(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】含硫ラクトン化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 307/33 20060101AFI20231010BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20231010BHJP
C07D 307/64 20060101ALI20231010BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C07D307/33 300
A23L27/00 Z
C07D307/64 CSP
C11B9/00 X
(21)【出願番号】P 2020218240
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和
(72)【発明者】
【氏名】川口 賢二
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-029424(JP,A)
【文献】特開昭58-121286(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第03221914(DE,A1)
【文献】特開2022-103542(JP,A)
【文献】FLAMENT,I. et al.,Flavor of foods and beverages. New developments in meat aroma research,Flavor Foods Beverages: Chem. Technol., [Proc. Conf.],1978年,p.15-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/33
A23L 27/00
C07D 307/64
C11B 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、含硫ラクトン化合物。
【化1】
[式中、(a)~(d)を満たす。
(a)nは0~3の整数を表す。
(b)ラクトン環の2箇所の破線は、1箇所が炭素-炭素間二重結合で、もう1箇所が単結合であるか、2箇所とも単結合であることを表す。
(c)前記ラクトン環の側鎖の破線は、1箇所が炭素-炭素間二重結合でその他の箇所は単結合であるか、すべての箇所が単結合であることを表す。
(d)XおよびYは、(b)において前記ラクトン環の2箇所の破線が2箇所とも単結合である場合は、XはSR基(Sは硫黄原子を表し、Rは水素または炭素数1~3のアルキル基を表す)を表し、Yは
-CH
2
-を表し、(b)において前記ラクトン環の2箇所の破線のうち1箇所が炭素-炭素間二重結合で、もう1箇所が単結合である場合は、Xは存在せずYは硫黄原子を表す。]
【請求項2】
請求項1に記載の含硫ラクトン化合物を含む香味付与組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の香味付与組成物を含む消費財。
【請求項4】
請求項2に記載の香味付与組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【請求項5】
請求項2に記載の香味付与組成物を他の香味付与組成物に配合することを含む、香味付与組成物の香味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫ラクトン化合物および含硫ラクトン化合物を含む香味付与組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、飲食品や香粧品における消費者の要求は高度化および多様化しているが、特に、香りに注目が集まっており、香りの特性が製品の訴求力に重要な要素となっている。例えば、製品への配合によって、当該製品の香りや味に持続性、天然感など特徴的な香味を付与できる化合物への要求が高まっている。
【0003】
例えば、本発明に係る化合物が属するラクトン類では、4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノンを有効成分とする香味付与組成物をシトラスやフローラル調の香味の改善に使用すること(特許文献1)、3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノンなどによって甘味を増強する方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
また、本発明に係る化合物のように、分子中に複素環、酸素原子および硫黄原子を有する化合物としては、例えば、2-フルフリルメチルスルフィド、2-フルフリルメチルジスルフィド、メチル(5-メチル-2-フリル)スルフィド、メチル(2-メチル-3-フリル)ジスルフィドなどの化合物がコーヒーの淹れたて感の付与に有効であることが知られている(特許文献3)。
【0005】
しかし、飲食品や香粧品など各種物品によりよい香味を付与して、既存品の香味との差別化を可能とする新たな化合物の開発が期待されて続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-025182号公報
【文献】特開平4-8264号公報
【文献】特開2008-259472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、香味の付与に有用な新たな化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、香味付与に有効な未知の化合物を鋭意探索したところ、香りを呈することや香味の付与効果が全く知られていなかった、含硫ラクトン化合物が香味付与に有用であることを見出した。
【0009】
かくして、本発明は以下のものを提供する。
[1] 下記式(1)で表される、含硫ラクトン化合物。
【0010】
【0011】
[式中、(a)~(d)を満たす。
(a)nは0~3の整数を表す。
(b)ラクトン環の2箇所の破線は、1箇所が炭素-炭素間二重結合で、もう1箇所が単結合であるか、2箇所とも単結合であることを表す。
(c)前記ラクトン環の側鎖の破線は、1箇所が炭素-炭素間二重結合でその他の箇所は単結合であるか、すべての箇所が単結合であることを表す。
(d)XおよびYは、(b)において前記ラクトン環の2箇所の破線が2箇所とも単結合である場合は、XはSR基(Sは硫黄原子を表し、Rは水素または炭素数1~3のアルキル基を表す)を表し、Yは-CH
2
-を表し、(b)において前記ラクトン環の2箇所の破線のうち1箇所が炭素-炭素間二重結合で、もう1箇所が単結合である場合は、Xは存在せずYは硫黄原子を表す。]
[2] [1]に記載の含硫ラクトン化合物を含む香味付与組成物。
[3] [2]に記載の香味付与組成物を含有する、消費財。
[4] [2]に記載の香味付与組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
[5] [2]に記載の香味付与組成物を他の香味付与組成物に配合することを含む、香味付与組成物の香味付与方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、各種物品への香味の付与に新規に使用可能な化合物を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度(ppt、ppb、ppmなど)、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表すものとする。
