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特許7362773高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/021 20160101AFI20231010BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231010BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20231010BHJP
   C23C 22/74 20060101ALI20231010BHJP
   C23F 1/14 20060101ALI20231010BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231010BHJP
【FI】
H01M8/021
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C23C22/74
C23F1/14
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021561904
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 KR2019018472
(87)【国際公開番号】W WO2021125417
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172290
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513302422
【氏名又は名称】ヒュンダイ ビーエヌジースチール カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ,サン キュ
(72)【発明者】
【氏名】チョ,サン ホン
(72)【発明者】
【氏名】イム,チュン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ムン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,キョン ス
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】イ,チェ ホ
(72)【発明者】
【氏名】イム,ヒョン ウク
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082591(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0107050(KR,A)
【文献】特開2013-065562(JP,A)
【文献】特表2019-505972(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0082632(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103361660(CN,A)
【文献】特開2006-302729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C22C 38/00
C22C 38/28
C23C 22/74
C23F 1/14
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重量%として、C:0.01~0.08%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:15~35%、Cu:1.0%以下、N:0.05%以下、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下、及びその他Feと、その他不可避不純物を含み、表面に不動態被膜が形成されたステンレス母材を用意するステップ;
(b)前記ステンレス母材の表面を脱脂溶液に沈積させて脱脂処理するステップ;
(c)前記脱脂処理されたステンレス母材をエッチング溶液でエッチングした後、デスマット溶液でデスマット処理するステップ;及び、
(d)前記エッチング及びデスマット処理されたステンレス母材を表面安定化溶液で表面安定化処理するステップ;を含み、
上記(d)ステップ後、表面改質処理によって界面接触抵抗が10~35mΩ・cm2である表面改質層を有することを特徴とする、
高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法。
【請求項2】
前記ステンレス母材は、
P:0.14重量%以下、S:0.03重量%以下、H:0.004重量%以下、及びO:0.007重量%以下のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする、
請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法。
【請求項3】
上記(b)ステップにおいて、
前記脱脂処理は、
脱脂溶液における30~70℃で0.5~5分間沈積処理することを特徴とする、
請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法。
【請求項4】
上記(c)ステップにおいて、
前記エッチング処理は、2.5~6.2molの硫酸イオン、0.1~2.0molの窒酸イオン、及び1.0~5.0molのフッ素のうち少なくとも2種以上を含み、40~80℃に昇温されたエッチング溶液に0.2~2分間浸漬し、
前記デスマット処理は、1.5~6.0molの過酸化水素、1.0~4.0molのフッ素、及び0.001~0.01molの腐食抑制剤を含み、40~80℃に昇温されたエンデスマット溶液に0.5~2分間浸漬することを特徴とする、
請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
上記(d)ステップ後、
(e)前記表面安定化処理されたステンレス母材を安定化するために安定化熱処理するステップ;
