(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】シトクロムCの活性が強化されたL-アミノ酸生産微生物およびこれを用いたL-アミノ酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20231010BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20231010BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231010BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20231010BHJP
C12R 1/15 20060101ALN20231010BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P13/08 A
C12N15/31 ZNA
C12N15/63 Z
C12R1:15
(21)【出願番号】P 2022506836
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2020018896
(87)【国際公開番号】W WO2021133030
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2019-0173087
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0173088
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12640P
(73)【特許権者】
【識別番号】507406611
【氏名又は名称】シージェイ チェルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】イ,ハン・ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,サン・ミン
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ヒュン・ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ビュン,ヒョ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヨン・ウク
(72)【発明者】
【氏名】イム,ボラム
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジェウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ム・ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ユン・ジョン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0048795(US,A1)
【文献】特表2019-535271(JP,A)
【文献】特表2010-503395(JP,A)
【文献】特表2016-523543(JP,A)
【文献】特表2011-510625(JP,A)
【文献】特表2008-523802(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0014180(US,A1)
【文献】特開2002-017363(JP,A)
【文献】Database GenBank [online], Accession No.ADC50799.1 <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ADC50799> 2014.01.30, [検索日2023.01.26] Definition: cytochrome c551 [Alkalihalophilus pseudofirmus OF4]
【文献】Database GenBank [online], Accession No.ADC49161.1 <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ADC49161> 2014.01.30, [検索日2023.01.26] Definition: cytochrome c551 [Alkalihalophilus pseudofirmus OF4]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトクロムCの活性が強化された、L-アミノ酸生産微生物
であって、
前記シトクロムCは、バチルス・シュードファーマスOF4(Bacillus ps eudofirmus OF4)由来のシトクロムC-551であり、
前記L-アミノ酸生産微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、L-アミノ酸生産微生物。
【請求項2】
前記バチルス・シュードファーマスOF4由来のシトクロムC-551は、
cccAによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
cccBによってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド、または、
これら両方を、含むものである、請求項1に記載のL-アミノ酸生産微生物。
【請求項3】
前記cccAは、配列番号1
6のアミノ酸配列をコードするものである、請求項
2に記載のL-アミノ酸生産微生物。
【請求項4】
前記cccBは、配列番号2
7のアミノ酸配列をコードするものである、請求項
2に記載のL-アミノ酸生産微生物。
【請求項5】
シトクロムCの活性が強化されていない同種の非改変微生物と比較して、糖消耗速度が増加した、請求項1に記載のL-アミノ酸生産微生物。
【請求項6】
シトクロムCの活性が強化されていない同種の非改変微生物と比較して、L-アミノ酸生産能が増加した、請求項1~
5のいずれか1項に記載のL-アミノ酸生産微生物。
【請求項7】
前記L-アミノ酸は、L-リシンである、請求項
6に記載のL-アミノ酸生産微生物。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のL-アミノ酸生産微生物を培地で培養する工程と、
前記培養された微生物、培地、またはこれらすべてからL-アミノ酸を回収する工程とを含む、L-アミノ酸の生産方法。
【請求項9】
前記L-アミノ酸は、L-リシンである、請求項
8に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【請求項10】
バチルス・シュードファーマスOF4由来のシトクロムC-55
1をコードする遺伝子、
または、
前記遺伝子を含む組換えベクタ
ー、を含む、
コリネバクテリウム・グルタミカムにおけるL-アミノ酸生産用組成物。
【請求項11】
前記バチルス・シュードファーマスOF4由来のシトクロムC-551は、
cccAによってコードされるアミノ酸配列を含むポリヌクレオチド、
cccBによってコードされるアミノ酸配列を含むポリヌクレオチド、または
これら両方を含むものである、請求項
10に記載のL-アミノ酸生産用組成物。
【請求項12】
前記cccAは、配列番号1
6のアミノ酸配列をコードするものである、請求項11に記載のL-アミノ酸生産用組成物。
【請求項13】
前記cccBは、配列番号2
7のアミノ酸配列をコードするものである、請求項
11に記載のL-アミノ酸生産用組成物。
【請求項14】
前記L-アミノ酸は、L-リシンである、請求項
10~13のいずれか1項に記載のL-アミノ酸生産用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2019年12月23日付の大韓民国特許出願第10-2019-0173087号および2019年12月23日付の大韓民国特許出願第10-2019-0173088号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
シトクロムC(Cytochrome C)の活性が強化された、L-アミノ酸生産微生物および前記微生物を用いたL-アミノ酸の生産方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物はL-アミノ酸の生産に多く用いられているグラム陽性の微生物である。L-アミノ酸、特にL-リシンは動物飼料、人間の医薬品および化粧品産業に使用されており、主にコリネバクテリウム菌株を用いた発酵によって生成されている。
【0004】
