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特許7362960繊維のほぐれを感じさせる肉様食品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】繊維のほぐれを感じさせる肉様食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20231010BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20231010BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20231010BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20231010BHJP
【FI】
A23J3/00 502
A23J3/00 507
A23L29/219
A23L13/00 A
A23L17/00 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023075684
(22)【出願日】2023-05-01
【審査請求日】2023-05-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508274828
【氏名又は名称】株式会社ヤヨイサンフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】内藤 尚利
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 佳那
(72)【発明者】
【氏名】松岡 篤
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/202805(WO,A2)
【文献】国際公開第2021/131952(WO,A1)
【文献】特開2023-042787(JP,A)
【文献】国際公開第2020/255366(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/00
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 組織化植物性たん白、
(b)前記組織化植物性たん白を膨潤させるために必要な水分を少なくとも含む液相、
(c)油脂、及び
(d)アセチル化酸化澱粉
を少なくとも含んでなる肉様食品であって、
前記アセチル化酸化澱粉を0.50~16重量%含んでなる、肉様食品
【請求項2】
前記油脂が、植物油脂である、請求項1に記載の肉様食品。
【請求項3】
記油脂が、パーム油、大豆白絞油、コーン油、こめ油、オリーブ油、ゴマ油、食用加工油脂、乳化油脂、ショートニング、及びマーガリンから選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の肉様食品。
【請求項4】
前記アセチル化酸化澱粉が、アセチル化酸化タピオカ澱粉である、請求項1に記載の肉様食品。
【請求項5】
前記組織化植物性たん白を20~40重量%含んでなる、請求項1に記載の肉様食品。
【請求項6】
前記油脂を1.50~25重量%含んでなる、請求項1に記載の肉様食品。
【請求項7】
調味料、香料、及び色素をさらに含んでなる、請求項1に記載の肉様食品。
【請求項8】
請求項1の肉様食品を用いた、魚肉又は食肉代替食品。
【請求項9】
請求項1に記載の肉様食品を、魚肉又は食肉に添加して製造された食品。
【請求項10】
フライの具材、ハンバーグ、メンチカツ、フィッシュフライ、つくね、餃子、焼売、春巻、又はパイの形態である、請求項に記載の魚肉又は食肉代替食品又は請求項に記載の食品。
【請求項11】
請求項1に記載の肉様食品の製造方法であって、
(1)膨潤化した組織化植物性たん白を用意する工程、
(2)工程(1)で得た植物性たん白に油脂及びアセチル化酸化澱粉を添加する工程、そして
(3)工程(2)で得られた混合物を成形する工程
を少なくとも含んでなる、方法。
【請求項12】
工程(2)の前に、液相で膨潤化した組織化植物性たん白を必要に応じて粉砕して繊維をほぐれさせる工程を行う、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(1)の液相が、調味料、香料、又は色素をさらに含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(1)又は(2)において、調味料、香料、色素加工澱粉、粉末状植物性たん白、増粘剤、メチルセルロース、エマルジョン、乳化剤を添加することを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(3)の成形が、加熱せずに又は加熱を伴い実施される、請求項11に記載の製造方法。
