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特許7363012汚染土壌多段式浄化に用いる吸引/供給用装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】汚染土壌多段式浄化に用いる吸引/供給用装置
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/00 20060101AFI20231011BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20231011BHJP
   E21B 33/138 20060101ALI20231011BHJP
   E21B 33/12 20060101ALI20231011BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B09C1/00
E21B43/00 Z
E21B33/138
E21B33/12
B09C1/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019158482
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021037433
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】松村 綾子
(72)【発明者】
【氏名】三野 香里
(72)【発明者】
【氏名】金子 伯男
(72)【発明者】
【氏名】高畑 陽
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226317(JP,A)
【文献】特開2003-340429(JP,A)
【文献】特開2010-000454(JP,A)
【文献】特開2008-029931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0183584(US,A1)
【文献】特開2007-190478(JP,A)
【文献】特表2019-519702(JP,A)
【文献】特開2008-238095(JP,A)
【文献】米国特許第05180013(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
E21B 43/00
E21B 33/138
E21B 33/12
B09C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の複数層に対して、吸引あるいは注入できる機構を備えた吸引/供給用装置用の上部側の吸引/注入用ノズルヘッドであって、
中央に吸引あるいは注入用の中央貫通孔と周縁部にエア用の小貫通孔を有し、
中央貫通孔は、上部が大径部であり下部が小径部であり、
小径部は、下部側の吸引/注入用ノズルヘッドへ通ずる下部パイプが挿通する径であり、
大径部は、上部に配置されるパイプの下端が開放される大きさを備え、大径部から側面に設けた開口に通ずる側孔が設けられていること
を特徴とする上部側の吸引/注入用ノズルヘッド。
【請求項2】
地盤の複数層に対して、吸引あるいは注入できる吸引/注入用ノズルヘッドを上下に複数備えた吸引/供給用装置であって、
上側の吸引/供給用装置用の吸引/注入用ノズルヘッドは、請求項1記載の上部側の吸引/注入用ノズルヘッドであり、
下側の吸引/供給用装置用の吸引/注入用ノズルヘッドは、中央に吸引/注入用の室、周縁部に小貫通孔を有し、
該室は、上部が上部側の吸引/注入用ノズルヘッドから延びるパイプの下端に対して開放されており、該室から側面に設けた開口に通ずる側孔を備えていること、
を特徴とする地盤の複数層に対する吸引/供給用装置
【請求項3】
処理対象の地層に対する上下のパッカーを複数有し、対のパッカーの中間に吸引/注入用ノズルヘッドを備えた地盤の複数層に対する吸引/供給用装置であって、
上側が請求項1記載の上部側の吸引/注入用ノズルヘッド、下側が請求項2記載の下側の吸引/注入用ノズルヘッドであること、