コリネバクテリウム属菌株を用いたL-アミノ酸の製造方法を改善するために多くの試みが行われている。なかでも、組換えDNA技術を利用して特定の遺伝子をノックダウンさせるか減衰発現させることによってL-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム菌株を改良しようとする研究がある。また、それぞれのL-アミノ酸の生合成に関連する遺伝子を増幅させてL-アミノ酸の生成に及ぼす効果を研究し、L-アミノ酸生産コリネバクテリウム菌株を改良するための研究が進められてきた。
【0005】
一方、発酵によるリシン生産産業において、高濃度のリシン生産および微生物のリシン生産能の増加は重要な要素である。したがって、微生物のリシン生産能の向上およびこれを発酵培養中に持続的に維持するための努力が続いてきた。しかし、微生物の活性を阻害させる多様な内部または外部要素によって培養後半までリシン生産能を維持しにくい問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、L-アミノ酸、例えば、L-リシンの生産能が向上し、持続的に維持可能な菌株の開発が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一例は、シトクロムC(Cytochrome C)の活性が強化されたL-アミノ酸生産微生物を提供する。例えば、前記シトクロムCの活性の強化は、シトクロムCコード遺伝子の導入によるものであってもよい。例えば、前記シトクロムCコード遺伝子は、外来遺伝子であってもよい。
【0008】
他の例は、前記L-アミノ酸生産微生物を培養する段階を含む、L-アミノ酸の生産方法を提供する。
【0009】
他の例は、シトクロムCコード遺伝子、前記遺伝子を含む組換えベクター、またはこれらすべてを含む、微生物におけるL-アミノ酸生産用またはL-アミノ酸生産増進用組成物を提供する。
【0010】
本明細書で提供される一実施例において、コリネバクテリウム属微生物のリシン生産能の増加を目的として遺伝子を増幅してリシンの生産に及ぼす影響を確認し、これに基づいてアミノ酸生産のための菌株改良技術を提案する。一般に、リシンなどのアミノ酸の生産能増加のための方法として、菌株が有するリシンなどのアミノ酸生産収率を向上させるか、時間あたりのリシンなどのアミノ酸生産量(生産性)を増加させる方法などが挙げられる。特に、リシンなどのアミノ酸生産性は、発酵培地の成分、発酵培地の浸透圧、温度、撹拌速度、酸素供給速度などの多様な因子によって影響を受けられる。例えば、発酵液内に存在する多様な物質および代謝物によるストレス、微生物菌体の増加による酸素供給の低下、温度および撹拌速度のような物理条件などの問題によって微生物のリシン生産能および微生物の細胞活性は持続的に減少する。本明細書の一例では、このような多様な因子によるストレスを克服し、微生物の目的産物の生産活性を発酵後半まで維持できるようにする菌株の改良技術が提供される。
【0011】
以下、より詳しく説明する。
【0012】
一例は、シトクロムC(Cytochrome C)の活性が強化された、L-アミノ酸生産微生物を提供する。
【0013】
本明細書において、用語「L-アミノ酸生産微生物」は、L-アミノ酸生産能を有する微生物がシトクロムCの活性が強化されたことにより増加したL-アミノ酸生産能を有する場合、および/またはL-アミノ酸生産能を有しない微生物がシトクロムCの活性が強化されたことによりL-アミノ酸生産能を有する場合を意味するために使用できる。本明細書において、「微生物」は、単細胞バクテリアを包括するもので、「細胞」と交換可能に使用される。
【0014】
前記L-アミノ酸は、L-リシンであってもよい。
【0015】
本明細書において、シトクロムCの活性が強化される前の微生物を、前記シトクロムCの活性が強化されてL-アミノ酸生産能が増加するかL-アミノ酸生産能が付与された「L-アミノ酸生産微生物」と区別するために、前記シトクロムCの活性が強化される前の微生物を宿主微生物と表現することができる。
【0016】
一例において、前記宿主微生物は、L-アミノ酸(例えば、L-リシン)生産能を有するすべての微生物から選択されたものであってもよい。一例において、前記宿主微生物は、自然にL-リシン生産能を有する微生物、またはL-リシン生産能がなかったり顕著に少ない親菌株に変異が導入されてL-リシン生産能を有する微生物であってもよい。
【0017】
一例において、前記宿主微生物は、自然にL-リシン生産能を有する微生物、またはL-リシン生産能がなかったり顕著に少ない親菌株に変異が導入されてL-リシン生産能を有するすべてのグラム陽性細菌、例えば、コリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)微生物およびエシェリキア属(the genus Escherichia)微生物からなる群より選択された1種以上であってもよい。前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシェンス(Corynebacterium efficiens)などを含むことができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよい。
【0018】
本明細書において、用語「シトクロムC」は、バクテリア由来であり、平均分子量15kDa以下、例えば、約8kDa~約15kDa程度、および/または90~150個、100~150個、120~150個、90~125個、100~125個、または120~125個のアミノ酸長であり、膜結合特性を有する単量体のシトクロムCを意味する。一具体例において、前記シトクロムCは、バチルス属微生物由来のものであってもよいし、還元状態で最も低い準位エネルギーの吸収バンド(吸光度)が現れる波長区間が550~555nmまたは550~551nmであるシトクロムCの中から選択された1種以上であってもよい。一例において、前記シトクロムCは、バチルス属微生物由来のシトクロムc-551(吸光度約551nm)、シトクロムc-550(吸光度約550nm)などからなる群より選択された1種以上、例えば、1種、2種、または3種であってもよい(前記シトクロムCの後ろに記載された数値は吸光度を意味する)。前記バチルス属微生物は、バチルス・シュードファーマス(Bacillus pseudofirmus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0019】
一例において、前記シトクロムC、例えば、シトクロムc-551およびシトクロムc-550の中から選択された1種以上は、それぞれ独立してcccAまたはcccBによってコードされるアミノ酸配列を含むものであってもよい。一具体例において、前記シトクロムCは、Bacillus pseudofirmus(例えば、Bacillus pseudofirmus OF4など)および/またはBacillus subtilis由来のシトクロムc-551、Bacillus subtilis由来のシトクロムc-550などからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0020】
より具体的には、前記シトクロムC(例えば、Bacillus subtilis由来のシトクロムc-551)は、cccA(例えば、Bacillus pseudofirmus OF4由来のBpOF4_13740)によってコードされるアミノ酸配列(例えば、配列番号16)を含むポリペプチド、cccB(例えば、Bacillus pseudofirmus OF4由来のBpOF4_05495)によってコードされるアミノ酸配列(例えば、配列番号27)を含むポリペプチド、またはこれらすべてを含むものであってもよい。
【0021】
また、他に定義されない限り、本明細書に記載されたシトクロムCは、一例として記載された配列番号16または配列番号27のアミノ酸配列と20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、82%以上、85%以上、87%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上(例えば、60%~99.5%、70%~99.5%、80%~99.5%、85%~99.5%、90%~99.5%、91%~99.5%、92%~99.5%、93%~99.5%、94%~99.5%、95%~99.5%、96%~99.5%、97%~99.5%、98%~99.5%、または99%~99.5%)の配列同一性を有するタンパク質を含む意味で解釈される。
【0022】
このように、本明細書に記載されたシトクロムCの範疇に含むことが可能な前記配列同一性を有するタンパク質は、
