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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】低血糖症の治療用経鼻粉末製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/26 20060101AFI20231010BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20231010BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20231010BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20231010BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231010BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231010BHJP
   A61M 15/08 20060101ALI20231010BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20231010BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231010BHJP
   C07K 14/605 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
A61K38/26 ZNA
A61K47/24
A61K47/40
A61K47/12
A61K9/19
A61K9/14
A61M15/08
A61P3/08
A61P43/00 111
C07K14/605
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021067899
(22)【出願日】2021-04-13
(62)【分割の表示】P 2019080836の分割
【原出願日】2016-02-16
(65)【公開番号】P2021107418
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】62/117,031
(32)【優先日】2015-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】マントリプラガダ,サンカラム ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ピシュ,クロード エー.
(72)【発明者】
【氏名】ファン ベツブルッヘ,ヨー ヤン フィリップ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第92/016196(WO,A1)
【文献】特開平11-292787(JP,A)
【文献】特表2012-513412(JP,A)
【文献】特開平09-025238(JP,A)
【文献】特許第6522144(JP,B2)
【文献】特表平01-501550(JP,A)
【文献】特開昭58-189118(JP,A)
【文献】特表2009-518315(JP,A)
【文献】Int J Pharm,1996年,Vol.132,p.189-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/26
A61K 47/24
A61K 47/40
C07K 14/605
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカゴン(配列番号1)、リン脂質、およびβ-シクロデキストリンを含む粉末組成物であって、
グルカゴン:リン脂質:β-シクロデキストリンの重量比が1:1:8である、
粉末組成物。
【請求項2】
前記リン脂質が、ジデシルホスファチジルコリン、リゾラウロイルホスファチジルコリン、ジオクタノイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、およびこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項3】
前記リン脂質が、ジデシルホスファチジルコリンである、請求項2に記載の粉末組成物。
【請求項4】
前記リン脂質が、リゾラウロイルホスファチジルコリンである、請求項2に記載の粉末組成物。
【請求項5】
前記リン脂質が、ジオクタノイルホスファチジルコリンである、請求項2に記載の粉末組成物。
【請求項6】
前記リン脂質が、ジラウロイルホスファチジルグリセロールである、請求項2に記載の粉末組成物。
粉末組成物。
【請求項7】
クエン酸ナトリウムまたはクエン酸をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の粉末組成物。
【請求項8】
前記クエン酸ナトリウムまたはクエン酸の量が、前記粉末組成物の全重量の10重量%以下である、請求項に記載の粉末組成物。
【請求項9】
水をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の粉末組成物。
【請求項10】
前記粉末組成物中の水の量が、前記粉末組成物の全重量の5重量%以下である、請求項に記載の粉末組成物。
【請求項11】
粉末製剤用経鼻アプリケーターであって、前記アプリケーターが、粉末製剤容器と前記容器に含まれる粉末製剤とを含み、前記粉末製剤が請求項1~10のいずれか一項に記載の粉末組成物である、アプリケーター。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の粉末組成物を調製する方法であって、
前記粉末の少なくとも一部が、粉末X線回折によって測定されるXRPDメソピークによって特徴付けられる相で存在し、前記方法が、
a.水溶性担体中で前記グルカゴン(配列番号1)と前記リン脂質との第一混合物を形成する工程であって、前記リン脂質が臨界ミセル濃度以上の濃度で存在する、工程;
b.前記β-シクロデキストリンを前記第一混合物に加えて、第二混合物を形成する工程;
c.前記第二混合物を乾燥させて、固形組成物を形成する工程;および
d.前記固形組成物を処理して、均一な粉末を製造する工程であって、前記均一な粉末が、前記粉末の少なくも一部をXRPDメソピークによって特徴付けられる相で含む、工程;
を含む、方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の粉末組成物を調製する方法であって、前記方法が、
e.水溶性担体中で前記グルカゴン(配列番号1)と前記リン脂質との第一混合物を形成する工程であって、前記リン脂質が臨界ミセル濃度以上の濃度で存在する、工程;
f.前記β-シクロデキストリンを前記第一混合物に加えて、第二混合物を形成する工程;
g.前記第二混合物を乾燥させて、固形組成物を形成する工程;および
h.前記固形組成物を処理して、均一な粉末を製造する工程;
を含む、方法。
【請求項14】
前記第二混合物の乾燥が、前記第二混合物を凍結乾燥させるか又は噴霧乾燥させることによって実施される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
低血糖症に罹患している個体における低血糖症を治療する方法に用いる医薬品であって、
前記医薬品が、請求項1~10のいずれか一項に記載の粉末組成物を含み、
前記方法が、請求項1~10のいずれか一項に記載の粉末組成物を前記個体に投与することを含み、前記粉末組成物が、治療的有効量で、粉末として前記個体の鼻粘膜へ投与される、医薬品。
【請求項16】
前記粉末組成物が前記個体の一方の鼻孔にのみ投与される、請求項15に記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、低血糖症の治療、特に、重度低血糖症の治療に有用な、経鼻投与用のグルカ
ゴンまたはグルカゴン類似体を含む粉末製剤に関する。本出願は、本粉末製剤の製造方法
と本粉末製剤を使用するためのデバイスおよび方法とにさらに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は西欧諸国の多くで流行の割合に達していて、多数の発展途上経済圏で重大且つ
増大中の公衆衛生懸念事項である。世界的には、約2億8千5百万の糖尿病者がおり、そ
の数は2030年までに4億3千8百万に到達すると予想されている(IDF Diab
etes Atlas,2009)。
【0003】
糖尿病合併症は慢性的な血糖値の上昇(過血糖)を通常伴っており、その結果、心臓病
、腎臓病、眼病、手足の切断、および神経障害が起こる。残念なことに、糖尿病関連過血
糖を治療するのに使用する医薬品の使用に伴うとても現実的で重大な合併症がある。血糖
値を減少させるために使用する治療の最も一般的な合併症の一つが低血糖症(低血中糖)