をさらに含むことを特徴とする、
請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記安定化熱処理するに際しては、
150~250℃で1~10分間実施することを特徴とする、
請求項に記載の高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃料を用いた電気発生装置に使用される高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼、及びその製造方法に関するものであって、より詳細には、電気を発生させるスタックの正極と負極などの部品に使用されるステンレス鋼の表面を湿式加工による表面改質技術を適用して、耐食性及び電気伝導性、結露現象を生じさせない高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼、及びその製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、コーティング方法や不動態処理方法ではない化学的方法による表面改質技術であって、電気的、化学的及び物理的安定性により耐久性に優れた高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
水素燃料電池は、化石燃料に取り替えて、大気汚染を減らすための方法として台頭した環境に優しい電気発電システムであり、水の電気分解方法により水素と酸素を発生させる方法の逆方向に水素と大気中酸素を用いて、水と電気エネルギーを発生させる環境に優しい電気発生装置である。燃料電池のうち、特に高分子燃料電池(Proton Exchange Membrance Fuel Cell,PEMFC)は、作動温度が60~80℃と低くて、高いエネルギー効率などを有する長所を持っている。
【0004】
かかる高分子燃料電池は、高分子電解質膜、電極、ガス拡散層(GDL)及び分離板から構成される。高分子燃料電池に使用される分離板は、水素と酸素が流れ得るチャンネルが形成された構造であって、各々の単位電池を分離して、MEA(Membrance Electrode Assembly)の支持体の役割、水素と酸素が流れ得る経路の提供、生成されたエネルギーを伝達する電流集電体の重要な役割を果たす。
【0005】
水素燃料を用いて電気を発生させる高分子燃料電池(proton exchange membrane fuel cell,PEMFC)は、燃料極(anode)から供給された水素は、電解質層を通過しながら水素イオンと電子に解離し、水素イオンは、空気極(cathode)に移動して、酸素と反応して水を形成し、電解質層における電子を外部回路を介して電気貯蔵装置(バッテリー)に移動して電気を形成するものであって、水素と酸素の電気化学反応によって電気を生産することになるものである。
【0006】
かかる高分子燃料電池は、高分子電解質膜、電極、ガス拡散層(GDL)及び分離板から構成される。高分子燃料電池に使用される分離板は、水素と酸素が流れる得るチャンネルが形成された構造であって、各々の単位電池を分離して、MEA(Membrane Electrode Assembly)の支持体の役割、水素と酸素が流れ得る経路の提供、生成されたエネルギーを伝達する電流集電体の重要な役割を果たす。
【0007】
燃料電池分離板は、燃料極(anode)と空気極(cathode)を言うものであって、水素と酸素の電気化学反応が起こるようにする。よって、燃料電池分離板は、電子の移動が容易であるように優れた電気伝導性を要求し、正極と負極反応で腐食が起こらないように耐食性を確保しなければならない。また、水素と酸素の電気化学反応によって発生した水を円滑に排出するために表面張力を低くして、水分の凝縮(flooding現象)を防止するために優れた親水性が要求される。
【0008】
燃料電池分離板は、熱及び伝導性に優れ、変形の防止、震動や衝撃に破壊されない機械的強度、寸法安全性、耐化学性などが求められ、かかる特徴を有するものとして黒煙、Ti合金、伝導性プラスチック、ステンレススチールなどがあり、金属電極板は、熱伝導性及び成形性、寸法安全性、耐食性に優れる特徴によりステンレススチールを用いて電極板にコーティングや伝導性被膜を形成して、伝導性を付与している。
【0009】
炭素(または黒煙)系分離板は、気体あるいは液体透過度が高くて、機械的強度と成形加工性が良くないし、加工費が高いという短所がある。これに反して、ステンレス金属分離板は、ガス密閉性に優れ、高い熱及び電気伝導性、薄板化が可能であるため、軽量化と優れた耐衝撃性の確保が可能である。また、ステンレス金属分離板は、スタンピング、ハイドロフォーミングなどの薄板成形工程を適用する際、優れた生産収率で分離板の費用節減が図れる長所がある。
【0010】
かかる長所によって最近、高分子燃料電池の分離板としてステンレス鋼を用いようとする需要が増えている。ステンレス鋼は、薄板化及び成形性に優れる利点があるが、ステンレス鋼の表面に形成されるCr23不動態被膜によって接触抵抗が高い関係から、電気伝導性が低いという短所がある。
【0011】
これを改善するために、ステンレス鋼に流路を成形して分離板を製作した後、最終工程における燃料電池分離板の表面にAu、Pt、Cなどの伝導性物質をコーティングして、伝導性を付与することにより、電気伝導性を向上させる方法が活用されている。
【0012】
しかし、燃料電池分離板の製造費のうち、Au、Pt、Cなどの伝導性物質をコーティングする工程が高い比重を占めているため、生産費及び収率を改善するためにはこれを解決することが必要な状況である。
【0013】
ステンレススチールは、鉄とクロム、又は鉄とクロム、ニッケルを含む合金で製鋼され、ステンレススチールの耐食性は、鋼の表面にクロム(Cr)の結合した、非常に薄いクロム酸化物層(Cr23)を形成して、金属基地の内部への酸素の侵入を遮断させる方法により優れた耐食性を得ることができる。ステンレススチールの表面に形成されたクロム酸化物層(Cr23)が堅固に形成されるほど、耐食性はより優れるものの、堅固な酸化物層が形成されるほど、電気伝導性が落ちる現象を示す。