を特徴とする地盤の複数層に対する吸引/供給用装置。
【請求項4】
上端側に配置された、エア用注入管と複数の吸引/注入用の管と、これらのエア用注入管と複数の吸引/注入用の管が連結される上部パッカーヘッドと、上下の対のパッカーと、上下のパッカー間にノズルヘッドを備えた複数の地層処理部と、該地層処理部間を連結する間隙ホースと下部パッカーヘッドとを、連結した複数の地層に対する吸引/供給用装置であって、
上部パッカーヘッドでは、上下に貫通するエア用貫通孔と、複数の吸引/注入用パイプが同心円状に配置され、下方に向けて同心円状に配置された吸引/注入用パイプが伸びており、エア用貫通孔はエア用注入管に連結し、同心円状に配置された吸引/注入用パイプは複数の吸引/注入用の管に連結しており、
同心円のパイプ配置は、外側から内側に向けて、上層処理地層から下層処理地層用のパイプであり、
同心円に配置されたパイプの下端は、外側のパイプから上部に位置するノズルヘッドの位置であり、
上部側のノズルヘッドは、中央に中央貫通孔と周縁部に小貫通孔を有し、該中央貫通孔から側面に設けた開口に通ずる側孔を備えており、当該ノズルヘッドで処理する対象の吸引/注入用パイプの端部が中央貫通孔に開放されており、
最下部側のノズルヘッドは、中央に上部が開放された室と周縁部に小貫通孔を有し、該室から側面に設けた開口に通ずる側孔を備えており、最内芯の吸引/注入用パイプの端部が室に開放されており、
間隙ホースと中間ホースにおいて、エア流路をホース内壁と同心円状に配置された吸引/注入用パイプの間に形成されていること
を特徴とする複数の地層に対する吸引/供給用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物(VOC)、重金属、農薬等で汚染された土壌中に気体や液体を供給または吸引して、汚染物質を分解或いは除去し、汚染された土壌を浄化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
油汚染地盤に対する浄化手法であるバイオベンティング工法は、汚染された土壌を掘削せずに微生物の力を利用して修復する原位置バイオレメディエーション技術の一つである。不飽和層の汚染地盤に設置した井戸からガス吸引・供給や栄養塩供給を行い、土壌中に生息する油分解菌の活性を高めることにより油分を水と二酸化炭素に分解する。吸引したガスは、活性炭吸着塔を通して大気開放するため、揮発性物質を除去して臭気の拡散を防止しながら浄化を行うことができる。掘削除去に比べて環境に与える負荷が少なく、経済性が高いとともに、操業中の工場等でも適用が可能な工法である。
バイオベンティング工法を適用する場合には、浄化対象の全深度に対してガス吸引・供給を行うことが重要である。局所的に通気性の低い地層や油分濃度が高い地層が存在する場合には汚染が残存する可能性があるため、汎用品の高圧ダブルパッカーを井戸に挿入し、特定の深度から集中的にガス吸引を行う必要がある。1 本の井戸に対して1 深度を対象として浄化を行う高圧ダブルパッカーが市販されている。複数層を浄化する方法も提案されている。
特許文献1(特開2010-188220号公報)には、複数の流体(気体や液体)の注入部を有する井戸材を用いて1本の注入用井戸を造成する工程と、流体注入管を介して仕切版で上下に区切られた複数の流体注入部の各々に流体を供給して、複数の流体注入部の各々から土壌中へ流体を注入する工程とを有する土壌汚染浄化工法が提案されている。
特許文献2(特開2010-452号公報)には、汚染物質の移動を促進させる薬剤を汚染土壌に浸透させ、更に、注入井戸と揚水井戸との間に揚水作業と注入作業との両方を行なうことが可能な揚水兼注入井戸を設けることで、注入井戸と揚水井戸との間が広くても、すなわち、浄化する領域が広くても、汚染物質が効率的に汚染土壌から除去される浄化方法が開示されている。複数のパッカーを備えていて、パッカー部を収縮した状態で井戸に挿入できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-188220号公報
