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特許7362931超合金を含むPCBNベースツールを使用した摩擦攪拌接合
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】超合金を含むPCBNベースツールを使用した摩擦攪拌接合
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/051 20230101AFI20231010BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20231010BHJP
   C04B 35/5831 20060101ALI20231010BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20231010BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20231010BHJP
   B22F 7/06 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C22C1/051 L
B23K20/12 344
C04B35/5831
B22F3/10 B
B22F3/14 A
B22F7/06 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022537732
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2020083395
(87)【国際公開番号】W WO2021121888
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】1918892.9
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517007574
【氏名又は名称】エレメント シックス (ユーケイ) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ サントーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス スアレス テレサ
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-512300(JP,A)
【文献】特表2006-513119(JP,A)
【文献】国際公開第2004/101205(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/051
B23K 20/12
C04B 35/5831
B22F 3/10
B22F 3/14
B22F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
70~95体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子と、
前記cBN粒子が分散されている30~5体積%のバインダーマトリックス材料と、を含み、
前記バインダーマトリックス材料が1つ又は複数の超合金を含み、前記バインダーマトリックス材料が、タングステン-レニウム混合物を更に含み、前記バインダーマトリックス材料が、70~80質量%のタングステンと、15~30質量%のレニウムと、0.1~15質量%の超合金と、を含む
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)複合材料。
【請求項2】
前記超合金が、Ti-Zr-Moである、請求項1に記載のPCBN複合材料。
【請求項3】
前記バインダーマトリックス材料が、75質量%のタングステンと、20質量%のレニウムと、5質量%の超合金と、を含む、請求項1又は請求項2に記載のPCBN複合材料。
【請求項4】
前記バインダーマトリックス材料が、酸化物以外の形態のアルミニウムを更に含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のPCBN複合材料。
【請求項5】
前記酸化物以外の形態のアルミニウムが、前記バインダーマトリックス材料の5~10質量%の量で存在する、請求項に記載のPCBN複合材料。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載された多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料を含む本体部を含む、摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項7】
