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特許7362674非常に迅速な淡色化速度を実現するための特定の置換基を有するフォトクロミック縮環ナフトピラン系
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  • 特許-非常に迅速な淡色化速度を実現するための特定の置換基を有するフォトクロミック縮環ナフトピラン系 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】非常に迅速な淡色化速度を実現するための特定の置換基を有するフォトクロミック縮環ナフトピラン系
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/92 20060101AFI20231010BHJP
   C07D 493/04 20060101ALI20231010BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20231010BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20231010BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C07D311/92 101
C07D311/92 CSP
C07D493/04
G02C7/00
G02C7/02
C09K9/02 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020568975
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019064652
(87)【国際公開番号】W WO2019238495
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】102018004790.4
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514073189
【氏名又は名称】ローデンシュトック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイガント ウド
(72)【発明者】
【氏名】ツィンナー ヘルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ロールフィング イヴェン
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521734(JP,A)
【文献】特表2002-524559(JP,A)
【文献】特表2002-524558(JP,A)
【文献】特表2015-501292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09K
G02C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
【化1】
(式中、
前記基R又はR及びRは、互いに独立して、以下の部:
【化2】
であり、
前記基R13は、水素又はメチル基であり、前記基R14は、水素、(C~C)-アルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、ナフチル基、tert-ブチルジメチルシリル基、又はtert-ブチルジフェニルシリル基から選択される置換基であり、nは、0から1までの整数であり、かつpは、3から50までの整数であり、
又は、R13がメチル基である場合に、R14は、部-(CH-CH-OR15であることもでき、その場合に、前記基R15は、水素、(C~C)-アルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はビフェニリル基から選択され得て、かつqは、1から20までの整数であり、かつ、
前記基R、R、及びR、互いに独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、(C~C)-チオアルキル基、(C~C18)-アルコキシ基、ヒドロキシル基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルオキシ基、トリフルオロメチル基、フェニル基、4-メトキシフェニル基、フェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、ベンジル基、4-メトキシベンジル基、ベンジルオキシ基、4-メトキシベンジルオキシ基、ビフェニリル基、ジフェニリルオキシ基、ナフチル基、ナフトキシ基、モノ-(C~C)-アルキルアミノ基、ジ-(C~C)-アルキルアミノ基、フェニルアミノ基、(C~C)-アルキル-フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、(4-メトキシフェニル)アミノ基、((C~C)-アルキル)-(4-メトキシフェニル)アミノ基、ビス(4-メトキシフェニル)アミノ基、ピペリジル基、3,5-ジメチルピペリジル基、インドリニル基、モルホリニル基、2,6-ジメチルモルホリニル基、チオモルホリニル基、アザシクロヘプチル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、1,2,3,4-テトラヒドロキノリル基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル基、フェナジニル基、カルバゾリル基、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリル基、又は10,11-ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニル基から選択される置換基であり、