【0014】
(式(1)で表される含硫ラクトン化合物)
式(1)で表される含硫ラクトン化合物(本明細書では、式(1)の含硫ラクトン化合物または式(1)の化合物ともいうことがある)は、いずれも従来文献未記載の化合物であり、これまで香りがあることも消費財など各種物品への香味付与に使用可能なことも全く知られていなかった化合物群であり、本発明者らによって香味付与用途の有用性が初めて確認されたものである。
【0015】
【0016】
式中、(a)~(d)を満たす。
(a)nは0~3の整数を表す。
(b)ラクトン環の2箇所の破線は、1箇所が炭素-炭素間二重結合(本明細書では、単に二重結合ということがある)で、もう1箇所が単結合であるか、2箇所とも単結合であることを表す。
(c)前記ラクトン環の側鎖(本明細書では、単に側鎖ということがある)の破線は、1箇所が炭素-炭素間二重結合でその他の箇所は単結合であるか、すべての箇所が単結合であることを表す。
(d)XおよびYは、(b)において前記ラクトン環の2箇所の破線が2箇所とも単結合である場合は、XはSR基(Sは硫黄原子を表し、Rは水素または炭素数1~3のアルキル基を表す)を表し、Yは-CH
2
-を表し、(b)において前記ラクトン環の2箇所の破線のうち1箇所が炭素-炭素間二重結合で、もう1箇所が単結合である場合は、Xは存在せずYは硫黄原子を表す。また、本明細書において、ラクトン環の側鎖(または単に側鎖)というときは、式(1)において破線およびYを含む鎖を意味し、ラクトン環に結合するXは意味しないものとする。
【0017】
式(1)の含硫ラクトン化合物において、ラクトン環の2箇所の破線が2箇所とも単結合である場合は、下記式(1-A)で表すことができ、式(1-A)の化合物の好ましい例としては以下の態様が挙げられる。
【0018】
【0019】
(例)Rはメチル基またはエチル基で、nは1であり、ラクトン環の側鎖の破線のうち3位と4位の間に二重結合が1箇所存在し、その他の箇所は単結合である、またはnは2で側鎖の破線のうち二重結合が4位と5位の間に1箇所存在し、その他の箇所は単結合である。
【0020】
式(1)の含硫ラクトン化合物において、ラクトン環の2箇所の破線のうち1箇所が炭素-炭素間二重結合で、もう1箇所が単結合である場合は、下記式(1-Ba)または式(1-Bb)の化合物で表すことができ、式(1-Ba)の化合物および式(1-Bb)の化合物の好ましい例として以下の態様が挙げられる。
【0021】
【0022】
(例1)ラクトン環の破線のうち二重結合が3位と4位の間に1箇所存在し、nは1で、ラクトン環の側鎖の破線のうち炭素2位と3位の間に二重結合が1箇所存在し、その他の箇所は単結合である、またはnは2で側鎖の破線のうち二重結合が炭素3位と4位の間に1箇所存在し、その他の箇所は単結合である(式(1-Ba))。
【0023】
(例2)ラクトン環の二重結合が4位と5位の間に1箇所存在し、nは1で、ラクトン環の側鎖の二重結合が炭素2位と3位の間に1箇所存在し、その他の箇所は単結合である、またはnは2で、ラクトン環の側鎖の破線のうち二重結合が炭素3位と4位の間に1箇所存在し、その他の箇所は単結合である(式(1-Bb))。
【0024】
式(1)の含硫ラクトン化合物の最も好ましい具体例としては、以下の式(1-1)の化合物および式(1-2)の化合物が挙げられる。式(1-1)の化合物は、前記式(1-A)の一例であり、ラクトン環の2箇所の破線が2箇所とも単結合であり、Rがエチル基であり、nが1であり、ラクトン環の側鎖の破線のうち二重結合が3位と4位の間に1箇所存在し、その他の箇所は単結合である場合である。式(1-2)の化合物は、前記式(1-Ba)の一例であり、ラクトン環の二重結合が3位と4位の間に1箇所存在し、nは1で、ラクトン環の側鎖の破線のうち、二重結合が炭素2位と3位の間に1箇所存在し、その他の箇所は単結合である場合である。
【0025】
【0026】
(式(1)の含硫ラクトン化合物の製造例)
式(1)の含硫ラクトン化合物を得る手段は特に限定されないが、例えば、下記の方法によって合成することができる。以下、一般的な製法を述べるが、本発明を限定するものではない。
【0027】
(合成例1)
本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物において、ラクトン環の2箇所の破線が2箇所とも単結合である場合(式(1-A)の化合物)は、例えば以下に示す反応経路1~2によって製造することができる。すなわち、まずα,β-不飽和カルボニル構造を有するラクトン化合物を得て、当該ラクトン化合物に対しアルキルチオ基を付加させることで製造することができる。
【0028】
α,β-不飽和カルボニル構造を有するラクトン化合物は一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。例えば、以下の反応経路1に記載の一般的な方法に従って合成できる。
【0029】
【0030】
上記反応経路1は、ヒドロキシル基が保護されたプロパルギルアルコールA(式Aにおいて、PGは保護基を表す)を原料として、任意の塩基とクロロギ酸エチルを用いてエトキシカルボニル化し三重結合を有する不飽和エステルBとする。なおクロロギ酸エチルは必ずしもエチルエステルである必要はなくメチル、プロピル等の任意のアルキルエステルを用いてもよい。得られた不飽和エステルBに対し銅試薬存在下、グリニャール試薬を加えることでZ選択的に共役付加反応させ二重結合を有する不飽和エステルCとする。反応経路1中、R’は式(1)におけるラクトン環の側鎖に相当し、炭素数5~8のアルキル基またはアルケニル基であり、好ましい例として、イソペンチル基、イソヘキシル基、3-メチル-2-ブテニル基(プレニル基)、4-メチル-3-ペンテニル基(ホモプレニル基)、5-メチル-4-ヘキセニル基などを挙げることができるが、ホモプレニル基が最も好ましい。得られた不飽和エステルCの脱保護を行うと環化まで進行し、目的のα,β-不飽和カルボニル構造を有するラクトン化合物を得ることができる。上記反応の出発物質として用いられるヒドロキシル基が保護されたプロパルギルアルコールAは、一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。保護基としてはエトキシエチル(EE)基やテトラヒドロピラニル(THP)基のようなアセタール系保護基やt-ブチルジメチルシリル(TBS)基のようなシリル系保護基などを挙げることができるが、EE基が好ましい。エトキシカルボニル化反応に用いる塩基は特に限定はされないが、n-ブチルリチウムが好ましい。共役付加反応に用いるグリニャール試薬は対応するハロゲン化アルキルとマグネシウムから調製することができる。ハロゲン化アルキルは一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。用いる銅試薬は臭化銅ジメチルスルフィド錯体、臭化銅、ヨウ化銅などを挙げることができるが、臭化銅ジメチルスルフィド錯体が好ましい。脱保護の条件は用いた保護基の種類によって適宜選択してよい。EE基のようなアセタール系保護基は一般的には酸加水分解で脱保護されるが特に限定はされない。酸加水分解に用いる酸は塩酸、硫酸などを挙げることができるが、塩酸が好ましい。脱保護が進行すると環化まで進行し目的物へと変換される。
【0031】
【0032】
