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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】センサ及び検出方法、試薬及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20231010BHJP
   C12Q 1/46 20060101ALI20231010BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C12M1/34 E
C12Q1/46
G01N33/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020154717
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048731
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2022-09-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマII:超低消費電力IoTデバイス・革新的センサ技術/超高感度センサシステムの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 達朗
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 吉昭
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-110535(JP,A)
【文献】特開2011-045313(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0073490(US,A1)
【文献】特開平09-107992(JP,A)
【文献】特開2016-208883(JP,A)
【文献】特開2003-322619(JP,A)
【文献】特開平02-309245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
C12Q1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的物質を検出するセンサであって、
アセチルコリンエステラーゼ水溶液と気体試料とを接触させて、気体試料中の標的物質を前記アセチルコリンエステラーゼ水溶液に溶け込ませる標的物質取り込み部と、
アセチルコリン水溶液を収容する供給部と、
前記標的物質取り込み部から送出された溶液及び前記供給部から供給されたアセチルコリン水溶液が混合される反応部と、
前記反応部から送出された溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する検出部と
を備えるセンサ。
【請求項2】
前記標的物質はリモネンである請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記アセチルコリンエステラーゼはデンキウナギ由来である請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
前記反応部を加温するヒータをさらに備える請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
前記検出部がpH検出素子を備える請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
前記pH検出素子は、高移動度測定用センシング素子である請求項5に記載のセンサ。
【請求項7】
前記高移動度測定用センシング素子は、グラフェンFETである請求項6に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、センサ及び検出方法、試薬及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
標的物質を検出するセンサ及び検出方法として、標的物質を高感度に検出することが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3160111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より高感度に標的物質を検出することができるセンサ及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に従うセンサは、アセチルコリン水溶液と気体試料とを接触させて、気体試料中の標的物質を前記アセチルコリン水溶液に溶け込ませる標的物質取り込み部と、アセチルコリンエステラーゼを収容し、前記標的物質取り込み部から送出された溶液を前記アセチルコリンエステラーゼに接触させる反応部と、前記反応部から送出された溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する検出部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態のセンサの一例を示す模式図である。
図2図2は、(a)アセチルコリンエステラーゼによるアセチルコリンの混合系において、アセチルコリンを一定量ずつ供給し続けた場合のアセチルコリン分解生成物の累積生成量の経時変化、及び、(b)(a)に示した混合系に、時刻tにおいてリモネンが添加された場合のアセチルコリン分解生成物の累積生成量の経時変化を示す概略図である。