又は、前記2個の隣接する基R及びRは、部-V-(CH-W-であり、その場合に、V及びWは、互いに独立して、部-O-、-S-、-N(C~C)-アルキル-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-、又は-C(C-から選択され、rは1から3までの整数であるが、但し、この数値が2又は3である場合に、2個の隣接するCH基に縮合したベンゼン環が存在することもでき、V又はWは、前記それぞれ隣接するCH基と一緒に縮合ベンゼン環であることもでき、
又は、Rは、Rと同じ部であり、
前記基R、R、R、R10、R11、及びR12は、それぞれ互いに独立して、水素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、又はナフチル基から選択される置換基であり、ここで、mは、1から3までの整数であり、
又は、2個の隣接する基Rは、非置換又は一置換又は二置換であり得る縮合ベンゼン環を形成し、その場合に、前記置換基は、水素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-アルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、又はナフチル基から選択され得て、
又は、2個の隣接する基Rは、縮合ベンゾフラン環、縮合ベンゾチオフェン環、縮合2H-クロメン環、縮合3,3-ジメチルインデン環、又は縮合ジオキサン環を形成し、
又は、前記基R及びRは一緒になって部-(CH-を形成し、その場合に、sは1から3までの整数であるが、但し、この数値が2又は3である場合に、2個の隣接するCH基に縮合したベンゼン環が存在することもできる)のフォトクロミック縮合ナフトピラン。
【請求項2】
前記基Rは、部:
【化3】
を表し、かつ前記基Rは、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、(C~C)-チオアルキル基、(C~C18)-アルコキシ基、ヒドロキシル基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルオキシ基、トリフルオロメチル基、フェニル基、4-メトキシフェニル基、フェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、ベンジル基、4-メトキシベンジル基、ベンジルオキシ基、4-メトキシベンジルオキシ基、ビフェニリル基、ジフェニリルオキシ基、ナフチル基、ナフトキシ基、モノ-(C~C)-アルキルアミノ基、ジ-(C~C)-アルキルアミノ基、フェニルアミノ基、(C~C)-アルキル-フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、(4-メトキシフェニル)アミノ基、((C~C)-アルキル)-(4-メトキシフェニル)アミノ基、ビス(4-メトキシフェニル)アミノ基、ピペリジル基、3,5-ジメチルピペリジル基、インドリニル基、モルホリニル基、2,6-ジメチルモルホリニル基、チオモルホリニル基、アザシクロヘプチル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、1,2,3,4-テトラヒドロキノリル基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル基、フェナジニル基、カルバゾリル基、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリル基、又は10,11-ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニル基から選択される置換基であり、かつ他の基は、前記規定の通りである、請求項1に記載のフォトクロミック縮合ナフトピラン。
【請求項3】
前記基R、R、R、R10、R11、及びR12は、それぞれ互いに独立して、水素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、又はナフチル基から選択される置換基であり、ここで、mは、1から3までの整数である、請求項1又は2に記載のフォトクロミック縮合ナフトピラン。
【請求項4】
前記基Rは、以下の部:
【化4】
を表し、
前記基R13は、水素又はメチル基であり、前記基R14は、水素、(C~C)-アルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、ナフチル基、tert-ブチルジメチルシリル基、又はtert-ブチルジフェニルシリル基から選択される置換基であり、nは、0から1までの整数であり、かつpは、3から50までの整数であり、
又は、R13がメチル基である場合に、R14は、部-(CH-CH-OR15であることもでき、その場合に、前記基R15は、水素、(C~C)-アルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はビフェニリル基から選択され得て、かつqは、1から20までの整数であり、かつ、
