(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】物理系のエネルギー準位の推定
(51)【国際特許分類】
G06N 99/00 20190101AFI20231010BHJP
G06N 10/60 20220101ALI20231010BHJP
【FI】
G06N99/00 180
G06N10/60
(21)【出願番号】P 2020564517
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 GB2019051345
(87)【国際公開番号】W WO2019220122
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-13
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520282616
【氏名又は名称】リバーレーン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ヒゴット,オスカー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ダオチェン
【審査官】坂庭 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/080553(WO,A1)
【文献】SANTAGATI, Raffaele et al.,"Witnessing eigenstates for quantum simulation of Hamiltonian spectra",arXiv [online],2018年01月, [2023年06月09日検索],インターネット<URL:https://arxiv.org/abs/1611.03511v5>,1611.03511v5
【文献】CINCIO, Lukasz et al.,"Learning the quantum algorithm for state overlap",arXiv [online],2018年03月,[2023年06月09日検索],インターネット<URL:https://arxiv.org/abs/1803.04114v1>,1803.04114v1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 99/00
G06N 10/00-10/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータを使用して物理系の少なくとも1つの未知のエネルギー準位を決定するための方法であって、前記物理系は、複数の固有状態のうちのいずれか1つにあることができ、前記物理系の各それぞれの固有状態は、対応するエネルギー準位を有し、前記方法は、反復
の最適化手順を実行することを含み、前記最適化手順の各反復は、
第1の量子ゲート配列を使用して第1の仮説試行状態を作成することであって、前記第1の仮説試行状態は、試行状態変数に依存する第1の状態エネルギーを有する、作成することと、
前記第1の状態エネルギーの推定値に関連付けられた値を決定および出力するためのエネルギー推定ルーチンを実行することと、
前記第1の仮説試行状態に対応するかまたはそれに基づく第1の作成された状態と、既知の状態に対応するかまたはそれに基づく第2の作成された状態との間の重なり度を決定および出力するための重なり推定ルーチンを実行することと、
前記エネルギー推定ルーチンおよび前記重なり推定ルーチンの出力に基づいて最適化関数の値を決定することと、
前記試行状態変数を更新することと、を含み、
前記方法は、停止基準に到達するまで、前記最適化手順の反復を実行することと、前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の値を出力することと、をさらに含む、方法。
【請求項2】
前記試行状態変数は、前記最適化手順に従って更新され、任意選択的に、前記試行状態変数は、前記最適化関数の前記決定された値に基づいて更新される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記既知の状態は、前記物理系のある既知の状態を表し、任意選択的に、前記既知の状態は、前記物理系の少なくとも1つの既知のエネルギー準位に対応するエネルギーを有する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記停止基準は、前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の前記決定における所望の精度に基づく、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記停止基準に到達したと決定することをさらに含み、前記停止基準に到達したと決定することは、
前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の前記決定における所望の精度に到達したと決定することと、
閾値反復数に到達したと決定することであって、前記閾値反復数は、前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の前記決定における所望の精度に基づいて決定される、決定することと、
前記最適化関数の前記値が閾値変動を超えて変化しない所定の反復数に到達したと決定することと、のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記複数の固有状態に対応する各それぞれのエネルギー準位は、複数の被加数のそれぞれの合計によって記述され得、前記エネルギー推定ルーチンを実行することは、
前記第1の仮説試行状態の各被加数の期待値をそれぞれ推定することと、各被加数の前記期待値の推定値を合計して、前記第1の状態エネルギーの推定値を決定することと、をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の
前記値に対応する前記試行状態変数を出力することをさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位は、第1の未知のエネルギー準位および第2の未知のエネルギー準位を含み、前記第1の未知のエネルギー準位は、1回目の前記最適化手順を実行することによって決定され、前記第2の未知のエネルギー準位は、2回目の前記最適化手順を実行することによって決定される、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第1の未知のエネルギー準位の
値に対応する前記試行状態変数は、前記2回目の前記最適化手順の各反復に使用するための既知の状態を生成するために使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の未知のエネルギー準位は、前記物理系の第1の関心対象の固有状態に対応し、前記2回目の前記最適化手順の各反復に使用される前記既知の状態は、前記第1の関心対象の固有状態に基づくかまたはそれを表す、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の関心対象の固有状態は、前記量子コンピュータの第1の量子レジスタ内に存在し、前記2回目の前記最適化手順の各反復に使用される前記第2の作成された状態は、前記第1の関心対象の固有状態を前記量子コンピュータの第2の量子レジスタ内にコピーすることによって生成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の関心対象の固有状態を前記量子コンピュータの第2の量子レジスタ内にコピーすることは、前記第1の関心対象の固有状態と前記量子コンピュータの前記第2の量子レジスタを構成する量子ビットとの間の重なり度を最適化することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記重なり度を最適化することは、前記重なり度を最大化することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記重なり推定ルーチンは、前記既知の状態を作成することと、
前記第1の仮説試行状態と
前記第2の作成された状態との間の重なり度を決定することと、を含む、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記重なり度を決定することは、SWAPテストを実行することを含み、任意選択的に、前記SWAPテストは、破壊的SWAPテストである、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記重なり推定ルーチンは、前記第1の作成された状態と、複数の既知の状態の各々との間の重なり度を決定することであって、各既知の状態は、前記物理系のそれぞれの既知の状態に対応するかまたはそれに基づく、決定することをさらに含む、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記重なり推定ルーチンの前記出力は、前記第1の作成された状態と
前記複数の既知の状態の各々との間の各それぞれの重なり度の合計である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記最適化関数の前記値を決定することは、前記エネルギー推定ルーチンの前記出力と前記重なり推定ルーチンの前記出力とを合計することを含む、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記既知のエネルギー準位は、前記物理系の基底状態エネルギー準位を表す、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに請求項1~19のいずれかに記載の方法を実行させるコンピュータ実行可能命令を含む、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エネルギー準位を決定することに関し、具体的には、量子コンピュータを使用して物理系の未知のエネルギー準位を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子や原子などの物理系の考えられる固有状態およびエネルギーを決定することができることは、多くの技術分野で非常に有用である。系が摂動されたときにエネルギーがどのように変化する可能性があるかを決定することで、多くの分子特性を導出することが可能になる。例えば、ある数の原子核形状に対して分子電子構造ハミルトニアンに関連付けられたシュレディンガー方程式を解くことにより、分子系のポテンシャルエネルギー面(PES)を構築することが可能である。PESの知識は、科学者が、とりわけ反応速度を決定することを可能にするので、特に化学分野で非常に重要である。
