(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】クラフトリグニン、感熱記録用顕色剤及び感熱記録材料
(51)【国際特許分類】
B41M 5/333 20060101AFI20231010BHJP
C08H 7/00 20110101ALI20231010BHJP
【FI】
B41M5/333 220
C08H7/00
(21)【出願番号】P 2021108546
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2023-06-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 康雄
(72)【発明者】
【氏名】市村 健太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武司
(72)【発明者】
【氏名】杉本 昌繁
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-006287(JP,A)
【文献】特開昭51-109304(JP,A)
【文献】特開2000-061449(JP,A)
【文献】特開平05-220324(JP,A)
【文献】特開2020-104274(JP,A)
【文献】特開2003-067713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/333
C08H 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトリグニンを含む
感熱記録用顕色剤であって、
前記クラフトリグニンにおけるジメチルジスルフィドの含有量が、2.5ppm以下である、感熱記録用顕色剤。
【請求項2】
支持体と、前記支持体上に設けられた感熱発色層と、を備え、
前記感熱発色層が、発色物質及び請求項
1に記載の顕色剤を含有する、感熱記録材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クラフトリグニン、感熱記録用顕色剤及び感熱記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持体上に感熱発色層が設けられた感熱記録材料が利用されている。感熱発色層は電子供与性の発色物質と電子受容性の顕色剤とを主成分として含んでおり、加熱されることで発色物質と顕色剤とが瞬時に反応して画像部が形成される。このような感熱記録材料は、熱ヘッド、熱ペン、レーザー光などの加熱手段を備える比較的簡易な装置で記録を得ることができ、記録装置の保守が容易であることや記録時における騒音の発生が少ないことなどの利点を有している。そのため、感熱記録材料は、各種携帯端末などのサーマルプリンタ、超音波エコーなどに付属する医療画像プリンタ、心電図や分析機器などのサーモペンレコーダー等の記録媒体として利用されている。また、航空券、乗車券、商品のPOSラベルなどの用途にも感熱記録材料が利用されている。
【0003】
上記顕色剤として、一般に、ビスフェノール類、アルキルフェノール類、ノボラック型フェノール樹脂、芳香族カルボン酸の誘導体やその金属塩、ヒドロキシ安息香酸エステル、スルホニル尿素系化合物及び活性白土などが用いられている。その発色性や画像部の保存性などの感熱記録材料としての性能、及び価格などのコスト面から、ビスフェノール類が広く使用されている。
【0004】
近年、環境に対する意識の高まりから、ビスフェノールAを中心とするビスフェノール類の潜在的な環境への影響に関する議論を背景に、環境に優しい顕色剤として非ビスフェノール系顕色剤への代替が求められている。
【0005】
そのような中、下記の特許文献1には、感熱記録層を設けた感熱記録体において、電子受容性顕色剤として単離リグニンを含有する感熱記録体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、単離リグニンは、通常、セルロースなどの多糖類と複合化したリグニンに化学変性を施すことにより得られる。得られる単離リグニンは、リグニンに施す化学変性により異なる。そのような単離リグニンとしては、例えば、リグノスルホン酸(塩)、クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン及び硫酸リグニンが挙げられる。
【0008】
クラフトリグニンは、木材由来であることから環境に優しい。しかし、顕色剤としてクラフトリグニンを用いた感熱記録材料では、画像部を形成するために加熱すると、単離された状態のクラフトリグニンでは感じられない不快な臭気(以下、「不快臭」ともいう。)が発生することが、本発明者らの検討により明らかになった。