【0014】
かかる特徴によって、分離板は、耐食性と電気伝導性に優れる貴金属である金や白金を用いたコーティングや炭素コーティングの方法、ステンレス不動態処理後、伝導性被膜を形成する方法で適用している。
【0015】
関連する先行文献としては、韓国公開特許公報第10-2015-0074768号(2015年7月2日付公開)があり、上記文献では、燃料電池用オーステナイト系ステンレススチール及びその製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、燃料電池分離板として使用するために、器具的特性である耐食性と電気伝導性を同時に具現するためコーティングや伝導性被膜形成方法ではない、化学的表面改質技術を適用して、優れた界面接触抵抗が確保できる高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼、及びその製造方法を提供することである。
【0017】
また、本発明の他の目的は、製鋼及び圧延工程で発生した熱酸化膜や大気環境中に形成された自然酸化膜をエッチングの方法により除去し、化学的表面改質技術を適用して、1.0MPaの圧力下で10~35mΩ・cm2の接触抵抗と、高分子燃料電池の環境温度である80℃、0.1N硫酸、2ppmフッ酸混合液における15μA/cm2以下の高温動電位耐食性と、水分の凝縮現象を除去するために接触角(結露現象)試験における30~70゜接触角、とを有する高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼は、重量%として、C:0.01~0.08%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:15~35%、Cu:1.0%以下、N:0.05%以下、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下、及びその他Feと、その他不可避不純物を含み、表面改質処理によって界面接触抵抗が10~35mΩ・cm2である表面改質層を有し、動電位耐食性1.0~15.0μA/cm2及び接触角30~70゜を示すことを特徴とする。
【0019】
ここで、前記ステンレス鋼は、P:0.14重量%以下、S:0.03重量%以下、H:0.004重量%以下、及びO:0.007重量%以下のうち1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0020】
さらに、前記表面改質処理は、脱脂溶液に沈積させる脱脂処理と、エッチング溶液でエッチングして、デスマット溶液でデスマット処理するエッチング及びデスマット処理と、表面安定化溶液に沈積させる表面安定化処理、とを含む。
【0021】
上記目的を達成するため本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法は、(a)重量%として、C:0.01~0.08%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:15~35%、Cu:1.0%以下、N:0.05%以下、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下、及びその他Feと、その他不可避不純物を含み、表面に不動態被膜が形成されたステンレス母材を用意するステップ;(b)前記ステンレス母材の表面を脱脂溶液に沈積して脱脂処理するステップ;(c)前記脱脂処理されたステンレス母材をエッチング溶液でエッチングした後、デスマット溶液でデスマット処理するステップ;及び(d)前記エッチング及びデスマット処理されたステンレス母材を表面安定化溶液で表面安定化処理するステップ;を含み、前記(d)ステップ後、表面改質処理によって界面接触抵抗が10~35mΩ・cm2である表面改質層を有することを特徴とする。
【0022】
ここで、前記ステンレス母材は、P:0.14重量%以下、S:0.03重量%以下、H:0.004重量%以下、及びO:0.007重量%以下のうち1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0023】
上記(b)ステップにおいて、前記脱脂処理は、脱脂溶液における30~70℃で0.5~5分間沈積処理する。
【0024】
上記(c)ステップにおいて、前記エッチング処理は、2.5~6.2molの硫酸イオン、0.1~2.0molの窒酸イオン、及び1.0~5.0molのフッ素のうち少なくとも2種以上を含み、40~80℃に昇温されたエッチング溶液に0.2~2分間浸漬し、前記デスマット処理は、1.5~6.0molの過酸化水素、1.0~4.0molのフッ素、及び0.001~0.01molの腐食抑制剤を含み、40~80℃に昇温されたデスマット溶液に0.5~2分間浸漬する。
【0025】
上記(d)ステップ後、(e)前記表面安定化処理されたステンレス母材の安定化のため安定化熱処理するステップ;をさらに含む。
【0026】
前記安定化熱処理は、150~250℃で1~10分間実施するのが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼及びその製造方法は、表面に不動態被膜が形成されたステンレス母材に対して浸食や孔食なく表面不動態被膜を改質することにより、低い界面接触抵抗、優れた耐食性、及び優れた濡れ性の特性を確保することができる。
【0028】
また、本発明による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼及びその製造方法は、さらなる貴金属又は伝導性物質のコーティング工程なしに優れた界面接触抵抗及び耐食性を有し得、さらなる親水性処理又はコーティングなしに優れた表面濡れ性を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法を示した工程手順図。
図2】実施例1~6及び比較例1~9に従う試片に対する界面接触抵抗を測定する過程を説明するための模式図。