【請求項16】
前記加熱が、温度60~100℃の湿式加熱により、又は温度は150~230℃の乾式加熱により行われる、請求項15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性たん白質を用いた肉様食品およびその製造方法に関し、詳細には咀嚼したときに繊維のほぐれを感じさせる肉様食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な資源維持のため、動物性たん白質に代替して植物性たん白質を用いることが行われている。ここで、ベジタリアンやビーガン等と呼ばれる菜食主義に対応するのみならず、食感などを肉様とするなどして一般消費者もその対象に含めた商品価値付加の工夫がなされている。動物性たん白質に代替して用いられる植物性たん白質としては大豆たん白質などが知られている。
【0003】
例えば、特開平4-228037号公報(特許文献1)、特開2010-200627号公報(特許文献2)、WO2020-255366A公報(特許文献3)は、大豆たん白質を用いた疑似肉又は肉様食品を提案する。これら提案は、食肉類似の外観、調理性に向けられたものであるが、繊維のほぐれ感のような食感への配慮はなされていない。
【0004】
また、特開2022-124688号公報(特許文献4)は、粒状植物性たん白を水戻しし、擂り潰すことで、適度なほぐれと纏まりのある繊維感を備えた魚肉用食品素材が得られるとする。この文献が提案する組成の成分には、澱粉がその他の成分と称して挙げられているが(段落0019)、その種類、添加目的や食感等に与える影響については、何ら検討されていない。
【0005】
また近時は、家畜食用肉に加え、魚肉も代替対象とされている。例えば、特開2017-79601号公報(特許文献5)は、解繊された粒状大豆たん白質と、パーム油と、大豆油、菜種油などの液油と、油脂、そしてばれいしょ澱粉を含む、ツナペースト代替食品を開示する。この公報が提案するのは、ペースト様の食感が得られる代替食品であり、魚肉の塊としての食感に対する配慮はなされていない。
【0006】
魚肉の塊、例えば魚切身や、一部の食肉は、咀嚼したときに独特の繊維のほぐれを感じさせるから、肉様食品にあっては、この魚肉や食肉のような繊維感の再現が重要になる。さらに、水分、油分を適切に含み、ジューシー感を備えることも魚肉様食品において重要となる。
【0007】
なお、加工澱粉は食品の食感等の改良のために用いられている。しかし、特許4942855号公報(特許文献6)は、アセチル化タピオカ澱粉を、十分な弾力性と硬さを兼ね備えた食感を付与するために用いるとするが、その対象は水産練り製品であり、植物性たん白質を含むものではない。特開2013-108号号公報(特許文献7)もアセチル化澱粉の利用を開示するが、この文献にあっても対象は水産練り製品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-228037号公報
【文献】特開2010-200627号公報
【文献】WO2020-255366A公報
【文献】特開2022-124688号公報
【文献】特開2017-79601号公報
【文献】特許4942855号公報
【文献】特開2013-108号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、今般、植物性たん白質を用いた肉様食品にあって、咀嚼したときに独特の繊維のほぐれを感じさせ、さらに好ましくはジューシー感を備える組成を見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0010】
従って、本発明は、肉の代替食品として、すなわち動物性たん白質に代えて植物性たん白質を摂取可能な食品として有用な肉様食品及びその製造方法の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明による肉様食品は、
(a)組織化植物性たん白、
(b)前記組織化植物性たん白を膨潤させるために必要な水分を少なくとも含む液相、
(c)油脂、及び
(d)アセチル化酸化澱粉