(1)先に説明したシトクロムCの特徴、例えば、(a)バクテリア由来、(b)平均分子量15kDa以下、例えば、約8kDa~約15kDa程度、および/または90~150、100~150、120~150、90~125、100~125、または120~125のアミノ酸長、(c)膜結合特性、および(d)単量体特性のうちの1つ以上を有するか、および/または、
(2)微生物内の活性の強化による効果、例えば、非改変微生物に比べて、(e)L-アミノ酸(例えば、L-リシン)生産能の増加、および/または(f)糖消耗速度の増加効果が前記例示された配列番号16または配列番号27のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等程度レベルのものであってもよい。
【0023】
一例において、前記シトクロムCの活性が強化されたL-アミノ酸生産微生物は、シトクロムCの活性が強化されていない同種の非改変微生物と比較して、L-アミノ酸生産能が増加したものであってもよい。
【0024】
本明細書において、用語「シトクロムCの活性の強化」は、微生物へのシトクロムCの活性の導入を含む、微生物が持つ内在的活性または操作前の活性に比べてシトクロムCの活性が向上できるすべての操作を意味することができる。前記「導入」は、微生物が本来もっていなかったシトクロムCの活性が自然的あるいは人為的に現れることを意味する。用語「非改変微生物」は、シトクロムCが強化されていない宿主微生物(例えば、シトクロムC活性を強化するために改変されていない宿主微生物)、または強化される前の宿主微生物を意味することができる。用語「内在的活性」は、シトクロムCが強化されていない、または、強化される前の宿主微生物が本来持っていたシトクロムCの活性を意味することができる。本明細書において、用語「非改変」は、遺伝的改変が誘導されていない、内在的活性を有する状態と同義に使用できる。
【0025】
例えば、シトクロムCの活性の強化は、外来のシトクロムCを導入して強化すること、または内在的シトクロムCの活性を強化することをすべて含むことができる。一例において、シトクロムCの活性の強化は、外来のシトクロムCを導入して強化するものであってもよい。
【0026】
一例において、微生物におけるシトクロムCの活性の強化は、前記微生物の糖消耗速度などがシトクロムCの活性の強化されていない非改変微生物と比較して向上したことによって確認できる。特に、一具体例で例示されるシトクロムCの活性強化された微生物は、非改変微生物と特定の増殖期間内の増殖速度(OD値)および/またはL-アミノ酸、例えば、L-リシン生産収率が類似し糖消耗速度が向上したものであってもよいし、これは、前記シトクロムCの活性強化された微生物が、非改変微生物に比べて、より短時間内により多くのL-アミノ酸を生産して、L-アミノ酸の生産性が改善された特徴を有することを提案する。
【0027】
一例において、前記シトクロムCの活性の強化は、シトクロムCの遺伝子(mRNA)レベルおよび/またはタンパク質レベルでの発現量増加、および/またはシトクロムCとしての活性増加によるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0028】
一例において、前記シトクロムCの活性の強化は、シトクロムCをコードする遺伝子の導入によるものであってもよい。このようなシトクロムCをコードする遺伝子の導入によって、L-アミノ酸生産能を有する微生物のL-アミノ酸生産能が増加するか、L-アミノ酸生産能を有しない微生物にL-アミノ酸生産能が付与される。
【0029】
一例において、前記シトクロムCまたはこれをコードする遺伝子は、宿主微生物由来(内在)のもの、またはこれとは異なる微生物由来(外来)のものであってもよい。一具体例において、前記シトクロムCの活性の強化は、宿主微生物に外来のシトクロムCをコードするポリヌクレオチドを導入することによって行われる。前記シトクロムCは先に説明した通りであり、例えば、Bacillus pseudofirmus OF4由来のシトクロムC(シトクロムc-551)であってもよいし、例えば、配列番号16(例えば、cccA(BpOF4_13740)によってコード)または配列番号27(例えば、cccB(BpOF4_05495)によってコード)のアミノ酸配列で表現されるものであってもよい。
【0030】
一例において、前記シトクロムCをコードする遺伝子または前記遺伝子が導入されたL-アミノ酸生産微生物は、配列番号16をコードするポリヌクレオチド、配列番号27をコードするポリヌクレオチド、またはこれらすべてを含むものであってもよい。一具体例において、前記L-アミノ酸生産微生物は、配列番号16をコードするポリヌクレオチド、配列番号27をコードするポリヌクレオチド、またはこれらすべてを含むコリネバクテリウム属微生物、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよい。例えば、前記L-アミノ酸生産微生物は、寄託番号KCCM12640Pであってもよい。
【0031】
本明細書で使用されるポリヌクレオチド(「遺伝子」と交換可能に使用される)またはポリペプチド(「タンパク質」と交換可能に使用される)に関して、「特定の核酸配列またはアミノ酸配列を含む」、「特定の核酸配列またはアミノ酸配列からなる」、または、「特定の核酸配列またはアミノ酸配列として発現される」との表現は、等価的意味で相互交換可能な表現で、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列を本質的に含むことを意味することができ、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの本来の機能および/または目的とする機能を維持する範囲で前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列に変異(欠失、置換、改変、および/または付加)が加えられた「実質的に同等の配列」を含む(または前記変異が導入されたものを排除しない)と解釈される。
【0032】
一例において、本明細書で提供される核酸配列またはアミノ酸配列は、これらの本来の機能または目的とする機能を維持する範囲で通常の突然変異誘発法、例えば、指向性進化法(direct evolution)および/または部位特異的突然変異法(site-directed mutagenesis)などによって改変したものを含むことができる。一例において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが「特定の核酸配列またはアミノ酸配列を含む」というのは、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、(i)前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列を実質的に含むか、または、これから実質的になるか、または(ii)前記特定の核酸配列またはアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、または99.9%以上(例えば、60%~99.5%、70%~99.5%、80%~99.5%、85%~99.5%、90%~99.5%、91%~99.5%、92%~99.5%、93%~99.5%、94%~99.5%、95%~99.5%、96%~99.5%、97%~99.5%、98%~99.5%、または99%~99.5%)の相同性を有するアミノ酸配列を実質的に含むか、または、これから実質的になり、本来の機能および/または目的とする機能を維持することを意味することができる。本明細書において、前記本来の機能は、シトクロムCの機能(アミノ酸配列の場合)、または前記シトクロムCの機能を有するタンパク質をコードする機能(核酸配列の場合)であってもよく、前記目的とする機能は、微生物のL-アミノ酸(例えば、L-リシン)生産能を増加させるか付与する機能を意味することができる。
【0033】
本明細書に記載された核酸配列は、コドンの縮重性(degeneracy)によって前記タンパク質(シトクロムC)を発現させようとする微生物で好まれるコドンを考慮して、コード領域から発現するタンパク質のアミノ酸配列および/または機能を変化させない範囲内でコード領域に多様な改変が行われる。
【0034】
本明細書において、用語「同一性」は、与えられた核酸配列またはアミノ酸配列と一致する程度を意味し、百分率(%)で表示される。核酸配列に対する同一性の場合、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST(参照:KarlinおよびAltschul,Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873,1993)やPearsonによるFASTA(参照:Methods Enzymol.,183,63,1990)を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0035】