図3図3は、アセチルコリンエステラーゼのアセチルコリン分解反応に対するリモネンの阻害効果を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態の検出部を示す概略断面図である。
図5図5は、第2の実施形態のセンサの一例を示す模式図である。
図6図6は、第3の実施形態の検出方法の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第4の実施形態の検出方法の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、第5の実施形態の標的物質検出装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、図面を参照しながら種々の実施形態について説明する。各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比等は実際と異なる箇所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0008】
本明細書において、「気体試料」とは、気体の標的物質からなる試料、もしくは、気体、液体、エアロゾル、又はPM2.0に代表される粒子状の物質の状態である標的物質が、気体に混合された試料のことを指す。
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に従うセンサは、気体試料中の標的物質を検出するためのセンサである。図1に示すようにセンサ1は、標的物質取り込み部3と、標的物質取り込み部3から延びる導管4に接続される反応部5と、反応部5から延びる導管6に接続される検出部7とを備える。詳しくは後述するが、標的物質取り込み部3において気体試料中の標的物質はアセチルコリン水溶液に取り込まれ、当該水溶液は標的物質取り込み部3から各導管4,6を通して反応部5、検出部7にこの順序で送出される。
【0010】
標的物質取り込み部3は、アセチルコリン水溶液15を収容した容器9を備える。容器9には、気体試料の導管10が接続されている。導管10には、ポンプ11が介装されている。ポンプ11を駆動することにより、標的物質を含み得る矢印に示す気体試料13は導管10を通して容器9に送出される。容器9に送出された気体試料13は、容器9内のアセチルコリン水溶液15と接触する。このとき、気体試料13に標的物質が含有される場合、標的物質は、アセチルコリン水溶液15に取り込まれる。
【0011】
気体試料13とアセチルコリン水溶液15との接触は、例えば、図1に示すようにアセチルコリン水溶液15内に気体試料13を吹き込む、バブリングで行うことができる。また、例えばアセチルコリン水溶液15の液面に気体試料13を吹き付ける等、他の方法で行ってもよい。
【0012】
気体試料13と接触したアセチルコリン水溶液15は、標的物質取り込み部3から導管4を通して反応部5に送出される。反応部5は、導管4が接続される反応容器17を備える。反応容器17は、液体が収容可能な容器であり、例えばアセチルコリンエステラーゼ18が固定化されて収容されている。反応容器17の外周面には、その溶液を加温するためのヒータ22が設けられている。反応容器17において、標的物質取り込み部3から送出されたアセチルコリン水溶液15とアセチルコリンエステラーゼとが接触される。アセチルコリン水溶液15に標的物質が含有される場合には、反応容器17内にアセチルコリン、アセチルコリンエステラーゼ及び標的物質が共存する。反応容器17を通過した溶液19は、反応容器17から導管6を通して検出部7に送出される。
【0013】
以下、反応容器17における、アセチルコリン、アセチルコリンエステラーゼ及び標的物質の化学反応について詳細に説明する。
【0014】
まず、アセチルコリンエステラーゼ及びアセチルコリンが標的物質を存在せずに共存している場合には、以下の化学式(1)で表せられるアセチルコリン分解反応が進行する。
【0015】
【化1】
【0016】
上記式(1)から、一定量のアセチルコリンを供給し続ける場合、アセチルコリン分解生成物(すなわち、コリン及び酢酸)がアセチルコリンの供給量に見合った量、生成されることが分かる(図2(a)参照)。
【0017】
上記式(1)の反応は、アセチルコリンが基質、アセチルコリンエステラーゼが酵素として作用する化学反応である。一般的に、酵素を用いた化学反応は、酵素ごとに特定の化学物質によって阻害され、反応速度が減少又は反応が停止することが知られている。該化学物質は、以下、「阻害物質」とする。ここで、図2(a)に示したアセチルコリンエステラーゼとアセチルコリンの混合系において、時刻tから阻害物質が含有し始めた場合には、時刻t以降のアセチルコリン分解生成物の累積量が変化する、つまりグラフの傾きが減少する(図2(b)参照)。従って、該混合系においてアセチルコリンの分解速度をモニタリングすることで、該混合系に阻害物質が存在しているか否かを検知することが可能である。
【0018】
アセチルコリンエステラーゼは、顆粒状固定法又は液状固定法等により反応容器17に固定化することができる。アセチルコリンエステラーゼは、任意のものを使用することができる。例えば、デンキウナギ由来のアセチルコリンエステラーゼを使用することもできる。また、アセチルコリンエステラーゼは、アポ酵素であってもよく、ホロ酵素であってもよい。アセチルコリンエステラーゼがアポ酵素である場合、対応する補因子がアセチルコリン水溶液15に含有されており、該補因子は、アセチルコリンエステラーゼを収容している反応容器17へと供給される。
【0019】
また、上記式(1)に示した酵素反応において、ヒータ22で反応容器17を加温し、反応容器17内のアセチルコリンエステラーゼを37℃近傍でより活性化することが好ましい。
