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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】塗布装置及び塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/04 20060101AFI20231010BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20231010BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20231010BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
B05C1/04
B05C11/10
B05D1/28
B05D3/00 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022548670
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008371
(87)【国際公開番号】W WO2022185467
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】信田 直美
(72)【発明者】
【氏名】内藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-174992(JP,A)
【文献】特開2016-155113(JP,A)
【文献】特開2016-155114(JP,A)
【文献】特開2016-175033(JP,A)
【文献】特開2002-133652(JP,A)
【文献】特開2002-144722(JP,A)
【文献】特表2009-528913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00- 3/20
7/00-21/00
B05D1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布部材と対向可能な塗布バーと、
前記塗布バーに向けて液を供給することが可能な複数のノズルと、
を備え、
前記複数のノズルの数は、3以上であり、
前記塗布バーの表面の少なくとも一部の算術平均粗さRaは、0.5μm以上10μm以下であ
前記塗布バーは、ステンレススチール、チタン及びアルミニウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含み
前記表面は、ステンレススチール、チタン及びアルミニウムよりなる群から選択された前記少なくとも1つの酸化物を含み、
前記表面の水に対する接触角は、50度以下である、塗布装置。
【請求項2】
前記表面の前記少なくとも一部は、凹凸を含み、
前記凹凸の最大高さRzは、5μm以上50μm以下である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
前記被塗布部材と前記塗布バーとの間に前記液のメニスカスが形成可能である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項4】
前記複数のノズルは、前記塗布バーと接する、請求項1記載の塗布装置。
【請求項5】
前記複数のノズルの少なくとも一部の位置は、前記塗布バーよりも高い、請求項1記載の塗布装置。
【請求項6】
前記被塗布部材を保持し、前記被塗布部材を前記塗布バーに対して相対的に移動させることが可能な被塗布部材保持部をさらに備え、
前記被塗布部材保持部は、前記被塗布部材を重力の向きと逆の成分を含む向きに搬送可能である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項7】
前記被塗布部材を保持し、前記被塗布部材を前記塗布バーに対して相対的に移動させることが可能な被塗布部材保持部をさらに備え、
前記被塗布部材保持部は、前記被塗布部材を重力の向きと交差する第1方向に沿って搬送可能である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項8】
前記被塗布部材は、ロール状フィルムを含み、
前記被塗布部材保持部は、
前記ロール状フィルムの第1部分を保持する第1保持機構と、
前記ロール状フィルムの第2部分を保持する第2保持機構と、
を含む、請求項記載の塗布装置。
【請求項9】
前記複数のノズルに前記液を供給する供給部をさらに備えた請求項記載の塗布装置。
【請求項10】
前記供給部は、複数のポンプを含み、
前記複数のノズルの数は、前記複数のポンプの数の整数倍である、請求項記載の塗布装置。
【請求項11】
前記数は、12以上である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項12】
前記複数のノズルの並ぶ第1方向と交差する平面における前記塗布バーの少なくとも一部の断面は、円形である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項13】