【0003】
光起電材料における光スペクトル、ならびに他の電荷およびエネルギー伝達プロセスを決定するためには、励起状態を決定することが必要である。励起状態の特性分析により、光分解を伴うものなどの多くの化学反応をより良く理解することも可能である。さらに、密度汎関数理論などの古典的方法では、基底状態エネルギー計算が可能な材料であっても、励起状態を決定することが不可能な場合がよくある。
【0004】
物理系の固有状態およびエネルギーについての情報を取得する現在の方法の多くは、複雑なアルゴリズムを使用して物理系をシミュレートする古典的コンピュータに依存する。しかしながら、そのような方法は、手に負えない量のコンピューティングリソースを必要とし、または解を十分な精度で返さないことがよくある。量子コンピュータでは、古典的コンピュータで可能であるよりもはるかに効率的に系をシミュレートすることが可能であり、さまざまなアーキテクチャを使用して量子コンピュータの実験的開発が進んでいる。今や、捕捉イオンまたは超伝導系に基づく小型デバイスが、大規模実装形態への明確なロードマップと一緒に利用可能である。
【0005】
量子コンピュータを使用して物理系の基底状態エネルギーを見つける既知の方法が存在する。例えば、折り畳みスペクトル法は、固有値問題を解くための方法である。方法は、標的固有値λの推定値を使用することと、シフトされたハミルトニアン(H-λI)2を最小化することとを含む。関数は、標的固有値の初期推定値が十分に正確であるとすれば、最小固有ベクトルとして真の固有ベクトルを有する。しかしながら、折り畳みスペクトル法は、H2項を計算する必要があるので、基底状態を見つけることと比較して、多数の追加サンプルを必要とする。この方法はまた、所望の状態の正確な初期推定値を必要とし、この方法は、エネルギーに基づいて状態を区別するので、この方法では、縮退状態を体系的に見つけることはできない。
【0006】
考えられる代替解決策として、量子部分空間拡張法と呼ばれる線形応答手法が提案されている。しかしながら、追加のサンプリングが必要であり、新しい近似が導入される。フォンノイマンエントロピーを最小化して励起状態を見つける違う方法が提案されているが、量子コンピュータ上での実装が難しく、長いコヒーレンス時間を有する量子コンピュータを必要とする複雑な制御単位ゲートを実装する必要がある。したがって、これらの方法は、現代の量子コンピュータでは実用的ではない。
【0007】
従来の方法は、効率的ではなく、体系的な様式で励起状態エネルギー(およびそれらの縮退状態)を見つけることはできない。
【0008】
本発明は、量子コンピュータを使用して物理系のエネルギー準位を決定する改善された方法を提供することによって、既知の方法のこれらおよび他の欠点に対処しようとする。
【発明の概要】
【0009】
本発明の態様は、独立請求項に記載される。任意選択的特徴は、従属請求項に記載される。
【0010】
一態様によれば、量子コンピュータを使用して物理系の未知のエネルギー準位を決定するための方法が提供される。物理系は、複数の固有状態のうちのいずれか1つにあることができ、物理系の各それぞれの固有状態は、対応するエネルギー準位を有する。方法は、反復最適化手順を実行することを含む。最適化手順の各反復は、第1の量子ゲート配列を使用して第1の仮説試行状態を作成することであって、第1の仮説試行状態は、試行状態変数に依存する第1の状態エネルギーを有する、作成することと、第1の仮説試行状態エネルギーの推定値に関連付けられた値を決定および出力するためのエネルギー推定ルーチンを実行することと、第1の仮説試行状態に対応するかまたはそれに基づく第1の作成された状態と、既知の状態に対応するかまたはそれに基づく第2の作成された状態との間の重なり度を決定および出力するための重なり推定ルーチンを実行することと、エネルギー推定ルーチンおよび重なり推定ルーチンの出力に基づいて最適化関数の値を決定することと、試行状態変数を更新することと、を含む。方法は、停止基準に到達するまで最適化手順の反復を実行することをさらに含み、未知のエネルギー準位のエネルギー値を出力することも含む。
【0011】
別の態様によれば、プロセッサによって実行されると、プロセッサに上記の方法を実行させるコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータ可読媒体が提供される。
【0012】
開示される方法は、状態間の重なりに関する情報を利用するので、既存の方法よりも大幅により効率的である。試行状態と、物理系のすでに知られた状態を表す状態との間の推定重なり度を取り入れることにより、より効率的な反復法の基礎が提供される。また、反復法は、従来の方法のように純粋にエネルギー値を利用するのではなく、重なり情報を利用するので、本方法は、縮退エネルギー準位を体系的に決定することができる。本方法はまた、これまで知られていなかった各エネルギー準位が決定されると、量子コンピュータ上でエネルギー準位をどのように構築することができるかを記述する試行状態変数も決定されるので、有益である。この情報は、多くの分野で価値があり、体系的かつ効率的な様式で物理系の複数の未知のエネルギー準位を体系的に見つけるために、別の回の最適化手順に情報提供するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
ここで、特定の実施例を、図面を参照して、単なる例として、説明する。
【
図3】本開示の実施例による方法のフローチャートを示す。
【
図6】量子コンピュータ上での本開示の方法の一実装形態を示す。
【
図10】本開示の方法の使用される量子回路を示す。
【
図11】本発明の方法を実行するために使用され得るコンピュータアーキテクチャである。
【
図12】本発明による方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、量子コンピューティングに関し、特に量子コンピュータを使用して物理系のエネルギー準位を決定する方法に関する。物理系のエネルギー値は、一般に、シュレディンガー方程式を使用し、関連するハミルトニアン演算子の知識を介して記述することができる。したがって、開示は、より広くは、量子コンピュータを使用して、エルミート演算子、特にハミルトニアンエネルギー演算子の固有値を決定することに関する。
【0015】
図11は、コンピューティングデバイスに本開示の手法のうちのいずれか1つ以上を実行させるための一連の命令が実行され得る、コンピューティングデバイス1100の1つの実装形態のブロック図を示す。単一のコンピューティングデバイスのみが示されているが、「コンピューティングデバイス」という用語はまた、本明細書で考察される手法のうちのいずれか1つ以上を実行するための1組(または多数組)の命令を個々にまたは共同的に実行するマシン(例えば、コンピュータ)の集合を含むと解釈される。コンピューティングデバイス1100は、量子コンピューティングシステム1110と、古典的コンピューティングシステム1150とを備える。量子コンピューティングシステム1110は、古典的コンピューティングシステム1150と通信する。古典的コンピューティングシステムは、量子コンピューティングシステムに、メモリに記憶された命令に従って、量子状態を作成し、それらの量子状態について測定を実行するように指示するように配置される。
【0016】
量子コンピューティングシステム102は、量子プロセッサ1102を備え、量子プロセッサ1102は、次いで、少なくとも2つの量子ビットと、量子ビットを結合することができる少なくとも1つのカプラとを備える。量子ビットは、例えば、光子、捕捉イオン、電子、1つ以上の原子核、超伝導回路、および/または量子ドットを使用して、物理的に実装され得る。換言すると、量子ビットは、単一光子の偏光状態、単一光子の空間光路、原子またはイオンの2つの異なる固有状態、単数または複数の原子核などの粒子のスピン配向を含む、さまざまな手段で物理的に実装され得る。量子コンピュータはまた、量子計算を可能にするために適切な環境に量子ビットを記憶し、量子ビットを維持するための手段、例えば、量子ビットを過冷却するための手段を備える。量子ビットは、適切な量子ゲート配列によって形成された1つ以上の量子回路によって動作され得る。
【0017】
量子ゲートは、ある数の量子ビットに作用し、NOTゲートやANDゲートなどの古典的回路における基本的な低レベル命令の量子類似物と考えることができる。典型的には、量子回路は、状態作成および量子ビットの測定または読み取りとともに、ユニバーサルゲートセットから取得された一連の単一量子ビットゲートおよび2量子ビットゲートに分解される。測定結果は、次いで古典的コンピュータによって処理される古典的データである。超伝導回路および捕捉イオンに基づく多くの量子コンピュータが、すでに、大規模な量子コンピューティングデバイスに必要なすべての機能性を小規模で実証している。
【0018】
ここで、量子コンピュータにおいて考えられる量子ビットの実装形態と操作方法とを説明する。これらの実装形態は、単なる例であり、当業者は、量子コンピュータを実装する他の方法をよく知っているであろう。複屈折波長板を使用して、単一光子の偏光状態を操作し、例えば、光子の直線偏光または水平偏光を引き起こして、光子の2つの異なる状態を示すことができる。量子ビットはまた、ビームスプリッタを使用して実装し得る。例えば、特定の光路に沿った光子の存在または不在は、光子ビームを2つの別々の経路に分割するビームスプリッタを使用して実装することができる。どちら経路における光子の存在も、光子の2つの異なる状態を表す。代替的または追加的に、原子またはイオンの2つの別個の電子固有状態は、量子ビットの2つの別個の異なる状態を表すことができる。例えば、これらの準位間の遷移エネルギーは、特定の周波数の電磁放射のエネルギーに対応し得、そこで、原子またはイオンの個別の固有状態は、レーザーまたはマイクロ波エミッタなどの放射源を使用して対応し得る。代替的または追加的に、単数または複数の粒子、例えば原子核の2つの別個のスピン状態(スピン「アップ」およびスピン「ダウン」)は、量子ビットの2つの別個の状態を表すことができる。原子核スピンの操作は、当業者に既知の方法を使用し、磁場を使用して実装し得る。