前記本体部の第1の端部に繋げられたバッキング部を更に含む、請求項に記載のツール。
【請求項8】
前記バッキング部が、第1の前記超合金とは異なる第2の超合金を含む、請求項に記載のツール。
【請求項9】
前記第2の超合金が、ニッケル-クロム-モリブデン合金である、請求項に記載のツール。
【請求項10】
前記バッキング部が、第2の端部でツールホルダに接合されるように構成されている、請求項~請求項のいずれか1項に記載されたツール。
【請求項11】
前記第2の端部が、ねじ山を含む、請求項10に記載のツール。
【請求項12】
1つ又は複数の超合金及びタングステン-レニウム混合物を含むマトリックス前駆体粉末を準備することと、
立方晶窒化ホウ素(cBN)の粒子を含むcBN粉末を準備することと、
前記マトリックス前駆体粉末及び前記cBN粉末を混合することと、
混合された前記マトリックス前駆体粉末及びcBN粉末を圧縮して、グリーンボディを形成することと、
減圧下及び800℃~1100℃の温度で前記グリーンボディから気体を除去することと、
1300℃~1600℃の温度及び少なくとも3.5GPaの圧力で前記グリーンボディを焼結して、請求項1に記載のPCBN複合材料を形成することと、を含む、
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記複合材料が、請求項1~請求項のいずれか1項に記載された複合材料である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記マトリックス前駆体粉末にアルミニウム粉末を加えることを更に含む、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超合金と、立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子と、を含むバインダーマトリックス材料を含む複合材料に関連しており、粒子は、高圧及び高温(HPHT)の条件下でまとめて形成される。本開示は更に、鋼、ニッケル合金及び他の高融点合金の摩擦攪拌接合のためのプローブ又はツール材としての複合材料の応用、そして、摩耗及び破壊の低減に関して既存のプローブよりも遥かに高い性能を有するプローブに関する。特に、本開示は、複合材料の費用の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合(FSW)は、接合される2つの隣り合うワークピースに回転ツールを強制的に接触させて、ツールの回転によってワークピースの摩擦性及び粘性の加熱を生み出す技術である。混合時の広範囲にわたる変形は塑性域で起こる。塑性域の冷却後に、ワークピースは接合箇所に沿って接合される。ワークピースは固相のままであるため、この方法は技術的に溶接法というよりむしろ鍛造法であるが、それでも慣例により、それは溶接又は摩擦攪拌接合と呼ばれ、ここではその慣例に従う。
低温金属のFSWの場合、ツール/ツールホルダ全体は1つの成形された工具鋼となることができ、この場合には「プローブ」と呼ばれることが多い。鋼のような高温合金を接合するためのツールの場合、ツールは、2つ以上の部品で構成されることが多く、しばしば「パック」(puck)又は「ツールインサート」と呼ばれる、接合される材料に直接接触する末端要素と、パックを確実に保持し、かつ、FSW装置に適合する「ツールホルダ」となるツールの残部と、を含んでおり、このため、ツールパック及びツールホルダは、合わせて「ツール」又は「ツールアセンブリ」を構成する。ツールパックは、一般的にショルダ及び攪拌ピンを形成する形態となっており、回転中に金属をピンに引き寄せて、ピンによって形成される穴に押し下げるために、多くの場合、その表面には逆スパイラルカットがある。
一般的に、FSW操作は、例えば下記の多くの工程を含む。
a)ツールがワークピースに接触する地点から、加熱されて軟化したワークピースの中にショルダ20までピンが完全に埋め込まれる地点までの、挿入工程(プランジステップ(plunge step)としても知られる)。
b)接合されるワークピース間の線に沿ってツールが水平に移動する、ツールトラバース。
c)ワークピースの外へツールが持ち上げられる、又は移動する、取出工程。
主に接合部を形成する段階であるツールトラバースは、通常、一定条件下で実施され、一般的にこれらの条件は、回転速度、プランジの条件、トラバースの速度等である。
【0003】
FSW法は、1991年にThe Welding Institute(TWI)によって提唱され、WO93/10935に記載されている。TWIは、その技術をライセンスしており、これは、アルミニウム(Al)合金から作られた部品をまとめて接合するために主に使用されるが、銅(Cu)、鉛(Pb)及びマグネシウム(Mg)のような他の低融点金属にも使用される。
