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特許7362933測定装置及びその測定方法並びに測定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】測定装置及びその測定方法並びに測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01D 3/00 20060101AFI20231010BHJP
   G01D 3/032 20060101ALI20231010BHJP
   H04N 25/78 20230101ALI20231010BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
G01D3/00 C
G01D3/032
H04N25/78
G06F3/041 522
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022541161
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024694
(87)【国際公開番号】W WO2022030148
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020132842
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 朋輝
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/211760(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/169215(WO,A1)
【文献】特開2011-003071(JP,A)
【文献】特開2011-233109(JP,A)
【文献】特開2020-067948(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/328821(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 3/00
G01D 3/032
H04N 25/78
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個(N≧2)のセンサと、
測定毎に、前記N個のセンサの中から所定の組み合わせのセンサを選択し、選択したセンサによる測定値に基づいてM個(M<N)のセンサ端子の各々に検出値を出力する選択部と、
測定毎に、前記M個のセンサ端子の各々に出力された検出値を取得する取得部と、
L回の測定が行われた後に、前記取得部により取得されたM×L個の検出値の各々に時間依存ノイズ成分が含まれると仮定し、前記検出値の各々の前記時間依存ノイズ成分が、L個の前記時間依存ノイズ成分を時間軸方向に平均化した値である共通ノイズ成分となるように、前記M×L個の検出値の各々を補正する補正部と
を備える測定装置。
【請求項2】
前記補正部は、M×L行M×L列の補正行列を用いて、真の値に対して前記共通ノイズ成分が加算された値となるように、前記M×L個の検出値の各々を補正する請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
各測定において前記選択部が所定の組み合わせのセンサを選択するように制御する制御部を備える請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記選択部と前記取得部とを制御することにより前記L回の測定を所定の時間間隔または所定のタイミングで行う請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記選択部は、前記測定値に基づいて合成出力値を算出し、前記検出値として出力する請求項1から4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記補正部により補正された前記M×L個の検出値に基づいて、前記N個のセンサの各々に対応する検出結果を算出する出力変換部を備える請求項1から5のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記出力変換部は、補正された前記M×L個の検出値の各々に均等に含まれる前記共通ノイズ成分を相殺することにより、前記N個のセンサの各々に対応する検出結果を出力する請求項6に記載の測定装置。
【請求項8】
前記出力変換部は、補正された前記M×L個の検出値に対し、N行M×L列の復調行列を用いることにより、前記N個のセンサの各々に対応する検出結果を出力する請求項6または7に記載の測定装置。
【請求項9】
前記出力変換部は、任意の行に含まれる各行列要素を列方向に足した和が零となるような前記復調行列を用いる請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
前記N個のセンサの各々は、静電容量センサである請求項1から9のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項11】
N個(N≧2)のセンサを有する測定装置の測定方法であって、
測定毎に、前記N個のセンサの中から所定の組み合わせのセンサを選択し、選択したセンサによる測定値に基づいてM個(M<N)のセンサ端子の各々に検出値を出力する工程と、
測定毎に、前記M個のセンサ端子の各々に出力された検出値を取得する工程と、
L回の測定が行われた後に、取得されたM×L個の検出値の各々に時間依存ノイズ成分が含まれると仮定し、前記検出値の各々の前記時間依存ノイズ成分が、L個の前記時間依存ノイズ成分を時間軸方向に平均化した値である共通ノイズ成分となるように、前記M×L個の検出値の各々を補正する工程と
を有する測定方法。
【請求項12】
N個(N≧2)のセンサを有する測定装置の測定プログラムであって、
測定毎に、前記N個のセンサの中から所定の組み合わせのセンサを選択し、選択したセンサによる測定値に基づいてM個(M<N)のセンサ端子の各々に検出値を出力する処理と、
測定毎に、前記M個のセンサ端子の各々に出力された検出値を取得する処理と、