前記表面は、第1領域、第2領域及び第3領域を含み、
前記複数のノズルの並ぶ第1方向において、前記第1領域は、前記第2領域と前記第3領域との間にあり、
前記第1領域における算術平均粗さRaは、0.5μm以上10μm以下であり、
前記第2領域及び前記第3領域における算術平均粗さRaは、0.5μm未満または10μmを超える、請求項1記載の塗布装置。
【請求項14】
前記複数のノズルと前記塗布バーとの間の相対的な位置を制御可能な位置制御部をさらに備えた、請求項1記載の塗布装置。
【請求項15】
前記位置制御部は、
前記塗布バーを保持する第1保持部と、
前記複数のノズルを保持する第2保持部と、
を含み、
前記第1保持部及び前記第2保持部の少なくともいずれかは、前記塗布バーから前記複数のノズルへの向き、及び、前記複数のノズルから前記塗布バーへの向きの少なくともいずれかを有する応力を、前記塗布バー及び前記複数のノズルの少なくともいずれかに、加えることが可能である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項16】
前記複数のノズルの間隔が可変である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項17】
請求項1記載の塗布装置により前記被塗布部材に前記液を塗布する塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、塗布装置及び塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布バーを用いて液を塗布する塗布装置がある。均一な塗布膜を形成できる塗布装置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-174992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、均一な塗布膜を形成できる塗布装置及び塗布方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、塗布装置は、被塗布部材と対向可能な塗布バーと、前記塗布バーに向けて液を供給することが可能な複数のノズルと、を含む。前記複数のノズルの数は、3以上である。前記塗布バーの表面の少なくとも一部の算術平均粗さRaは、0.5μm以上10μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1(a)及び図1(b)は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式図である。
図2図2は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式的側面図である。
図3図3(a)及び図3(b)は、塗布装置の特性を例示するグラフ図である。
図4図4は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式図である。
図5図5は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1(a)及び図1(b)は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式図である。 図1(a)は上面図である。図1(b)は、側面図である。図1(b)においては、図を見やすくするために、一部の要素が省略されている。
図2は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式的側面図である。
【0009】
図1(a)に示すように、実施形態に係る塗布装置110は、塗布バー10、及び、複数のノズル21を含む。複数のノズル21は、ノズル部20に含まれて良い。
【0010】
図2に示すように、塗布バー10は、被塗布部材80と対向可能である。
【0011】
図1(a)及び図2に示すように、複数のノズル21は、塗布バー10と対向可能である。図2に示すように、複数のノズル21は、塗布バー10に向けて液84を供給することが可能である。
【0012】
図1(a)に示すように、複数のノズル21は、第1方向に沿って並ぶ。第1方向は、例えば、Y軸方向である。Y軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Y軸方向及びX軸方向に対して垂直な方向をZ軸方向とする。塗布バー10は、例えば、Y軸方向に沿って延びる。
【0013】
図2に示すように、被塗布部材80と塗布バー10との間に液84のメニスカス84Mが形成可能である。メニスカス84Mが被塗布部材80と接することで、被塗布部材80に、液84による塗布膜85が形成される。塗布膜85を固体化(例えば乾燥)させることで、目的とする膜(固体膜)が得られる。例えば、被塗布部材80を移動方向88に沿って移動させることで、被塗布部材80に大きな面積の塗布膜85を形成可能である。
【0014】
