(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】導電性金属ペースト
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2018023062
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2020-12-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532195(JP,A)
【文献】特開2006-335995(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174399(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属フィラー及び0.1質量%未満のイオン液体を含み、カーボンナノチューブを含まない
無溶剤型導電性金属ペーストであって、
前記イオン液体を構成するカチオンが、下記式(1-2)、(1-4)及び下記式(3')のいずれかで表されるカチオンであり、前記イオン液体を構成するアニオンが、フッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン又はトリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンである
無溶剤型導電性金属ペースト。
【化1】
(式中、R
21~R
23は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。R
8は、炭素数1~20のアルキル基である。R
9'は、R
8とは異なる炭素数1~20のアルキル基又は-(CH
2)
k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。Rは、メチル基又はエチル基である。kは、1又は2である。)
【請求項2】
前記金属フィラーが銀である請求項1記載の
無溶剤型導電性金属ペースト。
【請求項3】
更に、バインダーを含む請求項1又は2記載の
無溶剤型導電性金属ペースト。
【請求項4】
前記フッ素原子含有アニオンが、BF
4
-、CF
3SO
3
-、CF
3CO
2
-、PF
6
-、(C
4F
9SO
2)
2N
-、(C
3F
7SO
2)
2N
-、(C
2F
5SO
2)
2N
-、(C
2F
5SO
2)(CF
3SO
2)N
-、(CF
3SO
2)
2N
-、(CF
3SO
2)(FSO
2)N
-又は(FSO
2)
2N
-であり、前記アルカンスルホン酸アニオンが、CH
3SO
3
-、C
2H
5SO
3
-、C
3H
7SO
3
-又はC
4H
9SO
3
-であり、前記トリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンが、トリメチルシリルエタンスルホン酸アニオン又はトリメチルシリルプロパンスルホン酸アニオンである請求項1~
3のいずれか1項記載の
無溶剤型導電性金属ペースト。
【請求項5】
イオン液体の含有量が、0.01~0.05質量%である請求項1~
4のいずれか1項記載の
無溶剤型導電性金属ペースト。
【請求項6】
金属フィラーを含み、カーボンナノチューブを含まない
無溶剤型導電性金属ペーストに、濃度が0.1質量%未満になるようにイオン液体を添加する、
無溶剤型導電性金属ペーストの比抵抗を低下させる方法であって、
前記イオン液体を構成するカチオンが、下記式(1-2)、(1-4)及び下記式(3')のいずれかで表されるカチオンであり、前記イオン液体を構成するアニオンが、フッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン又はトリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンである方法。
【化2】
(式中、R
21~R
23は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。R
8は、炭素数1~20のアルキル基である。R
9'は、R
8とは異なる炭素数1~20のアルキル基又は-(CH
2)
k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。Rは、メチル基又はエチル基である。kは、1又は2である。)
【請求項7】
イオン液体を0.01~0.05質量%となるように添加する請求項
6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストは、導電材を樹脂等に分散してペースト状にしたものであり、プリント配線等の電気回路の形成や、電子部品の接合に広く使用されている。導電性ペーストには、導電性フィラーとして銀等の金属粒子や導電性炭素材料が使用される。導電性ペーストの導電性を向上させる方法としては、導電性フィラーの添加量を増やすことが挙げられるが、例えば、銀ペーストの場合は、銀は高価であるためコストの点で問題があった。また、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブ(CNT)を含む導電性ペーストが報告されているが(特許文献1等)、CNTも高価であり、コストの点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、導電性フィラーの添加量を増やすことなく導電性が向上した導電性金属ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、金属フィラーを含み、CNTを含まない導電性金属ペーストに、濃度が1質量%未満になるようにイオン液体を添加することで、導電性金属ペーストの比抵抗を下げ、導電性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記導電性金属ペーストを提供する。
1.金属フィラー及び1質量%未満のイオン液体を含み、CNTを含まない導電性金属ペースト。
2.前記金属フィラーが銀である1の導電性金属ペースト。
3.更に、バインダーを含む1又は2の導電性金属ペースト。
4.前記イオン液体を構成するカチオンが、窒素原子含有カチオン又はリン原子含有カチオンである1~3のいずれかの導電性金属ペースト。
5.前記イオン液体を構成するカチオンが、下記式(1)~(4)のいずれかで表されるカチオンである4の導電性金属ペースト。
【化1】
(式中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、又は-(CH
2)
k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。また、R
1~R
4のいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、R
1~R
