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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞由来細胞外小胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20231011BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231011BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20231011BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20231011BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20231011BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 15/40 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20231011BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
A61K35/50
A61K35/51
A61P9/10
A61P9/00
A61P37/02
A61P3/10
A61P37/06
A61P7/06
A61P25/00
A61P21/00
A61P21/04
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P9/04
A61P1/16
A61P13/12
A61P11/00
A61P43/00 105
A61P17/00
A61P17/02
A61P1/04
A61K8/98
A61Q19/00
A61L27/36 100
A61L27/38
A61L27/38 300
A61L27/40
A61L15/40 100
A61L31/00
A61L31/12
A61K9/14
A61K47/44
A61K47/30
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020570020
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2019065232
(87)【国際公開番号】W WO2019238693
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/000796
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】519210468
【氏名又は名称】ヘルス、アンド、バイオテック、フランス(アッシュ、アンド、ベー、フランス)
【氏名又は名称原語表記】HEALTH AND BIOTECH FRANCE(H & B FRANCE)
(73)【特許権者】
【識別番号】522450510
【氏名又は名称】ベイジン、ヘルス、アンド、バイオテック、ステム、セル、テクノロジカル、コーポレーション、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】アンヘリータ、デ、フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ゾンチャオ、ハン
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-503375(JP,A)
【文献】Journal of Proteomics,2017年,166(2017),115-126
【文献】J Transl Med,2015年,13:308,p.1-14
【文献】BioMed Research International,2017年,Volume 2017, Article ID 5356760,p.1-12
【文献】Cells Tissues Organs,2017年,2007;186:169-179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 47/00
C12N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(i)成長因子を欠いた第1の培養培地中の生体組織または生体液から得られた間葉系幹細胞を培養して、培養未分化間葉系幹細胞(MSC)の集団を作製する工程、
(ii)前記培養未分化間葉系幹細胞の集団を、IL1βおよびIL4の混合物を含有する第2の培養培地と接触させることにより、CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(前記CD106 high CD151 ネスチン 間葉系幹細胞の60%超が検出レベルでCD106を発現する)を作製する工程、
(iii)前記MSCを、それらの増殖を許す条件下で、EV不含培養培地中で培養する工程;
および
(iv)工程(iii)で得られた細胞からEVを精製する工程
によって得られた細胞外小胞(EV)を含んでなる、組成物。
【請求項2】
前記EVが、胎盤、臍帯もしくは胎盤膜(絨毛膜、羊膜)またはそれらの成分から選択される生体組織に由来する、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの生体液に由来する未分化MSCから得られたものである、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記EVが、臍帯に由来する未分化MSCから得られたものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記EVが、胎盤に由来する未分化MSCから得られたものである、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器の傷害もしくは障害または臓器機能不全に罹患している対象を治療するために使用するための、請求項1~のいずれか一項に定義される組成物。
【請求項6】
前記疾患または障害が、I型糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、変形性関節症、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症虚血肢、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性障害、癒着および子宮内膜障害からなる群において選択される、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記疾患または障害が、皮膚または粘膜の疾患または障害である、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に定義されるEVを含有する、医薬、獣医学、診断または化粧組成物。
【請求項9】
ヒドロゲルまたは他の生体適合性材料をさらに含有する、請求項に記載の医薬または獣医学組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に定義されるEVを含有する、局所製剤。
【請求項11】
虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、線維性障害、臓器傷害または臓器機能不全に罹患している対象を治療するために使用するための、請求項もしくはに記載の医薬組成物または請求項10に記載の局所製剤。
【請求項12】
I型糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、変形性関節症、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症虚血肢、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性障害、癒着および子宮内膜障害からなる群において選択される疾患または障害に罹患している対象を治療するために使用するための、請求項もしくはに記載の医薬組成物または請求項10に記載の局所製剤。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に定義されるEVを含有する、皮膚用または化粧組成物。
【請求項14】
皮膚もしくは粘膜の細胞再生に使用するための、皮膚もしくは粘膜の側面を改善するための、または暗色斑、斑点、座瘡、しわ、乾燥などの皮膚もしくは粘膜の欠損を是正するための、請求項13に定義される皮膚用または化粧組成物。
【請求項15】
熱傷(burn)、瘢痕、血管腫、黒子または疣贅などの皮膚の傷害または障害治癒に使用するための、請求項13に定義される皮膚用または化粧組成物。
【請求項16】
請求項1~のいずれか一項に定義されるEVを含有する、医療機器。
【請求項17】
前記医療機器が、包帯、パッチ、ステント、内視鏡またはシリンジである、請求項16に記載の医療機器。
【請求項18】
請求項1~のいずれか一項に定義されるEVを含有する、送達システム。
【請求項19】
前記送達システムが、生体高分子、脂質またはナノ粒子のマイクロベシクルまたはナノベシクルである、請求項18に記載の送達システム。
【請求項20】
細胞外小胞(EV)を調製する方法であって、以下の工程:
(i)成長因子を欠いた第1の培養培地中の生体組織または生体液から得られた間葉系幹細胞を培養して、培養未分化間葉系幹細胞(MSC)の集団を作製する工程、
(ii)前記培養未分化間葉系幹細胞の集団を、IL1βおよびIL4の混合物を含有する第2の培養培地と接触させることにより、CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(前記CD106 high CD151 ネスチン 間葉系幹細胞の60%超が検出レベルでCD106を発現する)を作製する工程、
(iii)前記MSCを、それらの増殖を許す条件下で、EV不含培養培地中で培養する工程;
および
(iv)工程(iii)で得られた細胞からEVを精製する工程
を含んでなる、方法。
【請求項21】
前記未分化MSCが、胎盤、臍帯もしくは胎盤膜(絨毛膜、羊膜)またはそれらの成分から選択される生体組織に由来する、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの生体液に由来する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記未分化MSCが、外植片組織からの細胞単離によって得られたものである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記未分化MSCが、臍帯に由来する、請求項2022のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記未分化MSCが、胎盤に由来する、請求項2023のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記第2の培養培地が、1~100ng/mlのインターロイキン1βを含有する、請求項2024のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記第2の培養培地が、1~100ng/mlのインターロイキン4を含有する、請求項2025のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記EV不含培養培地が、IL1βおよびIL4の混合物で補充されている、請求項2026のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
EVが限外濾過によって精製される、請求項2027のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
要約
本発明は、胎盤組織由来CD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞(MSC)の細胞外小胞(EV)を含んでなる組成物を開示する。
【0002】
第1の側面において、本発明は、これらのEVを調製する特定の方法に関する。
【0003】
第2の側面において、本発明は、前記特定の方法により得られた細胞外小胞(EV)を含んでなる治療、診断、獣医学または化粧組成物に関する。
【0004】
第3の側面において、本発明は、虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器傷害または臓器機能不全に罹患している対象を治療するための薬剤として使用するための、これらのEVを含んでなる組成物に関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