まず塩基を用いてチオール(RSH)を脱プロトン化し、その後α,β-不飽和カルボニル構造を有するラクトン化合物と反応させると1,4-付加が進行し、目的物E(式(1-A)の化合物に相当)を得ることができる。反応経路2中、Rは式(1)および式(1-A)におけるRに対応し、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができるが、メチル基またはエチル基が好ましく、エチル基が最も好ましい。脱プロトン化に用いる塩基はn-ブチルリチウム、t-ブトキシカリウム、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、水素化ナトリウムなどを挙げることができるが、n-ブチルリチウムが好ましい。室温(通常約20~30℃の範囲内)で反応が進行しない場合は加熱してもよい。
【0033】
(合成例2)
本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物においてラクトン環の2箇所の破線が2箇所とも単結合である場合(式(1-A)の化合物)は、上記した合成例1のほかにも、例えば以下の反応経路3に示すようにα,β-不飽和カルボニル構造を有するラクトン前駆体Fに対し1,4-付加を行い、その後ラクトン化することで製造することもできる。
【0034】
【0035】
上記反応の出発物質として用いられるα,β-不飽和カルボニル構造を有するラクトン前駆体Fは一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。例えば、J.Agric.Food.Chem.2019,67,pp.7410-7415に記載の方法によって合成することができる。ラクトン前駆体の保護基(PG)としてはエトキシエチル(EE)基やテトラヒドロピラニル(THP)基のようなアセタール系保護基やt-ブチルジメチルシリル(TBS)基のようなシリル系保護基などを挙げることができるが、EE基が好ましい。反応経路3中、ラクトン前駆体FのR'は式(1)におけるラクトン環の側鎖に相当し、炭素数5~8のアルキル基またはアルケニル基であり、好ましい例として、イソペンチル基、イソヘキシル基、3-メチル-2-ブテニル基(プレニル基)、4-メチル-3-ペンテニル基(ホモプレニル基)、5-メチル-4-ヘキセニル基などを挙げることができるが、ホモプレニル基が最も好ましい。ラクトン前駆体のR3はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができるが、エチル基が好ましい。ラクトン前駆体に対し前述の方法(反応経路2を参照)でチオール(RSH)のアルキルチオ基(RS)を1,4-付加させ、その後脱保護すると環化まで進行し目的物H(式(1-A)の化合物に相当)へと変換される。反応経路3中、Rは式(1)および式(1-A)におけるRに対応し、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができるが、メチル基またはエチル基が好ましく、エチル基が最も好ましい。脱保護の条件は用いた保護基の種類によって適宜選択してよい。EE基のようなアセタール系保護基は一般的には酸加水分解で脱保護されるが特に限定はされない。酸加水分解に用いる酸は塩酸、硫酸などを挙げることができるが、塩酸が好ましい。
【0036】
(合成例3)
式(1)の含硫ラクトン化合物のうち、ラクトン環の2箇所の破線のうち1箇所が炭素-炭素間二重結合でありもう1箇所が単結合である場合(式(1-Ba)および式(1-Bb)の化合物)のうち、式(1-Ba)の化合物については、例えば下記反応経路4に示す反応経路によって製造することができる。すなわちテトロン酸(I)に対し硫化剤を作用させチオールJへと変換後、アルキル化を行うことで製造することができる。用いる硫化剤は特に限定はされないが、ローソン試薬が好ましい。
【0037】
【0038】
上記反応の出発物質として用いられるテトロン酸Iは一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。テトロン酸IをチオールJへと変換する方法は特に限定はされないがローソン試薬による変換が好ましい。続くアルキル化に用いるR''Xはヨウ化物、臭化物、塩化物などのハロゲン化物、トシラート、メシラートなどが挙げられるが、臭化物が好ましい。反応経路4中、R''は炭素数4~7のアルキル基またはアルケニル基であり、好ましい例として、イソブチル基、プレニル基などを挙げることができるが、プレニル基が最も好ましい。用いる塩基はトリエチルアミン、n-ブチルリチウム、t-ブトキシカリウム、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、水素化ナトリウムなどを挙げることができるが、トリエチルアミンが好ましい。室温で反応が進行しない場合は加熱してもよい。
【0039】
また、反応経路4で得られた化合物K(式(1-Ba)の化合物に相当)の二重結合位置を変えて式(1-Bb)の化合物とすることができ、そのためには、例えば、特開2020-29424号公報(特に段落[0013]~[0018]および実施例1)や、Flavour.Fragr.J.2020,35,pp.341-349に記載の方法に従えばよい。
【0040】
式(1)の各ラクトン化合物は、それ自体、ワキシー(ワックスまたは蝋様)、ロースト様(ローストした飲食品のような香ばしさ、焦げ感、および/または苦さを含む感覚)、メタリックといった香気を含む特徴的な香気を呈し、各種物品に配合することで配合対象に香味を付与できる。配合対象としては特に限定されないが、香味付与組成物(詳細は後述する)、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財を例示できる。
【0041】
本明細書において、香味とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚および/または味覚を含む感覚を意味する。本明細書において、用語「香味を付与」とは、前記香味を新たに加える、または増強することを含み、例えば、付与の結果香味が改善されるものであってよい。さらには、香味の付与の結果、嗅覚および/または味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸感や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。また、本明細書において、飲食品の香味を風味と呼ぶこともある。
【0042】
(本発明の香味付与組成物)
本発明の香味付与組成物は、式(1)の含硫ラクトン化合物の1種以上を所定量含むものであり、各種物品に配合してその物品に香味を付与(香味付与の定義は上述した通りである)することのできるものである。本発明の香味付与組成物の例として、各種物品に香りを付与できる組成物、すなわちいわゆる香料;各種物品に香りおよび/または味を付与できる各種エキス;各種飲食品に香りおよび/または味を付与できるその他食品添加物;各種香粧品や医薬衛生品に香りおよび/または味を付与できる添加物;などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の香味付与組成物は、式(1)の含硫ラクトン化合物の他にも任意の成分を含み得るが、実質的に式(1)の含硫ラクトン化合物のみからなるものであってもよい。本発明の香味付与組成物が式(1)の含硫ラクトン化合物以外の成分も含む場合、当該香味付与組成物中の式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度は、香味付与組成物の配合対象や香気特性に応じて任意に決定できる。なお、本明細書において、濃度とは特に断りのない限り最終濃度とする。
【0044】