WO2004/101205は、特に、高圧高温(HPHT)の条件下で製造された超砥粒材料を含むFSWツールを請求している。具体的には、多結晶ダイヤモンド(PCD)及び多結晶窒化ホウ素(PCBN)が請求されている。
General Electricは、鋼及び他の材料のFSWのためにタングステンベースの耐火金属合金を使用することを目的とした特許出願(US2004/238599A1)を出願した。
【0004】
FSWは、金属を接合するための確立した方法である。しかしながら、FSWツール又はプローブ材が接合温度で主要特性を維持し、かつ、接合金属と化学的に相互作用しないという要件のために、その方法は、現在のところ一般的に比較的低融点の金属にのみ適している。このため、FSWによる鋼及び他の高融点金属の接合は、Al及びCuのような低融点金属の場合に使用されるような鋼プローブを使用して実行できない。
鋼及び他の高融点金属のFSW接合を技術的かつ商業的に実現するために、鉄環境において1000℃を超える温度で主要特性及び形態を維持する材料を用いてFSWプローブを開発する新しい動きがある。少なくとも部分的には温度のためだけでなく、工程の中でツールが受ける荷重のために、適切なツールの開発は困難であった。これらのツールは、一般的に、限られたライフサイクルを有することがわかっている。さらに、これらのツールは、成形が困難である高価な材料から作られることが多く、この結果、ツールは高価である。現在、そのようなツールの寿命は、多くの場合、ツールあたりの接合メートルで評価され、ツールを使用する費用は、ツール費用をメートルのツール寿命で割って、メートルあたりの$、アメリカドルで評価される。2000年代初頭又はそれ以前からの鋼の摩擦攪拌接合の多くの利点が知られているにもかかわらず、現在利用可能なツールは高価で、信頼できず、寿命が限られていると考えられているため、その使用は非常に限られている。
例えば、プローブ材としての、HPHT手法を用いて作られる多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)の使用は、本技術分野において説明されている。W、Re、Moの使用に関する重要な研究もあり、それらの合金及び他の耐火金属が含まれる。これらの手法(PCBN及び耐火金属)の両方は、下記のような異なる欠点を有する。
・PCBNは、この利用に必要なものよりも遥かに耐摩耗性があるが、その破壊靭性は、理想的に必要なものよりも低い。この利用は、ワークピースが初めは冷たく、ワークピースとツールとの接触部分が比較的小さいときに、2つのピース間の接合箇所でプローブをワークピースに押し込むことを伴う。したがって、この工程は、大きな力及び急速な加熱を伴い、ツールに対して著しくストレス及び損傷を与える可能性がある。次のトラバースの間、ツールも回転しているため、ツールもかなりの周期的な力を受け、これによって亀裂の伝搬が起こる可能性がある。
・W、Mo及びReのような耐火金属は十分な破壊靭性を有するが、これらは商業的に実現可能なプローブに必要な摩耗耐性を十分に有しておらず、これらの主要な故障機構は摩耗である。更に重要なことに、そのような金属から作られるプローブは利用中にゆがみやすい。
FSWの利用の間に必要とされる十分な化学的不活性及び形態を維持しながら、W、Mo又はReの靭性及び強度と、PCBNの改善された耐摩耗性を組み合わせた材料が長年必要とされている。
必要な材料性能を損なうことなく、ツールの費用を低減することも必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1態様において、70~95体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子と、cBN粒子が分散されている30~5体積%のバインダーマトリックス材料と、を含み、バインダーマトリックス材料が1つ又は複数の超合金を含む、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)複合材料が提供される。
【0006】
本発明の第1態様の好ましい及び/又は任意の特徴は、従属請求項2~7に提供される。
【0007】
本発明の第2態様において、摩擦攪拌接合用ツールが提供され、ツールは、本発明の第1態様に係る多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料を含む本体部を含む。
【0008】
本発明の第2態様の好ましい及び/又は任意の特徴は、従属請求項8~13に提供される。
【0009】