【0020】
なお、反応部5の反応容器17にアセチルコリンエステラーゼを予め固定したが、アセチルコリンエステラーゼ水溶液を別の供給系に収容し、当該アセチルコリンエステラーゼ水溶液を反応容器17に供給してもよい。
【0021】
本実施形態に係るセンサの検出対象である標的物質は、アセチルコリンエステラーゼのアセチルコリン分解反応に対する阻害物質である。この阻害物質は、例えばリモネンが挙げられる。図3に示すように、アセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼの混合系にリモネンを添加することによって、該混合系のpH変化速度が低下することが確認された。後述するが、該混合系のpH変化速度の低下は、アセチルコリン分解速度が減少したこと、ひいては、リモネンが、酵素であるアセチルコリンエステラーゼに対する阻害物質であることを示している。リモネン以外の、アセチルコリンエステラーゼのアセチルコリン分解反応に対する阻害物質は、例えばアンブレイン、ピネンなどのテルペノイド、ルテオリン等のフラボノイド、ガランタミン等のアルカロイド、Cynatroside A等の配糖体等が挙げられる。
【0022】
以下、第1の実施形態に係るセンサの検出部の構造について図4を参照して詳細に説明する。
【0023】
検出部7は、センシング素子20と、電極槽37とを備える。センシング素子20は、グラフェン電界効果型トランジスタ(グラフェンFET)で構成されている。すなわち、グラフェンFETは基板21と、基板21の表面に配置された絶縁膜23と、絶縁膜23上に配置されたグラフェン25と、グラフェン25上に配置された感応膜27と、感応膜27の一端に接続されたソース電極29と、感応膜27の他端に接続されたドレイン電極31と、ソース電極29及びドレイン電極31を含む基板21を被覆する保護膜33とを備える。保護膜33には、感応膜27の主面27cの上方に矩形体形状の空間Sが設けられ、当該主面27cが空間Sに露出されている。ソース電極29側の空間Sは、反応部5側の導管6と接続されている。ドレイン電極31側の空間Sは、導管35に接続され、当該導管35の途中に電極槽37が形成されている。電極槽37内には、ゲート電極39が配置されている。なお、反応容器17を通過した溶液19は、矢印に示すように導管6を通して空間Sに送出され、感応膜27の主面27cと接触した後、導管35を通して電極槽37を経由し、その中のゲート電極39と接触して外部に排出される。
【0024】
基板21は、例えば、矩形の板状である。基板21の材料は、例えば、シリコン、ガラス(SiO等)、セラミックス(SiN等)又は高分子材料等である。基板21は、導電体層の上に絶縁体層を設けた積層構造を有してもよい。基板21の大きさは限定されるものではないが、例えば、基板21の厚さは1mm程度とすることができる。長さ及び幅については、センサ1の用途に応じて所望の大きさを有するように選択すればよい。
【0025】
感応膜27は、pH検出素子であり、例えばSiO、SiN、或いはAl又はTa等の金属酸化膜からなるイオン感応膜である。ただし、感応膜27は、pH検出素子に限らず、アセチルコリン又はその分解生成物との結合又は近接等による物性の変化を検出する他の素子が採用されてもよい。他の素子を構成する材料として、例えば、グラフェン、ダイヤモンド又はカーボンナノチューブ等の炭素材料、二硫化モリブデン(MoS)若しくは二セレン化タングステン(WSe)、二硫化チタン(TiS)又はリン(P)等の層状化合物等、或いは、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)等の電気化学的に水の酸化還元領域で安定な材料を用いることができる。感応膜27は、例えば、少なくとも一重の原子層であればよいが、多重であってもよい。又は、感応膜27はナノワイヤ又はナノチューブの形状を有してもよい。
【0026】
感応膜27の寸法は、用途に応じて所望の長さを選択できるが、ソース電極29側にある一端からドレイン電極31側にある他端までの長さを、例えば10nm~1mmとすることが好ましい。ここで、ソース電極29側からドレイン電極31側へと向かう方向を第1方向とし、第1方向と直交し、検出部7を断面視する方向を第2方向とすると、感応膜27は、その上方にある矩形体形状の空間Sの第2方向の長さよりも、主面27cの第2方向の長さが長くなるように形成されるか、又は、空間Sの第2方向の長さと主面27cの第2方向の長さとが同等であることが好ましい。このような構成にすることで、第2方向における溶液に接触する感応膜・チャネル部の積層部の割合を増加することができ、検出感度を向上させることができる。
【0027】
上記の感応膜27の寸法の効果は、下記に示すように、センサA及びセンサBを製造し、両者の検出感度を比較することで確認した。
【0028】
センサAは、基板と、第2方向の長さが30μmであるグラフェンからなる矩形の感応膜と、感応膜の一端に接続されたソース電極と、感応膜の他端に接続されたドレイン電極と、各電極を被覆し感応膜上に矩形体形状の空間を有する絶縁膜を備えるセンサであり、該空間の第2方向の長さは、34μmであった。
【0029】
センサBは、基板と、第2方向の長さが30μmであるグラフェンからなる矩形の感応膜と、感応膜の一端に接続されたソース電極と、感応膜の他端に接続されたドレイン電極と、各電極を被覆する感応膜上に矩形体形状の空間を有する絶縁膜を備えるセンサであり、該空間の第2方向の長さは、10μmであった。
【0030】
センサAと、センサBを用いてゲート電極及びドレイン電極間に流れる電流値を計測した。試料として塩素イオン濃度の異なる溶液を各センサ上に収容し、試料置換前後での電流値の変化量を算出した。