であり、インスリンで治療中の患者に見られる頻度が最も高く(1型糖尿病の全ての人と
2型糖尿病患者の約30%)、また、スルホニル尿素治療を受けている2型糖尿病患者に
おいても見られる。実際、低血糖症の障壁が無かったならば、糖尿病者はおそらく正常な
血糖値であることができ、従って、過血糖に伴う合併症を回避できるであろう(Crye
r,2002)。
【0004】
エピソードの重症度に依存して、低血糖症は広範囲の身体的問題を引き起こし、その範
囲は、虚弱、めまい、発汗、悪寒、および空腹感からより重度な症状(例、霧視、行動変
化、発作、昏睡、さらに死)まである。低血糖症の身体的影響に加えて、有意な精神的影
響もあり、それには、当惑、別のエピソードの恐怖、高度の不安、および、低度の全体的
幸福であって、グルコースの制御と生活の質に悪影響が出るものが含まれる(Deary
、2008)。
【0005】
意識のある人の重度低血糖症は、炭水化物(好ましくは、グルコース錠剤または等価物
)の経口摂取によって治療されることが期待される。病院施設環境の外部にいる意識のな
い個体の重度低血糖症に関して推奨される治療は、1mgのグルカゴンを筋肉内(IM)
または皮下(SC)注射することである。専門的医療補助が存在し、静脈内が利用できる
意識のない個体の重度低血糖症に関しては、デキストロースの静脈内が推奨される。全て
のケースで、一旦低血糖症が解消されたならば、患者に炭水化物の経口投与を利用させる
ようにして完全に回復させて、そして、低血糖症が繰り返されるのを防ぐべきである。
【0006】
グルカゴンは、病院施設環境の外部と内部の両方で重度低血糖症の非常に効果的な治療
であるが、注射による投与直前に希釈剤と混合しなければならない粉末としてのみ現在利
用可能である。これは、インスリンを注射している糖尿病患者にとっては比較的容易だと
思われる手順であるが、患者は自己で処置することは無い。なぜなら、当然、重度低血糖
症は患者が第三者の手助けを必要とする低血糖エピソードであるからだ(Cryer,2
009)。糖尿病患者が低血糖昏睡中または低血糖関連痙攣に罹患しているような緊急事
態に直面する任意の非医療従事者にとっては、現状の注射用グルカゴンの再構成と注射は
、ミスの可能性をはらむ複雑で威圧的な手順である。
【0007】
実際、オーストラリアの研究者はある研究を公表した。その研究では、糖尿病を有する
子供と若者の親が、想定緊急事態において、現在利用可能なグルカゴンキットの一つ(G
lucoGen Hypokit、Novo Nordisk)を使用した(Harri
s et al,2001)。各親は、午前3:00に子供が意識不明であると想定する
ように指示された。親達は、その後、未開封の緊急用グルカゴンキットを渡されて、その
医薬品を大腿を想定する包んだ肉片へ投与するよう指示された。11人の糖尿病医療専門
家(5人の内分泌科医と6人の糖尿病教育者)の小グループが代替コントロールを務めた
【0008】
この研究に参加した136人の親の中で、106人が糖尿病の平均期間が4.7年の1
0代の子の親であり、30人が糖尿病の平均期間が2.4年のより若い子供の親であった
。90%以上が、グルカゴンの使用に関して以前訓練を受けたと申告した。これらの親の
69%全てが、現状のグルカゴン緊急用キットの取り扱いに困難を体験した。困難には、
パッケージを開封すること、針のさやの除去、成分を混合すること、針を曲げることの困
難が含まれる。平均すると、これらの親は手順を完了するのに2分30秒を必要とした(
その範囲は30秒から>12分)。また、参加者の6%は注射を完全に放棄し、4%は空
気のみ又は希釈剤のみを注射した。対照的に、糖尿病専門家達は、その手順を1分17秒
で実行した(範囲は1~1.75分)。このサンプル集団の親達に観察されたミスの数は
、これが予定された模擬訓練で本当の緊急事態ではないという事実を特に鑑みると面食ら
うものである。
【0009】
このグルカゴン緊急用キットの使用に伴う困難さは、カナダ安全医薬慣行研究所(In
stitute for Safe Medication Practices Ca
nada)(ISMP)の最近の報告(ISMPカナダ安全性会報、2010年)で確証
される。2010年9月のISMP報告書は、3回の別々の出来事を記述していて、その
中では、投与前に希釈剤で再構成したグルカゴン粉末を用いること無しに、希釈剤自体を
投与したものがある。この結果、その報告書によると、重度低血糖症の危機を経験する個
体へ意図された用量のグルカゴンを送達することに完全に失敗し、その結果、そのケース
の一つでは患者に害が生じた。
【0010】
102人の1型糖尿病患者に電話調査を実施して、現状で利用可能なグルカゴン緊急用
キットに関する意見を確かめた(Yanai,1997)。ほとんどの患者(67%)は
、もし利用可能ならば、鼻腔内投与型グルカゴンを好むであろうと述べ、これらの患者の
82%全てが、家族メンバー、教師、および同僚は鼻腔内経路によって緊急用治療剤を投
与することを好むであろうと述べた。同様に、重度低血糖症のエピソードに罹患する患者
を治療するのにしばしば最初に呼び出される救急隊員の中では、注射投与経路に関する大
きな懸念がある。刃物の使用に付きまとう、血液暴露事故、針刺し事故、およびそれに伴
う重篤な感染症への感染可能性の非常に現実的な危険性がある(Leiss J 200
6)。この文脈内では、かなりの数の救急専門家が、緊急患者ケアを向上し、その緊急事
態に効果的に対応可能なケアワーカーのプールを増やしながら患者と介護者の安全を増加
させる手段としての鼻腔内を含む非侵襲的投与経路を積極的に模索している(Curra
n,2007)。
【0011】
これらの考えが明らかにするのは、緊急事態におけるグルカゴン投与への現在のアプロ
ーチが欠けていて、そして、グルカゴンを送達して重度低血糖症を治療するための代替的
アプローチの実際の必要性が存在することである。
【0012】
鼻腔内投与を介するグルカゴン送達への各種アプローチが提案されてきたが、グルカゴ
ン注射に対する承認済み代替物は利用可能になっていない。一般的に、これらのアプロー
チは二群に分けることができる(液体製剤を投与することを利用するもの、および、何ら
かの型の乾燥製剤を利用するもの)。
【0013】
液体製剤群の中には、Pontiroli(1983)、Pontiroli(198
5)、Freychet(1988)、Pontiroli(1989)、Pontir
oli(1993)、およびPacchioni(1995)において使用される組成物
は、鼻の中に噴霧されることを必要とする製剤が全てであった。より最近では、Sibl
ey et al.,2013は、病院外環境での患者において再構成済みグルカゴン溶
液を鼻腔内に噴霧することによって、注射用グルカゴンとして意図されるものを使用する
のに成功したことを報告した。
【0014】
グルカゴンは液体状態で安定ではないので、これらの研究で使用された液体組成物は使
用直前に再構成される必要があったし、従って、重度低血糖症を治療する緊急使用には理
想的ではない。さらに、これらの研究の多くでは、これらの組成物の投薬直後に深く息を
吸う必要があった。重度低血糖症患者はしばしば意識が無いか又は昏睡状態でさえもある
ので、患者達に息を深くすうことを頼むことはできない。したがって、これらの組成物は
、重度低血糖症の治療用鼻腔内送達に理想的ではないし、非医療従事者による針の使用に
関与し且つ使用前に調製が必要な注射用製剤の課題を克服することはない。
【0015】
第二群内では、米国特許第5,059,587号はグルカゴンを含む生理活性ペプチド
の経鼻投与用粉末を開示する。これらの粉末は、吸収促進剤として、水溶性有機酸を含む
【0016】
Jorgensen et al.,1991は、「経鼻送達用グルカゴン粉末状製剤
」を開示した。この製剤は、グルカゴン、ジデシルホスファチジルコリン(DDPC)、
およびα-シクロデキストリン(α-CD)を含むことが開示され、そして、血漿中グル
コースと血漿中グルカゴンの増加に対して用量依存的応答を提供することが報告されてい
る。この製剤の製法または組成物量は、この参考文献には開示されていない。
【0017】
Jorgensen1991製剤またはHypoGon(登録商標)Nasal(No
vo Nordisk)は、いくつかの以下の試験で使用される材料として同定される。
そして、これらの報告の一つでは、その製剤はグルカゴン:DDPC:α-CDが5:1
0:85の重量比の組成物を有すると言われている。これらの試験では、Jorgens
en1991粉末製剤の成人への鼻腔内投与が、低血糖症成人の血漿中グルコース濃度の
増加を示すと報告されている。これらの試験では、グルコース値が投薬後に増加して、投
薬後約30分でプラトーに達した。対照的に、これらの試験でのグルカゴン注射治療は、
投与時から少なくとも90分までグルコース値が継続して増加した(Hvidberg,
1994;Rosenfalck,1992)。低血糖症の子供へのJorgensen