本発明の第3態様において、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)複合材料の製造方法が提供され、この方法は下記工程を含む。
- 1つ又は複数の超合金を含むマトリックス前駆体粉末を準備すること
- 立方晶窒化ホウ素(cBN)の粒子を含むcBN粉末を準備すること
- マトリックス前駆体粉末及びcBN粉末を混合すること
- 混合されたマトリックス前駆体粉末及びcBN粉末を圧縮して、グリーンボディ(green body)を形成すること
- 減圧下及び800℃~1100℃の温度でグリーンボディから気体を除去すること
- 1300℃~1600℃の温度及び少なくとも3.5GPaの圧力でグリーンボディを焼結して、本発明の第1態様に係るPCBN材料を形成すること
【0010】
本発明の第3態様の好ましい及び/又は任意の特徴は、従属請求項15~17に提供される。
【0011】
本発明は、単なる例として添付の図面を参照して、より具体的に説明される。同種の部品は同種の参照記号を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、FSWツールの部分的な側面図を示す。
図2図2は、図1のツールインサートと、ツールホルダと、ツールインサートをツールホルダに固定するロッキングカラー(locking collar)と、を含むツールアセンブリの側面図である。
図3図3は、本発明に従って焼結PCBN複合材料を製造する例示的な方法を示す流れ図である。
図4図4は、本発明の一実施形態における複合材料のX線回折図形(XRD)である。
図5図5は、10,000倍の倍率で撮影された、図4の材料の微細構造の走査型電子顕微鏡(SEM)の顕微鏡写真である。
図6図6は、10,000倍の倍率で再び撮影された、2番目の場所での図5の材料の微細構造のSEM顕微鏡写真である。
図7図7は、FSWツールの第2実施形態の簡略図である。
図8図8は、ツールアセンブリに搭載された図7のツールの簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ジオメトリー
図1、2を参照すると、FSWツールインサートは一般的に10で示される。ツールインサート10は、回転軸12を有し、FSW中にその周辺で回転する。(ここで留意すべきことは、主としてツールインサートに機械加工された非対称のねじパターンのため、この回転軸が回転対称の軸でないことである。)。使用において、ツールインサート10は、ツールホルダ14に焼嵌めされる。ロッキングカラー16は、ツールホルダ14の所定の位置にツールインサート10を固定する。ここで留意すべきことは、これは一般的な種類のツールホルダの一例であるが、本発明は使用されたツールホルダの種類に依存しないことである。
ツールインサート10は、攪拌ピン18と、ショルダ20と、本体部(図示せず)と、を含み、すべて互いに軸方向に沿って並んでいる。攪拌ピン18、ショルダ20及び本体部は、すべて互いに一体に形成されている。
攪拌ピン18は、丸みのある頂点22からショルダ20へ延びている。この実施形態において、ショルダ20は、実質的に円筒形であり、攪拌ピン18の円形基部よりも大きな径を有する。攪拌ピン18は、頂点22からショルダ20へ下って刻まれたらせん状の特徴を有する。したがって、攪拌ピン18は、一般に円錐形の輪郭である。らせんは、軸方向を向いている平らな通路24を有する。使用において、ツールの回転は、らせんによってワークピース材の流れがショルダ20の端から中心へ、それから攪拌ピン18の全長を下って移動するほどのものであり、これによって、ワークピース材を攪拌領域内に循環させて、ツールトラバースの際にピンによって形成されるボイドをふさぐ。そのような循環は、結果として生じる接合部の均一な微細構造を促進すると理解されている。ツールインサート10の作業面26は、放射状に向いている。
いくつかのトリフラット28がらせんに設けられている。各トリフラット28は、平らな通路24の縁面取り部(edge chamfer)である。この例では、3セットのトリフラット28が設けられており、各セットは3つのトリフラット28を含んでおり、これによって、この特定のツール10では合計で9つのトリフラット28になる。セットは、回転軸12の周りに約120°離れて配置されている。各セットの中で、トリフラット28はらせん上で軸方向に間隔をあけて配置されており、すなわち、回転軸12に沿うがそれでもらせん上で間隔をあけて配置されている。
【0014】
ショルダ20は、本体部に接続するために軸方向に延びている。本体部は、ツールホルダ14と繋がるように構成されている。ツールホルダ及びそれに対応して成形されたツールの例は、出願人の同時係属特許出願GB2579915に提供されている。例えば、本体部は、六角形の横断面を有していてもよい。
