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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】断熱ボードの検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20231010BHJP
   G01N 3/40 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
G01N3/20
G01N3/40 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020099981
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021196167
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】飛松 晴記
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 進佑
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐子
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-320148(JP,A)
【文献】特開平09-109328(JP,A)
【文献】特開2006-258454(JP,A)
【文献】特開2003-065921(JP,A)
【文献】特開2004-101228(JP,A)
【文献】米国特許第04530235(US,A)
【文献】特開2014-195824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/20
G01N 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型で押湯を形成する溶鋼の断熱性を高める断熱ボードの品質を検査する方法であって、
製造後の断熱ボードの硬度を測定する工程と、
断熱ボードの曲げ強度及び硬度の関係と、断熱ボードの曲げ強度の良否の閾値とに基づき、上記製造後の測定工程で得られた上記製造後の断熱ボードの硬度の良否を判定する工程と
を備える断熱ボードの検査方法。
【請求項2】
上記断熱ボードの曲げ強度及び硬度の関係は、複数の断熱ボードの曲げ強度及び硬度を測定することで取得する請求項1に記載の断熱ボードの検査方法。
【請求項3】
上記硬度測定工程を上記製造後の断熱ボードにおいて表面の色が薄いものについて行う請求項1又は請求項2に記載の断熱ボードの検査方法。
【請求項4】
上記製造後の判定工程で上記硬度が不良と判定した断熱ボードを乾燥する工程と、
上記乾燥後の断熱ボードについて硬度を測定する工程と、
上記乾燥後の測定工程で得られた上記乾燥後の断熱ボードの硬度の良否を判定する工程と
をさらに備える請求項1、請求項2又は請求項3に記載の断熱ボードの検査方法。
【請求項5】
上記製造後の判定工程又は上記乾燥後の判定工程で、上記硬度が良として判定した断熱ボードを使用する前に硬度を測定する工程と、
上記使用前の測定工程で得られた上記使用前の断熱ボードの硬度の良否を判定する工程と
をさらに備える請求項4に記載の断熱ボードの検査方法。
【請求項6】
上記硬度の測定を非破壊検査で行う請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の断熱ボードの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱ボードの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼塊を製造する方法として、溶鋼を鋳型内に注入して凝固させる造塊法が広く知られている。造塊をする際に鋳型の上部には、湯面側から溶鋼が凝固することを抑制する等のため、押湯が形成される。押湯が形成される鋳型の上部の周方向には、押湯を断熱するための断熱ボードが設けられる。
【0003】
溶鋼中に不純物が入ると鋼塊の品質が低下し、最終製品の品質低下を招来することがある。断熱ボードには、十分な強度、耐熱性等が求められるが、要求される品質を満足していない断熱ボードが造塊中に破損、剥離等することにより溶鋼中に不純物として混入するおそれがある。このため、断熱ボードが要求される品質を満足しているものであることを確認する方法が求められている。
【0004】
鋼のインゴット鋳造で押湯上に置いて使用する発熱保温ボードであって、ボード周辺部の発熱量を、周辺部を除く部分の発熱量より高くしたことを特徴とする押湯用発熱保温ボードが発案されている(特開平3-204142号公報)。この保温ボードは、ボード周辺部を高発熱量の組成物でつくり、周辺部を除く部分を中発熱量の組成物でつくることで部分によって発熱量を変化できるとしている。しかし、この文献には、製造された保温ボードが所定の成分を所定量含み品質を満足するものであるか否かを確認する手段については記載されていない。