1991粉末製剤の鼻腔内投与が、投薬後すぐに血漿中グルコース濃度を増加させ、投薬
後25~30分でピーク値に達し、その後、グルコース値が減少したことが報告されてい
る。対照的に、子供へのグルカゴン注射治療の結果、血漿中グルコース値が少なくとも4
5分間上昇継続した(Stenninger,1993)。
【0018】
Sakr,1996は、グルカゴンとジメチル-β-シクロデキストリン(DMβCD
)を含むスプレー製剤と粉末製剤の比較を報告する。経鼻スプレーは、市販のグルカゴン
を、2または5%w/vのDMβCDを含む「製造元の溶媒」に溶解させることによって
調製された。粉末は、そのスプレー用溶液を凍結乾燥させることによって得られた。
【0019】
Teshima et al(2002)では、グルカゴンと微結晶セルロースを1:
69の比で含む粉末を鼻腔内投与する際に、健常ボランティアで1.56mmol/L(
28.08mg/dL)の最大血漿中グルコース増加が見られた。また、粉末形態が少な
くとも84日間、5℃と25℃で安定であることも報告した。インスリン誘導性低血糖症
患者における鼻腔内用製品に関しては、ほんの1.5mmol/Lの増加では、その患者
を正常な血糖値へ引き戻すには不十分である可能性がある。また、粉末(すなわち、1:
69の比で70mgの製剤)の容量は、かなりのもので、そして、利用可能なデバイスで
使用するには多すぎる場合がある。
【0020】
Matilainen et al(2008,2009)は、39週までの間、温度
や湿度を増加させて、グルカゴン/γ-CD粉末およびグルカゴン/ラクトース粉末の固
相状態安定性と溶解性を調査した。そして、グルカゴン/γ-CD粉末の固相状態安定性
がより優れていた。この粉末は、鼻腔内投与には用いなかった。
【0021】
Endo et al(2005)は、肺内投与用のグルカゴンの乾燥粉末吸入器中の
賦形剤および担体の両者としてのエリスリトールの使用を報告した。その粉末は、ミクロ
化したグルカゴン粒子と賦形剤をより大きな担体粒子と混合することによって製剤化した
。肺胞に沈着させてその後全身に吸収させることを実現するために、グルカゴンの乾燥粉
末吸入剤(DPI)のサイズを減少させて、塊の直径中央値が、レーザー回折分析によっ
て測定すると1~6ミクロンになるようにした。
【0022】
Onoue et al(2009)は、肺吸入用グルカゴン乾燥粉末吸入器中にクエ
ン酸を加えることが、溶解挙動を改善したが、固相状態安定性を害しなかったことを報告
した。クエン酸を含むグルカゴン乾燥粉末吸入剤の気管内投与(ラットにおいて50μg
/kg)が、クエン酸なしにグルカゴンを吸入した場合と比べて、ラットにおいて2.9
倍より強力な抗過血糖効果を導いた。Endo(2005)とOnoue(2009)の
両者はグルカゴンの現状の肺内送達を開示する。重度低血糖症患者は無意識または非常に
混乱している場合があるので、患者達は肺内送達を確保するために深く息を吸うことが期
待できない可能性がある。したがって、グルカゴンの肺内送達は重度低血糖症の治療用に
は適切ではない。
【0023】
これらの試みにも拘らず、重度低血糖症の治療のために経鼻粉末剤を利用してグルカゴ
ンを投与するような製品は、現在、患者に利用可能ではない。
【発明の概要】
【0024】
本発明の第一の側面によると、グルカゴンまたはグルカゴン類似体の粉末製剤が提供さ
れる。本粉末組成物は、グルカゴンまたはグルカゴン類似体、シクロデキストリン、およ
びリン脂質界面活性剤を含み、そして、前記粉末の少なくとも一部が、粉末X線回折によ
って測定されるXRPDメソピークによって特徴付けられる相で存在するように製剤化さ
れる。
【0025】
さらに特定の実施形態では、本粉末組成物は、
(a)5~15重量%のグルカゴンまたはグルカゴン類似体;
(b)5~51重量%のリン脂質界面活性剤;
(c)44~90重量%のシクロデキストリン;および
(d)任意に、10重量%以下の低分子量有機酸またはそのエステルの医薬的に許容可
能な水溶性塩からなる。
【0026】
本発明の第二の側面によると、粉末製剤用の経鼻アプリケーターが提供される。本アプ
リケーターは、粉末製剤容器と前記容器内に含まれる本発明に係る粉末製剤とを含む。
【0027】
本発明の第三の側面によると、本発明の粉末製剤の製造方法が提供される。本方法は、
(a)水溶性担体中でグルカゴンと界面活性剤の第一混合物を形成する工程であって、
前記界面活性剤が臨界ミセル濃度以上の濃度で存在する、工程;
(b)シクロデキストリンを前記第一混合物に加えて、第二混合物を形成する工程;
(c)前記第二混合物を乾燥させて、固形製剤を形成する工程;および
(d)前記固形製剤を処理して、均一な粉末剤を製造する工程であって、前記均一な粉
末剤がXRPDメソピークによって特徴づけられる相で前記粉末の少なくも一部を含む、
工程を含む。
【0028】
特定の実施形態では、前記第二混合物の乾燥は、前記第二混合物を凍結乾燥させるか又
は噴霧乾燥させることによって実施される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】グルカゴン:DPC:β-CDの重量比が10:10:80の粉末製剤を介して1mg用量のグルカゴンをイヌに鼻腔内投与した際のmmol/L単位の経時的血漿中グルコース濃度。
図2】グルカゴン:DDPC:β-CDの重量比が10:10:80の粉末製剤を介して1mg用量のグルカゴンをイヌに鼻腔内投与した際のmmol/L単位の経時的血漿中グルコース濃度。
図3】グルカゴン:LLPC:β-CDの重量比が10:10:80の粉末製剤を介して1mg用量のグルカゴンをイヌに鼻腔内投与した際のmmol/L単位の経時的血漿中グルコース濃度。
図4】グルカゴン:D8PC:β-CDの重量比が10:10:80の粉末製剤を介して750μg用量のグルカゴンをイヌに鼻腔内投与した際のmmol/L単位の経時的血漿中グルコース濃度。
図5】グルカゴン:DLPG:α-CDの重量比が5:25:70の粉末製剤を介して750μg用量のグルカゴンをイヌの一つの鼻孔に鼻腔内投与した際のmmol/L単位の経時的血漿中グルコース濃度。
図6】重量比が10:10:80のグルカゴン:DPC:β-CDとグルカゴン:DDPC:β-CDの粉末製剤の粉末X線回折図。
図7】インスリン誘導性低血糖症の1型糖尿病成人を鼻腔内用グルカゴンとグルカゴン注射で処置した場合の平均血漿中グルコース濃度。
図8A】1型糖尿病の12~17歳の子供を鼻腔内用グルカゴンとグルカゴン注射で処置した場合の平均血漿中グルカゴン濃度。上の線は筋肉内で、下の線は鼻腔内のものである。
図8B】1型糖尿病の12~17歳の子供を鼻腔内用グルカゴンとグルカゴン注射で処置した場合の平均血漿中グルコース濃度。上の線は筋肉内で、下の線は鼻腔内のものである。
図9A】鼻づまりのある成人(一番上の線)と鼻づまりの無い成人(一番下の線)と鼻づまりがあって抗鼻閉薬で前もって処置した成人(真ん中の線)の平均血漿中グルカゴン濃度。
図9B】鼻づまりのある成人(一番上の線)と鼻づまりの無い成人(一番下の線)と鼻づまりがあって抗鼻閉薬で前もって処置した成人(真ん中の線)の平均血漿中グルコース濃度。
図10図10:経鼻粉末製剤用の例示的塗布装置(Aptarデバイス)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
商業的価値のある鼻腔内用粉末製剤の望ましい特性のいくつかを以下に挙げる。
・ 鼻腔内投与デバイスによる均一用量送達能
・ 小型粒子が有意に僅かしかないことにより肺への意図しない投与を排除すること
・ 一つの鼻孔へ単回用量として治療効果を実現するのに必要な薬物の総用量を提供する
のに十分な薬物含有量
・ 数十ミリグラムの総用量または送達デバイスにより可能な最大量を送達するのに十分
な薬物含有量
・ アレルギーまたは風邪に伴う場合がある鼻づまりの存在にも関わらず効果的であるの
に十分な薬物含有量と吸収特性
・ 長期間、好ましくは少なくとも18ヶ月間外気環境下での保存中の安定性
・ 良好な安全性と許容性プロフィール
【0031】
鼻腔内用粉末製剤を開発するこれまでの試みは、一又は数個の前記望ましい特性が足り
ていない。
【0032】
本発明に記載される組成物は、三種類の必要成分(グルカゴンまたはグルカゴン類似体
、シクロデキストリン、およびリン脂質界面活性剤)を有する組成物において、これら所
望の特性のいくつか及び好ましくは全てを満たすように設計されている。
【0033】
グルカゴンおよびグルカゴン類似体
本願の明細書と特許請求の範囲に使用される「グルカゴン」は、以下の配列のポリペプ
チドを指す:
His-Ser-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr
-Ser-Lys-Tyr-Leu-Asp-Ser-Arg-Arg-Ala-Gln
-Asp-Phe-Val-Gln-Trp-Leu-Met-Asn-Thr(配列番
号1)。
【0034】
グルカゴンは、化学合成、組換えDNA技術によって生産、または自然発生源から抽出
