(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】高導電路および低腐食性を備えた燃料電池用ポリメットプレート
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0223 20160101AFI20231010BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20231010BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20231010BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20231010BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20231010BHJP
H01M 8/0256 20160101ALI20231010BHJP
H01M 8/0267 20160101ALI20231010BHJP
【FI】
H01M8/0223
H01M8/0213
H01M8/0215
H01M8/0221
H01M8/0247
H01M8/0256
H01M8/0267
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021169840
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】202021045274
(32)【優先日】2020-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】518386656
【氏名又は名称】インディアン オイル コーポレイション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INDIAN OIL CORPORATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】ソンカル、カピル
(72)【発明者】
【氏名】ジンダル、タルン
(72)【発明者】
【氏名】チュー、サチン
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ、アロック
(72)【発明者】
【氏名】カプール、グルプリート シン
(72)【発明者】
【氏名】ラマクマール、サンカラ スリ ベンカタ
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-173629(JP,A)
【文献】特表2005-518073(JP,A)
【文献】特開2018-022571(JP,A)
【文献】特表2008-535151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材および導電材をベースとするプロトン交換膜(PEM)燃料電池(100)用のポリメットプレート(108)であって、前記ポリメットプレート(108)は、ポリマー材を含んでなる本体を含み、
前記本体は、
第1表面(202)と、前記第1表面(202)の反対側の第2表面(204)と、
導電材のシールとして前記第1表面(202)上の少なくとも1つのリブ上に形成されている複数の面内導電路(208)であって、前記第1表面
(202)上の
電気化学反応領域を画定する、前記第1表面(202)上の複数の前記面内導電路(208)と、
前記電気化学反応領域の外周を画定し、前記面内導電路と電気的に結合している面貫通導電路であって、前記第1表面(202)および前記第2表面(204)の間を貫通する、固体導電材で形成された前記面貫通導電路と、
を含
み、
前記第2表面(204)は、熱除去ジャケット(212)を含み、前記熱除去ジャケット(212)は、電気絶縁熱可塑性材で形成されている、
ポリメットプレート(108)。
【請求項2】
前記本体が、前記ポリマー材単独、90~95体積%のガラス材およびポリマー材の組み合わせ、ポリメットプレート(108)の外周の面貫通導電路に付与された5~10体積%の前記導電材のいずれかを含む、請求項1に記載のポリメットプレート(108)。
【請求項3】
前記本体が、熱伝導性ポリマー材を含んでなり、前記熱伝導性ポリマー材は熱硬化性ポリマーまたは熱可塑性ポリマーのいずれかであり、前記導電材は金属、カーボンパウダー、またはカーボンフィラーのいずれかである、請求項2に記載のポリメットプレート(108)。
【請求項4】
前記第1表面が、前記第1表面(202)に隣接して配置されたガス拡散層に燃料または空気のいずれかを分配するように構成された流れ場(110-1、110-2)を含む、請求項1に記載のポリメットプレート(108)。
【請求項5】
前記第2表面(204)上
の前記熱除去ジャケット(212)は、冷却剤が中を通って循環するように構成され
ている、請求項1に記載のポリメットプレート(108)。
【請求項6】
複数のプロトン交換膜(PEM)燃料電池(100)を接続して形成されるスタック用のPEM燃料電池(100)であって、
前記PEM燃料電池(100)は、
プロトン交換膜(PEM)(104)と、
前記PEM(104)を挟む一対のガス拡散層(106-1、106-2)と、
を含む膜電極アセンブリ(MEA)(102)と、
それぞれがポリマー材を含む本体を含んでなる、前記MEA(102)を挟む第1ポリメットプレート(108-1)および第2ポリメットプレート(108-2)と、
を含み、
前記本体は、
第1表面(202)と、前記第1表面(202)の反対側の第2表面(204)と、
導電材のシールとして前記第1表面(202)上の少なくとも1つのリブ上に形成されている複数の面内導電路(208)であって、前記第1表面(202)上の
電気化学反応領域を画定する、前記第1表面(202)上の複数の前記面内導電路(208)と、
前記電気化学反応領域の外周を画定し、前記面内導電路と電気的に結合している面貫通導電路であって、前記第1表面(202)および前記第2表面(204)の間を貫通する、固体導電材で形成された前記面貫通導電路と、
を含
み、
前記第2表面(204)は、熱除去ジャケット(212)を含み、前記熱除去ジャケット(212)は、電気絶縁熱可塑性材で形成されている、
PEM燃料電池(100)。
【請求項7】
前記第1ポリメットプレート(108-1)
は、前記PEM燃料電池(100)のアノードであり、前記第2ポリメットプレート(108-2)は、前記PEM燃料電池(100)のカソードである、請求項6に記載のPEM燃料電池(100)。