L回の測定が行われた後に、取得されたM×L個の検出値の各々に時間依存ノイズ成分が含まれると仮定し、前記検出値の各々の前記時間依存ノイズ成分が、L個の前記時間依存ノイズ成分を時間軸方向に平均化した値である共通ノイズ成分となるように、前記M×L個の検出値の各々を補正する処理と
をコンピュータに実行させるための測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定装置及びその測定方法並びに測定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルに用いられる静電容量式タッチセンサ、デジタルカメラ等に用いられるイメージングセンサ、より複雑な三次元画像センサ等のように、特定の空間内に発生した物理現象を数値化するセンサは、様々な技術分野において幅広く利用されている。このようなセンサは、一般的に、継続的に測定を行うため、各測定で得られる測定値には、その測定時固有のノイズ(以下「時間依存ノイズ」という。)が含まれる。
【0003】
このような時間依存ノイズの影響を低減するために、例えば、特許文献1には、各測定値に含まれる時間依存ノイズを、ある基準となる測定時の測定値に含まれる時間依存ノイズに揃えることにより、各測定値に含まれる時間依存ノイズを一様化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8976145号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によれば、一様化されたノイズ成分の大きさによっては、各測定値に大きなノイズ成分が一様に含まれる結果となり、検出結果へのノイズ影響が大きくなる可能性がある。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、時間依存ノイズの影響を効果的に低減することのできる測定装置及びその測定方法並びに測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1態様は、N個(N≧2)のセンサと、測定毎に、前記N個のセンサの中から所定の組み合わせのセンサを選択し、選択したセンサによる測定値に基づいてM個(M<N)のセンサ端子の各々に検出値を出力する選択部と、測定毎に、前記M個のセンサ端子の各々に出力された検出値を取得する取得部と、L回の測定が行われた後に、前記取得部により取得されたM×L個の検出値の各々に時間依存ノイズ成分が含まれると仮定し、前記検出値の各々の前記時間依存ノイズ成分が、L個の前記時間依存ノイズ成分を時間軸方向に平均化した値である共通ノイズ成分となるように、前記M×L個の検出値の各々を補正する補正部とを備える測定装置である。
【0008】
本開示の第2態様は、N個(N≧2)のセンサを有する測定装置の測定方法であって、測定毎に、前記N個のセンサの中から所定の組み合わせのセンサを選択し、選択したセンサによる測定値に基づいてM個(M<N)のセンサ端子の各々に検出値を出力する工程と、測定毎に、前記M個のセンサ端子の各々に出力された検出値を取得する工程と、L回の測定が行われた後に、取得されたM×L個の検出値の各々に時間依存ノイズ成分が含まれると仮定し、前記検出値の各々の前記時間依存ノイズ成分が、L個の前記時間依存ノイズ成分を時間軸方向に平均化した値である共通ノイズ成分となるように、前記M×L個の検出値の各々を補正する工程とを有する測定方法である。
【0009】
本開示の第3態様は、N個(N≧2)のセンサを有する測定装置の測定プログラムであって、測定毎に、前記N個のセンサの中から所定の組み合わせのセンサを選択し、選択したセンサによる測定値に基づいてM個(M<N)のセンサ端子の各々に検出値を出力する処理と、測定毎に、前記M個のセンサ端子の各々に出力された検出値を取得する処理と、L回の測定が行われた後に、取得されたM×L個の検出値の各々に時間依存ノイズ成分が含まれると仮定し、前記検出値の各々の前記時間依存ノイズ成分が、L個の前記時間依存ノイズ成分を時間軸方向に平均化した値である共通ノイズ成分となるように、前記M×L個の検出値の各々を補正する処理とをコンピュータに実行させるための測定プログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ノイズの影響を効果的に低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の第1実施形態に係る測定装置のシステム構成を示す図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る測定装置のハードウェア構成の一例を示した図である。
図3】本開示の第1実施形態に係る測定装置の処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】本開示の第1実施形態に係るスキャン行列の一例を示す図である。
図5】本開示の第1実施形態に係る測定装置のシステム構成の他の例を示す図である。
図6】本開示の第2実施形態に係る測定装置のシステム構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1実施形態〕
以下に、本開示に係る測定装置及びその測定方法並びに測定プログラムの第1実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態における測定装置1は、所定の空間内に発生した物理現象を測定する測定装置であり、例えば当該物理現象を測定して数値化するセンサを用いることができる。一例としては、入力デバイス等に使用されるセンサが挙げられる。より具体的には、例えば、測定装置1は、タッチパネルに用いられる静電容量式タッチセンサや、スライダー入力のためのセンサ、デジタルカメラ等のイメージングセンサ、三次元画像センサなどに適用される。以下の説明では、タッチパネルに使用され、検出対象(例えば、指)の位置を検出する静電容量式タッチセンサに本開示の測定装置を適用する場合を一例として説明する。
【0013】
(測定装置1の構成)