可能である。用語「グルカゴン類似体」は、この配列の変異体であって、生体内で血糖の
増加を刺激する能力を保持するが、医薬的使用に関する効果(例、より高い活性、より高
い溶解性、またはより高い安定性)を提供する場合があるものである。
【0035】
自然配列の一つのアミノ酸がアラニンで置換されるグルカゴン類似体と同様に複数の置
換を有する類似体の例が、Chabenneら(2014年)に開示されていて、この文
献は参照により本明細書中に組み込まれる。3個のアミノ酸が修飾されて生物活性が向上
したグルカゴン類似体を生じる例示的類似体は、[Lys17,18,G1u21]グル
カゴンである。Zealand Pharmaは、多種のグルカゴン類似体を開示してい
て、その例は、米国特許出願公開第:20140080757号、2014001733
号、20130316941号、20130157935号、20130157929号
、20120178670号、20110293586号、20110286982号、
20110286981号、および20100204105号であり、これら文献は参照
により本明細書中に組み込まれる。これらの類似体は、グルカゴン受容体よりもGLP受
容体への結合親和性が高いことが報告されているが、それでも、グルカゴンの活性は保持
している。Zealand Pharmaはまた、ZP4207と指定される、低血糖症
治療用のグルカゴン類似体の臨床試験を開始した。米国特許出願公開第20130053
310号(参照により本明細書中に組み込まれる)は、低血糖症の治療に有用な他のグル
カゴン類似体を開示する。
【0036】
リン脂質界面活性剤
リン脂質は普遍的な生物膜成分であって、ヒトの身体の細胞と組織(例、鼻粘膜)の一
部となっている。細胞中で最も一般的なリン脂質界面活性物質は、ホスファチジルコリン
とホスホコリン(PC)であるが、ホスファチジルグリセロール(PG)も生物膜の重要
な成分となっている。
【0037】
PCとPGを本発明の製剤中で使用する場合がある。アシル基の一つを除去することに
よってジアシルPCまたはPGから由来するリゾリン脂質もまた、使用可能である。好ま
しいリン脂質は、水または酸性化水中で可溶であるが、医薬的に許容可能な共溶媒(例、
エタノール、ジメチルスルホキシド、またはN-メチルピロリドン)が必要な場合使用さ
れて、リン脂質の可溶性を向上させてもよい。
【0038】
本発明によると、本粉末製剤に採用可能な例示的リン脂質界面活性剤は、ドデシルホス
ホコリン(DPC)、1,2-ジデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DDPC
または「ジデシルホスファチジルコリン」)、1-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-
ホスホコリン(LLPCまたは「リゾラウロイルホスファチジルコリン」)、1,2-ジ
オクタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(D8PCまたは「ジオクタノイルホ
スファチジルコリン」)、および1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ(
1’-rac-グリセロール)(DLPGまたは「ジラウロイルホスファチジルグリセロ
ール」)である。
【0039】
好ましいリン脂質界面活性剤は、本粉末製剤の製造中に使用される濃度で二重膜という
よりはむしろミセルを形成するものである。これには、DPC、DDPC、LLPC、お
よびD8PCが含まれるが、DLPGは含まれない。
【0040】
一般的に、二重膜ではなくミセルが形成されることは、リン脂質界面活性剤の構造に基
づいて予想可能である。リン脂質界面活性剤は以下の二または三個の部分から成り立って
いる:リン含有コリンまたはグリセロール頭部、任意にグリセロール骨格、および一又は
二つのアシル鎖。そのアシル鎖の長さと一分子当たりのアシル鎖の数が、あるリン脂質が
ミセルまたは二重膜を形成するかどうかを決定するのに重要である。アシル鎖が一つだけ
存在する場合、DPCおよびLLPCではその単一アシル鎖には12個の炭素を有してい
るのであるが、アシル鎖の長さが14未満なので二重膜ではなくミセルが形成されやすい
。ジアシルリン脂質は、一分子当たり二本のアシル鎖を含む。各鎖の鎖長が12未満であ
る場合、ミセルが形成される傾向がある。DLPG、DDPC、およびD8PCは、ジア
シルリン脂質である。DLPGは、アシル鎖一本あたり12個の炭素を含み、二重膜を形
成する。DDPCは、アシル鎖一本あたり10個の炭素を含む。DDPCは、その濃度に
依存して二重膜またはミセルのいずれかを形成する(Marsh、1990年)。D8P
Cは、アシル鎖一本あたり8個の炭素を含み、大抵はミセルを形成する。
【0041】
本発明の特定の実施形態では、本製剤は、単一型のリン脂質界面活性剤を含む。別の実
施形態では、本製剤のリン脂質界面活性剤成分はリン脂質界面活性剤の混合物から製造可
能であり、その混合物は、例えば、上記界面活性剤の任意の二つ、三つ、または四つの合
剤を含む。
【0042】
シクロデキストリン
シクロデキストリンは、クラスとして、アミロース(デンプン)のように1→4結合で
繋がった5以上のα-D-グルコピラノシド単位から構成される。しかしながら、本願で
使用される用語「シクロデキストリン」は、より一般的で典型的なシクロデキストリンで
あって、その環中に6つ、7つ、または8つのグルコース残基を含んでコーン形状を作り
出すものを指す。つまり:
・ α(アルファ)-シクロデキストリン:6員糖環分子
・ β(ベータ)-シクロデキストリン:7員糖環分子
・ γ(ガンマ)-シクロデキストリン:8員糖環分子。
【0043】
α-CDは、臨床試験でNovo Nordiskによって、粉末製剤(HypoGo
n(登録商標)Nasal)中で使用された(StennigerとAman、1993
年;Rosenfalck、1992年)。α-CDの水溶性は約5重量%であることが
報告されている。
【0044】
二つの他のシクロデキストリン(一つはα-CDよりも水溶性が低いもの(β-CD、
1.85重量%);別のものはα-CDよりも水溶性が高いもの(HP-β-CD))は
また、本発明の組成物中での使用に適している。同様に、水中で十分に可溶なγ(ガンマ
)-シクロデキストリンも適している。
【0045】
本発明の組成物中のシクロデキストリンは、充填剤として働き、また、鼻粘膜表面に付
着して、そして、グルカゴンの吸収を補助する。鼻孔への送達の際に、シクロデキストリ
ン、つまり主成分(90重量%~70重量%)は、本粉末剤が粘膜表面に付着するのを助
ける。シクロデキストリンの可溶性が低ければ低いほど、本粉末剤は物理的粘膜付着性が
より長く続くと期待される。シクロデキストリンの可溶性特性に基づいて、粘膜付着性が
、β-CD>α-CD>HP-β-CDの順に減少すると予想される。このため、最も好
ましい充填剤はβ-CDである。
【0046】
本発明のシクロデキストリンを、個別に使用してもよいし、または、任意の二以上のシ
クロデキストリンの混合物として使用してもよい。
【0047】
粉末製剤
本発明の粉末製剤は、一つの鼻孔に単回用量で投与可能な粉末量でグルカゴンまたはグ
ルカゴン類似体の治療有効量を提供するのに効果的な量の三種類の成分(グルカゴンまた
はグルカゴン類似体、リン脂質界面活性剤、およびシクロデキストリン)を含む。特定の
実施形態では、本粉末組成物は、
(a)5~15重量%のグルカゴンまたはグルカゴン類似体;
(b)5~51重量%のリン脂質界面活性剤;
(c)44~90重量%のシクロデキストリン;および
(d)任意に、10重量%以下の低分子量有機酸またはそのエステルの医薬的に許容可
能な水溶性塩からなる。
【0048】
以下の実施例に反映されるように、この型の粉末製剤は、グルカゴンを鼻腔内投与する
のに使用する場合優れた特性を有する。しかしながら、Jorgensen1991/R
osenfalck1992/HypoGon(登録商標)Nasal製品の同様な成分
セットは、相当な成績を提供することはなかったし、ヒト被験者における初回試験後に明
らかに放棄された。
【0049】
当該技術分野における各種記載に基づくと、Jorgensen1991/Rosen
falck1992/HypoGon(登録商標)Nasal製品は、グルカゴン、DD
PC、およびα-CDを5:10:85の重量比で含んでいたと考えられる。これらの成
分をどのように合剤化したかについての情報提供はない。従って、本発明の製剤とこの製
剤の直接比較は不可能である。しかしながら、各製剤に関する利用可能なデータは、これ
ら製剤は異なっているという事実を説明する。重要なことには、Jorgensen19
91/Rosenfalck1992に記載される製剤は、用量の半分を各鼻孔に投与す
るようにして用量を分割して投与された。これは、実務上の使用条件下で、臨床研究設定