一例において、本明細書で提供される特定の核酸配列を含むポリヌクレオチドは、前記特定の核酸配列またはこれと実質的に同等の核酸配列だけでなく、前記特定の核酸配列に相補的な核酸配列を含むポリヌクレオチド断片を含むと解釈される。具体的には、前記相補性を有するポリヌクレオチドは、目的に応じて、当業者によって適切に調節可能なTm値、例えば、55℃、60℃、63℃または65℃のTm値でハイブリダイズし、後述の条件で分析することができる。このような条件は公知の文献に具体的に記載されている。例えば、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98%以上、99.5%以上、または99.9%以上の高い相補性を有する遺伝子同士でハイブリダイズし、それより低い相補性を有する遺伝子同士はハイブリダイズしない条件、または通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC(saline-sodium citrate buffer)、および0.1%(w/v)SDS(Sodium Dodecyl Sulfate);60℃、0.1×SSC、および0.1%SDS;または68℃、0.1×SSC、および0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件などが挙げられるが、これに限定されるものではない。ハイブリダイズには2つのヌクレオチドが相補的配列を有することが要求されるか、ハイブリダイズのストリンジェシーにより塩基間のミスマッチ(mismatch)が許容される。前記用語「相補的」は、互いにハイブリダイズ可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するために使用できる。例えば、DNAの場合、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェシーはポリヌクレオチドの長さおよび相補性の程度に依存し、これはかかる技術分野にてよく知られている(Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8参照)。
【0036】
前記シトクロムCの活性の強化のうちシトクロムCの遺伝子(mRNA)レベルでの強化のための方法をより詳しく説明すれば、
1)前記シトクロムCをコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、
2)前記ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列の改変、または
3)前記1)および2)の組み合わせ、などを例示することができるが、これに限定されない。
【0037】
前記1)ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれに限定されないが、前記ポリヌクレオチドがベクターを介して宿主微生物に導入されるか、前記ポリヌクレオチドが宿主微生物の染色体内に挿入されることによって行われる。例えば、前記コピー数の増加は、外来のシトクロムCをコードするポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主微生物内に導入して行われる。前記外来ポリヌクレオチドは、これがコードするシトクロムCと同一/類似の活性を示す限り、その由来や配列に制限なく使用可能である。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適切に選択および/または改変して行われる。前記導入によって宿主微生物内で導入されたポリヌクレオチドが発現することによって外来シトクロムCが生成されるようにできる。
【0038】
前記2)ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列の改変は、外来ポリヌクレオチドおよび内在ポリヌクレオチドともに適用可能であり、特にこれに限定されないが、前記発現調節配列を発現調節活性がさらに強化されるようにヌクレオチドの欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで変異させるか、さらに強い活性を有する発現調節配列に切り替えることによって行われる。前記発現調節配列は、特にこれに限定されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写および/または翻訳終結を調節する配列などからなる群より選択された1種以上であってもよい。一具体例において、発現増加のために、ポリヌクレオチド発現単位の上部に本来のプロモーターの代わりに強力な異種プロモーターが作動可能に連結される。前記強力なプロモーターとして、CJ7プロモーター、lysCP1プロモーター、EF-Tuプロモーター、groELプロモーター、aceAまたはaceBプロモーターなどを例示することができる。さらに具体的には、前記強力なプロモーターは、コリネバクテリウム属由来プロモーターであるlysCP1プロモーター(WO2009/096689)またはCJ7プロモーター(WO2006/065095)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0039】
以下、前記説明したシトクロムCをコードする遺伝子がベクターを介して宿主微生物に導入されるか、宿主微生物の染色体内に挿入される場合をより詳しく説明する。本明細書に記載された遺伝子の導入は、外来(宿主微生物と異種由来および/または同種の他の個体由来)の遺伝子が、i)組換えベクターに作動可能に連結された形態で宿主細胞に導入されて行われるか、ii)宿主細胞の染色体(遺伝体)内に挿入(例えば、ランダム挿入)されることによって行われる。前記ii)宿主細胞の染色体(遺伝体)内に挿入される場合、挿入位置は宿主細胞の成長に影響がない位置(例えば、非転写スペーサー(non-transcriptional spacer;NTS)など)および/またはランダム挿入効率を高められる位置(例えば、レトロトランスポゾンなど)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記遺伝子またはベクターの導入は、公知の形質転換方法を当業者が適切に選択して行われる。本明細書において、用語「形質転換」は、標的タンパク質(シトクロムC)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主微生物内に導入して宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主微生物内で発現できさえすれば、宿主微生物の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、これらすべてを含むことができる。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAおよびRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主微生物内に導入されて発現できるものであれば、その導入される形態は制限がない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自主的に発現するのに必要なすべての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主微生物に導入される。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位および/または翻訳終結シグナルなどの発現調節要素を含むことができる。前記発現カセットは、自己複製が可能な発現ベクター形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入されて宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよい。前記において、用語「作動可能に連結」されているというのは、発現調節要素が目的タンパク質(シトクロムC)をコードするポリヌクレオチドの転写調節(例、転写開始)を行えるように発現調節要素(例、プロモーター)とポリヌクレオチドとが機能的に連結されていることを意味することができる。作動可能な連結は、当業界における公知の遺伝子組換え技術を利用して行うことができ、例えば、通常の部位-特異的DNAの切断および連結によって行われるが、これに限定されない。
【0041】