実施形態においては、複数のノズル21の数は、3以上である。これにより、大きな面積の塗布膜85を、安定して形成できる。図1(a)の例では、複数のノズル21の数は、6である。実施形態において、数は、3以上の任意の整数で良い。
【0015】
実施形態において、塗布バー10の表面10Fに凹凸が設けられる。凹凸は、例えば、サンドブラストなどの手法により形成できる。凹凸の形成条件などを制御することで、凹凸の算術平均粗さRaを制御できる。凹凸の形成条件などを制御することで、凹凸の最大高さRzを制御できる。サンドブラストなどの手法を用いる場合、凹凸の形成条件は、例えば、用いられる粒子の大きさ(例えば平均径)、粒子の種類、及び、処理時間の少なくともいずれかを含む。
【0016】
実施形態において、塗布バー10の表面10Fの算術平均粗さRaは、例えば、0.5μm以上10μm以下である。これにより、形成される塗布膜85の厚さむらが低減できることが分かった。例えば、塗布バー10の表面10Fに適切な粗さの凹凸が設けられることで、表面10Fの濡れ性が向上する。このことが、均一な厚さの塗布膜85が得易くなる原因であると考えられる。
【0017】
図3(a)及び図3(b)は、塗布装置の特性を例示するグラフ図である。
図3(a)の横軸は、塗布バー10の表面10Fの算術平均粗さRaである。図3(b)の横軸は、塗布バー10の表面10Fの凹凸の最大高さRzである。これらの図の縦軸は、塗布膜85により得られた固体の膜の厚さむらDzである。厚さむらDzは、相対標準偏差(%)である。
【0018】
図3(a)に示すように、算術平均粗さRaが約3μm以上約8μm以下の範囲において、小さい厚さむらDzが得られる。実用的には、算術平均粗さRaが0.5μm以上10μm以下のときに、小さい厚さむらDzが得られる。算術平均粗さRaが0.5μm未満の場合、厚さむらDzが大きい。算術平均粗さRaが10μmよりも大きいと、塗布バー10が汚れ易くなる。算術平均粗さRaが10μmよりも大きいと、塗布バー10の洗浄が困難になる。算術平均粗さRaは、例えば、好ましくは、2μm以上6μm以下である。
【0019】
0.5μm以上10μm以下の算術平均粗さRaの凹凸が設けられることで、塗布バー10の表面10Fにおいて、良好な濡れ性が得られると考えられる。これにより、厚さむらDzが小さくできると考えられる。
【0020】
複数のノズル21の数が2の場合、2つのノズル21の先端は、1つの直線上にある。この直線は、例えば、塗布バー10の延びる方向に沿っている。2つのノズル21のそれぞれと、塗布バー10と、の間の相対的な位置は、均一にしやすい。このため、塗布バー10の表面10Fの凹凸の程度(例えば算術平均粗さRa)の適切な範囲は、比較的広い。
【0021】
一方、既に説明したように、実施形態において、複数のノズル21の数は3以上である。これにより、広い面積の塗布膜85が得られる。複数のノズル21の数が3以上である場合、複数のノズル21のそれぞれと、塗布バー10と、の間の相対的な位置を均一にすることが困難になる。このような状況において、適切な範囲の算術平均粗さRaにより、厚さむらDzを効果的に小さくできる。適切な範囲の算術平均粗さRaにより、例えば、キャピラリ効果によって、液84の膜が塗布バー10の表面に安定して形成できる。これにより、小さい厚さむらDzが得られると考えられる。
【0022】
図3(b)に示すように、最大高さRzが約10μm以上約30μm以下の範囲において、小さい厚さむらDzが得られる。実用的には、最大高さRzが5μm以上50μm以下のときに、小さい厚さむらDzが得られる。最大高さRzが5μmよりも小さいと、例えば、キャピラリ効果が小さくなり易い。最大高さRzが50μmよりも大きいと、例えば、塗布バー10が汚染され易くなる。最大高さRzが50μmよりも大きいと、例えば、被塗布部材80に傷が生じ易くなる。
【0023】
塗布バー10の凹凸は、例えば、サンドブラストにより形成されても良い。サンドブラストによれば、塗布バー10の曲面において、均一な凹凸が形成できる。例えば、塗布バー10の表面10Fの酸化が促進される。例えば、濡れ性を向上し易い。例えば、高い親水性が得易い。
【0024】
実施形態において、塗布バー10は、例えば、金属を含む。塗布バー10は、例えば、ステンレススチール、チタン及びアルミニウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含む。塗布バー10がステンレススチールを含む場合、高い耐久性が得易い。塗布バー10がステンレススチールを含む場合、コストの低下が容易である。
【0025】
塗布バー10の表面10Fは、酸化物を含んでも良い。表面10Fは、例えば、酸化アルミニウムなどを含んでも良い。例えば、良好な濡れ性が得易くなる。
【0026】
塗布バー10の表面10Fの水に対する接触角は、例えば、90度未満である。親水性が高い表面10Fにより、より均一な塗布膜85が得易くなる。接触角は、50度以下でも良い。接触角は、10度以下でも良い。
【0027】
実施形態において、複数のノズル21は、塗布バー10と接しても良い。
【0028】