【0009】
本発明の一側面は、クラフトリグニンを顕色剤として用いながらも画像部を形成するときに不快臭を感じにくい感熱記録材料、並びに、その実現を可能とするクラフトリグニン及びそれを含む感熱記録用顕色剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、画像部を形成するときに感じられる不快臭の原因が、クラフトリグニンに含まれる様々な成分のうち、ジメチルジスルフィドであることを特定した。そして、本発明者らは、クラフトリグニンと、水とを加熱し、ジメチルジスルフィドを水と共沸留去させることでクラフトリグニンを精製し、クラフトリグニンにおけるジメチルジスルフィドの含有量を特定の濃度以下とすることで、得られる感熱記録材料は、画像部を形成するときの不快臭が感じにくいものとなりうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一側面は、ジメチルジスルフィドの含有量が、2.5ppm以下である、クラフトリグニンである。このようなクラフトリグニンを顕色剤として用いた感熱記録材料は、画像部を形成するときに不快臭を感じにくいものとなりうる。
【0012】
また、このようなクラフトリグニンを用いて得られる感熱記録材料は、十分な発色性を有し、また、画像部は耐アルコール性及び耐水性等の保存性に優れる。
【0013】
本発明の他の一側面は、上記のクラフトリグニンを含む、感熱記録用顕色剤である。
【0014】
本発明の更に他の一側面は、支持体と、支持体上に設けられた感熱発色層と、を備え、
感熱発色層が、発色物質及び上記の顕色剤を含有する、感熱記録材料である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面によれば、クラフトリグニンを顕色剤として用いながらも画像部を形成するときに不快臭を感じにくい感熱記録材料、並びに、その実現を可能とするクラフトリグニン及びそれを含む感熱記録用顕色剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(クラフトリグニン)
まず、一実施形態に係るクラフトリグニンについて説明する。
【0018】
本実施形態に係るクラフトリグニンは、ジメチルジスルフィドの含有量が、2.5ppm以下である。クラフトリグニンは、クラフト法によりリグニンを処理することで得られる単離リグニンである。クラフト法は、水酸化ナトリウム(NaOH)及び硫化ナトリウム(Na2S)等によりリグニンを化学変性させる分離方法である。クラフトリグニンは、チオール基を有する。
【0019】
本実施形態に係るクラフトリグニンにおけるジメチルジスルフィドの含有量の測定方法は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて測定される。
【0020】
本実施形態に係るクラフトリグニンにおけるジメチルジスルフィドの含有量は、2.5ppm以下であり、得られる感熱記録材料の不快な臭気の発生を一層抑制できることから、好ましくは2.0ppm以下であり、より好ましくは1.5ppm以下である。一方、ジメチルジスルフィドの含有量が2.5ppmを超える場合では、得られる感熱記録材料は、画像部を形成するために加熱すると不快臭が感じられる。
【0021】
本実施形態に係るクラフトリグニンは、未精製のクラフトリグニンを精製することで得られる。このような未精製のクラフトリグニンを精製する方法としては、クラフトリグニンと、水とを含む処理液を加熱し、ジメチルジスルフィドを水と共沸させることで、ジメチルジスルフィドが水と共に留出する方法であってよい。それにより、ジメチルジスルフィドを処理液から除去できる。
【0022】
上記の精製法において本発明の効果を阻害しない範囲で、クラフトリグニン及び水を含む処理液に対して、有機溶媒及び/又は分散剤を更に添加しても良い。有機溶媒としては、水と任意の割合で相溶することが好ましく、例えば、エタノール等のアルコール類及び酢酸エチル等のケトン類が挙げられる。分散剤としては、リグニンの溶媒への分散性を向上することができればよく、例えば、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0023】
上記の精製法においてクラフトリグニンの濃度は、処理液の全量を基準として、5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。クラフトリグニンの濃度が5質量%以上であることで、製造効率が向上する傾向にある。クラフトリグニンの濃度が40質量%以下であることで、処理液の粘性が低下し、流動性が確保されるため、安定して精製できる傾向にある。