当該濃度の例として、本発明の香味付与組成物が式(1)の含硫ラクトン化合物およびその溶媒(具体例は後述)以外の成分を実質的に含まない場合は、0.1%~100%の範囲内が例示できる。好ましい例として1%~100%、10%~100%、20%~100%、50%~100%、70%~100%、80%~100%、90%~100%、95%~100%、および99%~100%の範囲内、ならびに実質的に100%が挙げられる。
【0045】
当該濃度の例として、特に香味付与組成物が式(1)の含硫ラクトン化合物以外にも香味付与可能なその他成分を含む場合には、香味付与組成物の全体質量に対して、0.01ppm~10%、好ましくは0.1ppm~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.01ppm、0.1ppm、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%のいずれかとし、上限値を10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、0.1ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。また、式(1-1)の化合物については特に1ppm~10%の範囲内が好ましく、式(1-2)の化合物については特に0.01ppm~100ppmの範囲内が好ましいが、これらに限定されない。なお、香味付与組成物の処方や香調にも依存するが、香味付与組成物中の式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度が0.01ppm未満の場合は配合効果が低いと感じられる場合があり、10%を超える場合は式(1)の含硫ラクトン化合物由来の香りが強く配合対象の香味付与組成物の香気および/または風味特性が好ましくないと感じさせる場合があるが、配合対象の香味付与組成物の香調などによっては、式(1)の含硫ラクトン化合物を、前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0046】
また、本発明の香味付与組成物は、式(1)の含硫ラクトン化合物に加えて、さらに他の任意の化合物または成分を含有し得る。
【0047】
そのような化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料化合物などを挙げることができる。
【0048】
合成香料化合物のその他の例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0049】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの飽和または不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、テルピネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0050】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの飽和または不飽和アルデヒド、シトロネラール、ヒドロキシシトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、アミルシンナムアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0051】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトインなどの飽和または不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0052】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0053】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、3-メチル酪酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプロン酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルペニルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、酪酸ベンジル、サリチル酸メチル、サリチル酸ベンジル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0054】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの飽和または不飽和ラクトンが挙げられる。
【0055】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、オクタン酸、イソバレル酸、カプロン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0056】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0057】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、およびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0058】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0059】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0060】
本発明の香味付与組成物は、式(1)の含硫ラクトン化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
【0061】
本発明の香味付与組成物の形態としては、式(1)の含硫ラクトン化合物やその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0062】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0063】
また、乳化製剤とするためには、式(1)の含硫ラクトン化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。式(1)の含硫ラクトン化合物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、化工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、式(1)の含硫ラクトン化合物1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0064】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0065】
本発明の香味付与組成物はさらに、必要に応じて、香味付与組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0066】
(各種物品への使用)