【0031】
その結果、センサAの電流値は約10%変化した。一方で、センサBでは電流値は約4%変化し、センサAを用いればセンサBの約2倍の変化量が得られることが確認された。従って、感応膜の上方にある矩形体形状の空間の第2方向の長さよりも、感応膜の主面の第2方向の長さが長くなるように形成するか、又は、該空間の第2方向の長さと感応膜の主面の第2方向の長さとが同等とするように形成することで、センサとしての検出感度を向上できることが確認された。
【0032】
ソース電極29、ドレイン電極31及びゲート電極39の材料は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、クロム(Cr)又はアルミニウム(Al)等の金属、或いは、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、IGZO、導電性高分子等の導電性物質である。
【0033】
絶縁膜23及び保護膜33は、例えば、絶縁材料から形成されている。絶縁材料は、例えば、酸化膜、窒化膜等のセラミックス、ポリイミド等の絶縁性ポリマー等である。
【0034】
センシング素子20を構成するグラフェンFETは、半導体プロセスにより製造することが可能である。例えば、次のように製造することができる。
【0035】
まず、基板21上に、放電を防ぐための絶縁膜23を形成する。基板21自体が絶縁性である場合は省略してもよい。
【0036】
次に、グラフェン25を絶縁膜23上に形成する。グラフェンの形成方法は、例えばグラファイトからの転写又はCVD法を用いることができる。転写等を用いる場合、プリント技術等でパターンを形成したグラフェンを張り合わせてもよい。その後、グラフェンをパターニングする。このパターニング工程において、グラフェンを形成するための下地をあらかじめ形成し、その後、例えばCVD法等でグラフェン25を選択的に形成してもよい。
【0037】
さらに、グラフェン25の形成後、グラフェン25の両端にソース電極29及びドレイン電極31を形成する。その後、グラフェン25の上に感応膜27を形成し、さらに基板21表面にソース電極29及びドレイン電極31を覆うように保護膜33を形成する。保護膜33はリソグラフィを用いて空間S等を加工する。また、犠牲層等を用いるリフトオフにより空間S等を形成してもよい。
【0038】
検出部7は、センシング素子20の他に、例えば、ソース電極29及びドレイン電極31間、並びにゲート電極39に電圧を印加する電源と、ソース電極29及びドレイン電極31間を流れる電流値を計測する電流計とを含む回路を更に備える(いずれも図示せず)。これらは、例えば基板21中に設けられ得る。また、検出部7はソース電極29及びドレイン電極31と接続するパッド電極を備えてもよい。さらに、1つの基板21上に、センシング素子を1つ配置してもよいし、複数配置してもよい。
【0039】
以下、前述したグラフェンFETで構成された検出部の動作について詳細に説明する。
【0040】
第1の実施形態において、感応膜27はpH感応膜であり、反応容器17を通過した溶液19のpH値に応じて感応膜27の表面電位が変化する。また、ゲート電極39によっても感応膜の27の表面電位を可変することができる。感応膜27の表面電位は、当該感応膜27と接触するグラフェン25の電位も変化する。電源からグラフェン25の端部に配置されたソース電極29とドレイン電極31との間に定電圧を印加すると、グラフェン25に与えられる電位によって当該グラフェン25に流れる電流値が感応膜27の電位により変化する。この電流値の変化に基づいて後述する気体試料中の標的物質の有無を検出する。
【0041】
本実施形態において、センサ1の流量は単位時間当たり一定量となるように設定されるため、反応部5へのアセチルコリンの単位時間当たりの供給量は一定量である。このようなセンサ1において、標的物質が試料中に含まれない場合、反応部5におけるアセチルコリン分解生成物の生成量は単位時間当たり一定であるため、反応部5から送出された溶液19のpH値も一定の値を示す。その結果、pH感応膜である感応膜27の表面電位は一定の値を示し、感応膜27と接触するグラフェン25を流れる電流値も一定の値となる。
【0042】
一方、標的物質が気体試料中に含まれる場合、標的物質によってアセチルコリン分解反応が阻害され、アセチルコリン分解生成物である酢酸の生成量が減少し、溶液19のpH値を上昇させる。溶液19のpH値の変化は、感応膜27の表面電位を変化させ、それに伴って感応膜27と接触するグラフェン25の電位を変化させる。グラフェン25の電位の変化は、ソース電極29とドレイン電極31との間の電流値の変化として電流計によって測定される。
【0043】
なお、センサ1の検出部7はグラフェンFETに限られるものではなく、例えば他の電荷検出素子、イオン選択性電界効果トランジスタ(ISFET)、CCD、他のpH検出素子、ガラス電極等で構成してもよい。しかしながら、グラフェンFETは移動度が高く、高移動度測定が可能なセンシング素子であるから、pH値の変化による感応膜27の表面電位変化が小さい場合でも大きな電流値変化として検出することができ、より高感度なセンサを提供することができる。
【0044】
以上説明した第1の実施形態によれば、検出部7でアセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼとの酵素反応におけるアセチルコリン分解生成物の変化をモニタリングすることによって、気体試料中の標的物質の有無及び変化量の大小による標的物質の量を高精度で検出することが可能である。特に、標的物質がそのままでは感応膜27に物性の変化を起こすことが困難である物質、例えば、疎水性の高い物質や極性の無い又は少ない物質である場合でも、第1の実施形態に係るセンサによれば、標的物質の酵素反応阻害効果を検出することによって、そのような物質でも高感度で検出することができる。