【請求項8】
前記第1ポリメットプレート(108-1)の前記面内導電路(208)が、
前記一対のガス拡散層(106-1、106-2)の第1ガス拡散層(106-1)を介して電子を受け取り、前記
第2ポリメットプレート(108-2)の前記面貫通導電路に電子を転送するように構成されている、請求項7に記載のPEM燃料電池(100)。
【請求項9】
前記PEM燃料電池(100)動作中に放熱するために、熱可塑性材で形成された熱除去ジャケット(212)であって、前記第2ポリメットプレート(108-2)の前記第2表面(204)上の前記熱除去ジャケットに流体的に結合した冷却回路を含み、前記ポリマー材
が冷却剤への電流漏れを抑制する、請求項6に記載のPEM燃料電池(100)。
【請求項10】
前記冷却回路に流体的に結合し、前記冷却剤の電気伝導度を低下させるように構成されたイオンバランスユニットを含む、請求項9に記載のPEM燃料電池(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEM燃料電池スタックの開発のための高導電路および低腐食性を備えた、冷却剤を介した電流漏れがゼロのポリメット(PolyMET)プレートに関する。また、本発明は、ポリメットプレートの設計を提供する。
【背景技術】
【0002】
PEM燃料電池は、比較的高い効率性と汚染物質排出の少なさから、交通機関への活用に最も注目されている。PEMセルは、燃料電池スタックにおいて非常に重要な要素である、単極板または両極板を含む。一般的に、プレートは、燃料電池スタック全体の重量の約80%、スタック全体のコストの約45%を占める。単極板の主な機能は、膜電極アセンブリに機械的強度を与え、支持し、スタック内の反応気体を均一に分配し、スタック内の熱と水の管理を容易にし、個々のセル間の電気的接続を可能にすることである。
【0003】
現在、非多孔性グラファイトプレート、金属製プレート(シールあり、なしを含む)および多くのポリマー複合プレートなどを含む、PEM燃料電池スタック用の単極板には、いくつかの種類の材料が使用されている。単極板の材料には、優れた電気および熱伝導性、低気体透過性、高機械強度、低腐食耐性および軽量性などの特定の特性が求められる。
【0004】
グラファイトは、耐腐食性および表面接触抵抗または界面接触抵抗の低さなどの特性から、単極板の構成材料の主力である。しかし、グラファイトは脆く、密度が低いために、体積が大きく、そのため、気体を透過しやすく、機械特性が不十分である。さらに、プレート表面にチャネルを作るには複雑な機械加工が必要になり、時間およびコストがかかるため、大量生産には適していない。
【0005】
ポリマーおよびグラファイト粒子の混合物をベースとしたポリマー複合単極板が文献では推奨されてきた。この種類の材料は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の射出成形などの製造プロセスにより合理的なコストで大量生産できる。ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、フェノール樹脂、およびビニルエステル樹脂をマトリクスとして用いたグラファイトベースの複合単極板には、いくつかの例がある。ポリマーマトリックスは、機械強度を向上させて、単極板に柔軟性を与える一方で、電気伝導性は比例して低下する。しかし、グラファイトにポリマーを組み込むと、化学的安定性がわずかに低下する。
【0006】
板状の金属は、十分な機械的安定性および電気および熱伝導性を有し、かつ、気体透過性が低いため、単極板の材料の候補として期待できる。しかし、金属製単極板では、電気化学反応中に水が発生するため、アノード/カソードチャンバーでの腐食の問題が生じる。結果として、燃料電池の腐食環境、特にアノード側で、Ni2+、Fe3+、Cr3+などの副生成物が生成される。これらの副生成物は、触媒層や固体ポリマー電解質にとって有害である。
【0007】
燃料電池スタックでは、電気化学反応により副生成物として発生する熱をスタックから取り除き、セル内の温度を所望の温度に保つ必要がある。冷却剤は、閉回路で循環させて、スタックから熱を取り除くために使用される。これらの冷却剤は、基本組成物および添加剤パッケージで構成されている。基本組成物は、純水のみ、または純水およびエチレングリコールもしくはプロピレングリコールの混合物である。冷却剤の熱伝導率は非常に高くなければならず、一方で冷却剤の電気伝導率の増加は望ましくない。冷却剤の電気伝導率が高いと、長期的に2つの大きな問題が発生する。
【0008】
PEM燃料電池で発生した電流は、電場を発生させることで、冷却剤を分極し、電荷漏れを引き起こす。すなわち、冷却剤を介して漏電し、燃料電池の電気効率に悪影響を及ぼす。冷却剤を介した漏電に加え、電気伝導率の高い冷却剤は、セルを電気的にショートさせ、スタックの劣化や性能低下の原因となりうる。
【0009】
イオンバランスユニットは、燃料電池システムの一部である冷却剤回路に設置され、冷却剤の電気伝導率をサイクルごとに低下させる。このため、システムが複雑になり、燃料電池システムのコストがあがる。以下の先行技術に開示されているように、様々な解決方法が存在する。
【0010】
特許文献1は、液体または気体で灌流されたプレート、例えば、導電材および非導電材で構成された双極板に関する。これらの材料は、プレートの表面上の端子パッドおよび/またはチャネルの一部を形成する。導電材は、プレートの表面上の電導管を形成し、非導電材は、チャネルの補強もしくはシールまたはプレート表面の周縁部の一部を形成することができる。
【0011】
特許文献2には、金属層および溶接された双極板が開示されている。金属層の間に冷却剤チャネルがある。各層は、はんだ金属(好ましくはNi合金)を介して導電的に結合している。
【0012】
特許文献3は、ガス拡散層と接する双極表面間の接触界面の起伏を、その表面で発生する接触抵抗が低下するように導電材で充填した金属製双極板に関する。
【0013】
特許文献4には、金属製双極板の表面を十分に保護するために、金属基板および膨張グラファイト粉末を圧入し、金属基板の表面を覆うグラファイト層を形成することによる、金属製双極板の表面改質方法が記載されている。
【0014】
特許文献5には、ポリマーコーティングがフレームまたはベースの少なくとも一方に塗布され、ポリマーコーティングが電気絶縁体および/または腐食保護層、ならびに電気化学セル内のシールとして機能することにより、電気化学セルの製造、組み立ての複雑さおよびコストを削減するように構成された双極板が記載されている。