本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物を含む香味付与組成物は、各種物品に配合して使用することができる。各種物品への香味付与によって、香味の付与された物品が製造される。そのため、本発明において、各種物品への香味付与方法とは、香味の付与された物品の製造方法ともいえる。ここで、本発明の配合対象である各種物品は、生産者による製造途中のものであってもよく、上市され消費者が用い得るものであってもよい。例えば、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財に本発明の香味付与組成物を配合することで、香味の付与された消費財が製造でき、本発明の香味付与組成物の配合は、生産者の消費財の製造中に行われてもよいし、上市された消費財に対し、消費者によって行われてもよい。また、本発明の香味付与組成物を他の香味付与組成物に配合してさらに香味を付与することで、香味の付与された新たな香味付与組成物を製造してもよく、この新たな香味付与組成物も、本発明の香味付与組成物として各種物品の製造に用いることができる。例えば、式(1)の含硫ラクトン化合物を含む香味付与組成物は、それ自体を飲食品、香粧品、医薬衛生品などの各種消費財、または他の香味付与組成物などの各種物品に配合してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香味付与組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上と併せて各種物品に配合してもよい。
【0067】
本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物を含む香味付与組成物を配合可能な飲食品は特に限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、抹茶、ほうじ茶、紅茶、烏龍茶、プーアル茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ワサビ、山椒などの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類(アルコール)風味;ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられるが、式(1)の含硫ラクトン化合物またはそれを含有する香料組成物によって香味を付与可能な任意の風味であってよい。
【0068】
好適に使用できる飲食品の風味の例としては、柑橘を代表とする各種果実風味;ビール風味;ホップ風味;紅茶、ほうじ茶に代表される各種茶風味;コーヒー風味;各種畜肉風味;油脂風味;チョコレート風味;ココア風味;キャラメル風味;ショウガやシソなどを含む各種スパイスまたはハーブ風味;バター風味;チキンなどの各種畜肉風味;を挙げることができる。特に、式(1-1)の化合物については、ビール風味;ホップ風味;レモンなどの柑橘風味;ショウガなどの各種スパイスまたはハーブ風味に好適に使用でき、ミドル以降の香味の増強に有効であり、式(1-2)の化合物については、ビール風味;ホップ風味;チョコレート風味;ココア風味;キャラメル風味;チキンなどの各種畜肉風味;に好適に使用でき、とりわけ加熱(特に焙煎または焼き)工程を経て得られる飲食品から感じられるような香ばしさ、焦げ感、苦み(ビター)感、渋み感(例えば、パン、焼き菓子、焙煎茶、焙煎コーヒー、ココア粉、焼いた畜肉製品、加熱バター、ローストシュガー、その他の加熱加工品)を含む香味の付与に有効であるが、これらに限定されない。
【0069】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストまたはその他のペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類、その他穀類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料(ビール風味飲料ともいう)、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0070】
式(1)の含硫ラクトン化合物を含む香味付与組成物を配合可能な香粧品または医薬衛生品は特に限定されないが、例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディ用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健・衛生用洗剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香製品;などを挙げることができる。使用可能な香調も特に限定されず、式(1)の含硫ラクトン化合物またはそれを含有する香味付与組成物によって香味を改善可能な任意の好調であってよいが、例えば、シトラス調、フローラル調、フルーティ調、グリーン調、オゾン調などに好適に使用することができる。これらの香調については、特に式(1-1)の化合物が好適に使用できる。式(1-2)の化合物については、これらの香調に利用することができ、式(1-1)の化合物より少量で使用できるが、ほかにも、香ばしいニュアンスを含む甘い香調、例えばキャラメルや焼き菓子を想起させる香調に好適に使用することができる。
【0071】
本発明において、本発明の香味付与組成物を配合した飲食品、香粧品、医薬衛生品などの各種消費財、他の香味付与組成物などの各種物品中の式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度は、物品の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0072】
当該濃度の例として、他の香味付与組成物であれば、上記「本発明の香味付与組成物」の項で記載した濃度を採用できる。
【0073】
当該濃度の例として、飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度として10ppt~10ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppmのいずれか、上限値を10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、本発明の式(1)の化合物の濃度として100ppt~100ppb、100ppt~1ppm、1ppb~100ppb、1ppb~1ppm、10ppb~1ppm、10ppb~100ppbから、飲食品の風味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。また、式(1-1)の化合物としては、特に1ppb~1ppmの範囲内が好ましく、式(1-2)の化合物としては、特に100ppt~100ppbの範囲内が好ましいが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や風味にも依存するが、飲食品中の式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度が10ppt未満の場合は、風味改善効果が低いと感じられる場合があり、10ppmを超える場合は、化合物そのものの香気が突出して配合対象の飲食品の風味が好ましくないと感じさせる場合がある。
【0074】