を少なくとも含んでなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明による肉様食品の製造方法は、
(1)膨潤化した組織化植物性たん白を用意する工程、
(2)工程(1)で用意した膨潤化した組織化植物性たん白に油脂及びアセチル化酸化澱粉を添加する工程、そして
(3)工程(2)で得られた混合物を成形する工程
を少なくとも含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、咀嚼したときに独特の繊維のほぐれを感じさせる肉様食品、さらに好ましくはジューシー感を備える肉様食品が提供される。本発明によれば、動物性たん白質に頼らない疑似肉様食品が実現でき、さらに安定的な大量生産が可能であるとの有利な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の魚切身様食品の破断曲線である。
図2】本発明の魚切身様食品に対し、アセチル化酸化澱粉を含まない組成の魚切身様食品の破断曲線である。
図3】本発明の魚切身様食品に対し、アセチル化酸化澱粉及び油脂を含まない組成の魚切身様食品の破断曲線である。
図4】秋鮭の切身の破断曲線である。
図5】市販のカマボコの破断曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
肉様食品
本発明による肉様食品は、それ自体直ちに食品として供することができるものに加え、食品の素材としてさらに何らかの加工・調理の上で食品として供されるもののいずれも意味する。したがって、本発明による肉様食品の「食品」の語句は、食品素材、食品原料を含めた広義の意味で用いる。
【0016】
魚肉や、一部の食肉、例えば鶏肉は、噛んだ当初、弾力を感じ、その後、独特の組織のほぐれ感があり、同時に水分及び油分成分がしみだしてくる食感を与える。本発明による肉様食品は、これらと比較し同等の又は近い食感を備える。すなわち、本発明による肉様食品は、咀嚼したときに独特の繊維のほぐれを感じさせ、さらに好ましくジューシー感を与える。その結果、本発明による「肉様食品」は、魚肉や食肉の代替食品として、すなわち動物性たん白質に代えて植物性たん白質を摂取可能な食品として有用なものとなる。なお、本明細書において食肉とは、畜肉(牛肉、豚肉、馬肉、めん羊肉、山羊)、家兎肉、食鳥肉を含む意味に用いる。また、本明細書にあって、「魚切身」は「魚肉」と同様の意味に用いる。
【0017】
本発明による肉様食品が、魚肉や、一部の食肉同様の「食感」を備える事実は、後記する実施例において、その破断曲線と弾性率との測定結果から明らかにされている。このような本発明による肉様食品の「食感」は、以下に説明する成分及び好ましくはその量比により実現される。
【0018】
組織化植物性たん白
本発明による肉様食品が含む「組織化植物性たん白」とは、植物性たん白を組織化処理し一定方向の繊維状ないし薄膜状の構造を与えたものである。好ましくは、後記するように、粒状植物性たん白を、それを膨潤させるために必要な水分を少なくとも含む液相で膨潤させ(以下、この操作を「水戻し」ということがある)、さらに例えば破砕により繊維をほぐしたものを意味する。本発明における「組織化植物性たん白」として、例えば日本農林規格(JAS)0838の規定を満たす「粒状植物性たん白」や「繊維状植物性たん白」を典型的には利用することができる。組織化植物性たん白は、例えば大豆、脱脂大豆、小麦、エンドウ、などを原料としたものを利用でき、本発明にあっては粒状大豆たん白が好ましく用いられる。また、組織化されたものであれば、植物性たん白の形状は、粒状、フレーク状、ブロック状、繊維状など、その形態は特に限定されない。また、植物性たん白を膨潤させるための溶液は、水に加え、後記する調味料などの他の成分を含むことができ、肉様食品が含むこのような水溶液成分を本明細書にあっては液相と呼ぶ。
【0019】
本発明による肉様食品が含む組織化植物性たん白の量は、肉様の食感を実現できる範囲で適宜決定されてよいが、本発明の一つの態様によれば、食品原料全体に対して水戻しの前の乾物の組織化植物性たん白の量として20~40重量%程度であることが好ましく、より好ましい下限としては25重量%程度、さらに好ましい下限としては26重量%程度であり、より好ましい上限としては30重量%程度、さらに好ましい上限としては28重量%程度である。
【0020】
油脂
本発明による肉様食品が含む油脂は、上記した組織化植物性たん白の繊維表面に付着して、繊維同士や繊維と後記するアセチル化酸化澱粉を接着させて、食品の成形安定性を付与すると同時に、咀嚼時の圧力によって食品、とりわけ組織化植物性たん白が含んでいた水分を一定の圧力までの間、食品内にとどめる機能を果たすと考えられる。