【0045】
従来、標的物質を検出するセンサとして、アセチルチオコリンとアセチルコリンエステラーゼとの酵素反応に対する阻害物質である標的物質を検知するセンサが知られている。このようなセンサは、基質であるアセチルチオコリンを、酵素であるアセチルコリンエステラーゼにより分解させてチオコリンを生成した後、チオコリンをDTNB(5、5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸))と反応させて発色させることで、吸光度測定等により光学的に検出していた。
【0046】
しかしながら、第1の実施形態のようにアセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼとの酵素反応で生じるコリン及び酢酸に発色反応のためのDTNBを適用したとしても、発色が起こらない。従って、従来のセンサではアセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼとの酵素反応において、阻害物質すなわち標的物質の存在を検出することが困難であった。また、従来では、チオコリンの酵素選択性が十分でなく、ブチリルコリンエステラーゼ等のアセチルコリンエステラーゼ以外の酵素でも分解されることがあった。アセチルコリンエステラーゼ以外の、チオコリンを分解し得る酵素が夾雑物として試料等に混入した場合、標的物質によってアセチルコリンエステラーゼの酵素反応が阻害されていたとしてもチオコリンが分解されるので、標的物質による反応阻害効果を確認できずに標的物質が検知されない虞があった。
【0047】
第1の実施形態では、標的物質の阻害効果を検出するための酵素反応の基質としてアセチルコリンを使用する。アセチルコリンは酵素選択性が高く、アセチルコリンエステラーゼ以外の分解酵素(例えば、ブチリルコリンエステラーゼ)の影響を低減することができる。その結果、チオコリンを使用する従来の検出方法よりも高精度に標的物質を検出することができる。
【0048】
また、アセチルコリンエステラーゼ水溶液を別の供給系に収容し当該アセチルコリンエステラーゼ水溶液を反応容器17に供給するセンサ1の構成と比較すると、アセチルコリンエステラーゼが反応部5に固定化されたセンサ1の構成は、アセチルコリンエステラーゼの流出が無いために、センサ1の使用におけるアセチルコリンエステラーゼの使用量を低減することができる。さらに、別の供給系を設けないことでセンサ1の部品点数をより少なくすることができる。すなわち、アセチルコリンエステラーゼを反応部5に固定化する構成のセンサ1は、より簡易な測定を実施できる点、並びに、製造時及び使用時のコストを低減できる点で好ましい。
【0049】
他方、アセチルコリンエステラーゼ水溶液を別の供給系に収容し当該アセチルコリンエステラーゼ水溶液を反応容器17に供給するセンサ1の構成は、アセチルコリンエステラーゼが反応部5に固定化されたセンサ1の構成と比較すると、センサ1を再使用する場合の取り扱いがより容易である点で好ましい。これは、標的物質の阻害効果によりアセチルコリンエステラーゼが不活性化される場合であっても、未反応のアセチルコリンエステラーゼが反応部5に供給されることにより、アセチルコリンエステラーゼを再度活性化する操作、又は固定化されたアセチルコリンエステラーゼを交換する操作を省略することができるためである。
【0050】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るセンサについて図5を参照して説明する。
【0051】
センサ1は、標的物質取り込み部3と、標的物質取り込み部3から延びる導管4に接続される反応部5と、導管47を通して反応部5に接続される液体供給部41と、反応部5から延びる導管6に接続される検出部7とを備える。
【0052】
標的物質取り込み部3は、アセチルコリンエステラーゼ水溶液51を収容した容器9を備える。容器9には、気体試料の導管10が接続されている。導管10には、ポンプ11が介装されている。ポンプ11を駆動することにより、標的物質を含み得る矢印に示す気体試料13は導管10を通して容器9に送出される。容器9に送出された気体試料13は、容器9内のアセチルコリンエステラーゼ水溶液51と接触する。このとき、気体試料13に標的物質が含有される場合、標的物質は、アセチルコリンエステラーゼ水溶液51に取り込まれる。
【0053】
気体試料13と接触したアセチルコリンエステラーゼ水溶液51は、標的物質取り込み部3から導管4を通して反応部5に送出される。反応部5は、導管4が接続される反応容器17を備える。反応容器17は、液体が収容可能な容器である。
【0054】
液体供給部41は、アセチルコリン水溶液43が収容された液体貯蔵部45を備える。液体貯蔵部45は、導管47を通して反応容器17と接続されている。導管47には、ポンプ49が介装され、ポンプ49の駆動より液体貯蔵部45内のアセチルコリン水溶液43が導管47を通して反応容器17に供給される。反応容器17において、標的物質取り込み部3から送出されたアセチルコリンエステラーゼ水溶液51と液体貯蔵部45から送出されたアセチルコリン水溶液43とが接触される。アセチルコリンエステラーゼ水溶液51に標的物質が含有される場合には、反応容器17内にアセチルコリン、アセチルコリンエステラーゼ及び標的物質が共存する。反応容器17を通過した溶液19は、反応容器17から導管6を通して検出部7に送出される。
【0055】