で比較的容易に実施可能である一方で、このことは、非医療介護者が重度低血糖症のエピ
ソードを治療する際の救急措置を有意に複雑化する。というのも、救急医薬の二回の投薬
が必要とされ得るからだ。50%の処置患者がくしゃみを起こしたことも報告される。こ
の率は、本発明に記載される製剤を用いて観察されたもの(2%未満)よりもずっと高い
【0050】
Jorgensen1991粉末製剤の成人への鼻腔内投与が、低血糖症成人の血漿中
グルコース濃度の増加を示すと報告されている。インスリン誘導性低血糖症を有する健常
成人では、グルコース値が投薬後に増加して、投薬後約45分でプラトーに達した。対照
的に、この試験でグルカゴンの注射治療は、投与時から少なくとも90分までの間グルコ
ース値が継続して増加した(Hvidberg、1994年)。インスリン誘導性低血糖
症の1型糖尿病成人で実施された別の試験では、グルコース値は投薬後増加し、グルカゴ
ン注射の場合少なくも90分であったのに比べて、鼻腔内投薬後約30分でプラトーに達
した(Rosenfalck、1992年)。
【0051】
Jorgensen1991/Rosenfalck1992製剤で観察されたグルコ
ースプロフィールと対照的に、本発明中に記載される粉末製剤を用いて得られたデータは
、血漿中グルコース濃度が投薬後少なくとも90分間上昇し続けることを示す(図7、下
の線)。示されるように、これは、同じ時間経過で筋肉内グルカゴンを用いて得られた結
果に相当する(図7、上の線)。
【0052】
低血糖症が誘導された1型糖尿病の子供にJorgensen1991/Rosenf
alck1992粉末製剤を鼻腔内投与すると、血漿中グルコース濃度が、投薬後すぐに
上昇して投薬後25~30分でピーク値に達し、その後、グルコース値が減少した。これ
と比較すると、血漿中グルコース値はSC注射後少なくとも45分間上昇し続けたことが
報告されている(Stenninger、1993年)。処置後のグルカゴン値のピーク
が、鼻腔内投薬後約10分で起こった(Rosenfalck、1992年;Stenn
inger、1993年)。Jorgensen1991/Rosenfalck199
2製剤で観察されたグルコースプロフィールと対照的に、本発明中に記載される粉末製剤
を用いて(12~<17歳の)子供で得られたデータは、血漿中グルコース濃度が投薬後
少なくとも60分間上昇し続けることを示す(図8B)。また、血漿中グルカゴン濃度の
ピークは投薬後約20分まで起こらなかった(図8A)。
【0053】
重度低血糖症のエピソードが予想不能で、鼻づまりに影響を受けるインスリン使用患者
に起こり得るので、この状況での本発明の粉末製剤のPKとPDを評価する試験を実施し
た。実験例11に記載され、図9Aと9Bに示されるように、本発明の経鼻粉末剤を用い
る治療から生じる薬物動態と薬動力学は、鼻づまりによる悪影響を受けない。このことは
、鼻づまりに罹患している可能性のある人々における重度低血糖症のエピソードを治療す
る本発明の有用性を支持する。鼻づまりの無い人々において観察されたように、血漿中グ
ルカゴン値がピークを迎える時間は、投薬後約20分であった。Jorgensen19
91/Rosenfalck1992製剤が、風邪または季節性アレルギー性鼻炎に罹患
する人々に見られ得る鼻づまりの人を治療するのに使用可能であるかどうかを示すデータ
は報告されたことが全く無い。
【0054】
出願人は、結果のこれらの差異が特許請求の範囲の粉末製剤とJorgensen19
91/Rosenfalck1992粉末剤の間の構造差から生じると考えている。以下
に議論するように、リン脂質成分とシクロデキストリン成分の共可溶化の後に乾燥させて
粉末を形成することによって、それらの材料のいずれか単独のものに欠けている特徴的X
RPDピークを有する何らかの構造の形成を生じる。このピークは、グルカゴンをこの組
成物に加えた際にも保持される。任意の特定の理論に拘束されるわけではないが、グルカ
ゴンまたはグルカゴン類似体は、溶液中でミセル状リン脂質と結合し、乾燥後も何らかの
結合を維持していて、それは、リン脂質とシクロデキストリンによって形成される構造を
破壊することを無しにも関わらず起きていて、そして、この結合は経鼻吸収のためにグル
カゴンをより良く提示すると考えられる。従って、特許請求の範囲の粉末製剤は、この三
種類の成分の単純な付加混合物ではなく、むしろ、粉末X線回折技術によって検出可能な
ユニークな物理的構造を含んでいる。
【0055】
本発明の製剤の構造のこのような理解は、グルカゴンとリン脂質界面活性剤との相互作
用に関する既知情報と一貫している。グルカゴンはリン脂質:グルカゴンが約55:1の
モル比での複合体構造を形成する(Epand&Sturtevant、1982年)。
グルカゴンが50個のリン脂質分子と結合可能で、そのうち20個が密に結合することも
示されている(Epand&Sturtevant、1981年)。Boeschら(1
980年)とBrownら(1981年)は、DPCを含む各種ミセル状脂質に結合する
グルカゴンの立体構造がその脂質の型と大きくは独立であると報告している。その立体構
造は、良く決定され、そして、主として伸長されたものとして記載されている。DPC:
グルカゴン複合体のストイキオメトリは、40:1として報告された。また、ミセルに結
合するグルカゴンの立体構造は、脂質二重膜に結合するグルカゴンのものと非常に似てい
ると示唆される。
【0056】
リン脂質(DPC、DDPC、LLPC、D8PC、またはDLPG):グルカゴンの
モル比は重量比10:10であり、本発明の好ましい製剤のいくつかでは6:1~10:
1である。このことは、リン脂質が鼻腔内用粉末製剤中のグルカゴンに密に結合する可能
性が最も高いことを示唆する。
【0057】
本発明の粉末製剤の粉末X線回折試験は、本製剤中のミセル性またはメソフェーズ構造
と関係する可能性のあるピークの存在を明らかに示す。これらのピークの特徴は回折角度
が低いことである(DPCに関して2θが6.6°とDDPCに関して2θが7.3°)
図6)。これらと同じピークが、グルカゴンを含んでいないサンプル中にも見られ、本
願では、「XRPDメソピーク」と呼ぶ。このXRPDメソピークは、本発明の粉末製剤
に特徴的である。
【0058】
図6は、グルカゴン-DPC-β-シクロデキストリン組成物(ファイル474320
)とグルカゴン-DDPC-β-シクロデキストリン組成物(ファイル407476)に
関する粉末X線回折の結果を重ねて表示する。この回折パターンは、結晶性シクロデキス
トリンの存在と矛盾しない高い角度ピーク(例、2θが18~20°付近のピーク61)
を保持する。このことが予想外では無かった理由は、シクロデキストリンがリン脂質とグ
ルカゴンに比べて実質的に過剰に存在しているからだ。また、各パターンの低回折角度ピ
ークは2θがそれぞれ6.6°と7.3°である。これらのピークはまた、リン脂質をミ
セル形成濃度で可溶化し、シクロデキストリンを加え、その後、得られた溶液を乾燥させ
て製造するグルカゴン非含有サンプル中にも存在する。本願で使用される文章「粉末剤の
少なくとも一部が、粉末X線回折によって測定されるXRPDメソピークによって特徴付
けられる相で存在する」は、上記低角度ピークが粉末X線回折図中で検出可能であって、
測定ノイズからはっきりと識別可能であることを示す。好ましい実施形態では、(ピーク
高さによって決定される)XRPDメソピークの大きさは2θが約18~20°のピーク
の高さの約30%以上(図6のファイル407476のパターン中でのもの)であり、そ
して、このピークの高さとほぼ等しい場合がある(図6のファイル474320のパター
ン中のもの)。
【0059】
XRPDメソピークによって特徴付けられる相の形成は、各種製剤と乾燥技術を使用す
るグルカゴン含有または非含有サンプル中で観察されていた。XRPDメソピークの形と
位置に何らかの変化が乾燥状態に依存して起こる場合があることも観察されていた。例え
ば、大量凍結乾燥がより厚い凍結層とより長い乾燥時間につながることによって、二つの
幅が拡大し重なり合うXRPDメソピークの形成を導くことが一つの実験で観察された。
【0060】
本発明のさらなる利点は、極限環境条件下、特に寒冷条件下でさえも、救急措置として
有用であることである。本発明の製剤は、気温が凍結点より低くても直接使用可能のまま
である。そして、-20℃で保存した粉末剤が、直接的にグルカゴンを許容可能に送達と
摂取して使用可能であることを、複数の試験が示していた。対照的に、使用前にグルカゴ
ンの再構成をするための液体担体を含む救急キットは、その単体の凍結点より高く維持し
なければならない。同様に、グルカゴン溶液はまた、その溶液の凍結点より高く維持しな
ければならない。もし、溶液の安定性を付与するためにDMSO等の溶媒を使用する場合
、その凍結点はより高い温度であることになる。
【0061】
本発明の組成物の製造方法
本発明のさらなる側面は、グルカゴンまたはグルカゴン類似体、シクロデキストリン、