香粧品であれば、香粧品の全体質量に対して、本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度として10ppt~10%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%のいずれか、上限値を10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、香粧品の全体質量に対して、本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度として、1ppm~1000ppm、10ppm~1000ppm、10ppm~1%、100ppm~1%の各範囲から、香粧品の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。また、式(1-1)の化合物としては、特に100ppt~100ppmの範囲内が好ましく、式(1-2)の化合物としては、特に10ppt~1%の範囲内が好ましいが、これらに限定されない。なお、香粧品の種類や香気にも依存するが、香粧品中の本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物の濃度が10ppt未満の場合は、香気改善効果が低いまたは変化がないと感じられる場合があり、10%を超える場合は、配合対象の香粧品の香気が好ましくないと感じさせる場合がある。
【0075】
本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物によって、各種物品に良好な香気または風味を付与することができ、例えば、ミドルからラストの香味のボリューム感や余韻を増強することができる。例えば、本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物を飲食品や香粧品などの物品に微量配合することで、飲食品や香粧品などに使用された動植物素材を想起させるような天然感、フレッシュ感、果汁感、果皮感、ボリューム感(香りに伴い、味も増強されたように感じ香味全体が膨らんだような感覚)、コク、油脂感、焦げ感、香ばしさ、苦み(ビター)感、渋み感などが増強され、芯のある香味となり、それが良好なバランスのまま持続する(余韻ともいう)という効果を奏する。
【0076】
好適に使用できる香粧品または医薬衛生品の香気の例としては、飲食品の風味と同様であり、上記の飲食品風味のニュアンスを含む香調の香粧品または医薬衛生品に特に好適に使用できる。
【0077】
さらに、本発明の香味付与組成物は、香味付与によって、苦み、渋み、えぐみ(これらを総称して収斂味ともいう)、タンパク臭などの異味異臭、アルコールに起因する刺激感(代表的には、焼け感またはバーニング感と言われる、アルコール含有飲食品を喫食した時に口中や喉で感じられる、熱いまたは焼けるような刺激感)などの不快味をマスキングすることもできる。特に、式(1-1)の化合物をこのようなマスキングに好適に使用できる。すなわち、本発明の香味付与組成物は、収斂味やタンパク臭などが突出し異味異臭として感じられることや、アルコールの過度の刺激感が問題となり得る飲食品に配合して、その飲食品に香味を付与することにより、例えばコクまたはボリューム感が増して突出した異味異臭や不快味をマスキングすることができる。このような飲食品としては、例えばタンパク質を高含有する飲食品が例示でき、より具体的には、プロテイン飲料、濃厚流動食、高栄養飲料などの各種高栄養食品、植物性タンパク質を用いた代替肉(植物肉などとも称する)などが挙げられ、他の例としては比較的高いアルコール濃度を有する飲料や、アルコールの刺激感が感じられやすい香味のアルコール飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。当該マスキング効果を得るために飲食品に対する濃度を調整することができる。例えば、前述の濃度範囲10ppt~10ppmにおいて、若干高い濃度で飲食品に配合することで、コクやボリューム感などを十分に付与でき、マスキング効果を十分に得ることができる。マスキング効果が得られやすい濃度範囲の例として、下限値を0.1ppb、1ppb、10ppb、100ppb、200ppb、500ppb、1ppm、5ppm、10ppmのいずれか、上限値を10ppm、1ppm、500ppb、200ppb、100ppb、10ppb、1ppbのいずれかとして、これらの任意の組合せによる濃度範囲でよく、具体的には、式(1-1)の化合物であれば1ppb~300ppbの範囲内、式(1-2)の化合物であれば0.1ppb~100ppbの範囲内が例示できるが、これらに限定されず、所望のマスキング効果の程度や配合対象の飲食品の香味に応じて決定してよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
式(1)の含硫ラクトン化合物の例として、以下式(1-1)~(1-2)の化合物を合成した。以下、室温とは約20℃~約30℃の範囲内の温度を意味する。
【0080】
実施例1(1):式(1-1)の化合物(4-(エチルチオ)-4-(4-メチル-3-ペンテニル)-4,5-ジヒドロフラン-2(3H)-オン)の合成
まず、J.Agric.Food.Chem.2019,67,7410-7415頁に記載の方法に従ってエチル (Z)-3-[(1-エトキシエトキシ)メチル]-7-メチルオクタ-2,6-ジエノエート(下記の反応経路における化合物α)を合成し、次いで下記の反応経路の通りに合成を行った。
【0081】
【0082】
200mL三つ口フラスコにアルゴン雰囲気下脱水テトラヒドロフラン(THF、40mL)、エタンチオール(EtSH、0.94mL,12.7mmol)を入れ-78℃で撹拌した。ここにn-ブチルリチウム(n-BuLi、1.58Mヘキサン溶液,7.75mL,12.2mmol)を20分かけて入れ、同温下35分間撹拌した。ここに化合物α(1.20g,4.22mmol)の脱水テトラヒドロフラン(3mL)溶液を5分かけて滴下し、徐々に室温まで昇温させ22時間撹拌した。
【0083】
反応液に飽和塩化アンモニウム水を入れ、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を飽和重曹水で洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物β(1.84g)を得た。
【0084】
100mLナスフラスコに上記粗精製物β(1.84g)、テトラヒドロフラン(10mL)、1M塩酸(10.00mL,10.0mmol)を入れ20分間加熱還流した。
【0085】
反応液をジエチルエーテルで抽出し、得られた有機層を飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄後、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(970mg)を得た。このものをフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2:30g,ヘキサン:酢酸エチル=20:1)にて精製し、さらにクーゲルロール(オーブン設定:~250℃/0.27kPa)で精製し、式(1-1)の化合物を無色油状物として185mg(以上2段階の収率19%)得た。得られた式(1-1)の化合物を本発明品1とした。得られた式(1-1)の化合物はワキシーさを含む香りを呈し、その物性値は以下の通りであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ1.26(t,J=7.2Hz,3H),1.63(s,3H),1.69(d,J=0.8Hz,3H),1.74(m,2H),2.15(m,2H),2.53(q,J=7.2Hz,2H),2.61(d,J=18.0Hz,1H),2.67(d,J=18.0Hz,1H),4.19(d,J=10.0Hz,1H),4.30(d,J=10.0Hz,1H),5.08(m,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ14.1,17.7,22.6,23.6,25.6,37.5,41.4,51.4,77.4,122.6,133.1,175.2.