検出部7は、前述した第1の実施形態と同様な構造を有する。
【0056】
このような構成の第2の実施形態によれば、前述した第1の実施形態と同様、検出部7でアセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼとの酵素反応におけるアセチルコリン分解生成物の変化をモニタリングすることによって、気体試料中の標的物質の有無及び変化量の大小による標的物質の量を高精度で検出することが可能である。特に、標的物質がそのままでは感応膜27に物性の変化を起こすことが困難である物質、例えば、疎水性の高い物質や極性の無い又は少ない物質である場合でも、第2の実施形態に係るセンサによれば、標的物質の酵素反応阻害効果を検出することによって、そのような物質でも高感度で検出することができる。
【0057】
第2の実施形態において、アセチルコリンエステラーゼ水溶液は標的物質と接触した状態で反応部に供給されるので、反応部においてアセチルコリンエステラーゼと標的物質とが接触する第1の実施形態のセンサと比較すると、第2の実施形態のセンサは、アセチルコリンエステラーゼと標的物質とが接触する時間をより長く確保することができる。アセチルコリンエステラーゼと標的物質とが接触する時間がより長くなると、アセチルコリンエステラーゼに対する標的物質の阻害効果がより顕著となるため、第2の実施形態のセンサはより感度良く標的物質を検出できる点で好ましい。
【0058】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る検出方法について、図6を参照して詳細に説明する。
【0059】
第3の実施形態に係る検出方法は、以下の工程を含む。
(S1)アセチルコリン水溶液と気体試料とを接触させる工程と、
(S2)前記気体試料を接触させた前記アセチルコリン水溶液とアセチルコリンエステラーゼとを混合、接触させる工程と、
(S3)前記混合、接触後の水溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する工程と
を含む。
【0060】
気体試料は、例えば、前記標的物質が含まれることが予想される気体である。気体試料は、例えば大気、呼気、又は生体や物体等の分析対象から発生する他の気体、或いは分析対象の周辺の空気等であるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
標的物質は、アセチルコリンエステラーゼのアセチルコリン分解反応に対する阻害物質であり、気体中に含まれる物質である。標的物質としては、生体由来の物質、生体由来でない物質、有機化合物、無機化合物又は低分子化合物等であり、例えば匂い物質、フェロモン、脂肪酸、炭化水素、硫黄酸化物又は人工香料等の化合物等であってもよい。例えばリモネン、アンブレイン、ピネンなどのテルペノイド、ルテオリン等のフラボノイド、ガランタミン等のアルカロイド、Cynatroside A等の配糖体等である。
【0062】
工程S1において、アセチルコリン水溶液と気体試料との接触により、気体試料中に標的物質が含まれる場合、当該標的物質はアセチルコリン水溶液に溶け込む。
【0063】
工程S2において、気体試料を接触させたアセチルコリン水溶液とアセチルコリンエステラーゼとを混合、接触させる。アセチルコリン水溶液とアセチルコリンエステラーゼが接触すると、アセチルコリンの分解反応が進行する。この混合系に標的物質が含まれる場合、アセチルコリンの分解速度は抑制される。アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンに対して特異的又は選択的に反応させる触媒として作用するため、気体試料が夾雑物を含む場合であってもアセチルコリンを特異的に処理することが可能である。その結果、処理後の生成物の種類を特定することが可能である。
【0064】
工程S3において、混合、接触後の水溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する。アセチルコリン分解生成物は、第1の実施形態の式(1)で説明したようにアセチルコリンが基質、アセチルコリンエステラーゼが酵素として作用する化学反応により生成される。気体試料中に標的物質を含まない場合、アセチルコリン分解生成物の生成量はアセチルコリン及びアセチルコリンエステラーゼの量に相関する。他方、気体試料中に標的物質を含む場合、標的物質が酵素であるアセチルコリンエステラーゼに対して阻害物質として働くため、アセチルコリン分解生成物の生成量が減少する。すなわち、気体試料中に標的物質が含むときのアセチルコリン分解生成物の生成量は、標的物質が含まないときのアセチルコリン分解生成物の生成量に比べて減少する。
【0065】
このようなアセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼに対する標的物質の阻害効果から標的物質を含まない気体試料を基準試料とし、当該試料を前記工程S1の気体試料として用い、前記工程S1~S3に従ってアセチルコリン分解生成物の生成量を測定し、その後、標的物質の存在が未知の気体試料を前記工程S1~S3に従ってアセチルコリン分解生成物の生成量を測定する。そして、標的物質の存在が未知の気体試料でのアセチルコリン分解生成物の生成量が基準試料の生成量に比べて変化している場合、未知の気体試料は標的物質を含むと判定する。ここで、基準試料と標的物質の存在が未知の気体試料との間でのアセチルコリン分解生成物の生成量の変化は、例えばpH値の変化、さらにpH値に基づくFETを用いた電流値の変化として測定することができる。
【0066】