例えば、上記確認手段として、製造後の保温ボードからサンプルを採取して確認することが考えられるが、サンプルが採取された保温ボードは使用ができなくなるため、鋼塊を生産するコストが増大すると共に生産効率が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-204142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような事情に鑑みて、本発明は、断熱ボードが造塊中に破損、剥離等をすることがない品質を有していること確実かつ容易に確認することができる断熱ボードの検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、製造後の断熱ボードの硬度を測定する工程と、断熱ボードの曲げ強度及び硬度の関係と、断熱ボードの曲げ強度の良否の閾値とに基づき、上記製造後の測定工程で得られた上記製造後の断熱ボードの硬度の良否を判定する工程とを備える断熱ボードの検査方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の断熱ボードの検査方法は、比較的容易に測定することができる硬度の測定で断熱ボードの良否を判定するため、断熱ボードの確実な品質検査を容易にすることができ、低品質な断熱ボードの使用を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、下注ぎ造塊法に用いられる鋳型を示す模式的断面図である。
図2図2は、断熱ボードにおける曲げ強度と、造塊後における表面面積の減少率との関係を示すグラフである。
図3図3は、断熱ボードにおける硬度と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0011】
[鋳型]
図1で、下注ぎ造塊法に用いられる鋳型1を示す。鋳型1は、溶鋼Sが下方から鋳型1内に注入管(不図示)を介して溶鋼Sが注入される。鋳型1は、内壁の上部に断熱ボード2が設けられている。断熱ボード2は、内壁上部から溶鋼Sの到達高さ以下の位置まで全周に亘って設けられる。溶鋼Sの上面(湯面)には、保温ボード3が設けられる。断熱ボード2は、押湯を形成する溶鋼Sの凝固時の断熱性を高めるために用いられる。
【0012】
鋳型1は、例えば、容量が2ton以上360ton以下であり、その大きさ、形状は多種多様にある。このような鋳型1に対応し、さらに内装式、上置式の押湯に適用できるようにするため、断熱ボード2も、その大きさ、形状については多種多様である。
【0013】
[断熱ボード]
断熱ボード2は、例えば、古紙、スラグウール、水分、バインダー、有機物、SiO、Al、CaO等の微量元素を含み、これらを混合したものを乾燥することで製造される。
【0014】
[断熱ボードの検査方法]
造塊して得られた鋼塊を用いた最終製品における表面の欠陥等の不具合は、造塊される溶鋼S中に混入する不純物による鋼塊の品質低下が要因の一つである。本発明の発明者は、上記不純物の一つとして造塊中に使用した断熱ボードの一部が含まれることを解明した。造塊後の断熱ボードについて詳細に調べたところ、品質が低下している鋼塊の造塊に用いられた断熱ボードは、その表面の面積が減少していた。さらに、表面面積が減少する断熱ボードにおける各種物性を調査したところ、図2で示すように、曲げ強度が弱い断熱ボードは、表面面積の減少率が大きいことが判明した。これは、強度が弱い断熱ボードは、造塊中の溶鋼流により溶融、破損、剥離等を生じていると考察される。さらに調査を進めたところ、断熱ボードの曲げ強度が20kg/cm以上であると表面面積の減少が効果的に抑制されることが確認できた。
【0015】
断熱ボードについて曲げ強度試験を行い、その測定値から断熱ボードの良否を判定することが考えられる。しかしながら、曲げ強度の測定を行うと、その断熱ボードは少なくとも一部が破損するため造塊に用いることができなくなり、鋼塊の生産コストが増大し、生産効率が低下するおそれがある。
【0016】
本発明の発明者は、断熱ボードの曲げ強度と関係性を有する物性についてさらに調査したところ、図3で示すように、曲げ強度及び硬度に関係性があることが判明し、この関係性を用いて本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の一実施形態は、製造後の断熱ボードの硬度を測定する工程と、断熱ボードの曲げ強度及び硬度の関係と、断熱ボードの曲げ強度の良否の閾値とに基づき、上記製造後の測定工程で得られた上記製造後の断熱ボードの硬度の良否を判定する工程とを備える断熱ボードの検査方法である。
【0018】
〔硬度測定工程〕
硬度測定工程は、製造後の断熱ボードの硬度を測定する。硬度を測定する方法としては、特に限定されるものでなく公知の方法を採用することができ、例えば、デュロメーターによる測定とすることができる。
【0019】
〔判定工程〕
判定工程は、断熱ボードの曲げ強度及び硬度の関係と、断熱ボードの曲げ強度の良否の閾値とに基づき、上記製造後の測定工程で得られた上記製造後の断熱ボードの硬度の良否を判定する。
【0020】
上述のように、断熱ボードの曲げ強度が20kg/cm以上であると表面面積の減少が効果的に抑制できること、及び断熱ボードの曲げ強度と硬度とは相関関係を有することが確認されている。よって、上記測定工程で得られた製造後の断熱ボードの硬度測定値で断熱ボードの良否を判定することができる。上記製造後の断熱ボードにおける硬度の測定値の下限としては、例えば、34とすることができる。上記硬度測定値が34以上であることで、断熱ボードの曲げ強度が20kg/cm以上であることを担保することができる。よって、上記硬度測定工程における硬度測定値と、閾値としての34とを比較することで断熱ボードの良否を判定することができる。
【0021】
断熱ボードの曲げ強度及び硬度の関係が、複数の断熱ボードの曲げ強度及び硬度を測定することで取得することが好ましい。サンプルとしての断熱ボードを多くして、より多くの曲げ強度及び硬度のデータを得ることで、上記硬度測定値の閾値等をより正確に設定することができる。