およびリン脂質界面活性剤を含むグルカゴン活性を有する粉末製剤を調製する方法であっ
て、前記粉末剤の少なくとも一部が、粉末X線回折によって測定されるXRPDメソピー
クによって特徴付けられる相で存在する方法である。本方法は、
a.水溶性担体中でグルカゴンと界面活性剤の第一混合物を形成する工程であって、前
記界面活性剤が臨界ミセル濃度以上の濃度で存在する、工程;
b.シクロデキストリンを前記第一混合物に加えて、第二混合物を形成する工程;
c.前記第二混合物を乾燥させて、固形製剤を形成する工程;および
d.前記固形製剤を処理して、均一な粉末剤を製造する工程であって、前記均一な粉末
剤がXRPDメソピークによって特徴付けられる相で前記粉末剤の少なくも一部を含む、
工程を含む。
【0062】
第一混合物を形成する工程aは、グルカゴンまたはグルカゴン類似体を溶媒、例えば、
水に加えて、その後、界面活性剤を加えることによって達成可能である。代替的には、界
面活性剤を最初に可溶化して、次に、グルカゴンまたはグルカゴン類似体を加えてもよい
。この混合物の二種類の成分はまた、個別に可溶化し、その後、合わせて、第一混合物を
形成させてもよい。
【0063】
好ましくは、溶媒のpHを4以下に酸性化して、グルカゴンの可溶性を向上させる。酸
性化は、鉱酸(例、HCl、リン酸、もしくは硫酸)または有機酸(例、酢酸、クエン酸
、グリコール酸、もしくは乳酸)を用いるか、あるいは、鉱酸と有機酸の組合せを使用し
て実現可能である。好ましい製剤中では、その酸は酢酸である。
【0064】
第一混合物を形成するのに使用する溶媒量は、第一混合物中でグルカゴンとリン脂質界
面活性剤を可溶化するのに十分なものである。過剰な溶媒を使用してもよいが、大過剰は
、乾燥工程に必要な時間とエネルギーの量を増加させ、従って、好ましくない。
【0065】
シクロデキストリンは固形物として又は水等の溶媒中で第一混合物に加えて、第二混合
物を形成する場合がある。混合は、静的混合と動的混合を含む方法によって実行可能であ
る。動的混合は液体中に挿入される刃(軸に取り付けられてモーターによって回転される
もの)を使用して行うことができる。静的混合は、静的ミキサー内部の曲がりくねった経
路に液体を流すことによって実施可能である。高速混合条件下の混合中の空気-水界面の
存在により、発泡を生じる場合がある。高速混合はまた、結果として、剪断応力によるタ
ンパク質不安定化を生じる場合もある。発泡を最小限にし、好ましくは、発泡を排除する
ために、低速混合条件が好ましい。動的混合の場合、スターラーの速度は、一分当たりの
回転数(rpm)によって決定される。好ましいrpm値は、100~1000である。
静的混合の場合、非層流を可能とするポンプを選択することによって、低剪断条件が得ら
れる。
【0066】
第二混合物を乾燥させて、溶媒(例、水)を除去し、固形産物を残す。乾燥は、凍結乾
燥、噴霧乾燥、トレイ乾燥、または他の手法によって実施可能である。製品の肉眼による
物性は、乾燥手法に依存して変化することもあり、凍結乾燥由来の薄片状形態である場合
もあるか、または、乾燥固形ケーキ形態である場合もある。乾燥に使用する方法に関わら
ず、本製剤からの過剰水分の除去が、粉末特性と安定性へ重大な影響を及ぼす。
【0067】
過剰な水分を有する粉末剤は粘着性があり、塊を形成し、その結果、投与装置に充填す
る操作が困難な粉末剤となってしまう。重要なことに、水分残量のレベルは、安定性に直
接の影響がある。グルカゴンの場合、その安定性と物性は水によって悪影響が出るとよく
理解される。具体的には、過剰水分の存在下では、グルカゴンは、グルカゴンの安定性と
毒性プロフィールに悪影響があるアミロイド線維を形成する(Pederson、201
0年)。アミロイド線維を形成するこの傾向のために、現在利用可能なグルカゴン製品は
、使用直前に水に溶解される粉末剤として供給されている。水もまた、加水分解、酸化、
および脱アミド化に起因してグルカゴンの安定性に悪影響を及ぼす場合がある。この目的
のために、本発明の製剤を用いて得られたデータは、原末中で5%より過剰な水分残量レ
ベルが、5%以下の水分残量の粉末と比べて、安定性が減少することを示す。経鼻投与用
の適する粉末剤は、従って、典型的な水分残量レベルは5%以下である。
【0068】
経鼻投与用の適する粉末剤の典型的な粒度分布は、ほとんどの粒子が約10ミクロンよ
り大きくて約1000μmよりも小さいものである。好ましくは、粒度分布は、D10が
3~75μmの範囲内に収まり、D50が15~450μmの範囲内に収まり、そして、
D90が80~1000μmの範囲内に収まるもので、その全長が1.5から15である
ものである。
【0069】
経鼻投与用の適する粉末剤は、十分な流動性を許容して、経鼻放出装置中へ粉末剤を充
填するのを可能にする物性を必要とする。流動性は、各種パラメータ(例、粒子のサイズ
、形、密度、表面風合い、表面積、密度、共固着、固着、弾力性、気孔率、吸湿性、およ
び脆弱性)によって決定される。
【0070】
適切な粒子サイズと流動能特性を有する粉末剤は、原末を処理して小さすぎたり大きす
ぎたりする粒子を除去することによって製造可能である。原末を処理して小さすぎたり大
きすぎたりする粒子を除去する方法は、原末を破砕してより大きな粒子を解体する工程と
ふるいに掛けて所望の粒子サイズ範囲の粒子を単離する工程とを含む。投げ込み動作型ふ
るい法、水平ふるい法、タップ型ふるい法、超音波ふるい法、および空気循環ジェットふ
るい法を含む各種ふるい方法を実施してもよい。ふるいは、固定基準開口の単一ふるいと
して使用してもよいし、原末を、順に小さい開口を有する一連のふるいを通過させて処理
して、所望の粒度分布を得てもよい。ふるいは金網型メッシュのふるいで基準開口が25
~1000μmの範囲のものである場合がある。
【0071】
経鼻粉末剤投与装置を用いて本粉末剤を投与することから生じる噴霧パターンとプリュ
ーム幾何学は、本経鼻粉末剤が鼻腔内に沈着する際の表面面積を支配する重要な特徴であ
る。本発明の適する噴霧パターン特性には、最小直径(Dmin)が5~25mm、最大
直径(Dmax)が10~60mm、そして、楕円率が0.5~6であることが含まれる
。本発明の製剤に観察される具体的噴霧パターンを、以下の表にまとめる。
【0072】
【表A】
【0073】
適するプリューム幾何学特性には、噴霧角度が20~75°の範囲内に収まることと、
プリューム幅が10~50mmの範囲内に収まることが含まれる。以下の表に、本発明に
係る粉末剤の複数のロットに関するプリューム幾何学情報をまとめる。
【0074】
【表B】
【0075】
本発明の組成物の投与とアプリケーター
本粉末剤を使用者の鼻中へと導入する任意の方法論を本発明の方法中で使用する場合が
ある一方で、本発明の粉末組成物は、本粉末剤を清潔、乾燥、および使用可能な状態で使
用するまで維持し、その後、本粉末剤を使用者の鼻粘膜へと送達する目的設計の経鼻アプ
リケーター中に適切に提供される。そのようなアプリケーターは、当該技術分野で公知で
あり、一般的には、粉末製剤容器とその容器内に含まれる粉末製剤とその容器から鼻孔内
に受け入れ可能なノズルを通してその粉末製剤を放出するメカニズムとを有する。
【0076】
アプリケーターを、治療有効用量の単回吸入/投与で十分な粉末製剤を提供することが
できるように選択する。本製剤中のグルカゴンまたはグルカゴン類似体の割合がより低下
している粉末剤には、容器と送達容量がより大きくなることが要求される。一方で、割合
がより高い製剤を用いると、容器と送達容量がより小さくても使用可能である。
【0077】
具体的な適する送達デバイスが、米国特許第6,398,074号と6,938,79
8号に開示されていて、それらは参照により本明細書中に組み込まれる。図10は、‘0
74特許から引用したもので、適するデバイスを説明する。図10中、容器810は、本
発明に係る製剤の単回用量を含む。容器810は、空気入口811と製品出口815を有
する。製品保持装置812および/または813は、空気入口811内に配置されて、容
器810内の製品を、製品を投与するまで保持する。製品出口815は、閉鎖球816に
よって、好ましくは、密封式でブロックされていて、閉鎖球816は、製品の投与中には
空気流によってそのブロッキング位置から外されている。
【0078】
使用者が本デバイスを動作させる場合、ピストン821が、空気ブラスト820の、チ
ャンバー822に含まれる空気を圧縮するやり方で、使用者は押しボタン825に圧力を
掛ける。格子812は空気を通すことができるので、チャンバー822内の空気の圧縮が
容器810に伝達されて、その結果、製品出口815をブロックしている閉鎖球816に
適用される。容器810を通して最小限の所定圧力が加えられて前記空気ブラスト820
になる場合に、球816がそのブロッキング位置から外されるように閉鎖球816の大き
さと容器の製品出口815への固定を決定する。従って、この最小限の圧力に達する場合
、この球は本デバイスの出口通路840に向かって突然動かされ、そして、空気ブラスト