【0015】
組成
材料に関して、ツールインサート10は、PCBN複合材料を含む。複合材料は、70~95体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子と、cBN粒子が分散されている30~5体積%のバインダーマトリックス材料と、を含んでいてもよい。この実施形態において、複合材料は、80体積%のcBN粒子と、20体積%のバインダーマトリックス材料と、を含む。
バインダーマトリックス材料は、1つ又は複数の超合金を含む。超合金、すなわち高性能合金は、高温での優れた機械的強度及び耐クリープ性、優れた表面安定性、耐食性、耐酸化性を示す合金であると一般的に理解されている。
これらの合金は、個々の炭化物及び酸化物粒子の析出及び分散、非常に加工されたモリブデンマトリックスの保持、固溶強化を含む機構の組み合わせから、高温強度を得る。
超合金は、一般的に、コバルト、ニッケル、鉄又はニッケル-鉄のベース合金元素を含むオーステナイト面心立方晶構造を有する。
この実施形態において、バインダーマトリックス材料は、単一の超合金、具体的にはTZM(Ti-Zr-Mo)を含む。バインダーマトリックス材料の組成は、99.4%Mo-0.5%Ti-0.08%Zr-0.02%Cである。
他の実施形態において、バインダーマトリックス材料は、2つ以上の超合金を含む。
バインダーマトリックス材料は、酸化物以外の形態のアルミニウム(Al)も含む。アルミニウムは、バインダーマトリックス材料の0.5~10質量%の量で用いられてもよい。アルミニウムは、焼結中に液相を促す。
任意選択で、バインダーマトリックス材料は、既述のバインダーマトリックス材料に加えて、タングステンレニウム混合物(W-Re)も含む。タングステン-レニウム混合物におけるレニウムの量を減らし、1つ又は複数の超合金に部分的に置き換えることができ、これによって、必要な性能特性を維持しつつ複合材料の費用を低減できる。
複合材料のXRD図形を図4に示す。図5、6は、バインダー中のナノ結晶析出物を示しており、酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウム並びにZrxAlyOz;TixAly、TixAlyNz、AlN、Mo2B、B2Zr、ZrxNy、TiB2、TiN、AlxMoy、MoxTiy、AlxMoyTiz、BxTiyZrz、AlB2、AlB12、MoxTiyZrz、MoxNy等の化合物が含まれることがわかった。
【0016】
方法
図3は、既述の焼結ツールインサートPCBN複合材料を製造する例示的な方法を示す。下記工程は図3に関連する。
【0017】
S1. 80:20のcBN対バインダー体積パーセント比でバインダーマトリックス前駆体粉末を準備した。
【0018】
S2. マトリックス前駆体粉末をまとめて加えた。cBN粉末を、超合金、TZM(Ti-Zr-Mo)を含む粉末に加えた。バインダーマトリックス材料の組成は、99.4%Mo-0.5%Ti-0.08%Zr-0.02%Cである。cBNの粒度分布は、単峰性(mono-modal)又は多峰性(multi-modal)(二峰性(bi-modal)を含む)であってもよい。
【0019】
S3. マトリックス前駆体粉末をまとめて混合した。
【0020】
ブレードレスドライパウダーミキサーであるSpeedMixer(商標)を用いて前駆体粉末をまとめて混合した。この方法を用いる利点は、アトリションミリング(attrition milling)と異なり、ミリングメディア(milling media)からの不純物が避けられることである。アトリションミリングは、従来、マトリックス前駆体粒子を所望の大きさに粉砕するためだけでなく、マトリックス前駆体粉末及びcBN粒子をよく混合して分散させるためにも使用される。アトリションミリングは、通常、タングステンカーバイドボールを用いて実施される。アトリションミリングを用いて製造される焼結PCBN材料は、最大で8質量%のタングステンカーバイド、一般的に2質量%~6質量%のタングステンカーバイドを含むことができる。これらの粒子は、特にハードパートターニング(hard part turning)のような用途において、PCBN材料の特性に対して好ましくない影響を有することが知られている。さらに、アトリションミリング中のタングステンカーバイドのピックアップは制御されていないため、バッチによって粒度分布の異なるタングステンカーバイドが異なる量で含まれる可能性があり、ツール用途に使用される際に焼結PCBN材料の特性を予測できない可能性がある。
この方法の他の利点は、cBN粒子の粉砕がないことである。この効果は、複合材料中の焼結cBN粒子がアトリションミリング後に焼結されたものよりも大きなシャープネスを有していることである。シャープネスは、材料の完全性及び靭性を高めることもある。シャープネスは、後で詳細に説明される。