【0022】
上記硬度測定工程を上記製造後の断熱ボードにおいて表面の色が薄いものについて行うことが好ましい。製造後の断熱ボードの全てについて当該検査方法を行うと、鋼塊の生産コストが増大し、生産効率が低下するおそれがある。よって、不良品として疑われるものについて当該検査方法を行うのが好ましい。
【0023】
上述のように、曲げ強度が小さい断熱ボードは造塊後の表面面積の減少が大きい。この理由は明らかではないが、断熱ボードの製造における乾燥工程において、断熱ボードに含まれるバインダーが硬化する現象が関与していると考えられる。表面における色の濃淡の異なる断熱ボードについて、バインダーが十分に硬化していない率(未硬化率)と、造塊における断熱ボードの表面面積減少率とを調査したところ、色の薄い断熱ボードは、バインダーの未硬化率が大きいこと、及び造塊後の表面面積減少率が大きいことが分かった。バインダー未硬化率と表面面積減少率とは、以下のような関係にあると考察される。バインダーは、上記乾燥工程でゲル化して硬化し、このゲル化の際にSiO等の隙間を埋める(繋ぐ)働きがある。バインダーが十分に硬化するとSiO等の隙間が減少し、溶鋼が断熱ボード内を容易に浸潤できなくなることで断熱ボードの耐溶損性が向上して表面面積の減少が抑制される。
【0024】
断熱ボードは、十分に乾燥することで表面が茶色に近い色になる。一方で、乾燥が不十分な断熱ボードは、色が薄く、白みがかった茶色になる。よって、製造後の断熱ボードについて、色の薄いものについて上記硬度測定工程を行うことで低品質の断熱ボードが造塊に使用されることを効果的に防止できる。色の濃淡は、目視で判別してもよいし、カラーアナライザー(色差計)等を用いて判定してもよい。
【0025】
当該検査方法が、上記製造後の判定工程で上記硬度が不良と判定した断熱ボードを乾燥する工程と、乾燥後の断熱ボードについて硬度を測定する工程と、上記乾燥後の測定工程で得られた上記乾燥後の断熱ボードの硬度の良否を判定する工程とをさらに備えるのが好ましい。
【0026】
乾燥工程は、上記製造後の判定工程で硬度が不良と判定した断熱ボードを乾燥する。上記製造後の判定工程において硬度が不十分と判定される断熱ボード、換言すれば、硬度測定工程における硬度測定値が34に満たない断熱ボードは、乾燥が不十分でバインダーの未硬化率が大きいと考えられる。よって、上記製造後の判定工程において不良と判定された断熱ボードを乾燥し、バインダーを十分に硬化することで良品とすることができる。
【0027】
乾燥後測定工程は、乾燥後の断熱ボードについて硬度を測定する。この硬度測定は、製造後の硬度測定工程と同一の方法で行うことができる。
【0028】
乾燥後判定工程は、上記乾燥後の測定工程で得られた上記乾燥後の断熱ボードの硬度の良否を判定する。具体的には、乾燥後測定工程で得た乾燥後硬度測定値と上記閾値とを比較することで乾燥後の断熱ボードの良否を判定することができる。
【0029】
当該検査方法が、上記製造後の判定工程又は上記乾燥後の判定工程で、上記硬度が良として判定した断熱ボードを使用する前に硬度を測定する工程と、上記使用前の測定工程で得られた上記使用前の断熱ボードの硬度の良否を判定する工程とをさらに備えるのが好ましい。
【0030】
すなわち、上記製造後の検査で良品と判定された断熱ボード、及び上記乾燥後の検査で良品と判定された断熱ボードについて、これらの断熱ボードを使用する前にさらに硬度を測定し、この硬度測定値と上記閾値と比較して判定することが好ましい。このようにすることで、より確実に低品質の断熱ボードを造塊に使用することを防止でき、鋼塊の品質安定性を向上することができる。
【0031】
使用前の検査は、上記製造後及び上記乾燥後の判定工程で良品と判定した断熱ボードの中から無作為に抽出して行うことが好ましい。このようにすることで、鋼塊の生産コストの増大及び生産効率低下を抑制することができる。また、上記製造後及び上記乾燥後の硬度測定工程と判定工程とを製造者による出荷前の検品とし、上記使用前の硬度測定工程と判定工程とを使用者による検品としてもよい。
【0032】
上記硬度の測定を非破壊検査で行うことが好ましい。すなわち、上記製造後、乾燥後及び使用前の検査における硬度測定工程の測定は、いずれも非破壊検査で行うことが好ましい。破壊され、或いは試験片が採取された断熱ボードは造塊に用いることができなくなるため、鋼塊の生産コストを抑制することができないおそれがある。断熱ボードを非破壊で検査することにより、検査を行った断熱ボードを造塊に用いることができるため、鋼塊の品質を向上できると共に鋼塊の生産コストを抑制できる。
【0033】
[利点]
当該検査方法は、比較的容易に測定することができる硬度の測定で断熱ボードの良否を判定するため、断熱ボードの確実な品質検査を容易にすることができ、低品質な断熱ボードの使用を防止することができる。よって、鋼塊の品質及び生産性を向上できると共に鋼塊の生産コストを抑制することができる。
【0034】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0035】
上述の実施形態では、溶鋼Sの上面(湯面)に保温ボード3が設けられるものについて説明したが、保温ボードに換えて保温パウダーを用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に断熱ボードの検査方法は、高品質な鋼塊の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0037】
1 鋳型
2 断熱ボード
3 保温ボード
S 溶鋼
図1
図2
図3