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  • 特許-波動歯車装置の粉体潤滑方法 図1A
  • 特許-波動歯車装置の粉体潤滑方法 図1B
  • 特許-波動歯車装置の粉体潤滑方法 図2A
  • 特許-波動歯車装置の粉体潤滑方法 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】波動歯車装置の粉体潤滑方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20231010BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231010BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022562917
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2021031053
(87)【国際公開番号】W WO2023026376
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2022-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特許第6261773(JP,B2)
【文献】特開2006-138773(JP,A)
【文献】特開2013-79715(JP,A)
【文献】実公平6-11436(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体潤滑剤粉体の加圧成形品を波動歯車装置の内部に配置し、
前記波動歯車装置の運転時に、前記加圧成形品に摩擦板を摩擦接触させて、固体潤滑剤摩耗粉を発生させ、
発生した前記固体潤滑剤摩耗粉により、前記波動歯車装置の潤滑対象部位を潤滑することを特徴とする波動歯車装置の粉体潤滑方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記固体潤滑剤粉体は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、カーボンナノチューブおよびオニオンライクカーボンのうちの少なくともいずれか一つである波動歯車装置の粉体潤滑方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記加圧成形品は、圧粉密度が真密度の50%以下の軽加圧成形品である波動歯車装置の粉体潤滑方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記摩擦板の材質は、硬度がHv60以上あるいはモース硬度2以上の鋼、ステンレススチール、銅合金、アルミニウム合金、またはセラミックであり、
前記摩擦板の摩擦面の表面粗さは12S以下である波動歯車装置の粉体潤滑方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記波動歯車装置は、剛性の内歯歯車と、前記内歯歯車の内側に配置した可撓性の外歯歯車と、前記外歯歯車の内側に配置した波動発生器とを備えており、
前記波動発生器は回転入力部材であり、前記外歯歯車は固定部材あるいは回転出力部材であり、
前記波動発生器および前記外歯歯車のうちの一方に前記摩擦板を取り付け、他方に前記加圧成形品を取り付け、
前記摩擦板および前記加圧成形品のうちの少なくとも一方の部品を他方の部品に対して、ばね部材を用いて押圧することで、これらの間の摩擦接触状態を維持する波動歯車装置の粉体潤滑方法。
【請求項6】
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に配置した可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に配置した波動発生器と、
前記外歯歯車の内側に配置した粉体供給機構と、
を有しており、
前記粉体供給機構は、
固体潤滑剤粉体の加圧成形品と、
前記加圧成形品に摩擦接触して固体潤滑剤摩耗粉を発生させる摩擦板と、