図2に示すように、複数のノズル21の少なくとも一部の位置は、塗布バー10の位置よりも高い。重力の影響により、より安定したメニスカス84Mが得易くなる。例えば、複数のノズル21が塗布バー10の上部から塗布バー10に接触しても良い。例えば、液84が安定して均一に供給し易くなる。
【0029】
図1(a)に示すように、塗布バー10の表面10Fは、第1領域10a、第2領域10b及び第3領域10cを含む。複数のノズル21の並ぶ第1方向(例えばY軸方向)において、第1領域10aは、第2領域10bと第3領域10cとの間にある。第1領域10aは、複数のノズル21と対向する領域である。第2領域10b及び第3領域10cは、複数のノズル21と対向しない領域である。第2領域10b及び第3領域10cは、例えば、塗布バー10のY軸方向における端部を含んでも良い。
【0030】
第1領域10aにおける算術平均粗さRaは、0.5μm以上10μm以下である。第2領域10b及び第3領域10cにおける算術平均粗さRaは、0.5μm未満または10μmを超える。塗布に用いられる第1領域10aにおける算術平均粗さRaを適切に設定することで、小さい厚さむらDzが得られる。例えば、端部に対応する第2領域10b及び第3領域10cにおいて、第1領域10aにおける算術平均粗さRaとは異なる表面特性が適用される。これにより、不要な部分への液84の付着が抑制できる。液84の使用効率が向上する。
【0031】
図2に示すように、この例では、複数のノズル21は、基部22と接続される。基部22に供給管25が接続される。供給管25を介して、基部22に液84が供給される。複数のノズル21から液84が吐出される。
【0032】
図2に示すように、この例では、ノズル21は、第1部材31及び第3部材33に保持される。第1部材31と第3部材33との間にノズル21が位置する。第3部材33は、第2部材32により、第1部材31に固定される。この例では、第3部材33と第2部材32との間に弾性部材35が設けられる。弾性部材35により、複数のノズル21の位置が安定し易くなる。ノズル部20、第1部材31、第2部材32、第3部材33及び弾性部材35は、ヘッド部30に含まれて良い。実施形態において、複数のノズル21の保持に関する構成は、種々に変形されてよい。
【0033】
図1(a)に示すように、塗布装置110は、位置制御部40を含んで良い。位置制御部40は、複数のノズル21と塗布バー10との間の相対的な位置を制御可能である。
【0034】
図1(a)及び図1(b)に示すように、例えば、位置制御部40は、第1保持部41及び第2保持部42を含んでも良い。第1保持部41は、塗布バー10を保持する。第2保持部42は、複数のノズル21を保持する。例えば、第2保持部42により第1部材31が保持される。これにより、第1部材31に保持された複数のノズル21が、第2保持部42により保持される。
【0035】
第1保持部41及び第2保持部42の少なくともいずれかは、塗布バー10から複数のノズル21への向き、及び、複数のノズル21から塗布バー10への向きの少なくともいずれかを有する応力を、塗布バー10及び複数のノズル21の少なくともいずれかに、加えることが可能でもよい。
【0036】
実施形態において、複数のノズル21の間隔が可変でも良い。間隔は、図1(a)に例示するY軸方向に沿った距離に対応する。
【0037】
図1(a)に示すように、塗布装置110は、第1センサ51a及び51bを含んでも良い。第1センサ51a及び51bは、例えば、塗布バー10と被塗布部材80との間の距離を検出する。
【0038】
図1(a)に示すように、塗布装置110は、制御部70を含んでも良い。制御部70は、例えば、第1センサ51a及び51bによる検出結果を入手し、検出結果に基づいて、位置制御部40(例えば、第1保持部41)を制御する。制御部70により、塗布バー10と被塗布部材80との間の距離が適切に制御される。第1センサ51a及び51bは、例えば、光学素子を含む。第1センサ51a及び51bは、例えば、カメラを含んでも良い。
【0039】
図1(b)に示すように、塗布装置110は、被塗布部材保持部66を含んでも良い。被塗布部材保持部66は、被塗布部材80を保持する。被塗布部材保持部66は、被塗布部材80を塗布バー10に対して相対的に移動させることが可能である。被塗布部材保持部66は、例えば、搬送部である。被塗布部材保持部66は、例えば、ローラである。この例では、被塗布部材保持部66は、被塗布部材80を重力GDの向きと交差する方向に沿って搬送可能である。重力GDの向きは、例えば、Z軸方向に沿う。交差する方向は、例えば、X軸方向である。
【0040】
例えば、搬送方向(移動方向88)は、水平方向に沿う。この場合には、複数のノズル21の延びる方向は、例えば、水平方向に近い。位置合わせが容易である。例えば、液84の垂れを抑制できる。
【0041】
図4は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式図である。