損傷組織の修復および再生のための間葉系幹細胞(MSC)の治療可能性が、前臨床ステージおよび臨床ステージの両方において広く研究されている。MSCは、免疫調節活性および再生促進活性を媒介する。例えば、MSCは、上皮形成、血管新生および肉芽組織形成を促進することによって、糖尿病マウスにおける創傷治癒を改善することが示されている。他の研究では、骨髄由来MSCが、血管新生および瘢痕縮小を促進することによって、慢性創傷を含む創傷の治療に有効であることが示されている。慢性非治癒性創傷を有する患者に、骨髄または臍帯に由来するMSCを直接適用すると、創傷閉鎖および皮膚再構成がもたらされる。
【0006】
特に、PCT/EP2017/082316は、例えば、血管疾患および創傷などのいくつかの治療応用に向けてのCD106highCD151ネスチンMSCを調製する方法を示している。これらのMSCは、他の活性の中でも、血管新生促進活性の亢進を示す。
【0007】
MSCの治癒特性の根底にある機序が研究されている。興味深いことに、創傷治癒アッセイを用いて得られたShabbirらの以前の結果は、MSC自体が損傷組織(線維芽細胞)を置き換えるように分化すると結論付けられるものではなかった。代わりに、MSCは、治癒過程の不可欠な部分である線維芽細胞の遊走を、直接的な接触をすることさえなく、促進することが示されている(Shabbir & al 2015)。これは、MSCと損傷細胞との間のパラクリンシグナル伝達の重要性を強調するものである。
【0008】
このパラクリン効果は、MSCによる種々の因子および細胞外小胞(EV)の分泌の結果であると考えられる。これらの小胞は、元のMSCと類似する脂質二重膜を含んでなり、種々のタンパク質、このMSCに由来するRNAメッセンジャーおよびmiRNA(カーゴ)、修復および再生の内因性機序を亢進する因子を運搬する。
【0009】
エキソソームおよびマイクロベシクルなどの細胞外小胞(EV)は、免疫生物学的過程におけるシグナル伝達メディエーターとして作用する、細胞のこれらのパラクリン効果の主要なメディエーターとして、実際に以前に同定されている(Raposo & al 1996)。それ以降、EVは、種々の免疫細胞型間の相互作用および腫瘍細胞と免疫細胞の間の相互作用も媒介することが見出されている。EVは、細胞源に応じて、炎症促進性応答を促進または抑制し得る。
【0010】
細胞、特にMSCは、多数の異なる小胞型をそれらの細胞外環境に放出し得る。総称してEVといわれるが、これには、エキソソーム(30~150nm)、形質膜から出芽して生じるマイクロベシクル(100~1,000nm)およびアポトーシス小体(>500nm)が含まれる。EVは、脂質、タンパク質およびRNAを含有する。EVは、生理学的および病態生理学的情報交換過程において標的とする細胞間シグナル伝達を媒介する。
【0011】
MSCから単離されたEVは、細胞を患者に投与する際のリスクおよび困難さを伴わずに、幹細胞の治療効果を得るための新しい戦略として勢いを増してきている。MSC-EVは、以下のような他の細胞製品を上回るいくつかの重要な利点を実際にもたらし、これにより、EVを臨床に移す試みが正当化される。
- MSC-EVは、安全に投与することができる。
【0012】
MSC-EVは、ますます多くの異なる動物モデルに適用されてきており、ステロイド抵抗性急性移植片対宿主病(急性GvHD)に罹患している患者および慢性腎臓病を有する患者コホートにおいて試験されている(Giebel & al 2017)。今までのところ、MSC-EVの投与は、ヒトおよび総ての試験した動物モデルにおいて安全であると思われる。
【0013】
細胞製品とは対照的に、EVは自己複製することができず、このため、いかなる内因性腫瘍形成能も欠いている。
【0014】
細胞の生物学的特徴および機能は、環境因子によって影響され、再プログラム化され得ることが知られている。EVは精巧な代謝活性を欠くため、それらの機能は、環境によって再プログラム化され得る可能性が低いと思われる。このため、EVの生物活性および機能特性は、細胞よりもより正確に定義および制御することができる。
【0015】
平均サイズが200nm未満であるEVは、濾過により滅菌することができる。これにより、それぞれの治療の生物学的汚染のリスクが大幅に低減される。
- EVは、細胞よりも取扱いがかなり容易である。
【0016】
凍結、解凍および保存の条件は、EVでは細胞よりも重要ではないと思われる。細胞移植のベッドサイド調製に関しては、個人が特別に訓練されていなければならないが、これは、EVベースの治療のベッドサイド調製では不要である可能性もある。
【0017】
治療用EVは、細胞株の上清から製造され得るが、その細胞株の細胞は、細胞療法自体に使用するべきではない。よって、EVは、細胞治療よりもかなり容易なスケールの様式で製造することができる。
【0018】
無細胞療法へのMSC由来EVの使用が活発化しており(Phinney & Pittenger - Stem Cells. 2017)、以下のようないくつかの研究が、血管新生におけるMSCにより分泌されたEVの役割を実証している。
- exosomes secreted by MSCs promote endothelial cell angiogenesis by transferring miR-125a (Liang an al. J. Cell Sci. 2016)、
- exosomes released from human induced pluripotent stem cells-derived MSCs facilitate cutaneous wound healing by promoting collagen synthesis and angiogenesis (Zhang, J.& al. 20152015)、
- MSC exosomes induce proliferation and migration of normal and chronic wound fibroblasts, and enhance angiogenesis in vitro (Shabbir & al.2015)、
- Human umbilical cord MSC exosomes enhance angiogenesis through the WNT4/catenin pathway (Zhang, B. & al.. 2015)。
【0019】
2017年のThan UTTらのレビューでは、EVが創傷治癒に必要な多数の細胞過程の制御に関与していることを実際に示している他の試験を報告している。特に、EVは、凝固、細胞増殖、遊走、血管新生、コラーゲン産生および細胞外マトリックスのリモデリングに影響を及ぼし得る。元の分泌細胞からの情報の伝達に加えて、EVのmRNAおよびmiRNAは、増殖、血管新生およびアポトーシスを含む生物学的過程も促進し得る。
【0020】
創傷治癒にとって必須の過程である細胞増殖のEVによる調節は、MSC、線維芽細胞、マウス胚性幹細胞およびヒト内皮前駆前駆細胞などの多数の細胞型に由来するEVで示されている。特に、線維芽細胞によるMSC-EVの内部移行は、正常ドナーであれ、慢性創傷を有する患者であれ、これらの線維芽細胞の増殖および遊走の用量依存的増大をもたらす。
【0021】
EVは、細胞周期の刺激に直接関与するシグナル伝達経路だけでなく、成長因子の発現の調節に関与するシグナル伝達経路も活性化することによって、細胞増殖を促進し得る。さらに、成長因子のこの過剰発現は、パラクリンまたはオートクリンシグナルとして作用し、次々に細胞増殖を刺激し得る。
【0022】
血管の修復および再生にとって非常に重要な内皮細胞の遊走は、ケラチノサイトまたはヒトCSMなどの細胞から放出されたEVによって影響を受けることも示されている。
【0023】
あらゆる種類のEV(マイクロベシクルおよびエキソソーム)が、血管新生促進因子の発現を増大させることによって、血管形成の調節に様々な程度で寄与している。例えば、ヒト胚性MSCおよびヒト内皮細胞によって放出されたエキソソームは、創傷部位への内皮細胞の増殖および遊走を促進することによって、血管新生を亢進する。エキソソームで治療された部位には、対照治療と比較して、多数の血管が認められた。
【0024】
これらのアッセイの総てが、MSC-EVは、創傷の治療および再生血管医学において安全に使用できることを示唆している。
【0025】
Dongdong Tiら(Journal of translational medicine, 2015)は、炎症促進性因子LPSでプレコンディショニングされた臍帯MSCから精製された細胞外小胞を説明した。
【0026】
Yunbing Wuら(BioMed Research International, 2017)は、ヒト臍帯から得られた非刺激間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞の抗炎症特性を説明した。
【0027】
これらの2つの刊行物のいずれも、CD106血管新生マーカーに富むEVを得るために、MSCを刺激するためにIL1βおよび/またはIL4を添加することを提案していない。
【0028】
より一般的に、MSCの血管新生促進特性を改善することはおろか、MSCをIL4で処理することをかつて提案した先行技術文献はない。この文脈において、本発明者らは、WO2018/108859において、MSCをIL4およびIL1βで培養すると、CD106などの血管新生促進表面マーカーの表面レベルが有意に意外にも増加することを示している。特に、WO2018/108859の実施例4に示されるように、IL1βとIL4の組合せで認められたCD106発現の増加は、IL1β単独で認められた増加より3倍高い。また、IL1βとIL4の組合せで認められたCD106発現の増加は、IL4単独で認められた増加より5倍高い。これは、以前には認められたことがなかった。
【0029】
本明細書に記載の本発明は、PCT/EP2017/082316(WO2018/108859)に記載の方法に従って製造されたCD106highCD151ネスチンMSCの血管新生促進活性および抗炎症活性は、これらのMSCに由来するEVによって実質的に伝達されることを実証している。したがって、本発明者らは、-EVを産生するMSCとして-EVは亢進したレベルの血管新生促進/炎症促進性表面タンパク質を発現するため、これらのEVを含有する生物学的製品の使用を提案する。したがって、この生物学的製品は、臨床現場および産業現場における使用に拘束されることなく、起源のMSCと同じ亢進した血管新生促進活性を示す。
【0030】
その治療可能性に加えて、EVは、特に癌の診断におけるバイオマーカーとして使用することができる。癌をエキソソームと関連付けて現在進行中の35件の臨床試験のうち、およそ3分の2が診断に関するものであり、残りが治療に関するものである(Roya & al 2018)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
したがって、第1の側面において、本発明は、PCT/EP2017/082316(WO2018/108859として刊行)に記載の方法に従って製造されたCD106highCD151ネスチンMSCの細胞外小胞(EV)を含んでなる組成物に関する。
【0032】
この製造方法は、以下の2つの一般工程:
(i)成長因子を欠いた第1の培養培地中の生体組織または生体液から得られた間葉系幹細胞を培養して、培養未分化間葉系幹細胞の集団を作製する工程、
および
(ii)前記培養未分化間葉系幹細胞の集団を、炎症促進性成長因子または炎症性メディエーターを含有する第2の培養培地と接触させることにより、本発明のEVを製造するために使用される目的のCD106highCD151ネスチン間葉系幹細胞を作製する工程
を含んでなる。
【0033】
前記「未分化MSCの集団」は、生体組織または生体液中に存在する単核細胞を回収して、前記単核細胞を第1の培養培地中で成長させることによって、得ることができる。これらの単核細胞は、任意の従来の手段、例えば、周産期組織小片の酵素消化もしくは外植片培養(Otte et al, 2013)、または生体液からの単離(Van Pham et al, 2016)によって得ることができる。
【0034】
外植片培養は、以下の実施例3において公開するような、臍帯からこのようなMSCを導出するための特に好ましい方法である。
【0035】
一般に、この方法は、輸送液からサンプルを取り出し、それを切片(およそ2~3cm長)に切り出し、前記切片を抗生物質および抗真菌剤で殺菌した後、すすぎ、組織を回収して、前記組織の小片を付着させるためにフラスコに入れ(好ましくは、培地不使用、室温)、次いで、付着した外植片に完全培地を慎重に加え、37℃で数日間インキュベートすることを必要とする。遊走した細胞を、適当なツールで最終的に回収し、前記細胞が目標集密度を達成するまで、適当な第1の培地(下記参照)の培養液中で維持した。
【0036】
前記「第1の培養培地」は、生存初代細胞の成長を支持するために一般的に使用される任意の古典的な培地であり得る。好ましくは、前記第1の培養培地は、いずれの成長因子も分化因子も含有しない。