【0019】
代替的または追加的に、超伝導電子回路を使用して、量子ビットを生成し得る。これらの系は、典型的には、100mK未満まで過冷却され、非調和振動子の作製を可能にする非線形インダクタであるジョセフソン接合を使用する。非調和振動子は、(調和振動子とは異なり)等間隔のエネルギー準位を有さないので、2つの状態を、別々に制御し、量子ビットを記憶するために使用することができる。量子ビットは、マイクロ波空洞に接続することができ、単一および2量子ビットゲートを、マイクロ波信号を使用して実行させることができる。
【0020】
量子コンピューティングデバイス1110はまた、測定手段1104と制御手段1106とを備える。制御手段1106は、制御ハードウェアおよび/または制御デバイスを備え得る。制御手段1106は、古典的コンピュータ1150から命令を受信するように構成され、古典的コンピュータ1150は、制御手段1106に、特定の量子ゲート配列を使用して量子プロセッサ内に特定の状態を作成するように指示し得る。測定手段1104は、測定ハードウェアおよび/または測定デバイスを備え得る。測定手段は、量子プロセッサ1102内に制御手段1106によって作成された状態から測定を行うように構成されたハードウェアを備える。
【0021】
例示的な古典的コンピューティングデバイス1150は、バスを介して互いに通信する、プロセッサ1152と、メインメモリ1154(例えば、読み取り専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、同期DRAM(SDRAM)またはRambus DRAM(RDRAM)などの動的ランダムアクセスメモリ(DRAM)など)と、静的メモリ1156(例えば、フラッシュメモリ、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)など)と、二次メモリ(例えば、データ記憶デバイス)とを含む。
【0022】
処理デバイス1152は、マイクロプロセッサ、中央処理装置などの1つ以上の汎用プロセッサを表す。より具体的には、処理デバイス1152は、複合命令セットコンピューティング(CISC)マイクロプロセッサ、縮小命令セットコンピューティング(RISC)マイクロプロセッサ、超長命令語(VLIW)マイクロプロセッサ、他の命令セットを実装するプロセッサ、または命令セットの組み合わせを実装するプロセッサであり得る。処理デバイス1152はまた、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、ネットワークプロセッサなどの1つ以上の特殊用途処理デバイスであり得る。処理デバイス1152は、本明細書で考察される動作およびステップを実行するための処理ロジックを実行するように構成される。
【0023】
データ記憶デバイスは、本明細書に記載の1つ以上の手法または機能を具現化する1つ以上の命令セットが記憶される1つ以上の機械可読記憶媒体(または、より具体的には、1つ以上の非一時的コンピュータ可読記憶媒体)を含み得る。命令はまた、コンピュータシステムによるその実行中に、メインメモリ1154内および/または処理デバイス1152内に完全にまたは少なくとも部分的に存在し得、メインメモリ1154および処理デバイス1152もまたコンピュータ可読記憶媒体を構成する。
【0024】
一般に、古典的コンピュータ1150は、量子コンピュータ1110の制御手段1106に、量子プロセッサ1102内に特定の状態を作成するように指示する。制御手段1106は、命令に基づいて量子プロセッサ1102内の量子ビットを操作する。量子プロセッサ1102内に所望の状態が構築されるように量子ビットが操作されると、測定手段1104はその状態から測定を行う。次いで、量子コンピュータ1110は、測定結果を古典的コンピュータに伝達する。
【0025】
本明細書に記載のさまざまな方法は、コンピュータプログラムによって実装され得る。コンピュータプログラムは、上記の1つ以上のさまざまな方法の機能を実行するようにコンピュータに指示するように配置されたコンピュータコードを含み得る。そのような方法を実行するためのコンピュータプログラムおよび/またはコードは、1つ以上のコンピュータ可読媒体、またはより一般的にはコンピュータプログラム製品上で、コンピュータなどの装置に提供され得る。コンピュータ可読媒体は、一時的または非一時的であり得る。1つ以上のコンピュータ可読媒体は、例えば、電子、磁気、光学、電磁、赤外線、もしくは半導体システム、または例えばインターネットを介してコードをダウンロードするためのデータ送信用伝播媒体とすることができる。あるいは、1つ以上のコンピュータ可読媒体は、半導体または固体メモリ、磁気テープ、取り外し可能なコンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、剛性磁気ディスク、およびCD-ROM、CD-R/W、DVDなどの光ディスクなど、1つ以上の物理的コンピュータ可読媒体の形態をとることができる。
【0026】
一実装形態では、本明細書に記載のモジュール、コンポーネント、および他の特徴部は、個別のコンポーネントとして実装するか、またはASICS、FPGA、DSP、もしくは同様のデバイスなどのハードウェアコンポーネントの機能に統合することができる。
【0027】
加えて、モジュールおよびコンポーネントは、ハードウェアデバイス内のファームウェアまたは機能回路として実装することができる。さらに、モジュールおよびコンポーネントは、ハードウェアデバイスおよびソフトウェアコンポーネントの任意の組み合わせで、またはソフトウェアのみ(例えば、機械可読媒体または伝送媒体に記憶または別様に具現化されたコード)で実装することができる。
【0028】
特に明記しない限り、以下の考察から明らかなように、明細書全体を通して、「受信する」、「決定する」、「比較する」、「可能にする」、「維持する」、「識別する」などの用語を利用する考察は、コンピュータシステムのレジスタおよびメモリ内の物理的(電子的)量として表されたデータを、コンピュータシステムのメモリまたはレジスタまたは他のそのような情報の記憶、送信、もしくは表示デバイス内の物理的量として同様に表された他のデータに操作および変換する、コンピュータシステムまたは同様のエレクトロニックコンピューティングデバイスの動作およびプロセスを指すことが理解される。
【0029】
標準VQE
図1は、物理系の基底状態エネルギー準位を決定する既知の方法を示す。既知の方法は、変分量子固有値ソルバー(VQE)アプローチと呼ばれる。破線のボックス102は、量子回路を使用する、方法のうちの、量子コンピュータを使用して実行される部分を示す。破線のボックス104は、古典的回路を使用する、方法のうちの、古典的コンピュータを使用して実行される部分を示す。破線のボックス102と104との間の矢印は、量子コンピュータと古典的コンピュータとの間のインターフェースを示す。
【0030】
当業者には理解されるように、物理系の固有状態およびエネルギーは、ハミルトニアン演算子を使用して記述され得る。標準VQE法を使用して、量子期待値推定サブルーチンを古典的オプティマイザと一緒に使用して、物理系のハミルトニアンHの基底状態エネルギーを決定することができる。古典的オプティマイザは、パラメータλに応じて、変分仮説波動関数|ψ(λ)>のエネルギーを調整する。所与の正規化|ψ(λ)>に対して、エネルギー:
E(λ)≡〈ψ(λ)|H|ψ(λ)〉=Σai〈ψ(λ)|Pi|ψ(λ)〉を評価することが可能である。
【0031】
標準VQEをより詳細に記述するために、考えられるのは、まず、ハミルトニアン演算子Hを、有限和H=ΣΣaiPi、と書くことであり、式中、aiは複素係数であり、Piはテンソルパウリ行列である。パウリ行列の集合は、Hが属する空間の基底を形成する。各aiPiは、被加数として説明することができる。被加数の数mは、量子化学の電子ハミルトニアンの場合と同様に、システムのサイズの多項式であると想定される。
【0032】
物理系の固有状態を評価するために、ハミルトニアンの知識を使用して、仮説試行状態を決定する。この仮説試行状態は、パラメータλに依存するエネルギーE(λ)を有する。試行状態は、量子プロセッサ内で作成され、量子回路102を使用して、各被加数の期待値を決定する。期待値推定値が与えられると、古典的コンピュータ104を使用して加重合計を決定する。この合計により、試行状態エネルギーの推定値および/または決定値が生成される。最後に、古典的ネルダーミードなどのオプティマイザを使用して、作成回路を制御することにより、λに関して関数E(λ)を最適化する。
R(λ)):|0〉→|ψ(λ)〉
【0033】
式中、|0〉は、基準開始状態である。古典的または量子コンピュータに実装される他のタイプのオプティマイザを使用してもよい。変分原理(VP)は、基底状態を見つけるときにVQE手順全体を正当化し、基底状態固有値HのEminを書き込むと、VPは、|ψ(λ)>が基底状態である場合に限り、平等に、E(λ)≧Eminあることを唱える。同様に、極小値が、物理系の他のエネルギー準位/固有状態を表し得る。
【0034】
典型的なVQEプロセスでは、量子コンピュータ内に含まれる作成回路Rを使用して、初期試行状態|ψ(λ)>を作成する。初期試行状態の作成を、
図1のボックス106に示す。
【0035】
次いで、ハミルトニアンの各項の期待値を、所与の試行状態に対して推定することができる。この決定を、
図1のブロック108に示す。換言すると、m個の被加数を有するハミルトニアンのエネルギー固有値を決定するために、量子コンピューティングデバイスは、試行状態に対して、〈ψ(λ)|P
1|ψ(λ)〉、〈ψ(λ)|P
2|ψ(λ)〉、...〈ψ(λ)|P
m|ψ(λ)〉を測定する。
【0036】
これらの期待値は、
図1の破線のボックス104によって示された古典的コンピューティングデバイスに伝達される。古典的コンピューティングデバイスは、被加数を合計して、初期試行状態のハミルトニアンのエネルギー固有値を見つける。この固有値に基づいて、古典的コンピュータ104は、ボックス112で、パラメータλを更新し、これにより、新しい試行状態の構築が可能になる。量子コンピュータは、新しい試行状態を作成するように指示され、所望のエネルギー準位が指定された精度で決定されることを最適化手順が満たすまで、プロセス全体が繰り返される。
【0037】