前記摩擦板を前記加圧成形品に押し付けて摩擦接触の状態を維持するばね部材と、
を備えていることを特徴とする波動歯車装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記固体潤滑剤粉体は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、カーボンナノチューブおよびオニオンライクカーボンのうちの少なくともいずれか一つである波動歯車装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記波動発生器は回転入力部材であり、前記外歯歯車は固定部材あるいは回転出力部材であり、
前記波動発生器および前記外歯歯車のうちの一方に前記摩擦板が配置され、他方に前記加圧成形品が配置されており、
前記摩擦板および前記加圧成形品のうちの少なくとも一方の部品は、他方の部品に対して、前記ばね部材によって押圧されている波動歯車装置。
【請求項9】
請求項6において、
前記加圧成形品は、圧粉密度が真密度の50%以下の軽加圧成形品である波動歯車装置。
【請求項10】
請求項6において、
前記加圧成形品は、円筒形状またはリング形状である波動歯車装置。
【請求項11】
請求項6において、
前記摩擦板の材質は、硬度がHv60以上あるいはモース硬度2以上の鋼、ステンレススチール、銅合金、アルミニウム合金、またはセラミックであり、
前記摩擦板の摩擦面の表面粗さは12S以下である波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置に関し、特に、固体潤滑剤の粉体を用いて接触面等を潤滑する波動歯車装置の粉体潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、特許文献1、2において、波動歯車装置の部材接触面等を、装置内部に封入あるいは充填した固体潤滑剤の微小粉体により潤滑する粉体潤滑方法を提案している。特許文献1に記載の波動歯車装置においては、固体潤滑剤として、層状構造を持つイオン結合性化合物の微小紛体が外歯歯車の内部空間に充填される。充填された微小紛体は、波動歯車装置の運転時に、潤滑対象の各接触面間で押しつぶされ、双方の接触面に移着し薄い表面膜を形成すると共に、薄く圧延され、さらに細分化されて接触面内に侵入しやすい形状に変化する。形状変化した微小粉体と接触面に形成された薄い表面膜とにより潤滑が維持される。移着した薄い表面膜および圧延され細分化された微小粉末は粘性が無いので、粘性抵抗ロスが発生せず、低負荷域、高速回転域での高効率運転を実現できる。また、特許文献2に記載の波動歯車装置においては、外歯歯車の内側に封入あるいは充填された固体潤滑剤の微小粉体を効率良く潤滑対象の部位に導くための機構が備わっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/084235号
【文献】国際公開第2016/113847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本発明者等の試験によれば、固体潤滑剤の微小粉体により潤滑される波動歯車装置の耐久寿命は、使用される微小粉体の充てん量に大きく左右され、適量の充てん量を確保しないと短寿命になることが判明している。
【0005】
しかし、層状構造を持つ固体潤滑剤の微小紛体を用いる場合には、この微小粉体が劈開力により各接触面の間の隙間に導入され、薄く圧延され、さらに細分化する際のロストルクにより、一時的な効率低下が発生する。この効率低下の低下幅と発生頻度は、波動歯車装置の運転中の雰囲気、使用する微小粉体の特性(耐荷重能、摩擦係数、凝集力など)、充てん量、粒子サイズなどの様々な要因の影響を受ける。特に、高速回転する波動発生器の接触面間の隙間に多量の微小粉体が供給された場合に、ロストルクに起因する効率低下が顕著になり、波動歯車装置の安定した運転が妨げられる。
【0006】