【文献】特開2010-000452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地盤の複数層に対して、吸引あるいは注入できる機構を備えた吸引/供給管を開発することを目的とする。特に、細経化できる機構を備えた吸引/供給用装置を開発する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.地盤の複数層に対して、吸引あるいは注入できる機構を備えた吸引/供給用装置用の上部側の吸引/注入用ノズルヘッドであって、
中央に吸引あるいは注入用の中央貫通孔と周縁部にエア用の小貫通孔を有し、
中央貫通孔は、上部が大径部であり下部が小径部であり、
小径部は、下部側の吸引/注入用ノズルヘッドへ通ずる下部パイプが挿通する径であり、
大径部は、上部に配置されるパイプの下端が開放される大きさを備え、大径部から側面に設けた開口に通ずる側孔が設けられていること
を特徴とする上部側の吸引/注入用ノズルヘッド。
2.地盤の複数層に対して、吸引あるいは注入できる吸引/注入用ノズルヘッドを上下に複数備えた吸引/供給用装置であって、
上側の吸引/供給用装置用の吸引/注入用ノズルヘッドは、1.記載の上部側の吸引/注入用ノズルヘッドであり、
下側の吸引/供給用装置用の吸引/注入用ノズルヘッドは、中央に吸引/注入用の室、周縁部に小貫通孔を有し、
該室は、上部が上部側の吸引/注入用ノズルヘッドから延びるパイプの下端に対して開放されており、該室から側面に設けた開口に通ずる側孔を備えていること、
を特徴とする地盤の複数層に対する吸引/供給用装置。
3.処理対象の地層に対する上下のパッカーを複数有し、対のパッカーの中間に吸引/注入用ノズルヘッドを備えた地盤の複数層に対する吸引/供給用装置であって、
上側が1.記載の上部側の吸引/注入用ノズルヘッド、下側が2.記載の下側の吸引/注入用ノズルヘッドであること
を特徴とする地盤の複数層に対する吸引/供給用装置。
4.上端側に配置された、エア用注入管と複数の吸引/注入用の管と、これらのエア用注入管と複数の吸引/注入用の管が連結される上部パッカーヘッドと、上下の対のパッカーと、上下のパッカー間にノズルヘッドを備えた複数の地層処理部と、該地層処理部間を連結する間隙ホースと下部パッカーヘッドとを、連結した複数の地層に対する吸引/供給用装置であって、
上部パッカーヘッドでは、上下に貫通するエア用貫通孔と、複数の吸引/注入用パイプが同心円状に配置され、下方に向けて同心円状に配置された吸引/注入用パイプが伸びており、エア用貫通孔はエア用注入管に連結し、同心円状に配置された吸引/注入用パイプは複数の吸引/注入用の管に連結しており、
同心円のパイプ配置は、外側から内側に向けて、上層処理地層から下層処理地層用のパイプであり、
同心円に配置されたパイプの下端は、外側のパイプから上部に位置するノズルヘッドの位置であり、
上部側のノズルヘッドは、中央に中央貫通孔と周縁部に小貫通孔を有し、該中央貫通孔から側面に設けた開口に通ずる側孔を備えており、当該ノズルヘッドで処理する対象の吸引/注入用パイプの端部が中央貫通孔に開放されており、
最下部側のノズルヘッドは、中央に上部が開放された室と周縁部に小貫通孔を有し、該室から側面に設けた開口に通ずる側孔を備えており、最内芯の吸引/注入用パイプの端部が室に開放されており、
間隙ホースと中間ホースにおいて、エア流路をホース内壁と同心円状に配置された吸引
/注入用パイプの間に形成されていること
を特徴とする複数の地層に対する吸引/供給用装置。

【発明の効果】
【0006】
1.地盤の複数層に対して、吸引あるいは注入できる機構を備えた吸引/供給管を細経化することができた。
2.上部側のノズルヘッドに大径部と小径部を有する中央貫通孔を設け、大径部から側部開口に通ずる側孔を設け、小径部を下方ノズルヘッド用のパイプの通路とすることによって、ノズルヘッドを小型化することができる。この上部側ノズルヘッドを複数設けることによって、処理地層を増やすことができる。
3.複数の供給管を同心円状に配置し、外側のパイプから順次上側のノズルヘッドで開放する機構を開発したので、上部側ノズルの中央貫通孔を通して下方ノズルヘッドにパイプを伸ばすことができる。