820によって創出される空気流が容器810に閉じ込められている用量の全てを追い出
すようにする。この閉鎖球816によってあらかじめ創出された圧縮が保証するのは、こ
の球がそのブロッキング位置から外される場合、使用者の手に蓄積したエネルギーによっ
て、押しボタン825と一体のピストン821がチャンバー822内を突き進むようにな
り、従って、強力な空気流(つまり、製品の用量を細かく噴霧して、そして、注目すべき
は、それが粉末製品である場合には任意の製品凝集体を取り除くのに適する空気流)を造
り出すことである。
【0079】
本発明の粉末組成物と組み合わせて使用するのに適する塗布デバイスの別の例は、米国
特許出願公開第20110045088号に開示されるものであり、その文献は参照によ
り本明細書中に組み込まれる。米国特許第7,722,566号の図1と7に特に示され
るデバイスも使用可能である。なぜなら、本発明の粉末剤を使用する両方の鼻孔中への投
与が必要でないからだ。
【0080】
粉末組成物の経鼻投与のための塗布デバイスのさらに別の例は、国際公開第20140
04400号と米国特許第5,702,362号からのものが知られており、それら文献
は参照により本明細書中に組み込まれる。
【実施例
【0081】
実験
実施例1
グルカゴンとDPCとα-CD、β-CD、またはHP-β-CDとを、0.01Nま
たは0.1NのHCl溶液のいずれかに溶解させた。製剤をまた、1M酢酸または0.5
M酢酸のいずれかを使って調製した。グルカゴン:DPC:シクロデキストリンの重量比
は、5:10:75から10:20:70までの範囲であった。二回の別々の実験では、
クエン酸ナトリウムまたはクエン酸のいずれかを添加剤として加えた。凍結乾燥粉末剤を
鼻孔送達用デバイス中に詰め込んだ。本粉末剤を、500μg、750μg、または10
00μgの用量でビーグル犬の鼻腔内に送達した。本粉末剤を、一群当たり3または6匹
のイヌへ投与した。血漿中グルコース濃度を、血糖値測定器を使って測定した。投与前(
0分)と経鼻投与後5、10、20、30、40、および60分での血漿中グルコース濃
度を、表1に示す。表1では、比率は、グルカゴン:DPC:シクロデキストリンの比ま
たはグルカゴン:DPC:シクロデキストリン:添加剤の比を指す。
【0082】
【表1】
【0083】
全ての組成物(各種濃度の酸、各種酸、三種類の成分の各種比率を用い、クエン酸また
はクエン酸ナトリウムの存在下、各種用量で調製し、一方の鼻孔または両方の鼻孔に送達
されるもの)は、血漿中グルコース濃度が10~30分まで増加し、次に、40分で減少
し、その後、60分でさらに減少を示す。例として、β-CDと0.01NのHClを有
する10:10:80の組成物を1000μg用量で一方の鼻孔に投与した結果を図1
示す。
【0084】
実施例2
グルカゴンとDDPCとα-CD、β-CD、またはヒドロキシプロピル-β-CDと
を、0.01Nまたは0.1NのHCl溶液のいずれかに溶解させた。グルカゴン:DD
PC:シクロデキストリンの重量比は、5:10:75から10:20:70までの範囲
であった。一つの試験では、クエン酸ナトリウムも加えた。本粉末剤を鼻孔送達用デバイ
ス中に詰め込んだ。本粉末剤を、500μg、750μg、または1000μgの用量で
ビーグル犬の鼻腔内に送達した。本粉末剤を、一群当たり3または6匹のイヌへ投与した
。血漿中グルコース濃度を、血糖値測定器を使って測定した。以下の表にその結果を示す
。投与前(0分)と経鼻投与後5、10、20、30、40、および60分での血漿中グ
ルコース濃度を、表2に示す。表2では、比率は、グルカゴン:DDPC:シクロデキス
トリンの比またはグルカゴン:DDPC:シクロデキストリン:添加剤の比を指す。
【0085】
【表2-1】

【表2-2】
【0086】
全ての組成物(各種濃度の酸、各種シクロデキストリン、各種比率、各種用量を用いて
調製し、一方の鼻孔または両方の鼻孔のいずれかへ送達されるもの)は、血漿中グルコー
ス濃度が10~30分まで増加し、次に、40分で減少し、その後、60分でさらに減少
を示す。例として、β-CDを有する10:10:80の組成物を1000μg用量で一
方の鼻孔に投与した結果を図2に示す。
【0087】
実施例3
グルカゴンとLLPCとβ-CDとを、0.01Nまたは0.1NのHCl溶液のいず
れかに溶解させた。グルカゴン:LLPC:β-CDの重量比は10:10:80であっ
た。本粉末剤を、一方の鼻孔へ送達用のデバイス中に詰め込んだ。本粉末剤を、750μ
gまたは1000μgの用量のいずれかでビーグル犬の鼻腔内に送達した。本粉末剤を、
一群当たり6匹のイヌへ投与した。血漿中グルコース濃度を、グルコース試験紙を使って
測定した。投与前(0分)と経鼻投与後5、10、20、30、40、および60分での
血漿中グルコース濃度を、表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
全ての組成物(各種用量で、一方の鼻孔へ送達されるもの)は、血漿中グルコース濃度
が10~20分まで増加し、次に、30分または40分のいずれかで減少し、その後、4
0分または60分でさらに減少を示す。例として、β-CDを有する10:10:80の
組成物を1000用量で一方の鼻孔に投与した結果を図3に示す。
【0090】
実施例4
グルカゴンとD8PCとβ-CDとを、0.01Nまたは0.1NのHCl溶液のいず
れかに溶解させた。グルカゴン:D8PC:β-CDの重量比は10:10:80であっ
た。本粉末剤を鼻孔送達用デバイス中に詰め込んだ。本粉末剤をビーグル犬の鼻腔内へ送
達した。本粉末剤を、一群当たり6匹のイヌへ投与した。血漿中グルコース濃度を、グル
コース試験紙を使って測定した。投与前(0分)と経鼻投与後5、10、20、30、4
0、および60分での血漿中グルコース濃度を、表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
全ての組成物(各種濃度の酸を用いて調製し、一方の鼻孔へ送達されるもの)は、血漿
中グルコース濃度が10~20分まで増加し、次に、30分または40分で減少し、その
後、40分または60分でさらに減少を示す。例として、β-CDを有する10:10:
80の組成物を750μg用量で一方の鼻孔に投与した結果を図4に示す。
【0093】
実施例5
グルカゴンとDLPGとα-CDとを、0.1NのHCl溶液に溶解させた。グルカゴ
ン:DLPG:α-CDの重量比は5:25:70または5:54:41であった。別に
、グルカゴンとDLPGとβ-CDとを、重量比10:10:80で0.1NのHCl溶
液に溶解させた。得られた溶液を凍結乾燥して粉末剤を製造した。本粉末剤を鼻孔送達用
デバイス中に詰め込んだ。本粉末剤をビーグル犬の一方の鼻孔または両方の鼻孔へ送達し
た。本粉末剤を、3または6匹のイヌへ投与した。血漿中グルコース濃度を、グルコース
試験紙を使って測定した。以下の表はその結果を示す。グルカゴン:DLPG:α-CD
(またはβ-CD)の重量比、鼻孔一つ当たりのグルカゴン用量、本粉末剤を一方または
両方の鼻孔へ送達するかどうかを、表に示す。投与前(0分)と経鼻投与後5、10、2
0、30、40、および60分での血漿中グルコース濃度を、表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
全ての組成物(各種シクロデキストリン、各種比率、各種用量を用いて調製し、一方の
鼻孔または両方の鼻孔のいずれかへ送達されるもの)は、血漿中グルコース濃度が10~
30分まで増加し、次に、40分で減少し、その後、60分でさらに減少を示す。例とし
て、α-CDを有する5:25:70の組成物を750μg用量で一方の鼻孔に投与した
結果(最も高い血漿中グルコース濃度を生じたもの)を図5に示す。
【0096】
実施例6
粉末X線回折を使用して、グルカゴン-DPC-β-シクロデキストリン組成物および
グルカゴン-DDPC-β-シクロデキストリン組成物の構造を決定した。それら組成物
は、メソフェーズを示す低角度でのピーク(DPCに関して2θが6.6°およびDDP
Cに関して2θが7.3°)を示す(図6)。これらのピークがグルカゴンに無い理由は
、グルカゴンが非晶質粉末であるからだ。それらのピークはβ-シクロデキストリンにも
無いのは、β-シクロデキストリンが特徴的結晶形を示すからだ。さらに、それらピーク
は、本界面活性剤DPCにも無かった。これらのピークは、グルカゴンの非存在下でのD
DPC(またはDPC)とβ-シクロデキストリンとの混合物に存在する。本発明の組成
物は、これら低回折角度ピークを通して検出可能なメソフェーズを特徴とする。
【0097】
実施例7
容量荷重分布プロフィールを使用して、D10、D50、およびD90を計算し、それ
を表6に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
粒度分析は、6種類の異なる粉末製剤中の粒子の大半の有効直径の範囲が3.6~8.