本発明の目的は、潤滑対象部位に多量の固体潤滑剤の粉体が供給されることによって発生するロストルクに起因する効率低下を抑制するために、波動発生器の接触面などの潤滑対象部位に適量の粉体を継続して供給できるようにした波動歯車装置の粉体潤滑方法を提案することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、潤滑対象部位に多量の固体潤滑剤の粉体が供給されることによって発生するロストルクに起因する効率低下を抑制するために、潤滑対象部位に適量の粉体を継続して供給できる粉体供給機構を備えた波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波動歯車装置の粉体潤滑方法は、
固体潤滑剤粉体の加圧成形品を波動歯車装置の内部に配置し、
前記波動歯車装置の運転時に、前記加圧成形品に摩擦板を摩擦接触させて、固体潤滑剤摩耗粉を発生させ、
発生した前記固体潤滑剤摩耗粉により、前記波動歯車装置の潤滑対象部位を潤滑することを特徴としている。
【0009】
また、本発明の波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に配置した可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に配置した波動発生器と、
前記外歯歯車の内側に配置した粉体供給機構と、
を有しており、
前記粉体供給機構は、
固体潤滑剤粉体の加圧成形品と、
前記加圧成形品に摩擦接触して固体潤滑剤摩耗粉を発生させる摩擦板と、
前記摩擦板を前記加圧成形品に押し付けて摩擦接触の状態を維持する押付け部材と、
を備えていることを特徴としている。
【0010】
固体潤滑剤粉体として、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、グラファイト、カーボンナノチューブ(CNT)、オニオンライクカーボン(OLC)などを用いることができる。
【0011】
波動歯車装置を減速機として用いる場合には、波動発生器は回転入力部材とされ、外歯歯車は固定部材あるいは減速回転出力部材とされる。この場合には、波動発生器および外歯歯車のうちの一方に摩擦板が配置され、他方に加圧成形品が配置される。また、摩擦板および加圧成形品のうちの少なくとも一方の部品が、他方の部品に対して、ばね部材によって押圧される。
【0012】
本発明において、固体潤滑剤粉体の加圧成形品は、圧粉密度が真密度の50%以下の軽加圧成形品であることが望ましい。また、加圧成形品は、円筒形状、リング形状などの簡単な形状であることが望ましい。
【0013】
本発明において、摩擦板の材質として、硬度がHv60以上あるいはモース硬度2以上の鋼、ステンレススチール、銅合金、アルミニウム合金、セラミックなどを用いることができる。また、摩擦板の材質として、固体潤滑剤粉体が移着し難い材質が望ましい。摩擦板の摩擦面の表面粗さは12S以下が望ましく、表面テクスチャリングによる微細形状を有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、波動歯車装置の内部に固体潤滑剤の微小粉体を充てんする代わりに、固体潤滑剤粉体を予め固めた加圧成形品を配置している。波動歯車装置の運転時に、加圧成形品を摩耗させることで、固体潤滑剤摩耗粉を、長期間に亘って安定して微量ずつ供給できる。これにより、多量の固体潤滑剤粉体が潤滑対象の接触面間の隙間に供給されることにより発生するロストルクに起因する効率低下の幅、発生頻度を抑制でき、波動歯車装置の安定的な高効率状態を維持しつつ、その長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明を適用した波動歯車装置の一例を示す概略縦断面図である。
図1B図1Aの波動歯車装置の概略縦断面図であり、その左側に初期状態の半縦断面を示し、その右側に加圧成形品が摩耗して残り少なくなった最終状態の半縦断面を示す。
図2A】本発明を適用した波動歯車装置の別の例を示す概略縦断面図である。
図2B図2Aの波動歯車装置の概略縦断面図であり、その左側に初期状態の半縦断面を示し、その右側に加圧成形品が摩耗して残り少なくなった最終状態の半縦断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明を実施の形態に限定することを意図したものでは無い。
【0017】