【0021】
本発明おいて用いられる油脂としては、食用の油脂を用いることができ、例えば、菜種油、大豆油、ひまわり種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂ならびに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、これらの油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化分別油、ならびに酵素エステル交換、触媒によるランダムエステル交換等を施した加工油脂が例示できる。より好ましい例としては、パーム油、大豆白絞油、コーン油、こめ油、オリーブ油、ゴマ油、食用加工油脂、乳化油脂、ショートニング、マーガリンが挙げられる。
【0022】
本発明による肉様食品が含む油脂は、肉様の食感を実現できる範囲で適宜決定されてよいが、本発明の一つの態様によれば、食品原料全体に対して1.5~25重量%程度であることが好ましく、より好ましい下限としては4.0重量%程度、さらに好ましい下限としては6.0重量%であり、より好ましい上限としては23重量%程度、さらに好ましい上限としては20重量%程度である。
【0023】
アセチル化酸化澱粉
本発明による肉様食品が含むアセチル化酸化澱粉は、上記した組織化植物性たん白の繊維間の隙間に入り込んで繊維同士を接着させて、食品の成形安定性を付与すると同時に、咀嚼時の圧力によって繊維同士が剥がれて、繊維のほぐれ感を与えるものと考えられる。
【0024】
本発明による肉様食品が含むアセチル化酸化澱粉は、肉様の食感を実現できる範囲で適宜決定されてよいが、本発明の一つの態様によれば、食品原料全体に対して0.5~16重量%程度であることが好ましく、より好ましい下限としては2重量%程度、さらに好ましい下限としては3重量%であり、より好ましい上限としては15重量%程度、さらに好ましい上限としては13重量%程度である。
【0025】
肉様とするための成分及び他の成分
本発明による肉様食品は、好ましくは、魚肉エキスや食肉エキスなどの調味料、香料、色素を加え、味及び色合いなどが、より魚肉や食肉風となるようにする。例えば、サケのエキス又は香料を加えることで、サケの切身の代替食品となる。味を調えるため、さらに調味料、着色料、香料、その他加工デンプンや粉末状植物性たん白、増粘剤、メチルセルロース、エマルジョン、乳化剤などの食品添加物などを加えることもできる。
【0026】
成形及び食用としての用途
本発明による肉様食品は、型を用いて又は用いずに任意の形状の成形することができる。
【0027】
本発明による肉様食品は、ベジタリアンやビーガン対応の食品としてだけでなく、一般消費者向けの魚肉や食肉の代用食品として用いることができる。本発明による肉様食品は、そのまま食品として食することも可能であり、また食品素材として用いることもできる。例えば、フライの具材、ハンバーグやメンチカツ、フィッシュフライ、つくねや、餃子、焼売、春巻、パイなどの代用食品素材として用いることができ、それに適しまた魚切身や食肉などの類似の形状に成形されてよい。さらに、本発明による肉様食品は、魚肉又は食肉に添加して、いわゆる食品の増量材として用いることができ、例えば、魚肉や食肉をミンチ処理したものと混ぜ合わせて、上記したハンバーグやメンチカツ、フィッシュフライ、つくねや、餃子、焼売、春巻、パイ等の中種として使用されてもよい。
【0028】
肉様食品の製造方法
本発明による肉様食品の製造方法は、以下に示す工程(1)から工程(3)を基本的に含んでなる:
(1)膨潤化した組織化植物性たん白を用意する工程、
(2)工程(1)で用意した膨潤化した組織化植物性たん白に油脂及びアセチル化酸化澱粉を添加する工程、そして
(3)工程(2)で得られた混合物を成形する工程。
【0029】
工程(1)
「膨潤化した組織化植物性たん白」を用意する工程である。ここで「膨潤化した組織化植物性たん白」は、組織化植物性たん白を膨潤させるために必要な水分を少なくとも含む溶液を、例えば粒状、フレーク状、ブロック状とした組織化植物性たん白に加えて、必要に応じて撹拌して、膨潤させることにより行われる。
【0030】
なお上記操作において用いられる溶液は、任意成分としての調味料等の添加物を含む水溶液であってもよい。
【0031】