4のいずれか2つが互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成し、残りの2つも互いに結合して窒素原子をスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。R
5及びR
6は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、又は-(CH
2)
k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R
7は、水素原子、メチル基又はエチル基である。R
8は、炭素数1~20のアルキル基である。R
9は、炭素数1~20のアルキル基又は-(CH
2)
k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R
10は、炭素数1~8のアルキル基、又は-(CH
2)
k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R
11は、炭素数1~4のアルキル基である。nは、0~5の整数である。Rは、メチル基又はエチル基である。kは、1又は2である。)
6.前記イオン液体を構成するアニオンが、フッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、芳香族スルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、アルキルリン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオン又はトリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンである1~5のいずれかの導電性金属ペースト。
7.窒素原子含有カチオン又はリン原子含有カチオン、及びフッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、芳香族スルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、アルキルリン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオン又はトリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンを含むイオン液体からなる導電性金属ペースト用導電性向上剤。
8.金属フィラーを含み、CNTを含まない導電性金属ペーストに、濃度が1質量%未満になるようにイオン液体を添加する、導電性金属ペーストの比抵抗を低下させる方法。
9.前記イオン液体が、窒素原子含有カチオン又はリン原子含有カチオン、及びフッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、芳香族スルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、アルキルリン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオン又はトリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンを含むものである8の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性金属ペーストは、導電性フィラーの添加量を増やすことなく導電性が向上したものであり、コストの点で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の導電性金属ペーストは、金属フィラー及び1質量%未満のイオン液体を含み、CNTを含まないものである。
【0009】
[金属フィラー]
前記金属フィラーの材質としては、銀、金、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、鉄、及びこれらの合金等が挙げられる。これらのうち、導電性の観点から、銀が好ましい。また、前記金属フィラーは、ある金属粒子の表面が別の金属で被覆されたものでもよい。
【0010】
前記金属フィラーの形状は、特に限定されないが、球状、樹枝状、フレーク状、不定形状等が挙げられる。前記金属フィラーの平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.01~50μm程度である。なお、本発明において平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布における累積50%体積径である。
【0011】
前記金属フィラーの含有量は、特に限定されないが、導電性金属ペースト中、40~95質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。
【0012】
[イオン液体]
本発明の導電性金属ペーストに含まれるイオン液体は、特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。
【0013】
前記イオン液体を構成するカチオンとしては、特に限定されないが、窒素原子含有カチオン又はリン原子含有カチオンが好ましく、具体的には、4級アンモニウムイオン、4級ホスホニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン等が好ましい。
【0014】
これらのカチオンのうち、特に下記式(1)~(4)のいずれかで表されるものが好ましい。
【化2】
【0015】
式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。Rは、メチル基又はエチル基である。kは、1又は2である。
【0016】
前記炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基等が挙げられる。これらのうち、R1~R4としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1~3の直鎖アルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましい。
【0017】
前記アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基及びエトキシエチル基が挙げられる。前記アルコキシアルキル基のうち、好ましくはメトキシエチル基又はエトキシエチル基である。
【0018】