(実施の形態1)
図1Aは、本発明を適用した波動歯車装置の一例を示す概略縦断面図である。波動歯車装置1はカップ型と呼ばれ、円環状の剛性の内歯歯車2と、カップ形状をした可撓性の外歯歯車3と、楕円状輪郭の波動発生器4とを備えている。外歯歯車3は内歯歯車2の内側に同軸に配置されている。波動歯車装置1は、その軸線1aが垂直方向を向き、波動発生器4が上側に位置する垂直姿勢に設置されている。
【0018】
外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部3aを備え、この開口端の側の外周面部分には、外歯3bが形成されている。円筒状胴部3aの反対側の端からは半径方向の内方に延びるダイヤフラム3cが形成されている。ダイヤフラム3cの内周縁には円環状の剛性のボス3dが形成されている。円環状の押さえ部材7bと出力軸7aの間にボス3dを挟み、この状態で、複数本の締結用ボルト7cによって、三部材が同軸に締結固定されている。
【0019】
波動発生器4は、剛性のウエーブプラグ4aと、この楕円状輪郭の外周面に装着されたウエーブベアリング4b(波動発生器軸受け)とを備えている。波動発生器4は、外歯歯車3における円筒状胴部3aの外歯3bが形成されている部分の内側に装着されている。
【0020】
本例では波動歯車装置1は減速機として用いられる。例えば、内歯歯車2は上側に位置する固定側部材である装置ハウジング5に固定され、波動発生器4は上側に位置するモーター回転軸等の入力シャフト6に連結固定され、外歯歯車3は下側に位置する出力軸7aに同軸に連結固定される。波動発生器4に入力される高速回転が、内歯歯車2および外歯歯車3を介して大幅に減速され、外歯歯車3から出力軸7aを介して減速回転が出力される。
【0021】
ここで、外歯歯車3の円筒状胴部3aの内側において、ダイヤフラム3cと波動発生器4との間に形成される内側空間9には、粉体供給機構10が組み込まれている。粉体供給機構10から供給される固体潤滑剤摩耗粉が、波動歯車装置1の内部の潤滑対象部位に供給されて、これらの潤滑対象部位が潤滑される。
【0022】
波動歯車装置1の主要な潤滑対象部位は、内歯歯車2および外歯歯車3の間の接触部(歯部)A、外歯歯車3の円筒状胴部3aの内周面3fと波動発生器4の外周面4cとの接触部B、および、波動発生器4の内部の接触部Cである。波動発生器4の内部の接触部Cは、ウエーブプラグ4aとウエーブベアリング4bの間の接触部分、ウエーブベアリング4bの構成部品(内輪、外輪、ボール)の間の接触部分等である。接触部Bの各接触面(内周面3f、外周面4c)および波動発生器4の内部の接触部Cにおける各接触面は、外歯歯車3の内側空間9に連通している。これらの接触部B、Cの各接触面は、粉体供給機構10から供給される固体潤滑剤摩耗粉11によって潤滑される。また、接触部B、Cを通って接触部(歯部)Aに回り込む固体潤滑剤摩耗粉11によって、この接触部Aも潤滑される。
【0023】
粉体供給機構10は、固体潤滑剤粉体の加圧成形品12と、加圧成形品12に摩擦接触して固体潤滑剤摩耗粉11を発生させる摩擦板13と、加圧成形品12および摩擦板13を相対的に押し付けて、これらが摩擦接触した状態を維持する成形品押付け部14とを備えている。また、加圧成形品12から発生する固体潤滑剤摩耗粉11を撹拌すると共に潤滑対象部位の接触部B、Cに向けて案内する第1案内板15と、接触部B、Cを通り抜けた固体潤滑剤摩耗粉11を接触部Aに向けて案内する第2案内板16とを備えている。
【0024】
更に詳しく説明すると、円盤形状の摩擦板13は、波動発生器4のウエーブプラグ4aにおける内側空間9に面しているプラグ内側端面4dに同軸に固定されている。本例では、ウエーブプラグ4aを入力シャフト6に締結固定しているボルト17によって固定されている。摩擦板13における内側空間9に面している端面が摩擦面13aとなっている。摩擦面13aの下側には、同軸状態で、一定厚さのリング形状に成形された固体潤滑剤粉体の加圧成形品12が配置されている。本例では、加圧成形品12は、成形品押付け部14によって、軸線1aの方向に沿って、摩擦面13aに押し付けられている。
【0025】