次にこのようにして得た「膨潤化した組織化植物性たん白」を、任意の工程として、粉砕して繊維をほぐれさせる。粉砕は、好ましくはせん断力を加えることで行い、例えば、ミキサー、フードプロセッサーなどにより行われる。
【0032】
工程(2)
工程(1)で用意した膨潤化した組織化植物性たん白に、油脂及びアセチル化酸化澱粉を添加して混合する工程である。添加の方法及び混合の方法は特に限定されず、必要量を均一に植物性たん白に添加できればよく、一括して又は分割して添加してもよく、混合は添加しながら、または添加後にされてもよい。
【0033】
任意の成分としての調味料等の添加物は、この工程(2)における油脂及びアセチル化酸化澱粉の添加の前に、同時に、又はその後に、行われてよい。
工程(3)
工程(2)で得られた混合物を成形する工程である。成形は、型を用いて又は用いずに任意の形状の成形することができる。型を用いた成形は、例えば、型に物理的に押し込む方法、型に入れ加熱して主にアセチル化酸化澱粉又は他の熱凝固の性質を有する添加成分により成形することができる。形状の例としては、多面体や角柱状、円柱状など任意の形状の型に混合物を押し込むことによって、再現性のある形状にするだけでなく、人の手を用いて不定形な形状に成形してもよい。
【0034】
本発明品は喫食時に加熱するだけでなく、製造時に加熱してもよく、本発明の一つの態様によれば、湿式加熱、乾式加熱いずれかを取ってもよい。湿式加熱する場合、その温度は60~100℃が好ましく、より好ましくは80~100℃であり、乾式加熱する場合、その温度は150~230℃が好ましく、より好ましくは160~200℃ある。
【0035】
他の成分の添加
上記したとおり、本発明による肉様食品は、魚肉エキスや食肉エキスなどの調味料、香料、さらに調味料、着色料、香料、その他加工デンプンや粉末状植物性たん白、増粘剤、メチルセルロース、エマルジョン、乳化剤などの食品添加物などを加えることができる。これら任意成分の添加は、上記工程(1)又は(2)において行うことができる。
【実施例
【0036】
本発明を以下の例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下単に%とあるのは特に断りのない限り質量%をいうものとする。
【0037】
実施例1
(1)魚切身様食品の製造
下記表1の組成の組成物を調整した。すなわち、ブロック状に成形された粒状植物性たん白(アペックス2000SP:不二製油株式会社)を、下記表1に記載の食塩及び色素を含んだ水で水戻しした後に、ミキサーで粉砕した。混合物に食用パーム油(パームエースN:不二製油株式会社)及びアセチル化酸化澱粉(日食TSK-13:日本食品化工株式会社)を添加した。
【表1】
【0038】
得られた組成物30gを取り、上辺40mm、下辺60mm、高さ40mmの台形状で、厚み15~20mmの形とし、それを樹脂袋に入れ、90℃で10分間蒸煮した。芯温が75℃以上であることを確認した。蒸煮後は袋のまま室温(20℃~25℃)で3時間程度静置し、次の官
能検査直前に袋から取り出した。
【0039】
(2)官能検査評価
訓練を受けたパネリスト14名が試食し、以下評価基準で点数付けした。
1点:食感がぼろぼろ、または食感が鮭フレークのようにバラバラに感じるもの。
2点:秋鮭の切身よりも食感がやや脆いが、1点と定義されるものよりまとまっているもの。
3点:秋鮭の切身と同じまたは近いと感じるもの。
4点:秋鮭の切身よりも食感が硬いが、5点と定義されるものよりもまとまりが弱いもの。
5点:澱粉の食感が前面に出ていて、もっちりとした食感、または固まり過ぎているように感じるもの。
【0040】
結果は下記の表に示されるとおりであった。
【表2】
【0041】
平均点2.5から3.5を魚切身様食品の目安とすると、試料1-2、1-3及び1-4が望ましいものと評価できる。
【0042】
実施例2
(1)魚切身様食品の製造
下記表3の組成とした以外は、実施例1と同様にして組成物を調整した。
【表3】
【0043】
得られた組成物30gから、実施例1と同様にして、魚切身様食品を調製し、次の官能検査試験に供した。
【0044】
(2)官能検査評価
訓練を受けたパネリスト14名が試食し、以下評価基準で点数付けした。
1点:食感がパサパサ、または油分が少なくてまとまりに欠けるように感じるもの。
2点:秋鮭の切身よりも食感がややパサパサしているが、1点と定義されるものよりまとまっているもの。
3点:秋鮭の切身と同じまたは近いと感じるもの。
4点:秋鮭の切身よりもやや食感がベタつくが、5点と定義されるものよりも油感が弱いもの。