図1は、本開示の第1実施形態に係る測定装置1のシステム構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る測定装置1は、センサ部2と、回路部3とを主な構成として備えている。回路部3は、選択部4と、制御部6と、検出部(取得部)5と、補正部8と、出力変換部(復調部)7とを主な構成として備えている。
【0014】
センサ部2は、N個(N≧2)のセンサを有している。本実施形態はタッチパネルを想定しているため、各センサは、例えば静電容量式の近接センサ(静電容量センサ)となる。図1では、単純化した空間分布センサを示しており、一例として3つのセンサ(センサS、センサS、センサS)を備える場合(センサ数はN=3)について説明する。センサ数は3つに限定されない。
【0015】
各センサは、測定値として、近接度合いを出力する。センサの検出空間において物体(例えば人の指やタッチペン)がセンサへ近づいているほど、測定結果として高い数値が出力される。
【0016】
選択部4は、測定毎に、N個のセンサの中から所定の組み合わせのセンサを選択し、選択したセンサによる測定値に基づいてM個(M<N)のセンサ端子の各々に検出値を出力する。タッチセンサ等では多数のセンサが設けられるが、一方で回路面積やコスト等の観点から、後述する検出回路p、pをセンサ数と等しい数設けることは現実的でない。このため、検出回路p、pの数は、センサ数(N=3)よりも少ない。したがって、選択部4は、所定の組み合わせでセンサを選択して、選択したセンサの検出値が検出回路p、pへ出力されるようにする。選択されるセンサの組み合わせは、複数回の測定のそれぞれにおいて予め設定されている。特に、選択部4は、測定を行う場合に、前回の測定時とは異なるセンサの組み合わせからなるセンサを選択する。
【0017】
図1の例では、センサ数が3つ(S~S)なのに対して検出回路p、pは2つしか存在しないため、ある測定タイミングにおいては、各センサの測定値から2つを選択して各検出回路p、pへ入力させる。
【0018】
制御部6は、測定毎に所定の組み合わせのセンサを選択するように選択部4を制御する。センサを選択する組み合わせについては、制御部6に予め設定されている。組み合わせパターンは、例えば、測定回数Lを2回として、時刻tで検出回路pにセンサSからの検出値が入力され、検出回路pにセンサSからの検出値が入力され、その後の時刻tで、検出回路pにセンサSからの検出値が入力され、検出回路pにセンサSからの検出値が入力されるものとする。
【0019】
測定は、所定の時間間隔または所定のタイミングで行われる。具体的には、制御部6は、選択部4と検出部(取得部)5とを制御することによりL回の測定を所定の時間間隔または所定のタイミングで行う。すなわち、制御部6は、各測定が予め設定された測定間隔で実行されるように制御する。測定間隔は予め設定されており、短く設定することによって、真値が変化してしまうことを抑制することが期待できる。具体的には、L回の検出を想定する環境変化よりも早くすべての測定を終了させることが好ましい。例えば、指が近づくことでセンサのカウント値が0から100に変化するとし、また最速1秒でカウント値が0から100に変化すると仮定する。そのセンサでL回の測定を1秒の間に行った場合、L回の測定が実行されるまでの間に0から100カウントへの変化が生じてしまう。しかし、L回の測定を0.01秒の間に行うことが可能であれば、L回の測定が実行されるまでの間の変化を1カウント分に減らすことができる。このように、所定回数の測定はできる限り短期間に完了することが望ましい。
【0020】
検出部(取得部)5は、測定毎に、M個のセンサ端子の各々に出力された検出値を取得する。具体的には、検出部5は、測定回数Lと同数の、M行N列の行列であるスキャン行列Z(0≦i≦L)を持ち、i回目の検出において、Zに基づき選択されたセンサの測定値を検出値として取得する。検出部5は、各センサ端子のそれぞれに接続されたM個の検出回路を有しており、i回目の検出において検出回路jがセンサkに接続されている場合、行列Zのj行k列に1が、センサkに接続されていない場合、行列Zのj行k列には0が格納されている。本実施形態では、検出部5は検出回路pと検出回路pとを備え(M=2)、二回のスキャン(L=2)により3つのセンサS、S、S(N=3)の物理量を計測するため、2行3列の行列Z、Zを持つ。理想的には、各センサの真値(ノイズ成分を含まない値)が検出回路p、pへ入力されるが、実際に検出回路p、pで検出される値にはノイズ成分(時間依存ノイズ成分)が含まれている。
【0021】
具体的には、時刻tの測定において、検出回路pへ入力される検出値Vp1(t)に発現するノイズをNp1(t)とし、検出回路pへ入力される検出値Vp2(t)に発現するノイズをNp2(t)とした場合、検出回路pと検出回路pのそれぞれに共通して発現する時間依存のノイズ成分をN(t)とすると、Np1(t)=N(t)となり、Np2(t)=N(t)との関係となる。すなわち、同じタイミングでの測定では、各検出回路p、pへ入力されるノイズ成分は等しくなる。各センサは、互いに近接しているため、検出回路pと検出回路pにそれぞれ個別に発現するノイズについてはノイズ成分N(t)と比較して十分小さいと近似して省略する。
【0022】
一方で、ノイズ成分は時間依存性を有しているため、測定されるタイミングが異なると、例えば時刻tでは、ノイズ成分はN(t)となりN(t)から変化する。
【0023】
本実施形態では、時刻tにおいて1回目の計測が行われ、スキャン行列Zを参照した選択部4により、時刻tで検出回路pにセンサSからの検出値が入力され、検出回路pにセンサSからの検出値が入力される。そして、その後の時刻tで、検出回路pにセンサSからの検出値が入力され、検出回路pにセンサSからの検出値が入力される。このため、時刻tにおける検出回路pへの検出値であるVp1(t)は以下の式(1)となり、時刻tにおける検出回路pへの検出値であるVp2(t)は以下の式(2)となる。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、VS0はセンサSの検出値の真値であり、VS2はセンサSの検出値の真値である。真値とは、ノイズ成分を含まず、理想的なセンサの検出値である。
【0026】
時刻tおいても同様に、スキャン行列Zを参照した選択部4により、時刻tにおける検出回路pへの検出値であるVp1(t)は以下の式(3)となり、時刻tにおける検出回路pへの検出値であるVp2(t)は以下の式(4)となる。