さらに、ブレードレス混合法は、取り扱いがより安全になるように前駆体粉末の反応性を低減する。最後に、前駆体粉末の純度が高くなる(汚染が極めて少なくなる)ので、焼結PCBNはより強くなる。
焼結前後のcBN粒子のシャープネスは、混合法によって主に決定づけられるため、粒子のシャープネスは、使用される混合法の指標として使用されてもよい。ブレードレスドライミキサーを使用すると、混合によって、アトリションミリングにより成形されたものとは異なる粒子のシャープネスを有するcBN粒子が得られる。
既述のブレードレス混合の代替として、溶剤中での超音波混合又は乾燥音響混合を使用してもよいと考えられる。したがって、焼結複合材料における不純物の量は、4質量%未満であり、3質量%未満又は2質量%未満又は1質量%未満であってもよい。タングステンカーバイド不純物を回避できるものの、原料前駆体粉末に由来の微量な鉄不純物がまだ存在する可能性がある。
ブレードレス混合、超音波混合及び乾燥音響混合はすべて、アトリションミリングに比べて速くて効率的な方法を提供し、焼結PCBN材料の製造に要する時間が非常に短くなるという利点がある。
【0021】
S4. 次に、混合された粉末を圧縮してグリーンボディを形成した。最後の焼結における体積変化を最小限にするためには予備圧縮が必要である。焼結前に密度が最大になっていない場合、収縮の増大によって焼結中に圧力が低下し、この結果、六方晶窒化ホウ素(hBN)へのcBNの転換、試料のひび割れが起こる可能性がある。
【0022】
S5. ニオブといった耐火金属から形成された「カン(can)」としても知られる収容器にグリーンボディを導入した。次に、混合物を含むカンを真空炉(Torvac)に入れ、減圧下で高温条件にさらした。この工程は、混合物から過剰な酸素を取り除き、それから焼結を促す。900℃~1150℃の温度で気体放出を実施した。気体放出は、完成した複合材料の高密度を達成するための重要な要素である。気体放出を実施しない場合、焼結品質は不十分となる。気体放出は、通常、気体が除去される材料の量に応じて最低8時間で夜間に実施される。
【0023】
S6. 気体放出の後、気体放出条件のままでカンを密閉し、次に混合物を含むカンをHPHTカプセルに入れた。
【0024】
S7. 次に混合物を含むカンを、十分な焼結のために高圧及び高温の条件にさらした。焼結温度は1300℃~1600℃であり、圧力は少なくとも3.5GPaであった。焼結圧力は、通常は4.0~6.0GPaの範囲であり、好ましくは5.0~5.5GPaである。焼結温度は、好ましくは約1500℃である。十分な焼結は、マトリックス材料に分散したcBNの粒子を含む多結晶材料を形成する。
【0025】
焼結プロセスの後、圧力を周囲条件まで徐々に下げた。十分に焼結された複合材料を放置して室温まで冷やし、次に摩擦攪拌接合に適したツールに成形した。
【0026】
図7はツール100の第2実施形態を示しており、これは第1実施形態のツールに非常に似ているが、バッキングエレメント(backing element)102がツールホルダ14に繋げられており、これによってツール100を支持する。したがって、繰返しを避けるためにツール100の完全な説明を省略し、相違点のみを説明する。
この実施形態において、ツールホルダ14は、円形の端部を有する円筒形である。バッキングエレメント102は、攪拌ピン18から離れたツールホルダ14の一端に接合されている。接合は、拡散接合であってもよい。バッキングエレメント102は、PCBN複合材料を含み、ここでバインダーは、1つ又は複数の超合金、例えば、Alloy 718(一般的な商品名:Inconel(商標) 718)を含む。Alloy 718は、ニッケル-クロム-モリブデン合金であり、高温で非常に高い降伏、引張及びクリープ破断の特性を示す。
【0027】
図8を参照すると、ツールアセンブリは一般的に200で示される。ツールアセンブリ200は、細長いツールポスト(tool post)202と、図7を参照して上述されたツール100と、ロッキングカラー16と、を含む。ツールアセンブリ200は、長手方向の回転軸を有する。ロッキングカラー16は、ツールポスト202及びバッキングエレメント102の周りに同心円状に設けられ、ツールポスト202及びツール100を軸方向に沿って固定する。したがって、バッキングエレメント102は、ツールホルダ14をツールポスト202に繋げるのに役立つ。バッキングエレメント102は、FSW装置の残部の熱伝達において重要な役割も果たす。
ツールアセンブリは、任意選択で、バッキングエレメント102とロッキングカラー16との境界又はその近くに設けられた温度センサー206を含む。温度センサー206は、好ましくは白金型の抵抗温度ディスプレイ(RTD)であり、これは、温度変化に非常に敏感である。