5点:油感が前面に出ていて、油っぽい食感(おにぎりの具のツナマヨネーズのような)、またはベタベタし過ぎているように感じるもの。
【表4】
【0045】
平均点2.5から3.5を魚切身様食品の目安とすると、試料2-2、2-3及び2-4が望ましいものと評価できる。
【0046】
実施例3
(1)魚切身様食品の製造
下記表5の組成とした以外は、実施例1と同様にして組成物を調整した。
【表5】
【0047】
得られた組成物30gから、実施例1と同様にして、魚切身様食品を調製し、次の官能検査試験に供した。
【0048】
(2)官能検査評価
訓練を受けたパネリスト14名が試食し、以下評価基準で点数付けした。
1点:食感がドロドロ、または柔らかい、あるいは水っぽく感じるもの。
2点:秋鮭の切身よりも食感がやや柔らかいが、1点と定義されるものよりまとまっているもの。
3点:秋鮭の切身と同じまたは近いと感じるもの。
4点:秋鮭の切身よりも食感が硬いが、5点と定義されるものよりも食感が弱いもの。
5点:ボロボロとした食感、または硬い、あるいは噛み切れないように感じるもの。
【表6】
【0049】
平均点2.5から3.5を魚切身様食品の目安とすると、試料3-2、3-3及び3-4が望ましいものと評価できる。
【0050】
実施例4
(1)魚切身様食品の製造
下記表7の組成とした以外は、実施例1と同様にして組成物を調整した。
【表7】
【0051】
得られた組成物30gから、実施例1と同様にして、魚切身様食品を調製し、次の官能検査試験に供した。
【0052】
(2)官能検査評価
訓練を受けたパネリスト14名が試食し、以下評価基準で点数付けした。
1点:食感がドロドロ、または柔らかいように感じるもの。
2点:秋鮭の切身よりも食感がやや柔らかいが、1点と定義されるものよりまとまっているもの。
3点:秋鮭の切身と同じまたは近いと感じるもの。
4点:秋鮭の切身よりもやや食感がボロボロしているが、5点と定義されるものよりもまとまった食感に感じられるもの。
5点:食感がボロボロ、またはまとまりを感じられないもの。
【表8】
【0053】
平均点2.5から3.5を魚切身様食品の目安とすると、試料4-2、4-3、4-4及び4-5が望ましいものと評価できる。
【0054】
実施例5
実施例1の試料1-3の組成において、油脂を下記の油脂に置き換えた以外は同様にして魚切身様食品を調製した。以下、油脂の種類、商品名、及び製造元の順で記載する。
試料5-1:大豆白絞油、J 大豆白絞油NS バラ、株式会社J-オイルミルズ
試料5-2:コーン油、コーンサラダ油 ノンシリコン、辻製油株式会社
試料5-3:こめ油、日清こめ油、日清オイリオグループ株式会社
試料5-4:オリーブ油、BOSCOオリーブオイル Pure&Mild、日清オイリオグループ株式会社
試料5-5:ごま油、金印純正ごま油、かどや製油株式会社
試料5-6:食用加工油脂、エマテックN-100V、理研ビタミン株式会社
試料5-7:ショートニング、ニュートロマスターS、不二製油株式会社
試料5-8:マーガリン、明治ケーキマーガリン、株式会社明治
【0055】
(2)官能検査評価
訓練を受けたパネリスト14名が試食し、以下評価基準で点数付けした。
1点:食感が油感を感じずにパサパサしたように感じるもの。
2点:秋鮭の切身よりも食感がややパサつくが、1点と定義されるものよりジューシーさを感じられるもの。
3点:秋鮭の切身と同じまたは近いと感じるもの。
4点:秋鮭の切身よりも食感にやや油感が出ているが、5点と定義されるものよりもまとまった食感に感じられるもの。
5点:食感がベタベタして過度に油感を感じ、ツナの缶詰のように感じるもの。
【表9】
以上から明らかなとおり、実施例1の試料1-3とほぼ同等の魚切身様食品が得られた。
【0056】
実験例6
実施例1の試料1-3の組成において、植物性たん白を下記に置き換えた以外は同様にして魚切身様食品を調製した。以下、植物性たん白の商品名、製造元、たん白質原、形状、粉砕工程の有無の順で記載する。ここで、植物性たん白について「粉砕未実施」とは、水戻しの後、ミキサーで粉砕する工程を実施しなかったことを意味する。
試料6-1:アペックス110:不二製油株式会社、大豆、ブロック状、粉砕実施
試料6-2:LORY TEX SCM 110、ユニテックフーズ株式会社、小麦、繊維状、粉砕実施
試料6-3:ニュートラリス T70S、ロケットジャパン株式会社、エンドウ、粒状、粉砕実施
試料6-4:ニューソイミーS20F、日清オイリオグループ株式会社、大豆、粒状、粉砕未実施
試料6-5:LORY TEX SCM 110、ユニテックフーズ株式会社、小麦、繊維状、粉砕未実施