【0024】
上記の精製法において留出が始まってからの加熱時間は、30分~10時間が好ましく、1~8時間がより好ましく、3~6時間がさらに好ましい。加熱時間が30分以上であることで、得られるクラフトリグニンにおけるジメチルジスルフィドの含有量が低下する傾向にある。また、加熱時間が10時間以下であることで、ジメチルジスルフィドの単位時間あたりの除去率が高く、精製効率が高い傾向にある。
【0025】
上記の精製法においては、処理液に窒素ガスを導入してもよい。窒素ガスを導入する場合、窒素ガス流量は、1Lの容器体積あたり、1~100mL/minが好ましく、5~50mL/minがより好ましく、10~40mL/minが更に好ましい。窒素ガス流量が1mL/min以上であると、留出速度が増加し、得られるクラフトリグニンにおけるジメチルジスルフィドの含有量が低下する傾向にある。また、窒素ガス流量が100mL/min以下であることで、製造コストの増大を抑制できる傾向にある。
【0026】
(顕色剤)
次に、一実施形態に係る顕色剤について説明する。
【0027】
本実施形態に係る感熱記録用顕色剤は、上記実施形態に係るクラフトリグニンを含む。顕色剤は、上記実施形態に係るクラフトリグニン以外の成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0028】
そのようなクラフトリグニン以外の成分は、特に制限されないが、例えば、溶媒及び添加剤が挙げられる。
【0029】
溶媒としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられる。溶媒の含有量は、顕色剤の全量を基準として、例えば、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってもよい。
【0030】
添加剤としては、例えば、分散剤及び消泡剤が挙げられる。添加剤の含有量は、顕色剤の全量を基準として、例えば、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってもよい。
【0031】
顕色剤に含まれるクラフトリグニンの含有量(純度)は、顕色剤の全量を基準として、例えば、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、又は100質量%であってもよい。
【0032】
(感熱記録材料)
次に、一実施形態に係る感熱記録材料について説明する。
【0033】
本実施形態に係る感熱記録材料は、支持体と、該支持体上に設けられた感熱発色層とを備える。感熱発色層は、発色物質及び上記実施形態に係る顕色剤を含有する。
【0034】
支持体としては、特に制限されないが、例えば、中性紙及び酸性紙等の紙、古紙パルプを用いた再生紙、合成紙、フィルム、不織布、並びに織布などを用いることができる。
【0035】
発色物質としては、無色又は淡色のロイコ染料を用いることができる。ロイコ染料としては、例えば、フルオラン誘導体、キナゾリン誘導体、フタリド誘導体、トリフェニルメタン誘導体及びフェノチアジン誘導体を挙げることができる。これらのロイコ染料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
これらのロイコ染料の中でも、フルオラン構造を有するロイコ染料は、発色性が良好であることから特に好適に用いることができる。フルオラン構造を有するロイコ染料としては、例えば、3-イソアミルエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-(4-メチルフェニル)-N-エチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジアミルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン及び3-シクロヘキシルメチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオランを挙げることができる。
【0037】
感熱発色層における発色物質の含有量は、目的とする感熱記録材料の特性に応じて適宜設定することができる。発色物質の含有量は、例えば、感熱発色層の全量を基準として、1~30質量%であってもよく、5~20質量%であってもよく、8~18質量%であってもよい。
【0038】