IR(全反射測定法):2969,2926,1779,1447,1413,1376,1268,1248,1171,1027,978,846,835,827,771,687cm-1.
DART-TOFMS:m/z calcd.for C12H21O2S1 [M+H]+ 229.1257,found 229.1243.
【0086】
実施例1(2):式(1-2)の化合物(4-[(3-メチル-2-ブテニル)チオ]フラン-2(5H)-オン)の合成
式(1-2)の化合物を以下の通り合成した。
【0087】
【0088】
まず、200mL三つ口フラスコにテトロン酸(化合物γ,2.00g,20.0mmol)、脱水トルエン(50mL)、ローソン試薬(4.04g,10.0mmol)を入れ、アルゴン雰囲気下14時間加熱還流した。
【0089】
反応液を冷却後、減圧濃縮し粗精製物δ(6.58g)を得た。
【0090】
200mLナスフラスコに上記粗精製物δ(6.58g)、脱水ジエチルエーテル(Et2O、60mL)を入れた。ここにトリエチルアミン(TEA、5.60mL,40.2mmol)、1-ブロモ-3-メチル-2-ブテン(ε,4.65mL,40.3mmol)を入れアルゴン雰囲気下室温で13時間撹拌した。
【0091】
反応液をセライトろ過し、得られたろ液を20%塩化アンモニウム水、飽和食塩水で順次洗浄後、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(5.11g)を得た。この粗精製物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2:60g,ヘキサン:酢酸エチル=20:1→15:1→10:1)にて精製し、式(1-2)の化合物を茶色油状物として2.05g(以上2段階の収率56%)得た。得られた式(1-2)の化合物を本発明品2とした。得られた式(1-2)の化合物はロースト様、メタリックさを含む香りを呈し、その物性値は以下の通りであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ1.74(s,3H),1.77(s,3H),3.59(d,J=7.2Hz,2H),4.81(d,J=1.6Hz,2H),5.29(m,1H),5.73(br,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ17.9,25.6,30.8,72.0,109.5,116.4,139.3,168.1,172.4.
IR(全反射測定法):2972,2934,2914,1776,1737,1666,1560,1440,1377,1344,1259,1237,1151,1105,1020,991,887,871,819,700cm-1.
DART-TOFMS:m/z calcd.for C9H13O2S1 [M+H]+ 185.0631,found 185.0629.
【0092】
[実施例2]合成した式(1)の含硫ラクトン化合物の香気特性
実施例1(1)~(2)で得られた式(1)の各含硫ラクトン化合物(すなわち、式(1-1)、式(1-2)の各化合物)の香気評価を行った。香気評価では、99%エタノールに式(1)の各含硫ラクトン化合物が1質量%の濃度となるように配合し、本発明の香味付与組成物(本発明品2-1および2-2)とした。よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名に嗅がせ、感じられる香気についてコメントさせた。代表的なコメントを下記表1に示す。また、表1には、比較品として、香料化合物として既知のフルフリルメチルスルフィドの香気も同様にして嗅がせ感じられる香気についてコメントさせた。フルフリルメチルスルフィドは式(1)の含硫ラクトン化合物と同じく分子中に複素環、酸素原子および硫黄原子を有し、コーヒーに含まれることが知られている化合物である。
【0093】
【0094】
表1に示すように、本発明の式(1)の含硫ラクトン化合物である式(1-1)の化合物(本発明品1)を含有する本発明品2-1および式(1-2)(本発明品2)の化合物を含有する本発明品2-2はそれぞれ特徴的な香気を呈しており、従って各種物品に配合して香味を付与できるものであった。比較品のフルフリルメチルスルフィドにはない特性も有しており、本発明の式(1)の各含硫ラクトン化合物は比較品の化合物とは異なる香味も付与可能であるといえる。
【0095】
[実施例3] ビール風味飲料への配合効果
市販のノンアルコールビールに、実施例1(1)~(2)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、下記表2に記載の濃度となるように配合して、本発明のビール風味飲料(本発明品3および4)を得た。そして、市販のノンアルコールビールを対照品として、対照品と比べた本発明品のビール風味飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行った。官能評価では、前記パネリストに、対照品と比較した好ましさについて「大きく向上した」=4点、「向上した」=3点、「わずかに向上した」=2点、「変化なし」=1点として点数付けさせるとともに、対照品と比べて感じられた風味の変化について自由にコメントさせた。なお、好ましさとは、飲用後に本物のビールを飲んだ時のような満足感があり、おいしいと感じてまた飲みたくなるような好ましい風味であることを意味するものとする。