【0015】
しかし、上述のどの文献においても、燃料電池スタックの軽量化を維持しながらの、重量、腐食および電流漏れの問題を十分に解決していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許第6071635号明細書
【文献】米国特許第5776624号明細書
【文献】米国特許第8455155号明細書
【文献】米国特許第9640806号明細書
【文献】米国特許第10396366号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本要約は、本発明の詳細な説明でさらに説明されている概念を簡略化したものである。この要約は、本発明の重要または本質的な発明概念を特定することを意図したものではなく、また、本発明の範囲を特定することを意図したものではない。
【0018】
本主題は、プロトン交換膜(PEM)燃料電池用ポリメットプレートの態様に関するものである。ポリメットプレートは、ポリマー材および導電材をベースにしているため、従来のプレートと比較してポリメットプレートを軽量化でき、高い導電性を維持しつつ、出力重量比を高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一つの実施形態において、プロトン交換膜(PEM)燃料電池用のポリメットプレートが開示されている。ポリメットプレートは、ポリマー材を含む本体を含み、第1表面と、第1表面の反対側の第2表面と、を含む。ポリメットプレートは、第1表面上の反応領域を画定する第1表面上の複数の面内導電路を含み、複数の面内導電路は、第1表面上の導電材のシールとして形成される。また、ポリメットプレートは、第1表面と第2表面を貫通する、固体導電材で形成された面貫通導電路も含み、面貫通導電路は、面内導電路に電気的に結合している。
【0020】
別の実施形態において、膜電極アセンブリ(MEA)を含むプロトン交換膜(PEM)燃料電池が開示されている。MEAは、プロトン交換膜(PEM)と、PEMを挟む一対のガス拡散層とを含む。また、PEM燃料電池は、MEAを挟む第1ポリメットプレートと第2ポリメットプレートを含む。さらに、第1および第2ポリメットプレートのそれぞれは、ポリマー材の複合体を含む本体を含む。本体は、第1表面と、第1表面の反対側の第2表面とを含む。ポリメットプレートは、第1表面上の反応領域を画定する第1表面上の複数の面内導電路を含み、かつ複数の面内導電路は、第1表面上の導電材のシールとして形成されている。また、ポリメットプレートは、第1表面と第2表面間を貫通する、固体導電材で形成された面貫通導電路も含み、面貫通導電路は、面内導電路に電気的に結合している。
【発明の効果】
【0021】
本主題によれば、ポリマー材により、ポリメットプレートは、高い機械強度、軽量性、低コスト、良好な気密性、低接触抵抗性および低腐食耐性を有し、従来のグラファイトおよび金属製の単極板を製造する際に必要であった機械加工プロセスを省略することができる。一方で、ポリマー材に含まれる導電材は、ポリマー材を電気および熱伝導性にし、その電流漏れをゼロにすることができる。その結果、ポリメットプレートをベースにしたPEMセルは、軽量であると同時に、PEMセルの最適な動作に必要な電気および熱伝導性を備えている。
【0022】
本発明の利点および特徴をさらに明確にするために、添付の図面に示された本発明の特定の実施形態を参照して、本発明のより具体的な説明を行う。これらの図面は、本発明の典型的な実施形態のみを描いたものであり、したがって、その範囲を限定するものとはみなされない。本発明は、添付の図面を用いて、さらに具体的かつ詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の特徴、態様、および利点は以下の詳細な説明および添付の図面を参照することにより、よりよく理解できる。添付の図面において、図面中の各要素は、共通して同一の記号が付される。
【0024】
【
図1】本開示の実施形態による、プロトン交換膜セルの概略側面図を示す。
【
図2】本開示の実施形態による、アノードポリメットプレートの正面図および背面図を示す。
【
図3】本開示の実施形態による、カソードポリメットプレートの正面図および背面図を示す。
【
図4】本開示の実施形態による、アノードポリメットプレート上にあるカソードポリメットプレートの上面斜視図(A)、アノードポリメットプレート上にあるカソードポリメットプレートの下面斜視図(B)、および(A)の線1-1に沿って切り取った断面図(C)を示す。
【
図5】本開示の実施形態による、ポリメットプレートおよびプレート材料としてグラファイトとSSを用いた従来の単極板のI-V分極曲線と電力密度曲線を示す。
【
図6】PEM燃料電池用ポリメットプレートおよび従来のグラファイト/SS単極板の電力密度の比較を示す。
【
図7】PEM燃料電池用ポリメットプレートおよび従来のグラファイト/SS単極板のスタック総体積の比較を示す。
【
図8】PEM燃料電池用ポリメットプレートおよび従来のグラファイト/SS単極板のスタック総質量の比較を示す。
【0025】
さらに、当業者であれば当然理解できることであるが、図面における各要素は簡略化して示されており、必ずしも一定の縮尺で記載されているとは限らない。例えばフローチャートは、本発明の態様の理解を助けるのに役立つ最も重要なステップに関する方法を示す。さらに、装置の構造に関して、装置の一つ以上の構成要素が従来の符号によって示されている場合があり、図面は本発明の実施形態を理解するために適切な、それらの具体的な詳細についてのみ示す可能性がある。これは、本開示に記載から利益を受ける当業者にとって、明らかな詳細について記載することで図面を不明瞭にしないようにするためである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の原理の理解を促すために、図面に示された実施形態を参照しながら、専門用語を使用して説明する。しかしながら、当然に理解されることであるが、本発明の範囲を限定することは意図されておらず、本発明に関連する技術分野の当業者が通常思いつくような、図示されたシステムの変更およびさらなる修正、および図示された本発明の原理のさらなる応用を含むことが理解されよう。特に定義されていない限り、本開示で使用されているすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本開示で提示されるシステム、方法、および例は、例示であり、限定しようとするものではない。
【0027】