4.中間ホースや間隙ホースでは、ホースの内壁を同心円パイプの隙間をエア流路に形成することにより、エア専用のパイプを設ける必要がない。
5.本発明の吸引/供給用装置を用いることにより、2層以上の汚染地層を対象とする原位置浄化用井戸を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】上段ノズルヘッドの例を示す図。
図2】下段ノズルッドの例を示す図。
図3】吸引/供給用装置の例1を示す図。
図4】吸引/供給用装置の例1の上部パッカーヘッドを示す。
図5】吸引/供給用装置の例1の上段ノズルヘッドを示す図。
図6】吸引/供給用装置の例1の下段ノズルヘッドを示す図。
図7】吸引/供給用装置の例1のホースコネクターを示す図。
図8】吸引/供給用装置の例1の下部パッカーヘッドを示す図。
図9】吸引/供給用装置の例1の同心円パイプの例を示す図。
図10】井戸の図。
図11】井戸の別構成例を示す図。
図12】処理試験におけるデータを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、揮発性有機化合物や油類によって汚染された土壌や地下水を掘削せずに、地盤中に設置した井戸を利用した原位置浄化に用いられる装置である。
汚染されている地盤が地下水面より上の不飽和帯に存在している場合の主な原位置浄化技術として、土壌ガス吸引法とバイオベンティング工法があげられる。土壌ガス吸引法は揮発性有機化合物によって汚染された不飽和地盤の浄化方法で、汚染された地盤に設置された井戸からガスを吸引することで汚染物質を回収する。バイオベンティング工法は、油によって汚染された不飽和地盤の浄化方法で、汚染地盤に設置した井戸からガスを吸引又は供給するとともに栄養塩の供給を行うことで、揮発性油分を回収するとともに、土壌中に生息する油分解菌の活性を高めて油分を分解する。
本発明は、土壌ガスを吸引する方法及び栄養塩類などを供給する方法の双方に利用することができる装置である。
【0009】
汚染物質が複数の深さに存在している場合があり、多段式の井戸と高圧ダブルパッカーを用いた対策がある。多段式の井戸は、汎用品の井戸管のうち有孔管と無孔管を交互に組み合わせ建て込むことで、汚染の残存状況に応じて任意の有孔管からガス吸引等を実施できる仕様にした物である。高圧ダブルパッカーは、薬液注入等に使われることが多く、井戸に挿入して2か所のパッカーラバーにエアーを送って加圧して膨張させることで、特定の深度に対してガスや液体の吸引や注入を行うことができる装置である。高圧ダブルパッカー(以下「ダブルパッカー」と称す。)を複数セットした場合、それぞれのダブルパッカーに挟まれた間に対して浄化運転することができる。これを利用して、汚染が残存している深度(地層)が複数存在している場合には、ダブルパッカーの固定深度をそれぞれの対象とする汚染深度(汚染地層)に対応させることができる。
本発明は、複数の汚染土壌の浄化に使用できるダブルパッカーを複数用いた浄化装置に適用できる装置である。
【0010】
本発明は、このように汚染地盤に設置した多段井戸に多層式パッカーを挿入する技術に関し、具体的に多層式パッカーを備えた吸引/供給用装置である。そして吸引/供給用装置に利用する吸引/供給管の機構、および、ノズル等の機器類を提案する。
図3に示す本発明の多層式パッカーを備えた吸引/供給用装置(2層式の場合)を用いて概略を説明する。
この吸引/供給用装置10は、処置管55にパッカー3が二組上下に設けられている。上の対のパッカー31、31間に上部側の吸引/注入用ノズルヘッド1が設けられ、下の対のパッカー32、32間に下部側の吸引/注入用ノズルヘッド2が設けられている。この上下のノズルヘッドによって、2層に対して汚染ガスの吸引や栄養塩類の供給を行う装置である。この、処置管55の上端には、外部からエア注入管91、上吸引管92、下吸引管93が連結されている。なお、上吸引管92、下吸引管93は、注入もできるが、省略して、「吸引管」と称す。