図3】比較例1~3及び5に従って製造された試片に対する動電位耐食性の測定結果を示したグラフ。
図4】実施例1~4に従って製造された試片に対する動電位耐食性の測定結果を示したグラフ。
図5】比較例1~3及び5に従って製造された試片に対する接触角を示した写真。
図6】実施例1~4に従って製造された試片に対する接触角を示した写真。
図7】実施例3と比較例3及び5に従って製造された試片に対する腐食生成物(SMUT)の残存有無を示した写真。
図8】実施例1及び3と比較例1に従って製造された試片に対するXPS 分析結果を示したグラフ。
図9】実施例3及び6と比較例2に従って製造された試片を用いた単位電池のスタック性能を評価した結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は、添付の図面と共に詳細に後述する実施例を参照すれば明確になる。しかし、本発明は、以下に開示の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態に具現されるものである。但し、本実施例は、本発明の開示を完全にして、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義されるだけである。全明細書における同じ参照符号は、同じ構成要素を称する。
【0031】
以下では、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼、及びその製造方法について詳説すれば、次のとおりである。
【0032】
本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼は、重量%として、C:0.01~0.08%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:15~35%、Cu:1.0%以下、N:0.05%以下、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下、及びその他Feと、その他不可避不純物を含み、表面改質処理によって1.0MPaの圧力下で界面接触抵抗が10~35mΩ・cm2である表面改質層を有する。
【0033】
また、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼は、P:0.14重量%以下、S:0.03重量%以下、H:0.004重量%以下、及びO:0.007重量%以下のうち1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0034】
この結果、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼は、15μA/cm2(0.1N硫酸、2ppmフッ酸at80℃、SCE)以下、より好ましくは、1.0~15.0μA/cm2の動電位耐食性及び3μlの水玉を落とす場合、70゜以下、より好ましくは、30~70゜の接触角範囲を有する。
【0035】
以下では、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼に含まれる各成分の役割及びその含量について説明することとする。
【0036】
<炭素(C)>
炭素(C)は、オーステナイトステンレス鋼の強度を高めるのに必須元素であって、全体重量の0.01~0.08重量%の含量比で添加されるのが好ましい。炭素(C)の添加量が0.01重量%未満である場合は、高純度製品を作るための精錬コストが高くなる。逆に、炭素(C)の添加量が0.08重量%を超える場合は、不純物が増加して、加工性及び靭性が低下する問題がある。
【0037】
<シリコン(Si)>
シリコン(Si)は、脱酸に有効な元素であって、全体重量の0.3~1.0重量%の含量比で添加されるのが好ましい。シリコン(Si)の添加量が0.3重量%未満である場合は、精錬コストが高くなる問題が発生する。逆に、シリコン(Si)の添加量が1.0重量%を超える場合は、材質が硬化を起こして、靭性が低下し、成形性が低下する問題がある。
【0038】
<マンガン(Mn)>
マンガン(Mn)は、オーステナイト相の安定度を高めるのに必須元素であって、全体重量の0.3~2.0重量%の含量比で添加されるのが好ましい。マンガン(Mn)の添加量が0.3重量%未満である場合は、目標とする物性を確保しにくい。逆に、マンガン(Mn)の添加量が2.0重量%を超える場合は、マンガン(Mn)の過度な添加によって耐食性が低下する問題がある。
【0039】
<クロム(Cr)>
クロム(Cr)は、燃料電池の作動環境内で耐食性及び耐酸化性を向上させる必須元素であって、全体重量の15~35重量%の含量比で添加されるのが好ましい。クロム(Cr)の添加量が15重量%未満である場合は、燃料電池の作動環境内で適宜な耐酸化性を確保しにくい。逆に、クロム(Cr)の添加量が35重量%を超える場合は、必要以上に添加されて、製造費が上昇し、靭性が低下する問題がある。
【0040】
<銅(Cu)>
銅(Cu)は、燃料電池が作動する酸性雰囲気で耐孔食性を増加するために、高価のMoに取り替えられる経済性のある添加元素である。但し、過量添加時、Cuの溶出によって燃料電池の性能が低下し得るため、本発明では、これを考慮して、Cuをステンレス鋼の全体重量の1.0重量%以下に制限した。
【0041】
<窒素(N)>
窒素(N)は、窒化物を形成させる元素であって、侵入型に存在するようになるため、過度に含有されると、強度は上昇するものの、延伸率及び降伏点の延伸において不利である。よって、本発明における窒素は、ステンレス鋼の全体重量の0.01~0.05重量%の含量比に制限するのが好ましい。
【0042】
<チタン(Ti)>
チタン(Ti)は、鋼のうちC、Nを炭窒化物で形成するのに有効な元素であるが、過量添加時、靭性を低下させる。よって、本発明では、これを考慮して、Tiをステンレス鋼の全体重量の0.3重量%以下に制限した。
【0043】
<ニオビウム(Nb)>