例えば、本開示で使用されている「some」という用語は、「none」または「one」または「more than one」または「all」と理解される。したがって、「none」、「one」、「more than one」、「more than one, but not all」、または「all」という用語は、「some」の定義に該当することになる。本開示で使用されている用語および構造は、いくつかの実施形態とその特定の特徴および要素を説明、教示、明らかにするためのものであり、したがって、本開示の精神および範囲をいかなる方法でも限定、制限、または縮小すると解釈すべきではないことを、当業者は理解されたい。
【0028】
例えば、「includes」、「comprises」、「has」、「consists」、および同様の文法的変形表記などの用語は、正確な限定または制限をするものではなく、特に明記しない限り、1つまたは複数の機能や要素の追加の可能性を排除するものではない。さらに、このような用語は、別段の記載がない限り、例えば、「must comprise」や「needs to include」などが挙げられるがこれらに限られない、限定的な表現を用いた用語は、記載された特徴や要素のうち1つ以上の削除の可能性を排除するものではない。
【0029】
ある特徴や要素が一度しか使われないように制限されていたとしても、「one or more features」もしくは「one or more elements」、または「at least one feature」もしくは「at least one element」と記載されることがある。さらに、「one or more」または「at least one」の特徴または要素という用語の使用は、「there needs to be one or more」や「one or more element is required」などの限定的な表現で特定されない限り、その特徴または要素が全く含まれないことを排除するものではない。
【0030】
特に定義されていない限り、本開示で使用されているすべての用語、特に技術的およびまたは科学的な用語は、当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。
【0031】
本開示では、いくつかの実施形態を参照している。実施形態は、本開示の任意の特徴および/または要素の実現可能な例であることを理解されたい。いくつかの実施形態には、本開示の特定の特徴および/または要素が、潜在的な方法の1つまたは複数を説明する目的で記載されており、本開示の特定の特徴および/または要素は、独自性、有用性、および非自明性の要件を満たす。
【0032】
「第1の実施形態」、「さらなる実施形態」、「代替の実施形態」、「1つの実施形態」、「1つの実施形態」、「複数の実施形態」、「いくつかの実施形態」、「他の実施形態」、「追加の実施形態」、またはそれらの他の変形を含むがこれらに限定されないフレーズおよび/または用語の使用は、必ずしも同じ実施形態を指すものではない。特に明記しない限り、1つまたは複数の実施形態に関連して記載された1つまたは複数の特定の特徴および/または要素は、1つの実施形態に含まれることがあり、1つ以上の実施形態に含まれることがあり、すべての実施形態に含まれることもあり、または実施形態に含まれないこともある。本開示では、1つまたは複数の特徴および/または要素が、単一の実施形態のみの文脈で、または1つ以上の実施形態の文脈で、またはすべての実施形態の文脈で記載されることがあるが、代わりに、特徴および/または要素は、個別に、または任意の適切な組み合わせで、または全く記載されないことがある。逆に、別々の実施形態の文脈で説明された任意の特徴および/または要素は、代替的に、単一の実施形態の文脈で一緒に存在するものとして実現されてもよい。
【0033】
本開示に記載されている特定のおよびすべての詳細は、実施形態の文脈で使用されているため、必ずしも本開示における限定的要因と解釈すべきではない。
【0034】
以下に、本発明の実施形態について、添付図面を参照し、詳細に説明する。
【0035】
明確性担保のため、本開示における各構成要素の参照番号の接頭数字は、対応する構成要素が示されている図番号を示す。例えば、数字「1」で始まる参照番号は、少なくとも
図1に示されている。同様に、数字「2」で始まる参照番号は、少なくとも
図2に示されている。
【0036】
図1は、本開示の一つの実施形態におけるプロトン交換膜(PEM)燃料電池100を示す。PEM燃料電池100は、水素ガスを燃料、酸素を酸化剤として用い発電する電気化学セルであってもよい。PEM燃料電池100は、水素分子をイオン化して、外部回路を介して移動する電子を放出するために、白金などの触媒を用いてもよい。PEM燃料電池100は、PEM燃料電池100のコアを形成し得る膜電極アセンブリ(MEA)102を含んでもよい。MEA102は、MEA102の主要部分を形成するプロトン交換膜(PEM)104を含んでもよい。PEM104は、電子絶縁体および水素ガスおよび酸素ガス用バリアとして機能しながら、水素イオンを通過させる媒体として機能する半透過性の膜である。
【0037】
また、MEA102は、PEM104を挟む、第1ガス拡散層106-1と第2ガス拡散層106-2とを含む一対のガス拡散層106を含んでいてもよい。ガス拡散層106は、ガス拡散層106に接しているPEM104の表面全体に、ガスや空気を拡散するように構成されている。例えば、第1ガス拡散層106-1は、PEM104の一方の表面に水素ガスを均一に拡散し、第2ガス拡散層106-2は、PEM104の他方の表面に空気中の酸素を均一に拡散してもよい。ガス拡散層106は、PEM104の一方の表面を介して水素イオンを均一に透過し、PEM104の他方の表面において、水素イオンを酸素によって均一に還元し水を発生させるために、気体の適切な拡散を確実にするために必要である。また、ガス拡散層106は、電子の交換を促進してもよい。
【0038】
一つの実施例において、PEM燃料電池100は、一対のポリメットプレート108を含み、一対のポリメットプレート108は、MEA102を挟むように、ガス拡散層106の各側に第1ポリメットプレート108-1と第2ポリメットプレート108-2とを含んでいる。ポリメットプレート108は、様々な役割を担うように構成されている。まず、ポリメットプレート108は、PEM燃料電池100に構造的強度を与える。また、ポリメットプレート108は、触媒反応のための燃料および酸素の供給を可能にする。さらに、ポリメットプレート108は、集電板として機能し、これに外部回路を接続することができる。あるいは、ポリメットプレート108は、PEM燃料電池100および他のPEM燃料電池100の結合を可能にして、PEM燃料電池100のPEM燃料電池スタックを形成してもよい。いずれの場合も、ポリメットプレート108は、電子がPEM燃料電池100の外部を移動できるように電気的接続を可能にする。ポリメットプレート108の詳細については、