感熱発色層における上記実施形態に係る顕色剤の含有量は、十分な発色性を有する感熱記録材料を得る観点から、顕色剤に含まれるクラフトリグニンの含有量が、発色物質100質量部に対して10~500質量部であることが好ましく、50~400質量部であることがより好ましく、100~300質量部であることが更に好ましく、140~210質量部であることが特に好ましい。
【0039】
感熱発色層は、その効果を損なわない範囲において、上記実施形態に係る顕色剤以外の顕色剤を更に含有することができる。そのような顕色剤としては、従来公知のものを用いることができる。そのような顕色剤としては、ビスフェノール類も挙げられる。しかし、感熱発色層におけるこれらビスフェノール類の含有量は、ビスフェノール類を顕色剤として用いることで懸念される潜在的な環境への影響が少なくし、環境に優しいという観点から、クラフトリグニン100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。感熱発色層は、同様の観点から、ビスフェノール類を含まないことが好ましい。
【0040】
感熱発色層は、増感剤を更に含有していてもよい。増感剤としては、特に制限はないが、融点が90~140℃の増感剤であることが好ましい。このような増感剤としては、例えば、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、1,2-ビスフェノキシエタン、1,2-ビス(m-トリルオキシ)エタン、2-ベンジルオキシナフタレンなどのエーテル類及びシュウ酸ジ(4-メチルベンジル)等のエステル類、N-フェニルスルホンアミド等のスルホンアミド類、トルエンスルホン酸ナフチルエステル等のスルホン酸エステル類、m-テルフェニル及びp-ベンジルビフェニル等の芳香族炭化水素化合物、各種ワックス類、芳香族カルボン酸とアミンとの縮合物、高級直鎖グリコール類、高級ケトン類、ジフェニルスルホン、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類並びにフタル酸ジエステル類などを挙げることができる。これらの増感剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
感熱発色層は、画像安定剤を更に含有していてもよい。画像安定剤としては、特に制限はないが、例えば、4-ベンジルオキシ-4’-(2-メチルグリシジルオキシ)ジフェニルスルホン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)ブタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン及び市販品のトミラック214(商品名、三菱ケミカル株式会社製)を挙げることができる。これらの画像安定剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
感熱発色層は、必要に応じて、填料を更に含有していてもよい。填料としては、例えば、無機充填剤及び有機充填剤を挙げることができる。
【0043】
感熱発色層は、必要に応じて、更に他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、滑剤、紫外線吸収剤、耐水化剤、分散剤、消泡剤、酸化防止剤及び蛍光染料を挙げることができる。
【0044】
本実施形態に係る感熱記録材料の製造方法は、特に制限されず、例えば、発色物質、上記実施形態に係る顕色剤を含む顕色剤成分、増感剤、画像安定化物質及び必要に応じて添加するその他の成分を、適当な結合剤と共に、水性媒体などの媒体中に分散させて感熱発色層の塗工液を調製し、この塗工液を支持体上に塗布し、乾燥することにより製造することができる。
【0045】
発色物質、顕色剤及び増感剤を含有する分散液は、発色物質を含有する分散液と、顕色剤を含有する分散液と、増感物質を含有する分散液とをそれぞれ別々に調製したのち、これらの分散液を混合することにより調製することができる。各分散液中において、発色物質、顕色剤及び増感剤は、微粒子化して分散していることが望ましい。このような分散液の調製には、例えば、サンドミル及びボールミルを用いることができる。
【0046】
結合剤としては、特に制限はなく、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類、ゼラチン、カゼイン、デンプン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、スチレン-マレイン酸共重合物、スチレン-ブタジエン共重合物、ポリアミド樹脂、石油樹脂及びテルペン樹脂を挙げることができる。これらの結合剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