ニオビウム(Nb)は、チタンと同様、鋼のうちC、Nを炭窒化物で形成するのに有効な元素であるものの、過量添加時、靭性を低下させる。よって、本発明では、これを考慮して、Tiをステンレス鋼の全体重量の0.3重量%以下に制限した。
【0044】
<P(イン)、硫黄(S)>
リン(P)は、耐食性のみならず、靭性を減少させるため、本発明では、Pをステンレス鋼の全体重量の0.14重量%以下に制限した。
【0045】
硫黄(S)は、MnSを形成し、かかるMnSは、腐食の基点となり、耐食性を減少させるため、本発明では、これを考慮して、Sをステンレス鋼の全体重量の0.03重量%以下に制限した。
【0046】
<H(水素)、酸素(O)>
水素(H)及び酸素(O)は、不可避に添加される不純物であって、本発明のステンレススチールの全体重量の0.004重量%以下及び0.007重量%以下にそれぞれ厳密に制限するのが好ましい。
【0047】
以下では、添付の図面を参照して、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法について説明することとする。
【0048】
図1は、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法を示した工程手順図である。
【0049】
図1に示されたように、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法は、ステンレス母材用意ステップ(S110)、脱脂処理ステップ(S120)、エッチング及びデスマット処理ステップ(S130)、及び表面安定化処理ステップ(S140)を含む。また、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼の製造方法は、安定化熱処理ステップ(S150)をさらに含んでいてもよい。かかる安定化熱処理ステップ(S150)は、必ずしも行われるものではなく、必要に応じて省略されてもよい。
【0050】
<ステンレス母材用意>
ステンレス母材用意ステップ(S110)では、重量%として、C:0.01~0.08%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:15~35%、Cu:1.0%以下、N:0.05%以下、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下、及びその他Feと、その他不可避不純物を含み、表面に不動態被膜が形成されたステンレス母材を用意する。
【0051】
また、ステンレス母材は、P:0.14重量%以下、S:0.03重量%以下、H:0.004重量%以下、O:0.007重量%以下のうち1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0052】
このとき、不動態被膜は、ステンレス母材の表面を覆う。かかる不動態被膜は、Cr23からなってもよい。不動態被膜は、ステンレス母材の上面または下面に形成されるか、上面または下面にそれぞれ形成されうる。
【0053】
このとき、ステンレス母材は、薄板化及び成形性に優れる利点があるが、ステンレス母材の表面に形成されるCr23の不動態被膜によって電気抵抗が高い関係から、電気伝導性が低いという短所がある。
【0054】
通常、ステンレス母材は、0.05~10mmの厚さを有し得るが、これに制限されるものではない。かかるステンレス母材は、その表面に生成されるCr23不動態被膜によって1.0MPaの圧力下で、200~500mΩ・cm2の高い接触抵抗を有する。よって、ステンレス母材を燃料電池分離板として活用するためには、低い接触抵抗を確保することが必要である。
【0055】
<脱脂処理>
脱脂処理ステップ(S120)では、ステンレス母材の表面を脱脂溶液に沈積させて脱脂処理する。
【0056】
ここで、脱脂処理は、ステンレス母材の表面に付着したCr23不動態被膜などの有機物を除去するための目的で実施するようになる。かかる脱脂処理は、酸性溶液や中性溶液、アルカリ溶液の大した区分はないし、ステンレス母材の圧延工程で吸着した有機物を除去できる溶液であれば、制限なく使用することができる。
【0057】
より好ましくは、脱脂溶液は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうち1種以上0.1~3mol、珪酸塩0.01~2mol、リン酸塩0.005~0.8mol、炭酸塩0.02~3mol、界面活性剤及び乳化剤が含まれたものを用いることができる。
【0058】
本ステップにおいて、脱脂処理は、脱脂溶液における30~70℃で0.5~5分間沈積処理するのが好ましい。脱脂処理温度が30℃未満であるか、脱脂処理時間が0.5分未満である場合は、ステンレス母材の表面に存在する有機物を完壁に除去することができないおそれが大きい。逆に、脱脂処理温度が70℃を超えるか、脱脂処理時間が5分を超える場合は、それ以上の効果が上昇することなく製造費のみを上昇させる要因と作用し得るため、経済的ではない。
【0059】
<エッチング及びデスマット処理>
エッチング及びデスマット処理(S130)では、脱脂処理されたステンレス母材をエッチング溶液でエッチングした後、デスマット溶液でデスマット処理する。
【0060】
ステンレス母材の表面に存在する熱及び自然酸化膜を除去するためにエッチング工程を適用する場合、腐食反応生成物であるスマット(SMUT)が過量発生し、この場合、外観にムラ及び変色を示し、接触抵抗及び耐食性、接触角に悪影響を及ぼすことになる。よって、エッチング工程とデスマット工程を共に伴わなければならない。
【0061】
ステンレス母材の表面に存在する熱及び自然酸化膜によって、1.0MPaの圧力下で、界面接触抵抗が300mΩ・cm2以上を示し、また、疎水性的特徴により接触角が75~100゜を示す。
【0062】
本ステップにおいて、エッチング処理は、2.5~6.2molの硫酸イオン、0.1~2.0molの窒酸イオン、及び1.0~5.0molのフッ素のうち少なくとも2種以上を含み、40~80℃に昇温されたエッチング溶液に0.2~2分間浸漬するのが好ましい。
【0063】