当業者には理解されるように、各期待値〈ψ(λ)|Pi|ψ(λ)〉は、単純な回路を使用して直接測定されてもよく、または追加の作業量子ビットと、単一量子ビットゲートおよびc-NOTゲートを含む小さな回路によって実装することができるc-Piゲートとを使用することによって測定されてもよい。両方の場合において、関与する回路は、深度D=O(1)であり、期待値の∈内の精度を達成するために、N=O(1/∈2)回繰り返される。ここで、N=O(1/∈2)、D=O(1)であるレジームは、統計的サンプリングレジームと呼ばれる。
【0038】
古典的に対する量子の利点は、量子コンピュータでは常に効率的に作成することができるが、古典的コンピュータでは通常作成することができないように選択された、仮説状態{|ψ(λ)〉}
λの集合に隠されていることに留意されたい。単位結合クラスタ(UCC)状態の集合は、典型的な選択肢であり、古典的には形式e
T-T+の演算子のベイカー-キャンベル-ハウスドルフ展開の非打ち切りの故に、通常は効率的に作成することができなかった。デバイス仮説および断熱状態作成仮説など、他の可能な選択肢が存在する。
重要なことには、
図1に示したような標準VQEでは、108の各ボックスの被加数は、統計的サンプリングを使用して決定される。換言すると、深度D=O(1)の同じ単純な量子回路が、試行状態に複数回動作し、その都度、異なる測定結果を与え、それを使用して単一の分布を投入する。同じ量子回路を試行状態に何度も動作させることは、被加数の測定における統計的精度を与えるが、必要な繰り返し数N=O(1/∈
2)は、必要な精度∈に二次関数的に増大するので、必要な繰り返し数はしばしば実行不可能に大きい。
【0039】
変分量子収縮アルゴリズム
開示される方法は、物理系の未知のエネルギー準位を計算するために、変分量子固有値ソルバーアルゴリズム(VQE)を改善し、物理系は、対応するエネルギー準位を有する複数の固有状態のうちのいずれか1つであることができる。少なくとも1つの重要な違いは、第1の仮説状態に対応するかまたはそれに基づく第1の作成された状態と、既知の状態に対応するかまたはそれに基づく第2の作成された状態との間の重なり度を決定および出力するための重なり推定ルーチンを実行することの導入である。試行状態(または試行状態に基づく状態)と、既知の状態、例えば物理系の少なくとも1つの既知のエネルギー準位に対応するエネルギーを有する既知の状態との間の重なりの知識を使用することは、以前にはこのタイプの方法に導入されることはなかった。物理系の固有状態は、互いに直交しているはずである。試行状態とすでに知られた状態との間の関係の知識、例えばそれらの重なりの知識を、反復法に情報提供するために使用することが可能である。一実施例では、試行状態と既知の状態との間の重なり度に基づく関数が最小化される。さらなる実施例では、試行状態と複数の既知の状態の各々との間の重なり度に基づく関数が最小化される。この関数が最小化される結果となる試行状態は、物理系のすでに知られた状態の各々に直交し、これは、試行状態が、物理系の関心対象の未知のエネルギー準位に正しく対応することを示唆する。
【0040】
試行状態変数は、量子コンピュータ上で物理系の状態をどのように再生成するかの記述である。量子コンピュータ上で未知のエネルギー準位を生じさせる試行状態変数とともに未知のエネルギー準位を決定することにより、この情報を使用して、別の未知の対応する試行状態を有する別の未知のエネルギー準位の決定を情報提供することができる。したがって、物理系の未知のエネルギー準位だけでなく、各準位に対応する試行状態変数も決定することにより、各エネルギー準位を量子コンピュータ上で体系的な様式で決定することができる。ここで、本方法を詳細に考察する。
【0041】
物理系の複数の固有状態および対応するエネルギー準位は、ハミルトニアンHで記述することができる。VQEでは、仮説状態|ψ(λ)〉の試行状態変数λは、古典的には、低深度量子回路を使用して計算されるハミルトニアンH=ΣC
jP
jの期待値:
【数1】
に関して最適化される。変分原理の結果として、大域的最小値E(λ)を見つけることは、仮説の形式と基底の選択とを有する基底状態エネルギーの最良近似を見つけることと等価である。
【0042】
VQEを拡張して、仮説状態|Ψ(λ
k)〉の試行状態変数λ
kを最適化して、最適化関数:
【数2】
を最適化することにより、物理系の未知のk番目の状態を計算する方法が開示され、式中、β
iは重み付け項である。十分に大きなβ
0...β
k-1を選択することにより、F(λ
k)の最小値は、k番目の状態の未知のエネルギーである。これは、|Ψ(λ
k)〉が、状態|Ψ(λ
0)〉...|ψ(λ
k-1)〉に直交するという制約のあるE(λ
k)を最小化するとして見ることができる。F(λ
k)の問題の最初の項は、E(λ
k)であり、VQEに対して使用されるのと同じ量子回路を使用して計算し得る一方、2番目の項は、各既知の状態0~k-1との仮説状態の重なりの合計であり、各既知の状態は、対応する既知のエネルギー準位を有する。
【0043】
仮説状態と各既知の固有状態との間の重なりは、量子コンピュータ上で効率的に計算することができる。
【0044】
既知の状態は、すでに知られていてもよいし、反復手順を使用して決定されてもよい。
【0045】
一実施例では、λ0は標準VQE法を使用して決定される。別の実施例では、λ0はすでに知られていてもよいし、他の方法を使用して決定されてもよい。
【0046】
一実施例では、λ1はすでに知られている。別の実施例では、λ1は本開示の方法を使用して、k=1に対して最適化関数F(λk)を最小化することによって決定される。
【0047】
一実施例では、λ2はλ0およびλ1を用いて同じ手順を使用して決定され得るなど、λkが決定されるまで同様となる。別の実施例では、λ0λk-1は、すでに知られている。
【0048】
図2は、本開示による方法の概略図を示す。破線のボックス202は、量子回路を使用する、方法のうちの、量子コンピュータを使用して実行される部分を示す。破線のボックス204は、古典的回路を使用する、方法のうちの、古典的コンピュータを使用して実行される部分を示す。破線のボックス202と204との間の矢印は、量子コンピュータと古典的コンピュータとの間のインターフェースを示す。方法のいくつかまたはすべての部分は、古典的コンピュータ上で実行してもよいし、量子コンピュータ上で実行してもよい。
【0049】
ボックス200で、試行状態変数λkの初期推定値を使用して、量子コンピュータの量子ビットの基準状態|0〉に適用されたときに試行状態|Ψ(λk)〉を作成する状態作成回路R(λk)を量子コンピュータ上に生成する。状態作成回路は、適切な量子ゲート配列を使用して実現することができる。試行状態の作成は、次のように表すことができる。
R(λk)|0〉→|Ψ(λk)〉
【0050】
エネルギー推定ルーチンを、破線のボックス206によって示す。エネルギー推定ルーチンは、ブロック210で、各期待値〈Ψ(λk)|Pj|Ψ(λk)〉を推定すること含む。期待値が、各パウリ行列に対して推定される。この決定は、上で考察されたように、標準VQEに使用される決定と類似または同一である。ボックス214で、エネルギー推定ルーチン206は、ブロック210からの各推定期待値を合計することにより、試行状態|Ψ(λk)〉のエネルギーを推定することを含む。
【0051】
期待値を決定し、それらを合計して状態エネルギーの推定値を見つけることが説明されてきたが、推定ルーチン内に変動を導入することも可能であることが理解されよう。エネルギー計算の合計の項は、再配列され得る。例えば、ブロック210における期待値推定値の1つは、ステップ214におけるエネルギーの決定から省略され得、ブロック218におけるコスト関数に単純に追加され得る。n番目のパウリ行列の期待値がステップ214におけるエネルギー決定から省略されたそのような実施例では、ステップ214において決定された値は、厳密には試行状態のエネルギーの推定値ではない。しかしながら、それでも、第1の仮説試行状態エネルギーの推定値を示すかまたはそれに関連付けられた値である。したがって、エネルギー推定ルーチン206は、第1の仮説試行状態エネルギーの推定値に等しいか、それを示すか、またはそれに関連付けられた値を決定および出力するルーチンとして説明され得ることが理解されよう。
【0052】
重なり推定ルーチンを、破線のボックス208によって示す。重なり推定ルーチンは、第1の作成された状態と第2の作成された状態との間の重なり度を決定および出力するように構成および設計される。第1の作成されたものは、第1の仮説状態に対応する(例えば、等しい)かまたはそれに基づく。第2の作成された状態は、既知の状態に対応するかまたはそれに基づく。換言すると、物理系の固有状態を表す状態は、量子コンピュータ内で作成される。重なり推定ルーチンは、ブロック212で、重なり項|〈Ψ(λi)|Ψ(λk)〉|2を推定することを含む。これらの項の各々は、試行状態|Ψ(λk)〉と、既知の状態|Ψ(λi)〉、例えば基底状態|Ψ(λ0)〉との間の重なり度を決定するとして説明することができる。状態が互いに直交している場合、重なり度はゼロになるか、または最小化される。これは、試行状態|Ψ(λk)〉が、物理系の「真の」状態の良好な近似であるかどうかを決定するために使用することができる。212の各ブロックは、試行状態|Ψ(λk)〉と、物理系の既知の固有状態を表すかまたはそれに基づく、量子コンピュータ上で作成された状態との間の重なり度を決定することを表す。各状態|Ψ(λi)〉は、状態λiのそれぞれの試行状態変数を使用して作成される。換言すると、物理系の特定の状態を表す特定の状態を、量子コンピュータ上で作成することができる。特定の状態は、対応する特定の試行状態変数を使用して作成することができる。物理系の既知の状態を表すかまたはそれに基づく特定の状態と、試行状態との間の重なり度を決定することができる。さらに、重なり度は、複数の既知の状態の各々に対して、k-1番目の状態(すなわち、関心対象の状態のすぐ下の状態)まで決定することができる。ボックス216で、結果として得られた値を合計して、全体または「合計」の重なり推定値を生成することができる。
【0053】
したがって、ボックス216で、重なり推定ルーチン208は、物理系の既知の固有状態との試行状態の重なりの加重和を推定/決定する。
【0054】