【0027】
【数2】
【0028】
ここで、VS1はセンサSの検出値の真値である。このように、各検出回路p、pでは、測定ごとのセンサの組み合わせに応じて検出値が入力される。測定回数分の測定が実行されると、検出された各情報は、後述する補正部8へ出力される。
【0029】
補正部8は、L回の測定が行われた後に、検出部(取得部)5により取得されたM×L個の検出値の各々に時間依存ノイズ成分が含まれると仮定する。そして、補正部8は、検出値の各々の時間依存ノイズ成分が、L個の時間依存ノイズ成分を時間軸方向に平均化した値である共通ノイズ成分となるように、M×L個の検出値の各々を補正する。このように、共通ノイズ成分は、各検出値に含まれる時間依存ノイズ成分の平均値である。具体的には、補正部8は、複数回の測定により検出された各検出値を用い、各検出値にはそれぞれの測定時における時間依存ノイズ成分が含まれると仮定して、真値に対して所定数の時間依存ノイズ成分の平均値が加算された補正値(補正された検出値)を算出する。
【0030】
具体的な処理としては、補正部8は、各検出値を列ベクトルVin={Vp1(t)、Vp2(t)、Vp1(t)、Vp2(t)}として、変換行列であるMdecodeをかけてノイズ成分に関する補正を行う。列ベクトルVinは、測定の回数であるLと、1回の測定において得られる検出値の数(すなわち、検出回路の数であるM)とに基づくと、L×M次元列ベクトル(L×M個の要素を縦方向に並べた行列)で表される。本実施形態では、2×2=4の次元を持つ列ベクトルとなる。変換行列は、4次元の列ベクトルを同じ4次元の列ベクトルへと変換するため、以下の式(5)のような4×4の行列となる。
【0031】
【数3】
【0032】
式(5)の変換行列は、本実施形態の列ベクトルに対応した一例を示すものである。式(5)の導出については後述する。このように、4行の列ベクトルVinを4行4列の行列Mdecodeによって4行の列ベクトルV´inへと補正する。V´in={V´p1(t)、V´p2(t)、V´p1(t)、V´p2(t)}とすると、以下の式(6)のように補正が行われる。
【0033】
【数4】
【0034】
式(6)のようにMdecodeによって列ベクトルVinを変換することによって、補正後の列ベクトルV´inにおける各要素は、各センサに対応した真値に、オフセットノイズとして時間依存ノイズの平均値が加算された値として補正される。すなわち、各検出値には、同じ値の共通ノイズ成分が加算される。言い換えれば、補正部8は、L個の時間依存ノイズ成分の平均値を算出することにより共通ノイズ成分を得る。補正部8は、M×L行M×L列の補正行列Mdecodeを用いて真の値に対して共通ノイズ成分が加算された値となるように、M×L個の検出値の各々を補正すると言える。補正された各検出値は、後述する出力変換部7へ出力される。
【0035】
出力変換部7は、補正部8により補正されたM×L個の検出値に基づいて、N個のセンサの各々に対応する検出結果を算出する。すなわち、出力変換部7は、補正された検出値を用いて、センサS、S、Sのそれぞれに対応する検出結果を算出する。具体的には、式(6)により得られた列ベクトルV´inを各センサに対応する値として変換する。例えば、センサS、S、Sのそれぞれに対応する検出結果を{V´S0、V´S1、V´S2とすると、以下の式(7)のように、変換行列であるMoutを用いて変換が行われる。
【0036】
【数5】
【0037】
すなわち、出力変換部7は、補正されたM×L個の検出値に対し、N行M×L列の復調行列Moutを用いることにより、N個のセンサの各々に対応する検出結果を出力する。Moutについては、各行列要素の値が最終的なオフセットノイズの大きさに影響を及ぼす。例えば行方向の和が、各行で異なると、不均等となってしまう。このため、Moutにおいては、行方向の和が、各行で等しくなるように設定されることが好ましい。行方向の和は、小さいほどオフセット量の大きさを小さくすることができる。各行方向の和が零となりノイズをキャンセルする方法については、第2実施形態で説明する。
【0038】
このようにして、各センサS、S、Sに対応する検出結果として、V´S0、V´S1、V´S2を得る。これらの検出結果は、各センサS、S、Sにおける測定の真値に、ノイズ成分の平均値が共通ノイズ成分として加算された値となっているため、各真値に対するノイズ成分は一様化され、時間依存ノイズ成分の影響のばらつきが抑制される。
【0039】
本実施形態では、補正部8においてMdecodeによる処理を行い、出力変換部7においてMoutによる処理を行うこととしているが、処理を分けず、変換行列をMout・Mdecodeとして1つの行列にまとめ、同時に算出処理を行うこととしてもよい。
【0040】
本実施形態では、オフセットノイズの均等化において各時間依存ノイズの平均値とする場合について説明しているが、各時間依存ノイズを統計的に処理することによって算出された共通ノイズ成分であれば、平均値に限定されない。しかしながら、各時間依存ノイズの大小関係による影響を効果的に抑制するためには、平均値を用いることが好ましい。
【0041】
(測定装置1のハードウェア構成図)
図2は、本実施形態に係る測定装置1のハードウェア構成の一例を示した図である。
図2に示すように、測定装置1は、プロセッサ(計算機システム)を備えている。測定装置1は、例えば、CPU11と、CPU11が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)12と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)13と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)14と、ネットワーク等に接続するための通信部15とを備えている。大容量記憶装置としては、ソリッドステートドライブ(SSD)を用いることとしてもよい。これら各部は、バス18を介して接続されている。
【0042】
測定装置1は、キーボードやマウス等からなる入力部や、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部などを備えていてもよい。
【0043】