【0037】
当業者には、どの種類の培養培地を「第1の培養培地」として使用できるかを周知である。そのような培養培地は、例えば、DMEM、DMEM/F12、MEM、アルファ-MEM(α-MEM)、IMDMまたはRPMIである。好ましくは、前記第1の培養培地は、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)またはDMEM/F12(ダルベッコ改変イーグル培地:栄養混合物F-12)である。
【0038】
より好ましくは、前記第1の培養培地は、2~20%または2~10%のウシ胎仔血清を含有する。あるいは、前記第1の培養培地は、1~5%血小板ライセートを含有してもよい。最も好ましい培地は、2~20%または2~10%のウシ胎仔血清および1~5%血小板ライセートを含有する。
【0039】
第1の培養培地としては、生存初代細胞の成長を支持する他の適当な剤を含有する場合は、血清または血小板ライセートを欠いた培地を使用することも可能である。
【0040】
好ましい実施形態において、前記「生体組織」は、胎盤組織または臍帯の任意の部分である。特に、前記生体組織は、胎盤葉、羊膜または胎盤の絨毛膜を含み得る、またはそれからなり得る。また、前記生体組織は、臍帯に認められるホウォートンゼリーであり得る。前記生体組織は、静脈および/もしくは動脈を含み得るか、またはそれを欠き得る。
【0041】
別の実施形態において、前記「生体液」は、臍帯血、胎盤血または羊水のサンプルであり、一般に女性または哺乳動物から害を及ぼすことなく採取されたものである。例えば、これらの組織および液は、いずれの侵襲的な処置も用いることなく、乳児または仔の出産後に得ることができる。
【0042】
前記未分化MSCの集団は、優先的に、プラスチック表面に播種された間葉系幹細胞の集団であり、細胞が85~90%の集密度に達するまで、いずれの成長因子も欠いた前記第1の培養培地で培養されたものである。
【0043】
通常、細胞は、表面マーカーCD73、CD90、CD105、CD166、CD45、CD34およびHLA-DRのレベルを検出するために、FACSまたは任意の従来の手段によって表現型的に特徴付けられる。
【0044】
細胞の95%が、陽性表面マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現し、2%未満が、陰性表面マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する場合、細胞をトリプシン処理し、より低密度、例えば、密度1000~5000MSC/cmで、第2の培養培地に再度播種する。
【0045】
好ましくは、前記「第2の培養培地」は、生存初代細胞の成長を支持するために一般的に使用される任意の古典的な培地である。前記第2の培養培地は、「第1の培養培地」と同じ培地であり得るか、または、例えば、DMEM、DMEM/F12、MEM、アルファ-MEM(α-MEM)、IMDMもしくはRPMIの中から選択される別の培地であり得る。より好ましくは、前記第2の培養培地は、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)またはDMEM/F12(ダルベッコ改変イーグル培地:栄養混合物F-12)である。
【0046】
さらにより好ましくは、前記第2の培養培地は、血清または血小板ライセート、例えば、2~20%のウシ胎仔血清および/または1~5%血小板ライセートを含有する。最も好ましい第2の培地は、2~20%のウシ胎仔血清および1~5%血小板ライセートを含有するDMEMである。第2の培養培地としては、生存初代細胞の成長を支持する他の適当な剤を含有する場合は、血清または血小板ライセートを欠いた培地を使用することも可能である。
【0047】
細胞が40~50%の集密度に達した場合、炎症促進性成長因子または炎症性メディエーターを第2の培養培地に加え、細胞が90~95%の集密度に達するまで、前記培地で細胞を培養する。
【0048】
前記「炎症促進性成長因子」は、一般に、炎症促進性効果を有することで知られるインターロイキンまたはケモカインである。第2の培養培地に加えることができるインターロイキンの例としては、TNFα、IL1、IL4、IL12、IL18およびIFNγが挙げられる。第2の培養培地に加えることができるケモカインの例としては、CXCL8、CXCL10、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CCL2およびCCL5が挙げられる。他の炎症性メディエーター(抗炎症剤など)を使用することができる。
【0049】
好ましい実施形態において、少なくとも2種類の炎症促進性成長因子が、上記で定義される第2の培養培地に加えられる。これらの少なくとも2種類の炎症促進性成長因子は、TNFα、IL1、IL4、IL12、IL18およびIFNγからなる群において選択される。さらに好ましい実施形態において、前記炎症促進性成長因子は、IL1、IL4、IL12、IL18の中から選択される。さらにより好ましくは、前記炎症促進性成長因子は、IL1およびIL4である。
【0050】
MSCに加えることができる1種類または複数種類の成長因子の典型的な濃度は、1~200ng/mLの間、好ましくは、1~100ng/mLの間、より好ましくは、10~80ng/mLの間に含まれる。好ましくは、1種類または複数種類の成長因子を用いたMSCの培養工程は、少なくとも1日、より好ましくは、2日継続する。
【0051】
本明細書における用語「IL1」は、インターロイキン1の任意のアイソフォーム、特に、IL1αおよびIL1βを指す。IL1アイソフォームは、意図する用途に応じて、種々の起源のものであってよい。例えば、動物IL1は、獣医学的用途のために使用することができる。好ましくは、IL1βのみが、本発明の第2の培養培地に加えられる。この特定の実施形態において、加えられるインターロイキン1βの濃度は、1~100ng/mLの間、好ましくは、1~50ng/mLの間、より好ましくは、10~40ng/mLの間に含まれ得る。
【0052】
ヒトIL1ベータ(IL1βまたはIL1b)は、アクセッション番号NP_000567.1として参照される。組換えタンパク質が、GMP条件下で市販されている(RnD systems、Thermofisher、Cellgenix、Peprotech)。
【0053】
本明細書における用語「IL4」は、インターロイキン4の任意のアイソフォームを指す。IL4は、意図する用途に応じて、種々の起源のものであってよい。例えば、動物IL4は、獣医学的用途のために使用することができる。
【0054】
ヒトIL4は、アクセッション番号AAA59149として参照される。組換えタンパク質が、GMP条件下で市販されている(RnD systems、Thermofisher、Cellgenix、Peprotech)。
【0055】
異なる炎症促進性成長因子の任意の混合物を、前記第2の培地に使用することができる。特に、以下の実験部分で開示するように、IL1とIL4の混合物、より正確には、IL1βとIL4の混合物を使用することが好ましい実施形態である。
【0056】
この特定の実施形態において、第2の培養培地中で、加えられるインターロイキン1βは、1~100ng/mLの間、好ましくは、1~50ng/mLの間、より好ましくは、10~40ng/mLの間に含まれる濃度を有し、加えられるIL4は、1~100ng/mLの間、好ましくは、1~50ng/mLの間、より好ましくは、10~40ng/mLの間に含まれる濃度を有する。好ましくは、インターロイキン1βおよびIL4を用いた培養工程は、少なくとも1日、より好ましくは、2日継続する。一般に、加えられるインターロイキン1βの濃度は10ng/mLであり、加えられるインターロイキンIL4の濃度は10ng/mLである。したがって、細胞は、好ましくは、インターロイキン1βおよびIL4の両方を10ng/mL含有する培養培地で培養し、この培養工程を、例えば2日継続する。
【0057】
細胞は、それらの製造中に、表面マーカーCD73、CD90、CD105、CD166、CD45、CD34およびHLA-DRのレベルを検出するために、任意の従来の手段によって表現型的に特徴付けられ得る。これらのマーカーは、当技術分野で周知である。これらのマーカーの発現レベルを検出するのに有用な抗体は、総て市販されている。
【0058】
これらの細胞表面マーカーの発現は、ビオチン化を用いた細胞膜染色または他の同等の技法に次いで、特異抗体を用いた免疫沈降、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、ELISAもしくはELISPOT、抗体マイクロアレイ、または免疫組織化学と組み合わせた組織マイクロアレイなどの周知の技術を用いて、特に評価することができる。他の好適な技法としては、FRETまたはBRET、単一または複数の励起波長を用いた、および適合する光学的方法のいずれかを適用した単一細胞顕微鏡的または組織化学的方法、例えば、電気化学的方法(ボルタンメトリー法およびアンペロメトリー法)、原子間力顕微鏡法、ならびに高周波法、例えば、多極共鳴分光法、共焦点および非共焦点の、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、および複屈折または屈折率の検出(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共振ミラー法、格子カプラー導波管法または干渉法)、磁気共鳴画像法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分析;HPLC分画、MALDI-TOF質量分析;液体クロマトグラフィー/質量分析/質量分析(LC-MS/MS)が挙げられる。好ましくは、細胞表面マーカーのレベルは、FACSによって評価する。
【0059】
具体的には、目的のMSCを製造するには、一般に以下の工程:
a)周産期の生体組織または生体液に含まれる単核細胞を回収する工程、
b)前記単核細胞を、好ましくはプラスチック表面で、前記単核細胞が85~90%の集密度に達するまで、第1の培養培地中で成長させる工程、
c)細胞の95%が、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現し、2%未満が、陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現したときに、密度1000~5000MSC/cmで、細胞を第2の培養培地に播種する工程、
d)細胞が40~50%の集密度に達したときに、1~100ng/mLの炎症性メディエーターまたは炎症促進性成長因子を加える工程、
e)細胞が90~95%の集密度に達したときに、細胞を回収する工程
を必要とする。
【0060】
次に、回収した細胞を、表面マーカーCD73、CD90、CD105、CD166、CD45、CD34およびHLA-DRのレベルを検出するために、FACSまたは任意の従来の手段によって表現型的に特徴付けてもよい。前記第1および第2の培養培地は、上記で説明している。
【0061】
前記方法の工程d)において、加えられる1種類または複数種類の成長因子の典型的な濃度は、1~200ng/mLの間、好ましくは、1~100ng/mLの間、より好ましくは、10~80ng/mLの間に含まれる。好ましくは、1種類または複数種類の成長因子を用いた培養工程は、少なくとも1日、より好ましくは、2日継続する。
【0062】
前記方法の工程d)において、加えられるインターロイキン1βまたはIL4の濃度は、1~100ng/mLの間、好ましくは、1~50ng/mLの間、より好ましくは、10~40ng/mLの間に含まれ得る。好ましくは、インターロイキン1βおよびIL4を用いた培養工程は、少なくとも1日、より好ましくは、2日継続する。一般に、加えられるインターロイキン1βの濃度は10ng/mLであり、加えられるインターロイキンIL4の濃度は10ng/mLである。したがって、細胞は、好ましくは、インターロイキン1βおよびIL4の両方を10ng/mL含有する培養培地で培養し、この培養工程を、例えば2日継続する。
【0063】
最後に回収した細胞は、「本発明のMSC」、「目的の細胞培養物」、または「目的のCD106highCD151ネスチンMSC」または「EV産生細胞」という。この細胞培養物は、一般に、CD106を発現する細胞を60%超、好ましくは、60~70%、好ましくは、70%超、好ましくは、80%超、より好ましくは、90%超、さらにより好ましくは、95%超含んでなる。さらに、前記細胞培養物は、CD151を発現する細胞を98%超、好ましくは、99%超含んでなる。さらに、前記細胞培養物は、ネスチンを発現する細胞を98%超、好ましくは、99%超含んでなり、最終的に、前記細胞培養物は、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166を発現する細胞を95%超、好ましくは、96%超、好ましくは、97%超、好ましくは、98%超含んでなり、陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞を2%未満含んでなる。