図4に示すように、塗布装置110は、被塗布部材保持部66を含む。被塗布部材保持部66は、被塗布部材80を保持する。被塗布部材保持部66は、被塗布部材80を塗布バー10に対して相対的に移動させる。この例では、被塗布部材保持部66は、被塗布部材80を重力GDの向きと逆の成分を含む向き88aに搬送可能である。例えば、メニスカス84Mに重力が加わる。高速の塗布においても、均一な塗布膜85が得易い。
【0042】
実施形態において、被塗布部材80の移動方向は、種々に変形可能である。移動方向と、重力の向き(方向)と、の間の角度は、例えば、±30°以下で良い。
【0043】
図4に示すように、塗布装置110は、供給部61を含んでも良い。供給部61は、複数のノズル21に液84を供給可能である。供給部61は、例えば、ポンプ61pを含む。この例では、液84が蓄えられるタンク65が設けられる。供給部61は、タンク65と接続される。供給部61は、供給管25により、複数のノズル21と接続される。液84が供給部61から複数のノズル21に供給される。液84が複数のノズル21から塗布バー10に向けて供給される。
【0044】
供給部61は、複数のポンプ61pを含んでも良い。複数のノズル21の数は、例えば、複数のポンプ61pの数の整数倍である。
【0045】
実施形態において、複数のノズル21の数は、12以上でも良い。複数のノズル21の数は、例えば、12、16または20などである。ポンプ61pと複数のノズル21とを接続する供給管25は、枝分かれ構造を有しても良い。供給管25の数は、例えば、2、4、または8などである。例えば、供給管25の数が4の場合、少ないポンプ61pにより、安定に均一に液84を供給することができる。
【0046】
実施形態において、ポンプ61pは、例えば、ダイヤフラムポンプを含んでも良い。ダイヤフラムポンプは、種々の溶媒を含む液84に適用できる。
【0047】
図5は、第1実施形態に係る塗布装置を例示する模式図である。
図5に示すように、塗布装置111において、被塗布部材保持部66は、第1保持機構66a及び第2保持機構66bを含む。この例では、被塗布部材80は、ロール状フィルムを含む。第1保持機構66aは、ロール状フィルム(被塗布部材80)の第1部分80aを保持する。第2保持機構66bは、ロール状フィルム(被塗布部材80)の第2部分80bを保持する。第1保持機構66a及び第2保持機構66bは、例えば、ローラである。ロール状フィルムへの連続的な塗布が可能である。
【0048】
複数のノズル21の並ぶ第1方向(Y軸方向)と交差する平面(例えばX-Z平面)における塗布バー10の少なくとも一部の断面は、円形で良い。断面は、円、楕円、または、台形などでも良い。断面が円形の場合、塗布ヘッドの製造が簡単になる。断面が円形の場合、被塗布部材80と塗布バー10との間の距離を均一に維持し易い。断面の一部が曲線状で、断面の他の部分が直線状でも良い。
【0049】
実施形態において、複数のノズル21は、針状で良い。針状において、長さは、径よりも長い。複数のノズル21の開口部は、複数のノズル21の延びる方向に対して、実質的に90度で良い。この場合、複数のノズル21が回転した場合においても、複数のノズル21の開口部(先端)と、塗布バー10と、の相対的な位置関係が変化し難い。例えば、複数のノズル21の少なくともいずれかに起因した塗布バー10の傷が抑制し易い。
【0050】
複数のノズル21の長さは、例えば、2cm以上10cm以下で良い。複数のノズル21の内径は、例えば、0.2以上2mm以下である。
【0051】
実施形態において、液84を回収する回収部が設けられても良い。実施形態において、塗布膜85を固体化させることが可能な乾燥部が設けられても良い。乾燥部は、例えば、ヒータ、ブロワ、または、赤外線の照射部などを含んでも良い。
【0052】
実施形態において、塗布バー10を洗浄可能な洗浄部が設けられても良い。洗浄部は、溶媒を噴霧または放射する機構を含んでも良い。溶媒は、例えば、水を含んで良い。洗浄部は、超音波を印加する機構を含んでも良い。
【0053】
実施形態に係る塗布装置により、例えば、太陽電池に含まれる膜が形成されても良い。例えば、被塗布部材80は、ロール状のフィルムで良い。
【0054】
以下、実験結果の例について説明する。実験において、被塗布部材80は、ロール状のPETフィルムである。PETフィルムの幅(Y軸方向の長さ)は、300mmである。ロールツーロール対応のスパッタ装置により、ロール状のフィルム上に光透過性の導電膜が形成される。導電膜は、ITO/Ag合金/ITOの積層膜である。導電膜は、所望の形状にパターニングされる。
【0055】
複数のノズル21の1つの長さは、約50mmである。複数のノズル21は、ステンレススチールを含む。複数のノズル21のそれぞれ内径は、0.8mmである。複数のノズル21が、第3部材33及び弾性部材35を用いて、第2部材32により、第1部材31に固定される。複数のノズル21の基部22に供給管25が接続される。
【0056】
実験において、液84として、PEDOT/PSS水分散液が用いられる。この液84から、例えば、太陽電池のホール輸送層が作製できる。
【0057】
塗布バー10の断面形状は、実質的に台形である。塗布バー10の断面形状の底部は、80mmの曲率を持つ円弧状である。塗布バー10のY軸方向の長さは、300mmである。塗布バー10の材料は、SUS303である。