また、デスマット処理は、1.5~6.0molの過酸化水素、1.0~4.0molのフッ素、及び0.001~0.01molの腐食抑制剤を含み、40~80℃に昇温されたデスマット溶液に0.5~2分間浸漬するのが好ましい。ここで、腐食抑制剤としては、ベンゾトリアゾール(Brnzotriazole)を用いることができるが、これに制限されるものではない。
【0064】
本ステップにおいて、0.2~5μmの厚さがエッチングされる場合、ステンレス母材の表面に存在する酸化膜がいずれも除去され、接触角が30~70゜の親水性的特性と、10~35mΩ・cm2の接触抵抗が付与される。濃度が高く、80℃程の高温では、より多くのエッチングが行われ、濃度が低いか温度が低い場合、酸化膜が除去されず、接触抵抗が30mΩ・cm2を超えるようになる。
【0065】
このように、工程条件によって過反応が生じる場合、エッチング量の過多により製品の厚さが著しく減って、燃料電池分離板としての特徴を有し得ないこともある。
【0066】
<表面安定化処理>
表面安定化処理ステップ(S140)では、エッチング及びデスマット処理されたステンレス母材を表面安定化溶液で表面安定化処理する。
【0067】
かかる表面安定化処理は、2.7~13.8molの窒酸塩、0.05~0.5molの硫酸塩、界面活性剤及び安定剤を含む表面安定化溶液を50~80℃で0.5~5分間エッチング及びデスマット処理されたステンレス母材に沈積させる方式で実施される。通常、よく知られている不動態処理の場合、酸化膜が緻密に形成されて、耐食性は良くなるものの、接触抵抗が高くなる特性を持っており、酸化膜が薄くて多孔質である場合、接触抵抗は低いものの、耐食性が弱くなる特徴を示す。
【0068】
これと違って、本発明のように、表面安定化処理を実施するようになると、ステンレス母材の表面に数~数十ナノメートル(nm)厚さの表面改質層が形成されて、低い接触抵抗を維持したまま優れた耐食性を付与することができるようになる。
【0069】
かかる表面安定化処理、つまり表面改質処理によって、本発明のステンレス鋼は、1.0MPaの圧力下で、界面接触抵抗が10~35mΩ・cm2である表面改質層を有する。
【0070】
<安定化熱処理>
安定化熱処理ステップ(S150)では、表面安定化処理されたステンレス母材の安定化のため安定化熱処理する。
【0071】
かかる安定化熱処理は、表面安定化処理後、ステンレス母材の表面に残存する水分の除去及び表面改質層の安定化を図るために実施するようになる。
【0072】
このために安定化熱処理は、150~250℃の大気条件で1~10分間実施するのが好ましい。湿式表面処理によって形成された表面改質層は、大気環境中に酸素と継続した反応により時効性を有して酸化物層を形成するが、時効性による表面の特性変化を減らすために活性化されている表面改質層を熱処理によって安定化させることである。これによって、燃料電池に求められる環境温度である80℃で15μA/cm2(SCE)以下の高温動電位耐食性を確保することができるようになる。
【0073】
上記過程(S110~S150)によって製造される高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼は、表面改質処理によって不動態被膜を再構成して、表面を改質することにより、伝導性物質もコーティングすることなく、優れた界面接触抵抗を確保することができるようになる。
【0074】
このように、本発明では、ステンレス母材の表面の不動態被膜を表面改質処理によって除去し、再構成する改質工程を行うことにより、燃料電池分離板として用いるための低い界面接触抵抗、優れた動電位耐食性及び優れた表面濡れ性を確保することができるようになる。
【0075】
この結果、本発明の実施例による高分子燃料電池分離板用のステンレス鋼は、表面改質処理によって、伝導性物質をコーティングする工程も実施することなく、界面接触抵抗が1.0MPaの圧力下で、35mΩ・cm2以下を有することにより、高分子燃料電池分離板に求められる特性を満たし得る。
【0076】
<実施例>
以下では、本発明の好ましい実施例によって本発明の構成及び作用をより詳説することとする。但し、これは、本発明の好ましい例示として提示されたものであり、どのような意味でも、これによって本発明が制限されると解釈してはならない。
【0077】
ここに記載していない内容は、この技術分野における熟練者であれば、技術的に十分類推することができるため、その説明を省略する。
【0078】
1.試片製造
<比較例1>
重量%として、C:0.05%、Si:0.6%、Mn:1.1%、Cr:21%、Cu:0.4%、N:0.03%、Ti:0.2%、Nb:0.1%、及びその他Feで組成され、不動態被膜が形成されたステンレス母材を用意しており、アルカリ脱脂後、別途表面処理することなくステンレス母材そのまま測定した。
【0079】
<比較例2>
比較例1に従って製造されたステンレス母材にAuを1μmの厚さにコーティングして、試片を製造した。
【0080】
<比較例3>
比較例1に従って製造されたステンレス母材を30℃に加熱された硫酸4.7mol、窒酸1.1mol及びフッ素(F-)2.1molの複合混合液に60秒間浸漬させる表面改質を実施して、試片を製造した。
【0081】
<比較例4>
比較例1に従って製造されたステンレス母材を30℃に加熱された硫酸4.7mol、窒酸1.1mol及びフッ素(F-)2.1molの複合混合液に60秒間浸漬させるエッチング後、30℃に加熱された過酸化水素3.4mol及びフッ素(F-)2.1mol混合液に60秒間浸漬させるデスマット工程を実施して、試片を製造した。
【0082】
<比較例5>
エッチング温度を60℃で浸漬したことを除いては、比較例4と同じ方法で試片を製造した。
【0083】
<比較例6>
比較例1に従って製造されたステンレス母材を60℃に加熱された硫酸2.5mol、及びフッ素(F-)4.1molの複合混合液に60秒間浸漬させるエッチング後、60℃に加熱された過酸化水素3.4mol及びフッ素(F-)2.1mol混合液に60秒間浸漬させるデスマット工程を実施して、試片を製造した。
【0084】
<比較例7>