【0064】
CD106(「血管細胞接着タンパク質1」を意味するVCAM-1としても知られる)は、3種類のアイソフォームを有することで知られる。NP_001069.1、NP_542413.1およびNP_001186763.1が、それぞれアイソフォームa、bおよびcの配列である。この特定のバイオマーカーの発現レベルを検出するための抗体は、市販されている(例えば、Thermofisher、Abcam、OriGenなど)。MSCの表面でのこのマーカーの発現は、MSCの治療的使用に必須である血管新生促進活性を惹起するため、非常に重要である。
【0065】
ネスチンバイオマーカーは、ヒトにおける番号NP_006608.1の下で参照される。この特定のバイオマーカーの発現レベルを検出するための抗体は、市販されている(例えば、Thermofisher、Abcamなど)。
【0066】
CD151バイオマーカーは、ヒトにおける番号NP_620599の下で参照される。この特定のバイオマーカーの発現レベルを検出するための抗体は、市販されている(例えば、Invitrogen、Sigma-Aldrich、Abcamなど)。
【0067】
より具体的には、目的のMSCを製造するには、一般に以下の工程:
a)場合により、複数のドナーから胎盤組織を別々に採取する工程;
b)場合により、1倍PBSを用いて胎盤組織を3回洗浄し、1mm立方体に解剖し、立方体組織を再度洗浄して、組織から血液の大部分を除去する工程。
c)場合により、各ドナーの胎盤組織を別々にコラゲナーゼで消化し、消化組織を遠心分離し、単核細胞を回収する工程、
d)回収した単核細胞を培養培地に播種する工程;
e)細胞が85~90%の集密度に達したときに、細胞をトリプシン処理し、継代する工程;
f)陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166、ならびに陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞のパーセンテージに基づいて、細胞を特徴付ける工程;
g)細胞が、陽性マーカーを少なくとも95%および陰性マーカーを最大2%含んでなる場合、90%ダルベッコ改変イーグル培地/F12-ノックアウト(DMEM/F12-KO)および10%FBSおよび成長因子を含有する培養培地に、播種密度1000~5000MSC/cmで細胞を播種する工程、
h)細胞が40~50%の集密度である場合、1~100ng/mLのインターロイキン1βおよび場合により1~100ng/mLのIL4を加える工程;
i)細胞が90~95%の集密度に達したときに、細胞をトリプシン処理し、回収する工程;および
j)場合により、陽性マーカーCD73、CD90、CD105およびCD166、ならびに陰性マーカーCD45、CD34およびHLA-DRを発現する細胞のパーセンテージに基づいて、細胞を特徴付ける工程
を必要とする。
【0068】
これらの方法によって得られた細胞は、次に、本発明のEVを製造するために使用される。
【0069】
細胞外小胞(EV)は、サイズがおよそ30nm~数μmの範囲の細胞小胞を指す一般的な用語である。とりわけ、エキソソームは、最も顕著に説明されるクラスのEVを含んでなる。エキソソームは、約150nm未満の直径を有し、エンドソーム区画の派生物である。EVは、親細胞に由来するサイトゾルタンパク質および膜タンパク質を含有する。EVのタンパク質含量は、EVの細胞起源に依存し、EVは、特定の分子、特に、エンドソーム関連タンパク質(例えば、CD63)および多小胞体形成に関与するタンパク質に富むが、標的/接着分子も含有する。注目すべきことに、EVは、タンパク質だけでなく、機能性mRNA、長鎖ノンコーディングRNAおよびmiRNAも含有し、いくつかの場合において、EVは、これらの遺伝物質をレシピエント細胞に送達することが示されている。
【0070】
「細胞外小胞」または「EV」とは、細胞の形質膜から細胞の微小環境中に細胞によって放出される膜小胞、または細胞膜溶解後に回収される細胞内小胞を意味する。本発明の文脈において、EVは一般に、約500nm以下、特に、約30~約500nm、または約40~約500nm、または約50~約250nmの直径を有する。EVはリン脂質膜に囲まれており、リン脂質膜は、好ましくは、比較的高レベルのコレステロール、スフィンゴミエリンおよびセラミドを含有し、好ましくは、界面活性剤不溶性膜ドメイン(脂質ラフト)も含有する。
【0071】
EVの膜タンパク質は、細胞膜と同じ組成を有する。EVは一般に、アクチンβ、膜輸送および膜融合に関与するタンパク質(例えば、Rab、GTPアーゼ、アネキシンおよびフロチリン)、エンドソーム輸送選別複合体(ESCRT)複合体の成分(例えば、Alix)、腫瘍感受性遺伝子101(TSG101)、熱ショックタンパク質(HSP、例えば、HSPA8、HSP90AA1、HSC70およびHSC90)、インテグリン(例えば、CD62L、CD62EまたはCD62P)、およびテトラスパニン(特に、CD63、CD81、CD82、CD53、CD9および/またはCD37)の存在を特徴とする。以下の実施例において、EVは、マーカーCD9とCD81の組合せ、およびカルネキシンの非存在によって同定される。
【0072】
PCT/EP2017/082316に記載の方法に従って製造されたCD106highCD151ネスチンMSCのセクレトームの使用を検討することも、本発明の範囲内である。本明細書における用語「セクレトーム」は、EV、タンパク質(成長因子、ケモカイン、サイトカイン、接着分子、プロテアーゼなど)、脂質、マイクロRNA、mRNAを含む細胞により分泌される総ての因子を指す。PCT/EP2017/082316に記載の方法に従って製造されたCD106highCD151ネスチンMSCのセクレトームは、PCT/EP2017/082316に記載のCD106highCD151ネスチンMSCと同じ血管新生促進生物学的効果を共有すると考えられる。
【0073】
EVは、Konoshenckoら2018またはLaiら2010に記載の方法など、種々の方法によって、目的のMSC細胞から精製してもよい。
【0074】
分画遠心
この方法は、少なくとも以下の3つの工程1)~3):
1)細胞および細胞デブリを除去するための低速遠心分離(<10,000×g)、
2)大きな小胞を除去するための高速スピン、および最後に:
3)EVをペレットにするための高速遠心分離(>100,000×g)
を含むいくつかの工程からなる。
【0075】
得られたEV調製物をさらに精製し、単離された小胞を、懸濁液の精密濾過によって、小胞のサイズに従って選別する。
【0076】
密度勾配遠心分離
この手法は、超遠心分離をスクロース密度勾配と組み合わせたものである。より具体的には、密度勾配遠心分離は、タンパク質およびタンパク質/RNA凝集体などの非小胞粒子からEVを分離するために使用される。このため、この方法は、異なる密度の粒子から小胞を分離する。遠心分離時間が十分であることが非常に重要であり、さもなければ、粒子が類似した密度を有する場合、汚染粒子がEV画分に依然として認められる可能性がある。最近の研究では、遠心分離を実施する前に、EVペレットを超遠心分離からスクロース勾配に適用することを示唆している。
【0077】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーは、分子量ではなくサイズおよび形状に基づいて、高分子を分離するために使用される。この技法は、複数の細孔およびトンネルを含有する多孔質ポリマービーズを充填したカラムを適用する。分子は、その直径に応じて、ビーズを通過する。小さな半径の分子は、カラムの細孔を移動するのに長く時間がかかるが、高分子は、カラムからより早く溶出する。サイズ排除クロマトグラフィーは、大分子と小分子の正確な分離を可能とする。さらに、この方法には、異なる溶離液を適用することができる。
【0078】
限外濾過
限外濾過膜も、EVの単離に使用することができる。マイクロベシクルのサイズに応じて、この方法は、タンパク質および他の高分子量高分子からのEVの分離を可能とする。EVは、多孔質構造を介して捕捉することによっても単離することができる。最も一般的な濾過膜は、0.8μm、0.45μmまたは0.22μmの孔径を有し、800nm、400nmまたは200nmより大きいEVを回収するのに使用することができる。特に、マイクロピラー多孔質シリコン線毛構造は、40~100nmのEVを単離するように設計されたものである。最初の工程において、大きな小胞が除去される。続く工程において、EV集団が、濾過膜で濃縮される。単離工程は比較的短いが、この方法は、PBS緩衝液によるシリコン構造のプレインキュベーションを必要とする。続く工程において、EV集団が、濾過膜で濃縮される。
【0079】
ポリマー沈殿法
ポリマー沈殿法は、通常、生体液とポリマー含有沈殿液との混合、4℃でのインキュベーションおよび超遠心分離を含む。ポリマー沈殿法に使用される最も一般的なポリマーの1つは、ポリエチレングリコール(PEG)、好ましくは、PEG6000またはPEG8000である。このポリマーを用いた沈殿は、単離されたEVに対する穏やかな効果および中性pHの使用を含む、多数の利点を有する。EVの単離のためにPEGを適用するいくつかの市販のキットが作製された。最も一般的に使用されるキットは、ExoQuick(商標)(System Biosciences、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)である。最近の研究では、ExoQuick(商標)法による超遠心分離を使用して、EVの最高収率が得られたことが実証された。
【0080】
免疫学的分離
表面EV外在性もしくは内在性膜結合タンパク質またはEV細胞内タンパク質に基づいて、EVの免疫学的分離のいくつかの技法が開発されている。しかしながら、これらの方法は一般に、EVタンパク質の検出、分析および定量に主に適用される。
【0081】
以下の実施例においては、限外濾過が使用されている。
【0082】
上記の製造方法から得られたMSC細胞を精製することによって得られるEVを、以下「本発明のEV」という。本発明のEVは、従来技術のEVと比較して、亢進した血管新生促進活性(EVを産生するMSC細胞として)を示す。
【0083】
以下の実施例8に示されるように、これらのEVは、特に、以下のもの:
(i)検出可能なレベルのCD106、および
(ii)検出可能なレベルのCD200
を発現することを特徴とする。
【0084】
重要なことに、本発明のEVは、従来技術のEVよりも高いレベルで、血管新生促進マーカーCD106/VCAMおよびCD200を発現する(図3参照)。本発明のEVはまた、FGF7、CCL2およびアンジオポエチン1などの多数の他の血管新生マーカーを発現する(図4参照)。
【0085】
これらのマーカーは当技術分野で周知であり、これらのマーカーを検出する抗体は、市販されている。それらの存在は、ウエスタンブロットなどの任意の従来の手段によって評価することができる。
【0086】
本発明によれば、前記マーカーが、有意なレベルで存在する場合、すなわち、前記EVに対して測定される前記マーカー(一般に、前記マーカーを認識する抗体を用いて得られ、前記抗体は、例えば、蛍光色素に結合する)の染色に関連するシグナルが、前記マーカーを発現しないことで知られるEVの染色に対応するシグナルよりも優れている場合、EVは、「検出可能なレベルでマーカーを発現する」。当業者は、前記細胞/マーカーを同定する方法を十分承知しているため、これらのプロトコールをここで詳述する必要はない。
【0087】
本発明の組成物は、PCT/EP2017/082316に開示されるMSC細胞によって産生される本発明の細胞外小胞(EV)を、本質的に含んでなる。
【0088】
本発明の文脈において、組成物中に存在するEVの数は、好ましくは、ナノサイト(NanoSight)装置(Malvernによって市販されている)を使用して決定され、この場合において、EVの数は「pp」といい、ナノサイト装置によって検出された粒子の数に対応する。
【0089】
一般に、本発明の組成物は、1×10~1×1014ppEV/mL、より好ましくは、1×1011~1×1012ppEV/mLを含有する。
【0090】
第2の側面において、本発明はまた、上記の方法によって得られたMSCのEVを含んでなる組成物を調製する方法であって、以下の工程:
a)前記MSCを、それらの増殖を許す条件下で、EV不含培養培地中で培養する工程;および
b)これらの細胞からEVを精製する工程
を含んでなる方法に関する。
【0091】