図2および
図3に関連して後述する。
【0039】
一つの実施例において、各ポリメットプレート108は、一対のガス拡散層106への燃料または空気のいずれかの分配経路を提供しうる流れ場110-1、110-2を含んでいる。例えば、第1流れ場110-1は、水素ガスをガス拡散層106-1に分配する一方、第2流れ場110-2は、空気をガス拡散層106-2に分配してもよい。さらに、流れ場110-1、110-2は、腐食の発生を減少させる熱可塑性材を含んでいてもよい。一つの実施例において、腐食の割合は、同じ寸法の従来の流れ場よりも30%~40%減少する。
【0040】
また、PEM燃料電池100は、PEM燃料電池100の動作中に発生する熱を除去するために、PEM燃料電池100に冷却剤を循環するように構成された冷却回路を含んでもよい。一つの実施例において、冷却回路は、閉回路であって、水などの冷却剤を循環させている。一つの実施例において、冷却回路は、ポリメットプレート108から熱を除去するように構成されている。従来、冷却回路内の冷却剤は、従来のプレートからの電流漏れによりイオン化され、かかるイオン化により、冷却回路の冷却性能に影響を与えるとともに、冷却剤のイオン化により、PEM燃料電池100のショートを引き起こす可能性がある。かかる問題は、後述の実施形態で詳細に説明するポリメットプレート108の構造と形状により、ポリメットプレート108からの電流漏れを防ぐことで軽減される。
【0041】
また、PEM燃料電池100は、冷却回路に流体的に結合したイオンバランスユニット(図示せず)を含んでいてもよく、冷却剤の電気伝導性を低下させて冷却剤の動作寿命を向上するように構成されていてもよい。
【0042】
一つの実施例において、第1ポリメットプレート108-1は、PEM燃料電池100のアノードであり、一方、第2ポリメットプレート108-2は、PEM燃料電池100のカソードである。一つの実施例において、アノードポリメットプレート108-1および第1ガス拡散層106-1が、アノードチャンバーを画定する一方で、カソードポリメットプレート108-2および第2ガス拡散層106-2が、カソードチャンバーを画定する。さらに、アノードポリメットプレート108-1は、その上に水素ガスをイオン化するための触媒層を含んでいてもよい。動作中、アノードポリメットプレート108-1は、水素イオンおよび自由電子を形成するために水素ガスをイオン化してもよい。アノードチャンバー内の水素イオンは、第1ガス拡散層106-1を介して固体PEM104を通じ移動してもよい。一方で、アノードポリメットプレート108-1は、自由電子を収集してもよい。アノードポリメットプレート108-1上の収集された電子は、外部回路を介してカソードポリメットプレート108-2に移動する。
【0043】
一方で、カソードポリメットプレート108-2は、外部回路に結合し、外部回路を介してアノードポリメットプレート108-1から電子を受け取ってもよい。さらに、カソードポリメットプレート108-2は、空気中の酸素分子に電子を供給し、酸素分子を分割し酸素イオンを形成し、PEM104を通じカソードチャンバーに移動した水素イオンと結合して水分子を形成してもよい。次に。ポリメットプレート108の構造的な詳細と、ポリメットプレート108がどのようにしてPEM燃料電池100の動作を可能にするかについて説明する。
【0044】
図2から
図4は、本開示の一つの実施形態におけるポリメットプレート108の詳細な概略図を示している。具体的には、
図2は、アノードポリメットプレート108-1の正面図および背面図を示し、
図3は、カソードポリメットプレート108-2の正面図および背面図を示している。さらに、
図4は、アノードポリメットプレート108-1上にあるカソードポリメットプレート108-2の上面斜視図(A)、アノードポリメットプレート108-
1上にあるカソードポリメットプレート108-2の下面斜視図(B)、および(A)の線1-1に沿って切り取った断面図(C)を相対的に示している。
【0045】
ポリメットプレート108の本体は、金属ポリマー複合体であってもよい。一つの実施例において、ポリメットプレート108は、ポリマー材および導電材で形成されている。一つの実施例において、ポリマー材は、熱可塑性ポリマーまたは熱硬化性ポリマーのいずれかであってもよい。ポリマー材は、適切な放熱を可能にする良好な熱伝導性を有し、それによって、PEM燃料電池100の性能を高めることができる。一つの実施例において、ポリメットプレート108は、ポリマー材単独で、またはガラスおよび90~95体積%のポリマー材の組み合わせで、形成される。
【0046】
ポリマー材の使用は、従来の金属ベースまたはグラファイトベースのプレートに比べて様々な利点がある。例えば、ポリマー材は、金属またはグラファイトよりも軽いため、ポリメットプレート108は従来のプレートよりも軽くなる。さらに、ポリマー材は、機械加工または鋳造よりも容易な射出成形によって容易に成形することができ、そのためポリメットプレート108は、従来のプレートよりも経済的に製造することができる。さらに、ポリマー材は、従来のグラファイトベースのプレートよりも良好な気体不透過性を有することがあり、それによって、PEM燃料電池100のより良好な機密性を達成することができる。
【0047】
一方、導電材は、電子の形で電荷を収集および分配できるように形成される。グラファイトまたは金属で作られた従来のプレートのように、プレート表面全体にわたって電荷を収集および分配するのではなく、ポリメットプレート108表面の目指した位置に導電材が配置されているため、従来のプレートのように表面全体に導電性を持たせることなく、ポリメットプレート108表面に電荷を収集および分配させることができる。その結果、金属またはグラファイトでポリメットプレート108全体を製造しなくとも、ポリメットプレート108によって従来のプレートの電気伝導性が実現される。一つの実施例において、導電材は、金属、カーボンパウダー、またはカーボンフィラーのいずれかである。
【0048】