【0058】
実験において、塗布バー10の底面と、底面の隣の面と、に、サンドブラスト処理が行われる。これにより、塗布バー10の表面10Fに凹凸が形成される。処理条件により、塗布バー10の表面10Fにおいて、種々の特性が得られる。または、各種の表面処理により、表面10Fにおいて、種々の凹凸が形成できる。
【0059】
種々の条件の塗布バー10を用いて、液84の塗布が行われる。これにより、塗布膜85が得られる。塗布膜85が乾燥されて、目的とする膜が得られる。膜の吸光度の分布から、厚さむらDzが評価される。
【0060】
第1試料において、塗布バー10の表面10Fの算術平均粗さRaは、3.2μmである。凹凸の最大高さRzは、20μmである。表面10Fは、目視において、均一である。表面10Fにおいて、水との接触角は、約5度である。第1試料において、厚さむらDzは、10%以下である。
【0061】
第2試料においては、塗布バー10の表面にサンドブラスト処理が行われない。第2試料において、算術平均粗さRaは、0.4μmである。凹凸の最大高さRzは、10μmである。第2試料において、厚さむらDzは、20%以上である。
【0062】
第3試料おいて、算術平均粗さRaは、12μmである。凹凸の最大高さRzは、70μmである。第3試料において、厚さむらDzは、15%以上である。第3試料において、塗布バー10は汚染されやすく、洗浄が困難である。
【0063】
第4試料おいて、算術平均粗さRaは、0.006μmである。凹凸の最大高さRzは、10μmである。第4試料において、厚さむらDzは、30%以上である。
【0064】
第5試料において、算術平均粗さRaは、4.3μmである。凹凸の最大高さRzは、25μmである。第5試料において、厚さむらDzは、10%以下である。第1試料~第5試料において、塗布バー10の材料は、ステンレススチールである。
【0065】
第6試料において、塗布バー10の材料は、アルミニウムである。第5試料において、算術平均粗さRaは、8μmである。凹凸の最大高さRzは、30μmである。第5試料において、厚さむらDzは、12%以下である。
【0066】
(第2実施形態)
第2実施形態は、塗布方法に係る。塗布方法において、第1実施形態に係る任意の塗布装置により、被塗布部材80に液84が塗布される。均一な塗布膜85を形成できる。
【0067】
例えば、有機半導体を用いた有機薄膜太陽電池、または、有機/無機ハイブリッド太陽電池がある。例えば、太陽電池に含まれる層を塗布により形成することで、低コストの太陽電池が得られる。実施形態によれば、例えば、ロールツーロールの塗布により、均一な塗布膜が得られる。実施形態においては、例えば、塗布バー10と被塗布部材80との間にメニスカス84Mが形成される。適正な表面状態の塗布バー10により均一な塗布膜85が得られる。
【0068】
実施形態は、以下の構成(例えば技術案)を含んでも良い。
(構成1)
被塗布部材と対向可能な塗布バーと、
前記塗布バーに向けて液を供給することが可能な複数のノズルと、
を備え、
前記複数のノズルの数は、3以上であり、
前記塗布バーの表面の少なくとも一部の算術平均粗さRaは、0.5μm以上10μm以下である、塗布装置。
【0069】
(構成2)
前記表面の前記少なくとも一部は、凹凸を含み、
前記凹凸の最大高さRzは、5μm以上50μm以下である、構成1記載の塗布装置。
【0070】
(構成3)
前記塗布バーは、ステンレススチール、チタン及びアルミニウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含む、構成1または2に記載の塗布装置。
【0071】
(構成4)
前記表面は、酸化物を含む、構成1~3のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0072】
(構成5)
前記表面の水に対する接触角は、90度未満である、構成1~4のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0073】
(構成6)
前記被塗布部材と前記塗布バーとの間に前記液のメニスカスが形成可能である、構成1~5のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0074】
(構成7)
前記複数のノズルは、前記塗布バーと接する、構成1~6のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0075】
(構成8)
前記複数のノズルの少なくとも一部の位置は、前記塗布バーよりも高い、構成1~7のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0076】
(構成9)
前記被塗布部材を保持し、前記被塗布部材を前記塗布バーに対して相対的に移動させることが可能な被塗布部材保持部をさらに備え、
被塗布部材保持部は、前記被塗布部材を重力の向きと逆の成分を含む向きに搬送可能である、構成1~8のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0077】