前記ポリヌクレオチドを宿主微生物に形質転換する方法は、核酸を細胞(微生物)内に導入するいかなる方法でも行うことが可能であり、宿主微生物により当分野にて公知の形質転換技術を適切に選択して行うことができる。前記公知の形質転換方法として、エレクトロポレーション法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿法、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿法、マイクロインジェクション法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿法(polyethylene glycol-mediated uptake)、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、リポフェクション(lipofection)、酢酸リチウム-DMSO法などが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0042】
前記遺伝子の宿主細胞遺伝体(染色体)内挿入は、公知の方法を当業者が適切に選択して行われ、例えば、RNA-ガイドエンドヌクレアーゼシステム(RNA-guided endonuclease system;例えば、(a)RNA-ガイドエンドヌクレアーゼ(例、Cas9タンパク質など)、そのコード遺伝子、または前記遺伝子を含むベクター;および(b)ガイドRNA(例、single guide RNA(sgRNA)など)、そのコードDNA、または前記DNAを含むベクターを含む混合物(例えば、RNA-ガイドエンドヌクレアーゼタンパク質とガイドRNAとの混合物など)、複合体(例えば、リボ核酸融合タンパク質(RNP)、組換えベクター(例えば、RNA-ガイドエンドヌクレアーゼコード遺伝子およびガイドRNAコードDNAを共に含むベクターなど)などからなる群より選択された1つ以上)を用いて行われるが、これに限定されるものではない。
【0043】
他の例において、シトクロムCコード遺伝子、前記遺伝子を含む組換えベクター、および/または前記遺伝子または前記組換えベクターを含む細胞の微生物におけるL-アミノ酸生産能増加および/またはL-アミノ酸生産能付与のための用途が提供される。
【0044】
一例は、シトクロムCをコードする遺伝子、前記遺伝子を含む組換えベクター、または前記遺伝子または前記組換えベクターを含む細胞を含むL-アミノ酸生産用組成物を提供する。
【0045】
他の例は、シトクロムCコード遺伝子、前記遺伝子を含む組換えベクター、またはこれらすべてを含む、L-アミノ酸生産用組成物であってもよい。前記L-アミノ酸生産用組成物は、微生物におけるL-アミノ酸生産、L-アミノ酸生産能増加および/またはL-アミノ酸生産能付与のためのものであってもよい。
【0046】
他の例は、シトクロムCコード遺伝子または前記遺伝子を含む組換えベクターを微生物に導入(形質転換)させる工程を含む、前記微生物のL-アミノ酸生産能の増加方法または前記微生物へのL-アミノ酸生産能の付与方法を提供する。
【0047】
前記シトクロムC、これをコードする遺伝子、および微生物は先に説明した通りである。
【0048】
本明細書において、用語「ベクター」は、好適な宿主内で目的タンパク質を発現させられるように好適な調節配列に作動可能に連結された前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNAコンストラクトを意味する。前記調節配列は、転写を開始できるプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、および/または転写および/または翻訳終結を調節する配列を含むことができる。ベクターは、適当な宿主微生物内に形質転換された後、宿主微生物のゲノムと関係なく発現するか、宿主微生物のゲノム内に統合される。
【0049】
本明細書で使用可能なベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されず、通常使用されるすべてのベクターの中から選択可能である。通常使用されるベクターの例としては、天然状態または組換えられた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージなどが挙げられる。例えば、前記ベクターとして、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、およびCharon21Aなどを使用することができ、プラスミドベクターとしてpBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系およびpET系などを使用することができる。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを例示することができるが、これに限定されない。
【0050】
本明細書で使用可能なベクターは、公知の発現ベクターおよび/またはポリヌクレオチドの宿主細胞染色体内挿入用ベクターであってもよい。前記ポリヌクレオチドの宿主細胞染色体内挿入は、当業界にて知られた任意の方法、例えば、相同組換えによって行われるが、これに限定されない。前記ベクターは、前記染色体内挿入の有無を確認するための選択マーカー(selection marker)を追加的に含むことができる。前記選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、つまり、前記ポリヌクレオチドの挿入の有無を確認するためのもので、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与する遺伝子の中から選択されて使用できる。選択剤(selective agent)が処理された環境では選択マーカーを発現する細胞のみ生存したり他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0051】
他の例は、前記L-アミノ酸生産微生物を培地で培養する工程を含む、L-アミノ酸の生産方法を提供する。前記方法は、前記培養する工程の後に、前記培養された微生物、培地、またはこれらすべてからL-アミノ酸を回収する工程を追加的に含むことができる。
前記方法において、前記微生物を培養する工程は、特にこれに限定されないが、公知の回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などによって行われる。この時、培養条件は、特にこれに限定されないが、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を用いて適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH6.8)を調節することができ、酸素または酸素-含有ガス混合物を培養物に導入させて好気性条件を維持することができる。培養温度は20~45℃、または25~40℃を維持することができ、約10~160時間培養することができるが、これに限定されるものではない。前記培養によって生産されたL-アミノ酸(例、L-リシン)は培地中に分泌されるか、細胞内に残留することができる。
【0052】
前記培養に使用可能な培地は、炭素供給源として、糖および炭水化物(例:グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、デンプンおよびセルロース)、乳脂および脂肪(例:大豆油、ヒマワリ種子油、ピーナッツ油およびココナッツ油)、脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸)、アルコール(例:グリセロールおよびエタノール)、有機酸(例:酢酸)などからなる群より選択された1種以上を個別的に使用するか、または2種以上を混合して使用することができるが、これに限定されない。窒素供給源としては、窒素-含有有機化合物(例:ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粕粉および尿素)、無機化合物(例:硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウム)などからなる群より選択された1種以上を個別的に使用するか、または2種以上を混合して使用することができるが、これに限定されない。リン供給源として、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに相応するナトリウム含有塩などからなる群より選択された1種以上を個別的に使用するか、または2種以上を混合して使用することができるが、これに限定されない。また、前記培地は、その他の金属塩(例:硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸、および/またはビタミンなどのような必須成長-促進物質を含むことができる。
【0053】