本開示において、電荷は表面全体ではなく適切な場所に形成されるので、ポリメットプレート108を冷却する冷却剤のごくわずかな量が導電材の当該場所と接触することになる。このように接触が少ないと、ポリメットプレート108を冷却する冷却剤への電流漏れがなく、冷却剤のイオン化を防ぐことができる。さらに、ポリメットプレート108の内部に存在する導電材は、常に電荷を除去しているため、さらに電流漏れを防ぐ。電流漏れの防止により、PEM燃料電池100の動作寿命および性能が向上する。また、電流漏れの防止により、あるPEM燃料電池100からの電流漏れがゼロであることは、他のPEM燃料電池100の動作に影響を与えないため、スタックを構成するすべてのPEM燃料電池100の冷却に同じ冷却剤が使用される、PEM燃料電池100のスタックの性能を向上させることができる。さらに、電流漏れの防止により、冷却剤の動作寿命も長くなる。
【0049】
次に、
図2から
図4における、アノードポリメットプレート108-1およびカソードポリメットプレート108-2の構造的詳細について、説明する。以下の説明は、簡潔さを保つために、アノードポリメットプレート108-1およびカソードポリメットプレート108-2に関して同時に行う。さらに、特に言及しない限り、「ポリメットプレート108」という表現は、アノードポリメットプレート108-1およびカソードポリメットプレート108-2の両方を意味する。ポリメットプレート108本体は、第1表面202と、第1表面202の反対側に第2表面204とを有していてもよい。さらに、
図4(C)に示すとおり、第1表面202および第2表面204は、幅Lを有していてもよく、ポリメットプレート108本体は、第1表面202および第2表面204の間に厚さTを有していてもよい。一つの実施例において、第1表面202は、ガス拡散層106-1、106-2(
図1に示す)に接しており、一方、第2表面204は、コレクタワイヤ(図示せず)に結合しても、または冷却剤を受け入れてもよい。第1表面202は、ポリメットプレート108の動作を促進するように構成されていてもよい。例えば、第1表面202は、第1表面202の幅Lにわたって配置され得る複数のリブを含んでもよい。リブは、2つの機能を有してもよい。第1に、リブは、アノードポリメットプレート108-1の場合は電子の収集を可能にし、カソードポリメットプレート108-2の場合は電子の放出を可能にしてもよい。第2に、リブは、ポリメットプレート108に構造的強度を与えてもよい。
【0050】
一つの実施例において、ポリメットプレート108は、導電路を含んでいる。例えば、ポリメットプレート108は、複数の面内導電路208を含んでもよい。面内導電路208は、第1表面202のリブ上に導電材のシールとして形成されてもよい。一つの実施例において、面内導電路208は、リブのすべての表面に形成されてもよい。面内導電路208は、第1表面202上に配置されてもよく、第1表面202上の反応領域206を形成してもよい。反応領域206は、PEM燃料電池100内の電気化学反応が起こり得る領域としてもよい。さらに、面内導電路208は、矩形平板状の反応領域206を形成するように構成されてもよい。
【0051】
さらに、面内導電路208は、第1表面202全体に電子を流すことができるように構成される。一つの実施例において、
図2に示されるように、アノードポリメットプレート108-1の場合、面内導電路208は、リブで収集された電子を移動させ得る。例えば、第1ポリメットプレート108-1の場合、面内導電路208は、第1ガス拡散層106-1を介して電子を収集することができる。別の実施例においては、
図3に示されるように、カソードポリメットプレート10
8-2の場合、リブ上の面内導電路は、第1表面202上のリブ全体に電子を分配する。
【0052】
面内導電路208に加えて、ポリメットプレート108は、面貫通導電路210を含んでもよい。面貫通導電路210は、第1表面202と第2表面204との間において本体を通る固体導電材によって形成されてもよい。一つの実施例において、
図4(C)に示されるように、面貫通導電路210は、面内導電路208の外周に形成され、電子がポリメットプレート108の厚さTを横切って移動することができるように、面内導電路208に電気的に結合していてもよい。一つの実施例において、
図2に示されるように、面貫通導電路210は、電子を、アノードポリメットプレート108-
1の第1表面202上の面内導電路から流すことができる。同様に、
図3に示されるように、面貫通導電路210は、カソードポリメットプレート108
-2の面内導電路208へ電子を分配することができる。一つの実施例において、ポリメットプレート108の外周における面貫通導電路210に付加される導電材は、ポリメット108の5~10体積%である。
【0053】
一つの実施例において、カソードポリメット層108-2の第2表面204は、冷却剤を受け入れるように構成された熱除去ジャケット212を含んでいてもよい。熱除去ジャケット212は、PEM燃料電池100のための冷却回路の一部であってもよい。明らかに示されているように、熱除去ジャケット212と面内伝導経路を有するリブとの接触は、最小の接触となり、その結果、電流漏れがゼロになる。熱除去ジャケット212は、電気を通さない熱可塑性材で形成されてもよい。結果として、熱除去ジャケット212は、その中を流れる冷却剤への電流漏れを低減することができる。
【0054】
一つの実施例において、アノードポリメットプレート108-1の面内導電路208は、第1ガス拡散層106-1を介して電子を受け取り、カソードポリメットプレート108-2の面貫通導電路に電子を移動させるように構成されている。移動方法は、PEM燃料電池100の動作に関連して後述する。
【0055】
次に、ポリメットプレート108の動作について説明する。
図2のとおり、面内導電路208を含む、アノードポリメット層10
8-1の第1表面202の部分を、第1領域A1とする。さらに、面貫通導電路210を含む、第1表面202の部分を、第2領域A2とし、面貫通導電路210を含む、第2表面20
4の部分を、第3領域A3とする。さらに、第1領域A1および第2領域A2は、同一平面上にあり、互いに電気的に結合している。
図3のとおり、面貫通導電路2
10を含む、カソードポリメット層10
8ー2の第2表面204の部分を、第4領域A4とし、面貫通導電路2
10を含む、カソードポリメット層10
8-2の第1表面202の部分を、第5領域A5とする。さらに、面内導電路208を含む、カソードポリメット層10
8-2の第1表面202の部分を、第6領域A6とする。さらに、第5領域A5および第6領域A6は、同一平面上にあり、互いに電気的に結合している。
【0056】
図2および