前記基Rは、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、(C~C)-チオアルキル基、(C~C18)-アルコキシ基、ヒドロキシル基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルオキシ基、トリフルオロメチル基、フェニル基、4-メトキシフェニル基、フェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、ベンジル基、4-メトキシベンジル基、ベンジルオキシ基、4-メトキシベンジルオキシ基、ビフェニリル基、ジフェニリルオキシ基、ナフチル基、ナフトキシ基、モノ-(C~C)-アルキルアミノ基、ジ-(C~C)-アルキルアミノ基、フェニルアミノ基、(C~C)-アルキル-フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、(4-メトキシフェニル)アミノ基、((C~C)-アルキル)-(4-メトキシフェニル)アミノ基、ビス(4-メトキシフェニル)アミノ基、ピペリジル基、3,5-ジメチルピペリジル基、インドリニル基、モルホリニル基、2,6-ジメチルモルホリニル基、チオモルホリニル基、アザシクロヘプチル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、1,2,3,4-テトラヒドロキノリル基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル基、フェナジニル基、カルバゾリル基、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリル基、又は10,11-ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニル基から選択される置換基である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフォトクロミック縮合ナフトピラン。
【請求項5】
前記基Rは、水素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、(C~C)-チオアルキル基、(C~C)-アルコキシ基、ヒドロキシル基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルオキシ基、トリフルオロメチル基、フェニル基、4-メトキシフェニル基、フェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、ベンジル基、4-メトキシベンジル基、ベンジルオキシ基、又は4-メトキシベンジルオキシ基から選択される置換基である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフォトクロミック縮合ナフトピラン。
【請求項6】
あらゆる種類のプラスチックの製造における、請求項1~5のいずれか一項に記載の1種以上のフォトクロミック縮合ナフトピランの使用。
【請求項7】
眼科用途のためのプラスチックの製造における、請求項1~5のいずれか一項に記載の1種以上のフォトクロミック縮合ナフトピランの使用。
【請求項8】
光学レンズ及びあらゆる種類の眼鏡(例えば、矯正眼鏡、運転用眼鏡、スキー用ゴーグル、サングラス、オートバイ用ゴーグル)のためのレンズの製造における、
イザー(例えば、保護用ヘルメットのバイザー)の製造における、又は
車両及び建築部門における日除け(例えば、窓、保護用シェード、カバー、屋根)の製造における、
請求項に記載の1種以上のフォトクロミック縮合ナフトピランの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起後に濃色化の深さを損なうことなく非常に迅速な淡色化速度を実現するために使用することができる特定の置換基Rを有する新しいフォトクロミック縮合ナフトピラン系、そしてまた、あらゆる種類のプラスチックにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、UVA光、特に太陽光線を照射すると色が可逆的に変化する様々なクラスの色素が知られている。これは、これらの色素分子が光エネルギーによって励起状態(「開放型」)に遷移し、エネルギーの供給が中断されると再びその状態を離れて元の状態(「閉鎖型」)に戻ることを原因とする。これらのフォトクロミック色素の中には、ピラン核構造を有する様々な系があり、従来技術において様々な母核となる系及び置換基と共に既に記載されている。
【0003】
ピラン、特にナフトピラン及びこれらに由来するより大きな環系が、現在最も広く扱われているクラスのフォトクロミック化合物である。最初の特許は、遡ること1966年に出願されたが(特許文献1)、眼鏡レンズでの使用に適していると思われる化合物を開発することができたのは1990年代になってからであった。適切なクラスのピラン化合物は、例えば、2,2-ジアリール-2H-ナフト[1,2b]ピラン又は3,3-ジアリール-3H-ナフト[2,1-b]ピランであり、これらの化合物は励起形で黄色から赤色までの様々な濃色を有する。
【0004】