前記L-アミノ酸(例、L-リシン)を回収する工程は、培養方法により当該分野にて公知の好適な方法を利用して培地、培養液、または微生物から目的とするアミノ酸を収集するものであってもよい。例えば、前記回収する工程は、遠心分離、ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどから選択された1つ以上の方法で行われる。
【0054】
前記L-アミノ酸(例、L-リシン)を回収する方法は、その前、同時、またはその後に、精製工程を追加的に含むことができる。
【発明の効果】
【0055】
外来遺伝子の導入により、リシン生産菌株のリシン生産活性が増進し培養後半まで維持されることによって、リシン生産能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】一実施例で得られたライブラリーベクターの核酸配列の分析結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を制限しようとするものではない。以下に記載の実施例は発明の本質的な要旨を逸脱しない範囲で改変できることは当業者にとって自明である。
【0058】
実施例1:遺伝子導入用ベクターライブラリーの作製
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のリシン生産能の向上に有効な遺伝子を探索するために、多様な極限環境で適応し生きていく極限微生物(extremophile bacteria)由来ゲノムDNAライブラリー(genomic DNA library)を作製した。極限微生物としては、高浸透圧、高温、低酸素、多様な水素イオン濃度の極限条件で増殖可能な代表微生物4種、つまり、バチルス・アトロファエウス(Bacillus atrophaeus)(ATCC49337)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)(KCTC1030)、ラクトバチル・スファーメンタム(Lactobacillus fermentum)(KCTC3112)、およびバチルス・シュードファーマス(Bacillus pseudofirmus) OF4(ATCC BAA2126)を使用した。
【0059】
まず、QIAamp DNA Micro Kit(QIAGEN)を用いて前記菌株4種からゲノムDNA(genomic DNA)を抽出した。抽出されたゲノムDNA(genomic DNA)は、制限酵素Sau3A1(NEB)を処理し、37℃で10分間反応後、65℃で30分間反応して不完全な遺伝子断片を作り、これを1%アガロースゲルに電気泳動して5~7kbの遺伝子断片のみ取得した。取得した遺伝子断片は、GeneAll Expin GEL SV kit(seoul、KOREA)を用いて挿入用遺伝子断片を溶出した。
【0060】
このように確保された遺伝子断片は、制限酵素BamHI-HF(NEB)を37℃で1時間反応、37℃でCIP(NEB)酵素30分処理後に取得したpECCG117 vector(大韓民国登録特許第0057684号)にライゲーションした。得られた組み換えベクターを、大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(25mg/l)が含まれているLB固体培地に塗抹した。形質転換されたコロニーは下記の表1の配列番号1および2のプライマーを用いてPCRによって増幅させた。PCR条件は95℃で10分間の変性後、95℃で1分間の変性、55℃で1分間のアニーリング、72℃で4分間の伸長を30回繰り返した後、72℃で10分間の最終伸長を行った。
【0061】
【0062】
前記PCR増幅された遺伝子断片を通して3~5kbの極限微生物(extremophile bacteria)由来ゲノムDNA(genomic DNA)断片が挿入されたことを確認し、pECCG117ベクター内遺伝子挿入率は99%以上であった。このように形質転換されたコロニーを菌株あたり10000個確保し、plasmid prep kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、これらそれぞれのライブラリーベクターをp117-Lib.Bat(Bacillus atrophaeus由来)、p117-Lib.Bli(Bacillus licheniformis由来)、p117-Lib.Lfe(Lactobacillus fermentum由来)、およびp117-Lib.Bps(Bacillus pseudofirmus OF4由来)とそれぞれ名付けた。
【0063】
実施例2:ベクターライブラリー導入菌株の作製およびスクリーニング
前記実施例1で作製されたライブラリーベクター4種(p117-Lib.Bat、p117-Lib.Bli、p117-Lib.Lfe、およびp117-Lib.Bps)をリシンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株(大韓民国登録特許第10-0159812号)に電気パルス法(Van der Rest et al.,Appl.Microbiol.Biotecnol.52:541-545、1999)で形質転換して、カナマイシン(25mg/l)が含まれている複合平板培地に塗抹した。最終的に各ライブラリーベクターごとに約5000個のコロニーを確保し、これをそれぞれLYS_Lib.Bat、LYS_Lib.Bli、LYS_Lib.Lfe、およびLYS_Lib.Bpsライブラリーと名付けた。前記ライブラリー菌株の対照群としては、KCCM11016P菌株にgDNA由来遺伝子断片が挿入されていないpECCG117ベクターを形質転換して使用し、LYS_117 controlと名付けた。
【0064】
前記使用された複合平板培地の組成は次の通りである。
<複合平板培地(pH7.0)>
ブドウ糖 10g、ペプトン 10g、ビーフ抽出物(Beef extract) 5g、酵母抽出物 5g、ブレイン・ハート・インフュージョン(Brain Heart Infusion) 18.5g、NaCl 2.5g、尿素 2g、ソルビトール 91g、寒天 20g(蒸留水1リットル基準)
【0065】
前記確保された4種のKCCM11016Pベースのライブラリー菌株は、それぞれ400ulのスクリーニング培地が含まれている96-Deep Well Plate-Dome(Bioneer)にcolony-picker(SINGER、PIXL)を用いて接種し、plate shaking incubator(TAITEC)で32℃、12000rpmの条件で15時間の間培養した。
【0066】
前記使用された種培地の組成は次の通りである。
<スクリーニング培地(pH7.0)>
ブドウ糖 45g、サトウダイコン由来糖蜜 10g、大豆浸漬液 10g、(NH4)2SO4 24g、MgSO4・7H2O 0.6g、KH2PO4 0.55g、尿素 5.5g、ビオチン 0.9mg、チアミンHCl 4.5mg、カルシウム-パントテン酸 4.5mg、ニコチンアミド 30mg、MnSO4・5H2O 9mg、ZnSO4・5H2O 0.45mg、CuSO4・5H2O 0.45mg、FeSO4・5H2O 9mg、カナマイシン 25mg(蒸留水1リットル基準)
【0067】
培養中の細胞成長はマイクロプレート-リーダー(microplate-reader、BioTek)を用いてモニタリングし、培養液内に存在するブドウ糖の濃度および生成されたリシンの濃度はそれぞれ糖分析器(YSI)およびHPLC(Shimadzu)分析機器を用いて測定した。
【0068】
前記実験を通して最終的に対照群に比べて細胞成長に優れ、ブドウ糖の消耗速度が速い菌株3種を選別した(表2)。選別された菌株3種はLYS_Lib.Bpsライブラリーベクターが挿入された菌株であり、対照群菌株であるLYS_117 controlに比べて収率およびOD値は類似しているが、サンプリングポイント区間の時間あたりの糖消耗速度(g/時間)がLYS_117 control 100%対比118%水準に増加し、生産性に優れていることを確認した。
【0069】
【0070】
実施例3:gDNAライブラリー塩基配列の分析
前記実施例2で選別されたコロニー3種LYS_Lib.Bps#257、#881、および#4213に挿入された遺伝子の配列を確認するために、実施例1の表1に記載された配列番号1と2のプライマーを用いて前記コロニーが持つgDNAライブラリー遺伝子断片をPCR増幅した。PCR条件は実施例1と同様に進行させ、増幅されたDNA断片をGeneAll Expin GEL SV kit(seoul、KOREA)を用いて取得し塩基配列分析を進行させた。分析結果はBLASTを通して遺伝子情報を確認した(NCBI reference sequence NC_013791.2)。