比較例6と同じ工程を経た後、60℃に加熱された0.5mol硫酸及び10.4mol窒酸混合液に100秒間浸漬して、試片を製造した。
【0085】
<比較例8>
エッチング工程で60℃に加熱された硫酸4.7mol、窒酸1.1mol及びフッ素(F-)2.1molの複合混合液に150秒間浸漬させたことを除いては、エッチング後、比較例7と同じ工程で試片を製造した。
【0086】
<比較例9>
エッチング工程で60℃に加熱された硫酸6.2mol、窒酸1.1mol及びフッ素(F-)2.1molの複合混合液に150秒間浸漬させたことを除いては、エッチング後、比較例7と同じ工程で試片を製造した。
【0087】
<実施例1>
重量%として、C:0.05%、Si:0.6%、Mn:1.1%、Cr:21%、Cu:0.4%、N:0.03%、Ti:0.2%、Nb:0.1%、及びその他Feで組成され、不動態被膜が形成されたステンレススチール母材を用意して、アルカリ脱脂を実施し、表面の有機物を除去した。
【0088】
次に、60℃に加熱された硫酸4.7mol、窒酸1.1mol及びフッ素(F-)2.1molの複合混合液に浸漬させて、60秒間エッチングを実施した後、60℃に加熱された過酸化水素3.4mol及びフッ素(F-)2.1molの混合液で60秒間デスマットを実施した後、60℃に加熱された硫酸0.5mol及び窒酸11.4molの混合液に100秒間浸漬して、試片を製造した。
【0089】
<実施例2>
実施例1と同じ方法により製造された試片を、100℃の温度で600秒間安定化熱処理を実施して、試片を製造した。
【0090】
<実施例3>
実施例1と同じ方法により製造された試片を、200℃の温度で120秒間安定化熱処理を実施して、試片を製造した。
【0091】
<実施例4>
実施例1と同じ方法により製造された試片を、200℃の温度で300秒間安定化熱処理を実施して、試片を製造した。
【0092】
<実施例5>
エッチング工程で60℃に加熱された硫酸6.2mol、窒酸1.1mol及びフッ素(F-)2.1molの複合混合液に浸漬させて、60秒間エッチングしたことを除いては、実施例1と同じ方法により試片を製造した。
【0093】
<実施例6>
実施例5と同じ方法により製造された試片を、200℃で120秒間安定化熱処理を実施して、試片を製造した。
【0094】
2.物性評価
表1は、実施例1~6及び比較例1~9に従う試片を製造するための工程条件を示したものであり、表2は、実施例1~6及び比較例1~9に従って製造された試片に対する物性評価結果を示したものである。
【0095】
図2は、実施例1~6及び比較例1~9に従う試片に対する界面接触抵抗を測定する過程を説明するための模式図である。
【0096】
また、図3は、比較例1~3及び5に従って製造された試片に対する動電位耐食性の測定結果を示したグラフであり、図4は、実施例1~4に従って製造された試片に対する動電位耐食性の測定結果を示したグラフである。
【0097】
また、図5は、比較例1~3及び5に従って製造された試片に対する接触角を示した写真であり、図6は、実施例1~4に従って製造された試片に対する接触角を示した写真である。
【0098】
また、図7は、 実施例3と比較例3及び5に従って製造された試片に対する腐食生成物(SMUT)の残存有無を示した写真である。
【0099】
また、図8は、実施例1及び3と比較例1に従って製造された試片に対する XPS分析結果を示したグラフであり、図9は、実施例3及び6と比較例2に従って製造された試片を用いた単位電池のスタック性能を評価した結果を示したグラフである。
【0100】
1)表面清浄度
表面清浄度は、目視観察しており、表面に腐食生成物などの残存による変色、及び綿棒などで拭き上げる際に異物が付き出るときは、Xと表記し、存在しなければ、Oと表記した。
【0101】
2)孔食安定性
孔食安定性の評価基準は、表面改質後に1μm以上の孔食が存在すれば、X、表面に孔食及び浸食が存在しなければ、Oと表記した。ここで、表面改質後、ステンレススチール試片の表面に浸食及び孔食が発生するとき、燃料電池の運転環境で耐食性の低下が発生し得るため、表面改質後、浸食及び孔食有無が重要である。
【0102】
3)界面接触抵抗
図2に示されたように、ガス拡散層(GDL)の間にステンレススチール(Sample)を挿入した後、1.0MPaの圧力下で電流を測定する方法を利用して、表面改質処理後の接触抵抗をそれぞれ測定した。
【0103】
4)腐食電流
腐食電流は、電位可変器(Potentiostat)のTafel Slop評価を利用しており、80℃に加熱された0.1N硫酸、2ppmフッ酸の混合液で同電位評価を実施して、0.6Vの電圧が印加されるときの腐食電流を測定した。
【0104】
5)接触角
接触角は、日本KYOWA社モデルDM700装備を利用しており、試片の表面に3μlの蒸留水を落とした後に接触角を測定した。ここで、表面改質後、ステンレス鋼の表面に接触角が高いとき、燃料電池を作動する環境下で発生する分離板の表面に凝縮した水によるフラッディング(Flooding)現象によって水の排出性が低下するため、反応ガスの不均一な流動及び拡散性の阻害によって電極内反応ガスの欠乏を引き起こし、燃料電池の性能を低下させる原因となるため、低い接触角を示す親水性表面を具現するのが重要である。
【0105】
6)厚さの減少
表面改質後の厚さの減少は、マイクロメーターを利用して表面改質の前と後の試片厚さを測定した。過度なエッチング反応による素材の厚さの減少が発生する際、約1,000枚以上積層される分離板の締結圧が低くなり、燃料電池の性能を低下させる原因となるため、厚さの減少のない安定した表面改質を具現するのが重要である。
【0106】
7)スタック評価
分離板の性能評価のために分離板/GDL/MEA/GDL/分離板の順に積層して単位電池を構成した。分離板は、従来技術と実施例3及び実施例6を用いており、同一電池内における性能比較を実施した。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