これらの母核となる系から派生して、より一層大きな環系のおかげでより長い波長で吸収を示し、紫色及び青色の濃色を生ずる縮合ナフトピランに大きな関心が持たれている。これらの目的のために典型的に使用されるのは、オルト位に追加の架橋を有するベンゼン環であり、本明細書に示される本発明の化合物では、式(I)の化合物については置換基R及びRを有する架橋、又は式(II)の化合物については置換基R10、R11、及びR12を有する架橋である。
【0005】
本発明の式(I)の化合物の場合のように単一原子の架橋が存在する場合に、結果として、ナフトピランに縮合された5員環がもたらされる。炭素架橋原子(「インデノナフトピラン」)についての例は、特許文献2及び特許文献3に見られ、また酸素架橋原子についての例は、特許文献4に見られる。
【0006】
特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、及び特許文献10には、インデノナフトピラン核構造に縮合された少なくとも1つの更なる環系を含む化合物が記載されている。
【0007】
本発明の式(II)の化合物の場合のように2原子の架橋が存在する場合に、結果として、ナフトピランに縮合された6員環がもたらされる。2個の炭素原子から構成される架橋を有する化合物は、特許文献11に記載されている。より最近の関連出願は、特許文献12、そしてまた特許文献13である。
【0008】
特許文献14には、特許文献15及び特許文献16と同様に、1個の炭素原子及び1個の酸素原子から構成される2原子の架橋を有する化合物が記載されている。
【0009】
特許文献17に記載される系としては、比較的長いポリアルコキシ置換基を有するインデノナフトピラン系(更なる縮合なし)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第3,567,605号
【文献】欧州特許第0792468号
【文献】欧州特許第0906366号
【文献】欧州特許第0946536号
【文献】欧州特許第0912908号
【文献】欧州特許第2457915号
【文献】欧州特許第2471794号
【文献】欧州特許第2684886号
【文献】欧州特許第2788340号
【文献】欧州特許第2872517号
【文献】欧州特許第1119560号
【文献】欧州特許第2829537号
【文献】欧州特許第3010924号
【文献】欧州特許第1097156号
【文献】欧州特許第2178883号
【文献】欧州特許第2760869号
【文献】欧州特許第1112264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、励起後に濃色化の深さを損なうことのない非常に迅速な淡色化速度という点で区別されるフォトクロミック色素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、特許請求の範囲において特徴付けられた主題によって達成される。
【0013】
より詳細には、一般式(I)及び一般式(II):
【化1】
(式中、
上記基Rのみ又はR及びRの両方のいずれかは、互いに独立して、以下の部:
【化2】
を表し、
上記基R13は、水素又はメチル基であり、上記基R14は、水素、(C~C)-アルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、ナフチル基、tert-ブチルジメチルシリル基、又はtert-ブチルジフェニルシリル基から選択される置換基であり、nは、0から1までの整数であり、かつpは、3から50までの整数であり、
又は、R13がメチル基である場合に、R14は、部-(CH-CH-OR15であることもでき、その場合に、上記基R15は、水素、(C~C)-アルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はビフェニリル基から選択され得て、かつqは、1から20までの整数であり、かつ、
上記基R、R、及びRは、それぞれの場合に互いに独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、(C~C)-チオアルキル基、(C~C18)-アルコキシ基、ヒドロキシル基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルオキシ基、トリフルオロメチル基、フェニル基、4-メトキシフェニル基、フェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、ベンジル基、4-メトキシベンジル基、ベンジルオキシ基、4-メトキシベンジルオキシ基、ビフェニリル基、ジフェニリルオキシ基、ナフチル基、ナフトキシ基、モノ-(C~C)-アルキルアミノ基、ジ-(C~C)-アルキルアミノ基、フェニルアミノ基、(C~C)-アルキル-フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、(4-メトキシフェニル)アミノ基、((C~C)-アルキル)-(4-メトキシフェニル)アミノ基、ビス(4-メトキシフェニル)アミノ基、ピペリジル基、3,5-ジメチルピペリジル基、インドリニル基、モルホリニル基、2,6-ジメチルモルホリニル基、チオモルホリニル基、アザシクロヘプチル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、1,2,3,4-テトラヒドロキノリル基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル基、フェナジニル基、カルバゾリル基、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリル基、又は10,11-ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニル基から選択される置換基であり、