【0071】
前記得られた分析結果を
図1に示した。
図1に示されているように、遺伝子塩基配列の分析結果、LYS_Lib.Bps #257コロニーには4794bp、#881コロニーには3985bp、そして#4213コロニーには4483bpの遺伝子断片が含まれていた。前記3つのコロニーに共通して含まれている完全な遺伝子ORFはBpOF4_13735とBpOF4_13740であると確認され、以後、前記2つの遺伝子の影響性に対する追加実験を進行させた。
【0072】
実施例4:個別遺伝子導入ベクターの作製および菌株の作製
前記実施例3で確認された遺伝子2つに対する個別遺伝子の影響性を確認するために、ゲノム挿入用ベクターを作製した。まず、遺伝子挿入のための基盤ベクターを作製するために、トランスポザーゼ(transposase)のうちの1つであるNcgl2284遺伝子をターゲットとしてpDZ_Δ2284ベクターを作製した。
【0073】
具体的には、PCRを進行させるためのDNA鋳型としてATCC13032 gDNAを用い、NCBI塩基配列(NC_003450.3)を参照してプライマーを作製した。配列番号3と4のプライマーで95℃で10分間の変性後、95℃で1分間の変性、55℃で1分間のアニーリング、72℃で1分間の伸長を30回繰り返した後、72℃で10分間の伸長反応を行う条件でPCRを進行させて約900bpの5’DNA断片を得た。同様に、プライマー配列番号5と6を用いて前記と同一の条件でPCRを進行させて3’DNA断片を増幅した。増幅された2つのDNA断片はGeneAll Expin GEL SV kit(seoul、KOREA)を用いて精製し、制限酵素XbaI(NEB)で処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZ(大韓民国特許第2009-0094433号)ベクターとInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換した。前記菌株をカナマイシン(25mg/l)が含まれているLB固体培地に塗抹し、pDZベクターに挿入された遺伝子の塩基配列を確認して、最終的にpDZ_Δ2284ベクターを調製した。
【0074】
個別遺伝子の追加強化(発現)ベクターは前記基盤ベクターpDZ_Δ2284を制限酵素NdeIおよびCIP(NEB)処理し、65℃で20分間熱処理して精製後に取得したベクターとプロモーター、それぞれの遺伝子DNA断片をInfusion Cloning Kitで連結して作製した。前記遺伝子の追加発現のためのプロモーターは配列番号13のgapA遺伝子プロモーターを用い、これを取得するために、ATCC13032 gDNA(NC_003450.3)を鋳型としてプライマー配列番号7と8を用いてPCR増幅を進行させた。PCRはpfu polymeraseを用い、95℃で10分間の変性後、95℃で1分間の変性、55℃で1分間のアニーリング、72℃で1分間の伸長を30回繰り返した後、72℃で10分間の伸長反応する条件で進行させた。2つの遺伝子BpOF4_13735とBPOF4_13740 DNA断片はプロモーターPCRと同様の方法で進行させ、BpOF4_13735遺伝子(配列番号14)のためには配列番号9と10のプライマーを用い、BpOF4_13740(配列番号15)のためには、配列番号11と12のプライマーを用いてBacillus pseudofirmus OF4 gDNAから遺伝子を増幅した。このように取得したDNA断片はGeneAll Expin GEL SV kit(seoul、KOREA)を用いて精製して、pDZ_Δ2284ベクターと連結して2種のベクターを作製した。最終的にpDZ_Δ2284::PgapA BpOF4_13735ベクター、およびpDZ_Δ2284::PgapA BpOF4_13740ベクターを作製した。
【0075】
前記作製された2種のベクターはリシンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株(大韓民国登録特許第10-0159812号)に電気パルス法で形質転換し、2次DNA-crossoverを経てそれぞれの遺伝子が強化された菌株を作製した。このように作製された菌株2種はKCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_13735、KCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740と名付けた。
【0076】
前記使用されたプライマー、プロモーター、BpOF4遺伝子の核酸配列、および前記遺伝子がコードするアミノ酸配列を下記の表3にまとめた。
【0077】
【0078】
実施例5:個別遺伝子挿入菌株のリシン生産能の分析
前記実施例4で作製された菌株2種を以下の方法で培養して、OD、リシン生産収率、および糖消耗速度(g/時間)を測定した。まず、種培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃で20時間、150rpmで振盪培養した。その後、生産培地24mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃で40時間、150rpmで振盪培養した。前記種培地と生産培地の組成はそれぞれ下記の通りであり、培養結果は表4に示した。
【0079】
<種培地(pH7.0)>
ブドウ糖 20g、ペプトン 10g、酵母抽出物 5g、尿素 1.5g、KH2PO44g、K2HPO4 8g、MgSO4・7H2O 0.5g、ビオチン 100μg、チアミンHCl 1000μg、カルシウム-パントテン酸 2000μg、ニコチンアミド 2000μg(蒸留水1リットル基準)
【0080】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖 45g、サトウダイコン由来糖蜜 10g、大豆浸漬液 10g、(NH4)2SO4 24g、MgSO4・7H2O 0.6g、KH2PO4 0.55g、尿素 5.5g、CaCO3 30g、ビオチン 0.9mg、チアミンHCl 4.5mg、カルシウム-パントテン酸 4.5mg、ニコチンアミド 30mg、MnSO4・5H2O 9mg、ZnSO4・5H2O 0.45mg、CuSO4・5H2O 0.45mg、FeSO4・5H2O 9mg、カナマイシン 25mg(蒸留水1リットル基準)
【0081】
【0082】
gDNAライブラリーを通して確保された2つの遺伝子のうちBpOF4_13735を過発現させた菌株は、親菌株KCCM11016P_Δ2284に比べてリシン収率および糖消耗速度で有意に向上した効果が現れなかった。しかし、KCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740菌株は、親菌株に比べて発酵最終ODおよび収率は類似しているが、培養中間区間(17~24時間)への時間あたりの糖消耗速度が親菌株KCCM11016P_Δ2284対比31.5%増加する結果を確認した。
【0083】
最終的に実施例2で確認されたコロニーLYS_Lib.Bps#257、#881、#4213菌株の効果はBpOF4_13740の強化による効果であることを確認した。
【0084】
実施例6:BpOF4_13740遺伝子強化菌株のリシン生産能の向上
前記実施例5で確認されたBpOF4_13740遺伝子の効果を2次検証するために、他のプロモーターで遺伝子強化を実施した後、BpOF4_13740遺伝子を分析した。また、NCBI BLAST分析で追加確認されたBpOF4_05495遺伝子に対しても効果の確認を進行させた。
【0085】
このために、遺伝子発現ベクターを追加的に作製した。前記実施例3で作製したベクターと同様の過程でベクターを作製した。
【0086】
ATCC13032 gDNAを鋳型として配列番号17と18のプライマーを用いてPCRを進行させてsigBプロモーターを増幅し、Bacillus pseudofirmus OF4 gDNAを鋳型として配列番号19と12のプライマーを用いてBpOF4_13740遺伝子をPCR増幅した。これら2つの遺伝子断片をpDZ_Δ2284ベクターと連結してpDZ_Δ2284::PsigB BpOF4_13740ベクターを追加作製した。
【0087】
BpOF4_05495遺伝子の強化も同様の方法で実施してpDZ_Δ2284::PsigB BpOF4_05495およびpDZ_Δ2284::PgapA BpOF4_05495ベクターを作製した。プライマーは配列番号20と21、配列番号22と21を用いてBpOF4_05495遺伝子断片を確保した。一方、これら2つの遺伝子の同時強化の効果も確認するために、リボソーム付着配列(RBS)を挿入した配列番号23、24プライマーを追加して、pDZ_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495およびpDZ_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495ベクターも作製した。