表1~表2、図2図7に示されたように、実施例1~6による試片の場合、表面に異物が付き出ない清浄な表面を得ており、表面に孔食が発生していない安定した表面を得て、表面に浸食が発生していない(厚さの変化がない)安定した表面を得た。
【0110】
また、実施例1~6による試片の場合、1.0MPaの圧力下で20mΩ・cm2以下の界面接触抵抗を得ており、高分子燃料電池の苛酷な作動環境を模写した、60℃に加熱された0.1N硫酸、2ppmフッ酸溶液における0.6V電圧で15μA(SCE)以下の腐食電流を示した。
【0111】
一方、比較例3による試片の場合は、孔食及び浸食が観察されていないが、エッチングの表面が不均一であり、表面に腐食生成物が残存して、接触抵抗、腐食電流、接触角に非常に良くない影響を及ぼしていることが確認できる。このとき、図5に示されたように、比較例3による試片の場合、腐食生成物が残存していることが確認できる。
【0112】
また、比較例4による試片の場合は、比較例3による試片で生成された腐食生成物を除去するためのデスマット工程を実施して、接触抵抗を改善することができたが、表面に残留異物が完全に除去されてはいなかった。
【0113】
また、比較例5による試片の場合は、エッチング工程温度を60℃で実施した結果、比較例4による試片に比べて、表面に多量の腐食生成物が発生しており、デスマット工程を実施しても、表面に残留異物が完全に除去されていなかった。
【0114】
比較例6による試片の場合、複合混合液で窒酸を添加しないとき、表面に孔食が発生することを観察した。これは窒酸を添加するとき、全面反応を誘導して、孔食の発生が低くなる効果が得られることが観察された。
【0115】
比較例7による試片の場合は、表面安定化工程によって耐食性が多少改善することを観察することができた。これは、高い濃度の窒酸溶液に露出することにより、表面の不動態性能が改善する効果が得られることが観察された。
【0116】
また、比較例8及び比較例9による試片の場合、エッチング溶液に長時間露出するとき、過量の腐食生成物が発生し、これにより素材表面の厚さが両面で減少することを観察することができた。素材の厚さが減少する場合、1,000枚以上積層される分離板の締結圧が低下し、燃料電池性能を低下させることができ、過度なエッチングによって所望の表面特性を得ることができない。
【0117】
実施例1及び実施例2のように、本発明に提示した方法により湿式表面改質を通じて高分子燃料電池に求められる界面接触抵抗、耐食性、接触角特性を満たす燃料電池分離板用のステンレス鋼を製作することができ、さらなる熱処理によって耐食性を改善することができることを観察した。
【0118】
但し、実施例2の場合、連続製作工程において効率的でない工程時間によって工程時間を改善する必要がある。
【0119】
実施例3及び4の場合は、実施例2に比べて工程温度を上昇させることにより、工程時間を劇的に短縮することができた。
【0120】
但し、温度が300℃以上である場合、表面に過度な酸化層が形成されて、接触抵抗特性が低下するため、300℃未満に管理する必要がある。
【0121】
また、実施例3と実施例6を比較してみると、エッチング工程で硫酸濃度が高いとき、熱処理後、界面接触抵抗が上昇することを観察した。これは、高い硫酸濃度に露出時、過度なエッチング量により不安定な表面に熱処理する際、酸化層が相対的にたくさん生成されて、接触抵抗が上昇したものと判断される。
【0122】
一方、図8に示されたように、比較例1及び実施例1を比較すると、湿式表面処理後、表面最上層における酸素の含量が約15%減少し、クロムの含量が15%増加したことを観察した。これは、エッチング工程で表面の酸化層が除去され、自然酸化膜が再生成されながら、表面のクロム酸化物の含量が高くなったことを確認することができる。
【0123】
また、実施例1及び実施例3を比較すると、湿式表面処理後、Cr含量が約15%減少したことを確認することができる。これは、熱処理工程で鉄が酸化して、表面における構成比が高くなったと思われる。これによって、本発明で提示した方法により界面接触抵抗を阻害する要素である表面の酸化層を除去して再構成する過程で、表面改質が行われて、接触抵抗が改善することを確認することができた。
【0124】
以上の実験では、本発明の組成範囲を有するステンレス鋼の表面改質方法において、硫酸、窒酸及びフッ素の複合混合溶液でのエッチング工程、過酸化水素及びフッ素の混合溶液でのデスマット工程と、硫酸及び窒酸混合溶液での表面安定化工程に対して溶液の温度、組成などの条件が界面接触抵抗、耐食性、接触角特性の具現に重要な要因と作用することを確認した。
【0125】
したがって、ステンレス母材の不動態被膜を改質処理することにより、低い接触抵抗、低い腐食電流、低い接触角を確保することができ、Cr、Fe、O元素の構成比を制御することによる不動態層の改質によって高分子燃料電池分離板用に適したステンレス鋼を生産することができる。
【0126】
一方、図9に示されたように、従来技術(比較例2)と本発明の実施例3及び実施例6によるステンレス鋼を用いた単位電池に対する性能評価結果が示されている。
【0127】
図9のスタック評価結果から分かるように、ステンレス母材にAgを1μmの厚さにコーティングさせた比較例2(従来技術)による試片と、本発明の実施例3及び実施例6による試片を用いた単位電池との間に性能差がほとんどなかった。
【0128】
以上では、本発明の実施例を中心に説明したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する技術者の水準で様々な変更や変形を加えることができる。かかる変更と変形は、本発明が提供する技術思想の範囲を外れない限り、本発明に属すると言える。したがって、本発明の権利範囲は、以下に記載する請求範囲によって判断されるべきである。
【符号の説明】
【0129】
S110 ステンレス母材用意ステップ
S120 脱脂処理ステップ
S130 エッチング及びデスマット処理ステップ
S140 表面安定化処理ステップ
S150 安定化熱処理ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9