エネルギー推定ルーチン206および重なり推定ルーチン208の出力は、次いで、ボックス218で、最適化関数F(λk)、例えばコスト関数を計算するために使用され得る。試行状態変数λkは、最適化関数の値に基づいて更新される。最適化関数は、古典的コンピュータを使用して計算され得る。最適化関数は、量子コンピュータを使用して計算され得る。試行状態変数は、ボックス218で、ネルダーミードもしくはシミュレーテッドアニーリングなどの無勾配方法、またはニュートン共役勾配法などの勾配ベースの方法を含む他の方法など、古典的オプティマイザを使用して更新し得る。最適化関数の勾配は、例えば有限差分法を使用する古典的コンピュータを使用して、または量子コンピュータを使用することによって、計算することができる。
【0055】
次いで、
図2に示した方法を、更新された試行状態変数を使用する反復様式で再度使用し得る。ボックス218において決定された新しい試行状態変数λ
kは、矢印220でフィードバックされて、ボックス200で、新しい状態作成回路R(λ
k)を使用して、量子コンピュータ上に新しい仮説試行状態を作成するために使用され得る。プロセスは、所定の停止基準に到達するまで反復され得る。
【0056】
図3は、
図2に示した概略方法の特定の実装形態のフローチャートを示す。
【0057】
ステップ302で、以下のパラメータが方法に入力される:未知のエネルギー準位kの数、物理系の各既知の固有状態の状態変数λ、物理系の既知の固有状態のエネルギー準位E、および重なり推定ルーチンにおける重なりの合計を重み付けするための重み付け係数。
【0058】
ステップ304で、試行状態|Ψ(λk)〉の試行状態変数λkの初期推定行われる。
【0059】
ステップ304ではまた、量子コンピュータは、量子コンピュータの量子ビットの基準状態|0〉に適用されたときに試行状態|Ψ(λk)〉を作成する状態作成回路R(λk)を生成する。
【0060】
ステップ306で、エネルギー推定ルーチンが実行されて、試行状態エネルギーの推定値を決定および出力する。
【0061】
より詳細には、試行状態|Ψ(λk)〉における物理的系の固有状態およびエネルギーを記述するハミルトニアンの期待値が推定される。
【0062】
さらに詳細には、物理系の固有状態およびエネルギーは、複数の被加数の合計によって記述され得る。エネルギー推定ルーチンは、試行状態|Ψ(λk)〉における各被加数の期待値を推定し、試行状態における各被加数の期待値の推定値を合計して、試行状態エネルギーを推定する。
【0063】
ステップ310で、重なり推定ルーチンが実行されて、試行状態と物理系の第1の既知の固有状態との間の重なりの推定値を決定する。ステップ312で、試行状態とすべての既知の固有状態との間の重なりが、重なり推定ルーチンによって推定されたかどうかを決定するテストが実行される。テスト312に対する答えが「いいえ」である場合、重なり推定法が実行されて、試行状態と物理系の第2の既知の固有状態との間の重なりの推定値を決定する。サブルーチン316が反復されて、試行状態とすべての既知の固有状態との間の重なりの推定値を決定する。
【0064】
ステップ318で、最適化関数の値が、エネルギー推定ルーチン306の出力およびサブルーチン316で実行された重なり推定ルーチンの反復に基づいて決定される。
【0065】
ステップ320で、停止基準に到達したかどうかを決定するためのテストが実行される。停止基準は、多数の形態をとり得、事前決定されてもよく、または動的に調整されてもよい。
【0066】
停止基準に到達していない場合、試行状態変数は、古典的オプティマイザを使用して更新される。次いで、サブルーチン324が、更新された試行状態変数を使用して反復され、更新された最適化関数を決定する。サブルーチン324は、停止基準に到達するまで繰り返される。
【0067】
停止基準に達したとき、ステップ326は、試行状態変数λkと、サブルーチン324の最後の反復のステップ308で決定されたエネルギー推定値とを出力する。サブルーチン324の最後の反復のステップ308で決定されたエネルギー推定値Ekは、物理系の未知のエネルギー準位を表し得る。
【0068】
所定の停止基準に到達したと判断することは、最適化関数F(λk)の大域的最小値が見つかったと判定することを含み得る。大域的最小値をもたらす試行状態変数λkは、量子コンピュータ上で関心対象の状態を表す状態を作成するために使用することができ、そのλkにおけるエネルギー推定ルーチンの出力は、関心対象の状態のエネルギーを含む。したがって、物理系Ekの未知のエネルギーを決定することができる。
【0069】
別の実施例では、停止基準に到達したと決定することは、最適化関数がF(λk)=Ek+0(∈)を満たす試行状態変数を見つけることを含み、式中、∈は、エネルギー決定における所望の誤差である。停止基準はまた、閾値反復回数に到達することの少なくとも1つであり得、ここで、閾値反復回数は、未知のエネルギー準位の決定における所望の精度に基づいて決定される。停止基準は、同様に、最適化関数の値が閾値変動を超えて変動しない所定の反復回数に到達したと決定することを含み得る。
【0070】
別の実施例では、所定の停止基準に到達したと決定することは、最適化関数が、最小化され、物理系の未知のエネルギー準位に対応すると決定することを含み得る。最適化関数を最小化する試行状態λkは、物理系の未知のエネルギー準位に対応する未知の固有状態を表す。
【0071】
別の実施例では、停止基準に到達したと決定することは、最適化関数が、最大化され、物理系の未知のエネルギー準位に対応すると決定することを含み得る。最適化関数を最大化する試行状態λkは、物理系の未知のエネルギー準位に対応する未知の固有状態を表す。
【0072】
別の実施例では、停止基準に到達したと決定することは、最適化関数の大域的最小値を見つけること、したがって、対応するパラメータλkが見つかったことの決定を含み得る。
【0073】
別の実施例では、物理系のエネルギー準位は、複数の被加数の合計によって記述され得る。エネルギー推定ルーチンは、試行状態における各被加数の期待値を決定する。
【0074】
図12のフローチャートを参照する。本開示の方法による最適化手順の1回の反復を、
図12のフローチャートに示す。1210で、第1の試行状態が作成される。第1の試行状態は、試行状態変数λ
kに依存する試行状態エネルギーを有する。1220で、エネルギー推定ルーチンが実行されて、第1の状態エネルギーの推定値を決定および出力する。物理系のエネルギー準位は、複数のそのような被加数の合計によって記述され得る。したがって、各被加数の期待値を決定することにより、物理系のエネルギー準位または状態を決定することができる。
【0075】
1230で、第1の状態と既知の状態との間の重なり度の推定値が決定される。第1の(試行)状態とすでに知られた状態との間の重なり度を決定することの導入は、この様式におけるVQEのフレームワーク内でこれまでに検討されたことはない。重なり度の推定値をどのように決定するかの例を本明細書に記述する。より一般的には、このステップは、第1の仮説状態に対応するかまたはそれに基づく第1の作成された状態と、既知の状態に対応するかまたはそれに基づく第2の作成された状態との間の重なり度を決定および出力するための重なり推定ルーチンを実行することを含み得る。
【0076】
1240で、最適化関数F(λk)の値が、1220で決定された第1の状態エネルギーと、1230で決定された重なり度とに基づいて決定される。
【0077】
1250で、物理系の未知のエネルギー準位が、最適化手順を使用して、またはそれに従って、決定され得る。最適化手順は、反復プロセスで試行状態変数を更新し、量子状態を作成および破棄することを含み得、方法は、本明細書により詳細に記載するように、ステップ1210、1220、1230、および1240を複数回実行することを含み得る。
【0078】
一実施例では、重なり推定ルーチンは、SWAPテストを使用して、仮説状態と各既知の固有状態との間の重なりを決定する。好ましい方法では、SWAPテストは、いわゆる「破壊的SWAPテスト」である。
【0079】
破壊的SWAPテストは、
図5に示すように、量子回路を使用して物理的に実装され得る。
図5の量子回路は、演算子H(500)、R(λ
i)(502)、制御NOT(CNOT)ゲート(504)、測定動作(506)、測定値の古典的処理(508)を備える。当業者は、
図5に示された量子ゲートH(500)が、以下の基底状態をマッピングするアダマールゲートであることに気付くであろう。
【数3】
量子ゲートCNOT(504)は、2量子ビット基底状態|00〉→|00〉および|01〉→|01〉および|10〉→|11〉および|11〉→|10〉をマッピングする。N量子ビットの量子ゲートR(λ
i)(502)は、基準状態|0〉→|Ψ(λ
i)〉をマッピングし、式中、|Ψ(λ
i)〉は、既知の状態パラメータλ
iに依存する既知の状態iである。N量子ビットの量子ゲートR(λ
k)(510)は、基準状態|0〉→|Ψ(λ
k)〉をマッピングし、式中、|Ψ(λ
k)〉は、試行状態パラメータλ
kに依存する試行状態kである。当業者は、古典的演算子m
im
k(mod2)は、最初のn個の量子ビットと最後のn個の量子ビットとの測定値のビットごとのANDが偶数パリティを有する場合には、0を出力し、そうでない場合には1を出力することに気付くであろう。この古典的演算の出力が0である確率は、
【数4】
に等しく、したがって、回路全体を何回も繰り返すことにより、重なり|Ψ(λ
k)|Ψ(λi〉|
2を推定することが可能である。
【0080】
別の実施形態では、重なり推定ルーチンは、量子位相推定アルゴリズムを使用して、仮説状態と各既知の固有状態との間の重なりを決定する。
【0081】
任意の単位Pのω:=〈ψ|P|φ〉を計算するために、当業者は、量子位相推定(QPE)またはα-QPEを、入力状態|ψ〉を用いて演算子U
0に実行して、位相の余弦からb
0:=|ω|を生成し、次いで入力状態)|+ψ〉を用いて演算子U
1に実行して、位相の余弦からb
1:=|1+ω|/2を生成し、次いで入力状態|+ψ〉を用いて演算子U
2に実行して、位相の余弦からb
2:=|1-iω|/2を生成し得る。次いで、以下を介して、ωを見つけることが可能である:
【数5】
代わりに〈ψ|φ〉を計算したい場合は、同じ方法を使用することができるが、代わりに、単位Pを省略するか、またはP=Iを設定することができ、式中、Iは、恒等演算子である。
【0082】
図7、
図8、
図9、
図10の量子回路は、演算子P、S、R、およびHを含む。当業者は、量子ゲートHが、基底状態
【数6】
をマッピングするアダマールゲートであることに気付くであろう。量子ゲートPは、例えばパウリ演算子のテンソル積に対応する、期待値が決定/推定される被加数を表す。量子ゲートRは、状態|ψ〉を作成するために使用される量子回路配列を表す。量子ゲートSは、状態|φ〉を作成するために使用される量子回路配列を表す。短剣表記は、エルミート共役を指し、P