【0088】
前記作製された追加の5種のベクター(pDZ_Δ2284::PsigB BpOF4_13740ベクター、pDZ_Δ2284::PsigB BpOF4_05495ベクター、pDZ_Δ2284::PgapA BpOF4_05495ベクター、pDZ_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495ベクター、およびpDZ_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495ベクター)をリシンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株(大韓民国登録特許第10-0159812号)に電気パルス法で形質転換し、2次DNA-crossoverを経てそれぞれの遺伝子が強化された菌株を作製した。
【0089】
このように追加作製された菌株5種は、KCCM11016P_Δ2284::PsigB BpOF4_13740、KCCM11016P_Δ2284::PsigB BpOF4_05495、KCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_05495、KCCM11016P_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495、およびKCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495とそれぞれ名付けた。
【0090】
前記使用されたプライマー、プロモーター、BpOF4_05495遺伝子の核酸配列および前記遺伝子がコードするアミノ酸配列を下記の表5にまとめた。
【0091】
【0092】
前記作製された5種の菌株、KCCM11016P_Δ2284::PsigB BpOF4_13740、KCCM11016P_Δ2284::PsigB BpOF4_05495、KCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_05495、KCCM11016P_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495、およびKCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495に対して実施例5と同一の条件でフラスコで(in flasks)評価を進行させて、その結果を表6に示した。
【0093】
【0094】
BpOF4_13740遺伝子をsigBプロモーターおよびgapAプロモーターで発現した時、対照群KCCM11016P_Δ2284対比それぞれ7.1%および42.1%の時間あたりの糖消耗速度増加の結果を確認した。また、類似タンパク質であるBpOF4_05495遺伝子をsigBおよびgapAプロモーターで追加導入した時も、それぞれ20.2%、36.6%の糖消耗速度の増加を示した。前記2つの結果を通して、プロモーターの強度に応じた遺伝子の強化程度により糖消耗速度(g/時間)が増加することを確認できた。追加的に前記遺伝子BpOF4_13740およびBpOF4_05495を同時発現強化した時、最も高い糖消耗速度を確認した。具体的には、KCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495菌株の時間あたりの糖消耗速度は、対照群KCCM11016P_Δ2284対比45.9%向上した効果を示した。
【0095】
本実施例において、リシン生産能の増加を示したKCCM11016P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495菌株は、2019年12月13日付で大韓民国ソウル特別市西大門区弘済洞所在の韓国微生物保存センターに寄託してKCCM12640Pの寄託番号が付与された。
【0096】
実施例7:BpOF4_13740_05495強化菌株のリシン生産能の分析
L-リシンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770P(大韓民国登録特許第10-0924065号)およびKCCM11347P(大韓民国登録特許第10-0073610号)にそれぞれ実施例6で選別された遺伝子を強化した。強化方法としては、実施例6で実施した方法と同様に遺伝子の追加導入を進行させ、最終的に、3種のベクター、pDZ_Δ2284、pDZ_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495、およびpDZ_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495を電気パルス法でコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770PおよびKCCM11347P菌株2種にそれぞれ導入して、KCCM10770P_Δ2284、KCCM10770P_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495、KCCM10770P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495、KCCM11347P_Δ2284、KCCM11347P_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495、およびKCCM11347P_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495の6種の菌株を作製した。
【0097】
前記作製された遺伝子強化菌株は実施例5と同様の方法で培養して、OD、リシン生産収率および時間あたりの相対糖消耗速度(それぞれKCCM10770P_Δ2284およびKCCM11347P_Δ2284の時間あたりの糖消耗速度100%基準)を測定し、その結果を下記表7に示した。
【0098】
【0099】
前記表7に示されているように、本実施例で作製された遺伝子強化菌株において、OD、FNリシン濃度およびリシン生産収率のレベルが類似しているにもかかわらず、糖消耗速度の向上による発酵時間短縮の効果を確認した。
【0100】
実施例8:BpOF4_13740_05495が導入されたCJ3P菌株の作製およびリシン生産能の分析
L-リシンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においても前記と同一の効果があるかを確認するために、野生株に3種の変異[pyc(P458S)、hom(V59A)、lysC(T311I)]を導入してL-リシン生産能を有するようになったコリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P(Binder et al.Genome Biology2012、13:R40)を対象に、実施例7と同様の方法でBpOF4_13740_05495が強化された菌株を作製した。前記作製された菌株はCJ3_Δ2284、CJ3_Δ2284::PsigB BpOF4_13740_05495、CJ3_Δ2284::PgapA BpOF4_13740_05495とそれぞれ名付けた。対照群であるCJ3P菌株(BpOF4_13740_05495の強化が行われていない)と作製菌株3種は前記実施例5と同様の方法で培養して、OD、リシン生産収率および時間あたりの相対糖消耗速度(それぞれKCCM10770P_Δ2284およびKCCM11347P_Δ2284の時間あたりの糖消耗速度100%基準)を測定し、その結果を下記表8に示した。
【0101】
【0102】
表8に示されているように、BpOF4_13740_05495が強化された菌株において、OD値、FNリシン濃度およびリシン生産収率のレベルが類似しているにもかかわらず、時間あたりの糖消耗速度が60%以上向上した効果を確認した。
【0103】
以上、本明細書で開示されるそれぞれの説明および実施形態はそれぞれの他の説明および実施形態にも適用可能である。本明細書で開示された多様な要素の可能なすべての組み合わせが本明細書で提案される発明の範疇に属する。また、下記記述された具体的な記述によって本明細書の発明の範疇が制限されるといえず、当該技術分野における通常の知識を有する者が本明細書に記載された特定の態様に対する多数の等価物を認知または確認できる限り、このような等価物は本明細書で提案される発明に含まれると意図される。
【0104】
【配列表】