本明細書において使用され得る「EV不含培養培地」は、例えば、非補充の古典的な基本培地(例えば、アルファ-MEM、DMEM、DMEM/F12…)または1~10%、好ましくは5%、より好ましくは8%の小胞不含血小板ライセートで補充された古典的な基本培地である。EV不含培養培地は、本発明のMSCと接触する前、いずれの外因性EVも含有しない(本発明のMSCと接触すると、この培地は、本発明のMSCによって産生されるEVを含有し始める)。したがって、EV不含培養培地は、外因性小胞を含有し得るいずれの血清も血小板ライセートも含有しない。
【0092】
前記EV不含培養培地は、好ましくは、加えられる1種類または複数種類の成長因子で補充され、成長因子の濃度は、1~200ng/mLの間、好ましくは、1~100ng/mLの間、より好ましくは、10~80ng/mLの間に含まれる。より好ましくは、前記培養培地は、濃度が1~100ng/mL、好ましくは、1~50ng/mL、より好ましくは、10~40ng/mLの間に含まれるインターロイキン1βおよび/またはIL4で補充される。一般に、前記培地中の加えられるインターロイキン1βの濃度は10ng/mLであり、前記培地中の加えられるインターロイキンIL4の濃度は10ng/mLである。したがって、細胞は、好ましくは、インターロイキン1βおよびIL4の両方を10ng/mL含有するEV不含培養培地で培養し、この培養工程を、例えば2日継続する。
【0093】
MSC細胞の増殖を許す条件は、上記で説明している。細胞死およびアポトーシス小体は、EV調製物の汚染に至る可能性があるため、重要な点は、細胞を良好な条件下におくべきということである。このため、指数関数的増殖におけるMSC細胞の増幅および維持を許す条件を使用するべきであり、増殖の対数期の最後の前、すなわち、細胞死が著しくなるときであるプラトーの前に、EVを精製するべきである。動物由来成分(例えば、血清)を含有する培地に関しては、培地のEV枯渇を実施するべきである。これは、培養培地を100000gで8~16時間(例えば、一晩)、約4℃にて回転させることによって、実施することができる。
【0094】
前記条件下でのMSCの培養は一般に、1~7日、好ましくは、1~5日、より好ましくは、2~3日、さらにより好ましくは、72時間継続する。
【0095】
治療目的では、全方法を、好ましくは、無菌条件下で実施するべきである。
【0096】
EVの精製は、上記の方法のいずれかによって(好ましくは、以下の実験部分で開示するような限外濾過によって)実施することができる。
【0097】
以下に開示する結果は、本発明の方法は、高レベルのCD106/VCAM1膜タンパク質を発現するEVの作製を可能にすることも示している。重要なことに、このタンパク質は、血管新生促進サイトカインおよび炎症促進性タンパク質の発現に関連している(Han Z.C., et al, Bio-medical Materials and Engineering 2017 & Du W. et al, Stem Cell research & therapy 2016)。したがって、高レベルのCD106タンパク質を発現する本発明のEVは、EVの血管新生促進/炎症促進性効果のために使用することができる。
【0098】
KatohとKatoh(Stem Cell Investig. 2019; 6: 10)は、CD200は、血管リモデリングと免疫調節の接点で、種々の生理学的および病理学的方法に関与していると述べている。CD200は、Bリンパ球およびTリンパ球、内皮細胞、ニューロンおよび膵島細胞などの種々の細胞に発現する膜貫通タンパク質であり、その発現は、IL4によってアップレギュレートされる。CD200は、膜貫通タンパク質であるCD200Rを介して、シグナルを伝達する。CD200-CD200Rシグナル伝達は、免疫および血管新生の調節を介して、癌および非癌性疾患において重要な役割を果たす。例えば、CD200-B16メラノーマ細胞と比較して、CD200+B16メラノーマ細胞は、Cd200rノックアウトマウスにおいて、骨髄系細胞の増殖に起因する腫瘍形成の亢進、および腫瘍血管新生の増大を示す。
【0099】
したがって、第3の側面において、本発明は、虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器傷害または臓器機能不全に罹患している対象を治療するために使用するための、PCT/EP2017/082316に記載の方法に従って製造されたCD106highCD151ネスチンMSCに由来する細胞外小胞を含んでなる組成物に関する。言い換えれば、本発明は、虚血性疾患または循環系の障害に罹患している対象を治療するために使用されることを意図する薬剤の製造のための、前記EVの使用に関する。本発明の薬剤は、皮膚血管の毛細血管網に適用することもでき、皮膚用途および化粧用途を含み得る。
【0100】
好ましくは、本発明の組成物は、いずれの細胞も含有しない;特に、本発明の組成物は、いずれのMSC細胞も含有しない。本発明の組成物は、一般に、唯一の有効成分として、本発明のEVのみを含有する。本発明の組成物はまた、以下に説明するように、医薬担体またはアジュバントを含有し得る。
【0101】
本発明のEVを含んでなる組成物は、治療上有効な量で投与される。
【0102】
本明細書で使用する場合、「治療上有効な量」は、意図する使用にとって十分な量を指す。本発明の血管新生促進組成物に関しては、治療上有効な量は、内皮遊走および/または増殖を誘導するのに十分な量を指す。
【0103】
投与される用量は、対象の年齢、体表面積もしくは体重、または投与経路および関連するバイオアベイラビリティに応じて変わり得る。そのような用量調節は、当業者に周知である。
【0104】
いずれの哺乳動物も、本発明の組成物/EVで治療することができる。前記哺乳動物は、ペット(イヌ、ネコ、ウマなど)または家畜動物(ヒツジ、ヤギ、雌ウシなど)であり得る。本発明の方法に従って動物を治療する場合、初期未分化MSCを、同じ動物種(同種移植片)または類似の種(異種移植片)に由来する生体サンプルから得、第2の培養培地に使用される成長因子は、同じ動物種のものに対応することは、当業者に明らかである。例えば、ネコを治療する場合は、初期MSCを、ネコの周産期組織または生体液から得、ネコIL1β(組換えまたは非組換え)を、場合によりネコIL4とともに、第2の培養培地に加える。
【0105】
好ましい実施形態において、前記哺乳動物はヒトである。この場合、初期MSCを、女性から得た周産期組織または生体液から得、ヒトIL1β(組換えまたは非組換え)を、場合によりヒトIL4とともに、第2の培養培地に加える。
【0106】
この目的において、本発明の組成物は、任意の従来の手段によって、前記対象に投与または局所適用することができる。この場合において、本発明は、虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器傷害または臓器機能不全に罹患している対象を治療するための方法であって、上記組成物を前記対象に投与する工程を含んでなる方法を対象とする。この投与は、埋込リザーバーを使用することによって、または筋肉にEVをイン・サイチュ(in situ)で注射することによって、または静脈内注射を介して、または任意の適当な送達システムによって、実施することができる。適用は、EVを皮膚もしくは粘膜と直接接触させることによって、またはEVをデバイスで皮膚もしくは任意の粘膜に適用することによって、または任意の適当な送達システムでEVを皮膚もしくは粘膜に送達することによって、実施することもできる。
【0107】
好ましくは、前記疾患または障害は、I型糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、変形性関節症、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症虚血肢、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍もしくはいずれかの変性疾患、癒着、子宮内膜障害または痔瘻などの消化管の線維性障害からなる群において選択される。より好ましくは、前記疾患または障害は、末梢動脈閉塞性疾患、重症虚血肢、末梢血管疾患または糖尿病性潰瘍である。特定の実施形態において、前記疾患または障害は、皮膚または粘膜の疾患であり、これには、(限定されるものではないが)、糖尿病性潰瘍、潰瘍、外傷、熱傷(burn)、熱傷(scald)、創傷または創傷治癒の問題、褥瘡性潰瘍、疣贅などが含まれる。
【0108】
本発明のEVは、より正確には、皮膚病態、例えば、熱傷(burn)、創傷、潰瘍、瘢痕、疣贅、または癒着もしくは消化管の線維性障害(例えば、痔瘻)などの他の疾患を治療することを目的とする、皮膚用調製物において使用することもできる。
【0109】
別の特定の実施形態において、前記疾患または障害は、痔瘻または子宮内膜傷害である。
【0110】
他の適用が、本出願に包含される。特に、診断目的、皮膚用目的または化粧目的で、例えば、皮膚もしくは粘膜の細胞を再生するため、皮膚もしくは粘膜の側面を改善するため、皮膚もしくは粘膜の欠損を是正するため、または皮膚もしくは粘膜の熱傷領域を治癒するために、本発明のEVおよび組成物を使用することが可能である。
【0111】
本発明の薬剤の効果を亢進し、その投与を促進するために、本発明のEVは、任意の剤、剤の組成物または他の生物学的に適合する材料もしくはデバイスと組み合わせてもよい。本発明のEVは、カプセル化してもよく、任意の適当な送達システムまたは生体適合性材料に含めてもよい。EVまたはEVを含有する組成物は、例えば、内視鏡、ステントまたはシリンジなどの医療機器で適用することができる。EVまたはEVを含有する組成物はまた、EVを皮膚または粘膜と接触させることによって、局所に適用することもできる。
【0112】
静脈内投与、腫瘍内投与または鼻腔内投与のために、水性懸濁液、等張生理食塩水、または薬理学的に適合する分散剤および/もしくは湿潤剤を含有する無菌注射用液を使用してもよい。賦形剤として、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油などを使用してもよい。
【0113】
局所投与のために、組成物は、ゲル、パスタ、軟膏、クリーム、ローション、水性もしくは水性アルコール液体懸濁液、油性溶液、ローション型もしくは血清型の分散液、無水もしくは親油性ゲル、水相に脂肪相(もしくはその逆)を分散させることによって得られる液体もしくは半固体乳型の稠度を有するエマルション、軟性もしくは半固体クリームもしくはゲル型の稠度の懸濁液もしくはエマルション、あるいは、マイクロエマルション、マイクロカプセル、微粒子、またはイオン型および/もしくは非イオン型の小胞分散液の形態で存在してもよい。これらの組成物は、標準的な方法に従って調製される。さらに、EVのより深い浸透を可能にするために、界面活性剤を組成物に含めることができる。浸透の増加を可能にする剤は、例えば、鉱油、エタノール、トリアセチン、グリセリンおよびプロピレングリコールから選択され得;凝集剤は、例えば、ポリイソブチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよび増粘剤を含んでなる群から選択される。
【0114】
経口投与のための好適な単位用量投与製剤としては、特に、錠剤、コーティング錠剤、丸剤、カプセル剤および軟ゼラチンカプセル剤、経口散剤、顆粒剤、液剤および懸濁剤が挙げられる。
【0115】
錠剤形態の固体組成物を調製する場合、主要有効成分を、ゼラチン、デンプン、ラクトース、ステアリン酸もしくはステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガムまたは類似体などの医薬ビヒクルと混合してもよい。錠剤は、サッカロースもしくは他の好適な材料でコーティングしてもよく、またはさらには、持続したまたは遅延した活性を有するように、また、所定の量の有効成分を連続的に放出するように処理してもよい。
【0116】
カプセル調製物は、有効成分を希釈剤と混合し、得られた混合物を、植物油、ワックス、脂肪、半固体または液体ポリオールなどの賦形剤とともに軟カプセルまたは硬カプセルに注ぐことによって、得ることができる。
【0117】
シロップまたはエリキシル剤形態の調製物は、甘味剤、防腐剤、ならびに味付与剤および好適な色素とともに、有効成分を含有する。賦形剤を使用してもよく、例えば、水、ポリオール、サッカロース、転化糖、グルコースなどが挙げられる。
【0118】
散剤または水分散性顆粒剤は、矯味剤および甘味剤とともに、分散剤、湿潤剤および懸濁化剤との混合物中の有効成分を含有し得る。
【0119】
皮下投与のために、任意の好適な薬学上許容可能なビヒクルを使用してもよい。特に、ゴマ油などの薬学上許容可能な油性ビヒクルを使用することができる。
【0120】
本発明はまた、本発明のEVを含有する医療機器を対象とする。「医療機器」とは、本明細書において、治療組成物を投与するための、任意の機器、装置、道具、機械、器具、インプラント、試薬を包含する。本発明の文脈において、前記医療機器は、例えば、パッチ、ステント、内視鏡またはシリンジである。
【0121】