【0057】
(2)官能検査評価
訓練を受けたパネリスト14名が試食し、以下評価基準で点数付けした。
1点:食感がボロボロしてまとまりが無い、またはバラバラしているように感じるもの。
2点:秋鮭の切身よりも食感がややボロボロしているが、1点と定義されるものよりまとまっているもの。
3点:秋鮭の切身と同じまたは近いと感じるもの。
4点:秋鮭の切身よりも食感が硬いが、5点と定義されるものよりも食感が弱いもの。
5点:食感が硬い、またはまとまり過ぎているように感じるもの。
【表10】
植物性たん白の基材が大豆以外でも利用出来、植物性たん白の原料段階での形状は問わず、植物性たん白の繊維を粉砕によってほぐれさせなくても利用出来るものと考えられ、植物性たん白と水の比率、アセチル化酸化澱粉の量、油脂量を増減させることで、食感を調整出来ることも示された。この中で、試料6-4はホッケまたは鶏肉のような食感に近いという評価を得たため、植物性たん白の原料段階での形状、繊維の粉砕の度合い等の調整により、各種の魚肉や食肉への汎用性があることが示唆された。
【0058】
実施例7
実施例1の試料1-3の組成において、アセチル化酸化澱粉を、下記のいずれもアセチル化酸化澱粉とは異なる澱粉に置き換えた以外は同様にして魚切身様食品を調製した。以下、澱粉名、商品名、製造元の順で記載する。
試料7-1:リン酸架橋澱粉、PB-2000、日澱化學株式会社
試料7-2:ヒドロキシプロピル澱粉、G-800、日澱化學株式会社
試料7-3:酢酸澱粉、アクトボディEAT-2、株式会社J-オイルミルズ
試料7-4:生澱粉、フードスターチ T、松谷化学工業株式会社
【0059】
(2)官能検査評価
訓練を受けたパネリスト14名が試食し、以下評価基準で点数付けした。
1点:食感がボロボロ、または食感が鮭フレークのようにバラバラに感じるもの。
2点:秋鮭の切身よりも食感がやや脆いが、1点と定義されるものよりまとまっているもの。
3点:秋鮭の切身と同じまたは近いと感じるもの。
4点:秋鮭の切身よりも食感が硬いが、5点と定義されるものよりもまとまりが弱いもの。
5点:澱粉の食感が前面に出ていて、もっちりとした食感、または固まり過ぎているように感じるもの。
【表11】
比較のため試料1-3ともに評価した。以上から明らかなとおり、実施例1の試料1-3と比較すると、アセチル化酸化澱粉以外の澱粉では、魚切身のような食感は得られなかった。
【0060】
実験例8
実施例1の試料1-3を用意した(試料8-1)。さらに、実施例1の試料1-3の組成からアセチル化酸化澱粉を含まないもの(試料8-2)、アセチル化酸化澱粉及び油脂を含まないもの(試料8-3)を用意した。また、比較品として、紅鮭の切身(試料8-4)、市販のカマボコ(試料8-5)を用意した。
【0061】
実施例1と同様に組成物を得て、組成物20gから、直径41mmの円筒状で、厚みを15~20mmの魚切身様食品を得た。また、紅鮭とカマボコは30mm角で、厚み20mmに切り出した。これらを実施例1と同様に樹脂袋へ入れ、75%脱気して封をし、袋のまま蒸煮(蒸煮条件:90℃ 10分間)し、芯温は75℃以上を確認した。蒸煮後は袋のまま室温(20℃~25℃)にて3時間程度静置した。検体を5個ずつ作成して以下の測定に供した。
【0062】
破断計
破断計を用いて、以下の条件で破断曲線及び弾性率を測定した。
・クリープメータ(RE2-33005S:株式会社山電)
・検体は枠に収めずに測定
・プランジャーは直径3mmの樹脂製
・測定速度10秒
・測定歪率50%
・歪率0~50%内での応力を示した破断曲線(喫食行動での奥歯で噛みしめた際を想定)
・破断曲線から導かれた弾性率(喫食行動での前歯で噛み込む瞬間(伸展率)を想定)
【0063】
破断曲線は図1乃至図5に示されるとおりであった。試料8-1が、紅鮭切身と近い波形を示したが、他の試料は異なる波形であった。
【0064】
弾性率の平均は以下の表に示されるとおりであった。
【表12】

【要約】
【課題】 魚肉や食肉の代替食品として、すなわち動物性たん白質に代えて植物性たん白質を摂取可能な食品として有用な肉様食品及びその製造方法の提供。
【解決手段】 (a)組織化植物性たん白、(b)前記組織化植物性たん白を膨潤させるために必要な水分を少なくとも含む液相、(c)油脂、及び(d)アセチル化酸化澱粉を少なくとも含んでなる肉様食品は、咀嚼したときに独特の繊維のほぐれを感じさせ、ジューシー感を備え、魚肉及び食肉代替食品並びにその素材として有用である。
【選択図】 図1

図1
図2
図3
図4
図5