(構成10)
前記被塗布部材を保持し、前記被塗布部材を前記塗布バーに対して相対的に移動させることが可能な被塗布部材保持部をさらに備え、
被塗布部材保持部は、前記被塗布部材を重力の向きと交差する第1方向に沿って搬送可能である、構成1~8のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0078】
(構成11)
前記被塗布部材は、ロール状フィルムを含み、
前記被塗布部材保持部は、
前記ロール状フィルムの第1部分を保持する第1保持機構と、
前記ロール状フィルムの第2部分を保持する第2保持機構と、
を含む、構成9または10に記載の塗布装置。
【0079】
(構成12)
前記複数のノズルに前記液を供給する供給部をさらに備えた構成9~11のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0080】
(構成13)
前記供給部は、複数のポンプを含み、
前記複数のノズルの数は、前記複数のポンプの数の整数倍である、構成12記載の塗布装置。
【0081】
(構成14)
前記複数のノズルの前記数は、12以上である、構成1~13のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0082】
(構成15)
前記複数のノズルの並ぶ第1方向と交差する平面における前記塗布バーの少なくとも一部の断面は、円形である、構成1~14のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0083】
(構成16)
前記表面は、第1領域、第2領域及び第3領域を含み、
前記複数のノズルの並ぶ第1方向において、前記第1領域は、前記第2領域と前記第3領域との間にあり、
前記第1領域における算術平均粗さRaは、0.5μm以上10μm以下であり、
前記第2領域及び前記第3領域における算術平均粗さRaは、0.5μm未満または10μmを超える、構成1~15のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0084】
(構成17)
前記複数のノズルと前記塗布バーとの間の相対的な位置を制御可能な位置制御部をさらに備えた、構成1~1のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0085】
(構成18)
前記位置制御部は、
前記塗布バーを保持する第1保持部と、
前記複数のノズルを保持する第2保持部と、
を含み、
前記第1保持部及び前記第2保持部の少なくともいずれかは、前記塗布バーから前記複数のノズルへの向き、及び、前記複数のノズルから前記塗布バーへの向きの少なくともいずれかを有する応力を、前記塗布バー及び前記複数のノズルの少なくともいずれかに、加えることが可能である、構成17記載の塗布装置。
【0086】
(構成19)
前記複数のノズルの間隔が可変である、構成1~18のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0087】
(構成20)
構成1~19のいずれか1つに記載の塗布装置により前記被塗布部材に前記液を塗布する塗布方法。
【0088】
実施形態によれば、均一な塗布膜を形成できる塗布装置及び塗布方法が提供される。
【0089】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、塗布装置に含まれる、塗布バー、及びノズルなどの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0090】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0091】
その他、本発明の実施の形態として上述した塗布装置及び塗布方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての塗布装置及び塗布方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0092】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
10…塗布バー、 10F…表面、 10a~10c…第1~第3領域、 20…ノズル部、 21…ノズル、 22…基部、 25…供給管、 30…ヘッド部、 31~33…第1~第3部材、 35…弾性部材、 40…位置制御部、 41、42…第1、第2保持部、 51a、51b…第1センサ、 52a、52b…第2センサ、 61…供給部、 61p…ポンプ、 65…タンク、 66…被塗布部材保持部、 66a、66b…第1、第2保持機構、 70…制御部、 80…被塗布部材、 80a、80b…第1、第2部分、 84…液、 84M…メニスカス、 85…塗布膜、 88…移動方向、 88a…向き、 110、111…塗布装置、 Dz…厚さむら、 GD…重力、 Ra…算術平均粗さ、 Rz…最大高さ
図1
図2
図3
図4
図5