成形品押付け部14は、加圧成形品12を摩擦面13aに対して接近・離間する方向に移動可能な状態で保持している成形品保持部材21と、成形品保持部材21に保持されている加圧成形品12を摩擦面13aに押し付けるための成形品押付け板22と、成形品押付け板22を介して、加圧成形品12を摩擦面13aに押し付けている大径の外側コイルばね23および小径の内側コイルばね24とを備えている。
【0026】
成形品保持部材21は、外歯歯車3のボス3dの中心開口部を貫通して内側空間9内に延びている出力軸7aの中心軸部7dに、同軸に固定されている。成形品押付け板22は、成形品保持部材21の下側に配置されており、成形品保持部材21に保持されている加圧成形品12を摩擦面13aに押し付けるリング状突部22aを備えている。また、成形品押付け板22は、成形品保持部材21の中心部に形成した円筒状軸部21aによって軸線1aの方向にスライド可能な状態で支持されている。このスライド式の成形品押付け板22は、大径の外側コイルばね23および小径の内側コイルばね24によって、摩擦面13aに向けて押されている。外側コイルばね23は成形品押付け板22と外歯歯車3のダイヤフラム3cの間に圧縮状態で配置されており、内側コイルばね24は成形品押付け板22と、外歯歯車3のボス3dの中心開口部に露出する出力軸7aの端面部分7eとの間に圧縮状態で配置されている。
【0027】
次に、粉体供給機構10の第1案内板15は、内側空間9内において、摩擦板13および加圧成形品12を取り囲む状態で、波動発生器4のプラグ内側端面4dに取り付けられている。第1案内板15は、軸線1aの方向に沿って、下側から上側に向かって広がっている逆円錐台形状の筒部分15aと、筒部分15aの上端から半径方向の内側に延びる円盤状部分15bとを備え、円盤状部分15bの内周側の部分が、プラグ内側端面4dに同軸に固定されている。筒部分15aの上端に繋がる円盤状部分15bの外周縁部分には、円周方向に向けて等角度度間隔で開口部15cが形成されている。
【0028】
また、第2案内板16は、ウエーブプラグ4aにおける内側空間9とは反対側のプラグ外側端面4eに同軸に固定されている。第2案内板16は円盤形状をしており、その外周縁は、波動発生器4のウエーブベアリング4bの外輪近傍まで延びている。また、装置ハウジング5には、第2案内板16の上側に隣接した位置において、外周縁から接触部A(歯部)に至る円環状の端面部分5aが形成されている。
【0029】
図1Bは波動歯車装置の概略縦断面図であり、その左側には初期状態の半縦断面を示し、その右側には加圧成形品12が摩耗して残り少なくなった最終状態の半縦断面を示してある。この図も参照して説明すると、波動歯車装置1の運転時には、摩擦板13は、波動発生器4のウエーブプラグ4aと一体となって高速回転する。出力軸7aの側に取付けられている成形品押付け部14に保持されている加圧成形品12は、出力軸7aと一体となって減速回転する。この結果、加圧成形品12は、摩擦板13の摩擦面13aにばね力によって押し付けられた摩擦接触状態になり、加圧成形品12が摩擦面13aによって摩耗して、固体潤滑剤摩耗粉11が発生する。
【0030】
加圧成形品12から発生する固体潤滑剤摩耗粉11は、第1案内板15の逆円錐台形状の筒部分15aおよび円盤状部分15bによって、筒部分15aの上端側に案内され、開口部15cを通って接触部B、Cに向かう方向に案内される。また、筒部分15aの下端から外周側に飛散する固体潤滑剤摩耗粉11は、高速回転する逆円錐台形状の筒部分15aの円錐台形状の外周面部分に沿って、接触部B、Cに向かう方向に案内される。
【0031】
固体潤滑剤摩耗粉11は、内部接触部B(波動発生器軸受け4b)および接触部C(波動発生器4と外歯歯車3の接触部)に供給され、これらの部分が潤滑される。さらに、波動発生器軸受け4bに供給された固体潤滑剤摩耗粉11の一部は、当該波動発生器軸受け4bの軌道部を通り抜けて上側に移動する。また、波動発生器4と外歯歯車3の間に供給された固体潤滑剤摩耗粉11の一部は、これらの間を通り抜けて上側に移動する。
【0032】