CPU11が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM12に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0044】
(測定装置1による処理の流れ)
次に、上記の測定装置1による処理の一例について図3を参照して説明する。図3は、本実施形態に係る測定装置1の処理の手順の一例を示すフローチャートである。図3に示すフローは、例えば、測定を開始する場合に実行される。図3に示されるフローが所定の時間間隔で繰り返し実行されることにより、測定が継続的に行われる。
以下に示す一連の処理は、例えば、プログラムの形式でハードディスクドライブ14(図2参照)等に記録されており、このプログラムをCPU11がRAM13等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。プログラムは、ROM12やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0045】
まず、選択部4は、Ln回目の測定回数に対応する組み合わせのセンサを選択する(S101)。Lnは初期値が1であり、S101が初めて実行される場合には、Ln=1の組み合わせが採用される。
【0046】
次に、検出部5は、選択された各センサから検出値を検出する(S102)。
【0047】
次に、測定の回数が所定値に達したか否かが判定される(S103)。本実施形態では、所定値は2に設定されている。S103の判定処理については、例えば制御部6で行われる。
【0048】
測定の回数が所定値に達していない場合(S103のNO判定)には、Ln→Ln+1として、測定回数が1増加され(S104)、S101が再度実行される。S104の判定処理については、例えば制御部6で行われる。
【0049】
測定の回数が所定値に達した場合(S103のYES判定)には、補正部8は、それぞれの測定において検出された各検出値においてノイズ成分を均等化する補正を行う(S105)。S105は具体的には式(6)により変換を行う。
【0050】
次に、出力変換部7は、補正が行われた各検出値に基づいて、出力変換を行い、センサのそれぞれに対応する検出結果を算出する(S106)。S106は具体的には式(7)により変換を行う。
【0051】
このようにして、測定装置1における処理が実行され、ノイズのオフセットが均等化される。
【0052】
(オフセットノイズの均等化による効果)
次に、上記のような処理によるオフセットノイズの均等化の効果について説明する。
上記の列ベクトルVinを行列により表現すると、変換行列であるMscanと列ベクトルであるVidealとの積として以下の式(8)のように表される。
【0053】
【数6】
【0054】
このため、式(6)は、以下の式(9)のように表される。
【0055】
【数7】
【0056】
式(9)(他にも例えば式(7))から明らかなように、全てのノイズが1/2となって、真値に加算されている。すなわち、オフセットノイズがN(t)とN(t)の平均値とされており、均等化されている。
【0057】
例えば、VS0が100であり、VS1が40であり、VS2が10であるとする。これは、センサSに指が最も近接している場合の検出結果の例である。そして、N(t)が100であり、N(t)が-20であるとする。このような状況において、上記のようなノイズの均等化を行わない場合には、VS0+N(t)=100+100=200であり、VS1+N(t)=40-20=20であり、VS2+N(t)=10+100=110となる。すなわち、本来はセンサSに指が最も近接している状況にも関わらず、ノイズの影響によって、センサSとセンサSの近辺にそれぞれ指が存在していると誤検出される可能性がある。
【0058】
同状況において、例えば、ノイズをN(t)とN(t)のいずれか1方に合わせるようにした場合(N(t)に合わせる場合とする)には、VS0+N(t)=100+100=200であり、VS1+N(t)=40+100=140であり、VS2+N(t)=10+100=110となる。すなわち、N(t)が大きい場合には、大きなオフセットがかかり、真値がノイズに埋もれる可能性がある。
【0059】
しかしながら、本実施形態では、検出値に含まれるオフセットノイズを異なる測定時に得られた複数のノイズ成分の平均値としている。すなわち、各測定値に含まれるオフセットノイズは、(N(t)+N(t))/2=40となり、オフセットノイズの絶対値を小さくすることができる。
【0060】
一般的に、ノイズのようにランダムに変化する数値は正規分布に例えられることが多い。正規分布の特性として、平均0、分散σの正規分布に従う標本をK個抽出して足し合わせたものは、平均0、分散K×σの正規分布となることが知られている。同様に、平均0、分散σの正規分布に従う標本を1/K倍したものは、平均0、分散(σ/K)の正規分布となることが知られている。そのため、ノイズ成分N(t)が平均0、分散σの正規分布に従うと仮定すると、1/K倍したノイズ成分をK回合計した場合、その数値は平均0、分散(σ)/Kの正規分布に従うと考えられる。すなわち、オフセットの分散が1/K倍に減少する。
【0061】
これらより、本実施形態では、ノイズの影響を効果的に低減することができ、測定精度を向上させることが可能となるといえる。
【0062】
(スキャン行列Zと変換行列Mdecodeの説明)
次に、本開示の効能であるオフセットノイズの均等化を可能にするスキャン行列Zと変換行列であるMdecodeについて説明する。
【0063】
(Zの条件)
本開示を構成するセンサ回路の任意のスキャン行列ZおよびZ(0≦i<j<L)は、以下の条件aまたは条件bを満たす。
【0064】
<条件a>
のp行目成分とZのq行目成分が同一であるようなp、qが存在する(0≦p、q<M)
【0065】
<条件b>
のp行目成分とZk0のq行目成分が同一であるようなp、q、kが存在し(0≦p、q<M、0≦k<L)、
k0のp行目成分とZk1のq行目成分が同一であるようなp、q、k、kが存在し(0≦p1、<M、0≦k、k<L)、
k1のp行目成分とZk2のq行目成分が同一であるようなp、q、k、kが存在し(0≦p、q<M、0≦k、k<L)、
...