+、R
+、およびS
+は、それぞれP、R、およびSのエルミート共役に対応する量子ゲートを指す。
【0083】
|〈ψ|φ〉|を計算するために、当業者は、
図5に示すように、量子位相推定(QPE)またはα-QPEを、入力状態|ψ〉|を用いて演算子Uに実行して、|〈ψ|φ〉|を生成し得る。値|〈ψ|φ〉|は、量子位相推定を使用して測定された角度の余弦をとることによって回収することができる。
【0084】
本開示の方法は、物理系の未知の固有状態およびエネルギーを決定することを可能にする。本開示の方法は、直交固有状態が同じ対応するエネルギーを有する場合であっても、物理系の直交固有状態を体系的に決定する。したがって、本開示の方法は、物理系の縮退固有状態およびそれらに対応するエネルギーを体系的に決定する。
【0085】
既存の方法はエネルギーに基づいて固有状態を区別するだけなので、既存の方法は縮退状態を体系的に見つけることができないため、これらの方法は既存の方法に対して明確な利点を提供する。
【0086】
各エネルギーの縮退を知ることは、外的摂動を導入したときの物理系の挙動を予測するのに有用である。例えば、縮退Nを有する状態は、N個の別個の状態に分割することができる。
【0087】
全体を通して使用される重なりという用語は、既知の状態と試行状態との間の重なり、または既知の状態と試行状態との複合的重なりの絶対値を指すと理解されるべきである。
【0088】
図6は、長方形最近傍グリッドアーキテクチャを使用して構築された量子コンピュータで実行するために低コヒーレンス時間を必要とする変分量子収縮アルゴリズムの一実装形態を示す。
【0089】
本方法では、物理系の固有状態を表す状態を、量子コンピュータ内に作成することができる。状態は、状態変数λに従って作成することができる。状態およびそれに対応する状態変数が未知である場合、本開示の方法を使用して、試行状態変数を調整して一連の試行状態を作成することにより、状態およびその状態変数の両方を決定することができる。試行状態変数を最適化して関心対象の状態を見つけることは、本出願の主題の1つである。しかしながら、状態パラメータλは、量子コンピュータ内に特定の状態をどのように作成するかの記述であるが、状態変数を使用して状態を作成するとき、誤差が導入される可能性がある。特定の量子ビットまたは量子ゲートは異なる誤差を有する可能性があるので、誤差の導入は、同一の試行変数を使用して作成された2つの状態が必ずしも完全に一致するとは限らないことを意味する。
【0090】
図6を参照して説明される方法を使用すると、重なり推定技法、例えば破壊的swapテストを使用して、パラメータをある状態から別の状態にシフトすることができる。換言すると、第1の量子レジスタ内の特定の状態、例えば既知の状態を、第2の量子レジスタ内に再作成することができる。例えば、既知の状態を表す第1の量子レジスタ内の量子ビット配列を、第2の量子レジスタ内の別の量子ビット配列上に「コピー」することができる。重なり度を決定するために使用することができる本明細書に記載の方法を使用して、第1の量子レジスタ内の第1の状態と第2の量子レジスタ内の第2の状態との間の最大重なりを保証する。重なりが最大化されると、状態は可能な限り互いに同一になり、したがって、制御誤差の影響が軽減または完全に除去される。
【0091】
図6の段階1は、長方形最近傍グリッドアーキテクチャを有する量子コンピュータ上で量子回路を使用して、最適化関数をどのように計算することができるかを示す。
図6の各円は、10個の量子ビットq
1~q
10のそれぞれを表す。段階1の量子ビットq
6~q
10間の垂直線(
図6aおよび
図6b)は、最近傍接続を有する線形量子ビットチェーン上の、第1の仮説試行状態を作成するために使用される量子ゲート配列を示す。
図6bの量子ビットq
1~q
5間の垂直線は、既知の状態を作成するために使用される量子ゲート配列を示す。
図6bの水平点線は、
図5の破壊的SWAPテストを実装するために使用される量子ゲート配列を示す。
【0092】
図6の段階2は、量子ビットq
1~q
5が不完全であり、かつ量子ビットq
6~q
10とは異なっている場合でも、量子ビットq
6~q
10上に既知の状態を作成するために使用される量子ゲート配列をどのように最適化して、量子ビットq
1~q
5上に同じ状態を作成することができるかを示す。第1の既知の状態|ψ(λ
*
k)〉は、量子ビットq
6~q
10上に作成される(
図6cの量子ビットq
6~q
10間の垂直線)。次いで、新しい仮説試行状態|Ψ(λ
k)〉|が、量子ビットq
1~q
5上に作成される。次いで、新しい仮説試行状態との既知の状態の重なり
|Ψ(λ
k)|ψ(λ
*
k)〉|
2が、(
図6cに点線で示された)破壊的SWAPテストを使用して計算される。次いで、新しい仮説試行状態パラメータを、コスト関数F
2=1-|Ψ(λ
k)|ψ(λ
*
k)〉|
2
が最小化されるように変化させる。F
2の大域的最小値が見つかった後、新しい仮説試行状態のパラメータは、既知の状態が量子ビットq
1~q
5上に作成されることを可能にする。この段階2は、量子ビットq
1~q
5およびそれらに動作するゲートが、量子ビットq
6~q
10およびそれらに動作するゲートと異なる不完全性を有する場合にのみ必要である。
【0093】
図6は、10以上の量子ビットの量子コンピュータ上で状態を表すために、N=5量子ビットを使用して変分量子収縮をどのように実装するかを示しているが、当業者は、同じアプローチを一般化して、2N以上の量子ビット量子コンピュータ上でN量子ビット状態を見つけられることに気付くであろう。
【0094】
状態を作成するこの方法は、物理系の多数のエネルギー準位を体系的に見つけようとする例示的実装形態で特に有用である。例えば、
図2の方法が実行され、特定の状態およびそれに対応する試行状態のエネルギー決定が出力された後、量子コンピュータは、量子レジスタ内の量子ビット配列上に作成された決定状態を有する。
図2の方法を再度実行して「次の」エネルギー準位を見つける場合は、決定されたばかりの状態を、重なり推定ルーチンの一部として、および本明細書の他の箇所で考察されたように、使用する必要がある。一実施例では、
図2に示された方法を使用して、エネルギーE(λ
k)を決定する。次いで、「次の」エネルギー準位を決定することが望まれる。この場合、決定されたλ
kは、λ
k-1となり、対応する状態Ψ(λ
k-1)が、重なり推定ルーチンの一部として使用される。
【0095】
前に決定された状態は量子コンピュータのレジスタ内にすでに作成されているので、重なり推定ルーチンに使用するために状態を別のレジスタに正確にコピーするために、上記の方法を使用してその状態の知識を使用することが可能である。
【0096】
一実施例では、2つの異なる未知のエネルギー準位を決定することが望ましい場合がある。エネルギー準位は、連続するエネルギー準位、例えば、物理系の第1および第2の励起状態であり得る。第1の未知のエネルギー準位は、
図2に示され、本明細書に概略的に説明された最適化手順の1回目を実行することによって決定され、第2の未知のエネルギー準位は、
図2に示され、本明細書に概略的に説明された最適化手順の2回目を実行することによって決定される。
【0097】
一実施例では、次いで、第1の未知のエネルギー準位のエネルギー値に対応する試行状態変数を使用して、2回目の最適化手順の各反復に使用するための既知の状態を生成する。
【0098】
あるいは、
図6を参照すると、2回目の最適化手順の各反復に使用される既知の状態は、第1の関心対象の固有状態に基づくかまたはそれを表し、その場合、第1の未知のエネルギー準位は、物理系の第1の関心対象の固有状態に対応する。上述したように、第1の関心対象の固有状態は、量子コンピュータの第1の量子レジスタ内に存在し得、2回目の最適化手順の各反復に使用される第2の作成された状態は、第1の関心対象の固有状態を量子コンピュータの第2の量子レジスタ内に「コピー」することによって作成される。「コピー」は、状態が完全に同一であることを示唆する必要はないが、それらが互いにほぼ同一または十分に類似していることを示唆する。一実施例では、「コピー」は、単に、第1の関心対象の固有状態と新しく作成された第2の作成された状態との間の重なりが最適化される、例えば最大化されることを意味し得る。換言すると、第1の関心対象の固有状態を量子コンピュータの第2の量子レジスタ内にコピーすることは、第1の関心対象の固有状態と、量子コンピュータの第2の量子レジスタを構成する量子ビットとの間の重なり度を最適化することを含み得る。
【0099】
重み付け
いくつかの方法では、エネルギー推定項および重なり推定項のうちの少なくとも一方が重み付けされる。
【0100】
最適化手順の等価の視点は、段階kにおける有効ハミルトニアンの基底状態が見つかることである:
【数7】
式中、|i〉は、エネルギー〈i|H|i〉を有するHのi番目の固有状態である。したがって、任意の状態|ψ〉:=Σa
i|i〉に対して:
【数8】
式中、dは、Hの固有ベクトルの総数である。
【0101】
したがって、Ekにおける最小値を保証するためには、βi>Ek-Eiを選択するだけで十分である。Δ:=Ed-1-E0≧Ek-Eiであるので、例えばVQEを使用してE0を見つけ、次いでEd-1を見つける(ハミルトニアン-Hを使用して後者を見つける)ことにより、Δの正確な推定値を保有するだけで十分である。パウリ行列の線形結合としてH=ΣCjPjであるとき、例えばHが電子構造ハミルトニアンであるとき、上限Δ≦2||H||≦2Σ|Cj|が与えられる。この場合、βiを、最適化手順の有効性を保証するように選択し得る。
【0102】
有効なβiを選択することは、自己修正であり得る。すべてのiに対してβi=F-Ei〈Ek-Eiであるようにβ
iが間違って選択された場合、
【数9】
〈Ekにおいて最小値が見つかるので、βiが過小に設定されることが分かり得る。しかしながら、アルゴリズムが、より大きいFを用いて成功するまで繰り返される(例えば、毎回2倍になる)場合、アルゴリズムのO(log(Ek))回の実行のみの後で、十分に大きいFが見つかる。
【0103】
代替の有効ハミルトニアン
最大固有値から始めて、正の半確定行列、例えばPCAのコンテキストでの共分散行列の固有値および固有ベクトルを見つけるための方法を採用し得る。
正の半確定行列に対してすべての収縮法を直接使用するためには、いくつかのE’≧Ed-1、例えばE’=||H||のハミルトニアンH0:=-H+E’は、正の半確定であることに留意されたい。