本発明では、処置管55内では、これらの3つの管を同心円状に配置することにより、小型化した装置を提案している。同心円状の管構造を適用できる吸引や供給するノズル構造を開発した。また、3本の別々の管を同心円に変換するために上部パッカーヘッド4を開発した。
この装置では、上吸引管92、下吸引管93から同心円状に配置した管に接続し、そしてそれぞれがノズルに接続しているので、それぞれの系統は独立に制御できる構造である。ここで、名称は吸引管としているが、供給管として利用することもできる。あるいは、一方を吸引、他方を供給とすることも可能である。
【0011】
図1図9を用いて、本発明の各機構、装置構造について説明する。
図1は、上部側の吸引/注入用ノズルヘッド(以下「上段ノズルヘッド」と略して示す場合がある)1の例を示す図である。
上段ノズルヘッド1は、中央に中央貫通孔11と周縁部に4つの小貫通孔12を有し、中央貫通孔11は、上部側が大径部13、下部側が小径部14となっている。大径部13から側面に向けて側孔15が設けられている。
中央貫通孔11は同心円パイプ9が挿通し、大径部13は、上吸引管92につながる上部パイプ9aの下端が開放しており、側孔15に連通し、上側の処理対象地層用となる。小径部14は下吸引管93につながる下部パイプ9bが通過する。なお、小径部14には、リングパッキンが設けられて、大径部で処理されるガス等が下方に流れないようにしてある。
小貫通孔12は、エアの流通路であって、パッカー3を加圧するエアを供給するエア注入管91につながっている。
【0012】
この上段ノズルヘッド1の構造によって、上部側の汚染地層の処理が可能となり、下側の地層用に処理管を管路別に設ける必要がない。4つの放射方向に設けられた側孔15の間にエア流通用の小貫通孔12を設けたので、これも、ノズルを小型化している。
【0013】
図2は、下部側の吸引/注入用ノズルヘッド(以下「下段ノズルヘッド」と略して示す場合がある)2の例を示す図である。
下段ノズルヘッド2は、上部が開放された室21と小貫通孔22を有し、該室21から側面に設けた開口に通ずる側孔25が設けられている。
下段ノズルヘッド2の室21には、下部パイプ9bの下端が開放しており、側孔25に通じていて、下方の処理対象の地層に対して処置できる。
小貫通孔22は、上段ノズルヘッド1の小貫通孔12と同様にエアの流通孔である。下段ノズルヘッド2の下方には、パッカー32がある。エアは、上から下まで同圧で加圧して、パッカーを膨張させる機構となっている。
図3の例では、上下2段のノズルが示された2つの地層を処理する吸引/供給用装置であるが、上段ノズルヘッド1を複数設けることによって、処理対象の地層の数を3以上に増やすことができる。
【0014】
図3は上述したように本発明の多層式パッカーを備えた吸引/供給用装置である。
ここでさらに詳しい構造を説明する。
処置管55の上端には、エアを圧入するコンプレッサーにつながるエア注入管91、上層の処理対象の地層に作用する上吸引管92、下層の処理対象の地層に作用する下吸引管93が接続している。吸引管を増やすことで3層以上の処理対象地層に対応することができる。
処置管55には、上から順に、上段パッカーヘッド4、上の対のパッカー31,31内の上側のパッカーラバー31a、上段ノズルヘッド1、中間ホース51、下側のパッカーラバー31bから構成される上部側の処置部5a、ホースコネクター7、間隙ホース6、下部パッカーヘッド8、下部側の処置部5b、エンドプラグ59が設けられている。下部側の処置部5bには、下の対のパッカー32,32内の上側のパッカーラバー32a、下段ノズルヘッド2、中間ホース51、下側のパッカーラバー32bから構成される。
【0015】
処置管55内には、同心円状にエア流路91a、上部ガス流路92a、下部ガス流路93aが形成されている。エア流路は上端から下側のパッカーラバー32bまで一通であり、封鎖系となっていて、コンプレッサーの圧力が各パッカーラバーを膨張させる。各ガス流路は、上段ノズルと下段ノズルの側孔に開口していて、処理地層からガスを吸引あるいは注入できる。
中間ホースは処置部の長さ調整、間隙ホースは上下の処理地層管の長さを調整することができる。