図4のとおり、アノードポリメットプレート108-1において、アノードチャンバー内で水素酸化が起こり、アノードポリメット層10
8-1上のアノード触媒層の表面上でプロトン(水素イオン)と電子とに分割される。プロトンは、固体PEM104を介してアノードポリメット層10
8-1からカソードポリメット層10
8-2へ移動し、電子は、第1ガス拡散層106-1を介してアノード触媒層から第1領域A1に移動する。これらの電子は、第1領域A1から第2領域A2に移動している。第2領域A2および第3領域A3は電気的に結合しているので、電子はさらに第2領域A2から第3領域A3に移動する。電子は、第3領域A3から外部回路にアノードポリメット層10
8-1から出ることができる。
【0057】
図3および4のとおり、カソードポリメットプレート108-2において、第2表面204は、一方の側に熱除去ジャケット212を有し、もう一方の側に、上述のカソードチャンバーを有する。カソードチャンバーでは、酸素還元反応が起こり、電気化学反応を完結させるために電子が必要となる。
図3に示すように、これらの電子は、外部回路を介してカソードポリメットプレート108-2の第4領域A4で受け取られる。さらに、酸素還元反応に必要となる電子は、面貫通導電路210を介して、第4領域A4から第5領域A5に移動することができる。第5領域A5において、カソードポリメットプレート108-2上の第6領域A6へと電子は移動し、第6領域A6において、面内導電路208は電子を提供し、酸素を酸素イオンに還元し、これが水素イオンと結合して水を形成する。
【0058】
図5から7は、従来のプレートと比較したポリメットプレート108の利点を示すシミュレーションデータを示す。具体的には、
図5は、ポリメットプレートおよびプレート材としてグラファイトおよびSSを使用した従来の単極板のI-V分極曲線500および電力密度曲線を示している。さらに、
図6は、ポリメットプレート108と、PEM燃料電池用の従来のグラファイト/SS単極板との電力密度の比較を示すグラフ600を示し、
図7は、ポリメットプレート108と、PEM燃料電池用の従来のグラファイト/SS単極板とのスタック総体積の比較を示すグラフ700を示している。さらに、
図8は、本ポリメットプレート108とPEM燃料電池用の従来のグラファイト/SS単極板とのスタック総質量の比較を示すグラフ800を示している。
【0059】
上述のシミュレーションにおいて、基本設計との比較を目的として、PEM燃料電池100単極板108の設計および従来の設計は、同じ寸法で作成された。ベースラインモデルとして、流用できるデータベースに登録されている標準的な材料特性を使用した。ポリメットプレート108の材料は、面貫通導電路210の外周にSSインサートを備えた熱導電性ポリマーとして選択された。従来のグラファイト(ISO-63)およびSS-316Lも、燃料電池プレートの従来の設計のための単極板材料として個別に使用された。
【0060】
シミュレーション過程において、ポリメットプレート108の複雑なジオメトリは、より大きな領域の離散的な局所的近似値として使用できるよう単純な要素に分割された。セルの長さに沿った高アスペクト比の純粋な直交六面体メッシュが開発された。高い収束率を実現するため、触媒層からガス拡散層へのメッシュの段階的な拡張が行われた。要素メッシュが急激に変化しないよう、コンフォーマルメッシュ機能を使用して、ジオメトリ内に共通する接面部と端部は、すべてメッシュ化された。「命名セレクション」機能を使用して、すべてのジオメトリドメインおよび面が、その材料および機能に応じて、例えば、固体および流体のドメイン、対称および壁のインターフェースなどに従って、記述された。
【0061】
次に、関連するメッシュを含む最終的なジオメトリが流体シミュレーションに使用された。関連する物理的性質(ジュール熱、電気化学源、バトラー・ボルマー率、半電池電位など)は、GDLおよび気体チャネルの液体飽和を考慮した電流密度の計算、その後のすべてのチャネルの出口における液体除去の計算のために選択された。
【0062】
入口境界条件は、通常の実験方法に従って指定された。イオン電流が外部境界を介して燃料電池を離れることはないため、すべての外部境界上において、膜相電位のためのフラックス境界条件はゼロとなる。固相電位の場合、外部電気回路と接しているアノード側およびカソード側に外部境界が存在する。燃料電池で生じた電流は、これらの境界を通過するのみである。他のすべての外部境界では、フラックス境界条件はゼロとなる。I-V曲線の計算方法は、最初に1.1Vの高ポテンシオスタット電圧(または低電流密度)でシミュレーションを計算し、続いてセル電圧を、0.1Vから0.4Vまで、段階的に(電流密度を増加しながら)下げた。このような方法により、計算者を発散させることなく短期間で安定した値とすることができた。
【0063】
図5に示すように、電流密度全体にわたって、ポリメットプレート108(ポリマー電圧)の電圧曲線は、グラファイトプレートの電圧曲線(グラファイト電圧)および金属プレートの電圧曲線(SS-316L電圧)と重なる。かかる重なりは、ポリメットプレート108が、グラファイトおよび金属プレートと比較して同様の電気的特性を有することを示している。同様に、電流密度全体にわたって、ポリメットプレート108(ポリマー電力)の電力曲線は、グラファイトプレートの電力曲線(グラファイト電力)および金属プレートの電力曲線(SS-316L電力)と重なる。かかる重なりは、ポリメットプレート108による電力出力が、グラファイトまたは金属プレートと同じであることを示している。
【0064】
図6に示すように、ポリメットプレート108の電力密度は、金属プレートの電力密度よりもほぼ5倍高い電力密度(kW/kg)を有することができる。さらに、ポリメットプレート108の電力密度は、グラファイトプレートの電力密度のさらに3倍高い。より高い電力密度であることにより、従来のグラファイトプレートまたは金属プレートベースの燃料電池の性能を達成するための重量とサイズを削減できる。かかる削減により、PEM燃料電池100はコンパクトになり、自動車での使用に理想的となる。
【0065】
図7は、ポリメットプレート108、グラファイトプレート、および金属プレートによって形成されたスタック総体積を示すグラフ700を示す。図のとおり、ポリメットプレート108のスタックの総体積は、2.5倍小さいため、PEM燃料電池100の体制もより小さく、そのため、PEM燃料電池100は、グラファイトプレートベースの燃料電池よりもコンパクトになる。他方、ポリメットプレート108のスタックの総体積は、金属プレートベース燃料電池の1.1倍大きく、それにより、PEM燃料電池100は、金属プレートベースの燃料電池とほぼ同じサイズになる。