また、R1~R4のいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよい。R1~R4のいずれか2つが結合して形成される環としては、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、アゼパン環、イミダゾリジン環、ピリジン環、ピロール環、イミダゾール環、キノール環等が挙げられるが、ピロリジン環、ピペリジン環、イミダゾリジン環、ピリジン環、ピロール環、イミダゾール環、キノール環等が好ましく、ピロリジン環、イミダゾリジン環等がより好ましい。更に、R1~R4のいずれか2つが互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成し、残りの2つも互いに結合して窒素原子をスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。また、前記スピロ環としては、1,1'-スピロビピロリジン環が特に好ましい。
【0019】
式(1)で表される窒素原子含有カチオンとして具体的には、下記式(1-1)又は(1-2)で表される4級アンモニウムイオン、下記式(1-3)又は(1-4)で表されるピロリジニウムイオン等が挙げられる。
【化3】
【0020】
式(1-1)~(1-4)中、R及びkは、前記と同じである。R21~R24は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。R25及びR26は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。また、R25及びR26は、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよい。前記炭素数1~20のアルキル基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。これらのうち、R21~R26としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1~3の直鎖アルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましい。
【0021】
式(1)で表されるカチオンとしては、N,N-ジエチル-N-メチル-N-2-メトキシエチルアンモニウムカチオン、N,N-ジエチル-N-メチル-N-2-メトキシメチルアンモニウムカチオン、N-エチル-N,N-ジメチル-N-2-メトキシエチルアンモニウムカチオン、N-エチル-N,N-ジメチル-N-2-メトキシメチルアンモニウムカチオン、N-メチル-N-2-メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N-エチル-N-2-メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-2-メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N-エチル-N-2-メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-2-メトキシエチルピペリジニウムカチオン、N-メチル-N-2-エトキシエチルピペリジニウムカチオン等が好ましい。
【0022】
式(2)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。前記炭素数1~20のアルキル基及びアルコキシアルキル基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。これらのうち、R5及びR6としては、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖アルキル基がより一層好ましく、メチル基、エチル基又はブチル基が更に好ましい。また、R5及びR6は、一方がメチル基であり、他方は異なる基であること好ましい。
【0023】
式(2)中、R7は、水素原子、メチル基又はエチル基であるが、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0024】
式(2)で表されるカチオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-(2-メトキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メトキシメチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-(2-メトキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1-(2-エトキシエチル)-3-エチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メトキシメチルイミダゾリウムカチオン等が好ましい。
【0025】
式(3)中、R8は、炭素数1~20のアルキル基である。前記炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、前述した炭素数1~4のアルキル基のほか、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基等が挙げられる。
【0026】
式(3)中、R9は、炭素数1~20のアルキル基又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。前記炭素数1~20のアルキル基としては、前述したものと同様ものが挙げられる。
【0027】
式(3)で表されるカチオンのうち、R9が-(CH2)k-ORで表されるもの、又はR8とR9とが互いに異なるアルキル基であるものが好ましい。R8とR9とが互いに異なるアルキル基である場合、炭素数の差が1以上あることが好ましく、3以上あることがより好ましく、5以上あることが更に好ましい。
【0028】
式(3)で表されるカチオンとしては、トリブチルドデシルホスホニウムカチオン、トリブチルヘキサデシルホスホニウムカチオン、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムカチオン等が好ましい。
【0029】
式(4)中、R10は、炭素数1~8のアルキル基、又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。R11は、炭素数1~4のアルキル基である。nは、0~5の整数である。
【0030】
前記炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。前記炭素数1~8のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、前述した炭素数1~4のアルキル基のほか、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。前記アルコキシアルキル基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0031】
これらのうち、R10としては、炭素数1~4の直鎖アルキル基、又は前記アルコキシアルキル基が好ましく、前記アルコキシアルキル基がより好ましく、メトキシメチル基、メトキシエチル基が更に好ましい。R11としては、炭素数1~4の直鎖状アルキル基が好ましい。nは、0又は1が好ましい。