kx-1のpx-1行目成分とZkxのqx-1行目成分が同一であるようなpx-1、qx-1、kx-1、kが存在し(0≦px-1、qx-1<M、0≦kx-1、k<L)、
kxのp行目成分とZのq行目成分が同一であるようなp、q、kが存在する(0≦p、q<M、0≦k、j<L、0<x<L-1)。
【0066】
例えば、図4の上段に示すようなZからZのそれぞれは、ZおよびZについて条件aまたは条件bを満たす。具体的には、i=1、j=2の場合には、条件aが満たされる。すなわち、上段のZおよびZにおけるR1のように、Zの1行目とZの1行目が一致する。i=1、j=4の場合には、条件aが満たされない(上段のZおよびZの行はすべて異なる)が、条件bを満たす。すなわち、上段のZおよびZにおけるR2のように、Zの2行目とZの2行目が一致し、かつ、上段のZおよびZにおけるR3のように、Zの1行目とZの1行目が一致する。上段のZおよびZにおけるR4のように、Zの2行目とZの2行目が一致する。
【0067】
一方で、図4の下段に示すようなスキャン行列ZからZのそれぞれは、条件を満たさないi,jが存在するため、本開示を構成するセンサ回路の任意のスキャン行列として利用できない。図4の下段では、それぞれ対応する行をR5からR8として示している。
【0068】
上記のようなスキャン行列Zを用意すれば下記の命題M1が成立する。
【0069】
<命題M1>
スキャン行列Zが条件aまたは条件bを満たす場合には、任意のi、jにおいて、以下の式(10)を満たすD(i、j)が必ず存在する。
【0070】
【数8】
【0071】
<命題M1の証明>
D(j、i)=-D(i、j)より、i<jの場合に命題M1が成立するとき、i>jの場合も命題は成立する。よって、以降は(i<j)の場合のみを証明する。まず条件aを満たす場合を証明する。
あるi、j(i<j)が条件aを満たすとき、条件aの定義より、時刻tにおける検出回路pと時刻tにおける検出回路qは同じスキャン設定となるため、検出値であるV(t)とV(t)はノイズ成分を除いて一致する。そのため、D(i、j)をV(t)に相当するp+M*i列に1が、V(t)に相当するq+M*j列に-1が、それ以外には0が入った行ベクトルとすると、D(j、j)Vinの値はV(t)からV(t)を引いた値となり、式(11)が成立する。
【0072】
【数9】
【0073】
よって、i、jが条件aを満たすとき命題M1が真となる。
【0074】
続けて条件bを満たす場合を証明する。あるi、jが条件bを満たすとき、定義より以下の式(12)が成立する。
【0075】
【数10】
【0076】
式(12)の左辺と右辺をそれぞれ足し合わせると、以下の式(13)となる。
【0077】
【数11】
【0078】
よってD(i、j)をVinにかけると式(13)の左辺となるようにすることができれば、命題M1が示せる。即ち、D(i、j)をVp0(t)に相当するp+M*i列に1が、Vp(u+1)(tku)に相当するp(u+1)+M*k列に1が、Vqu(tku)に相当するq+M*k列に-1が、Vqx(t)に相当するq+M*j列に-1が、それ以外には0が入った行ベクトルとすると、D(j、j)Vinの値は式(13)の左辺となり、結果以下の式(14)が成立する。
【0079】
【数12】
【0080】
これによって、条件bについての命題M1が成立する。
【0081】
以上より、スキャン行列が条件aまたは条件bを満たすとき、Vinからi回目とj回目とノイズの差分N(t)-N(t)を抽出するような行列D(i、j)が必ず存在することが証明できた。
【0082】
(Mdecodeの条件)
本特許を構成するセンサ回路のM*L行M*L列の行列Mdecodeは、以下の条件cを満たすように作成される。
【0083】
<条件c>
M*L行M*L列の行列Mdecodeを下記の式(15)ようにM*L個の行ベクトル(長さM*L)に分解し、そのp+M*i番目の行ベクトルをH(p、i)としたとき、H(p、i)はD(i、k)を用いて以下の式(16)ように表すことができる。
【0084】
【数13】
【0085】
ここで、One(p、i)はp+M*i番目の列にのみ1が、それ以外の列には0が入った行ベクトルを指す。
【0086】
<命題M2>
時刻tにおける検出回路pの真値(理想検出値)をW(p、t)(ノイズの無いセンサ物理量のみ検出した値)とする。Mdecodeが条件cを満たすとき、式(17)のように、入力VinにMdecodeをかけて得られる補正入力V´inの各要素は、真値W(p、t)とL回の計測ノイズ全ての平均値の和の形となる。
【0087】
【数14】
【0088】
<命題M2の証明>
任意のp、iで以下の式(18)が真であることを証明できれば、命題M2も真であるため、Mdecodeが条件cを満たすとき、任意のp、iで下記が成立することを証明する。
【0089】
【数15】
【0090】
条件cより、H(p、i)はOne(p、i)ベクトルとD(i、k)ベクトルの和に置き換えられるため、下記の式(19)が成立する。
【0091】
【数16】
【0092】
One(p、i)の定義(p+L*i列に1が、それ以外には0が入ったベクトル)より、One(p、i)とVinの積はp+L*i番目要素のみを抜き出すため、以下の式(20)となる。
【0093】
【数17】
【0094】
D(i、k)の定義である以下の式(21)により、式(22)となる。
【0095】
【数18】
【0096】
よって、以下の式(23)を得る。
【0097】
【数19】
【0098】
N(t)をまとめると、以下の式(24)及び式(25)を得る。
【0099】
【数20】
【0100】