本実施形態の感熱記録材料においては、必要に応じて、例えば、無機充填剤及び有機充填剤のうち少なくとも一方を含む下塗り層を設けることができる。さらに、必要に応じて、感熱発色層の上に、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール類などの水溶性樹脂、スチレン-ブタジエン共重合物などの水溶性エマルジョン樹脂、非水溶性樹脂、又は、それらの樹脂に填料、イソシアネート類、不飽和化合物などのモノマーやオリゴマー、架橋剤を加えた材料から形成されるオーバーコート層を設けることができる。
【0048】
本実施形態の感熱記録材料は、色調の異なる発色物質が含まれる発色層を多層形成した感熱多色記録材料とすることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[クラフトリグニンの精製]
(実施例1)
クラフトリグニンと水とを含む処理液を加熱し、ジメチルジスルフィドを水と共沸させることで、ジメチルジスルフィドが水と共に留出する方法(以下、「精製法1」ともいう)により精製した。具体的には、まず、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)160g及び蒸留水640gを1Lセパラブルフラスコに投入し、処理液を得た。セパラブルフラスコには、留出液の冷却装置及び窒素を混合物中に導入できる窒素導入菅を設置した。セパラブルフラスコは、オイルバス上に設置した。処理液は、オイルバスで加熱することで昇温し、水の留出が始まってから6時間が経過するまで加熱した。オイルバスの温度は、120℃とした。加熱中は、窒素を流量20mL/minにて処理液中に導入しつつ、処理液を撹拌混合した。6時間の経過後、処理液を50℃まで空冷した。次いで、空冷した処理液をブフナーロートを用いて吸引濾過し、濾物を得た。得られた濾物を取り出し、乾燥することで精製したクラフトリグニンを得た。乾燥は、パーフェクトオーブンPHH-200(商品名、エスペック株式会社製)を用いて行い、温度は60℃、時間は18時間とした。
【0051】
(実施例2~5及び比較例1)
混合物の留出が始まってからの混合物の加熱時間、窒素ガス流量及びオイルバスの温度を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして精製したクラフトリグニンを得た。
【0052】
(比較例2)
クラフトリグニンを精製法1により精製した。具体的には、まず、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)160g及び蒸留水640gを1Lセパラブルフラスコに投入し、処理液を得た。セパラブルフラスコには、開放部方向に減圧吸引装置を有する留出液の冷却装置及び窒素を液中に導入できる窒素導入菅を設置した。セパラブルフラスコは、オイルバス上に設置した。処理液は、オイルバスで加熱することで昇温し、水の留出が始まってから1時間が経過するまで加熱した。オイルバスの温度は、72℃とした。加熱中は、減圧度を30kPaとし、処理液を撹拌混合した。1時間の経過後、処理液を50℃まで空冷し、その後、フラスコ内の圧力を常圧に戻した。次いで、実施例1と同様にして空冷した処理液から精製したクラフトリグニンを得た。
【0053】
(比較例3)
クラフトリグニンと溶媒とを混合し得られる処理液を濾過することでクラフトリグニンを精製した(以下、「精製法2」ともいう)。具体的には、まず、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)160g及び蒸留水640gを、1Lセパラブルフラスコに投入し、処理液を得た。得られた処理液を2時間撹拌し混合した。攪拌中の処理液の温度は、25℃であった。次いで、攪拌後の処理液をブフナーロートを用いて吸引濾過し、濾物を得た。得られた濾物から実施例1と同様にして精製したクラフトリグニンを得た。
【0054】
(比較例4)
クラフトリグニンと溶媒とを混合し得られる処理液を濾過し、得られた濾物を水で洗浄することでクラフトリグニンを精製した(以下、「精製法3」ともいう)。なお、クラフトリグニンと溶媒とを混合し得られる処理液を濾過し、得られる濾物は、比較例3で得られる精製したクラフトリグニンに相当する。
【0055】