【0032】
式(4)で表されるカチオンとしては、3-メチル-N-ブチルピリジニウムカチオン、N-ブチルピリジニウムカチオン、N-2-メトキシエチルピリジニウムカチオン、N-2-メトキシメチルピリジニウムカチオン等が好ましい。
【0033】
前記イオン液体を構成するアニオンとしては、特に限定されないが、フッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、芳香族スルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、カルボン酸アニオン、アルキルリン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオン、トリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオン、トリアルキルシリルアルキル硫酸アニオン、トリアルキルシリルアルキルリン酸アニオン等が挙げられる。
【0034】
前記フッ素原子含有アニオンとしては、BF4
-、CF3SO3
-、CF3CO2
-、PF6
-、(C4F9SO2)2N-、(C3F7SO2)2N-、(C2F5SO2)2N-、(C2F5SO2)(CF3SO2)N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)(FSO2)N-、(FSO2)2N-等が挙げられる。前記フッ素原子含有アニオンとしては、フッ素原子を有するアミドアニオンが好ましく、特に(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-が好ましい。
【0035】
前記アルカンスルホン酸アニオンは、炭素数1~8のものが好ましく、その具体例としては、CH3SO3
-、C2H5SO3
-、C3H7SO3
-、C4H9SO3
-等が挙げられる。前記芳香族スルホン酸アニオンとしては、炭素数6~10のものが好ましく、その具体例としては、PhSO3
-、p-CH3PhSO3
-、p-C2H5PhSO3
-等が挙げられる。前記アルキル硫酸アニオンとしては、炭素数1~8のものが好ましく、その具体例としては、CH3SO4
-、C2H5SO4
-、C3H7SO4
-、C4H9SO4
-等が挙げられる。前記アルカンスルホン酸アニオン及びアルキル硫酸アニオンとしては、炭素数1~4のものがより好ましい。前記芳香族スルホン酸アニオンとしては、炭素数6~8のものがより好ましい。
【0036】
前記カルボン酸アニオンは、炭素数1~4のものが好ましく、その具体例としては、HCO2
-、CH3CO2
-、C2H5CO2
-、C3H7CO2
-等が挙げられる。前記アルキルリン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオンとしては、(R31O)(R32)PO2
-で表されるものが挙げられる。ここで、R31は、炭素数1~8のアルキル基であるが、好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。R32は、水素原子、又は炭素数1~8のアルキル基若しくはアルコキシ基であるが、好ましくは水素原子、メチル基又はメトキシ基である。
【0037】
前記トリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンとしては、トリメチルシリルエタンスルホン酸アニオン、トリメチルシリルプロパンスルホン酸アニオン等が挙げられる。前記トリアルキルシリルアルキル硫酸アニオンとしては、トリメチルシリルエチル硫酸アニオン、トリメチルシリルプロピル硫酸アニオン等が挙げられる。トリアルキルシリルアルキルリン酸アニオンとしては、(R41O)(R42O)PO2
-で表されるものが挙げられる。ここで、R41は、トリメチルシリルエチル基、トリメチルシリルプロピル基等のトリアルキルシリルアルキル基である。R42は、水素原子、又は炭素数1~8のアルキル基であるが、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0038】
これらのうち、前記イオン液体を構成するアニオンとしては、フッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、芳香族スルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、アルキルリン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオン、トリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンが好ましく、フッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、トリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンがより好ましい。
【0039】
前記イオン液体は、特に、式(1)~(3)のいずれかで表されるカチオン、及びフッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、芳香族スルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン、アルキルリン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオン、トリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンを含むものが好ましく、式(1)~(3)のいずれかで表されるカチオン、及びフッ素原子含有アニオン、アルカンスルホン酸アニオン、アルキル硫酸アニオン又はトリアルキルシリルアルカンスルホン酸アニオンを含むものがより好ましく、式(1)又は(2)で表されるカチオン、及びアルカンスルホン酸アニオン、フッ素原子含有アニオン又はアルキル硫酸アニオンを含むものが更に好ましい。
【0040】