【0096】
【0097】
表2に示すように、式(1)の各含硫ラクトン化合物は、ビール風味飲料に香味を付与し、さらにはその好ましさを向上できることが確認された。また、少なくとも飲食品中0.1ppb~1ppmの濃度範囲内で香味付与効果が得られることが確認された。
【0098】
[実施例4] 茶飲料への配合効果
市販の無糖紅茶に、実施例1(1)~(2)で得られた式(1)の各含硫ラクトン化合物を下記表3に記載の濃度となるように配合して、本発明の紅茶飲料を得た。そして、市販の無糖紅茶を対照品として、対照品と比べた本発明品の茶飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行った。具官能評価では、前記パネリストに、対照品と比較した好ましさについて「大きく向上した」=4点、「向上した」=3点、「わずかに向上した」=2点、「変化なし」=1点として点数付けさせるとともに、対照品と比べて感じられた風味の変化について自由にコメントさせた。ここで、好ましさとは、紅茶葉をふんだんに使用したような満足感があり、おいしいと感じてまた飲みたくなるような感覚を意味するものとする。パネリスト5名の平均点および代表的なコメントを下記表3に示す。
【0099】
【0100】
表3に示すように、式(1)の各含硫ラクトン化合物はいずれも、茶葉をふんだんに使用したような味の厚みや茶葉の香りなどの特徴的な香味付与効果を奏することが確認された。また、少なくとも飲食品中0.1ppb~1ppmの濃度範囲内で香味付与効果が得られることが確認された。
【0101】
[実施例5] ビール風味飲料への配合効果
実施例1(1)および(2)で得た式(1)の各含硫ラクトン化合物を、下記表4に示す濃度となるように様々な香味の市販の物品に配合し、本発明品とした(本発明品5-1~5-9)。得られた本発明品の香味について、市販品を対照品として、対照品と比べて感じられた香味の変化について、経験年数15年以上のパネリスト4名にコメントさせた。代表的なコメントを表4に示す。
【0102】
【0103】
式(1)の各含硫ラクトン化合物の代表的な特徴として、式(1-1)の化合物は、特にミドルからラストにかけての香味を増強でき、ショウガの爽やかな刺激感、柑橘様の爽やかな酸味感、果汁感、果皮感の付与に有効であり、式(1-2)の化合物は、特にミドルからラストにかけての香味を増強でき、香ばしさ、ビター(苦み)感、焦げ感、渋味感など、焙煎や焼きの工程を伴う飲食品の香味の付与に有効であり、焼き立ての感覚や食欲をそそるような香味の付与が可能であるといえる。
【0104】
[実施例6] プロテイン飲料への配合効果
市販のプロテイン飲料に、実施例1(1)~(2)で得られた式(1)の各含硫ラクトン化合物を、式(1-1)の化合物については300ppbの濃度、式(1-2)の化合物については100ppbの濃度となるように配合して、本発明のプロテイン飲料(本発明品6-1および6-2)を得た。そして、市販のプロテイン飲料を対照品として、対照品と比べた本発明のプロテイン飲料の香味の変化について、よく訓練された経験年数15年以上のパネリスト4名に回答させた。その結果、パネリスト4名全員が、本発明のプロテイン飲料はいずれも、対照品の市販のプロテイン飲料に比べてボリューム感が増して、高濃度のタンパク質に感じられる独特のえぐみが軽減され、いわゆるタンパク臭が弱くなり全体として飲用後の満足感が増したと回答した。
【0105】
[実施例7] 調合香料組成物への配合効果1
下記表5の一般的な処方に従って、レモン様基本調合香料組成物を調製した。
【0106】
【0107】
得られたレモン様基本調合香料組成物に、実施例1(1)で得られた式(1-1)の化合物を、その濃度が基本調合香料組成物全質量に対して0.1%となるように配合し、本発明の香味付与組成物(本発明品7-1)を得た。そして、上記基本調合香料組成物を対照品として、本発明の香味付与組成物の香気について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5人に評価させた。その結果、パネリスト5人全員が、本発明の香味付与組成物はいずれも、シトラス果皮様のワキシー感やオイル感、レモン果実のしぼりたてのようなフレッシュ感、および香気の余韻が顕著に増強されたと回答した。
【0108】
[実施例8] 調合香料組成物への配合効果2
下記表6の一般的な処方に従って、チキン様基本調合香料組成物を調製した。
【0109】
【0110】
得られたチキン様基本調合香料組成物に、実施例1(2)で得られた式(1-2)の化合物を、その濃度が基本調合香料組成物全質量に対して0.1%となるように配合し、本発明の香味付与組成物(本発明品8-1)を得た。そして、上記基本調合香料組成物を対照品として、本発明の香味付与組成物の香気について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5人に評価させた。その結果、パネリスト5人全員が、香り全体のボリュームが増すとともに、ほのかに皮の焼けたような香ばしい香りが付与され、食欲をそそられる香りとなったと回答した。