又は、上記2個の隣接する基R及びRは、部-V-(CH-W-であり、その場合に、V及びWは、互いに独立して、部-O-、-S-、-N(C~C)-アルキル-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-、又は-C(C-から選択され、rは1から3までの整数であるが、但し、この数値が2又は3である場合に、2個の隣接するCH基に縮合したベンゼン環が存在することもでき、V又はWは、上記それぞれ隣接するCH基と一緒に縮合ベンゼン環であることもでき、
又は、既に上記規定の通り、Rは、Rと同じ部であり、
上記基R、R、R、R、R、R10、R11、及びR12は、それぞれ互いに独立して、水素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、又はナフチル基から選択される置換基であり、ここで、mは、1から3までの整数であり、
又は、2個の隣接する基Rは、非置換又は一置換又は二置換であり得る縮合ベンゼン環を形成し、その場合に、上記置換基は、水素、(C~C)-アルキル基、(C~C)-アルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基、又はナフチル基から選択され得て、
又は、2個の隣接する基Rは、縮合ベンゾフラン環、縮合ベンゾチオフェン環、縮合2H-クロメン環、縮合3,3-ジメチルインデン環、又は縮合ジオキサン環を形成し、
又は、上記基R及びRは、これらの基に結合された炭素原子と一緒に3員~8員の炭素単環式環又はヘテロ単環式環を形成し、上記環に1個又は2個の芳香族環系又はヘテロ芳香族環系が縮合されていてもよく、その場合に、上記1つ以上の環系は、互いに独立して、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、及びカルバゾールから選択され、
又は、上記基R及びRは一緒になって部-(CH-を形成し、その場合に、sは1から3までの整数であるが、但し、この数値が2又は3である場合に、2個の隣接するCH基に縮合したベンゼン環が存在することもできる)のフォトクロミック縮合ナフトピランが提供される。
【0014】
本発明は、従来技術から(それぞれ、式(I)の化合物については特許文献9から、そして式(II)の化合物については特許文献13から)のフォトクロミック色素系へと特定の置換基Rを導入することによって、励起後に濃色化の深さを損なうことなく非常に迅速な淡色化速度を実現することができるという驚くべき知見に基づくものである。
【0015】
特定の置換基Rは、比較的長い線状のポリエチレンオキシ鎖及び/又はポリプロピレンオキシ鎖であり、これらの鎖は、任意にスクシニルエステル架橋を介してフォトクロミック色素に共有結合されている。これらの置換基はその長い鎖状構造により、明らかに色素分子をプラスチックマトリックスから効果的に遮るため、プラスチックマトリックスの極性及び化学的性質とは独立した環境が作り出され、その環境は、色素の励起した有色(開放)型に対するより低い安定化をもたらす。結果として、励起後に、フォトクロミック色素分子はより迅速にそれらの無色の基底状態に戻る、つまり、色素は励起後により迅速に淡色化する。特定の置換基Rの長い鎖状構造は色素分子を取り囲み、いわば、プラスチックマトリックスから色素を遮る保護壁を築く。置換基Rが特に効果的である理由は、これらがフォトクロミック色素の光不安定性中心の近く、したがって、それぞれ励起時に結合が切断され、淡色化時に再形成される位置の近くにあるためである。Rの鎖の極性は決定的な要因である。例えば、長いパラフィン鎖は全く効果を示さない。
【0016】
本発明の化合物の際立った特徴は、従来技術から(式(I)の化合物については特許文献9から、そして式(II)の化合物については特許文献13から)のフォトクロミック色素系へと特定の置換基Rを導入することによって、大幅に改善された淡色化特性を引き起こすことができることである。したがって、置換基Rの導入によって濃色化の深さが影響を受けないため、これらの色素系のフォトトロピック特性(phototropic properties)は大幅に改善され得る。置換基Rを有しない母核となる系と同様に、本発明の化合物は、UV硬化との優れた適合性の点で傑出している。それというのも、例えば、UV開始剤を有するアクリレートモノマーマトリックス中に導入される場合に、本発明の化合物は、強力なUV光によって開始されるマトリックスのラジカル重合を無事に乗り越えるからである。本発明の化合物はまた、非常に高い性能と非常に長い寿命を兼ね備えている。本発明の化合物はあらゆる種類のプラスチックで使用することができる。
【0017】
本発明の化合物の分子構造は、式(I)の化合物についてはインデノ-ナフトピラン核構造(置換基R、R、及びRを有する)を、又は式(II)の化合物についてはジヒドロナフト-ナフトピラン核構造(置換基R、R、R、R10、R11、及びR12を有する)を基礎とし、それぞれ光不安定性ピラン単位(置換基R、R、R、及びRを有する)を含む。フォトクロミック特性はこの分子構造に起因する。それというのも、光による励起により、ピラン単位内の酸素と2個のアリール置換基を有する炭素原子との間の結合が可逆的に切断されて、有色のメロシアニン系が生成されるからである。
