各ターゲットを適切にペアリングすることができるので、各ターゲットの位置を測定することが可能となる。また、ペアリング処理から測位処理までを反復的に実施することで、各ターゲットの測位精度を向上させることが可能となる。
【0052】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記のような構成に限定されるものではなく、上記以外の構成により実現してもよいことは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0053】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、ターゲットの位置を測定する測位システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
11-1~11-6:DOAセンサ(RDF)、 20:監視サーバ、 21:DOA並べ替え部、 22:ペアリング部、 23:重み付け部、 24:測位部、 31:限定領域ペアリング部、 32:境界設定部、 33:分割領域ペアリング部、 34:選択部、 101-1~101-6:DOAセンサ(RDF)、 102:測位部、 103:レーダコンソール
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