【0016】
図4に上部パッカーヘッド4の構造を示す。上部パッカーヘッド4は、上端に接続されているエア注入管91、上吸引管92、下吸引管93を同心円状のパイプ9に変換する機能とパッカー3に接続する機能を果たしている。
図4(a)は平面図を示し、上部パッカーヘッド4の上面には、エア注入管91が接続できるエア用貫通孔41、上吸引管92が接続できる上ガス用穴42、下吸引管93が接続できる下ガス用穴43が設けられている。
図4(b)はA-O-C断面を示し、中心に天井を有し下方が開口する中央穴44が設けられている。中央穴44は上方に向けて絞られて中径部44b、小径部44aが形成されている。下ガス用穴43は、中径部43に通ずる横穴43bを備えている。なお、横穴43b、42bは側面から削孔した後で側面の開口は封鎖されている。エア用貫通孔41は、上面から下面まで貫通している。
図4(c)はA-O-B断面を示し、中央穴44の小径部44aに通ずる上ガス用穴42の横穴42bを備えている。
【0017】
中央穴44には、同心円状パイプ9が差し込まれるようになっており、小径部44aと中径部44bにそれぞれの径に対応するパイプが差し込まれて、それぞれに対応するガスや剤が通過することとなる。
【0018】
図5に上段ノズルヘッド1の構造を示す。この構造は図1に示す上段ノズルヘッドと共通するので、共通符号を使用する。
上段ノズルヘッド1は、上部側が大径部13、下部側が小径部14となっている中央に中央貫通孔11と周縁部に、エアの流通路である4つの小貫通孔12を有し、大径部13から側面に向けて側孔15が設けられている。上段ノズルヘッドの上下には雌ネジ16、16が設けられており、それぞれ上下のパーツに接続する。
中央貫通孔11には同心円パイプ9が挿通し、上部パイプ9aの下端が開放しており、側孔15に連通し、上側の処理対象地層用となる。小径部14は下部パイプ9bが通過する。小径部14には、リングパッキン17が設けられて、大径部13で処理されるガス等が下方に流れないようにしてある。
【0019】
同心円パイプ9は上下に貫通して、それぞれのノズルヘッドに下端が開放される。一方、エアは、上下の雌ネジ室に開放されており、上下の雌ネジ室の間は小貫通孔12を経由する。上段ノズルヘッド、下段ノズルヘッド、ホースコネクター、パッカーヘッドでも、同様に、小径の貫通孔を経由するが、ホース部などでは、ホース内壁と同心円パイプ9の隙間を経由する構造となっている。
【0020】
図6に下段ノズルヘッド2の構造を示す。この構造は図2に示す下段ノズルヘッドと共通するので、共通符号を使用する。
下段ノズルヘッド2は、上部が開放され、側面に開口する側孔25を有する室21と小貫通孔22が設けられている。室21には、下部パイプ9bの下端が開放しており、側孔25に通じていて、下方の処理対象の地層に対して処置できる。下段ノズルヘッドの上下には雌ネジ26、26が設けられており、それぞれ上下のパーツに接続する。
小貫通孔22は、上段ノズルヘッド1の小貫通孔12と同様にエアの流通孔であり、下方にあるパッカーラバー32bに通じている。エアは、上から下まで同圧で加圧して、パッカーを膨張させる機構となっている。
【0021】
図7にホースコネクター7の構造を示す。ホースコネクター7は、パッカーと間隙ホース6との接続、あるいは、上下のノズルと中間ホース51の接続に用いられる機器である。
ホースコネクター7には、中央貫通孔71とその周囲に4個の小貫通孔72が設けられている。上下には雄ネジ75が形成されていて、上下の機器に接続できる。
中央貫通孔71は、同心円パイプ9が通過し、小貫通孔72はエアの流路となる。
【0022】
図8に下部パッカーヘッド8の構造を示す。下部パッカーヘッド8は、下部のパッカー32の上に接続する部材であって、下部パイプ9bが通る中央貫通孔81とエアが流通する1個の小貫通孔82がある。上下の外周には雄ネジ85、85が接続用に設けられている。
【0023】
図9に同心円パイプ9を備えた間隙ホース6と中間ホース51の断面の構造を示す。