本発明において好適に使用し得るイオン液体としては、N-2-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(MEMP・TFSA)、N-2-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(MEMP・FSA)、N-2-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムトリフルオロメタンスルホネート(MEMP・CF3SO3)、N-2-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムテトラフルオロボレート(MEMP・BF4)、N-2-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムメタンスルホネート(MEMP・MeSO3)、N-2-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムブタンスルホネート(MEMP・BuSO3)、N,N-ジエチル-N-2-メトキシエチル-N-メチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(DEME・TFSA)、N,N-ジエチル-N-2-メトキシエチル-N-メチルアンモニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(DEME・FSA)、N,N-ジエチル-N-2-メトキシエチル-N-メチルアンモニウムメタンスルホネート(DEME・MeSO3)、N,N-ジエチル-N-2-メトキシエチル-N-メチルアンモニウムブタンスルホネート(DEME・BuSO3)、N,N-ジエチル-N-2-メトキシエチル-N-メチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(DEME・PF6)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(EMI・TFSA)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(EMI・FSA)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMI・BF4)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネート(EMI・MeSO3)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブタンスルホネート(EMI・BuSO3)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムエタンスルフェート(EMI・EtSO4)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(BMI・TFSA)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(BMI・FSA)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネート(BMI・MeSO3)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブタンスルホネート(BMI・BuSO3)、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(HMI・TFSA)、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(HMI・FSA)、トリブチルドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(BDDP・TFSA)、トリブチルドデシルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(BDDP・FSA)、トリブチルドデシルホスホニウム3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホネート(BDDP・DSS)、トリブチルドデシルホスホニウム2-(トリメチルシリル)-1-エタンスルホネート(BDDP・TMSES)、トリブチルドデシルホスホニウムブタンスルホネート(BDDP・BuSO3)、トリブチルヘキサデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(BHDP・TFSA)、トリブチルヘキサデシルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(BHDP・FSA)、トリブチルヘキサデシルホスホニウム3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホネート(BHDP・DSS)、トリブチルヘキサデシルホスホニウム2-(トリメチルシリル)-1-エタンスルホネート(BHDP・TMSES)、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブタンスルホネート(BHDP・BuSO3)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブタンビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブタンビス(フルオロスルホニル)アミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホネート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム2-(トリメチルシリル)-1-エタンスルホネート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブタンスルホネート等が挙げられる。
【0041】
前記イオン液体の含有量は、本発明の導電性金属ペースト中、1質量%未満であるが、その上限は、0.75質量%以下が好ましく、0.50質量%以下がより好ましく、0.25質量%以下が更に好ましい。一方、その下限は、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上が更に好ましい。
【0042】
[その他の成分]
本発明の導電性金属ペーストは、バインダーを含んでもよい。前記バインダーとしては、導電性金属ペーストに用いられるものとして従来公知のものを使用することができる。本発明において好適に使用できるバインダーとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシウレタン樹脂、ウレア樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。前記バインダーの含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。
【0043】
本発明の導電性金属ペーストには、粘度を調整するため必要に応じて反応性希釈剤を添加してもよい。前記反応性希釈剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル等が挙げられる。前記反応性希釈剤の添加量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。
【0044】