【0018】
本発明の化合物は、Rの位置にヒドロキシル基を有する従来技術からの母核となる色素系から図3に従って合成される。
【0019】
スペクトル特性及びフォトクロミック特性を測定するために、等モル量の本発明の化合物及び従来技術からの化合物をアクリレートモノマーマトリックス中に溶解し、重合開始剤を添加した後に、温度プログラムを用いて熱重合にかけた。
【0020】
次に、こうして製造された試験片のフォトクロミックな濃色化及び淡色化の挙動(「動態図(kinetic diagram)」)を、DIN EN ISO 8980-3に従って調べた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一般式(I)の化合物、より具体的には以下の式(III)を有する化合物と、特許文献9からの従来技術からの対応する化合物との動態比較を示す図である。
図2】本発明の一般式(II)の化合物、より具体的には以下の式(IV)を有する化合物と、特許文献13からの従来技術からの対応する化合物との動態比較を示す図である。
図3】本発明の化合物の合成スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1及び図2に示される化合物の特定の分子構造を表1に示す。本発明の化合物1及び化合物2は、以下の表1に式(III)によって記載され、本発明の化合物3及び化合物4は、式(IV)によって記載される。
【0023】
図1及び図2は、濃色化の深さを損なうことのない淡色化速度に対する本発明の特定の置換基Rの明確な効果を実例として示している。
【0024】
【化3】
【0025】
【表1】
【0026】
本発明の化合物1及び化合物3は、置換基Rにおいて約16の平均鎖長を有する線状ポリエチレンオキシ鎖を有する。合成のための出発材料は、750の平均分子量を有する市販のポリエチレングリコールモノメチルエーテルである。ここでは、約16個のエチレンオキシ単位で最大値を有する種々の鎖長のガウス分布がある。
【0027】
本発明の化合物2及び化合物4は、置換基Rにおいて約17の平均鎖長を有する線状ポリプロピレンオキシ鎖を有する。合成のための出発材料は、1000の平均分子量を有する市販のポリプロピレングリコールである。ここでも、約17個のプロピレンオキシ単位で最大値を有する種々の鎖長のガウス分布がある。2-エトキシエチル末端基は、2-ブロモエチルエチルエーテルを使用する慣用のウィリアムソンエーテル合成によって導入される。
【0028】
淡色化速度の加速の効果は、上記の鎖長に関して観察することができるだけでなく、10個より少ない単位を有するより短い鎖でもその効果が示される。
【0029】
次に、図3の合成スキームによれば、本発明の化合物はこれらの化合物から製造される。両方の種類の式について方法は同じであるため、図3には、2個のアリール置換基を有するピラン環のみが示されている(nは、請求項1における置換基Rの式を指す)。nが1である場合に、前述のより長鎖の出発化合物は、エステル合成によってフォトクロミック色素分子に共有結合される。スクシニル単位におけるカルボキシル基は、CDI(カルボニルジイミダゾール)を使用して活性化され、これにより、非常に穏やかなエステル合成が可能となる。nが0である場合に、より長鎖の出発化合物は最初にトシレート(Ts)の形で活性化されねばならない。これに続いて、慣用のウィリアムソンエーテル合成によるフォトクロミック色素分子への共有結合が行われる。
【0030】
本発明の化合物があらゆる種類のプラスチックに使用される場合に、添加剤によってフォトクロミック特性を更に改善することができる。好ましい添加剤は、置換基Rと同じ構造単位から構築され、したがって置換基Rと同様に光不安定性色素分子の化学的環境を構成することができる化合物であるが、これらは拡散安定的に固定されていない。したがって、好ましい例は、様々な鎖長の線状ポリエチレングリコール、様々な鎖長の線状ポリプロピレングリコール、エチレンオキシ単位及びプロピレンオキシ単位から交互に構築されたオリゴマー、そしてまたエチレンオキシ単位及びプロピレンオキシ単位から構成されるブロックコポリマーである。使用される末端基は、ヒドロキシル基以外に、アルキル基又は他の基であることもできる。
【0031】
本発明の更なる主題は、あらゆる種類の、より詳細には眼科用途のためのプラスチックにおける、光学レンズ及びあらゆる種類の眼鏡、例えば、矯正眼鏡、運転用眼鏡、スキー用ゴーグル、サングラス、オートバイ用ゴーグルのためのレンズにおける、保護用ヘルメット等のバイザーのための、並びに車両及び建築部門における、窓、保護用シェード、カバー、屋根等の形の日除けのための、1種以上のフォトクロミック縮合ナフトピラン系の使用に関する。あらゆる種類のプラスチックで使用する場合に、あらゆる種類の補助剤を本発明の化合物と一緒に使用することができる。既に上記のように、線状ポリエチレングリコール、線状ポリプロピレングリコール、エチレンオキシ単位及びプロピレンオキシ単位から交互に構成されるオリゴマー、そしてまたエチレンオキシ単位及びプロピレンオキシ単位から構成されるブロックコポリマーが好ましい。オリゴマー添加剤の末端基は、ヒドロキシル基以外に、アルキル基又は他の基であることもできる。
図1
図2
図3