ツールアセンブリ200を冷却するために、任意の冷却チャネル208がツールポスト202及びバッキングエレメント102を通って延びている。
超音波反射測定を用いて切削工具の任意の摩耗モニタリング210を実行でき、トランシーバーが信号を利用してツールの摩耗をリアルタイムで監視する。
振れ(run-out)としても知られるツールアセンブリのぐらつきは、任意の渦電流センサー212を用いて監視される。センサー212は、ツール100の位置を監視し、それゆえにぐらつきの増加を監視する。フィードバックループは、ツールアセンブリ200の動作パラメータを制御するために使用され、ツールの寿命を最大化する。
ツール100の動作温度、その摩耗及びツールアセンブリ200の振れは、最適化しないとアセンブリ200の突発的故障を招く可能性があるすべての重要要素である。
【0028】
実施形態を参照して本発明を具体的に示して説明したが、請求項により規定される発明の範囲から逸脱することなく形態及び詳細の様々な変更を実施できることが当業者によって理解される。
本開示は以下の実施形態を包含する。
<1> 70~95体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子と、前記cBN粒子が分散されている30~5体積%のバインダーマトリックス材料と、を含み、前記バインダーマトリックス材料が1つ又は複数の超合金を含む、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)複合材料。
<2> 前記超合金が、Ti-Zr-Moである、<1>に記載のPCBN複合材料。
<3> 前記バインダーマトリックス材料が、タングステン-レニウム混合物を更に含む、<1>又は<2>に記載のPCBN複合材料。
<4> 前記バインダーマトリックス材料が、70~80質量%のタングステンと、15~30質量%のレニウムと、0.1~15質量%の超合金と、を含む、<3>に記載のPCBN複合材料。
<5> 前記バインダーマトリックス材料が、75質量%のタングステンと、20質量%のレニウムと、5質量%の超合金と、を含む、<4>に記載のPCBN複合材料。
<6> 前記バインダーマトリックス材料が、酸化物以外の形態のアルミニウムを更に含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載のPCBN複合材料。
<7> 前記酸化物以外の形態のアルミニウムが、前記バインダーマトリックス材料の5~10質量%の量で存在する、<6>に記載のPCBN複合材料。
<8> <1>~<7>のいずれか1項に記載された多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料を含む本体部を含む、摩擦攪拌接合用ツール。
<9> 前記本体部の第1の端部に繋げられたバッキング部を更に含む、<8>に記載のツール。
<10> 前記バッキング部が、第1の前記超合金とは異なる第2の超合金を含む、<9>に記載のツール。
<11> 前記第2の超合金が、ニッケル-クロム-モリブデン合金である、<10>に記載のツール。
<12> 前記バッキング部が、第2の端部でツールホルダに接合されるように構成されている、<8>~<11>のいずれか1項に記載されたツール。
<13> 前記第2の端部が、ねじ山を含む、<12>に記載のツール。
<14> 1つ又は複数の超合金を含むマトリックス前駆体粉末を準備することと、立方晶窒化ホウ素(cBN)の粒子を含むcBN粉末を準備することと、前記マトリックス前駆体粉末及び前記cBN粉末を混合することと、混合された前記マトリックス前駆体粉末及びcBN粉末を圧縮して、グリーンボディを形成することと、減圧下及び800℃~1100℃の温度で前記グリーンボディから気体を除去することと、1300℃~1600℃の温度及び少なくとも3.5GPaの圧力で前記グリーンボディを焼結して、<1>に記載のPCBN複合材料を形成することと、を含む、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)複合材料の製造方法。
<15> 前記複合材料が、<1>~<7>のいずれか1項に記載された複合材料である、<14>に記載の方法。
<16> 前記マトリックス前駆体粉末にアルミニウム粉末を加えることを更に含む、<14>又は<15>に記載の方法。
<17> 前記マトリックス前駆体粉末にタングステン-レニウム混合物を加えることを更に含む、<14>、<15>又は<16>に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8