本発明の導電性金属ペーストが前記バインダー若しくは前記反応性希釈剤又はその両方を含む場合、必要に応じて更に硬化剤を添加してもよい。前記硬化剤としては、バインダー又は反応性希釈剤を硬化できるものであれば特に限定されないが、例えば、フェノール化合物、イミダゾール化合物、イソシアネート化合物、酸無水物、アミン化合物、アミド化合物等が挙げられる。前記硬化剤の添加量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。
【0045】
本発明の導電性金属ペーストは、無溶剤型でもよいが、必要に応じて溶剤を含んでもよい。前記溶剤としては、導電性金属ペースト用として用いられるものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。前記溶剤の添加量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。
【0046】
また、本発明の導電性金属ペーストは、必要に応じて、チキソトロピック付与剤、キレート剤、防錆剤、分散剤、消泡剤等の導電性金属ペースト用添加剤として公知のものを含んでもよい。これらの添加量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。
【0047】
本発明の導電性金属ペーストの製造方法は、前記各成分を同時に又は任意の順で加え、混練する方法が挙げられる。その一例について説明すると、金属フィラーとバインダーと必要に応じて溶剤とを混練して得られたペーストに、所定の濃度になるようにイオン液体を加え、更に混練する方法が挙げられる。混練する方法は、特に限定されず、従来公知の方法でよい。
【0048】
また、CNTを含まない市販の導電性金属ペーストに、前述したイオン液体を所定の濃度になるように加え、混練してもよい。これによって、導電性金属ペーストの比抵抗を下げることができ、すなわち導電性を向上させることができる。
【0049】
本発明の導電性金属ペーストを基板上に塗布又は印刷し、その後乾燥、又は焼成等により硬化させることで、電気回路を形成したり、電子部品を接合したりすることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、使用した導電性金属ペーストであるドータイト(登録商標)FA-353N、ドータイトXA-910及びドータイトXA-5617は、いずれも藤倉化成(株)製である。また、使用したイオン液体は、以下のとおりである。
【化4】
(式中、Me、Et及びn-Buは、それぞれメチル基、エチル基及びn-ブチル基である。)
【0051】
DEME・PF6は、国際公開第2002/076924号に記載の方法に従って合成した。MEMP・CF3SO3は、国際公開第2002/076924号に記載の方法に従ってカチオン成分を合成し、同公報記載の方法に準じてCF3SO3塩を得た。DEME・FSAは、国際公開第2002/076924号に記載の方法に従ってカチオン成分を合成し、国際公開第2016/103906号に記載の方法に準じてFSA塩を得た。BHDP・DSSは、国際公開第2013/005712号に記載の方法に従って合成した。BDDP・TMSESは、特開2017-36234号公報に記載の方法に従って合成した。
【0052】
EMI・BuSO3は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(東洋合成工業(株)製)を陰イオン交換樹脂を用いて、1-ブタンスルホン酸ナトリウム(東洋合成工業(株)製)を陽イオン交換樹脂を用いて、対応する水酸化物と酸の水溶液に変換し、中和後、水を留去し得た。BDDP・BuSO3は、トリブチルドデシルホスホニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)を陰イオン交換樹脂を用いて、1-ブタンスルホン酸ナトリウム(東洋合成工業(株)製)を陽イオン交換樹脂を用いて、対応する水酸化物と酸の水溶液に変換し、中和後、水を留去し得た。
【0053】
DEME・TFSA、MEMP・TFSA、MEMP・BF4、EMI・TFSA、EMI・FSA、EMI・EtSO4、BMI・TFSA及びEMI・BF4は、市販品(関東化学(株)製)を使用した。
【0054】
BDDP・TFSAは、トリブチルドデシルホスホニウムブロマイドを水に溶解したものに、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(関東化学(株)製)をモル比で若干過剰混合し反応させた。一晩撹拌した後、2層分離した有機層を分液してとり、これを蒸留水で数回洗浄後、加熱下真空ポンプを用いて水分を除去して得た。
【0055】
[実施例及び比較例]
乳鉢をメトラーに乗せた状態でイオン液体を秤量し、イオン液体が所定の含有量(質量%)になるために必要な導電性ペースト量を算出した。その量の導電性ペーストを前述のメトラーに乗せたままの乳鉢に加えた。乳鉢をメトラーから外し、最初スパチュラで軽く混ぜてから乳棒を用いてイオン液体が導電性ペーストと均一になるまで、時々乳棒に付着した分をスパチュラで掻き落としつつ、10~15分程度かき混ぜ、イオン液体添加導電性ペーストを作製した。
【0056】
ガラス板(2mm厚)上にカプトンテープを貼り付け、5×30mmの枠を作ったものを準備した。枠は1サンプル当たり最低4つ準備した。この枠内に前記イオン液体添加導電性ペーストをスパチュラを用いて載せ、スパチュラのヘラ部分を用いたキャスト法により枠内に均一の厚さの導電性ペースト層を形成させた。なお、イオン液体未添加のブランク(導電性ペーストのみ)のサンプルは、容器から直接ガラス板の枠内にスパチュラを用いて載せた後、そのままキャストした。
この状態のガラス板をホットプレートに載せた後、ヒーターのスイッチを入れ、導電性ペースト毎に設定した温度まで加熱した。設定温度到達後、所定の時間加熱し続け、焼成処理した。所定時間後、ガラス板を直ちにホットプレートから外した。使用した導電性金属ペーストの設定温度及び設定温度到達後の焼成時間は、以下のとおりである。
【0057】
【0058】
ホットプレートから外し、十分温度が下がった後に、測定装置((株)三菱ケミカルアナリテック製、DLスター-6P MCP-T610)を用いて、導電性ペースト層の抵抗値及び比抵抗値を測定した。比抵抗値算出に用いた導電性ペースト層の厚みは、焼成したサンプル毎に測定顕微鏡STM-6(オリンパス(株)製)を用いて測定した値を用いた。
得られた比抵抗値を表2~4に示す。なお、記載の比抵抗値は、各サンプルとも4つ以上作製したものの平均値である。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
表2~4から明らかなように、いずれの導電性ペーストにおいても各種イオン液体の添加により、比抵抗値が添加しないものに比べ顕著に低下していることがわかった。
なお、表中に記載はしていないが、各種イオン液体を加えすぎると、例えば1質量%以上添加した場合は成膜時に塗りムラが生じたり、導電性ペーストが凝集したりしてしまい、成膜がうまくできないなど導電性ペーストとして不適な性状を示した。