波動発生器軸受け4bの上側には、波動発生器4と一体となって高速回転している第2案内板16が配置されている。上側に通り抜けた後の固体潤滑剤摩耗粉11は、高速回転する第2案内板16によって外周側に案内されて、接触部A(外歯および内歯の歯面部)に供給される。
【0033】
図1Bにおいて左側半縦断面と右側半縦断面を比較すると分かるように、加圧成形品12は、摩擦板13との間の摩擦接触によって摩耗して、その厚みが徐々に減少する。加圧成形品12は、ばね力によって常に摩擦板13の摩擦面13aに押付けられているので、継続して一定量の固体潤滑剤摩耗粉11が発生する。よって、潤滑対象の接触部B、Cに対して継続してほぼ定量ずつ固体潤滑剤摩耗粉11が供給される。
【0034】
ここで、加圧成形品12を成形するために用いる固体潤滑剤粉体として、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、グラファイト、カーボンナノチューブ(CNT)、オニオンライクカーボン(OLC)などを用いることができる。
【0035】
加圧成形品12は、簡単な形状である円筒状、リング形状が望ましい。また、軽加圧成形のほうが良く、圧粉密度は真密度の50%以下とすることが望ましい。真密度は、二硫化モリブデンの場合が4.8、二硫化タングステンの場合が7.5、グラファイトの場合が2.2、オニオンライクカーボンの場合が1.74である。
【0036】
摩擦板13の材質としては、硬度Hv60(モース硬度2)以上であれば、鋼、ステンレススチール、銅合金、アルミニウム合金、セラミックを用いることができる。摩擦板13は、使用する固体潤滑剤摩耗粉が移着し難い材質であることが望ましい。移着し易い材質から並べると、鋼、ステンレススチール、銅合金、アルミニウム合金、セラミックの順になる。また、摩擦面13aの表面粗さは12S以下が望ましく、表面テクスチャリングによる微細形状を有していても良い。
【0037】
また、本例では一対のコイルばね23、24により、加圧成形品12を摩擦板13に押し付ける押付け力を発生させている。一定の押付け力を発生する押付け機構は、様々な形式のばねを用いることが可能である。例えば、コイルばね、皿ばね、竹の子ばね等を用いることができるが、ばね定数を自在に設計できる圧縮コイルばねが扱い易い。ばね部材を、多数個使用してもよい。
【0038】
以上説明したように、波動歯車装置1の運転時に、加圧成形品12を摩耗させることで、固体潤滑剤摩耗粉11を、長期間に亘って安定して微量ずつ発生させて、潤滑対象の部位に供給できる。多量の固体潤滑剤粉体が潤滑対象の接触面間の隙間、特に、高速回転する波動発生器4の接触部内に供給されることにより発生するロストルクに起因する効率低下を抑制できる。よって、波動歯車装置1の安定的な高効率状態を維持しつつ、その長寿命化を図ることができる。
【0039】
(実施の形態2)
上記の実施の形態1の波動歯車装置1の粉体供給機構10では、減速回転する出力軸7a(外歯歯車3)の側に加圧成形品12を取り付け、高速回転する波動発生器4のウエーブプラグ4aの側に摩擦板13を取り付けてある。粉体供給機構10に代えて、加圧成形品12を高速回転するウエーブプラグ4aに取り付け、摩擦板13を減速回転する出力軸7a(外歯歯車3)に取り付けた構成の粉体供給機構を用いることができる。
【0040】
図2Aは、この構成の粉体供給機構が組み込まれた波動歯車装置の概略縦断面図である。波動歯車装置100の基本構成は波動歯車装置1と同一であるので、対応する部位には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0041】
粉体供給機構110は、固体潤滑剤粉体の加圧成形品112と、加圧成形品112に摩擦接触して固体潤滑剤摩耗粉111を発生させる摩擦板113と、加圧成形品112および摩擦板113を相対的に押し付けて、これらが摩擦接触した状態を維持する成形品押付け部114とを備えている。また、加圧成形品112から発生する固体潤滑剤摩耗粉111を撹拌すると共に潤滑対象部位の接触部B、Cに向けて案内する第1案内板15と、接触部B、Cを通り抜けた固体潤滑剤摩耗粉111を接触部Aに向けて案内する第2案内板16とを備えている。
【0042】