具体的には、まず、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)160g及び蒸留水640gを、1Lセパラブルフラスコに投入し、処理液を得た。得られた処理液を2時間撹拌し混合した。攪拌中の処理液の温度は、25℃であった。次いで、攪拌後の処理液をブフナーロートを用いて吸引濾過し、濾物を得た。ガラス製ヌッチェ上で得られた濾物は、吸引しながら25℃の蒸留水320gで洗浄した。洗浄した濾物を取り出し、乾燥することで精製したクラフトリグニンを得た。乾燥は、パーフェクトオーブンPHH-200(商品名、エスペック株式会社製)を用いて行い、温度は60℃、時間は18時間とした。
【0056】
(比較例5及び6)
濾物を洗浄する蒸留水の温度を表2に示す温度としたこと以外は、比較例4と同様にして精製したクラフトリグニンを得た。
【0057】
(比較例7)
蒸留水に代えて酢酸エチルを用いたこと以外は、比較例3と同様にして精製したクラフトリグニンを得た。
【0058】
(比較例8)
蒸留水に代えて硫酸及び蒸留水からなる硫酸水溶液(pH=2)を用いたこと以外は、比較例3と同様にして精製したクラフトリグニンを得た。
【0059】
(比較例9)
蒸留水に代えて硫酸及び蒸留水からなる硫酸水溶液(pH=2)を用いて処理液を調整し、また、蒸留水に代えて硫酸及び蒸留水からなる硫酸水溶液(pH=2)を用いて濾物を洗浄したこと以外は、比較例4と同様にして精製したクラフトリグニンを得た。
【0060】
[ジメチルジスルフィドの含有量の測定方法]
<実施例1~5及び比較例1~9>
(検量線の作成)
電子天秤(sartorius A200S、sartorius社製)を用いて、標準物質としてジメチルジスルフィド(純度:99.0%、富士写真フイルム和光純薬株式会社製)を精秤し、エタノール(純度:99.5%、富士写真フイルム和光純薬株式会社製)にて順次希釈することで、濃度が、0.200mg/g、0.100mg/g、0.020mg/g及び0.004mg/gの標準溶液を作製した。得られた標準溶液を、22mLバイアル瓶に0.01g秤量し、ヘッドスペースGC―MS測定を行った。測定により得られたジメチルジスルフィドに対応する保持時間11.5~11.6分のピークの積分値から、検量線を作成した。
【0061】
(サンプルの測定)
各実施例及び比較例で精製したクラフトリグニン0.4gを精秤し、22mLバイアル瓶に投入した。そして、標準溶液を作製する際に使用したエタノール0.01gをバイアル瓶に加えた上でバイアル瓶を密閉し、標準溶液の測定と同様にヘッドスペースGC-MS測定を行った。測定により得られたジメチルジスルフィドに対応する保持時間11.5~11.6分のピークの積分値と、検量線とを用いて、ジメチルジスルフィドの含有量を算出した。結果を表1及び2に示した。
【0062】
ヘッドスペースGC―MSでの測定条件の詳細は、以下のとおりである。
【0063】
(測定条件)
装置:Agilent7697A-7890A/5975C(ヘッドスペース-GC/MS)
カラム:製品名VF-1301ms(6%シアノプロピルフェニル-94%ジメチルポリシロキサン)
ヘッドスペースバイアル容量:22mL
ヘッドスペースオーブン平衡化温度:100°C
ループ温度:120°C
トランスファーライン温度:180°C
ヘッドスペース平衡化時間:20分間
サイクル時間:32分間
GC注入口温度:250°C
スプリット比:30:1
GC初期温度:40°C(3分間保持)
GC昇温速度:毎分10°C
GC最終温度:220°C(6分間保持)
MSイオン源温度:230°C
MS四重極温度:150°C
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:1mL/min
取り込みMS範囲:30-350
【0064】
<比較例10>
精製したクラフトリグニンに代えて、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジメチルジスルフィドの含有量を算出した。結果を表2に示した。
【0065】
[感熱記録材料の作製]
<実施例1~5及び比較例1~9>
(1)アンダー層形成用の塗工液
焼成カオリン 20.0質量部
10質量%ポリビニルアルコール水溶液 30.0質量部
分散剤(アセチレングリコール系非イオン界面活性剤) 0.3質量部
結合剤(ポリ酢酸ビニル乳化液固形分40質量%) 18.0質量部
蒸留水 31.7質量部
計100.0質量部
【0066】
上記組成よりなる混合物を、ホモディスパーを用いて混合攪拌し、アンダー層形成用の塗工液を調製した。
【0067】
(2)感熱発色層形成用の塗工液
下記に示す組成(質量部)を有するA液(顕色剤分散液)、及びB液(発色物質分散液)をそれぞれ調製した。A液及びB液の調製は、サンドミルを用いて平均粒子径が約0.5μmになるまで湿式分散を行った。
【0068】
A液(顕色剤分散液)