各段階で真の固有状態が得られないという問題に対処するように設計された、射影収縮やシューア補行列収縮などの他の収縮方法が存在する。これらの2つの方法は、各段階での有効ハミルトニアンの真の基底状態が、精度に関係なく、前に見つかった固有状態の推定値と重ならないことを保証する。
【0104】
例えば、射影収縮では、段階kにおける有効ハミルトニアンは次のように定義される:
【数10】
式中:
【数11】
であり、最後の近似は、前に見つかった固有ベクトル|i>が真に直交している場合に成り立つ。
【0105】
この近似では、Hをパウリ行列Pjの線形結合として再度記述し、仮説|ψ>の〈ψ|Hk|ψ>の値は、(i、l〈kについて)形式〈ψ|P
j|ψ>、|ψ〈|i>|
2〈ψ|i>、〈ψ|P
j|ψ>、〈i|P
j|l>の項の線形結合である。この近似がないと、〈i|l>を計算する必要がある。ここで重要な点は、これらの追加項は、なおも量子回路を使用して計算することができるということである。明示的に、任意の単位Pのω:=〈ψ|P|φ>を計算するために、量子位相推定を、それぞれ
図8、
図9、
図10に示すように入力状態|ψ>、|+ψ>、|+ψ>を用いて演算子U0、U1、およびU2に実行し得る。これらはそれぞれ、値b0:=|ω|、b1:=|1+ω|/2およびb2:=|1-iω|/2を生成する。次いで、Re(ω)=(4b
2
1-b0-1)/2およびIm(ω)=(4b
2
2-b0-1)/2を介してωを見つけることが可能である。
【0106】
低深度の実装形態:破壊的swapテスト
SWAPテストは、状態
【数12】
の量子レジスタに回路を適用した後に、O(1/ε
2)回の反復測定値を使用して精度εまで、2つの状態|ψ>および|φ>の重なり|〈φ|ψ>|
2を決定することを可能にする。
【0107】
元来のSWAPテストは、アンシラ上で制御されるSWAPゲートを必要としたが、ベル基底測定および古典的ロジックを使用して、アンシラなしで同じ結果を達成することができる。単一量子ビット状態に対する
図4に見られるように、元来のSWAPテスト(左)は、アンシラ、トフォリ、2つのCNOTゲート、および2つのアダマールゲートを必要とするが、
図4の等価のいわゆる破壊的SWAPテスト(右)は、1つのCNOT、1つのアダマールを必要とし、アンシラは必要ない。破壊的SWAPテストは、n個の並列ベル基底測定を使用してn量子ビット状態に拡張することもでき(
図5を参照)、n量子ビットに適用された元来のSWAPテストと比較して大幅な節約を達成する。
【0108】
SWAPテストが0を出力する(テストに「合格する」)確率は次のとおりである。
【数13】
【0109】
したがって、1(テストに「失敗する」)が測定されることは、状態が異なることを保証するが、テストに合格しても、状態が等しいとは保証されない。二項分布から、|〈φ|ψ>|
2の推定値は、SWAPテストの最高
【数14】
回の繰り返しで、精度εまで計算することができる。
【0110】
破壊的SWAPテストは極めて低い回路深度を有するので、現在の量子コンピュータに実装するのは非常に簡単である。
【0111】
10量子ビットの最近傍長方形グリッドアーキテクチャにおけるアルゴリズムの低深度実装形態の一実施例を
図6に示す。アルゴリズムの第1の段階では、量子ビットq
6、q
7...q
10を使用して、5量子ビット試行仮説状態
【数15】
を作成する(
図6パート(a)を参照)。これは、最近傍接続を有する線形量子ビットチェーン上の低深度回路を使用して実装することができる任意の仮説を使用して行うことができる(例えば、フェルミオンSWAPネットワークトロッターステップを使用したパラメータ化断熱状態作成。次いで、この状態のエネルギーは、VQEで典型的に行われるように、低深度回路および反復測定を使用して計算される。次に、k-1個の既知の事前計算固有状態
【数16】
の各々が、量子ビットq
1、q
2...q
5上に作成され、その
【数17】
との間の重なりが、破壊的SWAPテストの反復サンプリングによって計算され、それを、(
図6のパート(b)に示された)深度1の回路内でデバイス上に自然に実装することができる。これらのステップ(
図6の「段階1」)が、最適化関数F(λ
k)の大域的最小値に到達するまで、古典的オプティマイザの各反復に対して繰り返される。
【0112】
「段階2」(
図6のパート(c)を参照)では、
【数18-1】
が量子ビットq
6、q
7...q
10上に再び作成されるが、今回は、(最適)パラメータ
【数18-2】
が固定される。次いで、新しい試行状態
【数19】
で初期化された)量子ビットq
1、q
2...q
5上に作成される。次いで、試行状態は、
【数20】
の重なりを最大化するために、コスト関数
【数21】
に従って最適化される。これは、量子ビットq
1、q
2...q
5とq
6、q
7...q
10との間のコヒーレント制御誤差の差に対して弾力性がある方法で、所望のk番目の状態を量子ビットq
1、q
2...q
5上に本質的に「コピー」して、(K+1)番目の状態を見つけるために使用されるよう作成される。すべての量子ビットが同一であることが分かっている場合、この段階2は不要であり、単に
【数22】
を使用することができる。
この方法は、明らかに、より大きな系に拡張することができ、N-量子ビット系の励起状態を、アーキテクチャと同形の(つまり、量子情報のルーティングは必要ない)深度1の回路を有するNx2最近傍グリッド量子コンピュータアーキテクチャを使用して、計算することができる。
【0113】
可変深度の実装形態
SWAPテストの代わりに重なり推定を使用すると、サンプリングコストをO(log1/ε)に減らすことができ、n+1量子ビットだけが必要である。重なり推定は、
図7に示された演算子Uに反復位相推定を実行することにより、重なり|〈φ|ψ>を計算する。しかしながら、回路深度は、O(1/ε)に増加する。
【0114】
ベイズ位相推定では、同じ精度を達成し得るが、より多くのサンプルNをとることにより、回路深度Dを低減し得る。文献[5]中にN=0(1/ε2(1-α))およびD=O(1/εα)との考えられるトレードオフを可能にする方法が存在し、式中、α∈[0,1]は、対応する回路深度が実現可能になるように選択することができる自由パラメータである。
【0115】
本明細書で、物理系のエネルギー準位について言及する。物理系は、原子、分子、一群の原子、タンパク質、酵素またはその一部、化学物質、または潜在的な超伝導体などの材料のいずれかとすることができる。各場合で、エネルギー準位は、化学構造および反応の特性を解明する際の中心的役割を果たし、それらの計算は、材料設計、新しい薬剤の設計、または新規触媒の設計に多くの用途を有する。
【0116】
多くの既存の方法は、これらの系の基底状態の特性を決定することに集中しているが、多くの物理的プロセスの性質を完全に理解するためには、励起状態エネルギーの特性分析も必要である。
【0117】
このようなプロセスには、例えば光起電材料における電荷およびエネルギー移動に関連するプロセス、または光解離、光異性化、および光合成を含むものなどのさまざまな化学反応が含まれる。さらに、分子スペクトルの解釈が、励起エネルギー準位の正確な解釈において助けられ、大気モデル化および特性分析において示唆を与える。
【0118】
分子系では、光子の吸収により、異なる電子配置に対応する励起状態への遷移が行われる可能性がある。これは、しばしば、系にいくらかの不安定性を導入する可能性があり、化学生成物の生成または異なる分子配座につながる可能性がある、以前はアクセス不能であり得た反応経路を活性化し得る。
【0119】
これらは、必要な反応生成物の触媒作用などで望ましくあり得る創発特性につながる可能性があり、または有害作用、例えば潜在的な薬物候補の毒性構成への異性化を生み出し得る。
【0120】
結晶系では、励起状態を計算する能力は、太陽光発電などの材料のより良い記述の助けとなり、それらの設計の効率を改善し得る。
いずれにせよ、これらの反応プロセスを理解には、系のエネルギースペクトルの適切な記述が必要である。
【0121】
本明細書に開示の方法の結果として生じる高レベルの精度は、そのような電子励起を定義するエネルギー差の計算を可能にし、制御された条件下で利用され得る既存の化学反応プロセスの洗練された理解と、望ましい特性を有する材料の合成とにつながる。
【0122】
本明細書に開示の方法は、現在および短期的な量子コンピューティングハードウェアの利用可能な能力を最大限に活用するように設計される。主に、現在および短期的なハードウェアは、デバイス上で達成可能な最大コヒーレンス時間によって制限され、量子回路については、これは、計算結果を歪めるデバイスのノイズの影響なしに実行可能な回路の長さの制限に相当する。
【0123】
本開示の方法まで、物理系の未知のエネルギー準位を計算するための既存の方法は、短期的な量子ハードウェアの短絡深度制限に対応することができなかった。当技術分野で知られている1つの方法である「WAVES」プロトコルは、多数の高深度制御ゲートの使用を必要とする反復位相推定アルゴリズム(IPEA)として知られている量子サブルーチンを利用する。したがって、「WAVES」プロトコルは、短期的な量子ハードウェアでは達成不可能であろう非常に大きな回路深度を必要とする。
【0124】
当技術分野で知られている方法とはまったく対照的に、ここで提示する方法は、低深度回路を使用して達成することができる「重なり推定」と呼ばれるプロセスを採用している。1つの実施形態では、重なり推定回路は、標準低深度VQE回路と同じ数の量子ビットと、最大2倍の回路深度とを必要とする。代替態様は、標準VQEの2倍の数の量子ビットを使用するが、標準VQEと同じ回路深度を使用する。
【0125】
したがって、本開示の方法の設計は、量子コンピュータの内部機能の技術的熟慮によって動機付けられる。具体的には、最大利用可能回路深度およびコヒーレンス時間など、現代の量子コンピュータの制約を考慮して、本方法は、現代の量子コンピュータで利用可能な低深度回路のコヒーレンス時間を最大限に活用可能な重なり推定などのプロセスを含む。したがって、本開示の方法は、物理系の未知のエネルギー準位を正確に決定するために、現代の量子コンピューティングハードウェアを最適に利用するように特別に設計される。
【0126】