円盤形状の摩擦板113は、外歯歯車3に固定された出力軸7aに取り付けられている。摩擦板113は、内側空間9に配置されている円盤部分113bと、円盤部分113bの中心部分から内側空間9とは反対側に突出している取付軸部113cとを備えている。取付軸部113cは外歯歯車3のボス3dの中心開口部を貫通して出力軸7aに同軸に固定されている。円盤部分113bにおける内側空間9に面する端面が摩擦面113aとなっている。摩擦板113は、出力軸7a(外歯歯車3)と一体となって減速回転する。
【0043】
成形品押付け部114は、加圧成形品112を摩擦面113aに対して接近・離間する方向に移動可能な状態で保持している成形品保持部材121と、成形品保持部材121に保持されている加圧成形品112を摩擦面113aに押し付けるための成形品押付け板122と、成形品押付け板122を介して、加圧成形品112を摩擦面113aに押し付けているコイルばね123とを備えている。
【0044】
成形品保持部材121は、内側空間9において、波動発生器4のウエーブプラグ4aに固定した入力シャフト6に同軸に固定されている。成形品押付け板122は、成形品保持部材121の上側に配置されており、成形品保持部材121に保持されている加圧成形品112を摩擦面113aに押し付けるリング状突部122aを備えている。また、成形品押付け板122は、成形品保持部材121の中心部に形成した押付け板ガイド軸121aによって軸線の方向にスライド可能な状態で支持されている。このスライド式の成形品押付け板122は、コイルばね123によって、摩擦面113aに向けて押されている。コイルばね123は、成形品押付け板122とウエーブプラグ4aの中心側内側端面4fとの間に圧縮状態で配置されている。
【0045】
図2Bは波動歯車装置の概略縦断面図であり、その左側に初期状態の半縦断面を示し、その右側に加圧成形品112が摩耗して残り少なくなった最終状態の半縦断面を示してある。この図も参照して説明する。波動歯車装置100の運転時には、摩擦板113は、出力軸7a(外歯歯車3)と一体となって減速回転する。波動発生器4のウエーブプラグ4a(入力シャフト6)の側に取付けられている成形品押付け部114に保持されている加圧成形品112は、ウエーブプラグ4aと一体となって高速回転する。加圧成形品112は、摩擦板113の摩擦面113aにばね力によって押し付けられた摩擦接触状態になり、加圧成形品112が摩擦面113aによって摩耗して、固体潤滑剤摩耗粉111が発生する。
【0046】
加圧成形品112から発生する固体潤滑剤摩耗粉111は、第1案内板15の逆円錐台形状の筒部分15aおよび円盤状部分15bによって、筒部分15aの上端側に案内され、開口部15cを通って接触部B、Cに向かう方向に案内される。また、筒部分15aの下端から外周側に飛散する固体潤滑剤摩耗粉111は、高速回転する逆円錐台形状の筒部分15aの円錐台形状の外周面部分に沿って、接触部B、Cに向かう方向に案内される。
【0047】
固体潤滑剤摩耗粉111は、内部接触部B(波動発生器軸受け4b)および接触部C(波動発生器4と外歯歯車3の接触部)に供給され、これらの部分が潤滑される。さらに、波動発生器軸受け4bに供給された固体潤滑剤摩耗粉111の一部は、当該波動発生器軸受け4bの軌道部を通り抜けて上側に移動する。また、波動発生器4と外歯歯車3の間に供給された固体潤滑剤摩耗粉111の一部は、これらの間を通り抜けて上側に移動する。
【0048】
波動発生器軸受け4bの上側には、波動発生器4と一体となって高速回転している第2案内板16が配置されている。上側に通り抜けた後の固体潤滑剤摩耗粉111は、高速回転する第2案内板16によって外周側に案内されて、接触部A(外歯および内歯の歯面部)に供給される。
【0049】
図2Bにおいて左側半縦断面と右側半縦断面を比較すると分かるように、加圧成形品112は、摩擦板113との間の摩擦接触によって摩耗して、その厚みが徐々に減少する。加圧成形品112は、ばね力によって常に摩擦板113の摩擦面113aに押付けられているので、継続して一定量の固体潤滑剤摩耗粉111が発生する。よって、潤滑対象の接触部B、C、Aに対して継続してほぼ定量ずつ固体潤滑剤摩耗粉111が供給される。
図1A
図1B
図2A
図2B