本発明はまた、本発明のEVを含有する送達システムを対象とする。「送達システム」とは、本明細書において、医薬製品を患者に投与するための任意のシステム(培地または担体)を包含する。送達システムは、経口送達または放出制御システムであり得る。本発明の文脈において、前記送達システムは、例えば、生体高分子、脂質またはナノ粒子のリポソーム、プロリポソーム、マイクロスフェア、マイクロベシクルまたはナノベシクルである。
【0122】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のEVは、ヒドロゲルまたは別の生体適合性材料または賦形剤に含まれる。前記ヒドロゲルは、特に、アルギン酸ナトリウムヒドロゲル、ヒアルロン酸ヒドロゲル、キトサンヒドロゲル、コラーゲンヒドロゲル、HPMCヒドロゲル、ポリ-L-リシンヒドロゲル、ポリ-L-グルタミン酸ヒドロゲル、ポリビニルアルコール(PVA)ヒドロゲル、ポリアクリル酸ヒドロゲル、ポリメチルアクリル酸ヒドロゲル、ポリアクリルアミド(PAM)ヒドロゲルおよびポリNアクリルアミド(PNAM)ヒドロゲルを含み得る。
【0123】
本発明はまた、本発明のEVおよび場合により別の生体適合性材料または賦形剤を含有するヒドロゲルに関する。アルギン酸塩ヒドロゲルが本明細書において好ましく、例えば、CN106538515に記載のアルギン酸塩ヒドロゲルが挙げられる。
【0124】
本発明の文脈において、「生体適合性材料」は、生物医学的用途に古典的に使用されるものである。生体適合性材料は、例えば、金属(例えば、ステンレス鋼、コバルト合金、チタン合金)、セラミック(酸化アルミニウム、ジルコニア、リン酸カルシウム)、ポリマー(シリコン、ポリ(エチレン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリウレタン、ポリラクチド)または天然ポリマー(アルギン酸塩、コラーゲン、ゼラチン、エラスチンなど)である。これらの材料は、合成であっても天然であってもよい。生体適合性賦形剤は、当技術分野で周知であり、したがって、詳述する必要はない。
【0125】
このヒドロゲルは、化粧または治療目的で使用することができる。
【0126】
本発明はまた、本発明のEVを含有する医薬または獣医学組成物、ならびに上記の疾患および障害を治療するためのその使用に関する。本発明はまた、本発明のEVを含有する皮膚用または化粧組成物に関する。
【0127】
この医薬、獣医学または化粧組成物は、上記のように、他の生体適合性剤(例えば、ヒドロゲル)をさらに含有してもよい。
【0128】
前記組成物は、好ましくは、1×10~1×1014ppEV/mL、より好ましくは、1×1011~1×1012ppEV/mLを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0129】
図1図1は、実施例において精製された細胞外小胞におけるCD9、CD81およびカルネキシンマーカーの存在/非存在を示すウエスタンブロットを開示する。カラムA=MDA細胞の細胞ライセート/カラムB=アルファ-MEM中の本発明のMSCの細胞ライセート/カラムC=アルファ-MEM中の本発明のEV。
図2図2は、VEGFの存在下または非存在下における、ECFCに対する本発明のEVの製造に使用した細胞のパラクリン効果を示すボイデンチャンバー走化性遊走アッセイを開示する。カラムT=50ng/mLのVEGFの非存在下(-)/存在下(+)における培地対照の遊走レベル。カラム1=50ng/mLのVEGFの非存在下(-)/存在下(+)における細胞バッチ1の遊走レベル。カラム2=50ng/mLのVEGFの非存在下(-)/存在下(+)における細胞バッチ2の遊走レベル。カラム3=50ng/mLのVEGFの非存在下(-)/存在下(+)における細胞バッチ3の遊走レベル。
図3図3は、実施例8に記載の通り、3つの異なる条件において条件付けされたMSCに由来するEV:カラムA=非刺激MSCに由来するEV、カラムB=IL1βおよびIL4で刺激したMSCに由来するEV(本発明のEV)、ならびにカラムC=LPSで刺激したMSCに由来するEV、の含量を示すウエスタンブロットを開示する。6種類のマーカーを試験している(CD9、CD81、Alix、カルネキシン、VCAMおよびCD200)。ウェルあたり20μgのEVを添加している。
図4図4は、3つの異なる条件(非刺激、IL刺激およびLPS刺激)において条件付けされたMSCに由来するEVに対するタンパク質アレイによって決定された、異なる血管新生関連タンパク質中の含量の差を強調したものである。平均ピクセル強度は、各タンパク質に対して報告している。
図5図5は、実施例8に記載の通り、3つの異なる条件において条件付けされたMSC:カラムA=非刺激MSC、カラムB=IL1βおよびIL4で刺激したMSC(本発明のMSC)、ならびにカラムC=LPSで刺激したMSC、の含量を示すウエスタンブロットを開示する。6種類のマーカーを試験している(CD9、CD81、Alix、カルネキシン、VCAMおよびCD200)。ウェルあたり20μgのタンパク質ライセートを添加している。
【実施例
【0130】
本発明は以下の通りである。
[1]以下の工程:
(i)成長因子を欠いた第1の培養培地中の生体組織または生体液から得られた間葉系幹細胞を培養して、培養未分化間葉系幹細胞の集団を作製する工程、
(ii)前記培養未分化間葉系幹細胞の集団を、少なくとも2種類の炎症促進性成長因子を含有する第2の培養培地と接触させることにより、CD106 high CD151 ネスチン 間葉系幹細胞を作製する工程、
(iii)前記MSCを、それらの増殖を許す条件下で、EV不含培養培地中で培養する工程;
および
(iv)工程(iii)で得られた細胞からEVを精製する工程
によって得られた細胞外小胞(EV)を含んでなる、組成物。
[2]工程(ii)で使用される前記第2の培養培地が、TNFα、IL1、IL4、IL12、IL18およびIFNγの中から選択される、好ましくは、IL1、IL4、IL12およびIL18から選択される少なくとも2種類の炎症促進性成長因子を含有する、上記[1]に記載の組成物。
[3]前記EV不含培養培地が、IL1とIL4の混合物、好ましくは、IL1βとIL4の混合物で補充されている、上記[1]に記載の組成物。
[4]前記EVが、胎盤、臍帯もしくは胎盤膜(絨毛膜、羊膜)またはそれらの成分から選択される生体組織に由来する、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの生体液に由来する未分化MSCから得られたものである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記EVが、好ましくは臍帯断片の外植片からの細胞単離によって、臍帯に由来する未分化MSCから得られたものである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記EVが、好ましくは胎盤組織断片からの細胞単離によって、胎盤に由来する未分化MSCから得られたものである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[7]虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、臓器の傷害もしくは障害または臓器機能不全に罹患している対象を治療するために使用するための、上記[1]~[6]のいずれかに定義される組成物。
[8]前記疾患または障害が、I型糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、変形性関節症、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症虚血肢、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性障害、癒着および子宮内膜障害からなる群において選択される、上記[7]に記載の使用のための組成物。
[9]前記疾患または障害が、皮膚または粘膜の疾患または障害、好ましくは、糖尿病性潰瘍、潰瘍、外傷、熱傷(burn)、熱傷(scald)、創傷もしくは創傷治癒の問題、褥瘡性潰瘍、疣贅、癒着、子宮内膜障害または痔瘻などの消化管の線維性障害である、上記[7]に記載の使用のための組成物。
[10]上記[1]~[6]のいずれかに定義されるEVを含有する、医薬、獣医学、診断または化粧組成物。
[11]ヒドロゲルまたは他の生体適合性材料をさらに含有する、上記[10]に記載の医薬または獣医学組成物。
[12]上記[1]~[6]のいずれかに定義されるEVを含有する、局所製剤。
[13]虚血性疾患、循環系の障害、免疫疾患、線維性障害、臓器傷害または臓器機能不全に罹患している対象を治療するために使用するための、上記[10]もしくは[11]に記載の医薬組成物または上記[12]に記載の局所製剤。
[14]I型糖尿病、II型糖尿病、GVHD、再生不良性貧血、多発性硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、関節リウマチ、脳卒中、特発性肺線維症、拡張型心筋症、変形性関節症、硬変、肝不全、腎不全、末梢動脈閉塞性疾患、重症虚血肢、末梢血管疾患、心不全、糖尿病性潰瘍、線維性障害、癒着および子宮内膜障害からなる群において選択される疾患または障害に罹患している対象を治療するために使用するための、上記[10]もしくは[11]に記載の医薬組成物または上記[12]に記載の局所製剤。
[15]上記[1]~[6]のいずれかに定義されるEVを含有する、皮膚用または化粧組成物。
[16]皮膚もしくは粘膜の細胞を再生するための、皮膚もしくは粘膜の側面を改善するための、または暗色斑、斑点、座瘡、しわ、乾燥などの皮膚もしくは粘膜の欠損を是正するための、上記[15]に定義される皮膚用または化粧組成物の使用。
[17]熱傷(burn)、瘢痕、血管腫、黒子または疣贅などの皮膚の傷害または障害を治癒するための、上記[15]に定義される皮膚用または化粧組成物の使用。
[18]上記[1]~[6]のいずれかに定義されるEVを含有する、医療機器。
[19]前記医療機器が、包帯、パッチ、ステント、内視鏡またはシリンジである、上記[18]に記載の医療機器。
[20]上記[1]~[6]のいずれかに定義されるEVを含有する、送達システム。
[21]前記送達システムが、生体高分子、脂質またはナノ粒子のマイクロベシクルまたはナノベシクルである、上記[20]に記載の送達システム。
[22]細胞外小胞(EV)を調製する方法であって、以下の工程:
(i)成長因子を欠いた第1の培養培地中の生体組織または生体液から得られた間葉系幹細胞を培養して、培養未分化間葉系幹細胞の集団を作製する工程、
(ii)前記培養未分化間葉系幹細胞の集団を、少なくとも2種類の炎症促進性成長因子を含有する第2の培養培地と接触させることにより、CD106 high CD151 ネスチン 間葉系幹細胞を作製する工程、
(iii)前記MSCを、それらの増殖を許す条件下で、EV不含培養培地中で培養する工程;
および
(iv)工程(iii)で得られた細胞からEVを精製する工程
を含んでなる、方法。
[23]前記炎症促進性成長因子が、TNFα、IL1、IL4、IL12、IL18およびIFNγの中から選択される、好ましくは、IL1、IL4、IL12およびIL18から選択される、上記[22]に記載の方法。
[24]前記炎症促進性成長因子が、IL1とIL4の混合物、好ましくは、IL1βとIL4の混合物である、上記[22]または[23]に記載の方法。
[25]前記未分化MSCが、胎盤、臍帯もしくは胎盤膜(絨毛膜、羊膜)またはそれらの成分から選択される生体組織に由来する、または臍帯血、胎盤血もしくは羊水などの生体液に由来する、上記[22]~[24]のいずれかに記載の方法。
[26]前記未分化MSCが、外植片組織からの細胞単離によって得られたものである、上記[22]~[25]のいずれかに記載の方法。
[27]前記未分化MSCが、好ましくは臍帯断片の外植片からの細胞単離によって、臍帯に由来する、上記[22]~[26]のいずれかに記載の方法。
[28]前記未分化MSCが、好ましくは胎盤組織断片からの細胞単離によって、胎盤に由来する、上記[22]~[26]のいずれかに記載の方法。
[29]前記第2の培養培地が、1~100ng/mlのインターロイキン1、好ましくは、インターロイキン1βを含有する、上記[22]~[28]のいずれかに記載の方法。
[30]前記第2の培養培地が、1~100ng/mlのインターロイキン4を含有する、上記[22]~[29]のいずれかに記載の方法。
[31]前記EV不含培養培地が、IL1とIL4の混合物、好ましくは、IL1βとIL4の混合物で補充されている、上記[22]~[30]のいずれかに記載の方法。
[32]EVが限外濾過によって精製される、上記[22]~[31]のいずれかに記載の方法。
簡単のためおよび例示的目的のため、本発明を、その例示的実施形態を参照することにより、説明する。しかしながら、本発明は、これらの具体的な詳細に限定されることなく実施できることは、当業者には明らかであろう。他の例において、本発明を不必要に不明瞭にしないように、周知の方法は詳細に説明していない。