図3に示す吸引/供給用装置10では、上部パイプ9aは上段ノズルヘッド1までであるので、同心円パイプ9が二重管となるのは上段ノズルヘッド以上であり、パッカー31より上に隙間ホースを設ける場合である。その下方となる中間ホース51および間隙ホース6の断面では、ホースを通過する同心円パイプ9は、下段ノズルヘッド2に通ずる下部パイプ9bとなっているが、図9では、複数の処理用のパイプを同心円状に配置したイメージを示す。すなわち、多段に処理できる構成の例を示す。
ホースの内部には、上部パイプ9aと下部パイプ9bを持つ二重管構造の同心円パイプ9が通過している。断面構成として隙間が3つ形成され、それぞれの隙間をエア、上部ガス、下部ガスの流路となる。すなわち、ホース内壁と上部パイプ9aの隙間がエア流路91a、上部パイプ9aと下部パイプ9bの隙間が上部ガス流路92a、下部パイプ9b内が下部ガス流路93aとなる。各ガス流路は、上段ノズルと下段ノズルの側孔に開口していて、処理地層からガスを吸引あるいは注入できる。エア流路は、処置管55内を上端から下側のパッカーラバー32bまで一通であり、封鎖系となっていて、コンプレッサーの圧力が各パッカーラバーを膨張させる。中間ホースは処置部の長さ調整、間隙ホースは上下の処理地層管の長さを調整することができる。
【0024】
図3の例では、外部からつながっているエア注入管91、上吸引管92、下吸引管93を同心状に変換する機構が上部パッカーヘッド4として説明しているが、この機構は、パッカーよりも上部に配置することができ、この機構より下方に隙間ホースを設けて、深い処理地層に対処することが可能である。
【0025】
[試験例]
<井戸の構成>
本発明の複数の地層に対する吸引/供給用装置10を用いて、上下2層を対象とする多段式吸引井戸に適用する試験を行った。多段式吸引井戸の構成を図10に示す。
図10に示す土壌浄化用の井戸自体は一般的なものである。地盤をボーリングして得た掘削孔101の内部に有孔管と無孔管を組み合わせたストレーナー管105をセットし、その内部に吸引/供給用装置10を設置する。有孔管は、少なくとも処理対象となる汚染地層の深さになるように設置される。ストレーナー管105と掘削孔101の間の空間の、処理対象となる汚染層の部分には通気性充填材(2号珪砂など)106を充填し、非処理部となるシルト層104などの部分には、シール性充填材(ベントナイトなど)107を充填する。
本例では、汚染層Aが深度3.5~4.5m、汚染層Bが12.5~13.5mに存在するので、井戸の深さは19.5mとし、ストレーナーの有孔管も二つの汚染層の深さに合わせて配置し、同様に上のパッカー31、31は汚染層Aに対応する位置に、下のパッカー32、32は汚染層Bに対応する位置に設定した。
【0026】
図10に示した井戸の構成は、目標とする処理対象地層に有孔管を配置する構成を示したが、有孔管と無孔管を交互に配置して、対象地層へノズルヘッドが位置するように構成することもできる。この場合、ノズルヘッドの位置を変更することによって、対象地層を変更することができる。
有孔管105aと無孔管105bを交互に配置した井戸の構成例を図11に示す。有孔管105aの周囲には通気性充填材106を充填し、無孔管105bの周囲にはシール性充填材107を充填する。図11では、吸引/供給用装置の記載は省略する。
【0027】
<汚染状況>
A 重油による油汚染がある地盤である。従来のバイオベンティング工法による浄化実施後にボーリング調査を行い、油分濃度(IR 法)、油臭・油膜の分析を行ったところ、G.L.-4.0m、13.0m、16.0m付近に油分濃度が4,000mg/kgを超える汚染が残存していることが判明した(図12(a)試験汚染地層の油臭)。
本検討では汚染残存深度のうち、G.L.-4.0m付近(上層)、13.0m付近(下層)の2深度を対象として2層式パッカーによるガス吸引を実施し、浄化効果について検証した。
【0028】
<試験条件>
作製した吸引/供給用装置10を多段式井戸に設置し、上層はG.L.-3.5~4.5m、下層はG.L.-12.5~13.5mの有孔管部分からガスを吸引できる深度でゴムパッカーを膨張させて固定した。