式変形により証明すべき式が得られたため、命題M2は正である。よって、Mdecodeが条件cを満たすとき、入力VinにMdecodeをかけることで得られる補正入力V´inは、入力Vinの真値はそのままに、ノイズのみ補正(全L回のノイズの平均値)されたものとなることが証明できる。
【0101】
命題M1および命題M2の証明により、条件aまたはbを満たすスキャン行列Zと条件cを満たす補正行列Mdecodeを用意することで、入力Vinのノイズ成分のみ、全て同じ値(全てのノイズの平均値)に補正した補正入力V´inが得られることが示せた。
【0102】
次にMdecodeの具体例を説明する。本実施形態のようにL=2とした場合には、i=t、j=tにおいて条件aを満たす必要がある。具体的には、Zt0のp行目成分とZt1のq行目成分が同一であるようなp、qが存在する(0≦p、q<2)ことが条件aとなる。一方の検出回路(例えばpとする)はいずれの時刻でも同じセンサSを検出するものとすると、Zt0のp成分(1行目)とZt1のp成分(1行目)が同一として、条件aが満たされる。
【0103】
このような場合では、時刻tの検出回路pの検出値であるVp1(t)と時刻tの検出回路pの検出値であるVp1(t)はノイズ以外同じである。このため、D(t、t)は以下の式(26)のようにVp1(t)からVp1(t)を引き算することで得られる。D(t、t)=-D(t、t)である。
【0104】
【数21】
【0105】
ここで、時刻tに検出した値Vp0(t)はVp0(t)=VS0+N(t)のようにノイズ成分N(t)が存在するが、ノイズ成分N(t)のみ、2つのノイズの平均値((N(t)+N(t))/2)に置き換えるためには、以下の式(27)を該Vp0(t)へ足し合わせればよい。
【0106】
【数22】
【0107】
足し合わせた結果は、以下の式(28)となる。
【0108】
【数23】
【0109】
すなわち、以下の式(29)のような行ベクトルTp0、t0を用いれば、Vp0(t)のノイズ成分のみ置き換えた値としてV´p0(t)が得られる。
【0110】
【数24】
【0111】
同様の処理をVp1(t)、Vp0(t)、Vp1(t)でも行い、それぞれについて得られた行ベクトルTp、tを行方向に並べることで4×4のMdecodeを得ることができる。前述の説明は検出回路をpとpとした場合の説明であるが、本実施形態のように検出回路をpとpとした場合には同様にMdecodeを導出することができ、具体的には式(5)として表され、式(6)のように計算が行われる。
【0112】
本実施形態では、N=3、M=2、L=2の場合を説明したが、これに限定されるものではない。ただし、N<M×Lとすることが好ましい。例えば、図5に示すようにN=9、M=3として、L=4とした場合には、同様に処理をして、4つの各時間依存ノイズ成分の平均値としてオフセットが均等化される。
【0113】
以上説明したように、本実施形態に係る測定装置及びその測定方法並びに測定プログラムによれば、検出値に時間依存ノイズ成分が含まれる場合であっても、測定ごとの各検出値を用い、各検出値に含まれる時間依存ノイズ成分がそれぞれ異なる測定時に取得された複数の検出値を統計的に処理することにより得られた共通ノイズ成分(平均値)となるように各検出値を補正することによって、各検出値のノイズ成分を均等化することがきる。このため、ノイズ成分による真値への影響のばらつきを抑制することができ、測定の精度を向上させることができる。
【0114】
共通ノイズ成分が平均値であることで、各時間依存ノイズ成分の値に大きなばらつきがある場合であっても、効果的にノイズ成分の影響を低減化することができる。例えば、時間依存ノイズを、ある基準となる測定時の測定値に含まれる時間依存ノイズに揃える場合では、基準とする時間依存ノイズが大きいと一様化しても真値がノイズに埋もれてしまう可能性があるが、共通ノイズ成分を平均値とすれば、真値がノイズに埋もれる可能性を抑制することができる。
【0115】
測定時には前回の測定時とは異なるセンサを組み合わせて選択するため、測定毎に組み合わせを変えて効率的に測定を行うことができる。各測定の組み合わせが予め設定されることによって、適切な変換行列を用いて変換を行うことができる。
【0116】
測定が所定の時間間隔や所定のタイミングで行われることで、適切に各測定を実行することができる。例えば時間間隔を短くすることによって、真値が変化することを抑えることができ、測定精度を向上させることが可能となる。
【0117】
補正された検出値を用いて、センサのそれぞれに対応する検出結果を算出することで、各センサに対応する検出結果を得ることができる。
【0118】
静電容量センサを用いることによって、ノイズ成分を抑えて、より正確に指等の測定対象物の位置を把握することができる。
【0119】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る測定装置及びその測定方法並びに測定プログラムについて説明する。
本実施形態では、出力変換部7において均等化されたオフセットノイズをキャンセルする場合について説明する。以下、本実施形態に係る測定装置及びその測定方法並びに測定プログラムについて、第1実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0120】