本開示の方法では、物理系はまた、非常に大きな実世界のデータセットを符号化するように人工的に設計され得る。この場合、(本開示の方法が見つける)物理系の固有状態は、主成分分析(PCA)から得られるデータセットの主成分に正確に対応する。主成分の知識により、ポートフォリオ割り当て、機械学習、画像処理、データ圧縮に応用でされるデータセットの次元の劇的な低減を可能する。
【0127】
本明細書に記載のアプローチは、非一時的なコンピュータ可読媒体であり得るコンピュータ可読媒体上で具現化され得る。本明細書に記載の方法のいずれかまたはすべてをプロセッサに実行させるようにプロセッサ上で実行するように配置されたコンピュータ可読命令を担持するコンピュータ可読媒体。
【0128】
本明細書で使用される「コンピュータ可読媒体」という用語は、プロセッサを特定の様式で動作させるためのデータおよび/または命令を記憶する任意の媒体を指す。そのような記憶媒体は、不揮発性媒体および/または揮発性媒体を含み得る。不揮発性媒体は、例えば、光学ディスクまたは磁気ディスクを含み得る。揮発性媒体は、動的メモリを含み得る。記憶媒体の例示的な形態には、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、ソリッドステートドライブ、磁気テープ、または任意の他の磁気データ記憶媒体、CD-ROM、任意の他の光学データ記憶媒体、1つ以上の正孔パターンを有する任意の物理的媒体、RAM、PROM、EPROM、FLASH-EPROM、NVRAM、および任意の他のメモリチップまたはカートリッジが含まれる。
【0129】
本明細書に開示されるのは、量子コンピュータを使用して物理系の未知のエネルギー準位を決定するための方法であって、物理系は、未知のエネルギー準位および少なくとも1つの既知のエネルギー準位を含む複数のエネルギー準位のうちの1つをとることができ、方法は、最適化関数の値に基づいて試行状態変数を反復的に更新することを含む、方法である。最適化手順の各反復は、第1の量子ゲート配列を備える仮説試行状態作成回路を使用して仮説試行状態を作成することであって、仮説試行状態は、試行状態変数に依存する試行状態エネルギーを有する、作成することと、
試行状態エネルギーの推定値を決定することと、
仮説試行状態と、それぞれの少なくとも1つの既知のエネルギー準位に対応する少なくとも1つの既知の固有状態との間の重なり度を決定するための重なり推定ルーチンを実行することと、を含む。重なり推定方法は、第2の量子ゲート配列を使用して既知の固有状態を作成すること、ならびに重なり回路を使用して仮説試行状態および少なくとも1つの既知の固有状態について動作することと、試行状態エネルギーの推定値と重なり推定ルーチンの出力とに基づいて、仮説試行状態に対応する最適化関数の値を決定することと、を含み得る。
【0130】
方法は、最適な仮説試行状態に対応する最適化関数の最適値に対応する未知のエネルギー準位を決定することをさらに含み得る。
【0131】
上記の特定の実施形態の説明は、単なる例であり、本開示の範囲を限定することを意図するものではないことが理解されよう。記載された実施形態の多くの変更が、想定され、本開示の範囲内にあることが意図される。
【0132】
上記の実装形態は、単なる例として記載されており、記載された実装形態および配置は、あらゆる点で例示的のみであって、限定的ではないと考えられるべきである。記載された実装形態および配置の変形が、本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解されるであろう。
【0133】
全体を通して物理系の固有状態を参照してきたが、系の固有状態は、好ましい用語に応じて、系のエネルギー状態に関連し、場合によってはそれに等価であることを理解されたい。
【0134】
全体を通して物理系の固有状態を参照してきたが、開示された方法は、任意の固有値問題および任意の最適化問題に適用することができることを理解されたい。物理系の固有状態のエネルギーは、最適化問題のコスト関数に対応し得ることを理解されたい。
本明細書に開示される発明は以下の態様を含む。
<態様1>
量子コンピュータを使用して物理系の少なくとも1つの未知のエネルギー準位を決定するための方法であって、前記物理系は、複数の固有状態のうちのいずれか1つにあることができ、前記物理系の各それぞれの固有状態は、対応するエネルギー準位を有し、前記方法は、反復最適化手順を実行することを含み、前記最適化手順の各反復は、
第1の量子ゲート配列を使用して第1の仮説試行状態を作成することであって、前記第1の仮説試行状態は、試行状態変数に依存する第1の状態エネルギーを有する、作成することと、
前記第1の仮説試行状態エネルギーの推定値に関連付けられた値を決定および出力するためのエネルギー推定ルーチンを実行することと、
前記第1の仮説試行状態に対応するかまたはそれに基づく第1の作成された状態と、既知の状態に対応するかまたはそれに基づく第2の作成された状態との間の重なり度を決定および出力するための重なり推定ルーチンを実行することと、
前記エネルギー推定ルーチンおよび前記重なり推定ルーチンの前記出力に基づいて最適化関数の値を決定することと、
前記試行状態変数を更新することと、を含み、
前記方法は、停止基準に到達するまで、前記最適化手順の反復を実行することと、前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の値を出力することと、をさらに含む、方法。
<態様2>
前記試行状態変数は、前記最適化手順に従って更新され、任意選択的に、前記試行状態変数は、前記最適化関数の前記決定された値に基づいて更新される、態様1に記載の方法。
<態様3>
前記既知の状態は、前記物理系のある既知の状態を表し、任意選択的に、前記既知の状態は、前記物理系の少なくとも1つの既知のエネルギー準位に対応するエネルギーを有する、態様1または態様2に記載の方法。
<態様4>
前記停止基準は、前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の前記決定における所望の精度に基づく、態様1~3のいずれかに記載の方法。
<態様5>
前記停止基準に到達したと決定することをさらに含み、前記停止基準に到達したと決定することは、
前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の前記決定における所望の精度に到達したと決定することと、
閾値反復数に到達したと決定することであって、前記閾値反復数は、前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の前記決定における所望の精度に基づいて決定される、決定することと、
前記最適化関数の前記値が閾値変動を超えて変化しない所定の反復数に到達したと決定することと、のうちの少なくとも1つを含む、態様1~4のいずれかに記載の方法。
<態様6>
前記複数のエネルギー準位の各それぞれのエネルギー準位は、複数の被加数のそれぞれの合計によって記述され得、前記エネルギー推定ルーチンを実行することは、前記第1の状態の各被加数の期待値をそれぞれ推定することと、各被加数の前記期待値の推定値を合計して、前記第1の状態エネルギーの推定値を決定することと、をさらに含む、態様1~5のいずれかに記載の方法。
<態様7>
前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位の前記エネルギー値に対応する前記試行状態変数を出力することをさらに含む、態様1~6のいずれかに記載の方法。
<態様8>
前記少なくとも1つの未知のエネルギー準位は、第1の未知のエネルギー準位および第2の未知のエネルギー準位を含み、前記第1の未知のエネルギー準位は、1回目の前記最適化手順を実行することによって決定され、前記第2の未知のエネルギー準位は、2回目の前記最適化手順を実行することによって決定される、態様1~7のいずれかに記載の方法。
<態様9>
前記第1の未知のエネルギー準位の前記エネルギー値に対応する前記試行状態変数は、前記2回目の前記最適化手順の各反復に使用するための既知の状態を生成するために使用される、態様8に記載の方法。
<態様10>
前記第1の未知のエネルギー準位は、前記物理系の第1の関心対象の固有状態に対応し、前記2回目の前記最適化手順の各反復に使用される前記既知の状態は、前記第1の関心対象の固有状態に基づくかまたはそれを表す、態様8に記載の方法。
<態様11>
前記第1の関心対象の固有状態は、前記量子コンピュータの第1の量子レジスタ内に存在し、前記2回目の前記最適化手順の各反復に使用される前記第2の作成された状態は、前記第1の関心対象の固有状態を前記量子コンピュータの第2の量子レジスタ内にコピーすることによって生成される、態様10に記載の方法。
<態様12>
前記第1の関心対象の固有状態を前記量子コンピュータの第2の量子レジスタ内にコピーすることは、前記第1の関心対象の固有状態と前記量子コンピュータの前記第2の量子レジスタを構成する量子ビットとの間の重なり度を最適化することを含む、態様11に記載の方法。
<態様13>
前記重なり度を最適化することは、前記重なり度を最大化することを含む、態様12に記載の方法。
<態様14>
前記重なり推定ルーチンは、前記既知の状態を作成することと、前記試行状態と第2の状態との間の重なり度を決定することと、を含む、態様1~13のいずれかに記載の方法。
<態様15>
前記重なり度を決定することは、SWAPテストを実行することを含み、任意選択的に、前記SWAPテストは、破壊的SWAPテストである、態様1~14のいずれかに記載の方法。
<態様16>
前記重なり推定ルーチンは、前記第1の作成された状態と、複数の既知の状態の各々との間の重なり度を決定することであって、各既知の状態は、前記物理系のそれぞれの既知の状態に対応するかまたはそれに基づく、決定することをさらに含む、態様1~15のいずれかに記載の方法。
<態様17>
前記重なり推定ルーチンの前記出力は、前記第1の作成された状態と前記既知の固有状態の各々との間の各それぞれの重なり度の合計である、態様16に記載の方法。
<態様18>
前記最適化関数の前記値を決定することは、前記エネルギー推定ルーチンの前記出力と前記重なり推定ルーチンの前記出力とを合計することを含む、態様1~17のいずれかに記載の方法。
<態様19>
前記既知のエネルギー準位は、前記物理系の基底状態エネルギー準位を表す、態様1~18のいずれかに記載の方法。
<態様20>
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに態様1~19のいずれかに記載の方法を実行させるコンピュータ実行可能命令を含む、コンピュータ可読媒体。