精製したクラフトリグニン(顕色剤) 20質量部
10質量%ポリビニルアルコール水溶液 20質量部
蒸留水 60質量部
計100質量部
【0069】
B液(発色物質分散液)
3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン 20質量部
10質量%ポリビニルアルコール水溶液 20質量部
蒸留水 60質量部
計100質量部
【0070】
次いで、下記の組成(質量部)よりなる混合物をホモディスパーにて攪拌混合し、感熱発色層形成用の塗工液とした。
【0071】
A液 30質量部
B液 15質量部
焼成カオリン 9質量部
2質量%ポリビニルアルコール水溶液 残部
計100質量部
【0072】
坪量65g/m2の上質紙に、アンダー層形成用の塗工液をWet塗布量が約23g/m2になるようにバーコーターにて塗布し、風乾し、カレンダー処理を行い、アンダー層が設けられた支持体を作製した。その後、支持体のアンダー層が設けられた面に対して、感熱発色層形成用の塗工液をWet塗布量が約22g/m2になるように塗布し、風乾し、カレンダー処理を行って感熱発色層を形成し、感熱記録材料を作製した。
【0073】
<比較例10>
精製したクラフトリグニンに代えて、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして感熱記録材料を作製した。
【0074】
[感熱記録材料の評価]
<画像部の形成時の臭気の判定>
実施例及び比較例において作製した感熱記録材料の評価は、次の方法により行った。
感熱紙印字評価試験装置(商品名:「TH-M2/PS」、オオクラエンジニアリング株式会社製)を用いて、印字電圧20V、パルス巾3msにて発色し、画像部を形成した。装置から取り出した直後の感熱記録材料の画像部について、感熱記録材料を鼻から約10cmの距離まで近づけ、臭気を以下の基準に従って官能評価を実施した。評価者6名の各判定結果の数値の平均値を総合判定結果とした。結果を表1及び2に示した。
【0075】
(判定基準)
5:無臭又はほとんど臭いを感じない。
4:わずかに臭いを感じるが、不快臭とは感じない。
3:わずかに不快臭を感じる。
2:不快臭を感じる。
1:かなり強い不快臭を感じる。
【0076】
<発色性>
感熱紙印字評価試験装置(商品名:「TH-M2/PS」、オオクラエンジニアリング株式会社製)を用いて、パルス巾3msにて、0.07mJ/dotごとに印字エネルギーを高めて発色を行い、画像部を形成した。形成された画像部の色濃度を、マクベス濃度計(商品名:「RD-918」、マクベス社製)にて測定した。数値が小さいほど画像が薄く、数値が大きくなるほど濃い画像であることを示す。結果を表1及び2に示した。
【0077】
<耐アルコール性>
感熱紙印字評価試験装置(商品名:「TH-M2/PS」、オオクラエンジニアリング株式会社製)を用いて、印字電圧20V、パルス巾3msにて発色した画像部を、室温(20℃)のエタノール25容量部と蒸留水75容量部との混合液に浸して3時間放置した。この後、感熱記録材料を引き上げ、濾紙で表面を押さえ、自然乾燥したのち、試験前後の画像部の色濃度をマクベス濃度計にて測定し、残存率(残存率(%)=[試験後色濃度/試験前色濃度]x100)を算出し、下記判定基準により判定を行った。結果を表1及び2に示した。
【0078】
(判定基準)
A:良好(80%以上)
B:やや劣る(50%以上80%未満)
C:不良(50%未満)
【0079】
<耐水性>
感熱紙印字評価試験装置(商品名:「TH-M2/PS」、オオクラエンジニアリング株式会社製)を用いて、印字電圧20V、パルス巾3msにて発色した画像部を、室温(20℃)の蒸留水に浸して24時間放置した。この後、感熱記録材料を引き上げ、濾紙で表面を押さえ、自然乾燥したのち、試験前後の画像部の色濃度をマクベス濃度計にて測定し、残存率(残存率(%)=[試験後色濃度/試験前色濃度]x100)を算出し、下記の判定基準により判定を行った。結果を表1及び2に示した。
【0080】
(判定基準)
A:良好(90%以上)
B:やや劣る(60%以上90%未満)
C:不良(60%未満)
【0081】
【0082】
【0083】
各実施例及び比較例から、クラフトリグニンにおけるジメチルジスルフィドの含有量が、2.5ppm以下である場合、得られる感熱記録材料は、画像部形成時の評価が全て「4」以上であった。なお、各実施例及び比較例の精製したクラフトリグニンでは、不快臭は特に感じられなかった。また、ジメチルジスルフィドの含有量が、2.5ppm以下である場合、得られる感熱記録材料は発色性及び画像部の保存性に優れることがわかる。