図6は、本実施形態における測定装置1のシステム構成を示す図である。本実施形態ではSからSのセンサからなる計4つのセンサを備えるものとし、更に、選択部4は合成値算出部9を備えている。選択部4(合成値算出部9)は、選択したセンサの測定値に基づいて合成出力値を算出し、検出値として出力する。合成値算出部9は、例えば、反転増幅回路と加算回路とを備えている。合成値算出部9には、1倍以外の倍率で増幅する増幅回路等を設けることとしても良い。選択部4は、スイッチにより接続状態を制御しており、合成値算出部9では、選択された各センサの検出値を、加算及び/又は減算して合成出力値を生成している。このように合成出力値が算出される場合には、補正部8は、各合成出力値(検出値)を補正する。
【0121】
そして、本実施形態における出力変換部7は、補正されたM×L個の検出値の各々に均等に含まれる共通ノイズ成分を相殺することにより、N個のセンサの各々に対応する検出結果を出力する。すなわち、出力変換部7は、補正後において、各検出値(各合成出力値)に均等に含まれるオフセットノイズ(共通ノイズ成分)を相殺し、オフセットノイズが相殺された後の各検出値を用いて、センサのそれぞれに対応する検出結果を出力する。例えば、測定回数を5回として、時刻tからtのそれぞれで測定を行うものとする。合成出力値をWからWとすると、5回の測定により得た各合成出力値の列ベクトルは、以下の式(30)のようになる。
【0122】
【数25】
【0123】
式(30)のような列ベクトルに対しては、式(6)等と同様にノイズの均等化を行うと、以下の式(31)のような計算となる。
【0124】
【数26】
【0125】
このように、合成出力値に対しても、ノイズ成分を平均値として各合成出力値の間で均等化される。しかし、この段階では、各合成出力値は各センサの検出値を合成したものであるため、各センサに対応した検出結果を表すものではない。このため、出力変換部7において変換を行う。例えば、各合成出力値を、各センサの検出値を用いて以下の式(32)のように定義するとする。式(32)の合成出力値では、2つのセンサの値を足し合わせたもの(W=VS0+VS1、W=VS2+VS3)を基準として、一方を引き算したもの(W=VS0-VS1、W=VS2-VS3、W4=-VS0+VS1、W=-VS2+VS3)の組み合わせを用意しておく。
【0126】
【数27】
【0127】
式(32)に基づくと、合成出力値から各センサの検出値を復元するためのMout(復元行列)を導出することができる。その際、Moutにおいて行方向の行列要素の合計(等しい行に含まれる各列要素の和)が零となるように、復元行列を設定する。具体的には、復元行列を用いて、以下の式(33)のように復元がされる。
【0128】
【数28】
【0129】
すなわち、式(32)のように各合成出力値を用意しておくことで、式(33)のように、2つの合成出力値の引き算の結果を半分としたものが、あるセンサの検出値を示すこととなる。
【0130】
ここで、各合成出力値には、式(31)に示すように、均等化されたノイズ成分(平均値)がそれぞれ含まれている。このため、式(31)の均等化された合計出力値を用いて式(33)を計算すると、式(33)のようにある合成出力値からある合成出力値を減算した場合には均等化されたノイズ成分はキャンセルされる。このため、式(33)によって算出されたVS0-VS3のそれぞれは、理想的に各センサの検出値の真値となる。すなわち、オフセットノイズの絶対値が零となる。ここでは、出力変換部7は、任意の行に含まれる各行列要素を列方向に足した和が零となるような復調行列Moutを用いていると言える。
【0131】
本実施形態は、第1実施形態と組み合わせる場合に限定されない。具体的には、本実施形態の出力変換部7は、各合成出力値に含まれる時間依存ノイズ成分が均等化されるように、各合成出力値が補正されている場合(すなわちオフセットノイズが共通可されている場合)には、広く適用することができる。各合成出力値に含まれる時間依存ノイズ成分が均等化されている場合に、出力変換部7は、各合成出力値に均等に含まれる時間依存ノイズ成分を相殺し、時間依存ノイズ成分が相殺された後の各合成出力値を用いて、センサのそれぞれに対応する検出結果を出力することができる。
【0132】
以上説明したように、本実施形態に係る測定装置及びその測定方法並びに測定プログラムによれば、各合成出力値に含まれる時間依存ノイズ成分が均等化されている場合に、各合成出力値に均等に含まれる時間依存ノイズ成分が相殺されるため、ノイズ成分を効果的に抑制して、各センサの検出結果(例えば真値)を得ることができる。すなわち、測定精度を効果的に向上させることが可能となる。
【0133】
選択されたセンサの検出値に基づいて合成出力値を算出し、各合成出力値を補正することによって、複数のセンサの検出値を合成する場合にも対応することができる。例えば、複雑な回路構成にも対応することができる。
【0134】
本開示は、上記の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0135】
上記実施形態では、共通ノイズ成分を平均値とする場合について説明したが、それぞれ異なる測定時に取得された複数の検出値を統計的に処理することにより得られた値であれば、他の統計量(例えば中央値等)を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0136】
1 :測定装置
2 :センサ部
3 :回路部
4 :選択部
5 :検出部(取得部)
6 :制御部
7 :出力変換部
8 :補正部
9 :合成値算出部
11 :CPU
12 :ROM
13 :RAM
14 :ハードディスクドライブ
15 :通信部
18 :バス
:センサ
:センサ
:センサ
:センサ
:検出回路
:検出回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6