【0131】
以下の総ての工程1~4は、引用することにより本明細書の一部とされるPCT/EP2017/082316の実施例部分に記載の通りに実施している。
【0132】
1.血管新生促進臍帯由来間葉系幹細胞(MSC)の単離
臍帯を、輸送液から取り出し、2~3cmの切片長に切り出した。除去できない血餅を含有する各セグメントは、接着血液細胞による汚染を避けるために、廃棄した。次に、切片を、αMEM+バンコマイシン1g/L+アモキシシリン1g/L+アミカシン500mg/L+アムホテリシンB50mg/Lから構成される抗生物質および抗真菌剤の浴によって、室温(RT)で30分間殺菌した。抗生物質は、無菌注射用水に即時溶解した。
【0133】
臍帯の切片を浴から取り出し、室温にて1倍PBS中で速やかにすすいだ。血管に触れないように、上皮膜をわずかに切り出した。次に、切片を0.5cm厚のスライスに薄切し、蓋付き150cmプラスチックフラスコの底に置いた。フラスコあたり6~10枚のスライスを置き、各スライスの周りに少なくとも1cmの半径円の空いた領域を作り、室温で培地なしで15分間接着させた。
【0134】
接着後、完全培地(αMEM+5%臨床グレード血小板ライセート+2U/mLヘパリン)を慎重に加え、外植片をフラスコの底に接着させた。次に、フラスコを、37℃、湿度90%および5%CO2でインキュベートした。
【0135】
培養培地は、5~7日後に交換した。
【0136】
単離後10日目に、外植片からの細胞の遊走を、倒立顕微鏡法によって制御した。大部分の外植片の周囲に、接着細胞の円が視認できた場合、無菌の使い捨て単回用の一組のピンセットを用いて、蓋を介して細胞をフラスコから拾い上げることによって、慎重に除去した。
【0137】
この工程から、細胞の集密度を1日おきに目視で確認し、必要に応じて、17日目に培地交換を実施した。
【0138】
細胞が70~90%の集密度に達した場合またはD20に、培地を除去し、細胞をフラスコあたり30mLの1倍PBSで洗浄した。次に、細胞をトリプシンで除去し、古い培地で回収し、300gで10分間遠心分離した。上清を捨て、次に細胞を、αMEM+100mg/mL HSA(ヒト血清アルブミン)+10%DMSO(ジメチルスルホキシド)からなる凍結保存液に懸濁させ、凍結保存した。
【0139】
2.MSC細胞の解凍および培養
古典的なプロトコールに従って、細胞を解凍した。簡単に述べれば、クライオチューブを液体窒素に関して除去し、37℃の水浴に速やかに浸漬した。チューブ内に氷がなくなったらすぐに、細胞を、予熱した(37℃)完全培地(αMEM+0.5%(v/v)シプロフロキサシン+2U/mLヘパリン+5%(v/v)血小板ライセート(PL))で希釈し、速やかに遠心分離した(300g、室温、5分)。
【0140】
遠心分離後、細胞を予熱した完全培地に懸濁させ、数および生存率に関して評価した(トリパンブルー/Malassez血球計算盤)。
【0141】
細胞を、完全培地においてプラスチック培養フラスコ中で4000細胞/cmで播種し、インキュベートした(湿度90%、5%CO、37℃)。
【0142】
3.MSC細胞の刺激
増殖の数日後、細胞を集密度に関して確認した。集密度が30~50%に達した場合、古い培地を捨て、非刺激条件用の新鮮完全培地か、または10ng/mLのIL-1βおよび10ng/mLのIL-4で補充された新鮮培地のいずれかと交換した。
【0143】
次に、フローサイトメトリー実験の前に、細胞を少なくとも2日間インキュベートした。
【0144】
この刺激工程は、PCT/EP2017/082316に記載の通り、血管新生促進表現型をMSCに付与するのに役立った。
【0145】
いくつかの細胞バッチを、それらの血管新生活性に関するボイデンチャンバーアッセイにおいて試験している(図2参照)。
【0146】
簡単に述べれば、血管新生促進勾配に応答したECFC(内皮コロニー形成細胞)遊走を、ウシ血漿(Sigma-Aldrich-F1141)由来の20μg/mLフィブロネクチンでコートされた8μm細孔径のポリカーボネート膜フィルター(BD Biosciences)上で、24ウェル改変ボイデンチャンバーにおいて評価した。実験の前に、24ウェルプレートのウェルの底に、密度6000細胞/cmでMSC細胞を6回播種し、αMEM+1%SVF中で4日間培養した。培地対照列を、αMEM+1%FBSで満たして認識した。
【0147】
0.2%FBSで補充されたEBM-2基本培地(Lonza-CC-3156)中で一晩飢餓させた後、ECFCを、飢餓培地中で、200,000細胞/ウェルでマイクロチャンバーの上部にロードした。
【0148】
各条件につき、VEGF(Miltenyi-130-109-383)を、陽性対照として、濃度50ng/mLで6個中3個のウェルに加えた。
【0149】
5時間のインキュベーション後、膜フィルターの上部表面の細胞を、コットンスワブで拭うことにより、除去した。次に、総ての膜をMGG染色し、マウントし、撮影した。
【0150】
【表1】
【0151】
図2において、総ての(-)カラムは、VEGFの非存在下で遊走したECFCの数であり、一方、総ての(+)カラムは、VEGFの存在下で遊走したECFCの数である。対照条件(T-およびT+)は、ECFCは、VEGFの存在下でそれらの遊走を亢進できることを示している。試験条件(1、2、3)は、バッチ1は、ECFCの挙動に影響を及ぼさないように思われるが、バッチ2および3の両方は、ECFCに対するVEGFの効果を亢進し、さらに、バッチ3は、VEGFの非存在下でECFCの遊走をさらに亢進することを示している。
【0152】
ボイデンチャンバーが細胞間接触を防止するように、この効果は、可溶性細胞外メディエーター、すなわち可溶性タンパク質または細胞外小胞のいずれかを介して必ず媒介される。
【0153】
4.MSC細胞の回収および凍結保存
増殖/刺激の2~3日後、細胞を集密度に関して確認した。集密度が80%までになった場合、細胞を回収した。簡単に述べれば、古い培地を捨て、細胞を1倍DPBSで洗浄した。トリプシンEDTAを加え、細胞を37℃で5分間インキュベートした。トリプシンを、培地の容量の少なくとも2倍で中和し、細胞懸濁液を回収し、数および生存率に関して評価した。
【0154】
細胞を300gで10分間遠心分離した。上清を捨て、次に細胞を、αMEM+100mg/mL HSA+10%DMSOからなる凍結保存液に懸濁させ、凍結保存した。
【0155】
5.MSC細胞の解凍および条件培地の作製
古典的なプロトコールに従って、細胞を解凍した。簡単に述べれば、クライオチューブまたはバッグを液体窒素に関して除去し、37℃の水浴に速やかに浸漬した。チューブ内に氷がなくなったらすぐに、細胞を、予熱した(37℃)αMEMで希釈し、速やかに遠心分離した(300g、室温、5分)。
【0156】
遠心分離後、細胞を予熱した完全培地に懸濁させ、数および生存率に関して評価した(トリパンブルー/Malassez血球計算盤)。
【0157】
必要な数の300cmプラスチック培養フラスコに、細胞を密度2000細胞/cmで播種し、必要な量の条件培地(1T300=30mLの条件培地)を作製した。0.5%(v/v)シプロフロキサシン、2U/mLヘパリンおよび8%(v/v)の遠心分離後のPLで補充されたαMEMを用いて、細胞を湿度90%、5%CO、37℃でインキュベートした。遠心分離後のPLは、6000gおよび10℃でPLを1時間遠心分離し、上清を回収することによって調製した。
【0158】
5日後、培地を交換した。細胞が80%の集密度に達した場合(6日目)、培地を除去し、細胞をPBSで3回洗浄した。50ml/T300の非補充αMEMを24時間加えた。24時間後、培地を、非補充αMEM、または8%の小胞欠乏PL(血小板ライセート)で補充されたαMEMのいずれか30mLに交換した。
【0159】
細胞を36時間分泌させ、培地を回収し、Heraeus Multifuge 3 S-R中で400gおよび室温にて5分間遠心分離した。上清を回収し、-80℃で凍結した。
【0160】
細胞をトリプシン処理し、それらの数および生存率に関してアッセイした。
【0161】
6.細胞外小胞の単離およびキャラクタリゼーション
このようなMSCに由来する細胞外小胞は、当技術分野で公知の任意の方法によって単離することができ、その例としては、限定されるものではないが、超遠心分離、限外濾過、密度勾配、サイズ排除クロマトグラフィー、キットベースの沈殿、免疫親和性捕捉、マイクロ流体デバイスが挙げられる。
【0162】
この実験において、細胞外小胞に富む画分を、条件培地の限外濾過、次いで、サイズ排除液体クロマトグラフィー(SEC)によって分離した。
【0163】
細胞外小胞の数およびサイズの分布の分析を、ナノ粒子トラッキング解析(Nanosight)を使用して実施した。
【0164】
また、本発明のEVの含量を、以下の条件を用いて、ウエスタンブロットにより評価している。
【0165】
材料および試薬:
溶解緩衝液(RIPA):
- デオキシコール酸ナトリウム 1%
- SDS 0.1%
- トリス.Cl pH 7.4 20mM
- EDTA 1mM
- NaCl 150mM
- トリトンx100 1%
プロテアーゼ阻害剤カクテル(CIP 100倍)、Sigma参照番号P8340
【0166】
細胞溶解:
1倍の終濃度のCIPを含有する100μlの冷RIPを、1×10MSC細胞に加えている。
【0167】
得られた混合物を、氷上で10分間インキュベートし、20分間4℃で15分間遠心分離し、次いで、上清を回収している。
【0168】
タンパク質の用量は、マイクロBCAタンパク質アッセイキット(Pierce参照番号23235)を用いて実施している。
【0169】
電気泳動を、Novex Nosex4~12%ビス-トリスタンパク質ゲル1.5mm、10ウェル(Life Technologies、NP0335PBOX)またはNuPAGE(登録商標)MOPS SDS泳動用緩衝液(20倍)(Life Technologies、NP0001)で実施した。サンプルは、DTT(500mM)含有または不含LDS緩衝液(Invitrogen NP0007、4倍)の4分の1の容量を用いて、70℃で10分間変性させている。転写は、無水エタノールで活性化し、すすいだ後のPVDFのメンブレン(Amersham、参照番号:RPN303LFP)上で、Mini Trans-Blot電気泳動セルメンブレントランスファー(参照番号:170-3930)を用いて実施した。
【0170】
タンパク質を明らかにするために、以下の材料を使用した:
TBS10倍、BioRad参照番号1706435
ブロッキング緩衝液(TBSミルク):TBS1倍_
ツイーン0.1%スキムミルク5%
洗浄緩衝液(TBS):TBS1倍_ツイーン0.1%
AC緩衝液(TBS_AC):TBS1倍_ツイーン0.1%_ミルク0.3%
【0171】
膜タンパク質CD9(Biolegend-312102)およびCD81(Biolegend-349501)の存在を、ウエスタンブロットにおいて分析した(図1)。MDA細胞ライセート(カラムA-陽性対照)および元の細胞ライセート(カラムB)とともに、精製されたEV(カラムC)の画分中に、マーカーCD9およびCD81の両方が存在した。小胞体マーカーカルネキシン(Elabscience-E-AB-30723)は存在せず、画分が正確に精製されたことが示された。
【0172】
蛍光定量を、1/10000のAlexa Fluor 680抗体、Thermofisher GAM(参照番号:A21058)またはGAR(参照番号:A21076)を用いて実施している。
【0173】
化学発光を、1/5000のHRP抗体、Bio Rad GAM(参照番号:170-6516)またはGAR(参照番号:170-6515)を用いて実施している。
【0174】
7.LPSにより刺激されたUCMSCに由来するEVと、IL1βおよびIL4の組合せにより刺激されたUCMSCに由来するEV(本発明のEV)との比較
Dongdong Tiら(Journal of translational medicine, 2015)は、炎症促進性因子LPSでプレコンディショニングされた臍帯MSCから精製された細胞外小胞を説明している。
【0175】
Yunbing Wuら(BioMed Research International, 2017)は、ヒト臍帯から得られた非刺激間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞の抗炎症特性を説明している。
【0176】
これらの刊行物のいずれも、本発明のEVが由来するMSCを刺激するためにIL1βおよび/またはIL4を添加することを提案していない。
【0177】
本実施例の目的は、本発明のCD106highCD151ネスチンMSCに由来するEVは、IL1βおよびIL4などの炎症促進性成長因子を含有する特定のコンディショニング培地中で培養されている細胞によって分泌されるため、従来技術で説明されるものと異なることを実証することである。