031μmであることを示す。D10の結果は、鼻孔へ送達される粉末剤中の粒子の90
%より多くが肺に吸い込み可能ではないことを示す。
【0100】
実施例8
調製方法で記載した方法を使用して、粉末製剤を調製した。組成物は、10:10:8
0のグルカゴン:DPC:β-シクロデキストリンを1M酢酸を使用して調製したもので
あった。10ミリグラムの本粉末剤は、1mgのグルカゴンを含んでいた。10ミリグラ
ムの本粉末製剤を10個の各デバイス中に詰め込んだ。デバイスを動作させて送達された
本粉末剤を回収した。10個のデバイスから送達された粉末の重量を、送達用量(mg)
として表7に示す。10個のデバイスからの送達用量規格(%)(表7にも示す)は、1
0個の各デバイス中に充填される前の10ミリグラムの本粉末剤中のグルカゴン量に対す
る10個の送達後各粉末のグルカゴン量の比に100を掛けて計算した。
【0101】
【表7】
【0102】
実施例9
実施したのは、複数施設、ランダム化、二元クロスオーバー第III相試験であって、
その試験においては、1型糖尿病患者(T1D、n=75)が登録参加して、鼻腔内投与
型グルカゴン(本発明の主題の粉末剤)の単回用量の有効性と安全性を、インスリン誘導
性低血糖後にIM注射によって投与されるグルカゴンと比較して評価した。この試験の主
要エンドポイントは、グルカゴン処置30分以内に≧70mg/dLの血糖値の増加を達
成するか、または、グルカゴン処置30分以内に20mg/mLの血糖増加を達成した患
者の割合であった。プロトコルでは、インスリンを使用して血糖値を低血糖範囲(<50
mg/dLの目標底値)に減少させた。
【0103】
経鼻粉末剤を用いる処置に対する血糖値の応答の統計解析は、インスリン誘導性低血糖
症の治療において、本経鼻粉末剤がグルカゴン注射に劣っていないことを示した。図7
提示したグルコース応答曲線は、経鼻処置群と注射処置群の両者においてグルコース値が
実質的に増加し、そして、血糖値が投薬後約15分までに両群のほとんどの被験者におい
て正常範囲内へと増加したことを示す。
【0104】
実施例10-AMG103
AMG103は、1型糖尿病の年齢が4~<17歳の子供における試験であった。この
集団中での重度低血糖症の誘導は小児臨床試験審査委員会によって許可されない。しかし
、もし、グルカゴン投薬前に血糖を<80mg/dL(4.4mmol/L)の目標値へ
正常化することが必要ならインスリンを使用した。
【0105】
子供は試験施設を二度受診した。最初の受診では、12~<17歳の12名の子供達を
、IM注射(製造元のラベル表示に従う適用量)によるグルカゴン、または、本発明の主
題のグルカゴン粉末製剤(重量基準10:10:80)に対してランダム化した。二度目
の受診では、被験者は代替治療を受けた。4~<8歳群と8~<12歳群の子供達に関し
ては、各群18名の子供達がいた。これらの年齢群の各々の中で、鼻腔内用グルカゴンの
二回の投薬またはグルカゴンの筋肉内(IM)単回注射のいずれか受けるように、子供達
を2:1にランダム化した。鼻腔内(IN)用グルカゴンを受ける子供達に関しては、最
初の受診で2若しくは3mgを投与し、二度目の受診で代替的用量レベルを投与するよう
に子供達をランダム化した。試験参加者と試験場所を、用量レベルに対して盲検化した。
【0106】
12~<17歳の子供達の結果を、経鼻グルカゴン粉末剤を投薬した子供達に見られた
結果の例として提供する。図8AがグルカゴンPK曲線を提供する一方で、図8Bはグル
コースのプロフィールを提供する。この試験で得られたデータは、経鼻粉末型グルカゴン
によって、グルカゴンの注射後に観察されるグルコース応答と差のないグルコース応答が
生じたことを示す。
【0107】
実施例11-鼻づまりの影響
重量比が10:10:80のグルカゴン:DPC:β-シクロデキストリンからなる本
発明の粉末剤を、試験中抗鼻閉薬の同時投与の有り無しで風邪被験者において試験して、
男性および女性被験者での3mg用量の鼻腔内用グルカゴンの安全性とPK/PDを検証
した。これは、単一施設、単一用量、非盲検、反復測定、並行デザイン試験であった。3
6名の被験者全てに、10時間の夜間絶食後の朝に、単回3mg用量のグルカゴンを鼻腔
内経路により投与した。コホート1(18名の被験者)は、2つの期間に予定を入れた。
期間1中では、被験者は風邪に伴う鼻づまり及び/又は鼻水があった。そして、期間2中
では、被験者は風邪から回復し、少なくとも2日間は症状がないことが継続していた。コ
ホート2(被験者#019~036)では、被験者は、期間1だけに予定を入れた。風邪
に伴う鼻づまり及び/又は鼻水の症状を呈した後、これら被験者は、グルカゴンの単回鼻
腔内投薬を受ける前に抗鼻閉薬で前もって処置した。
【0108】
鼻を介して吸い込む空気流量のピークを測定することは、鼻づまりの客観的測定を提供
し、そして、風邪に伴う鼻づまりと共にオキシメタゾリンの意図する治療効果を確認した
【0109】
試験薬物は十分許容され、そして、この試験中、重度有害事象や死亡事例は無かった。
【0110】
本粉末剤の投与後のグルカゴンとグルコースの応答を、図9Aと9Bに示す。血漿中グ
ルカゴン濃度(図9A)は、ベースラインよりも実質的に増加し、平均ピーク濃度(C
ax)は、「AMG504-1+風邪」、「風邪+抗鼻閉薬」、および「風邪症状なし」
のそれぞれに対し、1198.4、868.0、および801.5pg/mLであった。
ピーク濃度への時間中央値(tmax)は、全ての処置群に関して、投薬後20分であっ
た。「AMG504-1+風邪」の概算AUC0-tは、他の二つの処置群よりも高かっ
た(1198.4に対して1038.0および797.5)。
【0111】
三群全ての血糖値(図9B)は、投薬後5分までに上昇し始めた。このことは、抗鼻閉
薬の同時投与の有り無しに関わらず、鼻づまりは血糖応答の発現に影響が無かったことを
示す。まとめると、鼻腔内用グルカゴンの投与後のグルコースプロフィールは、風邪の存
在または風邪被験者での抗鼻閉薬の投与に関わらず相当なものであった。
【0112】
この試験の結果は、抗鼻閉薬の同時投与の有り無しでも、風邪に伴う鼻づまりによって
鼻腔内投与された本粉末剤のPKまたはPDが有意に影響を受けないことを示す。このこ
とが重要な理由は、インスリンを使用する糖尿病者は、任意の時期(アレルギーまたは風
邪に罹患している場合を含む)に重度低血糖症を経験するリスクがあるからだ。したがっ
て、重度低血糖症の治療を意図する鼻腔内用グルカゴンはまた、鼻づまりの存在下でも有
効である必要がある。
【0113】
実施例12
本発明の組成物の生体適合性、安全性、および許容性を、ラット、イヌ、およびウサギ
で実施した一連の試験中で評価した。準慢性および急性毒性を評価した。表8はこれらの
試験からの所見を示す。これら試験は、本発明の組成物が副作用もなく十分に許容される
ことを示す。
【0114】
【表8】
【0115】
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【0116】
配列
(配列番号1)
His-Ser-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr-Ser-Lys-Tyr-Leu-Asp-Ser-Arg-Arg-Ala-Gln-Asp-Phe-Val-Gln-Trp-Leu-Met-Asn-Thr

以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] グルカゴンまたはグルカゴン類似体、シクロデキストリン、およびリン脂質界面活性剤を含む粉末組成物であって、前記粉末の少なくとも一部が、粉末X線回折によって測定されるXRPDメソピークによって特徴付けられる相で存在する、粉末組成物。
[2] 前記XRPDメソピークによって特徴付けられる前記相は、前記XRPDメソピークの高さが粉末X線回折で測定される2θが18~20°のピークの高さの約30%以上であるような量で存在する、[1]に記載の組成物。
[3] 前記XRPDメソピークの高さが、2θが18~20°の前記ピークの高さとほぼ同じである、[3]に記載の組成物。
[4] 前記グルカゴンまたはグルカゴン類似体が5~15重量%の量で存在する、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記グルカゴンまたはグルカゴン類似体が5~10重量%の量で存在する、[4]に記載の組成物。
[6] 前記グルカゴンまたはグルカゴン類似体が10~15重量%の量で存在する、[4]に記載の組成物。
[7] 前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリンからなる群より選択される、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記界面活性剤が、ドデシルホスホコリン、ジデシルホスファチジルコリン、リゾラウロイルホスファチジルコリン、ジオクタノイルホスファチジルコリン、およびジラウロイルホスファチジルグリセロールからなる群より選択される、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] 低分子量有機酸ならびにその医薬的に許容可能な水溶性塩およびエステルからなる群より選択される添加剤をさらに含む、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。[10] 前記添加剤がクエン酸またはクエン酸ナトリウムである、[9]に記載の組成物。
[11] 前記添加剤が酢酸である、[9]に記載の組成物。
[12] 前記添加剤の量が10重量%以下である、[9]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13] 前記シクロデキストリンの量が44重量%~90重量%である、[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14] 前記界面活性剤の量が5重量%~51重量%である、[1]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15] 前記粉末がグルカゴン(配列番号1)を含む、[1]~[14]のいずれかに記載の組成物。
[16] 粉末製剤用経鼻アプリケーターであって、前記アプリケーターが、粉末製剤容器と前記容器に含まれる粉末製剤とを含み、前記粉末製剤が[1]~[15]のいずれかに記載の組成物である、アプリケーター。
[17] グルカゴンまたはグルカゴン類似体、シクロデキストリン、およびリン脂質界面活性剤を含むグルカゴン活性を有する粉末製剤を調製する方法であって、前記粉末の少なくとも一部が、粉末X線回折によって測定されるXRPDメソピークによって特徴付けられる相で存在し、前記方法が、
a.水溶性担体中で前記グルカゴンまたはグルカゴン類似体と前記界面活性剤の第一混合物を形成する工程であって、前記界面活性剤が臨界ミセル濃度以上の濃度で存在する、工程;
b.前記シクロデキストリンを前記第一混合物に加えて、第二混合物を形成する工程;
c.前記第二混合物を乾燥させて、固形製剤を形成する工程;および
d.前記固形製剤を処理して、均一な粉末を製造する工程であって、前記均一な粉末がXRPDメソピークによって特徴付けられる相で前記粉末の少なくも一部を含む、工程を含む、方法。
[18] 前記粉末製剤が[1]~[15]のいずれかに定義されるものである、[17]に記載の方法。
[19] 前記第二混合物の乾燥が、前記第二混合物を凍結乾燥させるか又は噴霧乾燥させることによって実施される、[17]または[18]に記載の方法。
[20] 低血糖症に罹患している個体における低血糖症を治療する方法であって、[1]~[15]のいずれかに記載の粉末製剤を前記個体に投与することを含み、前記粉末製剤が、治療的有効量で、粉末として前記個体の鼻粘膜へ投与される、方法。
[21] 前記粉末製剤が前記個体の一方の鼻孔にのみ投与される、[20]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
【配列表】
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