従って、第3の実施形態によれば、アセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼとの酵素反応におけるアセチルコリン分解生成物の変化をモニタリングすることによって、気体試料中の標的物質の有無及び変化量の大小による標的物質の量を高精度で検出することが可能である。
【0067】
(第4の実施形態)
第4実施形態に係る検出方法について、図7を参照して詳細に説明する。
【0068】
第4の実施形態に係る検出方法は、以下の工程を含む。
(S1′)アセチルコリンエステラーゼ水溶液と気体試料とを接触させる工程と、
(S2′)前記気体試料を接触させた前記アセチルコリンエステラーゼ水溶液とアセチルコリン水溶液とを混合、接触させる工程と、
(S3′)前記混合、接触後の水溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する工程と
を含む。
【0069】
工程S1′において、アセチルコリンエステラーゼ水溶液と気体試料との接触により、気体試料中に標的物質が含まれる場合、当該標的物質はアセチルコリンエステラーゼ水溶液に溶け込む。
【0070】
工程S2′において、気体試料を接触させたアセチルコリンエステラーゼ水溶液とアセチルコリン水溶液とを混合、接触させる。アセチルコリンエステラーゼ水溶液とアセチルコリン水溶液が接触すると、アセチルコリンの分解反応が進行する。この混合系に標的物質が含まれる場合、アセチルコリンの分解速度は抑制される。アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンに対して特異的又は選択的に反応させる触媒として作用するため、気体試料が夾雑物を含む場合であってもアセチルコリンを特異的に処理することが可能である。その結果、処理後の生成物の種類を特定することが可能である。
【0071】
工程S3′において、混合、接触後の水溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する。アセチルコリン分解生成物は、第1の実施形態の式(1)で説明したようにアセチルコリンが基質、アセチルコリンエステラーゼが酵素として作用する化学反応により生成される。気体試料中に標的物質を含まない場合、アセチルコリン分解生成物の生成量はアセチルコリン及びアセチルコリンエステラーゼの量に相関する。他方、気体試料中に標的物質を含む場合、標的物質が酵素であるアセチルコリンエステラーゼに対して阻害物質として働くため、アセチルコリン分解生成物の生成量が減少する。すなわち、気体試料中に標的物質が含むときのアセチルコリン分解生成物の生成量は、標的物質が含まないときのアセチルコリン分解生成物の生成量に比べて減少する。
【0072】
このようなアセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼに対する標的物質の阻害効果から標的物質を含まない気体試料を基準試料とし、当該試料を前記工程S1の気体試料として用い、前記工程S1′~S3′に従ってアセチルコリン分解生成物の生成量を測定し、その後、標的物質の存在が未知の気体試料を前記工程S1′~S3′に従ってアセチルコリン分解生成物の生成量を測定する。そして、標的物質の存在が未知の気体試料でのアセチルコリン分解生成物の生成量が基準試料の生成量に比べて変化している場合、未知の気体試料は標的物質を含むと判定する。
【0073】
ここで、基準試料と標的物質の存在が未知の気体試料との間でのアセチルコリン分解生成物の生成量の変化は、例えばpH値の変化、さらにpH値に基づくFETを用いた電流値の変化として測定することができる。
【0074】
従って、第4の実施形態によれば、第3の実施形態で説明したのと同様、アセチルコリンとアセチルコリンエステラーゼとの酵素反応におけるアセチルコリン分解生成物の変化をモニタリングすることによって、気体試料中の標的物質の有無及び変化量の大小による標的物質の量を高精度で検出することが可能である。
【0075】
(第5の実施形態)
第5の実施形態によれば、図8に示すように、センサ1を含む標的物質検出装置100が提供される。標的物質検出装置100は、例えば、電流計101を備えるセンサ1と、電流計101で測定したアセチルコリン分解生成物の生成量の変化の測定データ102、前記データから試料中の標的物質の有無又は量を算出する演算式103、標的物質の有無又は量104のデータ及びプログラムP等を格納する記憶部105と、測定データ102及び演算式103から試料中の標的物質の有無又は量を算出する処理部106と、表示部107とを含む。
【0076】
標的物質検出装置100によれば、例えば、センサ1のソース電極29及びドレイン電極31間に電圧を印加し、電流計101で、標的物質を含まない気体試料を基準試料としてセンサ1に導入した場合のソース電極29及びドレイン電極31間に流れる電流値を測定しておく。基準試料の電流値の測定データ102は、記憶部105に格納される。次に、標的物質を含み得る気体試料をセンサ1に導入した場合のソース電極29及びドレイン電極31間に流れる電流値を測定する。標的物質を含み得る気体試料の電流値の測定データ102は、同様に、記憶部105に格納される。次に処理部106は、基準試料と標的物質を含み得る気体試料の測定データ102及び演算式103を記憶部105から取り出し、試料中の標的物質の有無又は量104を算出し、それを記憶部105に格納する。処理部106は、標的物質の有無又は量104を表示部107に表示するように指示を出す。
【0077】
標的物質検出装置100の記憶部105、処理部106及び表示部107はコンピュータであってもよい。本装置の各操作は、検出方法の実行者の入力により実行されてもよいし、記憶部に格納されたプログラムPによって実行されてもよい。