【0178】
本発明のEVと、非刺激MSCまたはLPSにより刺激されたMSCに由来するEVとの比較では、本発明のEVは、例えば、タンパク質含量または表面マーカーの点で、従来技術のEVと実際に区別する分子的特徴を示すことを実証した。
【0179】
7.1.3つの異なるコンディショニング培地で培養された臍帯由来MSCの条件培地(培養上清)の作製:
7.1.1.3つのコンディショニング培地の調製
3つのコンディショニング培地を、以下のように調製した:
【0180】
NS=対照培地(コンディショニング炎症促進性因子不含):
675mLのαMEMバッグ(終濃度:10ng/mL)に対して、
1- 出口ポートの1つに注入部を取り付ける。
2- 針を使用して、290μLのヘパリン5000U/mL(終濃度2U/mL)を注入する。吸引/放出によって、注入部にヘパリンが残らないようにする。
3- 臨床血小板ライセート(CPL)のバッグの出口ポートに注入部を取り付け、50mL LLシリンジを用いて、遠心分離したCPLを56.8mL取る。
【0181】
S1=IL1β-IL4コンディショニング培地(WO2018/108859に記載の方法の「第2の培地」):
675mLのαMEMバッグ(最終総インターロイキン濃度:10ng/mL)に対して、
4- 出口ポートの1つに注入部を取り付ける。
5- 針を使用して、290μLのヘパリン5000U/mL(終濃度2U/mL)を注入する。吸引/放出によって、注入部にヘパリンが残らないようにする。
6- CPLのバッグの出口ポートに注入部を取り付け、50mL LLシリンジを用いて、遠心分離したCPLを56.8mL取る。
7- αMEMバッグにCPLを注入し、シリンジを用いてホモジナイズする。
8- サイトカインの添加:
1.各インターロイキン(IL)(C=100μg/mL)のアリコート73,2μLを解凍する。
2.1mL針付シリンジを使用して、完全培地400μLを採取し、それをILと混合する。
3.ILを含有する培地を取り、それを完全培地のバッグに加える。
【0182】
LPSコンディショニング培地:
675mLのαMEMバッグ(最終LPS濃度:100ng/mL)に対して、
1- 出口ポートの1つに注入部を取り付ける。
2- 針を使用して、290μLのヘパリン5000U/mL(終濃度2U/mL)を注入する。吸引/放出によって、注入部にヘパリンが残らないようにする。
3- CPLのバッグの出口ポートに注入部を取り付け、50mL LLシリンジを用いて、遠心分離したCPLを56.8mL取る。
4- αMEMバッグにCPLを注入し、シリンジを用いてホモジナイズする。
5- LPSの添加:
1.LPS(C=1mg/mL)のアリコート73,2μLを解凍する。
2.1mL針付シリンジを使用して、完全培地400μLを採取し、それをLPSと混合する。
3.LPSを含有する培地を取り、それを完全培地のバッグに加える。
【0183】
遠心分離した臨床血小板ライセート(CPL)の調製:
CPLに由来する外因性EVからの細胞の「クリーニング」を開始するために、遠心分離したCPLを刺激工程に使用した。
1- 出口ポートに注入部を取り付ける。
2- CPLを50mLプラスチックチューブに移す。
3- 6000gおよび4℃で1時間遠心分離した。
4- 上清を新しい容器に移す。
【0184】
7.1.2.解凍および増幅:
単離および継代1回後の気体窒素で保存した臍帯由来間葉系幹細胞を、古典的なプロトコールに従って解凍している。簡単に述べれば、バッグを保存場所から取り出し、37℃の水浴に速やかに浸漬した。バッグ内に氷がなくなったらすぐに、細胞を、予熱した(37℃)完全培地(αMEM+0.5%(v/v)シプロフロキサシン+2U/mLヘパリン+5%(v/v)PL)で希釈し、速やかに遠心分離した(300g、室温、5分)。
【0185】
遠心分離後、細胞を予熱した完全培地に懸濁させ、細胞数および生存率に関してアッセイした(トリパンブルー/Malassez血球計算盤)。
【0186】
細胞を、完全培地において2つの細胞スタック1(CS1)中で2000細胞/cmで播種し、7日間インキュベートした(湿度90%、5%CO、37℃)。
【0187】
7日後、CS1を100mLのPBSですすぎ、CS1あたり25mLのトリプジーンを加え、細胞を回収した。インキュベーター内で10分後、計100mLの完全培地(CS1あたり50mL)を用いて、トリプジーンを中和した。細胞をプールし、数および生存率に関して評価した。
【0188】
7.1.3.刺激:
T300を、6000細胞/cmで播種した。
【0189】
1日後、培地を適当なコンディショニング培地と交換した。培地交換を行わずに、細胞を2日間刺激した。
【0190】
7.1.4.飢餓およびEV分泌:
刺激後、培地を捨て、細胞をPBSで3回すすいだ。次いで、細胞を、αMEM+/-炎症促進性因子(10ng/mLのIL1βおよびIL4の組合せまたは100ng/mLのLPS)を用いて、24時間飢餓させた。
【0191】
飢餓期間の後、細胞を再度PBSで3回すすぎ、次いで、各フラスコに、30mLのαMEM+/-炎症促進性因子(ILまたはLPS)を72時間ロードした。
【0192】
上清を50mLプラスチックチューブに回収し、400gおよび室温で5分間遠心分離した。各条件の上清を500mL瓶にプールし、1mlの小さなアリコートを、瓶とともに-80℃で別々に凍結した。
【0193】
各条件につき、3つのT300フラスコをトリプシン処理して、細胞数を評価し、細胞をクライオチューブ中で凍結保存した。
【0194】
【表2】
【0195】
7.2.3つの条件培地に含有される細胞の表現型キャラクタリゼーション
3つのコンディショニング培地を用いて培養された細胞の表現型キャラクタリゼーションを、サイトメトリー分析により実施し、刺激の効果を評価した。
【0196】
予想されたように、培地S1およびLPSで条件付けされた細胞は、異なる表現型を示し、血管新生促進マーカーCD106が、条件培地S1においてより高レベルで発現した(WO2018/108859に記載のILによる細胞の刺激)。
【0197】
【表3】
【0198】
【表4】
【0199】
7.3.EVの精製
この実験において、細胞外小胞に富む画分を、3つの条件培地の限外濾過によって分離した。
【0200】
細胞外小胞の数およびサイズの分布の分析を、ナノ粒子トラッキング解析(Malvern-PanalyticalのNanosight300)を使用して実施した。
【0201】
EVの精製の結果を以下に示す:
【0202】
【表5】
【0203】
【表6】
【0204】
【表7】
【0205】
7.3.NS/S1/LPS条件付けMSCから得られたEVのキャラクタリゼーション
7.3.1.ウエスタンブロットによるEVおよびMSCのタンパク質含量分析
3つの条件(NS/S1/LPS)において得られたEVおよびMSCの含量を、以下の条件を用いて、ウエスタンブロットにより評価している。
【0206】
材料および試薬:
溶解緩衝液(RIPA):
- デオキシコール酸ナトリウム 1%
- SDS 0.1%
- トリス.HCl pH7.4 20mM
- EDTA 1mM
- NaCl 150mM
- NP40: 1%
プロテアーゼ阻害剤カクテル(CIP 100倍)、Sigma参照番号P8340
【0207】
細胞溶解(MSCに対して):
1倍の終濃度のCIPを含有する100μl/1×10MSC細胞の冷RIPAを加える。
【0208】
氷中で10分間インキュベートし、10000gにて4℃で20分間遠心分離し、次いで、上清を回収する。
【0209】
等容量の氷冷2倍RIPA溶解緩衝液を加えた後、EV含有画分を可溶化した。
【0210】
タンパク質の用量は、マイクロBCAタンパク質アッセイキット(Pierce参照番号23235)を用いて実施している。
【0211】
電気泳動を、Novex Nosex4~12%ビス-トリスタンパク質ゲル1.5mm、10ウェル(Life Technologies、NP0335PBOX)またはNuPAGE(登録商標)MOPS SDS泳動用緩衝液(20倍)(Life Technologies、NP0001)で実施した。サンプルは、DTT(500mM)含有または不含LDSサンプル緩衝液(Invitrogen NP0007、4倍)の4分の1の容量を用いて、70℃で10分間変性させている。転写は、無水エタノールで活性化し、すすいだ後のPVDFのメンブレン(Amersham、参照番号:RPN303LFP)上で、Mini Trans-Blot電気泳動セルメンブレントランスファー(参照番号:170-3930)を用いて実施した。
【0212】
タンパク質を明らかにするために、以下の材料を使用した:
TBS10倍、BioRad参照番号1706435
ブロッキング緩衝液(TBSミルク):TBS1倍_ツイーン0.1%スキムミルク5%
洗浄緩衝液(TBS):TBS1倍_ツイーン0.1%
AC緩衝液(TBS_AC):TBS1倍_ツイーン0.1%_ミルク0.3%
【0213】
蛍光定量を、1/10000のAlexa Fluor 680抗体、Thermofisher GAM(参照番号:A21058)またはGAR(参照番号:A21076)を用いて実施している。
【0214】
化学発光を、1/5000のHRP抗体、Bio Rad GAM(参照番号:170-6516)またはGAR(参照番号:170-6515)を用いて実施している。
抗体抗CD9:Biolegend-312102
抗体抗CD81:Biolegend-349501
抗体抗カルネキシン:Elabscience-E-AB-30723
抗体抗VCAM:Bio-Rad VMA00461
抗体抗CD200:Bio-Techne 2AF2724
【0215】
結果:
予想されたように、血管新生促進マーカーCD106/VCAMは、カラムB(本発明のMSC)において検出可能であり、カラムC(LPS条件下のMSC)、および予想通りカラムA(陰性対照)においては完全に存在しなかった。第2の血管新生促進マーカーである膜糖タンパク質CD200は、S1画分のMSCに存在していたが、LPS画分のMSCにも、カラムA(陰性対照)にも存在しなかった(図5参照)。
【0216】
精製されたEV(図3)において、CD9およびCD81の両方の膜タンパク質が、MDA細胞ライセート(陽性対照)とともに、総ての画分(カラムA、BおよびC)に存在していた(図3)。
【0217】
小胞体マーカーカルネキシンは検出されず、EV画分が正確に精製されたことが示された。
【0218】
血管新生促進マーカーCD106/VCAMは、カラムB(本発明のEV)において検出可能であり、カラムC(LPS条件下のEV)およびカラムA(陰性対照)においては完全に存在せず、本発明のMSCの膜マーカーは、EVに移されることが示された(図3)。
【0219】
第2の血管新生促進マーカーである膜糖タンパク質CD200は、S1画分のEVに存在していたが、LPS画分のEVにも、カラムA(陰性対照)にも存在しなかった(図3)。
【0220】
7.3.2 血管新生タンパク質アレイ
NS、S1およびLPS条件培地で培養されたMSCに由来するEVを、血管新生プロテオームアレイ(R&D Systems-ARY007)を用いて比較した。
【0221】
溶解緩衝液を、以下のように調製した:
1.50mLにつき、157,6mgのトリス-HCLを10mLの水に溶解し、400,3mgのNaClを10mLの水に溶解し、37,2mgのEDTAを10mLの水に溶解する。
2.pH=8に調整する。
3.0,5mLのトリトンX-100、5mLのグリセロール、50μLのアプロチニン10mg/mL、50μLのロイペプチン10mg/mLおよび500μLのペプスタチン1mg/mLを加える。
4.50mLの滅菌水をQSPする。
【0222】
NS、S1およびLPS培地において得られたMSCに由来するEVを、以下のように溶解緩衝液中で可溶化した:
- NS:150μLのEVを1mLの溶解緩衝液に懸濁させた。
- S1:130,4μLのEVを1mLの溶解緩衝液に懸濁させた。
- LPS:125μLのEVを1mLの溶解緩衝液に懸濁させた。
【0223】
300μgのライセート中のタンパク質の総量を、BCAアッセイを用いて定量化し、それにより、溶解の効果を確認した。
【0224】
次に、EVライセートを、ピペットを上下に動かして再懸濁し、2~8℃で30分間緩やかに揺り動かし、次いで、14,000×gで5分間微量遠心分離した。上清を清潔な試験管に移し、製造業者の説明書に従ってアッセイした。
【0225】
【表8】
【0226】
図4のグラフは、3つのサンプルにおいて有意に異なって発現したタンパク質に関する結果を示す。アレイにおいて分析した59種類中、28種類の血管新生促進タンパク質が、S1およびLPSサンプルにおける発現の差を示し、これにより、本発明のEVは、特に血管新生促進タンパク質の含量の点で、従来技術のEVと異なる特徴を示すことが確認された。
【0227】
書誌参照
図1
図2
図3
図4
図5