【0066】
最後に、
図8は、スタック総質量を1グラムの単位で示すグラフ800を示す。ポリメットプレート108のスタックの総質量は、金属プレートのスタック総質量のほぼ5分の1とすることができる。さらに、ポリメットプレート108のスタック総質量は、グラファイトプレートのスタック総質量のさらに3分の1となる。スタックの総質量が小さいほど、PEM燃料電池100の質量を小さくすることができる。
【0067】
本開示によれば、ポリメットプレート108は、従来の解決方法と比較して、以下の技術的利点を有しる。
-ポリメットプレートの質量をグラファイト単極板の3分の1にすることができる。
-ポリメットプレートの質量を金属単極板の5分の1にすることができる。
-ポリメットプレートによる燃料電池スタックの電力密度をグラファイトによる燃料電池スタックの電力密度(kW/kg)の3倍にすることができる。
-ポリメットプレートによる燃料電池スタックの電力密度を金属による燃料電池スタックの電力密度(kW/kg)の5倍にすることができる。
-金属ベースの単極板と比較して、アノード/カソードチャンバーの反応領域の腐食を30~40%削減できる。
-スタックから熱を除去するために使用される冷却剤の寿命を延長できる。
-熱除去ジャケット内の冷却剤を介した電流漏れがゼロであるため、燃料電池スタックの性能と寿命を向上できる。
-燃料電池システムからイオンバランスユニットを除去できる。
-ポリメットプレートの軽量化により、スタッキングに使用されるエンドプレートの質量を削減できる。
-燃料電池スタックの重量およびサイズを削減でき、輸送およびモビリティの際に好適となる。
【0068】
本開示を説明するために専門用語を使用したが、それにより生じる限定は意図していない。当業者には明らかであるように、本開示で示される本発明の概念を実施するための方法には、様々な実用的な修正を加えることができる。図面および上述の説明は、実施形態の例示である。当業者であれば当然理解できることであるが、記載された要素のうちの1つまたは複数の要素を単一の機能的要素にうまく組み合わしてもよい。あるいは、特定の要素を複数の機能的要素に分割してもよい。ある実施形態における要素を別の実施形態に追加してもよい。
【0069】
(付記)
(付記1)
プロトン交換膜(PEM)燃料電池(100)用のポリメットプレート(106)であって、前記ポリメットプレート(106)は、ポリマー材を含んでなる本体を含み、
前記本体は、
第1表面(202)と、前記第1表面(202)の反対側の第2表面(204)と、
導電材のシールとして前記第1表面(202)上の少なくとも1つのリブ上に形成されている複数の面内導電路(208)であって、前記第1表面上の反応領域を画定する、前記第1表面(202)上の複数の前記面内導電路(208)と、
前記面内導電路と電気的に結合している面貫通導電路であって、前記第1表面(202)および前記第2表面(204)の間を貫通する、固体導電材で形成された前記面貫通導電路と、
を含む、
ポリメットプレート(106)。
【0070】
(付記2)
前記本体が、前記ポリマー材単独、90~95体積%のガラス材およびポリマー材の組み合わせ、ポリメットプレート(106)の外周の面貫通導電路に付与された5~10体積%の前記導電材のいずれかを含む、付記1に記載のポリメットプレート(106)。
【0071】
(付記3)
前記本体が、熱伝導性ポリマー材を含んでなり、前記熱伝導性ポリマー材は熱硬化性ポリマーまたは熱可塑性ポリマーのいずれかであり、前記導電材は金属、カーボンパウダー、またはカーボンフィラーのいずれかである、付記2に記載のポリメットプレート(106)。
【0072】
(付記4)
前記第1表面が、前記第1表面(202)に隣接して配置されたガス拡散層に燃料または空気のいずれかを分配するように構成された流れ場(108-1、108-2)を含む、付記1に記載のポリメットプレート(106)。
【0073】
(付記5)
前記第2表面(204)上に、冷却剤が中を通って循環するように構成された熱除去ジャケット(212)を含む、付記1に記載のポリメットプレート(106)。
【0074】
(付記6)
複数のプロトン交換膜(PEM)燃料電池(100)を接続して形成されるスタック用のPEM燃料電池(100)であって、
前記PEM燃料電池(100)は、
プロトン交換膜(PEM)(104)と、
前記PEM(104)を挟む一対のガス拡散層(104-1、104-2)と、
を含む膜電極アセンブリ(MEA)(102)と、
それぞれがポリマー材を含む本体を含んでなる、前記MEA(102)を挟む第1ポリメットプレート(106-1)および第2ポリメットプレート(106-2)と、
を含み、
前記本体は、
第1表面(202)と、前記第1表面(202)の反対側の第2表面(204)と、
導電材のシールとして前記第1表面(202)上の少なくとも1つのリブ上に形成されている複数の面内導電路(208)であって、前記第1表面(202)上の反応領域を画定する、前記第1表面(202)上の複数の前記面内導電路(208)と、
前記面内導電路と電気的に結合している面貫通導電路であって、前記第1表面(202)および前記第2表面(204)の間を貫通する、固体導電材で形成された前記面貫通導電路と、
を含む
PEM燃料電池(100)。
【0075】
(付記7)
前記第1ポリメットプレート(106-1)および前記第2ポリメットプレート(106-2)は、前記PEM燃料電池(100)のカソードである、付記6に記載のPEM燃料電池(100)。
【0076】
(付記8)
アノードポリメットプレート(106-1)の前記面内導電路(208)が、前記第1ガス拡散層(104-1)を介して電子を受け取り、前記カソードポリメットプレート(106-2)の前記面貫通導電路に電子を転送するように構成されている、付記7に記載のPEM燃料電池(100)。(暫定版の付記8に対応)
【0077】
(付記9)
前記PEM燃料電池(100)動作中に放熱するために、熱可塑性材で形成された熱除去ジャケット(212)であって、前記第2ポリメットプレート(106-2)の前記第2表面(204)上の前記熱除去ジャケットに流体的に結合した冷却回路を含み、前記ポリマー材が前記冷却剤への電流漏れを抑制する、付記6に記載のPEM燃料電池(100)。
【0078】
(付記10)
前記冷却回路に流体的に結合し、前記冷却剤の電気伝導度を低下させるように構成されたイオンバランスユニットを含む、付記9に記載のPEM燃料電池(100)。