【0078】
(第6の実施形態)
第6実施形態によれば、試料中の標的物質を検出する方法において、標的物質の酵素反応に対する阻害効果を検出するための試薬が提供される。
【0079】
試薬は、アセチルコリンを含有する試薬200と、アセチルコリンエステラーゼを含有する試薬201とで構成される。すなわち、試薬200及び試薬201は別々に保存される。試薬200及び試薬201は、必要に応じてアセチルコリンエステラーゼの補因子を更に含む。
【0080】
試薬200又は試薬201は、アセチルコリン又はアセチルコリンエステラーゼがそれぞれ適切な溶媒に含められることで、液体試薬の形態で提供され得る。溶媒は、例えば、水、生理水、イオン液体、又はPBバッファ、PBSバッファ、DMSO若しくはアルコール等の有機溶媒、或いはこれらの何れかの混合物等である。液体試薬におけるアセチルコリンの濃度は限定されるものではないが、用いるアセチルコリンエステラーゼのミカエリス・メンテン定数(最大速度の半分の速度を与える基質濃度)以上であることが好ましく、例えば、数mMである。
【0081】
また、試薬200は、粉末状のアセチルコリンを含有する粉末試薬の形態で、試薬201は、粉末状のアセチルコリンエステラーゼを含有する粉末試薬の形態で提供されてもよい。その場合、使用前に上記の何れかの溶媒等に溶解することにより、液体試薬として使用され得る。
【0082】
試薬は、アセチルコリンエステラーゼの触媒活性を阻害せず、センサによる検出に影響を与えない限り、他の成分を含んでもよい。他の成分は、例えば、pH調整剤、保存剤及び安定剤等で有り得る。試薬は、適切な容器に収容されて提供され得る。
【0083】
試薬は、例えば、第2の実施形態のセンサに対して、試薬200及び201がアセチルコリン水溶液又はアセチルコリンエステラーゼ水溶液としてそれぞれ容器9又は液体貯蔵部45に収容されるように提供される。
【0084】
(第7の実施形態)
更なる実施形態によれば、第1及び第2実施形態に係るセンサと、第6の実施形態に係る試薬とを含むキットが提供される。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
試料中の標的物質を検出するセンサであって、
アセチルコリン水溶液と気体試料とを接触させて、気体試料中の標的物質を前記アセチルコリン水溶液に溶け込ませる標的物質取り込み部と、
アセチルコリンエステラーゼを収容し、前記標的物質取り込み部から送出された溶液を前記アセチルコリンエステラーゼに接触させる反応部と、
前記反応部から送出された溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する検出部と
を備えるセンサ。
[2]
試料中の標的物質を検出するセンサであって、
アセチルコリンエステラーゼ水溶液と気体試料とを接触させて、気体試料中の標的物質を前記アセチルコリンエステラーゼ水溶液に溶け込ませる標的物質取り込み部と、
アセチルコリン水溶液を収容する供給部と、
前記標的物質取り込み部から送出された溶液及び前記供給部から供給されたアセチルコリン水溶液が混合される反応部と、
前記反応部から送出された溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する検出部と
を備えるセンサ。
[3]
前記標的物質はリモネンである[1]又は[2]に記載のセンサ。
[4]
前記アセチルコリンエステラーゼはデンキウナギ由来である[1]又は[2]に記載のセンサ。
[5]
前記反応部を加温するヒータをさらに備える[1]又は[2]に記載のセンサ。
[6]
前記検出部がpH検出素子を備える[1]又は[2]に記載のセンサ。
[7]
前記pH検出素子は、高移動度測定用センシング素子である[6]に記載のセンサ。
[8]
前記高移動度測定用センシング素子は、グラフェンFETである[7]に記載のセンサ。
[9]
気体試料中の標的物質を検出する方法であって、
アセチルコリン水溶液と気体試料とを接触させる工程と、
前記気体試料を接触させた前記アセチルコリン水溶液とアセチルコリンエステラーゼとを混合、接触させる工程と、
前記混合、接触後の水溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する工程と
を含む検出方法。
[10]
気体試料中の標的物質を検出する方法であって、
アセチルコリンエステラーゼ水溶液と気体試料とを接触させる工程と、
前記気体試料を接触させた前記アセチルコリンエステラーゼ水溶液とアセチルコリン水溶液とを混合、接触させる工程と、
前記混合、接触後の水溶液中のアセチルコリン分解生成物の生成量の変化を測定する工程と
を含む検出方法。
[11]
前記アセチルコリン分解生成物の生成量の変化に基づいて前記気体試料中の標的物質の有無及び量を検出する工程を更に含む[9]又は[10]に記載の検出方法。
[12]
前記標的物質はリモネンである[9]又は[10]に記載の検出方法。
[13]
[9]又は[10]に記載の方法に用いるための試薬であって、
アセチルコリンを含有する試薬と、アセチルコリンエステラーゼを含有する試薬とを有する試薬。
[14]
[1]に記載のセンサ及び[13]に記載の試薬を含むキット。
【符号の説明】
【0086】
1・・・センサ
3・・・標的物質取り込み部
5・・・反応部
7・・・検出部
4、6・・・導管
13・・・気体試料
15・・・アセチルコリン水溶液
17・・・反応容器
18・・・アセチルコリンエステラーゼ
20・・・センシング素子
22・・・ヒータ
37・・・電極槽
41・・・液体供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8