固定したパッカーの上層および下層吸引ホースを既設のガス吸引設備(真空ブロワ)に接続し、上層下層ともに80~100L/minの吸引量でガス吸引するようバルブ調整した。浄化運転期間は約8 ヶ月間とし、月1回の頻度で配管に取り付けたガス流量計から運転状況を確認した。また、2 層式パッカーによる浄化効果を確認するため、運転開始から1ヶ月後、4ヶ月後、8ヶ月後に多段式井戸近傍にてボーリング調査を実施し、油分濃度(IR 法)、油臭・油膜の分析を行った。栄養塩の供給は、地表面または井戸管から硝酸アンモニウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸二水素カリウムを溶解した溶液(栄養水)を適宜供給した。
【0029】
<試験結果>
試験結果を図12(b)(c)(d)に示す。
約8 ヶ月間の2 層式パッカーによる浄化運転を実施し、累計で上層は約17,000kL、下層は約23,000kL のガスを吸引した(図12(b)累計ガス吸引量)。運転開始からおよそ150 日目以降にはガス吸引量がやや低下したが、これは冬季の気温の低下や降雪により地上部分に露出している吸引ホースやガス吸引設備の配管部分が凍結したためであり、2 層式パッカーの構造およびガス吸引能力には問題がないことが確認された。
ガス吸引深度の上下0.5mを含む範囲をガス吸引影響範囲とし、上層はG.L.-3.0~5.0m、下層はG.L.-12.0~14.0mの油分濃度、油臭の平均値の推移を(図12(c)油臭経過) に示す。上層下層ともに、浄化運転期間中に油分濃度は徐々に低下し、8ヶ月後には上層で400mg/kg、下層で1,200mg/kg となった。油臭の程度も油分濃度低下に伴い減少し、油膜は浄化運転開始から4ヶ月後以降、全ての深度で観察されなかった。
栄養塩を供給して従来工法による浄化運転を実施した期間と、2 層式パッカーによる浄化運転を実施した期間について、累計ガス吸引量と油分濃度(ガス吸引深度の平均値)の関係を図12(d)吸引量比較に示す。従来工法でも累計ガス吸引量の増加とともに油分濃度が低下したものの、2 層式パッカーを用いた場合のほうが、より少ないガス吸引量で速やかに油分濃度が低下した。従来工法では汚染が比較的少ない深度や浄化が完了した深度からもガスを吸引しているため効率が悪く、2 層式パッカーでは汚染が残存している深度に対して集中的に浄化運転を行うことから、汚染が偏在する場合には2 層式パッカーのほうが高い浄化効果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0030】
1 :上部側の吸引/注入用ノズルヘッド(上段ノズルヘッド
11 :中央貫通孔
12 :小貫通孔
13 :大径部
14 :小径部
15 :側孔
16 :雌ネジ

2 :下部側の吸引/注入用ノズルヘッド(下段ノズルヘッド)
21 :室
22 :小貫通孔
25 :側孔
26 :雌ネジ

3 :パッカー
31 :上の対のパッカー
31a、31b、32a、32b:パッカーラバー
32 :下の対のパッカー

4 :上部パッカーヘッド
41 :エア用貫通孔
42 :上ガス用穴
42b:横穴42b
43 :下ガス用穴
43b:横穴
44 :中央穴
44a:小径部
44b:中径部

5 :処置部
5a :上部側の処置部
5b :下部側の処置部
55 :処置管
59 :エンドプラグ

6 :間隙ホース
7 :ホースコネクター
71 :中央貫通孔
72 :小貫通孔
75 :雄ネジ

8 :下部パッカーヘッド
81 :中央貫通孔
82 :小貫通孔
85 :雄ネジ

9 :同心円パイプ
9a :上部パイプ
9b :下部パイプ
91 :エア注入管
92 :上吸引管
93 :下吸引管
91a:エア流路
92a:上部ガス流路
93a:下部ガス流路
10 :吸引/供給用装置

100:多段式吸引井戸
101:掘削孔
102:汚染層
103:汚染層
104:シルト層
105:ストレーナー管
106:通気性充填材
107:シール性充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12